JP4027135B2 - インクジェット記録装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はインクを吐出するインクジェット記録ヘッドを用いて記録媒体に画像の記録を行うインクジェット記録装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
インクジェット記録装置は、記録装置に搭載された記録ヘッドから吐出したインク滴を記録媒体に付着させ、そのインクが記録媒体に定着、発色することにより画像の形成を行うものである。また、記録ヘッドを記録媒体に対し走査して画像を形成する記録走査と、記録媒体または記録ヘッドを記録走査方向に対し垂直の方向に相対的に移動させる紙送りとを繰り返して画像を形成する、いわゆるシリアルスキャンタイプのインクジェット記録装置が近年普及している。しかしながら、このようなシリアルスキャンタイプのインクジェット記録装置において、次の問題が発生することがある。
【0003】
シリアルスキャンタイプの装置では、上述の通り、少なくとも1色のインクについて1回の記録走査では所定の記録幅の画像しか形成することができず(以下、この1回の記録動作「1パス印字」ともいう)、記録媒体全体に画像を形成するためには、複数回の記録走査を行わなければならない。したがって、高デューティーの画像を形成した場合に、ある記録走査で記録媒体上に形成した画像の部分とそれに隣接する別の記録走査で形成した画像との境界部が薄くなってしまうという問題が発生する場合がある。
【0004】
この問題は次のようなメカニズムによって発生すると考えられている。図7は前記1パス印字で高デューティーの画像の形成を行う様子を、記録ヘッドの走査方向から見た状態を示している。図中、1は記録ヘッド、2は記録媒体、eはインク滴の吐出を行うノズル列を示している。
【0005】
図7(1)は1回の記録走査により、インク滴を記録媒体に付着させた状態を示している。図中p1は記録媒体上に付着したインクを示す。時間の経過とともに前記記録媒体に付着したインクは記録媒体に浸透、定着する。図7(2)はその状態を示しており、また図中p2は記録媒体に浸透、定着したインクを示している。先の記録走査の後、記録ヘッドの記録走査方向に対し垂直方向に紙送り(LF)が行われ、次の記録走査が行われる。図7(3)は前記紙送り(LF)と2回目の記録走査が行われた状態を示している。図中、紙送りが行われた量は矢印で示されており、記録ヘッドのノズル列の長さと同じである。また、2回目の記録走査で記録媒体に付着したインク滴はp2で示されている。
【0006】
図7(4)は、その後、時間の経過とともに2回目の記録走査で記録媒体に付着したインクが浸透、定着した状態を示している。図7(1)のp1、図7(3)のp3に示すように、記録媒体に付着したばかりで、まだ浸透、定着していないインクは、記録媒体上で大まかには端が低く中央が盛り上がった形状の表面を作る。これはインクの表面張力による一般的な現象である。この状態から、インクの記録媒体への浸透、定着が行われる。したがって、図7におけるp2,p4が示すように、それぞれの記録走査で形成される画像の部分のうち、端になる部分に定着するインクの量が少なくなり、その部分の色が薄くなる傾向にある。このため、記録走査を複数回繰り返して高デューティーの画像の形成を行うと、各記録走査で形成される画像の端の部分が薄くなるので、各記録走査の境界部が他の部分よりも薄くなり、縞状に薄い部分が目立ってしまうという画像問題が起こる場合がある。特にブラックインクは浸透性が低いものを用いる場合が多いため、ドットの中心と端との濃度差がカラーインクに比べて大きくなる傾向にある。よって、各記録走査での記録領域の境界部が薄くなったり、場合によっては白スジとなってしまう場合がある。
【0007】
この問題の対策として、記録ヘッドの記録幅よりも紙送り幅を短くすることが考えられる。この具体例として、記録ヘッドのノズル間の距離をいくらか長めに設計することが行われている。その結果、前記1パス印字に用いるノズル列の長さは前記紙送りの長さに対していくらか長くなり、次のような効果をもたらすことになる。
【0008】
図8はノズル間隔を通常よりも広げたノズル列のドットの様子を示す図である。1は記録ヘッド、2は記録媒体、eはインク滴の吐出を行うノズル列を示している。図8(1)は1回の記録走査により、インク滴を記録媒体に付着させた状態を示している。図中p1は記録媒体上に付着したインクを示す。時間の経過とともに前記記録媒体に付着したインクは記録媒体に浸透、定着する。図8(2)はその状態を示しており、また図中p2は記録媒体に浸透、定着したインクを示している。始めの記録走査の後、記録ヘッドの記録走査方向と垂直に紙送り(LF)が行われ、次の記録走査が行われる。記録ヘッドのノズル間の距離をいくらか長めにしているため、この紙送りの長さはノズル列の長さeよりも短くなっている。図8(3)は前記紙送り(LF)と2回目の記録走査が行われた状態を示している。図中、紙送りが行われた量は矢印で示されており、先に述べたように記録ヘッドのノズル列の長さeより比較的短い。また、2回目の記録走査で記録媒体に付着したインク滴はp2で示されている。その後、さらに時間が経過するとともに2回目の記録走査で記録媒体に付着したインクも浸透、定着した状態が図8(4)に示されている。
【0009】
