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JP4176968B2 - レーザ曲げ加工方法及びレーザ曲げ加工装置 - Google Patents

レーザ曲げ加工方法及びレーザ曲げ加工装置 Download PDF

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JP4176968B2 JP2001037647A JP2001037647A JP4176968B2 JP 4176968 B2 JP4176968 B2 JP 4176968B2 JP 2001037647 A JP2001037647 A JP 2001037647A JP 2001037647 A JP2001037647 A JP 2001037647A JP 4176968 B2 JP4176968 B2 JP 4176968B2
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はレーザ加工に係わり、特に金属薄板をレーザ照射により曲げるレーザ曲げ加工方法及び装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
レーザを照射して金属薄板を曲げ成形したり、金属薄板のそりを修正したりする技術が知られている。従来のレーザによる金属薄板の曲げ加工では、被加工材としての金属薄板の表面にレーザの焦点を合わせて照射する(いわゆるジャストフォーカス)ことにより、効率よく金属薄板を曲げ加工している。
【0003】
従来のレーザ曲げ加工では、金属薄板の表面をレーザの照射により所定の温度に加熱し且つ裏面は加熱されないようにしておく。そして、加熱された部分が冷却される間に表側と裏側に応力差が発生して被加工物が自ら変形するという現象を利用して、被加工物を曲げ加工している。この場合、被加工材が曲がる方向は、レーザが照射された方向に凹となる方向である。
【0004】
このように、従来のレーザ曲げ加工では、ジャストフォーカスあるいはそれに近い状態でレーザを照射することにより、被加工材の裏面の温度が上昇する前に迅速に表面を加熱することで表面と裏面との温度差を得ている。特に、被加工材を治具等の支持台に載置した状態でレーザ照射を行った場合は、被加工材の裏面(治具に接する面)から治具に多量の熱が逃げるため、レーザを照射部分の表面と裏面との温度差は大きくなる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上述の従来のレーザ曲げ加工では、金属薄板等の被加工材をレーザ照射方向に凹となる方向のみにしか曲げることはできないと考えられていた。すなわち、レーザの照射による加熱と冷却による被加工材内の応力差により被加工材を曲げる加工方法では、レーザ照射側の部分がある温度まで急速に加熱されてから急速に冷却される過程において、被加工材のレーザ照射側(表側)の方が裏側より収縮が大きく、このため被加工材がレーザ照射方向に凹となる方向に曲がると考えられていた。したがって、被加工物をレーザ照射方向に凸となる方向に曲げることはできないと考えられていた。
【0006】
したがって、被加工材を両方向に曲げる必要がある場合は、被加工材の表裏両方向からレーザを照射していた。すなわち、被加工材の表裏両側に個別のレーザ照射ヘッドを設けたり、被加工材を反転する機構を設けたりしていた。このように、両方向に曲げる場合は、レーザ曲げ加工装置の構造が複雑になり、製造コストも高くなっていた。
【0007】
また、被加工材のなかには、リレーの接点として使用される部品のように、片面にコイルやモールド部品等が予め形成されているような場合がある。このような被加工材の場合、裏面側からレーザを照射することはできないため、一方向の曲げ加工しかできない。したがって、所望の形状に曲げ加工を行うことが難しく、また、曲げ加工が多き過ぎたが合い等は反対に曲げて修正することができないという問題があった。
【0008】
例えば、磁気ヘッドを弾性的に支持するサスペンションのロール角やピッチ角を調整あるいは修正するためにレーザ曲げ加工を用いる場合がある。この場合、ロール角及びピッチ角の各々は一方向からのレーザ照射により調整できる。しかし、一方向からだけのレーザ照射では、サスペンションの先端位置が変移してしまうという問題が生じ、正確な寸法を維持したうえでの調整を行うことは困難であった。また、磁気ヘッド用のサスペンションは、その裏面側に信号伝達用の導電パターンが設けられており、裏面からのレーザ照射ができないため一方向の曲げ加工しか行うことができないという問題もあった。
