JP4193971B2 - 車両の運動制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両の前輪及び後輪の各車輪に付与される制動力を制御することにより同車両の運動を制御する車両の運動制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、車両の車輪のタイヤ空気圧が低下しているとき、車両の旋回状態が不安定にならないように車両の運動を制御することが要求されている。また、一般に、タイヤ空気圧が低下すると同タイヤに発生するコーナリングフォースが低下するので、前輪のタイヤ空気圧が後輪のタイヤ空気圧よりも相対的に低下すると車両の旋回状態がアンダーステアの状態になる傾向がある一方で、後輪のタイヤ空気圧が前輪のタイヤ空気圧よりも相対的に低下すると車両の旋回状態がオーバーステアの状態になる傾向がある。
【0003】
以上のことから、例えば、下記特許文献1に開示された車両の運動制御装置は、車両が旋回状態にあるとき、前輪のタイヤ空気圧が後輪のタイヤ空気圧よりも相対的に低下した場合、上記アンダーステアの状態が解消する方向に後輪の転舵角を制御するとともに、後輪のタイヤ空気圧が前輪のタイヤ空気圧よりも相対的に低下した場合、上記オーバーステアの状態が解消する方向に後輪の転舵角を制御するようになっている。これによれば、車両が旋回状態にあるとき、車両は各車輪のタイヤ空気圧が適正値であるときに得られる旋回状態と同様な安定した旋回状態を維持することができる。
【0004】
【特許文献1】
特開昭62−59169号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、一般に、車両が旋回状態にあるとき、旋回方向における外側の車輪のタイヤ空気圧が低下していると、タイヤの変形量が大きくなることで同車輪の回転中心の路面からの高さが低くなり、その結果、同車輪のタイヤ空気圧の低下に応じて車体に過大なロール角が発生する傾向が大きくなる。しかしながら、上記開示された装置においては、上記のようにタイヤ空気圧の低下に基いて発生するアンダーステアの状態又はオーバーステアの状態を解消することができるものの、タイヤ空気圧の低下に基く過大なロール角の発生を防止する点が考慮されていない。従って、車両が旋回状態にあって旋回方向における外側の車輪のタイヤ空気圧が低下しているとき、車体に過大なロール角が発生する可能性があるという問題があった。
【0006】
従って、本発明の目的は、旋回方向における外側の車輪のタイヤ空気圧が低下している場合に車体に過大なロール角が発生することを防止し得る車両の運動制御装置を提供することにある。
【0007】
【発明の概要】
本発明の特徴は、車両が旋回状態にあって、且つ、前記車両の安定性の低下の程度が所定の程度を超えたとき、前記車両の横転を防止するために旋回外側の前後輪に制動力をそれぞれ付与する制動力制御手段を備え、前記制動力制御手段が、旋回外側前輪に付与される制動力を、前記安定性の低下の程度が増加するに従って増加するとともに前輪側上限値に達した後は前記安定性の低下の程度が増加しても前記前輪側上限値で一定になるように調整し、旋回外側後輪に付与される制動力を、前記安定性の低下の程度が増加するに従って増加するとともに後輪側上限値に達した後は前記安定性の低下の程度が増加しても前記後輪側上限値で一定になるように調整するように構成された車両の運動制御装置が、前記車両の車輪のタイヤ空気圧が対応するタイヤ空気圧低下判定基準値以上か否かを車輪毎に判定する空気圧判定手段を備え、前記制動力制御手段は、前記旋回外側の前後輪のうち1輪のみがタイヤ空気圧が前記対応するタイヤ空気圧低下判定基準値よりも小さい空気圧低下車輪となっているとき(以下、「外側タイヤ空気圧低下時」と称呼する。)、前記旋回外側の前後輪のタイヤ空気圧がそれぞれ前記対応するタイヤ空気圧低下判定基準値以上であるとき(以下、「外側タイヤ空気圧適正時」と称呼する。)に比して、前記前輪側上限値及び前記後輪側上限値のうち前記空気圧低下車輪に対応する方の上限値がより小さく且つ前記前輪側上限値及び前記後輪側上限値のうち前記空気圧低下車輪に対応しない方の上限値がより大きくなるように、並びに、前記旋回外側の前後輪に付与される制動力に起因して前記車両に作用する旋回方向と反対方向のヨーイングモーメントがより大きくなるように前記旋回外側の前後輪に付与される制動力を調整するように構成されたことにある。ここにおいて、車両に作用する旋回方向と反対方向のヨーイングモーメントを大きくするためには、例えば、旋回方向における外側の車輪に付与される各制動力の総和を大きくしたり、旋回方向における内側の車輪に付与される各制動力の総和を小さくすればよい。
【0008】
車体に発生するロール角の大きさは、車両に働く加速度の車体左右方向の成分である実横加速度の大きさに依存し、同実横加速度の増加に応じて大きくなる。一方、車両に働く実横加速度の大きさは、車両の旋回方向と反対方向にヨーイングモーメントを車両に発生させることにより、又は車両を減速させることにより小さくなる。
【0009】
従って、車両が旋回状態にあって車両の横転を防止するために旋回外側の前後輪に制動力が付与される場合、上記のように、「外側タイヤ空気圧低下時」において、「外側タイヤ空気圧適正時」に比して、旋回外側の前後輪に付与される制動力に起因して車両に作用する旋回方向と反対方向のヨーイングモーメントが大きくなるように構成すれば、「外側タイヤ空気圧低下時」において、「外側タイヤ空気圧適正時」に比して車両に働く実横加速度が低減されて車体に過大なロール角が発生することが防止され得る。加えて、上記によれば、「外側タイヤ空気圧低下時」において、「外側タイヤ空気圧適正時」に比して、前輪側上限値及び後輪側上限値のうち空気圧低下車輪に対応する方の上限値がより小さく且つ空気圧低下車輪に対応しない方の上限値がより大きくなるように構成される。従って、空気圧低下車輪に作用する制動力の上限値が小さくされるから、変形し易い空気圧低下車輪のタイヤの変形の程度を小さく維持することができる。これによっても、空気圧低下車輪のタイヤの過大な変形に起因する過大なロール角の発生が防止され得る。
【0010】
この場合、前記制動力制御手段は、前記旋回方向と反対方向のヨーイングモーメントを大きくする程度を、前記空気圧低下車輪のタイヤ空気圧の低下に応じて大きくするように構成されることが好適である。先に述べたように、車両が旋回状態にあるとき、旋回方向における外側の車輪のタイヤ空気圧の低下に応じて車体に過大なロール角が発生する傾向が大きくなる。従って、上記のように構成すれば、タイヤ空気圧の低下に基いて過大なロール角が発生する傾向が大きくなる程度に応じてロール角の増大を防止する程度が過不足なく設定され、車両の安定性を良好に維持しつつ車体に過大なロール角が発生することが防止され得る。
【0011】
また、上記車両の運動制御装置においては、前記制動力制御手段は、前記旋回方向と反対方向のヨーイングモーメントを大きくするために、前記旋回外側の前後輪に付与される制動力の総和を大きくするように構成されることが好適である。これによれば、外側タイヤ空気圧低下時において、外側タイヤ空気圧適正時に比して各車輪に付与される制動力の総和が大きくなり、この結果、車両を減速させる減速力も大きくなる。従って、旋回方向と反対方向のヨーイングモーメントの作用による車両に働く実横加速度の低減効果と前記減速力の作用による実横加速度の低減効果とが相俟って、外側タイヤ空気圧低下時において、より一層車体に過大なロール角が発生することが防止され得る。
【0012】
上記のように、前記制動力制御手段が、前記旋回方向と反対方向のヨーイングモーメントを大きくするために同旋回方向における外側の車輪に付与される各制動力の総和を大きくするように構成される場合、同制動力制御手段は、前記空気圧低下車輪のタイヤ空気圧の低下に応じて、前記空気圧低下車輪に対応する方の前記上限値をより小さく且つ前記空気圧低下車輪に対応しない方の前記上限値をより大きくするように構成されることが好適である。
【0014】
空気圧低下車輪に過大な制動力を加えると、同車輪のタイヤが変形して同車輪の回転中心の路面からの高さが低くなり、車体に過大なロール角が発生する傾向が大きくなる。これに対し、上記のように、空気圧低下車輪に付与される制動力を同車輪のタイヤ空気圧の低下に応じて低くなる上限値を超えないように制御すれば、同空気圧低下車輪のタイヤの変形の程度を小さく維持することができ、上述した旋回方向と反対方向のヨーイングモーメントの作用による車両に働く実横加速度の低減効果、及び前記減速力の作用による実横加速度の低減効果と相俟ってさらに一層車体に過大なロール角が発生することが防止され得る。
【0015】
また、上記した車両の運動制御装置においては、前記制動力制御手段は、前記空気圧低下車輪のタイヤ空気圧の低下に応じて前記所定の程度を小さくするように構成されることが好適である。
【0016】
これによれば、車両が旋回状態にあって車両の安定性の低下が進行する過程にて、外側タイヤ空気圧低下時においては、外側タイヤ空気圧適正時に比して空気圧低下車輪のタイヤ空気圧の低下に応じたより早い段階から旋回方向と反対方向のヨーイングモーメントを発生させるための制動力を旋回外側の前後輪に付与開始することが可能となる。従って、外側タイヤ空気圧低下時において、外側タイヤ空気圧適正時に比して前記旋回方向と反対方向のヨーイングモーメントを空気圧低下車輪のタイヤ空気圧の低下に応じて滑らかに大きくすることができる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明による車両の運動制御装置の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の実施形態に係る車両の運動制御装置10を搭載した車両の概略構成を示している。この車両は、操舵輪であり且つ非駆動輪である前2輪(左前輪FL及び右前輪FR)と、駆動輪である後2輪(左後輪RL及び右後輪RR)を備えた後輪駆動方式の4輪車両である。
【0018】
この車両の運動制御装置10は、操舵輪FL,FRを転舵するための前輪転舵機構部20と、駆動力を発生するとともに同駆動力を駆動輪RL,RRに伝達する駆動力伝達機構部30と、各車輪にブレーキ液圧によるブレーキ力を発生させるためのブレーキ液圧制御装置40と、各種センサから構成されるセンサ部50と、電気式制御装置60とを含んで構成されている。
【0019】
