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JP4389302B2 - オフセット印刷用紙 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、インク着肉性が改善された印刷用紙であり、特に粘着性の異物を含有しているにもかかわらず表面粘着性、粘着メクレ等の粘着トラブルが少なく、さらにリサイクルした場合、排水中の化学的酸素要求量(COD)負荷の少ないオフセット印刷用紙に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、印刷技術は、オフセット印刷化、カラー印刷化、高速大量印刷化、自動化など大きな進歩を遂げてきている。これに伴い、印刷用紙に対しても、作業性、印刷適性の面から各種の物性の改良が求められている。
【0003】
特に、新聞印刷用紙(新聞用紙、新聞巻取紙)は、一般的に、機械パルプや脱墨パルプ(以下、「脱墨パルプ」を「DIP」と略す。)を主体とする紙であり、中・下級紙に分類される紙でありながら、他方では、指定された時間帯の指定された時間内に、指定された部数を確実に印刷する必要があり、一般印刷用紙以上に厳しい品質を要求される紙である。従って、新聞印刷用紙は、特殊な紙であり、紙の分類上も独自な分類がされている。最近の新聞印刷用紙は、軽量化、DIPの高配合化などが求められており、これらの点によるマイナス面を克服しながら、各種の改良を行う必要がある。このように、新聞印刷用紙の改良は、一般の上質系印刷用紙と比較して困難である。そのため、一般印刷用紙の技術を、新聞印刷用紙の技術に直接転用することは困難である。しかしながら、逆に、新聞印刷用紙の技術を一般印刷用紙の技術に転用するのは、比較的容易である。そこで、以下に、オフセット印刷用紙としての問題点と改良を新聞印刷用紙について述べる。
【0004】
新聞印刷についても、近年、印刷の高速化の要求、カラー紙面の要求、多品種印刷の要求、自動化の要求などの点から、新聞印刷へのコンピューターシステム導入と相まって、凸版印刷からオフセット印刷への転換が急速に進んできている。
【0005】
オフセット印刷用の新聞印刷用紙は、凸版印刷用の新聞印刷用紙とは異なった品質が要求されている。例えば、1)表面粘着性が小さいこと、2)ブランケットに紙粉の堆積が少ないこと、3)吸水抵抗性が適度に保たれていること、4)湿潤強度があり、水切れなどが少ないこと、5)印刷インクのセット性が適度であること、6)不透明性が高く、裏移りしないこと、7)摩擦係数が適度であることなどの品質である。要求されている品質の中でも、特に、1)表面粘着性の低下、及び2)紙粉対策としての表面強度の向上などは重要な課題となっている。
【0006】
すなわち、機械パルプやDIPの含有率の高い新聞印刷用紙は、機械パルプの含有率が低く、広葉樹晒クラフトパルプ(以下、LBKPと略す。)の含有率が高い一般印刷用紙とは異なり、微細化した繊維が多く、紙粉の問題が発生しやすい。また、機械パルプの微細化した繊維同士の結合力は弱く、その上紙表面の状態は粗になるので、紙表面から紙粉が脱落して印刷時にブランケットに紙粉が堆積し易くなる。
【0007】
また、DIPの高配合化は、DIP由来の微細繊維、填料、顔料の増加を招き、軽量化と相まって、紙粉の増加、紙力の低下などの問題が生じる。さらに、雑誌古紙から製造されたDIPには雑誌の背糊として使用されるホットメルト接着剤、アクリル系接着剤、酢酸ビニル系接着剤等から成る粘着物が含まれている。この粘着物が多量に紙表面に存在すると、抄紙機や印刷機を紙が通過する際、紙と接するカンバス、ベルト、ロール表面などと接着し、断紙や紙に穴あきのトラブル(粘着トラブル)が発生する。特に、スチールベルトを巻取り表面に接触させて用紙の走行性を制御するタイプのオフセット輪転印刷機では、この傾向が顕著であり、スチールベルトに紙表面が接着するために断紙や穴あきのトラブル(粘着メクレ)が発生する。
【0008】