【0009】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、一方向からのレーザ照射により被加工材を両方向に曲げることのできるレーザ曲げ加工方法及び装置を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するために本発明では、次に述べる各手段を講じたことを特徴とするものである。
【0011】
請求項1に記載の発明は、板ばねに用いられる金属板のレーザ曲げ加工方法であって、金属板にテンションアニールを施し、テンションアニールされた該金属板の表面にデフォーカスしたレーザを照射して走査することにより、レーザ走査位置において前記金属板の前記表面側が凸となるように前記金属板を曲げることを特徴とするものである。
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、テンションアニールが施された金属板に所定のデフォーカス状態でレーザを照射することにより、金属板をレーザ照射方向に凸な状態に曲げることができる。したがって、金属板の裏面側からレーザを照射することなく、表面からのレーザ照射により両方向の曲げ加工を行うことができる。これにより、両方向に曲げ加工可能なレーザ曲げ加工装置の構造が簡素化されるだけでなく、従来一方向のみの曲げ加工として用いていたレーザ曲げ加工装置を、簡単な改造により両方向の曲げ加工を行う装置に変更することができる。また、裏面側からのレーザ照射が困難な被加工材であっても、表面側からのレーザ照射により所望の曲げ加工を行うことができる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のレーザ曲げ加工方法であって、前記金属板の前記レーザ走査位置以外の部分を支持して、レーザ照射部分を空中に浮かせた状態でレーザを照射することを特徴とするものである。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、被加工材である金属板のレーザ照射位置に相当する部分を空中に浮かせた状態でレーザ照射する。このうような条件は、被加工材をレーザ照射方向に凸になるように曲げるために好ましい条件である。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のレーザ曲げ加工方法であって、前記金属板の前記表面の反対側の裏面に所定の温度の気体を接触させて前記金属板の温度を制御することを特徴とするものである。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、金属板のレーザ照射位置に対して所定の温度の気体を接触させることにより、金属板のレーザ照射される部分を予め加熱又は冷却しておくことができる。これによりレーザ曲げ加工の温度条件を制御することができ、最適な曲げ加工を達成することができる。
【0017】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のレーザ曲げ加工方法であって、前記気体は所定の温度に加熱された空気であり、該加熱された空気を前記金属板の裏面に吹き付けることを特徴とするものである。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、所定の温度に加熱された空気を被加工材の裏面側から吹き付けることにより、レーザ照射中の被加工材の温度を所定の温度に加熱することができる。被加工材の裏側から空気を吹き付けるだけ構成であるので、送風機とヒータ等の簡単な構成により、被加工材の温度制御を容易に達成することができる。
【0019】
請求項5に記載の発明は、請求項3に記載のレーザ曲げ加工方法であって、前記気体は所定の温度に冷却された空気であり、該冷却された空気を前記金属板の裏面に吹き付けることを特徴とするものである。
【0020】
請求項5に記載の発明によれば、所定の温度に冷却された空気を金属板の裏面に吹き付けることにより、レーザ照射中の被加工材の温度を所定の温度に冷却することができる。被加工材の裏側から空気を吹き付けるだけ構成であるので、送風機と冷却機等の簡単な構成により、被加工材の温度制御を容易に達成することができる。
【0021】
