JP4299042B2 - 鉄基焼結合金、バルブシートリング、鉄基焼結合金製造用原料粉末、及び鉄基焼結合金の製造方法 - Google Patents
鉄基焼結合金、バルブシートリング、鉄基焼結合金製造用原料粉末、及び鉄基焼結合金の製造方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐摩耗性鉄基焼結合金、特に、熱負荷の大きい高出力型自動車エンジンやLPG,CNG(compressed natural gas)等のガスエンジン用バルブシートの製造に適する硬質粒子分散型の鉄基焼結合金、この合金を製造するための原料粉末、ガスエンジン用バルブシートに適する硬質粒子分散型の鉄基焼結合金の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車用エンジンの高出力化及びLPG、CNG等の公害防止用クリーン燃料の使用に伴い、エンジンのバルブシートが受ける熱的負荷及び機械的負荷は増大する傾向にある。熱的負荷及び機械的負荷の増大に対応して、自動車エンジンのバルブシートは高合金化、及び鍛造,銅溶浸による高密度化,高強度化が行われる。例えば、熱的負荷の増大に対し、鉄基焼結金属の原料成分中にクロム(Cr)、コバルト(Co)、モリブデン(Mo)を添加すると、高温強度が増加する効果があり、銅溶浸による熱伝導性の向上も間接的に効果がある。一方、高圧成形、冷鍛造、粉末鍛造、冷間鍛造、高温焼結等による高強度化が機械的負荷の増大に対して効果がある。
【0003】
本出願人は特許文献1に示されるように、鉄(Fe)−ニッケル(Ni)−モリブデン(Mo)−クロム(Cr)−バナジウム(V)−炭素(C)系基地に、硬質粒子を分散して耐摩耗性を向上する鉄基焼結合金を提案している。この鉄基焼結合金は、重量%で、ニッケル(Ni)3〜15%、モリブデン(Mo)3〜9%、クロム(Cr)0.5〜5%、バナジウム(V)0.5〜5%、炭素(C)0.5〜2%を基本成分としている。また、この公報の実施例では、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)及びバナジウム(V)を含むプレアロイ鉄粉、カルボニルニッケル(Ni)、金属モリブデン(Mo),黒鉛、Fe-Moなどの粉末を配合している。
【0004】
【特許文献1】
特開平2000−073151号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、LPG,CNGを燃料とする内燃機関では、高出力化及び低燃費化に対応しながら排ガス規制に適合させるために、エンジン部品はより高温に曝露されるため、前述の鉄基焼結合金でも高温での耐摩耗性は充分ではなく、耐え得ない高負荷が近年のエンジンに付与され始めている。この対応策として、特許文献1に示されている鉄(Fe)−ニッケル(Ni)−モリブデン(Mo)−クロム(Cr)−バナジウム(V)−炭素(C)系基地に、硬質粒子を分散して耐摩耗性を向上させた鉄基焼結合金を、より高温での使用を可能にするため、銅などの低融点物質を内部空孔に溶浸させることによって熱伝導性を向上させることを検討した。銅を溶浸すると、銅は焼結体の骨格間隙を充填して脈状に分布するので、内燃機関の燃焼温度が高温となっても、熱が脈状銅を伝わって外部に逃げることにより、材料そのものは加熱されにくくなる。したがって、高温での耐摩耗性を向上させることができると考えられた。
しかしながら、バナジウム(V)添加による高温域での耐摩耗性の向上は、酸化皮膜生成による効果のため、銅溶浸によってバルブシート温度が低下すると酸化皮膜の生成が促進されず、期待された耐摩耗性向上が見られない。更に、銅溶浸では1次焼結後に銅溶浸のための2次焼結を必要とするので製造工程の増加などによるコストアップに繋がるという問題がある。
【0006】
