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JP4151094B2 - L−システインの製造法 - Google Patents

L−システインの製造法 Download PDF

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JP4151094B2 JP32321097A JP32321097A JP4151094B2 JP 4151094 B2 JP4151094 B2 JP 4151094B2 JP 32321097 A JP32321097 A JP 32321097A JP 32321097 A JP32321097 A JP 32321097A JP 4151094 B2 JP4151094 B2 JP 4151094B2
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、L−システインの製造法に関し、詳しくはL−システインの製造に好適な新エシェリヒア属細菌、及びそれを用いたL−システインの製造法に関する。L−システイン及びL−システインの誘導体は、医薬品、化粧品及び食品分野で利用されている。
【0002】
【従来の技術】
従来、L−システインは、毛髪、角、羽毛等のケラチン含有物質から抽出することにより、あるいはDL−2−アミノチアゾリン−4−カルボン酸を前駆体とする微生物酵素変換により得られている。また、新規な酵素を用いた固定化酵素法によるL−システインの大量生産も計画されている。さらに、微生物を用いた発酵法によるL−システインの生産も試みられている。
【0003】
L−システインの生合成について、エシェリヒア・コリ等の細菌では詳細に研究されており(Kredich, N. M. et al., J. Biol. Chem., 241, 4955-4965 (1966), Kredich, N. M. et al., 1987, Biosynthesis of Cysteine. In: Neidhardt, F.C., et al., (eds) Escherichia coli and Salmonella typhimurium: cellular and molecular biology, Vol.1, American Society for Microbiology, Washington D.C., 419-428)、L−セリンから2段階の反応によりL−システインが生成することがわかっている。エシェリヒア・コリでは、第一の反応は、アセチル−CoAによるL−セリンの活性化であり、セリンアセチルトランスフェラーゼ(serine acetyltransferase(EC 2.3.1.30):以下、「SAT」ともいう)により触媒される。第二の反応は、上記反応により生成するO−アセチルセリンからL−システインが生成する反応であり、O−アセチルセリン(チオール)リアーゼにより触媒される。
【0004】
SATをコードする遺伝子(cysE)は、エシェリヒア・コリにおいては、野生株及びL−システイン分泌変異株よりクローニングされている(Denk, D. and Bock, A., J. General Microbiol., 133, 515-525 (1987))。また、これらのcysEの塩基配列が決定され、L−システインによるフィードバック阻害が減少したSATは、256位のメチオニン残基がイソロイシン残基に置換されていたことが報告されている。さらに、上記変異とは異なる変異によりL−システインによるフィードバック阻害が低減されたSATをコードするDNAを用いて、L−システイン等を製造する方法が開示されている(WO 97/15673号国際公開パンフレット)。このSATは、97位のアミノ酸残基から273位のアミノ酸残基までの領域における変異、又は227位のアミノ酸残基からC末端領域の欠失を有する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上述のように、L−システインによるフィードバック阻害が低減したSATをコードする遺伝子を利用してL−システインを製造する技術が知られているが、未だ改良の余地が残されている。すなわち、本発明者は、エシェリヒア属細菌のL−システイン生合成について研究を行ったところ、L−システインによるフィードバック阻害が低減されたSATを保持するエシェリヒア属細菌は、L−システインの生産性が不安定であることを見出した。