請求項6に記載の発明は、テンションアニールを施され、板ばねとして用いられる金属板のレーザ曲げ加工装置であって、レーザ発振器と、該レーザ発振器からのレーザを集光して金属板に向けて照射する光学系と、該光学系により集光したレーザが前記金属板の表面にデフォーカスされた状態で照射されるように、前記レーザのフォーカスを制御することで、前記金属板の前記表面側が凸ないしは凹となる変形を制御するフォーカス制御機構と、前記金属板のレーザ照射位置以外の部分を支持して、前記レーザ照射位置に相当する部分を空中に浮かせた状態で前記金属板を支持するワーク支持機構と、前記光学系と前記ワーク支持機構との少なくとも一方を移動して、デフォーカスされたレーザを前記金属板の前記表面で走査する走査機構と、前記金属板の前記表面の反対側の裏面に対して所定の温度の気体を吹き付けるための気体噴射ノズルとを有することを特徴とするものである。
【0022】
請求項6に記載の発明によれば、テンションアニールが施された金属板に所定のデフォーカス状態でレーザを照射することにより、金属板をレーザ照射方向に凸な状態に曲げることができる。したがって、金属板の裏面側からレーザを照射することなく、表面からのレーザ照射により両方向の曲げ加工を行うことができる。これにより、両方向に曲げ加工可能なレーザ曲げ加工装置の構造が簡素化されるだけでなく、従来一方向のみの曲げ加工として用いていたレーザ曲げ加工装置を、簡単な改造により両方向の曲げ加工を行う装置に変更することができる。また、裏面側からのレーザ照射が困難な被加工材であっても、表面側からのレーザ照射により所望の曲げ加工を行うことができる。また、金属板のレーザ照射位置に対して気体噴射ノズルから所定の温度の気体を噴射することにより、金属板のレーザ照射される部分を予め加熱又は冷却しておくことができる。これによりレーザ曲げ加工の温度条件を制御することができ、最適な曲げ加工を達成することができる。
【0023】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載のレーザ曲げ加工装置であって、前記フォーカス制御機構は、前記光学系によるレーザの焦点位置と前記金属板の表面との間の距離を制御することを特徴とするものである。
【0024】
請求項7に記載の発明によれば、光学系によるレーザの焦点位置と金属板の表面との間の距離を変えることにより、レーザ照射のデフォーカス量を調整することができる。したがって、簡単な構成でレーザ曲げ加工の条件を制御することができ、金属板の両方向の曲げを達成することができる。
【0025】
請求項8に記載の発明は、請求項6又は7記載のレーザ曲げ加工装置であって、前記レーザ発振器は、シングルモードによるパルス発振レーザ発振器であることを特徴とするものである。
【0026】
請求項8に記載の発明によれば、被加工材としての金属板に対してシングルモードによるパルス発振レーザを照射することができる。シングルモードによるパルス発振レーザは、レーザ照射方向に凸となる曲げ加工にとって好ましい条件である。
【0029】
請求項に記載の発明は、請求項6乃至8のうちいずれか一項記載のレーザ曲げ加工装置であって、前記気体噴射ノズルから噴射する気体は空気であり、該空気を圧送するための送風機と該空気を所定の温度に加熱又は冷却する温度制御装置とを有することを特徴とするものである。
【0030】
請求項に記載の発明によれば、所定の温度に加熱又は冷却した空気を気体噴射ノズルから噴射することにより、金属板を容易に加熱又は冷却することができる。空気を利用するため、送風機とヒータ又は冷却機等の簡単な構成により金属板の温度制御を達成することができる。
【0031】
まず、本発明によるレーザ曲げ加工の概要について図1を参照しながら説明する。本発明によるレーザ曲げ加工は、被加工材としての金属薄板をレーザ照射方向に凸となるように曲げることができることを特徴とするものである。以下、レーザ照射方向に凹となる曲げ方向を正方向と称し、レーザ照射方向に凹となる曲げ方向を逆方向と称する。
【0032】
図1はレーザ照射方向に凸となるように、すなわち逆方向に金属薄板を曲げる場合の条件を示す図である。逆方向の曲げを達成するには、照射するレーザのフォーカスを調整することが重要である。正方向の曲げでは、被加工材である金属薄板の表面付近に焦点が合うようにレーザのフォーカスを調整するが、本発明者は、意図的に焦点位置をずらして(デフォーカス)レーザを照射することにより逆方向曲げを達成することができることを見出した。逆方向曲げを達成するための条件は、レーザのデフォーカスが必須と考えられるが、その他にも様々な条件を満たす必要がある。
