(化粧材)
本発明の化粧材の断面図を図1に示す。この化粧材は、図1に示すように、無機質の基材1上に、無機質保水層2と、無機質保水性下絵層3と、上絵柄層4とを備え、上絵柄層4は、表面に筋状の凹凸を備え、木目調を有する。化粧材の外観が審美性の高い木目調を有し、好ましくは天然木のような高級な質感を有するため、細密で気品溢れる木質感を生かして、たとえば、内装用または外装用の華燭材もしくは壁材、床材、建具、枠材、カウンター用天板、テーブル用天板または家具などの化粧材として有用である。また、無機質の基材をベースとして、セメント材などを主成分とする無機質保水層と無機質保水性下絵層を主たる構成要素とするため、本質的に不燃性であり、安定性と安全性が高い。
無機質の基材は、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、セラミックス、金属、コンクリート、ガラスまたはモルタルなどを好ましい材料とする。金属の基材としては、たとえば、鉄、ステンレス、アルミニウムまたは銅などからなる基材を挙げることができ、そのほか、ブリキ板(スズをメッキした鋼板)、亜鉛板(亜鉛をメッキした鋼板)などを使用することができる。また、本発明の化粧材を構成する無機質基材には、無機質のみからなる基材のほか、たとえば、石膏を芯材にして表面を厚紙で覆った板材である石膏ボードのように、完全な無機質基材ではないが、その主要組成が無機質からなる基材も含まれる。石膏ボードは、耐火性と遮音性に優れ、加工が容易であるため、化粧材の基材として好ましく使用することができる。本発明の化粧材においては、無機質基材の無機質保水層を形成する面が、凹面、凸面もしくは波形などの3次元曲面を有する態様、または、段差もしくは凹凸などを有する態様が含まれる。
図1に示すように、無機質保水層2は、無機質の基材1と無機質保水性下絵層3との間に配置する。無機質保水層2を配置することにより、無機質保水性下絵層3を形成するために着色塗料を塗装する場合、無機質の基材1への着色塗料の滲み込みが速いときでも、無機質保水層2が塗料を保持するため、木質調の自然な色の変化を表す無機質保水性下絵層3を形成することができる。一方、無機質の基材1への着色塗料の滲み込みが遅い場合は、無機質保水層2が塗料を貯蔵するため、同様に木質調の自然な色の変化を表す無機質保水性下絵層3を形成することができる。このような観点に基づき、無機質保水層の保水性は、0.4g/cm3以上が好ましく、2g/cm3以上がより好ましい。一方、無機質保水層の保水性が大きすぎると、無機質保水層の乾燥に長時間を要するため、製造効率が低下し、また、無機質保水層を形成するための塗料の粘度が高くなるため、作業性が低下する傾向にある。このため、無機質保水層の保水性は、30g/cm3以下が好ましく、10g/cm3以下がより好ましい。本明細書において、保水性は、つぎの式により求める。
保水性(g/cm3)={湿潤時の質量(g)−乾燥時の質量(g)}÷体積(cm3)
無機質保水層2を配置することにより、無機質の基材1との馴染みがよくなるため、無機質基材との密着性が高まり、製造後、年数が経過しても、ひび割れ、膨れまたは剥がれなどが生じにくく、化粧材の安定性を高めることができる。また、狂いの発生を抑えて、寸法安定性の高い構造体を提供することが可能となる。このような観点から、無機質保水層の組成は、無機系結合剤、無機填料と少量の保水剤を配合する態様が好ましく、その他、必要に応じて少量の消泡剤、硬化剤、防塵剤と着色顔料などを添加することができる。
無機質保水層に使用する結合剤は、無機系結合剤が好ましい。ユリア樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂またはレゾルシノール樹脂などの有機系結合剤を使用すると、製造後、化粧材から多量のホルムアルデヒドが発散する。また、エポキシ樹脂もしくはウレタン樹脂などの有機系結合剤を使用すると、化粧材からトルエン、キシレンなどの揮発性有機物質が発散する。無機系結合剤を使用することにより、人体に対して優しく、安全性が高い化粧材を提供することができる。無機系結合剤としては、セメント系結合剤、シリカ系結合剤またはセラミックス系結合剤が好ましい。