前輪転舵機構部20は、ステアリング21と、同ステアリング21と一体的に回動可能なコラム22と、同コラム22に連結された転舵アクチュエータ23と、同転舵アクチュエータ23により車体左右方向に移動させられるタイロッドを含むとともに同タイロッドの移動により操舵輪FL,FRを転舵可能なリンクを含んだリンク機構部24とから構成されている。これにより、ステアリング21が中立位置(基準位置)から回転することで操舵輪FL,FRの転舵角が車両が直進する基準角度から変更されるようになっている。
【0020】
転舵アクチュエータ23は、所謂公知の油圧式パワーステアリング装置を含んで構成されており、ステアリング21、即ちコラム22の回転トルクに応じてタイロッドを移動させる助成力を発生し、同ステアリング21の中立位置からのステアリング角度θsに比例して同助成力によりタイロッドを中立位置から車体左右方向へ変位させるものである。なお、かかる転舵アクチュエータ23の構成及び作動は周知であるので、ここでは、その詳細な説明を省略する。
【0021】
駆動力伝達機構部30は、駆動力を発生するエンジン31と、同エンジン31の吸気管31a内に配置されるとともに吸気通路の開口断面積を可変とするスロットル弁THの開度を制御するDCモータからなるスロットル弁アクチュエータ32と、エンジン31の図示しない吸気ポート近傍に燃料を噴射するインジェクタを含む燃料噴射装置33と、エンジン31の出力軸に接続されたトランスミッション34と、同トランスミッション34から伝達される駆動力を適宜分配して後輪RR,RLに伝達するディファレンシャルギヤ35とを含んで構成されている。
【0022】
ブレーキ液圧制御装置40は、その概略構成を表す図2に示すように、高圧発生部41と、ブレーキペダルBPの操作力に応じたブレーキ液圧を発生するブレーキ液圧発生部42と、各車輪FR,FL,RR,RLにそれぞれ配置されたホイールシリンダWfr,Wfl,Wrr,Wrlに供給するブレーキ液圧をそれぞれ調整可能なFRブレーキ液圧調整部43,FLブレーキ液圧調整部44,RRブレーキ液圧調整部45,RLブレーキ液圧調整部46とを含んで構成されている。
【0023】
高圧発生部41は、電動モータMと、同電動モータMにより駆動されるとともにリザーバRS内のブレーキ液を昇圧する液圧ポンプHPと、液圧ポンプHPの吐出側にチェック弁CVHを介して接続されるとともに同液圧ポンプHPにより昇圧されたブレーキ液を貯留するアキュムレータAccとを含んで構成されている。
【0024】
電動モータMは、アキュムレータAcc内の液圧が所定の下限値を下回ったとき駆動され、同アキュムレータAcc内の液圧が所定の上限値を上回ったとき停止されるようになっており、これにより、アキュムレータAcc内の液圧は常時所定の範囲内の高圧に維持されるようになっている。
【0025】
また、アキュムレータAccとリザーバRSとの間にリリーフ弁RVが配設されており、アキュムレータAcc内の液圧が前記高圧より異常に高い圧力になったときに同アキュムレータAcc内のブレーキ液がリザーバRSに戻されるようになっている。これにより、高圧発生部41の液圧回路が保護されるようになっている。
【0026】
ブレーキ液圧発生部42は、ブレーキペダルBPの作動により応動するハイドロブースタHBと、同ハイドロブースタHBに連結されたマスタシリンダMCとから構成されている。ハイドロブースタHBは、液圧高圧発生部41から供給される前記高圧を利用してブレーキペダルBPの操作力を所定の割合で助勢し同助勢された操作力をマスタシリンダMCに伝達するようになっている。
【0027】
マスタシリンダMCは、前記助勢された操作力に応じたマスタシリンダ液圧を発生するようになっている。また、ハイドロブースタHBは、マスタシリンダ液圧を入力することによりマスタシリンダ液圧と略同一の液圧である前記助勢された操作力に応じたレギュレータ液圧を発生するようになっている。これらマスタシリンダMC及びハイドロブースタHBの構成及び作動は周知であるので、ここではそれらの詳細な説明を省略する。このようにして、マスタシリンダMC及びハイドロブースタHBは、ブレーキペダルBPの操作力に応じたマスタシリンダ液圧及びレギュレータ液圧をそれぞれ発生するようになっている。
【0028】
マスタシリンダMCとFRブレーキ液圧調整部43の上流側及びFLブレーキ液圧調整部44の上流側の各々との間には、3ポート2位置切換型の電磁弁である制御弁SA1が介装されている。同様に、ハイドロブースタHBとRRブレーキ液圧調整部45の上流側及びRLブレーキ液圧調整部46の上流側の各々との間には、3ポート2位置切換型の電磁弁である制御弁SA2が介装されている。また、高圧発生部41と制御弁SA1及び制御弁SA2の各々との間には、2ポート2位置切換型の常閉電磁開閉弁である切換弁STRが介装されている。
【0029】
制御弁SA1は、図2に示す第1の位置(非励磁状態における位置)にあるときマスタシリンダMCとFRブレーキ液圧調整部43の上流部及びFLブレーキ液圧調整部44の上流部の各々とを連通するとともに、第2の位置(励磁状態における位置)にあるときマスタシリンダMCとFRブレーキ液圧調整部43の上流部及びFLブレーキ液圧調整部44の上流部の各々との連通を遮断して切換弁STRとFRブレーキ液圧調整部43の上流部及びFLブレーキ液圧調整部44の上流部の各々とを連通するようになっている。
【0030】
制御弁SA2は、図2に示す第1の位置(非励磁状態における位置)にあるときハイドロブースタHBとRRブレーキ液圧調整部45の上流部及びRLブレーキ液圧調整部46の上流部の各々とを連通するとともに、第2の位置(励磁状態における位置)にあるときハイドロブースタHBとRRブレーキ液圧調整部45の上流部及びRLブレーキ液圧調整部46の上流部の各々との連通を遮断して切換弁STRとRRブレーキ液圧調整部45の上流部及びRLブレーキ液圧調整部46の上流部の各々とを連通するようになっている。
【0031】
これにより、FRブレーキ液圧調整部43の上流部及びFLブレーキ液圧調整部44の上流部の各々には、制御弁SA1が第1の位置にあるときマスタシリンダ液圧が供給されるとともに、制御弁SA1が第2の位置にあり且つ切換弁STRが第2の位置(励磁状態における位置)にあるとき高圧発生部41が発生する高圧が供給されるようになっている。
【0032】
同様に、RRブレーキ液圧調整部45の上流部及びRLブレーキ液圧調整部46の上流部の各々には、制御弁SA2が第1の位置にあるときレギュレータ液圧が供給されるとともに、制御弁SA2が第2の位置にあり且つ切換弁STRが第2の位置にあるとき高圧発生部41が発生する高圧が供給されるようになっている。
【0033】
FRブレーキ液圧調整部43は、2ポート2位置切換型の常開電磁開閉弁である増圧弁PUfrと、2ポート2位置切換型の常閉電磁開閉弁である減圧弁PDfrとから構成されており、増圧弁PUfrは、図2に示す第1の位置(非励磁状態における位置)にあるときFRブレーキ液圧調整部43の上流部とホイールシリンダWfrとを連通するとともに、第2の位置(励磁状態における位置)にあるときFRブレーキ液圧調整部43の上流部とホイールシリンダWfrとの連通を遮断するようになっている。減圧弁PDfrは、図2に示す第1の位置(非励磁状態における位置)にあるときホイールシリンダWfrとリザーバRSとの連通を遮断するとともに、第2の位置(励磁状態における位置)にあるときホイールシリンダWfrとリザーバRSとを連通するようになっている。
【0034】
これにより、ホイールシリンダWfr内のブレーキ液圧は、増圧弁PUfr及び減圧弁PDfrが共に第1の位置にあるときホイールシリンダWfr内にFRブレーキ液圧調整部43の上流部の液圧が供給されることにより増圧され、増圧弁PUfrが第2の位置にあり且つ減圧弁PDfrが第1の位置にあるときFRブレーキ液圧調整部43の上流部の液圧に拘わらずその時点の液圧に保持されるとともに、増圧弁PUfr及び減圧弁PDfrが共に第2の位置にあるときホイールシリンダWfr内のブレーキ液がリザーバRSに戻されることにより減圧されるようになっている。
【0035】
また、増圧弁PUfrにはブレーキ液のホイールシリンダWfr側からFRブレーキ液圧調整部43の上流部への一方向の流れのみを許容するチェック弁CV1が並列に配設されており、これにより、制御弁SA1が第1の位置にある状態で操作されているブレーキペダルBPが開放されたときホイールシリンダWfr内のブレーキ液圧が迅速に減圧されるようになっている。
【0036】
同様に、FLブレーキ液圧調整部44,RRブレーキ液圧調整部45及びRLブレーキ液圧調整部46は、それぞれ、増圧弁PUfl及び減圧弁PDfl,増圧弁PUrr及び減圧弁PDrr,増圧弁PUrl及び減圧弁PDrlから構成されており、これらの各増圧弁及び各減圧弁の位置が制御されることにより、ホイールシリンダWfl,ホイールシリンダWrr及びホイールシリンダWrl内のブレーキ液圧をそれぞれ増圧、保持、減圧できるようになっている。また、増圧弁PUfl,PUrr及びPUrlの各々にも、上記チェック弁CV1と同様の機能を達成し得るチェック弁CV2,CV3及びCV4がそれぞれ並列に配設されている。
【0037】
また、制御弁SA1にはブレーキ液の上流側から下流側への一方向の流れのみを許容するチェック弁CV5が並列に配設されており、同制御弁SA1が第2の位置にあってマスタシリンダMCとFRブレーキ液圧調整部43及びFLブレーキ液圧調整部44の各々との連通が遮断されている状態にあるときに、ブレーキペダルBPを操作することによりホイールシリンダWfr,Wfl内のブレーキ液圧が増圧され得るようになっている。また、制御弁SA2にも、上記チェック弁CV5と同様の機能を達成し得るチェック弁CV6が並列に配設されている。
【0038】
以上、説明した構成により、ブレーキ液圧制御装置40は、全ての電磁弁が第1の位置にあるときブレーキペダルBPの操作力に応じたブレーキ液圧を各ホイールシリンダに供給できるようになっている。また、この状態において、例えば、増圧弁PUrr及び減圧弁PDrrをそれぞれ制御することにより、ホイールシリンダWrr内のブレーキ液圧のみを所定量だけ減圧することができるようになっている。
【0039】