【0033】
図1に示す例では、被加工材として金属薄板2の端部を材料支持治具4により支持し、金属薄板2のレーザ照射位置を空中に浮かせた状態としてレーザ照射を行っている。上述のように、金属薄板2の表面に照射されるレーザは所定のデフォーカス状態とされる。すなわち、レーザ発振器(図示せず)から投射され集光レンズ6により焦点に集束して再び発散したレーザ光を、金属薄板2に照射する。ここで、デフォーカスの程度(デフォーカス量)は、金属薄板2のレーザ照射面2aと集光レンズ6の焦点位置との間の距離として表すことができる。また、デフォーカス量は、金属薄板2のレーザ照射面2aに形成されるレーザスポットの径によっても表すことができる。金属薄板2のレーザ照射面2aにおけるレーザスポット径が小さいほどデフォーカス量は小さく(デフォーカスが少ない)、大きいほどデフォーカス量が大きい(デフォーカスが多い)。
【0034】
ここで、図2(a)に示すように、デフォーカス量が小さいと、金属薄板2は正方向に曲がる。すなわち、金属薄板2のレーザ照射面2aがレンズ6の焦点位置近傍に配置することにより、金属薄板2を正方向に曲げることができる。一方図2(b)に示すように、デフォーカス量が多いと、金属板2は逆方向に曲がる。すなわち、金属薄板2を集光レンズ6の焦点位置からずらして配置することにより、金属薄板2を逆方向に曲げることができる。
【0035】
以上の条件の他に、被加工材の前処理及びレーザの種類が、本発明によるレーザ曲げ加工において重要な条件となる。
【0036】
被加工材の前処理とは、被加工材にテンションアニールを施すことである。テンションアニールとは、ある程度の引張力を加えながら材料をアニールする処理であり、アニール後の材料には所定の大きさの引っ張り応力が残る。本発明によるレーザ曲げ加工では、被加工材にテンションアニールを施しておくことにより逆方向曲げを達成することができる。
【0037】
被加工材に照射するレーザは、パルス発振レーザであることが好ましい。連続発振レーザであっても逆方向曲げを達成することができるが、パルス発振レーザの方が容易に逆方向曲げを達成することができる。また、被加工材に照射するレーザは、シングルモード発振によるレーザであることが好ましい。本発明者が行った実験では、マルチモード発振によるレーザでは逆方向曲げを達成することはできなかった。
【0038】
本発明によるレーザ曲げ加工によれば、上述の条件を各々最適にすることにより逆方向曲げを達成することができる。本発明者は上述の条件を変えて様々な実験を行い、逆方向曲げを達成できる条件を見出した。図3はその実験結果を説明するための図である。
【0039】
実験において、被加工材としてばね用ステンレス鋼板であるSUS304−CSPを用いた。板の厚みは20μmとした。ステンレス鋼板は、予めテンションアニールを施したものと、テンションアニールを施していないものとを準備した。テンションアニールを施したものと施さないものの各々に対して、2つの支持方法(加工状態:A、加工状態:B)により実験を行った。すなわち、(加工状態:A)では、被加工材の一端を支持してレーザ照射部が空中に浮いた状態でレーザを照射(走査)した。また、(加工状態:B)では、治具の面に被加工材を載置し、被加工材の裏面が治具の面に接触している状態でレーザを照射(走査)した。
【0040】
レーザ光源としてパルス発振YAGレーザ発振器を用い、シングルモードのレーザ光を発振した。パルスの幅は0.2msであり、パルス速さすなわちパルスの周波数は50Hzであった。レーザのエネルギは3mJ/Pと7mJ/Pの2段階で行った。
【0041】
上述のようなレーザ発振器から投射されたレーザを、集光レンズを含む光学系により、被加工材のステンレス鋼板のレーザ照射面においてレーザスポット径が0.2mm及び0.4mmとなるように集光し、走査速度100mm/minでレーザ照射面上を直線走査した。ここで、レーザスポット径を0.2mmとした場合は、レーザのデフォーカス量が小さい場合の例であり、レーザスポット径を0.4mmとした場合は、レーザのデフォーカス量が大きい場合の例である。
【0042】
