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JP4112378B2 - 金属と熱可塑性樹脂組成物の複合体とその製造方法 - Google Patents

金属と熱可塑性樹脂組成物の複合体とその製造方法 Download PDF

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JP4112378B2
JP4112378B2 JP2003003930A JP2003003930A JP4112378B2 JP 4112378 B2 JP4112378 B2 JP 4112378B2 JP 2003003930 A JP2003003930 A JP 2003003930A JP 2003003930 A JP2003003930 A JP 2003003930A JP 4112378 B2 JP4112378 B2 JP 4112378B2
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電子機器の筺体や構造部材に用いられる金属と樹脂の複合体とその製造方法に関する。更に詳しくは、各種機械加工により作られた金属合金形状物と、熱可塑性樹脂を一体化した複合体とその製造方法に関する。
【0002】
本発明は、金属形状物に、ポリブチレンテレフタレート(Poly−Butylene Terephthalete:以下、「PBT」という。)を成分とする熱可塑性樹脂組成物が付着した一体化部材を、寸法精度良く製造することができる技術である。電子機器業界のみならず、車両用構造部品や建築資材等多くの機械、電気機器の筺体や部品製造に使用できるものでもある。
【0003】
【従来の技術】
金属と樹脂を一体化する技術は、自動車、家庭用電化製品、産業機器等の部品製造等の広い分野から求められており、このために多くの接着剤が開発されている。常温、又は加熱により機能を発揮する接着剤は、金属と合成樹脂を一体化する接合に使われ、この方法は現在では一般的な技術である。
【0004】
しかし、実際の生産において接着剤を使用する場合は、接着の位置ズレ不良や、四季の変化による接着剤の使用条件の調整、管理等に多大な労力を必要とする。そのため接着剤を使用しない、より合理的な接合方法がないか従来から研究されてきた。
【0005】
マグネシューム、アルミニュームやその合金である軽金属類、ステンレスなどの鉄合金類に対して、接着剤の介在なしで高強度のエンジニアリング樹脂を一体化する方法、例えば金属側に樹脂成分を射出成形して接着させる(以下、「射出接着」という。)成形方法等が使用できるならば、接着位置ズレ、四季の変化、温度・湿度による形状誤差、加工誤差等の誤差を気にすることもなく、合理的な方法となる。
【0006】
エンジニアリング樹脂の中でもPBTは機械的強度が高く、耐熱性、電気特性、及び耐薬品性に優れている。また、流動性が良く結晶化速度が速いため成形にも適しており、自動車や電気・電子機器分野を中心に広く使用されている。従って前記軽金属類や鉄合金類に対してPBTの射出接着が可能ならば、産業上広い分野、様々な用途での利用が期待できる。
【0007】
しかし、ただ金属を何ら表面処理せぬまま金型にインサートしてPBTを含む熱可塑性樹脂組成物を射出したのでは全く接着しない。そこで本発明者らは、金属形状物の表面の処理方法、前記処理が施された金属形状物の表面に塗布するインキや塗料の硬化方法、及び前記熱可塑性樹脂組成物の射出成形方法等を開発することによってPBTの射出接着が可能になるのではないかと考え鋭意研究開発した。
【0008】