また、特許文献1の鉄基焼結合金の耐摩耗性をより一層向上するために、硬質粒子の量を多くすることが考えられるが、硬質粒子の増量は焼結性の低下を招くため、意図した耐摩耗性の向上が実現されない。さらに、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)の増量も考えられるが、組織中のフェライト量が多くなり、やはり耐摩耗性を向上することができない。また、プレアロイ中の前記成分量が多くなると、プレアロイ粉末を用いたときのプレス成形性が悪化する。
本発明は、銅溶浸などの2次的処理をすることなしに、高温でより大きな機械的熱的負荷が加えられるバルブシート等の内燃機関材料に適用できる耐摩耗性が良好な硬質粒子分散型の鉄基焼結合金を提供することを目的とする。
【0007】
本発明は上記した鉄基焼結合金の製造に適した原料粉末を提供することを目的とする。
【0008】
さらに、本発明は上記した鉄基焼結合金の製造に適した製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は鋭意研究の結果、銅溶浸などの2次的処理をすることなしに、高温でより大きな機械的熱的負荷が加えられるバルブシート等の内燃機関材料に適用できる耐摩耗性が良好な硬質粒子分散型の鉄基焼結合金を見いだした。
すなわち、本発明による硬質粒子分散型鉄基焼結合金は、 質量%で、ニッケル(Ni)3〜12%、モリブデン(Mo)3〜12%、ニオブ(Nb)0.1〜3%、クロム(Cr)0.5〜5%、バナジウム(V)0.6〜4%、炭素(C)0.5〜2%、残部鉄(Fe)及び不可避不純物からなる基地に、全体に対して3〜20質量%の硬質粒子を分散してなるとともに、前記基地が、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)を固溶してなる鉄マトリックスと、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、バナジウム(V)及びニオブ(Nb)の炭化物もしくはモリブデン(Mo)、クロム(Cr)、バナジウム(V)及びニオブ(Nb)の2種以上の金属間化合物あるいは前記炭化物と前記金属間化合物からなる分散粒子とからなることを特徴とする。
本発明に係る原料粉末は、質量%で、ニオブ(Nb)0.3〜4%、モリブデン(Mo)1〜4%、クロム(Cr)0.6〜6%、バナジウム(V)1〜5%、炭素(C)0.8%以下、残部鉄(Fe)及び不可避不純物からなる1種又は2種以上のプレアロイ粉末、及び前記プレアロイ粉末との合計質量%で、ニッケル(Ni)3〜12%、モリブデン(Mo)3〜12%、ニオブ(Nb)0.1〜3%、クロム(Cr)0.5〜5%、バナジウム(V)0.6〜4%、炭素(C)0.5〜2%、残部鉄(Fe)からなる1種又は2種以上の粉末、並びに全体に対して3〜20%の硬質粒子粉末を混合してなることを特徴とする。
以下、本発明を詳しく説明する。
【0010】
本発明の一実施態様に係る硬質粒子分散型鉄基焼結合金及びその製造用原料粉末は、弗化物(LiF2 , CaF2及びBaF2等)、硼化物(BN等)及び硫化物(MnS等)などの固体潤滑剤が全体に対して1〜20質量%分散していることを特徴とする。
【0011】
本発明では、硬質粒子分散型鉄基焼結合金の基地組織が、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)を固溶した鉄マトリックスに、モリブデン(Mo),クロム(Cr)バナジウム(V)及びニオブ(Nb)の1種又は2種以上の炭化物もしくはモリブデン(Mo),クロム(Cr)バナジウム(V)及びニオブ(Nb)の2種以上の金属間化合物あるいは前記炭化物及び金属間化合物を分散してなる。
【0012】
