JP4215583B2 - 還元剤溶液とそれを用いた金属粉末の製造方法、および金属被膜の形成方法 - Google Patents
還元剤溶液とそれを用いた金属粉末の製造方法、および金属被膜の形成方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、レドックス析出法による、微細な金属粉末の製造や、あるいは被めっき物表面への金属被膜の形成などに使用しうる新規な還元剤溶液と、この還元剤溶液を用いた金属粉末の製造方法、ならびに金属被膜の形成方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近時、析出対象である1種または2種以上の金属のイオンを遷移金属のイオン、例えば3価のTiイオン(Ti3+)が4価(Ti4+)に酸化する際の還元作用によって還元して液相の反応系中から析出させることで、微細な金属粉末を製造したり、あるいは被めっき物の表面に金属被膜を形成したりするいわゆるレドックス析出法が提案された(例えば特許文献1、2参照)。
【0003】
詳しくは、上記Ti3+イオンなどを含む還元剤溶液と、析出させる金属のイオンを含む反応液とを所定の割合で配合して液相の反応系を構成するとともに、pH調整剤を加えるなどして液をアルカリ性、すなわちpHを8以上の範囲に調整すると、上記のようにTi3+イオンがTi4+イオンに酸化する酸化反応が進行し、その際の還元作用によって同じ系中の金属イオンが還元されて液中に析出して、金属粉末が製造されたり、被めっき物の表面に金属被膜が形成されたりする。
【0004】
かかるレドックス析出法によれば、これまでよりも平均粒径が小さい上、粒径の揃った、粒度分布がシャープな微細な金属粉末を、生産性良く効率的に製造することができる。このためレドックス析出法は、従来の液相法や気相法に代わる新たな金属粉末の製造方法として注目されている。
またレドックス析出法によれば、高価な貴金属系のめっき触媒などを使用せずに、プラスチック、ガラスなどの不導体の表面に金属被膜を形成したり、あるいは金属の表面に、それよりも電気化学的に卑な金属からなる金属被膜を形成したりすることができる。このためレドックス析出法は、従来の無電解めっきに代わる新たな金属被膜の形成方法としても期待されている。
【0005】
さらにレドックス析出法によって製造される金属粉末や金属被膜は、その原料である1種または2種以上の金属が本来的に持っている特性(高い導電性など)を活かして、種々の分野での利用が検討されている。
【0006】
【特許文献1】
特開2001−200305号公報(請求項3、第0007欄〜第0013欄)
【特許文献2】
特開2000−353527号公報(請求項1、2、第0013欄〜第0021欄)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところが従来は、Tiイオンを、例えば三塩化チタン(TiCl3)や四塩化チタン(TiCl4)などの、水溶性のハロゲン化物の状態で供給して還元剤溶液を調製しているため、レドックス析出法によって製造される金属粉末や金属被膜の中にハロゲンが取り込まれやすい。
特に、析出対象の金属がハロゲンと強固に結びつきやすいAgなどである場合、金属粉末や金属被膜の中により多量のハロゲンが取り込まれる傾向がある上、ハロゲンが取り込まれると安定なハロゲン化物(AgCl等)を形成して容易に脱ハロゲン化できなくなってしまう。
【0008】
そして、金属粉末や金属被膜の中にハロゲン化物が多量に取り込まれると、その金属が本来的に持っている、優れた特性が損なわれてしまうという問題を生じる。
例えばAgは、周知のように高い導電性を有しているため、Agからなる金属粉末は、導電ペーストなどの導電材料として好適に使用できる。また金属被膜は、プリント配線板の導体回路などとして好適に使用できる。
【0009】
しかしAgからなる金属粉末や金属被膜の中に、AgCl等のハロゲン化物が多量に含まれると、かかるハロゲン化物は不導体であるため、Agの持つ、優れた導電性が損なわれてしまうおそれがある。
またAgは、いわゆるマイグレーションを生じやすい材料として知られているが、Cl等のハロゲンは、かかるマイグレーションを発生させる起点として機能する。
このため、Agからなる金属被膜中にハロゲンが多量に含まれると、特に導体回路をファインピッチ化すればするほど、Agのマイグレーションによる回路間の短絡を生じやすくなる。
【0010】
レドックス析出法において金属粉末や金属被膜を析出させた後の液は電解処理して、Ti4+をTi3+に還元することで還元剤溶液として再生させて、レドックス析出法に再び使用することができる。これは、電解析出時にTiイオンが殆ど消費されないためである。
また、電解処理に際しては、Tiイオンの還元がスムースに行われるようにするために、液を酸性に調整するのが好ましい。これは、液がアルカリ性である場合、Ti4+→Ti3+の反応が、電気化学的に卑な電位で起こるためと考えられる。
【0011】
ところが、Tiのハロゲン化物を出発原料とする従来の還元剤溶液を用いた場合、当該還元剤溶液を、析出対象である1種または2種以上の金属のイオンを含む反応液と混合した液相の反応系において、前述したようにTi3+をTi4+に酸化させ、かつその際の還元作用によって、析出対象である金属のイオンを還元して析出させるためには、前記のように反応系をアルカリ性、つまりpHを8以上、より好ましくは9〜11程度に調整する必要がある。
【0012】
このため従来の還元剤溶液は、再使用が可能であるものの、金属の析出に使用するに際して、また電解処理して再生させるに際して、その都度、液のpHを、それぞれの処理に適した範囲に調整しなおさねばならず手間がかかる上、その都度、例えば一定量の酸やアルカリなどをpH調整剤として加えたり、あるいはpH調整のための電解処理をしたりする必要があることから、工程のランニングコスト上昇するという問題がある。
