JP4027591B2 - 同期リラクタンスモータ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、フラックスバリア方式の2次側鉄心を有する同期リラクタンスモータに係り、特に、2次側磁極構造の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
同期リラクタンスモータはリラクタンストルクを利用して駆動トルクを発生する同期モータである。リラクタンストルクは、回転型モータにあっては、回転子磁極の中心線方向(d軸)のインダクタンスLdと磁極間の中心線方向(q軸)のインダクタンスLqの差により発生するトルクであり、両者の差が大きい程、発生トルクも増大する。インダクタンスLdとLqの差が大きな磁気回路を実現する手段としては、例えば、“Reluctance Synchronous Machines and Drives,Oxford Science Publications, 1996”に開示されている4極同期リラクタンスモータがある。このモータでは、回転子鉄心に4極構造の多層で、円弧状のスリットを設けて、これをq軸磁束φqに対するフラックスバリアとして利用し、LdとLqに差を付けている。
【0003】
一方、上で述べたインダクタンスの比Ld/Lq(以下、突極比と言う)を大きくすることにより、モータ力率を向上することができる。ところが、同期リラクタンスモータでは、固定子側や回転子側において各種の漏れ磁束が存在するために、漏れ磁束によるインダクタンスがLdとLqにオフセットとして上乗せされることから、突極比Ld/Lqを十分に大きくとることが難しいという問題がある。漏れ磁束としては、固定子側ではスロット漏れ磁束などが考えられるが、固定子コイルを巻回す関係上、この漏れ磁束をある程度以下に減らすことは難しい。こうした事情から、これまでに開示されている突極比Ld/Lqの増大に関する従来技術は回転子側の磁気回路に関するものが殆どである。例えば、特開平11−341761号公報には、モータ回転軸と直交する断面に関して、回転子の中心に近いところ程スリット幅を広くし、スリット間に配置される帯状磁路を等幅とする回転子鉄心の構造が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記従来技術においては、突極比Ld/Lqがまだ小さく、モータ力率も不充分である。
【0005】
本発明の目的とするところは、より突極比Ld/Lqを大きくすることにより、モータ力率を向上した同期リラクタンスモータを提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
突極比Ld/Lqを従来技術以上に大きくするためには、2次側鉄心、すなわち回転型モータにおける回転子鉄心の内部での磁束の流れを詳細に分析し、これに基づいて電磁気学的に最も合理的なフラックスバリア構造を決める必要がある。
【0007】
回転型モータに関して本発明の主特徴とするところは、多層構造のスリットを回転子鉄心内に設けて複数の帯状磁路を成形した同期リラクタンスモータにおいて、モータ回転軸と直交する断面に関して、原点がモータ回転軸と一致するx−y座標系において、Pを回転子の極数、z=x+iy、i2=−1、Im(w)を複素数wの虚部、cを任意の実数の定数として、
f(x、y)=Im(zP/2)=c
で表されるx−y平面上の曲線f(x、y)=cの何れかと前記帯状磁路の輪郭線を概ね一致させたことである。
【0008】
回転子鉄心に設けた帯状磁路を上記の形状に成形することにより、q軸磁束φqは帯状磁路のいたるところでほぼ直角に交差して流れるようになる。この状況は、q軸磁束に対する回転子鉄心のフラックスバリア構造として電磁気学的に最も合理的である。この結果、帯状磁路を通過するq軸磁束に対する磁気抵抗が最も大きくなり、q軸インダクタンスLqが大幅に減少するので、突極比Ld/Lqを大きくしてモータ力率を改善することができる。
【0009】