本発明のさらに別の実施態様では前記の硬質粒子分散型鉄基焼結合金の硬質粒子が、▲1▼クロム(Cr)50〜57%、モリブデン(Mo)18〜22%、コバルト(Co)8〜12%、炭素(C)0.1〜1.4%、ケイ素(Si)0.8〜1.3%、残部鉄(Fe)からなる硬質粒子、▲2▼クロム(Cr)27〜33%、タングステン(W)22〜28%、コバルト(Co)8〜12%、炭素(C)1.7〜2.3%、ケイ素(Si)1.0〜2.0%、残部鉄(Fe)からなる硬質粒子、▲3▼モリブデン(Mo)60〜70%、0.1%以下の炭素(C)、残部鉄(Fe)からなる硬質粒子の単体または少なくとも2種の混合粒子である。
【0013】
本発明に係る硬質粒子分散型焼結合金の好ましい製造方法は、質量%で、ニオブ(Nb)0.3〜4%、モリブデン(Mo)1〜4%、クロム(Cr)0.6〜6%、バナジウム(V)1〜5%、炭素(C)0.8%以下、残部鉄(Fe)及び不可避不純物からなるプレアロイ粉末、及び前記プレアロイ粉末との合計質量%で、ニッケル(Ni)3〜12%、モリブデン(Mo)3〜12%、ニオブ(Nb)0.1〜3%、クロム(Cr)0.5〜5%、バナジウム(V)0.6〜4%、炭素(C)0.5〜2%、残部鉄(Fe)からなる基地組成を構成する残部粉末、並びに全体に対して3〜20質量%の硬質粒子粉末を混合し、得られた混合粉をプレスにて成形し、加熱し焼結することを特徴とする。
【0014】
以下本発明を更に詳しく説明する。
硬質粒子は硬さがHv800以上のものであれば特に限定はされないが、焼結性などの観点から、▲1▼クロム(Cr)50〜57%、モリブデン(Mo)18〜22%、コバルト(Co)8〜12%、炭素(C)0.1〜1.4%、ケイ素(Si)0.8〜1.3%、残部鉄(Fe)からなる硬質粒子、▲2▼クロム(Cr)27〜33%、タングステン(W)22〜28%、コバルト(Co)8〜12%、炭素(C)1.7〜2.3%、ケイ素(Si)1.0〜2.0%、残部鉄(Fe)からなる硬質粒子、▲3▼モリブデン(Mo)60〜70%、0.1%以下の炭素(C)、残部鉄(Fe) からなる硬質粒子からなる3種類の硬質粒子を単体又は少なくとも2種を混合したものであることが好ましい。
【0015】
硬質粒子は、分散強化の作用を生ずるものと、高温での変形抵抗を向上させるものがある。分散強化した場合、焼結時に硬質粒子から拡散する合金元素は硬質粒子の周囲に高合金相を生じ、耐摩耗性を顕著に改善する作用がある。硬質粒子の添加量は鉄基焼結合金の全体に対して3〜20%がよく、3%に満たないと耐摩耗性の改善効果が不十分となる。一方、20%を越えると硬質相の添加量に見合う耐摩耗性の改善効果が得られず、コスト高になると共に材質が硬く脆くなるため、強度及び加工性の面で問題が生じる。また、硬質粒子の添加量の増加に伴って相手バルブを摩耗させる傾向が大きくなり、総合的観点から好ましくない。
【0016】
本発明において、硬質粒子分散型鉄基焼結合金の「基地」とは、焼結粒子間隙の空孔、硬質粒子、固体潤滑剤などを除いた鉄系焼結金属である。本発明の基地の組織は、マルテンサイト、パーライト、フェライトなどの鉄マトリックス(狭義の基地)と、この鉄マトリックスに分散した炭化物などから主として構成される。本発明の基地には、該基地の組成を100重量%として、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、クロム(Cr)及びバナジウム(V)は高濃度に配合されているため、これらの成分は鉄マトリックス中に固溶されると同時に、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)は微細な炭化物、金属間化合物の形で分散される。
【0017】
以下本発明の基地の組成を説明する。
鉄基焼結合金の基地は、質量%で、ニッケル(Ni)3〜12%、モリブデン(Mo)3〜12%、ニオブ(Nb)0.1〜3%、クロム(Cr)0.5〜5%、バナジウム(V)、0.6〜4%、炭素(C)0.5〜2%、及び鉄(Fe)とその他不可避不純物よりなる。
【0018】
