ところで、このような従来の遊星歯車式多段変速機では、一般に車速およびアクセル操作量などの運転状態をパラメータとして予め定められた変速マップ(変速条件)に従って変速が行われる。また、スポーツモードやスノーモードなどの運転モードや運転者の好み、走行条件などに応じて複数の変速マップが用意されることもあるが、成立する各変速段の数や変速比、変速比ステップ(連続する変速段の変速比の変化割合)などは同じであるため、運転モードや運転者の好み、走行条件などに応じて必ずしも十分に満足できる変速制御が行われているとは言い難かった。また、運転者の変速操作(アップダウン操作など)に従って変速段を切り替える場合でも、各変速段の変速比が一定であるため、運転者によっては必ずしも十分に満足できない場合もある。
一方、遊星歯車装置やクラッチ、ブレーキの数を増やせば、変速比が異なる複数の変速段から成る複数種類の変速段列を設定することが可能で、運転モードや運転者の好み、走行条件等に応じてそれらの変速段列を切り換えて使用することにより、一層適切な変速制御を行うことができるようになるが、単に遊星歯車装置やクラッチ、ブレーキの数を増やすだけでは装置が複雑で大掛かりになり、製造コストや車両搭載性などが悪化してしまい実用的でない。
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、製造コストや搭載性等の要求を満足させつつ複数種類の変速段列を切り換えて変速制御が行われるようにして、運転モードや運転者の好み、走行条件などに応じて一層適切な変速制御が行われるようにすることにある。
かかる目的を達成する第1発明は、(a)複数の遊星歯車装置を備え、入力回転部材の回転を変速して出力回転部材から出力する形式の車両用遊星歯車式多段変速機であって、(b)前記入力回転部材の回転を予め定められた1よりも大きい第1変速比で伝達する第1中間伝達経路と、前記入力回転部材の回転をその第1変速比よりも小さい第2変速比で伝達する第2中間伝達経路とを有する第1変速部と、(c)複数の遊星歯車装置を有し、その複数の遊星歯車装置のサンギヤ、キャリヤ、およびリングギヤの一部が互いに連結されることによって4つ以上の回転要素が構成されるとともに、その4つ以上の回転要素の何れかを前記第1中間伝達経路および前記第2中間伝達経路に選択的に連結する複数のクラッチ、およびその4つ以上の回転要素の何れかを選択的に回転停止させる複数のブレーキが設けられ、その4つ以上の回転要素の何れか1つが前記出力回転部材に連結された第2変速部とを備え、(d)前記クラッチおよびブレーキの係合、解放状態を切り替えることにより、前記第1中間伝達経路を経由して前記第2変速部へ入力された回転をその回転速度に対して変速比1.0以上に変速する少なくとも1つの第1低速変速段、および前記第2中間伝達経路を経由して前記第2変速部へ入力された回転をその回転速度に対して変速比1.0以上に変速し、且つその第1低速変速段とは異なる変速比となる少なくとも1つの第2低速変速段が成立させられ、(e)その第1低速変速段を含む複数の変速段からなる第1変速段列、および、その第2低速変速段を含む第2変速段列の何れかを選択して変速制御が行われることを特徴とする。
また、前記目的を達成する第2発明は、(a)複数の遊星歯車装置を備え、入力回転部材の回転を変速して出力回転部材から出力する形式の車両用遊星歯車式多段変速機であって、(b)前記入力回転部材の回転を予め定められた1よりも大きい第1変速比、またはその第1変速比よりも小さい第2変速比で第1中間出力部材から出力する第1変速部と、(c)複数の遊星歯車装置を有し、その複数の遊星歯車装置のサンギヤ、キャリヤ、およびリングギヤの一部が互いに連結されることによって4つの回転要素が構成されるとともに、その4つの回転要素の回転速度を直線で表すことができる共線図上においてその4つの回転要素を一端から他端へ向かって順番に第5回転要素、第6回転要素、第7回転要素、および第8回転要素とした時、その第5回転要素は第2クラッチを介して前記第1中間出力部材に選択的に連結されるとともに第3ブレーキによって選択的に回転停止させられ、その第6回転要素は第4ブレーキによって選択的に回転停止させられ、その第7回転要素は前記出力回転部材に連結され、その第8回転要素は第1クラッチを介して前記第1中間出力部材に選択的に連結されている第2変速部とを備え、(d)前記第1クラッチ、第2クラッチ、第3ブレーキ、第4ブレーキの係合、解放状態を切り替えることにより、前記第1変速比にて前記第1中間出力部材から出力された回転を、第2変速部においてその第1中間出力部材の回転速度以下に変速する少なくとも1つの第1低速変速段、および前記第2変速比にて前記第1中間出力部材から出力された回転を、第2変速部においてその第1中間出力部材の回転速度以下に変速し、且つその第1低速変速段とは異なる変速比となる少なくとも1つの第2低速変速段が成立させられ、(e)その第1低速変速段を含む複数の変速段からなる第1変速段列、および、その第2低速変速段を含む第2変速段列の何れかを選択して変速制御が行われることを特徴とする。
また、前記目的を達成する第3発明は、第2発明において、前記第1変速段列および第2変速段列は、前記第1低速変速段および第2低速変速段として、第2変速部において前記第1クラッチ、前記第4ブレーキが係合させられることにより成立させられる最も大きい変速比の第1変速段、第2変速部において前記第1クラッチ、前記第3ブレーキが係合させられることにより成立させられ、その第1変速段よりも変速比が小さい第2変速段、および第2変速部において前記第1クラッチ、前記第2クラッチが係合させられることにより成立させられ、その第2変速段よりも変速比が小さい第3変速段をそれぞれ含むことを特徴とする。
また、前記目的を達成する第4発明は、第1発明乃至第4発明のいずれかにおいて、前記第2変速比が1よりも大きい値であることを特徴とする。
また、前記目的を達成する第5発明は、第3発明または第4発明において、前記第1変速部は、前記入力回転部材に連結される第2中間出力部材をさらに備え、前記第2変速部の第6回転要素は、前記第4ブレーキによって選択的に回転停止させられることに加え、第3クラッチを介して前記第2中間出力部材に選択的に連結されており、前記第1変速段列は、前記第1変速段〜第3変速段に加え、前記入力回転部材の回転が前記第2変速比で変速されて前記第1中間出力部材から前記第2変速部へ出力され、且つ、前記第1クラッチおよび前記第2クラッチが係合させられることによって成立する、前記第1変速段列の第3変速段よりも変速比が小さい第4変速段、前記入力回転部材の回転が前記第2変速比で変速されて前記第1中間出力部材から前記第2変速部へ出力され、且つ、前記第1クラッチおよび前記第3クラッチが係合させられることによって成立する、その第4変速段よりも変速比が小さい第5変速段、前記第1クラッチ、前記第2クラッチ、および前記第3クラッチが係合させられることによって成立する、その第5変速段よりも変速比が小さい第6変速段、前記入力回転部材の回転が前記第1変速比または前記第2変速比で変速されて前記第1中間出力部材から前記第2変速部へ出力され、且つ、前記第2クラッチおよび前記第3クラッチが係合させられることによって成立する、その第6変速段よりも変速比が小さい第7変速段、前記第3クラッチおよび前記第3ブレーキが係合させられることによって成立する、その第7変速段よりも変速比が小さい第8変速段を含み、前記第2変速段列は、前記第1変速段〜第3変速段に加え、前記入力回転部材の回転が前記第2変速比で変速されて前記第1中間出力部材から前記第2変速部へ出力され、且つ、前記第1クラッチおよび前記第3クラッチが係合させられることによって成立する、前記第2変速段列の第3変速段よりも変速比が小さい第4変速段、前記第1クラッチ、前記第2クラッチ、および前記第3クラッチが係合させられることによって成立する、その第4変速段よりも変速比が小さい第5変速段、前記入力回転部材の回転が前記第1変速比または前記第2変速比で変速されて前記第1中間出力部材から前記第2変速部へ出力され、且つ、前記第2クラッチおよび前記第3クラッチが係合させられることによって成立する、その第5変速段よりも変速比が小さい第6変速段、前記第3クラッチおよび前記第3ブレーキが係合させられることによって成立する、その第6変速段よりも変速比が小さい第7変速段を含むことを特徴とする。
