JP4111352B2 - ステンレス鋼の高清浄化精錬法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ステンレス鋼の精錬法において、Caの添加方法およびスラグの組成を制御することにより、溶鋼中の非金属介在物(以下、単に介在物という)の無害化をはかる高清浄度ステンレス鋼の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ステンレス鋼の介在物は、その量が多すぎたり融点が高く硬質の場合には、製品の表面疵や加工時の割れ発生の原因となる。一般に介在物を除去したり、介在物の融点を下げ軟質化する方法はステンレス鋼の精錬ではAOD,VOD等の二次精錬炉で実施している。
【0003】
すなわち、酸素ガスを吹込み、脱炭等の処理を行う酸化精錬の終了後、酸化精錬時に生成したクロム酸化物を含むスラグを還元するために、CaOを主体とする塩基性フラックスと共に、SiやAl等の還元剤を添加し、Arガスや窒素ガス等の不活性ガスを吹込むことにより攪拌し、脱酸および介在物の除去を促進させている。特に低硫・低酸素化の要求される材料に対しては還元剤としてAlを用いる方法が採用されている。
【0004】
これはAlは脱酸力が強く、脱硫能の高いスラグを形成させることができるためである。また、この方法では通常、還元時に生成した高融点のAl2 O3 を改質して、介在物の組成を抑制し、かつ鋳造時のノズル閉塞を防止するためにCaが添加されている。
【0005】
ステンレス鋼中の介在物の低減および軟質化をはかるためにCaやAlを添加する例としては、特公昭60−30686号公報および特開平60−306439号公報に記載の方法が知られている。
特公昭60−32686号公報に記載の方法は、酸素濃度に対応してCaまたはAlの添加量を制御することにより、介在物を低融点のCaO−Al2 O3 とすることで、浮上分離を促進させて大型介在物量を低減できることが述べられている。
しかし、該方法では硬質の介在物(MgO−Al2 O3 ,MgO)が皆無になっておらず、介在物の無害化の点では問題が残っている。
【0006】
さらに、特開平6−306439号公報に記載の方法は、Al中の〔Mg〕濃度を1.0mass%以下とし、スラグ中の(MgO)濃度を8mass%以下とし、かつ〔Ca〕と〔Al〕濃度を調整することで硬質のMgO−Al2 O3 介在物を低減できることが述べられている。
しかし、この方法ではAl2 O3 濃度の高い高融点のCaO−Al2 O3 介在物(一般には60mass%以上のAl2 O3 を含む)およびMgO介在物が残存しており、一部にはMgO−Al2 O3 介在物が存在するために介在物の無害化は完全に達成されていない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はステンレス鋼の精錬法において、還元剤にAlを用い、その後に添加するCa量、Ca添加後の不活性ガス吹込み量およびスラグ組成を制御することにより、還元時に生成した硬質のAl2 O3 を軟質化し、かつ硬質の介在物の生成を抑えることで、介在物の完全無害化を達成し、これにより製品の表面疵や加工時の割れを防止することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するために下記手段を採用するものである。
すなわち、ステンレス鋼の精錬において、酸化精錬時に生成したクロム酸化物を含むスラグの還元剤としてAlを用い、かつ出鋼後の取鍋内の溶鋼にCaまたはCa合金あるいはこれらの両者を添加する工程において、CaまたはCa合金あるいはこれらの両者を添加する量をCaの純分で溶鋼トン当り50g以上かつ120g以下とし、かつ該Caの添加後に溶鋼内に下記(1)式を満足する量の不活性ガスを吹込んで溶鋼の攪拌を行うことを特徴とするステンレス鋼の高清浄化精錬法にある。
1.5≦W Ca /Q d ≦4.2 ・・・(1)
Qd :不活性ガスの吹込み流量(Nm3 )
WCa:添加したCaまたはCa合金中のCa純分量の合計(kg)
【0009】
さらに、前記精錬後のスラグ中の(MgO)濃度を15mass%以下とし、かつスラグ中の(CaO)/(Al2 O3 )の濃度比を1.0以上、2.5以下とすることを特徴とするステンレス鋼の高清浄化精錬法にある。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明者らはステンレス鋼の製品の表面疵や加工時の割れの原因として、硬質の介在物であるAl2 O3 ,MgO,MgO−Al2 O3 ,CaOおよびAl2 O3 濃度の高いCaO−Al2 O3 の影響が極めて大きいことを見出し、かつこれらの介在物の硬質、軟質の区別は介在物組成より求められる介在物の融点で評価できることを見出した。
