JP4313021B2 - 培養粘膜・皮膚の製造法及び培養粘膜・皮膚 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、口腔の上皮欠損や口腔前庭拡張術時や口蓋形成、顎堤形成、腫瘍等の切除の成形時に生じた口腔粘膜の欠損、或いは皮膚の熱傷、創傷、褥痕などによる表皮欠損や皮膚欠損を再建する技術分野に属する培養粘膜・皮膚の製造法及び培養粘膜・皮膚に関する。
【0002】
【従来の技術】
【非特許文献1】
臨床科学34巻9号 白方裕司・橋本公二:再生医学、 X。皮膚
表皮の再生機構と培養表皮シートを用いた熱傷P1283〜1290
【非特許文献2】
名古屋大学出版会1999/10/10発行「ティッシュ・エンジニアリング繊維工学の基礎と応用」上田実編 松崎恭一・熊谷憲夫:培養皮膚P107〜117
【非特許文献3】
畠堅一郎・上田実:皮膚・粘膜 Pharma Media Vol.18 No.1 2000 P25〜P29 2000
【非特許文献4】
名古屋大学出版会1999/10/10発行「ティッシュ・エンジニアリング繊維工学の基礎と応用」上田実編 畠堅一郎・上田実:口腔粘膜 P118〜P127
【特許文献1】
特開平6-292568号公報
【特許文献2】
特開平8-243156号公報
【特許文献3】
特開平9-47503号公報
上記の非特許文献1,2,3,4及び特許文献1,2,3などに記載のように、細胞培養基材として、シャーレにコートしたコラーゲン、コラーゲンゲル、コラーゲンスポンジ、分子架橋した三次元構造のコラーゲンシート、貫通孔を設けたコラーゲンスポンジなどを用い、これにヒト線維芽細胞やヒト角化細胞を播種、培養し、培養上皮・表皮を製造したり、ヒト線維芽細胞の上面にヒト角化細胞層を形成して培養粘膜・皮膚を製造することは知られている。
而して、これら従来の培養上皮・表皮を欠損部の被覆材として使用したり、培養粘膜・皮膚を粘膜や皮膚の全層欠損部に移植するに当たり、そのコラーゲン基材面を直接、粘膜・皮膚の全層欠損部に当てるように適用し、上皮・表皮の再生や粘膜・皮膚の再生に用いられている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし乍ら、シャーレにコートしたコラーゲン上に3T3細胞をフィーダーとして用い、培養して取り出した培養上皮や培養表皮は、脆弱なため取り扱いが極めて困難で、変形したり、裂け易く、上皮欠損部や表皮欠損部に被覆材として適正に当てる作業が煩わしく、勿論縫合による固定ができず、また、特に皮膚全層欠損部には生着し難く、感染に弱いなどの不都合を伴う。
また、コラーゲンゲルやコラーゲンスポンジなどの細胞培養基材を用い線維芽細胞を三次元的に培養し、その上に角化細胞を重層化させて培養して粘膜・皮膚を作製する方法は、培養方法が困難で且つ長期間を要し、而もその培養過程でその細胞培養基材は収縮するため、目的とする所定の寸法のものを作ることができなかった。また、その基材は、機械的強度が弱いため、製造したその培養粘膜・皮膚を患部に適用した後、その周囲を縫合することが困難で、位置ずれし、安定した移植状態を維持することができず、縫合時や縫合後においてコラーゲン基材の周囲が切れて縫合状態が不安定となり、また、tie-overした場合、患部に大きな圧迫力が得られず、生着性が低下し、再生が不完全であったり、汚染菌の感染をおこすおそれがあった。
従って、上記従来の不都合に鑑み、従来使用されている各種形態のコラーゲンを細胞培養の担体として使用することを廃し、従来の上記の欠点のない細胞培養基材を開発し、これを用いて細胞培養中の収縮が無く、目的とする大きさの培養粘膜・皮膚シートを容易且つ円滑に作製できることが望ましい。