この粘着メクレを抑制するために考えられる手段として、原料から粘着物の除去や微分散、原料配合の変更、抄紙条件の変更、表面処理剤の塗工が考えられる。しかし、現在のところ、遠心処理とクリーナ処理や機械的な分散では十分な除去あるいは分散ができない。また、原料配合や抄紙条件の変更は粘着メクレに対する効果はほとんど得られなかった。
【0009】
一方、表面強度の改善策として、澱粉、化工澱粉(酸化澱粉、澱粉誘導体など)、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコールなどの水溶性有機高分子から成る表面処理剤を、新聞印刷用紙原紙に塗工(外添)する方法が知られているが、この方法で粘着メクレを抑制するには表面処理剤を多量に塗工する必要があり、そうすると、オフセット印刷時あるいは製造時には湿し水の影響で表面処理剤による粘着性(いわゆる「ネッパリ」と呼ばれる現象)が増加し、全く実用的ではなかった。
【0010】
特に近年新聞印刷において進展しているフルカラー印刷に用いられるオフセット印刷機は、紙表面を4回も湿し水で湿潤するために、ネッパリの問題は一層顕著であり、藍−赤−黄のカラー印刷後に墨インキが着肉不良となる現象、すなわちウェットのインク着肉性の不良が生じ易い。
【0011】
また、表面処理剤をゲートロールコーターのようなフィルム転写方式で塗工を行った場合、2本ロールサイズプレスと比較すると表面処理剤が紙の表面に局在するために、ネッパリ問題は、より顕著で、深刻な問題であった。
【0012】
この点に関して、表面処理剤に添加して剥離性を改善するような粘着防止剤が開示されており、特開平6-57688号公報には有機フルオロ化合物から成る粘着防止剤が、特開平6-192995号公報には置換コハク酸及び/または置換コハク酸誘導体を有効成分とする粘着防止剤が開示されている。
【0013】
また、サンノプコ(株)は製紙工業のピッチ、粘着物対策として炭酸ジルコニウムアンモニウムの応用を紹介している(紙パ技協誌、VOL.52,NO.2,PAGE.184-191,1998)。その特徴は金属イオンを利用し、カルボキシル基や水酸基と優れた架橋反応性があり、ピッチ、ラテックス等の有する官能基と反応して粘着性を低下させるものである。さらに、HALL J D等はにおいて粒径が150ミクロン以下の微小な粘着物は機械的な方法ではほとんど除去することは不可能であり、粘着物を析出・塊状化させないようにすることが必要で、カチオン系および非イオン系のポリマーの使用が有効であるが制約もあることを記載している(TAPPI Proc. Recycl Symp. 1998,PAGE.73-77,1998)。
【0014】
特開平5-59689号公報、特開平5-295693号公報には、ポリビニルアルコールとポリエーテル化合物から成る紙用サイジング剤が開示されている。特に、特開平5-59689号公報には、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのブロック共重合体とポリビニルアルコールから成る組成物を新聞印刷用紙原紙に塗布すると、表面強度が改良され、かつオフセット印刷時の粘着性の低い新聞印刷用紙が得られることが開示されている。これらの表面処理剤は、澱粉類やポリビニルアルコールを単独で塗工した場合に比べて、紙面の粘着性すなわちネッパリをある程度改善することが可能であるが、粘着メクレの改善には効果がなく、ウェットのインク着肉性についても改善することはできなかった。
【0015】
従って、従来の表面処理剤をゲートロールコーターのようなフィルム転写方式によって塗工する場合、オフセット印刷時のインクの着肉不良や表面粘着性(ネッパリ)を改善することは困難であり、また、原料及び内添の工程から粘着物が紙面に混入した場合に粘着メクレ等のトラブルを防止することは極めて困難であった。
【0016】