【0013】
また、還元剤溶液は何度でも再使用が可能である旨、上に記載したが、特に上記のように酸やアルカリを処理の都度、加えていたのでは、Tiイオンの濃度が徐々に低下して行くため、再使用できる回数に限界があった。
本発明の目的は、塩素等のハロゲンを含まないため、金属自体の持つ良好な特性を十二分に発揮しうる金属粉末や金属被膜を製造することが可能である上、電解処理によって再生して繰り返し使用する際に液のpHをその都度、調整しなおす必要がない新規な還元剤溶液を提供することにある。
【0014】
また本発明の他の目的は、かかる還元剤溶液を用いることによって、金属自体の持つ良好な特性を十二分に発揮しうる良好な金属粉末を製造することが可能な、新規な金属粉末の製造方法を提供することにある。
また本発明のさらに他の目的は、上記の還元剤溶液を用いることによって、金属自体の持つ良好な特性を十二分に発揮しうる良好な金属被膜を形成することが可能な、新規な金属被膜の形成方法を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段および発明の効果】
請求項1記載の発明は、析出対象である1種または2種以上の金属のイオンを、液相の反応系中で、遷移金属のイオンが酸化状態の低いイオンから高いイオンに酸化する際の還元作用によって還元して析出させるレドックス析出法に用いる還元剤溶液であって、水に、遷移金属のハロゲン化物とメタンスルホン酸とを溶解したのち、ハロゲンイオンを除去して調製され、上記遷移金属のイオンと、対イオンとしてのメタンスルホン酸イオンとを含み、実質的にハロゲンフリーであることを特徴とする還元剤溶液である。
【0016】
発明者は、製造後の金属粉末中や金属薄膜中にハロゲンが残留するのを防止すべく、還元剤として機能するTiなどの遷移金属の、水溶性のハロゲン化物を用いて調製した、レドックス析出法に用いる前の還元剤溶液から、ハロゲンイオンを除去することを検討した。
しかし液から、単にハロゲンイオンを除去しただけでは遷移金属のイオンが不安定になって、酸化物等として沈殿してしまうことが判った。
【0017】
そこで還元剤溶液に、ハロゲンイオンに代わる新たな対イオンを含有させて、ハロゲンイオンを除去しても遷移金属のイオンを安定に存在させることを考え、種々の、対イオンとなる化合物について検討を行った。
そうしたところ、対イオンとしてメタンスルホン酸イオンを加えると、
・ ハロゲンイオンを除去しても、遷移金属のイオンを液中に安定に存在させることができるだけでなく、
・ かかるメタンスルホン酸イオンが存在する系では、還元剤溶液のpHが7以下の酸性である時、特に貴金属、すなわちAu、Agおよび白金族元素(Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt)や、あるいはCuなどの金属の1種または2種以上を良好に析出させることができるため、金属の析出と、電解処理による再生とを繰り返す際に、液のpHを調整する必要が殆どなくなることを見出した。
【0018】
したがって前記請求項1の構成によれば、塩素等のハロゲンを含まないため、金属自体の持つ良好な特性を十二分に発揮しうる金属粉末や金属被膜を製造することが可能である上、電解処理によって再生して繰り返し使用する際に液のpHをその都度、調整する必要がない、新規な還元剤溶液を提供することができる。
また、請求項1の構成によれば、前記還元剤溶液を、水に、いずれも水溶性である遷移金属のハロゲン化物とメタンスルホン酸とを溶解したのち、ハロゲンイオンを除去して調製しているため、工程が簡単で手間がかからない上、ハロゲンイオンの除去時に、遷移金属のイオンの析出をより確実に防止できるという効果もある。
【0019】
還元剤溶液に含有させる遷移金属のイオンとしては、前述したように酸化状態の低いイオンから高いイオンに酸化する際の還元作用によって、金属粉末や金属被膜の材料となる1種または2種以上の金属のイオンを還元してスムースに析出させることができる上、電解処理によって容易に、酸化状態の低いイオンに還元することができる種々の遷移金属のイオンがいずれも使用可能である。その好適な例としては、例えばTi、Co、Fe、Cr、V、Ni、Mo、およびMnなどの1種または2種以上の金属のイオンを挙げることができる。
【0020】
したがって請求項2記載の発明は、遷移金属のイオンとしてTi、Co、Fe、Cr、V、Ni、Mo、およびMnからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属のイオンを含むことを特徴とする請求項1記載の還元剤溶液である。
還元剤溶液には、レドックス析出法による金属の析出反応を安定して行うために、例えばpHの変動を抑制するための緩衝剤や、遷移金属イオンを安定させるための錯化剤などを含有させてもよい。
【0021】
したがって請求項3記載の発明は、pHの変動を抑制するための緩衝剤、および遷移金属イオンを安定させるための錯化剤を含むことを特徴とする請求項1記載の還元剤溶液である。
また請求項4記載の発明は、上記の還元剤溶液を含む、実質的にハロゲンフリーである液相の反応系中で、析出対象である1種または2種以上の金属のイオンを、遷移金属のイオンが酸化状態の低いイオンから高いイオンに酸化する際の還元作用によって還元して析出させることで、当該1種または2種以上の金属からなる粉末を形成したのち、反応系から回収することを特徴とする金属粉末の製造方法である。
【0022】