本発明は、その一面において、モータ回転軸と直交する断面に関して、前記帯状磁路をモータ回転軸に近いところ程、幅広に成形することを特徴とする。
【0010】
本発明は、他の一面において、モータ回転軸と直交する断面に関して、前記帯状磁路の内側及び外側の輪郭線の少なくとも一方の極率半径を、モータ回転軸に近いところ程、小さくすることを特徴とする。
【0011】
本発明の望ましい実施態様においては、モータ回転軸と直交する断面に関して、前記帯状磁路及びスリットの断面形状をブーメラン状に形成する。
【0012】
これらの特徴は、上記の帯状磁路の輪郭線が、d軸磁束φdの流れる軌跡と一致し易く、かつ、q軸磁束φqの殆どの流れとの直行性を増す形状を表している。帯状磁路の輪郭線がこれらの定義から多少ずれていたとしても、上で述べた帯状磁路の幅やあるいは極率半径等が以下に述べる性質を備えている限り、突極率を向上し、モータ力率の改善に寄与することができる。
【0013】
また、これらの特徴は、リニア同期リラクタンスモータにおいても適用可能である。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0015】
図1は本発明の第1実施例による4極、24スロットの同期リラクタンスモータを回転軸と直角方向に断面した図である。固定子1は、磁性鋼板を積層して形成した固定子鉄心2と、固定子鉄心2に巻回された三相分布巻の固定子コイル3よりなる。回転子4は固定子1の内側に空隙を介して配置してあり、磁性鋼板を積層して形成した回転子鉄心6とシャフト7よりなる。回転子鉄心6には、4層構造のスリット5が4極分、全部で16箇所設けてある。これらのスリット5が前述のq軸磁束φqに対するフラックスバリアを形成している。これらのスリット5に挟まれて残った鉄心部分が帯状磁路8である。
【0016】
図2は図1の回転子4のみを拡大した断面図である。回転子鉄心6は、リラクタンストルクの発生に関与する帯状磁路8と、各帯状磁路8を連結して機械的に一体に保持するブリッジ部9よりなる。ブリッジ部9は、トルクの発生に関与しない漏れ磁束の通路となるので、ブリッジ部9の径方向の幅は、遠心力に対する回転子4の機械強度を損なわない程度に薄くしておく必要がある。フラックスバリアは4層構造のスリット5よりなり、この実施例においては帯状磁路8の内側及び外側の輪郭線はすべて双曲線に加工してある。この双曲線は図中に記載のx−y座標系を基準にすると、kを各輪郭線毎に値が決まる実数として、
xy=k
で表すことができる。帯状磁路8の内外の輪郭線がともに双曲線であることから、必然的に、スリット5および帯状磁路8の幅は、回転子4の中心に近いところ程広くなる。この幅に関する性質は、帯状磁路8及びスリット5の輪郭線の極率半径が回転子4の中心に近いところ程小さくなることと等価である。帯状磁路8は、回転子鉄心6の最外周において周方向ピッチτm=9°で等間隔に配置してある。このピッチは、最も外側に位置するスリット5aのさらに外側にもう1ヶ所、実際には加工しない、ダミーのスリットを設けてこれを含めた全部のスリット5が等間隔であるとして決めたものである。したがって、回転子4の極ピッチτpを帯状磁路8の外周部における周方向ピッチτmで除した結果は10であり、整数になっている。この配置を採用することにより、本実施例通りに設計されたモータの発生する直流トルクがほぼ最大となることを電磁場シミュレーションにより確認できた。
【0017】
帯状磁路8の最外周における周方向の幅が占める角度をθmとしたとき、各帯状磁路8についてθmはすべて同じにしてあり、また、スリット5の最外周における周方向の幅が占める角度をθsとしたとき、各スリット5についてθsはすべて同じにしてあり、θm/θs=1.5に設計してある。後述するように、この比も直流トルクの大きさとトルク波形に関係する。
【0018】
