JP4141860B2 - 小型無人ヘリコプタの自律制御装置及びプログラム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、設定する位置または速度の目標値に向けて小型無人ヘリコプタを自律制御させる自律制御装置およびプログラムに関する。
【0002】
【従来の技術】
ヘリコプタは前後、左右、上下方向の運動や空中停止といった飛行機には見られない行動範囲を持つ飛行体であり、様々な局面に対して柔軟に対応できるという特長がある。この特長を生かしてヘリコプタを無人でかつ小型とし、送電線の点検のような高所で行う作業、または災害救助や地雷探知といった、有人で作業を実施するには困難または危険を伴う場所での活用が期待されている。従来、農薬散布用途で使用されている無人ヘリコプタを用いた自律制御システムが下記の特許文献1に記載されている。
【0003】
【特許文献1】
特開2000−118498
【0004】
はじめに、ヘリコプタを自律制御させるしくみを論理的に説明する。ヘリコプタは制御の対象であり、サーボモータの動作によって姿勢を変えたり、3次元的に移動したりできる飛行体である。自律制御による飛行はヘリコプタを位置や速度の目標値にしたがって移動させることを目的とし、その操縦は演算用のコンピュータの演算結果に従うものである。コンピュータにヘリコプタの操縦を代替させるには、演算用コンピュータにセンシング機能及びアクチュエーション機能を持たせる必要がある。ヘリコプタの各種飛行状態をセンシングする機能を持つ装置をセンサと呼び、また、コンピュータの演算結果により制御指令値を決定し、それを信号に変換した自律制御信号を受けてヘリコプタの舵を動かすアクチェータをサーボモータと呼ぶ。そして、[<センサ>・・・<演算用コンピュータ>・・・<サーボモータ>・・・<ヘリコプタ>(図17参照)]を結ぶフィードバック制御ループにより、ヘリコプタを目標値に向けて自律制御させることができる。
【0005】
続いて、図18を用いて特許文献1に記載の小型無人ヘリコプタの自律制御システムについて説明する。システムはヘリコプタを含む移動局と地上局とに分けられる。移動局には、ヘリコプタ機体101と、ヘリコプタ機体101の現在位置及び姿勢角を検知するセンサ102と、ヘリコプタ機体101の舵を動かすサーボモータ103と、バックアップ用送信機110からの手動操縦信号を受信するバックアップ用受信機104と、地上局との通信を行う無線モデム105と、地上局の無線モデム111から送られる制御指令値を信号に変換して発生させる制御信号発生装置106とが搭載されている。センサ102にはヘリコプタ機体101の現在位置を検知するGPSセンサ1021やヘリコプタ機体101の3軸の姿勢角を検知する3軸姿勢センサ1022が用いられる。一方、地上局には速度の目標値を入力する目標値入力用コンピュータ108と、内部演算用コンピュータ109と、ヘリコプタ機体101の状況をモニタで監視する監視装置112を備えた地上局ホストコンピュータ107と、危険時に操縦者が手動操縦するためのバックアップ用送信機110と、移動局との通信を行う無線モデム111とが設置されている。内部演算用コンピュータ109は、速度の目標値から位置や姿勢角の目標値を演算し、センサ102から得られる現在の位置、速度及び姿勢角と比較し、これに基いて目標値に近づける制御指令値を演算する。そして、[<センサ102>・・・<内部演算用コンピュータ109>・・・<サーボモータ103>・・・<ヘリコプタ機体101>(介在部は省略)]を結ぶフィードバック制御ループにより、ヘリコプタを目標値に向けて自律制御させることができる。
【0006】
以下、動作について説明する。操縦者は前後、左右、上下及び回転の4種類の速度指令値(Vx*、Vy*、Vz*、ω*)を目標値入力用コンピュータ108で設定する。設定した速度指令値は内部演算用コンピュータ109で時間積分して前後方向の目標位置X*、左右方向の目標位置Y*、上下方向の目標位置Z*、及び回転方向の目標位置(ヨーイング角)ψ*を演算し、同じく4種類の速度指令値(Vx*、Vy*、Vz*、ω*)を微分して係数を掛けることにより、目標ピッチング角θ*、目標ローリング角φ*を演算する。一方、ヘリコプタ機体101に搭載されたGPSセンサや3軸姿勢センサのセンサ102は、ヘリコプタ機体101の現在位置と現在速度(X、Y、Z、Vx、Vy、Vz)及び現在の姿勢角(θ、φ、ψ、ω)を検出する。そして、内部演算用コンピュータ109にて予め設定される各目標値とセンサで検知される各検出値との差分を以下のようにして演算する。
ΔX=X*−X
ΔY=Y*−Y
ΔZ=Z*−Z
ΔVx=Vx*−Vx
ΔVy=Vy*−Vy
ΔVz=Vz*−Vz
Δθ=θ*−θ
Δφ=φ*−φ
Δψ=ψ*−ψ
Δω=ω*−ω
【0007】
これらの差分(誤差)を基にして内部演算用コンピュータ109ではヘリコプタ機体101のそれぞれの舵を動かす各サーボモータ103の制御指令値を演算する。演算する制御指令値には、エレベータサーボ(前後方向)指令、エルロンサーボ(左右方向)指令、コレクティブサーボ(上下方向)指令、ラダーサーボ(回転方向)指令の4種類の制御指令値がある。4種類の制御指令値を演算した後、これを各サーボモータ103に与え、全ての差分が0(ゼロ)になるように内部演算用コンピュータ109でフィードバック制御している。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記自律制御システムにおいては、地上局と移動局との間でフィードバック制御ループを形成しており、フィードバックループ内には無線通信区間が存在するため、何らかの影響により無線通信が断絶したときには制御システムの論理構造が崩れる恐れがあり、航行中の安全性の観点から見て望ましくない。上記自律制御システムで用いているヘリコプタは元々農薬散布を目的としたもので、その最大積載重量はおよそ30kgであり、上記自律制御システムのセンサや演算部の大きさや重量は大きいが、これらを搭載しても十分飛行可能である。しかし、ヘリコプタの空虚重量はおよそ60kgで、全備重量はおよそ90kgにも達する。このため携帯は不便であり、また、システムを利用するときにはヘリコプタの飛行領域を実際のヘリコプタのサイズよりも十分広く取らなければならないので利用範囲が制限されるという問題もある。有人が作業を実施する上では狭い場所もあり、上記従来型ヘリコプタでは進入できない所もある。一方、本発明で扱う小型無人ヘリコプタとは、ホビー用として市販されている小型ラジコンヘリコプタ程度の大きさおよび重量のヘリコプタでかつこれと互換性のあるヘリコプタを指し、このようなヘリコプタを自律制御させることで上記の問題は解決できるが、ヘリコプタの制御は重量が小さければ小さいほど難しくなる。すなわち、装置などの最大積載重量が著しく減少し、自律制御装置の小型化が必要となり、演算装置やセンサなどにおいては、重量面や電源面はもちろんのこと、性能にも厳しい制約が生じるため、前記従来型自律制御システムにおける自律制御のための装置を前記小型無人ヘリコプタにそのまま搭載することは不可能である。また、ヘリコプタが小型であるため、ヘリコプタの動力学的特性がより不安定となり、前記従来型自律制御システムの自律制御アルゴリズムを前記小型無人ヘリコプタにそのまま適用しても制御性能は保証されない。そのため、前記小型無人ヘリコプタに合わせた自律制御アルゴリズムを開発する必要があり、その自律制御アルゴリズムの設計には前記小型無人ヘリコプタの動力学的特性をより高精度に反映した数式モデルが必要であるが、一般に数式モデルが高精度化すればするほど、それに基づいて設計された自律制御アルゴリズムは複雑化し、本来なら従来型自律制御システムで用いる高性能な演算コンピュータよりもさらに高性能な演算装置が必要とされるところであるが、前述の通り、演算装置の性能には厳しい制約が生じ、さらには自律制御プログラムの容量にも厳しい制約が生じるため、これらは明らかに相反する課題となる。ホビー用として市販されている小型ラジコンヘリコプタ程度の大きさおよび重量のヘリコプタまたはこれと互換性のあるヘリコプタを設定する位置または速度の目標値に向けて自律制御させる自律制御装置及びプログラムの需要性は高いが、開発成功例はない。そこで、本発明は、ホビー用クラスの小型無人ヘリコプタを設定する位置または速度の目標値に向けて自律制御させる自律制御装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【0009】
