JP4399550B2 - 光学部品の研磨方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、光学部品の研磨方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、光学部品を研磨するに際し、磨き皿(例えば、鉄皿上にアスファルトを網目状に加工したピッチ皿、鉄皿にフェルトまたはラシャを張ったフェルト皿、鉄皿上に発泡処理されたポリウレタン系シートを感圧接着剤で固定したポリシングパッド皿、微粒ダイヤモンド・レジンボンド・ラップ皿、化学研磨液含浸磨き皿等)の上に、研磨材としてのべんがら、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、あるいはダイヤモンド、アルミナ、シリカ、ガラス等の極微粒粉や、酸化チタン、酸化クロム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化カルシウム、酸化マグネシウム等を水やアルコール、エーテル、ケロシン等の溶媒で含浸した研磨液を載せ、その上に、光学部品の被研磨面を接触させながらスライド研磨を行っている。また、研磨効率の向上を目的として、酢酸や硼酸等の弱酸、あるいはアンモニア等の弱アルカリを混入させた研磨液も市販されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、200nm付近の紫外光を透過させる合成石英、結晶石英、サファイア、フッ化リチウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、フッ化ナトリウム、フッ化マグネシウム等の光学材料からなる光学部品では高精度研磨が要求され、その精度を達成するために、従来の方法では、研磨に長時間を必要としていた。
【0004】
したがって、本発明は、短時間で高精度の研磨を達成し得る光学部品の研磨方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、本質的に固体研磨材を使用せず、光化学反応を利用した全く新規な光学部品の研磨方法を開発した。
【0006】
すなわち、本発明は、第1の側面において、光学部品の被研磨面とフッ素樹脂との間に水を介挿させた状態で、該光学部品の被研磨面と水とフッ素樹脂に紫外光を入射しながら、光学部品とフッ素樹脂を相対的に摺動させて該光学部品の被研磨面を研磨することを特徴とする光学部品の研磨方法を提供する。
【0007】
本発明の光学部品の研磨方法によれば、研磨される光学部品の被研磨面に水を介してフッ素樹脂を接触させ、その状態で紫外光を照射すると、紫外光が照射された照射部分のみにおいて、フッ素樹脂からフッ素原子が離脱するとともに、水から光分解した水酸基が、離脱したフッ素原子の位置に結合して親水性に改質され、同時に水のもう一方の分解物水素とフッ素樹脂から離脱したフッ素によって生成したフッ化水素が水に溶解してフッ化水素酸が生成する。このフッ化水素酸が、親水性化されたフッ素樹脂に吸着されると同時に、紫外光が照射されている光学部品の被研磨面だけをエッチングし、光学部品と接触して摺動しているフッ素樹脂により研磨が行われる。従って、本発明の研磨方法は、光研磨方法と称することができる。
【0008】
本発明によれば、研磨時間の短縮化が達成されるばかりでなく、光学部品の紫外光が照射された部分のみが選択的にエッチングされるため、従来法で必要とした研磨治具(やとい)の必要がない。しかも(フッ化水素)水だけが研磨材であり、通常の研磨材は使わないため、途中で被研磨面の洗浄の必要もない。このため部品検査を実施しながら、研磨を続行することができる。検査により研磨不足の部位が見出されたときは、その部位に対する紫外光のエネルギー密度を高くすることにより、研磨圧力を高めた場合と同等の効果を達成することができる。
【0009】
本発明において、光学部品の被研磨面は、予め荒ずり研磨されていることが好ましい。
【0010】
通常、フッ素樹脂は、載置部材上に置かれ、フィルムもしくは板の形態、または粉体の形状にあることができる。
【0011】
光学部品は、合成石英、結晶石英、サファイア、フッ化リチウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、フッ化ナトリウム、フッ化マグネシウム、または光学ガラス等フッ化水素酸により侵されやすい材料で形成されていることが好ましい。