図3は本発明の第1実施例のモータを回転軸と直角方向に断面し、基本波成分によるd軸磁束φdとq軸磁束φqの流れを加筆した図である。磁束φdは回転子4の磁極中心線方向(d軸)に沿って流れる磁束、磁束φqは極間の中心線方向(q軸)に流れる磁束である。図3に示す磁束の流れは、スリット5に回転子鉄心6と同一の鉄心材料を充填した場合について電磁場シミュレーションにより計算した結果である。各磁束線の流れ図にはスリット5も併記してある。図3(a)に磁束φdの流れを、(b)に磁束φqの流れを示す。それぞれの磁束は電気的に90°(4極モータなので機械的には45°)磁束の位相がずれている。本図から明らかなように、磁束φdは帯状磁路8の輪郭線すなわちスリット5の輪郭線といたるところで重なり合うように一致している。また、磁束φqはスリット5の輪郭線といたるところで直交している。すなわち、これらの輪郭線は磁束φqの磁場における等磁位線をなしている。スリット5を設けていない一体の回転子鉄心6では、固定子1が発生する磁場の基本波成分に関して磁束φdとφqは回転子鉄心6のいたるところで直角に交差すると言える。この事実は例えば、竹山説三著「電磁気学現象論」丸善発行などで良く知られたマクスウェル方程式を解いて解析的に磁束分布の式を導出することによっても証明することができる。
【0019】
この実施例のモータにおけるフラックスバリアの構造は、上記の磁束の直交性を基本原理としている。上述したスリットのない回転子鉄心6であったものに、輪郭線が双曲線のスリット5を設けた、言い換えれば輪郭線が双曲線の帯状磁路を形成した場合について考える。このとき、磁束φdの基本波成分の流線が帯状磁路8とスリット5の輪郭線に一致するので、磁束の流れの方向が変化しない。また、磁束φqに対してはスリット5の輪郭線が磁場の等ポテンシャル線(等磁位線)になっているので、これに関しても磁束の流れが乱されることはない。したがって、図1、2に示す実施例のモータでは、スリット5を設けたにもかかわらず、回転子鉄心6における磁束φdとφqの直交性がそのまま成り立っている。この状況は、磁束φqに対する回転子鉄心6のフラックスバリア構造として電磁気学的に最も合理的である。この結果、帯状磁路8を通過する磁束φqに対する磁気抵抗が最も大きくなり、q軸インダクタンスLqが減少するので、突極比Ld/Lqが増加してモータ力率を改善することができる。
【0020】
図4は、帯状磁路とスリットの大きさ関係に対するモータトルクの変化を示す棒グラフである。本図は、図2に記載した帯状磁路8の最外周における周方向の幅が占める角度θmと、スリット5の最外周における周方向の幅が占める角度θsの比r=θm/θsが、トルク波形に及ぼす影響を電磁場シミュレーションにより計算した結果を示したものである。モータが発生する直流トルクは、r=1〜1.5付近で最大となり、その後、rの増加とともに緩やかに減少し、r=3.0では、r=0.5と同レベルまで低下している。一方、トルク波形に含まれる高調波成分(トルク脈動成分)に注目すると、低次の成分はrの増大とともに徐々に減少する。したがって、比r=1.0〜2.5の範囲に選ぶことが望ましく、本実施例ではr=1.5に設定してモータを設計している。
【0021】
図5は本発明の一実施例における力率を従来技術との関係で示すグラフである。第1実施例の同期リラクタンスモータと、前記公報の図9に示された従来技術の円弧状スリットと円弧状の等幅帯状磁路を有する同期リラクタンスモータを試作し、各モータの力率を比較した。力率の測定結果を図5のグラフに示す。横軸はモータ負荷、縦軸は本発明実施例のモータ力率と従来技術のモータ力率の比である。負荷の大きな領域で本実施例によるモータの力率が10%程度増大していることが分かる。負荷が小さな領域では、ブリッジ部9を流れる漏れ磁束の影響が相対的に大きくなるので、両者の差は小さくなる。
【0022】