ニッケル(Ni)は鉄マトリックスの耐熱性と耐摩耗性を高める。その含有量は3〜12%である。ニッケル(Ni)の含有量が3%に満たないと、耐熱性と耐摩耗性の改善効果が充分でなく、また、12%を超えると、室温でオーステナイトを生じて加工が困難になると共に、線膨張係数が増加し、例えばエンジン内でバルブシートが脱落し易くなるため好ましくない。ニッケル(Ni)含有量は好ましくは5〜10%である。
【0019】
モリブデン(Mo)は鉄マトリックス内で炭化物を形成し、あるいは含有量が多い場合はFe-Mo金属間化合物を形成して耐摩耗性を高める。その含有量は3〜12%である。モリブデン(Mo)の含有量が3%に満たないと、耐摩耗性の改善効果が不充分となり、一方、12%を超えると、炭化物の生成量が多くなる。このため、焼結原料粉末の成形及び加工が困難となりかつ鉄基焼結合金が脆くなるので、好ましくない。特に好ましくは4〜10%である。
【0020】
ニオブ(Nb)は鉄マトリックスに固溶して、鉄基焼結合金の0.2%耐力及び引張強さを高めてバルブとの凝着を起こり難くするとともに、焼結組織を緻密化することにより耐摩耗性を高める。さらにニオブ(Nb)は微細な炭化物を形成させ、高温における変形抵抗を向上させる。ニオブ(Nb)の添加量が0.1%に満たないと、耐摩耗性の改善効果が不十分となり、3%を超えるとニオブ(Nb)が鉄マトリックスの粒子間に析出して、焼結合金を膨張させるので好ましくない。従って、ニオブ(Nb)は0.1〜3%であることが必要である。特に好ましくは、0.5〜2%である。
【0021】
クロム(Cr)は鉄マトリックスのフェライトに固溶して耐熱・耐酸化性を改善し、またCr23C6などの炭化物を形成して耐摩耗性を高める。その含有量は0.5〜5%であり、0.5%に満たないと、耐熱・耐酸化性の改善効果が不充分となる。また、5%を超えると、生成する炭化物量が増加して焼結原料粉末の成形及び加工が困難となりかつ鉄基焼結合金が脆くなり、好ましくない。
【0022】
バナジウム(V)は鉄マトリックス内で炭化物を形成して耐摩耗性を高める。さらに鉄マトリックスに固溶したバナジウム(V)は焼戻し軟化抵抗を高め、かつ金属間化合物として析出する。また固溶したバナジウム(V)は酸化膜生成能を均一化するので、高温曝露により緻密な酸化膜が摺動部に生成し、高負荷で使用した場合に生じるすべり摩耗にも酸化膜の低摩擦係数によって耐摩耗性の高い硬質粒子分散型鉄基焼結合金を得ることができる。バナジウム(V)の含有量は、0.6〜4%であり、0.6%に満たないと顕著な析出硬化や焼戻し軟化抵抗の改善効果が不充分となる。また、4%を超えると生成する炭化物量が増加して焼結原料粉末の成形及び加工が困難となり、好ましくない。
【0023】
炭素(C)は炭化物を形成して耐摩耗性を高める。その含有量は0.5〜2%あり、0.5%より少ないと、多量のフェライト(α固溶体)を生じて耐摩耗性が低下する。また、2%より多いと、マルテンサイト及び炭化物が過剰に生じ焼結原料粉末の成形や加工が困難となり且つ鉄基焼結合金が脆くなり好ましくない。いずれにしても、炭素(C)の含有量は、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)の各量、硬質粒子の種類及び量によりフェライト、マルテンサイト、炭化物のバランスが良好になるように相対的に決定する。
【0024】
本発明に係る硬質粒子分散型焼結合金の好ましい製造方法は、ニオブ(Nb)0.3〜4%、モリブデン(Mo)1〜4%、クロム(Cr)0.6〜6%、バナジウム(V)1〜5%、炭素(C)0.8%以下、残部鉄(Fe)及び不可避不純物からなるプレアロイ粉末、及び前記プレアロイ粉末との合計が、重量%でニッケル(Ni)3〜12%、モリブデン(Mo)3〜12%、ニオブ(Nb)0.1〜3%、クロム(Cr)0.5〜5%、バナジウム(V)0.6〜4%、炭素(C)0.5〜2%、残部鉄(Fe)となる基地組成を構成する粉末(以下「残部粉末」という)並びに3〜20%の硬質粉末を混合し、得られた混合粉をプレスにて成形し、加熱し焼結することを特徴とする。