セメント系結合剤には、普通ポルトランドセメント(JIS R5210)、早強ポルトランドセメント(JIS R5210)、超早強ポルトランドセメント(JIS R5210)、超速硬セメント、アルミナセメント、中庸熱ポルトランドセメント(JIS R5210)、低熱ポルトランドセメント(JIS R5210)、低アルカリ型ポルトランドセメント(JIS R5210)、高炉セメント(JIS R5211)、フラッシュアイセメント(JIS R5213)、シリカセメント(JIS R5212)、エコセメント(JIS R5214)、膨張性セメント、白色ポルトランドセメント、超微粒子セメントなどを好ましく使用することができる。
それぞれのセメントには、好ましい特徴があるから、用途に応じて選択して使用する。普通ポルトランドセメントは、入手しやすい。早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、超速硬セメントとアルミナセメントは、短時間で強度が得られるため、冬場の低温時にも製造効率を高めることができる。中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメントと低アルカリ型ポルトランドセメントは、アルカリ骨材反応が小さいため、耐久性を高めることができる。高炉セメントは、海水に強い。フラッシュアイセメントは、乾燥収縮率が小さく、水を通しにくい無機質基材に適する。シリカセメントは、耐薬品性が大きい。膨張性セメントは、無機質保水層のひび割れを抑えるのに効果的である。また、白色ポルトランドセメントは白色度が高く、無機質保水層を着色する場合にも有用である。
シリカ系結合剤は、シリカゾル、アルミナゾルなどを主成分とし、コージュライトなどのセラミックス基材に対して優れた定着性を発揮し、耐久性を有する。一方、セラミックス系結合剤は、アルミナ、マグネシア、ジルコニアなどのセラミックスを主成分とし、ケイ酸塩またはリン酸塩などのバインダーを含み、金属基材またはセラミックス基材との間で強い結合力を示す。たとえば、アルミナを主成分とするセラミックス系結合剤として、Aremco Products Inc.製のセラマボンド671、セラマボンド835Mなどを使用することができる。
無機填料には、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化チタン、カオリン、クレーなどを使用することができるが、無機系結合剤としてセメント系結合剤を使用するときは、塗料の流動性を長時間維持し、無機質保水層の強度を高める点で、炭酸カルシウムと水酸化カルシウムが好適である。これは、炭酸カルシウムと水酸化カルシウムのカルシウムイオンが、水と共にセメント中に取り込まれるため、使用する水の全量が直ちにセメントの水和反応に用いられることがなくなり、その結果、未反応の水により流動性が保持されるためと考えられる。
炭酸カルシウムと水酸化カルシウムは、単独で使用しても有効であり、併用しても有効である。単独で使用する場合には、無機質保水層における炭酸カルシウムまたは水酸化カルシウムの含有量は、無機質保水層の強度を高め、塗料の流動性を維持する点で、セメント系結合剤の含有量に対して30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましい。一方、炭酸カルシウムまたは水酸化カルシウムの含有量は、セメント系結合剤の相対的な含有量が低下し、無機質保水層の強度が低下するのを防止する観点から、また、塗料の流動性の改善効果も十分に認められなくなるため、セメント系結合剤の含有量に対して70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましい。
炭酸カルシウムと水酸化カルシウムを併用する態様においても同様であり、無機質保水層における炭酸カルシウムと水酸化カルシウムとの合計含有量は、無機質保水層の強度を高め、塗料の流動性を維持する点で、セメント系結合剤の含有量に対して30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましい。一方、炭酸カルシウムと水酸化カルシウムの合計含有量は、無機質保水層の強度が低下するのを防止する観点などから、セメント系結合剤の含有量に対して70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましい。