加うるに、水溶性有機高分子から成る表面処理剤はリサイクル工程で排水中に溶出し、排水の化学的酸素要求量(以下CODと略す)負荷及び生物学的酸素要求量(以下BODと略す)負荷を増大させる。この溶出した表面処理剤は微生物の栄養源となるので、スライムの発現を促進し、さらにスライム、填料及び疎水成分が複合化した粒子となる可能性があるなど新たなる問題を生ずる。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明では、粘着物を含むDIPを含有するにもかかわらず、十分な表面強度を有し、表面粘着性(ネッパリ)及び粘着メクレが改善され、かつインク着肉性の優れたオフセット印刷用紙、さらにリサイクル工程の排水中のCOD負荷が少ないオフセット印刷用紙の提供を課題とした。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、印刷用原紙に、シリカゾルまたはコロイダルシリカ(成分A)を主体とする無機系表面処理剤を塗工することにより、粘着メクレ、インク着肉性及びネッパリが改善されることを見出し、上記課題を解決した。また、成分Aに加えて、無機顔料(成分B)を加えることにより、不透明度をも同時に向上させることが可能となることを見出した。
【0019】
コロイダルアルミナあるいはコロイダルシリカ、シリカゾルを表面処理剤として使用した例としては、特開平4-12879号公報に、合成樹脂フィルム等の各種印刷対象物にコロイダルアルミナ100重量部に対して5重量部以下の界面活性剤を添加した水分散体を塗布して印刷することが開示されている。特開平4-327297号公報には、ウイスカーと共にコロイダルアルミナ及びコロイダルシリカを配合した防滑剤が開示されている。特開平6-48022号公報には、ノーカーボン複写用紙のトナーの定着を向上させるために、無機コロイドのコーティング組成物としてコロイダルアルミナ及びシリカゾルが記載されている。特開平10-131091号公報には、シリカゾルまたはコロイダルシリカ、とバインダーを主成分とする塗工層を設けた電気凝固印刷用の新聞用紙が記載されている。さらに、段ボール用板紙の摩擦係数を増加させて滑りを防止するために、コロイダルシリカを用いることが、井上らによって述べられている(M.Inoue,N.gurunagul,and P.Aroca,Tappi Journal,72(12),81-85,1990)。同様に、C.H.フレッチャーはコロイダルシリカを紙の摩擦増加材料として用いることを”コロイダルシリカの利用による滑り防止処理”と題する報告の中で論じている(C.H.Fletcher,Tappi Journal 1973,56(8),81-85参照)。
【0020】
この他、コロイダルシリカを紙料に添加することによって抄紙時の填料及び微細繊維の歩留まりが向上することが記載されている文献が多くある。しかしながら、前述の公知文献中には、印刷用紙、特に新聞印刷用紙においてシリカゾルを主体とする無機系表面処理剤を塗工することにより、粘着メクレおよび表面粘着性(ネッパリ)を改善し、かつオフセット印刷時のインク着肉性を改善することを目的とした記載は見られない。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明するが、説明は本発明が最も有効に作用する新聞印刷用紙を例として記載した。
【0022】
本発明の無機系表面処理剤で用いられる成分Aは、通常、無水ケイ酸を30〜40%含有し、酸化ナトリウムとして換算したナトリウムの含有率は1%以下で、pHは9.5〜10.5のコロイダリシリカ、あるいはシリカゾルである。無水ケイ酸は水分散液中でSiO2・XH2Oの形であり、粒径4〜100nmの超微粒子であり、形状は球形及び線状のものがある。粒径が非常に小さいので紙層中に容易に浸透するとともに、シリカ微粒子同士及びシリカ微粒子とパルプとの吸着力あるいは付着力が強い。このシリカゾルを主体とする無機系表面処理剤を印刷用紙原紙に塗工することによって、従来の水溶性高分子化合物の塗工に比べオフセット印刷時の湿し水によって表面粘着性(ネッパリ)が顕著に低下する。これは、一度乾燥されたシリカから成る無機系表面処理剤は、有機高分子とは異なり、水によって溶解あるいは膨潤することがないためである。また、印刷用原紙に粘着物が含有されていても、シリカから成る被膜によって粘着物が被覆されるため、粘着メクレが抑制されると考えられる。
【0023】
本発明の無機系表面処理剤で用いられる成分Bは、通常製紙用の填料、顔料として使用される炭酸カルシウム、カオリン、クレー、タルク、シリカ、ホワイトカーボン、酸化チタン等の無機顔料である。酸化チタンとしては、製紙用あるいはコンデンサー用で通常使用される、比重3.8〜4.2程度の酸化チタン及び水和酸化チタンが好ましい。結晶の形態は、ルチル型あるいはアナタース型のいずれもが使用できる。