【0025】
一般的に述べると、本発明によるプレアロイ粉末は鉄(Fe)系溶製合金粉末であり、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)及びバナジウム(V)の1種以上を含有するものである。したがって、例えばFe−Nb,Fe−Mo, Fe−Cr, Fe−Vなどの四種類の合金粉末を混合することができる。好ましいプレアロイ粉末は、ニオブ(Nb)0.3〜4%、モリブデン(Mo)1〜4%、クロム(Cr)0.6〜6%、バナジウム(V)1〜5%、炭素(C)0.8%以下不純物レベルまで、残部鉄(Fe)及び不可避不純物からなるものであり、残部粉末は、カルボニルニッケル(Ni)粉、金属モリブデン(Mo)粉及び黒鉛粉、モリブデン鉄(FeMo)等であり、これらを適当な比率で配合し、質量%で、ニッケル(Ni)3〜12%、モリブデン(Mo)3〜12%、ニオブ(Nb)0.1〜3%、クロム(Cr)0.5〜5%、バナジウム(V)0.6〜4%、炭素(C)0.5〜2%、残部鉄(Fe)及び不可避不純物よりなる原料粉を作る。
【0026】
硬質粒子は、▲1▼クロム(Cr)50〜57%、モリブデン(Mo)18〜22%、コバルト(Co)8〜12%、炭素(C)0.1〜1.4%、ケイ素(Si)0.8〜1.3%、残部鉄(Fe)からなるもの、▲2▼クロム(Cr)27〜33%、タングステン(W)22〜28%、コバルト(Co)8〜12%、炭素(C)1.7〜2.3%、ケイ素(Si)1.0〜2.0%、残部鉄(Fe)からなるもの、▲3▼モリブデン(Mo)60〜70%、炭素(C)0.1%以下、残部鉄(Fe)からなるものであり、これらの単体又は少なくとも2種を混合して3〜20%の硬質粒子を作る。プレアロイ粉末、残部粉末、硬質粒子及びステアリン酸亜鉛を添加して混合粉を調製し、得られた混合粉をプレスにて成形し、加熱して脱蝋を行った後、好ましくは1100〜1200℃にて焼結して冷却する。その後、更に好ましくは焼結後500〜700℃にて焼鈍を行う。焼鈍は歪み除去するために行い、焼鈍後の基地硬度はHv200〜800であることが好ましい。
【0027】
続いてプレアロイ粉末の組成について説明する。
クロム(Cr)については、金属クロム(Cr)のままクロム(Cr)を原料粉末に添加すると、表面に形成しているCr酸化物が炭素(C)と反応して、かつ炭素(C)を過剰に消費し硬いCr7C3炭化物を生成し、しかも鉄マトリックスとの密着性(ぬれ性)が悪いため、相手攻撃性が増す難点があるので、予め主原料のプレアロイ鉄粉中にクロム(Cr)を固溶させたプレアロイを使用することが好ましい。
【0028】
バナジウム(V)については、金属バナジウムのまま添加すると、炭素及び窒素と反応して硬い炭窒化物を生成するので、予め主原料のプレアロイ鉄粉中にバナジウム(V)を固溶させることが好ましい。
【0029】
またニオブ(Nb)が単独粉末として存在していると、粗大なニオブ炭化物が生成され易く、且つ原子半径が大きいため拡散が進まず焼結中にニオブ(Nb)の基地への固溶が困難になるので、鉄とのプレアロイとして原料粉末に存在させている。
モリブデン(Mo)は非常に炭化物を生成しやすく、金属モリブデン,Fe−Moでの添加のみでは基地への固溶が困難になるので、予め主原料のプレアロイ鉄粉中に固溶させる。
【0030】
したがって、鉄基基地中のバナジウム(V)を均一に固溶又は分散させるため、モリブデン(Mo)とクロム(Cr)を含む鉄(Fe)−モリブデン(Mo)−バナジウム(V)−クロム(Cr)系プレアロイ粉末▲1▼又は鉄(Fe)−モリブデン(Mo)−クロム(Cr)−バナジウム(V)−ニッケル(Ni)系プレアロイ粉末▲2▼を使用することができる。これらのプレアロイ粉末において主成分は50重量%以上の鉄(Fe)であり、鉄(Fe)の次にバナジウム(V)が多いとσ相を生成し、また鉄(Fe)の次にモリブデン(Mo)が多いとFe-Mo金属間化合物を生成することがある。
