JP4388148B2 - グリコリドの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、グリコリドの製造方法に関し、さらに詳しくは、ポリグリコール酸を固相解重合するグリコリドの製造方法に関する。本発明の方法により得られるグリコリドは、生分解性ポリマーや医療用ポリマーとして有用なポリグリコール酸の出発原料(モノマー)として使用することができる。本発明の方法は、ポリグリコール酸からなる製品や成形屑などのケミカルリサイクルの手法としても有用である。
【0002】
【従来の技術】
ポリグリコール酸は、生体吸収性の縫合糸などとして、医療分野で実用化されている高分子材料である(米国特許第3,297,033号)。また、ポリグリコール酸は、生分解性ポリマーであるため、近年のプラスチック廃棄物処理問題の解決に寄与することが期待されている。
従来、ポリグリコール酸は、一般に、モノマーとしてグリコリド(グリコール酸の環状二量体エステル)を使用し、これを開環重合することにより製造されてきた(米国特許第2,668,162号、POLYMER,1979,Vol.20,December,p.1459−1464)。ところが、高純度のグリコリドを効率よく、工業的規模で大量生産することは、極めて困難であった。
【0003】
従来より、グリコリドの製造方法として、各種の方法が提案されている。例えば、米国特許第2,668,162号には、低分子量のポリグリコール酸を粉末状に砕いてから、極少量づつを反応器に供給(約20g/h)し、減圧下(12〜15torr)で270〜285℃の高温に加熱して解重合させ、揮発してきたグリコリドをトラップ内で捕集する方法が記載されている。この方法は、実験室規模の小スケールで実施することは可能であるものの、工業的規模へのスケールアップは困難であり、量産化に適した方法ではない。しかも、この方法では、加熱時にポリグリコール酸が重質物化し、それが多量の残渣として反応器内に残るため、グリコリドの収率が低下することに加えて、反応器内に強固に付着した残渣のクリーニングが煩雑である。
【0004】
米国特許第4,727,163号には、多量のポリエーテルを基体(substrate)とし、それに少量のグリコール酸をブロック共重合させて共重合体とした後、該共重合体を加熱して解重合することにより、グリコリドを得る方法が開示されている。しかし、このブロック共重合プロセスは、操作が煩雑で、コストが高くなりすぎる。しかも、この方法では、多量の重質化物が残渣として残るため、グリコリドの収率が低く、反応缶内のクリーニングも煩雑である。
米国特許第4,835,293号には、グリコール酸プレポリマーを加熱して融液となし、該融液の表面に窒素ガスを吹き込んで表面積をある程度押し広げ、その表面から生成し揮発するグリコリドを、窒素ガスの気流に同伴させて回収する方法が開示されている。しかし、この方法は、多量の重質化物が残渣として残るため、グリコリドの収率が低く、反応缶内のクリーニングも煩雑である。
【0005】
米国特許第5,326,887号及びWO92/15572A1には、グリコール酸オリゴマーを固定床触媒上で加熱して解重合することにより、グリコリドを得る方法が開示されている。この方法は、加熱時にかなりの量の重質化物が生成し、残渣として残るため、グリコリドの収率が低く、固定床のクリーニングも煩雑である。
これら従来の方法は、いずれも原理的には、固体状態の低分子量ポリグリコール酸を加熱融解して融液とし、その融液相の表面から解重合生成物であるグリコリドを揮発させ、捕集する方法であった。そのため、長時間の加熱により、ポリグリコール酸の融液相内部では、重縮合を含む複雑な反応が進行し、重質化物が多量に生成する。その結果、グリコリドの収率が低下し、しかも重質化物残渣のクリーニングが煩雑となる。この重質化物は、一般に濃褐色の塊であって、ポリマーとして使用可能なものではない。
【0006】