【0024】
成分Aに対する成分Bの配合量は、成分Aの種類、原紙の組成、原紙中の内添剤の量と種類等により変動するが、成分Aに対して20〜50重量%添加するのが好ましい。成分Aに対して20〜50重量%の範囲で配合することによって、印刷用紙の不透明性及び表面粘着性のバランスを適当なものとすることができる。
【0025】
本発明の無機系表面処理剤は、表面粘着性を悪化させない範囲で無機系の材料や極少量の有機系の材料を混合してもよいが、有機系の材料の使用はCOD負荷の増加を招くので、最小限に止めるべきである。
【0026】
本発明で用いる新聞印刷用紙原紙は、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、セミケミカルパルプなどのメカニカルパルプ(MP)、クラフトパルプ(KP)に代表されるケミカルパルプ(CP)及びこれらのパルプを含む故紙を脱墨して得られる脱墨パルプ(DIP)あるいは抄紙工程からの損紙を離解して得られる回収パルプなどを、単独、あるいは任意の比率で混合したものである。本発明の効果が顕著なのは、坪量37g/m2〜43g/m2に抄造した原紙である。坪量46g/m2以上の原紙の場合、その原紙は、表面強度を十分に持っていると考えられ、また、オフセット印刷時における湿し水に起因する用紙の寸法変化、あるいは強度低下も無視できる程度であると考えられるので、必ずしも、薬品の外添により表面強度を改良する必要はない。
【0027】
一方、本発明で用いる原紙のDIPの配合率については、任意の範囲(0〜100重量%)で配合すればよい。最近のDIP高配合化の流れからすると、全パルプ成分当たり30〜100重量%の範囲がより好ましい。特に、DIPを70重量%以上配合した原紙に対して、本発明は有効である。前述したように、粘着物を含む雑誌故紙等から製造されるDIPも使用することが可能である。
【0028】
この新聞印刷用紙原紙は、填料としてホワイトカーボン、クレー、カオリン、シリカ、タルク、酸化チタン、炭酸カルシウムなどの無機填料、あるいは合成樹脂(塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、尿素ホルマリン樹脂、メラミン系樹脂、スチレン/ブタジエン系共重合体系樹脂など)などから製造される有機填料を内添できる。特に中性抄紙には、炭酸カルシウムが有効である。
【0029】
また、必要に応じて、ポリアクリルアミド系高分子、ポリビニルアルコール系高分子、カチオン化澱粉、尿素/ホルマリン樹脂、メラミン/ホルマリン樹脂などの紙力増強剤;アクリルアミド/アミノメチルアクリルアミドの共重合物の塩、カチオン化澱粉、ポリエチレンイミン、ポリエチレンオキサイド、アクリルアミド/アクリル酸ナトリウム共重合物などのろ水性あるいは歩留まり向上剤;強化ロジンサイズ剤(ロジンに無水マレイン酸、あるいは無水フマル酸を付加させて部分マレイン化、もしくはフマル化ロジンとし、アルカリで完全けん化して溶液としたもの)、エマルジョンサイズ剤(部分マレイン化、あるいはフマル化ロジンを、ロジン石鹸、あるいは各種界面活性剤を乳化剤として用い、水に分散させたもの)、合成サイズ剤(ナフサ留分から得られるC3〜C10留分を共重合した石油樹脂を用いたサイズ剤)、反応性サイズ剤(AKD、アルケニルコハク酸無水物)などのサイズ剤;硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、耐水化剤、紫外線防止剤、退色防止剤などの助剤などを含有してもよい。リサイクル性を考慮すると、可能な限りCOD負荷を減少できる助剤が好ましい。この原紙の物性は、オフセット印刷機で印刷できるものである必要があり、通常の新聞印刷用紙程度の引張り強度、引裂き強度、伸びなどの物性を有するものであればよい。
【0030】
また、本発明の新聞印刷用紙原紙は、酸性の新聞印刷用原紙であってもよいし、中性あるいはアルカリ性の新聞印刷用原紙であってもよい。
【0031】