また、前記従来型自律制御システムには、ヘリコプタの対地高度を検知する対地高度センサが搭載されていない。この場合、ヘリコプタと地面との相対距離をリアルタイムに検出することは不可能である。ヘリコプタはメインブレードを高速回転させることにより風を地面方向に吹き下ろすことで浮上する飛行物体であるため、地面付近における飛行特性が上空における飛行特性とは著しく異なるという特徴を持ち、特に地面付近では、上空の場合と比べてヘリコプタの姿勢運動特性が不安定になりやすい。したがって、対地高度センサなしに地面との距離を一定に保つよう制御することや、ヘリコプタの地面からの上昇および地面への降下といった自動離着陸制御を安全かつ円滑に行うことは不可能である。
【0010】
無人ヘリコプタの自律制御を実現する上では、自律制御に最低限必要な装置すべてを移動局である前記無人ヘリコプタに搭載しておくことが望ましい。これは、仮に自律制御に最低限必要な装置の一部がヘリコプタに搭載されておらず地上局の介在が必要となる場合、地上局と移動局との間でフィードバック制御ループを形成することになるためフィードバックループ内に無線通信区間を設ける必要が生じ、何らかの影響により無線通信が断絶したときには制御システムの論理構造が崩れる恐れがあり、航行中の安全性の観点から見て望ましくないためである。一方、本発明で扱う小型無人ヘリコプタは積載重量等に厳しい制約があり、前記自律制御装置の前記演算部に高性能な演算装置を用いることができない。自律制御アルゴリズムとして将来非常に複雑なアルゴリズムを用いる必要に迫られる場合もあるが、このような場合は地上局に備えた高性能なコンピュータを前記演算部と併用することができると都合がよい。しかし、自律制御アルゴリズムの演算のために自律制御装置内蔵の演算部と地上局のコンピュータとを併用できる自律制御装置は開発例がない。
【0011】
前記小型無人ヘリコプタの機体の調整は、機体の構造部品の調整のみならず、前記手動操縦送信機側の設定情報の調整によっても行われる。前記自律制御装置の前記主演算部に自律制御アルゴリズムを実装する場合は自律制御アルゴリズムの演算結果である制御指令値が前記手動操縦送信機を経由しないため、自律制御アルゴリズム実装時に前記手動操縦送信機の内部に記憶されている、例えば前記夫々のサーボモータの駆動範囲や中心位置などの設定情報をあわせて実装しなくてはならず、その分実装に手間がかかる。自律制御システムの理想形は、前述の通り、前記自律制御装置の前記主演算部に制御アルゴリズムを実装し、フィードバック制御ループから無線通信区間を排除した形態であるが、自律制御アルゴリズムの開発段階においては、上記の手間のため制御アルゴリズムの開発の手順が煩雑となってしまうため、むしろ、前記地上局のコンピュータに制御アルゴリズムを実装し、前記手動操縦送信機を経由してその設定情報を通した形で前記夫々のサーボモータを駆動できるようにすることが望まれる場合がある。しかし、前記手動操縦送信機を経由する形式で前記夫々のサーボモータを駆動できる方式の自律制御システムは開発例がない。
【0012】
ホビー用手動操縦送信機には、本来初心操縦者の操縦練習を目的として、外部操縦信号を受け付ける機能が備わっている。この機能を利用することで、前記地上局のコンピュータから前記手動操縦送信機を経由し前記手動操縦受信機に対して任意のサーボパルス信号を発生させることができ、前記夫々のサーボモータを駆動させることが可能である。しかし、前記手動操縦送信機が受け付けることのできる前記外部操縦信号は、一般的なコンピュータで利用できるような汎用インターフェースではなく、特別なパルス形式にエンコードされたものだけである。したがって、前記地上局のコンピュータの演算出力をこのパルス形式に変換する必要がある。しかし、前記地上局のコンピュータに直接接続できる前記変換のための装置は開発例がない。
【0013】
本発明で扱う小型無人ヘリコプタが属するクラスのいわゆるホビー用ラジコンヘリコプタには、すでに従来から永く用いられ、かつ十分な実績を持つ市販のサーボモータと手動操縦の送受信機が搭載されている。前記小型無人ヘリコプタを自律制御化する場合も、これら市販品のサーボモータや手動操縦送受信機を用いることが安全性や互換性の面で有利である。しかし、ホビー用ラジコンヘリコプタは操縦者が手動操縦することが前提でそれら製品が設計されている。手動操縦は自律制御における緊急時の命綱であり、バックアップのために欠かすことはできないが、一方で、自律制御を実現するには手動操縦信号を断ち切って制御装置からの自律制御信号をサーボモータに送る必要がある。ただ、手動操縦信号を断ち切るとは言っても、物理的に信号線を断ち切ってしまうと手動操縦が効かなくなってしまう。そこで、手動操縦信号と自律制御信号の切り替えが不可欠であるのだが、ホビー用製品としての前記サーボモータを切り替えの対象とした切替装置は開発例がない。また、従来型無人ヘリコプタでは、この切り替えと同等の役目をヘリコプタ搭載装置内部にて行っているが、本発明においてこれと同様な手段を用いるとすれば、自律小型無人ヘリコプタの安全性、信頼性、およびホビー用ラジコンヘリコプタとの互換性の維持という面で不利となる。この点の解決の前提条件として、前記自律制御装置を、ホビー用ラジコンヘリコプタの後付け装置すなわちアドインであるとみなし、前記小型無人ヘリコプタおよびその前記手動操縦系統から分離するという考え方が必要となる。そのため、役割上必然的にホビー用手動操縦系統と関わりが深くなる前記サーボパルス混合/切替装置は、前記自律制御装置とは一線を画した単体の外部装置として実現する必要がある。
【0014】
従来型自律無人ヘリコプタでは、ヘリコプタを自律制御させることが唯一の目的であり、自律制御を行いつつも人間による手動操縦が割って入るような状況は考慮されていない。本発明では、単なる自律制御の実現にとどまらず、自律制御装置を手動操縦の補助装置すなわち操縦者アシスト装置として利用し得ることも考えている。操縦補助については、その目的および手法は様々考えられるが、例えば、手動操縦の段階的上達を目的とするものであれば、練習の初期段階においては自律制御の介在割合を大きくし、徐々にその割合を減らし、最終的に自律制御の介在しない完全手動操縦による操縦へと進めていくべきである。よって、前記サーボパルス混合/切替装置において、手動操縦信号と自律制御信号を、その割合を任意に与えて混合し、前記夫々のサーボモータへ出力できると都合がよい。しかし、このような手動操縦信号と自律制御信号を任意の割合で混合できる装置もしくはソフトウェアは、開発例がない。
【0015】
前記サーボパルス混合/切替装置は、前記小型無人ヘリコプタの操縦系統における根幹を担う装置であり、もし飛行中に本装置への電源供給が途絶えれば、たとえ他の装置、例えば前記自律制御装置、前記手動操縦受信機、前記夫々のサーボモータ等に電源が供給されていても、前記夫々のサーボモータへの駆動信号が出力できない状態となり、ヘリコプタの墜落は免れず、致命的な事故につながる恐れがある。前記切替装置を開発するにあたっては、パルス処理演算用にコンピュータの搭載が必須で、本装置のために安定な電源用バッテリを独立に用意するほうが本装置の信頼性が向上すると思われがちである。しかし、バッテリの数が増えると、バッテリの消耗を見落としたり、電源スイッチを入れ忘れたり、配線の複雑化により配線ミスをしたりするなどの人為的ミスが発生しやすくなり、そのような状態でヘリコプタを飛行させれば事故に直結する。すなわち、実用上の安全性および信頼性は十分に確保されないことになる。そこで、少なくとも、電源における人的ミスによる事故発生の可能性を極力排除しなければならない。
【0016】
前記サーボパルス混合/切替装置は、前記小型無人ヘリコプタの操縦系統における根幹を担う装置であり、もし飛行中に本装置の動作が停止すれば、ヘリコプタの墜落は免れず、致命的な事故につながる恐れがある。そのため、物理的な破損の場合はやむを得ないとしても、それ以外の場合本装置が常時正常に動作することを保証しなければならない。
【0017】
前記サーボパルス混合/切替装置は、前述の通りホビー用のサーボモータおよび手動操縦受信機と電源系統を共用し、これらと常に一体となって使用されるため、これらにより構成される手動操縦系統と親和性が高いことが望ましい。すなわち、前記自律制御装置の電源が入っていない状態か、または、前記自律制御装置と本装置との間の結線がなされていない状態であっても、ホビー用ラジコンヘリコプタと同じ使用手順によって手動操縦のみは常に可能であることが望ましく、ホビー用ラジコンヘリコプタとの互換性の維持という観点からも必要である。自律制御装置なしに手動操縦が実施可能な自律小型無人ヘリコプタは、開発例がない。
【0018】
