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JP4213586B2 - ラクダ抗体ライブラリーの作製方法 - Google Patents

ラクダ抗体ライブラリーの作製方法 Download PDF

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JP4213586B2 JP2003528865A JP2003528865A JP4213586B2 JP 4213586 B2 JP4213586 B2 JP 4213586B2 JP 2003528865 A JP2003528865 A JP 2003528865A JP 2003528865 A JP2003528865 A JP 2003528865A JP 4213586 B2 JP4213586 B2 JP 4213586B2
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Description

技術分野
本発明は、ラクダ抗体ライブラリーの作製方法に関する。
背景技術
ラクダ科の動物の免疫グロブリン(抗体分子)を構成するIgGには、重鎖と軽鎖を有するヘテロ4量体の構造と、重鎖の2量体からなる構造とが存在することが知られている(Isr.J.Vet.Med.43 No3 198(1987)、Nature,363,446(1993))。4量体構造はヒトをはじめとする多くの動物に共通の特徴である。一方、後者の重鎖2量体構造からなるIgGは、ラクダ科動物に特徴的なIgGとされている。ラクダ科動物における、重鎖の2量体からなるIgGは、病的な状態に起因する偶発的なものではない。
アジアやアフリカのラクダ科動物であるCamelus bactrianusやCamelus dromedarius、並びに南アメリカのラクダ科動物の全ての種において、軽鎖を欠く免疫グロブリンが見出されている。南アメリカのラクダ科動物としては、たとえばLama Pacos、Lama Glama、あるいはLama Vicugna等を示すことができる。動物種によって2量体IgGの分子量は異なっている。これらの免疫グロブリンを構成する重鎖の分子量は、約43kDaから約47kDa、通常45kDaである。
重鎖2量体IgGのもうひとつの特徴は、この抗体がRoittらの定義によるCH1と呼ばれる定常領域の最初のドメインを欠く点である。また、ヒンジ部分も通常のヘテロ4量体抗体(重鎖+軽鎖)とは異なるアミノ酸配列を有している。アミノ酸配列の違いに基づいて、ヒトコブラクダのIgGは次のように分類されている(Nature 363 446(1993))。
IgG2:長いヒンジ配列(配列番号:8)を持つ
IgG3:短いヒンジ配列(配列番号:9)を持つ
IgG1:ヘテロ4量体抗体
重鎖2量体IgGのVH領域は、軽鎖との疎水的相互作用が必要ないため、重鎖における軽鎖と接触する部分が親水性のアミノ酸残基に変異している。通常のヘテロ4量体IgGのVHとの構造的な違いによって、重鎖2量体IgGのVH領域はVHH(Variable domain of the heavy−chain of heavy−chain antibody)と呼ばれている。
VHHは、その親水性アミノ酸残基のため溶解性が優れる。VHHにおけるアミノ酸置換は、一次構造(アミノ酸配列)のいたるところに分散している。そしてこれら親水性アミノ酸残基は、VHにおけるVLドメインと相互作用する位置に相当する三次構造空間内にクラスターを形成する。ここで、前記の三次構造空間を、特に前部VLサイドと呼ぶ。これらのアミノ酸置換は、例えばV37FまたはV37Y、G44E、L45RまたはL45Cであり、W47の多くもGlyに置換されている。このような置換は、VHHの前部VLサイドの親水性を高める。
したがって、VHHの溶解度は、ヒトまたはマウスから単離精製されたVH(シングルドメイン抗体;Wardら、Nature,341,544(1989))の溶解度よりもはるかに大きい。VHHは、通常の緩衝液に対してどのような凝集の徴候も見せることなく、10mg/mlにまで容易に濃縮することができる。この濃度は、たとえばマウスのVHの溶解度の約100倍に匹敵する。
また、ラクダやラマに由来するVHHの熱安定性は、マウスのヘテロ4量体抗体と比較して非常に高い。これらの種に由来するVHHを利用すれば、たとえば90℃でも抗原結合能を維持している分子の提供が可能である(Biochim Biophys Acta 1431(1)37,1999)。
さてラクダ科動物の抗体レパートリーの多様性は、VHまたはVHH領域中のCDR(complementary determining region)1、2、3によって決定される。3つのCDRを有する点は、他の動物種のIgGと共通する。しかし、ラクダVHH領域中のCDR3は、平均16アミノ酸と相対的に長いという特徴を有する(Protein Engineering 7(9)1129,1994)。たとえばマウスのVHのCDR3が平均9アミノ酸であることと比較すると、ラクダのIgGにおけるCDR3が相対的に非常に長いことがよくわかる。
ところで、これまでに構造がわかっている重鎖+軽鎖ヘテロ4量体抗体の抗原結合部位の多くは、groove(溝)またはcavity(くぼみ)またはflat(平坦)といった抗原結合面を形成することが知られている〔Websterら、Current Opinion in Structural Biology,4,23,1994〕。したがって、もし結合対象物質のエピトープもまたgrooveまたはcavityであった場合、抗体の抗原結合部位は、うまく結合できない可能性がある。たとえば、酵素等のタンパク質の触媒性または機能的残基あるいは毒性部分は、多くの場合、cleft(裂け目)の内側に位置している。この構造が、酵素の基質や受容体が、タンパク質と非常に特異的に相互作用することを容易にしている。しかし、cavityやcleftといった構造はヘテロ4量体抗体にとっては認識が難しいため、大きな免疫原性はない。
これに対してラクダ科動物のVHHは、上述したその特徴的な構造によりcleftおよびcavityを特異的に認識できることが報告されている。例えば、酵素を抗原として免疫したラクダの末梢血から抗体を分離した実験では、ラクダIgG2、IgG3のみに酵素活性中心を塞ぐ抗体が存在し、IgG1には活性中心を塞ぐ抗体が得られなかったと報告された(EMBO J 17(13):3512,1998)。更に、Lysozyme活性阻害作用を有するVHHが、Lysozymeで免疫したラクダに由来するライブラリーからファージディスプレイ法によって分離された(FEBS Letters(414)521,1997)。そして分離されたVHHの構造が、LysozymeとのX線結晶解析(Nature Stuructural Biology,2,803,1996)によって示された。その結果は、ラクダ抗体のIgG2あるいはIgG3においては、CDR3領域が長く突き出して酵素の基質結合部位に入り込んで活性中心を塞ぐように結合することにより、拮抗阻害を起こしていることを示していた。
ラクダ科動物に由来するVHHには、このように溶解性が高い、4量体構造のIgGでは期待できない新たな活性を有する可能性がある、といった産業上有用な特徴を見出すことができる。抗体可変領域の取得には、目的とする抗原による動物の免疫と、抗体の分離が必要である。しかし、このような古典的な手法は、大量の抗原を精製しなければならないことや、非特異的な抗体の生成といった問題を伴う。そこで抗体可変領域をより容易に取得する手法として、rgdpライブラリーを用いたスクリーニング方法が提案されている。rgdpライブラリーとは、抗体可変領域のような結合親和性物質をコードする遺伝子が、その発現産物を提示した遺伝的表示パッケージで構成されたライブラリーを言う。抗体可変領域を提示したファージライブラリーは、rgdpライブラリーの代表的な例である。
抗体可変領域を提示したファージライブラリーを用いた、抗体の取得方法は、労働集約的な古典的な抗体の作製手法に代わる新たな抗体の取得方法として注目されている。本発明者らも、抗体可変領域を効率的に取得することができる新規な抗体ライブラリーを作製し、既に特許出願している(WO 01/62907)。VHHについてもそのライブラリーを作製し、ライブラリーから任意の抗原に対する結合親和性を有するVHHを自由に選択することができれば有用である。しかし、ラクダ科動物のVHHのライブラリーの作製には、いくつかの問題点が指摘されている。
ラクダ科動物のVHH構造のもうひとつの特徴として、通常可変領域に存在する22番目と92番目のシステインの他に、CDR3にシステイン残基が存在することが多いことが挙げられる。CDR3のシステイン残基はCDR1あるいはCDR2近傍にあるもうひとつのシステインと、ジスルフィド結合すると考えられている(Protein Engineering 7(9)1129,1994、J.Mol.Recognit.12:131,1999)。CDR1およびCDR2は、germline(生殖系列)のV遺伝子によって決定される。そしてそれらは、CDR3とともに抗原結合に関して重要な役割を果たしている。(Nature Stuructural Biology,2,803,1996、Structure 7(4)1999、J Mol Biol 311(1):123,2001)。一般にgermline(生殖系列)とは、生殖細胞などで維持される染色体遺伝子、すなわちリアレンジメントを生じていない染色体遺伝子を意味している。本出願では、染色体遺伝子の中でも特に抗体遺伝子を構成する部分をgermlineと言う。
最近、ラクダ科動物であるヒトコブラクダおよびラマのgermlineが調査された。その結果ヒトコブラクダおよびラマのIgGは、CDR2の長さとV領域のシステインの位置によって分類されている(EMBO J.19(5)921,2000、Mol.Immunol 37 579,2000)。
しかし、従来取得されている抗体遺伝子は、ヒトコブラクダのgermline全体に由来する抗体遺伝子を充分にカバーしているとは考えにくいことが指摘されている。たとえば、これまでに得られた抗体のcDNAの塩基配列の分類が一部のクラスに集中していることから、これらの抗体が由来するgermlineは偏っていることが明らかである(EMBO J.19(5)921,2000)。また方法論的にも、次のような問題点が考えられた。すなわち公知のライブラリー構築には、N末端側のプライマーは1種しか用いられていなかった。そのため、特異性の問題からVHH遺伝子が由来するgermlineの漏れの可能性、あるいは増幅産物が偏る可能性があった(FEBS Letters 414 521,1997)。
構成遺伝子に偏りがあるライブラリーは、レパートリーに乏しい。したがって、このようなライブラリーをスクリーニングしても、目的の抗原に対する抗体を得られない可能性がある。このことが、非免疫ラクダ由来ファージライブラリーから酵素活性を阻害する、あるいは促進する抗体が取得できない原因となっている可能性がある。
従来技術では、ラクダやラマの免疫グロブリン重鎖の可変領域を取得するために、十分量の抗原を用いて予めラクダやラマを免疫する方法が提唱されている(特表平11−503918、EMBO J 17(13):3512,1998、FEBS Letters(414)521,1997)。この方法は、ラクダやラマの免疫系が、それ自身の重鎖抗体をin vivoで成熟させることを利用している(特表2000−515002、J.Immuno.Methods(240)185,2000)。この方法に基づいて、Lysozyme、破傷風トキソイド、カルボニックアンヒドラーゼ、アミラーゼ、RNaseA、あるいはアゾ色素などを認識する抗体が得られている。
しかしながら、この方法は、免疫感作を要するために次のような様々な制約を受ける。
免疫感作期間が必要であること、
ラクダ科動物への免疫原の毒性の影響、
免疫原性が低い物質の抗体の取得が難しいこと、そして
免疫感作のために相対的に多量の抗原が必要であること
更に、免疫感作の問題を回避する方法として、以下のステップを特徴とする方法が提唱された(特表2000−515002)。
1)ラクダ科重鎖抗体をランダムに選択し;
2)コーディング配列を単離し、ファージディスプレイベクターにおいてクローニングし;
3)そのコーディング配列を少なくともひとつのコドンにおいてランダムに置換することにより修飾し;
4)ファージディスプレイベクターにおいてランダムに突然変異したコーディング配列のライブラリを作製し;
5)そのベクターを導入したファージにおいて該コーディング配列を発現し;
6)次いで、ファージを固定抗原で選り分けることによって抗原に特異的な認識分子を選択する、
またこれに類する解決法として、ラクダ抗体のフレームワークを利用する方法も提案されている。この方法は、VHHおよびVHのCDR1、CDR2、およびCDR3を、ラクダ抗体のフレームワークに組み込んでラクダ抗体を再構築する方法である。この手法は、マウスのVHをヒト化するために考え出された手法を応用している。各CDRのループをランダムに突然変異させて、レパートリーサイズを大きくすることができる。その結果、親和性と特異性を調整することができる(特表2000−515002)。
これらの解決法は、いずれもコーディング配列に人為的な変異を導入することによって多様性を獲得しようという原理に基づいている。しかしながら、こういった試みの多くは変異の導入の際に多大な労力、煩雑な手順を経ており、多大な時間を費やしていた。また、こういった試みの多くは、活性な抗体の生成に伴って、遥かに多くの不活性な抗体を多く生み出す非効率性を伴っていた。
一方、免疫していないラクダの組織や血液から得たVHHの遺伝子をファージディスプレイベクターに組み込んでファージライブラリーを作製し、このライブラリーから結合能のあるファージを固定抗原で選り分けることによって抗原に特異的な認識分子を選択する方法も考えられる。しかしこの方法では、けっきょく免疫原性が充分なものに対するVHHしか得られないと考えられていた。そのため、VHHの遺伝子を組み込んだファージライブラリーを用いる方法については、充分な検討は行われてこなかった(特表2000−515002)。したがって、酵素の活性を阻害あるいは促進する抗体が得られるほど多様なレパートリーを含む非免疫ラクダ由来VHH抗体ファージライブラリーはこれまで存在しなかった。
発明の開示
本発明の課題は、十分なレパートリーサイズを有するVHHライブラリーの提供である。また本発明は、不活性なVHHの生成を伴わないVHHライブラリーの提供を課題とする。
本発明は、従来のVHH可変領域単離プロセスを改善することによって非常に大きいレパートリーの広がりをもつVHHライブラリーを提供する。すなわち、遺伝子を増幅するプライマーの工夫によって、より生体における多様性を忠実に再現したgermline VHH遺伝子を増幅することができた。
また、VHHはラクダ科の動物に発達した、補完的な意味合いの大きい抗体分子であり、VH遺伝子とは抗体の成熟プロセス等が全く異なる集団であることを我々は明らかにした。そこで、VHH遺伝子の多様性を最大限とするため、これまでのライブラリーでは重視されていなかった個体数を増加させることによる多様性の確保を試みた。その結果、1個体を越える数のラクダの遺伝子を用いて多様性の大きいライブラリーを作製することに成功した。
また、我々はPCR法を用いて遺伝子を増幅する際に失われる多様性を最小限とするため、PCRで増幅させる遺伝子は対数増殖期で回収し、一部の遺伝子が飽和することを防いだ。更に、我々はIgMクラスの可変領域遺伝子も取得した。一般にIgMクラスの免疫グロブリンはナイーブなレパートリーを有するとされている。そのためIgGは、ラクダ生体に生じた自然な免疫感作によるクローンの偏りを伴っている可能性がある。一方IgMではこのような偏りが起こっていないと考えられる。
以上のプロセスを経て、非免疫抗体可変領域ライブラリーとしては非常に大きな多様性を確保したライブラリーを作製することが可能となった。すなわち本発明は、以下の抗体可変領域のライブラリー、その作製方法、およびその用途に関する。
〔1〕ラクダ科動物生体における可変領域の多様性を維持した、ラクダ科動物由来VHHのライブラリー。
〔2〕ライブラリーを構成するクローンの任意の33クローンを取り出して調べたときに、少なくとも8個以上のクラスが含まれる、〔1〕に記載のライブラリー。
〔3〕ライブラリーを構成するクローンから無作為に十分量のクローンを取り出して調べたときに、少なくとも6つのVHHサブファミリーが含まれ、かつ15個以上のクラスが含まれる、〔2〕に記載のライブラリー。
〔4〕少なくとも、105以上のVHH遺伝子クローンを含む、〔1〕に記載のライブラリー
〔5〕IgG2、および/またはIgG3のイムノグロブリン遺伝子に由来するVHH遺伝子クローンで構成された、〔1〕に記載のライブラリー。
〔6〕VHH遺伝子の構成比率が60%以上である〔5〕に記載のライブラリー。
〔7〕rgdpライブラリーである〔1〕に記載のライブラリー
〔8〕以下の工程を含む、目的とする物質に対する親和性を有するVHHをコードする遺伝子の取得方法。
(1)〔7〕に記載のライブラリーを、目的とする物質に接触させる工程、および
(2)目的とする物質に結合するVHHを有するクローンを選択する工程
〔9〕目的とする物質が酵素分子またはその断片である〔8〕に記載の方法。
〔10〕次の工程を含む、酵素活性を調節する作用を有するVHHを取得する方法。
(1)〔9〕に記載の方法によって、酵素に結合するVHHを取得する工程、
(2)工程(1)で取得されたVHHを当該酵素と接触させる工程、および