本発明の無機系表面処理剤の塗工量は、製造される印刷用紙に対して求められる表面強度付与の程度に応じて決定されるべきであり、特に限定されるものではないが、表面強度付与の観点からすれば、本発明の表面処理剤は、その塗工量(言い換えれば、成分A及び成分Bの固形分量の合計)が0.1〜1.0g/m2(両面当たり)の範囲で、有効にその効果を発揮する。塗工量が0.1g/m2未満では、インク着肉性の改善、紙粉の脱落防止や紙表面の粘着物に対する粘着性低下効果が不十分である。他方、塗工量を1.0g/m2より多くしても、粘着性低下の効果は頭打ちとなり、乾燥負荷の増大等によりコスト的にも不経済である。新聞印刷用紙への適用を考えた場合、前述したように、無機系表面処理剤のみで表面強度と粘着性をバランスよく改良することが望ましく、この2者を総合的に考慮すれば、本発明の組成物の塗工量は、0.3〜1.0g/m2(両面当たり)の範囲が最も望ましい。
【0032】
本発明の新聞印刷用紙は、新聞印刷用紙原紙の片面、あるいは両面に本発明の無機系表面処理剤を含む塗工液を塗工機により塗工することにより製造される。塗工機として、ゲートロールコーター、ブレードメタリングコーター、ロッドメタリングコーターなどの被膜転写型のコーターを用いて塗工することが好ましく、特に、ゲートロールコーターを用いる時、その効果が大きい。すなわち、前述したように、従来用いられている表面処理剤は、ゲートロールコーターでは、十分な表面強度を持たせると粘着性に問題が生ずるものであったが、本発明の表面処理剤は、この方式でも、前述の塗工量の範囲で、塗工速度600〜1800m/分の範囲でオンマシーン塗工することにより効率よく表面強度とともに、表面粘着性をも改善することが可能である。
【0033】
新聞印刷用紙の場合、用紙の表面の平滑度は低く、外添(特に、ゲートロールコーター方式)により、低塗工量領域では、用紙表面に無機的なバリヤー層を設けることが困難であるとされてきた。しかしながら、本発明の無機系表面処理剤は、抄紙速度600〜1800m/分と高速の抄紙速度で、かつ比較的低塗工量でも、粘着性の少ない表面強度及びインク着肉性付与効果が認められるという優れた特徴がある。
【0034】
本発明の無機系表面処理剤を塗工した新聞印刷用紙は、摩擦係数の低下は認められない。従って、特に防滑剤を配合させる必要はない。新聞印刷用紙に適用した場合、製造される新聞印刷用紙の動摩擦係数は、0.40〜0.70の範囲にあることが望ましい。
【0035】
本発明の無機系表面処理剤を塗工した新聞印刷用紙は、表面強度を広い範囲でコントロールすることが可能なので、印刷時に使用する各種インクに幅広く対応することができる。例えば、油性インク中に湿し水を混入させたエマルジョンインクなどの特殊インク、水なし平版用のタック性の高いインクなどへの対応も可能である。
【0036】
前述したように、新聞印刷用紙の改良は、一般の上質系印刷用紙と比較して困難である。そのため、一般印刷用紙用の技術を、新聞印刷用紙用の技術に直接転用することは困難であるが、逆に、新聞印刷用紙用の技術を一般印刷用紙用の技術に転用するのは、比較的容易である。それ故、本発明の無機系表面処理剤は、新聞印刷用紙に限らず、一般印刷用紙に適応することも可能であり、新聞印刷用紙の場合と、同様な効果を得ることができる。
【0037】
【実施例】
以下、本発明を、実施例及び比較例に従って、詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、説明中、部及びパーセントは、それぞれ重量部及び重量パーセントを示す。
【0038】
<塗布液の調製:成分A>
本発明の成分Aに該当するシリカゾル水溶液を所定の濃度に希釈することにより、本発明の無機系表面処理剤を調製した。希釈した時に、エマルジョン化したり、不溶性の沈殿物を生じる塗布液は、ゲートロール塗工を行う際に好ましくない。また、塗布液が繰り返し長時間ロールを通過している間に懸濁化するものも好ましくない。そこで、成分Aを所定の濃度にした溶液を、マローンテスト機(熊谷理機社製)を用いて機械的シェアー(1000回転、30分)を掛けガムアップテストを行ったところ、ガムアップは全く見られなかった。従って、本発明のシリカゾルを含む無機系表面処理剤はゲートロール塗工液として優れた適性を有するものであった。