また、ブレーキ液圧制御装置40は、ブレーキペダルBPが操作されていない状態(開放されている状態)において、例えば、制御弁SA1,切換弁STR及び増圧弁PUflを共に第2の位置に切換るとともに増圧弁PUfr及び減圧弁PDfrをそれぞれ制御することにより、ホイールシリンダWfl内のブレーキ液圧を保持した状態で高圧発生部41が発生する高圧を利用してホイールシリンダWfr内のブレーキ液圧のみを所定量だけ増圧することもできるようになっている。このようにして、ブレーキ液圧制御装置40は、ブレーキペダルBPの操作に拘わらず、各車輪のホイールシリンダ内のブレーキ液圧をそれぞれ独立して制御し、各車輪毎に独立して所定のブレーキ力を付与することができるようになっている。
【0040】
再び図1を参照すると、センサ部50は、各車輪FL,FR,RL及びRRが所定角度回転する度にパルスを有する信号をそれぞれ出力するロータリーエンコーダから構成される車輪速度センサ51fl,51fr,51rl及び51rrと、ステアリング21の中立位置からの回転角度を検出し、ステアリング角度θsを示す信号を出力するステアリング角度センサ52と、運転者により操作されるアクセルペダルAPの操作量を検出し、同アクセルペダルAPの操作量Accpを示す信号を出力するアクセル開度センサ53と、車両に働く実際の加速度の車体左右方向の成分である横加速度を検出し、横加速度Gy(m/s2)を示す信号を出力する横加速度センサ54と、運転者によりブレーキペダルBPが操作されているか否かを検出し、ブレーキ操作の有無を示す信号を出力するブレーキスイッチ55と、各車輪FL,FR,RL及びRRのタイヤ空気圧をそれぞれ検出し、各タイヤ空気圧Pfl,Pfr,Prl,Prrを示す信号をそれぞれ出力する空気圧取得手段としてのタイヤ空気圧センサ56fl,56fr,56rl及び56rrとから構成されている。
【0041】
ステアリング角度θsは、ステアリング21が中立位置にあるときに「0」となり、同中立位置からステアリング21を(ドライバーから見て)反時計まわりの方向へ回転させたときに正の値、同中立位置から同ステアリング21を時計まわりの方向へ回転させたときに負の値となるように設定されている。また、横加速度Gyは、車両が左方向へ旋回しているときに正の値、車両が右方向へ旋回しているときに負の値となるように設定されている。
【0042】
電気式制御装置60は、互いにバスで接続されたCPU61、CPU61が実行するルーチン(プログラム)、テーブル(ルックアップテーブル、マップ)、定数等を予め記憶したROM62、CPU61が必要に応じてデータを一時的に格納するRAM63、電源が投入された状態でデータを格納するとともに同格納したデータを電源が遮断されている間も保持するバックアップRAM64、及びADコンバータを含むインターフェース65等からなるマイクロコンピュータである。インターフェース65は、前記センサ51〜56と接続され、CPU61にセンサ51〜56からの信号を供給するとともに、同CPU61の指示に応じてブレーキ液圧制御装置40の各電磁弁及びモータM、スロットル弁アクチュエータ32、及び燃料噴射装置33に駆動信号を送出するようになっている。
【0043】
これにより、スロットル弁アクチュエータ32は、スロットル弁THの開度がアクセルペダルAPの操作量Accpに応じた開度になるように同スロットル弁THを駆動するとともに、燃料噴射装置33は、スロットル弁THの開度に応じた吸入空気量に対して所定の目標空燃比(理論空燃比)を得るために必要な量の燃料を噴射するようになっている。
【0044】
(本発明による車両の運動制御の概要)
本発明による車両の運動制御装置10は、車両の運動モデルから導かれる所定の規則としての理論式である下記数1に基いて目標横加速度Gyt(m/s2)を算出する。この目標横加速度Gytは、車両が左方向へ旋回しているとき(ステアリング角度θs(deg)が正の値のとき)に正の値、車両が右方向へ旋回しているとき(ステアリング角度θsが負の値のとき)に負の値となるように設定される。なお、この理論式は、ステアリング角度及び車体速度が共に一定である状態で車両が旋回するとき(定常円旋回時)に車両に働く横加速度の理論値を算出する式である。
【0045】
【数1】
Gyt=(Vso2・θs)/(n・l)・(1/(1+Kh・Vso2))
【0046】
上記数1において、Vsoは後述するように算出される推定車体速度(m/s)である。また、nは操舵輪FL,FRの転舵角度の変化量に対するステアリング21の回転角度の変化量の割合であるギヤ比(一定値)であり、lは車体により決定される一定値である車両のホイールベース(m)であり、Khは車体により決定される一定値であるスタビリティファクタ(s2/m2)である。
【0047】
次に、本装置は、下記数2に基いて、上述したように計算した目標横加速度Gytの絶対値と横加速度センサ54により得られる実際の横加速度Gyの絶対値との偏差である横加速度偏差ΔGy(m/s2)を算出する。
【0048】
【数2】
ΔGy=|Gyt|-|Gy|
【0049】
<アンダーステア抑制制御>
そして、この横加速度偏差ΔGyの値が正の所定値以上であるとき、車両は目標横加速度Gytが同車両に発生していると仮定したときの旋回半径よりも同旋回半径が大きくなる状態(以下、「アンダーステア状態」と称呼する。)にあるので、本装置は、車両の旋回状態がアンダーステア状態にあると判定し、アンダーステア状態を抑制するためのアンダーステア抑制制御(以下、「US抑制制御」と称呼する。)を実行する。
【0050】
具体的には、本装置は、旋回方向内側の後輪のみに上記横加速度偏差ΔGyの値に応じた所定のブレーキ力を発生させて車両に対して旋回方向のヨーイングモーメントを強制的に発生させる。これにより、実際の横加速度Gyの絶対値が大きくなり、実際の横加速度Gyが目標横加速度Gytに近づくように制御される。なお、かかるUS抑制制御時において強制的に発生させられる上記所定のブレーキ力の大きさは、旋回方向外側の車輪のタイヤ空気圧が低下しているか否かに依存しない。
【0051】
<オーバーステア抑制制御>
これに対し、横加速度偏差ΔGyの値が負の値であって、その絶対値(車両の安定性の低下の程度)が所定値(所定の程度、OS抑制制御時制御開始値)以上であるとき、車両は目標横加速度Gytが同車両に発生していると仮定したときの旋回半径よりも同旋回半径が小さくなる状態(以下、「オーバーステア状態」と称呼する。)にあるので、本装置は、車両の旋回状態がオーバーステア状態にあると判定し、オーバーステア状態を抑制するためのオーバーステア抑制制御(以下、「OS抑制制御」と称呼する。)を実行する。
【0052】
具体的には、本装置は、OS抑制制御時において左方向に旋回している車両の各車輪に付与されるブレーキ力の一例を表す図3(a)(b)に示すように、旋回方向外側の前後輪に上記横加速度偏差ΔGyの絶対値に応じた所定のブレーキ力を発生させて車両に対して旋回方向と反対方向のヨーイングモーメントを強制的に発生させる。これにより、実際の横加速度Gyの絶対値が小さくなり、実際の横加速度Gyが目標横加速度Gytに近づくように制御される。ここで、かかるOS抑制制御時において強制的に発生させられる上記所定のブレーキ力の大きさは、以下に説明するように、旋回方向外側の車輪のタイヤ空気圧が低下しているか否かに依存する。
【0053】
まず、旋回方向外側の前輪(図3において車輪FR)のタイヤ空気圧Pof (=Pfr)が前輪側タイヤ空気圧低下判定基準値Pfref(一定値)以上であって、且つ、旋回方向外側の後輪(図3において車輪RR)のタイヤ空気圧Por (=Prr)が一定値である後輪側タイヤ空気圧低下判定基準値Prref(一定値)以上の場合(外側タイヤ空気圧適正時)について説明すると、旋回方向外側の前輪(図3において車輪FR)に発生するブレーキ力は、図3(a)に実線にて示したOS抑制制御時前輪側基準ブレーキ力Ff1になるように設定される。このOS抑制制御時前輪側基準ブレーキ力Ff1は、横加速度偏差ΔGyの絶対値がOS抑制制御時制御開始基準値a1以下のときには「0」になり、横加速度偏差ΔGyの絶対値が値a1を超えるときには同横加速度偏差ΔGyの絶対値が値a1から増加するに従い、「0」から前輪側基準上限値ffに到達するまで所定の勾配θ1をもって増加するとともに、前輪側基準上限値ffに到達した後は同横加速度偏差ΔGyの絶対値が増加しても同前輪側基準上限値ff一定になるように設定される。
【0054】
また、このとき、旋回方向外側の後輪(図3において車輪RR)に発生するブレーキ力は、図3(b)に実線にて示したOS抑制制御時後輪側基準ブレーキ力Fr1になるように設定される。このOS抑制制御時後輪側基準ブレーキ力Fr1は、横加速度偏差ΔGyの絶対値が上記OS抑制制御時制御開始基準値a1以下のときには「0」になり、横加速度偏差ΔGyの絶対値が値a1を超えるときには同横加速度偏差ΔGyの絶対値が値a1から増加するに従い、「0」から後輪側基準上限値fr(<前輪側基準上限値ff)に到達するまで所定の勾配θ1をもって増加するとともに、後輪側基準上限値frに到達した後は同横加速度偏差ΔGyの絶対値が増加しても同後輪側基準上限値fr一定になるように設定される。
【0055】
次に、旋回方向外側の前輪(図3において車輪FR)のタイヤ空気圧Pof (=Pfr)が前輪側タイヤ空気圧低下判定基準値Pfref(一定値)未満であるとき(外側タイヤ空気圧低下時)について説明すると、旋回方向外側の前輪(図3において車輪FR)に発生するブレーキ力は、図3(a)に破線で示したように、OS抑制制御時前輪側基準ブレーキ力Ff1に対して、横加速度偏差ΔGyの絶対値のOS抑制制御時制御開始値が、旋回方向外側前輪のタイヤ空気圧Pofの前輪側タイヤ空気圧低下判定基準値Pfrefからの低下量に応じて増加するように決定されるOS抑制制御時早期制御開始量αso分だけOS抑制制御時制御開始基準値a1よりも小さい値になるように設定されるとともに、上限値が、旋回方向外側前輪のタイヤ空気圧Pofの前輪側タイヤ空気圧低下判定基準値Pfrefからの低下量に応じて増加するように決定されるOS抑制制御時前輪側制限量βfdo分だけ前輪側基準上限値ffよりも小さい値になるように設定される。
【0056】
また、このとき、旋回方向外側の後輪(図3において車輪RR)に発生するブレーキ力は、図3(b)に破線で示したように、OS抑制制御時後輪側基準ブレーキ力Fr1に対して、横加速度偏差ΔGyの絶対値のOS抑制制御時制御開始値が、上記OS抑制制御時早期制御開始量αso分だけOS抑制制御時制御開始基準値a1よりも小さい値になるように設定されるとともに、上限値が、旋回方向外側前輪のタイヤ空気圧Pofの前輪側タイヤ空気圧低下判定基準値Pfrefからの低下量に応じて増加するように決定されるOS抑制制御時後輪側補充量βruo分だけ後輪側基準上限値frよりも大きい値になるように設定される。ここで、OS抑制制御時後輪側補充量βruoは、旋回方向外側前輪のタイヤ空気圧Pofの前輪側タイヤ空気圧低下判定基準値Pfrefからの低下量に拘わらず常にOS抑制制御時前輪側制限量βfdoよりも大きくなるように設定される。
