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JP4178632B2 - 干渉作用を回避する方法及び試薬 - Google Patents

干渉作用を回避する方法及び試薬 Download PDF

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  • Investigating Or Analysing Biological Materials (AREA)

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、試料中の補体価を定量分析するための測定方法及び試薬に関する。
【0002】
【従来の技術】
補体系はヒトなどの動物の血清中に存在する約20種の蛋白質の総称であり、主として免疫複合体により活性化される古典的経路と、多糖類などにより活性化される第二経路の二つの活性化経路を持つ。古典的経路とは、主に細菌等の細胞膜上の抗原に、これに対する抗体が結合して形成される免疫複合体により補体成分が秩序をもって次々と活性化され、最後は細胞膜を破壊し、細菌等は死滅又は溶解するという作用を示す。また、溶血素で感作された赤血球が補体により溶血に到る反応や、ハプテンで感作されたリポソームに抗ハプテン抗体を反応させると補体によりリポソーム膜が破壊される反応は古典的経路の作用による。一方、第二経路では抗体の関与は必要なく、例えば細菌の細胞壁の構成成分である多糖やウイルスとの接触のみで補体が活性化される。
【0003】
近年、補体系の活性、即ち補体価の測定は、急性糸球体腎炎、自己免疫疾患等の診断や、治療の指標として注目されている。
【0004】
現在、一般的に補体価の測定は、溶血素で感作したヒツジ赤血球を用いて、補体の溶血活性を測定するMayerの50%溶血法及びその変法が広く用いられている [「臨床検査法提要」,1233〜1234頁,第29版第5刷,昭和60年,金原出版(株);J.Clin.Chem.,12,143(1983)等]。しかし、この方法では同一検体につき何種類かの希釈度に希釈した試料を用意しなければならず、それが測定に誤差を与える原因となっており、また、50%溶血が起こる量をグラフより求めるという繁雑な方法でもある。更に、ヒツジ赤血球を用いるが、生体由来の赤血球は不安定であり、動物の個体差により赤血球の補体に対する感受性が異なる(ロット間差がある)等の問題がある。
【0005】
一方、より簡便に補体価を測定するために反応時間を短くし(5〜10分)、自動分析装置への適応を可能とした方法として、感作血球により活性化された補体によって生じる感作血球懸濁液の濁度の変化に基づいて補体活性値を求める、赤血球を用いる補体価測定方法(臨床検査、32(12)、1537-1540、1998)や、赤血球の代わりに、より安定でロット間差が少なく、補体活性により膜損傷を受けるリポソームを用いた補体価測定方法(YAMAMOTO.S Clin.Chem.41/4,586-590,1994、特開平7-110331号公報、特開平7-140147号公報等)が近時提案されている。
【0006】
しかし、Mayer法では補体価を測定する際の反応時における血清試料の希釈倍率が、約160〜480倍であるのに対し、自動分析装置への適応を可能とした補体価測定用試薬に於けるその希釈倍率は、赤血球を使う試薬で約100〜110倍、リポソームを使う試薬では35〜45倍程度である。そのため、血清試料の試薬に対する比率が相対的に高くなるため、自動分析装置による補体価測定の際には、血清試料による測定系への干渉作用が懸念されており、実際に、赤血球及びリポソームを用いた補体価測定において、リウマチ因子陽性血清試料を用いると、試料により干渉作用を受けている可能性が示唆されている(「第44回日本臨床衛生検査学会要旨集」,演題365,1995、「医学と薬学」35(5),1163-1167,1996)。
【0007】
【本発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記した如き状況に鑑みなされたもので、自動分析装置による補体価測定における血清試料等の測定試料による測定系への干渉作用を軽減させた測定方法及び測定用試薬を提供することを目的とする。
【0008】
【問題を解決するための手段】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、
「ヒト免疫グロブリンに特異的に結合する抗体の存在下で補体価を測定することを特徴とする、補体価測定方法。」,
「ヒト免疫グロブリンに特異的に結合する抗体を含有する、補体価測定用試薬。」,
