JP4252665B2 - El素子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、薄型でかつ平板状の表示手段として好適に用いられるEL素子に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
上下の絶縁体薄膜の間に無機化合物からなる発光層を設けて交流で駆動するEL素子は、輝度特性、安定性に優れ、各種のディスプレーとして、全工程を薄膜プロセスで製造されたものが実用化されている。図2にこの種の発光素子の基本構造を示す。
【0003】
ガラス基板21上にITO等の透明電極22、薄膜第1絶縁体層23、ZnS:Mn等のエレクトロルミネセンスを生じる蛍光体物質からなる薄膜発光層24、更にその上に薄膜第2絶縁体層25、Al薄膜等の背面電極26からなる多層薄膜構造を有しており、透明なガラス基板側から発せられる光を利用するものである。
【0004】
薄膜第1及び第2絶縁体層はY2O3、Ta2O5、Al2O3、Si3N4、BaTiO3、SrTiO3等の透明誘電体薄膜であり、スパッタリングや蒸着法により形成されている。
【0005】
これらの絶縁体層は発光層内を流れる電流を制限し、薄膜EL素子の動作の安定性、発光特性の改善に寄与すると共に湿気や有害なイオンの汚染から発光層を保護し薄膜EL素子の信頼性を改善する重要な機能を果たす。
【0006】
しかし、このような素子においては、実用上の問題点もある。すなわち、素子の絶縁破壊を広い面積にわたって皆無にすることが困難であり歩留まりが低いことや、絶縁体層に電圧が分割印加されるために発光に必要な素子に印加する駆動電圧が高くなることである。
【0007】
絶縁破壊の問題に関しては、絶縁耐圧特性の良好な絶縁体材料を用いることが望ましい。また、発光駆動電圧に関しては絶縁体層への印加電圧の分割分を少なくするために絶縁体層の容量を大きくすることが好ましい。またこのような交流駆動型薄膜EL素子の動作原理上、発光に寄与する発光層内を流れる電流は絶縁体層の容量にほぼ比例する。従って絶縁体層の容量を大きくすることは駆動電圧を低下させると共に発光輝度を高くする点でも重要である。
【0008】
このために、スパッタ法で形成した高誘電率の強誘電体PbTiO3膜を絶縁体層として採用することにより低電圧駆動が試みられている。このPbTiO3スパッタ膜は最高190の比誘電率で0.5MV/cmの絶縁耐圧を示すが、PbTiO3膜の成膜時の基板温度は600℃程度の高温が必要であり、ガラス基板を使った従来の薄膜EL素子では製造が難しい。このほか、強誘電体膜としてスパッタ法によるSrTiO3膜も知られている。SrTiO3スパッタ膜の比誘電率は140、絶縁破壊電圧は1.5〜2MV/cmである。この膜は、成膜温度は400℃であるが、またスパッタ成膜中にITO透明電極を還元して黒化させるので、ガラス基板を使った薄膜型の薄膜EL素子での実用化には問題があった。
【0009】
この問題を解決する一つの手段として、ガラス基板に高い軟化点を有し、高温で処理できるものを採用することも考えられるが、この場合、基板の価格が高価になるとともに、この場合でも処理温度は600℃が上限であった。
【0010】
また、別の解決手段として絶縁体層を薄くして用いると、絶縁耐圧が十分でなかったので、ITO膜のエッジ部で絶縁破壊が生じやすくなり、大面積、大表示容量のディスプレイの実現の阻害要因となっていた。
【0011】
このように従来の薄膜EL素子では高い駆動電圧が要求され、このため高耐電圧の高価な駆動回路が必要であったし、表示装置として高価格なものにならざるを得ず、また大面積化も困難であった。
【0012】
これらの問題に対し、図3に示すような、セラミック基板31と、厚膜第1電極32と、高誘電率セラミック第1絶縁体層33からなる積層セラミック構造体の上に、薄膜発光層34と薄膜第2絶縁体層35と透明第2電極36を設けたEL素子が知られている。
【0013】