【0031】
本発明においては、▲1▼モリブデン(Mo)、バナジウム(V)とクロム(Cr)を含む鉄(Fe)−モリブデン(Mo)−バナジウム(V)−クロム(Cr)系プレアロイ粉末▲1▼に、更にニオブ(Nb)を添加したプレアロイ粉末を使用することが好ましい。プレアロイ粉末▲1▼は、ニオブ(Nb)0.3〜4%、モリブデン(Mo)1〜4%、クロム(Cr)0.6〜6%、バナジウム(V)1〜5%、炭素(C)0.8%以下、残部鉄(Fe)及び不可避不純物からなることが好ましい。これら成分の含有量は各プレアロイ粉末に対する割合である。それぞれの組成限定理由は基地組成の限定理由と基本的には同じである。上記したプレアロイ粉末▲2▼に更にニオブ(Nb)を添加したプレアロイ粉末を使用することもできる。
【0032】
プレアロイ粉末は水アトマイズ法、ガスアトマイズ法などにより調製することができる。
プレアロイ粉末は、粒度150〜200メッシュにピークをもつことが好ましく、カルボニルニッケル(Ni)粉は、325メッシュアンダーの粒度を有し、モリブデン鉄(FeMo)の粒度分布は150〜200メッシュにピークをもつことが好ましい。
【0033】
【作用】
この発明は特許文献1で開示された硬質粒子分散型鉄基焼結合金発明に比較して、ニオブ(Nb)添加による微細ニオブ(Nb)炭化物及びプレアロイにより強制固溶されたNbの両者が高温強度を高めるために、バルブシートリングなどが使用される高温での耐摩耗性は高くなる。更に、固体潤滑剤を添加することによって自己潤滑性を付与し耐摩耗性を向上することができる。
【0034】
【実施例】
以下、本発明による硬質粒子分散型鉄基焼結合金及びその製造方法の実施例について説明する。
粒度150〜200メッシュにピークを持つ2%モリブデン(Mo),1%クロム(Cr)及び3%バナジウム(V)、0.1〜3%ニオブ(Nb)を含むプレアロイ鉄粉(炭素(C)は不純物レベル)を水アトマイズ法により調製した。このプレアロイ粉末に325メッシュアンダーのカルボニルニッケル(Ni)粉、金属モリブデン(Mo)粉及び黒鉛(C)粉、硬質粒子として粒度分布が150〜200メッシュにピークを持つモリブデン鉄(FeMo)、固体潤滑剤としてフッ化カルシウム(CaF2)粉を配合した。混合比は、表1のNo.2 〜7において質量比でカルボニルニッケル(Ni)粉6.5%、金属モリブデン(Mo)粉2.5%、黒鉛(C)粉0.6%、モリブデン鉄(FeMo)10%、固体潤滑剤3%であった。
【0035】
更に、金型成形の際に良好な離型性を得るために、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を0.5%加えた混合粉を調製した。続いて、得られた混合粉を1平方センチメートル当たり6.5トンの圧力でプレスにて成形し、真空雰囲気中において650℃で1時間加熱して潤滑材を蒸発除去(脱蝋)し、その後、1180℃で2時間焼結を行った。続いて、各成分に適する温度で熱処理を行い、ロックウェルCスケールでHRC20〜40に硬さを調整した後、加工によりバルブシートの試験片(表1のNo.2〜7)を作製した。図1に熱処理後の鉄基焼結合金(表1のNo.3)の組織写真を示す。
【0036】