「ヒト免疫グロブリンに特異的に結合する抗体を含有する試薬と、膜上に抗原が固定化された標識物質内包リポソームを含有する試薬と、膜上に固定化された抗原に対する抗体を含有する試薬とを含んでなる補体価測定用試薬キット。」及び
「ヒト免疫グロブリンに特異的に結合する抗体を含有する試薬と、溶血素感作血球を含有する試薬とを含んでなる補体価測定用試薬キット。」に関する。
【0009】
即ち本発明者らは、赤血球及びリポソームを用いて補体価を測定するに際し、測定試料中の例えばリウマチ因子等から受ける干渉作用を抑制する方法を見出すべく鋭意研究の結果、測定時にヒト免疫グロブリンに特異的に結合する抗体(以下、本発明に係る抗体と略記する場合がある。)を共存させることにより、測定試料中の共存物質から受ける干渉作用を軽減し、より正確な補体価測定が可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明に係る抗体としては、ヒト免疫グロブリンに特異的に結合する抗体であればいずれでもよいが、それ自身が古典的経路の補体活性化能を有しない抗体が望ましく、例えば、マウスIgG1、マウスIgA、ラットIgG1、ラットIgA等のそれ自体が古典的経路の補体価活性化能を有しない抗体や、古典的経路の補体活性化能を有する抗体を、常法、例えば「免疫生化学研究法、第1版第1刷、(株)東京化学同人,1986」等に記載の方法に準じて、ペプシン消化やパパイン消化等を行い、補体の結合部位であるFc部分を除いた、F(ab')2フラグメントやFab'フラグメント等が挙げられる。中でもマウスIgG1が好ましい。
【0011】
これらの抗体は、血清中或は腹水中に含有された状態で使用してもよいが、例えば「免疫生化学研究法,第1版第1刷,(株)東京化学同人,1986」等に記載の方法に準じて、硫安分画、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等の方法により、精製して用いることが望ましい。また、Fc部分の除去操作を行う場合は、当該操作後、精製して用いることが望ましい。
【0012】
また、本発明に係る抗体は、例えば「免疫実験学入門、第2刷、松橋直ら、(株)学会出版センター、1981」等に記載の方法に準じて、馬、牛、羊、兎、山羊、ラット、マウス等の動物にヒト免疫グロブリンあるいはそのフラグメントを免疫して作製されるポリクローナル抗体でも、或は、ケラーとミルスタイン(Nature,256巻,495頁,1975)により確立された細胞融合法に従い、マウスの腫瘍ラインからの細胞と、ヒト免疫グロブリンあるいはそのフラグメントで予め免疫されたマウスの脾細胞とを融合させて得られるハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体の何れでもよいが、モノクローナル抗体が好ましい。これらは単独で用いてもよく、或は適宜組み合わせて用いてもよい。
【0013】
本発明に係る抗体が特異的に結合するヒト免疫グロブリンとしては、特に限定されないが、ヒトIgA、ヒトIgM、ヒトIgG等が挙げられる。
【0014】
本発明の補体価測定方法は、上記した如き本発明に係る抗体を測定時に存在させる以外は、リポソームや赤血球を用いる自体公知の測定法、例えば、YAMAMOTO.S Clin.Chem.41/4,586-590,1994、特開平7-110331号公報、特開平7-140147号公報や、臨床検査,32(12),1537-1540,1998に準じて実施すればよく、使用されるその他の試薬類もこれら自体公知の測定法に準じて適宜選択すればよい。
【0015】
即ち、測定試料を、本発明に係る抗体の存在下で上記した如きリポソームや赤血球を用いる自体公知の測定法に準じて測定することにより、試料中の補体価を簡便に且つ精度よく測定することができる。
【0016】
また、本発明に係る抗体は、測定時に、例えば、血清、血漿等の測定試料1μlに対する抗体蛋白量が、通常1×10-6〜10mg、好ましくは5×10-5〜1×10-2mgとなるように使用される。
【0017】
本発明の測定方法に於いては、リポソーム又は赤血球と、試料とを反応させる際に、最終的に本発明に係る抗体を上記した如き濃度範囲で共存させればよく、その方法については特に限定されない。
【0018】
具体的には、例えば、上記した如き自体公知の補体価測定用試薬中に、本発明に係る抗体を含有させ、これと試料とを混合する方法、例えば本発明に係る抗体を含有する緩衝液等の溶液で試料を希釈し、該希釈試料と上記した如き補体価測定用試薬とを混合する方法等が挙げられる。
【0019】