しかしながら、このEL素子では、第1絶縁体層に低温焼結用のPb系ペロブスカイト系の材料を用いており、絶縁耐圧が十分でないために層厚を厚くして用いる必要があった。このため、発光開始電圧を十分低く押さえることはできなかった。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、絶縁耐圧と、比誘電率が大きく、かつそれらの経時変化の小さい絶縁体層を使って、発光開始電圧や発光駆動電圧が低く、安定した発光が得られるEL素子を提供することである。
【0015】
【課題を解決するための手段】
このような目的は、下記(1)〜(4)の本発明によって達成される。
(1) 電気絶縁性基板と、
所定のパターンに形成された第1電極と、
第1絶縁体層と、
エレクトロルミネセンスを生じる発光層と、
第2絶縁体層と、
第2電極層が順次積層された構造体のEL素子において、
前記第1絶縁体層および前記第2絶縁体層の少なくとも一方が、主成分としてチタン酸バリウムを、副成分として酸化マグネシウムと、酸化マンガンと、酸化イットリウムと、酸化バリウムおよび酸化カルシウムから選択される少なくとも1種と、酸化ケイ素とを含有し、
チタン酸バリウムをBaTiO3に、酸化マグネシウムをMgOに、酸化マンガンをMnOに、酸化イットリウムをY2O3に、酸化バリウムをBaOに、酸化カルシウムをCaOに、酸化ケイ素をSiO2にそれぞれ換算したとき、BaTiO3100モルに対する比率が、
MgO:0.1〜3モル、
MnO:0.05〜1.0モル、
Y2O3:1モル以下、
BaO+CaO:2〜12モル、
SiO2:2〜12モル
であるEL素子。
(2) 前記電気絶縁性基板および前記第1絶縁体層は、セラミック材で形成されている上記(1)のEL素子。
(3) BaTiO3、MgO、MnOおよびY2O3の合計に対し、BaO、CaOおよびSiO2が(BaxCa1-xO)y・SiO2(ただし、0.3≦x≦0.7、0.95≦y≦1.05である。)として1〜10重量%含有される上記(1)または(2)のEL素子。
(4) 前記第1電極が、Ni、Cu、W、Moのいずれか1種またはこれらのいずれか1種以上を主成分とする合金である上記(2)または(3)のEL素子。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の具体的構成について詳細に説明する。
本発明のEL素子の基本構成例を図1に示す。本発明のEL素子は、電気絶縁性基板11と所定のパターンに形成された第1電極12と第1絶縁体層13とからなる構造体と、さらにその上に設けられた真空蒸着、スパッタリング法、CVD法等で形成されるエレクトロルミネセンスを生じる発光層14と第2絶縁体層15と、好ましくは透明電極からなる第2電極層16とを有する基本構造を有し、第1絶縁体層13および第2絶縁体層15の少なくとも一方の材質が、次ぎに詳細に説明するような特定組成物であることを特徴としている。
【0017】
発光層14は、通常のEL素子と同様であり、第2電極16は通常の薄膜プロセスを使って設けられるITO膜等を用いる。
【0018】
好ましい発光層の材料としては、例えば、月刊ディスプレイ ’98 4月号最近のディスプレイの技術動向 田中省作 p1〜10に記載されているような材料を挙げることができる。具体的には、赤色発光を得る材料として、ZnS、Mn/CdSSe等、緑色発光を得る材料として、ZnS:TbOF、ZnS:Tb、ZnS:Tb等、青色発光を得るための材料として、SrS:Ce、(SrS:Ce/ZnS)n、CaCa2S4:Ce、Sr2Ga2S5:Ce等を挙げることができる。
【0019】
また、白色発光を得るものとして、SrS:Ce/ZnS:Mn等が知られている。
【0020】
これらのなかでも、上記IDW(International Display Workshop)’97 X.Wu "Multicolor Thin-Film Ceramic Hybrid EL Displays" p593 to 596 で検討されている、SrS:Ceの青色発光層を有するELに本発明を適用することにより特に好ましい結果を得ることができる。
【0021】
発光層の膜厚としては、特に制限されるものではないが、厚すぎると駆動電圧が上昇し、薄すぎると発光効率が低下する。具体的には、蛍光材料にもよるが、好ましくは100〜1000nm、特に150〜500nm程度である。
