JP4177146B2 - 2層反射防止膜 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ファラデー回転子、固体レーザ素子、ガラスレーザ素子、セラミックレーザ素子、波長変換素子、カメラレンズ、眼鏡レンズなど光学部品に設けられる反射防止膜(光学薄膜)に係り、特に、反射率をゼロにすることを可能とする反射防止膜(光学薄膜)の改良に関するものである。
【0002】
尚、光学薄膜とは、光の波長程度の薄い膜による干渉を利用して上記反射防止膜、反射膜、狭帯域フィルター、偏光膜等の機能をさせる薄膜をいう。
【0003】
【従来の技術】
【0004】
【特許文献1】
特公平7−117603号公報(第3欄38行〜第4欄10行)
【非特許文献1】
「Thin-film optical filters 2nd edn」(H.A.Macleod, Bristol Adam Hilger Ltd. P95-100, 1986)
【0005】
この種の光学薄膜は、従来、表1に示す膜材料を用いて構成されていた。
【0006】
【表1】
そして、目的に応じて、光学薄膜には上記反射膜防止膜、反射膜、狭帯域フィルターや偏光膜等の多くの種類がある。
【0007】
以下、反射膜防止膜を例に挙げて従来の光学薄膜を説明する。
【0008】
まず、最も単純な反射防止膜は単層反射防止膜であるが、単層反射防止膜に用いる上記膜材料としては、以下の数式(I)で示される膜の屈折率(Nf)の条件を満足しなければならない。
【0009】
Nf=√(N0・Ns) (I)
尚、数式(I)中、N0は媒質の屈折率、Nsは単層反射防止膜が施される基板の屈折率を示している。
【0010】
そして、代表的な光学ガラスBK7基板の屈折率は1.52、石英基板の屈折率は1.45程度であることから、空気中(N0=1.00)で単層反射防止膜に適した屈折率を有する一般的な膜材料は存在しなかった(表1参照)。
【0011】
次に単純な反射防止膜は2層反射防止膜である。そして、この2層反射防止膜は、コンポジット膜法を適用することで、ある数値範囲の基板屈折率に対する膜設計が可能になる。
【0012】
但し、この2層反射防止膜を高出力レーザ用として適用する場合、耐レーザ損傷の高い膜材料を用いて反射防止膜を設計する必要がある。そして、耐レーザ損傷性の高い膜材料は、一般的にSiO2とAl2O3である。
【0013】
ところで、コンポジット膜法(非特許文献1参照)は、膜材料の屈折率により理論的に反射率がゼロとなる基板の屈折率の上限が以下の数式(II)に示すように決まっている。
【0014】
Ns<N0・(N2/N1)2 数式(II)
尚、数式(II)中、N0は媒質の屈折率、Nsは反射防止膜が施される基板の屈折率、N1は膜材料の媒質側層の屈折率、N2は膜材料の基板側層の屈折率を示している。
【0015】
そして、SiO2とAl2O3の膜材料を用いてコンポジット膜法による2層反射防止膜が設計できる基板の屈折率は上記数式(II)から1.23までである。
【0016】
従って、コンポジット膜法を用いて代表的な光学ガラスBK7基板や石英基板についてその反射率をゼロにする膜設計は困難であった(表1参照)。
【0017】
尚、このコンポジット膜法を採用して光学ガラスBK7と石英基板に適用する反射防止膜の反射率が最も小さくなるように設計した膜構成について、その具体例を以下の表2と表3に示し、かつ、それぞれの反射防止膜における分光反射率を図1と図2に示す。
【0018】
【表2】
【0019】
【表3】
そして、図1と図2に示すグラフ図から、反射率をゼロにすることが困難であることが確認される。
【0020】
【発明が解決しようとする課題】
このように反射防止膜等の光学薄膜を設計する場合、必要とする屈折率の膜材料を選択することはもちろん、高出力レーザに用いるには膜材料の耐レーザ損傷性等、光通信に用いるには耐候性等も重要な要素となる。
【0021】
例えば、最もよく利用される光学薄膜の1つの反射防止膜を設計するには、反射防止膜を施す基板の屈折率を考慮して屈折率の異なる膜材料を少なくとも2種類以上選択し、選択された膜材料を用いて目的とする反射防止膜を構成する。
【0022】
そして、最小限の膜総数で目的の反射防止膜を構成するためには、反射防止膜を構成する各層に必要とする屈折率の膜材料を適用する必要がある。
【0023】