(3)VHHを接触させない場合と比較して、当該酵素の酵素活性を変化させる作用を有するVHHを選択する工程
〔11〕〔8〕または〔10〕に記載の方法によって選択されたVHHをコードする遺伝子。
〔12〕次の工程を含む、ラクダ科動物由来VHHを可変領域として有するイムノグロブリンまたはその断片の製造方法。
(1)〔8〕に記載の方法によって目的とする物質に対する結合活性を有するVHHをコードする遺伝子を取得する工程、
(2)得られたVHHをコードする遺伝子を、宿主細胞において発現可能なベクターに組み込んでVHH発現ベクターとする工程、および
(3)VHH発現ベクターを宿主細胞に導入し、その培養物からVHHを含む蛋白質を回収する工程
〔13〕次の工程を含む、VHHライブラリーの作製方法。
(1)ラクダ科動物に属する動物種の複数の個体からVHH遺伝子を取得する工程、および
(2)工程(1)で取得したVHH遺伝子を混合してライブラリーとする工程
〔14〕工程(1)で取得したVHH遺伝子を増幅する工程を含む〔13〕に記載の方法。
〔15〕PCR法によって増幅する〔14〕に記載の方法。
〔16〕増幅産物が指数増殖を示しているときにPCR法の増幅産物を回収する工程を含む〔15〕に記載の方法。
〔17〕ラクダ科動物がヒトコブラクダであり、配列番号:1〜配列番号:6に記載の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドから選択されたいずれかの5’側プライマー、および配列番号:10に記載の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドからなる3’側プライマーからなるプライマーセットを用い、各プライマーセットによる増幅産物を混合する工程を含む〔15〕に記載の方法。
〔18〕ラクダ科動物がヒトコブラクダであり、配列番号:1〜配列番号:6に記載の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドから選択されたいずれかの5’側プライマー、および配列番号:11に記載の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドからなる3’側プライマーからなるプライマーセットを用い、各プライマーセットによる増幅産物を混合する工程を含む〔15〕に記載の方法。
〔19〕制限酵素SfiIおよびAscIで消化した増幅産物を次の性状(i)および(ii)を有するベクターにライゲーションする工程を含む〔17〕または〔18〕に記載の方法。
(i)SfiIサイトおよびAscIサイトを有する、および
(ii)適当な宿主に形質転換することによって上記サイトに挿入された外来性遺伝子がコードする蛋白質をファージを構成する蛋白質との融合蛋白質として発現する
〔20〕〔17〕または〔18〕に記載の方法によって作製することができるVHHライブラリー。
〔21〕配列番号:1〜配列番号:6に記載の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドから選択された5’側プライマーと、配列番号:10または配列番号:11、に記載の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドから選択された3’側プライマーからなるラクダのVHH遺伝子増幅用のプライマーセット。
〔22〕次の工程を含む、VHライブラリーの製造方法。
(1)ラクダ科動物に属する動物種の複数の個体からVH遺伝子を取得する工程、および
(2)工程(1)で取得したVH遺伝子を混合してライブラリーとする工程
〔23〕工程(1)で取得したVH遺伝子を増幅する工程を含む〔22〕に記載の方法。
〔24〕PCR法によって増幅する〔23〕に記載の方法。
〔25〕増幅産物が指数増殖を示しているときにPCR法の増幅産物を回収する工程を含む〔24〕に記載の方法。
〔26〕ラクダ科動物がヒトコブラクダであり、配列番号:1〜配列番号:6に記載の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドから選択されたいずれかの5’側プライマー、および配列番号:41に記載の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドからなる3’側プライマーからなるプライマーセットを用い、各プライマーセットによる増幅産物を混合する工程を含む〔24〕に記載の方法。
〔27〕制限酵素SfiIおよびAscIで消化した増幅産物を次の性状(i)および(ii)を有するベクターにライゲーションする工程を含む〔26〕に記載の方法。
(i)SfiIサイトおよびAscIサイトを有する、および
(ii)適当な宿主に形質転換することによって上記サイトに挿入された外来性遺伝子がコードする蛋白質をファージを構成する蛋白質との融合蛋白質として発現する
〔28〕ラクダ科動物のIgM由来のVHのライブラリー。
〔29〕〔22〕に記載の方法によって得ることができるVHのライブラリー。
〔30〕rgdpライブラリーである〔28〕または〔29〕に記載のライブラリー。
〔31〕以下の工程を含む、目的とする物質に対する親和性を有するVHをコードする遺伝子の取得方法。
(1)〔30〕に記載のライブラリーを、目的とする物質に接触させる工程、および
(2)目的とする物質に結合するVHを有するクローンを選択する工程
〔32〕目的とする物質が酵素分子またはその断片である〔31〕に記載の方法。
〔33〕次の工程を含む、酵素活性を調節する作用を有するVHを取得する方法。
(1)〔31〕に記載の方法によって、酵素に結合するVHを取得する工程、
(2)工程(1)で取得されたVHを当該酵素と接触させる工程、および
(3)VHを接触させない場合と比較して、当該酵素の酵素活性を変化させる作用を有するVHを選択する工程
〔34〕〔31〕に記載の方法によって選択されたVHをコードする遺伝子。
〔35〕次の工程を含む、ヒトコブラクダ由来VHを可変領域として有するイムノグロブリンまたはその断片の製造方法。
(1)〔31〕に記載の方法によって目的とする物質に対する結合活性を有するVHをコードする遺伝子を取得する工程、
(2)得られたVHをコードする遺伝子を、宿主細胞において発現可能なベクターに組み込んでVH発現ベクターとする工程、および
(3)VH発現ベクターを宿主細胞に導入し、その培養物からVHを含む蛋白質を回収する工程
〔36〕配列番号:1〜配列番号:6に記載の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドから選択されたいずれかの5’側プライマー、および配列番号:41に記載の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドからなる3’側プライマーからなるヒトコブラクダVH遺伝子増幅用プライマーセット。
本発明は、ラクダ科動物生体における可変領域の多様性を維持した、ラクダ科動物由来抗体可変領域のライブラリーに関する。可変領域遺伝子としてVHH遺伝子からなるVHHライブラリーが生体における多様性を維持していることは、例えば次のようにして確認することができる。すなわち、ライブラリーを構成するクローンの任意の33クローンを取り出して調べたときに、少なくとも8個以上のクラスが含まれるライブラリーは、生体における多様性を維持していると言う事ができる。より具体的には、ライブラリーを構成するクローンから無作為に十分量のクローンを取り出して調べたときに、望ましくは6つのVHHサブファミリーが含まれ、かつ15個以上のクラスが含まれる場合に、当該ライブラリーは生体におけるVHHの多様性を維持していると言うことができる。
本発明において、VHHのサブファミリーはシステイン残基の位置に基づく分類である。またクラスは、システイン残基の位置、CDR2の長さ、およびCDR1の長さに基づく分類である。実施例2に示した表1の中で、1つの枠が1つのクラスに相当する。
VHHの公知のサブファミリー分類(EMBO J.19(5)921,2000、Mol Immuno 127(10)2000)は、システイン残基の位置とCDR2の長さに基づく分類となっている。これに対して本発明者らの解析によれば、公知の分類ではカバーすることができないシステイン残基やCDR2の長さが確認された。またCDR1を構成するアミノ酸残基の数も、本発明者らの解析結果では複数種の長さが見出されているのに対して、これまでは1種類とされていた。したがって、公知の分類に基づいてVHHを分類することは、事実上不可能である。
さて、公知のライブラリーの解析結果(EMBO J.19(5)921,2000)に上記本発明におけるサブファミリー、およびクラスの分類方法を適用すると、サブファミリー数:5、クラス数:7(72クローン中)となる。一方、本発明によるVHHライブラリーでは、たとえば後に述べる実施例において作製したVHHライブラリーを構成するクローンの解析結果に先の分類方法を適用すると、次のような結果になる。
IgG2由来のVHHライブラリー中、任意の89クローンの解析結果:
サブファミリー数:7 クラス数:31
IgG3由来のVHHライブラリー中、任意の59クローンの解析結果:
サブファミリー数:7 クラス数:20
本発明者らは、これらの知見に基づいて、ライブラリーを構成する任意の50クローン以上を調べ、先の分類に基づくサブファミリー数が6以上、そしてクラス数が15以上である場合に、当該ライブラリーが十分な多様性を維持していると判断することができると考えた。
本発明のVHHライブラリーは、具体的にはたとえば10以上のクローン数を有していることが望ましい。したがって、非免疫ラクダ抗体ライブラリーでは、少なくともそれ以上のクローン数を有することが望まれる。本発明の抗体ライブラリーは、より望ましくは10以上、通常10以上、あるいは10以上、更に望ましくは10以上、また理想的には1010以上のクローン数とすることにより、実用的なライブラリーとすることができる。
たとえば後に述べるような方法によって得ることができる本発明のラクダ抗体ライブラリーは、1010以上のクローン数を有する。これほど多様性に富むVHH遺伝子ライブラリーは、これまでに報告は無い。更に重要なことは、本発明のライブラリーを構成するVHH遺伝子に占める、正常な遺伝子の割合が極めて高いことである。VHH遺伝子が正常であることは、VHH遺伝子の塩基配列を決定し、以下のような条件について解析することにより確認することができる。
フレームワーク(frame work)において公知のラクダ抗体のフレームワークと相同性の高い塩基配列を有していること、
翻訳アミノ酸配列にフレームシフトが無いこと、そして
ストップコドンを生じていないこと
更に好ましくは、ヒンジ領域においてVHHの特徴である親水性のアミノ酸が位置する部位において、親水性のアミノ酸残基を有していることも、正常なVHH遺伝子の条件として重要である。
本発明のライブラリーを構成するVHH遺伝子の好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、更に好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上が正常である。更に具体的には、本発明は90%以上の正常なIgG2由来VHH遺伝子を含むVHHライブラリーに関する。あるいは本発明は、95%以上の正常なIgG3由来VHH遺伝子を含むVHHライブラリーに関する。先に述べたような高度な多様性を有し、しかもこのような高い割合で正常なVHH遺伝子を含むライブラリーは、公知の方法で得ることはできない。
本発明において、VHHとはラクダ科動物の血中に見られる2量体構造の免疫グロブリンを構成する可変領域を言う。本発明のライブラリーを構成するVHH遺伝子は、可変領域のみならず定常領域を含むことができる。したがって、VHH遺伝子がヒンジ領域の塩基配列を伴っていてもよい。VHHとVHは、ヒンジ領域に構造的な違いが見られることが多いので、ヒンジ領域にプライマーを設定してヒンジ領域を伴ったVHH遺伝子を取得することにより、VHH遺伝子を特異的に集めることができる。
後に述べる実施例においては、この考えかたにしたがってヒンジ領域において3’側(C末端側)のプライマーを設定している。その結果、実施例において使用したプライマーによって増幅されたVHH遺伝子は、それぞれ次のような高い割合で目的とするクラスのVHHで占められていた。
IgG2(配列番号:10)VH:VHH=7:91(93% VHH)
IgG3(配列番号:11)VH:VHH=1:167(99% VHH)
IgM(配列番号:41)VH:VHH=189:3(1.6% VHH)
本発明のVHHライブラリーは、たとえば次のような手法を利用することによって作製することができる。以下に述べる手法は、いずれもVHHのレパートリーサイズの不足を補うために有用である。
(1)複数の個体に由来するVHH遺伝子を利用する
(2)より幅広い遺伝子を増幅できるプライマーを使って、VHH遺伝子を増幅する
(3)VHH遺伝子の増幅にあたっては、指数的な増幅が進行しつつあるときに増幅産物を回収する
続けて、これらの手法をより具体的に説明する。
(1)複数の個体に由来するVHH遺伝子を利用する
本発明者らの知見によれば、ラクダ科動物のVHH遺伝子のレパートリーサイズは限られ、偏っている場合が多い。そのため、1個体のVHH遺伝子のみでは、任意の抗原に対する抗体を自由に取得できるほどのレパートリーサイズを有するライブラリーを作製することは難しい。そこで、1個体を越える数のVHH遺伝子を利用して、ライブラリーを作製することによって、レパートリーサイズを有効に拡大することができる。
1個体を越える数のVHH遺伝子とは、遺伝的に異なる複数の個体から取得されたVHH遺伝子を含むことを意味する。本発明において遺伝的に異なる複数の個体とは、ゲノムレベルで遺伝的な相違を有する個体を言う。したがって、たとえ同腹仔であっても、それが1卵性でなければ遺伝的には異なる個体である。しかし、レパートリーサイズを広げるという目的のためには、より遺伝的に遠い関係にある個体を組み合わせるほうが有利である。
本発明において、1個体を越える数のVHH遺伝子は、1個体分のVHH遺伝子に、その個体とは異なる個体に由来するVHH遺伝子を加えることによって得ることができる。加えるVHH遺伝子は限定されない。したがって、たとえば他の個体に由来するVHH遺伝子の、部分的な集団を加えた場合も、本発明に含まれる。
加えるべきVHH遺伝子は、1個体あたり10個以上の細胞から回収するのが好ましく、各個体から取得したVHH遺伝子集団の全体とするのが望ましい。全体を利用することによって遺伝子の偏りを防ぐことができる。遺伝子の偏りは、レパートリーサイズを小さくする原因となることから、できるだけVHH遺伝子集団の全体を加えるようにすることは有効である。なおVHH遺伝子集団の全体とは、取得することができたVHH遺伝子の全体を言う。つまり本発明は、ある個体のVHH遺伝子集団を漏れなく加える場合のみならず、取得可能なVHH遺伝子の全てを加える場合を含む。
また本発明において、ある個体に由来するVHH遺伝子に対して添加する他の個体に由来するVHH遺伝子は、個体間の偏りを避けるために、均等に添加するのが望ましい。VHH遺伝子を混合する目的は、レパートリーサイズを大きくすることである。個体間のVHH遺伝子に偏りがある場合には、そのライブラリーを使ったスクリーニングにおいて、特定の個体に由来するVHH遺伝子が優先的に選択される可能性が高まる。このような状況では、レパートリーサイズを大きくした効果は小さくなる。したがって、個体間の偏りを小さくすることは重要である。つまり、ある個体に由来するVHH遺伝子に他の個体のVHH遺伝子を加える場合には、等量のVHH遺伝子の添加が望ましい。更に複数の個体に由来するVHH遺伝子を混合する場合にも、等量のVHH遺伝子を利用するようにすることが望まれる。
(2)より幅広い遺伝子を増幅できるプライマーを使って、VHH遺伝子を増幅する
個体からライブラリーの構築に必要な量のmRNAを得ることができれば、そのままライブラリーを作製することができる。しかし通常は個体から取得したmRNAは微量であることから、VHH遺伝子ライブラリーの構築にあたっては、このmRNAを増幅する。このとき、VHH遺伝子を漏れなく増幅しなければ、ライブラリーのレパートリーサイズを大きくすることはできない。
本発明において、遺伝子の増幅方法は限定されない。VHH遺伝子集団を、できるだけ漏れなく増幅することができる方法であれば、任意の方法を利用することができる。遺伝子の増幅方法として、PCR法を利用するときには、幅広いVHH遺伝子の増幅を期待できるプライマーを利用する。ラクダやラマのVHH遺伝子の取得のためのプライマーは公知である。しかし、本発明者らの知見によれば、公知のプライマーを単独で用いたのでは、VHH遺伝子を偏り無く増幅することは難しい。
そこで本発明者らは、VHH遺伝子をより偏り無く増幅することができるプライマーを新たにデザインした。本発明者らがデザインした、ヒトコブラクダVHH遺伝子を増幅するためのN末端側(5’側)のプライマーの塩基配列を配列番号:1〜配列番号:6に記載した。またC末端側(3’側)は、ヒンジ領域からCH3の間でアニールすることができるプライマーを用いれば良い。このようなプライマーは公知である。例えば本発明者らは、ヒンジ領域のアミノ酸配列を解析し、IgG2とIgG3のヒンジ領域に対して、それぞれ配列番号:10および配列番号:11に記載の塩基配列からなるプライマーをデザインした。これらのプライマーは、6種類の5’側プライマーのそれぞれについて、2種類の3’側プライマーを組み合せた、12とおりの組み合せのプライマーセットとして用いられる。