【0022】
発光層の形成方法は、気相堆積法を用いることができる。気相堆積法としては、スパッタ法や蒸着法等の物理的気相堆積法や、CVD法等の化学的気相堆積法を挙げることができる。これらのなかでもCVD法等の化学的気相堆積法が好ましい。
【0023】
また、特に上記IDWに記載されているように、SrS:Ceの発光層を形成する場合には、H2S雰囲気下、エレクトロンビーム蒸着法により形成すると、高純度の発光層を得ることができる。
【0024】
発光層の形成後、好ましくは加熱処理を行う。加熱処理は、基板側から電極層、絶縁層、発光層と積層した後に行ってもよいし、基板側から電極層、絶縁層、発光層、絶縁層、あるいはこれに電極層を形成した後にキャップアニールしてもよい。通常、キャップアニール法を用いることが好ましい。熱処理の温度は、好ましくは600〜基板の焼結温度、より好ましくは600〜1300℃、特に800〜1200℃程度、処理時間は10 〜600分、特に30〜180分程度である。アニール処理時の雰囲気としては、N2 、Ar、HeまたはN2 中にO2 が0.1%以下の雰囲気が好ましい。
【0025】
透明電極材料は、電界を効率よく発生させるため、比較的低抵抗の物質が好ましい。具体的には、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、亜鉛ドープ酸化インジウム(IZO)、酸化インジウム(In2O3 )、酸化スズ(SnO2 )および酸化亜鉛(ZnO)のいずれかを主組成としたものが好ましい。これらの酸化物はその化学量論組成から多少偏倚していてもよい。In2 O3 に対するSnO2 の混合比は、1〜20wt%、さらには5〜12wt%が好ましい。また、IZOでのIn2 O3 に対するZnOの混合比は、通常、12〜32wt%程度である。
【0026】
第1絶縁体層に以下に詳細に説明する特定組成の強誘電体材料を用いる場合、基板、第1電極、第1絶縁体層が積層セラミック構造体であることが好ましい。この場合、第1絶縁体層と基板に同一の材料または同一の材料系を用いることができる。
【0027】
第1絶縁体層は、チタン酸バリウム系の強誘電体からなり、主成分としてチタン酸バリウム、副成分として酸化マグネシウムと、酸化マンガンと、酸化バリウムおよび酸化カルシウムから選択されるすくなくとも1種と、酸化ケイ素とを含有する。チタン酸バリウムをBaTiO3に、酸化マグネシウムをMgOに、酸化マンガンをMnOに酸化バリウムをBaOに酸化カルシウムをCaOに、酸化ケイ素をSiO2 にそれぞれ換算したとき、絶縁体層中における各化合物の比率は、BaTiO3100モルに対しMgO:0.1〜3モル、好ましくは0.5〜1.5モル、MnO:0.05〜1.0モル、好ましくは0.2〜0.4モル、BaO+CaO:2〜12モル、SiO2:2〜12モルである。
【0028】
(BaO+CaO)/SiO2は特に限定されないが、通常、0.9〜1.1とすることが好ましい。BaO、CaO、SiO2は、(BaxCa1-xO)y・SiO2として含まれていてもよい。この場合、緻密な焼結体を得るためには、0.3≦x≦0.7、0.95≦y≦1.05とすることが好ましい。
【0029】
(BaxCa1-xO)y・SiO2の含有量は、BaTiO3、MgOおよびMnOの合計に対し、好ましくは、1〜10重量%、より好ましくは4〜6重量%である。
【0030】
なお、各酸化物の酸化状態は特に限定されず、各酸化物を構成する金属元素の含有量が上記範囲であればよい。
【0031】
第1絶縁体層には、BaTiO3に換算したチタン酸バリウム100モルに対し、Y2O3に換算して1モル以下の酸化イットリウムが副成分として含まれることが好ましい。Y2O3含有量の下限は特にないが、十分な効果を実現するためには、0.1モル以上含まれることが好ましい。酸化イットリウムを含む場合、(BaxCa1-xO)y・SiO2の含有量は、BaTiO3、MgO、MnOおよびY2O3の合計に対し、好ましくは、1〜10重量%、より好ましくは4〜6重量%である。
【0032】