【0012】
本発明において、紫外光は、ArFエキシマレーザ光、KrFエキシマレーザ光、非線形素子による高調波レーザ光、エキシマランプ光、水銀ランプ光、Xeランプ光、重水素ランプ光、ハロゲンランプ光、またはガスのアーク、コロナもしくは無声放電により得られる紫外光であり得る。
【0013】
また、光学部品は、通常、紫外光透過性であり、紫外光を光学部品側から入射させることができる。
【0014】
使用する載置部材が、紫外光透過性である場合には、紫外光をその載置部材の裏側から入射させることもできる。この場合には、紫外光に不透明な光学部品をも研磨することができる。
【0015】
水にHFを予め添加しておけば、研磨効率をより一層向上させることができるので好ましい。
【0016】
また、本発明は、第2の側面において、炭化ケイ素からなる光学部品の被研磨面とフッ素樹脂との間に過酸化水素水を介挿させた状態で、該光学部品の被研磨面と過酸化水素水とフッ素樹脂に紫外光を入射しながら、光学部品とフッ素樹脂を相対的に摺動させて該光学部品の被研磨面を研磨することを特徴とする炭化ケイ素からなる光学部品の研磨方法を提供する。この場合、紫外光照射により炭化ケイ素が過酸化水素と反応して酸化ケイ素に変換され、この酸化ケイ素が、上に述べたようにフッ素樹脂から発生するフッ化水素によりエッチング除去される。
【0017】
第2の側面においても、第1の側面に関して上に説明された事項は、光学部品の材質を除き、基本的にはそのまま当てはまる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をより詳しく説明する。
【0019】
本発明の光研磨方法によれば、まず、研磨しようとする光学部品の被研磨面とフッ素樹脂との間に水を介挿させる。
【0020】
フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等を使用することができ、FEPおよびPFAが特に好ましい。
【0021】
フッ素樹脂は、フィルムまたは板の形態で、あるいは粉体の形態で用いることができ、一般に、通常使用されている研磨用回転台等の載置部材上に載置される。フッ素樹脂がフィルムまたは板の形態にある場合には、これを載置部材上に直接貼着させることができる。フッ素樹脂が粉体の形態にある場合には、例えば、載置部材上にアスファルトピッチ板を等の粘着層を貼着し、その上にフッ素樹脂粉体を均一な層状に散布してフッ素樹脂粉体を固定することができる。なお、フッ素樹脂粉末は、水に混ぜると凝集固着するので、単にフッ素樹脂粉末を載置部材上に置き、小量の水を添加するだけでも載置部材上に固定することができる。フッ素樹脂粉体を用いた場合には、それが研磨材としても作用するため研磨効率が一層高くなる。フッ素樹脂粉体としては、平均粒径が5〜20μmのものを好適に使用することができる。
【0022】
ついで、フッ素樹脂上に光学部品をその被研磨面がフッ素樹脂に面するように載置する。光学部品としては、水に対する溶解度が小さく、しかもフッ化水素酸に対する溶解度が比較的大きな光学材料で形成されたものが好ましい。特に、水を分解させるために必要な200nm付近(特に約193nm)の紫外光を透過させる光学材料、好ましくは、合成石英、結晶石英、サファイア、フッ化リチウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、フッ化ナトリウム、フッ化マグネシウムまたは紫外光透過性光学ガラスからなる光学材料で形成された光学部品が本発明には特に適しているが、これに限定されるものではない。
【0023】
光学部品の被研磨面は、例えばカーボランダムやダイヤモンドペースト等の通常の荒ずり材を用いて予め荒ずり研磨しておくことが好ましい。荒ずり研磨により達成される被研磨面の表面粗さは、約2〜5μmで十分である。
【0024】
このように、フッ素樹脂層の上に載置された光学部品とフッ素樹脂層との間に水を介挿させるためには、フッ素樹脂層と光学部品とを相対的に摺動させながら、フッ素樹脂層上に水を滴下することが好ましい。滴下された水は、毛細管現象によりフッ素樹脂層と光学部材の被研磨面との間に浸入し、薄い水の層を形成する。なお、水には、水道水等の通常の水、蒸留水等の純水、重水等が含まれる。また、ここで滴下する水の代わりにHF含有水(フッ化水素酸)を滴下すると、研磨効率がより一層向上する。ここで、フッ素樹脂層と光学部品との相対的摺動は、例えば、一方のを固定し、他方を回転またはスライドさせるか、あるいは両者を反対方向に回転させることによって行うことができる。