ヒトコブラクダ以外のラクダ科動物のVHH遺伝子を増幅するには、実施例に記載したような解析方法によって目的とするVHH遺伝子の塩基配列を解析し、プライマーをデザインすることができる。
更に本発明者らは、VH構造を持つ抗体でも、酵素活性を調節する抗体が得られる場合があることから、IgMの抗原認識レパートリーに注目した。IgMは、IgGのVHHの抗原認識レパートリーを補完する上で抗原刺激がない段階での可変領域の原型と考えることができる。免疫による重鎖のin vivoにおける成熟において、IgMはあらゆる抗原に対しての可変領域の原型を保持しており、クラスチェンジによって抗原に最適なIgG可変領域を作り出す設計図を保持していると考えた。そこで、本発明者らはラクダのμ鎖認識配列(配列番号:41)を新たに利用してIgMの可変領域を単離することに成功した。このIgM由来重鎖可変領域ライブラリーはレパートリーの多様性をさらに広げ、認識分子、酵素活性調節分子単離に役立つ。本発明において、IgM由来のVHからなるライブラリーの構築においても、そのレパートリーの多様性を高く維持するために、複数の個体に由来するmRNAを用いることは有効である。
IgM由来のVHライブラリーは、IgG2やIgG3に由来するVHHレパートリーに対して、補完的な意味合いを持つ。補完的とは、VHHからでは選択することができない、あるいはポピュレーションが少ないために選択が困難な機能を有する抗体可変領域を補うことを言う。これらのライブラリーを組み合せることによって、より広範囲な分子を認識しうる抗体可変領域を取得することができる。より具体的には、より多様な酵素に対して酵素活性を調節する機能を有する抗体可変領域の単離が可能である。
これらのプライマーを組み合せて、ラクダの抗体産生細胞から取得したmRNAを鋳型としてPCR法によりVHH遺伝子(IgMの場合は主にVH遺伝子を含む)を増幅する。抗体産生細胞としては、脾細胞や末梢血B細胞等を用いることができる。増幅したVHH遺伝子を回収してライブラリーとして構築することにより、本発明のVHHライブラリーとすることができる。
本発明においては、ある個体に由来するVHH遺伝子に、他の個体のVHH遺伝子を加えることによって、レパートリーサイズの大きさを獲得している。そのためには、増幅産物を混合するか、あるいは予め複数の個体に由来するmRNAを混合したものを鋳型として遺伝子を増幅すれば良い。複数の個体から一定量のmRNAを集め、mRNAの混合物を鋳型として遺伝子を増幅することによって、個体間の遺伝子の偏りを小さくすることができる。また遺伝子の増幅や回収の操作も1度で済むので合理的である。
より具体的には、複数のラクダ個体からmRNAを集め、その等量を混合してmRNAプールとする。このmRNAプールからランダムプライマー、オリゴdTプライマー、あるいは定常領域と相同なプライマー等を用いてcDNAを合成し、PCRの鋳型とする。PCRにおいては、(3)として述べるように指数増幅期において増幅産物を回収するようにする。
本発明のVHHライブラリーは、IgG2とIgG3を別々にライブラリーとすることもできるし、あるいは各ライブラリーを混合して単一のライブラリーとすることもできる。更にIgMのVHライブラリーを組み合せる場合においても、各ライブラリーを別のライブラリーとすることもできるし、あるいは各ライブラリーを混合して単一のライブラリーとすることもできる。個別にライブラリー化する場合には、前記プライマーのうち、3’側プライマーを共有している増幅産物どうしを混合することによって、IgG2、IgG3、およびIgMのライブラリーとすることができる。
IgG2、またはIgG3に由来するVHH、若しくはIgMに由来するVHを、それぞれのクラス毎にライブラリー化することにより、他のクラスのVHH(またはVH)の影響を受けないスクリーニングが可能となる。たとえば、本発明者らの知見によれば、IgG2とIgG3とを混合してスクリーニングすると、IgG2が優先的に選択される傾向が観察される場合があった。その原因としては、各クラスの発現レベルの違い、構成クローン数の違い等が考えられた。クラス別のライブラリーとすれば、このようなクラス間のVHHの干渉を受けることなく、各クラスから目的とする機能を有する抗体を偏り無く取得できる可能性が高まる。
あるいは個体ごとにVHH遺伝子を増幅し、その増幅産物を混合するときには、個体間の遺伝子の割合を一定に保つことにより遺伝子の偏りを防ぐ。具体的には、鋳型の量やプライマーの組み合せ、PCRの反応回数などの、遺伝子増幅の条件を個体間で厳密に一致させる。更に、増幅産物を均等に混合することによって、偏りを防止することができる。ライブラリーに偏りが無いことは、VHH遺伝子発現産物の生体におけるgermline(生殖系列)比率が、ライブラリーにおいて維持されていることを意味する。
germline中のVH−D−JH遺伝子のリアレンジメントにより、VHH遺伝子が形成される。VHH遺伝子発現産物を構成するクローンを調べることにより、そのVHH遺伝子中のVH、D、およびJHがgermline中のどの遺伝子セグメントに由来するかを調べることが理論上可能である。さらに複数のクローンを調べることにより、各遺伝子セグメントの生体中の発現産物全体における使用頻度を推定することができる。このようにして推定された発現産物全体における各遺伝子セグメントの使用頻度をここではgermline比率と呼ぶ。
実際には各遺伝子セグメントの遺伝子配列は完全に明らかになっているわけではないので、後述する「サブファミリー」あるいは「クラス」分類に基づいてgermline比率を分析した。各遺伝子セグメントは、CDR配列の長さ、Cysの位置等の特徴によって「サブファミリー」あるいは「クラス」に分類することができる。偏りの生じているライブラリーでは特定の遺伝子セグメントに由来するクローンの発現頻度は生体中の発現頻度と異なると言える。そこでgermline比率をライブラリーの評価に用いることができる。
本発明者らが利用した12通りのプライマーセットは、VHH遺伝子を構成する可能性があるあらゆるgermlineの遺伝子を増幅することができる。つまり、上記プライマーを用いれば、VHHが由来するgermlineのin vivoにおける存在比を維持したライブラリーを作製することができる。
VHHの多様性は、抗体遺伝子を構成するVH−D−JH3つの遺伝子セグメントの組み合せ、これらの遺伝子セグメントの再編成過程における塩基の付加や欠損、あるいは抗体産生細胞の変異によってもたらされていると考えられている。これらの機構は、通常の哺乳動物における抗体の多様性獲得のための機構と同様と考えられている。
VHHの多様性を支える機構の内、VH−D−JHの各セグメントが選択され再編成される工程は、B細胞の成熟にともなって染色体において生じる遺伝的な変化である。B細胞分化途上に抗体遺伝子座で起こる重鎖のVH−D−JH遺伝子の再編成は、抗原の有無に関係なく起こる。1個のB細胞は、1組のVH−D−JH遺伝子を発現する。同じgermlineに由来することは、同じVHHを産生することを意味しない。
さて、抗体産生細胞は、互いに異なるVH−D−JH遺伝子の組み合せを有する細胞集団である。VHH遺伝子をライブラリー化する過程で一部のgermline由来の抗体遺伝子(すなわちVH−D−JH遺伝子の組み合せ)が失われることは、ライブラリーに偏りを生じさせる原因となる。VHH遺伝子の多様性を支える機構は、VH−D−JH遺伝子の再編成のみではない。しかし失われた一部のgermline由来の抗体遺伝子を変異によって再生することが極めて困難であることから考えると、germline由来の抗体遺伝子の比を維持したライブラリーを構成することの重要性は容易に理解できる。したがって、VHH遺伝子に人為的に変異を導入してレパートリーサイズを拡張する試みによって、失われた一部のgermline由来の遺伝子を補うことができるかどうかは疑問である。
本発明において、ライブラリーが生体における多様性を維持していることは、たとえば次のようにして確認することができる。すなわち、ライブラリーを構成するクローンから無作為に十分量のクローンを取り出して調べたときに、望ましくは6つのVHHサブファミリーが含まれ、かつ15個以上のクラスが含まれるとき、当該ライブラリーは生体内における多様性を維持していると見なすことができる。なお解析に用いる十分量のクローンとは、たとえば50クローン以上を言う。
ところで本発明のVHHライブラリーは、VHH遺伝子以外の遺伝子の混入が許容される。特に、VHでは認識が難しい抗原決定基に対して結合するVHHの取得においては、VHH取得の障害とはなりにくい。たとえライブラリー中にVHが共存していても、VHが抗原を占有する可能性が低いためである。しかし、VHHライブラリーがVHHに固有の利点を期待してスクリーニングされるものであることを考慮すると、VHH遺伝子以外の遺伝子の混入は避けるのが望ましい。本発明のVHHライブラリーは、通常60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上がVHH遺伝子で構成されるものとする。VHなどのVHH遺伝子以外の遺伝子の構成が高まると、場合によりVHH遺伝子のスクリーニング効率を低下させる原因となる恐れがある。
たとえば本発明者らが見出した前記VHH遺伝子増幅用のプライマーを用いたPCR法によってVHH遺伝子を増幅することにより、VHH遺伝子を選択的に取得することができる。このようにして構築された本発明のVHHライブラリーは、VHH遺伝子の構成比率が著しく高い。本発明の望ましいVHHライブラリーは、たとえば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上のVHHを含む。より具体的には、本発明は、90%以上、たとえば93%以上のIgG2由来のVHHを含むVHHライブラリーに関する。あるいは本発明は、95%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上のIgG3由来のVHHを含むVHHライブラリーに関する。
(3)VHH遺伝子の増幅にあたっては、指数的な増幅が進行しつつあるときに増幅産物を回収する
PCRに代表される遺伝子の増幅反応によって得ることができる産物の量には、通常、上限がある。つまり、反応がある水準に達すると、増幅反応が進まなくなる。このことは、鋳型の量にかかわらず、増幅反応の結果として得ることができる増幅産物の量が一定であることを意味している。生体内における抗体遺伝子は、多様な遺伝子の複雑な集合体として存在している。このような集合体を鋳型として人為的に増幅すると、その産物は、しばしば数的に優位な遺伝子によって占められてしまう。優位な遺伝子が増幅反応の上限に達した時点で、増幅反応が停止してしまうためである。このような現象が起きると、遺伝子増幅によって多くのレパートリーが失われてしまうことになる。
本発明者らは、遺伝子増幅反応の指数的な増幅が起きている間に増幅産物を回収することにより、遺伝子増幅を通じてレパートリーを失う危険性を小さくすることができることを見出した。指数的な増幅が起きている間は、全ての鋳型がほぼ同じ確率で増幅されていると見なすことができる。したがって、その間に増幅産物を回収すれば、増幅反応の間に失われるレパートリーを最小限度にとどめることができる。
指数的な増幅が起きていることは、遺伝子増幅産物の量をモニターすることによって確認することができる。特に、PCRのように反応サイクルの数によって反応の進行が制御されている場合には、各反応サイクルごとに増幅産物の量をモニターし、反応が上限に達するのに必要なサイクル数を明らかにすることができる。サイバーグリーン等のインターカレーター存在下で増幅反応を行えば、増幅産物の量を蛍光強度の変化によってモニターすることができる。あるいは反応液を分取して電気泳動を行えば、増幅産物を視覚的に確認することもできる。
たとえば実施例に示した条件では、PCR法を17サイクル以下とすることにより、指数的な増幅が起きている間に増幅産物を回収することができる。PCR法において、指数的な増幅が起きている状態は、種々の条件によって決定される。たとえば、鋳型となる遺伝子の量、プライマーの量、DNAポリメラーゼの種類や使用量は、指数的な増幅が起きている状態に対して影響を与える要因となる。したがって実施例とは異なる条件においては、17サイクル以上であっても、指数的な増幅が継続する場合もある。ある条件のもとで指数的な増幅が起きている状態にあることは、上記のようにして確認することができる。
このような条件でVHH遺伝子を増幅すれば、増幅産物における遺伝子間のバランスは、鋳型における各遺伝子の数的なバランスを反映している。その結果、数的に優位な遺伝子とともに、少数の遺伝子も取得できる可能性が高まる。
上記のような条件で取得されたVHH遺伝子は、任意の方法によってライブラリーとすることができる。本発明のライブラリーは、rgdpライブラリーとすると、結合親和性に基づくスクリーニングに有利である。rgdpライブラリーとは、複製可能な遺伝的表示パッケージのライブラリー(replicable genetic display package library)を言う。すなわち、遺伝子を保持するとともに、その遺伝子の発現生成物を表面に提示したもの(遺伝的表示パッケージ)で構成されるライブラリーを呼ぶ。代表的なrgdpライブラリーとしては、ファージディスプレー法を利用したファージライブラリーが挙げられる。rgdpライブラリーには、ファージライブラリーのほか、外来タンパク質をその表面に発現している形質転換細胞やリボゾームからなるライブラリーを示すことができる。
ファージディスプレー法はSmithにより1985年(Smith GP Science 1985 228:4075 1315−7)に考案されたもので、M13ファージのような一本鎖環状DNAを持つ線状のバクテリオファージが用いられる。ファージ粒子はDNAの周囲を取り囲んでファージ粒子の大部分を構成するcp8というタンパクと、ファージが大腸菌に感染する時に機能する5個のcp3と呼ばれるタンパクからなっている。このcp3もしくはcp8と融合した形でポリペプチドをコードするように遺伝子を構築し、ファージ粒子表面にそのタンパクを発現させるシステムがファージディスプレーシステムである。結合性のタンパク質を表面に保持したファージ粒子は、そのリガンドとの結合活性を利用して濃縮することができる。こうして目的とするDNAを濃縮する方法は、パニング法と呼ばれている。濃縮されたファージ粒子には、必要な結合活性を持つタンパク質をコードするDNAがパッケージングされている。このように繊維状ファージの利用によって、結合活性に基づくスクリーニングと、DNAのクローニングとをきわめて効率的に行うことができるシステムが実現した(特表平5−508076)。繊維状ファージを使ったライブラリーには、Fab分子として発現が可能な方法も報告された(特表平6−506836)。この報告において、cp3等のN末端を欠損させて可変領域を融合させる方法が試みられた。
上記のようにして得られたVHH遺伝子は、たとえば以下のようにしてファージライブラリーとすることができる。まず、VHH遺伝子の増幅産物を制限酵素で処理する。実施例に示した5’側プライマーである配列番号:1〜配列番号:6の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドには、SfiIサイトが含まれている。得られた断片を、ファージ蛋白質との融合蛋白質を発現することができるVHH遺伝子導入用の発現ベクターに挿入する。VHH遺伝子との融合パートナーとするファージ蛋白質には、cp3やcp8が利用される。発現ベクターには、VHH遺伝子断片を導入するための制限酵素サイトを用意しておく。たとえば実施例に用いたベクターのSfiI−AscIサイトには、VHH遺伝子の増幅産物のSfiI−AscI処理断片を導入することができる。
VHH遺伝子の組み込みには、Creリコンビナーゼを利用することもできる。すなわち、LoxP配列を付加したプライマーを利用して両端にLoxP配列を有するVHH遺伝子の増幅産物を得る。一方、発現ベクターの組み込み部位にもLoxP配列を配置しておけば、両者をCreリコンビナーゼの作用で組み換えることができる。
VHH遺伝子導入用の発現ベクターとしては、cp3やcp8等のファージ表面蛋白質をコードする遺伝子を有し、当該蛋白質との融合蛋白質としてVHH遺伝子を発現するように、VHH遺伝子組み込み用の部位を配置したベクターを用いる。VHH遺伝子組み込み用の部位には、例えば実施例に示したようなSfiI/AscIサイトを用いることができる。この制限酵素の認識配列は、本発明者らが解析した範囲では、ラクダVHH遺伝子に見出すことができなかった。したがってSfiI/AscIという制限酵素の組み合せは、ラクダVHH遺伝子ライブラリーの構築に有用である。
更に、ファージミドを感染させた宿主微生物の培養上清をスクリーニングのための試料とするためには、宿主微生物において動作可能なプロモーターと、シグナル配列とを備えた発現ベクターを用いる。たとえば大腸菌を宿主とする場合には、シグナル配列としてpelB配列などを挿入した繊維状ファージ用のファージミドベクターを利用することができる。本発明のライブラリーの構築に有用な発現ベクターとして、たとえば実施例に示した発現ベクターpFCA−10を示すことができる。
VHH遺伝子を組み込んだ発現ベクターを、ヘルパーファージとともに宿主に導入し、両者を発現させることによってVHHを表面に発現したファージ粒子とすることができる。このファージ粒子を回収すれば、本発明によるファージライブラリーを得ることができる。
ヘルパーファージとは、前記発現ベクターが導入された菌に感染して、ファージ成分を供給することにより、前記発現ベクターがコードするファージ表面蛋白質を有するファージを生じさせるものをいう。このとき、発現ベクターに由来する融合蛋白質が利用されるため、ファージ粒子の表面にはVHHが存在することになる。