なお、従来技術として、ポリカーボネート(Poly-Carbonate:以下、「PC」という。)や、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(Acrylonitorile-Butadiene-Styrene:以下、「ABS」という。)などの硬質の熱可塑性樹脂製成形品に特殊インキを印刷硬化し、これを金型にインサートした後で熱可塑性ポリエステルエラストマー(Thermo Plastic Poly-Ester Elastomer:以下、「TPEE」という。)を主成分とする熱可塑性エラストマー(Thermo Plastic Elastomer:以下、「TPE」という。)組成物を射出することで、印刷層とTPE組成物部分を接着し、結果として硬質熱可塑性樹脂成形品とTPE組成物部を一体化するものがある。この技術は公開されており商業化も為されている。即ち、硬質の熱可塑性樹脂に対しては、TPEEを主成分とするTPE組成物のインサート成形法による射出接着は既に実用化されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上述するような技術背景のもとになされたものであり、下記目的を達成する。
本発明の目的は、金属形状物を金型にインサートした後で金型を閉めPBTを成分として含む熱可塑性樹脂組成物を射出したときに、金属部分と熱可塑性樹脂組成物が必要な接着力でもって安定的に固着された金属と熱可塑性樹脂組成物の複合体とその製造方法を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、金属形状物と、熱可塑性樹脂組成物との接着強度を高めるための、金属形状物表面へ施す処理方法を含む金属と熱可塑性樹脂組成物の複合体とその製造方法を提供することにある。
本発明の更に他の目的は、金属形状物と熱可塑性樹脂組成物との接着強度を高めるための、金属形状物に塗布するインキや塗料等の硬化方法、及び熱可塑性樹脂組成物の射出接着方法を含む熱可塑性樹脂組成物の複合体とその製造方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、前記目的を解決するため次の手段を採る。
本発明の金属とPBTを主成分とする熱可塑性組成物の複合体は、
加工された金属形状物と、前記金属形状物の表面に被覆された熱硬化性の樹脂組成物を含み、イソシアネート系硬化剤が混合されたウレタン硬化型の2液性コーティング材と、前記コーティング材の上面に熱と圧力により一体に固着されたポリブチレンテレフタレートを成分として含む熱可塑性樹脂組成物の形状物とからなる。
【0012】
前記金属形状物はその表面に化学エッチングを施すと良い。前記コーティング材は、熱硬化性であると良い。前記コーティング材の前記樹脂組成物は、水酸基やカルボン酸基が含まれている塗料、又はインキであると良い。前記熱可塑性組成物にはフィラーを含有させると良い。
【0013】
また、本発明は、金属合金材料を金属形状物に加工する工程、又は金属合金材料を金属形状物に加工し化学エッチングする工程、金属形状物にウレタン硬化型の2液性インキ又は塗料を塗布硬化する工程、塗布硬化済みの金属形状物を金型等に挿入し、前記PBTを含む前記熱可塑性樹脂組成物を射出、プレス又は共押し出しする工程を、含むことを特徴とする金属と樹脂の複合体の製造方法を提供する。
【0014】
以下、本発明の各技術手段を詳細に説明する。
〔金属形状物〕
本発明で使用する金属形状物を構成する金属は、アルミニューム、マグネシューム、鉄、又は銅を主成分とする金属合金が好ましい。この金属を鋳造加工、鍛造加工、プレス加工、切削、切削加工等の機械加工により所望の形状に加工して金属合金形状物を製作する。これらの機械加工方法は本発明の要旨ではないので詳細については説明を省略する。
【0015】
これらの金属合金形状物は形状を加工する工程で油分が付着することが多い。また、錆がある場合もある。錆は研磨にて落とすことが望ましい。金属形状物の表面に付着した油分は、表面を有機溶剤などで脱脂することで落とすことができる。その後、そのまま塗布工程に廻せる場合もあるが、塗布層と金属との接着を確実にするためには次項の化学エッチング工程を加えることが望ましい。
【0016】
〔化学エッチング工程〕