本発明に係る抗体を測定系に添加する時期は補体価の測定を開始する前であればいつでもよいが、補体が活性化される以前に添加することが望ましい。即ち、本発明に係る抗体を測定系に添加する時期としては、リポソームを用いた方法に於いては、リポソーム表面に形成された抗原抗体複合物によって試料中の補体が活性化される以前が、また、赤血球を用いた方法に於いては、赤血球膜上の免疫複合体によって試料中の補体が活性化される以前が、夫々望ましい。
また、上記した如き自体公知の補体価測定用試薬に用いられるリポソーム、当該リポソーム内に内包される標識物質、当該リポソームに固定される抗原及び当該抗原に対する抗体或いは溶血素で感作させた赤血球は、通常用いられるものであれば何れにてもよく、特に限定されない。
【0020】
即ち、本発明に用いられるリポソームとしては、通常この分野で使用されているものは全て使用可能であるが、例えば、ジステアロイルホスファチジルコリン,ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG),卵黄ホスファチジルグリセロール等を原料として、自体公知の調製方法、例えば、J.liposome Res.,1(3),339〜377(1989-90)、「ライフサイエンスにおけるリポソーム実験マニュアル」,寺田弘,吉村哲郎編著,シュプリンガー・フェアラーク東京(株),1992年やClin.Chem.41/4.586〜590(1995)等に記載された方法等を用いて調製されたもの等が望ましい。中でも、Clin.Chem.41/4.586〜590(1995)の方法により調製されたものが好ましい。
【0021】
また、リポソーム内に内包される標識物質としては、通常この分野で使用されているものは全て使用可能であるが、例えば、酵素、補酵素、色素、水溶性の蛍光物質、糖類、イオン性化合物、キレート指示薬、色素、スピンラベル化合物等、リポソームの膜傷害によって膜外に放出されて検出され得るもの等が好ましく、中でも、酵素を標識物質に用いることが望ましい。また、その内包方法も、従来公知の調製方法、例えば、「ライフサイエンスにおけるリポソーム実験マニュアル」,寺田弘,吉村哲郎編著,60〜89頁,シュプリンガー・フェアラーク東京(株),1992年、特開平7-110331号公報、特開平7-140147号公報等に記載されている方法に準じて行えばよい。
【0022】
リポソーム膜表面に固定させる抗原としては、リポソーム膜に組み込むことができる抗原であれば何れにてもよいが、例えば、フォルスマン抗原、GM1等の糖脂質抗原、ジニトロベンゼン、トリニトロベンゼン等の芳香族有機化合物、サイロキシン等のホルモン、テオフィリン、フェニトイン等の薬物等が挙げられる。また、これらをリポソーム膜に組み込む方法としては、フォルスマン抗原については、例えばBiochemistry,8,4149(1969)に記載の方法、糖脂質抗原については、例えばJ.Immunol.Methods,85,53〜63(1985)に記載の方法、ジニトロベンゼンやトリニトロベンゼンについては、例えばBiochemistry,Vol.11,No.22,4085(1972)やJ.Immunol.Methods,123,19〜24(1989)に記載の方法、サイロキシンについては、例えばBio.Technology,April,349(1984)に記載の方法、テオフィリンやフェニトインについては、例えばJ.Chem.Pharm.Bull.,36,1086(1988)やClin.Chem.,38,808(1992)に記載の方法等が挙げられる。
【0023】
また、リポソーム膜表面に抗原を固定させる方法としては、通常この分野で使用される方法である、例えば、架橋法[「続生化学実験講座5」,免疫生化学実験法,第1版第1刷,(社)日本生化学会編,(株)東京化学同人,144〜148頁,1986年3月14日;Biochemistry,20,4229〜4238(1981);J.Biol.Biochem.,257,286〜288(1982)]も挙げられる。
【0024】
本発明に於て使用されるリポソーム膜表面上の抗原に対する抗体としては、リポソームに感作している抗原に対する抗体であれば何れでもよく、その由来に特に制限はない。例えばヤギ、ウサギ、ウマ、ヒツジ、マウス由来のもの等が挙げられる。
【0025】
一方、赤血球としては、ヒツジ、ウサギ、ウマ、ウシ、ヤギ、ラット、マウス等の動物から得られる赤血球が使用可能であり、また、感作させる溶血素(抗体)としては、用いられる赤血球に対する抗体が挙げられ、これらは常法により得られるモノクローナル抗体でも、例えば、ウサギ、ヒツジ、ウマ、ウシ、ヤギ、ラット、マウス等の動物から得られるポリクローナル抗体でも良いが、ヒツジの赤血球と抗ヒツジ赤血球ウサギ抗体から調製された感作ヒツジ赤血球が望ましい。