【0057】
一方、旋回方向外側の後輪のタイヤ空気圧Porが上記後輪側タイヤ空気圧低下判定基準値Prref未満であるとき(外側タイヤ空気圧低下時)について説明すると、旋回方向外側の前輪に発生するブレーキ力は、OS抑制制御時前輪側基準ブレーキ力Ff1に対して、横加速度偏差ΔGyの絶対値のOS抑制制御時制御開始値が、旋回方向外側後輪のタイヤ空気圧Porの後輪側タイヤ空気圧低下判定基準値Prrefからの低下量に応じて増加するように決定されるOS抑制制御時早期制御開始量αso分だけOS抑制制御時制御開始基準値a1よりも小さい値になるように設定されるとともに、上限値が、旋回方向外側後輪のタイヤ空気圧Porの後輪側タイヤ空気圧低下判定基準値Prrefからの低下量に応じて増加するように決定されるOS抑制制御時前輪側補充量βfuo分だけ前輪側基準上限値ffよりも大きい値になるように設定される。
【0058】
また、このとき、旋回方向外側の後輪に発生するブレーキ力は、OS抑制制御時後輪側基準ブレーキ力Fr1に対して、横加速度偏差ΔGyの絶対値のOS抑制制御時制御開始値が、上記OS抑制制御時早期制御開始量αso分だけOS抑制制御時制御開始基準値a1よりも小さい値になるように設定されるとともに、上限値が、旋回方向外側後輪のタイヤ空気圧Porの後輪側タイヤ空気圧低下判定基準値Prrefからの低下量に応じて増加するように決定されるOS抑制制御時後輪側制限量βrdo分だけ後輪側基準上限値frよりも小さい値になるように設定される。ここで、OS抑制制御時前輪側補充量βfuoは、旋回方向外側後輪のタイヤ空気圧Porの後輪側タイヤ空気圧低下判定基準値Prrefからの低下量に拘わらず常にOS抑制制御時後輪側制限量βrdoよりも大きくなるように設定される。
【0059】
以上のように、外側タイヤ空気圧低下時においては、外側タイヤ空気圧適正時よりも、空気圧低下車輪のタイヤ空気圧の低下に応じて旋回方向外側の車輪に付与されるブレーキ力の総和(図3においてFRブレーキ力とRRブレーキ力との和)が大きくなるように設定され、空気圧低下車輪のタイヤに付与されるブレーキ力の上限値が空気圧低下車輪のタイヤ空気圧の低下に応じて低くなるように設定されるとともに、OS抑制制御が開始される際の車両の安定性の低下の程度(所定の程度、横加速度偏差ΔGyの絶対値、OS抑制制御時制御開始値)が空気圧低下車輪のタイヤ空気圧の低下に応じて小さくなるように設定される。
【0060】
<横転防止制御>
また、本装置は、横加速度センサ54により得られる実際の横加速度Gyの絶対値(車両の安定性の低下の程度)が所定値(所定の程度、横転防止制御時制御開始値)以上であるとき、同実際の横加速度Gyの絶対値に応じて発生するロール角を小さくするための横転防止制御を実行する。
【0061】
具体的には、本装置は、横転防止制御時において左方向に旋回している車両の各車輪に付与されるブレーキ力の一例を表す図3(c)(d)に示すように、旋回方向外側の前後輪に上記実際の横加速度Gyの絶対値に応じた所定のブレーキ力を発生させて車両に対して旋回方向と反対方向のヨーイングモーメントを強制的に発生させる。これにより、実際の横加速度Gyの絶対値が小さくなり、車体に発生するロール角が小さくなるように制御される。ここで、かかる横転防止制御時において強制的に発生させられる上記所定のブレーキ力の大きさも、上記OS抑制制御時と同様、旋回方向外側の車輪のタイヤ空気圧が低下しているか否かに依存する。
【0062】
まず、外側タイヤ空気圧適正時について説明すると、旋回方向外側の前輪(図3において車輪FR)に発生するブレーキ力は、先に説明した図3(a)に実線にて示したOS抑制制御時前輪側基準ブレーキ力Ff1と同様に、図3(c)に実線にて示した横転防止制御時前輪側基準ブレーキ力Ff2になるように設定される。
【0063】
また、このとき、旋回方向外側の後輪(図3において車輪RR)に発生するブレーキ力は、先に説明した図3(b)に実線にて示したOS抑制制御時後輪側基準ブレーキ力Fr1と同様に、図3(d)に実線にて示した横転防止制御時後輪側基準ブレーキ力Fr2になるように設定される。
【0064】
次に、旋回方向外側の前輪(図3において車輪FR)のタイヤ空気圧Pof (=Pfr)が前輪側タイヤ空気圧低下判定基準値Pfref(一定値)未満であるとき(外側タイヤ空気圧低下時)について説明すると、旋回方向外側の前輪(図3において車輪FR)に発生するブレーキ力は、図3(c)に破線で示したように、横転防止制御時前輪側基準ブレーキ力Ff2に対して、横加速度Gyの絶対値の横転防止制御時制御開始値が、旋回方向外側前輪のタイヤ空気圧Pofの前輪側タイヤ空気圧低下判定基準値Pfrefからの低下量に応じて増加するように決定される横転防止制御時早期制御開始量αsr分だけ横転防止制御時制御開始基準値a2よりも小さい値になるように設定されるとともに、上限値が、旋回方向外側前輪のタイヤ空気圧Pofの前輪側タイヤ空気圧低下判定基準値Pfrefからの低下量に応じて増加するように決定される横転防止制御時前輪側制限量βfdr分だけ前輪側基準上限値ffよりも小さい値になるように設定される。
【0065】
また、このとき、旋回方向外側の後輪(図3において車輪RR)に発生するブレーキ力は、図3(d)に破線で示したように、横転防止制御時後輪側基準ブレーキ力Fr2に対して、横加速度Gyの絶対値の横転防止制御時制御開始値が、上記横転防止制御時早期制御開始量αsr分だけ横転防止制御時制御開始基準値a2よりも小さい値になるように設定されるとともに、上限値が、旋回方向外側前輪のタイヤ空気圧Pofの前輪側タイヤ空気圧低下判定基準値Pfrefからの低下量に応じて増加するように決定される横転防止制御時後輪側補充量βrur分だけ後輪側基準上限値frよりも大きい値になるように設定される。ここで、横転防止制御時後輪側補充量βrurは、旋回方向外側前輪のタイヤ空気圧Pofの前輪側タイヤ空気圧低下判定基準値Pfrefからの低下量に拘わらず常に横転防止制御時前輪側制限量βfdrよりも大きくなるように設定される。
【0066】
一方、旋回方向外側の後輪のタイヤ空気圧Porが上記後輪側タイヤ空気圧低下判定基準値Prref未満であるとき(外側タイヤ空気圧低下時)について説明すると、旋回方向外側の前輪に発生するブレーキ力は、横転防止制御時前輪側基準ブレーキ力Ff2に対して、横加速度Gyの絶対値の横転防止制御時制御開始値が、旋回方向外側後輪のタイヤ空気圧Porの後輪側タイヤ空気圧低下判定基準値Prrefからの低下量に応じて増加するように決定される横転防止制御時早期制御開始量αsr分だけ横転防止制御時制御開始基準値a2よりも小さい値になるように設定されるとともに、上限値が、旋回方向外側後輪のタイヤ空気圧Porの後輪側タイヤ空気圧低下判定基準値Prrefからの低下量に応じて増加するように決定される横転防止制御時前輪側補充量βfur分だけ前輪側基準上限値ffよりも大きい値になるように設定される。
【0067】
また、このとき、旋回方向外側の後輪に発生するブレーキ力は、横転防止制御時後輪側基準ブレーキ力Fr2に対して、横加速度Gyの絶対値の横転防止制御時制御開始値が、上記横転防止制御時早期制御開始量αsr分だけ横転防止制御時制御開始基準値a2よりも小さい値になるように設定されるとともに、上限値が、旋回方向外側後輪のタイヤ空気圧Porの後輪側タイヤ空気圧低下判定基準値Prrefからの低下量に応じて増加するように決定される横転防止制御時後輪側制限量βrdr分だけ後輪側基準上限値frよりも小さい値になるように設定される。ここで、横転防止制御時前輪側補充量βfurは、旋回方向外側後輪のタイヤ空気圧Porの後輪側タイヤ空気圧低下判定基準値Prrefからの低下量に拘わらず常に横転防止制御時後輪側制限量βrdrよりも大きくなるように設定される。
【0068】
なお、横転防止制御とOS抑制制御とが重畳して実行される場合、即ち、実際の横加速度Gyの絶対値が横転防止制御時制御開始値以上であって、且つ、横加速度偏差ΔGyが負の値であってその絶対値がOS抑制制御時制御開始値以上である場合、旋回方向外側の前後輪に発生するブレーキ力は、それぞれ、横転防止制御に基いて決定されたブレーキ力とOS抑制制御に基いて決定されたブレーキ力のうちの大きい方のブレーキ力になるように設定される。
【0069】
以上のように、横転防止制御時においても、OS抑制制御時と同様、外側タイヤ空気圧低下時においては、外側タイヤ空気圧適正時よりも、空気圧低下車輪のタイヤ空気圧の低下に応じて旋回方向外側の車輪に付与されるブレーキ力の総和(図3においてFRブレーキ力とRRブレーキ力との和)が大きくなるように設定され、空気圧低下車輪のタイヤに付与されるブレーキ力の上限値が空気圧低下車輪のタイヤ空気圧の低下に応じて低くなるように設定されるとともに、横転防止制御が開始される際の車両の安定性の低下の程度(所定の程度、横加速度Gyの絶対値、横転防止制御時制御開始値)が空気圧低下車輪のタイヤ空気圧の低下に応じて小さくなるように設定される。
【0070】
このようにして、本装置は、US抑制制御、OS抑制制御、及び横転防止制御(以下、これらを併せて「旋回時安定性制御」と総称する。)を実行して車両の安定性が確保されるように各車輪に所定の制動力を付与する。また、旋回時安定性制御を実行する際に、後述するアンチスキッド制御、前後制動力配分制御、及びトラクション制御のうちのいずれか一つも併せて実行する必要があるとき、本装置は、同いずれか一つの制御を実行するために各車輪に付与すべきブレーキ力をも考慮して各車輪に付与すべきブレーキ力を最終的に決定する。以上が、本発明による車両の運動制御の概要である。
【0071】
(実際の作動)
次に、以上のように構成された本発明による車両の運動制御装置10の実際の作動について、電気式制御装置60のCPU61が実行するルーチンをフローチャートにより示した図4〜図6,図10,図14〜図16、及び、これら各種ルーチンを実行する際に使用する各種テーブルをグラフにより示した図7〜図9,図11〜図13を参照しながら説明する。なお、各種変数・フラグ・符号等の末尾に付された「**」は、同各種変数・フラグ・符号等が各車輪FR等のいずれに関するものであるかを示すために同各種変数・フラグ・符号等の末尾に付される「fl」,「fr」等の包括表記であって、例えば、車輪速度Vw**は、左前輪速度Vwfl, 右前輪速度Vwfr, 左後輪速度Vwrl, 右後輪速度Vwrrを包括的に示している。