本発明の化学エッチング工程は、金属形状物の表面に化学的な腐食処理を施すことにより、その表面を粗くして凹凸形状を形成する工程である。即ちこの凹凸の形成により、後に詳記するインキ・塗料層との付着性を高めるための処理である。従って、前記化学エッチング工程の順序としては後に詳述する印刷・塗装工程より先に行えばよい。
【0017】
場合によっては、原材料である金属合金材料に対して化学エッチングを行うケースもあるが、好ましくは加工後の金属形状物に対して行なう方がよい。また、結果として金属形状物の表面に微細な凹凸が出来ていればよいため、化学エッチングに限らず、エアーブラスト処理による研磨であってもよい。
【0018】
使用する金属合金種に対しては腐食性のある水溶液を用意する。
例えば、アルミ合金の場合は水酸化ナトリュームの0.1〜1.0%水溶液を用意する。日本工業規格(JIS)のA1100合金、A5052合金、A6063合金などは、常温下で0.5〜3.0分浸漬し、水洗して乾燥するか、0.5〜3.0分浸漬し、水洗し、0.01〜1.00%の希硝酸に1分程浸漬して水洗乾燥すれば良い。これらを電子顕微鏡で表面観察すると、0.2〜1.0μの凹凸が見られて細かくエッチングされていることがわかる。
【0019】
鉄合金であるステンレス類や高珪素鉄は塩酸がエッチング剤として適しているし、炭素鋼類は希硝酸が適している。銅合金、純銅系、真鍮、白銅合金とも希硝酸が適している。但し、前記銅合金は、濃アンモニア水によってもエッチングできる。また、マグネシューム合金には希塩酸が適している。
その他の金属種に対しても各々エッチング可能な水溶液がある。電子機器の筺体、自動車等に使われる部品等に使われている金属合金は多種あり、それら全てについては実証困難である。しかし、重要なことは、本発明の化学エッチング工程の目的はエッチングにより微細な凹凸や細孔を金属表面に生じせしめることである。ここで、注意を要するのは、試薬濃度、液温と浸漬時間である。
【0020】
また、比較的薄い濃度の水溶液の使用によってエッチングの時間調整をすることも必要である。高濃度の腐食液に長く浸漬すると、微細凹凸が消えてバターが溶けた様に大きな凹凸になることもあり、これはかえって塗膜の接着強度を下げてしまう。即ち、微細な凹凸の表面を作ってアンカー効果を期待していたのが逆効果になる場合があるからである。
最適のエッチング条件を探るには、電子顕微鏡での凹凸確認が必要となる。確認の結果、微細な凹凸を金属表面に生じさせることができていれば、以下に詳述するインキや塗料の接着性が著しく向上する。
【0021】
上述した方法で、腐食性水溶液に浸漬し、化学エッチングした後は水洗し乾燥する。また、僅かでもその後の経時で腐食の可能性がある場合は、水洗後に中和処理し、更に水洗し乾燥するのが好ましい。即ち、塩酸などを金属のエッチングに使用した場合は、中和処理するためにその後、金属をアンモニア水へ浸漬し、中和する。さらにその後前記金属を水洗し、乾燥するのが好ましい。また、水酸化ナトリュームなどを金属のエッチングに使用した場合は、エッチング後、希硝酸への浸漬をした後、水洗し乾燥するのが好ましい。
【0022】
〔印刷・塗装〕
本発明における印刷・塗装は、金属形状物への熱可塑性樹脂組成物の固着を介在するものであり、両方への固着を保つものである。この印刷・塗装は、熱硬化性の樹脂組成物を含むコーティング材を、金属形状物の表面に塗布することによって行う。コーティング材として、各金属材質や各金属合金材質に対応できる塗料、インキは数多く提案されて公知である。各金属材質に適した塗料・インキを金属形状物表面に塗装することによって塗装層ができる。射出成形等によって、熱可塑性樹脂組成物と、前記塗装層が接 着し、固着される。
【0023】
ここで、コーティング材として使用するインキ、塗料は、金属形状物と熱可塑性樹脂組成物の両方への付着性に優れたものであれば良く、ウレタン硬化型で2液性のものが好ましい。これらには水酸基やカルボン酸基を有するインキ・塗料主液と、イソシアネート系化合物からなる従液(硬化剤液)とからなる系が多く、これらが好ましい。
【0024】