なお、第1絶縁体層には他の化合物が含まれてもよいが、酸化コバルトは容量変化を増大させるので実質的に含まれないことが好ましい。
【0033】
上記各副成分の限定理由は下記のとおりである。
酸化マグネシウムの含有量が前記範囲未満であると、容量の温度特性が劣化する。酸化マグネシウムの含有量が前記範囲を越えると、焼結性が急激に悪化し、緻密化が不十分となって絶縁耐圧の経時変化が大きくなり、薄い膜厚で使うことが難しくなる。
【0034】
酸化マンガンの含有量が前記範囲未満であると、良好な耐還元性が得られず、第1電極に酸化されやすいNiを使ったときに、絶縁耐圧の経時変化が大きくなり、薄い膜厚で使うことが難しくなる。酸化マンガンの含有量が前記範囲を越えていると、容量の経時変化が大きくなり、発光素子の発光輝度の経時変化が大きくなる。
【0035】
BaO+CaOや、SiO2、(BaxCa1-xO)y・SiO2の含有量が少なすぎると容量の経時変化が大きくなり、発光素子の発光輝度の経時変化が大きくなる。含有量が多すぎると誘電率が急激に低下し、発光開始電圧が上昇し、また輝度が低下する。
【0036】
酸化イットリウムは、絶縁耐圧の耐久性を向上させる。 酸化イットリウムの含有量が前記範囲を越えると、容量が減少し、また、焼結性が低下して緻密化が不十分となることがある。
【0037】
また、第1絶縁層中には、酸化アルミニウムが含有されていてもよい。酸化アルミニウムの添加は、焼結温度を低下させることができる。Al2O3に換算したときの酸化アルミニウムの含有量は、第1絶縁体層材料全体の1重量%以下が好ましい。酸化アルミニウムの含有量が多すぎると、逆に第1絶縁体層の焼結を阻害する。
【0038】
第1絶縁体層の平均結晶粒径は、特に限定されるものではないが、上記組成とすることにより、微細な結晶が得られる。通常、平均結晶粒径は0.2〜0.7μm 程度である。
【0039】
上記の積層セラミック構造体を用いる場合の第1電極層の導電材料は、特に限定されないが、主成分としてAg、Au、Ni、Pd、Pt、Cu、Fe、Co、Mo、W等の金属の1種または2種以上や、これらの合金等を用いることができる。
【0040】
基板の材料は、上記の積層セラミック構造体を用いる場合、特に限定されないが、Al2O3、及びAl2O3に種々の目的、例えば焼成温度を調整する目的等でSiO2、MgO、CaO等添加したものを等を用いる。積層セラミック構造体を用いない場合には、通常のEL素子で使われているガラス基板を用いることができるが、より高温での処理が可能な高融点ガラスが好ましい。
【0041】
上記の積層セラミック構造体は、通常の記載方法により製造される。即ち基板となるセラミック原料粉末にバインダー混合してペーストを作り、キャスティング成膜し、グリーンシートを製造する。セラミックの内部電極となる第1電極は、グリーンシート上にスクリーン印刷法等により印刷される。
【0042】
次いで、必要により、焼成を行ったのち、そのうえに、高誘電体材料粉末にバインダーを混合して作製されたペーストをスクリーン印刷法等で印刷して、焼成し積層セラミック構造体が作製される。
【0043】
焼成は、脱バインダー処理を行ったのち、1200〜1400℃、好ましくは1250〜1300℃で数十〜数時間行う。
【0044】
また、焼成では、酸素分圧を10-8〜10-12気圧とすることが好ましい。この条件下では第1絶縁体層が還元雰囲気であるため、電極に安価な卑金属、例えばNi、Cu、W、Moのいずれか1種またはこれらのいずれか1種以上を主成分とする合金等を使用することができる。この場合、必要に応じて、グリーンシートと第1電極のパターンの間に酸素の拡散防止層、例えば第1絶縁体層と同じ層を設けて焼成することができる。
【0045】
還元性雰囲気中で焼成した場合、複合基板にはアニールを施すことが好ましい。アニールは、第1絶縁体層を再酸化するための処理であり、これにより絶縁耐圧の経時変化を小さくすることができる。
【0046】
アニール雰囲気中の酸素分圧は、10-6気圧以上、特に10-5〜10-4気圧とすることが好ましい。酸素分圧が前記範囲未満であると絶縁体層または誘電体層の再酸化が困難であり、前記範囲を超えると内部導体が酸化する傾向にある。
【0047】