請求項4の構成によれば、以上で説明した還元剤溶液を用いることによって実質的にハロゲンフリーとされた液相の反応系中で、レドックス析出法によって金属を析出させて金属粉末を製造することができる。このため、製造された金属粉末は実質的にハロゲンを含有せず、金属自体の持つ良好な特性を十二分に発揮しうる良好なものとなる。
上記の製造方法は、液相の反応系を、pHが7以下の酸性に調整して実施するのが好ましい。対イオンとしてメタンスルホン酸イオンを含む系では、前述したように液が酸性であるとき、金属を良好に析出させることができる。また液が酸性であれば、これも前述したように、金属粉末の製造に使用した後の液を電解処理して再生させる際に、pHを調整しなおす必要もなくなる。
【0023】
したがって請求項5記載の発明は、pH調整剤を加えてpHを7以下に調整した液相の反応系中で、金属を析出させることを特徴とする請求項5記載の金属粉末の製造方法である。
反応系中に析出した金属粉末は、そのままでは多数子が凝集して巨大な粒子を生じたり、あるいはかかる凝集が原因となって、粒径が不揃いになったりしやすい。これに対し、反応系中に、析出した金属粉末を安定に分散させるための分散剤を加えると、その凝集を防止して、巨大粒子が発生したり粒径が不揃いになったりするのを抑制することができる。そしてより一層、平均粒径が小さい上、粒径の揃った、粒度分布がシャープな微細な金属粉末を、生産性良く効率的に製造することができる。
【0024】
したがって請求項6記載の発明は、析出した金属粉末を安定に分散させるための分散剤を加えた液相の反応系中で、金属を析出させることを特徴とする請求項4記載の金属粉末の製造方法である。
金属粉末を析出させた後の液は、先に述べたように液中の、遷移金属のイオンの濃度が殆ど変化しないため、電解処理によって再生して、還元剤溶液として再使用するのが好ましい。
【0025】
したがって請求項7記載の発明は、金属を析出させた後の液を電解処理して、遷移金属のイオンを酸化状態の高いイオンから低いイオンに還元することで、還元剤溶液として再生することを特徴とする請求項4記載の金属粉末の製造方法である。
また請求項8記載の発明は、前記の還元剤溶液を含む、実質的にハロゲンフリーである液相の反応系中に被めっき物を浸漬した状態で、析出対象である1種または2種以上の金属のイオンを、遷移金属のイオンが酸化状態の低いイオンから高いイオンに酸化する際の還元作用によって還元して析出させることで、上記被めっき物の表面に、当該1種または2種以上の金属からなる金属被膜を形成することを特徴とする金属被膜の形成方法である。
【0026】
請求項8の構成によれば、先に説明した還元剤溶液を用いることによって実質的にハロゲンフリーとされた、液相の反応系中に被めっき物を浸漬した状態で、レドックス析出法によって金属を析出させることで、上記被めっき物の表面に金属被膜を形成することができる。このため、形成された金属被膜は実質的にハロゲンを含有せず、金属自体の持つ良好な特性を十二分に発揮しうる良好なものとなる。
【0027】
上記の形成方法は、液相の反応系を、pHが7以下の酸性に調整して実施するのが好ましい。対イオンとしてメタンスルホン酸イオンを含む系では、前述したように液が酸性であるとき、金属を良好に析出させることができる。また液が酸性であれば、これも前述したように、金属被膜の形成に使用した後の液を電解処理して再生させる際に、pHを調整しなおす必要もなくなる。
したがって請求項9記載の発明は、pH調整剤を加えてpHを7以下に調整した液相の反応系中で、金属を析出させることを特徴とする請求項8記載の金属被膜の形成方法である。
【0028】
金属被膜を形成した後の液は、先に述べたように液中の、遷移金属のイオンの濃度が殆ど変化しないため、電解処理によって再生して、還元剤溶液として再使用するのが好ましい。
したがって請求項10記載の発明は、金属を析出させた後の液を電解処理して、遷移金属のイオンを酸化状態の高いイオンから低いイオンに還元することで、還元剤溶液として再生することを特徴とする請求項8記載の金属被膜の形成方法である。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明を説明する。
《還元剤溶液》
本発明の還元剤溶液は、前記のようにレドックス析出法において還元剤として機能する遷移金属のイオンと、対イオンとしてのメタンスルホン酸イオンとを含み、実質的にハロゲンフリーであることを特徴とするものである。
【0030】
このうち遷移金属のイオンとしては、先に述べたように酸化状態の低いイオンから高いイオンに酸化する際の還元作用によって、金属粉末や金属被膜の材料となる1種または2種以上の金属のイオンを還元してスムースに析出させることができる上、電解処理によって容易に、酸化状態の低いイオンに還元することができる種々の遷移金属のイオンがいずれも使用可能である。
その好適な例としては、例えばTi、Co、Fe、Cr、V、Ni、Mo、およびMnなどの、1種または2種以上の金属のイオンを挙げることができる。
【0031】
中でも特にTiのイオンは、対イオンとしてメタンスルホン酸イオンを含む酸性の反応系中で、Ti3+がTi4+に酸化する際の還元作用によって、前述した貴金属やCuなどの金属のイオンをよりスムースに還元して析出させることができる。また析出後の液を電解処理することによってよりスムースに、Ti4+をTi3+に還元して、還元剤として再生させることができる。
このため遷移金属のイオンとしてはTiイオンが特に好ましい。
【0032】
また本発明の還元剤溶液は、上記遷移金属のイオンを液中に安定に存在させるための対イオンとして、式(1):
CH3SO3 − (1)
で表されるメタンスルホン酸イオンを含有する。その含有量は、遷移金属の全量が酸化状態の高いイオンであるときの、当該イオンの当量以上であるのが好ましい。これにより、遷移金属のイオンを液中にさらに安定に存在させることができる。
【0033】