本発明のVHHファージライブラリーは、パニング法によるVHHのスクリーニングに有用である。パニング法とは、目的とする物質に対するVHHの結合親和性を利用して、VHHを発現するファージを選択するための方法である。具体的には、まず目的とする物質にVHHを発現したファージライブラリーを接触させ、この物質に結合したファージを集める。回収したファージを必要に応じて増幅し、再び目的物質への接触と回収を繰り返す。パニング法を利用して、当該物質に対する結合親和性を有するVHHを発現したファージ取得することができる。ファージには、VHHをコードする遺伝子がパッケージングされている。したがって、ファージを取得することは、同時にVHHをコードする遺伝子を取得することに他ならない。
本発明のVHHライブラリーは、in vivoにおけるVHHの多様性を越える、極めてレパートリーサイズの大きなライブラリーである。したがって、本発明のVHHライブラリーを利用することによって、通常の免疫操作では取得することが困難な機能を有するVHHでさえ、容易に選択することができる。たとえば酵素の活性を調節する4量体IgGタイプの抗体を取得することは、困難な場合が多いことは既に述べた。これに対して、2量体免疫グロブリンを構成するVHHでは、酵素活性を調節する抗体も容易に取得できる可能性がある。たとえば、実施例においては、本発明のVHHライブラリーを用いることによって、任意の酵素に対して、その酵素活性を調節する機能を有する複数のVHHを取得することができることを示した。このように非免疫ラクダに由来するVHHまたはVHのライブラリーから任意の酵素に対する酵素活性を調節する機能を有する複数のVHH遺伝子を取得できることは、当該ライブラリーの多様性を評価するための指標の一つである。
上記のように、本発明のVHHライブラリーまたはVHライブラリーは、酵素活性を調節する機能を有するVHHの取得に有用である。すなわち前記目的とする物質として酵素分子またはその断片を用いることにより、酵素活性を調節する機能を有するVHHまたはVHを取得することができる。酵素分子の断片は、当該酵素を断片化することによって得ることができる。この目的に用いる酵素分子またはその断片は、他の蛋白質との融合蛋白質とすることもできる。あるいは酵素をコードする遺伝子の部分配列を発現させ、その発現産物を断片として利用しても良い。酵素活性を調節する機能を有するVHHまたはVHの取得を目的とするとき、酵素の活性部位を含む断片を用いるのが有利である。酵素の活性部位を明らかにする方法は公知である。パニング法によって選択されたVHHまたはVHは、更に酵素分子に対する作用を確認することによって、最終的に酵素活性を調節する機能を評価することができる。より具体的には、酵素分子に評価すべきVHHまたはVHを接触させ、接触させない場合と比較して酵素活性が変化した場合には、そのVHHまたはVHが酵素活性を調節する機能を有すると確認することができる。本発明において、酵素活性を調節する機能には、酵素活性の阻害または促進が含まれる。
本発明に基づいて取得されたVHHまたはVHをコードする遺伝子は、適当な発現系を利用することによって、イムノグロブリンまたはイムノグロブリン断片に翻訳することができる。すなわち本発明は、次の工程を含む、ラクダ科動物由来VHHを可変領域として有するイムノグロブリンまたはその断片の製造方法に関する。あるいはVHHの代わりにVHを利用して、同様の手法によってVHを有するイムノグロブリンを製造することができる。
(1)上記方法によって目的とする物資に対する結合活性を有するVHHをコードする遺伝子を取得する工程、
(2)得られたVHHをコードする遺伝子を、宿主細胞において発現可能なベクターに組み込んでVHH発現ベクターとする工程、および
(3)VHH発現ベクターを宿主細胞に導入し、その培養物からVHHを含む蛋白質を回収する工程
本発明に基づいてrgdpライブラリーから取得されたVHHをコードする遺伝子は、VHH発現ベクターから回収することができる。たとえば、ライブラリーの構築に用いたプライマーを用いて、発現ベクターを鋳型としてPCRを行えば、目的とするVHH遺伝子を増幅することができる。あるいは取得すべきVHHクローンが大量に得ることができる場合には、制限酵素処理によってVHH遺伝子断片を切り出すこともできる。
選択されたVHH遺伝子は、定常領域をコードする遺伝子と連結すれば、完全な2量体免疫グロブリンとすることもできる。たとえば、IgGの細胞やウイルスに対する障害作用を利用する場合には、定常領域を有するIgGの方が有利である。このとき、ヒトの定常領域を組み合せてキメラ抗体とすることにより、安全な製剤とすることができる。あるいは、in vitroにおける診断薬や工業的な用途においては、VHHのまま用いることもできる。あるいはVHHに適当なタグを付加した融合蛋白質とすることもできる。タグには、Hisタグなどを用いることができる。Hisタグを付加したVHHは、ニッケルカラムなどを利用して容易に精製することができる。あるいはVHHは、GFPまたはRFPなどの異種蛋白質との融合蛋白質として発現させることもできる(J.Immunol.Methods 257,175−184,2001)。
VHH遺伝子を、VHH、あるいはVHHを含む融合蛋白質として発現させるための発現ベクターには、任意のベクターを利用することができる。たとえば、pCANTAB5E(Amasham)、pTZ19R、pTZ18R等のベクターはイムノグロブリンの発現に有用である。これらのベクターの構築方法は公知である。VHH遺伝子を導入した発現ベクターは、各ベクターに応じた宿主に形質転換することができる。たとえば先に例示した発現ベクターであれば、DH12S、TG1、HB2151等に形質転換することにより、VHHを発現させることができる。本発明に基づいて得られたVHH、あるいはVHHを含む免疫グロブリンにはさまざまな用途が考えられる
例えば、ウイルス、細菌、寄生虫またはその他の病原因子に由来する疾患は、多くの場合、免疫グロブリンの結合による、病原因子の酵素活性の妨害、または病原因子による標的分子の認識の妨害によって疾患の発生を回避することができる。さらに、免疫グロブリンを毒性物質の活性(毒性)部位に結合させることによってその有害な影響を無効にすることができる。
本発明によって取得されたラクダ抗体VH、VHHには、酵素活性の阻害作用のみならず、酵素活性を増強する作用も期待できる。このような作用を有するラクダ抗体VH、VHHによって、酵素機能の不調またはタンパク質認識の不調を由来とする、複合した酵素的または生理的プロセスの機能不全に対して、症状の悪化を抑えたり、病的苦痛の緩和、あるいは治癒も期待できる。
また本発明によって得られた酵素阻害抗体は、その酵素活性の評価に利用することができる。すなわち、ある酵素活性が酵素阻害抗体によって阻害されれば、その試料中には酵素阻害抗体によって阻害される酵素が存在することを明らかにすることができる。酵素阻害抗体の添加量と阻害のレベルを関連付けることによって、試料中に含まれる酵素活性レベルを定量的に評価することもできる。
その他に、本発明によって得られた酵素作用を増強する作用を有する抗体は、当該酵素活性の検出に有用である。具体的には、酵素作用を増強する作用を有する抗体によって、微量な酵素活性を増幅して検出する系を構築することができる。本発明によって得られた抗体を利用した、酵素活性の試験測定キット、診断技術を提供することができる。
更に本発明によって得られた酵素活性を調節する作用を有する抗体を、工業的な酵素反応に利用することができる。たとえば酵素活性を促進する抗体を酵素反応系に共存させることによって、目的とする生産物の収量を向上させることができる。あるいは逆に、目的とする生産物を消費する酵素活性を抑制する抗体を酵素反応系に共存させて、生産物の生産量を向上させることもできる。更に、望ましくない副生物を生じる酵素活性を抑制することにより、生産物の純度の向上を期待することもできる。
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
発明を実施するための最良の形態
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明する。
〔実施例1〕 ラクダ抗体ライブラリーの作製
1−1.ラクダgermline中の制限酵素部位の確認、プライマー設計
以下の実施例において、New England biolabsあるいは同社製のバッファーをNEBと記載する。ラクダVHあるいはVHHのgermlineに関して、参考文献(EMBO.J.19(5)921,2000)より、ベクターへのサブクローニングに使用する制限酵素SfiI、AscIによる切断部位が無いことを確認し、VHおよびVHHのgermlineを網羅するV領域のN末端6種のプライマーを設計した。プライマーの塩基配列を配列番号:1〜配列番号:6に示す。
Figure 0004213586
Figure 0004213586
次にV領域のC末端のプライマーを設計した。
今回作製したラクダライブラリーはスクリーニングの利便を考えて、凝集を起こす可能性のあるVH(IgG1)をできるだけ除くこととした。このためIgG1を除きIgG2およびIgG3を選択的にライブラリーに含めることした。そのためには、IgG1には存在せず、IgG2あるいはIgG3にのみ存在する配列をプライマーとして使用すればよい。
そこで、本発明者らはV領域のさらにC末端側に存在するヒンジ領域の配列の差異に着目した。以前取得したラクダIgG1遺伝子のヒンジ領域(PCR産物800bp)を解析しIgG2、IgG3と比較した。その結果、この領域におけるアミノ酸配列には以下に示すような差異が見られた。
Figure 0004213586
この結果を元に、IgG2、IgG3を選択的に増幅するプライマーを、V領域のさらにC末端側に存在するヒンジ領域N末端塩基配列を決定して設計した。こうして決定したC末端側(3’側)のプライマーの塩基配列を配列番号:10(IgG2LB1)および配列番号:11(IgG3LB2)に示した。
Figure 0004213586
1−2.ライブラリー用クローニングベクター
まずVHH遺伝子を組み込むSfiI−AscIサイトにstuffer配列が入った発現用ベクターを構築した。ベクターの構築に用いたpscFvCA−E8VHdベクター、scNcopFCAH9−E8VHdVLdベクター、およびラクダVHH組み込み用発現ベクターpFCA−10の構造を図1に、またpFCA−10の塩基配列と蛋白質コード領域によってコードされるアミノ酸配列を図2に示した。ベクターが制限酵素によって切断されなかった場合、あるいは抗体遺伝子が組み込まれなかった場合にcp3が発現しないように工夫した。scNcopFCAH9−E8VHdVLdおよびpFCA−10は、以下のようにして構築した。
1−2−1.scNcopFCAH9−E8VHdVLdの作製
pFCAH9−E8d 3μg(3μL)(WO 01/62907を参照)をBstPI(3U/μL)3μL、10×H buffer 5μL、DW39μLと混合し、37℃で2時間、制限酵素処理を行った。処理後、エタノール沈殿して得られた沈殿を10μLのTEバッファーに溶解した。これに、SacI(10U/μL)1μL、10×L buffer 5μL、DW34μLを混合して37℃で2時間、制限酵素処理した後、アガロースゲル電気泳動して、4.7kb断片を回収した。回収物をエタノール沈殿して10μLとした(pFCAH9−E8d BstPI−SacI断片)。
一方、プライマーlinF(100pmol/μL)5μLとプライマーlinR(100pmol/μL)5μLを混合し、94℃で5分加熱した後、80℃5分、70℃5分、室温放置30分によりアニールさせた。このうち、2μLと上記で得られたpFCAH9−E8d BstPI−SacI断片1μL、10×ligation buffer 1.5μL、DW 9.5μL、T4DNAligase 1μLを混合し、16℃で16時間反応させた。反応後、エタノール沈殿して3μLに濃縮し、そのうち1.5μLを用いて、大腸菌DH12Sコンピテントセル20μLをエレクトロポレーションにより形質転換した。得られたクローンのプラスミドを抽出し、塩基配列を確認して、scNcopFCAH9−E8VHdVLdと名づけた。図1(上)にscNcopFCAH9−E8VHdVLdの構造を模式的に示した。また、図16および図17にscNcopFCAH9−E8VHdVLdのインサート部の塩基配列及びそれにコードされるアミノ酸配列を示した。そして図19および図20に、pscFvCA−E8VHdのインサート部の塩基配列及びそれにコードされるアミノ酸配列を示した。
Figure 0004213586
1−2−2.ラクダ抗体ライブラリー用ベクター(pFCA−10)の作製
scNcopFCAH9−E8VHdVLdベクター2μg(10μL)と、10×M buffer 10μL、DW 78μL、HindIII(12u/μL;宝酒造社製)2μLを混合し、37℃で2時間インキュベートしたのち、エタノール沈殿して濃縮し、10μLのTEに溶解した。続いて、これに10×NEB4 buffer(AscIに添付)10μL、DW 78μL、AscI(10u/μL;NEB社製)2μLを混合し、37℃で2時間インキュベートしたのち、エタノール沈殿して濃縮しアガロースゲル電気泳動して目的の断片(3.7kb)を回収し、ジーンクリーンIIキット(フナコシ株式会社)で精製した。エタノール沈殿して濃縮し、10μLの1/10TEに溶解した。
次に、pscFvCA−E8VHdベクター0.1μg(5μL)、M13RVプライマー(100pmol/μL、5’−AACAGCTATGACCATG−3’;配列番号:12/サワデーテクノロジー社製)1μL、XhoAscプライマー(100pmol/μL,5’−CGACTGAAGGCGCGCCCCTCTCGAGACCCTGACCGTGGTGCC−3’;配列番号:13/サワデーテクノロジー社製)1μL、10×buffer #1(KODに添付)10μL、dNTPmix(KODに添付)10μL、25mM MgCl 4μL、DW 68μL,KOD polymerase(2.5u/μL;東洋紡社製)1μLを氷上で混合し、ミネラルオイルを2滴添加して、94℃で2分保温した。次いで、94℃で1分、55℃で2分、72℃で1分を25サイクル繰り返した。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動で確認後、400bp付近のバンドを切り出し、ジーンクリーンIIキット(フナコシ株式会社)で精製して、エタノール沈殿後、TE 10μlに懸濁した。
これに、10×M buffer 10μL,DW 78μL,HindIII(12u/μL;宝酒造社製)2μLを混合し、37℃で2時間インキュベートしたのち、エタノール沈殿して濃縮し、10μLのTEに溶解した。続いて、これに10×NEB4 buffer(AscIに添付)10μL,DW 78μL、AscI(10u/μL;NEB社製)2μLを混合し、37℃で2時間インキュベートしたのち、エタノール沈殿して濃縮しアガロースゲル電気泳動した。340bp付近のバンドを回収し、ジーンクリーンIIキット(フナコシ株式会社)で精製したのち、エタノール沈殿して濃縮し、10μLの1/10TEに溶解した。このうち半分の5μlに、scNcopFCAH9−E8VHdVLdベクターのHindIII−AscI断片2μL、10×ligation buffer 2μL、10mM ATP 2μL,DW 8μL、およびT4 DNA ligase 1μLを加えて混合し、16℃で16時間インキュベートした。エタノール沈殿して3μLの1/5TEに溶解し、その半分を用いてコンピテントセルElectroMAXTM DH12S(GIBCO BRL製)20μLに懸濁し、以下の条件でエレクトロポレーションを行うことにより、形質転換した。
エレクトロポレーター
BRL社Cell−Porator(Cat.series 1600)
設定条件;voltage booster 4kΩ
capacitance 330μF
DC volts LowΩ
charge rate Fast
得られた形質転換体12個について、LBGA中で30℃18時間培養した後、倉敷紡績社製DNA分離装置PI−50を用いてプラスミドを抽出し、その塩基配列を確認した。配列は、蛍光プライマーM13 Reverse(cat.No.LIC−4000−21Bアロカ社製)を用いて、サーモシークエンスキット(アマシャム・ファルマシア製)とアロカ社製L1−COR4200L(S)−2を使用したジデオキシ法によって決定した。その結果、いずれも設計したとおりの配列であった。このうちのひとつ(No.1)を400mLの培養液からアルカリ法にて調製し、CsCl密度勾配超遠心法で精製して、210μg得た。これを、pFCA−10と名づけ、ラクダ抗体ライブラリー用ベクターとした。
1−3.凍結脾臓からのtotal RNAの調製(グアニジン−超遠心法)
ヒトコブラクダ(Camelus dromedarius)の凍結脾臓約9gを凍結したままハンマーで細かく砕いた。重量を測定した後、すぐにGTC溶液(4.0Mグアニジンチオシアネート、0.1MTris−HCl(pH4.5)、使用直前に2−メルカプトエタノール450μL加える)45mlを加え、氷冷したnissei Excel Auto Homogenizerで17000rpm、2minでさらに断片化した。次にテフロンホモジェナイザーで、結合組織かすのみが残るよう完全にホモジェネートした。ホモジェネート液をガーゼでろ過した。
