JP4127145B2 - Constant velocity joint inner ring with excellent fatigue characteristics and manufacturing method thereof - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高周波焼入れによる硬化層をそなえる、自動車や産業機械の動力伝達装置の駆動車軸などに用いる、疲労特性に優れた等速ジョイントの内輪ならびにその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、自動車の動力伝達装置において、その車輪側の駆動車軸では、図1に示すように、ドライブシャフト1からの動力を車輪のハブ2に伝えるために、等速ジョイント3を介するのが通例である。
この等速ジョイント3は、外輪4および内輪5の組み合わせになる。すなわち、外輪4のマウス部4aの内面に形成したボール軌道溝に嵌めるボール6を介して、マウス部4aの内側に内輪5を揺動可能に固定してなり、この内輪5にドライブシャフト1を嵌合する一方、外輪4のステム部4bをハブ2に例えばスプライン結合させることによって、ドライブシャフト1からの動力を車輪のハブ2に伝えるものである。
【0003】
等速ジョイントの内輪のドライブシャフトとの嵌合部であるスプライン部は、繰り返しの動力伝達を行う際に、僅かながらすべりを伴う転動疲労、すなわちすべり転動疲労を受ける。したがって、等速ジョイントの内輪は、熱間圧延棒鋼に、熱間鍛造、さらには冷間鍛造や転造などを施して所定の形状に加工したのち、高周波焼入れ−焼戻しを行うことにより表面硬化層を形成し、この種用途として重要な特性である、すべり転動疲労寿命を確保しているのが一般的である(特許文献1参照)。
【0004】
他方、近年の環境問題から自動車用部材に対する軽量化への要求が強く、この観点から自動車用部材の疲労強度の一層の向上が要求されている。
転動疲労寿命に優れた鋼材としては、JIS-SUJ2鋼が一般的であり多用途に使われている。しかしSUJ2鋼は冷間加工性が低くまた鋼材コストも高いため、等速ジョイント内輪への適用は少ない。
また、転動疲労強度の改善については、成形加工後、二段の高周波焼入れにより、表面γ粒度をJIS G 0551の粒度No. で10以上とし、かつ炭化物を微細に分散させた技術が提案されている(例えば特許文献2)。
しかしながら、この技術は、焼入れ深さが浅いこともあって、やはり近年の転動疲労強度に対する要求には十分に応えることができなかった。
【0005】
また、旧オーステナイト粒の微細化に関する技術が特許文献3に開示されている。それによれば、高周波焼入れ加熱時に微細なTiCを多量に分散させることで、旧オーステナイト粒径の微細化を図るものであるため、焼入れ前にTiCを溶体化しておく必要があり、熱間圧延工程で1100℃以上に加熱する工程を採用している。そのため、熱延時に加熱温度を高くする必要があり、生産性に劣るという問題があった。
【0006】
さらに、特許文献4には、硬化層深さCDと高周波焼入れ軸物部品の半径Rとの比(CD/R)を 0.3〜0.7 に制限した上で、このCD/Rと高周波焼入れ後の表面から1mmまでのオーステナイト結晶粒径γf、高周波焼入れままの(CD/R)=0.1 までの平均ビッカース硬さHfおよび高周波焼入れ後の軸中心部の平均ビッカース硬さHcで規定される値Aを、C量に応じて所定の範囲に制御することによってねじり疲労強度を向上させた機械構造用軸物部品が提案されている。
しかしながら、この部品では、焼入れ硬化層の全厚にわたる旧オーステナイト粒径に考慮が払われていない。
【0007】
【特許文献1】
特開2002−371320号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】
特開平7−118791号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】
特開2000−154819号公報(特許請求の範囲、段落〔0008〕)
【特許文献4】
特開平8−53714 号公報(特許請求の範囲)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の現状に鑑み開発されたもので、従来よりも疲労強度を一層向上させた等速ジョイント内輪を、その有利な製造方法と共に提案することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
さて、発明者らは、すべり転動疲労強度を効果的に向上させるべく、鋭意検討を行った。
その結果、以下に述べるように、等速ジョイント内輪の素材の化学組成、組織、焼入れ条件および焼入れ後の表面硬化層全厚にわたる旧オーステナイト粒径を最適化することにより、優れたすべり転動疲労強度が得られるとの知見を得た。
【0010】
(1) 適正な化学組成に調整した等速ジョイント内輪に、焼入れを施し、焼入れ後の表面硬化層全厚にわたる旧オーステナイト粒径を12μm 以下とすることによって、疲労強度が顕著に向上する。具体的には、化学組成に関しては、特にSiおよびMoを適正な範囲で添加することで、高周波焼入れ加熱時におけるオーステナイトの核生成サイト数が増加し、またオーステナイト粒の成長が抑制されることにより、表面硬化層の粒径が効果的に微細化し、その結果すべり転動疲労強度が顕著に向上する。特に、Siを0.30mass%以上添加することにより、高周波焼入れ後に、表面硬化層全厚にわたり粒径:12μm 以下の表面硬化層が得られる。
【0011】
(2) 等速ジョイント内輪の母材組織、すなわち焼入れ前の組織を、ベイナイト組織および/またはマルテンサイト組織が特定の分率で含有された組織にすると、ベイナイト組織あるいはマルテンサイト組織がフェライト−パーライト組織に比べて炭化物が微細に分散した組織であるため、焼入れ加熱時にオーステナイトの核生成サイトであるフェライト/炭化物の界面の面積が増えて、生成したオーステナイトが微細化する。その結果、表面硬化層の粒径が微細となり、これにより粒界強度が向上し、すべり転動疲労強度が増加する。
【0012】
(3) 上記したように、化学組成および組織を調整した等速ジョイント内輪に対する、高周波焼入れ条件(加熱温度、時間、焼入れ回数)を適正に制御することで、硬化層粒径が顕著に微細化し、粒界強度が向上する。具体的には、加熱温度:800 〜1000℃、加熱時間:5秒以下とすることにより、表面硬化層全厚にわたり粒径:12μm 以下の微細粒を安定して得ることができる。さらに、上記条件での焼入れ処理を2回以上繰り返すことにより、1回の焼入れに比べてさらに微細な表面硬化層粒径が得られる。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
【0013】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1. ドライブシャフトとの嵌合面に高周波焼入れによる表面硬化層を有する等速ジョイント内輪であって、
C:0.35〜0.7 mass%、
Si:0.30〜1.1 mass%、
Mn:0.2 〜2.0 mass%、
Al:0.005 〜0.25mass%、
Ti:0.005 〜0.1 mass%、
Mo:0.05〜0.6 mass%、
B:0.0003〜0.006 mass%、
S:0.06mass%以下、
P:0.02mass%以下および
Cr:0.2 mass%以下
を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になり、母材組織が、ベイナイト組織および/またはマルテンサイト組織を有し、かつこれらベイナイト組織とマルテンサイト組織の合計の組織分率が10%以上であり、さらに高周波焼入れによる表面硬化層の旧オーステナイト粒径が該表面硬化層全厚にわたり12μm 以下であることを特徴とする、疲労特性に優れた等速ジョイント内輪。
【0014】
2.上記1において、さらに等速ジョイント外輪との間に介在するボールの転動面に、前記表面硬化層を有することを特徴とする、疲労特性に優れた等速ジョイント内輪。
【0015】
3.上記1または2において、表面硬化層の厚みが2mm以上であることを特徴とする、疲労特性に優れた等速ジョイント内輪。
【0016】
4.上記1〜3のいずれかにおいて、前記等速ジョイント内輪が、さらに
Cu:1.0 mass%以下、
Ni:3.5 mass%以下、
Co:1.0 mass%以下、
Nb:0.1 mass%以下および
V:0.5 mass%以下
のうちから選んだ1種または2種以上を含有する組成になることを特徴とする、疲労特性に優れた等速ジョイント内輪。
【0017】
5.C:0.35〜0.7 mass%、
Si:0.30〜1.1 mass%、
Mn:0.2 〜2.0 mass%、
Al:0.005 〜0.25mass%、
Ti:0.005 〜0.1 mass%、
Mo:0.05〜0.6 mass%、
B:0.0003〜0.006 mass%、
S:0.06mass%以下、
P:0.02mass%以下および
Cr:0.2 mass%以下
を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる鋼素材に、熱間加工を施して等速ジョイント内輪を成形し、その後0.2 ℃/s以上の速度で冷却したのち、焼入れ時の加熱温度:800 〜1000℃の条件下で高周波焼入れを行って、ドライブシャフトとの嵌合面に表面硬化層を形成することを特徴とする、疲労特性に優れた等速ジョイント内輪の製造方法。
【0018】
6.上記5において、さらに、等速ジョイント外輪との間に介在するボールの転動面に前記高周波焼入れを行って、表面硬化層を形成することを特徴とする、疲労特性に優れた等速ジョイント内輪の製造方法。
【0019】
7.上記5または6において、前記鋼素材が、さらに
Cu:1.0 mass%以下、
Ni:3.5 mass%以下、
Co:1.0 mass%以下、
Nb:0.1 mass%以下および
V:0.5 mass%以下