最近、特開平9−328481号公報には、グリコール酸オリゴマーを高沸点極性溶媒と混合し、加熱して、当該オリゴマーを溶液中に溶解させて、該状態で解重合させ、生成したグリコリドを溶媒とともに留出させた後、溶媒からグリコリドを単離する方法が開示されている。この方法によれば、重質化物の生成が殆ど無しに、高収率でグリコリドを得ることができる。しかし、この方法では、高沸点極性溶媒を使用するため、溶媒の回収やグリコリド精製時の溶媒の除去などの操作を必要とする。
【0007】
このようにポリグリコール酸の高温での解重合反応によるグリコリド合成法には、重質物化による反応系のクリーニングの困難さや、高沸点極性溶媒の回収・除去操作などの煩雑さが問題であった。一方、比較的低温での解重合によるグリコリドの合成は、収率が低すぎるため、工業的生産には不適当である。例えば、米国特許第2,676,945号には、グリコール酸を重縮合してグリコール酸プレポリマーを合成し、このプレポリマーを固相重合して高分子量化する方法が開示されている。この特許の実施例1には、グリコール酸1000gを減圧下、220℃で11時間溶融重縮合した結果、462gのプレポリマーが得られ、その他140gのグリコリドが副生したことが示されている。さらに、このプレポリマーを固化させた後、減圧下、218℃で24時間固相重合することにより4〜5gのグリコリドが副生している。ここに開示されている情報からは、比較的低温状態でのポリグリコール酸の解重合によるグリコリドの生成量は、理論量の高々20%程度までであることが明らかである。
このように、従来の製造方法では、経済的に効率よくグリコリドを量産することは、極めて困難であった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、ポリグリコール酸から経済的かつ効率的にグリコリドを製造する方法を提供することにある。
本発明者らは、前記従来技術の問題点を克服するために鋭意研究した結果、ポリグリコール酸を特定の温度範囲内で固相解重合することにより、グリコリドが高収率で得られることを見いだした。ポリグリコール酸としては、低分子量から高分子量のものまで使用することができるが、固相解重合温度で固体状態を維持するためには、融点が高く、かつ、結晶性のポリマーであることが望ましい。また、固相解重合を不活性ガス気流下または減圧下に行い、昇華したグリコリドを系外に導いて回収することにより、反応効率を高めることができる。さらに、グリコール酸アルキルエステル(A)または該グリコール酸アルキルエステルの少なくとも一部を加水分解して得られるグリコール酸含有加水分解生成物(B)を重縮合して得られたポリグリコール酸は、比較的低分子量であるものの、高融点で結晶性のポリマーであるため、固相解重合に適している。
本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、融点220℃以上かつ結晶化度10%以上の結晶性ポリマーであるポリグリコール酸を、220℃以上245℃未満の温度範囲内の反応温度で固相解重合し、かつ、該固相解重合が、ポリグリコール酸の融点の変化に対応して反応温度を連続的または段階的に上げ、反応効率を上げる固相解重合であるグリコリドの製造方法が提供される。
【0010】
【発明の実施の形態】
(固相解重合)
ポリグリコール酸の固相解重合とは、ポリグリコール酸が加熱温度条件下で溶融せずに固体状態(固相)を維持したままでグリコリドに解重合することを意味している。したがって、固相解重合は、220℃以上245℃未満の温度範囲内であって、かつ、使用するポリグリコール酸が固体状態を維持できる温度で実施する。ポリグリコール酸が固体状態を維持できる温度の上限は、通常、使用するポリグリコール酸の融点であるが、固相解重合反応中にポリグリコール酸の固相重合が同時に進行するなどして、融点が上昇する場合には、その上昇した融点が上限温度となる。
【0011】
例えば、融点が225℃のポリグリコール酸を用いて固相解重合を行う場合には、該ポリグリコール酸が固体状態を維持できる220〜225℃の温度範囲内で固相解重合を開始し、その後、固相重合の進行等によりポリグリコール酸の融点が240℃に上昇した場合には、220〜240℃の温度範囲内で固相解重合を継続することができる。したがって、この場合、例えば、220℃で固相解重合を開始し、次いで、温度を235℃に上昇させて、固相解重合を継続することができる。反応温度を高めることにより、固相解重合の反応効率を上げることができる。反応温度は、ポリグリコール酸の融点の変化に対応して、連続的または段階的に上げることができる。