先に図7で示した紙送りの長さは、ノズル列の長さと等しいかあるいは図8の例よりも紙送りの長さとノズル列の長さとの差分が少ないので、図8の場合と図7の場合を比較すると、図8の方がp2とp4の重なりが相対的に大きい。そのために、図8(4)に示されるように、ある記録走査で記録媒体上に形成した画像の部分とそれに隣接する別の記録走査で形成した画像との境界部は薄くなる画像問題は起こりにくくなっている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、黒のみの印字だけでなくカラー印字も行うことができる記録装置も近年では提供されている。このような記録装置の中には、文書等黒のみの印字では記録に要する時間を短くするために黒インクを吐出するノズル列を他のインクを吐出するノズル列に比べて長くしたものがある。これは、黒のみで記録するときにはノズル列のノズル全てを使用して記録を行い、カラーの時は他の色のノズル列と同じ程度の長さまでしか使用しない。このように記録画像に応じてノズル列全体の中で記録に使用するノズル部の長さを変える手段を持つ記録装置においては、使用するノズル部の長さの条件により、各記録走査で記録媒体上に形成した画像の境界部の薄い部分が目立つ画像問題が起こる場合がある。以下、この問題について説明する。
【0011】
図2と図3を用いて詳しく説明する。図2、図3において1は記録ヘッドであり、3はブラックインクを吐出するノズル列であり、4はカラーインクを吐出するノズル列である。前述の問題を解決するために、ブラックインクのノズル列はカラーインクのノズル列よりも所定値だけ大きく形成されている。ブラックのノズル列3はノズル全体をノズル部eとし、ノズル列の一部をノズル部bとする。ノズル部bの長さはノズル部eの長さの2分の1である。カラーインクのノズル列はノズル全体をノズル部aとする。ノズル部aの列方向のノズル個数とノズル部bのノズル数は等しい。
【0012】
図2はブラックインクのみを用いて画像の形成を行う場合の記録装置の動作を説明するための模式図である。先に述べたように、ブラックインクのみを用いて記録媒体に画像の形成を行う場合には、ブラックのノズル列全体(ノズル部e)を用いて記録を行う。図中の(f1)−p1は1回の記録走査でブラックインクにより形成された画像の記録ヘッドに対する位置を示している。その後、図中LFで示される方向へ所定量の紙送りが行われる。このときの紙送り幅はノズル部eの長さよりも短い。先に記録されたp1の画像は(f2)−p1の位置に移動する。その後、記録走査が行われ(f2)−p2の画像が形成される。
【0013】
図3はブラックインクとカラーインクを用いて画像の形成を行う場合の記録装置の動作を説明するための模式図である。先に述べたように、カラーインクも使用して画像の形成を行う場合には、ブラックのノズル列のノズル部bと、カラーのノズル列のノズル部aを使用して記録を行う。図中の(f1)−p1は1回の記録走査でブラックインクにより形成された画像の記録ヘッドに対する位置を示している。その後、図中LFで示される方向へ所定量の紙送りが行われる。先に記録されたp1の画像は(f2)−p1の位置に移動する。その後の記録走査で(f2)−p1の位置にはカラーインクにより記録が行われ、(f2)−p2の位置にはブラックインクによる記録が行われる。それにより(f2)−p1のエリアではブラックインクとカラーインクによる画像の形成が完了する。
【0014】
このようなブラックインクのみで画像を形成するか、ブラックインクとカラーインクを用いて画像を形成するかは、ホストコンピュータから送られてくる画像データに基づいて決定される。ホストコンピュータ側で動作するプリンタドライバーがカラー印字か黒のみの印字かをユーザーが選択する操作画面を表示し、ユーザーがいずれかを選択すると、画像データとともに、カラー印字または黒のみの印字の指令が記録装置側に送られる。そして記録装置はその指令をもとに各種駆動部の動作を決定する。また、カラー印字または黒のみの印字の選択をユーザーが行うのではなく、記録装置がホスト側から転送された画像データを調べて、判断し決定する構成のものもある。さらに、1ぺ一ジの画像データの中でもブラックのインクのみで形成すべき部分は、ブラックインクのノズル列を全て使用した長いノズル部で画像を形成し、カラー印字の部分は、カラーのノズル幅に合わせた短いノズル部で画像を形成するというように、印字部分の状況を判断して切り替える制御も行われている。
【0015】
上述のように印字に使用するノズル部の長さを変える手段を持つ記録装置において、先に述べた各記録走査で形成される記録領域の境界部で薄い部分が目立つ問題に対応するためのノズルの間隔を所定の設定値だけ長めに設計したものが提供されている。図2、図3で説明したように、黒のみの印字の場合とカラー印字の場合でブラックのノズル列の印字に使用する長さが異なる。したがって、紙送り幅とブラックの記録幅との差分も異なることとなる。具体的には、ブラックのノズル列はノズル間隔を全体に均等に広くして長さを通常よりも長くなるようにしている。したがって通常のノズル列の長さsよりもtだけ長くなったノズル列とすると、ブラックのノズル列全体の長さはs+tとなる。黒のみの印字ではノズル列全体を使うので、紙送り幅が仮にsだったとすると、長さtだけ各走査の記録領域で重なりができることになる。一方、カラー印字の場合はブラックのノズル列のうちノズル部bだけしか使用しない。つまり、ノズル列の2分の1しか使用しないことになる。すると、ノズル部bの長さは1/2(s+t)となる。紙送り幅が仮にs/2だったとすると、紙送り幅とノズル部bの長さとの差分はt/2だけとなるため、記録領域の重なりはt/2だけとなる。したがって、黒のみの印字の場合に十分な重なり部分が発生するようにノズル間隔を広げたとしても、カラー印字の場合には十分な重なりが確保できないこととなる。逆に、カラー印字の場合に十分な重なり部分が発生するようなノズル間隔を設定すると、黒のみの印字の場合には各走査の境界部におけるオーバーラップが大きくなりすぎて、その部分が濃く見える画像問題が発生する場合がある。