また、複雑な面形状をもつ上皮や表皮の欠損部に対する被覆を容易且つ安定良好にでき、また、必要に応じ、縫合も可能な柔軟性を有し且つ強靭で、取り扱いが容易な被覆材を培養粘膜・皮膚の全層欠損部に適用した場合にtie-over時の圧迫固定力を増大し、生着性が向上し、縫合が容易且つ確実に安定良好にでき、細菌による汚染が防止でき、安定良好な縫合状態を維持でき、再生を早期且つ良好に行うことができるようにすることが望ましい。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、非収縮性のベースシートにコラーゲン塗膜を設けたもの又はコラーゲンを乾燥して成る非収縮性のコラーゲン乾燥膜から成る細胞培養基材に角化細胞を播種、培養し、少なくとも1層から成る角化細胞層を積層形成した後、該角化細胞層の上面に、線維芽細胞を播種、培養し、線維芽細胞層を積層形成することを特徴とする培養粘膜・皮膚の製造法に存する。
更に本発明は、上記の製造法により得られた培養粘膜・皮膚に存する。
【0005】
【発明の実施の形態】
前記した目的を達成するための本発明の特徴は、第一の構成要件として、非収縮性の細胞培養基材を用いることであり、第二の構成要件として、この細胞培養基材に、ヒトの皮膚や口腔粘膜から常法の手段で分離しておいた角化細胞及び線維芽細胞のうち、先ず、線維芽細胞ではなく、角化細胞を播種、培養し、その角化細胞層を少なくとも一層積層形成し、その角化細胞層の積層形成に引き続き、その上面に、線維芽細胞を播種培養し、線維芽細胞層を積層形成して培養粘膜・皮膚を作製することである。
【0006】
本発明の上記細胞培養基材には2種類ある。その1つは、ナイロンなどの合成樹脂を材料とした柔軟性を有し、強靭で且つ非収縮性の不織布や織布或いはフィルムから成るシートをベースとし、このベースシートの上面にコラーゲン溶液を塗布・乾燥することを所望回数繰り返して所望の厚さのコラーゲン塗膜を一体に形成して成るコラーゲンコート型の細胞培養基材であり、他の1つは、常法により作製したコラーゲンゲルを、コラーゲンが熱変質しない60℃以下の低温で、通常は、60℃以下の温風或いは、好ましくは室温で風乾により乾燥して得られる柔軟性を有し、強靭で且つ非収縮性のコラーゲン乾燥膜から成る細胞培養基材である。
前者の細胞培養基材におけるコラーゲン塗膜の形成は、そのベースシートの片面に、コラーゲン溶液、例えば、I型コラーゲン溶液を刷毛で塗布し、次で乾燥する工程を繰り返して所望の厚さのコラーゲン塗膜を形成する方法と、コラーゲン溶液にそのベースシートをドブ漬けした後引き上げ、60℃以下の温度で、風乾することを繰り返し、その両面に所定の厚さにコラーゲン塗膜を形成する方法があるがいずれでもよい。
コラーゲン溶液は、例えば、pH2〜4の酸性の食塩水にコラーゲンを添加撹拌して所望の濃度0.3〜2%のI型コラーゲン溶液としたもの、或いはこれに、リン酸緩衝液を添加して成る中性コラーゲン溶液としたものを調製し、そのいずれかを使用する。
上記の2種類の細胞培養基材とも、柔軟性を有し、且つ強靭で細胞培養において非収縮性である。従って、取り扱いが容易であるばかりか、特に口腔内の複雑な面形状に追従して良好に密着させることができる。また、角化細胞の培養において、その細胞は、そのコラーゲン乾燥膜やコラーゲン塗膜内に侵入することがなく増殖するので、無駄なく、短時間でサブコンフルエント又はコンフルエントの細胞層が形成できる。また、その2種類の細胞培養基材は、いずれも非収縮であるので、細胞培養後も当初の目的とする所定の寸法を維持した培養粘膜・皮膚が得られる。更には、例えば、培養粘膜・皮膚の全層欠損部に適用した後、その周囲を安定良好に縫合することができる。また、この適用に当たり、細胞層を欠損部に密着させるので、その生着性が向上し、細菌による汚染なく、円滑良好に再生できる。また、細胞培養基材は、最上位に来るので、その周囲の縫合作業が容易となり、また、tie-overにより該細胞培養基材に直接、その圧迫力を加えることができるので、創部に対する密着性、生着性を更に向上することができる。
図1において、1は本発明で用いるコラーゲンコーティング型の細胞培養基材の1例の模写図を示し、1aはナイロンメッシュから成るベースシート、1bはその片面に均一に塗布形成されたコラーゲン塗膜1bを示す。該ベースシート1aの厚さは、概して200〜300ミクロン、コラーゲン塗膜1bの厚さは、20〜30ミクロンである。実際には、コラーゲン塗膜1bは、ベースシート1aとしてナイロンメッシュを使用したので、メッシュの目孔に喰い込んだ状態で強固に一体に形成されている。