アニールの際の保持温度は、1100℃以下、特に500〜1000℃とすることが好ましい。保持温度が前記範囲未満であると絶縁体層または誘電体層の酸化が不十分となって寿命が短くなる傾向にあり、前記範囲を超えると電極層が酸化し、容量が低下するだけでなく、絶縁体素地、誘電体素地と反応してしまい、寿命も短くなる傾向にある。
【0048】
なお、アニール工程は昇温および降温だけから構成してもよい。この場合、温度保持時間は零であり、保持温度は最高温度と同義である。また、温度保持時間は、0〜20時間、特に2〜10時間が好ましい。雰囲気用ガスには、加湿したN2 ガス等を用いることが好ましい。
【0049】
積層セラミック構造体の作製法は、この外にも種々の方法を採用することができる。例えば、
【0050】
(1)PET等のフィルムシートを用意し、その上に第1絶縁体層用の所定の誘電体材料を含むペーストを印刷法等で全面に印刷し、その上に第1電極用の導電材料を含むペーストのパターンをスクリーン印刷法等で形成し、その上に基板用のアルミナその他の添加物等含むペーストからなるグリーンシートを形成した積層体を作り、フィルムシートからはずして、焼結する。この場合には、フィルムシートと接していた面に発光層等を設けることになるが、この方法では、非常に平坦な面が得られるのが特徴である。
【0051】
(2)予め焼成されたアルミナ等のセラミック基板を用意し、基板面に第1電極用の導電材料を含むペーストのパターンを印刷法等で形成し、その上に第1絶縁体層用の所定の誘電体材料を含むペーストをスクリーン印刷等で全面に印刷し、基板ごと焼結する方法
等を採用することができる。
【0052】
EL素子では、互いに直交する第1電極と第2電極で画定された部分で発光表示を行うものであり、電極は電流供給の機能と画素表示の機能を兼ねるものであり、必要に応じて任意のパターンに形成される。
【0053】
基板、第1電極、第1絶縁体層を積層セラミック構造体として作製する場合、第1電極のパターンはスクリーン印刷法により容易に形成できる。通常、EL素子のディスプレイにおいては極端に微細な電極パターンが要求されることはほとんどなく、スクリーン印刷法で十分であり、大面積に低コストで電極形成できる利点を有している。微細な電極パターンが要求される場合にはフォトリソグラフ技術を用いることもできる。
【0054】
以上述べたように、本発明のEL素子は交流型EL素子の重要な構成要素である第1絶縁体層および第2絶縁体層の少なくとも一方に、特定組成のセラミックを採用する。このセラミックは、比誘電率が2000以上で、絶縁耐圧が150MV/mであり、EL素子の絶縁体層として好ましいものである。
【0055】
この結果、従来セラミック構造体を用いたEL素子では、第1絶縁体層の破壊を防ぐため、第1絶縁体層として30〜40μmの厚さが必要であったが、本発明では第1絶縁体層の厚みを10μm以下、特に2〜5μmまで下げることができ、EL素子の発光駆動電圧を低くすることができる。このことは、同じ発光輝度で用いる場合には、低い駆動電圧で駆動できることを現しており、駆動回路の設計上極めて有効である。
【0056】
また、絶縁破壊電圧が大きく、一定の電圧を印加したときの比誘電率の経時変化に優れるので、長時間安定した発光が得られる。
【0057】
以上説明した積層セラミック構造体の上に、蒸着やスパッタ等の薄膜プロセスにより、発光層等を形成し本発明のEL素子が得られる。
【0058】
【実施例】
Al2O3粉末と添加物としてSiO2、MgO、CaOの各粉末とを混合したものにバインダーを加えて混合し、ペーストとしたのちキャスティング成膜により厚さ1mmのセラミック基板となるグリーンシートを作製した。このセラミック前駆体上にスクリーン印刷によりNiペーストを0.3mm幅、ピッチ:0.5mmのストライプ状のパターンを、膜厚:1μm に形成した。第1絶縁体層用の材料として、表1の組成を有する予焼粉末を含むペーストを作製し、これを電極パターンの形成されたグリーンシートのうえに全面に印刷した。この印刷の厚さは、焼成後に4μmになるようにした。
【0059】
【表1】
【0060】
