JP4031267B2 - ばね用鋼線材およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ばね用鋼線材およびその製造方法に関し、特に、熱処理および熱間圧延等の加熱時に生ずるフェライト脱炭層と全脱炭層を併せて著しく低減し、疲労特性等の改善されたばね用鋼線材と、該鋼線材を製造するのに有用な方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
熱処理工程や熱間加工工程で鋼材を加熱すると、鋼材中の炭素が二酸化炭素等のガスとなって鋼材表面から抜ける脱炭現象が生じる。この脱炭層には、炭素をほとんど含まないフェライト組織のみの領域を指す「フェライト脱炭層」と、鋼材中心よりもフェライトの占める割合の多い領域を指す「全脱炭層」がある(以下では、前記フェライト脱炭層および全脱炭層を併せて単に「脱炭層」ということがある)。
【0003】
ばね用鋼は、フェライトを形成し易い高Si量の鋼材であるため脱炭層が生じ易く、脱炭層が形成された場合には、炭素が低減した分強度が低下して、ばねに要求される疲労強度等の特性が著しく劣化することが一般に知られている。従って、ばねの製造に用いる鋼線材として、前記脱炭層の発生が極力抑制されたものが求められる。
【0004】
前記脱炭層のうち、疲労特性等のばねの特性に著しい悪影響を及ぼすフェライト脱炭層の発生防止については、従来より検討がなされており、特公昭60−37853号では、熱間圧延の際に脱炭層が形成され易い600〜750℃温度域を、急速加熱することが提案されている。また、特公昭58−14875号や特開平57−82428号には、圧延後の冷却速度を制御、具体的には冷却速度を速めることによってフェライト脱炭層を抑制する技術が開示されている。更に特公昭63−37164号には、熱間圧延に先立って1050℃超〜1250℃で予備加熱することによりフェライト脱炭層の発生を防止することが提案されている。
【0005】
しかしながら、最近では更に過酷な条件にも耐えるばねが求められ、該ばねの原料素材となる鋼線材には、より一層優れた疲労特性等の特性が要求されることから、フェライト脱炭層のみならず全脱炭層も対象に含めて、脱炭層の発生を抑制することが望まれる。前掲の従来技術は、いずれもフェライト脱炭層の発生を抑制または防止するには有効であるものの、全脱炭層を抑制するまでには至っておらず更なる改善が求められる。
【0006】
また、前記特公昭60−37853号公報に開示された方法では、熱延時の加熱速度が速すぎるため、大量の鋼材を工業規模の連続炉で加熱処理する場合に、全ての鋼材が規定要件を満たすように操業することは容易でなく、実用にそぐわない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、この様な事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、加熱工程で発生するフェライト脱炭層は勿論のこと、全脱炭層も可及的に抑制されたばね用鋼線材を提供すると共に、その様な鋼線材を製造するのに有用な方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明にかかるばね用鋼線材とは、Si:1質量%以上を含み、かつ鋼線材表面から20μm深さまでの平均炭素濃度が該鋼線材全体の平均炭素濃度の30%以上で、フェライト脱炭層が実質的に存在せず、全脱炭層深さが40μm未満であるところに特徴を有する。また本発明の製造方法は、上記特性を備えた鋼線材を効率よく製造することのできる方法として位置付けられるもので、熱間圧延前の加熱工程で、酸化性雰囲気下にて1170℃以上で少なくとも2分間加熱し、かつ圧延後750〜600℃の温度域を平均冷却速度5〜300℃/分で冷却する工程、および加熱工程後であって熱間圧延前に行う脱スケーリング工程を一連の製造工程に含むものである。
【0009】