もし、必要とする屈折率を有する膜材料が存在しない場合は、少なくとも2層以上の光学薄膜を用いて等価な膜を設計(例えば、特許文献1に記載された3層等価膜法)して用いることになる。
【0024】
従って、利用可能な屈折率を有する膜材料の種類が多いほど、反射防止膜における設計自由度を広げることができる。また、2種類の膜材料を用いて反射防止膜を設計する場合、各膜材料の屈折率差が大きい程設計に自由度が広がる。
【0025】
しかし、使用波長において目的とする屈折率に近く、かつ、使用波長において透過率の高い膜材料が選択された場合でも、用途によっては利用できないことがある。
【0026】
例えば、海底ケーブルの光通信に使用する反射防止膜は、長期信頼性が必要とされるので高温高湿に耐える膜材料を用いた光学薄膜で構成することを要する。また、高出力レーザに用いる反射防止膜、反射膜や偏光膜は、レーザ損傷閾値が高い膜材料を用いた光学薄膜で構成しなくてはならない。
【0027】
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、新規な膜材料を用いて反射率をゼロにできる2層反射防止膜(光学薄膜)を提供することにある。
【0028】
【課題を解決するための手段】
すなわち、請求項1に係る発明は、
基板上に形成される第一薄膜と、この第一薄膜上に形成される第二薄膜とで構成される2層反射防止膜において、
屈折率1.52の光学ガラスにより基板が構成され、かつ、屈折率1.80でその光学的膜厚(0.188/0.25)×(λ/4)のYAG(Y 3 Al 5 O 12 :イットリウムアルミニウムガーネット)により第一薄膜が構成されると共に、屈折率1.44でその光学的膜厚(0.276/0.25)×(λ/4)のSiO 2 により第二薄膜が構成されることを特徴とし、
(但し、λは設計中心波長である)
請求項2に係る発明は、
基板上に形成される第一薄膜と、この第一薄膜上に形成される第二薄膜とで構成される2層反射防止膜において、
屈折率1.45の石英により基板が構成され、かつ、屈折率1.80でその光学的膜厚(0.154/0.25)×(λ/4)のYAG(Y 3 Al 5 O 12 :イットリウムアルミニウムガーネット)により第一薄膜が構成されると共に、屈折率1.44でその光学的膜厚(0.296/0.25)×(λ/4)のSiO 2 により第二薄膜が構成されることを特徴とし、
(但し、λは設計中心波長である)
請求項3に係る発明は、
請求項1または2に記載の2層反射防止膜において、
上記第一薄膜が、YAG(Y 3 Al 5 O 12 :イットリウムアルミニウムガーネット)の結晶体若しくは焼結体を蒸着材料若しくはスパッタターゲットとして成膜された薄膜により構成されていることを特徴とするものである。
【0030】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0031】
YAG(Y3Al5O12:イットリウムアルミニウムガーネット)はレーザ結晶として知られているように非常に硬度が高く、熱伝導率もよく、化学的にも安定で、透過波長域も約250〜5000nmと広く、さらに、光吸収も非常に少なく、耐レーザ損傷性も高いことから、本発明者等はYAGのこれ等特性に着目して光学薄膜への応用を試み、上記課題を解決している。
【0032】
また、YAGの屈折率は約1.80で、耐レーザ損傷性が高く、硬度の高い膜として知られている屈折率1.60の上記Al2O3よりも屈折率が大きいため、屈折率1.44のSiO2と組合わせて光学薄膜を設計した場合、屈折率の差が大きいことから膜設計の自由度を広げることを可能とする。すなわち、SiO2の光学薄膜とYAG(Y3Al5O12:イットリウムアルミニウムガーネット)を主成分とする光学薄膜を組み合わせることで、上述したSiO2とAl2O3の組み合わせでは実現できなかった反射防止膜の反射率をほとんどゼロにすることを可能にしたり、反射防止膜の膜層数を減らしたり、あるいは、反射防止の帯域を広くしたりすことが可能となる。
【0033】
本発明は、膜材料として、YAG(Y 3 Al 5 O 12 :イットリウムアルミニウムガーネット)の結晶体若しくは焼結体を蒸着材料若しくはスパッタターゲットとして成膜された薄膜、および、SiO 2 の薄膜を光学薄膜に用いると共に、基板として光学ガラス若しくは石英を用いて反射率をほとんどゼロにできる2層反射防止膜を提供するものである。