また、前記目的を達成する第6発明は、第3発明または第4発明において、前記第1変速部は、前記入力回転部材に連結される第2中間出力部材を有するとともに、第1遊星歯車装置および第2遊星歯車装置を有し、その第1遊星歯車装置および第2遊星歯車装置のサンギヤ、キャリヤ、およびリングギヤの一部が互いに連結されることによって4つの回転要素が構成されるとともに、その4つの回転要素の回転速度を直線上で表すことができる共線図上においてその4つの回転要素を一端から他端へ向かって順番に第1回転要素、第2回転要素、第3回転要素、および第4回転要素としたとき、その第1回転要素は第1ブレーキによって選択的に回転停止させられ、その第2回転要素は第2ブレーキによって選択的に回転停止させられ、その第3回転要素は前記第1中間出力部材に連結され、その第4回転要素は前記入力回転部材に連結されており、前記第2変速部の第6回転要素は、前記第4ブレーキによって選択的に回転停止させられることに加え、第3クラッチを介して前記第2中間出力部材に選択的に連結されており、前記第1変速段列は、前記第1変速段〜第3変速段に加え、前記第1クラッチ、前記第2クラッチ、および前記第1ブレーキが係合させられることによって成立する、前記第1変速段列の第3変速段よりも変速比が小さい第4変速段、前記第1クラッチ、前記第3クラッチ、および前記第1ブレーキが係合させられることによって成立する、その第4変速段よりも変速比が小さい第5変速段、前記第1クラッチ、前記第2クラッチ、および前記第3クラッチが係合させられることによって成立する、その第5変速段よりも変速比が小さい第6変速段、前記第2クラッチ、前記第3クラッチ、および前記第2ブレーキまたは前記第1ブレーキが係合させられることによって成立する、その第6変速段よりも変速比が小さい第7変速段、前記第3クラッチおよび前記第3ブレーキが係合させられることによって成立する、その第7変速段よりも変速比が小さい第8変速段を含み、前記第2変速段列は、前記第1変速段〜第3変速段に加え、前記第1クラッチ、前記第3クラッチ、および前記第1ブレーキが係合させられることによって成立する、前記第2変速段列の第3変速段よりも変速比が小さい第4変速段、前記第1クラッチ、前記第2クラッチ、および前記第3クラッチが係合させられることによって成立する、その第4変速段よりも変速比が小さい第5変速段、前記第2クラッチ、前記第3クラッチ、および前記第2ブレーキまたは前記第1ブレーキが係合させられることによって成立する、その第5変速段よりも変速比が小さい第6変速段、前記第3クラッチおよび前記第3ブレーキが係合させられることによって成立し、その第6変速段よりも変速比が小さい第7変速段を含むことを特徴とする。
また、前記目的を達成する第7発明は、(a)複数の遊星歯車装置を備え、入力回転部材の回転を変速して出力回転部材から出力する形式の車両用遊星歯車式多段変速機であって、(b)前記入力回転部材の回転を予め定められた第1変速比で伝達する第1中間伝達経路と、前記入力回転部材の回転をその第1変速比よりも小さい第2変速比で伝達する第2中間伝達経路と、前記入力回転部材の回転をその第2変速比よりも小さい第3変速比で伝達する第3中間伝達経路とを有する第1変速部と、(c)複数の遊星歯車装置を有し、その複数の遊星歯車装置のサンギヤ、キャリヤ、およびリングギヤの一部が互いに連結されることによって4つ以上の回転要素が構成されるとともに、その4つ以上の回転要素の何れかを前記第1中間伝達経路、第2中間伝達経路、および第3中間伝達経路に選択的に連結する複数のクラッチ、およびその4つ以上の回転要素の何れかを選択的に回転停止させる少なくとも1つのブレーキが設けられ、その4つ以上の回転要素の何れか1つが前記出力回転部材に連結された第2変速部とを備え、(d)前記クラッチにより前記第1中間伝達経路および前記第3中間伝達経路がそれぞれ前記4つ以上の回転要素の何れかと連結されることにより、前記入力回転部材の回転よりも高速となる第1高速変速段が成立させられ、(e)前記クラッチにより前記第2中間伝達経路および前記第3中間伝達経路がそれぞれ前記4つ以上の回転要素の何れかと連結されることにより、前記入力回転部材の回転よりも高速、且つ、前記第1高速変速段よりも変速比が大きい第2高速変速段が成立させられ、(f)その第1高速変速段を含む複数の変速段からなる第1変速段列、および、その第2高速変速段を含む第2変速段列の何れかを選択して変速制御が行われることを特徴とする。
また、前記目的を達成する第8発明は、(a)複数の遊星歯車装置を備え、入力回転部材の回転を変速して出力回転部材から出力する形式の車両用遊星歯車式多段変速機であって、(b)前記入力回転部材の回転を1よりも大きい予め定められた第1変速比またはその第1変速比よりも小さい第2変速比で出力する第1中間出力部材と、前記入力回転部材の回転を前記第2変速比よりも小さい第3変速比で出力する第2中間出力部材とを有する第1変速部と、(c)複数の遊星歯車装置を有し、その複数の遊星歯車装置のサンギヤ、キャリヤ、およびリングギヤの一部が互いに連結されることによって4つ以上の回転要素が構成されるとともに、その4つ以上の回転要素の回転速度を直線で表すことができる共線図において、中間部分に位置する回転要素が第3クラッチを介して前記第2中間出力部材に選択的に連結され、その第2中間出力部材に選択的に連結されている回転要素の両側のうちの一方に位置する1つの回転要素が第2クラッチを介して前記第1中間出力部材に選択的に連結され、他方に位置する1つの回転要素が前記出力回転部材に連結されている第2変速部とを備え、(d)前記第1中間出力部材から前記第1変速比にて回転が出力され、且つ、前記第2クラッチおよび前記第3クラッチが係合させられることにより、前記入力回転部材の回転よりも高速となる第1高速変速段が成立させられ、(e)前記第1中間出力部材から前記第2変速比にて回転が出力され、且つ、前記第2クラッチおよび前記第3クラッチが係合させられることにより、前記入力回転部材の回転よりも高速、且つ、前記第1高速変速段よりも変速比が大きい第2高速変速段が成立させられ、(f)その第1高速変速段を含む複数の変速段からなる第1変速段列、および、その第2高速変速段を含む第2変速段列の何れかを選択して変速制御が行われることを特徴とする。
また、前記目的を達成する第9発明は、(a)複数の遊星歯車装置を備え、入力回転部材の回転を変速して出力回転部材から出力する形式の車両用遊星歯車式多段変速機であって、(b)前記入力回転部材の回転を1よりも大きい予め定められた第1変速比またはその第1変速比よりも小さい第2変速比で出力する第1中間出力部材と、前記入力回転部材の回転を前記第2変速比よりも小さい第3変速比で出力する第2中間出力部材とを有する第1変速部と、(c)複数の遊星歯車装置を有し、その複数の遊星歯車装置のサンギヤ、キャリヤ、およびリングギヤの一部が互いに連結されることによって4つの回転要素が構成されるとともに、その4つの回転要素の回転速度を直線で表すことができる共線図上においてその4つの回転要素を一端から他端へ向かって順番に第5回転要素、第6回転要素、第7回転要素、および第8回転要素とした時、その第5回転要素は第2クラッチを介して前記第1中間出力部材に選択的に連結されるとともに第3ブレーキによって選択的に回転停止させられ、その第6回転要素は第3クラッチを介して前記第2中間出力部材に選択的に連結されるとともに第4ブレーキによって選択的に回転停止させられ、その第7回転要素は前記出力回転部材に連結され、その第8回転要素は第1クラッチを介して前記第1中間出力部材に選択的に連結されている第2変速部とを備え、(d)前記第1中間出力部材から前記第1変速比にて回転が出力され、且つ、前記第2クラッチおよび前記第3クラッチが係合させられることにより、前記入力回転部材の回転よりも高速となる第1高速変速段が成立させられ、(e)前記第1中間出力部材から前記第2変速比にて回転が出力され、且つ、前記第2クラッチおよび前記第3クラッチが係合させられることにより、前記入力回転部材の回転よりも高速、且つ、前記第1高速変速段よりも変速比が大きい第2高速変速段が成立させられ、(f)その第1高速変速段を含む複数の変速段からなる第1変速段列、および、その第2高速変速段を含む第2変速段列の何れかを選択して変速制御が行われることを特徴とする。
また、前記目的を達成する第10発明は、第9発明において、前記第2変速比が1よりも大きい値であることを特徴とする。
また、前記目的を達成する第11発明は、第9発明または第10発明において、前記第1変速段列および前記第2変速段列は、前記入力回転部材の回転が前記第1変速比で変速されて前記第1中間出力部材から前記第2変速部へ出力され、且つ、前記第1クラッチおよび前記第4ブレーキが係合させられることによって成立する、最も大きい変速比の第1変速段、前記入力回転部材の回転が前記第1変速比で変速されて前記第1中間出力部材から前記第2変速部へ出力され、且つ、前記第1クラッチおよび前記第3ブレーキが係合させられることによって成立する、その第1変速段よりも変速比が小さい第2変速段、前記入力回転部材の回転が前記第1変速比で変速されて前記第1中間出力部材から前記第2変速部へ出力され、且つ、前記第1クラッチおよび前記第2クラッチが係合させられることによって、または、前記入力回転部材の回転が前記第2変速比で変速されて前記第1中間出力部材から前記第2変速部へ出力され、且つ、前記第1クラッチおよび前記第3ブレーキが係合させられることによって成立する、その第2変速段よりも変速比が小さい第3変速段、前記入力回転部材の回転が前記第2変速比で変速されて前記第1中間出力部材から前記第2変速部へ出力され、且つ、前記第1クラッチおよび前記第2クラッチが係合させられることによって成立する、その第3変速段よりも変速比が小さい第4変速段、前記入力回転部材の回転が前記第2変速比で変速されて前記第1中間出力部材から前記第2変速部へ出力され、且つ、前記第1クラッチおよび前記第3クラッチが係合させられることによって成立する、その第4変速段よりも変速比が小さい第5変速段、前記第1クラッチ、前記第2クラッチ、および前記第3クラッチが係合させられることによって成立する、その第5変速段よりも変速比が小さい第6変速段をそれぞれ有し、前記第1変速段列では、前記第1高速変速段がその第6変速段よりも変速比が小さい第7変速段であり、前記第2変速段列では、前記第2高速変速段がその第6変速段よりも変速比が小さい第7変速段であることを特徴とする。