【0016】
上記従来の問題に鑑みて、本発明は、記録条件によってノズル列の使用範囲が異なるインクジェット記録装置において、常に、各記録走査で形成される黒インクによる記録領域の境界部分についても良好な記録結果を得ることができるようにすることを目的とする。
【0017】
【課題を解決するための手段】
そのために、本発明は、インクを滴として吐出する吐出口を所定方向に複数個配列したインクジェット記録ヘッドを前記配列方向と異なる方向に記録媒体上を複数回走査させ、それぞれの走査の際に前記記録媒体に対しインクを吐出する記録走査と、前記複数回の走査の間に前記インクジェット記録ヘッドの走査方向と異なる方向に記録媒体と前記インクジェット記録ヘッドとを相対的に所定量移動させる紙送りとを行うことにより記録媒体の所定領域の記録を行うインクジェット記録装置において、
前記インクジェット記録ヘッドは、カラーインクを吐出する吐出口列と、黒インクを吐出する吐出口列とを具え、前記黒インクを吐出する吐出口列の一部分が他の部分に比べて各吐出口の配列間隔が広く、
前記黒インクを吐出する吐出口列を使用して黒のみの印字を行うモードにおいて、前記インクジェット記録ヘッドの1回の記録走査で前記黒インクによって記録される領域の前記紙送り方向の記録幅が、1回の紙送りにおける前記記録媒体の移動量よりも長く、かつ
前記カラーインクを吐出する吐出口列および前記黒インクを吐出する吐出口列の前記一部分を含めて使用するカラー印字モードにおいて、前記インクジェット記録ヘッドの1回の記録走査で前記黒インクによって記録される領域の前記紙送り方向の記録幅が、1回の紙送りにおける前記記録媒体の移動量よりも長くなるようにするとともに、
前記黒インクによって記録される領域の前記記録幅と前記記録媒体の前記移動量との差が、前記黒のみの印字を行うモードおよび前記カラー印字モードで等しくなるようにしたことを特徴とする。
【0019】
以上の構成によれば、ノズル列全体のうち、カラー印字、黒のみの印字などいかなる記録条件においても使用される黒インクを吐出する吐出口列の一部分のみを他の部分よりもノズル間隔が広くなるようにノズルを配置した記録ヘッドを用いる。そして、黒のみの印字モードでは黒インクの吐出口列の全てを使用して記録を行い、1回の記録走査の記録幅が1回の紙送りにおける記録媒体の移動量よりも長くするとともに、カラー印字モードでは黒インクを吐出する吐出列のうち上記一部分を含めて用いることで、黒インクによって記録される領域の紙送り方向の記録幅が、1回の紙送りにおける前記記録媒体の移動量よりも長くなるようにする。そして、常に紙送り幅よりも1記録走査での黒インクによる記録幅の方が一定量だけ長くするようにする。したがって、いかなる記録条件においても、各記録走査で形成される黒インクによる記録領域の境界部分が一定量だけ重なる記録結果を得ることができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明は、条件により使用するノズル部の範囲を変更して使用するノズル列について、ノズルの間隔を全て均等ではなく、1回の記録走査が比較的短いときに使用するノズル部のノズル間隔を長めにして、それ以外のノズル部のノズル間隔を短めにしておく。それにより、そのノズル列全てを使用して記録を行うときも、比較的短いノズル部を使用して記録を行うときも、先に述べた複数の記録走査で形成される領域の境界部が薄くなる問題を解消するために適切な長さほど、紙送り量より記録走査に使用するノズル部の長さが長い条件で記録することができる。その構成により、先に述べた画像問題の回避あるいは軽減をはかるものである。
【0021】
(実施の形態1)
図1は、本発明を適用可能なインクジェット記録装置の概略構成を説明するための斜視図である。図1において、1000は交換式のインクジェットカートリッジであり、インクを吐出可能なインクジェット記録ヘッドHと、その記録ヘッドにインクを供給するインクタンクと、を結合した構成となっている。2は、カートリッジ1000を搭載可能なキャリッジユニットであり、ガイドシャフト8によって矢印X1,X2の主走査方向に沿って移動自在にガイドされている。キャリッジユニット2には、プーリ6A,6B間に架け渡されたベルト7が連結されており、そのベルト7を介して伝達されるキャリッジモータ20の駆動力によって、キャリッジ2が主走査方向に移動される。キャリッジユニット2のホルダ31には、固定レバー41の操作によって、カートリッジ1000が位置決め固定される。カートリッジ1000が位置決め固定されたときに、そのカートリッジ1000側の電気接点がキャリッジユニット2側の電気接点に接触する。5は、制御部からの信号をカートリッジ1000に伝達するためのフレキシブルケーブルである。キャリッジユニット2に取り付けられた透過型のフォトカプラ9と、装置本体に取り付けられた遮光板10とによって、キャリッジユニット2が所定のホームポジションに移動したことを検出する。そのホームポジションに備えられたホームポジションユニット12には、記録ヘッドHにおけるインク吐出口の形成面をキャップ可能なキャップ部材、このキャップ部材内を吸引する吸引手段、さらにインク吐出口の形成面をワイピングする部材などを含む回復系が構成されている。排出ローラ13は、図示しない拍車ローラと協働して、被記録媒体を挟みつつ装置本体の外部に排出する。これらのローラは、給紙ローラやピンチローラなどを含むラインフィードユニットと共に、被記録媒体を矢印Yの副走査方向に搬送する搬送手段を構成する。
【0022】