本来手動操縦は、自律制御と独立なものであり、自律制御とは一切関係ないものであるとも考えられる。しかし、自律制御アルゴリズムの設計の過程では、手動操縦信号の計測が必要とされる場合がある。本発明における数式モデルの作製に当たっては、前記小型無人ヘリコプタの前記夫々のサーボモータの入力信号と、前記自律制御装置に実装されたセンサにより計測される前記小型無人ヘリコプタの飛行状態である出力信号とを対応付けて解析することにより数式モデルを得る、システム同定と呼ばれる手法を用いている。このシステム同定は前記小型無人ヘリコプタを飛行させた状態で入出力データを採取する必要があり、これを同定実験と呼ぶ。同定実験を行うには、システム同定に適した同定入力信号で前記夫々のサーボモータを駆動する必要があるが、このとき、同定入力のみであると前記小型無人ヘリコプタの姿勢が大きく傾いたり急加速したりすることがあり、事故を招く可能性がある。そこで、このようなことが起こらないよう手動操縦により補正舵を打つことで前記小型無人ヘリコプタの運動を安定化する必要がある。ただ、この補正舵も同定入力の一部とみなされるため、システム同定の際には前記手動操縦信号も計測データとして得ておかなければならない。
【0019】
前述の通り、本発明では、前記自律制御装置を手動操縦の補助装置すなわち操縦者アシスト装置として利用することも考えている。操縦補助の目的および手法として、例えば、手動操縦信号を前記自律制御アルゴリズムの目標値入力信号に対応付け、実際前記夫々のサーボモータへ出力される駆動信号はすべて前記自律制御アルゴリズムによる演算結果である自律制御信号とする方式が考えられる。言い換えれば、人間は自分で操縦しているつもりであるが、実際には人間は前記自律小型無人ヘリコプタに対して目標値である移動命令を与えているだけであり、その目標値を受けて前記自律制御アルゴリズムが演算され、自律制御されている、という方式である。この方式には、前記地上局のコンピュータを使わずとも前記自律制御アルゴリズムに目標値を与えられるため、コンピュータの操作に不慣れな人でも自律制御の恩恵にあずかった安全な前記小型無人ヘリコプタの飛行を行えるという大きなメリットがある。この場合、前記手動操縦信号を目標値に対応付けるための新たな手法が必要となる。
【0020】
前記小型無人ヘリコプタを自律制御する自律制御アルゴリズムを開発するには、その動特性を記述する数式モデルが必要である。数式モデルを用いることにより、近年発達し、その有効性が十分に認められたさまざまな制御理論を自律制御アルゴリズム開発に適用することが可能となり、前記小型無人ヘリコプタを自律制御する場合の飛行性能の向上が期待できる。しかし、ヘリコプタの動特性は力学的作用、流体力学的作用などが複雑に影響し合い、その解析は困難を極めるものである。有人ヘリコプタの詳細な動特性の解析は、現在までに積極的に行なわれてきたが、本発明で扱うサイズのヘリコプタに関する詳細な解析は行なわれていない。また、前記サーボモータの動特性に関する解析例も報告されていない。
【0021】
たとえ前記小型無人ヘリコプタの動特性を詳細に記述する数式モデルが得られたとしても、その数式モデルが非常に複雑なものであれば、自律制御アルゴリズムの開発も困難になる。また、複雑な数式モデルに基づいて開発された自律制御アルゴリズムは一般に複雑となり、重量の制約から演算性能に厳しい制約があるコンピュータによる実行を考えると、必ずしも適当であるとは言えない。
【0022】
理論的解析を避け、物理システムの入出力関係からその動特性を推測するシステム同定手法が存在する。システム同定には、広い帯域の周波数成分を含む信号を物理システムに入力する必要があるが、そのような信号を前記小型無人ヘリコプタへ入力するには危険性が伴う。また、前記入出力信号を計測する装置、および計測システムが必要となる。本発明で対象としているクラスの小型無人ヘリコプタに対して、システム同定を実行し、得られた同定モデルの妥当性を検証した例はない。
【0023】
本発明は、設定する位置や速度の目標値に向けて小型無人ヘリコプタを自律制御させる自律制御装置及びプログラムを開発し、この装置をヘリコプタ機体に搭載して自律制御システムを実現するために、自律制御信号と手動操縦信号との混合または切り替えるサーボパルス混合/切替装置や、手動操縦送信機が受け付けることのできるパルス信号に変換するパルスジェネレータ装置、および小型無人ヘリコプタの自律制御に適した自律制御アルゴリズムを開発することも目的とする。
【0024】
【課題を解決するための手段】
本発明の小型無人ヘリコプタの自律制御装置は、小型無人ヘリコプタの現在位置、姿勢角、対地高度、及び機首絶対方位を検知するセンサと、地上局から設定される位置または速度の目標値と前記センサで検知される前記小型無人ヘリコプタの現在位置及び姿勢角とからヘリコプタの5つの舵を動かす夫々のサーボモータを駆動させるための最適な制御指令値を演算する主演算部と、前記センサからのデータの収集や、前記主演算部が出力する数値としての演算結果からサーボモータが受け付けることのできるパルス信号への変換を行う副演算部とを備え、かつそれらを1つの小型フレームボックスにアセンブリし小型化かつ軽量化を実現したものである。
【0025】
また、本発明の自律制御装置をヘリコプタ機体に搭載した自律制御システムは、自律制御装置の前記演算部としてこれと併用可能な地上局ホストコンピュータと、地上局ホストコンピュータを前記自律制御装置の前記演算部として併用する場合、前記地上局ホストコンピュータから出力される演算結果を、手動操縦送信機を通じて前記サーボモータに出力する過程で、数値としての前記演算結果を前記手動操縦送信機が受け付けることのできるパルス信号に変換するパルスジェネレータ装置と、小型無人ヘリコプタの前記サーボモータすべてについて、手動操縦信号と前記自律制御装置より出力された前記制御信号との切替もしくは任意の割合での混合を可能とする機能を備えたサーボパルス混合/切替装置とを備えている。
【0026】
さらに、小型無人ヘリコプタの自律制御に適した自律制御アルゴリズムは、小型無人ヘリコプタの3軸姿勢制御のエレベータ操作入力からピッチ軸姿勢角度までの伝達関数表現の数式モデルを
【数11】
とし、前記モデル式に基づいて前記小型無人ヘリコプタを自律制御している。
また、小型無人ヘリコプタの3軸姿勢制御のエルロン操作入力からロール軸姿勢角度までの伝達関数表現の数式モデルを
【数12】
とし、前記モデル式に基づいて前記小型無人ヘリコプタを自律制御している。
また、小型無人ヘリコプタの3軸姿勢制御のラダー操作入力からヨー軸姿勢角度までの伝達関数表現の数式モデルを
【数13】
とし、前記モデル式に基づいて前記小型無人ヘリコプタを自律制御している。
また、小型無人ヘリコプタの並進運動制御のピッチ軸姿勢角度から前後速度までの伝達関数表現の数式モデルを
【数14】
とし、前記モデル式に基づいて前記小型無人ヘリコプタを自律制御している。
また、小型無人ヘリコプタの並進運動制御のロール軸姿勢角度から左右速度までの伝達関数表現の数式モデルを
【数15】
とし、前記モデル式に基づいて前記小型無人ヘリコプタを自律制御している。
また、小型無人ヘリコプタの並進運動制御におけるコレクティブピッチ操作入力から上下速度の伝達関数表現の数式モデルを
【数16】
とし、前記モデル式に基づいて前記小型無人ヘリコプタを自律制御している。
また、小型無人ヘリコプタの機体の前後速度目標値を、
【数17】
とし、前記小型無人ヘリコプタを自律制御することを特徴とする小型無人ヘリコプタの自律制御アルゴリズムと、
前記小型無人ヘリコプタの機体の左右速度目標値を、
【数18】
とし、前記小型無人ヘリコプタを自律制御することを特徴とする小型無人ヘリコプタの自律制御アルゴリズムと
前記小型無人ヘリコプタの機体の上下速度目標値を、
【数19】
とし、前記小型無人ヘリコプタを自律制御している。
【0027】
本発明の自律制御装置及びプログラムにより、設定する位置や速度の目標値に従って小型無人ヘリコプタを自律制御させることができる。また、この装置をヘリコプタ機体に搭載して自律制御システムを実現するとともに、自律制御信号と手動操縦信号との混合または切り替えるサーボパルス混合/切替装置や、手動操縦送信機が受け付けることのできるパルス信号に変換するパルスジェネレータ装置、および小型無人ヘリコプタの自律制御に適した自律制御アルゴリズムを開発したので、ホビー用の小型ラジコンヘリコプタほどの小型無人ヘリコプタを、目標値に従って自律制御させることができる。これにより、ホビー用の小型ラジコンヘリコプタで完全自律制御が実施できるので、携帯に便利であり、従来の無人ヘリコプタの自律制御では実施できなかった、有人で作業を実施するには困難な狭い場所にも適応でき、その用途を拡大させることができる。