【0072】
CPU61は、図4に示した車輪速度Vw**等の計算を行うルーチンを所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU61はステップ400から処理を開始し、ステップ405に進んで各車輪FR等の車輪速度(各車輪の外周の速度)Vw**をそれぞれ算出する。具体的には、CPU61は各車輪速度センサ51**が出力する信号が有するパルスの時間間隔に基いて各車輪FR等の車輪速度Vw**をそれぞれ算出する。
【0073】
次いで、CPU61はステップ410に進み、各車輪FR等の車輪速度Vw**のうちの最大値を推定車体速度Vsoとして算出する。なお、各車輪FR等の車輪速度Vw**の平均値を推定車体速度Vsoとして算出してもよい。
【0074】
次に、CPU61はステップ415に進み、ステップ410にて算出した推定車体速度Vsoの値と、ステップ405にて算出した各車輪FR等の車輪速度Vw**の値と、ステップ415内に記載した式とに基いて各車輪毎の実際のスリップ率Sa**を算出する。この実際のスリップ率Sa**は、後述するように、各車輪に付与すべきブレーキ力を計算する際に使用される。
【0075】
次に、CPU61はステップ420に進んで、下記数3に基いて推定車体速度Vsoの時間微分値である推定車体加速度DVsoを算出する。
【0076】
【数3】
DVso=(Vso-Vso1)/Δt
【0077】
上記数3において、Vso1は前回の本ルーチン実行時にステップ410にて算出した前回の推定車体速度であり、Δtは本ルーチンの演算周期である上記所定時間である。
【0078】
次いで、CPU61はステップ425に進み、横加速度センサ54により得られる実際の横加速度Gyの値が「0」以上であるか否かを判定し、実際の横加速度Gyの値が「0」以上である場合には同ステップ425にて「Yes」と判定してステップ430に進んで、旋回方向表示フラグLを「1」に設定する。また、実際の横加速度Gyの値が負の値である場合にはステップ425にて「No」と判定してステップ435に進み、旋回方向表示フラグLを「0」に設定する。
【0079】
ここで、旋回方向表示フラグLは、車両が左方向に旋回しているか右方向に旋回しているかを示すフラグであり、その値が「1」のときは車両が左方向に旋回していることを示し、その値が「0」のときは車両が右方向に旋回していることを示している。従って、旋回方向表示フラグLの値により車両の旋回方向が特定される。
【0080】
次に、CPU61はステップ440に進み、上記のように設定されたフラグLの値に基き、各車輪FR等のうちのいずれの車輪が旋回方向外側前輪及び旋回方向外側後輪に対応しているかを特定する。具体的には、フラグLの値が「1」である場合には、車両が左方向に旋回しているので車輪FRが旋回方向外側前輪、車輪RRが旋回方向外側後輪であると特定するとともに、フラグLの値が「0」である場合には、車両が右方向に旋回しているので車輪FLが旋回方向外側前輪、車輪RLが旋回方向外側後輪であると特定する。そして、CPU61はステップ495に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0081】
次に、横加速度偏差の算出について説明すると、CPU61は図5に示したルーチンを所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU61はステップ500から処理を開始し、ステップ505に進んで、ステアリング角度センサ52により得られるステアリング角度θsの値と、図4のステップ410にて算出した推定車体速度Vsoの値と、上記数1の右辺に対応するステップ505内に記載した式とに基いて目標横加速度Gytを算出する。
【0082】
次に、CPU61はステップ510に進んで、ステップ505にて算出した目標横加速度Gytの値と、横加速度センサ54により得られる実際の横加速度Gyの値と、上記数2の右辺に対応するステップ510内に記載した式とに基いて横加速度偏差ΔGyを算出する。そして、CPU61はステップ595に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0083】
次に、OS−US抑制制御により車両に発生させるべきヨーイングモーメントの大きさに応じて設定されるOS−US抑制制御時制御量の計算について説明すると、CPU61は図6に示したルーチンを所定時間の経過毎に繰返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU61はステップ600から処理を開始し、ステップ605に進んで、横加速度偏差ΔGyが負の値であるか否かを判定する。
【0084】
いま、横加速度偏差ΔGyの値が負の値(実際には、横加速度偏差ΔGyの値が負の値であってその絶対値がOS抑制制御時制御開始値以上)であるものとして説明を続けると、CPU61は先に説明したように車両がオーバーステア状態にあると判定し、OS抑制制御を実行する際のOS抑制制御時前輪側制御量Gfo及びOS抑制制御時後輪側制御量Groを算出するためステップ610以降に進む。
【0085】
ステップ610に進むと、CPU61は各タイヤ空気圧センサ56**により得られる各タイヤ空気圧P**のうちで図4のステップ440にて特定されている現時点での旋回方向外側前輪に対応するタイヤ空気圧Pofが前輪側タイヤ空気圧低下判定基準値Pfref以上であるか否かを判定し、旋回方向外側前輪のタイヤ空気圧Pofが前輪側タイヤ空気圧低下判定基準値Pfref以上であれば、ステップ610にて「Yes」と判定してステップ615に進んで、旋回方向外側後輪のタイヤ空気圧Porが後輪側タイヤ空気圧低下判定基準値Prref以上であるか否かを判定する。
【0086】
いま、旋回方向外側前輪のタイヤ空気圧Pofが前輪側タイヤ空気圧低下判定基準値Pfref以上であって、且つ、旋回方向外側後輪のタイヤ空気圧Porが後輪側タイヤ空気圧低下判定基準値Prref以上(即ち、外側タイヤ空気圧適正時)であるものとして説明を続けると、CPU61はステップ610,615にて「Yes」と判定してステップ620に進み、図5のステップ510にて算出した横加速度偏差ΔGyの絶対値と、図7(a)にて実線で示されるテーブルとに基いてOS抑制制御時前輪側制御量Gfoを求めるとともに、同横加速度偏差ΔGyの絶対値と、図7(b)にて実線で示されるテーブルとに基いてOS抑制制御時後輪側制御量Groを求めた後、ステップ655に進む。
【0087】
ここで、図7(a)に示すように、OS抑制制御時前輪側制御量GfoはOS抑制制御時前輪側基準制御量Gf1と同一の量である。このOS抑制制御時前輪側基準制御量Gf1は、横加速度偏差ΔGyの絶対値がOS抑制制御時制御開始基準値a1以下のときには「0」になり、横加速度偏差ΔGyの絶対値が値a1を超えるときには同横加速度偏差ΔGyの絶対値が値a1から増加するに従い、「0」から前輪側基準上限値bfに到達するまで所定の勾配θ1をもって増加するとともに、前輪側基準上限値bfに到達した後は同横加速度偏差ΔGyの絶対値が増加しても同前輪側基準上限値bf一定になるように設定されている。
【0088】
また、図7(b)に示すように、OS抑制制御時後輪側制御量GroはOS抑制制御時後輪側基準制御量Gr1と同一の量である。このOS抑制制御時後輪側基準制御量Gr1は、横加速度偏差ΔGyの絶対値がOS抑制制御時制御開始基準値a1以下のときには「0」になり、横加速度偏差ΔGyの絶対値が値a1を超えるときには同横加速度偏差ΔGyの絶対値が値a1から増加するに従い、「0」から後輪側基準上限値brに到達するまで所定の勾配θ1をもって増加するとともに、後輪側基準上限値brに到達した後は同横加速度偏差ΔGyの絶対値が増加しても同後輪側基準上限値br一定になるように設定されている。
【0089】
次に、旋回方向外側前輪のタイヤ空気圧Pofが前輪側タイヤ空気圧低下判定基準値Pfref未満(即ち、外側タイヤ空気圧低下時)であるものとして説明を続けると、ステップ610の判定時において、CPU61は、旋回方向外側後輪のタイヤ空気圧Porが後輪側タイヤ空気圧低下判定基準値Prref以上であるか否かに拘わらずステップ610にて「No」と判定してステップ625に進み、前輪側タイヤ空気圧低下判定基準値Pfrefから旋回方向外側前輪のタイヤ空気圧Pofを減じた値と、ステップ625内に記載のテーブルとに基いてOS抑制制御時前輪側制限量αfdo及びOS抑制制御時後輪側補充量αruoを算出する。
【0090】
これにより、OS抑制制御時前輪側制限量αfdo及びOS抑制制御時後輪側補充量αruoは、共に前輪側タイヤ空気圧低下判定基準値Pfrefから旋回方向外側前輪のタイヤ空気圧Pofを減じた値の増加に応じて増加するとともに、常にOS抑制制御時後輪側補充量αruoがOS抑制制御時前輪側制限量αfdoよりも大きくなるように設定される。
【0091】
次いで、CPU61はステップ630に進んで、前輪側タイヤ空気圧低下判定基準値Pfrefから旋回方向外側前輪のタイヤ空気圧Pofを減じた値と、ステップ630内に記載のテーブルとに基いて先に説明したOS抑制制御時早期制御開始量αsoを算出する。これにより、OS抑制制御時早期制御開始量αsoは、前輪側タイヤ空気圧低下判定基準値Pfrefから旋回方向外側前輪のタイヤ空気圧Pofを減じた値の増加に応じて増加するように設定される。
【0092】
次に、CPU61はステップ635に進んで、図5のステップ510にて算出した横加速度偏差ΔGyの絶対値と、ステップ625にて算出したOS抑制制御時前輪側制限量αfdoと、ステップ630にて算出したOS抑制制御時早期制御開始量αsoと、図8(a)にて破線で示されるテーブルとに基いてOS抑制制御時前輪側制御量Gfoを求めるとともに、同横加速度偏差ΔGyの絶対値と、ステップ625にて算出したOS抑制制御時後輪側補充量αruoと、同OS抑制制御時早期制御開始量αsoと、図8(b)にて破線で示されるテーブルとに基いてOS抑制制御時後輪側制御量Groを求めた後、ステップ655に進む。
【0093】