図6は本発明の第2実施例による回転子を、回転軸に直交して断面した断面図である。この実施例ではスリット5の層数を3層構造にしている。回転子4の極数が4であることから、この場合も、回転子鉄心6の帯状磁路8の輪郭線が双曲線であることに変りはない。帯状磁路8は、回転子鉄心6の最外周において周方向ピッチ角τm=11.25°で等間隔に配置してある。このピッチは、第1実施例と同様に、最も外側に位置するスリット5aのさらに外側にもう1ヶ所、実際には加工しない、ダミーのスリットを意識して全部のスリット5が等間隔であるように決めたものである。したがって、回転子4の極ピッチ角τp=90°をτm=11.25°で除した結果は8であり、整数になっている。また、第1実施例と同様に直流トルクを大きくする観点から、各帯状磁路8についてθmはすべて同じにしてあり、また、各スリット5についてθsはすべて同じにしてあり、θm/θs=1.5に設計している。
【0023】
本実施例では、遠心力による機械強度を増す目的で、径方向に隣接する帯状磁路8の間に連結部12を備えている。ただし、連結部12の幅はモータ特性が悪化しない程度に細くする必要がある。本実施例のモータも、第1の実施例と同様に、従来の円弧状スリットを適用したモータと比較して、モータ力率を同程度に改善できることを試作により確認できた。
【0024】
以上の実施例では各帯状磁路8の表裏の輪郭線は双曲線である。すなわち、モータ回転軸7と直交する断面に関して、帯状磁路8の内側及び外側の輪郭線の極率半径を、それぞれモータ回転軸7に近いところ程小さくするとともに、前記内側の輪郭線の極率半径を、前記外側の輪郭線の極率半径よりも小さくしている。しかし、各輪郭線を厳密に双曲線に加工する必要はなく、q軸磁束φqと各帯状磁路8の輪郭線の直交性がほぼ満足される範囲で、全部又は一部の輪郭線を変更しても同様の効果を期待することができる。
【0025】
図7は本発明の第3実施例を示す同期リラクタンスモータの回転軸に直角方向の断面図である。この実施例では、やや輪郭線に変更を加えている。各スリット5は等幅であり、その中心線13が双曲線になるようにフラックスバリアを形成している。したがって、この例では、帯状磁路8の内外の輪郭線は双曲線から僅かにずれている。ただし、各帯状磁路8は回転子4の中心に近いところ程、幅広であり、また、帯状磁路8の輪郭線の極率半径は回転子4の中心に近いところ程小さい点で変りはない。
【0026】
また、回転子鉄心6の中心軸付近におけるスリット5の形状も比較的自由に変更してよい。これは、この付近の磁束密度が低く、モータトルクに対する寄与度が低いからである。例えば、図6のシャフト7をより径の大きなものに変更する場合には、スリット5cの最内周部の形状を適宜変更しても構わない。
【0027】
同期リラクタンスモータの力率を更に改善するために、スリット5の一部又は全部に、永久磁石を埋め込むこともできる。図7の実施例では、等幅のスリット5としているため、永久磁石の埋め込みには好都合である。
【0028】
図8は本発明の第4実施例として6極36スロットの同期リラクタンスモータの軸直交断面図を示す。固定子1は、固定子鉄心2と固定子鉄心1に巻回された三相分布巻の固定子コイル3よりなる。回転子4は固定子1の内側に空隙を介して配置してあり、回転子鉄心6とシャフト7よりなる。回転子鉄心6には、フラックスバリアを形成する4層構造のスリット5が6極分、全部で24箇所設けてある。帯状磁路8の輪郭線は、図中に記載のx−y座標系を基準にすると、kを各輪郭線毎に値が決まる実数として、
y(y2―3x2)=k
で表すことができる。この場合にも、スリット5および帯状磁路8の幅は回転子4の中心に近いところ程、幅が狭く、帯状磁路8の内外の輪郭線の極率半径は回転子4の中心に近いところ程小さくなっており、更に、内側の輪郭線の極率半径の方が小さい点で、図1及び図6の実施例と一致している。帯状磁路8およびスリット5の詳細寸法は前述と同様の考え方を適用して決めている。帯状磁路8の輪郭線の関数形は、厳密に上の式と一致する必要はなく、q軸磁束φqと各帯状磁路8の輪郭線の直交性がほぼ満足される程度に、各帯状磁路8の輪郭線に変更を加えても同様の効果を期待することができる。
【0029】