塗布すべき金属形状物の表面にこれらのインキ・塗料を印刷、または塗装する。印刷、塗装後の硬化は、これらインキ・塗料メーカーが指示した硬化条件通りか、やや緩和するのが好ましい。例えば、硬化条件が80℃で1時間であれば、70〜80℃で40〜60分とするのが好ましい。ただし、塗布硬化後から次工程、即ち射出成形などの接着工程までの猶予時間の制限は特になく、数日後でも数ヵ月後でも結果は同じである。
【0025】
〔熱可塑性樹脂組成物〕
本発明において、金属と固着させる熱可塑性樹脂組成物はPBTを含有する。PBTは強靭で柔軟性に富み、電気的特性は熱可塑性プラスチック中、最も高い値を示すため、電気機器の筺体や車載用構造部品用として普及しており、金属形状物との一体化が可能になることで様々な用途が生まれる。
【0026】
本発明で使用する熱可塑性樹脂組成物としては、PBT単独のポリマー、又は、PBTとPCのポリマーコンパウンド、PBTとABSのポリマーコンパウンド、PBTとポリエチレンテレフタレート(Poly-ethylene Terephthalate:以下、「PET」という。)のポリマーコンパウンド、PBTとポリスチレン(Poly-styrene:以下、「PS」という。)のポリマーコンパウンドが好ましい。
【0027】
また、PBTを含む共重合体の一例としてTPEEがある。TPEEは通常、PBTからなるハードセグメントと、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(Poly-Tetramethylene Ether Glycol:以下、「PTMEG」という。)のテレフタル酸エステルからなるソフトエレメントが、交互に多数繋がった形状の交互ブロック共重合体である。エラストマーではあるが、これも金属に射出接着できるので対象に含まれる。
【0028】
また、フィラーの含有は、金属合金形状物と熱可塑性樹脂組成物との線膨張率を一致させるという観点から非常に重要である。フィラーとしては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、その他これらに類する高強度繊維が良い。また、炭酸カルシューム、炭酸マグネシューム、シリカ、タルク、粘土、炭素繊維やアラミド繊維の粉砕物、その他類する樹脂充填用無機フィラーを含有した熱可塑性樹脂組成物であることは非常に好ましい。
【0029】
なお、PBT含有の熱可塑性樹脂組成物であっても、これが前記したようなエラストマーであればフィラーの存在必要性は全くない。理由は金属と樹脂の線膨張率の差で生じる歪みがエラストマーの弾力で消去されるからである。
フィラーを含まない場合でも強固に接着し、金属に接着した熱可塑性樹脂組成物を取り去るには非常に強い力が必要である。しかしながらエラストマーでない熱可塑性樹脂組成物で成形された複合体を温度サイクル試験にかけると、フィラーを含まない樹脂の系ではサイクルを重ねることで急速に接着強度が低下する。これには二つの原因がある。
【0030】
一つは、線膨張率において金属形状物と熱可塑性樹脂組成物に大きな差があることによる。例えば、アルミニュームやマグネシュームの線膨張率は金属の中では大きい方だが、それでもPBTよりかなり小さい。フィラーの存在はPBT含有樹脂組成物の線膨張率を下げ、金属合金の線膨張率(純アルミニュームで2.31×10-5、純マグネシュームで2.48×10-5、黄銅で1 .75×10-5、炭素鋼で1.07×10-5、25℃)に近づける。フィラーの種類とその含有率を選べば線膨張率は金属合金にかなり近い値にできる。
【0031】
もう一つは、インサート成形後の金属形状物の冷却縮みと熱可塑性樹脂組成物の成形収縮の関係である。フィラーを含まないPBT含有樹脂組成物の成形収縮率は0.6〜1.4%である。一方、金属合金の冷却縮みは、例えば射出時から室温まで100〜150℃冷えると仮定した場合、アルミニューム合金で0.2〜0.3%である。これは樹脂の成形収縮率より小さく、かなり差がある。金型から離型して時間が経ち樹脂が収縮すると、界面付近に歪みが生じ僅かな衝撃で界面破壊が起こって剥がれてしまう。