無機質保水層に使用する保水剤は、塗膜の保水性と結合強度を大きくし、塗液の増粘性を高める機能を有する。保水剤には、たとえば、カルボキシメチルセルロース、キサントゲン酸セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのセルロース系化合物、ポリアクリル酸アンモニウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリメタクリル酸アンモニウム、アクリル酸系ポリマー、アクリルエマルジョンコポリマー、ビニルピロリドンコポリマー、ポリ酢酸ビニルエマルジョン、酢酸ビニル−エチレン共重合エマルジョン、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリルアミドなどのアクリル酸系化合物、ポリビニルアルコールなどのビニル系化合物、アルギン酸塩増粘剤、アラビアガム、デンプン、カラヤガム、グアーガム、ロカストビーンガム、ペクチン酸塩などの植物性増粘剤、天然ガム、スチレン−ブタジエン系重合体、アクリロニトリル−ブタジエン系重合体、ポリクロロプレン、ブチルゴム、ポリウレタン、ポリブテン、ポリアクリレート、ポリエチレンなどのエマルジョン・ラテックスなどがあり、種類により組合せて用いる態様が好ましい。
保水剤の好ましい配合量は、保水剤の種類により異なるが、一般的には、十分な保水性を保ち、硬化後、ひび割れなどの発生を抑える点で、無機質保水層の全固形分に対して、0.5質量%以上配合するのが好ましく、3質量%以上配合するのがより好ましい。一方、塗液の流動性を維持し、作業性を高める点で、保水剤の配合量は、無機質保水層の全固形分に対して、15質量%以下が好ましく、9質量%以下がより好ましい。保水剤には有機物が多いが、保水剤の配合量は少ないため、全体として無機質保水層であり、本質的に不燃性の化粧材を提供することができる。無機質保水層は、その保水性と、無機質保水層上に塗装する無機質保水性着色塗料の特性によっても異なるが、一般には、無機質保水性着色塗料の流動性を保持する点で、塗装する量は、固形分換算で、50g/m2以上が好ましく、80g/m2以上がより好ましい。一方、無機質保水層は、保水性が頭打ちとなるため、塗装する量は、固形分換算で、300g/m2以下が好ましく、150g/m2以下がより好ましい。
無機質保水性下絵層3は、図1に示すように、無機質保水層2と上絵柄層4との間に配置する。無機質保水性下絵層3を配置することにより、上絵柄層4を形成するために着色塗料を塗装する工程において、無機質保水性下絵層3が上絵柄層4の塗料を保持するため、木目調の自然な風合いの上絵柄層4を形成することができる。このような観点から、無機質保水性下絵層の保水性は、0.4g/cm3以上が好ましく、2g/cm3以上がより好ましい。一方、無機質保水性下絵層の保水性が大きすぎると、塗料の乾燥に長時間を要するため、製造効率が低下し、塗料の粘度が高くなり、作業性が低下する傾向にある。このため、無機質保水性下絵層の保水性は、30g/cm3以下が好ましく、10g/cm3以下がより好ましい。
無機質保水性下絵層3を配置することにより、無機質保水層2との馴染みがよくなるため、無機質保水層2との密着性が高まり、化粧材の経年変化が生じにくくなる。また、寸法安定性の高い化粧材を提供することが可能となる。このような観点から、無機質保水性下絵層の組成は、無機系結合剤、無機填料、保水剤と着色顔料を配合する態様が好ましく、その他、適宜、消泡剤、硬化剤、防塵剤などを添加することができる。無機質保水性下絵層に使用する結合剤は、安全性の高い化粧材を提供する点で、無機系結合剤が好ましい。無機系結合剤としては、セメント系結合剤、シリカ系結合剤またはセラミックス系結合剤が好ましく、前述の結合剤を使用することができる。