以上のような条件で行った実験の結果、図3の第2項に示すように、テンションアニールを施したステンレス鋼板を、空中に浮くように支持し(加工状態:A)、7mJ/Pのエネルギで、デフォーカス量を大きくした(スポット径0.4mm)レーザを照射した場合に、ステンレス鋼板を逆方向に曲げることができた。曲げ角度は一回のレーザ走査で1度であった。
【0043】
その他の条件では、曲げ角度は異なるが、ステンレス鋼板はすべて、正方向に曲がった。例えば、図3に示す第4項は第2項の条件とは加工状態のみが異なるものであるが、この違いだけでも、ステンレス鋼板の曲がる方向は反対(正方向)であった。
【0044】
このように、逆方向に曲げるための条件は様々な条件要素が互いに作用して成立しているようであるが、同じ条件による繰り返しの実験により、十分に再現性があることが確認された。また、上述の実験では被加工材としてステンレス鋼板を用いたが、例えば燐青銅の薄板や銅薄板でも同様にレーザ曲げ加工を行うことができることが確認された。
【0045】
ここで、図3に示す第1項と第2項の条件及び曲げ方向について着目する。第1項の条件と第2項の条件で相違する要素は、レーザのエネルギとレーザスポット径の大きさだけである。すなわち、第1項の条件では、レーザエネルギを3mJ/Pとし、レーザスポット径を0.2mmとすることにより、ステンレス鋼は正方向に曲げられている。一方、第2項の条件では、レーザエネルギを7mJ/Pとし、レーザスポット径を0.4mmとすることにより、ステンレス鋼は逆方向に曲げられている。
【0046】
したがって、同じ方向からレーザを照射しながら、レーザのエネルギを増大しし且つレーザスポット径を大きくする(デフォーカス量を大きくする)ことにより正方向曲げ及び逆方向曲げの両方を達成することができる。すなわち、被加工材を支持治具により支持したまま、レーザパワーとデフォーカス量を制御するだけで正逆両方向の曲げを達成することができる。
【0047】
なお、図3に示した変形角度は一回のレーザ走査により曲がった角度であり、繰り返して同じ位置を走査することにより、変形角度を増大することができる。繰り返し走査回数を多くすれば、90度以上の曲げ角度を得ることも可能であった。また、繰り返し走査において徐々に走査位置を並行にずらしていくことにより、まるみのついた曲げ(R曲げ)を形成することもできる。
【0048】
上述のように、本発明によるレーザ曲げ加工により逆方向曲げを達成する条件の一つに、被加工材のレーザ照射位置に相当する部分を空中に浮かせた状態で被加工材を支持するとうい条件がある。この条件は、被加工材の裏面から熱が逃げ難くしている条件と考えられる。また、レーザ加工中の被加工材の温度が曲げ方向や曲げ角度に影響していることも考えられる。
【0049】
被加工材は、レーザ照射により部分的に温度が急上昇し、この部分が冷却されることにより曲げが発生するわけであるから、被加工材の温度を制御することは、レーザ曲げにとって重要な要素であると考えられる。
【0050】
本発明によるレーザ加工法では、被加工材を空中に浮かせて加工を行うため、図4に示すように、被加工材である金属薄板2の裏面2bに空気(温風又は冷風)を吹き付けることができる。これにより、金属薄板2の温度をレーザ照射前に所定の温度に加熱又は冷却しておくことができる。図4に示す例では空気を吹き付ける構成であるが、空気に限ることなく、例えば窒素や二酸化炭素等の気体を吹き付けることとしてもよい。
【0051】
図4に示すような温度制御方法によれば、より効率的に正方向曲げと逆方向曲げとを達成することができる。例えば、正方向曲げは空気の吹き付けを行わずに従来どおり行い、逆方向曲げを行う場合だけ金属薄板2の裏面2a側から温風を吹き付けて温度差を小さくする。また、正方向曲げを行う場合に、裏面2aに冷風を吹き付けて金属薄板2の表裏の温度差を大きくすることにより、一回のレーザ走査における曲げ角度を大きくすることができる。このように、所望のレーザ曲げ加工に基づいて所定の温度の空気を金属薄板2の裏面2aに吹き付けることにより、効率的なレーザ曲げ加工を行うことができる。
【0052】
次に、本発明によるレーザ曲げ加工方法によりレーザ曲げ加工を行うレーザ曲げ加工装置について図5を参照しながら説明する。
【0053】
図5において、被加工材としての金属薄板2は、そのレーザ照射面(表面)2aを上にして、材料支持治具4により支持される。材料支持治具4はワーク支持機構として機能し、金属薄板2はその端部が材料支持治具4により支持され、レーザ照射位置は空中に浮いた状態である。
【0054】