のうちから選んだ1種または2種以上を含有する組成になることを特徴とする、疲労特性に優れた等速ジョイント内輪の製造方法。
【0020】
8.上記5〜7のいずれかにおいて、高周波焼入れを複数回繰り返し、最終の高周波焼入れ時の加熱温度を 800〜1000℃とすることを特徴とする、疲労特性に優れた等速ジョイント内輪の製造方法。
【0021】
9.上記8において、前記複数回の高周波焼入れの全てについて、高周波焼入れ時の加熱温度を 800〜1000℃とすることを特徴とする、疲労特性に優れた等速ジョイント内輪の製造方法。
【0022】
10.上記5〜9のいずれかにおいて、前記加熱温度範囲での加熱時間を、1回の高周波焼入れ当たり5秒以下とすることを特徴とする、疲労特性に優れた等速ジョイント内輪の製造方法。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体的に説明する。
すなわち、図2に示すように、等速ジョイント内輪5は、図1に示したように、ドライブシャフト1が例えばスプライン結合する嵌合面5bに、又はさらにボール6の転動面5aに、表面硬化層7を有し、この表面硬化層7における旧オーステナイト粒径が該表面硬化層全厚にわたり12μm 以下であることを特徴とする。ここに、上記嵌合面5bではとりわけすべり転動疲労強度が高いことが要求される。
【0024】
かような等速ジョイント内輪について、まず、その成分組成を上記の範囲に限定した理由から説明する。
C:0.35〜0.7 mass%
Cは、焼入れ性への影響が最も大きい元素であり、焼入れ硬化層の硬さおよび深さを高めてすべり転動疲労強度の向上に有効に寄与する。しかしながら、含有量が0.35mass%に満たないと必要とされるすべり転動疲労強度を確保し難くなるため、0.35mass%以上を添加する。一方、0.7 mass%を超えて含有させると粒界強度が低下し、それに伴いすべり転動疲労強度が低下し、また切削性、冷間鍛造性および耐焼き割れ性も低下する。このためCは、0.35〜0.7 mass%の範囲に限定した。好ましくは 0.4〜0.6 mass%の範囲である。
【0025】
Si:0.30〜1.1 mass%
Siは、焼入れ加熱時にオーステナイトの核生成サイト数を増加させると共に、オーステナイトの粒成長を抑制し、焼入れ硬化層の粒径を微細化する作用を有する。また、炭化物生成を抑制し、炭化物による粒界強度の低下を抑制する。さらに、ベイナイト組織の生成にも有用な元素であり、これらのことによりすべり転動疲労強度を向上させる。
このように、Siは、本発明において非常に重要な元素であり、0.30mass%以上の含有を必須とする。というのは、Si量が0.30mass%に満たないと、製造条件および焼入れ条件をいかように調整しても硬化層全厚にわたって粒径が12μm 以下の微細粒とすることができないからである。しかしながら、Si量が 1.1mass%を超えると、フェライトの固溶硬化により硬さが上昇し、切削性および冷間鍛造性の低下を招く。従って、Siは、0.30〜1.1 mass%の範囲に限定した。好ましくは0.40〜1.0 mass%の範囲である。
【0026】
Mn:0.2 〜2.0 mass%
Mnは、焼入れ性を向上させ、焼入れ時の硬化深さを確保する上で不可欠の成分であるため、積極的に添加するが、含有量が 0.2mass%未満ではその添加効果に乏しいので、0.2 mass%以上とした。好ましくは 0.3mass%以上である。一方、Mn量が 2.0mass%を超えると焼入れ後の残留オーステナイトが増加し、かえって表面硬度が低下し、ひいてはすべり転動疲労強度の低下を招くので、Mnは 2.0mass%以下とした。なお、Mnは含有量が多いと、母材の硬質化を招き、被削性に不利となるきらいがあるので、1.2 mass%以下とするのが好適である。さらに好ましくは 1.0mass%以下である。
【0027】
Al:0.005 〜0.25mass%
Alは、脱酸に有効な元素である。また、焼入れ加熱時におけるオーステナイト粒成長を抑制することによって焼入れ硬化層の粒径を微細化する上でも有用な元素である。しかしながら、含有量が 0.005mass%に満たないとその添加効果に乏しく、一方0.25mass%を超えて含有させてもその効果は飽和し、むしろ成分コストの上昇を招く不利が生じるので、Alは 0.005〜0.25mass%の範囲に限定した。好ましくは0.05〜0.06mass%の範囲である。
【0028】
Ti:0.005 〜0.1 mass%
Tiは、不可避的不純物として混入するNと結合することで、BがBNとなってBの焼入れ性向上効果が消失するのを防止し、Bの焼入れ性向上効果を十分に発揮させる作用を有する。この効果を得るためには、少なくとも 0.005mass%の含有を必要とするが、0.1 mass%を超えて含有されるとTiNが多量に形成される結果、これが疲労破壊の起点となってすべり転動疲労強度の著しい低下を招くので、Tiは 0.005〜0.1 mass%の範囲に限定した。好ましくは0.01〜0.07mass%の範囲である。さらに、Nを確実に固定して、Bによる焼入れ性向上により、ベイナイトとマルテンサイト組織を得る観点からは、Ti(mass%)/N(mass%)≧3.42を満足させることが好適である。
【0029】
Mo:0.05〜0.6 mass%
Moは、ベイナイト組織の生成を促進することにより、焼入れ加熱時のオーステナイト粒径を微細化し、表面硬化層の粒径を細粒化する作用がある。また、焼入れ加熱時におけるオーステナイトの粒成長を抑制することにより、表面硬化層の粒径を微細化する作用がある。さらに、焼入れ性の向上に有用な元素であるため、焼入れ性を調整するために用いられる。加えて、Moは、炭化物の生成を抑制し、炭化物による粒界強度の低下を有効に阻止する元素でもある。
このように、Moは、本発明において非常に重要な元素であり、含有量が0.05mass%に満たないと、製造条件や焼入れ条件をいかように調整しても表面硬化層全厚にわたって粒径が12μm 以下の微細粒とすることができない。しかしながら、 0.6mass%を超えて含有させると、圧延材の硬さが著しく上昇し、加工性の低下を招く。従って、Moは0.05〜0.6 mass%の範囲に限定した。好ましくは 0.1〜0.6 mass%の範囲である。
【0030】
B:0.0003〜0.006 mass%
Bは、ベイナイト組織あるいはマルテンサイト組織の生成を促進する効果を有する。またBは、微量の添加によって焼入れ性を向上させ、焼入れ時の焼入れ深さを高めることによりすべり転動疲労強度を向上させる効果もある。さらにBは、粒界に優先的に偏析して、粒界に偏析するPの濃度を低減し、粒界強度を向上させ、もってねじり疲労強度を向上させる作用もある。
このため、本発明では、Bを積極的に添加するが、含有量が0.0003mass%に満たないとその添加効果に乏しく、一方 0.006mass%を超えて含有させるとその効果は飽和し、むしろ成分コストの上昇を招くため、Bは0.0003〜0.006 mass%の範囲に限定した。好ましくは0.0005〜0.004 mass%の範囲である。
【0031】
S:0.06mass%以下
Sは、鋼中でMnSを形成し、切削性を向上させる有用元素であるが、0.06mass%を超えて含有させると粒界に偏析して粒界強度を低下させるため、Sは0.06mass%以下に制限した。好ましくは0.04mass%以下である。
【0032】
P:0.02 mass %以下
Pは、オーステナイトの粒界に偏析し、粒界強度を低下させることにより、すべり転動疲労強度を低下させる。また、焼割れを助長する弊害もある。従って、Pの含有は極力低減することが望ましいが、0.02 mass %までは許容される。
【0033】
Cr:0.2 mass%以下
Crは、炭化物を安定化させて残留炭化物の生成を助長し、粒界強度を低下させてねじり疲労強度を劣化させる。従って、Crの含有は極力低減することが望ましいが、0.2 mass%までは許容できる。好ましくは0.05mass%以下である。
【0034】
以上、基本成分について説明したが、本発明ではその他にも、以下に述べる元素を適宜含有させることができる。
Cu:1.0 mass%以下
Cuは、焼入れ性の向上に有効であり、またフェライト中に固溶し、この固溶強化によって、すべり転動疲労強度を向上させる。また炭化物の生成を抑制することにより、炭化物による粒界強度の低下を抑制し、ねじり疲労強度を向上させる。しかしながら、含有量が 1.0mass%を超えると熱間加工時に割れが発生するため、1.0 mass%以下の添加とする。なお好ましくは0.5 mass%以下である。
【0035】
Ni:3.5 mass%以下
Niは、焼入れ性を向上させる元素であるので、焼入れ性を調整する場合に用いる。また、炭化物の生成を抑制し、炭化物による粒界強度の低下を抑制して、すべり転動疲労強度を向上させる元素でもある。しかしながら、Niは極めて高価な元素であり、3.5 mass%を超えて添加すると等速ジョイント内輪のコストが上昇するので、3.5 mass%以下の添加とする。なお、0.05mass%未満の添加では焼入れ性の向上効果および粒界強度の低下抑制効果が小さいので、0.05mass%以上含有させることが望ましい。好ましくは 0.1〜1.0 mass%である。
【0036】
Co:1.0 mass%以下
Coは、炭化物の生成を抑制して、炭化物による粒界強度の低下を抑制し、すべり転動疲労強度を向上させる元素である。しかしながら、Coは極めて高価な元素であり、1.0 mass%を超えて添加すると等速ジョイント内輪のコストが上昇するので、1.0 mass%以下の添加とする。なお、0.01mass%未満の添加では、粒界強度の低下抑制効果が小さいので、0.01mass%以上添加することが望ましい。好ましくは0.02〜0.5 mass%である。
【0037】
Nb:0.1 mass%以下
Nbは、焼入れ性の向上効果があるだけでなく、鋼中でC, Nと結合し析出強化元素として作用する。また、焼もどし軟化抵抗性を向上させる元素でもあり、これらの効果によってすべり転動疲労強度を向上させる。しかしながら、0.1 mass%を超えて含有させてもその効果は飽和するので、0.1 mass%を上限とする。なお、0.005 %未満の添加では、析出強化作用および焼もどし軟化抵抗性の向上効果が小さいため、0.005 mass%以上添加することが望ましい。好ましくは0.01〜0.05mass%である。