記録ヘッドの大まかな構成は図2,図3に示すものと同様である。なお、本実施形態の記録ヘッドは、各ノズルに対応して電気熱変換体である発熱ヒータが設けられている。インク吐出時は、この発熱ヒータを発熱させ、インク中に気泡を発生させ、該気泡の生成圧力によって所定量のインクを滴として吐出する。なお、本発明の記録ヘッドは、このようなバブルスルー方式を用いてもよいし、ピエゾ方式など他の方式であってもよい。
【0023】
なお、ブラックインクのみの記録を行う場合と、ブラックインクとカラーインクを用いて記録を行う場合とで、ブラックインクのノズル列の使い方は、課題において図2、図3を用いて説明した方法と同様とする。つまり、黒のみの印字のときはノズル列全てを用いて記録を行い、カラー印字の場合はノズル列全体のうち一部分だけを用いて記録を行うものとする。
【0024】
従来のブラックインクのノズル列はノズル間隔が全体に渡って均等であったが、本発明のノズル列はノズル間隔を均等とせず、部分によって異ならせることで従来のノズル列がもつ問題を解決するものである。以下に本実施形態のノズル列について詳しく説明する。
【0025】
図4は、本実施形態のブラックインクのノズル列と他の色のノズル列を示す模式図である。ブラックインクのノズル列3において、配列されたノズル全てはノズル部eとし、そのノズル部eはさらにノズル部bとノズル部cとに分割される。カラーインクのノズル列4はブラックのノズルの配列方向と平行な方向に各色のノズル列が配列されている。インク色はイエロー、マゼンタ、シアン等である。先に説明したように、ブラックインクのみで記録媒体に画像を形成する場合には、図中、3で示されるブラックのノズル列の全体、つまりeで示される範囲のノズル部を使用する。ブラックインクに加えてカラーインクを使用して画像の形成を行う場合には、前記ブラックのノズル列のうち、図中bで示されるノズル部と、カラーのノズル列を使用する。ブラックのノズル列全体からノズル部bを除いたノズル部が、図中、cで示されるノズル部である。
【0026】
ここで、ノズル部bに配列されている各ノズルのノズル間隔は、ノズル部cのノズル間隔に比べて長くなるように構成されている。具体的に説明すると、本実施の形態に用いた記録装置ではブラックの画像データは紙送り方向には600dpi(1インチあたり600ドット)の解像度で処理を行う。図4の3で示されるブラックのノズル列のうちノズル部cは600dpiのノズル間隔でノズルを配置する。つまり、約42.333マイクロメートル間隔でノズルが形成されている。一方、ノズル部bにおいては、ノズル部cのノズル間隔、つまり600dpiの間隔でノズルを配置した場合よりも15マイクロメートル程長くなるような間隔で形成されている。したがって、ノズル列eに対して、ノズル部bとノズル部cの比率は1:1となるわけではなく、15マイクロメートルだけノズル部bの方が長くなっている。本実施例ではブラックのノズル列のノズル数は600で、ノズル部c、ノズル部b、及びカラーインク吐出用のノズル列のノズル数がそれぞれ300のノズルからなるものとすると、ノズル部bのノズル間隔は約42.383マイクロメートルとなるように設計する。
【0027】
このようにノズル部bの長さが他のノズル部に比べて長いので、記録時の紙送りと記録幅との関係は次のようになる。カラー印字の場合の紙送りが、600dpiで300ノズル分の長さ、具体的には、約12.700ミリメートルであるのに対して、1回の記録走査で形成されるブラック画像の記録幅は、ノズル部bの長さが600dpiのノズル間隔でノズルを配置した場合よりも15マイクロメートル長くなるように設定しているため、約12.715ミリメートルとなり、紙送り幅よりも15マイクロメートルだけ長くなる。よって、各記録走査における記録領域の境界部分が15マイクロメートルだけ互いに重なり合うので、図8で説明したように、複数の記録走査による記録領域の境界部分が薄くなるという現象は発生せず、良好な記録結果を得ることができる。
【0028】
また、黒のみの印字の場合は、図4のノズル部eすなわちブラックのノズル列全体を使用して画像を形成する。この場合、紙送り幅は600dpiで600ノズル分の長さ、具体的には25.400ミリメートルである。これに対し、1回の記録走査で形成される記録幅は、ノズル部bが600dpiのノズル間隔でノズルを配置した場合よりも15マイクロメートルだけ長いために25.415ミリメートルとなり、全体としても前記紙送り幅に対して15マイクロメートルだけ長いものとなる。したがって、カラー印字の場合と同様に、各記録走査における記録領域の境界部分が15マイクロメートルだけ互いに重なりあうので、複数の記録走査による記録領域の境界部分が薄くなるという現象は発生せず、良好な記録結果を得ることができる。
【0029】
つまり、カラー印字の場合も黒のみの印字の場合も、境界部分の重なり量は同じであるため、どちらの記録結果も良好なものとなる。
【0030】
(実施の形態2)
ブラックインクは文書を印字する際によりよい記録結果を得られるように、他のシアン、マゼンタ、イエロー等のカラーインクに比べ、記録媒体への浸透速度やにじみ具合等、記録媒体へ定着する度合いが異なるように成分構成されている場合がある。しかし、このような構成のブラックインクをカラー印字時にカラーインクと同様に用いることにより、ブリーディングなどが発生する場合がある。そこで、本実施形態では、実施形態1の効果に加えてブラックインクとカラーインクとのブリーディングなどもさらに防ぐことができる形態を説明する。
【0031】
図5は本実施形態で用いる記録ヘッドのノズル列を示す模式図である。1は記録ヘッドであり、3はブラックのインクを吐出するノズル列であり、4はカラーインクを吐出するノズル列である。カラーのノズル列はインク色ごとに列を成しており、色ごとのノズル列がノズルの並びに垂直に配列されている。ブラックのノズル列3はノズル列4に比べ長く、双方のノズル列は隣り合って配列されているが、ブラックのノズル列の方が長いため、一部がカラーインクのノズル列よりも突出した配置となっている。