本発明は、エシェリヒア属細菌を用いたL−システインの改良された製造法及びこの方法に用いるエシェリヒア属細菌を提供することを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、上記のL−システイン生産の不安定性は、細胞中のシステインデスルフヒドラーゼ活性を低下させることにより安定化されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち本発明は、L−システイン分解系が抑制され、かつ、L−システインによるフィードバック阻害が低減されたセリンアセチルトランスフェラーゼを保持するエシェリヒア属細菌である。
前記エシェリヒア細菌としては、細胞中のシステインデスルフヒドラーゼ(cystein desulfhydrase:以下、「CDase」ともいう)活性の低下によりL−システイン分解系が抑制されたエシェリヒア属細菌が挙げられる。
【0008】
前記L−システインによるフィードバック阻害が低減されたセリンアセチルトランスフェラーゼとしては、野生型セリンアセチルトランスフェラーゼの256位のメチオニン残基に相当するアミノ酸残基をリジン残基及びロイシン残基以外のアミノ酸残基に置換する変異、又は256位のメチオニン残基に相当するアミノ酸残基からC末端側の領域を欠失させる変異を有するセリンアセチルトランスフェラーゼが挙げられる。
【0009】
また本発明は、前記エシェリヒア属細菌を培地に培養し、該培養物中にL−システインを生成蓄積せしめ、該培養物からL−システインを採取することを特徴とするL−システインの製造法を提供する。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
<1>本発明のエシェリヒア属細菌
本発明のエシェリヒア属細菌としては、例えばエシェリヒア・コリ(E. coli)が挙げられる。
【0012】
本発明のエシェリヒア属細菌は、L−システイン分解系が抑制され、かつ、L−システインによるフィードバック阻害が低減されたSAT(以下、「変異型SAT」ともいう)を保持するものであり、L−システイン分解系が抑制されたエシェリヒア属細菌(以下、「L−システイン分解系抑制株」ともいう)に変異型SATを保持させるか、あるいは変異型SATを保持するエシェリヒア属細菌に、細胞中のL−システイン分解系が抑制されるような変異を生じさせることにより得ることができる。尚、「L−システイン分解系の抑制」とは、システインの分解に関与する酵素のうち少なくとも一つの活性が低下又は消失していることをいう。また、「フィードバック阻害の低減」とは、低減されたフィードバック阻害が残存している場合の他、フィードバック阻害が実質的に解除されている場合を含む。
前記L−システインの分解に関与する酵素としては、CDase及びシスタチオンβリアーゼが挙げられる。
CDase活性が低下又は消失した株(以下、「CDase活性低下株」ともいう)は、野生型CDaseを保持するエシェリヒア属細菌を変異処理し、L−システインを唯一の窒素源とする培地で生育できず、かつ、通常の窒素源を含む培地で生育できる変異株を選択することによって取得することができる。変異処理としては、紫外線照射またはN−メチル−N'−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)もしくは亜硝酸等の通常の突然変異に用いられている変異剤による処理が挙げられる。得られた候補株のCDase活性が低下していることは、候補株の菌体抽出液について、Kredichらの方法(J. Biol. Chem., 248, 6187-6196 (1973))等により、CDase活性を測定し、親株のCDase活性と比較することにより確認することができる。
同様に、野生型シスタチオンβリアーゼを保持するエシェリヒア属細菌を変異処理し、シスタチオンβリアーゼ活性が低下又は消失している株を選択することにより、シスタチオンβリアーゼ活性低下株を取得することができる。
【0013】
エシェリヒア属細菌に変異型SATを保持させるには、野生型SATを保持するエシェリヒア属細菌を変異処理し、変異型SATを保持する変異株を選択するか、あるいは、変異型SATをコードするDNA(以下、「変異型cysE」ともいう)をエシェリヒア属細菌に導入することによって行うことができる。変異型cysEは、野生型cysEに、コードするSATがL−システインによるフィードバック阻害が解除されるような変異を導入することによって得られる。このような変異としては、コードされるSATのアセチル−CoAによるL−セリンの活性化を触媒する活性を実質的に損なわないものであれば特に制限されないが、具体的には、野生型SATの256位のメチオニン残基又はこのメチオニン残基に相当するアミノ酸残基をリジン残基及びロイシン残基以外のアミノ酸残基に置換する変異、又は256位のメチオニン残基に相当するアミノ酸残基からC末端側の領域を欠失させる変異が挙げられる。前記他のアミノ酸残基としては、通常のタンパク質を構成するアミノ酸のうち、メチオニン残基、リジン残基及びロイシン残基を除く17種類のアミノ酸残基が挙げられる。また、変異型cysEが有する変異としては、WO 97/15673号国際公開パンフレットに記載されている変異であってもよい。