無機填料には、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化チタン、カオリン、クレーなどを使用することができるが、無機系結合剤としてセメント系結合剤を使用するときは、塗料の流動性を長時間維持し、無機質保水性下絵層の強度を高める点で、炭酸カルシウムと水酸化カルシウムが好適である。炭酸カルシウムまたは水酸化カルシウムの含有量は、無機質保水層と同様の観点から、セメント系結合剤の含有量に対して30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましい。また、炭酸カルシウムと水酸化カルシウムとの合計含有量は、セメント系結合剤の含有量に対して30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましい。
無機質保水性下絵層に使用する保水剤は、塗膜の保水性と結合強度を大きくし、塗液の増粘性を高める機能を有し、前述の無機質保水層に配合する保水剤を好ましく使用することができる。保水剤の配合量は、保水剤の種類により異なるが、一般的には、十分な保水性を保ち、硬化後、ひび割れなどの発生を抑える点で、無機質保水性下絵層の全固形分に対して、0.5質量%以上配合するのが好ましく、3質量%以上配合するのがより好ましい。また、塗液の流動性を維持し、作業性を高める点で、保水剤の配合量は、無機質保水性下絵層の全固形分に対して、15質量%以下が好ましく、9質量%以下がより好ましい。このように、保水剤の配合量は少ないため、全体として無機質層であり、本質的に不燃性の化粧材を提供することができる。無機質保水性下絵層は、その保水性と、無機質保水性下絵層上に塗装する着色塗料の特性によっても異なるが、一般には、着色塗料の流動性を保持する点で、塗装する量は、固形分換算で、50g/m2以上が好ましく、80g/m2以上がより好ましい。一方、無機質保水性下絵層は、保水性が頭打ちとなるため、塗装する量は、固形分換算で、300g/m2以下が好ましく、150g/m2以下がより好ましい。
無機質保水性下絵層上に形成する絵柄層は、木目模様を表現し、無機質保水性下絵層は、木目模様の下地となる木質感を表現する。このため、無機質保水性下絵層には、着色剤を配合する。着色剤には、無機顔料と有機顔料があり、不燃性の化粧材を得る点で、また、耐光性、耐薬品性に優れている点で、無機顔料が好適であるが、化粧材全体に占める顔料の割合は小さいため、適宜、有機顔料を使用することもできる。無機顔料には、黄鉛、黄色酸化鉄、カドミウムイエロー、チタンイエロー、バリウムイエロー、オーレオリン、モリブデートオレンジ、カドミウムレッド、弁柄、鉛丹、辰砂、マルスバイオレット、マンガンバイオレット、コバルトバイオレット、コバルトブルー、セルリアンブルー、群青、紺青、エメラルドグリーン、クロムバーミリオン、酸化クロム、ビリジアン、鉄黒、カーボンブラック、酸化チタン(チタン白、チタニウムホワイト)、酸化亜鉛(亜鉛華)、塩基性炭酸鉛(鉛白)、塩基性硫酸鉛、硫化亜鉛、リトポン、チタノックス、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウムなどがある。一方、有機顔料には、アゾ顔料、レーキ顔料、アントラキノン顔料、フタロシアニン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料などがある。本発明の化粧材は木質感を有するため、茶系の顔料を配合することが多いが、木質感は、木材の種類、生産地域、加齢などにより千差万別であるから、所望の色調を調製するため、2種以上の顔料を適宜、組合せて使用するのが好ましい。
図1に示すように上絵柄層4は無機質保水性下絵層3上に配置し、上絵柄層4は表面に筋状の凹凸を備える。凸部4aは、上絵柄層の厚さが部分的に厚いため、上絵柄層の色が濃く見え、凸部4aは、無機質保水性下絵層3上に筋状に配置しているため、上絵柄層上から見れば、木目調の模様として観察される。一方、凹部4bは、上絵柄層の厚さが部分的に薄いため、上絵柄層の色が薄くなり、相対的に下地の無機質保水性下絵層の地肌色が強く見え、その結果、凸部4aの木目調が強調される。したがって、木目調の模様を有する商品価値の高い化粧材を提供することができる。通常の態様では、上絵柄層4の明度が低く、無機質保水性下絵層3の明度が高い配色とするが、木目は、木材の種類に応じて多種多様であるため、上絵柄層4の明度が高く、無機質保水性下絵層3の明度が低い配色とする態様も、表現しようとする化粧材によっては有効である。