【0032】
具体例として、アルミニューム合金の場合、線膨張率(詳しくは温度変化に対する線膨張率)は2.0〜2.5×10-5-1である。一方、PBT含有樹脂の線膨張率は7〜8×10-5-1である。樹脂の線膨張率を下げるため、フィラーの含有は多い方が良く、含有率は20%以上、30%以上であればより好ましい。実際、PBTやPBT含有のポリマーコンパウンドに高強度繊維や無機フィラーを30〜50%の含有率で含ませると線膨張率は2〜3×10-5-1なり金属合金にかなり近づく。
【0033】
また、このとき成形収縮率も低下する。成形収縮率について言えば、PBTの高い結晶性が収縮率を上げているので、結晶性の低い樹脂、PET、PC、ABS、PS、その他を混ぜてコンパウンド化したものが期待できる。しかし、PBT濃度も下がるのでその最適含有率は試行錯誤で調べるほかない。
【0034】
〔射出成形〕
本発明の射出成形は、金属形状物に印刷・塗装されたコーティング材の表面に熱可塑性樹脂組成物を付着させて所望の構造を形成する成形方法である。
【0035】
金属形状物と熱可塑性樹脂組成物との接着(固着)は、次に説明する射出成形法により行う。
【0036】
射出成形法とは、射出成形用の金型を用意し、金型を開いてその一方に金属合金形状物をインサートし、金型を閉め、前記の熱可塑性樹脂組成物を射出し、金型を開き離型する方法である。射出成形は、形状自由度、生産性などでもっとも優れた成形法である。金属形状や大きさで異なるので一概には言えないが、少量の成形では有人で縦型成形機を使うことができるし、横型成形機を使っても良い。横型成形機の場合、金型のインサート箇所に減圧穴を開けておきインサート時に減圧にすることで金属形状物を吸いつけて落下しないようにして有人で成形作業をすることができる。多数の成形を効率的に済ますには、横型成形機を使って金属形状物のインサートを、ロボットを使用して行うとよい。
【0037】
射出条件について詳記する。金型温度、射出温度は通常の射出成形時とほぼ同様かやや高めの条件で接着効果が得られる。金型のゲート構造は、出来ればピンゲートを使うのが好ましい。ピンゲートでは樹脂通過時に生じるせん断摩擦で瞬時に樹脂温度が上がりこれが接着力に良効果を生むことが多いからである。要するに、円滑な成形を阻害しない範囲で出来るだけ接着面に高温の樹脂溶融物が接するように工夫するのが良い。
【0038】
〔射出成形以外の方法〕
前述した金属形状物とPBTを含む熱可塑性樹脂組成物との接着(固着)は、射出成形法以外の方法であっても良い。
金型に金属合金形状物と熱可塑性樹脂組成物製の形状物の双方をインサートし、他方の金型で閉めて過熱しつつ押し付ける成形法、即ち加熱プレス成形でも一体化品を得ることができる。量産に適した方法とはいえないが、形状によっては使用できる場合がある。接着の原理としては、前記した射出接着と同じである
その他、パイプ状物、板状物などの一体化品が求められる場合に、押し出し成形という方法が使用されるが、この押し出し成形も利用可能である。前述した熱可塑性樹脂組成物が加熱溶融状態の時に処理された金属合金表面と接触することが重要であるだけで理論的には成形方法を選ばない。ただし、押し出し成形では溶融樹脂と金属表面の間にかかる圧力が射出成形等と比較すると著しく低い。この点で最強の接着力を示すことは期待できないが、実用性との関係で十分使用に耐えうる設計にはなりうる。
【0039】
〔作用〕
本発明によれば、金属形状物の表面に、例えばウレタン硬化型の2液性インキを塗布硬化し、その塗布面にPBTを含む熱可塑性樹脂組成物を射出成形することで、金属形状物とPBTを成分として含む熱可塑性樹脂組成物を強固に接着し、固着することができる。
【0040】
前記金属形状物の表面には、化学エッチングが施される方が好ましい。前記化学エッチングによって微細な凹凸が出来ており、インキの塗布層との接着力を高めている。
