JP4187141B2 - 新規なトロンボモジュリン発現促進剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はHMG−CoA還元酵素阻害剤、特に(+)−(3R,5S,6E)−7−〔2−シクロプロピル−4−(4−フルオロフェニル)−3−キノリル〕−3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸又はその塩(以下、ピタバスタチンと略すことが有る)を有効成分とするトロンボモジュリン発現促進剤に関する。トロンボモジュリンは抗血液凝固物質であり、血液凝固能異常に関わる疾患及び/又は敗血症の予防及び治療剤として有用である。また、本発明は、ピタバスタチン又はその塩を有効成分とする抗血栓剤、敗血症予防・治療剤、抗血小板剤、及び抗凝固剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
トロンボモジュリン(以下、TMと略すことがある。)は、血管内皮細胞膜上に存在する糖蛋白のひとつであり、トロンビンに結合し、トロンビンによるプロテインC活性化の補酵素として、主に血液凝固系の調節因子として機能している。
また近年、敗血症患者において活性型プロテインCが減少していることが明らかとなっており、プロテインC活性化の補酵素であるTMが敗血症の予防・治療剤として有望視されている(N Engl J Med,Vol.344,No.10 759-762(2001))。
HMG−CoA還元酵素阻害剤(以下、スタチンと略すことが有る。)は、本来のLDL−コレステロール低下作用の他に、脂質代謝以外への効果、すなわち内皮細胞機能の改善、平滑筋細胞の増殖・遊走の抑制、プラークの安定化(マクロファージ泡沫化抑制やマトリクスプロテアーゼ(MMP)の発現抑制など)、抗血栓作用、抗酸化作用などの多面的機能(pleiotropic effect)を持つことが近年明らかになっている。
スタチンの抗血栓作用については、これまでLDLの酸化抑制による内皮細胞の抗血栓作用改善(Atherosclerosis ,Vol.138,p271−280(1998))、凝固第VII因子の活性化抑制作用(Atheroscler Tromb Vasc Biol ,Vol.17,p265−272(1997))、血小板機能の亢進抑制作用(Atheroscler Tromb Vasc Biol ,Vol.15,p247−251(1995))、血小板の粘着抑制作用(Atheroscler Tromb Vasc Biol ,Vol.19,p1812−1817(1999))などが報告されている。
しかしながら、スタチンのTMの発現促進作用については全く知られていなかった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、HMG−CoA還元酵素阻害剤、特に(+)−(3R,5S,6E)−7−〔2−シクロプロピル−4−(4−フルオロフェニル)−3−キノリル〕−3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸又はその塩の新規な薬理作用を提供するものである。より詳細には、本発明は、TMの発現を調節できる薬剤を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
そこで本発明者らは、血管内皮細胞を用いてTMのmRNA及び蛋白の発現に影響を及ぼす物質を探索した結果、全く意外にもスタチンにTMの発現促進作用が有り、しかも特にピタバスタチンに強いTM発現促進作用が有ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち、本発明は、HMG−CoA還元酵素阻害剤、特に(+)−(3R,5S,6E)−7−〔2−シクロプロピル−4−(4−フルオロフェニル)−3−キノリル〕−3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸又はその塩を有効成分とするTM発現促進剤を提供するものである。
【0006】
スタチンは高脂血症治療剤として知られている化合物であるが、スタチンがTMの発現に作用するか否かについては全く知られていない。