上絵柄層4の組成は、着色顔料と結合剤を配合する態様が好ましく、その他、必要に応じて、無機填料、消泡剤、硬化剤、防塵剤、分散剤、湿潤剤などを配合することができる。上絵柄層に使用する結合剤は、安全性の高い化粧材を提供する点で、前述した無機系結合剤が好ましいが、上絵柄層の化粧材中に占める割合は小さいため、必要に応じて、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体系樹脂、(メタ)アクリル酸−ブタジエン共重合体系樹脂、ポリエステル系樹脂などの樹脂組成物を適宜使用することができる。着色顔料には、無機顔料と有機顔料があり、不燃性の化粧材を得る点で、また、耐光性、耐薬品性に優れている点で、前述の無機顔料が好適であるが、化粧材全体に占める顔料の割合は小さいため、適宜、前述の有機顔料を使用することができ、所望の色調に合わせて、2種以上の顔料を組合せて使用することができる。上絵柄層は、無機質保水性下絵層の保水性と、無機質保水性下絵層上に塗装する着色塗料の特性によっても異なるが、一般には、着色塗料の流動性を保持する点で、塗装する量は、固形分換算で、10g/m2以上が好ましく、25g/m2以上がより好ましい。一方、上絵柄層は、乾燥を容易にする点で、塗装する量は、固形分換算で、60g/m2以下が好ましく、40g/m2以下がより好ましい。
本発明の化粧材が表面に保護膜を有する態様を図2に示す。保護膜を有する態様は、耐水性、耐候性と耐薬品性などの表面特性を改良することができる点で好ましい。この態様の化粧材は、たとえば、図2に示すように、無機質の基材21上に、無機質保水層22、無機質保水性下絵層23、表面に筋状の凹凸を備える木目調の上絵柄層24と保護膜25により構成される。無機質の基材21、無機質保水層22、無機質保水性下絵層23と上絵柄層24の構成は、前述した構成と同様である。図2には、保護膜25の外表面が凹凸を有する態様を例示するが、保護膜の外表面が平坦な態様も本発明の化粧材に含まれる。 保護膜25には、透明または半透明の合成樹脂が使用され、たとえば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル酸系樹脂、スチレン系樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、メラミン系樹脂、ウレタン系樹脂、フェノール系樹脂、アルキッド樹脂、セルロース系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、紫外線硬化型アクリル樹脂、紫外線硬化型エポキシ樹脂、熱硬化型エポキシ樹脂などが好適であり、必要に応じて併用することができる。また、保護膜には、艶出し剤、滑り材、帯電防止剤、結露防止剤、抗菌剤、防黴剤などを適宜、配合することができる。保護膜は、保護膜の材質によっても異なるが、一般には、化粧材の表面特性を改善する点で、膜厚が10μm以上が好ましく、25μm以上がより好ましい。一方、保護膜は、乾燥を容易にする点で、60μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましい。
(化粧材の製造方法)
本発明の化粧材の製造方法は、無機質の基材上に無機質保水層を形成する工程と、無機質保水性下絵層を形成する工程と、上絵柄層を形成する工程とを含み、上絵柄層を形成する工程は、無機質保水性下絵層上に着色塗料を塗装する工程と、耐水性シート状体で着色塗料層を被覆し、耐水性シート状体と着色塗料層との間の空気を除去する工程と、乾燥する工程と、耐水性シート状体を剥離する工程とを含む。かかる方法により、技術的な熟練がなくても、表面に筋状の凹凸を備え、審美性の高い木目調の上絵柄層を有する化粧材を安価で大量に生産することができる。また、基材が3次元的な曲面を有する場合や、基材の表面に段差または凹凸などを有する場合のように、化粧シートの貼付が困難な場合でも、容易に木目調の化粧材を提供することができる。また、有機溶媒を使用せず、人体に対する安全性の高い化粧材の製造方法を提供することが可能である。