【0028】
【発明の実施の形態】
本発明においては、自律制御のためのハードウェア設計から自律制御アルゴリズムの開発まで、一貫して研究を進め、前記自律制御装置と、前記パルスジェネレータ装置と、前記サーボパルス混合/切替装置のハードウェアおよびソフトウェアを新規独自開発した。さらに、本発明では、前記数式モデルを同定する飛行実験を行い、その実験結果から数式モデルを導き、この数式モデルを用いて小型無人ヘリコプタの自律制御アルゴリズムを開発した。この自律制御システムを用いることにより、空虚重量およそ9kgの小型なヘリコプタ機体を目標値に従って完全自律制御させることに成功した。
【0029】
以下、小型無人ヘリコプタと、小型無人ヘリコプタの自律制御のためのハードウェアと、自律制御のフィードバック制御ループについて論理的に説明し、次に、ヘリコプタ機体の3軸姿勢制御および航行速度位置制御の自律制御アルゴリズムの研究成果について記述する。
【0030】
ヘリコプタ機体は、ホビー用として市販されている小型ラジコンヘリコプタの程度の大きさおよび重量のヘリコプタでかつこれと互換性のあるヘリコプタを用いる。空虚重量はおよそ9kgである。この小型無人ヘリコプタを用いることにより、送電線の点検のような高所で行う作業、または災害救助や地雷探知、または有人が作業を実施する上で困難または危険を伴う狭い場所での作業にも適用できる。この小型ヘリコプタが制御の対象であり、5つのサーボモータを駆動させることによって姿勢を変えたり、空中停止したり、前後、左右、上下に3次元的に移動したりできる飛行体である。
【0031】
自律制御による飛行は上記従来技術と同じようにヘリコプタを位置や速度の目標値にしたがって移動させることを目的とし、その操縦は、本発明が開発した数式モデルに基づいて設計された自律制御アルゴリズムに従うもので、前記自律制御アルゴリズムは本発明が開発した自律制御装置の演算用コンピュータに実装され、前記演算用コンピュータの演算結果が夫々のサーボモータへの制御信号となる。
【0032】
コンピュータにヘリコプタの操縦を代替させるには、前記演算用コンピュータにセンシング機能及びアクチュエーション機能を持たせる必要がある。ヘリコプタの各種飛行状態をセンシングする機能を持つ装置をセンサと呼び、また、コンピュータの演算結果により制御指令値を決定し、それを信号に変換した自律制御信号を受けてヘリコプタの舵を動かすアクチェータをサーボモータと呼ぶ。そして、これらにより構成される自律制御装置を作製し、ヘリコプタ機体に搭載することで、[<センサ>・・・<演算用コンピュータ>・・・<サーボモータ>・・・<ヘリコプタ>(図17参照)]を結ぶフィードバック制御ループにより、ヘリコプタを目標値に向けて自律制御させることができる。
【0033】
本発明では、前記小型無人ヘリコプタを自律制御させるためのプラットフォームとしてのハードウェアである自律制御装置の開発を行った。自律制御システムを構成するハードウェアのうち、前記サーボモータは前記小型無人ヘリコプタの機体に組みつけられているため、前記自律制御装置にはセンサ類と演算装置類が内蔵される。前記センサとして、従来型自律制御システムではヘリコプタの姿勢を検知する3軸姿勢センサとヘリコプタの現在位置を検知するGPS(Global Positioning System = 全地球測位システム)等が搭載されているが、本発明の自律制御装置には新たに前記小型無人ヘリコプタの機体と地面との距離を検知する対地高度センサを新たに搭載し、前記小型無人ヘリコプタの対地高度をリアルタイムに直接計測することが可能となり、対地高度をセンサ情報として利用する、例えば、地面との距離を一定に保つ制御や、自動離着陸制御などの自律制御アルゴリズムの利用が可能となった。また、自律制御アルゴリズムの実装と演算に用いる演算用CPUである主演算部と、前記センサからのデータの収集および処理や前記演算結果の制御信号への変換を行うCPUである副演算部とを搭載した。本自律制御装置の小型化と軽量化に伴い演算部にも機能や演算速度に厳しい制約が生じるという問題がある。そこで、演算部を主演算部と副演算部に分離し、副演算部に自律制御アルゴリズムの演算以外のほとんどすべての役割を持たせ、主演算部を自律制御アルゴリズムの演算に専念させることで、自律制御装置の小型化や軽量化に伴う演算用コンピュータの機能低下や演算速度の遅延化を極力抑えることが可能となり、この問題を解決した。この他、本自律制御装置には、前記センサや前記演算部に必要な電圧の電源を出力する電源供給装置、および地上局との通信を行う無線モデムを内蔵している。前記電源供給装置は、1つの正電圧の直流電源を入力とし、負電圧を含む3種類の電圧の電源を供給できる。前記無線モデムは2組あり、1つは地上局ホストコンピュータとの制御情報の交換に使用し、もう1つはGPSの現在位置情報の精度を向上させるための補正情報の通信用に用いる。
【0034】
本発明の自律制御装置は、前記小型無人ヘリコプタへの搭載を前提としているため、必然的に小型化や軽量化が求められる。本発明における前記小型無人ヘリコプタの最大積載重量はおよそ5kgしかない。そこで、本発明では、本自律制御装置の制作にあたり、大きさや重量の増加につながる余計な部品を一切排除した。その上で、大きさがW190×D290×H110mmの小型フレームボックスに前記センサ、前記演算装置、前記電源供給装置、および前記無線モデムをアセンブリし、重量およそ2.9kgの自律制御装置の開発に成功した。バッテリには、重量およそ700gの市販のノートパソコン用大容量リチウムイオンバッテリを採用し、満充電時約1時間の連続動作時間を確保した。本自律制御装置の前記小型無人ヘリコプタへの取り付け用ステー等の付属部品を含めても、前記最大積載重量未満の重量まで軽量化を達成した。これにより、本発明で用いているホビー用と同程度のサイズの小型無人ヘリコプタに搭載して飛行することが可能となった。
【0035】
本発明の前記自律制御装置のみでも十分な自律制御アルゴリズムの演算性能を有するが、将来的により複雑で前記自律制御装置の前記主演算部では演算性能が不足するほどの自律制御アルゴリズムを適用したくなった場合などに備え、本発明では、前記主演算部よりもはるかに高性能なコンピュータを利用できるよう、地上局のコンピュータにおいても自律制御アルゴリズムの演算を行えるようにし、これを前記主演算部と同時併用して演算に用いるか、もしくはいずれか一方を単独で演算に用いる、いずれの形態でも利用できるハイブリッド型の自律制御システムを構築した。すなわち、すべての自律制御アルゴリズムを前記地上局のコンピュータに実装するような形態はもちろん、例えば、姿勢制御を前記自律制御装置の前記主演算部に実装しそれ以外は前記地上局のコンピュータに実装するという形態や、一部のサーボモータに係る自律制御アルゴリズムのみ前記自律制御装置の前記主演算部に実装しそれ以外のサーボモータに係る自律制御アルゴリズムは前記地上局のコンピュータに実装するという形態をその場に応じて柔軟にとることが可能となり、前記自律制御装置および前記自律制御システムの拡張性と柔軟性が大きく向上した。
【0036】
前述の通り、ホビー用手動操縦送信機には、本来初心操縦者の操縦練習(トレーニング)を目的として、外部操縦信号を受け付ける機能が備わっている。本発明では、地上局のコンピュータが制御演算して出力した自律制御信号を前記外部操縦信号として前記手動操縦送信機に入力して前記夫々のサーボモータを駆動するというフィードバック制御ループの形態を新たに考案した。これにより、前記小型無人ヘリコプタの機体の調整段階において前記手動操縦送信機に入力され記憶された、例えば前記夫々のサーボモータの駆動範囲や中心位置などの設定情報を通して前記自律制御信号を前記夫々のサーボモータに送ってこれを駆動させることができるようになった。したがって、前記自律制御アルゴリズムの実装時に、前記設定情報を前記自律制御アルゴリズム内に組み込まなくても済むようになり、自律制御アルゴリズムの設計開発段階において実装作業を大幅に省力化することが可能となった。
【0037】