【0014】
本発明における変異型SATとしては、上記のL−システインによるフィードバック阻害を低減する変異に加えて、アセチル−CoAによるL−セリンの活性化を触媒する活性を実質的に損なわないような1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列を有するものであってもよい。そのような変異を有するSATにおいては、256位のメチオニン残基の位置が変わっている場合もあるが、そのような場合であっても、256位のメチオニン残基に相当するアミノ酸残基をリジン残基及びロイシン残基以外のアミノ酸残基に置換することによって、L−システインによるフィードバック阻害が低減した変異型SATが取得され得る。
【0015】
野生型cysEは、デンクらによって報告されている方法(Denk, D. and Bock, A., J. general Microbiol., 133, 515-525 (1987))、あるいはこの報告に記載されているcysEの塩基配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとし、エシェリヒア属細菌染色体DNAを鋳型とするPCR(ポリメラーゼ・チェイン・リアクション;White,T.J. et al ;Trends Genet. 5,185(1989)参照)により、cysEを含むDNA断片を増幅することによって得られる。前記プライマーとして具体的には、配列番号1及び2に示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドが挙げられる。参考として、配列番号5及び6に、デンクらによって報告されている野生型cysEの塩基配列及びコードされるアミノ酸配列を示す。
【0016】
得られたcysEに所望の変異を導入する方法としては、部位特異的変異が挙げられる。部位特異的変異に用いるプライマーとしては、例えば、配列番号3及び4に示す塩基配列を有するオリゴヌクレオチドが挙げられる。変異が導入されたcysE断片から変異が導入された部位を含む領域を切り出し、野生型cysEと、相当する領域を入れ換えることにより、変異型cysEを得ることができる。
【0017】
上記のようにして得られる変異型cysEを含むDNA断片をエシェリヒア属細菌に導入するには、通常のタンパク質発現に用いられる種々のベクターを用いることができる。その際、変異型cysE遺伝子を自律複製可能なベクターに挿入したものを宿主に導入し、プラスミドのように染色体外DNAとして宿主エシェリヒア属細菌に保持させてもよいが、変異型cysE遺伝子を、トランスダクション、トランスポゾン(Berg,D.E. and Berg,C.M.,Bio/Technol.,1,417(1983))、Muファージ(特開平2−109985)または相同性組換え(Experiments in Molecular Genetics, Cold Spring Harbor Lab.(1972))を用いた方法で宿主エシェリヒア属細菌の染色体に組み込んでもよい。
【0018】
プロモーターとしては、cysE固有のプロモーターを用いてもよいが、発現ベクターに含まれているプロモーターを用いて、これにcysEコード領域を連結してもよい。発現ベクターとしては、pBluescriptII SK+(STRATAGENE社)、pGEMEX-1(プロメガ社製)、pUC系(宝酒造(株)等)、pPROK系(クロンテック製)、pKK233-2(クロンテック製)等、市販のベクターを使用することができる。
【0019】
cysEを含む発現ベクターをエシェリヒア属細菌に導入するには、D.M.Morrisonの方法(Methods in Enzymology 68, 326 (1979))あるいは受容菌細胞を塩化カルシウムで処理してDNAの透過性を増す方法(Mandel,M. and Higa,A.,J.Mol.Biol.,53,159(1970))等、エシェリヒア属細菌の形質転換に通常用いられている方法により行うことができる。
【0020】