金属薄板2の上方には、レーザ集光ヘッド10が配置されている。レーザ集光ヘッド10は、集光レンズ6を含む光学系を有しており、供給されたレーザ光を集光しながら金属薄板2のレーザ照射面2aに照射する。レーザ集光ヘッド10に供給されるレーザ光は、パルス発振を行うレーザ発振器12により生成される。レーザ発振器12からのレーザ光は、光ファイバ14を通じてレーザ集光ヘッド10に供給される。
【0055】
レーザ集光ヘッド10は、水平方向(X−Y方向)及び垂直方向(Z方向)に移動可能な構成となっている。すなわち、レーザ集光ヘッド10はX−Y移動機構16により水平方向に移動可能である。レーザ集光ヘッド10を水平移動することにより、レーザスポット径を変えずにレーザを金属薄板2のレーザ照射面2a上で走査することができる。したがって、X−Y移動機構はレーザの走査機構である。
【0056】
また、レーザ集光ヘッド10はZ移動機構18により垂直方に移動可能である。レーザ集光ヘッド10を垂直方向に移動することにより、集光レンズ6の焦点位置と金属薄板2のレーザ照射面2aとの間の距離を変えることができる。すなわち、Z移動機構はレーザのフォーカス制御機構である。したがって、レーザ集光ヘッド10を垂直方向に移動することにより、レーザのデフォーカス量を制御することができる。X−Y移動機構16及びZ移動機構18はレーザ集光ヘッド駆動部20を形成する。
【0057】
なお、本実施例ではレーザ集光ヘッド10を移動してレーザの走査及びデフォーカス量の制御を行っているが、材料支持治具4を駆動して被加工材2を移動することとしても、同様にレーザの走査及びデフォーカス量の調整を行うことができる。
【0058】
被加工材としての金属薄板2の裏面2b側には、気体噴射ノズル22が設けられる。気体噴射ノズル22は所定の温度に加熱又は冷却された気体を金属薄板2の裏面2aに向かって噴出する。図5に示すレーザ曲げ加工装置では、所定の温度に加熱又は冷却された空気を気体噴射ノズル22から噴出して、金属薄板2の温度を制御する。
【0059】
気体噴射ノズル22から噴射する空気は、電気ヒータ等よりなる温風発生機24又は冷却器等よりなる冷風発生機26により生成され、送風機としてのポンプ28により基体噴射ノズル22に送られる。すなわち、金属薄板2を加熱する場合は温風発生機24からの空気を気体噴出ノズル22から噴出し、金属薄板2を冷却する場合は冷風発生機26からの空気を気体噴出ノズル22から噴出する。
【0060】
レーザ発振器12、レーザ集光ヘッド駆動部20、温風発生機24、冷風発生機26、及びポンプ28は、装置制御部30により制御され、所望のレーザ曲げ加工を行うことがきる。
【0061】
また、図5に示すレーザ曲げ加工装置には、金属薄板2の変位やばね圧をリアルタイムで測定するセンサ32が設けられる。センサ32による測定動作も、装置制御部30により制御される。これにより、金属薄板2の曲げ角度を測定しながらレーザ曲げ加工を行うことができ、金属薄板2を正確な角度で曲げることができる。
【0062】
また、金属薄板2が磁気ヘッドのサスペンションのような板ばねであり、板ばねのばね圧をレーザ曲げ加工により修正するような場合は、センサ32によりばね圧を測定しながらレーザ曲げ加工を行うことで、所望のばね圧を得ることができる。この場合、サスペンションを支持したまま、正逆両方向の曲げ加工を行うことができるため、ばね圧の修正を効率的に行うことができる。
【0063】
なお、上述の実施例では、レーザ発振器12としてYAGレーザを用いることができるが、これに限ることなく、必要なレーザパワーを有するレーザであれば、例えば炭酸ガス(CO2)レーザ等を用いることもできる。
【0064】
以上のように、本発明によるレーザ曲げ加工方法及び装置によれば、レーザの照射エネルギ量とデフォーカス量を制御するだけで、正逆両方向の曲げ加工を達成すことができる。このため、レーザ照射ヘッドを複数個使用する必要はなく、レーザ曲げ加工装置の構造が簡素化される。
【0065】
また、裏面に別部品が実装されているような被加工材であっても、被加工材の表面の一部が露出していれば、レーザ照射の条件を制御するだけで任意の形状やばね圧を得ることができる。このため、従来加工が困難であったような製品に対してもレーザ曲げ加工を適用することができる。
【0066】
また、磁気ヘッドのサスペンションのように、材料の裏面にレーザ照射により損傷を被るような材料が配置されている場合であっても、表面側からだけのレーザ照射により曲げ加工を行うことができるため、所望の精度を保ちながらサスペンションのピッチやロールを修正することができる。