図9は第4実施例における図3と同様のシミュレーション結果を示す磁束の流れ図である。この実施例においても、磁束φdは帯状磁路8の輪郭線といたるところで平行になっている。また、磁束φqは帯状磁路8の輪郭線といたるところで直交しており、第1実施例の4極同期リラクタンスモータと同様の状況になっていることが分かる。したがって、本実施例においても、磁束φqに対してフラックスバリアが最も効率的に作用するので、q軸インダクタンスLqが小さくなって、突極比Ld/Lqが増大するので、モータの力率を大きくすることができる。
【0030】
図10は本発明の第5実施例による8極48スロットの同期リラクタンスモータの軸直交断面図である。固定子1は、固定子鉄心2と固定子鉄心2に巻回された三相分布巻の固定子コイル3よりなる。回転子4は固定子1の内側に空隙を介して配置してあり、回転子鉄心6とシャフト7よりなる。回転子鉄心には4層構造のスリット5が8極分、全部で32箇所設けてある。帯状磁路8の輪郭線は、図中に記載のx−y座標系を基準にすると、kを各輪郭線毎に値が決まる実数として、
xy(y2―x2)=k
で表すことができる。この場合にも、スリット5および帯状磁路8の幅は回転子4の中心に近いところ程、幅が狭く、帯状磁路8の輪郭線の極率半径は回転子4の中心に近いところ程小さくなっている。帯状磁路8およびスリット5の詳細寸法は前述と同様の考え方を適用して決めてある。帯状磁路8の輪郭線の関数形は、厳密に上の式と一致する必要はなく、q軸磁束φqと各帯状磁路8の輪郭線の直交性がほぼ満足される程度に、各帯状磁路8の輪郭線を修正しても同様の効果を期待することができる。
【0031】
図11は、第5実施例における図3と同様のシミュレーション結果を示す磁束の流れ図である。この実施例においても、磁束φdは帯状磁路8の輪郭線といたるところで重なるように一致している。また、磁束φqは帯状磁路8の輪郭線といたるところで直交しており、第1実施例の4極同期リラクタンスモータと同様の状況になっていることが分かる。したがって、本実施例においても、磁束φqに対してフラックスバリアが効率的に作用するので、q軸インダクタンスLqが小さくなり、突極比Ld/Lqが増大するので、モータの力率を大きくすることができる。
【0032】
以上の各実施例における帯状磁路8の輪郭線の関数形を帰納的に調べることによって、極数がPのモータにおける帯状磁路8の輪郭線の関数を求めることができる。この関数は、x−y座標系を用いて、
Im(zP/2)=c
と表すことができる。ここに、z=x+iy、i2=−1、Im(w)は複素数wの虚部、cは任意の実数の定数である。極数がPのモータにおいても、スリット5および帯状磁路8の幅は回転子4の中心に近いところ程、幅が広くなっている。あるいは、帯状磁路8の輪郭線の極率半径は回転子4の中心に近いところ程小さくなっている。なお、上記輪郭線の関数は、上述の一体の回転子鉄心6中における磁束φdないし磁束φqの流れを解析的に導出することによって証明することもできる。
【0033】
以上のすべての実施例において、モータ回転軸と直交する断面に関して、帯状磁路8を、モータの回転子の外周部付近よりも、モータ回転軸7に近いところで幅広に構成している。また、帯状磁路8はすべて、いわゆるブーメラン形状としている。図7を除いては、スリット5もまたブーメラン形状である。
【0034】
以上で説明した実施例における同期リラクタンスモータは回転型モータであったが、d軸磁束φdとq軸磁束φqの直交性を利用した、最適なフラックスバリア形状の考え方はリニア同期リラクタンスモータにも適用することができる。
【0035】
図12は本発明によるリニア同期リラクタンスモータの一実施例の断面を示したものである。図には、モータ負荷時の磁束φの分布をシミュレーションした結果も併せて示している。リニアモータの1次側は1次側鉄心18と3相、4極に巻回した1次側コイル19よりなる。リニアモータの2次側は、磁性鋼板を積層して形成され、内部に帯状磁路8とスリット5を有する2次側鉄心20からなる。1次側がリニアモータの可動子であり、2次側鉄心20と所定の間隔を保持しながら紙面上の左右方向に動く。