前記地上局のコンピュータが制御演算して出力した数値としての演算結果を前記外部操縦信号として前記手動操縦送信機に入力する場合は、前もって、前記手動操縦送信機が受け付けることのできる特殊なパルス信号の形式に変換しなくてはならない。このため、本発明では、前記地上局のコンピュータから出力される数値としての演算結果を前記特殊なパルス信号の形式に変換するための、ジェネレータ装置を開発し、これにより、前記外部操縦信号の利用が可能となった(図16参照)。本装置は、その入力側にコンピュータのデータ通信の一般的な手法で、汎用インターフェースとして普及しているRS-232C方式シリアル通信方式を採用し、現存のほとんどのコンピュータで利用可能である。また、本装置の電源として前記手動操縦送信機から供給されるものを用いるようにし、本装置の動作のために特別な電源を改めて用意する必要をなくし、取り扱いを容易にした。この他、前記パルスジェネレータ装置には、前記手動操縦送信機の操縦操作量やスイッチ状態などを前記地上局のコンピュータに取り込むための機能も搭載した。
【0038】
本発明では、自律制御中の緊急事態発生時に手動操縦に切り替えて前記小型無人ヘリコプタを安全に飛行させることができるようにするため、サーボパルス混合/切替装置を開発した。図14により、前記サーボパルス混合/切替装置の仕組みを説明する。サーボパルス混合/切替装置7は、当該装置に内蔵されているパルス処理演算用 CPU71により手動操縦受信機6や自律制御装置の副演算部42から送られてくる夫々のパルス信号を処理し、夫々のサーボモータ3に出力されるべきサーボパルス信号を生成するものである。手動操縦受信機6からサーボパルス混合/切替装置7に入力されるパルス信号は、手動操縦信号と、手動操縦モードと自律制御モードの切り替え指令信号と、手動操縦と自律制御の信号の混合比率指令信号である。一方、自律制御装置の副演算部42からサーボパルス混合/切替装置7に入力されるパルス信号は自律制御信号である。サーボパルス混合/切替装置7は、切り替え指令信号および混合比率指令信号の信号を認識し、それに従い手動操縦信号と副演算部42で生成される自律制御信号を任意の割合で混合し、それに基づいてサーボパルス信号を生成し、前記夫々のサーボモータ3に出力することができる。このようにサーボパルス混合/切替装置3を構成することで、飛行中に手動操縦信号と自律制御信号とを随時動的に切り替えることが可能となった。なお、前記自律制御装置と同様、本装置についても小型化および軽量化が必須であることを考慮し、最終的に重量わずか250gの軽量化を達成した。
【0039】
本発明では、前記サーボパルス混合/切替装置7に、手動操縦信号と自律制御信号とを任意の割合で混合できる機能を備えた。図14により説明する。手動操縦信号と自律制御信号の混合を行うには、その混合比率を与える混合比率指令信号も本装置に入力する。図から明らかな通り、混合比率指令信号も手動操縦送信機から与えることができる。パルス処理演算用 CPU71は混合比率指令信号を認識し、混合比率を決定し、それに従い手動操縦信号と自律制御信号を混合する計算を行い、前記サーボパルス信号を生成し、前記夫々のサーボモータ3を駆動させることができる。これにより、本発明では、前記自律制御装置を手動操縦の補助装置として利用し、手動操縦の段階的上達のための機能を持たせることを可能とした。特に、任意の割合で混合できるため、ラジコンヘリコプタの操縦に慣れないうちは自律制御と手動操縦の信号の比重を自律制御側に置くことにより、操縦者が下手な操縦をしても自律制御信号がリカバリすることによりヘリコプタが墜落しないように制御され、ラジコンヘリコプタの操縦に慣れるにつれ比重を手動操縦側に置くことにより、ラジコンヘリコプタの手動操縦を徐々に上達させることが可能となった。
【0040】
本発明では、前記サーボパルス混合/切替装置について、その電源を、手動操縦系統の電源から共用してとることができるような仕組みとした。図14において、手動操縦系統の電源はバッテリ61であり、手動操縦送信機8から前記サーボパルス混合/切替装置7に入力される手動操縦信号、もしくは切り替え指令もしくは、混合比率指令の信号線の内を通って、前記サーボパルス混合/切替装置7に電源が供給される。さらに、前記夫々のサーボモータ3に対しては、前記サーボパルス混合/切替装置7の本体内部を通りぬけて電源が供給される。これにより、バッテリの数を余計に増やす必要がなくなり、バッテリの消耗を見落としたり、電源スイッチを入れ忘れたり、配線の複雑化により配線ミスをしたりするなどの人的ミスを未然に防止し、前記小型無人ヘリコプタの自律制御システムの実用上の安全性を高めることができた。また、電源の共有について、前記自律制御装置側の電源ではなく、前記手動操縦系統の電源と共用することにしたのにも根拠がある。これは、前記手動操縦系統の電源が消耗すれば、前記夫々のサーボモータ3も駆動しなくなるため、自律制御装置に電源が供給されていても前記小型無人ヘリコプタは操縦不能に陥るためであることと、小型無人ヘリコプタがホビー用ラジコンヘリコプタとの互換性を維持するため、自律制御装置の電源を切った状態でも手動操縦のみは可能とする必要があったためであることによる。
【0041】
また、本発明では、前記サーボパルス混合/切替装置の手動操縦系統への導入によっても手動操縦系統の信頼性を維持するため、前記サーボパルス混合/切替装置の根幹であるパルス処理演算用 CPU71が動作異常を起こした際にそれを自動的に検知し、自動的に復帰させることで元の動作状態に即座に復帰させる仕組みを、前記サーボパルス混合/切替装置7に取り入れた。前記パルス処理演算用 CPU 71には、前記パルス処理演算用 CPU 71をリセットする機能を持つタイマ装置72が内蔵されており、これを活用した。前記サーボパルス混合/切替装置7に書き込まれているパルス処理演算プログラムは、通常動作時、前記タイマ装置72に動作が正常に行われていることを通知する正常動作通知信号を一定時間おきに入力する。もし、前記パルス処理演算用 CPU 71が異常動作を起こすと、前記正常動作通知信号が前記タイマ装置72に入力されない状態となり、このままある時間が経過すると、前記タイマ装置72は前記パルス処理演算用 CPU71へ自動的にリセット信号を入力し、電源投入時と同様のプロセスを経て復帰させる。本機能を確実に動作させるには、前記パルス処理演算プログラムの処理構造を、本機能の利用を前提として開発しなければならない。具体的には、優先度が高くパルス処理演算用 CPU 71が異常動作している最中でも呼び出される可能性のあるパルス入出力処理の部分から、正常動作通知信号を前記タイマ装置72に送信する処理部分を完全に分離する構造のソフトウェアを開発した。これにより、パルス処理演算用 CPU 71の異常動作状態を確実に検出できるようにした。なお、異常動作を起こしてからリセット信号を発行するまでの時間は、前記パルス処理演算プログラム中で指定することができる。また、リセット信号が入ってから復帰までは全て自動的に行われ、その時間は一瞬である。これにより、異常動作が起こってから、わずか数十ミリ秒〜百ミリ秒前後の間に前記パルス処理演算用 CPU71を復帰させることが可能となり、ソフトウェア面における常時正常動作を保証したことで、前記サーボパルス混合/切替装置の安全性および信頼性が確保された。
【0042】
また、本発明では、前記サーボパルス混合/切替装置について、前記サーボパルス混合/切替装置7へ接続される信号線の手動操縦信号、切り替え指令信号、混合比率指令信号、および自律制御信号の結線状態、および、これらの信号線を伝達して前記サーボパルス混合/切替装置に入力される夫々のパルス信号の有無を自動認識する機能、および、その状態に応じて適切なサーボパルス信号を生成する機能を開発した。パルス処理演算用 CPU 71は、入力される前記夫々のパルス信号 の手動操縦信号、切り替え指令信号、混合比率指令信号、および自律制御信号を常時計測している。パルス処理演算ソフトウェアの中では、これらパルス信号の計測値が異常値を示した場合、そのパルス信号に対応する信号線の結線が外れたか、もしくはパルス信号が消滅したと判断する仕組みとした。具体的には、切り替え指令信号が供給されない場合は全サーボモータが強制的に手動操縦モードとなるようにし、自律制御信号が供給されない場合は当該サーボモータ3が強制的に手動操縦モードとなるようにし、混合比率指令信号が供給されない場合は任意の割合での混合を行わず切り替え機能のみ動作するものとし、手動操縦信号が供給されない場合は当該サーボモータが強制的に自律制御モードとなるようにし、いずれの信号も供給されなくなった場合は前記夫々のサーボモータが最後の動作状態を保つようプログラムした。これにより、例えば前記自律制御装置の電源が入っていない状態、すなわち自律制御信号が供給されない状態であっても、手動操縦系統の電源のみ供給されればホビーの場合と同様に手動操縦が実施できるようになった。また、前記自律制御装置により自律制御している最中に万が一前記自律制御装置の電源バッテリが消耗してしまい自律制御信号が供給できなくなった場合でも、自律制御信号の消滅を瞬時に認識し手動操縦に切り替えるため、オペレータの手動操縦により墜落事故を防ぐことができる。すなわち、手動操縦系統は自律制御系統の有無に依存せず、また、自律制御系統は手動操縦系統に何ら影響を与えない。本機能を利用することで、安全な両信号系統の分離を実現できた。