すなわち、基板として光学ガラスを用いた本発明の2層反射防止膜は、
基板上に形成される第一薄膜と、この第一薄膜上に形成される第二薄膜とで構成される2層反射防止膜を前提とし、
屈折率1.52の光学ガラスにより基板が構成され、かつ、屈折率1.80でその光学的膜厚(0.188/0.25)×(λ/4)のYAG(Y 3 Al 5 O 12 :イットリウムアルミニウムガーネット)により第一薄膜が構成されると共に、屈折率1.44でその光学的膜厚(0.276/0.25)×(λ/4)のSiO 2 により第二薄膜が構成されることを特徴とするものである。
(但し、λは設計中心波長である)
また、上記基板として石英を用いた本発明の2層反射防止膜は、
基板上に形成される第一薄膜と、この第一薄膜上に形成される第二薄膜とで構成される2層反射防止膜を前提とし、
屈折率1.45の石英により基板が構成され、かつ、屈折率1.80でその光学的膜厚(0.154/0.25)×(λ/4)のYAG(Y 3 Al 5 O 12 :イットリウムアルミニウムガーネット)により第一薄膜が構成されると共に、屈折率1.44でその光学的膜厚(0.296/0.25)×(λ/4)のSiO 2 により第二薄膜が構成されることを特徴とするものである。
(但し、λは設計中心波長である)
【0038】
また、本発明は、Y2O3(イットリア)とAl2O3(アルミナ)の結晶体若しくは焼結体を蒸着材料若しくはスパッタターゲットとして成膜されたYAG(Y 3 Al 5 O 12 :イットリウムアルミニウムガーネット)も光学薄膜に用いることができる。
【0047】
【実施例】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。
【0048】
尚、実施例では、YAGと他の膜材料を比較すると共に、YAGを反射防止膜用に設計して従来の反射防止膜の特性と比較する。
【0049】
膜材料にはYAG組成の焼結体とYAG結晶を用い、電子ビーム蒸着法とマグネトロンスパッタ法により成膜を行った。成膜中には、膜に酸素が不足して光吸収が増加しないように、どちらもYAG薄膜の成膜中には酸素を導入した。
【0050】
このように成膜したYAG薄膜の屈折率は約1.80であり、Al2O3の1.60より高く、Y2O3の1.85より低かった。
【0051】
次に、これ等膜材料を用いて成膜した光学薄膜の各種特性を調べるため、以下のテストを行い、SiO2、Al2O3、ZrO2、Ta2O5を膜材料にして成膜した光学薄膜と相対的に比較した。尚、結果を表4に示す。
【0052】
耐候性(PCTプレッシャークッカ - テスト)
温度105℃、湿度100%、2気圧で500時間経過後、ピンホールからの水分の浸透によるシミの広がりを50倍の顕微鏡で観察する。
【0053】
尚、表4において、良好を「○」、不良を「×」、その中間を「△」にて示す。
【0054】
擦傷性
2kgの加重をかけたスチールウールで10回往復擦り、傷を観察する。
【0055】
尚、表4において、傷なしを「○」、傷が多を「×」、その中間を「△」にて示す。
【0056】
付着力
接着剤(エポキシ接着剤)を用いて光学薄膜表面に引っ張り試験治具(丸棒)を固定し、基板と膜界面から剥がれるまで引っ張り試験機により引っ張り、その引っ張り力の相対強度を比較する。
【0057】
尚、表4において、付着力が強い場合を「○」、付着力が弱い場合を「×」、その中間を「△」にて示す。
【0058】
レーザ損傷閾値
Nd:YAGレーザにおける第2高調波の波長:532nm、パルス幅:8nsのレーザをレンズを用いて集光させ、どの程度のパワー密度(J/cm2)まで損傷を受けないかを調べる。
【0059】
尚、表4において、レーザ損傷閾値が比較的高い場合を「○」、レーザ損傷閾値が比較的低い場合を「×」、その中間を「△」にて示す。また、レーザ損傷閾値が極めて高い場合を「◎」にて示す。
【0060】
【表4】
『比較試験結果』
1.表4「耐候性」の欄に示された結果から確認されるように、YAGは、ZrO2やTa2O5を膜材料として成膜した光学薄膜よりピンホールからの水分の浸透によるシミの広がりが少なかった。
【0061】
YAGはグレインサイズが細かく緻密なため、耐候性(耐湿性)が高いと考えられる。