【0039】
<新聞印刷用紙原紙の製造>
DIP(脱墨パルプ)35部、TMP(サーモメカニカルパルプ)30部、GP(グランドパルプ)20部、KP(クラフトパルプ)15部の割合で混合離解し、フリーネスを200mlに調製した混合パルプをベルベフォーマー型抄紙機にて、抄紙速度1100m/分〜1200m/分で抄紙し、未サイズ、ノーカレンダーの新聞印刷用紙原紙を得た。この原紙は、坪量43g/m2、密度0.65g/cm3、白色度51%、平滑度60秒、静摩擦係数0.45、動摩擦係数0.56であり、一般の新聞印刷用紙と同等の原紙であった。また、この原紙は、内添サイズ剤を含まず、吸水抵抗性は、点滴吸水度法で5〜7秒であった。
【0040】
参考例1〜3]
成分Aとしてシリカゾル(商品名:スノーテックス40、日産化学工業製)水溶液を濃度5.0%、10.0%、23.6%(固形分重量%)となるように希釈した3種類の塗工液を調製した。これらの塗工液を前述の新聞印刷用紙原紙のF面に、ゲートロールコーターを用いて、塗工速度300m/分で塗工した。塗布後、スーパーカレンダー処理を行い、塗工量を変えた3種類の新聞印刷用紙を製造した。この新聞印刷用紙について、塗工量、剥離強度、インク着肉性、静摩擦係数、動摩擦係数、CODを下記に示す方法で測定し、結果を表2に示した。
【0041】
・塗工量の測定:シリカゾルの塗工量はアプリケータロール上の液膜の厚さを1.2ミクロンとして計算し、転移率を95%として計算した。澱粉の場合の塗工量は、10cm×10cmの試料を裁断し、蒸留水50ml中に加え、沸騰湯浴中で1時間保持し、澱粉の抽出を行った。濾過後、濾液を100mlに希釈し、その中の10mlをサンプリングし、澱粉の場合は、2N−塩酸2.5ml、ヨウ化カリウム/ヨウ素溶液2.5mlを加え、全量を50mlに希釈する。580nmの吸光度を測定し、予め作成した検量線より澱粉量を算出した。ポリアクリルアミドの場合は、ケルダール法により含有窒素量を求め、換算した。
・表面強度の測定:アポロ印刷機で1万部印刷し、ブランケットの非画線部に堆積した紙粉の量を目視にて評価した。
評価基準;
:紙粉の発生が僅かに認められるが、実用上問題がない。
:紙粉の発生が明確に認められる。
×:紙粉が堆積し、ブンランケットの非画線部が白く見える。
・剥離強度の測定:新聞印刷用紙を4×6cmに2枚切り取り、塗工面を温度20℃の水に5秒間浸せき後、塗工面同士を密着させた。外側両面に新聞印刷用紙原紙を重ね、50kg/cmの圧力でロールに通し、25℃、60%RHで24時間調湿した。3×6cmの試料片とした後、引っ張り試験機で、引っ張り速度30mm/分の条件で測定を行った。初期の剥離強度の高い値をピーク値とした。次に安定した剥離強度の値を安定値とした。剥離強度の測定値が大きいほど、剥がれにくい(逆の言い方をすると、粘着性が強い)ことを意味する。本発明の新聞印刷用紙では、剥離強度の安定値で評価を行い、剥離強度の安定値が15.0gf/3cm以下のものを、”剥離性が良好である、即ち表面粘着性が少なない”とした。
・インク着肉性の評価:プリュフバウ印刷試験機を使用して、インク:News king 墨HM、湿し水量:80μl、印圧:125N/cm、印刷速度:湿し水部3m/秒、印刷部6.8m/秒(湿し水塗布からインクが転移するまでの時間は0.15秒である。)の条件で印刷を行い、湿し水を付着させない場合(ドライ)及び湿し水を付着させた場合(ウェット)の印面濃度をマクベス濃度計で測定し、インクの着肉性を評価した。
・CODの測定:JIS K 0101 ”17.100℃における過マンガン酸カリウムによる酸素消費量(CODMn)”に従い、新聞印刷用紙43gを1kgの水に再離解し、濾液のCODを測定した。
【0042】
[比較例1]
参考例1で使用した新聞印刷用原紙についてスーパーカレンダー処理を行い、塗工量、剥離強度、インク着肉性、静摩擦係数、動摩擦係数、CODを測定し、結果を表2に示した。
【0043】
[比較例2]