【0032】
ブラックのノズル列に配列されたノズル全体をノズル部eとし、さらに配列されたノズルのうちの一部をノズル部b、ノズル部dとする。なお、ノズル部bはノズル列全体の長さの約3分の1である。また、ノズル部dはノズル列全体の長さの約2分の1である。カラーインクのノズル列4に配列されたノズル全体をノズル部cとし、さらに配列されたノズルのうちの一部をノズル部aとする。
【0033】
また、ブラックのノズル列3はノズル間隔が均等ではなく、ノズル部bと他の部分とで異なるように形成されている。ノズル部b以外の部分は600dpiのノズル間隔でノズルを配置する。つまり、だいたい42.333マイクロメートル間隔でノズルが形成されている。一方、ノズル部bは、600dpiの間隔でノズルを配置した場合よりもノズル部bの長さが15マイクロメートル長くなるようなノズル間隔で各ノズルが配置されている。本実施形態ではブラックのノズル列のノズル総数は600個で、ノズル部bが200個、ノズル部dが300個となっている。そして、ノズル部bは約42.408マイクロメートルのノズル間隔となっている。他の部分は、42.333マイクロメートルのノズル間隔となっている。
【0034】
なお、カラーインクのノズル列4についてはノズル間隔が均等に形成されており、ブラックのノズル列3のノズル部b以外の部分と同様の600dpiの間隔となっている。また、ノズル総数は300個で、ノズル部aが200個、ノズル部cが300個となっている。したがって、ノズル部bの長さとノズル部aのノズル個数は等しく、ノズル部dとノズル部cのノズル個数も等しい。
【0035】
カラー印字は次のようになる。図中の(f1)−p1は1回の記録走査でブラックインクにより形成された画像の記録ヘッドに対する位置を示している。その後、図中LFで示される方向へ所定量の紙送りが行われる。先に記録されたp1の画像は(f2)−p1の位置に移動する。その後の記録走査で(f2)−p2の位置にはブラックインクによる記録が行われる。その後、さらに図中LFで示される方向と距離の紙送りが行われる。その後の記録走査で(f3)−p1の位置にはカラーインクにより記録が行われ、(f3)−p3の位置にはブラックインクによる記録が行われる。それにより(f3)−p1のエリアではブラックインクとカラーインクによる画像の形成が完了する。
【0036】
このようにブラックインクのノズル列を3分割することにより、ブラックの記録が行われてから、先にブラックの記録が行われた記録媒体上のエリアにカラーの記録が行われるまでの間に、なんらの記録がそのエリアには行われない1走査が発生することになる。それによりブラックインクが付着してから、カラーインクが付着するまでの時間間隔を、ノズル列を2分割した場合と比較して長くとることができる。よってカラーインクが記録媒体に付着する前に、さきに記録媒体に付着したブラックインクの浸透、定着が進んでおり、ブラックインクとカラーインクの間のにじみ等を防止するのに有利である。また、双方向印字を行う際には、任意の記録媒体上のエリアについてブラックの記録の走査方向と、カラーの記録の走査方向が同じとなり、記録走査で記録を行う任意のエリア内についてはカラーインクが付着してからブラックインクが付着するまでの時間間隔が一定となり、前記時間間隔の違いに起因する画像弊害が起こりにくくなる。
【0037】
なお、紙送り幅は600dpi200ノズルに等しい長さであるので、ブラックインクの記録幅は紙送り幅に比べて15マイクロメートルだけ長くなる。したがって、実施形態1と同様に、各記録走査での記録領域の境界部分が重なり合うことになるので、境界部分が薄くなるという現象は回避できる。
【0038】
また、黒のみの印字の場合は、ノズル列3のノズル全てすなわちノズル部eを用いて画像を形成する。この場合の紙送り幅は600dpi600ノズルに等しい長さであり、記録幅はこの紙送り幅よりも15マイクロメートルだけ長い。したがって、各記録走査での記録領域の境界部分が重なり合い、境界部分が薄くなるという現象は回避できる。
【0039】
つまり、カラー印字、黒のみの印字、さらにカラー印字でスピードを重視したモードそれぞれの場合においても、境界部分の重なり量は同じになるため、常に良好な記録結果を得ることができる。
【0040】
また、画質よりもスピードを重視してカラー画像の形成を行う印字モードでカラー画像の記録を行う場合には、ブラックのノズル列のノズル部dとカラーのノズル列のノズル部cを用いて実施形態1と同様の方法で記録を行う。この場合の紙送り幅は600dpi300ノズルに等しい長さであり、ブラックの記録幅はこの紙送り幅よりも15マイクロメートルだけ長い。したがって、同じく、各記録走査での記録領域の境界部分が重なり合い、境界部分が薄くなるという現象は回避できる。
【0041】
(実施の形態3)
本実施形態では、カラーインクのノズル列を色ごとに横に配列した実施形態1,2と異なり、色ごとに縦に配列したものについて説明する。
【0042】
図6は本実施形態における記録ヘッドのノズル列を示す模式図である。
【0043】
1は記録ヘッドであり、3は、ブラックインクのノズル列であり、4はカラーインクのノズル列である。ブラックインクのノズル列全体をノズル部eとし、ノズル列の一部をノズル部d、ノズル部gとする。カラーインクのノズル列4はイエローインクを吐出するノズル部a、マゼンタインクを吐出するノズル部b、シアンインクを吐出するノズル部cに3分割される。なお、ノズル部a,b,cともに均等な長さである。また、ブラックインク、カラーインクともに600dpiの解像度で記録が行われる。