スタチンとしては、特に制限されるものではないが、例えば米国特許第4,739,073号及びヨーロッパ特許願第114,027号;ヨーロッパ特許出願公開第367,895号;米国特許第5,001,255号、第4,613,610号、第4,851,427号、第4,755,606号及び第4,808,607号、第4,751,235号、第4,939,159号、第4,822,799号、第4,804,679号、第4,876,280号、第4,829,081号、第4,927,851号、第4,588,715号;及びF.G.Kathawala,Medical Research Reviews,11,121-146(1991)、また、ヨーロッパ特許出願公開第304,063号;ヨーロッパ特許出願公開第330,057号及び米国特許第5,026,708号及び第4,868,185号;ヨーロッパ特許出願公開第324,347号;ヨーロッパ特許出願公開第300,278号;米国特許第5,013,749号、第5,872,130号及び第5,856,336号、米国特許第4,231,938号、米国特許第4,444,784号、米国特許第4,346,227号、米国特許第5,354,772号、米国特許第5,273,995号、米国特許第5,177,080号、米国特許第3,983,140号、日本国特許第2,648,897号、米国特許第5,260,440号あるいはBioorganic & Medicinal Chemistry,5,pp437,(1977)および日本国特許第2,569,746号、ヨーロッパ特許第304,063号あるいは米国特許第5,856,336号に記載されている。
【0007】
特に、米国特許第4,231,938号にはロバスタチンが、米国特許第4,444,784号にはシンバスタチンが、米国特許第4,346,227号にはプラバスタチンが、米国特許第5,354,772号にはフルバスタチンが、米国特許第5,273,995号にはアトルバスタチンが、米国特許第5,177,080号にはセリバスタチンが、米国特許第3,983,140号にはメバスタチンが、また日本国特許第2,648,897号、米国特許第5,260,440号あるいはBioorganic & Medicinal Chemistry,5,pp437,(1977)にはロスバスタチン、すなわちモノカルシウム ビス(+)−7−[4−(4−フルオロフェニル)−6−イソプロピル−2−(N−メチル−N−メタンスルフォニルアミノピリミジン)−5−イル]−(3R,5S)−ジヒドロキシ−(E)−6−ヘプテノエートが記載されている。同様にピタバスタチンカルシウムは、日本国特許第2,569,746号、ヨーロッパ特許第304,063号あるいは米国特許第5,856,336号に記載されている。
【0008】
本発明のTM発現促進剤は、抗血液凝固作用及び血小板凝集抑制作用を有し、抗血液凝固活性をコントロールすることが望まれる疾患の予防及び治療において、抗血栓剤(抗血小板剤及び/又は抗凝固剤)及び/又は敗血症の予防・治療剤として有用である。
本発明のTM発現促進剤を医薬として用いる場合の投与形態としては、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤などによる経口投与又は静脈内注射剤、筋肉注射剤、坐剤、吸入剤、経皮吸収剤、点眼剤、点鼻剤などによる非経口投与が挙げられる。またこのような種々の剤型の医薬製剤を調製するには、この有効成分を単独で、又は他の薬学的に許容される賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤、担体、希釈剤などを適宜組み合わせて用いることができる。これらの投与形態のうち、好ましい形態は経口投与であり、経口投与用製剤の調製にあたっては、有効成分の安定性を考慮して例えば特開平2−6406号、特許第2,774,037号、WO97/23200の記載に従ってpHを調整するのが好ましい。本発明の医薬の投与量は、患者の体重、年齢、性別、症状等によって異なるが、通常成人の場合、一般式(1)で表される化合物として、一日0.01〜1000mg、特に0.1〜100mgを、1回又は数回に分けて経口投与又は非経口投与するのが好ましい。
本発明のTM発現促進剤は、経口投与又は非経口投与により投与される。
本発明のTM発現促進剤の投与量は、患者の体重、年齢、性別、症状等によって異なるが、通常成人の場合、一日0.01〜1000 mg、好ましくは0.1〜100 mgを1〜3回に分けて投与するのが好ましい。
【0009】
【実施例】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0010】
実施例1