【0025】
このように光学部品の被研磨面とフッ素樹脂との間に水を介挿させた状態で、光学部品の被研磨面と水とフッ素樹脂に紫外光を入射しながら、光学部品とフッ素樹脂との相対的な摺動を続行する。使用する紫外光としては、エキシマレーザ光(ArFエキシマレーザ、KrFエキシマレーザ光等)、非線形素子による高調波レーザ光、エキシマランプ光、水銀ランプ光、Xeランプ光、重水素ランプ光、ハロゲンランプ光、またはガス(空気、窒素、その他のガス)のアーク、コロナもしくは無声放電により得られる紫外光を用いることができる。なお、紫外光源は、紫外光をパルス的に出射するものであることが好ましい。
【0026】
上に述べたように紫外線を照射すると、その照射された部分のみに対応して光化学反応を起こし、以下に示すようにフッ化水素(HF)が生成する(ここでは、フッ素樹脂を代表的に(CF2)nで示している)。
【0027】
(CF2)n+nH2O+hν(紫外光)→(CF−OH)n+nHF。
【0028】
このHFが、フッ素樹脂層と光学部品の被研磨面との間に形成された薄い水の層に溶解してフッ化水素酸となり、そのフッ化水素酸が、OHにより置換されて親水性に改質されたばかりの(CF−OH)nに吸着されると同時に、光照射された部分の光学部品の被研磨面を分子レベルでエッチングする。そして、フッ素樹脂層との摺動によって光学部品の被研磨面が研磨される。かくして、本発明によれば、短時間で高精度の研磨を達成することができる。なお、紫外光は、C−F結合を解離させるに必要な光エネルギー147kcal/mol以上でフッ素樹脂に照射する。通常、照射する紫外光のエネルギー密度は、15mJ/cm2〜100mJ/cm2程度で十分である。
【0029】
上記摺動研磨の際の研磨圧は、光学部品をフッ素樹脂に対して十分に摺動させ得る圧力であればよく、通常、5g/cm2〜100g/cm2で十分である。
【0030】
なお、光学部品は、通常紫外光透過性であり、紫外光は光学部品側から照射することができる。また、載置部材が、紫外光透過性材料、例えば紫外光透過性ガラスもしくはプラスチックで形成され、紫外光透過性である場合には、紫外光をその載置部材の裏側から照射することもできる。この場合には、一般ガラスのように紫外線を透過させない材料で形成された光学部品をも研磨することができる。
【0031】
本発明の特別の形態は、炭化ケイ素からなる光学部品を研磨する方法である。この場合にも、炭化ケイ素からなる光学部品の被研磨面とフッ素樹脂との間に水を介挿させた状態で、光学部品の被研磨面と水とフッ素樹脂に紫外光を入射しながら、光学部品とフッ素樹脂を相対的に摺動させて光学部品の被研磨面を研磨するという点では上に述べた研磨方法と同じであるが、水に予め過酸化水素を添加しておくとさらに効果的であることがわかった。その場合、水の代わりに過酸化水素水を用いる。炭化ケイ素は、X線反射鏡として期待されている材料であるが、非常に固く、従来研磨にはダイヤモンド粉末を用いていた。しかしながら、タイヤモンド粉末では、X線等の短波長領域の光に使用するには不都合な表面における傷の生成を避けることができない。しかも、炭化ケイ素は、化学的に安定であるため、薬品エッチングによって表面を削ることも困難である。
【0032】
ところが、炭化ケイ素からなる光学部品の被研磨面とフッ素樹脂との間に過酸化水素水を介挿させた状態で、光学部品の被研磨面と過酸化水素水とフッ素樹脂に紫外光を入射しながら、光学部品とフッ素樹脂を相対的に摺動させて光学部品の被研磨面を研磨すると、まず、炭化水素が過酸化水素との光反応による酸化により酸化ケイ素に変換される。この酸化ケイ素はフッ化水素酸により容易にエッチングされるため、本発明に従って上に述べたようにフッ素樹脂から生成したフッ化水素酸により除去されることとなり、炭化ケイ素からなる光学部品を非常に高精度に研磨することができる。この際の紫外光は、ArFエキシマレーザ光またはKrFエキシマレーザ光であることが特に好ましい。いうまでもなく、過酸化水素水にHFを添加しておけば、上に述べたように、研磨効率は一層向上する。この場合、照射する紫外光のエネルギー密度は、15mJ/cm2〜100mJ/cm2程度が好ましい。なお、過酸化水素水は、248nmの紫外光でも分解し得る。