また、前記目的を達成する第12発明は、第9発明または第10発明において、前記第1変速部は、第1遊星歯車装置および第2遊星歯車装置を有し、その第1遊星歯車装置および第2遊星歯車装置のサンギヤ、キャリヤ、およびリングギヤの一部が互いに連結されることによって4つの回転要素が構成されるとともに、その4つの回転要素の回転速度を直線上で表すことができる共線図上においてその4つの回転要素を一端から他端へ向かって順番に第1回転要素、第2回転要素、第3回転要素、および第4回転要素としたとき、その第1回転要素は第1ブレーキによって選択的に回転停止させられ、その第2回転要素は第2ブレーキによって選択的に回転停止させられ、その第3回転要素は前記第1中間出力部材に連結され、その第4回転要素は前記入力回転部材に連結されるとともに前記第2中間出力部材とされ、前記第1変速段列および前記第2変速段列は、前記第1クラッチ、前記第2ブレーキ、および前記第4ブレーキが係合させられることによって成立する、最も大きい変速比の第1変速段、前記第1クラッチ、前記第2ブレーキ、および前記第3ブレーキが係合させられることによって成立する、その第1変速段よりも変速比が小さい第2変速段、前記第1クラッチ、前記第2クラッチ、および前記第2ブレーキが係合させられることによって、または、前記第1クラッチ、前記第1ブレーキ、および前記第3ブレーキが係合させられることによって成立する、その第2変速段よりも変速比が小さい第3変速段、前記第1クラッチ、前記第2クラッチ、および前記第1ブレーキが係合させられることによって成立する、その第3変速段よりも変速比が小さい第4変速段、前記第1クラッチ、前記第3クラッチ、および前記第1ブレーキが係合させられることによって成立する、その第4変速段よりも変速比が小さい第5変速段、前記第1クラッチ、前記第2クラッチ、および前記第3クラッチが係合させられることによって成立する、その第5変速段よりも変速比が小さい第6変速段をそれぞれ有し、前記第1変速段列では、前記第1高速変速段として、前記第2クラッチ、前記第3クラッチ、および前記第2ブレーキが係合させられることによって、その第6変速段よりも変速比が小さい第7変速段が成立させられ、前記第2変速段列では、前記第2高速変速段として、前記第2クラッチ、前記第3クラッチ、および前記第1ブレーキが係合させられることによって、その第6変速段よりも変速比が小さい第7変速段が成立させられることを特徴とする。
また、前記目的を達成する第13発明は、第11発明または第12発明において、前記第1変速段列が、前記第3クラッチおよび前記第3ブレーキが係合させられることによって成立する、前記第7変速段よりも変速比が小さい第8変速段をさらに有する8つの変速段からなることを特徴とする。
また、前記目的を達成するための第14発明は、第6発明、第12発明、第13発明のいずれかにおいて、前記第2クラッチ、前記第2ブレーキ、および前記第4ブレーキが係合させられることによって成立する逆回転方向の第1変速段、前記第2クラッチ、前記第1ブレーキ、および前記第4ブレーキが係合させられることによって成立する逆回転方向の第2変速段の少なくとも一方の変速段を用いて変速が行われることを特徴とする。
また、前記目的を達成する第15発明は、第1発明乃至第14発明のいずれかにおいて、エンジンの出力は、流体伝動装置を介して前記入力回転部材に入力されるものであることを特徴とする。
上記第1発明によれば、入力回転部材の回転が1より大きい第1変速比で第2変速部へ入力され、さらにその回転がその回転速度に対して変速比1.0以上に変速された第1低速変速段を含む第1変速段列と、入力回転部材の回転が第1変速比よりも小さい第2変速比で第2変速部へ入力され、その回転がその回転速度に対して変速比1.0以上に変速され、且つ第1低速変速段とは異なる変速比となる第2低速変速段を含む第2変速段列とが成立させられるようになっており、それら第1変速段列と第2変速段列が切り換えて使用されるので、運転モードや運転者の好み、走行条件等に適した一層適切な変速制御が行われるようになる。
第2発明は、第1発明の第1中間伝達経路および第2中間伝達経路の出力部材がともに共通の第1中間出力部材であり、また、第2変速部の回転要素が4つとされている場合であり、第1発明の実施態様に相当し、第1発明と同様の効果が得られる。
第3発明〜第6発明は、第2発明の実施態様に相当し、第2発明と同様の効果が得られる。また、第3発明では、第1変速段列および第2変速段列とも、低速変速段すなわち第1〜第3変速段における、第2変速部の係合要素(クラッチ、ブレーキ)の係合作動が同じとなり、且つ、2つの係合要素の掴み替えだけでそれら第1〜第3変速段の変速を行うことができるので、変速制御が簡単になる。
また、第4発明によれば、第1変速比が1よりも大きいだけでなく、第2変速比も1よりも大きくされているので、第2低速変速段も比較的大きい変速比となる。また、第5発明によれば、第1変速段列の第4変速段〜第8変速段は、第2変速段列の第3変速段〜第7変速段とそれぞれ対応し、対応する変速段は同じ係合要素の係合により変速段が成立させられるので、変速制御が簡単になり、且つ、第1変速段列と第2変速段列とでは変速段数および変速比幅が異なるので、それら第1変速段列と第2変速段列とを切り換えて使用することにより、運転モードや運転者の好み、走行条件等に適した一層適切な変速制御が可能となる。
また、第6発明によれば、第1変速段列の第7変速段−第8変速段および第2変速段列の第6変速段−第7変速段を除き、第1変速段列および第2変速段列ともに、2つの係合要素の掴み替えにより変速を行うことができ、また、第1変速段列の第7変速段−第8変速段および第2変速段列の第6変速段−第7変速段についても、実質的に第2クラッチと第3ブレーキとの掴み替えだけで変速を行うことができる。
第7発明によれば、第1中間伝達経路および第3中間伝達経路から第2変速部へ回転が入力されることにより入力回転部材の回転よりも高速回転させられる第1高速変速段を含む第1変速段列と、第2中間伝達経路および第3中間伝達経路から第2変速部へ回転が入力されることにより入力回転部材の回転よりも高速回転、且つ、第1高速変速段よりも変速比が大きい第2高速変速段を含む第2変速段列とが成立させられるようになっており、それら第1変速段列と第2変速段列が切り換えて使用されるので、運転モードや運転者の好み、走行条件等に適した一層適切な変速制御が行われるようになる。
第8発明は、第7発明の第1中間伝達経路および第2中間伝達経路の出力部材がともに共通の第1中間出力部材とされている場合であり、第7発明の実施態様に相当し、第7発明と同様の効果が得られる。また、第9発明は、第8発明の第2変速部の回転要素が4つとされている場合であり、第8発明の実施態様に相当するので、第9発明も第7発明と同様の効果が得られる。さらに、第8発明および第9発明では、第1高速変速段および第2高速変速段は、第2変速部における係合要素の係合パターンが同じとなるので、変速制御が簡単になる。
第10発明〜第13発明は、第9発明の実施態様に相当し、その第9発明と同様の効果が得られる。また、第10発明では、第1変速比が1よりも大きいだけでなく、第2変速比も1よりも大きくされているので、第2高速変速段も比較的小さい変速比とすることができる。
第11発明では、第1変速段列と第2変速段列とでは、第7変速段(すなわち第1高速変速段または第2高速変速段)の変速比が相違するので、それら第1変速段列と第2変速段列を切り換えて使用することにより、運転モードや運転者の好み、走行条件等に適した一層適切な変速制御が可能となる。
第12発明では、第1変速段列および第2変速段列とも、第6変速段−第7変速段間の変速を2つの係合要素の掴み替えだけで行うことができるので、変速制御が簡単になる。
第13発明では、第1変速段列に第8変速段が設けられていることから、第1変速段列と第2変速段列とでは変速段数が相違するので、第1変速段列と第2変速段列とを切り換えて使用することにより、一層適切な変速制御が可能となる。
第14発明では、前進多段の変速段に加え、後進についても2段の変速段が可能となる。
第15発明によれば、コンパクトな自動変速機の設計が可能となる。
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、車両用自動変速装置として好適な車両用遊星歯車式多段変速機(以下、変速機という)10の構成を説明する骨子図である。図1において、変速機10は車体に取り付けられるトランスミッションケース12内において共通の軸心上に順次配設された流体伝動装置としてのロックアップクラッチ13付のトルクコンバータ14、このトルクコンバータ14に連結された入力軸16、第1遊星歯車装置18と第2遊星歯車装置20とを主体として構成されている第1変速部28、第3遊星歯車装置22と第4遊星歯車装置24とを主体として構成されている第2変速部30、出力軸26を同心に備えている。この変速機10は、車両において縦置きされるFR用自動変速機として好適に用いられるものであり、エンジン8と図示しない駆動輪との間に設けられ、エンジン8の出力を駆動輪に伝達する。本実施例では、上記入力軸16および出力軸26が入力回転部材および出力回転部材に対応し、上記トランスミッションケース12が非回転部材に対応している。上記トルクコンバータ14はエンジン8のクランク軸9に連結され、上記出力軸26はたとえば図示しない差動歯車装置等を介して左右の駆動輪を回転駆動する。なお、変速機10はその軸心に対して対称的に構成されているため、第1図の骨子図においてはその下側が省略されている。