さらに、Alを還元剤として用い、精錬炉から出鋼後、取鍋内でCaまたはCa合金あるいはこれらの両者を添加した場合の介在物の組成推移について種々の調査を重ねた結果、下記の知見を得た。
【0011】
▲1▼還元剤としてAlを添加した場合は、溶鋼中に介在物として硬質のAl2 O3 ,MgO−Al2 O3 ,MgOおよびAl2 O3 濃度の高いCaO−Al2 O3 が生成し、これが後工程まで残存することがある。
▲2▼取鍋内で、CaまたはCa合金あるいはこれらの両者を添加し、溶鋼の攪拌を十分に行うことによって、上記介在物の軟質化反応が進行し、介在物の主体は一部にSiO2 およびMgOを含んだ比較的Al2 O3 濃度の低いCaO−Al2 O3 となる。
【0012】
▲3▼CaまたはCa合金あるいはこれらの両者を添加した後の溶鋼の攪拌が不十分な場合には、硬質のAl2 O3 ,MgO−Al2 O3 ,MgOおよびAl2 O3 濃度の高いCaO−Al2 O3 が残存すると共に、Ca添加によって生成したCaOが介在物として残存することがある。
▲4▼スラグ中の(MgO)濃度が極端に高い場合およびスラグ中の(CaO)/(Al2 O3 )濃度比が極端に高かったり、低かったりした場合には、上記の硬質の介在物が残存することがある。
【0013】
したがって、硬質の介在物であるAl2 O3 ,MgO−Al2 O3 ,MgO,CaOおよびAl2 O3 濃度の高いCaO−Al2 O3 の生成を抑制するには、Caの添加量、Ca添加後の不活性ガス吹込みによる溶鋼の攪拌量およびスラグの組成を適切に制御することが非常に重要であることがわかった。
また、前記の特開平6−306439号公報に記載されている、還元剤として添加するAl中のMg濃度の規制、あるいは溶鋼中〔Ca〕,〔Al〕の規制は、Ca添加後の溶鋼への不活性ガス吹込み量が十分であれば緩和できることを確認した。
【0014】
さらに、介在物には多種類の硬質の介在物が存在することから、これらを一律に評価する指標として、介在物の組成より求められる介在物の融点を用いることが有効であり、介在物の融点が1600℃を超える介在物を高融点介在物とし、この高融点介在物の全介在物に占める存在率を高融点介在物の発生率として定義して、介在物の無害化を評価すればよいことがわかった。
なお、高融点介在物の発生率が高いほど、介在物の絶対量が多くなる傾向になることが確認された。
【0015】
上記の結果に基づき、Ca添加量、Ca添加後の溶鋼への不活性ガス吹込み量およびスラグ組成を制御することに着目して、高融点介在物の発生率を抑える条件について検討した。
なお、還元剤としてAlを用いる場合、スラグの還元反応の促進をはかり、かつ低硫・低酸素化を円滑に達成するためには、精錬中における溶鋼中の〔Al〕濃度は100〜1500ppmの範囲であり、本発明においてもこの範囲内に調整している。
【0016】
図1は、酸化精錬後のステンレス鋼にAlを添加して還元精錬を行い、この溶鋼を取鍋に出鋼し、取鍋内にCaあるいはCa合金を添加し、不活性ガスを吹込んで精錬を行った場合の、取鍋で添加する溶鋼トン当りのCa添加量と高融点介在物の発生率の関係を示す。なお、Ca源としてCa合金を添加する場合のCa添加量はCa合金中に含まれるCa量であり、Ca添加量/ガス吹込み流量は4.0kg/Nm3 以下とした。
図1より、溶鋼トン当りのCa添加量が50gより小さい場合には、MgO,MgO−Al2 O3 およびAl2 O3 濃度の高いCaO−Al2 O3 の高融点介在物の発生率が急激に増大するために、溶鋼トン当りのCa添加量は50g以上が必要である。
【0017】
図2は、図1と同様な精錬において、Ca添加量/ガス吹込み流量を1.3〜8.2kg/Nm3 とした場合のCa添加量/ガス吹込み流量と高融点介在物の発生率の関係を示す。なお、Caの溶鋼トン当りの添加量は、いずれも50g以上とした場合の値である。
図2より、Ca添加量/ガス吹込み流量の値が4.2を超えると高融点介在物の発生率が急激に増大するために、Ca添加量/ガス吹込み流量は4.2以下とする必要がある。
【0018】
これより、前記(1)式の関係が求められる。なお、Ca添加量およびガス吹込み流量が多くなると、取鍋での溶鋼温度の低下が大きく、制御が難しくなるために、溶鋼トン当りのCa添加量としては120g以下、Ca添加量/ガス吹込み流量の比は1.5kg/Nm3 以上が望ましい。
【0019】