正常ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVECs)を2%(vol/vol)牛胎児血清、50μg/ml ゲンタマイシン、50ng/ml アンフォテリシン B、10 ng/ml hEGF、5 ng/ml hFGF-B、 1 μg/ml ハイドロコルチゾン及び10 μg/ml ヘパリンを添加したHuMedia-EG2培地(クラボウ社)の24穴プレートに2×105cells/wellになるように撒く。次に、各検体(ピタバスタチン、フルバスタチン及びプラバスタチン)を終濃度10−7M〜10−3Mとなるように培地に加え、5%CO2、37℃の条件下で24時間培養した。培養後、リン酸緩衝液(pH7.4)で3回洗浄し、0.15 mol/L NaCl、0.5% Triton X-100、及び 1 mmol/L ベンズアミド ハイドロクロライドを含む50 mmol/L トリス‐塩酸 (pH 7.4)に懸濁後、TMを抽出した。TM抗原量はTMmAb 2,11及び20モノクローナル抗体を用いて酵素免疫測定法により測定した。コントロール(等量のDMSO(0.01%)を含む)を100%とした場合の、各検体の添加による細胞蛋白質中のTM抗原の存在量に与える影響を測定した
【0011】
結果を図1に示す。図1の縦軸はTM抗原量/細胞蛋白質をコントロールに対する比率(%)で示したものである。横軸は各スタチンの濃度を示す。各濃度における白抜き部分はピタバスタチン(Pit)、黒抜きはフルバスタチン(Flu)、及び灰色抜きはプラバスタチン(Pra)をそれぞれ示す。
この結果、何れのスタチンもTMの発現量を増大させることがわかる。特にピタバスタチン(Pit)による増加量が顕著であることがわかる。
【0012】
実施例2
HUVECsを2%(vol/vol)牛胎児血清、50μg/ml ゲンタマイシン、50ng/ml アンフォテリシン B、10 ng/ml hEGF、5 ng/ml hFGF-B、 1 μg/ml ハイドロコルチゾン及び10 μg/ml ヘパリンを添加したHuMedia-EG2培地(クラボウ社)に撒き、ピタバスタチン(終濃度10−5M)を培地に加え、5%CO2、37℃の条件下で一定時間毎培養した。総RNAはTRIZOL 試薬 (ライフ テクノロジー社)を用いて抽出し、定法のノーザンブロット法によりTM m−RNAの発現量を測定した
結果を図2に示す。図2の縦軸はTMの発現量をコントロールに対する比率(%)で示したものである。横軸は時間(時間)を示す。12時間後から急激に発現量が増加していることがわかる。
【0013】
【発明の効果】
本発明によれば、スタチンが主に血液凝固系の調節因子として機能しているTMの発現を促進し、特にピタバスタチンは他のスタチンに比較し有意にTMの発現を促進できるので、抗血栓剤及び/又は敗血症予防・治療剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明のスタチンによるトロンボモジュリンの抗原量の変化の結果を示すものである。図1の縦軸はTM抗原量/細胞蛋白質をコントロールに対する比率(%)で示したものである。横軸は各スタチンの濃度を示す。各濃度における白抜き部分はピタバスタチン(Pit)、黒抜きはフルバスタチン(Flu)、及び灰色抜きはプラバスタチン(Pra)をそれぞれ示す。
【図2】図2は、本発明のピタバスタチンによるトロンボモジュリンの発現量の経時変化を示したものである。図2の縦軸はTMの発現量をコントロールに対する比率(%)で示したものである。横軸は時間(時間)を示す。
Claims (5)
- (+)−(3R,5S,6E)−7−〔2−シクロプロピル−4−(4−フルオロフェニル)−3−キノリル〕−3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸又はその塩を有効成分とするトロンボモジュリン発現促進剤。
- (+)−(3R,5S,6E)−7−〔2−シクロプロピル−4−(4−フルオロフェニル)−3−キノリル〕−3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸又はその塩を有効成分とする抗血栓剤。
- (+)−(3R,5S,6E)−7−〔2−シクロプロピル−4−(4−フルオロフェニル)−3−キノリル〕−3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸又はその塩を有効成分とする敗血症予防・治療剤。
- (+)−(3R,5S,6E)−7−〔2−シクロプロピル−4−(4−フルオロフェニル)−3−キノリル〕−3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸又はその塩を有効成分とする抗血小板剤。
- (+)−(3R,5S,6E)−7−〔2−シクロプロピル−4−(4−フルオロフェニル)−3−キノリル〕−3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸又はその塩を有効成分とする抗凝固剤。
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