また本発明の還元剤溶液は、必要に応じて、pHの変動を抑制するための緩衝剤や、遷移金属イオンを安定させるための錯化剤を含有してもよい。
このうち緩衝剤としては、例えばホウ酸、ホウ酸アンモニウム、アンモニウム等を挙げることができる。
また錯化剤としては、例えばクエン酸、酒石酸、ニトリロ三酢酸(NTA)、コハク酸、リンゴ酸、グリオキシル酸、エチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などのカルボン酸や、そのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などの誘導体を挙げることができる。
【0034】
また本発明の還元剤溶液を金属粉末の製造に使用する場合、当該還元剤溶液は、液中に析出した金属粉末を安定に分散させるための分散剤を含有してもよい。分散剤としては、例えばチオ尿素、チオジプロピオン酸などの含硫黄系分散剤、ポリエチレンイミン、ポリビニルピロリドンなどのアミン系分散剤、カルボキシメチルセルロースなどのカルボン酸基を有する炭化水素系分散剤などを挙げることができる。
【0035】
なお分散剤は、還元剤溶液と反応液とを混合して液相の反応系を構成する際に添加してもよい。
本発明の還元剤溶液は、実質的にハロゲンフリーである必要がある。
実質的にハロゲンフリーな本発明の還元剤溶液は、遷移金属のハロゲン化物を出発原料として、当該ハロゲン化物とメタンスルホン酸とを水に溶解したのち、ハロゲンイオンを除去して調製される。
【0036】
上記還元剤溶液には、採用したハロゲンの除去方法によって除去できないごく微量の、つまり化学量論的に不自然なほど少量のハロゲンが含まれる場合がある。しかし、そのような微量のハロゲンは前述した種々の問題をほとんど生じない。
【0037】
ハロゲンイオンを除去する方法としては、例えばイオン交換膜を用いて電気透析する方法や、あるいは硝酸銀などを加えて、液中のハロゲンイオンを銀と反応させて水不要のハロゲン化銀を生成させ、それをろ過などによって系外に除去する方法などをあげることができる。かかる除去を行うことによって還元剤溶液を、前記のように実質的にハロゲンフリーな状態とすることができる。
緩衝剤その他の添加剤は、ハロゲンイオンを除去する工程の前に添加してもよいし、除去する工程の後に添加してもよい。
【0038】
また添加剤の添加量は、反応系のpH、液温、析出させる金属の種類などの反応条件や、あるいは金属粉末の製造の場合はその粒径、金属薄膜の形成の場合はその厚みなどに応じて適宜、設定することができる。
本発明の還元剤溶液は、遷移金属を、還元作用を有する酸化状態の低いイオンの状態とした上で、レドックス析出法による金属粉末の製造や金属薄膜の形成に用いる。
【0039】
そのためには出発原料として、遷移金属の、酸化状態の低いイオンのハロゲン化物(例えばTi3+のもとになる三塩化チタンTiCl3)を用いて調製した還元剤溶液を使用するのが一般的である。
しかし出発原料として、遷移金属の、酸化状態の高いイオンのハロゲン化物(例えばTi4+のもとになる四塩化チタンTiCl4)を用いて還元剤溶液を調製しておき、それをレドックス析出法に用いる直前に電解処理して、液中に含まれる遷移金属のイオンの少なくとも一部を酸化状態の低いイオンに還元して使用することもできる。またこの際、前述した電気透析によるハロゲンイオンの除去も進行するため、遷移金属のイオンの還元と同時に液をハロゲンフリーの状態とすることもできる。
【0040】
またこの方法では、特に遷移金属がTi、ハロゲンがClであるとき、TiCl3よりもTiCl4の方が安価で、入手が容易であるため、金属粉末や金属被膜の製造コストを引き下げることもできる。
なお、特に金属粉末の製造においては、遷移金属の、酸化状態の高いイオンの全量を還元するのでなく、その一部のみを還元した、酸化状態の高いイオンと低いイオンとが混在した状態の還元剤溶液を使用するのが好ましい。Tiイオンを例にとってさらに詳しく説明すると、Ti4+の全量をTi3+に還元するのでなく、その一部のみをTi3+に還元した、Ti4+とTi3+とが混在した状態の還元剤溶液を使用するのが好ましい。
【0041】
かかる還元剤溶液を使用した場合には、還元析出時に、あらかじめ系中に存在するTi4+が、金属粉末の成長を抑制する成長抑制剤として機能する。
また反応系中で、Ti4+とTi3+とは複数個ずつがクラスターを構成して、全体として水和および錯体化した状態で存在する。
このため1つのクラスター中で、Ti3+による粉末を成長させる機能と、Ti4+による粉末の成長を抑制する機能とが、1つの同じ粉末に作用しながら、金属粉末が形成される。
【0042】
したがってより一層、平均粒径が小さい上、粒径の揃った、粒度分布がシャープな微細な金属粉末を製造することができる。また金属粉末の真球度を高めることもできる。
しかもこの方法では電解条件を調整して、還元剤溶液中におけるTi4+とTi3+との存在比率を調整することによって、上述した、クラスター中での両イオンの、相反する機能の強弱の程度を制御することも可能であり、それによって金属粉末の粒径を任意に制御することもできる。
【0043】
還元剤溶液の電解処理には、例えば図1に示す電解槽1などを使用すればよい。
図の電解槽1は、陰極室11と、この陰極室11の幅方向略中央部分に挿入、配置した陽極室12とを備えている。
このうち陰極室11の、陽極室12が挿入されて2つに分割された部分11a、11bの、幅方向略中央部分にはそれぞれ1枚ずつの陰極13a、13bを配設してある。また両部分11a、11bは、陰極室12の下側の隙間11cによって繋がれている。
【0044】