次に、旋回方向外側前輪のタイヤ空気圧Pofが前輪側タイヤ空気圧低下判定基準値Pfref以上であり、且つ、旋回方向外側後輪のタイヤ空気圧Porが後輪側タイヤ空気圧低下判定基準値Prref未満(即ち、外側タイヤ空気圧低下時)であるものとして説明を続けると、CPU61はステップ610の判定時において「Yes」と判定するとともにステップ615に進んで「No」と判定してステップ640に進み、後輪側タイヤ空気圧低下判定基準値Prrefから旋回方向外側後輪のタイヤ空気圧Porを減じた値と、ステップ640内に記載のテーブルとに基いてOS抑制制御時前輪側補充量αfuo及びOS抑制制御時後輪側制限量αrdoを算出する。
【0094】
これにより、OS抑制制御時前輪側補充量αfuo及びOS抑制制御時後輪側制限量αrdoは、共に後輪側タイヤ空気圧低下判定基準値Prrefから旋回方向外側後輪のタイヤ空気圧Porを減じた値の増加に応じて増加するとともに、常にOS抑制制御時前輪側補充量αfuoがOS抑制制御時後輪側制限量αrdoよりも大きくなるように設定される。
【0095】
次いで、CPU61はステップ645に進んで、後輪側タイヤ空気圧低下判定基準値Prrefから旋回方向外側後輪のタイヤ空気圧Porを減じた値と、ステップ645内に記載のテーブルとに基いて先に説明したOS抑制制御時早期制御開始量αsoを算出する。これにより、OS抑制制御時早期制御開始量αsoは、後輪側タイヤ空気圧低下判定基準値Prrefから旋回方向外側後輪のタイヤ空気圧Porを減じた値の増加に応じて増加するように設定される。
【0096】
次に、CPU61はステップ650に進んで、図5のステップ510にて算出した横加速度偏差ΔGyの絶対値と、ステップ640にて算出したOS抑制制御時前輪側補充量αfuoと、ステップ645にて算出したOS抑制制御時早期制御開始量αsoと、図9(a)にて破線で示されるテーブルとに基いてOS抑制制御時前輪側制御量Gfoを求めるとともに、同横加速度偏差ΔGyの絶対値と、ステップ640にて算出したOS抑制制御時後輪側制限量αrdoと、同OS抑制制御時早期制御開始量αsoと、図9(b)にて破線で示されるテーブルとに基いてOS抑制制御時後輪側制御量Groを求めた後、ステップ655に進む。
【0097】
このようにして、OS抑制制御時前輪側制御量Gfo及びOS抑制制御時後輪側制御量Groを算出した後、CPU61はステップ655に進んで、図5のステップ510にて算出した横加速度偏差ΔGyの絶対値と、図7(b)にて実線で示されるテーブルとに基いて、US抑制制御を実行する際のUS抑制制御時後輪側制御量Gru(=OS抑制制御時後輪側制御量Gro)を求めた後、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0098】
また、ステップ605の判定時において、横加速度偏差ΔGyの値が「0」以上(実際には、横加速度偏差ΔGyの値がUS抑制制御時制御開始値(OS抑制制御時制御開始基準値a1)以上)であるものとして説明を続けると、CPU61はステップ605にて「No」と判定し、先に説明したように車両がアンダーステア状態にあると判定し、上述したOS抑制制御時前輪側制御量Gfo及びOS抑制制御時後輪側制御量Groを算出することなく直接ステップ655に進んで、US抑制制御時後輪側制御量Gruのみを求めた後、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。このようにして、OS抑制制御時前輪側制御量Gfo、OS抑制制御時後輪側制御量Gro、及びUS抑制制御時後輪側制御量Gruが算出される。
【0099】
次に、横転防止制御により車両に発生させるべきヨーイングモーメントの大きさに応じて設定される横転防止制御時制御量の計算について説明すると、CPU61は図10に示したルーチンを所定時間の経過毎に繰返し実行している。図11〜図13に示した各テーブルを用いて処理を行う図10に示したルーチンは先に説明した図6のルーチンと同様であるので、ここではその処理の詳細な説明を省略する。これにより、横転防止制御時前輪側制御量Gfr、及び横転防止制御時後輪側制御量Grrが算出される。なお、上述した図6のルーチンと同様、横加速度偏差ΔGyの値が「0」以上であるとき、CPU61はステップ1005にて「No」と判定し、上述した横転防止制御時前輪側制御量Gfr及び横転防止制御時後輪側制御量Grrを算出することなく直接ステップ1095に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0100】
次に、上記した旋回時安定性制御のみを実行する際に各車輪に付与すべきブレーキ力を決定するために必要となる各車輪の目標スリップ率の算出について説明すると、CPU61は図14に示したルーチンを所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU61はステップ1400から処理を開始し、ステップ1405に進んで、図5のステップ510にて算出した横加速度偏差ΔGyの値が「0」以上であるか否かを判定する。ここで、横加速度偏差ΔGyの値が「0」以上である場合(実際には、横加速度偏差ΔGyの値がUS抑制制御時制御開始値(OS抑制制御時制御開始基準値a1)以上である場合)には、CPU61は先に説明したように車両がアンダーステア状態にあると判定し、US抑制制御を実行する際の各車輪の目標スリップ率を計算するためステップ1410に進んで、旋回方向表示フラグLの値が「1」であるか否かを判定する。
【0101】
ステップ1410の判定において旋回方向表示フラグLが「1」であるとき、CPU61はステップ1415に進んで、一定値である係数Kと図6のステップ655にて計算したUS抑制制御時後輪側制御量Gruとを乗算した値を左後輪RLの目標スリップ率Strlとして設定するとともに、その他の車輪FL,FR,RRの目標スリップ率Stfl,Stfr,Strrを総て「0」に設定し、ステップ1495に進んで本ルーチンを一旦終了する。これにより、車両が左方向に旋回している場合において、旋回方向内側の後輪に対応する左後輪RLにのみ、旋回方向のヨーイングモーメントを発生させるための横加速度偏差ΔGyの絶対値に応じた目標スリップ率が設定される。
【0102】
一方、ステップ1410の判定において旋回方向表示フラグLが「0」であるとき、CPU61はステップ1420進んで、上記係数Kと図6のステップ655にて計算したUS抑制制御時後輪側制御量Gruとを乗算した値を右後輪RRの目標スリップ率Strrとして設定するとともに、その他の車輪FL,FR,RLの目標スリップ率Stfl,Stfr,Strlを総て「0」に設定し、ステップ1495に進んで本ルーチンを一旦終了する。これにより、車両が右方向に旋回している場合において、旋回方向内側の後輪に対応する右後輪RRにのみ、旋回方向のヨーイングモーメントを発生させるための横加速度偏差ΔGyの絶対値に応じた目標スリップ率が設定される。
【0103】
他方、ステップ1405の判定において、横加速度偏差ΔGyの値が負の値である場合(実際には、横加速度偏差ΔGyの値が負の値であって、その絶対値がOS抑制制御時制御開始基準値a1以上である場合)には、CPU61は先に説明したように車両がオーバーステア状態にあると判定し、上記オーバーステア抑制制御を実行する際の各車輪の目標スリップ率を計算するためステップ1425に進んで、図6のステップ620,635,650のいずれかにて算出したOS抑制制御時前輪側制御量Gfoと図10のステップ1020,1035,1050のいずれかにて算出した横転防止制御時前輪側制御量Gfrのうちの大きい方の値を前輪側制御量Gfとして算出するとともに、図6のステップ620,635,650のいずれかにて算出したOS抑制制御時後輪側制御量Groと図10のステップ1020,1035,1050のいずれかにて算出した横転防止制御時後輪側制御量Grrのうちの大きい方の値を後輪側制御量Grとして算出する。
【0104】
次に、CPU61はステップ1430に進んで、旋回方向表示フラグLの値が「1」であるか否かを判定する。ステップ1430の判定において旋回方向表示フラグLが「1」であるとき、CPU61はステップ1435に進んで、上記上記係数Kとステップ1425にて計算した前輪側制御量Gfの値とを乗算した値を右前輪FRの目標スリップ率Stfrとして設定し、同係数Kとステップ1425にて計算した後輪側制御量Grの値とを乗算した値を右後輪RRの目標スリップ率Strrとして設定するとともに、その他の車輪FL,RLの目標スリップ率Stfl,Strlを共に「0」に設定し、ステップ1495に進んで本ルーチンを一旦終了する。これにより、車両が左方向に旋回している場合における旋回方向外側の前後輪に対応する右前輪FR及び右後輪RRにのみ、旋回方向と反対方向のヨーイングモーメントを発生させるための横加速度偏差ΔGyの絶対値及び横加速度Gyの絶対値のいずれか一方に応じた目標スリップ率が設定される。
【0105】
一方、ステップ1430の判定において旋回方向表示フラグLが「0」であるとき、CPU61はステップ1440進んで、上記係数Kとステップ1425にて計算した前輪側制御量Gfの値とを乗算した値を左前輪FLの目標スリップ率Stflとして設定し、同係数Kとステップ1425にて計算した後輪側制御量Grの値とを乗算した値を左後輪RLの目標スリップ率Strlとして設定するとともに、その他の車輪FR,RRの目標スリップ率Stfr,Strrを共に「0」に設定し、ステップ1495に進んで本ルーチンを一旦終了する。これにより、車両が右方向に旋回している場合における旋回方向外側の前後輪に対応する左前輪FL及び左後輪RLにのみ、旋回方向と反対方向のヨーイングモーメントを発生させるための横加速度偏差ΔGyの絶対値及び横加速度Gyの絶対値のいずれか一方に応じた目標スリップ率が設定される。以上のようにして、旋回時安定性制御のみを実行する際に各車輪に付与すべきブレーキ力を決定するために必要となる各車輪の目標スリップ率が決定される。
【0106】
次に、車両の制御モードの設定について説明すると、CPU61は図15に示したルーチンを所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU61はステップ1500から処理を開始し、ステップ1505に進んで、現時点においてアンチスキッド制御が必要であるか否かを判定する。アンチスキッド制御は、ブレーキペダルBPが操作されている状態において特定の車輪がロックしている場合に、同特定の車輪のブレーキ力を減少させる制御である。アンチスキッド制御の詳細については周知であるので、ここではその詳細な説明を省略する。