尚、前記「鋼線材表面から20μm深さ」および「全脱炭層深さ」は、スケール除去後の鋼線材表面からの深さをいい、前記「フェライト脱炭層が実質的に存在せず」とは、JIS G 0558に規定された顕微鏡による測定法でDM−Fが10μm以下となることをいうものとする。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、前述した様な状況の下で、加熱工程でばね用鋼線材表面に生じるフェライト脱炭層はもとより全脱炭層についても十分に抑制すべく、様々な角度から検討を行った。その結果、熱間圧延前の加熱条件と圧延後の冷却条件を適切に制御し、加熱後であって熱間圧延前に表面のスケールを除去すればよいことを見出し、前記本発明に想到した。以下、本発明に係るばね用鋼線材とその製造方法について詳細の説明していく。
【0011】
まず、ばね用鋼線材表面のフェライト脱炭層のみならず、全脱炭層も可及的に低減するための製法上の要件について述べる。
【0012】
<熱間圧延時の加熱条件>
熱間圧延に際し酸化性雰囲気下にて1170℃以上で少なくとも2分間の加熱を必要とする。一般に鋼材を加熱すると、鋼材表面には、鋼材中の炭素が二酸化炭素等のガスとなって抜けることにより脱炭層が形成されると共に、鉄素地のFeが酸化されてスケールが形成される。特に、Si含有量が1質量%以上であるばね用鋼材では、後述する実施例でも明らかにする様に大気中で1170℃以上に加熱すると、前記鉄素地の酸化が急速に進行する。そしてこの酸化が、脱炭層を侵食してより深部まで進行するので、その後にスケールを除去することで、脱炭層域を著しく低減もしくは実質的にゼロにできるのである。本発明では、製造時の加熱工程で脱炭層よりも深部側まで酸化を進めてスケールを形成させ、その後に該スケールを除去することで、脱スケール後の鋼線材表面の脱炭層を著しく低減または実質的にゼロとする。尚、本発明でいう「酸化性雰囲気」は大気中であればよいが、その他、例えば不活性ガス中に酸素を一部導入した状態等を含むものとする。
【0013】
図1は、ばね用線材(SUP7鋼、線径15mm)を図2に示す工程で熱処理を行った後の表層部分を含む鋼材断面写真(倍率は2写真ともに50倍)であり、図1(a)は図2中のT2温度を1150℃とし、図1(b)は図2中のT2温度を1200℃にして熱処理を施したものである。
【0014】
図1(a)からも明らかな様に、加熱時の最高温度が1170℃に満たない場合には、鋼材の最表層に薄くスケール層が形成されるのみで、該スケール層の直下には厚い脱炭層(白地)が形成される。従って、その後の脱スケール処理工程で当該スケール層を除去したとしても、その下層側に相当厚さの脱炭層が残存したままである。これに対し図1(b)は、加熱時の最高温度を1170℃以上とした場合であるが、スケールの成長が速く、結果として鋼材の脱炭部を侵食するので鋼材中に脱炭層はみられない。尚、図1(a)および(b)に示されるスケールと鋼材の間に形成された隙間(試料作成時に樹脂で充填)は、観察用試料作成時にできたものであって、製造条件によるものではない。
【0015】
前記加熱は、スケールを形成させて脱炭層領域を減少させる観点からは、より高温で行うのがよく1200℃以上で加熱することが好ましいが、脱スケールによる鋼材歩留まりの低下を抑える観点からは、加熱温度の上限を1250℃とすることが望ましい。
【0016】
この様に、線材表面の酸化スケール生成領域を脱炭層よりも深部側にまで進めるには、熱延時に1170℃以上の加熱温度で少なくとも2分間加熱する必要がある。該加熱時間が短い場合には酸化が十分に進まず、脱スケール後も相当厚さの脱炭層が残存するからである。少なくとも2分間の加熱は、1170℃以上で行えばよく、1170℃以上の一定温度で保持したり昇温させる他、加熱温度保持および昇温を組み合わせて行ってもよい。
【0017】
尚、前記加熱は、スケールを形成させて脱炭層領域を減少させる観点からは長時間行うことが望ましく、3分間以上の加熱を好ましい実施形態とするが、脱スケールによる鋼材歩留まりの低下を抑える観点からは、前記加熱時間の上限を20分間とすることが望ましい。
【0018】