【0038】
V:0.5 mass%以下
Vは、鋼中でC, Nと結合し析出強化元素として作用する。また、焼もどし軟化抵抗性を向上させる元素でもあり、これらの効果によりすべり転動疲労強度を向上させる。しかしながら、0.5 mass%を超えて含有させてもその効果は飽和するので、0.5 mass%以下とする。なお、0.01mass%未満の添加では、すべり転動疲労強度の向上効果が小さいので、0.01mass%以上添加することが望ましい。好ましくは0.03〜0.3 mass%である。
【0039】
以上、好適成分組成範囲について説明したが、本発明では、成分組成を上記の範囲に限定するだけでは不十分であり、母材組織の調整も重要である。
すなわち、本発明においては、等速ジョイント内輪の母材組織、すなわち焼入れ前の組織(高周波焼入れ後の表面硬化層以外の組織に相当)が、ベイナイト組織および/またはマルテンサイト組織を有し、かつこれらベイナイト組織とマルテンサイト組織の合計の組織分率を体積分率( vol%)で10%以上とする必要がある。この理由は、ベイナイト組織あるいはマルテンサイト組織は、フェライト−パーライト組織に比べて炭化物が微細に分散した組織であるため、焼入れ加熱時にオーステナイトの核生成サイトである、フェライト/炭化物界面の面積が増加し、生成したオーステナイトが微細化するため、焼入れ後の表面硬化層の粒径を微細化するのに有効に寄与するからである。そして、表面硬化層の粒径の微細化により、粒界強度が上昇し、すべり転動疲労強度が向上する。
ここに、ベイナイト組織とマルテンサイト組織の合計の組織分率は20 vol%以上とすることがより好ましい。
【0040】
なお、ベイナイト組織あるいはマルテンサイト組織以外の残部組織は、フェライト、パーライト等いずれでもよく、特に規定しない。
また、焼入れ後の表面硬化層の粒径の微細化に関しては、マルテンサイト組織もベイナイト組織と同程度の効果を有するが、工業的な観点からは、マルテンサイト組織に比べてベイナイト組織の方がより合金元素の添加量が少なくて済み、また低冷却速度で生成させることが可能であるため、製造上有利となる。
【0041】
また、本発明の等速ジョイント内輪では、ドライブシャフトとの嵌合面に高周波焼入れによる表面硬化層を有し、この高周波焼入れ後の表面硬化層に関し、その全厚にわたって旧オーステナイト粒径を12μm 以下とする必要がある。というのは、表面硬化層の全厚にわたる旧オーステナイト粒径が12μm を超えると、十分な粒界強度が得られず、満足いくほどのねじり疲労強度の向上が望めないからである。なお、好ましくは10μm 以下、さらに好ましくは5μm 以下である。
【0042】
ここに、表面硬化層の全厚にわたる旧オーステナイト粒径の測定は、次のようにして行う。
高周波焼入れ後の本発明の等速ジョイント内輪において、高周波焼入れしたドライブシャフトとの嵌合面の最表層は面積率で 100%のマルテンサイト組織を有する。そして、表面から内部にいくに従い、ある深さまでは 100%マルテンサイト組織の領域が続くが、ある深さから急激にマルテンサイト組織の面積率が減少する。
本発明では、高周波焼入れした部分について、等速ジョイント内輪のドライブシャフトとの嵌合面の表面から、マルテンサイト組織の面積率が98%に減少するまでの深さ領域を表面硬化層と定義する。
そして、この表面硬化層について、表面から硬化層厚の 1/5位置、1/2 位置および4/5 位置それぞれの位置における平均旧オーステナイト粒径を測定し、いずれの平均旧オーステナイト粒径も12μm 以下である場合に、表面硬化層の全厚にわたる旧オーステナイト粒径が12μm 以下であるとする。
なお、平均旧オーステナイト粒径の測定は、光学顕微鏡により、400 倍(1視野の面積:0.25mm×0.225 mm)から1000倍(1視野の面積:0.10mm×0.09mm)で、各位置毎に5視野観察し、画像解析装置により平均粒径を測定することにより行う。
【0043】
さらに、本発明において、高周波焼入れによる表面硬化層厚みは2mm以上とすることが好適である。というのは、硬化層厚みが小さすぎる場合には、すべり転動応力が非硬化層にも影響し、非硬化層からの破損を引き起こすためである。
【0044】
また、本発明では、上述した表面硬化層をさらに等速ジョイント外輪との間に介在するボールの転動面にも有することが好ましい。
ボールの転動面はボールの転がりによる転動疲労を受けるが、上述した平均旧オーステナイト粒径が表面硬化層全厚にわたって12μm 以下である表面硬化層は、この転動疲労強度の向上にも有効である。このため、ドライブシャフトの嵌合面だけでなく、ボールの転動面にも上述の硬化層を形成させることで、さらなる耐久性の向上が行える。
【0045】
次に、本発明の等速ジョイント内輪を製造する条件について説明する。
まず、所定の成分組成に調整した鋼材を棒鋼圧延して得た棒鋼を所定長さに切断し、その後熱間鍛造によって等速ジョイント内輪を成形し、必要に応じて焼ならしを施し、次いで転造加工によって嵌合面にドライブシャフトがスプライン結合するための条溝を成形したのち、高周波焼入れを嵌合面の表層に施して、製品とする。
【0046】
本発明では、母材組織を、上述したベイナイト組織および/またはマルテンサイト組織を有し、かつこれらベイナイト組織とマルテンサイト組織の合計の組織分率が10 vol%以上の組織とするために、高周波焼入れを施す前の素材については、圧延・鍛造等の熱間加工により所定の形状に加工したのち、0.2 ℃/s以上の速度で冷却する必要がある。というのは、冷却速度が0.2 ℃/s未満の場合には、ベイナイトあるいはマルテンサイト組織が得られ難くなり、これら組織の合計の組織分率が10 vol%に達しない場合が生じるからである。熱間加工後の冷却速度の好適範囲は 0.3〜30℃/sである。
【0047】
なお、熱間加工は 900℃超〜1150℃の温度範囲で行うことが好ましい。900 ℃以下では、必要なベイナイト組織および/またはマルテンサイト組織が得られず、一方1150℃超では加熱コストが大きくなるため、経済的に不利となるからである。
【0048】
次に、本発明では、ドライブシャフトとの嵌合面に、好ましくは、さらに等速ジョイント外輪との間に介在するボールの転動面に、上述した表面硬化層を得るために高周波焼入れを施すが、この高周波焼入れ時の加熱温度範囲は 800〜1000℃とする必要がある。というのは、加熱温度が 800℃未満の場合、オーステナイト組織の生成が不十分となり、上述した表面硬化層組織の生成が不十分となる結果、十分な疲労強度を確保することができず、一方、加熱温度が1000℃超えの場合、オーステナイト粒の成長が促進されて粗大となり、表面硬化層の粒径が粗大となるため、やはり疲労強度の低下を招くからである。より好ましい加熱温度範囲は 800〜950 ℃である。
【0049】
上記した高周波焼入れを複数回繰り返す場合には、少なくとも最終の高周波焼入れを、加熱温度:800 〜1000℃として行えばよい。ここに、高周波焼入れを複数回繰り返す場合には、全ての高周波焼入れについて、加熱温度:800 〜1000℃とすることが最も望ましい。そして、2回以上の繰り返し焼入れを行うことで、1回焼入れに比べてさらに微細な表面硬化層粒径を得ることができる。
【0050】
なお、高周波焼入れを複数回繰り返す場合、少なくとも最終の高周波焼入れによる焼入れ深さは、それ以前の高周波焼入れによる焼入れ深さと同等またはそれ以上とすることが好ましい。というのは、表面硬化層の結晶粒径は、最後の高周波焼入れに一番強く影響されるので、最後の高周波焼入れによる焼入れ深さが、それ以前の高周波焼入れによる焼入れ深さよりも小さいと、表面硬化層全厚にわたる平均結晶粒径がむしろ大きくなり、かえって疲労強度が低下する傾向にあるからである。
【0051】
また、本発明においては、高周波焼入れは、上記加熱温度範囲における加熱時間を5秒以下とすることが好ましい。というのは、加熱時間を5秒以下とした場合には、5秒を超える場合に比べて、オーステナイトの粒成長をさらに抑制することができ、非常に微細な表面硬化層粒径を得ることができる。より好ましい加熱時間は3秒以下である。
【0052】
【実施例】
表1に示す成分組成になる鋼素材を、転炉により溶製し、連続鋳造により鋳片とした。鋳片サイズは 300×400mm であった。この鋳片を、ブレークダウン工程を経て150 mm角ビレットに圧延したのち、40mmφの棒鋼に圧延した。
【0053】
ついで、この棒鋼を所定長さに切断後、熱間鍛造によって等速ジョイント内輪(外径:45mmおよび内径:20mm)を成形し、次いで転造加工によって嵌合面にスプライン結合のための条溝を形成した。熱間鍛造の仕上温度はベイナイトあるいはマルテンサイト組織生成の観点から好適な温度として 900℃超とした。熱間鍛造の冷却は表2に示す条件とした。
【0054】
この等速ジョイント内輪のドライブシャフトとの嵌合面および等速ジョイント外輪との間に介在するボールの転動面に、周波数:15Hzの高周波焼入れ装置を用いて、表2に示す条件下で焼入れを行った後、加熱炉を用いて 180℃×2hの条件で焼もどしを行って製品とした。かくして得られた等速ジョイント内輪は、その嵌合面にドライブシャフトを嵌合するとともに、等速ジョイント外輪のマウス部にボール(鋼球)を介して装着し、一方等速ジョイント外輪のステム部にハブを嵌合することによって、等速ジョイントユニットとした(図1参照)。なお、ボール、外輪、ドライブシャフトおよびハブの仕様は下記の通りである。
記
ボール:高炭素クロム軸受鋼SUJ2の焼入れ焼戻し鋼
外輪:機械構造用炭素鋼の高周波焼入れ焼戻し鋼
ハブ:機械構造用炭素鋼の高周波焼入れ焼戻し鋼
ドライブシャフト:機械構造用炭素鋼の高周波焼入れ焼戻し鋼
【0055】
次に、この等速ジョイントユニットを用いて、ドライブシャフトの回転運動を等速ジョイントの内輪そして内輪を経てハブに伝える動力伝達系において、ドライブシャフトの嵌合部のすべり転動疲労強度、および、ボールの転動面の転動疲労強度に関する耐久試験を行った。