従来使われている焼結バルブシートと同じ形状のテストピース0及び1をニオブ(Nb)を含まない組成により調製した。この時、粒度150〜200メッシュにピークを持つ2%モリブデン(Mo),1%クロム(Cr)及び3%バナジウム(V)を含むプレアロイ鉄粉(炭素(C)は不純物レベル)を水アトマイズ法により調製した。プレアロイ鉄粉のNb含有量は、表1の組成が得られるように調整した。このプレアロイ鉄粉に325メッシュアンダーのカルボニルニッケル(Ni)粉、金属モリブデン(Mo)粉及び黒鉛(C)粉、硬質粒子に粒度分布が150〜200メッシュにピークを持つモリブデン鉄(FeMo)、固体潤滑剤としてフッ化カルシウム(CaF2)粉を配合した。混合比は、重量比でカルボニルニッケル(Ni)粉6.5%及び10%、金属モリブデン(Mo)粉2.5%、黒鉛(C)粉0.6%、モリブデン鉄(FeMo)10%、固体潤滑材3%、残部プレアロイ鉄粉であった。同様にニオブ(Nb)粉3.5〜4%の範囲で添加したテストピース8,9を比較材として作り、所定の寸法に加工した。
【0037】
これらのテストピース0〜9について単体試験を行い、バルブシート材としての適性を硬さ(HRC)、焼結体密度(mg/m3))について評価した。
次に、図2の単体摩耗試験機により、排気バルブシートの使用条件を想定して、下記の条件で高温摩耗の測定を行った。
バルブ材料 : ステライト#12盛金、
回転数 : 3000rpm
試験時間 : 5時間
温度条件の水準 : バルブ傘表面温度650℃
バルブシート温度 : 350℃
【0038】
図2に示す叩き摩耗試験機にバルブシート3を装着し、試験前後でのバルブ1及びバルブシート3の各摩耗量を測定して耐摩耗性の評価を行った。図2に示すように、バルブガイド2により支持されたバルブ1の上端をバルブシート3に挿入当接させ、上方からバルブ1に向かってガスバーナ4により火炎を放出する。バルブシート3は外側の水通路7を介して冷却され、バルブシート3の温度はセンサー8.9で測定される。バルブ1は、バルブスプリング5により常時カムシャフト6側に押圧され、カムシャフト6の回転によりタペット10を介して上下に振動する。
ドリブンギア11はバルブを回転させる。ドリブンギア11は、順次、遊星ギア12、ドライブギア13及びドライブンシヤフト14を介して図示しないサーボモータに連結される。
【0039】
表1に示すように、本発明による硬質粒子分散型鉄基焼結合金のバルブシートは、ニオブ(Nb)が添加されていない従来のバルブシートに比べて焼結密度がやや低下しているものの耐摩耗性を向上させることが可能になった。
【0040】
【表1】
【0041】
本実施例では、表1の硬質粒子:鉄(Fe)−63%モリブデン(Mo)を使用した場合の性能を示した。また、▲1▼クロム・モリブデン・コバルト(Cr・Mo・Co)系合金、▲2▼クロム・タングステン・コバルト(Cr・W・Co)系合金、▲3▼モリブデン・鉄(Mo・Fe)系合金の各硬質粒子において3〜20%の全組成範囲及びニッケル(Ni)3〜12%、モリブデン(Mo)3〜12%、クロム(Cr)0.5〜5%、ニオブ(Nb)0.1〜3%、炭素(C)0.5〜2%、バナジウム(V)0.6〜4%の全組成範囲について試験を行ったが、従来に比べて良好な耐摩耗性のある硬質粒子分散型鉄基焼結合金を得ることができる。
【0042】
表2により、Nbの添加により、室温の特性及び400℃の耐力が向上することが分かる。
【0043】
【表2】
【発明の効果】
前述のように、本発明の硬質粒子分散型鉄基焼結合金では、ニオブ(Nb)添加により微細な炭化物を形成させ、高温における変形抵抗を向上させることによって、バルブの摩耗を従来材に比べて低減できる硬質粒子分散型鉄基焼結合金を得ることができる。また、ニオブ(Nb)-鉄(Fe)系プレアロイ粉末を使用することにより、銅溶浸などの2次的処理をすることなしに、高温で大きな機械的・熱的負荷が加えられるバルブシート等の内燃機関材料に適用できる耐摩耗性が良好な硬質粒子分散型の鉄基焼結合金の製造が容易にできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る鉄基焼結合金の組織写真である。
【図2】 叩き摩耗試験機の図である。
【符号の説明】
1:バルブ
2:バルブガイド
3:バルブシート
4:ガスバーナー