【0033】
次に、図1〜図4を参照して本発明の光研磨方法を実施するために好適な光研磨装置の例を説明する。これら図において、同様の要素は同様の符号で示されている。
【0034】
図1に示す装置は、載置台としての回転台11を備え、この回転台11は、その回転軸11aの回りで、図示しないモータにより回転される。回転台11の上には、フィルム、板または粉体からなる層の形態にあるフッ素樹脂層12が固着されている。研磨しようとする光学部品13は、その被研磨面がフッ素樹脂層12に面するようにフッ素樹脂層12上に載置される。研磨圧力は、光学部品13の周囲に載置される枠状の重り部材20により提供することができる。
【0035】
本装置は、紫外光を光学部品13の上方側から入射させるものであり、紫外光源16からの紫外光17は、例えばミラー18により光学部品13に指向される。本発明において、紫外光としては、ArFエキシマレーザ光を用いることが望ましい。ArFエキシマレーザ光の波長は、193nmの紫外線であり、発振パルス幅が高々10ns(10-8秒)と短く、しかもパルスレーザであるため、パルス繰り返し数は10〜1000Hzである。したがって、パルス繰り返し数を100Hzとすると、レーザ光が出射している時間は10-8秒、次のレーザ発振までには10-2秒間の休息時間がある。そこで、高速回転しているフッ素樹脂層12の上に、上面が光学研磨され、下面(被研磨面)が荒ずり面である光学部品13を被研磨面がフッ素樹脂層12と接触するようにして載せ、フッ素樹脂層12上にスポイト等の水滴下手段15により、HFを含んでいてもよい水または過酸化水素水を滴下すると、上に述べたように、毛細管現象によって光学部品13の被研磨面とフッ素樹脂層12との間に水の薄液層14が形成される。この状態で、光学部品13の被研磨面と反対側の光学研磨されている側から例えばホトマスク19を通したArFエキシマレーザ光17を入射すると、光学部品13の被研磨面と接触する水14とフッ素樹脂層12がホトマスク19に対応した部分において局所的に光化学反応を起こし、上に述べたようにフッ化水素(HF)が生成する。このHFが水14に溶解してフッ化水素酸となり、これがOHが置換されて親水性に改質されたばかりのフッ素樹脂12に吸着されると同時に、光照射された部分の光学部品13の被研磨面をエッチングする。この光が照射されている極短い時間(高々10-8秒)に分子単位のエッチングが終了しフッ化水素酸は無くなる。引き続いてレーザが休止している10-2秒間に、エッチングされた部分は、先に親水性化されたフッ素樹脂12層上に残る水が、回転するフッ素樹脂層12によって摩擦されて消失し、フッ素樹脂層12による光学部品13の被研磨面の研磨が行われる。そして次のレーザパルスで、再び光エッチングと摩擦による研磨が逐次的に行われる。このフッ素樹脂層12を設けた回転台11の回転運動と、ArFエキシマレーザの発振と休止の繰り返しにより、レーザのパルス数に応じて高速で高精度の研磨が行われる。
【0036】
本実施の態様では、水とフッ素樹脂の存在下でパルス的に紫外線を入射して局所的に、しかも光学部品に接触して光化学的にフッ化水素酸を生成させるため、光源として、ArFエキシマレーザが最適であるが、同様の作用を起こすことができる非線形素子による高調波レーザも使用できる。また電気回路的にパルス発光させれば、エキシマランプ、水銀ランプ、Xeランプ、重水素ランプ、ハロゲンランプ、あるいは空気、窒素、または他のガス雰囲気のアーク、コロナまたは無声放電により得られる紫外ランプも適用できる。
【0037】
前述したように、水とフッ素樹脂の存在下で、パルス的に紫外線を入射するため、紫外線が照射されているわずかな時間だけ照射部分にのみフッ化水素酸を生成させ、これによって紫外光が照射されている光学部品の被研磨面だけをエッチングし、光が照射されない間に摺動するフッ素樹脂で該エッチングされた面を研磨する。これにより、研磨時間の短縮と、光学部品の光が照射された部分のみが選択的にエッチングされるため、従来法で必要とした研磨治具(やとい)の必要がない。しかも被加工物より硬い微粒粉等の研磨材はいっさい使わず、水だけが研磨材であるため、途中で被研磨面の洗浄の必要もなく、部品検査を実施しながら、研磨を続行することができる。