【0043】
また、本発明では、前記サーボパルス混合/切替装置に、手動操縦受信機6からサーボパルス混合/切替装置7へ入力される信号の手動操縦信号、切り替え指令信号、および混合比率指令信号のパルス計測データを数値データに変換して前記自律制御装置へ出力する機能(図において手動操縦信号(舵)の数値データ)を備えた。前記サーボパルス混合/切替装置7のパルス処理演算用 CPU71では、常時手動操縦信号、切り替え指令信号、および混合比率指令信号を計測している。これらの計測データを数値データとして、汎用インターフェースであるRS-232C シリアル通信により前記自律制御装置へ向かって出力する仕組みを備えた。数値出力できるデータは前記のものに限らず、前記サーボパルス混合/切替装置7の入力信号もしくは出力信号であれば、いずれも可能である。前記自律制御装置では、このデータは他のセンサのデータと同様に扱われる。本機能により、前記手動操縦信号などを、他のセンサのデータと同様記録、保存することが可能となり、手動操縦の補正舵を利用した安全なシステム同定実験の実施、およびそのシステム同定実験により得られた入出力データに基づくシステム同定を可能とした。
【0044】
また、本発明では、手動操縦送信機8から、前記自律制御装置の前記主演算部に実装されている前記自律制御アルゴリズムに対して目標値を与えることができる機能を考案し、前記主演算部に実装した。図15により説明する。前記サーボパルス混合/切替装置7が備える、手動操縦信号を数値計測データとして前記自律制御装置に出力する機能を利用し、手動操縦信号に比例定数を乗じて目標値を生成し、前記小型無人ヘリコプタを自律制御させることができるようにした。なお、前記比例定数の部分は、定数でなくてもよく、手動操縦信号と目標値を対応付けるものであればよい。このようにすることで、手動操縦送信機8を自律制御アルゴリズムの目標値信号入力装置として使うことが可能となった。オペレータは手動操縦送信機8を用いることで、前記小型無人ヘリコプタに対して移動方向やその速度などの目標値を直感的に指示することができ、あたかも手動でヘリコプタを操縦しているような感覚でヘリコプタを安全に操作しながら所定の目的を達成することができる。この方法では、オペレータは手動操縦しているつもりであっても実際には自律制御アルゴリズムにより前記夫々のサーボモータ3に与えられる自律制御信号が演算されており、<自律制御アルゴリズム>→<自律制御信号>→<サーボパルス混合/切替装置7>→<サーボモータ3>→<小型無人ヘリコプタ1>→<センサデータ>→<自律制御アルゴリズム>のフィードバック制御ループが働いていることにより前記小型無人ヘリコプタの安定性が常時保証されるため、非常に安全な飛行を実現できるものである。
【0045】
以下、ヘリコプタ機体の3軸姿勢制御および航行速度位置制御の自律制御アルゴリズムの研究成果について記述する。
(3軸姿勢制御)
はじめに、小型無人ヘリコプタの制御装置を用いた3軸姿勢制御について説明する。座標系を図2のように定義する。姿勢角度θ、φ、ψはそれぞれ、ピッチング角、ローリング角、ヨーイング角である。なお、座標系は、Xの正を機体前方方向、Yの正を機体右方向、Zの正を機体下方とする。
【0046】
(サーボモータのモデリング)
ヘリコプタ機体のアクチュエータには、ホビー用の小型ラジコンヘリコプタと同様のサーボモータを採用する。入力パルス幅がサーボモータの回転角度になっている。そこで、入力から出力角度までのサーボモータの特性を伝達関数で式(1)のように仮定し、M系列信号をパルス幅としてサーボモータへ入力することにより、パラメータζsとωnsを部分空間同定法により決めた。
【数20】
【0047】
(ピッチング・ローリングモデル)
本発明で使用する自律制御システムには、センサのむだ時間、無線空間のむだ時間が含まれている。そのむだ時間は制御サンプリングタイムの3倍にあたる。そこでむだ時間、アクチュエータの特性を考慮した、エレベータサーボ(前後方向)指令からピッチ軸姿勢角度θまでの伝達関数表現は式(2)のように、エルロンサーボ(左右方向)指令からロール軸姿勢角度φまでの伝達関数式(3)のようになる。
【数21】
【数22】
【0048】
(ヨーイングモデル)
ヨー軸角速度安定化用レートジャイロ装置としては、ホビー用の小型ラジコンヘリコプタで用いられているものと同じのものが装着されている。それは入力をヨー軸の回転角速度として制御を行っている。本実施の形態で用いられているヘリコプタ機体にも角速度ジャイロセンサーを利用した角速度サーボコントローラが搭載されている。それを2次遅れ系として仮定する。したがって、ヨー軸の回転運動モデルは式(4)のようにむだ時間、2次遅れ系と積分器1個を持つシステムになる。
【数23】
【0049】
ここで、モデルゲイン(Kφ,Kθ,Kψ)と時定数(Tφ,Tθ)は実験とシミュレーション結果を比較し、2つの数値データが一致するように調整、決定されたものである。上記3つのモデルによるシミュレーション結果と、実験結果の比較を図3乃至5に示す。本実施の形態では、上記の3つの数式モデルに対して、LQG(Linear Quadratic Gaussian)制御理論を適用し自律制御アルゴリズムを設計する。また、定常偏差をなくす(ゼロにする)ため1次サーボ系を構成した。ピッチング角θ、ローリング角φ、ヨーイング角ψをそれぞれSISO(Single-Input Single-Output)系、また連成がないシステムと仮定し最適フイードバックゲインを求める。得られた制御器による実験結果を図6に示す。
【0050】
(並進運動制御)
次に、小型無人ヘリコプタの制御装置を用いた並進運動制御について説明する。
(前後左右運動モデル)
簡単な力学解析により、機体左右速度Yについては以下の式が得られる。
【数24】
【0051】
ここでgは重力加速度、φは機体ロール姿勢角度である。式(5)の導出においては、機体高度が一定かつφ≪1という仮定を用いている。また、図7に示す実験データより、機体姿勢角と実際の加速度の間には何らかの動特性が存在することがわかる。そして、この特性を1次遅れで近似し、さらに実験結果とシミュレーションを比較することにより不安定極1つを式(5)に加え、以下に示す伝達関数表現の数式モデルを最終的に制御系設計に使用した。なお、機体前後速度についても同様の数式モデルを用いている。また、Θは機体ピッチ姿勢角度である。
【数25】
【数26】
【0052】
上記のモデルによるシミュレーション結果と、実験結果の比較を図8に示す。
(上下運動モデル)
ヘリコプタは、ブレードコレタティブピッチを変化させることにより、ロータの揚力を変化させ、上下運動を可能にしている。よく知られたプレード翼素理論によれば、ロータによる揚力は
【数27】
【0053】
となる。ここで、bはブレード枚数、ρは空気密度、aは2次元揚力傾斜、Ωはロー回転数、Rはロータ半径、θtはコレクティブピッチ、φtは流入角、cは翼弦長である。ここで、θt以外はすべて定数と考えると、Z方向速度の伝達関数表現の数式モデルは以下となる。
【数28】
【0054】
(X-Y方向自律制御アルゴリズム)
式(6)、式(7)のモデルに対して、X、Y、Z方向にそれぞれ独立した速度制御アルゴリズムをLQI制御理論に基づき設計した。X、Y位置制御ループの全体像を図9に示す。X-Y方向に対する速度制御アルゴリズムとは、それぞれのある目標機体速度が与えられたとき、その機体速度を実現するために必要な機体姿勢角度を算出する演算アルゴリズムである。機体位置を任意の目標位置へ移動させるために、各々の速度目標値を以下の式により算出する。
【数29】
【数30】
【0055】
ここで、Vxref、VyrefはそれぞれX、Y方向の速度目標値、Pxref、PyrefはそれぞれX,Y方向の位置目標値、Px、Pyはそれぞれ機体のX、Y座標、αは任意定数である。制御ループは姿勢制御器、速度制御器、位置制御器をそれぞれ直列に配置した構造となっている。こうすることにより、単一の制御器と比較して以下の長所を有する。▲1▼姿勢角を安全な範囲に制限が可能。▲2▼速度リミッタをかけることで、位置制御のオーバーシュートを改善。▲3▼制御器の内部状態が位置座標に依存しない。3つ目の長所によって、任意座標においてヨーイング角ψを変化させる場合、座標変換による不都合を複雑なアルゴリズムなしに回避できる。各軸の位置、速度情報は高精度RTK−DGPSによって観測可能であるため、式(6)及び(7)における3次モデルの内1つの状態量を最小次元オブザーバにより推定している。姿勢サーボ系のダイナミクスは、並進運動に比べて十分に速いとみなし、制御系設計においてはその特性を考慮していない。