上記第1変速部28を構成している第1遊星歯車装置18および第2遊星歯車装置20はそれぞれシングルピニオン型の遊星歯車装置から構成されている。この第1遊星歯車装置18は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転および公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を備えており、たとえば「0.429」程度の所定のギヤ比ρ1を有している。第2遊星歯車装置20は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転および公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えており、たとえば「0.539」程度の所定のギヤ比ρ2を有している。
上記第1変速部28においては、第1遊星歯車装置18および第2遊星歯車装置20の一部が互いに連結されることによって4つの回転要素RE1〜RE4が構成されている。すなわち、第1回転要素RE1は、一体的に連結された第1リングギヤR1と第2サンギヤS2であり、第1回転要素RE1は、第1ブレーキB1を介してトランスミッションケース12に選択的に連結されている。第2回転要素RE2は第1キャリヤCA1であり、第2回転要素RE2は第2ブレーキB2を介してトランスミッションケース12に選択的に連結されている。第3回転要素RE3は第2キャリヤCA2であり、第3回転要素RE3は第1中間出力部材M1に連結されているので、第3回転要素RE3は実質的には第1中間出力部材M1と同一である。第4回転要素RE4は、一体的に連結された第1サンギヤS1と第2リングギヤR2であり、第4回転要素RE4は入力軸16と第2中間出力部材M2とに連結されているので、第4回転要素RE4は実質的には第2中間出力部材M2と同一である。上記第1中間出力部材M1すなわち第3回転要素RE3は、第2中間出力部材M2すなわち第4回転要素RE4に対して異なる2つの減速回転が択一的に切り換えられて回転させられる。そして、第1変速部28は、第1中間出力部材M1および第2中間出力部材M2の少なくともいずれか一方を介して入力軸16の回転を第2変速部30へ出力する。
また、第1中間出力部材M1を介して入力軸16の回転を第2変速部30へ出力する場合には、第2ブレーキB2を係合させることにより第1キャリヤCA1を回転停止させて、入力軸16の回転が、第2リングギヤR2に伝達されるとともに、第1サンギヤS1から第1遊星歯車P1を介して第1リングギヤR1およびそれに一体的に連結されている第2サンギヤS2にも伝達され、それら第2リングギヤR2および第2サンギヤS2の回転により第2キャリヤCA2が回転させられる第1中間伝達経路と、第1ブレーキB1を係合させることにより第2サンギヤS2を回転停止させて、入力軸16の回転が、第2リングギヤR2から第2キャリヤCA2へと伝達される第2中間伝達経路の2つの中間伝達経路がある。また、第2中間出力部材M2を経由する場合には、入力軸16の回転は、入力軸16から第2中間出力部材M2を経て第2変速部30へ出力される。以下、この経路を第3中間伝達経路という。なお、本実施例では、第2中間出力部材M2は入力軸16に連結されて入力軸16の回転速度とされている。しかしながら、この第2中間出力部材M2は必ずしも入力軸16の回転速度とされる必要はない。
前記第2変速部30を構成している第3遊星歯車装置22はシングルピニオン型の遊星歯車装置から構成されており、第4遊星歯車装置24はダブルピニオン型の遊星歯車装置から構成されている。この第4遊星歯車装置24は、第4サンギヤS4、互いに噛み合う複数対の第4遊星歯車P4、その第4遊星歯車P4を自転および公転可能に支持する第4キャリヤCA4、第4遊星歯車P4を介して第4サンギヤS4と噛み合う第4リングギヤR4を備えており、たとえば「0.497」程度の所定のギヤ比ρ4を有している。第3遊星歯車装置22は、第3サンギヤS3、第4遊星歯車P4のいずれか一つと共通の第3遊星歯車P3、第4キャリヤCA4と共通の第3キャリヤCA3、第3遊星歯車P3を介して第3サンギヤS3と噛み合う第4リングギヤR4と共通の第3リングギヤR3を備えており、たとえば「0.550」程度の所定のギヤ比ρ3を有している。この第3遊星歯車装置22と第4遊星歯車装置24とは、キャリヤ同士、リングギヤ同士が互いに連結されて共用化されている所謂ラビニヨ型となっている。なお、上記第4遊星歯車P4のいずれか一つと共通の第3遊星歯車P3の径或いは歯数は第3遊星歯車P3側と第4遊星歯車P4側で異なるものであってもよい。また、第4遊星歯車P4と第3遊星歯車P3、第4キャリヤCA4と第3キャリヤCA3、第4リングギヤR4と第3リングギヤR3とはそれぞれ独立に備えられてもよい。第1サンギヤS1の歯数をZS1、第1リングギヤR1の歯数をZR1、第2サンギヤS2の歯数をZS2、第2リングギヤR2の歯数をZR2、第3サンギヤS3の歯数をZS3、第3リングギヤR3の歯数をZR3、第4サンギヤS4の歯数をZS4、第4リングギヤR4の歯数をZR4とすると、上記ギヤ比ρ1はZS1/ZR1、上記ギヤ比ρ2はZS2/ZR2、上記ギヤ比ρ3はZS3/ZR3、上記ギヤ比ρ4はZS4/ZR4である。
上記第2変速部30においては、第3遊星歯車装置22および第4遊星歯車装置24の一部が互いに連結されることによって4つの回転要素RE5〜RE8が構成されている。すなわち、第5回転要素RE5は第3サンギヤS3であり、第5回転要素RE5は第2クラッチC2を介して第1中間出力部材M1(実質的には第2キャリヤCA2)に選択的に連結されるとともに第3ブレーキB3を介してトランスミッションケース12に選択的に連結されている。第6回転要素RE6は一体的に連結された第3キャリヤCA3と第4キャリヤCA4であり、第6回転要素RE6は第3クラッチC3を介して第2中間出力部材M2(実質的には第2リングギヤR2)に選択的に連結されるとともに第4ブレーキB4を介してトランスミッションケース12に選択的に連結されている。第7回転要素RE7は一体的に連結された第3リングギヤR3と第4リングギヤR4であり、第7回転要素RE7は出力軸26に連結されている。第8回転要素RE8は第4サンギヤS4であり、第8回転要素RE8は第1クラッチC1を介して第1中間出力部材M1(実質的には第2キャリヤCA2)に選択的に連結されている。
上記第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、第3ブレーキB3、第4ブレーキB4は、従来の車両用自動変速機においてよく用いられている油圧式摩擦係合装置であって、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本または2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成され、それが介挿されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。
本実施例の変速機10は、図2の共線図および図3の作動表により示される第1変速段列と、図4の共線図および図5の作動表により示される第2変速段列の何れかが選択されて変速制御が行われるようになっている。
まず、第1変速段列を説明する。図2は、第1変速段列においてギヤ段(変速段)毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度を直線で表すことができる共線図であり、下側の横線X1が回転速度「0」を示し、上側の横線X2が回転速度「1.0」すなわち入力軸16に連結された第2中間出力部材M2の回転速度を示している。また、第1変速部28の各縦線は、左から順番に第1回転要素RE1(R1、S2)、第2回転要素RE2(CA1)、第3回転要素RE3(CA2)、第4回転要素RE4(S1、R2)をそれぞれ表しており、それらの間隔は第1遊星歯車装置18および第2遊星歯車装置20のギヤ比ρ1、ρ2に応じて定められる。第2変速部30の4本の縦線は、左から順番に第5回転要素RE5(S3)、第6回転要素RE6(CA3、CA4)、第7回転要素RE7(RE3、RE4)、第8回転要素RE8(S4)を表しており、それらの間隔は、第3遊星歯車装置22および第4遊星歯車装置24のギヤ比ρ3、ρ4に応じて定められる。
そして、この共線図から明らかなように、第1変速段列では、第1速ギヤ段(第1変速段)乃至第8速ギヤ段(第8変速段)のいずれか或いは第1後進ギヤ段(第1後進変速段)および第2後進ギヤ段(第2後進変速段)のいずれかが選択的に成立させられ、略等比的に変化する変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT )が各ギヤ段毎に得られるようになっている。