【0026】
リポソームを用いた本発明の補体価測定方法は、例えば下記のごとく行えばよい。
【0027】
即ち、先ず、標識物質を内包し、その膜上に抗原が固定化されたリポソームと、試料(例えば補体を含むヒト血清等)とリポソーム膜上に固定された抗原に対する抗体及び標識物質の検出に必要な物質ならびに抗ヒト免疫グロブリン抗体とを適当な緩衝液中で混合し、37℃で5〜10分間反応させる。次いで、リポソーム膜上に形成された免疫複合体で活性化された補体によりリポソーム膜が損傷を受けた結果リポソーム外に流出した標識物質量をその性質に基づいて測定し、得られた値を、例えば、あらかじめ補体価既知の血清を用い同様の操作をおこなって得た、補体価と標識物質量との関係を表す検量線に当てはめることにより、試料中の補体価を求めることができる。
【0028】
また、感作ヒツジ赤血球を用いた本発明の補体価測定方法は例えば下記のごとく行えばよい。
【0029】
即ち、試料(例えば補体を含むヒト血清等)と、感作血球適当量と、抗ヒト免疫グロブリン抗体とを適当な緩衝液中で混合し、37℃で5〜10分間反応させると、赤血球膜上の免疫複合体で活性化された補体により、感作赤血球膜が溶血するので、感作血球懸濁液の濁度が減少する。この濁度の減少量を測定し、この値を、例えば、あらかじめ補体価既知の血清を用い同様の操作をおこなって得た、補体価と濁度の減少量との関係を表す検量線に当てはめることにより試料中の補体価を求めることができる。また、用手法で行う場合は、反応液を冷却後遠心し、その上清のヘモグロビン量を測定し、この値を用いることよっても、補体価を測定することができる。
【0030】
なお、ヒト補体価の単位は、例えば、前述のMayerの方法ではCH50値として表現されているが、CH50に限定されるものではない。
【0031】
本発明の補体価測定用試薬は、リポソームや赤血球を用いる補体価測定用試薬に本発明に係る抗体を含有させた点に特徴を有するものであり、当該抗体の好ましい実施態様や使用濃度等は上記で述べたとおりである。
【0032】
本発明の補体価測定用試薬は、緩衝剤を含んでいてもよく、これに用いられる緩衝剤としては、例えばリン酸及びその塩、ホウ酸及びその塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris),グッド緩衝剤(Good's Buffer),ベロナール緩衝剤等が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、通常用いられる緩衝剤であれば何れも使用可能である。
【0033】
また、本発明の測定用試薬には、牛血清アルブミン、ゼラチン等の蛋白質、糖、キレート剤、還元剤、防腐剤等の、通常この分野に於いて使用される添加物等や、リポソームを用いる場合であって内包された標識物質が酵素である場合は、更にその基質等を、必要に応じて適宜添加してもよい。
【0034】
本発明に於いて用いられる各種試薬類や、標識物質が酵素である場合に用いられる基質等は、自体公知の酵素測定法に於いて通常用いられる濃度範囲から適宜選択して用いればよい。
【0035】
本発明の測定法に用いられる試薬キットは、自体公知の補体価測定のための試薬キットに本発明に係る抗体を加えたものである。即ち、例えば、リポソームを用いる補体価測定用試薬キットとしては、標識物質を内包し且つこの膜表面に抗原が固定化されたリポソーム含有試薬、当該抗原に対する抗体含有試薬及び本発明に係る抗体等を含有させた試薬等を含んでなるものが挙げられ、又、赤血球を用いる補体価測定用試薬キットとしては、赤血球と抗赤血球抗体とから調製された感作血球を含有する試薬と本発明に係る抗体等を含有させた試薬等を含有してなるものが挙げられる。
【0036】
本発明のキットには、補体標準液を添付してもよく、補体標準液としては、ヒト、ラット、ヤギ又はヒツジ由来の血清が挙げられる。これら動物種の系統は特に限定されない。また、これらの動物種由来の補体標準液としては、各種新鮮血清の凍結乾燥品を水又は適当な溶解液で溶解させたものでもよく、また、これを更に適当な溶液で希釈したもの、限外濾過法等で濃縮したもの、補体反応に関与しない成分を除いたもの等も使用可能である。また、これに必要に応じて通常この分野で用いられる糖、蛋白質、防腐剤、安定化剤、緩衝剤等を添加してもよい。
【0037】
以下に実施例をあげて本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を何ら制限するものではない。
【実施例】
実施例1.