無機質保水層の形成工程は、無機質の基材上に無機質保水性塗料を塗装する工程と、乾燥工程とを備える。塗装方法は、刷毛塗り、スプレーガンによる塗装またはロールによる塗装など、任意の方法を採用することができ、必要に応じて複数回塗装することができる。木材をスライスした突板または化粧シートを基材に貼付して製造する従来の化粧材の製造方法は、家具、建具または陶磁器のように、基材表面が3次元曲面を有する場合や、基材表面が段差または凹凸を有する場合には使用することが困難である。これに対して、本発明の製造方法では、塗装方法を採用するため、基材表面が凹面、凸面または波形などの3次元曲面を有する場合や、基材表面が段差または凹凸などを有する場合でも、無機質保水層を形成できる。無機質基材の表面は、サンドブラスト処理またはウィスカー処理などによる粗面化、コロナ処理、オゾン処理、プラズマ処理、電離放射線処理、重クロム酸処理などを施すと、無機質保水層との密着性が高まる点で好ましい。無機質保水性塗料塗布後の乾燥は、自然乾燥、熱風乾燥など、公知の方法を利用することができるが、大気中、400〜1100℃、1〜24時間で焼成すると、基材と無機質保水層との密着力が向上する点で好ましい。乾燥後、必要に応じて、無機質保水層の表面を研磨または研削し、表面を平滑化することができる。また、完全に乾燥せず、その後の工程で乾燥することもできる。
無機質保水性下絵層の形成工程は、無機質保水層上に無機質保水性着色塗料を塗装する工程と、乾燥工程とを備える。無機質保水性下絵層の形成により、天然木のような自然な色の変化を表す下絵を得ることができる。塗装方法は、刷毛塗り、スプレーガンによる方法またはロールによる塗装など、任意の方法を利用することができ、必要に応じて複数回塗装することができる。本発明の製造方法では、塗装方法を採用するため、表面が3次元曲面を有する場合や、表面が段差または凹凸を有する場合でも、無機質保水性下絵層を形成することができる。無機質保水層の表面は、サンドブラスト処理またはウィスカー処理などによる粗面化、コロナ処理、オゾン処理、プラズマ処理、電離放射線処理、重クロム酸処理などを施すと、無機質保水層との密着性が高まる点で好ましい。無機質保水性着色塗料の塗布後の乾燥は、自然乾燥、熱風乾燥など、公知の方法を利用することができる。乾燥後、必要に応じて、無機質保水性下絵層の表面を研磨または研削し、表面を平滑化することができる。また、完全に乾燥せず、その後の工程で乾燥することもできる。
上絵柄層の形成工程は、無機質保水性下絵層上に着色塗料を塗装する工程と、耐水性シート状体で着色塗料層を被覆し、耐水性シート状体と着色塗料層との間の空気を除去する工程と、乾燥する工程と、耐水性シート状体を剥離する工程とを備える。図3は、本発明の製造方法中の上絵柄層形成工程における化粧材の断面図を示す。図3(a)は、無機質の基材31上に、無機質保水層32と無機質保水性下絵層33を形成し、着色塗料層34aを塗装した後の断面図である。また、図3(b)は、耐水性シート状体35で着色塗料層34bを被覆し、耐水性シート状体35と着色塗料層34bとの間の空気を除去した後の断面図である。図3では、耐水性シート状体35として、複数の折り目をおよそ一方向に有するシートを使用する例を示す。図3(a)に示す例において、着色塗料層34aを塗装した状態では、着色塗料層34aの表面は平坦であるが、着色塗料層34aが完全に乾燥する前に、折り目を有する耐水性シート状体35で被覆すると、図3(b)に示すように、耐水性シート状体35aでは、毛細管現象などにより着色塗料層が凸部を形成し、隆起する。一方、耐水性シート状体35bでは、着色塗料層が凹部を形成し、薄くなる。その後、乾燥し、耐水性シート状体を剥離することにより上絵柄層が形成され、審美性の高い木目調の化粧材を提供することができる。