参考例1で使用したシリカゾルの代わりにポリアクリルアミド(商品名:P−120、星光化学製)の10%水溶液を、F面に、ゲートロールコーターを用いて、塗工速度300m/分で塗工した。塗工後、スーパーカレンダー処理を行い、新聞印刷用紙を得た。この新聞印刷用紙について、塗工量、剥離強度、インク着肉性、静摩擦係数、動摩擦係数、CODを測定し、結果を表2に示した。
【0044】
[比較例3]
参考例1で使用したシリカゾルの代わりに酸化澱粉(商品名:SK−20、日本コーンスターチ製)の10%水溶液を、新聞印刷用紙原紙のF面にゲートロールコーターを用いて、塗工速度300m/分で塗工した。塗工後、スーパーカレンダー処理を行い、新聞印刷用紙を得た。この新聞印刷用紙について、塗工量、剥離強度、インク着肉性、静摩擦係数、動摩擦係数、CODを測定し、結果を表2に示した。
【0045】
【表1】
Figure 0004389302
参考例1〜3の新聞印刷用紙の表面強度は実用上問題はなかった。新聞印刷用紙の着肉テストの結果は表2に示すように湿し水を付着させない(ドライ)で印刷を行った時の印面濃度と湿し水を付着させて(ウェット)印刷を行った時の印面濃度の差は小さく、ウエットのインク着肉性が向上した。また、参考例1〜3のプリュフバウによる水付着後のウエットインク着肉性は、比較例1〜3に比較して高いレベルであった。参考例1〜3の新聞印刷用紙は粘着性を示さず、剥離強度を測定できなかった。また、静摩擦係数及び動摩擦係数は向上した。また、これら新聞印刷用紙のインク着肉テストの結果に基づいてシリカゾルを主成分とした表面処理剤(チタンなど他の無機材料を含む)は極めて印刷操業性の面で優れていることが実証された。参考例1〜3の新聞印刷用紙のろ過液のCODを測定したところ、比較例1とほぼ同じで、塗工量に相当するCOD値が増加しなかった。つまり、リサイクルした場合、排水のCOD負荷が増加しなかった。これに対して、比較例1〜3の新聞印刷用紙については、湿し水を付着させない(ドライ)で印刷を行った時の印面濃度と湿し水を付着させて(ウェット)印刷を行った時の印面濃度との差が大きく、ウェットのインキ着肉性が劣っていた。比較例1〜3の新聞印刷用紙のろ過液のCODを測定したところ、塗工量に相当するCOD値が増加した。つまり、リサイクルした場合、排水中のCOD負荷が増加した。また、比較例1の非塗工の新聞印刷用紙のウエット着肉性は良いが、表面強度が弱く、ロングラン印刷時に紙粉の脱落量が多く、実用できるものではなった。
【0046】
参考例4]
成分Aとして10%コロイダルシリカ水溶液(商品名:スノーテックス40、日産化学工業製)、成分Bとして酸化チタン(商品名:タイペ−クW−10、石原産業製、X線粒径150nm)を予め固形分として1:1の比率で混合した分散液を作製し、希釈して成分A、Bの2者を含む固形分濃度6%の塗工液を調製した。得られた塗工液を、前述の新聞印刷用紙原紙のF面に、プレーンのメイヤーバーを用いて、塗工した。塗工後、スーパーカレンダー処理を行い、新聞印刷用紙を製造し、塗工量、剥離強度、不透明度を測定し、表3に示した。不透明度の測定はJIS P 8138−1976に従った。
【0047】
参考例5]
成分Aとして10%シリカゾル水溶液(商品名:スノーテックス40、日産化学工業製)、成分Bとして軽質炭酸カルシウム(商品名:ブリリアント15、白石工業製)を予め固形分として1:1の比率で混合した分散液を作製し、希釈して成分A、Bの2者を含む固形分濃度6%の塗工液を調製した。得られた塗工液を、前述の新聞印刷用紙原紙のF面に、プレーンのメイヤーバーを用いて、塗工した。塗工後、スーパーカレンダー処理を行い、新聞印刷用紙を製造し、塗工量、剥離強度、不透明度を測定し、表3に示した。
【0048】
参考例6]
成分Aとして10%シリカゾル水溶液(商品名:スノーテックス40、日産化学工業製)、成分Bとしてホワイトカーボン(商品名:ニップルE−75、日本シリカ製)を予め固形分として1:1の比率で混合した分散液を作製し、希釈して成分A、Bの2者を含む固形分濃度6%の塗工液を調製した。得られた塗工液を、前述の新聞印刷用紙原紙のF面に、プレーンのメイヤーバーを用いて、塗工した。塗工後、スーパーカレンダー処理を行い、新聞印刷用紙を製造し、塗工量、剥離強度、不透明度を測定し、表3に示した。