【0044】
ブラックインクのノズル列3のノズル部d以外の部分は600dpiのノズル間隔でノズルが配置されている。つまり、約42.333マイクロメートルの間隔で配置されている。一方、ノズル部dは600dpiのノズル間隔でノズルを配置した場合よりも15マイクロメートルだけ長くなるように配置されている。つまり、約42.483マイクロメートルの間隔で配置されている。本実施形態ではブラックのノズル列のノズル数は550個で、ノズル部dは100個とする。
【0045】
カラーインクのノズル列4は600dpiのノズル間隔でノズルが配置されている。つまり、ブラックインクのノズル部d以外の部分と同じノズル間隔である。また、ノズル数は、ノズル部a,b,cともに100個で総数は300個となる。
【0046】
黒のみの印字の場合は、ブラックインクのノズル列全て、すなわちノズル部eで記録を行う。紙送りは600dpi間隔550ドット分、すなわち約23.283ミリメートルの長さで行う。また1走査での記録幅は、ノズル部dが他よりもノズル間隔が広いので、紙送り幅よりも15マイクロメートルだけ長くなる。したがって、各走査での記録領域の境界部分が重なりあい、境界が薄くなる問題を回避することができる。
【0047】
一方、カラー印字の場合、紙送りは600dpi間隔100ノズル分、すなわち、だいたい4.233ミリメートルの長さで行う。ブラックのノズル列はノズル部dが使用されるため、紙送り幅よりもブラックの記録幅は15マイクロメートルだけ長くなる。さらにブラックのノズル列はカラーのノズル列に比べて長いため、実施形態2と同様に、記録走査を開始すると、ブラックの記録が行われ、前記所定量の紙送りが行われる。そして、紙送りと記録走査を繰り返し、最初の走査でブラックが記録された部分がカラーのノズル列に到達するとシアン、マゼンタ、イエローの順でカラーインクが記録されていくことになる。この場合も各走査での記録領域の境界が重なりあい、境界部分が薄くなる問題を回避しつつ、画像の形成を行うことができる。
【0048】
またこの実施形態でも、黒のみの印字とカラー印字のいずれも境界部の重なり量が同じになるのは明らかである。
【0049】
実施形態1〜3では、カラーインクとブラックインクを用いて画像の形成を行う場合に使用する、ブラックのノズル部のなかでは等間隔にノズルを配置するものである。しかしながら、本発明はその構成に限定されるものではない。1回の記録走査で記録される領域の紙送り方向の幅が、印字データの解像度に合わせた紙送りの量に対して、所定の幅だけ長くなっていればよい。例えば、間隔を比較的長くするのは、カラーインクとブラックインクを用いて画像の形成を行う場合に使用するブラックのノズル部の半分だけでも良い。しかし、画像を数回に分けてより短い紙送りをしながら記録を行う場合(例えば、印字データを2つに分けて、紙送りの幅も半分をして、ブラックの画像形成を任意の部分について2回の記録走査と紙送りで完成するような印字方法)には、前記ブラックのノズル部内のノズル配置は均等であった方が、有利である。
【0050】
また、実施形態1〜3では、ブラックインクのノズル列のみ、条件により、使用するノズル部の長さを変え、ノズル内のノズルの配置の間隔も、ノズル部によって異なるものとしている。しかし、本発明はその構成に限定されるものではない。カラーインクを吐出するためのノズル列など、他のノズル列についても、条件により使用するノズル部を変更し、かつ先に問題点の説明で述べた画像弊害が起こる場合には、そのノズル部の使い方に応じて、比較的短いノズル部のノズル間隔あるいは平均ノズル間隔を他のノズル部に比べて長くなるようにしても良い。しかし、ブラックインクは文字の画像に使用されることが多いため、その文字画像のエッジをきれいにするために、表面張力の高い組成のインクが使用される場合が多い。よって、先に説明した画像問題が発生しやすく、よってブラックに本発明を適用するのが効果が高いと考えられる。
【0051】
さらに、ここまでの実施例では、使用するノズル部を選択する前記条件として、ブラックのインクのみで画像の形成を行う場合と、カラーのインクとブラックのインクの両方を用いて画像の形成を用いる場合についての例を示した。また、実施の形態2では印字スピードを優先する場合と、画質を優先する場合について使用するノズル部の範囲と記録装置の紙送りの量などの制御を変更する例について説明した。しかし、本発明はその構成に限定されるものではない。他の要因により、記録に使用するのノズル部の長さを変更して記録を行う場合にも同様に有効である。
【0052】
また実施形態1〜3では、ブラックのノズル列が各種印字条件いずれにおいても紙送り幅より15マイクロメ一トルほど1回の記録走査での記録幅が長くなるように設定している。しかし、本発明はこの値に限定されるものではなく、いかなる長さでもよい。ただし、記録走査での記録幅と紙送り幅との差分が短すぎると、前記画像問題を回避できない、あるいは軽減する効果が少ない。逆に長すぎると、複数の記録走査で記録される領域のオーバーラップが大きくなり過ぎて、画像によっては境界が濃く見える新たな画像問題が発生してしまうこととなる。また、前記設定値の画像問題を回避するために有効である許容範囲は、ノズル列から吐出するインクの組成や、インクの量などによっても異なり、かつ幅を持っている。よってノズル列の比較的長いノズル部を使用する場合の前記設定値も、比較的短いノズル部を使用する場合の前記設定値も前記許容範囲に入っていれば、両方の場合について前記画像問題を回避あるいは軽減する効果がある。しかし、望ましい前記設定値は、記録媒体によってもばらつく。実際には複数の記録媒体について平均的に望ましい値の設定することを考えると、使用するノズル部の長さが比較的長い場合も、比較的短い場合も、前記設定値が等しくなるように、ノズルの間隔を設定する方が、前記画像問題を回避するためには有利である。