また前記熱可塑性樹脂祖組成物に、高濃度のフィラーを含ませることで線膨張率を下降させている。金属形状物の線膨張率との差を少なくすることで、歪による界面破壊を防ぐことが出来る。
【0041】
本発明を利用することで、モバイル電子機器や家電機器の軽量化や、車載機器や部品の軽量化、ロボットの腕や足の軽量化、その他多くの分野で部品、筺体の供給に役立つものとなる。
【0042】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施例を詳記する。
〔実施例1〕
市販の1mm厚のA5052アルミニューム合金板を購入した。これから100mm×25mmの長方形片20個を得た。このアルミニューム片を両面テープでゴムシートに貼り付けブラスト装置に入れた。
【0043】
研磨が約5μレベルになるようにエヤーパルス時間を設定し、エヤーブラスト処理した。装置から取り出し、水道水4.0リットルに漬けてかき混ぜた後、プラスチック製ザルにあけ、水道水の流水で洗った。次に濃度0.2%の水酸化ナトリューム水溶液3.0リットルを入れたプラスチック容器を用意し、液温を50℃に保って先ほどのアルミ片を2.0分浸漬した。次いで水道水の流水で水洗し、0.01%濃度の希硝酸1.0リットルに1.0分浸漬した後、再び流水で水洗し、70℃の送風乾燥機内に20分置いて乾燥した。
【0044】
翌日、アルミニューム片を受け冶具に移し、スクリーン印刷機でベタ印刷した。使用インキは、ウレタン硬化性の2液型インキ「VIC白(セイコーアドバンス社製)」であった。主液、指定硬化剤、溶剤の混合比率は、重量比で100:10:30とし、使用した溶剤は1%含水シクロヘキサノンであった。印刷後、温風乾燥機に入れて100℃で1時間硬化した。
【0045】
印刷済みアルミニューム片を射出成形金型にインサートした。金型を閉め、炭素繊維15%、ガラス繊維10%、微粉タルク15%含有のPBT/PC樹脂(PBT約70%とPC約30%、元樹脂は三菱レイヨン社製)コンパウンドペレットで射出し図1で示すように一体化した複合体を得た。
【0046】
図1に示すものは前述したアルミニュームの金属片1である。通常は、巾25mmで長さ100mm、厚さ1mmの大きさの金属片である。ここへピンゲート3から熱可塑性樹脂組成物が注入され、巾23mmで長さ100mm、厚さ2mmの板状物2が成形される。板状物2は巾23mm×長さ12.5mmの接着面で金属片1と接着している。
【0047】
成形時の金型温度は100℃とし、射出成形機の加熱筒の最終部分温度とノズル温度は260℃とした。成形品を成形後、室内に3日放置した後、複合物の両端を引っ張ってせん断破壊力を調べた。引張試験機で10個の成形品について実施したところ、引張せん断破壊強度は平均3.4MPa(35kg/cm2)であった。即ち強い接着力を示した。
【0048】
〔実施例2〕
市販の1mm厚のA1100アルミニューム合金板を購入した。これから100mm×25mmの長方形片10個を得た。このアルミニューム片を両面テープでゴムシートに貼り付けブラスト装置に入れた。研磨が約5μレベルになるようにエヤーパルス時間を設定し、エヤーブラスト処理した。装置から取り出し、水道水4リットルに漬けてかき混ぜた後、プラスチック製ザルにあけ、水道水の流水で洗った。
【0049】
次に濃度3%のヒドラジン一水和物水溶液1リットルを入れたプラスチック容器を用意し、液温を50℃に保って先ほどのアルミニューム片を2分浸漬した。次いで水道水の流水で水洗し、70℃の送風乾燥機内に20分置いて乾燥した
その後、実施例1と全く同様に印刷し、射出成形した。成形品を室内に3日放置した後、複合物の両端を引っ張ってせん断破壊力を調べた。引張試験機で10個の成形品について実施したところ、引張せん断破壊強度は平均3.7MPa(38kg/cm2)であった。即ち強い接着力を示した。
【0050】
〔実施例3〕
市販の1mm厚の純銅板を購入した。これから100mm×25mmの長方形片10個を得た。この銅片を両面テープでゴムシートに貼り付けブラスト装置に入れた。研磨が約5μレベルになるようにエヤーパルス時間を設定し、エヤーブラスト処理した。ブラスト装置から取り出し、水道水4リットルに漬けてかき混ぜた後、プラスチック製ザルにあけ、水道水の流水で洗った。