【0038】
図2は、回転台11が紫外光透過性であり、紫外光を回転台11側から光学部品13の研磨面まで入射させること以外は図1に示す装置と同様の光研磨装置を示す概略図であり、図1における部材等と同様の部材には同様の参照符号が付されている。図2に示す装置において、回転台11は、紫外光透過性材料、例えば紫外光透過性ガラスもしくはプラスチックで形成される。本装置を用いた場合には、一般ガラスのように紫外線を透過させない材料で形成された光学部品をも研磨することができ、また上面が光学研磨されていない前記紫外光透過性光学材料で形成された光学部品を研磨することもできる。
【0039】
図3は、回転台11上に被研磨部品である光学部品13をその被研磨面を上にして載置し、例えば合成石英やサファイア等の板状体からなる紫外光透過性磨き部材31の下面にフッ素樹脂フィルム12を貼着して光学部品13上に置き、重り部材20で荷重を掛け、フッ素樹脂フィルム12と光学部品13との間の隙間に滴下手段15からの水または過酸化水素水を毛細管現象により浸入させて研磨を行う装置である。
【0040】
図4は、回転台11上に被研磨部品である光学部品13をその被研磨面を上にして載置し、フッ素樹脂粉体41を散布し、その上に例えば合成石英やサファイア等の板状体からなる紫外光透過性磨き部材31を置き、重り部材20で荷重を掛け、滴下手段15からの水または過酸化水素水を毛細管現象フッ素樹脂粉体中に浸入させて研磨を行う装置である。
【0041】
【実施例】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)はフッ素樹脂の代表であり、耐薬品性、電気絶縁性に優れ、摩擦係数が少ない樹脂であるが、溶融粘度が高いため、加工するには、粉体を圧縮成型した260℃内外で溶融させている。成型加工したフィルムは光学的に不透明である。ところが、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)は、トリフルオロメチル基(−CF3)を側鎖に導入してあるため結晶化度が低く、溶融か高温度はPTFEより60℃低い。しかも、成型加工したフィルムは光学的に透明であり、ArFレーザの193nmの波長の光も透過する。パーフルオロアルキル基(−Rf)を側鎖に導入してある、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)も、FEP同様に溶融加工が可能で、光学的にも透明である。
【0042】
まず、これら代表的なフッ素樹脂フィルムあるいは粉体に対し、超純水の存在下で、ArFレーザを照射することによって生成するフッ化水素酸の酸濃度を電気抵抗の変化によって調べ、フッ化水素酸濃度とレーザパルス依存性を測定した(以下の実験例1および2)。
【0043】
実験例1
厚さ約1mmのPTFEフィルム、FEPフィルムまたはPFAフィルムの上に超純水を滴下し、その上に、金蒸着により櫛形電極が形成された合成石英層をその電極面を下側にして被せ、合成石英層の上部からエネルギ密度20mJ/cm2のArFレーザを照射し、電極間の電気抵抗変化を調べ、フッ化水素酸濃度のレーザパルス依存性を測定した。図5に示すように、レーザパルス数に応じてフッ素樹脂フィルムに接触している超純水(20メガオウム)の電気抵抗が低くなり、フッ化水素酸濃度が上昇することがわかる。レーザ照射によって生成するフッ化水素酸濃度は、高い順にPFA>FEP>PTFEである。
【0044】
実験例2
それぞれが粉体の形態にあるPTFE(製品名:ポリフロンTFA/F−104)、FEP(製品名:ネオフロンFEP/NC1500)またはPFA(製品名:ネオフロンACX−31)の上に超純水を滴下し、その上に、金蒸着により櫛形電極が形成された合成石英層をその電極面を下側にして被せ、合成石英層の上部からエネルギ密度20mJ/cm2のArFレーザを照射し、電極間の電気抵抗変化を調べ、フッ化水素酸濃度のレーザパルス依存性を測定した。図6に示すように、レーザパルス数に応じてフッ素樹脂粉体に接触している超純水(20メガオウム)の電気抵抗が低くなり、フッ化水素酸濃度が上昇することがわかる。レーザ照射によって生成するフッ化水素酸濃度は、高い順にPFA>FEP>PTFEである。
【0045】
実施例1