<2>L−システインの製造法
上記のようにして細胞中のシステインデスルフヒドラーゼ活性が低下又は消失し、かつ、L−システインによるフィードバック阻害が低減されたセリンアセチルトランスフェラーゼを保持するエシェリヒア属細菌を好適な培地で培養し、該培養物中にL−システインを生産蓄積せしめ、該培養物からL−システインを採取することにより、L−システインを効率よく、かつ、安定に製造することができる。尚、本発明の方法により製造されるL−システインには、還元型のシステインに加えてシスチンも含まれる場合があるが、本発明の製造法の対象物にはシスチン又は還元型のシステイン及びシスチンの混合物も含まれる。
【0021】
使用する培地としては、炭素源、窒素源、イオウ源、無機イオン及び必要に応じその他の有機成分を含有する通常の培地が挙げられる。
炭素源としては、グルコース、フラクトース、シュクロース、糖蜜やでんぷんの加水分解物などの糖類、フマール酸、クエン酸、コハク酸等の有機酸類を用いることができる。
【0022】
窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機アンモニウム塩、大豆加水分解物などの有機窒素、アンモニアガス、アンモニア水等を用いることができる。
【0023】
イオウ源としては、硫酸塩、亜硫酸塩、硫化物、次亜硫酸塩、チオ硫酸塩等の無機硫黄化合物が挙げられる、
有機微量栄養源としては、ビタミンB1などの要求物質または酵母エキス等を適量含有させることが望ましい。これらの他に、必要に応じてリン酸カリウム、硫酸マグネシウム、鉄イオン、マンガンイオン等が少量添加される。
【0024】
培養は好気的条件下で30〜90時間実施するのがよく、培養温度は25℃〜37℃に、培養中pHは5〜8に制御することが好ましい。尚、pH調整には無機あるいは有機の酸性あるいはアルカリ性物質、更にアンモニアガス等を使用することができる。培養物からのL−システインの採取は通常のイオン交換樹脂法、沈澱法その他の公知の方法を組み合わせることにより実施できる。
【0025】
【実施例】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0026】
<1>変異型cysE遺伝子の及び該遺伝子導入用プラスミドの構築
エシェリヒア・コリJM240(Hfr ProC47 Cys-54 supE42)から染色体DNAを常法により調製し、これを鋳型として用い、公知のcysEの塩基配列に基づいて合成したオリゴヌクレオチド(配列番号1、2)をプライマーとするPCRによって、cysEを含むDNA断片を増幅した。プライマーは、増幅される配列がコード領域及びプロモーター配列を含むように設計した。PCR反応は、宝酒造(株)製DNAサーマルサイクラー PJ2000型を用い、Taq DNAポリメラーゼを用い、供給者により指定された方法に従って行なった。
【0027】
増幅された1.2kbのDNA断片について、EcoRVで切断したpBluescriptII SK+を用いてTAクローニングを行い、4.2kbのプラスミドを得た。このプラスミドをpCEと名付けた。得られたクローニング断片の塩基配列を決定し、野生型のcysEと同一の塩基配列を含むことを確認した。
【0028】
上記のようにして得られたcysEに、コードされるSATの256位のメチオニン残基を他の19種類のアミノ酸残基又は終止コドンに置換する変異を、配列番号3及び4に示す塩基配列を有する相補的なオリゴヌクレオチド対を用い、pCEを鋳型とする部位特異的変異により導入した。変異が導入されたcysEの一部を含む断片とpCEをPstIとBstEIIで消化し、生じた0.31kbの断片を入れ換え、変異型cysEを含むプラスミドを得た(図1)。得られたプラスミドについて塩基配列決定を行い、変異型cysEの目的の部位に変異が導入されたこと、及び目的部位以外の部位にミスマッチ変異が生じていないことを確認した。但し、256位のメチオニン残基をリジン残基に置換したものは、224位のセリン残基がプロリン残基に置換されるミスマッチ変異が生じていた。こうして得られたプラスミドのシリーズを総称してpCEM256*と名付けた。尚、「*」はメチオニン残基以外のアミノ酸残基を表す記号を代表し、例えば、pCEM256Aは、256位のメチオニン残基がアラニン残基に置換されたSATをコードする変異型cysEを含むプラスミドを表す。
【0029】
プラスミドpCE及び上記のようにして得られたpCEM256*で、cysE欠損株であるエシェリヒア・コリJM39(F+ cysE51 tfr-8)(Denk, D. and Bock, A., J. Gene. Microbiol, 133, 515-525(1987))を形質転換し、得られた形質転換株をそれぞれJM39(pCE)及びJM39(pCEM256*)と名付けた。