図3には前記精錬後のスラグ中の(MgO)濃度と高融点介在物の発生率の関係を示す。なお、Caの添加量およびCa添加後の溶鋼への不活性ガス吹込み流量は本発明の条件内で行った場合である。
図3より、スラグ中の(MgO)濃度が15mass%を超えると徐々に高融点介在物の発生率が増大しており、スラグ中の(MgO)濃度は15mass%以下とする必要がある。
【0020】
図4には前記精錬後のスラグ中の(CaO)/(Al2 O3 )の濃度比と高融点介在物の発生率の関係を示す。なお、Caの添加量およびCa添加後の溶鋼への不活性ガス吹込み流量は本発明の条件内で行った場合である。
図4より、スラグ中の(CaO)/(Al2 O3 )の濃度比が1.0未満および2.5を超えると高融点介在物の発生率が増大しており、スラグ中の(CaO)/(Al2 O3 )の濃度比は1.0以上、2.5以下にする必要がある。
【0021】
以上のように、Al2 O3 ,MgO,MgO−Al2 O3 ,CaOおよびAl2 O3 濃度の高いCaO−Al2 O3 の高融点介在物の発生率を抑制するためには、取鍋内で添加するCa量、Caの添加後の溶鋼内への不活性ガスの吹込み流量および精錬後のスラグ中の(MgO)濃度、(CaO)/(Al2 O3 )濃度比を適正な範囲に制御することが重要である。
【0022】
【実施例】
SUS304ステンレス鋼(18mass%Cr−8mass%Ni)を60t電気炉にて溶解し、AOD炉にてO2 −Ar混合ガスによる脱炭精錬を行った後に、Arガス吹込み下で還元剤としてAlを添加して、還元精錬を行った後に取鍋に出鋼した。
取鍋内ではCaおよびCa合金を添加し、その後、取鍋底部よりArガスを吹込み攪拌処理を行った。なお、精錬中における溶鋼中の〔Al〕濃度は100〜1000ppmの範囲にあり、スラグ量は溶鋼トン当り40〜100kgの範囲にあった。
【0023】
得られた鋼は連続鋳造により、断面サイズ178mmφのビレットとし、次いで線材圧延により5.5mmφの線材とし、この線材を0.5mmφに冷間伸線加工した。表1にAOD精錬後のスラグ組成、Ca添加条件および線材品質をまとめて示す。なお、No.1〜6の例は本発明例、No.7〜10は本発明の条件外の比較例を示す。
【0024】
【表1】
【0025】
介在物の調査は、線材横断面10cm2 を光学顕微鏡により観察し、5μm以上の介在物個数を測定すると共に、X線マイクロアナライザーによる組成分析を行った。組成分析結果より各介在物毎の融点を換算し、融点が1600℃以上の介在物個数を求め、高融点介在物の発生率を算出した。
【0026】
本発明の例では高融点介在物の発生率が低位に安定しており、かつ線材中の5μm以上の介在物個数も著しく低減しており、介在物の無害化を達成できた。
【0027】
【発明の効果】
本発明では、ステンレス鋼の精錬において、精錬後のスラグ組成、取鍋内で添加するCaの量およびCa添加後の不活性ガスの吹込み流量を制御することにより、硬質の高融点介在物の発生率を低位に安定させることができるので、介在物の無害化を達成できる。このため、製品の表面疵や加工時の割れのない材料を製造でき、冷間加工性の優れた細線、極細線などの製造が可能になった。
【図面の簡単な説明】
【図1】取鍋内で添加するCaまたはCa合金あるいはこれらの両者の溶鋼トン当りのCa添加量と高融点介在物の発生率の関係を示す図
【図2】取鍋内で添加するCa量とCa添加後の不活性ガスの吹込み流量の比と高融点介在物の発生率の関係を示す図
【図3】精錬後のスラグ中の(MgO)濃度と高融点介在物の発生率の関係を示す図
【図4】精錬後のスラグ中の(CaO)/(Al2 O3 )の濃度比と高融点介在物の発生率の関係を示す図
Claims (2)
- ステンレス鋼の精錬において、酸化精錬時に生成したクロム酸化物を含むスラグの還元剤としてAlを用い、かつ出鋼後の取鍋内の溶鋼にCaまたはCa合金あるいはこれらの両者を添加する工程において、CaまたはCa合金あるいはこれらの両者を添加する量をCaの純分で溶鋼トン当り50g以上かつ120g以下とし、かつ該Caの添加後に溶鋼内に下記(1)式を満足する量の不活性ガスを吹込んで溶鋼の攪拌を行うことを特徴とするステンレス鋼の高清浄化精錬法。
1.5≦W Ca /Q d ≦4.2 ・・・(1)
Qd :不活性ガスの吹込み流量(Nm3 )
WCa:添加したCaまたはCa合金中のCa純分量の合計(kg) - 前記精錬後のスラグ中の(MgO)濃度を15mass%以下とし、かつスラグの中の(CaO)/(Al2 O3 )の濃度比を1.0以上、2.5以下とすることを特徴とする請求項1に記載のステンレス鋼の高清浄化精錬法。
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