合成石英ガラス光学部品を#800番のカーボンランダムで荒ずり研磨して被研磨面(表面粗さ約2〜5μm)とした。この合成石英ガラス光学部品13を、図1に示すように、その被研磨面を下側にして回転台11に貼られたフッ素樹脂フィルム(PTFE)12の上に置き、研磨圧力を50g/cm2に設定し、10rpmで回転台11を回転させながら、スポイト15から水を滴下しながら、ArFレーザ光(25mJ/cm2、100pps)を照射したところ、60分間で10オングストローム(Å)の面精度が達成された。
【0046】
実施例2
合成石英ガラス光学部品を#800番のカーボンランダムで荒ずり研磨して被研磨面(表面粗さ約2〜5μm)とした。この合成石英ガラス光学部品13を、図1に示すように、その被研磨面を下側にして回転台11に貼られたフッ素樹脂フィルム(FEP)12の上に置き、研磨圧力を50g/cm2に設定し、10rpmで回転台11を回転させながら、スポイト15から水を滴下しながら、ArFレーザ光(25mJ/cm2、100pps)を照射したところ、30分間で10Åの面精度が達成された。
【0047】
実施例3
合成石英ガラス光学部品を#800番のカーボンランダムで荒ずり研磨して被研磨面(表面粗さ約2〜5μm)とした。この合成石英ガラス光学部品13を、図1に示すように、その被研磨面を下側にして回転台11に貼られたフッ素樹脂フィルム(PFA)12の上に置き、研磨圧力を50g/cm2に設定し、10rpmで回転台11を回転させながら、スポイト15から水を滴下しながら、ArFレーザ光(25mJ/cm2、100pps)を照射したところ、25分間で10Åの面精度が達成された。
【0048】
実施例4
フッ化カルシウム光学部品をダイヤモンドペーストで荒ずり研磨して被研磨面(表面粗さ約1μm)とした。このフッ化カルシウム光学部品13を、図1に示すように、その被研磨面を下側にして回転台11に貼られたフッ素樹脂フィルム(FEP)12の上に置き、研磨圧力を50g/cm2に設定し、10rpmで回転台11を回転させながら、スポイト15から水を滴下しながら、ArFレーザ光(25mJ/cm2、100pps)を照射したところ、30分間で10Åの面精度が達成された。
【0049】
実施例5
図1に示す回転台11にアスファルトピッチ板を貼着し、その上に粉体FEP(製品名:ネオフロンFEP/NC1500)を散布した。その粉体FEP層12上に、#800番のカーボンランダムで荒ずり研磨された合成石英ガラス光学部品13をその荒ずり研磨された被研磨面(表面粗さ約2〜5μm)を下側にして載せ、研磨圧力を50g/cm2に設定し、10rpmで回転台11を回転させながら、スポイト15から水を滴下しながら、ArFレーザ光(25mJ/cm2、100pps)を照射したところ、25分間で10Åの面精度が達成された。
【0050】
実施例6
図1に示す回転台11にアスファルトピッチ板を貼着し、その上に粉体FEP(製品名:ネオフロンFEP/NC1500)を散布した。その粉体FEP層12上に、ダイヤモンドペーストで荒ずり研磨されたフッ化カルシウム光学部品13をその荒ずり研磨された被研磨面(表面粗さ約1μm)を下側にして載せ、研磨圧力を50g/cm2に設定し、10rpmで回転台11を回転させながら、スポイト15から水を滴下しながら、ArFレーザ光(25mJ/cm2、100pps)を照射したところ、25分間で10Åの面精度が達成された。
【0051】
実施例7
合成石英ガラス光学部品を#800番のカーボンランダムで荒ずり研磨して被研磨面(表面粗さ約2〜5μm)とした。この合成石英ガラス光学部品13を、図1に示すように、その被研磨面を下側にして回転台11に貼られたフッ素樹脂フィルム(FEP)12の上に置き、研磨圧力を50g/cm2に設定し、10rpmで回転台11を回転させながら、スポイト15から水を滴下しながら、ヘッドオン形キセノンエキシマランプ(172nm)光を照射したところ、5時間で100Åの面精度が達成された。
【0052】
実施例8
図2に示す合成石英板からなる回転台11の上にFEP板12を固定し、その上に#1500番のカーボンランダムで荒ずり研磨されたガラス(BR−7)光学部品13をその荒ずり研磨された被研磨面(表面粗さ約2μm)を下側にして載せ、研磨圧力を50g/cm2に設定し、10rpmで回転台11を回転させながら、スポイト15から水を滴下し、回転台11の裏側からArFレーザ光(25mJ/cm2、100pps)を照射したところ、15分間で10Åの面精度が達成された。