【0030】
アンピシリン 50mg/Lを含むLB(Bacto-Tryptone 10g/L、Bacto-Yeast Extract 5g/L、NaCl 5g/L、pH7.0)プレート培地で30℃、24時間培養した各形質転換体1白金耳を、アンピシリン 50mg/Lを添加した下記液体培地(組成は下記のとおり)3mlを入れた試験管にそれぞれ接種し、30℃で72時間培養した。培養は、各形質転換体について2連で行った。培養後、生育、pH及びシステイン蓄積量を調べた。生育は、培養液を0.1N HClで26倍希釈し、562nmにおける吸光度(OD562)を測定することにより調べた。L−システインの蓄積量は、沈澱したシスチンを溶かすため培養液をO.5N HClで希釈したものを、ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)を用いるバイオアッセイ(Tsunoda, T. et al., Amino acids, 3, 7-13 (1961))により、還元型システイン及びシスチンの総量として測定した。その結果を表1に示す。表中の「256th」は、256位のアミノ酸残基を示す。また、「stop」は、256位が終止コドンに置換されたことを示す。
【0031】
野生型cysEを含むプラスミドを保持するJM39(pCE)に比べて、変異型cysEを含むプラスミドを保持するJM39(pCEM256*)では、256位のメチオニン残基がロイシン残基又はリジン残基に置換されたもの(JM39(pCEM256L、JM39(pCEM256K)を除いて、システイン蓄積量が大幅に増加したが、結果にばらつきがあり、システイン生産性は不安定であった。
【0032】
(培地組成)
グルコース 30g/L
塩化アンモニウム 10g/L
KH2PO4 2g/L
MgSO4・7H2O 1g/L
FeSO4・7H2O 10mg/L
MnCl2・4H2O 10mg/L
CaCO3 20g/L
【0033】
【表1】
Figure 0004151094
【0034】
<2>CDase低下株の取得
エシェリヒア・コリJM39を、0.1mg/mlのNTG溶液中で15分変異処理し、塩化アンモニウムをL−システイン(0.3g/L)に置換したM9培地(組成は下記のとおり)プレートでは生育できず、L−シテステイン0.1g/Lを含むM9培地で生育する変異株、39-8株を選択した。
【0035】
(培地組成)
Na2HPO4 6g/L
KH2PO4 3g/L
NaCl 0.5g/L
MgSO4・7H2O 0.25g/L
CaCl2・4H2O 0.015mg/L
グルコース 4g/L
チアミン・HCl 0.001g/L
【0036】
次に、得られたL−システイン非資化性株である39-8株のCDase活性を次のようにして測定した。39-8株を、LB培地にL−システイン−HCl1mg/mlを添加した培地で37℃、8時間培養し、菌体を超音波処理し、30,000×gで30分遠心し、上清を採取して粗酵素液とした。この粗酵素液について、Kredichらの方法(J. Biol. Chem., 248, 6187-6196 (1973))でCDase活性を測定した。すなわち、0.1M Tris-HCl、5mM ピリドキサールリン酸、2mM L−システイン・HCl、0.3ml粗酵素液からなる反応液1.5mlを37℃で30分反応させ、生成するピルビン酸を定量し、タンパク当たりの生成量をCDase活性とした。結果を表2に示す。
39-8株のCDase活性は、親株に比べて明らかに低下していた。
【0037】
【表2】
Figure 0004151094
【0038】
<3>CDAse低下株への変異型cysE遺伝子の導入及びL−システインの生産
上記で得られたCDase低下株である39-8株を、pCE及びpCEM256*で形質転換した。得られた形質転換株をそれぞれ39-8(pCE)及び39-8(pCEM256*)と名付けた。これらの形質転換株を、アンピシリン 50mg/Lを含むLBプレート培地で30℃、24時間培養した各形質転換体1白金耳を、アンピシリン 50mg/Lを添加したC1培地(組成は下記のとおり)20mlを入れた坂口フラスコにそれぞれ接種し、30℃で72時間振盪培養した。培養は、各形質転換体について2連で行った。培養後、生育、培養液のpH、残糖、L−システインの蓄積量、及び対糖収率を調べた。生育及びL−システイン量は、前記と同様にして行った。結果を表3に示す。