一方、陽極室12の、幅方向略中央部分には陽極14を配設してある。また陽極室12の、両部分11a、11bに臨む両側面には通孔12a、12bを形成してあり、この通孔12a、12bを、イオン交換膜15a、15bで塞いである。
陰極13a、13bとしては、例えばカーボンフェルトを用いることができる。また陽極14としては、例えばチタンメッシュの表面に白金をコートしたものなどを用いることができる。さらにイオン交換膜15a、15bとしては、陰イオン交換膜〔例えば旭硝子(株)製の商品名セレミオンなど〕を用いることができる。
【0045】
電解処理に際しては、陰極室11に、前記のように遷移金属の、酸化状態の高いイオンのハロゲン化物と、メタンスルホン酸とを含む還元剤溶液を注入するとともに、陽極室12に、メタンスルホン酸と硫酸ナトリウムとの水溶液を入れる。
この際、メタンスルホン酸の濃度は、陽極側を陰極側より低くするのが好ましい。また陽極側は、上記のように硫酸ナトリウムなどの他の電解質を存在させることによってメタンスルホン酸の濃度をできるだけ希薄にしても構わない。
【0046】
この状態で電解処理を行うと、陰極側では、遷移金属のイオンが、酸化状態の高いイオンから低いイオンに還元(例えばTi4+→Ti3+)されるとともに、水の電気分解によってH2が発生する。またハロゲンイオン(例えばCl−)が、イオン交換膜15a、15bを通して陽極側へ移動する。
そして陽極側では、水の電気分解によってO2が発生するとともに、陰極側から移動したハロゲンイオンが陽極14の表面で反応してハロゲンガス(例えば2Cl−→Cl2↑+2e−)となり、系中から除去される。つまり、電気透析によるハロゲンイオンの除去が進行する。
【0047】
また上記の反応に伴い、電気的中性を保つべく、イオン交換膜を介してH+またはOH−が移動すると考えられる。
イオン交換膜は、前記のように陰イオン交換膜であるが、イオン半径の小さいH+は容易に通過することができるため、電荷補償のためにH+とOH−のどちらがどの程度移動するかは不明である。
一方、メタンスルホン酸イオンのイオン半径はH+やOH−に比べて十分に大きいため、陰イオンであるが、イオン交換膜を介しての移動量は無視できる範囲内である。
【0048】
例えば陰極室11内の塩素イオン濃度を測定しながら、塩素イオン濃度が検出限界以下になるまで電解処理を続けると、上記のように、遷移金属のイオンが酸化状態の低いイオンに還元されるとともに、電気透析によってハロゲンフリーとされた還元剤溶液が得られる。
この状態では通常、遷移金属のイオンの大部分が酸化状態の低いイオンに還元されているが、その一部は空気酸化によって自然酸化されて、酸化状態の高いイオンとなる。つまり前述した、酸化状態の高いイオンと低いイオンとが混在した状態となる。
【0049】
なお両イオンの存在比率を任意に調製するには、例えば電解処理後の還元剤溶液中の、そのほぼ全量が酸化状態の低いイオンに還元された遷移金属のイオンの所定量を強制的に、あるいは自然に酸化させればよい。
あるいは電解処理後の還元剤溶液中の、遷移金属のイオンの全量を強制的に、あるいは自然に酸化させた後、再度、図1の電解槽1を用いて、上記と同様にして、今度は処理の条件(水溶液のpHや電解処理の時間など)を制御しながら電解処理すればよい。
【0050】
《金属粉末の製造方法》
本発明の金属粉末の製造方法は、上記還元剤溶液を含む、実質的にハロゲンフリーである液相の反応系中で、析出対象である1種または2種以上の金属のイオンを、遷移金属のイオンが酸化状態の低いイオンから高いイオンに酸化する際の還元作用によって還元して析出させることで、当該1種または2種以上の金属からなる粉末を形成したのち、反応系から回収することを特徴とするものである。
【0051】
より具体的には、まず上記の還元剤溶液と、析出対象である1種または2種以上の金属のイオンを含む反応液(この反応液も、実質的にハロゲンフリーであるのが好ましいことは言うまでもない)とをそれぞれ調製する。
そしてこの両者を所定の温度条件下、所定の比率で配合して液相の反応系を構成する。
またこの配合の前後いずれかの段階で、pH調整剤を加えるなどして、反応系のpHを所定の範囲、好ましくはpH7以下、特に好ましくはpH3以下に調整する。pH調整剤としては酸を用いるが、実質的にハロゲンフリーの状態を維持するためには塩酸などのハロゲンを含む酸以外の酸を用いるのが好ましく、特にメタンスルホン酸が好ましい。
【0052】
pHを所定の範囲に調整すると、系中で、遷移金属のイオンが酸化状態の低いイオンから高いイオンに酸化する酸化反応が進行し、そしてその際の還元作用によって、同じ系中の金属のイオンが還元され、液中から析出して金属粉末を生成する。
これを反応後、ろ過などして反応系中から回収して洗浄、乾燥などすると金属粉末の製造が完了する。
【0053】
かかる本発明の製造方法は、先に説明したようにメタンスルホン酸イオンが存在する系において、とくに還元剤溶液のpHが7以下の酸性であるときに、遷移金属のイオンの還元作用によって液中に析出し得る種々の金属からなる金属粉末の製造に適用することができる。かかる金属としては、前述したようにとくに貴金属やCuなどの1種または2種以上を挙げることができる。
かくして製造される金属粉末は、レドックス析出法によるものの特質として平均粒径が小さい上、粒径の揃った、粒度分布がシャープな微細なものとなる。具体的には、平均粒径が2〜1000nmの、粒径の揃った金属粉末を製造することができる。
【0054】
また金属粉末は、実質的にハロゲンフリーである還元剤溶液を用いて製造したものゆえ実質的にハロゲンを含有しておらず、金属自体の持つ良好な特性を十二分に発揮し得るものとなる。