【0051】
次に濃度10%のアンモニア水1リットルを入れたプラスチック容器を用意し、液温を10℃に保って先ほどの銅片を10分浸漬した。次いで水道水の流水で水洗し、70℃の送風乾燥機内に20分置いて乾燥した。
【0052】
翌日、銅片を受け冶具に移し、スクリーン印刷機でベタ印刷した。使用インキは実施例1と全く同じであり、硬化条件も同様とした。印刷済み銅片を射出成形金型にインサートし、実施例1と全く同様に射出成形し図1の形状物を得た。
【0053】
室内に3日放置した後、複合物の両端を引っ張ってせん断破壊力を調べたところ、引張せん断破壊強度は平均2.9MPa(30kg/cm2)であった。即ち強い接着力を示した。
【0054】
〔実施例4〕
市販の1mm厚の日本工業規格(JIS)のSUS304板を購入した。これから100mm×25mmの長方形片10個を得た。このステンレス片を両面テープでゴムシートに貼り付けブラスト装置に入れた。研磨が約5μレベルになるようにエヤーパルス時間を設定し、エヤーブラスト処理した。ブラスト装置から取り出し、水道水4リットルに漬けてかき混ぜた後、プラスチック製ザルにあけ、水道水の流水で洗った。
【0055】
次に濃度10%の塩酸1リットルを入れたプラスチック容器を用意し、液温を40℃に保って先ほどのステンレス片を30分浸漬した。次いで水道水の流水で水洗し、70℃の送風乾燥機内に20分置いて乾燥した。
【0056】
翌日、ステンレス片を受け冶具に移し、スクリーン印刷機でベタ印刷した。使用インキは実施例1と全く同じであり、硬化条件も同様とした。印刷済みステンレス片を射出成形金型にインサートし、実施例1と全く同様に射出成形し図1の形状物を得た。
【0057】
室内に3日放置した後、複合物の両端を引っ張ってせん断破壊力を調べたところ、引張せん断破壊強度は10個の平均で平均3.1MPa(32kg/cm2)であった。即ち強い接着力を示した。
【0058】
〔実施例5〕
市販の1mm厚の真鍮板を購入した。これから100mm×25mmの長方形片10個を得た。この真鍮片を両面テープでゴムシートに貼り付けブラスト装置に入れた。研磨が約5μレベルになるようにエヤーパルス時間を設定し、エヤーブラスト処理した。ブラスト装置から取り出し、水道水4リットルに漬けてかき混ぜた後、プラスチック製ザルにあけ、水道水の流水で洗った。
【0059】
次に濃度10%のアンモニア水1リットルを入れたプラスチック容器を用意し、液温を10℃に保って先ほどの真鍮片を30分浸漬した。次いで水道水の流水で水洗し、70℃の送風乾燥機内に20分置いて乾燥した。
【0060】
翌日、真鍮片を受け冶具に移し、スクリーン印刷機でベタ印刷した。使用インキは実施例1と全く同じであり、硬化条件も同様とした。印刷済み真鍮片を射出成形金型にインサートし、実施例1と全く同様に射出成形し図1の形状物を得た。
【0061】
室内に3日放置した後、複合物の両端を引っ張ってせん断破壊力を調べたところ、引張せん断破壊強度は10個の平均で、2.7MPa(28Kg/cm2)であった。即ち強い接着力を示した。
【0062】
〔実施例6〕
実施例1で得た複合品10個のうち、5個について高温高湿試験を実施した。
具体的には90℃、60%湿度の条件下に24時間放置し室温下に1時間かけて戻してから前記と引っ張り試験機で破壊試験をした。結果は高温高湿試験を行っていない前記試験結果と同じであった。
【0063】
次に、実施例1で得た10個のうち、5個について温度衝撃試験をした。具体的には85℃の温風乾燥機内に2時間、−40℃の冷凍庫内に2時間置く試験であるが、温風乾燥機内から冷凍庫に試料を移すのは即刻、最長でも3分以内とし5サイクルさせた後で1時間かけて室温に戻した。これを前記の引っ張り試験機にかけてせん断破壊強度を測定した。5個の平均は3.0MPa(31Kg/cm2)であって、温度衝撃サイクル試験を経験させなかったものと大差なかった。