【0007】
本発明によれば、図1に示す上記のコラーゲンコーティング型の細胞培養基材1をシャーレの底面に載置し、そのコラーゲン塗膜1bの上面に、In vitroで、常法により、ヒトの口腔粘膜又は皮膚から分散した上皮の角化細胞a又は表皮の角化細胞aを播種し、公知の任意の培地で培養するが、短時間で角化細胞はサブコンフルエント或いはコンフルエントに達しその角化細胞層Aを形成する。この培養期間中、該基材1は収縮を生じない。かくして、図2に示すように、角化細胞層Aを少なくとも一層有する所定の寸法の柔軟性を有し且つ強靭な培養上皮或いは培養表皮を作製する。尚、図示しないが、角化細胞層は、所望により、複数層に重層化することもできる。
【0008】
本発明は、前記のコラーゲンコーティング型の細胞培養基材1を用いて、粘膜や皮膚の全層欠損移植用の培養粘膜や培養皮膚を製造することに在る。即ち、この場合は、前記のように該細胞培養基材1の該コラーゲン塗膜1bの上面に、前記のように角化細胞層Aを少なくとも一層形成した後、別途に常法によりヒトの粘膜或いは皮膚から分離した線維芽細胞bをその角化細胞層Aの上面に播種し、公知の培地で培養するときは、短時間で線維芽細胞bはコンフルエントに達し、該角化細胞層Aの上面に線維芽細胞層Bが容易に積層形成された図3に示す培養粘膜や培養皮膚を作製する。また、この培養期間中もベースシート1aの収縮がないので、目的とする所望の大きさの柔軟性を有し且つ強靭な培養粘膜又は培養皮膚が効率良く得られる。
而して、本発明は、このように製造した培養粘膜又は培養皮膚を移植に用いるときは、その線維芽細胞層Bを下向きにし、その線維芽細胞層Bの外面を口腔内の全層粘膜欠損部又は皮膚の全層皮膚欠損部に直接当て、次いで最上位の細胞培養基材の周囲を縫合し、その上から圧迫固定した状態で放置する。
而して、そのベースシートは柔軟性を有し、且つ強靭であるので、その縫合操作は容易で且つ安定良好に行うことができる一方、その線維芽細胞層Bを全層欠損部に良好に密着せしめることができ、而も該細胞培養基材の周囲を容易且つ円滑に安定した縫合を行うことができ、更には、そのベースシートの上面をtie-overで直接圧迫固定するので、圧迫固定力が増大し、前記の密着性を更に向上することができるので、生着性が向上すると共に細菌による汚染を確実に防止できるので、早期に再生する移植完了までの時間を短縮し、且つ移植効率の向上をもたらす。
【0009】
【比較試験例】
次に、図1に例示の該細胞培養基材を用い、以下のように、ヒトの角化細胞及び線維芽細胞を分離培養し、更に、培養上皮及び培養粘膜を夫々作製し、これらにつき移植実験を行い、口腔の上皮及び粘膜への適応の可能性について検討したので、これを詳述する。
1.ヒト上皮角化細胞(Keratinocytes)とヒト線維芽細胞の単離と培養方法 :
インフォームドコンセントにて同意を得た患者(成人男性)の口腔外科手術時に、硬口蓋の粘膜からその一部を採取した。その粘膜片を0.2%ディスパーゼ含有DMEM培地に4℃で20時間処理した後、上皮層と固有層に分離した。
次いで、分離した上皮層は、0.1%トリプシン(trypsin)にて37℃で2 0分間処理し、角化細胞を採取した。一方、分離した固有層は、0.5%コラーゲナーゼにて37℃、3時間処理し、線維芽細胞(Fibroblasts)を採取した。
上記のように単離したヒト角化細胞は、角化細胞無血清(GibcoBRL)培地にて37℃、約72時間培養し、更に新しい同じ培地にて同じ条件で2〜3代継代培養した。尚、培地はこれに限定されず、公知の所望の角化細胞培養に適した培地が使用できることは言うまでもない。
一方、上記のように単離した線維芽細胞は、ダルベッコ改変イーグル培地〔Dulbecco's modified Eagle's medium(DEME)(GIBCO,Grand isoland, NY, USA)〕に10%血清を添加した培地にて37℃、24時間培養し、更に新しい同じ培地にて同じ条件で2〜3代継代培養した。
2.細胞培養基材:
100×90×0.03mmの寸法のナイロンメッシュから成るベースシートの上面に1%I型コラーゲン溶液の塗布と常温で風乾を繰り返して厚さ30μのコラーゲン塗膜を形成して成る細胞培養用基材を20×20mmに裁断した20×20×0.033mmの正四角形の細胞培養基材の試料片を10例作製した。この一群を対照群と称する。
3.培養上皮の作製:
前記作製の基材の試料片の多数を用い、In vitroにて、その各試料片につき次のようにして培養上皮を作製した。即ち、各試料片をシャーレの底面に載置し、その上面に、前記の継代2〜3の上皮角化細胞を5×105 cells/mlで播種し、無血清(GibcoBRL)培地にて37℃でコンフルエントに至るまで培養して得られた培養上皮の試料片を24例作製した。この培養期間は3〜4日であった。この一群をGroup2と称する。
4.培養粘膜の作製:
前記作製の基材の試料片の多数を用い、In vitroにて、その各試料片につき次のようにして培養粘膜を作製した。即ち、各試料片をシャーレの底面に載置し、その上面に、前記の継代2〜3の角化細胞を5×105 cells/mlで播種し、無血清(GibcoBRL)培地にて37℃でコンフルエントに至るまで培養し、次いで、In vitroにて、該角化細胞層の上面に、線維芽細胞を1×105 cells/mlで播種し、前記の10%血清を添加したDEME培地にて37℃でサブコンフルエントに至るまで培養し、培養粘膜の試料片を24例作製した。この培養期間は僅か1日であった。この一群をGroup1と称する。
【0010】
次に、上記の対照群の各試料片、Group1の培養粘膜の各試料片及びGroup2の培養上皮の各試料片の夫々について6週令のヌードマウス(オス)を移植の対象とした動物実験を行った。
図4は、その実験方法を説明する図面代用写真である。先ず図4(a)に示すように、多数匹用意したヌードマウスの背部に、点線で20×20mmの切開線を設定し、次いで、図4(b)に示すように、その20mm角内を全層皮膚欠損部を作製した。次いで、図4(c)に示すように、該全層皮膚欠損部に、前記のグループ(Group1,2及び対照群)の各試料片につき、下記するように適用し且つその周囲を縫合する。次いで、図4(d)に示すように、前記の各該試料片の基材の上面をワセリンガーゼにて圧迫固定(tie-over)した。
即ち、前記の各試料片とは、前記したように試験すべき前記のGroup1の各培養粘膜、Group2の各培養上皮及び対照群の各細胞培養基材である。その各試料片を該全層皮膚欠損部に当てるに当たり、Group1の各試料片については、その線維芽細胞層を下向きにしてこれを該全層皮膚欠損部に当てるようにし、Group2の各試料片については、その角化細胞層を下向きにして、これを該全層皮膚欠損部に当てるようにし、対照群の各試料については、そのコラーゲン塗膜を下向きにして、これを該全層皮膚欠損部に当てるようにして移植した。
【0011】
上記の動物実験による移植後、即ち、術後1週間目にtie-overを除去し、術後1週目と4週目の時点で、表1に示すGroup1、Group2及び対照群による夫々の移植状態は、夫々図面代用写真で示す図5(a),(b)、図6(a),(b)及び図7(a),(b)の通りであった。図5(a),図6(a),図7(a)に示す治療しつゝある術後一週目では、未だ細胞培養基材に付着しているが、各群の術後2週目で細胞培養基材は自然に剥がれ、移植再生される。図5(b),図6(b),図7(b)は術後4週目の移植再生状態を示す。而して、術後1週目と術後4週目における夫々のグループの創部面積の測定を行う一方、組織学的検討を行った。更に詳細には、創部面積は、NIHイメージ(Image )を用いて創部面積を測定し、マン−ホイットニー(Mann-Whiteney)U検定を 行った。組織学的検討は、HE染色し、観察し、また、免疫染色し、インボルクリン(Involucrin)、HLA−ABCの観察を行った。
【0012】
【表1】
【0013】
Group1及びGroup2及び対照群の夫々の術後1週目及び術後4週目の創部面積の測定結果は、夫々図8及び図9及び表1に示す通りであった。