(1)補体価測定用リポソームの調製
グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PDH)を内包し、ジニトロベンゼンが膜上に固定化されたリポソームを、ライフサイエンスにおけるリポソーム実験マニュアル(寺田弘、吉村哲郎編著:シュプリンガー・フェアラーク東京株式会社,60-89 1992年)に記載されたボルテックスイング法によるリポソーム調製法に準じて以下のように調製した。
【0038】
即ち、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)71μmol、ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)8μmol、コレステロール82μmol、及びジニトロベンゼンのホスファチジルエタノールアミン誘導体(AVANTI社製)0.8μmolとをナスフラスコに計りこみ5mlのクロロホルムを加えて溶解した後、ロータリーエバポレーターを用いて減圧乾燥させた。これに G6PDH 水溶液 7.5ml[ 2500U/ml、in 10mM トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris/HCl)緩衝液(pH7.8)]を加えボルテックスミキサーで混和した。このようにして得られた脂質水和液をポアサイズ0.2μmのフィルターを通して整粒した。得られたリポソーム懸濁液を遠心チューブに移し、4℃、36000rpmで遠心してリポソームに内包されなかった酵素を除き、最後に 100mM Tris/HCl緩衝液(pH7.8)に懸濁して、補体価測定用リポソームを得た。
【0039】
(2)補体価測定用リポソーム試薬の調製
上記(1)で調製した補体価測定用リポソームを脂質濃度が5nmol/mlとなるように、145mmol/L NaCl含有60mM Tris/HCl緩衝液(pH8.0)で希釈し、補体価測定用試液1を調製した。また、十分量のヤギ抗DNP抗体、酵素基質[24mM グルコース-6-リン酸(G6P)、9mM ニコチンアミド アデニンジヌクレオチド(NAD)]、145mmol/L NaCl、1.5mmol/L MgCl2及び0.45mmol/L CaCl2を含む、10mMマレイン酸/NaOH緩衝液(pH5.5)を調製し、補体価測定用試液2とした。
【0040】
(3)抗ヒトIgMモノクローナル抗体の作製
精製ヒトIgM(オリエンタル酵母社製)をフロイント完全アジュバントとともにBALB/cマウス(♀)に免疫(2回)後、摘出した脾臓細胞とミエローマ細胞(F0)とをポリエチレングリコールを用いる常法(例えば特開平5−244983号に記載された方法等)により融合させた。その後、常法により抗ヒトIgMモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを選別し、これを培養して抗ヒトIgMモノクローナル抗体IgG1(クローンNo.101及び102)を得た。
【0041】
(4)F(ab')2化抗体の作製
ヤギの抗ヒトIgM抗体(IIC社製)をイオン交換クロマトグラフィーを用いる常法により精製して得た、ヤギの抗ヒトIgM抗体IgG分画を、ペプシン消化後、ゲルろ過を行う常法(例えば「免疫生化学研究法、第1版第1刷、(株)東京化学同人,1986」に記載された方法)により精製してそのF(ab')2を得た。
【0042】
(5)干渉作用回避効果の比較
上記(2)で調製した補体価測定用試液2に種々の抗体を添加し、補体価への干渉作用回避効果の比較を行った。なお、補体価測定用試液2への添加量は抗体蛋白量として各々0.1mg/mlとした。
【0043】
尚、干渉作用回避効果は、以下に示す方法で調べた。
【0044】