【発明の効果】
上述の如く本発明によれば、次に述べる種々の効果を実現することができる。
【0067】
請求項1に記載の発明によれば、テンションアニールが施された金属板に所定のデフォーカス状態でレーザを照射することにより、金属板をレーザ照射方向に凸な状態に曲げることができる。したがって、金属板の裏面側からレーザを照射することなく、表面からのレーザ照射により両方向の曲げ加工を行うことができる。これにより、両方向に曲げ加工可能なレーザ曲げ加工装置の構造が簡素化されるだけでなく、従来一方向のみの曲げ加工として用いていたレーザ曲げ加工装置を、簡単な改造により両方向の曲げ加工を行う装置に変更することができる。また、裏面側からのレーザ照射が困難な被加工材であっても、表面側からのレーザ照射により所望の曲げ加工を行うことができる。
【0068】
請求項2に記載の発明によれば、被加工材である金属板のレーザ照射位置に相当する部分を空中に浮かせた状態でレーザ照射する。このうような条件は、被加工材をレーザ照射方向に凸になるように曲げるために好ましい条件である。
【0069】
請求項3に記載の発明によれば、金属板のレーザ照射位置に対して所定の温度の気体を接触させることにより、金属板のレーザ照射される部分を予め加熱又は冷却しておくことができる。これによりレーザ曲げ加工の温度条件を制御することができ、最適な曲げ加工を達成することができる。
【0070】
請求項4に記載の発明によれば、所定の温度に加熱された空気を被加工材の裏面側から吹き付けることにより、レーザ照射中の被加工材の温度を所定の温度に加熱することができる。被加工材の裏側から空気を吹き付けるだけ構成であるので、送風機とヒータ等の簡単な構成により、被加工材の温度制御を容易に達成することができる。
【0071】
請求項5に記載の発明によれば、所定の温度に冷却された空気を金属板の裏面に吹き付けることにより、レーザ照射中の被加工材の温度を所定の温度に冷却することができる。被加工材の裏側から空気を吹き付けるだけ構成であるので、送風機と冷却機等の簡単な構成により、被加工材の温度制御を容易に達成することができる。
【0072】
請求項6に記載の発明によれば、テンションアニールが施された金属板に所定のデフォーカス状態でレーザを照射することにより、金属板をレーザ照射方向に凸な状態に曲げることができる。したがって、金属板の裏面側からレーザを照射することなく、表面からのレーザ照射により両方向の曲げ加工を行うことができる。これにより、両方向に曲げ加工可能なレーザ曲げ加工装置の構造が簡素化されるだけでなく、従来一方向のみの曲げ加工として用いていたレーザ曲げ加工装置を、簡単な改造により両方向の曲げ加工を行う装置に変更することができる。また、裏面側からのレーザ照射が困難な被加工材であっても、表面側からのレーザ照射により所望の曲げ加工を行うことができる。また、金属板のレーザ照射位置に対して気体噴射ノズルから所定の温度の気体を噴射することにより、金属板のレーザ照射される部分を予め加熱又は冷却しておくことができる。これによりレーザ曲げ加工の温度条件を制御することができ、最適な曲げ加工を達成することができる。
【0073】
請求項7に記載の発明によれば、光学系によるレーザの焦点位置と金属板の表面との間の距離を変えることにより、レーザ照射のデフォーカス量を調整することができる。したがって、簡単な構成でレーザ曲げ加工の条件を制御することができ、金属板の両方向の曲げを達成することができる。
【0074】
請求項8に記載の発明によれば、被加工材としての金属板に対してシングルモードによるパルス発振レーザを照射することができる。シングルモードによるパルス発振レーザは、レーザ照射方向に凸となる曲げ加工にとって好ましい条件である。
【0076】
請求項に記載の発明によれば、所定の温度に加熱又は冷却した空気を気体噴射ノズルから噴射することにより、金属板を容易に加熱又は冷却することができる。空気を利用するため、送風機とヒータ又は冷却機等の簡単な構成により金属板の温度制御を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】レーザ照射方向に凸となるように金属薄板を曲げる場合の条件を示す図である。
【図2】デフォーカス量の違いによる曲げ方向の違いを示す図である。
【図3】レーザ曲げ加工の実験結果を説明するための図である。