【0056】
ここで、すべり転動疲労試験は、最大トルク:4900 N・m のねじり疲労試験機を用いて、等速ジョイントユニットのハブとドライブシャフトとの間に、最大トルク700N・m の条件下で周波数2Hz の両振りで繰り返しねじり力を負荷し、等速ジョイント内輪のスプライン部(ドライブシャフトとの嵌合面)にすべり転動による破損が起こるまでの時間を、すべり転動疲労強度として評価した。
【0057】
転動疲労試験は、トルク:900 N ・m 、作動角(内輪の軸線とドライブシャフト軸線とがなす角度):20°および回転数:300rpmの条件下で動力伝達を行い、等速ジョイント内輪の転動面にはく離が生じるまでの時間を転動疲労強度として評価した。なお、ここでドライブシャフト、等速ジョイント外輪等の寸法、形状は、耐久試験時に等速ジョイント内輪が最弱部となるように設定した。
【0058】
また、同じ条件で作製した等速ジョイント内輪について、その母材組織、焼入れ後の表面硬化層厚み、表面硬化層の全厚にわたって得られる平均旧オーステナイト粒径を、光学顕微鏡を用いて測定した。
表2には、母材組織の調査結果を、表3には表面硬化層厚み、平均旧オーステナイト粒径(硬化層粒径)、すべり転動疲労強度、およびボール転動面の転動疲労強度の調査結果を併記する。
ここで、表面硬化層厚みについては、前述したように、等速ジョイント内輪の転動面および嵌合面の表面からマルテンサイト組織の面積率が98%に減少する深さまでとした。また、高周波焼入れを複数回実施したものについては、それぞれの焼入れ後の表面硬化層厚みを測定した。さらに、表面硬化層粒径については、表面から硬化層厚の 1/5位置、1/2 位置および4/5 位置それぞれの位置における平均旧オーステナイト粒径を測定し、それらの最大値を示した。なお、高周波焼入れを複数回実施したものについては、最終焼入れ後の平均旧オーステナイト粒径を測定した。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
表2および表3から明らかなように、本発明で規定した成分組成範囲を満足し、かつ本発明の高周波焼入れ条件を満たす条件でドライブシャフトの嵌合部に焼入れを施した等速ジョイント内輪はいずれも、ドライブシャフトの嵌合部の表面硬化層の旧オーステナイト粒径が全厚にわたって12μm 以下を満たしており、その結果すべり転動疲労寿命100hr 以上、の優れた疲労特性を得ることができた。
なお、表3中のNo. 1とNo.39 とを比較すると、ドライブシャフトの嵌合面だけでなく、ボールの転動面についても本発明の高周波焼入れ条件を満たす条件で焼入れを施し、表面硬化層の旧オーステナイト粒径が全厚にわたって12μm 以下を満たすようにすることで、等速ジョイント内輪のボールの転がりによる転動疲労をも向上できることがわかる。
【0063】
また、表3中のNo.1と2あるいはNo.4と5を比較すると、焼入れ回数を1回から2回に増やすことで、表面硬化層の粒径が微細化し、疲労特性がさらに向上することが分かる。
【0064】
さらに、No.8, No.37, No.38を比較すると、焼入れ回数を1回から2回に増やした場合において、2回目の焼入れ深さの方が浅い場合(No.37)には、1回しか施さなかった場合よりも疲労特性はむしろ劣化するのに対し、2回目の焼入れ深さを深くした場合(No.38)には、1回しか施さなかった場合に比べてねじり疲労強度は大幅に向上した。No.38 では、硬化層厚方向で、表面から硬化層厚の 4/5位置で最も旧オーステナイト粒径が大きく、3.5 μm であったが、表層近傍(表面から硬化層厚の 1/5位置)では旧オーステナイト粒径は 2.6μm であり、表層の粒径が微細化していることが、疲労特性の向上に寄与したものと考えられる。
【0065】
これに対し、No.11 は、加工後の冷却速度が小さいため、ベイナイトとマルテンサイトの合計組織分率が10%未満となっており、その結果、表面硬化層粒径が粗大となり、疲労特性が悪い。
No.24 は、表面硬化層粒径は微細であるものの、C含有量が本発明の範囲より高いため、粒界強度の低下を招き、そのため疲労特性が劣っている。
No,25, 26, 27 は、それぞれC, Si, Moの含有量が本発明の適正範囲よりも低いため、表面硬化層粒径が粗大となり、疲労特性が劣っている。
No.28 はB含有量が低く、またNo.29 はMn含有量が、No.30 はSおよびP含有量が、No.31 はCr含有量が、それぞれ本発明の適正範囲を超えているため、いずれも粒界強度の低下を招き、疲労特性が劣っている。
No.32 は、Ti含有量が本発明の適正範囲を超えているため、疲労特性が劣っており、逆にNo.35 はTi含有量が低いため、表面硬化層粒径が粗大となり、疲労特性が劣っている。
No.33 は、高周波焼入れ時の加熱温度が高すぎるため表面硬化層の粒径が粗大となり、一方No.34 は、高周波焼入れ時の加熱温度が低すぎるため表面硬化層が形成されず、いずれも疲労特性に劣っている。
No.36 は、Si量が本発明の下限に満たない0.28mass%の場合であるが、この例のように、Si量が本発明の下限をわずかでも下回る場合には、表面硬化層全厚にわたって12μm 以下の粒径を得ることができず、その結果、疲労特性に劣っている。
【0066】
【発明の効果】
かくして、本発明によれば、優れた疲労特性を有する等速ジョイント内輪を安定して得ることができ、その結果、自動車用部材の軽量化の要求に対し偉功を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 等速ジョイントの部分断面図である。
【図2】 等速ジョイント内輪における表面硬化層を示す断面図である。
【符号の説明】
1 ドライブシャフト
2 ハブ
3 等速ジョイント
4 内輪
4a マウス部
4b ステム部
5 内輪
5a 転動面
5b 嵌合面
6 ボール
7 表面硬化層[0001]
BACKGROUND OF THE INVENTION
The present invention relates to an inner ring of a constant velocity joint that has a hardened layer by induction hardening and is used for a drive axle of a power transmission device of an automobile or an industrial machine, and has excellent fatigue characteristics, and a method for manufacturing the same.
[0002]
[Prior art]
2. Description of the Related Art Conventionally, in a power transmission device for an automobile, the driving axle on the wheel side is usually via a constant velocity joint 3 to transmit power from the drive shaft 1 to the hub 2 of the wheel as shown in FIG. is there.
The constant velocity joint 3 is a combination of an outer ring 4 and an
[0003]
The spline portion, which is a fitting portion with the drive shaft of the inner ring of the constant velocity joint, is subjected to rolling fatigue accompanied by a slight slip, that is, slip rolling fatigue when performing repeated power transmission. Therefore, the inner ring of the constant velocity joint is subjected to induction hardening and tempering after hot forging, cold forging, rolling, etc. are processed into a predetermined shape, followed by induction hardening and tempering. In general, the sliding rolling fatigue life, which is an important characteristic for this kind of application, is secured (see Patent Document 1).
[0004]
On the other hand, due to environmental problems in recent years, there is a strong demand for weight reduction of automobile members. From this viewpoint, further improvement of the fatigue strength of automobile members is required.
JIS-SUJ2 steel is generally used as a steel material with excellent rolling fatigue life and is widely used. However, SUJ2 steel has low cold workability and high steel costs, so it is rarely applied to constant velocity joint inner rings.