【0053】
(その他)
なお、本発明は、特にインクジェット記録方式の中でも、インク吐出を行わせるために利用されるエネルギとして熱エネルギを発生する手段(例えば電気熱変換体やレーザ光等)を備え、前記熱エネルギによりインクの状態変化を生起させる方式の記録ヘッド、記録装置において優れた効果をもたらすものである。かかる方式によれば記録の高密度化,高精細化が達成できるからである。
【0054】
その代表的な構成や原理については、例えば、米国特許第4723129号明細書,同第4740796号明細書に開示されている基本的な原理を用いて行うものが好ましい。この方式は所謂オンデマンド型,コンティニュアス型のいずれにも適用可能であるが、特に、オンデマンド型の場合には、液体(インク)が保持されているシートや液路に対応して配置されている電気熱変換体に、記録情報に対応していて核沸騰を越える急速な温度上昇を与える少なくとも1つの駆動信号を印加することによって、電気熱変換体に熱エネルギを発生せしめ、記録ヘッドの熱作用面に膜沸騰を生じさせて、結果的にこの駆動信号に一対一で対応した液体(インク)内の気泡を形成できるので有効である。この気泡の成長,収縮により吐出用開口を介して液体(インク)を吐出させて、少なくとも1つの滴を形成する。この駆動信号をパルス形状とすると、即時適切に気泡の成長収縮が行われるので、特に応答性に優れた液体(インク)の吐出が達成でき、より好ましい。このパルス形状の駆動信号としては、米国特許第4463359号明細書,同第4345262号明細書に記載されているようなものが適している。なお、上記熱作用面の温度上昇率に関する発明の米国特許第4313124号明細書に記載されている条件を採用すると、さらに優れた記録を行うことができる。
【0055】
記録ヘッドの構成としては、上述の各明細書に開示されているような吐出口,液路,電気熱変換体の組合せ構成(直線状液流路または直角液流路)の他に熱作用部が屈曲する領域に配置されている構成を開示する米国特許第4558333号明細書,米国特許第4459600号明細書を用いた構成も本発明に含まれるものである。加えて、複数の電気熱変換体に対して、共通するスリットを電気熱変換体の吐出部とする構成を開示する特開昭59−123670号公報や熱エネルギの圧力波を吸収する開孔を吐出部に対応させる構成を開示する特開昭59−138461号公報に基いた構成としても本発明の効果は有効である。すなわち、記録ヘッドの形態がどのようなものであっても、本発明によれば記録を確実に効率よく行うことができるようになるからである。
【0056】
加えて、上例のようなシリアルタイプのものでも、装置本体に固定された記録ヘッド、あるいは装置本体に装着されることで装置本体との電気的な接続や装置本体からのインクの供給が可能になる交換自在のチップタイプの記録ヘッド、あるいは記録ヘッド自体に一体的にインクタンクが設けられたカートリッジタイプの記録ヘッドを用いた場合にも本発明は有効である。
【0057】
また、本発明の記録装置の構成として、記録ヘッドの吐出回復手段、予備的な補助手段等を付加することは本発明の効果を一層安定できるので、好ましいものである。これらを具体的に挙げれば、記録ヘッドに対してのキャッピング手段、クリーニング手段、加圧或は吸引手段、電気熱変換体或はこれとは別の加熱素子或はこれらの組み合わせを用いて加熱を行う予備加熱手段、記録とは別の吐出を行なう予備吐出手段を挙げることができる。
【0058】
また、搭載される記録ヘッドの種類ないし個数についても、例えば単色のインクに対応して1個のみが設けられたものの他、記録色や濃度を異にする複数のインクに対応して複数個数設けられるものであってもよい。すなわち、例えば記録装置の記録モードとしては黒色等の主流色のみの記録モードだけではなく、記録ヘッドを一体的に構成するか複数個の組み合わせによるかいずれでもよいが、異なる色の複色カラー、または混色によるフルカラーの各記録モードの少なくとも一つを備えた装置にも本発明は極めて有効である。
【0059】
さらに加えて、以上説明した本発明実施例においては、インクを液体として説明しているが、室温やそれ以下で固化するインクであって、室温で軟化もしくは液化するものを用いてもよく、あるいはインクジェット方式ではインク自体を30℃以上70℃以下の範囲内で温度調整を行ってインクの粘性を安定吐出範囲にあるように温度制御するものが一般的であるから、使用記録信号付与時にインクが液状をなすものを用いてもよい。加えて、熱エネルギによる昇温を、インクの固形状態から液体状態への状態変化のエネルギとして使用せしめることで積極的に防止するため、またはインクの蒸発を防止するため、放置状態で固化し加熱によって液化するインクを用いてもよい。いずれにしても熱エネルギの記録信号に応じた付与によってインクが液化し、液状インクが吐出されるものや、記録媒体に到達する時点ではすでに固化し始めるもの等のような、熱エネルギの付与によって初めて液化する性質のインクを使用する場合も本発明は適用可能である。このような場合のインクは、特開昭54−56847号公報あるいは特開昭60−71260号公報に記載されるような、多孔質シート凹部または貫通孔に液状又は固形物として保持された状態で、電気熱変換体に対して対向するような形態としてもよい。本発明においては、上述した各インクに対して最も有効なものは、上述した膜沸騰方式を実行するものである。
【0060】
さらに加えて、本発明インクジェット記録装置の形態としては、コンピュータ等の情報処理機器の画像出力端末として用いられるものの他、リーダ等と組合せた複写装置、さらには送受信機能を有するファクシミリ装置の形態を採るもの等であってもよい。