【0012】
固相解重合条件下で、解重合と同時に固相重合(固相重縮合)が進行してもよい。したがって、例えば、使用するポリグリコール酸が低分子量ポリマーである場合、固相解重合条件下で、解重合と同時に固相重合(固相重縮合)が進行し、これによって、高分子量のポリグリコール酸が得られる。この高分子量ポリグリコール酸は、従来の解重合法により生成する使用不能な重質化物ではなく、成形用途に使用可能な高分子量ポリマーである。この高分子量ポリマーは、固体状態を維持しているため、反応器に強固に融着することがないので、反応系から容易に取り出すことができる。
【0013】
固相解重合の反応温度が220℃未満であると、ポリグリコール酸のグリコリドへの解重合反応速度が低下し、グリコリドの収率が低下する。したがって、固相解重合と固相重合とが競合する場合、グリコリドの収率よりも高分子量ポリグリコール酸の収率の方が大きくなる。固相解重合の反応温度が245℃以上であると、ポリグリコール酸が分解し易くなり、また、多くの場合、固体状態を維持することができなくなる。ポリグリコール酸が固体状態を維持できる温度を越える温度で解重合を行うと、ポリグリコール酸が溶融状態(融液)となり、反応後に、重質化物が生成して反応器に強固に融着するので、残渣のクリーニングが煩雑となる。ポリグリコール酸が溶融状態となる条件下での解重合は、もはや固相解重合ということはできない。
【0014】
固相解重合は、常圧下で不活性ガス気流下に行われるか、減圧下に行われることが好ましい。固相解重合により、生成したグリコリドは昇華するので、それを固相解重合反応系外で捕集することによりグリコリドを回収することができる。不活性ガス気流を用いると、昇華したグリコリドが不活性ガス気流に随伴されて系外に導かれる。減圧下でも、同様に、昇華したグリコリドは真空に引かれて系外に導かれることになる。系外には、例えばトラップを置いて、グリコリドを捕集することができる。加圧系であると、グリコリドは系外に排出されないため、固相解重合と固相重合の平衡反応が起こりやすく、グリコリドは生成しにくく、さらに単離も困難であることが多く、好ましくない。また、解放系でも、グリコリドが系外に排出され難いので、好ましくない。
【0015】
(ポリグリコール酸)
ポリグリコール酸は、220℃以上で、かつ、通常245℃未満の温度範囲内において、固体状態を維持できるものであれば、分子量などについては特に限定されない。ポリグリコール酸は、主たる繰り返し単位がグリコール酸の繰り返し単位であるホモポリマーまたはコポリマーである。グリコリドは、グリコール酸の環状二量体エステルであるため、ポリグリコール酸中にコモノマーに基づく繰り返し単位が多数存在すると、グリコール酸の繰り返し単位が連続構造を取りにくくなり、ひいては、解重合によるグリコリドの生成効率が低下する。したがって、ポリグリコール酸としては、ホモポリマーまたは他のコモノマー成分の含有量が少ないコポリマーであることが好ましい。
【0016】
本発明で使用するポリグリコール酸は、融点が220℃以上で、かつ、結晶化度が10%以上の結晶性ポリマーである。ポリグリコール酸の融点が低すぎると、前記固相解重合の反応温度条件下で固体状態(固相)を維持することが困難となる。また、結晶性ポリグリコール酸を使用すると、固相解重合反応時に固体状態を維持することが容易で、しかもポリグリコール酸が反応器に融着することが抑制される。
【0017】
ポリグリコール酸の融点が220℃未満の場合には、固相解重合を行うに先立って、ポリグリコール酸を熱処理して融点を220℃以上に調整することが好ましい。この熱処理は、ポリグリコール酸の融点前後の温度で通常1〜24時間程度加熱することにより行う。ポリグリコール酸の融点以下の温度から熱処理を開始し、連続的または段階的に熱処理温度を上昇させて熱処理を継続してもよい。この熱処理工程においても、若干量のグリコリドが生成することがあるので、回収することが好ましい。
【0018】