ろ過した液にN−Lauroylsarcosin Sodium Saltを0.23g粉末で加えよく溶かした。注射筒に注射針18Gをつけ3回、21Gで5回、22Gで5回溶液を出し入れしDNAをせん弾力で断片化した。
室温で5000rpm、10min遠心分離して沈殿を除いた。溶液は約36mlであった。HITACHI Centrifuge Ware 13PAチューブをDEPC水で洗い、CsCl溶液(5.7M CsCl,0.01M EDTA)4ml入れ、界面を乱さぬよう上清6mlを重層した。超遠心は日立HIMAC55P−72、ローターRP40T−740を用いて30,000rpm、20時間行った。
(以下の工程に用いる試薬はTES溶液(10mM Tris−HCl,5mM EDTA,1%SDS)を除きすべてDEPC処理したものを用い、RNA分解酵素の混入を極力防ぐように注意して作業した。)
遠心後、上層を注意深く除き(パスツールピペットは頻繁に交換する)、約0.5mlになったらチューブをひっくり返して液を捨てた。熱したカッターで底から1cm程度のRNA沈殿部を切り取り、75%エタノールで沈殿をすすぎ風乾した。TES溶液で沈殿を溶かし、1/10容量の3M酢酸ナトリウムpH5.2、2.5体積のエタノールを添加して沈殿させ、使用時まで−80℃に保存した。
上記と同様の工程により22頭のラクダ脾臓からグアニジン−超遠心法によってtotal RNAを取得した。このtotal RNAから市販のオリゴdTカラムキット(ファルマシア mRNA Purification Kit(oligo−dTカラム法)を用いてmRNAを調製した。収量はTotal RNAの1%程度であった。
1−4.VHH型選択重鎖可変部抗体ライブラリー作製
1−4−1.cDNA調製
各ラクダに由来するmRNA 1μgずつを混合し、ライブラリーテンプレートとした。このmRNAをランダムプライマー(N6,GibcoBRL)を用いて、Superscript(GibcoBRL)のマニュアルに従って逆転写酵素反応させcDNAを作製した。
この際に[α−32P]dCTPの取り込みを測定したところ2.4%の[α−32P]dCTPが取り込まれ、転写率は15.8%であることが分かった。取り込み率から計算して22μgのmRNAから3.3μgのcDNAを得た。
1−4−2.ライブラリー用PCR、VHH遺伝子断片回収
VHH型選択重鎖可変部抗体ライブラリーとしてIgG2とIgG3のそれぞれについて、別々にライブラリーを作製した。ラクダ22頭で発現されているgermline比率を反映したライブラリーを作製するため、PCRの増幅プロセスをモニターして指数増幅期における増幅産物を回収した。PCRの増幅プロセスは、反応を数サイクル毎に止め、DNA量を定量することによってモニターした。指数的に遺伝子が増幅されている間であれば、多様な断片であっても増殖前のレパートリーを正確に反映した遺伝子断片集団を得られるはずである。
ラクダ抗体遺伝子をBluescriptベクターにライゲーションして作製したコントロールDNAの原液、10倍希釈、および100倍希釈をテンプレートとして遺伝子の増幅を確認した(図3)。このときN末端プライマーとしてVH3aプライマー(配列番号:1)を用い、C末端プライマーとしてJ遺伝子を元に作製した、”Jプライマー”(5’−AA GGCGCGCCCC TGA VGA GRY GGT GAC YHG−3’;ただし、V:ACG、R:AG、Y:CT、H:ACTの混合塩基を示す。配列番号:42)を用いた。N末端プライマーをVHH−germF1(配列番号:2)あるいはVHH−germF2(配列番号:3)に変えて、コントロールDNA原液をテンプレートとして同様の実験を行ったものも図3のprimer1、primer2としてそれぞれ示した。
いくつかのサイクル数で反応を止め、反応液の一部を取り出し、Picogreen(GIBcoBRL)で染色したのち蛍光光度計を用いてDNAを定量した。10倍希釈あるいは100倍希釈の20サイクル目までのようにDNA濃度が低い段階では、測定ノイズのために見かけ上増幅率が低くみえる場合もあるが、おおむね27サイクル程度までは、指数的な増幅を確認できた。
次に実際に1−4−1で得られたcDNAを用いて、配列番号:1−配列番号:6のプライマーを用いて遺伝子を増幅した。15、17、19、21サイクルで反応を止め、反応液2μLを電気泳動した。その結果少なくとも19サイクルまでに反応が飽和状態に達することはなかった(図4)。
以上の結果より等量のcDNAに対して、6種類の5’プライマーに対して、2種類の3’プライマー(IgG2 LB1あるいはIgG3 LB2)の全ての組み合せについて、17サイクルのPCR反応を実施した。
PCRの条件は以下の通りである。
LA Taq(宝酒造) 0.5μl
10x LA バッファー(宝LA Taq添付) 10μl
25mM MgCl2(宝LA Taq添付) 10μl
dNTP(宝LA Taq添付) 16μl
滅菌MilliQ 61.5μl
Template cDNA 1μl
5’側プライマー(100pmol/μl) 0.5μl
3’側プライマー(100pmol/μl) 0.5μl
5’側プライマーには、VH3a(配列番号:1)、VHH−germF1(配列番号:2)、VHH−germF2(配列番号:3)、VHH−germF4(配列番号:4)、VHH−germF5(配列番号:5)、およびVHH−germF6(配列番号:6)のいずれかを用いた。また3’側プライマーには、IgG2LB1(配列番号:10)、またはIgG3LB2(配列番号:11)のいずれかを用いた。これらのプライマーの全ての組み合せで(5’側6種×3’側2種=12とおり)、PCRを行った。
5’側プライマーにVHH−germF1を用いたときは110本、他は55本の上記反応液が入った0.5mlチューブにミネラルオイル(SIGMA)を50μL重層し94℃で3minの後、94℃で1min、61℃で2min(IgG3LB2を用いたときは59℃)、72℃で1minを17サイクル増幅させた。IgG2の6種、あるいはIgG3の6種のPCR増幅断片をそれぞれ混ぜて、電気泳動した。目的の断片を含むバンドを切り出し、QIAEXII(QIAGEN)で回収した。IgG3に対し48μg、IgG2に対し25μgのPCR断片を回収した。
1−4−3.PCR増幅遺伝子断片のライブラリーベクターへの挿入
酵素切断とライゲーションの条件を以下に示す。
(1)ライブラリー用ベクターpFCA−10 SfiI(NEB)切断、TsAP(GibcoBRL)処理
ベクター 100μg
NEB No.2 200μL
10xBSA(宝酒造) 200μL
SfiI 10U/μL 100μL
TsAP 1U/μL 20μL
滅菌MilliQで 2000μLに調整した。
上記組成の反応液をミネラルオイルで重層し50℃、5時間切断した。引き続き、更に以下のものを加えTsAP処理した。
NEB No.2 10μL
10xBSA(宝酒造) 10μL
Dw 40μL
TsAP 1U/μL 40μL
65℃で30min反応後、stop液を加えて65℃、20minで失活させた。フェノール−クロロホルム処理を2回行いクロロホルム処理し、ブタノール濃縮で1mlまで濃縮後、210μgのグリコーゲンを加えてエタノール沈殿した。105μgのベクターを回収した。
次に、以下の操作によりIgG2、またはIgG3のPCR増幅産物をSfiIで切断した。
PCRフラグメント 25.0μg
NEB No.2 50μL
10xBSA(宝酒造) 50μL
SfiI 10U/μL 25μL
滅菌MilliQで 200μLに調整した。
反応液をミネラルオイルで上層し50℃、3時間切断した。フェノール−クロロホルム処理しクロロホルム処理、エタノール沈殿した。22μgのIgG2、および23.8μgのIgG3を回収した。
(2)SfiI部分ライゲーション
IgG2またはIgG3 PCR増幅産物のSfiI切断断片 8μg
ライブラリー用ベクターpFCA−10 sfiI切断DNA 40μg
10 mM DTT 40μL
10 mM ATP 40μL
10xLigaseバッファー(宝酒造T4 DNA Ligase添付)
40μL
T4 DNA Ligase(宝酒造)350U/μL 40μL
滅菌MilliQで 400μLに調整した。
反応液を16℃、13時間処理した時点で以下のものを追加添加した。
Dw 120μL
10 mM DTT 20μL
10 mM ATP 20μL
10xLigaseバッファー 20μL
T4 DNA Ligase(宝酒造)350U/μL 20μL
さらに16℃、6.5時間反応後、フェノール−クロロホルム処理し230μLまでブタノール濃縮して70μgのグリコーゲンを加えてエタノール沈殿した。34.1μgのIgG2ライゲーションDNA、および29.7μgのIgG3ライゲーションDNAを得た。
(3)AscI切断
回収したIgG2ライゲーションDNA(34.1μg)、またはIgG3ライゲーションDNA(29.7μg)を、以下の組成の反応液で37℃、3時間処理した。
NEB No.4 61μL
AscI(NEB)10U/μL 50μL
滅菌MilliQで 610μLに調整した。
反応後、フェノール−クロロホルム処理し200μLまでブタノール濃縮した。70μgのグリコーゲンを加えてエタノール沈殿し、25μgのIgG2ライゲーション、および29μgのIgG3ライゲーションを得た。
(4)AscI部分ライゲーション
回収した25μgDNAのIgG2ライゲーション、または29μgDNAのIgG3ライゲーションを、以下の組成の反応液で処理した。
10 mM DTT 750μL
10 mM ATP 750μL
10xLigase バッファー 750μL
T4 DNA Ligase(宝酒造)350U/μL 375μL
滅菌MilliQで 7500μLに調整した。
16℃、16時間処理した時点で、CENTRICON YM−10(分画分子量10000,amicon)で各600μLまで濃縮し、フェノール−クロロホルム処理し70μgのグリコーゲンを加えてエタノール沈殿させた。23.7μgのIgG2ライゲーション、および27.8μgのIgG3ライゲーションを得た。
1−4−4.ライブラリー発現確認
上述の通り作製した、ラクダVHH遺伝子を組み込んだ発現ベクター0.2μgを20μLのElectroMAXTM DH12S(GIBCOBRL)に形質転換し、培養上清をとってVHH−cp3の発現を確認した。pFCA−10は分泌シグナルPelB配列を含んでいるので、このベクターで形質転換した大腸菌の培養上清には、微量ながらファージのVHH−cp3蛋白質が産生される。したがって、培養上清をELISAによってモニターすることにより、VHH−cp3の発現を確認することができる。ELISAによって培養上清中のVHH−cp3の発現をモニターした結果、9割が発現していた。ELISAによるモニターの結果を図5(IgG2)、および図6(IgG3)に示した。ELISAの具体的な操作は以下に述べるとおりである。
対数増殖期初期に1mM IPTGを添加することにより発現を誘導し、21時間後に遠心、回収した培養上清をMAXISORPに感作した。1次抗体はウサギ抗cp3抗体の500倍希釈を、2次抗体はHRP結合抗ウサギIgG(H+L鎖)ヤギFab’1万倍希釈を用いた。HRP活性の測定のために、オルトフェニレンジアミンと過酸化水素の溶液100μLを加えて10分間反応させた後、2N硫酸100μLを加えて反応を停止し、波長492nmにおける吸光度を測定した。図5および図6の右端の3a−lib1−4、Sfi36は、frame shift mutation(ネガティブコントロール)の結果である。
1−4−5.VHH型選択重鎖可変部抗体ライブラリー(IgG2、IgG3ラ イブラリー)の形質転換
以下の条件でエレクトロポレーションを行うことにより、大腸菌を形質転換し、ファージ遺伝子を導入した。
エレクトロポレーター
BRL社Cell−Porator(Cat.series 1600)
設定条件;voltage booster 4kΩ
capacitance 330μF
DC volts LowΩ
charge rate Fast
IgG2についてはライゲーションによって得られた23.7μgDNAをDH12S 2mlに対し形質転換(各0.2μgを20μLのElectroMAXTM DH12S(GIBCOBRL)にエレクトロポレーション)し、その一部をサンプリングし全体の形質転換菌の数を見積もったところ、1.7x1010であった。これをグリセロールストックし、20Lスケールでファージを調製した。
滅菌した4.8Lの2xTY(DIFCO)培地に100μg/mlのアンピシリンを加え、グリセロールストックを加えて波長600nmにおける吸光度0.3付近になるようにした。これを16等分し300mLを滅菌済み5Lのフラスコで37℃で振とう培養し、600nm吸光度1.0に達するまで増殖させた。培養液にヘルパーファージ(M13KO7)をフラスコあたり3ml加えて37℃、1時間培養した。これに滅菌2xTY培地900mLと100μg/mlのアンピシリン0.9mL、50μg/mlのカナマイシン1.2mLを各フラスコに加えて17時間、37℃で振とう培養した。
培養時のヘルパーファージ感染時の菌数は5.66x1011でありヘルパーファージ感染率は75%(ヘルパーファージ感染時アンピシリン耐性菌4,06x10cfu/ml、アンピシリンおよびカナマイシン耐性菌3.05x10cfu/ml)であった。目標とする1010以上の独立クローンが得られた。
ファージを回収するため、菌液を4℃で10000rpm、10min遠心し上清を集めた。上清に20%ポリエチレングリコール/2.5M NaClを4L加えて約20min静かに攪拌した。
4℃で10000rpm、10min遠心して沈殿を1LのPBSに溶解し、20%ポリエチレングリコール/2.5M NaCl 200mLを加えて約20min静かに攪拌した。4℃で10000rpm、5min遠心し上清を捨ててさらに4℃で10000rpm、1min遠心、沈殿を回収した。沈殿は0.05%NaN含有PBS20mLに溶解し、ライブラリーファージ溶液とした。
次に回収したファージの力価を以下のようにチェックした。具体的には、ファージ溶液をPBSで10、10、10希釈し、その10μLをDH12S 990μLに感染させ、37℃で1時間培養した。これをLBGAプレートに100μLまいて30℃で18時間培養し、コロニーカウントで原液力価を見積もった。その結果、力価3.73x1013CFU/mlのライブラリーファージが20ml得られた。
IgG3についてはライゲーションによって得られた27.8μg DNAを、2mlのElectroMAXTM DH12S(GIBCOBRL)に対してエレクトロポレーションによって形質転換した(各0.2μgを20μLのElectroMAXTM DH12S(GIBCOBRL)に導入)。その一部をサンプリングし全体の形質転換菌の数を見積もったところ、1.1x1010であった。調製についてはIgG2の場合と同様である。
培養時のヘルパーファージ感染時の菌数は8.64x1011でありヘルパーファージ感染率は78%(ヘルパーファージ感染時アンピシリン耐性4,64x10cfu/ml、アンピシリンおよびカナマイシン耐性3.63x10cfu/ml)であった。目標とする1010以上の独立クローンが得られた。
これをグリセロールストックし、グリセロールストックから20Lスケールでファージを調製し、力価4.26x1013cfu/mlのライブラリーファージが20ml得られた。
1−4−6.ライブラリーの遺伝子配列確認
ライブラリーを構成するVHHクローンをランダムに選択し、その塩基配列を決定した。塩基配列は2−6−2に述べる方法にしたがって決定した。決定された塩基配列によってコードされるアミノ酸配列を解析し、in frameでかつフレームワークのアミノ酸配列に公知のVHH遺伝子と有為な相同性が認められば正常と判定した。実際にはフレームワークの相同性が著しく低いものは確認できず、フレームシフトやストップコドンの挿入が起きたものを異常と判定した。その結果IgG2については87%のクローンの遺伝子配列が正常であった。シーケンスが正常であったもののうち、L鎖と相互作用する44、45番目アミノ酸が親水性、すなわちVHHであるのは92.3%であった。
IgG3については95.8%のクローンのシーケンスが正常であった。L鎖と相互作用する44、45番目アミノ酸は96%が親水性、すなわちVHHであった。VHとVHHのgermline遺伝子における比率が約1:1であることを考えると、非常に高い選択性でVHHがライブラリー化されていることが分かった。
このようにして、良好な発現率かつ高VHH比率のライブラリーが作製できた。
〔実施例2〕
VHH遺伝子の解析
実施例1では、以下の配列番号に記載された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いた。各組み合わせによって増幅されるVHHの由来を改めてまとめると、以下のとおりとなる。
Figure 0004213586
Figure 0004213586
各ライブラリーからそれぞれ無作為に50クローン以上を取り出し、遺伝子の塩基配列を解析した結果の一例を表1に示す。表中の一つのセルが一つのクラスに対応する。表1において、システイン残基の位置に基づいてサブファミリーが、そして更にサブファミリー内でCDR2とCDR1の長さに基づいてクラスが分類されている。CDRの決定方法は公知の方法(Kabat et al.Sequence of Proteins of Immunological Interest,5th edit.,US Public Health Service,NIH Bethesda,MD,Publication(1991)No.91−3242)にしたがった。分類の指標とする構造的な特徴は次の基準にしたがって特定された。