着色塗料層の塗装方法は、刷毛塗り、スプレーガンによる塗装またはロールによる塗装など、任意の方法を利用することができ、必要に応じて複数回塗装することができる。本発明の製造方法では、塗装方法を採用するため、表面が3次元曲面を有する場合や、表面が段差または凹凸を有する場合でも、上絵柄層を形成することができる。着色塗料の濃度が高すぎると、下絵層が隠蔽されるため、適宜、希釈して使用する態様が好ましい。
耐水性シート状体と着色塗料層との間の空気は、耐水性シート状体で着色塗料層の全部を被覆し、耐水性シート状体の表面を刷毛またはロールなどにより押し出すことにより除去することができる。また、耐水性シート状体で着色塗料層を被覆しながら、耐水性シート状体の表面を刷毛またはロールなどにより押し出すことにより、耐水性シート状体と着色塗料層との間の空気を除去することができ、いずれの態様も、本発明の製造方法に含まれる。耐水性シート状体が複数の折り目をおよそ一方向に有するときは、耐水性シート状体の折り目方向に沿って空気を除去すると、容易に空気を除去することができる。無機質保水性下絵層の表面は、サンドブラスト処理またはウィスカー処理などによる粗面化、コロナ処理、オゾン処理、プラズマ処理、電離放射線処理、重クロム酸処理などを施すと、層間の密着性が高まる点で好ましい。着色塗料の塗布後の乾燥は、自然乾燥、熱風乾燥など、公知の方法を利用することができる。乾燥後、必要に応じて、上絵柄層の表面を研磨または研削し、表面を平滑化することができる。
耐水性シート状体は、たとえば、ポリエチレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、ウレタン系樹脂、フェノール系樹脂、尿素系樹脂、アルキド系樹脂、繊維素系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、フッ素系樹脂などからなる樹脂シートが好適である。また、鉄、銅、ステンレス、真鍮、アルミニウムなどからなる金属シート、表面を耐水加工した紙シートなども任意に使用することができる。
耐水性シート状体が、複数の折り目をおよそ一方向に有すると、上述のとおり、木目調の化粧材を得ることができる。複数の折り目は、薄手の樹脂シートなどの耐水性シート状体を手や機械で左右に引きながら絞ることにより容易に形成することが可能である。耐水性シート状体に、不揃いな筋状の折り目があると、天然木調の高級な質感を有する化粧材が得られ、折り目同士が寄り添うように交差した耐水性シート状体を使用すると、銘木調の質感を有する化粧材が得られる。また、一方向に平行な折り目を有する耐水性シート状体を使用すると、柾目調の木目が得られる。また、折り目のない耐水性シート状体を使用した場合でも、薄手のシートであるときは、着色塗料層を被覆し、空気を除去した後、着色塗料層上で耐水性シート状体に自然にシワが入る傾向があるため、表面に筋状の凹凸が形成され、木目調の上絵柄層を有する化粧材が得られる。従来の化粧材の製造方法では、紙や樹脂シートなどのシートに木目調の印刷をして化粧シートを形成し、この化粧シートを基材表面に貼付して製造している。これに対して、本発明の化粧材の製造方法によれば、塗装後、耐水性シート状体を用いることにより、極めて容易に木目調の化粧材を製造することができる。薄手の耐水性シート状体は、微細な折り目を容易に形成することができ、また、折り目のない耐水性シート状体であっても、上述のとおり、シワが入りやすく、木目調の化粧材の形成が容易である点で、厚さは50μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましい。一方、被覆および剥離などに取り扱い時の破損を防止する点で、厚さは3μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましい。また、厚手の耐水性シート状体を使用し、着色塗料層に接する表面に凹凸加工を施しても同様の効果を得ることができる。耐水性シート状体の凹凸は、金属シート、樹脂シートなどにエンボス加工または押し出し成型などを施すと、容易に形成することができる。したがって、本発明の方法により、自由度が高い多種多様な木目を有する化粧材を製造することが可能である。