すなわち、第1速ギヤ段では、第2ブレーキB2の係合により第2回転要素RE2とトランスミッションケース12との間が連結されて、入力軸16の回転が、前記第1中間伝達経路を経由して1よりも大きい第1変速比γ1(≒2.000)にて第3回転要素RE3(すなわち第1中間出力部材M1)から第2変速部30へ入力され、第2変速部30において、第1クラッチC1および第4ブレーキB4の係合により、第3回転要素RE3と第8回転要素RE8との間、および第6回転要素RE6とトランスミッションケース12との間がそれぞれ連結されることにより、入力された回転がさらに減速させられて、出力軸26に連結された第7回転要素RE7は、「1st」で示す回転速度で回転させられる。この第1速ギヤ段の変速比γ1は第1〜第8速ギヤ段のうちの最大値たとえば「4.020」程度である。
第2速ギヤ段では、第2ブレーキB2の係合により、第1速ギヤ段の場合と同様に入力軸16の回転が第1変速比γ1にて第3回転要素RE3(すなわち第1中間出力部材M1)から第2変速部30へ入力され、第2変速部30において、第1クラッチC1および第3ブレーキB3の係合により、第3回転要素RE3と第8回転要素RE8との間、第5回転要素RE5とトランスミッションケース12との間がそれぞれ連結されることにより、入力された回転がさらに減速させられて、出力軸26に連結された第7回転要素RE7は、「2nd」で示す回転速度で回転させられる。この第2速ギヤ段の変速比γ2は第1速ギヤ段よりも小さい値たとえば「2.717」程度である。
第3速ギヤ段では、第2ブレーキB2の係合により、第1速ギヤ段の場合と同様に入力軸16の回転が第1変速比γ1にて第3回転要素RE3(すなわち第1中間出力部材M1)から第2変速部30へ入力され、第2変速部30において、第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により、第3回転要素RE3と第8回転要素RE8との間、第3回転要素RE3と第5回転要素RE5との間がそれぞれ連結されることにより、出力軸26に連結された第7回転要素RE7は、第2変速部30へ入力された回転と等速の「3rd」で示す回転速度で回転させられる。この第3速ギヤ段の変速比γ3は第2速ギヤ段よりも小さい値たとえば「2.000」程度である。上記第1〜第3速ギヤ段が第1低速変速段に相当する。
第4速ギヤ段では、第1ブレーキB1の係合により第1回転要素RE1とトランスミッションケース12との間が連結されて、入力軸16の回転が1よりも大きく且つ前記第1変速比γ1よりも小さい第2変速比γ2(≒1.538)にて第3回転要素RE3から第2変速部30へ入力され、第2変速部30において、第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により、第3回転要素RE3と第8回転要素RE8との間、第3回転要素RE3と第5回転要素RE5との間がそれぞれ連結されることにより、出力軸26に連結された第7回転要素RE7は、「4th」で示す回転速度で回転させられる。この第4速ギヤ段の変速比γ4は第3速ギヤ段よりも小さい値たとえば「1.538」程度である。
第5速ギヤ段では、第1ブレーキB1の係合により第4速ギヤ段の場合と同様に入力軸16の回転が第2変速比γ2(≒1.538)にて第3回転要素RE3から第2変速部30へ入力され、第2変速部30において、第1クラッチC1および第3クラッチC3の係合により、第3回転要素RE3と第8回転要素RE8との間、第4回転要素RE4と第6回転要素RE6との間がそれぞれ連結されることにより、出力軸26に連結された第7回転要素RE7は、「5th」で示す回転速度で回転させられる。この第5速ギヤ段の変速比γ5は第4速ギヤ段よりも小さい値たとえば「1.211」程度である。
第6速ギヤ段では、第3クラッチC3の係合により第4回転要素RE4と第6回転要素RE6との間が連結されることにより、入力軸16の回転が第2変速比γ2よりも小さい第3変速比γ3すなわち変速比1.0にて第4回転要素RE4から第2変速部30へ入力され、さらに、第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により、第3回転要素RE3と第8回転要素RE8との間、第3回転要素RE3と第5回転要素RE5との間がそれぞれ連結されて第2変速部30は一体回転させられるので、出力軸26に連結された第7回転要素RE7は、「6th」で示す回転速度で回転させられる。この第6速ギヤ段の変速比γ6は第5速ギヤ段よりも小さい値たとえば「1.000」程度である。
第7−2速ギヤ段では、第2ブレーキB2の係合により、第1速ギヤ段の場合と同様に入力軸16の回転が第1変速比γ1にて第3回転要素RE3から第2変速部30へ入力され、第2変速部30において、第2クラッチC2および第3クラッチC3の係合により、第3回転要素RE3と第5回転要素RE5との間、第4回転要素RE4と第6回転要素RE6との間がそれぞれ連結されることにより、出力軸26に連結された第7回転要素RE7は、「7th−2」で示す回転速度で回転させられる。この第7−2速ギヤ段の変速比γ7−2は第6速ギヤ段よりも小さい値たとえば「0.784」程度である。なお、この第7−2速ギヤ段に代えて、図2において破線で示す第7−1速ギヤ段(7th−1)が成立させられてもよい。第7−1速ギヤ段では、第1ブレーキB1の係合により、第4速ギヤ段の場合と同様に入力軸16の回転が第2変速比γ2にて第3回転要素RE3から第2変速部30へ入力され、第2変速部30において、第2クラッチC2および第3クラッチC3の係合により、第3回転要素RE3と第5回転要素RE5との間、第4回転要素RE4と第6回転要素RE6との間がそれぞれ連結されることにより、出力軸26に連結された第7回転要素RE7は、「7th−1」で示す回転速度で回転させられる。この第7−1速ギヤ段の変速比γ7−1は第6速ギヤ段よりも小さく、且つ、第7−2速ギヤ段よりも大きい値たとえば「0.831」程度である。
第8速ギヤ段では、第3クラッチC3および第3ブレーキB3の係合により、第4回転要素RE4と第6回転要素RE6との間、第5回転要素RE5とトランスミッションケース12との間がそれぞれ連結されることにより、出力軸26に連結された第7回転要素RE7は、「8th」で示す回転速度で回転させられる。この第8速ギヤ段の変速比γ8は第7−2速ギヤ段および第7−1速ギヤ段よりも小さい値たとえば「0.645」程度である。
第1後進ギヤ段では、第2ブレーキB2の係合により、第1速ギヤ段の場合と同様に入力軸16の回転が第1変速比γ1にて第3回転要素RE3から第2変速部30へ入力され、第2変速部30において、第2クラッチC2および第4ブレーキB4の係合により、第3回転要素RE3と第5回転要素RE5との間、第6回転要素RE6とトランスミッションケース12との間がそれぞれ連結されることにより、出力軸26に連結された第7回転要素RE7は「Rev1」で示す回転速度で回転させられる。この第1後進ギヤ段の変速比γR1は第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間の値たとえば「3.636」程度である。
第2後進ギヤ段では、第1ブレーキB1の係合により、第4速ギヤ段の場合と同様に入力軸16の回転が第2変速比γ2にて第3回転要素RE3から第2変速部30へ入力され、第2変速部30において、第2クラッチC2および第4ブレーキB4の係合により、第3回転要素RE3と第5回転要素RE5との間、第6回転要素RE6とトランスミッションケース12との間がそれぞれ連結されることにより、出力軸26に連結された第7回転要素RE7は「Rev2」で示す回転速度で回転させられる。この第2後進ギヤ段の変速比γR2は第1後進変速段よりも小さく、第2速ギヤ段と同程度の値たとえば「2.797」程度である。
図3の作動表は、上記各変速段とクラッチC1〜C3、ブレーキB1〜B4の作動状態との関係をまとめたもので、「○」は係合を表しており、空欄は解放を表す。この図3に示されるように、前記第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、第3ブレーキB3、第4ブレーキB4のうちから選択された2つ或いは3つが同時に係合作動させられることにより、第1速ギヤ段(第1変速段)乃至第8速ギヤ段(第8変速段)のいずれか或いは第1後進ギヤ段(第1後進変速段)および第2後進ギヤ段(第2後進変速段)のいずれかが選択的に成立させられる。
また、図3には、変速比のステップ(連続する変速段間の変速比の比)が合わせて示されている。図3に示されるように、第1速ギヤ段の変速比γ1と第2速ギヤ段の変速比γ2との比(=γ1/γ2)は「1.480」であり、第2速ギヤ段の変速比γ2と第3速ギヤ段の変速比γ3との比(=γ2/γ3)は「1.358」であり、第3速ギヤ段の変速比γ3と第4速ギヤ段の変速比γ4との比(=γ3/γ4)は「1.300」であり、第4速ギヤ段の変速比γ4と第5速ギヤ段の変速比γ5との比(=γ4/γ5)は「1.271」であり、第5速ギヤ段の変速比γ5と第6速ギヤ段の変速比γ6との比(=γ5/γ6)は「1.211」であり、第6速ギヤ段の変速比γ6と第7−2速ギヤ段の変速比γ7−2との比(=γ6/γ7−2)は「1.275」であり、第7−2速ギヤ段の変速比γ7−2と第8速ギヤ段の変速比γ8との比(=γ7−2/γ8)は「1.216」であり、各変速比γが略等比的に変化させられていることが分かる。また、第1速ギヤ段の変速比γ1と第8速ギヤ段の変速比γ8との比である変速比幅(=γ1/γ8)は比較的大きな値すなわち「6.231」となっている。