これから明らかなように、Group1、Group2、対照群の術後4週目の創収縮を比較すると、創収縮は対照群が最大であり、次がGroup2で、創収縮が最も小さいのはGroup1であった。従って、Group1が最も創収縮が少なく良好な再生が得られることが判った。また、術後4週目の創部面積の測定結果は、図9に示すように、Group1に対し対照群は有意差が認められるが、Group2は有意差は認められないことが判った。
【0014】
また、Group1、Group2及び対照群による術後4週目の夫々の組織のHE染色、インボルクリン及びHLA−ABCの結果は、図10の夫々の光学顕微鏡写真及び下記表2に示す通りであった。
【0015】
【表2】
【0016】
図10及び表2から明らかなように、HE染色では、いずれの群も基底層(SB)、有棘層(SS)、顆粒層(SG)、角質層(SC)と正常上皮・皮膚と同様の構造が術後4週目で認められたが、重層化はGroup1は8〜15層、Group2は8〜10層、対照群は8〜10層をもたらし、夫々良好であるが、特にGroup1による重層パターンが最も厚く且つ明瞭な重層化をもたらした。
分化マーカーであるインボルクリン発現は、正常パターンに類似していた。このことは、対照群の移植、即ち、細胞培養用基材の移植やGroup2の移植、即ち、角化細胞層のみから成る培養上皮の移植よりも、Group1の移植、即ち、角化細胞層と線維芽細胞層から成る培養粘膜を移植する方が、上皮の再生が促進されることが判る。また、Group2及び対照群は、創面被覆材として使用することができることが判る。
また、HLA−ABCについては、術後4週目のGroup1とGroup2では共に陽性であり、移植した細胞層の生着及び重層化が認められた。これに対し、対照群のHLA−ABCは陰性であった。上記の結果、ベースシート上面にコラーゲン塗膜を形成して成る本発明の細胞培養用基材の該コラーゲン塗膜上に形成した角化細胞層又は該角化細胞層の上に形成した線維芽細胞層を該創部へ当てるときは、夫々の細胞層を該創部へ良好に生着することができ、細菌感染なく創部の治療を促進し得ると考えられる。
更にまた、線維芽細胞は自ら種々の生理活性物質を放出し、肉芽組織形成を促進させ、創周囲からの表皮細胞の移住(migration)を助長する。この角化細胞 の作用に加えて、生理活性物質を自ら産生・放出し角化細胞や線維芽細胞の増殖を促進する線維芽細胞を播種したGroup1においては、線維芽細胞を播種することにより培養上皮細胞と線維芽細胞間の相互作用による上皮の分化、重層化の促進が行われていると考えられる。
以上の結果、Group1である培養粘膜は、口腔の治療後の粘膜の欠損部への適用可能性を有することが認められる一方、Group2である培養上皮及び対照群である細胞を有しない本発明の細胞培養基材は、上皮の創傷被覆材として適用可能性を有することが認められると共に、これらの適用に当たり、その柔軟性のため、複雑な面形状に沿って良好に密着させることができることが認められる。
【0017】
更に、比較のため、従来法による培養上皮と培養粘膜の作製について例示する。
従来例1:
I型コラーゲンコートのシャーレを用い、高カルシウム培地であるDMEMに10%FCSを添加した培地で、そのコート上に前記の粘膜から分離し、2〜3継代培養して得たヒト角化細胞を、5×105 cells/mlで播種し、37℃で10日間培養してヒト角化細胞が重層化した培養上皮シートを作製したが、この培養上皮は、変形し易く且つ脆弱であるため取り扱い難く、創傷被覆材として創傷部に当てる作業中に裂けることがあり、細菌汚染のおそれを生じた。勿論、縫合ができず安定した移植ができない不便がある。
【0018】
従来例2:
アテロコラーゲンスポンジ膜から成る20mm角の細胞培養基材を用い、これに前記の2〜3継代の線維芽細胞を5×105 cells/ml播種し、上記と同じ培地で三次元的に培養して線維芽細胞層を形成し、次いで、前記のヒト角化細胞5×105 cells/mlを播種、培養し、線維芽細胞層の上面に角化細胞層を積層形成して培養粘膜を作製した。培養期間は14日間を要した。また培養粘膜の寸法は約10mm角に収縮しており、目的とする20mm角のものは得られなかった。更にまた、皮膚全層欠損部に適用するに当たり、その細胞培養基材面をその欠損部に当てるので、縫合作業が困難で且つその縫合が不安定である。