In addition, to improve rolling fatigue strength, a technology has been proposed in which the surface γ grain size is set to 10 or more in JIS G 0551 grain size No. and carbide is finely dispersed by two-stage induction hardening after molding. (For example, Patent Document 2).
However, this technique cannot sufficiently meet the recent demand for rolling fatigue strength because the quenching depth is shallow.
[0005]
Further, Patent Document 3 discloses a technique related to refinement of prior austenite grains. According to it, since fine TiC is dispersed in a large amount at the time of induction quenching heating, the prior austenite grain size is to be refined, so it is necessary to solution TiC before quenching, the hot rolling process The process of heating to 1100 ° C or higher is adopted. Therefore, there is a problem that it is necessary to increase the heating temperature during hot rolling, resulting in poor productivity.
[0006]
Further, in Patent Document 4, the ratio (CD / R) between the hardened layer depth CD and the radius R of the induction-hardened shaft component is limited to 0.3 to 0.7, and the CD / R and the surface after induction hardening are used. The value A defined by the austenite grain size γf up to 1 mm, the average Vickers hardness Hf up to (CD / R) = 0.1 as induction-quenched, and the average Vickers hardness Hc at the center of the shaft after induction hardening is expressed as C There has been proposed a shaft object part for a machine structure in which torsional fatigue strength is improved by controlling it within a predetermined range according to the amount.
However, in this part, no consideration is given to the prior austenite grain size over the entire thickness of the hardened hardened layer.
[0007]
[Patent Document 1]
JP 2002-371320 A (Claims)
[Patent Document 2]
JP-A-7-118791 (Claims)
[Patent Document 3]
JP 2000-154819 A (Claims, paragraph [0008])
[Patent Document 4]
JP-A-8-53714 (Claims)
[0008]
[Problems to be solved by the invention]
The present invention has been developed in view of the above-described present situation, and an object thereof is to propose a constant velocity joint inner ring having further improved fatigue strength as compared with the conventional method together with its advantageous manufacturing method.
[0009]
[Means for Solving the Problems]
Now, the inventors have intensively studied to effectively improve the sliding rolling fatigue strength.
As a result, as described below, excellent sliding rolling fatigue is achieved by optimizing the material composition of the constant velocity joint inner ring, the structure, quenching conditions, and the prior austenite grain size over the entire thickness of the hardened layer after quenching. The knowledge that strength was obtained was acquired.
[0010]
(1) Fatigue strength is significantly improved by quenching the constant velocity joint inner ring adjusted to an appropriate chemical composition and setting the prior austenite grain size over the entire thickness of the hardened surface layer to 12 μm or less after quenching. Specifically, regarding the chemical composition, the addition of Si and Mo in an appropriate range increases the number of austenite nucleation sites during induction hardening and suppresses the growth of austenite grains. The particle size of the surface hardened layer is effectively refined, and as a result, the sliding rolling fatigue strength is remarkably improved. In particular, by adding Si in an amount of 0.30 mass% or more, a surface hardened layer having a particle size of 12 μm or less can be obtained over the entire thickness of the surface hardened layer after induction hardening.
[0011]
(2) If the base metal structure of the inner ring of the constant velocity joint, that is, the structure before quenching is made into a structure containing a bainite structure and / or martensite structure in a specific fraction, the bainite structure or martensite structure is ferrite-pearlite. Since the carbide is a finely dispersed structure as compared with the structure, the area of the ferrite / carbide interface that is the nucleation site of austenite increases during quenching heating, and the generated austenite becomes finer. As a result, the particle size of the surface hardened layer becomes fine, thereby improving the grain boundary strength and increasing the sliding rolling fatigue strength.
[0012]
(3) As mentioned above, the hardened layer particle size is remarkably refined by appropriately controlling the induction hardening conditions (heating temperature, time, number of times of quenching) for the constant velocity joint inner ring whose chemical composition and structure are adjusted. , Grain boundary strength is improved. Specifically, by setting the heating temperature to 800 to 1000 ° C. and the heating time to 5 seconds or less, fine particles having a particle size of 12 μm or less can be stably obtained over the entire thickness of the surface hardened layer. Furthermore, by repeating the quenching process under the above conditions twice or more, a finer surface hardened layer particle size can be obtained as compared with one quenching.
The present invention is based on the above findings.
[0013]
That is, the gist configuration of the present invention is as follows.
1. A constant velocity joint inner ring having a hardened surface layer by induction hardening on the fitting surface with the drive shaft,
C: 0.35-0.7 mass%
Si: 0.30 to 1.1 mass%,
Mn: 0.2-2.0 mass%
Al: 0.005 to 0.25 mass%,
Ti: 0.005 to 0.1 mass%,
Mo: 0.05-0.6 mass%,
B: 0.0003 to 0.006 mass%,
S: 0.06 mass% or less,
P: 0.02 mass% or less and
Cr: 0.2 mass% or less, the balance is Fe and inevitable impurities, the base material structure has a bainite structure and / or martensite structure, and the total of these bainite structure and martensite structure A constant velocity joint inner ring having excellent fatigue characteristics, characterized by having a structure fraction of 10% or more and a prior austenite grain size of a hardened surface layer by induction hardening being 12 μm or less over the entire thickness of the hardened surface layer.
[0014]
2. 3. The constant velocity joint inner ring having excellent fatigue characteristics, wherein the hardened surface is provided on a rolling surface of a ball interposed between the outer race and the constant velocity joint outer ring.
[0015]
3. 3. The constant velocity joint inner ring having excellent fatigue characteristics, wherein the thickness of the hardened surface layer is 2 mm or more in 1 or 2 above.
[0016]
4). In any one of the above 1-3, the constant velocity joint inner ring is further
Cu: 1.0 mass% or less,
Ni: 3.5 mass% or less,
Co: 1.0 mass% or less,
A constant velocity joint inner ring excellent in fatigue characteristics, characterized by having a composition containing one or more selected from Nb: 0.1 mass% or less and V: 0.5 mass% or less.
[0017]
5. C: 0.35-0.7 mass%
Si: 0.30 to 1.1 mass%,
Mn: 0.2-2.0 mass%
Al: 0.005 to 0.25 mass%,
Ti: 0.005 to 0.1 mass%,
Mo: 0.05-0.6 mass%,
B: 0.0003 to 0.006 mass%,
S: 0.06 mass% or less,
P: 0.02 mass% or less and
Cr: 0.2 mass% or less, with the balance being Fe and inevitable impurities, steel material is hot-worked to form a constant velocity joint inner ring, and then cooled at a rate of 0.2 ° C / s or higher After that, the constant temperature joint with excellent fatigue characteristics is characterized by forming a hardened surface layer on the mating surface with the drive shaft by induction hardening at a heating temperature of 800 to 1000 ° C. Manufacturing method of inner ring.
[0018]
6). 5. The constant velocity joint inner ring having excellent fatigue characteristics, characterized in that the induction hardening is performed on the rolling surface of the ball interposed between the constant velocity joint outer ring and the hardened surface layer. Manufacturing method.
[0019]
7). In the above 5 or 6, the steel material is further
Cu: 1.0 mass% or less,
Ni: 3.5 mass% or less,
Co: 1.0 mass% or less,
A method for producing a constant velocity joint inner ring having excellent fatigue characteristics, characterized in that the composition contains one or more selected from Nb: 0.1 mass% or less and V: 0.5 mass% or less.
[0020]
8). 5. The method for producing a constant velocity joint inner ring having excellent fatigue characteristics, wherein the induction hardening is repeated a plurality of times and the heating temperature at the final induction hardening is 800 to 1000 ° C.
[0021]
9. 8. The method for producing a constant velocity joint inner ring having excellent fatigue characteristics, wherein the heating temperature during induction hardening is set to 800 to 1000 ° C. for all of the plurality of induction hardenings.
[0022]
10. 5. The method for producing a constant velocity joint inner ring having excellent fatigue characteristics, wherein the heating time in the heating temperature range is 5 seconds or less per induction hardening.
[0023]
DETAILED DESCRIPTION OF THE INVENTION
The present invention will be specifically described below.
That is, as shown in FIG. 2, the constant velocity joint
[0024]
Such a constant velocity joint inner ring will first be described for the reason that its component composition is limited to the above range.
C: 0.35-0.7 mass%
C is an element having the greatest influence on the hardenability, and contributes to the improvement of the sliding rolling fatigue strength by increasing the hardness and depth of the hardened hardened layer. However, if the content is less than 0.35 mass%, it becomes difficult to secure the required sliding rolling fatigue strength, so 0.35 mass% or more is added. On the other hand, if the content exceeds 0.7 mass%, the grain boundary strength is lowered, the sliding rolling fatigue strength is lowered accordingly, and the machinability, cold forgeability and fire cracking resistance are also lowered. For this reason, C was limited to the range of 0.35 to 0.7 mass%. Preferably it is the range of 0.4-0.6 mass%.
[0025]
Si: 0.30 to 1.1 mass%
Si has the effect of increasing the number of nucleation sites of austenite during quenching heating, suppressing the grain growth of austenite, and reducing the grain size of the quenched hardened layer. Moreover, carbide | carbonized_material production | generation is suppressed and the fall of the grain boundary strength by carbide | carbonized_material is suppressed. Furthermore, it is an element useful for the formation of a bainite structure, and these improve the sliding rolling fatigue strength.