ポリグリコール酸は、結晶性のポリマーであることが、固相解重合時に装置への融着を起こし難いので、好ましい。ポリグリコール酸は、融解エンタルピー量で調べた場合に、少なくとも10%の結晶化度を有していることが好ましい。結晶化度が低すぎると、固相解重合が困難となり、副反応も起こりやすくなる。ポリグリコール酸の結晶化度は、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上であり、多くの場合40%以上である。結晶化度の上限は、通常70%程度、多くの場合60%程度である。
【0019】
本発明で使用するポリグリコール酸は、その分子量については特に限定されないが、高融点でかつ結晶性のポリマーであるには、重量平均分子量が5,000以上であることが好ましい。本発明では、例えば、重量平均分子量が5,000以上、150,000未満の比較的低分子量のポリグリコール酸から、重量平均分子量が150,000以上の高分子量ポリグリコール酸まで使用することができる。ポリグリコール酸の重量平均分子量の上限は、通常1000,000、多くの場合700,000程度である。
【0020】
ポリグリコール酸は、グリコール酸アルキルエステル(A)または該グリコール酸アルキルエステルの少なくとも一部を加水分解して得られるグリコール酸含有加水分解生成物(B)を重縮合して得られたポリグリコール酸であることが好ましい。その理由は、上記方法によれば、高融点かつ結晶性のポリグリコール酸が得られやすいからである。
グリコール酸アルキルエステルの具体例としては、例えば、グリコール酸メチル、グリコール酸エチル、グリコール酸n−プロピル、グリコール酸イソプロピル、グリコール酸n−ブチル、グリコール酸イソブチル、グリコール酸t−ブチルなどの炭素原子数が1〜4の低級アルキルエステルを挙げることができる。これらの中でも、グリコール酸メチル及びグリコール酸エチルは、脱アルコール反応が容易なため、特に好ましい。
【0021】
グリコール酸アルキルエステルの加水分解は、グリコール酸アルキルエステルに水を添加して、加熱することにより容易に実施することができる。グリコール酸アルキルエステルを加水分解すると、グリコール酸とアルコールが生成する。生成したアルコールを除去すると、グリコール酸が得られる。グリコール酸アルキルエステルを部分的に加水分解すると、グリコール酸とグリコール酸アルキルエステルとの混合物が得られる。本発明では、このような加水分解生成物をグリコール酸含有加水分解生成物(B)と呼ぶ。グリコール酸アルキルエステルの加水分解では、グリコール酸アルキルエステルの通常50モル%以上、好ましくは80モル%以上、より好ましくは99モル%以上がヒドロキシカルボン酸に加水分解されることが望ましい。加水分解反応率の上限は、100モル%である。
【0022】
グリコール酸アルキルエステル(A)または加水分解生成物(B)を用いたポリグリコール酸の合成工程では、脱アルコール反応及び/または脱水反応を伴う重縮合反応が進行する。重縮合反応は、通常80℃以上、好ましくは100〜230℃、より好ましくは110〜220℃、最も好ましくは120〜210℃の温度範囲で行われる。重縮合反応は、触媒を用いても、無触媒下でも行うことができる。
【0023】
グリコール酸は、蒸留などの常法によって生成することが困難であり、多量の不純物を含有するが、グリコール酸アルキルエステル(A)は、蒸留等により容易に精製することが可能である。このグリコール酸アルキルエステルを加水分解して得られるグリコール酸含有加水分解生成物(B)も高純度のものである。したがって、これらをモノマーとして合成したポリグリコール酸は、グリコール酸以外の繰り返し単位の含有量が少なく、固相解重合により高い効率でグリコリドを生成することができる。しかも、これらをモノマーとして合成したポリグリコール酸は、220℃以上の高融点で、かつ、結晶化度が10%以上の結晶性ポリマーとして得られやすい。
【0024】