CDR1の長さ:
N末端から31番目のアミノ酸からKabatにしたがって定義される36番目のW(トリプトファン)の1つ手前のアミノ酸までのアミノ酸の個数
CDR2の長さ:
Kabatにしたがって定義される50番目のアミノ酸から66番目のR(アルギニン)の1つ手前のアミノ酸までのアミノ酸の個数
Cys位置番号:
36番目のW(トリプトファン)よりN末端側にあるときはN末端から数えた位置を示す番号をCys位置番号とした。また36番目のW(トリプトファン)よりC末端側にあるときは、36番目のWを36としてCys位置まで数えた番号をCys位置番号とした。
Figure 0004213586
文献(EMBO J.19(5)921,2000)によれば、
1)システイン残基の位置、および
2)CDR2配列の長さ、
によりVHH遺伝子を7つのサブファミリーに分類する試みがなされている。すなわち、システイン残基の位置(30,32,33,45)とCDR2配列の長さ16または17アミノ酸から表2のように分類する方法を提唱している。
Figure 0004213586
表中の空欄は、それに該当するクローンを上記文献の報告者が見出しえなかったものである。これに対して、本発明者らによる解析の結果、表1に示すとおり、表2に示されたサブファミリー分類以上の多様性があることが判明した。例えばCDR2の長さにしても16、17以外の長さを持つものが多数存在しており、またシステイン残基の位置にも50の位置のものあるいは上記のシステイン残基の位置の組み合わせのものなどが存在していた。
さらに、上記文献ではCDR1の長さは5アミノ酸のもののみが報告されているが、当発明者らの解析結果である表1に明らかなように、これにも多くの多様性があることが明らかとなった。CDR1の長さやCDR2の長さはCDR3と異なり抗体遺伝子の再編成(リアレンジメント)においても変化しない位置であるからgermlineにおいてもmRNAにおいても基本的に長さに変化はないと考えられる。
以上をふまえて、当発明者は表1に示すとおり、1)システインの位置において8つのサブファミリーに分類した。さらに、2)CDR2配列の長さ、および3)CDR1配列の長さの指標を加えた新たなクラス分類を試みた。表1においては、各クラスごとに分類されているが、文献において報告されているgermlineの多様性よりもはるかに大きい多様性を持つことが明らかである。このことから、新たに本発明者らがデザインしたプライマーにより増幅されたVHH遺伝子は、ラクダ生体における多様性をより忠実に再現したものであると言える。
また本発明者らが新たに見出したVHHのサブファミリーは、ライブラリーのVHH遺伝子の多様性の指標として有用である。すなわち、ライブラリーを構成するクローンの任意の33クローンを取り出してVHHの構造を解析し、本発明者らによる分類方法に基づいて分類したとき、少なくとも8個以上のクラスを含んでいれば、そのライブラリーは、生体における多様性を維持していると言うことができる。本発明における生体における多様性を維持している望ましいライブラリーは、ライブラリーを構成するクローンから無作為に十分量のクローンを取り出して調べたときに、6以上のVHHサブファミリーを含み、かつ15個以上のクラスを含む。
〔実施例3〕
VHH型抗体ライブラリーを用いたGSTに対するVHHの作製
3−1.スクリーニング条件の決定
WO 01/62907に記載のスクリーニング方法に基づいて、グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)に対する結合親和性を有するVHHを選択した。
GSTを終濃度0.1mg/mlにPBSで調製し、試験管(Nunc社Maxisorp)1本(1回目)または2本(2,3回目)に3.8mlずつ入れ、4℃で18時間インキュベートしてGSTを試験管内壁に吸着させた。吸着後、液を捨て2%スキムミルク含有PBS3.8mlずつを加えて25℃で1時間反応させ、ブロッキングした。
IgG2とIgG3ライブラリーは混合せずに独立にスクリーニングすることとした。使用ファージ量は表3のInput phage(cfu)量に示した。2%スキムミルク含有PBSに浮遊したファージ液を3.8mlずつ試験管に添加し、室温で2時間反応させた後、PBS−0.05% Tween20で8回洗浄した。
つぎに、0.1Mトリエチルアミン(pH12.3)を試験管1本につき3.5mLずつ添加し、ローテーターを用いて室温で20分間反応させ乖離させた後、1M Tris−HCl緩衝液(pH6.8)0.875mL/試験管を加えて中和することによって、抗原結合マキシソープチューブに結合したファージを回収した。
3−2.回収したファージの増幅
回収した液は(ファージの大腸菌への感染)(ヘルパーファージの感染)(ファージの回収)の処理を行い、含まれているファージを精製・増幅した。
1)ファージの大腸菌への感染
大腸菌(DH12S)を2×YT培地50mLで培養し、波長600nmの吸光度が0.5になったとき、3−1で乖離させたファージ液を加えて37℃で1時間振とう培養した。
2)ヘルパーファージの感染
上記1)の培養液54mLに、2×YT培地433mL、40%グルコース12.5mL、および100mg/mLアンピシリン0.5mLを加えて37℃で波長600nmにおける吸光度が0.5になるまで培養した後、4℃、5000rpmで10分間遠心して菌体を沈殿させ、回収して100mg/mLアンピシリン0.15mLを加えた2×YT培地150mLに懸濁した。これにヘルパーファージM13KO7を1/100量(1.5mL)加え、37℃で1時間振とう培養した。
培養液を予め37℃に暖めた培地(2×YT培地に100μg/mLアンピシリンと70μg/mLのカナマイシンを加えた液)450mLに加えて37℃で一晩培養した。
3)ファージの回収
上記2)の培養液を4℃で8000rpm、10分間遠心し、その上清に2.5Mの塩化ナトリウムを加えた20%のポリエチレングリコールを1/5量加えて室温で20分間静置した後、4℃で8000rpm、15分間遠心して沈殿を回収した。沈殿に培養液の1/10量の滅菌PBSを加えて溶解し、再度2.5Mの塩化ナトリウムを加えた20%のポリエチレングリコールを1/5量加えて4℃で10000rpm、20分間遠心して上清を捨て、さらにスピンダウンして4℃で10000rpm、2分間遠心した。これに0.05%のNaNを加えたPBSを培養液の1/100量加えて沈殿を溶解し、VHHファージを回収した。
3−3.増幅したファージによる再スクリーニング
増幅したファージを用いて、抗原結合試験管を用いて同様のスクリーニングを繰り返した。スクリーニングでの洗浄は、非特異に吸着したファージを乖離し、結合力の高いファージを選択する上で重要なステップであることから、洗浄条件は2回目のスクリーニング30回、3回目のスクリーニング35回にした。
3−4.ファージのスクリーニングの評価法
以上の方法でスクリーニングを繰り返すとき、(抗原吸着済試験管に投入したファージの総数)÷(抗原吸着済試験管から回収したファージの総数)が前回のスクリーニングに比べて明らかに小さくなれば、目的のVHHを提示しているファージが濃縮されつつあると推測できる。溶液に含まれるファージ数の計算は以下のように行った。
1)ファージの希釈系列を以下のように作製した。
[1]1×10−2希釈:ファージ液10μL+PBS 990μL
[2]1×10−4希釈:[1]の希釈液10μL+PBS 990μL
[3]1×10−6希釈:[2]の希釈液10μL+PBS 990μL
[4]1×10−8希釈:[3]の希釈液10μL+PBS 990μL
[5]1×10−9希釈:[4]の希釈液100μL+PBS 900μL
[6]1×10−10希釈:[5]の希釈液100μL+PBS 900μL
[4]、[5]、および[6]の希釈系列10μLにDH12S 990μL
を加えたものを作り、37℃で1時間感染させ、これをLBGAプレートに100μLまいて30℃で18〜24時間培養し、コロニーを計数した。上記希釈系列のうち、通常[4]のプレートが50個以上のプラークを作る。mL当たりのファージ数は[4]のプレートのプラーク数に基づいて、以下のように算出される。
原液のファージ数=(コロニー数/プレート)×(1×10)×10cfu/mL
3−5.GSTスクリーニング結果
回収されたファージ数も同様に計算し、本抗原に対するVHHを提示するファージの数をスクリーニングごとに求めたところ、表3のようになった。3rdスクリーニングで回収ファージ比率(Input/output)の上昇が見られたため、この段階で特異的なVHHが濃縮されていることが予測された。
Figure 0004213586
3−6スクリーニングによって得られたVHHの抗原結合活性の測定
3−6−1.得られたファージVHHのELISA法による活性の確認
上記のスクリーニングによって選択されたVHHについて、抗原結合活性(アフィニティー)を96ウェルマイクロタイタープレートを用いたELISA法で測定した。サンプルはファージ型のVHHではなく、VHH−cp3型のVHHを用いた。
まず、VHH−cp3を発現させるために、ファージの感染した大腸菌を1%Glucoseと100μg/mLのアンピシリンを加えた2×YTで30℃18時間培養した後、0.1%グルコースと100μg/mLのアンピシリンを加えた2×YT 1.5mLに上記培養液を5μL加えて30℃で4時間培養した。このときの大腸菌の濃度は波長600nmの吸光度を測定するとき、約0.5であった。
これに1mMになるようIPTG(イソプロピル−1−チオ−β−D−ガラクトシド)を加えてさらに30℃で18時間培養した後、培養液1.5mLをエッペンドルフチューブにとり、10000rpm,4℃で5分間遠心してその培養上清をとり、0.1%となるようアジ化ナトリウムを添加して試料とした。
次にGSTを結合したELISAプレートを準備した。GSTを終濃度100μg/mLに希釈し、96ウェルマイクロタイタープレート(Nunc社製Maxisorp)の各ウエルに100μL添加して4℃で18時間結合させたのち、5%BSA(ブロッキング液)を各ウエルに200μL添加して37℃で1時間ブロッキングした。ブロッキング液を捨てた後、PBSで1回洗浄して、アフィニティーの測定に用いた。
試料を各ウエルに100μL加え、25℃1時間反応させた。反応後、PBSで4回洗浄し、250倍希釈したペルオキシダーゼ標識抗cp3抗体((株)医学生物学研究所製)を100μL加えて25℃で1時間反応させた。再度PBSで4回洗浄し、オルトフェニレンジアミンと過酸化水素の溶液100μLを加えて暫時反応させた後、2N硫酸100μLを加えて反応を停止し、波長492nmにおける吸光度を測定した。その結果192クローン中71クローンに結合活性が確認された。IgG2で46クローン(図7)、IgG3で25クローン(図8)の結合活性を有するクローンを選択することができた。
3−6−2.得られた抗GST VHHの配列解析
抗原結合活性を示した71個のクローンを選択し、LBGA中で30℃18時間培養した後、倉敷紡績社製DNA分離装置PI−50を用いてファージミドを精製した。これを用いて、その遺伝子の塩基配列を確認した。塩基配列は、蛍光プライマーT7(アロカ社製)を用いて、サーモシークエンスキット(アマシャム・ファルマシア製)とアロカ社製L1−COR4200L(S)−2を使用したジデオキシ法によって決定した。
CDR3の配列からIgG3は1種類、IgG2は6種類であることがわかった。スクリーニングによって得られたクローンのCDR3のアミノ酸配列を表4にまとめた。IgG3の1種のCDR3はIgG2にも見られサブクラスの切り替わるメカニズムがある可能性があると考えられた。
Figure 0004213586
3−7.抗GST VHH精製(ProteinA融合型への変換、発現確認ELISA、大量精製)
3種類の抗GST VHHをcp3融合蛋白質からproteinA融合蛋白質に変換した。抗GST VHHとして、次の3クローンを用いた。
No21:2クローン単離されたクローン
No29:最もELISA値が高かったクローン
No75:最もメジャーなCDR3(38クローン)を持つクローン
各クローンの塩基配列とアミノ酸配列は、次の配列番号に示す。
Figure 0004213586
Figure 0004213586
操作は次のとおりである。まずcp3領域をSalIのセルフライゲーションによって除き、transformantを得た。No21,No.29,No75の各クローンDNAについて以下の方法でSalI切断した。
1μg DNA(各cp3発現型VHH発現ベクター)/33μL 滅菌MILLIQ水
4μL 10×High Buffer(宝酒造、SalIに添付)
3μL SalI(宝酒造)
上記組成の反応液を37℃で2時間インキュベートした。これを0.8%agarosegelで100mA、約1時間電気泳動し、4kB付近に見えるバンドをカッターナイフで切りだした。QIAEXII(QIAGEN)でDNAを抽出し、エタノール沈殿させた。こうして得たDNAを以下の条件でセルフライゲーションした。
回収DNAを62μLの滅菌MILLIQ水に溶解
10mM DTT 10μL
10mM ATP 10μL
10xLigaseバッファー 10μL
T4 DNA Ligase(宝酒造)350U/μL 8μL
反応液を16℃、15時間インキュベートした後、エタノール沈殿してDNAを回収した。これを滅菌MILLIQ水で10倍希釈した3μlのTE(10mM Tris、1mM EDTA pH8.0)に溶解した。このうち、1.5μLを20μL DH12Sにエレクトロポレーションで形質転換した。形質転換の条件は、前記1−4−5.「VHH型選択重鎖可変部抗体ライブラリー(IgG2、IgG3ライブラリー)形質転換」に記載したとおりである。得られた菌株をグルコース0.1%存在2xTY500ml、100μg/mlアンピシリンで培養し、対数増殖前期(OD660nm=0.5)に1mMのIPTGで発現を誘導した。発現誘導後、20時間で集菌し上清を回収しproteinA型VHH含有培養上清を得た。
次に、proteinA型VHHを以下のようにして精製した。まず得られた培養上清100mlに対し、36gの割合で硫安を加え(60%硫安)、4℃で1時間攪拌して蛋白質を沈殿させた。次いで、8000rpmで10min遠心して上清を捨てた。
500mlの培養上清あたり、1粒のプロテアーゼインヒビター(CompleteTM、ロシュ社製)を30mLのPBSで溶解して添加し、10000rpmで15min遠心して沈殿物を除いた。上清30mLに0.05%NaN、およびIgG Sepharose 6Fast Flow(pharmacia)1.5ml樹脂を加えて1時間攪拌した。カラム(10mlpoly−prep、Bio RAD)に樹脂液を入れ自由落下により詰め、0.1%Tween−PBSを10mLずつ2回流した。次に10mLのPBSを2回流した。更に50mlのPBSで同様に流した。最後に10倍希釈した5mlのPBSを流した後、以下の条件でproteinA型VHHを溶出した。
50mMクエン酸(pH2.4)3mlを流し、溶出液を回収した。
次に0.1Mグリシン(pH3.0)4mlを流し、溶出液を回収した。
最後に50mMクエン酸(pH2.4)5mlを流し、溶出液を回収した。
回収した溶出液を3MのTris 350μLで中和し、pH試験紙で中性を確認した。各溶出液を、3500MW CO透析膜(PIERCE)で3LのPBSに対して4℃で一晩透析した。透析後、0.05%となるようNaNを添加した。280nmの吸光度を測定することによって、得られた精製蛋白質の濃度を決定した。蛋白質濃度は、OD280nmの値を1.4で割った値をμg/mLで示した。更に回収された蛋白質の分子量を、SDS−PAGEで確認した。結果は以下に示すとおりである。
Figure 0004213586
proteinA型VHHの分子量は、理論値では28KDである。したがって、SDS−PAGEの結果は、これらの蛋白質が目的とする構造を有していることを裏付けているといえる。
次に、形質転換体の上清を用いて、proteinA型VHHのGSTに対する結合活性を確認した。まず形質転換体16クローンずつを少量で発現させ、そのproteinA型VHH含有培養上清を1次抗体として、GSTをコートしたマイクロカップ(MAXISORP)に分注した。更に2次抗体はProteinAと親和性のあるrabbit抗mouse Fab抗体(4000倍希釈)を、そして3次抗体は4000倍希釈goat抗rabbit IgG−HRP(医学生物学研究所)を用い、ProteinA型VHHの発現、並びにその結合能を確認した。
その結果、いずれの形質転換体の培養上清においても、GSTに対して結合活性を有するproteinA型VHHが検出された。
3−4.精製抗GST VHHの結合定数測定
本発明のライブラリーから選択されたVHHの、GSTとの相互作用について解析した。具体的には、親和性測定および動力学的分析によって、クローンNo.75、No.29とGSTとの相互作用のka(結合速度定数)、kd(解離速度定数)、およびKD(解離定数;kd/ka)を決定した。解析には、BIACORE1000バイオセンサー装置を利用した。
カルボキシメチルデキストラン(Sensor Chip CM5、Research grade、BIACORE)センサーチップを用いた。CM5マトリックスへの静電吸着および、CM5上のリシル基と活性化したカルボキシル基とを共有結合させ、抗原(GST)をチップに固定した。EDC/NHSカップリング化学反応(Johnsonら)によって、カルボキシル基を活性化した。