【0019】
これに対し、本発明によれば、試験例で用いた細胞培養基材の上面に従来例1で用いたと同じ培地と培養法でヒト角化細胞を播種、培養し、そのヒト角化細胞層を重層化し、その上面に従来例2で用いたと同じ培地と培養法で線維芽細胞を播種、培養し、線維芽細胞層を形成するときは、その夫々の培養期間中該基材の収縮がなく、当初と同じ大きさを有し、且つ柔軟で且つ強靭で非収縮性の培養皮膚を作製することができると共に、その培養皮膚は全層皮膚欠損部の移植に適用できる。
【0020】
次に、更に、追加の比較試験例を詳述する。
患者のインフォームドコンセントにて同意を得た患者の皮膚の一部を採取し、その皮膚片から周知の任意の手段により表皮と真皮とに分離し、表皮から表皮細胞を採取し、培養する。一方、真皮の結合組織を分解して線維芽細胞を採取し、培養する。
【0022】
1.培養表皮の作製:
前記の培養上皮の作製と同様の方法で作製した。即ち、シャーレの底面に載置した20mm角の細胞培養基材片の該コラーゲン塗膜上に、上記の用意した継代2〜3の表皮角化細胞を5×105 cells/mlで播種し、DMEM+10%FBS(牛胎児血清)培地にてコンフルエントになるまで増殖させ、該コラーゲン塗膜上にヒト角化細胞層を一体に形成して培養表皮を作製した。
2.培養皮膚の作製:
本発明の前記の培養粘膜の作製と同様の方法で作製した。即ち、シャーレの底面に載置した20mm角の細胞培養基材片の該コラーゲン塗膜上に、上記の表皮の作製と同じ条件で、表皮角化細胞をサブコンフルエントになるまで培養し、該コラーゲン塗膜上に角化細胞層を一体に形成した後、その角化細胞層の上面に、上記の用意した線維芽細胞を5×105 cells/ml播種し、DMEM+10%FBS培地にてインキュベーター内で37℃で培養し、線維芽細胞層を積層形成して本発明の培養皮膚を作製した。
【0022】
これらの20mm角の培養表皮及び本発明の培養皮膚の夫々の試料片群をGroup2及びGroup1とし、その各試料片につき、前記の動物実験と同じ要領で各ヌードマウスの背部を手術し、20mm角の全層皮膚欠損部に、培養表皮の試料片については、その角化細胞層面を当て、培養皮膚の試料片については、その線維芽細胞層面を当て、上位となった、即ち、表面に露出した細胞培養基材の周囲を縫合し且つその外面を直接圧迫固定(tie-over)し、術後4週目に、前記と同様の創収縮及び組織学的検討を行ったところ、前記の培養上皮及び培養粘膜の場合と同様の結果を得た。即ち、前記段落0013と同様に、該培養皮膚が該培養表皮に比し、創収縮が小さく欠損部の優れた再生が得られた。
【0023】
また、本発明の柔軟性を有し、強靭で且つ非収縮性の細胞培養基材として、上記の実施例で使用したコラーゲンコート型細胞培養基材に代えて、常法により作製した脆弱なI型コラーゲンゲルをそのまゝ用いることなく、これを乾燥してコラーゲン乾燥膜(collagen membrane)としたものを用いることができる。而し て、この培養基材を、前記の実施例と同様の培養法により、夫々培養上皮・表皮や培養粘膜・皮膚を作製したところ、培養期間中に、基材の収縮なく、先の実施例で用いたコラーゲンコート型細胞培養基材を用いて細胞培養して成るGroup1、Groupの場合2と同様の良好な結果をもたらした。その培養表皮と培養皮膚を、上記の動物試験例と同様に移植したところ、生着性がよく、前記の培養上皮及び培養粘膜の場合と同様に、術後4週目に良好な再生が行われた。
【0024】
尚、本発明の前記2種類の細胞培養基材を比較検討したところ、両者とも凹凸論形状を有する被適用部の面に沿い良好に密着させることができる柔軟性を有し且つ比較的荒い取り扱いでも変形や亀裂を生じないので、取り扱い易く、而も確実な信頼性をもたらす縫合に適した強靭性を有するが、厳密には、コラーゲンコート型が、非コラーゲン質の材料から成るベースシートを有する点でコラーゲン乾燥膜型に比し強靭性が優れていることは、その構成上明らかである。製造においては、前者はコラーゲン溶液を付着(塗布又は浸漬)、乾燥を繰り返すだけで得られるので、コラーゲンを原料とする後者に比し容易に得られる。また、培養粘膜・皮膚の製造における培養時間は、前者を用いた場合と同様に変わらず、上記の従来法に比し短時間で済む。粘膜や皮膚の全層欠損部に対する適用後再生までの時間は、両者とも略変わりがない。