【図4】被加工材に対して空気を噴射して温度制御を行う例を示す図である。
【図5】本発明の一実施例によるレーザ曲げ加工装置の構成を示す簡略図である。
【符号の説明】
2 金属薄板
2a レーザ照射面
2b 裏面
4 材料支持治具
6 集光レンズ
10 レーザ集光ヘッド
12 レーザ発振器
14 光ファイバ
16 X−Y移動機構
18 Z移動機構
20 レーザ集光ヘッド駆動部
22 気体噴射ノズル
24 温風発生機
26 冷風発生機
28 ポンプ
30 装置制御部
32 センサ

Claims (13)

  1. 板ばねとして用いられる金属板のレーザ曲げ加工方法であって、
    金属板にテンションアニールを施し、
    テンションアニールされた該金属板の表面にデフォーカスしたレーザを照射して走査することにより、レーザ走査位置において前記金属板の前記表面側が凸となるように前記金属板を曲げる
    ことを特徴とするレーザ曲げ加工方法。
  2. 請求項1記載のレーザ曲げ加工方法であって、
    前記金属板の前記レーザ走査位置以外の部分を支持して、レーザ照射部分を空中に浮かせた状態でレーザを照射することを特徴とするレーザ曲げ加工方法。
  3. 請求項2記載のレーザ曲げ加工方法であって、
    前記金属板の前記表面の反対側の裏面に所定の温度の気体を接触させて前記金属板の温度を制御することを特徴とするレーザ曲げ加工方法。
  4. 請求項3記載のレーザ曲げ加工方法であって、
    前記気体は所定の温度に加熱された空気であり、該加熱された空気を前記金属板の裏面に吹き付けることを特徴とするレーザ曲げ加工方法。
  5. 請求項3記載のレーザ曲げ加工方法であって、
    前記気体は所定の温度に冷却された空気であり、該冷却された空気を前記金属板の裏面に吹き付けることを特徴とするレーザ曲げ加工方法。
  6. テンションアニールを施され、板ばねとして用いられる金属板のレーザ曲げ加工装置であって、
    レーザ発振器と、
    該レーザ発振器からのレーザを集光して金属板に向けて照射する光学系と、
    該光学系により集光したレーザが前記金属板の表面にデフォーカスされた状態で照射されるように、前記レーザのフォーカスを制御することで、前記金属板の前記表面側が凸ないしは凹となる変形を制御するフォーカス制御機構と、
    前記金属板のレーザ照射位置以外の部分を支持して、前記レーザ照射位置に相当する部分を空中に浮かせた状態で前記金属板を支持するワーク支持機構と、
    前記光学系と前記ワーク支持機構との少なくとも一方を移動して、デフォーカスされたレーザを前記金属板の前記表面で走査する走査機構と、
    前記金属板の前記表面の反対側の裏面に対して所定の温度の気体を吹き付けるための気体噴射ノズルと
    を有することを特徴とするレーザ曲げ加工装置。
  7. 請求項6記載のレーザ曲げ加工装置であって、
    前記フォーカス制御機構は、前記光学系によるレーザの焦点位置と前記金属板の表面との間の距離を制御することを特徴とするレーザ曲げ加工装置。
  8. 請求項6又は7記載のレーザ曲げ加工装置であって
    前記レーザ発振器は、シングルモードによるパルス発振レーザ発振器であることを特徴とするレーザ曲げ加工装置。
  9. 請求項6乃至8のうちいずれか一項記載のレーザ曲げ加工装置であって、
    前記気体噴射ノズルから噴射する気体は空気であり、該空気を圧送するための送風機と該空気を所定の温度に加熱又は冷却する温度制御装置とを有することを特徴とするレーザ曲げ加工装置。
  10. 請求項1記載のレーザ曲げ加工方法であって、
    前記金属板は、レーザ照射面の反対側の面に導電パターンを有することを特徴とするレーザ曲げ加工方法。
  11. 請求項1記載のレーザ曲げ加工方法であって、
    テンションアニール後の前記金属板には所定の引っ張り応力が残留していることを特徴とするレーザ曲げ加工方法。
  12. 請求項1記載のレーザ曲げ加工方法であって、
    前記金属板はステンレス鋼板であることを特徴とするレーザ曲げ加工方法。
  13. 請求項1記載のレーザ曲げ加工方法であって、
    レーザのデフォーカス量を調整することで、レーザ走査位置において前記金属板の前記表面側が凹となるように前記金属板を曲げることを特徴とするレーザ曲げ加工方法。
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