熱間圧延に際して行う加熱は、室温からの加熱時間として30〜300分間行うことが望ましい。前記時間が短すぎると十分に鋼材が加熱されないので、前記鋼材表面の酸化が十分に進まず、脱炭層の形成が優先して進行するだけでなく、鋼材が低温ままとなり次に行う圧延加工に支障をきたすからである。より好ましくは40分間以上とする。一方、長すぎると、脱炭層およびスケール層がいずれも深くなりすぎて、脱スケール量が過度に多くなるばかりでなく、燃料消費量が増加してコストがかかるので好ましくない。前記加熱時間は120分間以下に留めておくことがより好ましい。
【0019】
<熱間圧延後の冷却条件>
更に、上記熱間圧延の後は750〜600℃温度域を、平均冷却速度5〜300℃/分で冷却する必要がある。750〜600℃の温度域を制御するのは、該温度域でも脱炭が進行し易いからである。600℃未満では、炭素の拡散が遅くなり脱炭がほとんど進行しないので、特に温度制御の必要がない。
【0020】
また、上記該温度域の平均冷却速度が5℃/分未満の低速では、熱間圧延終了までの脱炭層の形成が抑制されたとしても、冷却過程で脱炭が進行するおそれがあるので好ましくない。前記温度域での脱炭層の形成をより有効に阻止するには、該冷却速度を10℃/分以上とすることが好ましい。
【0021】
この様に、脱炭層の形成を抑制する観点からは該温度域の冷却速度はより速い方が好ましいが、冷却速度が速すぎると鋼線材が焼入れ組織となって硬質化し、その後の加工に支障をきたすので、加工性の観点から該温度域の冷却速度の上限を300℃/分とした。より好ましくは200℃/分以下である。
【0022】
熱間圧延前の加熱工程で形成させたスケールは、圧延直前に除去するが、この場合の脱スケール処理は一般的な方法で行えばよく、例えば、高圧水によるデスケール、メカニカルデスケール、酸洗等が挙げられる。
【0023】
本発明にかかる製造方法は、上述した工程を製造工程中に含めばよく、前記以外の製造条件を規定するものでない。従って、線材に供する鋼材の溶製や熱間圧延等は一般的な条件で行えばよい。更に本発明の製造方法は、種々の直径のばね用鋼線材に適用可能である。
【0024】
本発明の製法は、上記の様に、熱間圧延時の加熱温度と時間を制御してスケールを形成させ、その後に脱スケール処理を行うことによって脱炭層を実質的に除去することができた点に特徴を有しているが、この方法によって得られるばね用鋼線材は下記の様な特徴を有している点で、従来のばね用線材とは明確に区別される新規なものであり、本発明は、該ばね用線材自体も本発明範囲に包含される。
【0025】
▲1▼本発明のばね用鋼線材は、鋼線材表面から20μm深さまでの平均炭素濃度が鋼線材全体の平均炭素濃度の30%以上であり、鋼線材の表層部に必要十分量の炭素が確保されている。
【0026】
炭素量の制御領域を鋼線材表面から20μmまでの深さとしたのは、更に深い領域ではほとんど脱炭が起こらず、鋼線材表面から20μm深さまでの脱炭層深さを制御することで疲労強度等のばね特性を十分確保できるからである。
【0027】
鋼線材表面から20μm深さまでの平均炭素濃度が、鋼線材全体の平均炭素濃度の30%未満であるものでは、フェライト脱炭層および/または全脱炭層が、鋼材表面の広範囲に渡って鋼線材内部にまで形成されている可能性が高く、ばね用鋼線材に求められる疲労強度等の特性が著しく劣化するので好ましくない。より過酷な状況下で優れた特性を発揮するばねを得るには、鋼線材表面から20μm深さまでの平均炭素濃度が、鋼線材全体の平均炭素濃度の30%以上となるようにするのがよい。
【0028】
▲2▼更に本発明のばね用鋼線材は、フェライト脱炭層が実質的に存在せず、かつ、全脱炭層深さが40μm未満に抑えられている。
【0029】
上述の通り、疲労特性に優れたばねを得るには、ばねの製造に用いる鋼線材表面のフェライト脱炭および全脱炭がいずれも十分に抑制されていることが必要である。本発明では、上記方法を採用することにより脱炭層をスケール層に変えて脱スケール処理により除去することで、全脱炭深さを40μm未満と極めて薄い状態にまで抑制することができ、この様に全脱炭層深さを低減することにより、従来材に比べて卓越した疲労特性等を示すものとなる。
【0030】
より過酷な状況下で優れた疲労特性を発揮させるには、ばね用鋼線材の全脱炭深さが35μm以下であるものが望ましく、より好ましくは30μm以下である。
【0031】