【0025】
【発明の効果】
このように本発明によれば、非収縮性のベースシート上面にコラーゲン塗膜を設けた型のもの、或いはコラーゲンゲルを乾燥して成る非収縮性の乾燥膜から成る細胞培養基材を用いてヒト角化細胞を播種、培養し、少なくとも一層から成る角化細胞層を形成し、その角化細胞層の形成に引き続きその上面に線維芽細胞を播種、培養し、線維芽細胞層を積層形成した培養粘膜・皮膚を作製するときは、その培養過程で該基材の収縮がなく、目的とする所定の大きさを有し、而も柔軟性と強靭な培養粘膜・皮膚を製造することができる。また、このように製造された培養粘膜・皮膚は、その柔軟性と強靭性を有するため、取り扱いが容易で創傷被覆材として適用でき、また、所望により縫合が可能であると共に、全層欠損部の適用に当たり、特に口腔内の複雑な凹凸面形状に追従して密着させることができるので生着性が向上し、上記の細胞培養基材に角化細胞を播種、培養し角化細胞層を形成して製造した培養上皮・表皮に比し欠損部の優れた再生効果をもたらし、更には、その周囲の縫合操作が容易且つ確実にできると共に生着性を向上し、汚染なく、早期に且つ安定良好な再生を行うことができる。また、その基材の上面を直接圧迫固定するので、圧迫力が増大し、密着性を更に向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施の1例の細胞培養基材の模写側面図である。
【図2】 本発明の実施の1例の培養粘膜・皮膚製造過程において形成する培養上皮の模写側面図である。
【図3】 本発明の実施の1例の製造法により得られた培養粘膜の模写側面図である。
【図4】 本発明の実施の1例の移植実験方法を説明する図面代用写真であり、図4(a)は、ヌードマウスの背部の切開線設定した状態を示し、図4(b)は、手術により全層皮膚欠損部を作製したときの状態を示し、図4(c)は、該全層皮膚欠損部へ試料片を移植したときの状態を示し、図4(d)は、移植部を縫合、圧迫固定したときの状態を示す。
【図5】 Group1の本発明の培養粘膜から成る試料片を移植に用いた状態を示す図面代用写真であり、図5(a)及び図5(b)は、夫々術後1週目及び術後4週目の状態を示す。
【図6】 Group2の本発明の培養上皮から成る試料片を移植に用いた状態を示す図面代用写真であり、図6(a)及び図6(b)は、夫々術後1週目及び術後4週目の状態を示す。
【図7】 本発明の細胞培養基材から成る試料片を移植に用いた状態を示す図面代用写真であり、図7(a)及び図7(b)は、夫々術後1週目及び術後4週目の状態を示す。
【図8】 Group1、Group2及び対照群による術後1週目の夫々の創部面積の収縮の測定結果を示す図表である。
【図9】 Group1、Group2及び対照群による術後4週目の夫々の創部面積の収縮の測定結果を示す図表である。
【図10】 Group1、Group2及び対照群による術後4週目の組織のHE染色の状態とGroup1及びGroup2による組織のインボルクリン及びHLA−ABCの状態を示す図面代用写真である。
【符号の説明】
1 本発明の細胞培養基材
1a ベースシート
1b コラーゲン塗膜
a 角化細胞
A 角化細胞層
b 線維芽細胞
B 線維芽細胞層
Claims (2)
- 非収縮性のベースシートにコラーゲン塗膜を設けたもの又はコラーゲンを乾燥して成る非収縮性のコラーゲン乾燥膜から成る細胞培養基材に角化細胞を播種、培養し、少なくとも1層から成る角化細胞層を積層形成した後、該角化細胞層の上面に、線維芽細胞を播種、培養し、線維芽細胞層を積層形成することを特徴とする培養粘膜・皮膚の製造法。
- 請求項1に記載の製造法によって得られた培養粘膜・皮膚。
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