Thus, Si is a very important element in the present invention, and it is essential to contain 0.30 mass% or more. This is because if the Si amount is less than 0.30 mass%, fine particles having a particle diameter of 12 μm or less cannot be obtained over the entire thickness of the cured layer, regardless of how the manufacturing conditions and quenching conditions are adjusted. However, if the Si content exceeds 1.1 mass%, the hardness increases due to the solid solution hardening of ferrite, leading to a decrease in machinability and cold forgeability. Therefore, Si was limited to the range of 0.30 to 1.1 mass%. Preferably it is the range of 0.40-1.0 mass%.
[0026]
Mn: 0.2 to 2.0 mass%
Mn is an essential component for improving the hardenability and ensuring the hardening depth during quenching, so it is actively added, but if the content is less than 0.2 mass%, the effect of addition is poor, so 0.2% More than mass%. Preferably it is 0.3 mass% or more. On the other hand, if the amount of Mn exceeds 2.0 mass%, the retained austenite after quenching increases, and on the contrary, the surface hardness decreases, and as a result, the sliding rolling fatigue strength decreases, so Mn is set to 2.0 mass% or less. It should be noted that if the content of Mn is large, the base material is hardened, which may be disadvantageous in machinability. Therefore, it is preferable to set the content to 1.2 mass% or less. More preferably, it is 1.0 mass% or less.
[0027]
Al: 0.005 to 0.25 mass%
Al is an element effective for deoxidation. Moreover, it is an element useful also in refine | miniaturizing the particle size of a hardening hardening layer by suppressing the austenite grain growth at the time of quenching heating. However, if the content is less than 0.005 mass%, the effect of addition is poor. On the other hand, even if the content exceeds 0.25 mass%, the effect is saturated, and rather, a disadvantage that causes an increase in the component cost occurs. Limited to a range of ~ 0.25 mass%. Preferably it is the range of 0.05-0.06 mass%.
[0028]
Ti: 0.005 to 0.1 mass%
Ti combines with N mixed as an unavoidable impurity to prevent B from becoming BN and the effect of improving the hardenability of B to disappear, and has the effect of sufficiently exerting the effect of improving the hardenability of B. . In order to obtain this effect, it is necessary to contain at least 0.005 mass%. However, if it exceeds 0.1 mass%, a large amount of TiN is formed, which becomes the starting point of fatigue failure and causes sliding rolling. Ti is limited to the range of 0.005 to 0.1 mass% because it causes a significant decrease in fatigue strength. Preferably it is the range of 0.01-0.07 mass%. Furthermore, it is preferable to satisfy Ti (mass%) / N (mass%) ≧ 3.42 from the viewpoint of securing N securely and improving the hardenability by B to obtain a bainite and martensite structure.
[0029]
Mo: 0.05-0.6 mass%
Mo promotes the formation of a bainite structure, thereby reducing the austenite grain size during quenching and heating, and reducing the grain size of the surface hardened layer. Moreover, it has the effect | action which refines | miniaturizes the particle size of a surface hardening layer by suppressing the grain growth of austenite at the time of quenching heating. Furthermore, since it is an element useful for improving hardenability, it is used for adjusting hardenability. In addition, Mo is an element that suppresses the formation of carbides and effectively prevents a decrease in grain boundary strength due to carbides.
Thus, Mo is a very important element in the present invention, and if the content is less than 0.05 mass%, the particle size over the entire thickness of the surface hardened layer is adjusted no matter how the manufacturing conditions and quenching conditions are adjusted. However, it cannot be made fine particles of 12 μm or less. However, if the content exceeds 0.6 mass%, the hardness of the rolled material is remarkably increased, and the workability is reduced. Therefore, Mo is limited to the range of 0.05 to 0.6 mass%. Preferably it is the range of 0.1-0.6 mass%.
[0030]
B: 0.0003 to 0.006 mass%
B has an effect of promoting the formation of a bainite structure or a martensite structure. B also has the effect of improving hardenability by adding a small amount and improving the sliding rolling fatigue strength by increasing the quenching depth during quenching. Further, B preferentially segregates at the grain boundary, reduces the concentration of P segregating at the grain boundary, improves the grain boundary strength, and thus has an effect of improving torsional fatigue strength.
For this reason, in the present invention, B is positively added, but if the content is less than 0.0003 mass%, the effect of addition is poor. On the other hand, if the content exceeds 0.006 mass%, the effect is saturated, rather the component In order to raise the cost, B is limited to the range of 0.0003 to 0.006 mass%. Preferably it is the range of 0.0005-0.004 mass%.
[0031]
S: 0.06 mass% or less S is a useful element that improves the machinability by forming MnS in steel, but if it exceeds 0.06 mass%, it segregates at the grain boundary and lowers the grain boundary strength. , S was limited to 0.06 mass% or less. Preferably it is 0.04 mass% or less.
[0032]
P: 0.02 mass% or less P segregates at the austenite grain boundaries and lowers the grain boundary strength, thereby reducing the sliding rolling fatigue strength. In addition, there is a harmful effect that promotes burning cracks. Therefore, it is desirable to reduce the P content as much as possible, but it is allowed up to 0.02 mass%.
[0033]
Cr: 0.2 mass% or less
Cr stabilizes the carbide and promotes the formation of residual carbide, lowers the grain boundary strength, and degrades the torsional fatigue strength. Therefore, it is desirable to reduce the Cr content as much as possible, but up to 0.2 mass% is acceptable. Preferably it is 0.05 mass% or less.
[0034]
The basic components have been described above. However, in the present invention, other elements described below can be appropriately contained.
Cu: 1.0 mass% or less
Cu is effective in improving the hardenability, and also dissolves in ferrite, and this solid solution strengthening improves the sliding rolling fatigue strength. Further, by suppressing the formation of carbides, the decrease in grain boundary strength due to carbides is suppressed, and the torsional fatigue strength is improved. However, if the content exceeds 1.0 mass%, cracking occurs during hot working, so 1.0 mass% or less is added. In addition, Preferably it is 0.5 mass% or less.
[0035]
Ni: 3.5 mass% or less
Since Ni is an element that improves hardenability, Ni is used when adjusting hardenability. Moreover, it is an element which suppresses the production | generation of a carbide | carbonized_material and suppresses the fall of the grain boundary strength by a carbide | carbonized_material, and improves a sliding rolling fatigue strength. However, Ni is an extremely expensive element, and adding more than 3.5 mass% increases the cost of the constant velocity joint inner ring. In addition, since the effect of improving hardenability and the effect of suppressing the decrease in grain boundary strength are small when added at less than 0.05 mass%, it is desirable to add 0.05 mass% or more. Preferably it is 0.1-1.0 mass%.
[0036]
Co: 1.0 mass% or less
Co is an element that suppresses the formation of carbides, suppresses the decrease in grain boundary strength due to carbides, and improves the sliding rolling fatigue strength. However, Co is an extremely expensive element, and adding more than 1.0 mass% increases the cost of the constant velocity joint inner ring. In addition, since addition of less than 0.01 mass% has a small effect of suppressing the decrease in grain boundary strength, it is desirable to add 0.01 mass% or more. Preferably it is 0.02-0.5 mass%.
[0037]
Nb: 0.1 mass% or less
Nb not only has an effect of improving hardenability, but also combines with C and N in steel and acts as a precipitation strengthening element. It is also an element that improves the temper softening resistance, and these effects improve the sliding rolling fatigue strength. However, since the effect is saturated even if it contains exceeding 0.1 mass%, 0.1 mass% is made an upper limit. In addition, if less than 0.005% is added, the effect of improving precipitation strengthening and tempering softening resistance is small, so it is desirable to add 0.005 mass% or more. Preferably it is 0.01-0.05 mass%.
[0038]
V: 0.5 mass% or less V combines with C and N in steel and acts as a precipitation strengthening element. It is also an element that improves tempering and softening resistance, and these effects improve sliding rolling fatigue strength. However, since the effect is saturated even if it contains exceeding 0.5 mass%, it shall be 0.5 mass% or less. In addition, since the improvement effect of sliding rolling fatigue strength is small when added less than 0.01 mass%, it is desirable to add 0.01 mass% or more. Preferably it is 0.03-0.3 mass%.
[0039]
The preferred component composition range has been described above. However, in the present invention, it is not sufficient to limit the component composition to the above range, and adjustment of the matrix structure is also important.
That is, in the present invention, the base material structure of the constant velocity joint inner ring, that is, the structure before quenching (corresponding to the structure other than the surface hardened layer after induction hardening) has a bainite structure and / or a martensite structure, and The total structure fraction of the bainite structure and martensite structure must be 10% or more in terms of volume fraction (vol%). The reason for this is that the bainite structure or martensite structure is a structure in which carbides are finely dispersed compared to the ferrite-pearlite structure, so the area of the ferrite / carbide interface, which is an austenite nucleation site, is increased during quenching heating. This is because the generated austenite is made finer, and thus contributes effectively to making the grain size of the hardened surface hardened layer finer. And by grain refinement | miniaturization of the surface hardened layer, a grain-boundary intensity | strength rises and a sliding rolling fatigue strength improves.
Here, the total structure fraction of the bainite structure and the martensite structure is more preferably 20 vol% or more.
[0040]
The remaining structure other than the bainite structure or martensite structure may be ferrite, pearlite, or the like, and is not particularly defined.