2.表4「擦傷性」の欄に示された結果から確認されるように、YAGは従来ハードコートに用いられていたSiO2を膜材料として成膜した光学薄膜よりも明らかに優れていた。
3.表4「付着力」の欄に示された結果から確認されるように、基板がガラスの場合、YAGおよびSiO2を膜材料にして成膜した膜で良好な付着力が得られているが、基板がYAG結晶の場合、基板側層がYAGの方が良好な付着力を得ることができる。
4.表4「レーザ損傷閾値」の欄に示された結果から確認されるように、YAGは、YAG結晶がレーザ結晶に使用されているように光吸収が少なく、酸化物系の薄膜の中ではSiO2膜の次にレーザ損傷閾値が高い。
【0062】
次に、本発明に係る光学薄膜を反射防止膜用に具体的に設計した実施例について詳細に説明する。
【0063】
コンポジット膜法は、上述したように膜材料の屈折率により理論的に反射率がゼロとなる基板の屈折率の上限が数式(II)に示すように決まっている。
【0064】
Ns<N0・(N2/N1)2 数式(II)
そして、SiO2とAl2O3の膜材料を用いてコンポジット膜法による2層反射防止膜が設計できる基板の屈折率は上記数式(II)から1.23まででまであったが、SiO2と屈折率1.80のYAGを膜材料にして成膜した光学薄膜を用いることで、コンポジット膜法により反射率がゼロになる基板の屈折率の上限は上記数式(II)から1.56になる。
【0065】
従って、本発明により、光学ガラスBK7や石英の反射率をゼロにする2層反射防止膜の設計が可能となる。
【0066】
表5と表6にはそれぞれSiO2とYAGを用いて、コンポジット膜法により設計した2層反射防止膜の膜構成を示し、かつ、それぞれの反射防止膜における分光反射特性を図3と図4に示す。
【0067】
【表5】
【0068】
【表6】
【0069】
【発明の効果】
本発明に係る2層反射防止膜によれば、
光学薄膜としてのYAGが具備する耐候性、硬度、付着力等の特性を生かしてこの膜を基板側に用いて光学薄膜を設計することで、反射率をゼロにすることが可能となる効果を有する。
【0070】
さらに、光学薄膜としてのYAGは、耐レーザ損傷性にも優れているので、SiO2と組み合わせることにより、耐レーザ損傷性に優れた2層反射防止膜を得ることができる効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来の光学薄膜が適用された反射防止膜の分光反射特性を示すグラフ図。
【図2】従来の光学薄膜が適用された反射防止膜の分光反射特性を示すグラフ図。
【図3】 光学薄膜としてYAGが適用された本発明に係る2層反射防止膜の分光反射特性を示すグラフ図。
【図4】 光学薄膜としてYAGが適用された本発明に係る2層反射防止膜の分光反射特性を示すグラフ図。
Claims (3)
- 基板上に形成される第一薄膜と、この第一薄膜上に形成される第二薄膜とで構成される2層反射防止膜において、
屈折率1.52の光学ガラスにより基板が構成され、かつ、屈折率1.80でその光学的膜厚(0.188/0.25)×(λ/4)のYAG(Y 3 Al 5 O 12 :イットリウムアルミニウムガーネット)により第一薄膜が構成されると共に、屈折率1.44でその光学的膜厚(0.276/0.25)×(λ/4)のSiO 2 により第二薄膜が構成されることを特徴とする2層反射防止膜。
(但し、λは設計中心波長である) - 基板上に形成される第一薄膜と、この第一薄膜上に形成される第二薄膜とで構成される2層反射防止膜において、
屈折率1.45の石英により基板が構成され、かつ、屈折率1.80でその光学的膜厚(0.154/0.25)×(λ/4)のYAG(Y 3 Al 5 O 12 :イットリウムアルミニウムガーネット)により第一薄膜が構成されると共に、屈折率1.44でその光学的膜厚(0.296/0.25)×(λ/4)のSiO 2 により第二薄膜が構成されることを特徴とする2層反射防止膜。
(但し、λは設計中心波長である) - 上記第一薄膜が、YAG(Y 3 Al 5 O 12 :イットリウムアルミニウムガーネット)の結晶体若しくは焼結体を蒸着材料若しくはスパッタターゲットとして成膜された薄膜により構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の2層反射防止膜。
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