【0049】
[比較例4]
参考例1で使用した新聞印刷用原紙についてスーパーカレンダー処理を行い、剥離強度、不透明度を測定し、表3に示した。
【0050】
[比較例5]
参考例1で使用した新聞印刷用原紙について、濃度6%のシリカゾル水溶液(商品名:スノーテックス40、日産化学工業製)を前述の新聞印刷用紙原紙のF面に、プレーンのメイヤーバーを用いて、塗布した。塗工後、スーパーカレンダー処理を行い、塗工量、剥離強度、不透明度を測定し、表3に示した。
【0051】
【表2】
Figure 0004389302
表2に示したように、シリカゾルと無機顔料から成る表面処理剤を塗工した参考例4〜6の新聞印刷用紙は、粘着性を全く示さないので剥離強度は測定することができず、非常に少ない塗工量にもかかわらず不透明度の向上が認められた。一方、比較例5のシリカゾルのみから成る表面処理剤を塗工した新聞印刷用紙は粘着性を全く示さないが、比較例4と比べて明らかなように不透明度の向上は認められなかった。
【0052】
<粘着メクレ防止性の評価>
本発明の表面処理剤が粘着剤に対しどの程度粘着メクレの防止効果を有するものかを示すために以下の実験を行った。上述の新聞印刷用紙原紙に、粘着性材料として雑誌の背糊として通常使用されるアクリル系接着剤(商品名:PZ−804、サイデン化学製)と酢酸ビニル系接着剤(商品名:GH−451、サイデン化学製)をプレーン・バーを使用して、塗工量1.5g/m2となるようにそれぞれ塗工した。この2種類の接着剤を塗工した新聞印刷用紙原紙の接着剤塗工面に再度、プレーン・バーを使用してシリカゾル(商品名:スノーテックス40、日産化学工業製)水溶液を塗工量0.1g/m2、及び0.5g/m2となるように塗工した新聞印刷用紙を作製した。比較のため、接着剤塗工面に何も塗工しなかったもの、及び酸化澱粉(商品名:SK−20、日本コーンスターチ製)水溶液をプレーン・バーを使用して塗工量0.5g/m2となるように塗工した新聞印刷用紙を作製し、これらの新聞印刷用紙の塗工面同士を50kg/m2の圧力でロールに通して接着させた。試料片を3×6cmとし、引っ張り試験機を用いて、引っ張り速度30mm/分の条件で剥離強度を測定し、剥離強度の安定値を表3に示した。
【0053】
【表3】
Figure 0004389302
表3に示すように、シリカゾルを塗布した新聞印刷用紙は粘着性を示さないので剥離強度を測定することが不可能であった。すなわち、粘着物を多量に含む紙であっても粘着メクレの発生を抑制できるものであった。
【0054】
【発明の効果】
シリカゾルを主体とする無機系の表面処理剤によって、剥離強度(ネッパリ)を抑制し、インク着肉性を改善した新聞印刷用紙が得られた。本発明の無機系のみの表面処理剤をゲートロールコーターで塗工することにより、インク着肉性および剥離性をバランスよく有した印刷用紙を得ることが可能となった。特に、新聞印刷用紙においては、連続高速オフセット印刷に適したものが得られる。さらにDIP中に混入したアクリル系、酢酸ビニル系及びホットメルト系の背糊が原因の粘着異物の粘着性を大幅に緩和、または消失させ、リサイクルした場合の塗工剤が無機成分のみであるので排水のCOD負荷の少ない結果が得られる。また、本発明の無機系表面処理剤の塗工量、配合比、材料の種類などを任意に変えることにより、幅広い品種に対応することも容易である。

Claims (3)

  1. 全パルプ成分当たり脱墨パルプを70重量%以上含有するオフセット印刷用原紙に、シリカゾルまたはコロイダルシリカ(成分A)と水とからなる無機系表面処理剤を塗工したオフセット印刷用紙であって、前記オフセット印刷用原紙が坪量37g/m 〜43g/m の範囲の新聞用紙原紙であるオフセット印刷用紙
  2. 前記無機系表面処理剤がさらに無機顔料(成分B)を含有し、かつ成分Aに対する成分Bの添加比率が5〜50重量%である請求項1記載のオフセット印刷用紙。
  3. スチールベルトを有するオフセット輪転印刷機に使用される請求項1または2記載のオフセット印刷用紙。
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