5:バルブスプリング
6:カムシャフト
7:水通路
Claims (8)
- 質量%で、ニッケル(Ni)3〜12%、モリブデン(Mo)3〜12%、ニオブ(Nb)0.1〜3%、クロム(Cr)0.5〜5%、バナジウム(V)0.6〜4%、炭素(C)0.5〜2%、残部鉄(Fe)及び不可避不純物からなる基地に、全体に対して3〜20質量%の硬質粒子を分散してなるとともに、前記基地が、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)を固溶してなる鉄マトリックスと、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、バナジウム(V)及びニオブ(Nb)の炭化物もしくはモリブデン(Mo)、クロム(Cr)、バナジウム(V)及びニオブ(Nb)の2種以上の金属間化合物あるいは前記炭化物と前記金属間化合物からなる分散粒子とからなることを特徴とする鉄基焼結合金。
- 前記基地中に、弗化物(LiF2 、CaF2及びBaF2等)、硼化物(BN等)及び硫化物(MnS等)からなる群より選択された少なくとも1種の固体潤滑剤が、全体に対して1〜20質量%分散していることを特徴とする請求項1記載の鉄基焼結合金。
- 前記硬質粒子が、質量%で、(1)クロム(Cr)50〜57%、モリブデン(Mo)18〜22%、コバルト(Co)8〜12%、炭素(C)0.1〜1.4%、ケイ素(Si)0.8〜1.3%、残部鉄(Fe)からなる硬質粒子、(2)クロム(Cr)27〜33%、タングステン(W)22〜28%、コバルト(Co)8〜12%、炭素(C)1.7〜2.3%、ケイ素(Si)1.0〜2.0%、残部鉄(Fe)からなる硬質粒子、(3)モリブデン(Mo)60〜70%、0.1%以下の炭素(C)、残部鉄(Fe) からなる硬質粒子の単体又は少なくとも2種の混合粒子である請求項1又は2記載の鉄基焼結合金。
- 請求項1から3までの何れか1項記載の鉄基焼結合金を銅溶浸なしに使用した内燃機関のバルブシートリング。
- 質量%で、ニオブ(Nb)0.3〜4%、モリブデン(Mo)1〜4%、クロム(Cr)0.6〜6%、バナジウム(V)1〜5%、炭素(C)0.8%以下、残部鉄(Fe)及び不可避不純物からなる1種又は2種以上のプレアロイ粉末、及び前記プレアロイ粉末との合計質量%で、ニッケル(Ni)3〜12%、モリブデン(Mo)3〜12%、ニオブ(Nb)0.1〜3%、クロム(Cr)0.5〜5%、バナジウム(V)0.6〜4%、炭素(C)0.5〜2%、残部鉄(Fe)からなる1種又は2種以上の粉末、並びに全体に対して3〜20質量%の硬質粒子粉末を混合してなることを特徴とする請求項1記載の鉄基焼結合金製造用原料粉末。
- 弗化物(LiF2 、CaF2及びBaF2等)、硼化物(BN等)及び硫化物(MnS等)からなる群より選択された少なくとも1種の固体潤滑剤をさらに1〜20質量%配合したことを特徴とする請求項5記載の鉄基焼結合金製造用原料粉末。
- 前記硬質粒子が、質量%で、(1)クロム(Cr)50〜57%、モリブデン(Mo)18〜22%、コバルト(Co)8〜12%、炭素(C)0.1〜1.4%、ケイ素(Si)0.8〜1.3%、残部鉄(Fe)からなる硬質粒子、(2)クロム(Cr)27〜33%、タングステン(W)22〜28%、コバルト(Co)8〜12%、炭素(C)1.7〜2.3%、ケイ素(Si)1.0〜2.0%、残部鉄(Fe)からなる硬質粒子、(3)モリブデン(Mo)60〜70%、0.1%以下の炭素(C)、残部鉄(Fe)からなる硬質粒子の単体又は少なくとも2種の混合粒子である請求項5又は6記載の鉄基焼結合金製造用原料粉末。
- 請求項5から7までの何れか1項記載の原料粉末をプレスにて成形し、加熱し焼結することを特徴とする鉄基焼結合金の製造方法。
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