【0053】
実施例9
図2に示す合成石英板からなる回転台11の上に粉体FEP(製品名:ネオフロンFEP/NC1500)12を散布し、その上に#1500番のカーボンランダムで荒ずり研磨されたガラス(BR−7)光学部品13をその荒ずり研磨された被研磨面(表面粗さ約2μm)を下側にして載せ、研磨圧力を50g/cm2に設定し、10rpmで回転台11を回転させながら、スポイト15から水を滴下し、回転台11の裏側からArFレーザ光(25mJ/cm2、100pps)を照射したところ、15分間で10Åの面精度が達成された。
【0054】
実施例10
図2に示す合成石英板からなる回転台11の上にFEP板12を固定し、その上にダイヤモンドペーストで荒ずり研磨されたSiC光学部品をその荒ずり研磨された被研磨面(表面粗さ約2μm)を下側にして載せ、研磨圧力を50g/cm2に設定し、10rpmで回転台11を回転させながら、スポイト15から水を滴下し、回転台11の裏側からArFレーザ光(50mJ/cm2、100pps)を照射したところ、200分間で10Åの面精度が達成された。
【0055】
実施例11
図2に示す合成石英板からなる回転台11の上にFEP板12を固定し、その上にダイヤモンドペーストで荒ずり研磨されたSiC光学部品をその荒ずり研磨された被研磨面(表面粗さ約2μm)を下側にして載せ、研磨圧力を50g/cm2に設定し、10rpmで回転台11を回転させながら、スポイト15から30%過酸化水素水と40%フッ化水素酸との混合液(混合体積比3:1)を滴下し、回転台11の裏側からKrFレーザ光(50mJ/cm2、100pps)を照射したところ、30分間で10Åの面精度が達成された。
【0056】
実施例12
図2に示すサファイア板からなる回転台11の上にFEP板12を固定し、その上にダイヤモンドペーストで荒ずり研磨されたSiC光学部品をその荒ずり研磨された被研磨面(表面粗さ約2μm)を下側にして載せ、研磨圧力を50g/cm2に設定し、10rpmで回転台11を回転させながら、スポイト15から30%過酸化水素水と40%フッ化水素酸との混合液(混合体積比3:1)を滴下し、回転台11の裏側からKrFレーザ光(50mJ/cm2、100pps)を照射したところ、50分間で10Åの面精度が達成された。
【0057】
実施例13
図2に示す合成石英板からなる回転台11の上にFEP板12を固定し、その上にダイヤモンドペーストで荒ずり研磨されたSiC光学部品をその荒ずり研磨された被研磨面(表面粗さ約2μm)を下側にして載せ、研磨圧力を50g/cm2に設定し、10rpmで回転台11を回転させながら、スポイト15から30%過酸化水素水と40%フッ化水素酸との混合液(混合体積比3:1)を滴下し、回転台11の裏側からArFレーザ光(50mJ/cm2、100pps)を照射したところ、80分間で10Åの面精度が達成された。
【0058】
実施例14
図3に示す回転台11の上にダイヤモンドペーストで荒ずり研磨されたSiC光学部品13をその荒ずり研磨された被研磨面(表面粗さ約2μm)を上側にして貼着し、その上に合成石英板31の下面にFEP板12を固着した磨き皿を載せ、研磨圧力を50g/cm2に設定し、10rpmで回転台11を回転させながら、スポイト15から30%過酸化水素水と40%フッ化水素酸との混合液(混合体積比3:1)を滴下し、回転台11の上方からKrFレーザ光(50mJ/cm2、100pps)を照射したところ、30分間で10Åの面精度が達成された。
【0059】
実施例15
図4に示す回転台11の上にダイヤモンドペーストで荒ずり研磨されたSiC光学部品をその荒ずり研磨された被研磨面(表面粗さ約2μm)を上側にして貼着し、その上に粉体FEP(商品名ネオフロンFEP/NC1500)41を散布し、サファイア板からなる紫外光透過性磨き部材31を載せ、研磨圧力を50g/cm2に設定し、10rpmで回転台11を回転させながら、スポイト15から30%過酸化水素水と40%フッ化水素酸との混合液(混合体積比3:1)を滴下し、回転台11の上方からKrFレーザ光(50mJ/cm2、100pps)を照射したところ、30分間で10Åの面精度が達成された。