例えば貴金属やCuにて形成した金属粉末は導電性に優れるため、導電ペーストなどの導電材料として好適に使用できる。また、貴金属やCuにて形成した金属粉末は鏡面光沢性に優れるため、鏡面光沢塗料用の顔料などとして使用することもできる。さらに貴金属にて形成した金属粉末は、前述した無電解めっき用のめっき触媒として、プラスチックなどの不導体製の被めっき物の表面に分散させるなどして使用することもできる。
【0055】
さらに金属粉末は、遷移金属のイオンとしてTiイオンを使用した場合、当該Tiイオンに起因するTiO2をごく微量、詳しくは10〜1000ppm程度、含有しており、かかるTiO2が光触媒として機能して、金属の腐食原因となる水を分解することで、例えばAgやCuなどの酸化による変色、導電性の低下などを防止することができる。
金属粉末を回収した後の液は、先に述べたように図1の電解槽1などを用いた電解処理によって、液中の遷移金属のイオンを酸化状態の低いイオンに戻すことで、還元剤溶液として再生したのち、金属粉末の製造に再使用することができる。
【0056】
その際、Tiイオンを例にとると、最初に使用した還元剤溶液が、前述したようにTi4+の一部をTi3+に還元した、Ti4+とTi3+とが混在した状態としたものであって、それと同条件での金属粉末の製造を繰り返したい場合は、電解処理の条件を調整して、Ti4+とTi3+とが上記と同じ比率で混在した状態に戻して再使用すればよい。また条件を少し変更したい場合は、電解処理の条件を調整して、Ti4+とTi3+の比率を少し違えた状態にして再使用することもできる。
【0057】
《金属被膜の形成方法》
本発明の金属被膜の形成方法は、前記還元剤溶液を含む、実質的にハロゲンフリーである液相の反応系中に被めっき物を浸漬した状態で、析出対象である1種または2種以上の金属のイオンを、遷移金属のイオンが酸化状態の低いイオンから高いイオンに酸化する際の還元作用によって還元して析出させることで、上記被めっき物の表面に、当該1種または2種以上の金属からなる金属被膜を形成することを特徴とするものである。
【0058】
より具体的には、まず上記の還元剤溶液と、析出対象である1種または2種以上の金属のイオンを含む反応液(やはり実質的にハロゲンフリーであるのが好ましい)とをそれぞれ調製する。
そしてこの両者を所定の温度条件下、所定の比率で配合して液相の反応系を構成するとともに、あらかじめ脱脂、洗浄した被めっき物を浸漬する。
また、この配合の前後いずれかの段階で、pH調整剤を加えるなどして、反応系のpHを所定の範囲、好ましくはpH7以下、特に好ましくはpH3以下に調整する。pH調整剤としては、前記と同様にメタンスルホン酸が好ましい。
【0059】
pHを所定の範囲に調整すると系中で、遷移金属のイオンが酸化状態の低いイオンから高いイオンに酸化する酸化反応が進行し、そしてその際の還元作用によって、同じ系中の金属のイオンが還元され、液中から析出して被めっき物の表面に金属被膜を形成する。
反応後、被めっき物を反応系中から回収して洗浄、乾燥などすると金属被膜の形成が完了する。
【0060】
かかる本発明の形成方法は、先に説明したようにメタンスルホン酸イオンが存在する系において、とくに還元剤溶液のpHが7以下の酸性であるときに、遷移金属のイオンの還元作用によって液中に析出し得る種々の金属からなる金属被膜の形成に適用することができる。かかる金属としては、前述したようにとくに貴金属やCuなどの1種または2種以上を挙げることができる。
そして本発明の形成方法によれば、レドックス析出法の特質として、高価な貴金属系のめっき触媒などを使用せずに、プラスチック、ガラスなどの不導体の表面に金属被膜を形成したり、あるいは金属の表面に、それよりも電気化学的に卑な金属からなる金属被膜を形成したりすることができる。
【0061】
また金属被膜は、実質的にハロゲンフリーである還元剤溶液を用いて製造したものゆえ実質的にハロゲンを含有しておらず、金属自体の持つ良好な特性を十二分に発揮し得るものとなる。
例えば貴金属やCuにて形成した金属被膜は導電性に優れるため、プリント配線板の導体回路や、あるいは合成樹脂製多孔質体の表面を導電化して電池用極板を形成するための金属層などとして好適に使用できる。とくにAgにて形成した導体回路や金属層は、マイグレーションを発生させる起点として機能するハロゲンを含まないため、これまでのものよりもマイグレーションを生じにくい。このため、例えばAgにて形成した導体回路は、これまでよりもさらにファインピッチ化することが可能となる。さらに貴金属やCuにて形成した金属被膜は鏡面光沢性に優れるため、例えば光学機器用のミラーレンズなどに使用することもできる。
【0062】
さらに金属被膜は、遷移金属のイオンとしてTiイオンを使用した場合、当該Tiイオンに起因するTiO2をごく微量、詳しくは10〜1000ppm程度、含有しており、かかるTiO2が光触媒として機能して、金属の腐食原因となる水を分解することで、例えばAgやCuなどの酸化による変色、導電性の低下などを防止することができる。
金属被膜を形成した後の液は、やはり電解処理によって、液中の遷移金属のイオンを酸化状態の低いイオンに戻すことで、還元剤溶液として再生したのち、金属被膜の形成に再使用することができる。
【0063】
その具体的な方法などは、金属粉末の製造の場合と同様である。
【0064】
【実施例】
以下に本発明を、実施例、比較例に基づいて説明する。
実施例1
(還元剤溶液の電解処理)
四塩化チタンの15重量%水溶液100重量部に、メタンスルホン酸8重量部と、クエン酸三ナトリウム23重量部とを加えて還元剤溶液を調製し、この還元剤溶液を、前記図1の電解槽1の陰極室11に注入するとともに、陽極室12には、メタンスルホン酸と硫酸ナトリウムとの水溶液を入れた。
【0065】
なお陰極13a、13bとしては、チタンメッシュの表面に東洋紡績(株)製のポリアクリロニトリルを焼成して得たカーボンフェルトを用いた。また陽極14としては、チタンメッシュの表面に厚み1μmの白金をコートしたものを用いた。さらにイオン交換膜15a、15bとしては、陰イオン交換膜〔旭硝子(株)製の商品名セレミオンAMVタイプ〕を用いた。