【0107】
具体的には、CPU61はステップ1505において、ブレーキスイッチ55によりブレーキペダルBPが操作されていることが示されている場合であって、且つ図4のステップ415にて算出した特定の車輪の実際のスリップ率Sa**の値が正の所定値以上となっている場合に、アンチスキッド制御が必要であると判定する。
【0108】
ステップ1505の判定にてアンチスキッド制御が必要であると判定したとき、CPU61はステップ1510に進んで、上記旋回時安定性制御とアンチスキッド制御とを重畳して実行する制御モードを設定するため変数Modeに「1」を設定し、続くステップ1550に進む。
【0109】
一方、ステップ1505の判定にてアンチスキッド制御が必要でないと判定したとき、CPU61はステップ1515に進んで、現時点において前後制動力配分制御が必要であるか否かを判定する。前後制動力配分制御は、ブレーキペダルBPが操作されている状態において車両の前後方向の減速度の大きさに応じて前輪のブレーキ力に対する後輪のブレーキ力の比率(配分)を減少させる制御である。前後制動力配分制御の詳細については周知であるので、ここではその詳細な説明を省略する。
【0110】
具体的には、CPU61はステップ1515において、ブレーキスイッチ55によりブレーキペダルBPが操作されていることが示されている場合であって、且つ図4のステップ420にて算出した推定車体加速度DVsoの値が負の値であり同推定車体加速度DVsoの絶対値が所定値以上となっている場合に、前後制動力配分制御が必要であると判定する。
【0111】
ステップ1515の判定にて前後制動力配分制御が必要であると判定したとき、CPU61はステップ1520に進んで、旋回時安定性制御と前後制動力配分制御とを重畳して実行する制御モードを設定するため変数Modeに「2」を設定し、続くステップ1550に進む。
【0112】
ステップ1515の判定にて前後制動力配分制御が必要でないと判定したとき、CPU61はステップ1525に進んで、現時点においてトラクション制御が必要であるか否かを判定する。トラクション制御は、ブレーキペダルBPが操作されていない状態において特定の車輪がエンジン31の駆動力が発生している方向にスピンしている場合に、同特定の車輪のブレーキ力を増大させる制御又はエンジン31の駆動力を減少させる制御である。トラクション制御の詳細については周知であるので、ここではその詳細な説明を省略する。
【0113】
具体的には、CPU61はステップ1525において、ブレーキスイッチ55によりブレーキペダルBPが操作されていないことが示されている場合であって、且つ図4のステップ415にて算出した特定の車輪の実際のスリップ率Sa**の値が負の値であり同実際のスリップ率Sa**の絶対値が所定値以上となっている場合に、トラクション制御が必要であると判定する。
【0114】
ステップ1525の判定にてトラクション制御が必要であると判定したとき、CPU61はステップ1530に進んで、旋回時安定性制御とトラクション制御とを重畳して実行する制御モードを設定するため変数Modeに「3」を設定し、続くステップ1550に進む。
【0115】
ステップ1525の判定にてトラクション制御が必要でないと判定したとき、CPU61はステップ1535に進んで、現時点において旋回時安定性制御が必要であるか否かを判定する。具体的には、CPU61はステップ1535において、図14のルーチンにて設定された目標スリップ率St**の値が「0」でない特定の車輪が存在する場合に旋回時安定性制御が必要であると判定する。
【0116】
ステップ1535の判定にて制動操舵制御が必要であると判定したとき、CPU61はステップ1540に進んで、旋回時安定性制御のみを実行する制御モードを設定するため変数Modeに「4」を設定し、続くステップ1550に進む。一方、ステップ1535の判定にて旋回時安定性制御が必要でないと判定したとき、CPU61はステップ1545に進んで、車両の運動制御を実行しない非制御モードを設定するため変数Modeに「0」を設定し、続くステップ1550に進む。この場合、制御すべき特定の車輪は存在しない。
【0117】
CPU61はステップ1550に進むと、制御対象車輪に対応するフラグCONT**に「1」を設定するとともに、制御対象車輪でない非制御対象車輪に対応するフラグCONT**に「0」を設定する。なお、このステップ1550における制御対象車輪は、図2に示した対応する増圧弁PU**及び減圧弁PD**の少なくとも一方を制御する必要がある車輪である。
【0118】
従って、例えば、ブレーキペダルBPが操作されていない状態であって上述した図14のステップ1420に進む場合等、右後輪RRのホイールシリンダWrr内のブレーキ液圧のみを増圧する必要がある場合、図2に示した制御弁SA2,切換弁STR及び増圧弁PUrlを共に第2の位置に切換るとともに増圧弁PUrr及び減圧弁PDrrをそれぞれ制御することにより、ホイールシリンダWrl内のブレーキ液圧をその時点での液圧に保持した状態で高圧発生部41が発生する高圧を利用してホイールシリンダWrr内のブレーキ液圧のみを増圧することになる。従って、この場合における制御対象車輪には、右後輪RRのみならず左後輪RLが含まれる。そして、CPU61はステップ1550を実行した後、ステップ1595に進んで本ルーチンを一旦終了する。このようにして、制御モードが特定されるとともに、制御対象車輪が特定される。
【0119】
次に、各車輪に付与すべきブレーキ力の制御について説明すると、CPU61は図16に示したルーチンを所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU61はステップ1600から処理を開始し、ステップ1605に進んで、変数Modeが「0」でないか否かを判定し、変数Modeが「0」であればステップ1605にて「No」と判定してステップ1610に進み、各車輪に対してブレーキ制御を実行する必要がないのでブレーキ液圧制御装置40における総ての電磁弁をOFF(非励磁状態)にした後、ステップ1695に進んで本ルーチンを一旦終了する。これにより、ドライバーによるブレーキペダルBPの操作力に応じたブレーキ液圧が各ホイールシリンダW**に供給される。
【0120】
一方、ステップ1605の判定において変数Modeが「0」でない場合、CPU61はステップ1605にて「Yes」と判定してステップ1615に進み変数Modeが「4」であるか否かを判定する。そして、変数Modeが「4」でない場合(即ち、旋回時安定性制御以外のアンチスキッド制御等が必要である場合)、CPU61はステップ1615にて「No」と判定してステップ1620に進み、図15のステップ1550にてフラグCONT**の値が「1」に設定された制御対象車輪に対して図14にて既に設定した旋回時安定性制御のみを実行する際に必要となる各車輪の目標スリップ率St**を補正した後ステップ1625に進む。これにより、制動操舵制御に重畳される変数Modeの値に対応する制御を実行する際に必要となる各車輪の目標スリップ率分だけ図14にて既に設定した各車輪の目標スリップ率St**が制御対象車輪毎に補正される。
【0121】
ステップ1615の判定において変数Modeが「4」である場合、CPU61はステップ1615にて「Yes」と判定し、図14にて既に設定した各車輪の目標スリップ率St**を補正する必要がないので直接ステップ1625に進む。CPU61はステップ1625に進むと、図15のステップ1550にてフラグCONT**の値が「1」に設定された制御対象車輪に対して、目標スリップ率St**の値と、図4のステップ415にて算出した実際のスリップ率Sa**の値と、ステップ1625内に記載の式とに基いて制御対象車輪毎にスリップ率偏差ΔSt**を算出する。
【0122】
次いで、CPU61はステップ1630に進み、上記制御対象車輪に対して同制御対象車輪毎に液圧制御モードを設定する。具体的には、CPU61はステップ1625にて算出した制御対象車輪毎のスリップ率偏差ΔSt**の値と、ステップ1630内に記載のテーブルとに基いて、制御対象車輪毎に、スリップ率偏差ΔSt**の値が所定の正の基準値を超えるときは液圧制御モードを「増圧」に設定し、スリップ率偏差ΔSt**の値が所定の負の基準値以上であって前記所定の正の基準値以下であるときは液圧制御モードを「保持」に設定し、スリップ率偏差ΔSt**の値が前記所定の負の基準値を下回るときは液圧制御モードを「減圧」に設定する。
【0123】
次に、CPU61はステップ1635に進み、ステップ1630にて設定した制御対象車輪毎の液圧制御モードに基いて、図2に示した制御弁SA1,SA2、切換弁STRを制御するとともに制御対象車輪毎に同液圧制御モードに応じて増圧弁PU**及び減圧弁PD**を制御する。
【0124】
具体的には、CPU61は液圧制御モードが「増圧」となっている車輪に対しては対応する増圧弁PU**及び減圧弁PD**を共に第1の位置(非励磁状態における位置)に制御し、液圧制御モードが「保持」となっている車輪に対しては対応する増圧弁PU**を第2の位置(励磁状態における位置)に制御するとともに対応する減圧弁PD**を第1の位置に制御し、液圧制御モードが「減圧」となっている車輪に対しては対応する増圧弁PU**及び減圧弁PD**を共に第2の位置(励磁状態における位置)に制御する。
【0125】
これにより、液圧制御モードが「増圧」となっている制御対象車輪のホイールシリンダW**内のブレーキ液圧は増大し、また、液圧制御モードが「減圧」となっている制御対象車輪のホイールシリンダW**内のブレーキ液圧は減少することで、各制御車輪の実際のスリップ率Sa**が目標スリップ率St**に近づくようにそれぞれ制御され、この結果、図15に設定した制御モードに対応する制御が達成される。ここで、ステップ1635は、制動力制御手段に対応している。
【0126】
なお、図15のルーチンの実行により設定された制御モードがトラクション制御を実行する制御モード(変数Mode=3)又は旋回時安定性制御のみを実行する制御モード(変数Mode=4)であるときには、エンジン31の駆動力を減少させるため、CPU61は必要に応じて、スロットル弁THの開度がアクセルペダルAPの操作量Accpに応じた開度よりも所定量だけ小さい開度になるようにスロットル弁アクチュエータ32を制御する。そして、CPU61はステップ1695に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0127】