補体価への干渉作用があることが確認されている血清試料10μlと補体価測定用試薬1 250μlとを混合し、37℃で5分間インキュベーションした後、 所定の抗体を添加した補体価測定用試薬2を125μlを加え、更に37℃で5分間反応させ4〜5分間放置後、G6PDH の活性値を、1分間あたりの340nmの吸光度変化(△A1)として測定した。さらに、先に用いた干渉作用がある血清試料と同等の補体価を有し、干渉作用が無いことが確認されている血清についても、各々の試薬を用いて同様の操作を行い△A2を得た。これらの値を下記式に当てはめ、干渉作用回避率を求めた。
【0045】
Figure 0004178632
【0046】
得られた値を表1に示す。また、抗体無添加の補体価測定用試薬2を用い、干渉作用のない血清試料を測定して求めた△A2を100とし、各種抗体を添加した補体価測定用試薬2を用いて求めた△A2のこれに対する比率を、補体活性維持率として表2に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1
Figure 0004178632
【0049】
表1の結果から、抗ヒトIgMモノクローナル抗体・クローンNo.101、抗ヒトIgMモノクローナル抗体・クローンNo.102及びF(ab')2化抗ヒトIgMヤギ抗体等のヒト免疫グロブリンを認識する抗体に、試料の補体価への干渉作用を回避する効果があることがわかった。特に、抗ヒトIgMモノクローナル抗体・クローンNo.101でその効果が最も大きかった。
【0050】
【表2】
【0051】
表2
Figure 0004178632
【0052】
表2の結果から、抗ヒトIgMモノクローナル抗体・クローンNo.101、抗ヒトIgMモノクローナル抗体・クローンNo.102及びF(ab')2化抗ヒトIgMヤギ抗体の、補体活性維持率はほぼ100%であり、これらの抗体は補体活性を阻害しないことがわかった。
【0053】
実施例2.
(1)補体価測定用赤血球試薬の調製
1mmol/L MgCl2、0.15mmol/L CaCl2及び0.1%ゼラチンを含む、イオン強度0.147のベロナール緩衝液(pH7.4)を調製し、補体価測定用試液3とした。また、この一部に実施例1で用いた抗ヒトIgMモノクローナル抗体(クローンNo.101)を0.014mg/mlとなるように添加し、補体価測定用試液4とした。
【0054】
ヒツジ赤血球に溶血素[抗ヒツジ赤血球抗体(ウサギ)]を常法(例えば「補体学」稲井ら著、122-126頁,第2刷,昭和58年,医歯薬出版株式会社、)により感作し、感作ヒツジ赤血球を得た。これを3.3×108個/mlとなるように補体価測定用試液3で希釈し、補体価測定用試液5を調製した。
【0055】
(2)干渉作用回避効果の比較
上記(1)で調製した補体価測定用試薬を用い、以下に示す方法で測定を行って干渉作用回避効果を調べた。
【0056】
補体価への干渉作用があることが確認されている血清試料3μlと、補体価測定用試薬3又は4 260μlとを混合し、37℃で5分間インキュベーションした後、 補体価測定用試薬5を60μlを加え、更に37℃で5分間反応させ、その5分間に減少した濁度を660nmで測定した(△A3)。さらに、先に用いた干渉作用があることが確認されている血清試料と同等の補体価を有し、干渉作用が無いことが確認されている血清についても、それぞれの試薬で同様の操作を行い△A4を得た。これらの値を下記式に当てはめ、干渉作用回避率を求めた。
【0057】
Figure 0004178632
【0058】
得られた値を表3に示す。また、補体価測定用試薬3を用い、干渉作用のない血清試料を測定して求めた△A4を100とし、補体価測定用試薬4で求めた△A4の比率を、補体活性維持率として表4に示す。
【0059】
【表3】
【0060】
表3
Figure 0004178632
【0061】
【表4】
【0062】
表4
Figure 0004178632
【0063】
表3及び4の結果から、抗ヒトIgMモノクローナル抗体・クローンNo.101は血清試料の補体活性を阻害せず、しかも測定試料による補体価への干渉作用を回避できることがわかった。
【0064】
【発明の効果】