Further, regarding the refinement of the grain size of the hardened surface layer after quenching, the martensite structure has the same effect as the bainite structure, but from an industrial point of view, the bainite structure is better than the martensite structure. Since the amount of the alloy element added is smaller and it can be produced at a low cooling rate, it is advantageous in production.
[0041]
The constant velocity joint inner ring of the present invention has a hardened surface layer by induction hardening on the mating surface with the drive shaft, and the hardened surface layer after induction hardening has a prior austenite grain size of 12 μm or less over its entire thickness. It is necessary to. This is because if the prior austenite grain size over the entire thickness of the surface hardened layer exceeds 12 μm, sufficient grain boundary strength cannot be obtained, and satisfactory improvement in torsional fatigue strength cannot be expected. The thickness is preferably 10 μm or less, more preferably 5 μm or less.
[0042]
Here, the measurement of the prior austenite particle size over the entire thickness of the hardened surface layer is performed as follows.
In the constant velocity joint inner ring of the present invention after induction hardening, the outermost layer of the mating surface with the drive shaft subjected to induction hardening has a martensite structure of 100% in area ratio. And as it goes from the surface to the inside, the area of 100% martensite structure continues at a certain depth, but the area ratio of the martensite structure decreases rapidly from a certain depth.
In the present invention, for the induction-quenched portion, the depth region from the surface of the fitting surface with the drive shaft of the constant velocity joint inner ring to the area ratio of the martensite structure decreasing to 98% is defined as the surface hardened layer. .
Then, for this surface hardened layer, the average prior austenite particle size at each of the 1/5 position, 1/2 position and 4/5 position of the hardened layer thickness from the surface was measured, and any average prior austenite particle diameter was 12 μm. In the following cases, it is assumed that the prior austenite grain size over the entire thickness of the surface hardened layer is 12 μm or less.
The average prior austenite grain size is measured 400 times (1 field area: 0.25 mm x 0.225 mm) to 1000 times (1 field area: 0.10 mm x 0.09 mm) at each position using an optical microscope. This is done by observing 5 fields of view and measuring the average particle size with an image analyzer.
[0043]
Furthermore, in the present invention, the thickness of the surface hardened layer by induction hardening is preferably 2 mm or more. This is because, when the thickness of the cured layer is too small, the sliding rolling stress also affects the non-cured layer, causing damage from the non-cured layer.
[0044]
Moreover, in this invention, it is preferable to have also the surface hardened layer mentioned above also on the rolling surface of the ball interposed between constant velocity joint outer rings.
The rolling surface of the ball is subject to rolling fatigue due to the rolling of the ball, but the above-mentioned surface hardened layer whose average prior austenite grain size is 12 μm or less over the entire surface hardened layer thickness is also effective in improving this rolling fatigue strength. It is. For this reason, the durability can be further improved by forming the above-mentioned hardened layer not only on the fitting surface of the drive shaft but also on the rolling surface of the ball.
[0045]
Next, conditions for manufacturing the constant velocity joint inner ring of the present invention will be described.
First, a steel bar obtained by rolling a steel material adjusted to a predetermined component composition is cut into a predetermined length, then a constant velocity joint inner ring is formed by hot forging, and then subjected to normalization as necessary, After forming a groove for spline coupling of the drive shaft to the mating surface by rolling, induction hardening is applied to the surface layer of the mating surface to obtain a product.
[0046]
In the present invention, the base material structure has the above-described bainite structure and / or martensite structure, and the total structure fraction of these bainite structure and martensite structure is 10 vol% or more. The material before quenching needs to be cooled at a rate of 0.2 ° C / s or higher after being processed into a predetermined shape by hot working such as rolling and forging. This is because when the cooling rate is less than 0.2 ° C./s, it becomes difficult to obtain a bainite or martensite structure, and the total structure fraction of these structures may not reach 10 vol%. The preferable range of the cooling rate after hot working is 0.3 to 30 ° C./s.
[0047]
In addition, it is preferable to perform hot working in a temperature range of over 900 ° C. to 1150 ° C. If the temperature is 900 ° C. or lower, the necessary bainite structure and / or martensite structure cannot be obtained. On the other hand, if it exceeds 1150 ° C., the heating cost increases, which is economically disadvantageous.
[0048]
Next, in the present invention, induction hardening is performed on the contact surface with the drive shaft, and preferably on the rolling surface of the ball interposed between the constant velocity joint outer ring to obtain the above-described surface hardened layer. However, the heating temperature range during induction hardening must be 800-1000 ° C. This is because when the heating temperature is less than 800 ° C., the austenite structure is not sufficiently generated, and the surface hardened layer structure described above is insufficiently generated. As a result, sufficient fatigue strength cannot be ensured. When the heating temperature exceeds 1000 ° C., the growth of austenite grains is promoted and becomes coarse, and the grain size of the surface hardened layer becomes coarse, so that the fatigue strength is also lowered. A more preferable heating temperature range is 800 to 950 ° C.
[0049]
When the above-described induction hardening is repeated a plurality of times, at least the final induction hardening may be performed at a heating temperature of 800 to 1000 ° C. Here, when induction hardening is repeated a plurality of times, it is most desirable to set the heating temperature to 800 to 1000 ° C. for all induction hardening. Further, by performing repeated quenching twice or more, a finer surface hardened layer particle size can be obtained as compared with the single quenching.
[0050]
When induction hardening is repeated a plurality of times, it is preferable that at least the final quenching depth by induction hardening be equal to or greater than the previous quenching depth by induction hardening. This is because the crystal grain size of the hardened surface layer is most strongly affected by the last induction hardening, so if the quenching depth by the last induction hardening is smaller than the previous quenching depth by induction hardening, the surface This is because the average grain size over the entire thickness of the hardened layer is rather increased, and the fatigue strength tends to decrease.
[0051]
Further, in the present invention, the induction hardening is preferably performed with the heating time in the above heating temperature range being 5 seconds or less. This is because when the heating time is set to 5 seconds or less, the austenite grain growth can be further suppressed as compared with the case where the heating time exceeds 5 seconds, and a very fine surface hardened layer particle size can be obtained. it can. A more preferable heating time is 3 seconds or less.
[0052]
【Example】
Steel materials having the composition shown in Table 1 were melted by a converter and cast into continuous slabs. The slab size was 300 × 400mm. This slab was rolled into a 150 mm square billet through a breakdown process, and then rolled into a 40 mmφ steel bar.
[0053]
Next, after cutting this steel bar to a predetermined length, a constant velocity joint inner ring (outer diameter: 45 mm and inner diameter: 20 mm) is formed by hot forging, and then a groove for spline connection to the mating surface by rolling. Formed. The finishing temperature for hot forging was over 900 ° C as a suitable temperature from the viewpoint of bainite or martensite structure formation. The conditions for cooling in hot forging were as shown in Table 2.
[0054]
Using a high-frequency quenching device with a frequency of 15 Hz, the surface of the constant velocity joint inner ring fitted with the drive shaft and the rolling surface of the ball interposed between the constant velocity joint outer ring were quenched under the conditions shown in Table 2. Then, tempering was performed using a heating furnace under the conditions of 180 ° C. × 2 h to obtain a product. The constant velocity joint inner ring thus obtained has a drive shaft fitted to its fitting surface and is mounted on the mouse portion of the constant velocity joint outer ring via a ball (steel ball), while the stem portion of the constant velocity joint outer ring. A constant velocity joint unit was obtained by fitting a hub to the head (see FIG. 1). The specifications of the ball, outer ring, drive shaft, and hub are as follows.
Ball: Quenched and tempered steel of high carbon chrome bearing steel SUJ2 Outer ring: Induction-quenched and tempered steel of carbon steel for machine structure Hub: Induction-quenched and tempered steel of carbon steel for machine structure Drive shaft: Induction-hardened and tempered steel of carbon steel for machine structure [0055]
Next, using this constant velocity joint unit, in the power transmission system that transmits the rotational movement of the drive shaft to the hub via the inner ring and inner ring of the constant velocity joint, the sliding rolling fatigue strength of the fitting portion of the drive shaft, and Durability tests were conducted on the rolling fatigue strength of the rolling surface of the ball.
[0056]
Here, the sliding rolling fatigue test uses a torsional fatigue tester with a maximum torque of 4900 N · m, and the frequency between the hub of the constant velocity joint unit and the drive shaft under the condition of a maximum torque of 700 N · m. The torsional force was repeatedly applied by swinging at 2 Hz, and the time until the spline part (fitting surface with the drive shaft) of the constant velocity joint inner ring was damaged due to sliding rolling was evaluated as sliding rolling fatigue strength.
[0057]
In the rolling fatigue test, power is transmitted under the conditions of torque: 900 N · m, operating angle (angle formed by the inner ring axis and drive shaft axis): 20 °, and rotation speed: 300 rpm. The time until separation occurred on the rolling surface was evaluated as the rolling fatigue strength. Here, the dimensions and shapes of the drive shaft, constant velocity joint outer ring, etc. were set so that the constant velocity joint inner ring would be the weakest part during the durability test.
[0058]
Moreover, about the constant velocity joint inner ring | wheel produced on the same conditions, the average prior austenite particle size obtained over the base material structure | tissue, the surface hardening layer thickness after hardening, and the full thickness of a surface hardening layer was measured using the optical microscope.