以上、説明したように、本発明による車両の運動制御装置によれば、車両が旋回状態にあって車両の安定性を確保するためのOS抑制制御又は横転防止制御により各車輪に制動力が付与される場合、外側タイヤ空気圧低下時においては、外側タイヤ空気圧適正時に比して各車輪に制動力が付与された結果として車両に働く旋回方向と反対方向のヨーイングモーメントが大きくなる。従って、外側タイヤ空気圧低下時においては、外側タイヤ空気圧適正時に比して車両に働く実横加速度Gyの絶対値が低減され、その結果、車体に過大なロール角が発生することを防止できた。
【0128】
また、旋回方向と反対方向のヨーイングモーメントが大きくなる程度が、旋回方向外側の空気圧低下車輪のタイヤ空気圧の低下に応じて大きくなるように構成されている。従って、タイヤ空気圧の低下に基いて過大なロール角が発生する傾向が大きくなる程度に応じてロール角の増大を防止する程度が過不足なく設定され、車両の安定性を良好に維持しつつ車体に過大なロール角が発生することを防止できた。
【0129】
また、前記旋回方向と反対方向のヨーイングモーメントを大きくするために、旋回方向における外側の車輪に付与される各制動力の総和が大きくなるように構成されている。従って、外側タイヤ空気圧低下時においては、外側タイヤ空気圧適正時に比して各車輪に付与される制動力の総和が大きくなり、この結果、車両を減速させる減速力も大きくなる。よって、旋回方向と反対方向のヨーイングモーメントの作用による車両に働く実横加速度Gyの絶対値の低減効果と前記減速力の作用による実横加速度Gyの絶対値の低減効果とが相俟って、外側タイヤ空気圧低下時において、より一層車体に過大なロール角が発生することを防止できた。
【0130】
また、空気圧低下車輪のタイヤ空気圧の低下に応じて同空気圧低下車輪に付与される制動力の上限値を低くするように構成されている。これにより、空気圧低下車輪のタイヤの変形の程度を小さく維持することができ、上述した旋回方向と反対方向のヨーイングモーメントの作用による車両に働く実横加速度Gyの絶対値の低減効果、及び前記減速力の作用による実横加速度Gyの絶対値の低減効果と相俟ってさらに一層車体に過大なロール角が発生することを防止できた。
【0131】
さらには、車両の安定性を確保するための制動力を車両の各車輪に付与開始する際の同車両の安定性の低下の程度が空気圧低下車輪のタイヤ空気圧の低下に応じて小さくなるように構成されているので、車両が旋回状態にあって車両の安定性の低下が進行する過程にて、外側タイヤ空気圧低下時においては、外側タイヤ空気圧適正時に比して空気圧低下車輪のタイヤ空気圧の低下に応じたより早い段階から旋回方向と反対方向のヨーイングモーメントを発生させるための制動力を各車輪に付与開始することが可能となる。従って、外側タイヤ空気圧低下時においては、外側タイヤ空気圧適正時に比して旋回方向と反対方向のヨーイングモーメントを空気圧低下車輪のタイヤ空気圧の低下に応じて滑らかに大きくすることができた。
【0132】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態においては、車両の各車輪に付与されるブレーキ力を制御するための制御目標として各車輪のスリップ率を使用しているが、例えば、各車輪のホイールシリンダW**内のブレーキ液圧等、各車輪に付与されるブレーキ力に応じて変化する物理量であればどのような物理量を制御目標としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施形態に係る車両の運動制御装置を搭載した車両の概略構成図である。
【図2】 図1に示したブレーキ液圧制御装置の概略構成図である。
【図3】 図3(a)(b)は、OS抑制制御時において左方向に旋回している車両の各車輪に付与されるブレーキ力の一例を示した図であり、図3(c)(d)は、横転防止制御時において左方向に旋回している車両の各車輪に付与されるブレーキ力の一例を示した図である。
【図4】 図1に示したCPUが実行する車輪速度等を算出するためのルーチンを示したフローチャートである。
【図5】 図1に示したCPUが実行する横加速度偏差を算出するためのルーチンを示したフローチャートである。
【図6】 図1に示したCPUがOS−US抑制制御時制御量を算出するためのルーチンを示したフローチャートである。
【図7】 図7(a)は、外側タイヤ空気圧適正時において使用される横加速度偏差ΔGyの絶対値とOS抑制制御時前輪側制御量Gfoとの関係を表すテーブルを示したグラフであり、図7(b)は、外側タイヤ空気圧適正時において使用される横加速度偏差ΔGyの絶対値とOS抑制制御時後輪側制御量Gro及びUS抑制制御時後輪側制御量Gruとの関係を表すテーブルを示したグラフである。
【図8】 図8(a)は、旋回方向外側前輪が空気圧低下車輪である場合に使用される横加速度偏差ΔGyの絶対値とOS抑制制御時前輪側制御量Gfoとの関係を表すテーブルを示したグラフであり、図8(b)は、旋回方向外側前輪が空気圧低下車輪である場合に使用される横加速度偏差ΔGyの絶対値とOS抑制制御時後輪側制御量Groとの関係を表すテーブルを示したグラフである。
【図9】 図9(a)は、旋回方向外側後輪のみが空気圧低下車輪である場合に使用される横加速度偏差ΔGyの絶対値とOS抑制制御時前輪側制御量Gfoとの関係を表すテーブルを示したグラフであり、図9(b)は、旋回方向外側後輪のみが空気圧低下車輪である場合に使用される横加速度偏差ΔGyの絶対値とOS抑制制御時後輪側制御量Groとの関係を表すテーブルを示したグラフである。
【図10】 図1に示したCPUが横転防止制御時制御量を算出するためのルーチンを示したフローチャートである。
【図11】 図11(a)は、外側タイヤ空気圧適正時において使用される横加速度Gyの絶対値と横転防止制御時前輪側制御量Gfrとの関係を表すテーブルを示したグラフであり、図11(b)は、外側タイヤ空気圧適正時において使用される横加速度Gyの絶対値と横転防止制御時後輪側制御量Grrとの関係を表すテーブルを示したグラフである。
【図12】 図12(a)は、旋回方向外側前輪が空気圧低下車輪である場合に使用される横加速度Gyの絶対値と横転防止制御時前輪側制御量Gfrとの関係を表すテーブルを示したグラフであり、図12(b)は、旋回方向外側前輪が空気圧低下車輪である場合に使用される横加速度Gyの絶対値と横転防止制御時後輪側制御量Grrとの関係を表すテーブルを示したグラフである。
【図13】 図13(a)は、旋回方向外側後輪のみが空気圧低下車輪である場合に使用される横加速度Gyの絶対値と横転防止制御時前輪側制御量Gfrとの関係を表すテーブルを示したグラフであり、図13(b)は、旋回方向外側後輪のみが空気圧低下車輪である場合に使用される横加速度Gyの絶対値と横転防止制御時後輪側制御量Grrとの関係を表すテーブルを示したグラフである。
【図14】 図1に示したCPUが目標スリップ率を算出するためのルーチンを示したフローチャートである。
【図15】 図1に示したCPUが制御モードを設定するためのルーチンを示したフローチャートである。
【図16】 図1に示したCPUが各車輪に付与するブレーキ力を制御するためのルーチンを示したフローチャートである。
【符号の説明】
10…車両の運動制御装置、20…前輪転舵機構部、30…駆動力伝達機構部、40…ブレーキ液圧制御装置、50…センサ部、51**…車輪速度センサ、52・・・ステアリング角度センサ、54・・・横加速度センサ、56**…タイヤ空気圧センサ、60…電気式制御装置、61…CPU。
Claims (5)
- 車両が旋回状態にあって、且つ、前記車両の安定性の低下の程度が所定の程度を超えたとき、前記車両の横転を防止するために旋回外側の前後輪に制動力をそれぞれ付与する制動力制御手段を備え、
前記制動力制御手段は、旋回外側前輪に付与される制動力を、前記安定性の低下の程度が増加するに従って増加するとともに前輪側上限値に達した後は前記安定性の低下の程度が増加しても前記前輪側上限値で一定になるように調整し、旋回外側後輪に付与される制動力を、前記安定性の低下の程度が増加するに従って増加するとともに後輪側上限値に達した後は前記安定性の低下の程度が増加しても前記後輪側上限値で一定になるように調整するように構成された車両の運動制御装置であって、
前記車両の車輪のタイヤ空気圧が対応するタイヤ空気圧低下判定基準値以上か否かを車輪毎に判定する空気圧判定手段を備え、
前記制動力制御手段は、前記旋回外側の前後輪のうち1輪のみがタイヤ空気圧が前記対応するタイヤ空気圧低下判定基準値よりも小さい空気圧低下車輪となっているとき、前記旋回外側の前後輪のタイヤ空気圧がそれぞれ前記対応するタイヤ空気圧低下判定基準値以上であるときに比して、前記前輪側上限値及び前記後輪側上限値のうち前記空気圧低下車輪に対応する方の上限値がより小さく且つ前記前輪側上限値及び前記後輪側上限値のうち前記空気圧低下車輪に対応しない方の上限値がより大きくなるように、並びに、前記旋回外側の前後輪に付与される制動力に起因して前記車両に作用する旋回方向と反対方向のヨーイングモーメントがより大きくなるように前記旋回外側の前後輪に付与される制動力を調整するように構成された車両の運動制御装置。 - 請求項1に記載の車両の運動制御装置において、
前記制動力制御手段は、前記旋回方向と反対方向のヨーイングモーメントを大きくする程度を、前記空気圧低下車輪のタイヤ空気圧の低下に応じて大きくするように構成された車両の運動制御装置。 - 請求項1又は請求項2に記載の車両の運動制御装置において、
前記制動力制御手段は、前記旋回方向と反対方向のヨーイングモーメントを大きくするために、前記旋回外側の前後輪に付与される制動力の総和を大きくするように構成された車両の運動制御装置。 - 請求項3に記載の車両の運動制御装置において、
前記制動力制御手段は、前記空気圧低下車輪のタイヤ空気圧の低下に応じて、前記空気圧低下車輪に対応する方の前記上限値をより小さく且つ前記空気圧低下車輪に対応しない方の前記上限値をより大きくするように構成された車両の運動制御装置。 - 請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の車両の運動制御装置において、
前記制動力制御手段は、前記空気圧低下車輪のタイヤ空気圧の低下に応じて前記所定の程度を小さくするように構成された車両の運動制御装置。
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