そして陰極13a、13bと陽極14とを図示しない外部電源に接続するとともに、陰極室11内の塩素イオン濃度を測定しながら、電流密度1A/dm2の条件で、塩素イオン濃度が検出限界以下になるまで電解処理を行って、Tiイオンのほぼ全量がTi3+に還元されるとともに、実質的にハロゲンフリーとされた還元剤溶液を得た。
【0066】
(銀粉末の製造)
上記還元剤溶液中の、Ti3+イオンの濃度を、当該還元剤水溶液を、次で述べる反応液と所定の割合で混合するとともに、pH調整剤や、あるいは必要に応じてイオン交換水を加えて所定量の混合液を作製した際に、当該混合液の総量に対するモル濃度で表して0.08M(モル/リットル)となるように調整した。具体的には、電界還元時の通電電気量を、Ti3+イオンのモル濃度が0.08Mとなるように設定して電解還元を行った。また電解後、Ti3+イオンのモル濃度を、硫酸第2セリウムアンモニウム水溶液を用いて滴定して所定濃度となるように調整した。
【0067】
またメタンスルホン酸銀とチオ尿素とをイオン交換水に溶解して反応液を作製した。
メタンスルホン酸銀の量は、前述した混合液の総量に対するモル濃度が0.075Mとなるように設定した。またチオ尿素は、混合液の総量に対する濃度が100ppmとなるように調整した。
上記還元剤溶液を反応槽に入れ、液温を25℃に維持しつつ、かく拌速度1000rpmでかく拌下、メタンスルホン酸の飽和水溶液を加えて液のpHを1.5に調整するとともに、反応液を徐々に加えた後、さらに必要に応じてイオン交換水を加えて所定量の混合液を作製した。反応液およびイオン交換水は、あらかじめ液温を25℃に維持しておいたものを加えた。
【0068】
そして混合液の液温を25℃に維持しながら30分間、かく拌を続けた後、かく拌を停止して液中に生成した沈殿を直ちにロ別、水洗した後、乾燥させて銀粉末を製造した。
銀粉末の塩素イオン濃度を測定したところ、検出限界(1ppm)未満であって、塩素イオンを含まないことが確認された。
実施例2〜11
反応条件として、混合液の液温、pH、Ti3+イオンのモル濃度(Ti4+イオンとTi3+イオンの合計のモル濃度は一定)、メタンスルホン酸銀のモル濃度、チオ尿素の濃度、反応時間、かく拌の有無、および水洗の条件を表1〜3に示すように変化させたこと以外は実施例1と同様にして銀粉末を製造した。なお水洗の条件のうち「通常」は純水での水洗、「強化」は純水→3%NH4液→純水での水洗とした。
【0069】
実施例13
チオ尿素に代えてポリエチレンイミン系分散剤〔日本触媒社製のPAO2006W〕を使用したこと以外は実施例1と同様にして銀粉末を製造した。上記分散剤の濃度は、混合液の全量に対して0.5g/リットルとした。
上記各実施例で製造した銀粉末の電子顕微鏡写真を、走査型電子顕微鏡〔日立製作所製のS−900型HR−SEM〕を用いて撮影して評価した。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
【表3】
【0073】
表および図より、実施例1と、当該実施例1に対してチオ尿素の濃度を調整した実施例3、4とを比較すると、チオ尿素の濃度を高くするほど、銀粉末の粒径を小さくできることがわかった。また実施例1と、当該実施例1に対して液温を高めた実施例5とを比較すると、液温を高くするほど、銀粉末の粒径を小さくできることがわかった。さらに実施例1と、当該実施例1に対してTi3+イオンのモル濃度を調整した実施例8〜10とを比較すると、Ti3+イオンのモル濃度を高くするほど、銀粉末の粒径を大きくできることがわかった。
【0074】
一方、実施例1と、当該実施例1に対して液のpHを高めた実施例2、メタンスルホン酸銀のモル濃度を調整した実施例6、7、かく拌をしなかった実施例11、かく拌をせず水洗条件を強化した実施例12、およびチオ尿素に変えてポリエチレンイミン系分散剤を使用した実施例13とを比較すると、これらはいずれも、ほぼ同等の微細で、かつ粒径の揃った銀粉末を製造できることがわかった。なおかく拌をしなかった実施例11は板状の生成物が多数見られたが、これは実施例12に見るように水洗を強化することで消失させることができた。
【0075】
実施例14
(液の電解再生)
実施例1において銀粉末をロ別した後の混合液を、再び前記図1の電解槽1の陰極室11に注入するとともに、陽極室12には、硫酸ナトリウムの10重量%水溶液を入れた。
なお陰極13a、13b、陽極14、およびイオン交換膜15a、15bとしては、前記と同じものを用いた。
【0076】
そして陰極13a、13bと陽極14とを図示しない外部電源に接続して、電流密度1A/dm2の条件で電解処理を行って、Tiイオンのほぼ全量がTi3+に還元された、実質的にハロゲンフリーの還元剤溶液として再生した。
そしてこの還元剤溶液を用いて、実施例1と同様の操作をしたところ、当該実施例1とほぼ同等の微細で、かつ粒径の揃った銀粉末を製造することができた。また製造された銀粉末の塩素イオン濃度を測定したところ、検出限界(1ppm)未満であって、塩素イオンを含まないことが確認された。
【0077】
さらに上記の再生と銀粉末の製造を繰り返し行ったところ、50回以上繰り返しても、実施例1とほぼ同等の微細で、かつ粒径の揃った銀粉末を製造することができた。
比較例1
三塩化チタンとクエン酸三ナトリウムとの水溶液にアンモニアを加えて、pHを9.5とした。三塩化チタンの量は、pHを調整した状態での液の全量に対して0.08M、クエン酸三ナトリウムの量は、上記液の全量に対して0.24Mとした。
【0078】