流速5μL/min HBS−EP(BIACORE)の条件下、EDC/NHS(アミンカップリングキット、BIACOREをEDC、NHSを当量混合)でCM5上のリシル基の活性化後(コンタクトタイム2.4min)に、HBS−EP(BIACORE)でチップを洗浄した。続いてGST20μg/mL(Sigma製、0.6mg protein/mlを10mM酢酸(pH4.0)で希釈)をチップに加えた。チップをHBS−EP洗浄した後、続いて、1Mのエタノールアミン、pH8.5を加えて、残っている活性化カルボキシル基を不活性化した。不活性化した後、50mMのNaOHで洗浄して、共有結合していないすべてのGSTを除去した。固定化された抗原の量は、2252RUであると算出された。飽和量のクローンNO.75をセンサーに加えることによって結合を評価したところ、300RU付近であった。
すべての解析実験は、HBS−EP流速35μl/min HBS−EP(BIACORE)中25℃にて行い、再生は50mMのNaOHで1分間行った。
クローンNo.75の濃度を変化させて(5×10−8M−4.0×10−7M)結合を追跡した。曲線は(Langmuir)binding(BIAevaluationVer.3)を用いると、良好にフィットした。ベースライン補正も考慮に入れた。Global fitting(BIAevaluationVer.3)により、ka(1/Ms)を決定したところ、3.81×10−1−1の値が得られた。kd(1/S)を決定したところ、9.15×10−4−1であり、マストランスポート制限が生じるので、この値を下限として用いる。動力学的分析に基づいてKDを算出した値は、24nMであった。
クローンNo.29の評価の際、固定化された抗原の量は1750RU、飽和量のクローンNo.29をセンサーに加えることによって結合を評価したところ、460RU付近であった。他は同様な条件で評価したところ、ka(1/Ms)2.54×10−4−1、kd(1/S)2.55×10−3−1であり、動力学的分析に基づいてKDを算出した値は、100nMであった。クローンNo.75はkdが低く、そのため結合定数が高くなっていた。従ってクローンNo.75は解離しにくいVHHであると考えられた。
実施例4
4.精製抗GST VHHを用いた酵素活性阻害実験
4−1.酵素活性測定条件設定
GSTはグルタチオン、CDNBの両方を基質とすることができる、2基質系酵素である。文献(Habig WH,et al.J.Biol.Chem.Nov.25,249(22):7130,1974)で報告されている条件:CDNB 1mM、グルタチオン1mM、GST濃度1.5μMに基づいて、本発明のVHHライブラリーから選択されたVHHの酵素活性に与える影響を評価した。また、酵素反応3分までは直線的だがそれ以降はやや傾きが低くなっているので、3分までの各1分ごとの値から傾きを算出し、酵素反応速度を求めた。
この測定法で、CDNBを1mMの条件で固定しグルタチオン濃度を2−0.0625mMの間で変化させて、Edieのプロットで結合定数を求めたところ、報告されているものと同等であった。(測定値km=0.48mM)さらに、同じ酵素濃度でCDNBを変化させたときに吸光度計で測定可能な範囲(水ブランクに対し1.5付近まで)に入るようにグルタチオン濃度を決定すると0.25mMが適当であった。
4−2.VHHによる酵素阻害性確認
CDNB 1mM、グルタチオン1mM、酵素濃度1.42μM、の酵素反応測定条件で測定するため、VHHをセントリコンYM−10(amicon)で濃縮した。その結果、3.8−5μMでVHH(クローン:No21,No29,No75)を共存させられるようになった。そこで4−1と同様に酵素反応速度を測定した。
MILLIQ水 220μL
1Mリン酸カリウム(pH6.5) 25μL
100mM CDNB 2.5μL
100mM グルタチオン 2.5μL
1.0μg GST/25μL PBS、および各VHH(0−5μM)の混合液を室温で1時間インキュベートした後に、上記組成に加えた。添加後、25℃で340nmの吸光度を測定した。
その結果、No.21およびNo.29は、最も高いVHH濃度でも酵素阻害性は見られないと思われた。No.75については、VHH濃度依存的な酵素阻害活性があると考えられた。その阻害は1.5μM以上で顕著であった。No.75の測定結果を図9に示した。
さらに、見かけ上のkmが変化しているかどうかを確認するため、CDNB 1mMで固定しグルタチオン濃度を2−0.0625mMの間で変化させた。以下の条件で反応を実施した。
MILLIQ水 220μL
1Mリン酸カリウム(pH6.5) 25μL
100mM CDNB 2.5μL
200mM−6.25mM グルタチオン 2.5μL
1.0μgGST/25μL PBS及び各VHH(2μM)の混合液を室温で1時間インキュベートした後に、上記組成に加えた。添加後、25℃で340nmの吸光度を測定した。
結果の一部をまとめたのが図10である。No.29については、最も高いVHH濃度でも、VHHを添加しない場合とほぼ同じ結果となった。一方No.75は、VHH濃度2μMで大きく傾きが異なり、見かけ上のVmaxが小さく、見かけ上のkmは変化していなかった。この結果は、No.75のVHHがグルタチオンに対して非拮抗的にGSTを阻害したことを示している。
次に、グルタチオン0.25mMでCDNBを4−0.25mM間で変化させた場合、Lineweaver−burgのプロットで直線になることをまず確認した。以下の条件で測定を実施した。
1Mリン酸カリウム(pH6.5) 25μL
100mM CDNB 10−1.25μL
25mM グルタチオン 2.5μL
MILLIQ水で 250μLに反応液を調整した。
1.0μgGST/25μL PBS及び各VHH(2μM)の混合液を室温で1時間インキュベートした後に、上記組成に加えた。添加後、25℃で340nmの吸光度を測定した。
結果の一部を図11にまとめた。この系にNo.75 VHHを用いた場合は、大きく傾きが異なり、みかけ上のVmaxが小さく、みかけ上のkmは変化していなかった。これはVHHがCDNBに対して非拮抗的にGSTを阻害したことを示している。
以上のことからNo.75 VHHは2つの基質いずれに対しても非拮抗に作用する。したがって、GSTにおけるこれらの基質の結合領域とは違う部位をエピトープとして持ち、VHHの結合によって中間体である酵素基質複合体(ESC)の立体構造が変化する結果、反応産物を作れなくなると考えられた。
〔実施例5〕
VHH型抗体ライブラリーによる乳酸デヒドロゲナーゼVHHスクリーニング
5−1.LDHスクリーニング
乳酸脱水素酵素に対して結合親和性を有するVHHをスクリーニングした。スクリーニングには、大腸菌で発現させたBacillus stearothemophillus由来の乳酸脱水素酵素(L−LACTIC DEHYDROGENASE;LDH、SIGMA製、250units)を抗原として用いた。
市販のLDHには、活性単位が123units/mg solid、586units/mg proteinと記載されていた。この市販品の純度をSDS−PAGEで確認した。その結果、純度80%程度と考えられた。(35KDのモノマーが2つ会合したダイマーと、4つ会合したテトラマーを形成している)
スクリーニングの操作は以下のとおりである。LDH濃度は0.2mg/mlにPBSで調製し、MICROSORP LOOSE(NUNC社IMMUNO MODULE)に25μl/well分注した。1回目のスクリーニング用に4Well、2〜4回目のスクリーニングには1wellを使った。4℃で18時間インキュベートしてLDHをウエル内壁に吸着させた。吸着後、液を捨て1%BSA含有PBS 150μl/wellを加えて37℃で1時間反応させ、ブロッキングした。
ライブラリーを表5のInput phage(cfu)量(緩衝液は1%BSA含有PBS)を50μlずつ添加し、37℃で2時間反応させた後、PBSで表5のwashの回数洗浄した。続いて抗原に結合したファージを以下のように回収した。すなわち、0.1M HCl−グリシン(pH2.2)を50μl/well添加し、室温で10分間反応させ乖離させた後、2M Tris 3μl/wellを加えて中和し、この液を回収した。
5−2.回収したファージの増幅
回収した液は(ファージの大腸菌への感染)(ヘルパーファージの感染)(ファージの回収)の処理を行い、含まれているファージを精製・増幅した。
1)ファージの大腸菌への感染
大腸菌(DH12S)を2×YT培地2mLで培養し、波長600nmの吸光度が0.5になるよう増殖させ、5−2で乖離させたファージ液を加えて37℃で1時間振とう培養した。
2)ヘルパーファージの感染
1)の培養液に、SuperBroth培地(30gTriptone(DIFCO)、20gのyeast extract(DIFCO)、10gMOPS(ナカライテスク)を蒸留水で1Lにし、pH7.0に調整して121℃で20分間蒸気滅菌したもの)6mL、100mg/mLアンピシリンをFinal 1/1000倍量加えて37℃で2時間160rpm振とう培養した。その後、ヘルパーファージM13KO7を1012CFU(1.0mL)加え、SuperBroth培地を92mL、100mg/mLアンピシリンをFinal 1/1000倍量加え、37℃で2時間160rpm振とう培養した。その後70μg/mLになるよう、カナマイシンを加え37℃で一晩培養した。
ファージの回収、増幅したファージによる再スクリーニング、ファージのスクリーニングの評価法は抗GST VHHで述べた方法に従った。ただし、洗浄にはPBSを用い、2、3回目のスクリーニングでは15回、4回目のスクリーニングでは20回洗浄した。
5−3.LDHスクリーニング結果
スクリーニング経過を表5に示した。表5から明らかなように、4thで回収率(output/input)が上昇し、LDHに対するVHHが単離されたと考えられた。
Figure 0004213586
抗GST VHHの場合と同様な方法でスクリーニング3回目から60クローン、4回目から36クローンモノクローン化した。次に、抗GST VHHの場合と同様な方法でELISAを行った。
200μg/mlでPBSに溶かしたLDHをMAXISORPに感作した。この抗原感作プレートに、1次抗体として培養上清、2次抗体としてマウス抗cp3モノクローナル3G3A8H1 10倍希釈、そして3次抗体としてヤギ抗マウスIgG(H+L)−POD 1000倍希釈を加えた。ネガティブコントロールは、抗原感作に代えてPBSを添加した。
ELISAの結果を図12(スクリーニング3回目)、および図13(スクリーニング4回目)に示す。4回目のスクリーニングでは29クローンがELISA陽性であった。
次に抗GST VHHの場合と同様な方法で遺伝子の塩基配列を解析した結果、CDR3の配列から判断して11種類のVHHが単離できた(VH型が2種類存在)。
5−4.抗LDH VHHのProteinA融合型への変換
実施例3(GST)で記述した方法に準じて、SalI切断self−ligationにより8クローンをproteinA型に変換した。
VHHクローンを導入した形質転換体を800mlスケールで培養し、IgG Sepharoseにより精製したところ、各クローンについて200−800μgの精製VHHを得た。実験に用いた8つのクローンの塩基配列と、その塩基配列によってコードされるアミノ酸配列を以下の配列番号に示した。
Figure 0004213586
5−5.乳酸デヒドロゲナーゼVHHの阻害活性
ピルビン酸から乳酸を生成する反応の阻害活性をクローンNo.407、415、421、426、428、430、434、およびコントロールについて実施した。コントロールには先の実施例で得られた抗GST VHH(クローンNo.29)を用いた。
まず、SDS−PAGEでVHH濃度を見積もり、LDH(1.4μM)に対してVHH8μMで1時間インキュベートし残存酵素活性を測定した。活性検出条件は以下のとおりである。
66mM リン酸ナトリウムバッファー pH7.0
1mM ピルビン酸
120μM NADH
280nM LDH、1.6μM VHH(final)、26℃(室温)
LDHが触媒する反応:
Figure 0004213586
酵素活性は、340nmの吸光度を測定することによって検出した。測定結果を図14に示す。その結果、クローンNo.418、No.421、およびNo.428についてはむしろ酵素反応を促進していた。No.430は阻害した。No.407、No.415、No.426、およびNo.434は、コントロールとして用いた抗GST VHH(クローンNo.29)添加と同じ反応速度であり、LDHの酵素活性に影響を及ぼさないと考えられた。
次に、基質混入の可能性や低分子の反応促進物質の存在も考え、VHH溶液をMw3000の限外ろ過(MicroconYM−3)でろ液のみでの結果も確認してみた。その結果、ろ液には促進効果、阻害効果認められなかった。したがって、図14で確認された酵素活性の調節作用は、高分子であるタンパクすなわちVHHによる活性調節によるものと考えられた。ここで用いた反応条件下では乳酸生成方向の反応速度を10倍高めるVHH(No.418、およびNo.421)、5倍高めるVHH(No.428)と、乳酸生成方向の反応速度を阻害するVHH(No.430)が得られた。
ピルビン酸濃度を変更して感度を上げ、使用酵素とVHHの使用量を抑制した条件で酵素活性を検出するため、予備実験を行った。予備実験の結果、使用酵素濃度22.4nMで酵素活性を測定できることがわかった。そこでクローンNo.430について、VHH濃度依存性を確認してみた。(酵素56nMとVHHをインキュベート)
酵素活性の測定条件を以下に示す。
66mM リン酸ナトリウムバッファー pH7.0
10mM ピルビン酸
120μM NADH
22.4nM LDH(final)、26℃
測定結果を図15に示した。5倍量(278nM)のVHHから阻害効果が出始め、20倍では残存活性20%までに阻害した。
5−6.乳酸デヒドロゲナーゼVHHのBIACOREによる結合定数測定
GSTの場合同様の操作で、LDHをCM−センサーチップ(Sensor Chip CM5、Research grade、BIACORE)にアミノカップリング法により固定化した。
EDC/NHS(アミンカップリングキット(BIACORE)のEDC、NHSを当量混合)でCM5上のリシル基の活性化後(コンタクトタイム8min)に、HBS−EP(BIACORE)でチップを洗浄した。続いてLDH20μg/ml(Sigma,0.2μg protein/mlを10mMの酢酸(pH5.0)で希釈)をチップに加えた。チップをHBS−EP洗浄した後、続いて、1Mのエタノールアミン、pH8.5を加えて、残っている活性化カルボキシル基を不活性化した。不活性化した後、HBS−EPで洗浄して、共有的に結合していないすべてのLDHを除去した。固定化された抗原の量は、5653RUと算出された。飽和量のクローンNo.430をセンサーに加えることによって結合を評価したところ、800RU付近、クローンNo.428では500RU付近、クローンNo.421では1400RU付近であった。
すべての実験は、HBS−EP中25℃にて行い、再生条件は最適条件で実施した。洗浄は50mMのクエン酸(pH2.5)で1分間行った。
LDHの濃度を変化させて(5×10−8M−4.0×10−7M)結合を追跡した。曲線は(Langmuir)bindingあるいは1:1bindnig with mass transfer(BIAevaluationVer.3)を用いると、良好にフィットした。ベースライン補正も考慮に入れた。Global fitting(BIAevaluationVer.3)により、ka(1/Ms)、kd(1/S)、動力学的分析に基づいてKDを算出した値は、表6に示すとおりであった。
酵素阻害実験ではNo.430は、IC50がおよそ400nM程度であり、これはKDが250nM程度の測定値と近い値である。結合により阻害が起こっている証拠であると考えられた。
Figure 0004213586
〔実施例6〕
6.IgMの重鎖可変領域ライブラリーの作製
6−1.IgMの定常領域Cμ(constant μ)のクローニング
ラクダ22頭分のmRNAからランダムプライマーを用いて実施例1と同様にしてcDNAを作製した。
ヒト、マウス間で保存されていたIgMの定常領域Cμ(constant μ)C末端部分の配列を元に以下のプライマーを作製し、重鎖可変領域のN末端側のプライマーとラクダcDNAを用いてPCRを行い、ラクダCμをクローニングした。
Figure 0004213586
PCR断片を制限酵素SfiI、AscIによって切断し、SfiI、AscI切断したベクターpFCA−10にクローニングし、前述の方法によって形質転換した。形質転換体から前述のようにDNAを調製し、CμのN末端部分の塩基配列を決定した。ラクダCμ N末端の塩基配列とアミノ酸配列は以下の通りであった。
Figure 0004213586
6−2.IgMの重鎖可変領域作製
新規にクローニングしたラクダCμ配列から、IgM重鎖可変領域を選択的に取り出すことができるプライマーとして、次の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをデザインした。
Figure 0004213586
前述したIgG VHHライブラリー作製の項と同様な手法で、取得したラクダ22頭分のmRNA 20μgを鋳型としてランダムプライマーによりcDNAを取得した。
得られたcDNAの1/40量を鋳型として、V領域のN末端部分プライマー6種(配列番号:1〜6)それぞれと上記プライマーを対にして組み合わせ、6種類のプライマーセットでPCRを行った。