【0039】
また、JM39(pCE)及びJM39(pCEM256*)を上記と同様にして培養し、L−システインの蓄積量を調べた結果を表4に示す。この結果から、変異型cysEをCDase低下株に導入することによって、L−システイン生産量が増加し、かつ、安定した生産性を示すことが明らかである。
【0040】
【表3】
Figure 0004151094
【0041】
【表4】
Figure 0004151094
【0042】
256位のメチオニン残基をグルタミン酸残基に置換したSATをコードする変異型cysEを含むpCEM256Eを保持する39-8株(E. coli 39-8(pCEM256 )、プライベートナンバー:AJ13391)は、平成9年11月20日より工業技術院生命工学工業技術研究所(郵便番号305 日本国茨城県つくば市東一丁目1番3号)に、FERM P−16527の受託番号のもとで寄託されている。
上記寄託菌株よりpCEM256Eを取得し、部位特異的変異を導入することによって、256位のメチオニン残基を所望のアミノ酸残基に置換したSATをコードする変異型cysEを得ることができる。
【0043】
<4>変異型cysE遺伝子を導入したCDase低下株のSAT活性の測定
39-8(pCE)及び39-8(pCEM256*)株を、アンピシリン 50mg/Lを添加したC1培地(組成は下記のとおり)20mlを入れた坂口フラスコに接種し、30℃で48時間振盪培養した後、集菌した。菌体を、氷冷した50mM Tris-HCl(pH7.5)で2回洗浄し、2mM ジチオスレイトールを含む50mM Tris-HCl(pH7.5)に懸濁し、超音波処理により菌体を破砕した。破砕物を30,000×gで30分遠心し、上清を粗抽出液としてSAT活性の測定に用いた。
【0044】
SAT活性の測定は、50mM Tris-HCl(pH7.5)、1mM L−セリン、0.1mM アセチル−CoA及び粗酵素液を含む1mlの反応液を30℃で15分反応させ、アセチル−CoAのチオエステル結合の開裂による232nmの吸光度の減少を測定することによって行った。前記反応液からL−セリンを除いたものをブランクとした。また、前記反応液にL−システイン10μMを加えて同様に反応を行い、L−システインによるフィードバック阻害の程度を調べた。尚、アセチル−CoAのε値は6.5×103M-1cm-1である。L−システインを添加しない場合のSAT比活性及びL−システインを加えたときの残存活性(%)を表5に示す。
【0045】
256位のメチオニン残基を他のアミノ酸残基に置換したSATは、いずれもL−システインによるフィードバック阻害が低減されていた。尚、256位のメチオニン残基をロイシン残基又はリジン残基に置換したSATは、SAT活性が認められなかった。
【0046】
【表5】
Figure 0004151094
【0047】
【発明の効果】
本発明のエシェリヒア属細菌は、L−システインを高効率かつ安定に生産する能力を有している。
【0048】
【配列表】
Figure 0004151094
【0049】
Figure 0004151094
【0050】
Figure 0004151094
【0051】
Figure 0004151094
【0052】
Figure 0004151094
Figure 0004151094
Figure 0004151094
【0053】
Figure 0004151094
Figure 0004151094

【図面の簡単な説明】
【図1】 pCEM256*の構築の概略を示す図。

Claims (3)

  1. 細胞中のシステインデスルフヒドラーゼ活性の低下によってL−システイン分解系が抑制され、かつ、L−システインによるフィードバック阻害が低減されたセリンアセチルトランスフェラーゼを保持するエシェリヒア属細菌。
  2. 前記L−システインによるフィードバック阻害が低減されたセリンアセチルトランスフェラーゼが、野生型セリンアセチルトランスフェラーゼの256位のメチオニン残基に相当するアミノ酸残基をリジン残基及びロイシン残基以外のアミノ酸残基に置換する変異、又は256位のメチオニン残基に相当するアミノ酸残基からC末端側の領域を欠失させる変異を有する請求項1記載のエシェリヒア属細菌。
  3. 請求項1または2に記載のエシェリヒア属細菌を培地に培養し、該培養物中にL−システインを生成蓄積せしめ、該培養物からL−システインを採取することを特徴とするL−システインの製造法。
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