【0056】
(z方向自律制御アルゴリズム)
実験とシミュレーション結果を比較し、2つの数値データが一致するように式(9)のkを調整、決定し、その値を用いてLQI制御理論によりZ方向の速度制御アルゴリズムを設計した。Z方向に対する速度制御アルゴリズムとは、Z方向のある速度目標値が与えられたとき、その機体速度を実現するために必要なコレクティブピッチ入力を算出する演算アルゴリズムである。機体位置を任意の目標位置へ移動させるために、Z方向の速度目標値を以下の式により算出する。
【数31】
ここで、VzrefはZ方向の速度目標値、PzrefはZ方向の位置目標値、Pz機体のZ座標、βは任意定数である。
【0057】
以上の制御アルゴリズムにより実現された軌道追従制御の実験結果を図10に、定点ホバリング制御の実験結果を図11に、前後左右速度制御の実験結果を図12に、高度制御の実験結果を図13に示す。前記自律制御装置、前記サーボパルス混合/切替装置、前記ジェネレータ装置、及び前記数式モデルに基づく自律制御アルゴリズムを前記小型無人ヘリコプタに実装した前記小型無人ヘリコプタの自律制御システムの一実施形態について説明する。図1に示すようにシステムの構成は、大きく分けると前記自律制御装置及び前記サーボパルス混合/切替装置7を前記小型無人ヘリコプタ1に搭載した移動局と、前記パルスジェネレータ装置11を装備し、自律制御の状態の監視や目標値の入力等を行うための地上局とに分けられる。移動局には、ヘリコプタ機体1と、ヘリコプタ機体1の現在位置及び姿勢角を検知するセンサ2と、ヘリコプタ機体1の5つの舵を動かす夫々のサーボモータ3と、センサ2から得られるヘリコプタの現在の飛行状態と、地上局から設定される目標値とから前記自律制御アルゴリズムを用いてサーボモータ3の夫々の最適な運動と方向の制御指令値を独立に演算するCPU4と、地上局との通信を行う無線モデム5と、手動操縦送信機8からの手動操縦信号を受信する手動操縦受信機6と、サーボパルス混合/切替装置7とが搭載されている。センサ2及びCPU4及び無線モデム5から前記自律制御装置が作製されている。なお、CPU4には演算機能を行う主演算部41の他にも、センサ2から得られるセンサ情報を地上局で監視させることや、地上局から設定される目標値を入力させるために、無線モデム5との間で信号を入出力制御させる副演算部42も備えている。また、センサ2にはヘリコプタ機体1の位置を検知するGPSセンサ21や3軸の姿勢状態を検知する3軸姿勢センサ22、ヘリコプタ機体の高度を計測する対地高度計23、及び方位を計測する磁気方位計24が用いられる。また、サーボパルス混合/切替装置7は、手動操縦信号と自律制御信号の切り替えや手動操縦信号と自律制御信号の任意の割合での混合を行うことができるものである。例えば、ヘリコプタの自律制御システムが航行中何らかのトラブルにより、CPU4が故障してヘリコプタ機体の自律制御できなくなった場合に、前記サーボパルス混合/切替装置7は自動的に手動操縦モードに切り替え、ヘリコプタの墜落を未然に防ぐことができる。また、前記サーボパルス混合/切替装置7を備えることにより、自律制御された前記小型無人ヘリコプタをラジコンヘリコプタのトレーニング用として利用することができる。ラジコンヘリコプタの操縦に慣れないうちは、自律制御と手動制御の信号の比率を9:1や8:2のように自律制御側に比重を置くことにより、操縦者が下手な操縦をしてもCPU4から発信される自律制御信号がリカバリすることによりヘリコプタが墜落しないように制御される。そして、ラジコンヘリコプタの操縦に慣れるにつれ比重を手動制御側に置くことにより、ラジコンヘリコプタの手動操縦を上達させることができるというものである。
【0058】
一方、地上局には、操縦者が手動操縦するための手動操縦送信機8と、位置または速度の目標値を入力する目標値入力装置91とヘリコプタ機体1の状態を監視する監視装置92とを設置したCPU9と、移動局との通信を行う無線モデム10とが備えられている。また、制御信号を生成するためのパルスジェネレータ装置11が設置されている。
【0059】
以下、システムの動作について説明する。操縦者は、地上局のCPU9から位置または速度の目標値を入力する。目標値は無線モデム10、5を介して演算を行うCPU4に入力される。CPU4では入力された目標値とセンサ2から得られるヘリコプタ機体1の現在の飛行状態とから、前記数式モデル(2)、(3)、(4)、(6)、(7)、及び(9)に基づいて設計された自律制御アルゴリズムがCPU4の主演算部41で演算され、その演算結果からサーボモータ3の夫々の最適な運動と方向の5種類の制御指令値が決定される。完全自律制御を行っている場合にはサーボパルス混合/切替装置7では、手動操縦信号の影響は受けずに、演算された制御指令値の制御信号に基いて夫々のサーボモータ3が制御され、これにより、目標値に従ってヘリコプタ機体1の舵の運動が完全自律制御される。一方、サーボパルス混合/切替装置7で手動操縦信号を混合する場合には、設定された割合により混合された制御信号がサーボモータ3に送られる。
【0060】
以上、本実施形態の小型無人ヘリコプタの自律制御装置によれば、上記数式モデル(2)、(3)、(4)、(6)、(7)、及び(9)に基づいて設計された自律制御アルゴリズムをCPU4、センサ2及びサーボモータ3とともに、ホビー用のヘリコプタ機体に実装、搭載することにより、ヘリコプタ機体1に搭載したセンサ2から取得する現在の飛行状態、及び与えられた位置や速度の目標値から前記自律制御アルゴリズムを用いて、対応する夫々のサーボモータ3の最適な運動と方向を指令する制御指令値を演算して、ヘリコプタ機体1を目標値に従って完全自律制御させることができる。
【0061】
なお、別の態様として、CPU4と同様の演算を行う演算部93を地上局に設置しても同じように前記小型無人ヘリコプタを自律制御させることはできる。ただし、この場合には形成するフィードバック制御ループ内に、無線モデムと手動操縦用送受信機の2箇所の無線区間が存在するので、無線通信が断絶したときには制御システムの論理構造が崩れ、前記小型無人ヘリコプタの飛行を不安定化する恐れもある。航行中の安全性の観点から見てすべての前記自律制御アルゴリズムを地上局に設置されたホストコンピュータに実装するのは望ましくない。このような場合は、前記サーボパルス混合/切替装置7と前記パルスジェネレータ装置11の組み合わせにより実現されるCPU4と前記地上局ホストコンピュータ9との制御演算の併用機能を用いるという手段もある。
【0062】
【発明の効果】
以上、本発明の自律制御装置及びプログラムによれば、設定する位置や速度の目標値に従って小型無人ヘリコプタを自律制御させることができる。また、この装置をヘリコプタ機体に搭載することによりヘリコプタ機体内でフィードバック制御ループを形成して自律制御システムを実現するとともに、自律制御信号と手動操縦信号との混合または切り替えるサーボパルス混合/切替装置や、手動操縦送信機が受け付けることのできるパルス信号に変換するパルスジェネレータ装置、および小型無人ヘリコプタの自律制御に適した自律制御アルゴリズムを開発したので、ホビー用の小型ラジコンヘリコプタほどの小型無人ヘリコプタを、目標値に従って自律制御させることができる。これにより、ホビー用の小型ラジコンヘリコプタで完全自律制御が実施できるので、携帯に便利であり、従来の無人ヘリコプタの自律制御では実施できなかった、有人で作業を実施するには困難な狭い場所にも適応でき、その用途を拡大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の小型無人ヘリコプタの自律制御装置を用いた自律制御システムを示す構成図
【図2】本発明の小型無人ヘリコプタの座標系を示す図
【図3】本発明のピッチ軸のシミュレーション結果を示す図
【図4】本発明のロール軸のシミュレーション結果を示す図
【図5】本発明のヨー軸のシミュレーション結果を示す図
【図6】本発明のピッチング角θ、ローリング角φ、及びヨーイング角ψを制御する実験を行った結果を示す図
【図7】姿勢角度と機体加速度との関係を示す図
【図8】シミュレーションと実験結果との対比を示す図
【図9】X、Y位置制御ループの全体像を示す図
【図10】制御アルゴリズムにより実現された軌道追従制御の実験結果を示す図