グリコール酸アルキルエステル(A)または加水分解生成物(B)を重縮合して得られるポリグリコール酸の重量平均分子量は、通常、5,000以上、150,000未満、多くの場合、8,000〜100,000程度である。本発明では、このような比較的低分子量のポリグリコール酸を好適に使用することができるが、この低分子量ポリグリコール酸を固相重合して高分子量化したポリグリコール酸も使用することができる。
【0025】
本発明に用いられるポリグリコール酸は、他の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ガラス繊維やタルクなどの無機充填剤、顔料、着色剤などの添加剤、土、粘度、鉱物、金属などの各種成分を含んでいてもよい。したがって、本発明では、使用済みのポリグリコール酸成形物、成形屑などから、グリコリドを回収するのに有効である。このように、本発明の固相解重合によるグリコリドの製造方法は、ポリグリコール酸製品のケミカルリサイクル法としても有用である。ポリグリコール酸製品には、様々な添加物が添加されていたり、他の材料と複合化が行われている場合が多い。固相解重合によれば、解重合生成物であるグリコリドを昇華させて単離するため、ポリグリコール製品から比較的容易にモノマーであるグリコリドのリサイクルが可能となる。
【0026】
本発明に用いられるポリグリコール酸は、フレーク、ペレット、繊維、粉末、粒子、成形品の形状、成形品の粉砕、破砕、裁断物等の如何なる形状を有していてもよい。固相解重合の反応速度の観点からは、単位重量当たりの表面積は大きい方が好ましい。したがって、ポリグリコール酸が大きな形状の固まりや成形品などの場合には、粉砕するなどして、表面積を増大させてから固相解重合を行うことが好ましい。
本発明の製造方法により得られたグリコリドは、そのまま使用してもよいが、必要に応じて再結晶等の操作により純度をさらに上げることができる。高純度のグリコリドは、開環重合により高分子量のポリグリコール酸を合成することができる原料となる。
【0027】
【実施例】
以下に、合成例、実施例、及び比較例を示し、本発明についてより具体的に説明する。なお、物性等の測定法は、次のとおりである。
【0028】
(1)重量平均分子量
重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)分析装置を用い、以下の条件で求めた。
HFIP(ヘキサフルオロイソプロパノール)を溶媒とし、40℃、1mL/分で、カラム(HFIP−LG+HFIP−806M×2本:SHODEX)を通し、分子量82.7万、10.1万、3.4万、1.0万、0.2万の分子量既知のPMMA(ポリメタクリル酸メチル)標準物質のRI検出による溶出時間から求めた検量線をあらかじめ作成しておき、その溶出時間から、重量平均分子量を計算した。
(2)融点
融点は、DSC(示差走査熱量計)を用い、以下の条件により求めた。
約10mgの試料をアルミパンに詰め、メトラー社製DSC25を用い、50mL/分の窒素雰囲気下、試料を30℃から10℃/分の速度で260℃まで昇温し、吸熱ピークの温度を融点として求めた。
【0029】
(3)結晶化度
ポリグリコール酸の結晶化度は、DSCを用い、以下の方法に従って融解エンタルピー量から求めた。
アルミパンに約10mgのポリグリコール酸を詰め、メトラー社製DSC25を用い、50mL/分の窒素雰囲気下、30℃から10℃/分の速度で260℃まで昇温し、結晶融解部の融解エンタルピーを求めた。ポリグリコール酸の場合は、Journal of Applied Polymer Science,Vol.26,1727−1734(1981)に報告されているポリグリコール酸の結晶部の融解エンタルピー量206.5J/gを基にして、得られたポリグリコール酸の融解エンタルピー量(単位J/g)から以下の計算式にて求めた。
結晶化度(%)=
〔ポリグリコール酸の融解エンタルピー/206.5〕×100
【0030】
[合成例1]
70%グリコール酸溶液500g(4.61モル)を1Lチタン製オートクレーブに仕込み、150℃まで徐々に加熱し、脱水操作を行った。水の留出がほとんどなくなった時点で、180℃に昇温し、2時間5kPa(50mbar)の減圧下にて、さらに縮合水の除去を続けた。次いで、215℃に昇温し、2時間0.1kPa(1mbar)の減圧下、縮合水の除去を続けた。室温に冷却後、203gの白色の固体を取り出した。得られたポリグリコール酸の融点は204℃、結晶化度は43%、重量平均分子量は4.5万であった。