【0036】
図13に2次側鉄心20の詳細断面を示す。フラックスバリアを構成するスリット5は3層構造にしてある。磁束φの流路である帯状磁路8は1次側と対向する面においてブリッジ部9を介して磁気的かつ機械的に連結してある。リニアモータの場合には2次側鉄心20が静止していることから、回転型モータのように遠心力を考慮したブリッジ部9の機械設計が不要である。したがって、ブリッジ部9の厚みはモータ推力の反作用に耐える程度の厚さであれば良い。また、回転時のアンバランスが問題となることもないので、スリット5に樹脂などの非磁性材を充填することにより2次側の機械強度を増すことは容易である。なお、スリット5の層数を3に限定する必要がないことは言うまでもない。
【0037】
次に、リニア同期リラクタンスモータの2次側鉄心20における帯状磁路8の輪郭線について詳しく説明する。
【0038】
帯状磁路8の輪郭線は、回転型モータと同様に1次側コイル19が発生する基本波磁場の磁束線と平行に、言い換えれば磁束線の軌跡と一致するように成形する。ただし、リニアモータの場合には、1次側が進行方向に関して有限の長さであることから、いわゆる端部効果による磁場分布の乱れが発生するので、上記の基本波磁場を考える場合には、1次側が進行方向に関して十分に長いことを仮定する必要がある。さらには、このようにして決めた帯状磁路8の輪郭線の関数形を具体的に与えることもできる。証明は省略するが、リニアモータの進行方向をx方向、これと垂直でかつ1次側と2次側の対向面に直交する方向をy方向とするx−y座標系に関して、Lをx軸方向の2次側鉄心のピッチ(周期)、z=x+iy、i2=−1、Im(w)を複素数wの虚部、eは自然対数の底、cを任意の実数の定数としたとき、
f(x、y)=Im(e― 2 π iz/L)=c
で表されるx−y座標上の曲線f(x、y)=cの何れかと前記帯状磁路8の内外の輪郭線がほぼ一致するように構成することである。
【0039】
リニアの場合にも、スリット5及び/又は帯状磁路8の幅は1次側と対向する面に近いところ程、幅を狭く、帯状磁路8及び/又はスリット5の輪郭線の極率半径は1次側と対向する面から遠ざかる程小さくなる。
【0040】
以上の手順に従って帯状磁路8の輪郭線を成形することにより、回転型同期リラクタンスモータと同様に、q軸磁束φqは帯状磁路8の輪郭線といたるところでほぼ直交するので、回転型モータと同様の理由で突極比Ld/Lqを大きくすることができる。この結果、モータ力率が良好なリニア同期リラクタンスモータを提供することが可能になる。
【0041】
ここまで説明した実施例において、スリット5の一部又は全部に、永久磁石を埋め込んでもよく、更なる力率の向上に寄与することができる。
【0042】
以上説明した本発明の実施例によれば、同期リラクタンスモータの突極比Ld/Lqを大きくすることができるので、モータ力率を大きくすることができ、駆動用のインバータ容量を低減することができる。また、同期リラクタンスモータは、永久磁石式の同期モータと比較して、永久磁石を使わない場合には、比較的安価に製造することが可能であり、しかもリサクル性も良好なので、特に、冷蔵庫、エアコンなどのコンプレッサモータとして、あるいは洗濯機などの駆動用モータ等の汎用品用として好適である。
【0043】
【発明の効果】
本発明によれば、同期リラクタンスモータの力率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の一実施例における同期リラクタンスモータの断面図。
【図2】本発明の第1の一実施例における回転子の断面拡大図。
【図3】第1実施例における帯状磁路と磁束φd、φqの流れを示す図。
【図4】第1実施例における寸法関係がトルク波形に及ぼす影響を示す棒グラフ。
【図5】第1実施例におけるモータ力率の測定結果を示すグラフ。
【図6】本発明の第2の実施例における同期リラクタンスモータ回転子の断面図。