本発明にかかるばね用鋼線材では、必須成分としてSiの含有量を定めているが、これは、Siが本来有している焼き入れ性を高めて強度を向上させ、かつ加工性も同時に向上させるという効果を有効に発揮させるためであり、1質量%以上のSiを含む鋼材が対象となる。しかし、Si含有量が過剰になると却って加工性が劣化するので、Si含有量は5質量%以下、好ましくは3質量%以下とするのがよい。
【0032】
尚、本発明で用いる鋼材には、前記Si以外の成分として、C,Mn,Al,P,S等の基本成分の他、必要によってCr,Ti,Nb,Mo,V,Zr,N,B等の各種元素が含まれるが、これらの含有量については特に限定するものではなく、ばね用線材として通常含有される程度であれば良い。また、本発明で用いる鋼材は、これらの元素以外にその特性に影響を与えない程度の微量成分も含み得るものであり、こうした鋼材も本発明の製造方法で用いる鋼材に含まれる。
【0033】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0034】
<実施例>
鋼材としてJISのSUP7鋼(化学組成;炭素 0.6質量%、Si 2.0質量%、Mn:0.9質量%、P:0.015質量%、S:0.011質量%、Ni:0.01質量%、Cr:0.15質量%、Ti:0.002質量%)を用いて熱間圧延を行った。熱間圧延に際しての加熱、および圧延後の750〜600℃域の冷却は表1に示す条件で行い、圧延前で加熱後に高圧水によりスケール層を除去し、その後、熱間圧延を行って鋼線材を得た。
【0035】
得られた鋼線材から試料を採取し、EPMA(X線回折マイクロアナライザー)を用いて、鋼線材表面から20μm深さまでの平均炭素濃度を求めた。尚、ここでいう「平均炭素濃度」とは、鋼線材表面から20μmまでの定量炭素濃度を線分析したときの鋼線材表面から20μm深さまでの炭素濃度の平均値をさす。
【0036】
また、フェライト脱炭層の深さ(DM−F)および全脱炭層の深さ(DM−T)は、日本工業規格(JIS G 0558)に規定された「顕微鏡による測定方法」で測定し、前記全脱炭層は、前記JIS G 0558に規定されている通り、線材中心部の金属組織とわずかに異なる金属組織(炭素濃度が加熱前の初期濃度よりも若干量減少したことに起因して生ずる)の、表面からの深さを測定して求めたものである。また、前記フェライト脱炭層深さについて、DM−Fが10μmを超える場合を「フェライト脱炭層あり」とし、DM−Fが10μm以下の場合を「フェライト脱炭層なし」と評価した。これらの結果を表1に併記する。
【0037】
【表1】
【0038】
表1から次のように考察することができる。尚、以下のNo.は表1における実験No.を示す。
【0039】
No.4,5,7,9及び11は、本発明の規定要件を全て満たす方法で製造したもので、得られたばね用鋼線材は、フェライト脱炭層および全脱炭層のどちらも十分に浅く抑えられており、ばね用線材表面層の炭素量が十分高位に保たれていることがわかる。
【0040】
これに対しNo.1〜3,6,8,10,12〜18は、本発明で規定する製法上の要件の一部を欠くもので、得られる各ばね用鋼線材は、フェライト脱炭層および/または全脱炭層が著しく厚肉となっている。即ち、No.1〜3,8,13〜16は、熱間圧延に際して行う加熱時の最高到達温度が低く、脱炭層の形成のみが進行してスケールの成長が進まなかったため、線材表面の炭素を十分に確保することができず、フェライト脱炭層および全脱炭層のどちらも、または全脱炭層のみが厚く形成される結果となった。No.6は、加熱時の最高到達温度が1170℃を超えているが、1170℃以上での加熱時間が短すぎて十分にスケールが形成されなかったため、全脱炭層の形成が進行し、線材表面の炭素が十分に確保されている。No.10は、圧延後の冷却速度が遅いため、冷却時に脱炭層の形成が進んでフェライト脱炭層が生じる結果となった。一方、No.12は、圧延後の冷却速度が速すぎたため、線材が硬質化し、その後の加工等に支障をきたす。
【0041】