PCR条件は95℃、3minの後、94℃、1min,72℃ 2min,72℃ 1minを19サイクル行った。各プライマーの組み合わせから得られたPCR産物をすべて混合し、0.8%アガロースゲルで泳動し約0.5kbpのバンドをカッターナイフで切り出した。DNAの抽出はQIAEX II(QIAGEN)を用いた。DAPIを用い、回収DNA量を見積もったところ178μgであった。
6−3.ベクターへのIgMの重鎖可変領域のクローニング
実施例1で記述した方法に準じて、混合した回収PCR断片を制限酵素Sfi I切断し、Sfi I切断したベクターpFCA−10にライゲーションし、フェノール処理とエタノール沈殿を行いDNA断片を回収した。さらに制限酵素Asc Iによって切断を行い、フェノール処理とエタノール沈殿を行いDNA断片を回収してライゲーションを行った。DAPI染色により、回収DNA量を測定すると66μgであった。
6−4.形質転換
実施例1で記述した方法に準じて上記で得られたDNAをtotal 7.5mlのDH12Sに対して形質転換した。(0.17μgDNAを20μlのElectroMAXTM DH12Sにエレクトロポレーション法によって形質転換する作業を繰り返した)その一部をサンプリングし全体の形質転換菌の数を見積もったところ、6.6x1010であった。
6−5.IgMの重鎖可変領域ライブラリーファージ作製
形質転換した大腸菌の一部を終夜培養したところ、2.5x1011 DH12S/87.5mlになっていた。これに滅菌2xTY培地2L、グルコース最終濃度1%、アンピシリン最終濃度100μg/ml加え、37℃でO.D.600nm 0.8となるまで培養した。これを8000rpmx10min,4℃遠心し、沈殿の菌体を滅菌2xTY培地2L、アンピシリン最終濃度100μg/mlで溶解、ヘルパーファージKO7 20mLを加えて37℃1時間培養した。
これに滅菌2xTY培地4L、アンピシリン最終濃度100μg/ml、カナマイシン最終濃度50μg/ml加えて終夜培養した。実施例1で記述した方法に準じて終夜培養液からファージを回収し2.4x1014cfu/mlのファージライブラリー溶液50mLが得られた。
実施例7
7.IgMの重鎖可変領域ライブラリーによるβ−galに対する抗体のスクリーニング
7−1.β−galに対する抗体のスクリーニング条件
スクリーニング方法は、WO 01/62907及び実施例3のGSTのスクリーニングに準じた。ただし、β−gal濃度は0.1mg/mlにPBSで調製し、試験管(Nunc社Maxisorp)2本(1回目)または1本(2,3回目)に3.8mlずつ4℃で18時間インキュベートしてβ−galを試験管内壁に吸着させた。吸着後、液を捨て2%スキムミルク含有PBS 3.8mlずつを加えて25℃で1時間反応させ、ブロッキングした。
IgMの重鎖可変領域ライブラリーライブラリーを下表のInput phage(cfu)量、2%スキムミルク含有PBSを3.8mlずつ試験管に添加しスクリーニングした。(表7)
7−2.β−galに対する抗体のスクリーニング結果
3rdで回収率(output/input)が上昇し、β−galに対する抗体が濃縮されていると考えられた。
Figure 0004213586
7−3.抗β−gal抗体モノクローンELISA
実施例3のGST抗体の場合と同様な方法で3回目のスクリーニングの結果得られたファージクローンからモノクローン化を実施した。実施例3のGST抗体の場合と同様な方法でELISAを行ったところ、48クローン中、43クローンがELISA陽性であった。(図18)
産業上の利用の可能性
本発明によって、生体におけるVHH領域の多様性を維持した、VHHライブラリーが提供された。しかも本発明のライブラリーを構成するVHHは、正常な塩基配列を多く含み、発現率が高い。つまり本発明のVHHライブラリーは、活性なVHHによって構成されていると言うことができる。したがって、本発明のVHHライブラリーを用いることによって、任意の抗原に対する結合親和性を有するVHHを自由に得ることができる。
一般に免疫感作しないラクダ科動物からは、強い免疫原性を有する抗原に対する結合親和性を有するVHHしか得られないと考えられていた。しかし本発明者らは、ライブラリーのレパートリーサイズを大きくすることによって、幅広い機能を有するVHHを自由に得ることができるVHHライブラリーを実現した。免疫感作を必要とせず、しかも公知のライブラリーよりもはるかに多様性に富むライブラリーを実現した点で、本発明はVHHの産業的な利用に大きく貢献する。
一方、公知のライブラリーの作製方法は、1個体におけるin vivoのVHHレパートリーサイズが制限、あるいは偏ることがまったく考慮されていなかった。その結果、公知の方法によって構築されたVHHライブラリーの多様性は、生体におけるVHH領域の多様性を反映していなかった。このことは、表1に分類した多くのVHHのクラスが、本発明のライブラリーから見出された新規な構造的特徴を有していることからも明らかである。人為的に変異を導入してライブラリーの多様性を増す方法は公知である。しかし人為的に変異を導入する方法は、活性な抗体の生成に伴って、遥かに多くの不活性な抗体を多く生み出す非効率性を伴っていた。結局公知の方法に基づくVHHライブラリーは、活性なVHHからなり、かつ多様性に富んでいなければならないという、VHHライブラリーに求められる特性を満たしていなかった。
VHHは、一般に用いられているIgGを構成するVHに比べて、溶解性や安定性などの点において、優れた特性を有している。更にVHHには、VHで構成されたIgGでは得ることが難しい結合活性を期待することができる。しかし本発明者らの知見によれば、VHHの1個体におけるin vivoのレパートリーサイズは制限されている。したがって、公知のライブラリーの作製手法に基づいてライブラリーを作製している限り、VHHのライブラリーのレパートリーサイズは、1個体におけるin vivoのレパートリーサイズを越えられない。つまり、VHHには様々な有用性が期待されつつも、公知のVHHライブラリーを利用した場合には、希望する機能を有するVHHを得られる可能性は極めて低いといわざるを得なかった。
本発明は、1個体におけるin vivoのレパートリーサイズを超える多様性を持つVHHライブラリーの提供を通じて、産業上有用なVHHを自由に取得することを可能とした。言いかえれば、本発明のライブラリーによって、はじめて希望する機能を有するVHHの取得が可能となった。
このことは、実施例において、酵素活性を調節する機能を有するVHHが容易に選択されていることからも明らかである。しかも実施例においては、複数の酵素に対して多様な影響を与える複数のVHHが選択されている。このような多様な機能を有するVHHを容易に選択できるのは、VHHがVHとは異なる活性を有していることに加えて、本発明のライブラリーが高度な多様性を有しているからに他ならない。
更に本発明によって提供された、IgM由来のVHからなるライブラリーは、上記のような多様性を有するVHHライブラリーを更に補完するライブラリーとして有用である。したがって、本発明のIgM由来のVHライブラリーを利用することによって、VHHからでは選択することができない、あるいはポピュレーションが少ないために選択が困難な機能を有する抗体可変領域を選択することができる。
【配列表】
Figure 0004213586
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【図面の簡単な説明】
図1は、ラクダ抗体ライブラリー用ベクター(pFCA−10)、およびその構築に利用した公知のベクター(pscFvCA−E8VHdベクターとscNcopFCAH9−E8VHdVLdベクター)の構造を示す図である。
図2は、ラクダVHH組み込み用発現ベクターpFCA−10の塩基配列、および蛋白質コード領域によってコードされるアミノ酸配列を示す図である。
図3は、PCRの各反応サイクルにおける増幅産物の量をモニターした結果を示す図である。鋳型としてはコントロールDNA原液、その10倍希釈、あるいは100倍希釈を用いた。縦軸は、DNAの量(μg/mL)を対数で表し、横軸はPCRのサイクル数を示す。
図4は、ラクダ抗体cDNAを鋳型とするPCRの、各反応サイクルにおける増幅産物を電気泳動した結果を示す写真である。写真の下に5’側プライマーの名称を記載した。各プライマーについて左から順に、15、17、19、および21サイクル目の増幅産物を泳動した。上の写真は3’側プライマーとしてIgG2用の、そして下の写真はIgG3用のプライマーを用いたときの結果である。
図5は、ラクダVHH遺伝子(IgG2)を組み込んだ発現ベクターを導入したElectroMAXTM DH12S(GIBCOBRL)における、VHH−cp3の発現を確認した結果を示す図である。図中、縦軸は吸光度(OD492nm)を、横軸はサンプル番号を示す。
図6は、ラクダVHH遺伝子(IgG3)を組み込んだ発現ベクターを導入したElectroMAXTM DH12S(GIBCOBRL)における、VHH−cp3の発現を確認した結果を示す図である。図中、縦軸は吸光度(OD492nm)を、横軸はサンプル番号を示す。
図7は、VHH(IgG2)クローンのGSTに対する反応性を、ELISA法によって確認した結果を示す図である。図中、縦軸は吸光度(OD492nm)を、横軸はサンプル番号を示す。
図8は、VHH(IgG3)クローンのGSTに対する反応性を、ELISA法によって確認した結果を示す図である。図中、縦軸は吸光度(OD492nm)を、横軸はサンプル番号を示す。
図9は、抗GST VHHによるGST活性阻害作用を測定した結果を示す図である。図中、縦軸はVHHを作用させないときの酵素活性を100とするGSTの残存活性(%)を、横軸はVHHの添加濃度(μM)を示す。
図10は、抗GST VHHの、グルタチオンに対する拮抗性の検討結果を示す図である。図中、縦軸は時間当たりの吸光度変化量の逆数、横軸はCDNB濃度の逆数を示す。
図11は、抗GST VHHの、CDNBに対する拮抗性の検討結果を示す図である。図中、縦軸は時間当たりの吸光度変化量の逆数、横軸はグルタチオン濃度の逆数を示す。
図12は、スクリーニング3サイクル目における、LDHに対するVHHクローンの反応性をELISA法によって確認した結果を示す図である。図中、縦軸はELISAの測定値OD492nmを、横軸はサンプル番号を示す。
図13は、スクリーニング4サイクル目における、LDHに対するVHHクローンの反応性をELISA法によって確認した結果を示す図である。図中、縦軸はELISAの測定値OD492nmを、横軸はサンプル番号を示す。
図14は、抗LDH VHHがLDH活性に与える影響を測定した結果を示す図である。図中、縦軸はELISAの測定値OD492nmを、横軸は酵素反応開始後の経過時間(分)を示す。
図15は、抗LDH VHHによるLDH活性阻害作用の、VHH濃度依存性を測定した結果を示す図である。図中、縦軸はVHHを作用させないときの酵素活性を100とするLDHの残存活性(%)を、横軸はVHHの添加濃度(μM)を示す。
図16は、scNcopFCAH19−E8VHdVLdのインサート部の塩基配列及びそれにコードされるアミノ酸配列を示す図である(図17に続く)。
図17は、scNcopFCAH9−E8VHdVLdのインサート部の塩基配列及びそれにコードされるアミノ酸配列を示す図である(図16の続き)。
図18は、VHH(IgM)クローンのβ−Galに対する反応性を、ELISA法によって確認した結果を示す図である。図中、縦軸は吸光度(OD492nm)を、横軸はサンプル番号を示す。
図19は、pscFvCA−E8VHdのインサート部の塩基配列及びそれにコードされるアミノ酸配列を示す図である(図20に続く)。
図20は、pscFvCA−E8VHdのインサート部の塩基配列及びそれにコードされるアミノ酸配列を示す図である(図19の続き)。

Claims (18)

  1. ヒトコブラクダの生体における可変領域の多様性を維持した、ヒトコブラクダ由来VHH遺伝子のライブラリーであって、該ライブラリーが、以下の工程(1)および(2)によって製造されたライブラリー;
    (1)ヒトコブラクダの複数の個体から VHH 遺伝子を取得する工程であって、配列番号:1〜配列番号:6に記載の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドから選択されたいずれかの 5' 側プライマーと、配列番号:10または配列番号:11に記載の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドから選択された 3' 側プライマーからなるプライマーセットを用い、各プライマーセットによる PCR 増幅産物を混合する工程、および
    (2)工程(1)で取得した VHH 遺伝子を混合してライブラリーとする工程。
  2. 複数の個体から採取された抗体産生細胞由来の mRNA を鋳型とし、かつ PCR において指数増幅期において回収された VHH 遺伝子を混合した、請求項1に記載のライブラリー。
  3. ライブラリーを構成するクローンの任意の33クローンを取り出して調べたときに、少なくとも8個以上のクラスが含まれ、かつライブラリーが10 以上の VHH 遺伝子を含む、請求項1〜請求項2のいずれかに記載のライブラリー。
  4. ライブラリーを構成するクローンから無作為に十分量のクローンを取り出して調べたときに、少なくとも6つのVHHサブファミリーが含まれ、かつ15個以上のクラスが含まれる、請求項3に記載のライブラリー。
  5. ライブラリーを構成する10 以上のVHH遺伝子が生体に由来するVHH遺伝子である請求項1〜請求項4のいずれかに記載のライブラリー。
  6. VHH 遺伝子が由来する germline in vivo における存在比が維持されている請求項1〜請求項5のいずれかに記載のライブラリー。
  7. IgG2、および/またはIgG3のイムノグロブリン遺伝子に由来するVHH遺伝子クローンで構成された、請求項1〜請求項6のいずれかに記載のライブラリー。
  8. VHH遺伝子の構成比率が80 %以上である請求項7に記載のライブラリー。
  9. rgdpライブラリーである請求項1〜請求項8のいずれかに記載のライブラリー
  10. 以下の工程を含む、目的とする物質に対する親和性を有するVHHをコードする遺伝子の取得方法
    (1)請求項9に記載のライブラリーを、目的とする物質に接触させる工程、および
    (2)目的とする物質に結合するVHHを有するクローンを選択する工程
  11. 目的とする物質が酵素分子である請求項10に記載の方法。
  12. 次の工程を含む、酵素活性を調節する作用を有するVHHを取得する方法
    (1)請求項11に記載の方法によって、酵素に結合するVHHを取得する工程、
    (2)工程(1)で取得されたVHHを当該酵素と接触させる工程、および
    (3)VHHを接触させない場合と比較して、当該酵素の酵素活性を変化させる作用を有するVHHを選択する工程
  13. 次の工程を含む、ヒトコブラクダ由来 VHH を可変領域として有するイムノグロブリンの製造方法;
    (1)請求項10に記載の方法によって目的とする物質に対する結合活性を有するVHHをコードする遺伝子を取得する工程、
    (2)得られたVHHをコードする遺伝子を、宿主細胞において発現可能なベクターに組み込んでVHH発現ベクターとする工程、および
    (3)VHH発現ベクターを宿主細胞に導入し、その培養物からVHHを含む蛋白質を回収する工程。
  14. 次の工程を含む、VHHライブラリーの作製方法
    (1)ヒトコブラクダの複数の個体から VHH 遺伝子を取得する工程であって、配列番号:1〜配列番号:6に記載の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドから選択されたいずれかの 5' 側プライマーと、配列番号:10または配列番号:11に記載の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドから選択された 3' 側プライマーからなるプライマーセットを用い、各プライマーセットによる PCR 増幅産物を混合する工程、および
    (2)工程(1)で取得したVHH遺伝子を混合してライブラリーとする工程
  15. 増幅産物が指数増殖を示しているときにPCR法の増幅産物を回収する工程を含む請求項14に記載の方法。
  16. 制限酵素SfiIおよびAscIで消化した増幅産物を次の性状(i)および(ii)を有するベクターにライゲーションする工程を付加的に含む請求項14または15に記載の方法;
    (i)SfiIサイトおよびAscIサイトを有する、および
    (ii)適当な宿主に形質転換することによって上記サイトに挿入された外来性遺伝子がコードする蛋白質をファージを構成する蛋白質との融合蛋白質として発現する
  17. 請求項14〜請求項16のいずれかに記載の方法によって作製することができるVHH遺伝子ライブラリー。
  18. 配列番号:1〜配列番号:6に記載の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドから選択された5'側プライマーと、配列番号:10または配列番号:11、に記載の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドから選択された3'側プライマーからなるラクダのVHH遺伝子増幅用のプライマーセット。
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