次に、第2変速段列を図4および図5に基づいて説明する。図4の共線図における縦線、横線の意味は図2と同様であり、図4の共線図から明らかなように、第2変速段列では、第1速ギヤ段(第1変速段)乃至第7速ギヤ段(第7変速段)のいずれか或いは第1後進ギヤ段(第1後進変速段)および第2後進ギヤ段(第2後進変速段)のいずれかが選択的に成立させられるようになっている。
第2変速段列においては、第3速ギヤ段、第4速ギヤ段、第5速ギヤ段、第6−1速ギヤ段、第6−2速ギヤ段、第7速ギヤ段、第1後進ギヤ段、および第2後進ギヤ段は、前述の第1変速段列の第4速ギヤ段、第5速ギヤ段、第6速ギヤ段、第7−1速ギヤ段、第7−2速ギヤ段、第8速ギヤ段、第1後進ギヤ段、および第2後進ギヤ段にそれぞれ対応し、対応するギヤ段と同じ係合作動により同じギヤ比が得られるギヤ段である。
第2変速段列の第1速ギヤ段では、第1ブレーキB1の係合により第1回転要素RE1とトランスミッションケース12との間が連結されて、入力軸16の回転が、前記第2中間伝達経路を経由して前記第2変速比γ2にて第3回転要素RE3(すなわち第1中間出力部材M1)から第2変速部30へ入力され、第2変速部30において、第1クラッチC1および第4ブレーキB4の係合により、第3回転要素RE3と第8回転要素RE8との間、および第6回転要素RE6とトランスミッションケース12との間がそれぞれ連結されることにより、入力された回転がさらに減速させられて、出力軸26に連結された第7回転要素RE7は、「1st」で示す回転速度で回転させられる。この第1速ギヤ段の変速比γ1は第2変速段列の第1〜第7速ギヤ段のうちの最大値であり、且つ、第1変速段列の第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間の値たとえば「3.092」程度である。
第2変速段列の第2速ギヤ段では、第1ブレーキB1の係合により、第1速ギヤ段の場合と同様に入力軸16の回転が、前記第2中間伝達経路を経由して前記第2変速比γ2にて第3回転要素RE3(すなわち第1中間出力部材M1)から第2変速部30へ入力され、第2変速部30において、第1クラッチC1および第3ブレーキB3の係合により、第3回転要素RE3と第8回転要素RE8との間、および第5回転要素RE5とトランスミッションケース12との間がそれぞれ連結されることにより、入力された回転がさらに減速させられて、出力軸26に連結された第7回転要素RE7は、「2nd」で示す回転速度で回転させられる。この第2速ギヤ段の変速比γ2は第2変速段列の第1速ギヤ段よりも小さい値であり、且つ、第1変速段列の第2速ギヤ段と第3速ギヤ段との間の値たとえば「2.090」程度である。
また、第2変速段列の第3速ギヤ段は、第1変速段列の第4速ギヤ段に対応するので、第1ブレーキB1の係合により第1回転要素RE1とトランスミッションケース12との間が連結されて、入力軸16の回転が、前記第2中間伝達経路を経由して、前記第2変速比γ2にて第3回転要素RE3から第2変速部30へ入力され、第2変速部30において、第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により、第3回転要素RE3と第8回転要素RE8との間、第3回転要素RE3と第5回転要素RE5との間がそれぞれ連結されることにより、出力軸26に連結された第7回転要素RE7は、第2変速部30に入力された回転と等速の「3rd」で示す回転速度で回転させられる。この第3速ギヤ段の変速比γ3は第1変速段列の第4速ギヤ段と同じ値、すなわち「1.538」程度である。第2変速段列では、上記第1〜第3速ギヤ段が第2低速変速段に相当する。
図5の作動表に示されるように、第2変速段列においても、前記第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、第3ブレーキB3、第4ブレーキB4のうちから選択された2つ或いは3つが同時に係合作動させられることにより、第1速ギヤ段(第1変速段)乃至第8速ギヤ段(第8変速段)のいずれか或いは第1後進ギヤ段(第1後進変速段)および第2後進ギヤ段(第2後進変速段)のいずれかが選択的に成立させられる。また、図5と図3とを比較すると分かるように、第1変速段列と第2変速段列とではステップは大きく相違しない。
このように第1変速段列および第2変速段列が成立させられる変速機10は、たとえば、図6に示す変速制御装置40によって変速制御が行われる。変速制御装置40は、CPU、RAM、およびROM等を有するマイクロコンピュータを備えて構成されており、機能的に変速マップ切り換え手段42、変速段列切換手段44、自動変速手段46、マニュアル変速手段48を備えている。また、車速Vおよびアクセル操作量θaccを表す信号が供給されるとともに、パワーモード選択スイッチ50、マニュアルモード選択スイッチ52、変速スイッチ54、変速段列選択スイッチ56からそれぞれパワーモードを選択する信号、マニュアルモードを選択する信号、アップダウン或いは各変速段を直接選択する信号、変速段列を選択する信号が供給されるようになっている。マニュアルモード選択スイッチ52および変速スイッチ54は、例えばインストルメントパネル等に設けられる。また、変速段列の選択は、図3の作動表と図5の作動表を切り換えるためのもので、参考のためにたとえばギヤレシオの大小、或いは走行性能の良否などを表す表示が変速段列選択スイッチ56の近傍に設けられる。
上記自動変速手段46は、車速Vおよびアクセル操作量θaccをパラメータとして予め定められた変速マップに従って変速機10の変速段を自動的に切り換えるもので、マニュアル変速手段48は、マニュアルモード選択スイッチ52によってマニュアルモードが選択された場合に、変速スイッチ54から供給されるアップダウン信号や変速段選択信号等に応じて変速機10の変速段を切り換える。変速マップ切換手段42は、自動変速手段46の変速制御で使用する変速マップをパワーモードか否かによって切り換えるもので、パワーモード選択スイッチ50によりパワーモードが選択されている場合はパワーモード用の変速マップを設定し、そうでない場合はノーマルモード用の変速マップを設定する。パワーモード用の変速マップは、例えばノーマルモード用よりも高車速側で変速が行われるように定められる。
変速段列切換手段44は、図3に示す第1変速段列を用いた作動表による変速と、図5に示す第2変速段列を用いた作動表による変速とを切り換えるもので、マニュアルモード選択スイッチ52によってマニュアルモードが選択された場合には、変速段列選択スイッチ56で選択された変速段列の作動表を設定し、マニュアル変速手段48は、この設定された作動表に従って変速制御を行う。マニュアルモードでない場合は、前記変速マップと同様にパワーモードか否かによって作動表を設定し、パワーモード選択スイッチ50によりパワーモードが選択された場合は図3の第1変速段列を用いた作動表を設定し、そうでない場合は図5の第2変速段列を用いた作動表を設定する。そして、前記自動変速手段46は、この設定された作動表に従って変速制御を行う。なお、作動表の設定や切換えは、各作動表に従ってクラッチC1〜C3、ブレーキB1〜B4の係合、解放状態が切り換えられて各変速段が成立させられるように、油圧回路を切り換える電磁弁の一連のON、OFFパターン等の設定や切換えを意味する。
上述のように、本実施例では、入力軸16の回転が1より大きい第1変速比γ1(≒2.000)で第2変速部30へ入力され、さらにその回転がその回転速度に対して変速比1.0以上に変速された第1低速変速段(第1〜第3変速段)を含む前進8段、後進2段の第1変速段列と、入力軸16の回転が第2変速比γ2(≒1.538)で第2変速部30へ入力され、その回転がその回転速度に対して変速比1.0以上に変速され、且つ第1低速変速段とは異なる変速比となる第2低速変速段(第1〜第3変速段)を含む前進7段、後進2段の第2変速段列とが成立させられるようになっており、それら第1変速段列と第2変速段列が切り換えて使用されるので、運転モードや運転者の好み、走行条件等に適した一層適切な変速制御が行われるようになる。
また、本実施例では、第1変速段列および第2変速段列とも、低速変速段すなわち第1〜第3変速段における、第2変速部30の係合要素(クラッチ、ブレーキ)の係合作動が同じとなり、且つ、2つの係合要素の掴み替えだけでそれら第1〜第3変速段の変速を行うことができるので、変速制御が簡単になる。また、第2変速段列の第1変速段の変速比は、第1変速段列の第1変速段と第2変速段の間となり、第2変速段列の第2変速段の変速比は、第1変速段列の第2変速段と第3変速段の間となるので、必要とされるトルクに応じた適切な変速比の選択が可能となる。