【0060】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、光学部品を短時間で高精度に研磨することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の光研磨方法を実施するために好適な光研磨装置の一例を示す概略図。
【図2】本発明の光研磨方法を実施するために好適な光研磨装置の他の例を示す概略図。
【図3】本発明の光研磨方法を実施するために好適な光研磨装置の他の例を示す概略図。
【図4】本発明の光研磨方法を実施するために好適な光研磨装置のさらに他の例を示す概略図。
【図5】各種フッ素樹脂フィルムと水にパルス状紫外光を照射したときに生成するフッ化水素酸濃度のレーザパルス依存性を示すグラフ。
【図6】各種フッ素樹脂粉体と水にパルス状紫外光を照射したときに生成するフッ化水素酸濃度のレーザパルス依存性を示すグラフ。
【符号の説明】
11…回転台
11a…回転軸
12…フッ素樹脂層
13…光学部品
14…水の薄液層
15…水滴下手段
16…紫外光源
17…紫外光
18…ミラー
19…マスク
20…重り部材
31…磨き部材
Claims (15)
- 光学部品の被研磨面とフッ素樹脂との間に水を介挿させた状態で、該光学部品の被研磨面と水とフッ素樹脂に紫外光を光学部品側から入射させる場合は除き、紫外光を入射しながら、あるいは光学部品の被研磨面が予め荒ずり研磨された場合に限り、紫外光を光学部品側からも入射させ、光学部品とフッ素樹脂を相対的に摺動させて該光学部品の被研磨面を研磨することを特徴とする光学部品の研磨方法。
- フッ素樹脂が載置部材上に置かれていることを特徴とする請求項1に記載の光学部品の研磨方法。
- 光学部品が、合成石英、結晶石英、サファイア、フッ化リチュウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、フッ化ナトリウム、フッ化マグネシウムまたは光学ガラスで構成されていることを特徴とする請求項1ないし2のいずれか1項に記載の光学部品の研磨方法。
- フッ素樹脂が、フイルムまたは板の形状にあることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の光学部品の研磨方法。
- フッ素樹脂が粉体であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の光学部品の研磨方法。
- 紫外光が、ArFエキシマレーザ光、KrFエキシマレーザ光、非線形素子による高調波レーザ光、エキシマランプ光、水銀ランプ光、Xeランプ光、重水素ランプ光、ハロゲンランプ光、またはガスのアーク、コロナもしくは無声放電により得られる紫外光であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の光学部品の研磨方法。
- 光学部品が、紫外光透過性であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の光学部品の研磨方法。
- 載置部材が、紫外光透過性である請求項2ないし6のいずれか1項に記載の光学部品の研磨方法。
- 紫外光を載置部材の裏側から入射させることを特徴とする請求項8に記載の光学部品の研磨方法。
- 水に予めHFを添加することを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載の光学部品の研磨方法。
- 炭化ケイ素からなる光学部品の被研磨面とフッ素樹脂との間に過酸化水素水を介挿させた状態で、該光学部品の被研磨面と過酸化水素水とフッ素樹脂に紫外光を入射しながら、光学部品とフッ素樹脂を相対的に摺動させて該光学部品の被研磨面を研磨することを特徴とする光学部品の研磨方法。
- フッ素樹脂が、フイルムまたは板の形状にあることを特徴とする請求項11に記載の光学部品の研磨方法。
- フッ素樹脂が粉体であることを特徴とする請求項11に記載の光学部品の研磨方法。
- 紫外光が、ArFエキシマレーザ光、KrFエキシマレーザ光であることを特徴とする請求項11ないし13のいずれか1項に記載の光学部品の研磨方法。
- 過酸化水素水に予めHFを添加することを特徴とする請求項11ないし14のいずれか1項に記載の光学部品の研磨方法。
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