Table 2 shows the results of the investigation of the base material structure, and Table 3 shows the surface hardened layer thickness, the average prior austenite particle size (hardened layer particle size), the sliding rolling fatigue strength, and the rolling fatigue strength of the ball rolling surface. The results of the survey are also listed.
Here, as described above, the thickness of the surface hardened layer was set to the depth at which the area ratio of the martensite structure was reduced to 98% from the surface of the rolling surface and the fitting surface of the constant velocity joint inner ring. Moreover, about what performed induction hardening several times, the surface hardening layer thickness after each hardening was measured. Furthermore, for the surface hardened layer particle size, the average prior austenite particle size at each of the 1/5 position, 1/2 position and 4/5 position of the hardened layer thickness from the surface was measured and the maximum value was shown. . In addition, about what performed induction hardening several times, the average prior-austenite particle size after final hardening was measured.
[0059]
[Table 1]
[0060]
[Table 2]
[0061]
[Table 3]
[0062]
As is apparent from Tables 2 and 3, the constant velocity joint inner ring that satisfies the component composition range defined in the present invention and that has been quenched into the fitting portion of the drive shaft under the conditions satisfying the induction hardening condition of the present invention is as follows. In all cases, the old austenite grain size of the hardened surface layer of the mating part of the drive shaft satisfied 12 μm or less over the entire thickness, and as a result, excellent fatigue characteristics with a sliding rolling fatigue life of 100 hours or more could be obtained. .
When comparing No. 1 and No. 39 in Table 3, not only the fitting surface of the drive shaft but also the rolling surface of the ball was hardened under the conditions satisfying the induction hardening condition of the present invention. It can be seen that rolling fatigue due to rolling of the ball of the constant velocity joint inner ring can be improved by making the prior austenite grain size of the hardened layer satisfy 12 μm or less over the entire thickness.
[0063]
In addition, when comparing No. 1 and 2 or No. 4 and 5 in Table 3, increasing the number of times of quenching from 1 to 2 makes the surface hardened layer finer and further improves the fatigue characteristics. I understand that.
[0064]
Furthermore, comparing No.8, No.37, and No.38, when the number of times of quenching was increased from 1 to 2 and the second quenching depth was shallower (No.37), Fatigue properties deteriorate rather than the case where it was applied only once, whereas the torsional fatigue strength is higher when the second quenching depth is increased (No. 38) than when it is applied only once. Improved significantly. In No. 38, in the thickness direction of the hardened layer, the oldest austenite grain size was 3.5 μm at the 4/5 position from the surface to the hardened layer thickness. ), The prior austenite grain size is 2.6μm, and the finer grain size of the surface layer is thought to have contributed to the improvement of fatigue properties.
[0065]
In contrast, No. 11 has a low cooling rate after processing, so the total structural fraction of bainite and martensite is less than 10%. As a result, the surface hardened layer has a coarse grain size and fatigue characteristics. Is bad.
No. 24 has a fine surface-hardened layer particle size, but its C content is higher than the range of the present invention, which leads to a decrease in grain boundary strength, and therefore fatigue properties are inferior.
In Nos. 25, 26, and 27, the contents of C, Si, and Mo are lower than the appropriate ranges of the present invention, respectively, so that the surface hardened layer particle size is coarse and fatigue characteristics are inferior.
No. 28 has a low B content, No. 29 has an Mn content, No. 30 has an S and P content, and No. 31 has a Cr content exceeding the proper range of the present invention. For this reason, both of them cause a decrease in grain boundary strength and inferior fatigue properties.
No.32 is inferior in fatigue characteristics because the Ti content exceeds the appropriate range of the present invention, and conversely No.35 has a low Ti content, resulting in a coarse surface hardened layer grain size and fatigue. The characteristics are inferior.
In No.33, the particle size of the surface hardened layer becomes coarse because the heating temperature during induction hardening is too high, while in No.34, the surface hardening layer is not formed because the heating temperature during induction hardening is too low. Is also inferior in fatigue properties.
No. 36 is the case where the Si amount is 0.28 mass% which is less than the lower limit of the present invention. However, when the Si amount is slightly below the lower limit of the present invention as in this example, the total thickness of the surface hardened layer is The particle size of 12 μm or less cannot be obtained over the entire range, and as a result, the fatigue properties are inferior.
[0066]
【The invention's effect】
Thus, according to the present invention, it is possible to stably obtain a constant velocity joint inner ring having excellent fatigue characteristics, and as a result, it is excellent for the demand for weight reduction of automobile members.
[Brief description of the drawings]
FIG. 1 is a partial cross-sectional view of a constant velocity joint.
FIG. 2 is a cross-sectional view showing a hardened surface layer in a constant velocity joint inner ring.
[Explanation of symbols]
DESCRIPTION OF SYMBOLS 1 Drive shaft 2 Hub 3 Constant velocity joint 4
Claims (10)
C:0.35〜0.7 mass%、
Si:0.30〜1.1 mass%、
Mn:0.2 〜2.0 mass%、
Al:0.005 〜0.25mass%、
Ti:0.005 〜0.1 mass%、
Mo:0.05〜0.6 mass%、
B:0.0003〜0.006 mass%、
S:0.06mass%以下、
P:0.02mass%以下および
Cr:0.2 mass%以下
を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になり、母材組織が、ベイナイト組織および/またはマルテンサイト組織を有し、かつこれらベイナイト組織とマルテンサイト組織の合計の組織分率が10%以上であり、さらに高周波焼入れによる表面硬化層の旧オーステナイト粒径が該表面硬化層全厚にわたり12μm 以下であることを特徴とする、疲労特性に優れた等速ジョイント内輪。A constant velocity joint inner ring having a hardened surface layer by induction hardening on the fitting surface with the drive shaft,
C: 0.35-0.7 mass%
Si: 0.30 to 1.1 mass%,
Mn: 0.2-2.0 mass%
Al: 0.005 to 0.25 mass%,
Ti: 0.005 to 0.1 mass%,
Mo: 0.05-0.6 mass%,
B: 0.0003 to 0.006 mass%,
S: 0.06 mass% or less,
P: 0.02 mass% or less and
Cr: 0.2 mass% or less, the balance is Fe and inevitable impurities, the base material structure has a bainite structure and / or martensite structure, and the total of these bainite structure and martensite structure A constant velocity joint inner ring having excellent fatigue characteristics, characterized by having a structure fraction of 10% or more and a prior austenite grain size of a hardened surface layer by induction hardening being 12 μm or less over the entire thickness of the hardened surface layer.
Cu:1.0 mass%以下、
Ni:3.5 mass%以下、
Co:1.0 mass%以下、
Nb:0.1 mass%以下および
V:0.5 mass%以下
のうちから選んだ1種または2種以上を含有する組成になることを特徴とする、疲労特性に優れた等速ジョイント内輪。The constant velocity joint inner ring according to any one of claims 1 to 3, further comprising:
Cu: 1.0 mass% or less,
Ni: 3.5 mass% or less,
Co: 1.0 mass% or less,
A constant velocity joint inner ring excellent in fatigue characteristics, characterized by having a composition containing one or more selected from Nb: 0.1 mass% or less and V: 0.5 mass% or less.
Si:0.30〜1.1 mass%、
Mn:0.2 〜2.0 mass%、
Al:0.005 〜0.25mass%、
Ti:0.005 〜0.1 mass%、
Mo:0.05〜0.6 mass%、
B:0.0003〜0.006 mass%、
S:0.06mass%以下、
P:0.02mass%以下および
Cr:0.2 mass%以下
を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる鋼素材に、熱間加工を施して等速ジョイント内輪を成形し、その後0.2 ℃/s以上の速度で冷却したのち、焼入れ時の加熱温度:800 〜1000℃の条件下で高周波焼入れを行って、ドライブシャフトとの嵌合面に表面硬化層を形成することを特徴とする、疲労特性に優れた等速ジョイント内輪の製造方法。C: 0.35-0.7 mass%
Si: 0.30 to 1.1 mass%,
Mn: 0.2-2.0 mass%
Al: 0.005 to 0.25 mass%,
Ti: 0.005 to 0.1 mass%,
Mo: 0.05-0.6 mass%,
B: 0.0003 to 0.006 mass%,
S: 0.06 mass% or less,
P: 0.02 mass% or less and
Cr: 0.2 mass% or less, with the balance being Fe and inevitable impurities, steel material is hot-worked to form a constant velocity joint inner ring, and then cooled at a rate of 0.2 ° C / s or higher After that, the constant temperature joint with excellent fatigue characteristics is characterized by forming a hardened surface layer on the mating surface with the drive shaft by induction hardening at a heating temperature of 800 to 1000 ° C. Manufacturing method of inner ring.
Cu:1.0 mass%以下、
Ni:3.5 mass%以下、
Co:1.0 mass%以下、
Nb:0.1 mass%以下および
V:0.5 mass%以下
のうちから選んだ1種または2種以上を含有する組成になることを特徴とする、疲労特性に優れた等速ジョイント内輪の製造方法。The steel material according to claim 5 or 6, further comprising:
Cu: 1.0 mass% or less,
Ni: 3.5 mass% or less,
Co: 1.0 mass% or less,
A method for producing a constant velocity joint inner ring having excellent fatigue characteristics, characterized in that the composition contains one or more selected from Nb: 0.1 mass% or less and V: 0.5 mass% or less.
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