また、本実施例では、第1変速段列の第4変速段〜第8変速段は、第2変速段列の第3変速段〜第7変速段とそれぞれ対応し、対応する変速段は同じ係合要素の係合により変速段が成立させられるので、変速制御が簡単になり、且つ、第1変速段列と第2変速段列とでは変速段数および変速比幅が異なるので、それら第1変速段列と第2変速段列とを切り換えて使用することにより、運転モードや運転者の好み、走行条件等に適した一層適切な変速制御が可能となる。
また、本実施例では、第1変速段列の第7変速段−第8変速段および第2変速段列の第6変速段−第7変速段を除き、第1変速段列および第2変速段列ともに、2つの係合要素の掴み替えにより変速を行うことができ、また、第1変速段列の第7変速段−第8変速段および第2変速段列の第6変速段−第7変速段についても、実質的に第2クラッチC2と第3ブレーキB3との掴み替えだけで変速を行うことができる。
また、本実施例の変速機10は、エンジン8の出力は流体伝動装置としてのロックアップクラッチ13付のトルクコンバータ14を介して変速機10の入力軸16に入力されるので、コンパクトな自動変速機の設計が可能となる。
次に、本発明の第2実施例を説明する。なお、以下の説明において前述の第1実施例と同一の構成を有する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
図7は、FF車両など車両に対して横置きに搭載される車両用駆動装置60の骨子図で、本発明の一実施例である多段変速機としての遊星歯車式多段変速機62を備えている。遊星歯車式多段変速機62は、互いに平行な第1軸線L1および第2軸線L2に跨がって配設されており、第1軸線L1上には入力軸16が設けられ、燃料の燃焼によって動力を発生する内燃機関等のエンジン8から流体継手としてのトルクコンバータ14を経て動力が入力されるようになっている。
上記第1軸線L1および第2軸線L2に跨がって第1動力伝達機構64および第2動力伝達機構66が設けられており、これら第1動力伝達機構64および第2動力伝達機構66により第1変速部68が構成される。また、第2軸線L2上には第2変速部70が配設されている。
第1動力伝達機構64は、互いに噛み合わされた一対のカウンタギヤ72、74にて構成されており、入力軸16に相対回転不能に配設されたカウンタギヤ72から第2軸線L2上のカウンタギヤ74へ回転が伝達される。本実施例では、カウンタギヤ72、74の歯数は同じで、第3変速比γ3すなわち変速比1.0で入力軸16の回転が逆方向ではあるが同じ回転速度で第2軸線L2側へ伝達される。本実施例では、カウンタギヤ74が第2中間出力部材M2として機能し、このカウンタギヤ74を介して入力軸16の回転が第2変速部70へ入力される経路が第3中間伝達経路である。
第2動力伝達機構66は、互いに噛み合わされた一対のカウンタギヤ76、78と、第1軸線L1上に配設されたシングルピニオン型の第1遊星歯車装置80とを備えて構成されており、第1遊星歯車装置80の第1サンギヤS1および第1キャリヤCA1は第1クラッチC1により選択的に互いに連結されるとともに、第1リングギヤR1は入力軸16に相対回転不能に連結されて回転駆動され、第1サンギヤS1は第1ブレーキB1によりトランスミッションケース12に選択的に連結されて回転停止させられ、第1キャリヤCA1には上記カウンタギヤ76が一体的に設けられている。カウンタギヤ78は第1中間出力部材M1として機能する。
カウンタギヤ76、78のギヤ比(=カウンタギヤ78の歯数/カウンタギヤ76の歯数)は約1.54で、第4クラッチC4が係合させられるとともに第2ブレーキB2が解放され、第1遊星歯車装置80が入力軸16と一体回転させられると、第2軸線L2側のカウンタギヤ78は、第1動力伝達機構64の変速比1.0よりも大きい第2変速比γ2(≒1.538)で入力軸16に対して減速回転させられて第2変速部70へ回転が伝達される。また、第4クラッチC4が解放されるとともに第2ブレーキB2が係合させられると、第1キャリヤCA1すなわちカウンタギヤ76は入力軸16に対して変速比(1+ρ1)で減速回転させられ、第2軸線L2側のカウンタギヤ78は、上記第2変速比γ2よりも更に大きい第1変速比γ1(≒1.54×(1+ρ1))で入力軸16に対して減速回転させられる。ここで、ρ1は第1遊星歯車装置80のギヤ比で、本実施例では約0.299であり、第1変速比γ1≒2.00になり、カウンタギヤ78は入力軸16に対して約1/2の回転速度で減速回転させられる。入力軸16の回転が、上記第2変速比γ2にて減速させられてカウンタギヤ78から第2変速部70へ入力される経路が第2中間伝達経路であり、上記第1変速比γ1にて減速させられてカウンタギヤ78から第2変速部70へ入力される経路が第1中間伝達経路である。
一方、第2軸線L2上に配設された第2変速部70は、第1実施例と同様の第3遊星歯車装置22および第4遊星歯車装置24を主体として構成され、それらの一部が第1実施例と同様の態様で互いに連結されることによって、第1実施例と同様の4つの回転要素RE5〜RE8が構成されている。
そして、第5回転要素RE5(S3)は第3ブレーキB3によってトランスミッションケース12に選択的に連結されて回転停止させられ、第6回転要素RE6(CA3、CA4)は第4ブレーキB4によってトランスミッションケース12に選択的に連結されて回転停止させられ、第8回転要素RE8(S4)は第1クラッチC1を介して第2動力伝達機構66のカウンタギヤ78に選択的に連結され、第5回転要素RE5(S3)は第2クラッチC2を介して同じく第2動力伝達機構66のカウンタギヤ78に選択的に連結され、第6回転要素RE6(CA3、CA4)は第3クラッチC3を介して第1動力伝達機構64のカウンタギヤ74に選択的に連結され、第7回転要素RE7(R3、R4)は差動歯車装置82のデファレンシャルケース84に一体的に連結されて回転を出力するようになっている。このデファレンシャルケース84は出力回転部材に相当し、第2変速部70からデファレンシャルケース84に伝達された動力を、一対の車軸86、88を介して左右の駆動輪に分配する。一方の車軸88は、第2変速部70の中心部を挿通させられるとともに、更に第1動力伝達機構64および第2動力伝達機構66のそれぞれの被回転体であるカウンタギヤ72、78の中心部を挿通させられて反対側へ突き出している。
第2実施例の変速機62は、図8の共線図および図9の作動表により示される第1変速段列と、図10の共線図および図11の作動表により示される第2変速段列の何れかが選択されて変速制御が行われるようになっている。
図8および図10の共線図において、第1変速部68の各縦線は、左から順番に第1サンギヤS1、第1キャリヤCA1、第1リングギヤR1をそれぞれ表しており、それらの間隔は第1遊星歯車装置80のギヤ比ρ1に応じて定められる。
そして、これらの共線図からも明らかなように、第1変速部68は、第1実施例の場合と同様に、入力軸16の回転を、第1変速比γ1(≒2.000)、第2変速比γ2(≒1.538)および第3変速比γ3(≒1.000)にて第2変速部68へ伝達する。また、共線部の第2変速部70も第1実施例と同様に構成されている。また、第1実施例の図3、図5に示す作動表の第1ブレーキB1を第4クラッチC4に置き換えれば、図9、図11に示す作動表となる。従って、第2実施例においても、第1実施例と同じ効果が得られる。
次に、本発明の第3実施例について説明する。図12は、第3実施例の遊星歯車式多段変速機90の骨子図である。この変速機90は、第1軸線L1および第2軸線L2に跨って、第1動力伝達機構92、第2動力伝達機構94および第3動力伝達機構96が、トルクコンバータ14側からこの順に設けられており、これら第1〜第3動力伝達機構92、94、96を主体として第1変速部98が構成されている。
第1動力伝達機構92は、互いに噛み合わされた一対のカウンタギヤ100、102からなり、第1軸線L1上の入力軸16に相対回転不能に配設されたカウンタギヤ100から第2軸線L2上のカウンタギヤ102へ回転が伝達される。このカウンタギヤ100、102のギヤ比は前記第1変速比γ1とされており、カウンタギヤ102は、第5クラッチC5および第4クラッチC4を介して第1中間出力部材M1に選択的に連結されている。
第2動力伝達機構94は、互いに噛み合わされた一対のカウンタギヤ104、106からなり、入力軸16に相対回転不能に配設されたカウンタギヤ104から第2軸線L2上のカウンタギヤ106へ回転が伝達される。このカウンタギヤ104、106のギヤ比は前記第2変速比γ2とされており、カウンタギヤ106は、第4クラッチC4を介して第1中間出力部材M1に選択的に連結されている。
第3動力伝達機構96は、互いに噛み合わされた一対のカウンタギヤ108、110からなり、入力軸16に相対回転不能に配設されたカウンタギヤ108から第2軸線L2上のカウンタギヤ110へ回転が伝達される。このカウンタギヤ108、110のギヤ比は前記第3変速比γ3すなわち変速比1.0とされており、カウンタギヤ110は第2中間出力部材M2に選択的に連結されている。
そして、第1中間出力部材M1または第2中間出力部材M2から、入力軸16の回転が第1変速比γ1、第2変速比γ2、または第3変速比γ3にて第2変速部112へ伝達され、第1変速比γ1で伝達される経路が第1中間伝達経路、第2変速比γ2で伝達される経路が第2中間伝達経路、第3変速比γ3で伝達される経路が第3中間伝達経路である。