上記で得られたポリグリコール酸を200℃で5時間、220℃で5時間熱処理を行った。熱処理後のポリグリコール酸の融点は、223℃であった。
【0031】
[合成例2]
グリコール酸メチル500g(5.56モル)と水900g(50モル)を2Lチタン製オートクレーブに仕込み、120℃に加熱し、65〜85℃の循環水を通したコンデンサーによって、生成メタノールを除去した。7時間後、オートクレーブ内には、グリコール酸メチルは、仕込み量の約0.5モル%が残っていた(加水分解反応率=約99.5モル%)。
上記オートクレーブからコンデンサーを取り外し、150℃まで徐々に加熱して、脱水操作を行った。水の留出が殆どなくなった時点で180℃に昇温し、2時間5kPa(50mbar)の減圧下にて、縮合水の除去を続けた。さらに、215℃に昇温し、2時間0.1kPa(1mbar)の減圧下、縮合水の除去を続けた。室温に冷却した後、390gの白色の固体を取り出した。得られたポリグリコール酸の融点は221℃、結晶化度は50%、重量平均分子量は2.0万であった。
【0032】
[合成例3]
グリコール酸メチル500gと塩化第二錫0.1gを1Lのチタン製オートクレーブに仕込み、130℃に加熱しながら、重縮合反応により生成したメタノールを除去した。その後、200℃で5時間、215℃で3時間減圧下に生成アルコールの除去を続けた。室温に冷却後、235gの淡黄色の固体を取り出した。このようにして得られたプレポリマーの融点は220℃、結晶化度は53%、重量平均分子量は6.5万であった。
【0033】
[実施例1]
合成例1で得られた熱処理後のポリグリコール酸(融点223℃)20gを茄子型フラスコに投じ、10Pa(0.1mbar)の減圧下に、220℃で3時間加熱した。この時点で内容物を一部抜きだし、ポリグリコール酸の融点を測定したところ226℃であった。さらに、減圧下に225℃で12時間加熱した。減圧ラインに昇華してくるグリコリドをトラップし、回収した。得られたグリコリドの量は、9g(収率45%)であった。フラスコ内に残ったポリグリコール酸は、固体状態を維持しており、フラスコを傾けることで容易に取り出すことができた。フラスコには、付着物は観られず、フラスコのクリーニングも容易であった。なお、取り出したポリグリコール酸の融点は、228℃であった。
【0034】
[比較例1]
合成例1で得られた熱処理前のポリグリコール酸(融点204℃)20gを茄子型フラスコに投じ、10Pa(0.1mbar)の減圧下に、220℃で16時間加熱した。減圧ラインに昇華してくるグリコリドをトラップし、回収した。得られたグリコリドの量は、7g(収率35%)であった。加熱によりポリグリコール酸は、溶融して固体状態を維持することができず、解重合はしたものの、固相解重合ではなかった。フラスコ内は、黒褐色の塊が強固に付着していた。この塊の融点は、217℃であった。
【0035】
[実施例2]
合成例2で得られたポリグリコール酸(融点221℃)20gを茄子型フラスコに投じ、10Pa(0.1mbar)の減圧下に、220℃にて3時間、225℃にて3時間加熱、230℃にて3時間加熱、235℃にて3時間加熱して、固相重合と固相解重合を行った。
減圧ラインに昇華してくるグリコリドをトラップし、回収した。得られたグリコリドの量は、15g(収率75%)であった。
一方、フラスコ内に残ったポリグリコール酸は、固体状態を維持しており、フラスコを傾けることにより容易に取り出すことができた。ポリグリコール酸を取り出した後のフラスコには付着物は見られず、フラスコのクリーニングも容易であった。取り出したポリグリコール酸は、重量平均分子量が49.2万で、融点が238℃であった。
【0036】
[比較例2]
合成例2で得られたポリグリコール酸(融点221℃)20gを茄子型フラスコに投じ、10Pa(0.1mbar)の減圧下に、220℃にて3時間、225℃にて3時間加熱、230℃にて3時間加熱、235℃にて3時間加熱、250℃にて1時間加熱した。減圧ラインに昇華してくるグリコリドをトラップし、回収した。得られたグリコリドの量は、16g(収率80%)であった。フラスコ内は、ポリグリコール酸が重質物化した黒褐色の塊が強固に付着していた。この塊の融点は、236℃であった。