【図11】定点ホバリング制御の実験結果を示す図
【図12】前後左右速度制御の実験結果を示す図
【図13】高度制御の実験結果を示す図
【図14】サーボパルス混合/切替装置の内部構造を示す図
【図15】手動操縦送信機を目標値入力装置として使用した場合の様子を示す図
【図16】パルスジェネレータ装置により制御指令値を制御信号に変換する様子を示す図
【図17】フィードバック制御ループを示す図
【図18】従来の無人ヘリコプタを自律制御させる自律制御システムの構成図
【符号の説明】
1 ヘリコプタ機体(小型無人ヘリコプタ)
2 センサ
21 GPS
22 3軸姿勢センサ
23 対地高度センサ
24 方位センサ
3 サーボモータ
4 CPU(演算用コンピュータ)
5 無線モデム
6 手動操縦受信機
7 サーボパルス混合/切替装置
8 手動操縦送信機
9 CPU(地上局コンピュータ)
10 無線モデム
11 パルスジェネレータ装置
41 主演算部
42 副演算部
61 バッテリ
71 パルス処理演算用CPU
72 リセット機能付タイマ
91 目標値入力部
92 監視部
93 演算部
Claims (26)
- 小型無人ヘリコプタを自律制御させる装置であって、
前記小型無人ヘリコプタの現在位置、姿勢角、対地高度、及び機首絶対方位を検知するセンサと、
地上局から設定される位置または速度の目標値と前記センサで検知される前記小型無人ヘリコプタの現在位置および姿勢角とからヘリコプタの5つの舵を動かす夫々のサーボモータのうちエレベータ、エルロン、ラダー、コレクティブピッチを駆動させるための最適な制御指令値をシステム同定法に基づいて導出された数式モデルを用いて演算する主演算部と、
前記センサからのデータの収集や、前記主演算部が出力する数値としての演算結果からサーボモータが受け付けることのできるパルス信号への変換を行なう副演算部と、を備えたことを特徴とする小型無人ヘリコプタの自律制御装置。 - 小型無人ヘリコプタを自律制御させる装置であって、前記センサと、前記主演算部と、前記副演算部とを1つの小型フレームボックスにアセンブリし、前記小型無人ヘリコプタに搭載可能とする小型化かつ軽量化を実現したことを特徴とする請求項1記載の小型無人ヘリコプタの自律制御装置。
- 小型無人ヘリコプタを自律制御させる装置であって、前記主演算部と同じ機能を有する地上局ホストコンピュータを有し、必要に応じて前記自律制御を行なうのに、前記地上局ホストコンピュータを併用し得るようにしたことを特徴とする請求項1または2記載の小型無人ヘリコプタの自律制御装置。
- 小型無人ヘリコプタを自律制御させる装置であって、前記自律制御を行なうのに、前記地上局ホストコンピュータを主演算部として併用する場合、前記地上局ホストコンピュータから出力される演算結果を、手動操縦送信機を通じて前記サーボモータに出力することを特徴とする請求項3記載の小型無人ヘリコプタの自律制御装置。
- 小型無人ヘリコプタを自律制御させる装置であって、前記自律制御を行なうのに、前記地上局ホストコンピュータを主演算部として併用する場合、前記地上局ホストコンピュータから出力される演算結果を、手動操縦送信機を通じて前記サーボモータに出力する過程で、数値としての前記演算結果を前記手動操縦送信機が受け付けることのできるパルス信号に変換するパルスジェネレータ装置を備えたことを特徴とする請求項4記載の小型無人ヘリコプタの自律制御装置。
- 小型無人ヘリコプタを自律制御させる装置であって、前記自律制御を行なうのに、前記主演算部から前記副演算部を通して出力される制御信号を受信し前記サーボモータに出力するためのサーボパルス混合/切替装置を前記自律制御装置の外部装置として備えたことを特徴とする請求項1記載の小型無人ヘリコプタの自律制御装置。
- 前記サーボパルス混合/切替装置は、前記小型無人ヘリコプタの前記サーボモータすべてについて、手動操縦信号と前記自律制御装置より出力された前記制御信号との切替もしくは任意の割合での混合を可能とすることを特徴とする請求項6記載の小型無人ヘリコプタの自律制御装置。
- 前記サーボパルス混合/切替装置は、前記サーボモータの電源系統を共有することを特徴とする請求項6または7記載の小型無人ヘリコプタの自律制御装置。
- 前記サーボパルス混合/切替装置にリセット機能付タイマを内蔵し、前記リセット機能付タイマは、前記サーボパルス混合/切替装置が正常に動作していることを通知する正常動作信号を一定時間検知できなかった場合に異常が生じたことを認め、前記サーボパルス混合/切替装置をリセットさせることを特徴とする請求項6乃至8のいずれかに記載の小型無人ヘリコプタの自律制御装置。
- 前記サーボパルス混合/切替装置は、信号線の結線状態と信号の有無を自動認識し、この認識に基づき適切な信号を前記サーボモータへ送出することを特徴とする請求項6乃至9のいずれかに記載の小型無人ヘリコプタの自律制御装置。
- 前記サーボパルス混合/切替装置は、当該サーボパルス混合/切替装置に入力された手動操縦信号を前記自律制御装置に出力する機能を備えていることを特徴とする請求項6乃至10のいずれかに記載の小型無人ヘリコプタの自律制御装置。
- 自律制御を行なうのに、前記主演算部から前記副演算部を通して出力される制御信号を受信し前記サーボモータに出力するためのサーボパルス混合/切替装置を前記自律制御装置の外部装置として備え、
このサーボパルス混合/切替装置は、当該サーボパルス混合/切替装置に入力された手動操縦信号を前記自律制御装置に出力する機能を有し、この機能を利用して手動操縦送信機を自律制御のための目標値入力装置として使用できるようにしたことを特徴とする請求項4または5記載の小型無人ヘリコプタの自律制御装置。 - 前記主演算部は、小型無人ヘリコプタの舵を動かすサーボモータを駆動させるための最適な制御指令値を演算して、前記小型無人ヘリコプタの3軸姿勢制御を行なうことを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載の小型無人ヘリコプタの自律制御装置。
- 前記主演算部は、前記小型無人ヘリコプタの6つの物理量であるピッチ軸姿勢角度、ロール軸姿勢角度、ヨー軸姿勢角度、前後速度、左右速度、上下速度のそれぞれの動特性について、それぞれ独立した自律制御アルゴリズムを実行することにより、前記小型無人ヘリコプタを自律制御することを特徴とする請求項13乃至19のいずれかに記載の小型無人ヘリコプタの自律制御装置。
- 前記主演算部は、前記小型無人ヘリコプタのそれぞれの物理量を、任意の目標値へ定常偏差が0となるように、夫々の自律制御アルゴリズムを1型のサーボ系として構成し、前記小型無人ヘリコプタを自律制御することを特徴とする請求項20記載の小型無人ヘリコプタの自律制御装置。
- 1型のサーボ系として構成された自律制御アルゴリズムについて、それぞれの自律制御アルゴリズムを連成がない伝達関数表現の数式モデルに基づいて、LQG制御理論(Linear Quadratic Gaussian)または、LQI制御理論(Linear Quadratic Integral)を適用し、前記小型無人ヘリコプタを自律制御することを特徴とする請求項21記載の小型無人ヘリコプタの自律制御装置。
- 前記主演算部は、前後速度、左右速度の動特性を夫々ピッチ軸姿勢角度、ロール軸姿勢角度を入力とする数式モデルによって表し、任意の前後および左右方向の速度を実現するために必要な夫々の姿勢角度を算出することによって前記小型無人ヘリコプタを自律制御することを特徴とする請求項13乃至19のいずれかに記載の小型無人ヘリコプタの自律制御装置。
- 小型無人ヘリコプタの現在位置、姿勢角、対地高度、及び機首絶対方位を検知する各センサからの検知信号を受信するステップと、
地上局から送付される位置または速度の目標値を受信するステップと、
前記センサで検知された前記小型無人ヘリコプタの現在位置および姿勢角と前記位置または速度の目標値とから当該小型無人ヘリコプタの5つの舵を動かすそれぞれのサーボモータのうちエレベータ、エルロン、ラダー、コレクティブピッチを駆動させるための最適な制御指令値をシステム同定法に基づいて導出された数式モデルを用いて求めるステップと、
前記演算処理結果に基づいて小型無人ヘリコプタの並進運動制御及び3軸姿勢制御を行なわせるステップとを有し、
小型無人ヘリコプタの自律制御装置の主演算部に実行させ前記小型無人ヘリコプタのサーボモータを駆動させるための最適な制御指令値を演算させる小型無人ヘリコプタの自律制御プログラム。
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