【図7】本発明の第3の実施例における同期リラクタンスモータの断面図。
【図8】本発明の第4の実施例における同期リラクタンスモータの断面図。
【図9】第4実施例における帯状磁路と磁束φd、φqの流れを示す図。
【図10】本発明の第5の実施例における同期リラクタンスモータの断面図。
【図11】第5実施例における帯状磁路と磁束φd、φqの流れを示す図。
【図12】本発明の第6の実施例によるリニア同期リラクタンスモータの断面図。
【図13】同じく2次側鉄心の拡大断面図である。
【符号の説明】
1…固定子、2…固定子鉄心、3…固定子コイル、4…回転子、5…スリット、6…回転子鉄心、7…シャフト、8…帯状磁路、9…ブリッジ部、10…円弧状スリット、11…等幅帯状磁路、12…連結部、13…スリット中心線、φd…d軸磁束、φq…q軸磁束、18…1次側鉄心、19…1次側コイル、20…2次側鉄心、φ…磁束。
Claims (6)
- 多層構造のスリットを回転子鉄心内に設けて複数の帯状磁路を成形した4極以上の同期リラクタンスモータにおいて、モータ回転軸と直交する断面に設けた、原点がモータ回転軸と一致するx−y座標系に関して、Pを回転子の極数(P≧4)、z=x+iy、i2=−1、Im(w)を複素数wの虚部、cを任意の実数の定数として、
f(x、y)=Im(zP/2)=c
で表されるx−y座標上の曲線f(x、y)=cの何れかと前記帯状磁路の輪郭線がほぼ一致するように構成したことを特徴とする同期リラクタンスモータ。 - 多層構造のスリットを回転子鉄心内に設けて複数の帯状磁路を成形した4極以上の同期リラクタンスモータにおいて、モータ回転軸と直交する断面に設けた、原点がモータ回転軸と一致するx−y座標系に関して、Pを回転子の極数(P≧4)、z=x+iy、i 2 =−1、Im(w)を複素数wの虚部、cを任意の実数の定数として、
f(x、y)=Im(z P/2 )=c
で表されるx−y座標上の曲線f(x、y)=cの何れかと前記帯状磁路の輪郭線がほぼ一致するように構成するとともに、これら複数のスリット間に形成された各極毎に複数の前記帯状磁路の、回転子の外周部における周方向幅θmと前記スリットの周方向幅θsの比θm/θsを1≦r≦2.5とし、かつ回転子の極ピッチτpと帯状磁路の外周部における周方向ピッチτmの比τp/τmを整数とするとともに、前記帯状磁路の幅を、モータ回転軸に近いところ程広くしたことを特徴とする同期リラクタンスモータ。 - 多層構造のスリットを回転子鉄心内に設けて複数の帯状磁路を成形した4極同期リラクタンスモータにおいて、モータ回転軸と直交する断面に関して、各極毎に複数の前記スリットを、モータ回転軸に背を向ける方向に湾曲し、それらの両端が回転子の円周部にほぼ到達するように形成するとともに、これら複数のスリット間に形成された各極毎に複数の前記帯状磁路の内側及び外側の輪郭線を、モータ回転中心軸を原点とするx−y座標上における双曲線に近似して形成したことを特徴とする同期リラクタンスモータ。
- 多層構造のスリットを回転子鉄心内に設けて複数の帯状磁路を成形した4極以上の同期リラクタンスモータにおいて、モータ回転軸と直交する断面に関して、各極毎に複数の前記スリットを、モータ回転軸に背を向ける方向に湾曲し、それらの両端が回転子の円周部にほぼ到達するように形成するとともに、これら複数のスリット間に形成された各極毎に複数の前記帯状磁路の内側及び外側の輪郭線を、d軸磁束φdの基本波成分の流線とほぼ重なり合うように構成するとともに、前記帯状磁路の内側及び外側の輪郭線を、q軸磁束φqの基本波成分に関する等磁位線にほぼ一致するように構成したことを特徴とする同期リラクタンスモータ。
- 請求項1〜4うちいずれかの同期リラクタンスモータにより駆動されるコンプレッサを備えたエアコン及び/又は冷蔵庫。
- 請求項1〜4のうちいずれかの同期リラクタンスモータにより駆動される洗濯機。
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