本発明は、測定用試薬にヒト免疫グロブリンを認識する抗体を添加することを特徴とする補体価測定方法及びその試薬を提供するものであり、本発明を使用することによって、測定試料中のリウマチ因子等から受ける補体価への干渉作用を軽減し、良好な再現性で高精度に補体価が測定できるという顕著な効果を奏する。

Claims (11)

  1. (1)ヒト免疫グロブリンに特異的に結合する、古典的経路の補体活性化能を有さない抗体又はその F(ab') 2 フラグメント若しくは Fab' フラグメント、或いは(2)ヒト免疫グロブリンに特異的に結合する、古典的経路の補体活性化能を有する抗体の F(ab') 2 フラグメント又は Fab' フラグメントの存在下で補体価を測定することを特徴とする、補体価測定方法。
  2. (1)のヒト免疫グロブリンに特異的に結合する、古典的経路の補体活性化能を有さない抗体が、マウス IgG 、マウス IgA 、ラット IgG 及びラット IgA から選ばれる抗体である、請求項1記載の測定方法。
  3. 補体価測定方法が、標識物質を内包しその膜上に抗原を固定化したリポソームと当該抗原に対する抗体を用い、当該抗原固定化部位における抗原抗体反応によって活性化された補体が当該リポソームを破壊することにより当該リポソーム内から放出される標識物質の量から補体活性値を求めるものである、請求項1又は2に記載の測定方法。
  4. 補体価測定方法が、溶血素で感作した赤血球膜上の免疫複合体により活性化された補体によって生じる感作血球懸濁液の濁度の変化に基づいて補体活性値を求めるものである、請求項1又は2に記載の測定方法。
  5. 抗体がモノクローナル抗体である、請求項1〜4に記載の測定方法。
  6. (1)ヒト免疫グロブリンに特異的に結合する、古典的経路の補体活性化能を有さない抗体又はその F(ab') 2 フラグメント若しくは Fab' フラグメント、或いは(2)ヒト免疫グロブリンに特異的に結合する、古典的経路の補体活性化能を有する抗体の F(ab') 2 フラグメント又は Fab' フラグメントを含有する、補体価測定用試薬。
  7. (1)のヒト免疫グロブリンに特異的に結合する、古典的経路の補体活性化能を有さない抗体が、マウス IgG 、マウス IgA 、ラット IgG 及びラット IgA から選ばれる抗体である、請求項6記載の測定用試薬。
  8. (1)ヒト免疫グロブリンに特異的に結合する、古典的経路の補体活性化能を有さない抗体又はその F(ab') 2 フラグメント若しくは Fab' フラグメント、或いは(2)ヒト免疫グロブリンに特異的に結合する、古典的経路の補体活性化能を有する抗体の F(ab') 2 フラグメント又は Fab' フラグメントを含有する試薬と、膜上に抗原が固定化された標識物質内包リポソームを含有する試薬と、膜上に固定化された抗原に対する抗体を含有する試薬とを含んでなる補体価測定用試薬キット。
  9. (1)のヒト免疫グロブリンに特異的に結合する、古典的経路の補体活性化能を有さない抗体が、マウス IgG 、マウス IgA 、ラット IgG 及びラット IgA から選ばれる抗体である、請求項8記載の測定用試薬キット。
  10. (1)ヒト免疫グロブリンに特異的に結合する、古典的経路の補体活性化能を有さない抗体又はその F(ab') 2 フラグメント若しくは Fab' フラグメント、或いは(2)ヒト免疫グロブリンに特異的に結合する、古典的経路の補体活性化能を有する抗体の F(ab') 2 フラグメント又は Fab' フラグメントを含有する試薬と、溶血素感作血球を含有する試薬とを含んでなる補体価測定用試薬キット。
  11. (1)のヒト免疫グロブリンに特異的に結合する、古典的経路の補体活性化能を有さない抗体が、マウス IgG 、マウス IgA 、ラット IgG 及びラット IgA から選ばれる抗体である、請求項10記載の測定用試薬キット。
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