【0037】
[実施例3]
合成例3で得られたポリグリコール酸(融点220℃)を用いた以外は、実施例2と同様に固相解重合反応を行った。得られたグリコリドの量は、14g(収率70%)であった。フラスコ内に残ったポリグリコール酸は、固体状態を維持しており、フラスコを傾けることで容易に取り出すことができた。フラスコ内には付着物は観られず、フラスコのクリーニングも容易であった。取り出したポリグリコール酸の重量平均分子量は30.1万で、融点は236℃であった。
【0038】
[比較例3]
合成例3で得られたポリグリコール酸(融点220℃)20gを茄子型フラスコに投じ、10Pa(0.1mbar)の減圧下に、218℃にて24時間加熱した。減圧ラインに昇華してくるグリコリドをトラップし、回収した。得られたグリコリドの量は、4g(収率20%)にすぎなかった。
【0039】
[実施例4]
ポリグリコール酸(融点221℃)とガラス繊維30%とを含む成形品(厚さ3mm、幅12mm、長さ130mm)9.0g(ポリグリコール酸含量6.3g)をペレット状に粉砕した。このペレット7gを茄子型フラスコに投じ、220℃にて3時間、225℃にて3時間加熱、230℃にて3時間加熱、235℃にて3時間加熱した。加熱中、窒素を常に流した。窒素の流出ラインに昇華してくるグリコリドをトラップし、回収した。得られたグリコリドの量は、3g(収率61%)であった。フラスコ内に残ったポリマーは固体状態を維持しており、フラスコを傾けることで容易に取り出すことができた。フラスコ内には付着物は観られず、フラスコのクリーニングも容易であった。なお、取り出したポリマーの融点は、236℃であった。
【0040】
[比較例4]
ポリグリコール酸(融点221℃)とガラス繊維30%とを含む成形品(厚さ3mm、幅12mm、長さ130mm)9.0g(ポリグリコール酸含量6.3g)をペレット状に粉砕した。このペレット7gを茄子型フラスコに投じ、220℃にて3時間、225℃にて3時間加熱、230℃にて3時間加熱、245℃にて3時間加熱した。加熱中は解放系にしていた。解放系に留出してくるグリコリドをトラップし、回収した。得られたグリコリドの量は、0.5g(収率10%)であった。また、重質化物がフラスコ内に付着していた。
【0041】
【発明の効果】
本発明によれば、ポリグリコール酸を固相解重合することにより、グリコリドを収率よく、かつ、装置を汚すことなく生産することができ、工業的な量産に適した製造方法が提供される。本発明の製造方法により、従来コスト的理由により医療用途など特殊な分野に使用が限定されていたポリグリコール酸が安価に提供できるようになり、生分解性ポリマーとして、広範な分野での用途展開が可能となる。
Claims (5)
- 融点220℃以上かつ結晶化度10%以上の結晶性ポリマーであるポリグリコール酸を、220℃以上245℃未満の温度範囲内の反応温度で固相解重合し、かつ、該固相解重合が、ポリグリコール酸の融点の変化に対応して反応温度を連続的または段階的に上げ、反応効率を上げる固相解重合であるグリコリドの製造方法。
- ポリグリコール酸の固相解重合を不活性ガス気流下または減圧下に行い、昇華したグリコリドを固相解重合反応系外に導いて回収する請求項1記載の製造方法。
- ポリグリコール酸が、グリコール酸アルキルエステル(A)または該グリコール酸アルキルエステルの少なくとも一部を加水分解して得られるグリコール酸含有加水分解生成物(B)を重縮合して得られたポリグリコール酸である請求項1記載の製造方法。
- ポリグリコール酸が、融点220℃未満のポリグリコール酸を熱処理して融点220℃以上のポリグリコール酸としたものである請求項1記載の製造方法。
- ポリグリコール酸が、重量平均分子量5,000以上のポリマーである請求項1ないし4のいずれか1項に記載の製造方法。
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