【0061】
【発明の効果】
以上のように、本発明においては、ノズル列全体のうち、カラー印字、黒のみの印字などいかなる記録条件においても使用される黒インクを吐出する吐出口列の一部分のみを他の部分よりもノズル間隔が広くなるようにノズルを配置した記録ヘッドを用いる。そして、黒のみの印字モードでは黒インクの吐出口列の全てを使用して記録を行い、1回の記録走査の記録幅が1回の紙送りにおける記録媒体の移動量よりも長くするとともに、カラー印字モードでは黒インクを吐出する吐出列のうち上記一部分を含めて用いることで、黒インクによって記録される領域の紙送り方向の記録幅が、1回の紙送りにおける前記記録媒体の移動量よりも長くなるようにする。そして、常に紙送り幅よりも1記録走査での黒インクによる記録幅の方が一定量だけ長くすることができるようにする。したがって、いかなる記録条件においても、各記録走査で形成される黒インクによる記録領域の境界部分が一定量だけ重なるので、記録条件によって吐出口列の使用範囲が異なるインクジェット記録装置においても、常に良好な記録結果を得ることができる。
【0062】
さらに、黒のみの印字では、カラー印字よりも1回の記録走査での記録量が多くなるので、記録速度を向上させることができる。
【0063】
前記吐出口間隔が広くなる部分は、同じ吐出口数を通常の間隔で配列した場合に比べ15マイクロメートル程、配列方向の長さが長くなるようにしているため、常に記録領域の重なり部分を15マイクロメートル程度に抑えることができ、過剰なオーバーラップによる画像品位の低下を招くことはない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態であるインクジェット記録装置を示す斜視図である。
【図2】黒のみの印字とカラー印字とでブラックのノズル列の使用範囲が異なる記録ヘッドにおける黒のみの印字を示す模式図である。
【図3】図2と同様の記録ヘッドにおけるカラー印字を示す模式図である。
【図4】実施形態1の記録ヘッドにおけるブラックインクのノズル列とカラーインクのノズル列を示す模式図である。
【図5】実施形態2の記録ヘッドにおけるブラックインクのノズル列とカラーインクのノズル列を示す模式図である。
【図6】実施形態3の記録ヘッドにおけるブラックインクのノズル列とカラーインクのノズル列を示す模式図である。
【図7】従来の記録ヘッドのドット形成の様子を示す模式図である。
【図8】従来の記録ヘッドのドット形成の様子の他の例を示す模式図である。
【符号の説明】
2 キャリッジユニット
6 プーリ
7 ベルト
8 ガイドシャフト
9 フォトカプラ
10 遮光板
12 ホームポジションユニット
13 排出ローラ
20 キャリッジモータ
Claims (4)
- インクを滴として吐出する吐出口を所定方向に複数個配列したインクジェット記録ヘッドを前記配列方向と異なる方向に記録媒体上を複数回走査させ、それぞれの走査の際に前記記録媒体に対しインクを吐出する記録走査と、前記複数回の走査の間に前記インクジェット記録ヘッドの走査方向と異なる方向に記録媒体と前記インクジェット記録ヘッドとを相対的に所定量移動させる紙送りとを行うことにより記録媒体の所定領域の記録を行うインクジェット記録装置において、
前記インクジェット記録ヘッドは、カラーインクを吐出する吐出口列と、黒インクを吐出する吐出口列とを具え、前記黒インクを吐出する吐出口列の一部分が他の部分に比べて各吐出口の配列間隔が広く、
前記黒インクを吐出する吐出口列を使用して黒のみの印字を行うモードにおいて、前記インクジェット記録ヘッドの1回の記録走査で前記黒インクによって記録される領域の前記紙送り方向の記録幅が、1回の紙送りにおける前記記録媒体の移動量よりも長く、かつ
前記カラーインクを吐出する吐出口列および前記黒インクを吐出する吐出口列の前記一部分を含めて使用するカラー印字モードにおいて、前記インクジェット記録ヘッドの1回の記録走査で前記黒インクによって記録される領域の前記紙送り方向の記録幅が、1回の紙送りにおける前記記録媒体の移動量よりも長くなるようにするとともに、
前記黒インクによって記録される領域の前記記録幅と前記記録媒体の前記移動量との差が、前記黒のみの印字を行うモードおよび前記カラー印字モードで等しくなるようにしたことを特徴とするインクジェット記録装置。 - さらに複数の記録モードを具え、前記一部分は、いかなる記録モードのときも使用されることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
- 前記黒インクを吐出する吐出口列のみを使用するモードのときは、前記黒インクを吐出する吐出口列を構成する吐出口全てを使用して記録を行い、前記黒インクを吐出する吐出口列と前記カラーインクを吐出する吐出口列の両方を使用するモードのときは、前記黒インクを吐出する吐出口列のうち、前記カラーインクを吐出する吐出口列の吐出口数と同数の吐出口のみを使用し、かつ使用される吐出口は前記吐出口の配列間隔が広い部分にある吐出口であることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
- 前記インクジェット記録ヘッドは、前記各吐出口に対応する発熱素子を具え、該発熱素子が発する熱エネルギーによってインクに気泡を生じさせ、該気泡生成圧力によって前記吐出口はインクを滴と吐出することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
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