【0064】
【発明の効果】
以上詳記したように、本発明により、PBTを成分とする熱可塑性樹脂組成物と金属合金形状物とが固着され、容易に剥がれることなく一体になる。従ってPBTの耐熱性、電気的特性や耐薬品性を生かした樹脂組成物と金属形状物の複合体を提供することが可能となる。また、前記複合体の提供によって、電子機器の筺体や車載用構造部品をはじめとした、様々な筺体、部品、構造物の軽量化が可能となる。
さらに、生産に適した射出成形法などを用いることによって機器製造工程の簡素化にも役立つものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明の実施例における、金属形状物と、PBTを成分とする熱可塑性樹脂組成物との複合体を示したものである。
【図2】図2は、図1の側面図である。
【符号の説明】
1… 金属片
2… 樹脂部分
3… ピンゲート
4… 印刷インキ層

Claims (8)

  1. 加工された金属形状物と、
    前記金属形状物の表面に被覆された熱硬化性の樹脂組成物を含み、イソシアネート系硬化剤が混合されたウレタン硬化型の2液性コーティング材と、
    前記コーティング材の上面に熱と圧力により一体に固着されたポリブチレンテレフタレートを成分として含む熱可塑性樹脂組成物の形状物と
    からなる金属と熱可塑性樹脂組成物の複合体。
  2. 請求項に記載の金属と熱可塑性樹脂組成物の複合体において、
    前記金属形状物の表面は、前記金属形状物の主成分である金属種に対して腐食性を有する水溶液による化学エッチングがされている
    ことを特徴とする金属と熱可塑性樹脂組成物の複合体。
  3. 請求項1又は2に記載の金属と熱可塑性樹脂組成物の複合体において、
    前記金属形状物の表面は、エアーブラスト処理による研磨がされている
    ことを特徴とする金属と熱可塑性樹脂組成物の複合体。
  4. 請求項1ないし項から選択される1項に記載の金属と熱可塑性樹脂組成物の複合体において、
    前記熱可塑性樹脂組成物には、樹脂充填用フィラー類が加えられている
    ことを特徴とする金属と熱可塑性樹脂組成物の複合体。
  5. 請求項1ないし項から選択される1項に記載の金属と熱可塑性樹脂組成物の複合体の製造方法であって、
    前記金属形状物の原材料である金属合金材料を、金属形状物に加工する工程と、
    前記金属形状物にウレタン硬化型の2液性のコーティング材を塗布硬化する工程と、
    前記コーティング材が塗布硬化された金属形状物を金型に挿入し、前記熱可塑性樹脂組成物を前記金型に射出成形する工程と
    を含むことを特徴とする金属と熱可塑性樹脂組成物の複合体の製造方法。
  6. 請求項1ないし項から選択される1項に記載の金属と熱可塑性樹脂組成物の複合体の製造方法であって、
    前記金属形状物の原材料である金属合金材料を、金属形状物に加工する工程と、
    前記コーティング材を塗布して硬化する工程と、
    前記コーティング材が塗布硬化された前記金属形状物を金型に挿入し、
    前記熱可塑性樹脂組成物が加熱溶融状態の時に、前記金属形状物の表面に接触させて、接着させる固着工程と
    を含むことを特徴とする金属と熱可塑性樹脂組成物の複合体の製造方法。
  7. 請求項5又は6項に記載の金属と熱可塑性樹脂組成物の複合体の製造方法であって、
    前記金属形状物、又は前記金属合金材料の表面に微細な凹凸を作る工程と
    を含むことを特徴とする金属と熱可塑性樹脂組成物の複合体の製造方法。
  8. 請求項5ないし7項から選択される1項に記載の金属と熱可塑性樹脂組成物の複合体の製造方法であって、
    前記熱可塑性樹脂組成物にフィラーを含有させる工程と
    を含むことを特徴とする金属と熱可塑性樹脂組成物の複合体の製造方法。
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