一方、第2軸線L2上に配設された第2変速部112は、第1実施例と同様の第3遊星歯車装置22および第4遊星歯車装置24を主体として構成され、それらの一部が第1実施例と同様に互いに連結されることによって、第1実施例と同様の4つの回転要素RE5〜RE8が構成され、それら4つの回転要素RE5〜RE8は第1実施例と同じ係合要素(クラッチ、ブレーキ)に選択的に連結されている。また、第2変速部112には、第6回転要素RE6(CA3、CA4)の逆転方向の回転を規制するワンウェイクラッチF1が設けられている。
このように構成された変速機90は、第1実施例と同様に、入力軸16の回転が第1変速比γ1、第2変速比γ2、または第3変速比γ3にて第2変速部112に入力され、また、第2変速部112は、ワンウェイクラッチF1が設けられている以外は、第1実施例の場合と同様に構成されているので、第1実施例の第1ブレーキB1、第2ブレーキB2に替えて、第4クラッチC4、第5クラッチC5を作動させれば、第1実施例と同じ変速比および変速比ステップの第1変速段列および第2変速段列が可能となる。従って、第1実施例と同様の効果が得られる。なお、ワンウェイクラッチF1が第4ブレーキB4と並列に設けられているので、前進変速段においては、第4ブレーキB4が係合させられなくてもよい。
次に、本発明の第4実施例を説明する。第4実施例の変速機は、第1実施例と同じ第1〜第4遊星歯車装置18、20、22、24を有し、また、それらの結合関係やそれらの遊星歯車装置に連結される係合要素も第1実施例と同一であり、骨子図としては図1と同様になる。第4実施例と第1実施例との相違点は、第1変速段列および第2変速段列の構成のみである。
第4実施例の変速機は、図13の共線図および図14の作動表により示される第1変速段列と、図15の共線図および図16の作動表により示される第2変速段列の何れかが選択された変速制御が行われるようになっている。
第1変速段列は前進8段、後進2段の変速段からなり、第2変速段列は前進7段、後進2段の変速段からなる。そして、入力軸16の回転に対して増速となる変速段を除く変速段、すなわち前進の第1変速段〜第6変速段および後進1、2段は、共通の作動により成立させられる。また、それら前進の第1変速段〜第6変速段および後進1、2段は、第1実施例の場合と同様の作動により成立させられる。ただし、第3変速段は、図13および図15において破線で示す第3−2速ギヤ段(3rd−2)が代わりに成立させられてもよい(なお、図13および図15において「3rd−1」が第1実施例の「3rd」に相当する)。第3−2速ギヤ段では、第1ブレーキB1の係合により第1回転要素RE1とトランスミッションケース12との間が連結されて、入力軸16の回転が1よりも大きく且つ前記第1変速比γ1よりも小さい第2変速比γ2(≒1.538)にて第3回転要素RE3から第2変速部30へ入力され、第2変速部30において、第2クラッチC2および第1クラッチC1の係合により、第3回転要素RE3と第5回転要素RE5との間、第3回転要素RE3と第8回転要素RE8との間がそれぞれ連結されることにより、出力軸26に連結された第7回転要素RE7は、「3rd−2」で示す回転速度で回転させられる。この第3−2速ギヤ段の変速比γ3−2は、第1実施例の第2変速段列の第2速ギヤ段と同じであり、たとえば「2.090」程度である。
また、本実施例の第1変速段列では、第1高速変速段として第1実施例で説明した第7−2速ギヤ段が成立させられ、さらに、第1実施例の第8速ギヤ段が成立させられる。また、第2変速段列では、第2高速変速段として同じく第1実施例で説明した第7−1速ギヤ段が成立させられる。従って、図14および図16に示もされるように、6−7速間の変速比ステップは、第2変速段列の方が小さい(すなわちクロスギヤレシオ)となる。なお、第2変速段列も、さらに、第1変速段列と同じ第8速ギヤ段が成立させられてもよい。
上述の第4実施例によれば、第1中間伝達経路(入力軸16の回転が第1中間出力部材M1から第1変速比γ1(≒2)にて伝達される経路)および第3中間伝達経路(入力軸16の回転が第2中間出力部材M2から等速にて伝達される経路)から第2変速部30へ回転が入力されることにより入力軸16の回転よりも高速回転させられる第1高速変速段(第7−2速ギヤ段)を含む前進8段、後進2段の第1変速段列と、第2中間伝達経路(入力軸16の回転が第1中間出力部材M1から第2変速比γ2(≒1.538)にて伝達される経路)および第3中間伝達経路から第2変速部30へ回転が入力されることにより入力軸16の回転よりも高速回転、且つ、第1高速変速段(第7−2速ギヤ段)よりも変速比が大きい第2高速変速段(第7−1速ギヤ段)を含む前進7段、後進2段の第2変速段列とが成立させられるようになっており、それら第1変速段列と第2変速段列が切り換えて使用されるので、運転モードや運転者の好み、走行条件等に適した一層適切な変速制御が行われるようになる。
また、第4実施例によれば、第1高速変速段(第7−2速ギヤ段)および第2高速変速段(第7−1速ギヤ段)は、第2変速部30における係合要素の係合パターンが同じとなるので、変速制御が簡単になる。
また、本実施例においても、第1変速段列の第7変速段−第8変速段を除き、第1変速段列および第2変速段列ともに、2つの係合要素の掴み替えにより変速を行うことができ、また、第1変速段列の第7変速段−第8変速段についても、実質的に第2クラッチC2と第3ブレーキB3との掴み替えだけで変速を行うことができる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
たとえば、第1実施例〜第3実施例に示した通り、第1〜第3実施例の変速機はギヤトレーンは異なるが、同じ共線図により各変速段の回転速度を表すことができ、また、第1実施例と第4実施例とは同一のギヤトレーンであるので、第2実施例または第3実施例に示したギヤトレーンにより、第4実施例と同じ共線図に基づく第1変速段列および第2変速段列が成立させられ、その2つの変速段列の何れかを選択して変速制御が行われるようになっていてもよい。
また、変速機のギヤトレーンは、前述の実施例に示したギヤトレーンに限られず、前述の実施例と同じ共線図により各変速段の回転速度を表すことができれば、他の構成を有するギヤトレーンを用いることも可能である。たとえば、図1の変速機10において、第1遊星歯車装置18および第2遊星歯車装置20のいずれか一方をダブルピニオン型の遊星歯車装置とすることもできる。この場合には、各回転要素REを構成する部材が前述の実施例と異なるが、前述の実施例と同じ第1〜第4回転要素REを構成することが可能であるので、前述の実施例と同じ変速が可能である。
また、第1実施例〜第3実施例では、第1変速段列の第4変速段〜第8変速段(第1低速変速段以外の変速段)と第2変速段列の第3変速段〜第7変速段(第2低速変速段以外の変速段)とがそれぞれ対応し、対応する変速段は同じ係合要素の係合により変速段が成立させられていたが、第1変速段列における第1低速変速段以外の変速段と、第2変速段列における第2低速変速段以外の変速段は対応していなくてもよい。また、それらが対応している場合であっても、各変速段の係合作動、変速段の数などは前述の実施例の態様に限られない。
また、前述の第1〜第3実施例では、第1低速変速段および第2低速変速段は、ともに第1〜第3変速段の3つの変速段であったが、第1低速変速段および第2低速変速段の数は、前述の実施例記載の数に限られず、たとえば、1つの変速段のみ、または、2つの変速段であってもよい。
また、前述の第4実施例では、第1変速段列および第2変速段列の第1〜第6変速段(すなわち変速比が1以下の変速段)が共通であったが、それらの変速段は共通である必要はなく、互いに異なる係合作動により異なるギヤ比を有する変速段が成立させられるようになっていてもよい。
また、前述の第4実施例では、第1高速変速段および第2高速変速段ともに1段のみであったが、それらが2段以上設けられていてもよい。
また、前述の実施例では、エンジン8とトルクコンバータ14とはクランク軸9を介して直結されていたが、たとえばギヤ、ベルト等を介して作動的に連結されておればよく、共通の軸心上に配置される必要もない。また、エンジン8は他の駆動力源たとえば電動モータ等であってもよい。
また、前述の実施例では、第4実施例の第4ブレーキB4にのみ、それと並列にワンウェイクラッチF1が設けられていたが、他のクラッチ、ブレーキにもワンウェイクラッチが並列または直列に設けられていてもよい。
また、前述の実施例では、エンジン8と入力軸16との間に流体伝動装置としてロックアップクラッチ13付のトルクコンバータ14が設けられていたが、ロックアップクラッチ13は備えられてなくてもよい。また、そのトルクコンバータ14に替えて、フルードカップリング、磁粉式電磁クラッチ、多板或いは単板式の油圧クラッチが設けられていてもよい。
また、前述の実施例では、係合要素であるクラッチC或いはブレーキBは油圧式摩擦係合装置であったが、電磁式係合装置たとえば電磁クラッチや磁粉式クラッチ等であってもよい。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。