保護膜の形成は、刷毛塗り、スプレーガンによる塗装、ロールによる塗装などの公知の方法を適用することができる。上絵柄層の表面は、サンドブラスト処理またはウィスカー処理などによる粗面化、コロナ処理、オゾン処理、プラズマ処理、電離放射線処理、重クロム酸処理などを施すと、保護膜との密着性が高まる点で好ましい。保護膜材料の形成後の乾燥は、自然乾燥、熱風乾燥などを利用することができる。
(実施例1)
無機質の基材であるケイ酸カルシウム板(厚さ6mm)上に無機質保水性塗料を塗装し、乾燥することにより、無機質保水層を形成した。無機質保水性塗料の固形分組成は、
セメント系結合剤(白色ポルトランドセメント) 60質量%
炭酸カルシウム 30質量%
メチルセルロース 6質量%
その他(防塵剤、硬化剤など) 4質量%
であり、固形分濃度は23質量%(固形分30質量部と水100質量部との混合物)であった。無機質保水性塗料はスプレーガンによりケイ酸カルシウム板上に塗装し、乾燥した。乾燥後の無機質保水層の塗布量は92g/m2であり、無機質保水層の保水性は5g/cm3であった。
つぎに、無機質保水層上に無機質保水性着色塗料をスプレーガンにより塗装し、乾燥することにより、無機質保水性下絵層を形成した。無機質保水性着色塗料は、前述の無機質保水性塗料100質量部に、茶系顔料10質量部を混合して調製した。顔料には、バーントアンバーとバーントシエナ(配合比1:4)を用いた。乾燥後の無機質保水性下絵層の塗布量は90g/m2であり、無機質保水性下絵層の保水性は6g/cm3であった。
つぎに、無機質保水性下絵層上に上絵柄層を形成した。上絵柄層を形成するために、まず、無機質保水性下絵層上に着色塗料をスプレーガンにより塗装した。着色塗料は、隠蔽性をおさえるため、茶系の水性ペイント1質量部と水10質量部とを混合した塗料を使用した。この水性ペイントの組成は、
顔料 40質量%
ポリアクリル酸エマルジョン 30質量%
水 15質量%
その他(分散剤、湿潤剤など) 15質量%
であった。顔料には、バーントアンバーと、ベンジャミンムーア株式会社製2090と、ベンジャミンムーア株式会社製2166(配合比1:1:1)を用いた。
つぎに、耐水性シート状体で着色塗料層を被覆しながら、耐水性シート状体と着色塗料層の間の空気をロールにより除去した。耐水性シート状体は、1枚のポリエチレンシート(厚さ5μm)を束ねて、両手で左右に軽く引きながら絞ることにより、およそ1方向に複数の折り目を形成したものを使用した。このシート状体は、複数の不揃いな筋状の折り目同士が寄り添うように交差した形態を有していた。図4は、本実施例で使用した耐水性シート状体の斜視図(写真)を示す。その後、乾燥し、耐水性シート状体を剥離した。上絵柄層の塗布量は、31g/m2であった。図5は、本実施例における上絵柄層形成後の化粧材の斜視図(写真)である。図5に示すように、この化粧材は、上絵柄層の表面が木目調の模様を備え、天然木調の高級な質感を有していた。また、上絵柄層の表面は、筋状の木目に沿って、凹凸を有することが確認できた。
最後に、上絵柄層上に、保護膜を形成した。保護膜は、保護膜用塗料をスプレーガンにより塗装した後、乾燥することにより形成した。保護膜用塗料は、山本窯業株式会社製のセラトップECクリアー(固形分中のアクリル樹脂エマルジョン含有量90.8質量%)を使用し、乾燥後の保護膜の厚さは30μmであった。
(実施例2)
耐水性シート状体として、実施例1のように、両手で絞ることなく、折り目を形成していないポリエチレンシート(厚さ5μm)を使用した以外は実施例1と同様にして、化粧材を製造した。図6は、本実施例における上絵柄層形成後の化粧材の斜視図(写真)である。図6に示すように、この化粧材は、天然木調の木目を備え、銘木調の質感を有していた。また、上絵柄層の表面は、筋状の木目に沿って、凹凸を有することが確認できた。
(比較例1)
上絵柄層を形成するため、無機質保水性下絵層上に、着色塗料を塗装したが、耐水性シート状体で着色塗料層を被覆することなく、そのまま乾燥した以外は実施例1と同様にして、化粧材を製造した。図7は、本比較例における上絵柄層形成後の化粧材の斜視図(写真)である。図7に示すように、この化粧材は、表面が平坦であり、木目模様は認められなかった。