このグリーンシートを、所定の条件下脱バインダー処理を行った後、加湿したN2とH2の混合ガス雰囲気(酸素分圧:10-9)で1250℃に一定時間保持して焼成し、上記の酸化処理を行い積層セラミック構造体を作製した。
【0061】
次ぎにZnSとMnの共蒸着法によりZnS:Mnを0.3μmの厚さに真空蒸着した。特性の改善のためにAr中で650〜750℃、2時間のアニールを行った。この後、Ta2O3とAl2O3の混合物からなるターゲットを用いてスパッタ法でTaAlO絶縁体層を0.3μm形成し、第2絶縁体層とした。次ぎにスパッタ法により、ITO膜を0.4μm形成し、前記のNi厚膜ストライプ電極と直交する配置で0.3mm幅、0.5mmピッチにエッチングし、透明ストライプ電極とした。
【0062】
得られたEL素子の発光開始電圧、および同様にして別途作製した第1絶縁体層の比誘電率と絶縁破壊電圧を表1に示す。また、比較例として添加物(MnO等)を添加しないBaTiO3 厚膜を用いたときの特性も示す。この場合、第1絶縁体層の絶縁破壊電圧が低いため、膜厚を100μm となるように形成した。
【0063】
従来の薄膜型のEL素子の第1または第2絶縁体層に本発明で用いる特定組成BaTiO3系強誘電体膜を設ける場合には、分子線エピタキシーを用いた共蒸着やイオンアシスト付のイオンビームスパッタ等を用いることができ、この場合にも、耐熱性のある基板を用いることにより、上述の積層セラミック構造体を使ったEL素子と同様の効果が得られる。
【0064】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、基板と第1電極層と第1絶縁体層とを有する積層セラミック構造体の、第1絶縁体層として、特定組成のBaTiO3系の誘電体材料を用いたことにより、低電圧駆動が可能で、高電圧が印加されても絶縁破壊が生じ難く、長時間安定した発光が得られるEL素子を得ることができる。
【0065】
また、複合基板は、高温で焼成されているため、発光層を焼成温度以下の高温で熱処理することができるので、発光の安定化と輝度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のEL素子の断面を模式的に示したものである。
【図2】従来の薄膜EL素子の断面を模式的に示したものである。
【図3】従来の積層セラミック構造体を使ったEL素子の断面を模式的に示したものである。
【符号の説明】
11 基板
12 第1電極層
13 第1絶縁体層
14 発光層
15 第2絶縁体層
16 第2電極層
Claims (4)
- 電気絶縁性基板と、
所定のパターンに形成された第1電極と、
第1絶縁体層と、
エレクトロルミネセンスを生じる発光層と、
第2絶縁体層と、
第2電極層が順次積層された構造体のEL素子において、
前記第1絶縁体層および前記第2絶縁体層の少なくとも一方が、主成分としてチタン酸バリウムを、副成分として酸化マグネシウムと、酸化マンガンと、酸化イットリウムと、酸化バリウムおよび酸化カルシウムから選択される少なくとも1種と、酸化ケイ素とを含有し、
チタン酸バリウムをBaTiO3に、酸化マグネシウムをMgOに、酸化マンガンをMnOに、酸化イットリウムをY2O3に、酸化バリウムをBaOに、酸化カルシウムをCaOに、酸化ケイ素をSiO2にそれぞれ換算したとき、BaTiO3100モルに対する比率が、
MgO:0.1〜3モル、
MnO:0.05〜1.0モル、
Y2O3:1モル以下、
BaO+CaO:2〜12モル、
SiO2:2〜12モル
であるEL素子。 - 前記電気絶縁性基板および前記第1絶縁体層は、セラミック材で形成されている請求項1のEL素子。
- BaTiO3、MgO、MnOおよびY2O3の合計に対し、BaO、CaOおよびSiO2が(BaxCa1-xO)y・SiO2(ただし、0.3≦x≦0.7、0.95≦y≦1.05である。)として1〜10重量%含有される請求項1または2のEL素子。
- 前記第1電極が、Ni、Cu、W、Moのいずれか1種またはこれらのいずれか1種以上を主成分とする合金である請求項2または3のEL素子。
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