そしてこの液に、0.08M分の硝酸銀を加えた後、液中に生成した沈殿を直ちにロ別し、水洗、乾燥して分析したところ、銀粉末と、酸化チタンであった。このうち銀粉末の塩素イオン濃度を測定したところ、3.2重量%の塩素イオンを含むことが確認された。
また沈殿をロ別した後の液に硝酸または硫酸を加えて、pHを1.5に調整した状態で、図1の電解槽1の陰極室11に注入して、実施例14と同条件で電解処理を行って液を再生し、銀粉末を製造する操作を繰り返し行ったところ12回が限界であり、13回目には沈殿が全く析出しなくなった。
【0079】
実施例15
(基材の前処理)
基材としてはABS樹脂製の板材を用いた。この基材を、まずABS樹脂表面の汚れを取る目的でエタノールに1分間、浸漬し、次いでパラジウムキャタリスト溶液(奥野製薬社製)を純水で薄めてPd含量を5ppmに調整した液に、室温で5分間、浸漬した。
【0080】
(銀被膜の形成)
上記処理を施した基材を、実施例1で調製したのと同じ混合液に浸漬して約10分間のめっき処理をして、当該基材の表面に銀被膜を形成した。
形成した銀被膜の電子顕微鏡写真を、前記と同じ走査型電子顕微鏡を用いて撮影したところ、図15に示すように微細な銀微粒子が一体化して膜化していることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の還元剤溶液を、種々の工程で電解処理するために用いる電解槽の、内部構造の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の実施例1で製造した銀粉末の粒子構造を示す電子顕微鏡写真である。
【図3】本発明の実施例2で製造した銀粉末の粒子構造を示す電子顕微鏡写真である。
【図4】本発明の実施例3で製造した銀粉末の粒子構造を示す電子顕微鏡写真である。
【図5】本発明の実施例4で製造した銀粉末の粒子構造を示す電子顕微鏡写真である。
【図6】本発明の実施例5で製造した銀粉末の粒子構造を示す電子顕微鏡写真である。
【図7】本発明の実施例6で製造した銀粉末の粒子構造を示す電子顕微鏡写真である。
【図8】本発明の実施例7で製造した銀粉末の粒子構造を示す電子顕微鏡写真である。
【図9】本発明の実施例8で製造した銀粉末の粒子構造を示す電子顕微鏡写真である。
【図10】本発明の実施例9で製造した銀粉末の粒子構造を示す電子顕微鏡写真である。
【図11】本発明の実施例10で製造した銀粉末の粒子構造を示す電子顕微鏡写真である。
【図12】本発明の実施例11で製造した銀粉末の粒子構造を示す電子顕微鏡写真である。
【図13】本発明の実施例12で製造した銀粉末の粒子構造を示す電子顕微鏡写真である。
【図14】本発明の実施例13で製造した銀粉末の粒子構造を示す電子顕微鏡写真である。
【図15】本発明の実施例15で製造した銀被膜の表面状態を示す電子顕微鏡写真である。
Claims (10)
- 析出対象である1種または2種以上の金属のイオンを、液相の反応系中で、遷移金属のイオンが酸化状態の低いイオンから高いイオンに酸化する際の還元作用によって還元して析出させるレドックス析出法に用いる還元剤溶液であって、水に、遷移金属のハロゲン化物とメタンスルホン酸とを溶解したのち、ハロゲンイオンを除去して調製され、上記遷移金属のイオンと、対イオンとしてのメタンスルホン酸イオンとを含み、実質的にハロゲンフリーであることを特徴とする還元剤溶液。
- 遷移金属のイオンとしてTi、Co、Fe、Cr、V、Ni、Mo、およびMnからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属のイオンを含むことを特徴とする請求項1記載の還元剤溶液。
- pHの変動を抑制するための緩衝剤、および遷移金属イオンを安定させるための錯化剤を含むことを特徴とする請求項1記載の還元剤溶液。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の還元剤溶液を含む、実質的にハロゲンフリーである液相の反応系中で、析出対象である1種または2種以上の金属のイオンを、遷移金属のイオンが酸化状態の低いイオンから高いイオンに酸化する際の還元作用によって還元して析出させることで、当該1種または2種以上の金属からなる粉末を形成したのち、反応系から回収することを特徴とする金属粉末の製造方法。
- pH調整剤を加えてpHを7以下に調整した液相の反応系中で、金属を析出させることを特徴とする請求項4記載の金属粉末の製造方法。
- 析出した金属粉末を安定に分散させるための分散剤を加えた液相の反応系中で、金属を析出させることを特徴とする請求項4記載の金属粉末の製造方法。
- 金属を析出させた後の液を電解処理して、遷移金属のイオンを酸化状態の高いイオンから低いイオンに還元することで、還元剤溶液として再生することを特徴とする請求項4記載の金属粉末の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の還元剤溶液を含む、実質的にハロゲンフリーである液相の反応系中に被めっき物を浸漬した状態で、析出対象である1種または2種以上の金属のイオンを、遷移金属のイオンが酸化状態の低いイオンから高いイオンに酸化する際の還元作用によって還元して析出させることで、上記被めっき物の表面に、当該1種または2種以上の金属からなる金属被膜を形成することを特徴とする金属被膜の形成方法。
- pH調整剤を加えてpHを7以下に調整した液相の反応系中で、金属を析出させることを特徴とする請求項8記載の金属被膜の形成方法。
- 金属を析出させた後の液を電解処理して、遷移金属のイオンを酸化状態の高いイオンから低いイオンに還元することで、還元剤溶液として再生することを特徴とする請求項8記載の金属被膜の形成方法。
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