No.13〜18は、前記従来技術に開示された条件を採用したもので、No.13〜16は、熱間圧延後の750〜600℃間を冷却速度30℃/分で冷却したもので、No.17および18は、熱間圧延に際して行う600〜750℃間の加熱を、加熱速度:40℃/分および60℃/分で行ったもので、その他の条件は、従来技術の実施例と同様とした。
【0042】
これらNo.13〜18で得た鋼線材は、フェライト脱炭層は抑制されているものの、全脱炭層は十分に抑制されておらず、線材表面の炭素量が十分に確保できていない。尚、前記従来技術では、全脱炭層の深さが同条件で行った本実験結果よりも低値となっているが、これは、従来技術における全脱炭層の測定方法が、本発明のJIS規格に基づく方法と異なるためと考えられる。
【0043】
これらの実施例によっても確認できるように、前記従来技術による方法では、フェライト脱炭層の発生は抑制することはできるが、全脱炭層の発生まで抑制することができない理由は次の様に考えられる。
【0044】
鋼中炭素の拡散による低減は、鋼材の加熱がその第一要因であり、形成される全脱炭層の深さは一般に加熱条件に依存し、理論的には{(炭素の拡散係数×加熱時間)1/2}に比例することが知られている。
【0045】
そこで前記実施例データを用いて、{(炭素の拡散係数×加熱時間)1/2}と全脱炭層深さの関係について調べた。前記炭素の拡散係数(D)には、一般式:D=4.7×10−5exp(−155000/8.314/T)(Dの単位:[m/s2]、Tの単位[K])に最高加熱温度Tを代入して得た拡散係数D1を用い、炭素の拡散係数D1と加熱時間t1から{(炭素の拡散係数×加熱時間)1/2}を示すパラメータX1{=(D1×t1)1/2}を求め、X1と全脱炭層深さの実測値との関係を調べた。その結果を図3に示す。
【0046】
図3より、従来技術を追試したものでは、全脱炭層深さが前記パラメータX1、即ち(炭素の拡散係数×加熱時間)1/2に比例しており、前掲の理論に合致した結果となっている。しかしこの従来技術では、たとえパラメータを制御したとしても、全脱炭層深さの最低値は150μmまでであり、全脱炭層深さの低減には限界があることがわかる。これに対し、本発明の要件を満たす例では、全脱炭層深さと前記パラメータX1の間に比例関係はみられないが、全てのデータにおいて全脱炭層深さ50μm未満と、従来法からは予期できない全脱炭層深さの極めて薄い鋼線材が得られていることがわかる。
【0047】
そしてこの様な顕著な違いが生じたのは、従来法では、脱炭層深さの抑制手段が加熱温度・時間の制御にとどまっているのに対し、本発明では、鋼材表面の脱炭層形成位置を積極的に酸化してスケール層に変え、これを脱スケール処理することで、全脱炭層を実質的に全て除去できたためと考えられる。
【0048】
【発明の効果】
本発明は前記のように構成されており、鋼線材表面に発生するフェライト脱炭層のみならず全脱炭層も十分に抑制できることとなった。そして、この様なばね用鋼線材を使用することにより、脱炭層が極めて少なく、自動車、建築、電機、機械分野等の過酷な状況下で使用された場合でも優れた疲労特性等を発揮するばねを提供できることとなった。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)最高加熱温度:1150℃および(b)最高加熱温度:1200℃で加熱後の鋼板断面の顕微鏡観察結果(倍率:50倍)を示した図面代用顕微鏡写真である。
【図2】前記図1にかかる実験の加熱工程を示す概略説明図である。
【図3】パラメータX1と全脱炭層深さの関係を実施例のデータを用いて示したグラフである。
Claims (2)
- Si:1質量%以上を含み、かつ鋼線材表面から20μm深さまでの平均炭素濃度が該鋼線材全体の平均炭素濃度の30%以上で、フェライト脱炭層が実質的に存在せず、全脱炭層深さが40μm未満であることを特徴とするばね用鋼線材。
- 熱間圧延に際し酸化性雰囲気下にて1170℃以上で少なくとも2分間加熱し、かつ圧延後の750〜600℃の温度域を平均冷却速度5〜300℃/分で冷却する工程および脱スケーリング工程を含むことを特徴とする請求項1に記載のばね用鋼線材の製造方法。
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