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JP4026421B2 - 金属粉末供給開始タイミング決定装置およびその方法 - Google Patents

金属粉末供給開始タイミング決定装置およびその方法 Download PDF

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JP4026421B2
JP4026421B2 JP2002177136A JP2002177136A JP4026421B2 JP 4026421 B2 JP4026421 B2 JP 4026421B2 JP 2002177136 A JP2002177136 A JP 2002177136A JP 2002177136 A JP2002177136 A JP 2002177136A JP 4026421 B2 JP4026421 B2 JP 4026421B2
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、肉盛溶接を実施する際に供給する金属粉末の供給タイミングを決定する金属粉末供給タイミング決定装置およびその方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
肉盛溶接においては、母材にレーザ光を照射しつつ金属粉末を供給し、母材および金属粉末を溶融して肉盛部位を形成する。レーザ光は母材に対して鉛直上方から照射し、金属粉末は斜め上方より投入している。
【0003】
ここで、レーザ光の照射方向と金属粉末の投入方向が異なるので、適当な肉盛溶接を行うためには、レーザ光の照射開始および金属粉末の投入開始のタイミングや、レーザ光の照射位置と金属粉末の投入位置との位置合わせが適当でなくてはならない。そこで、これらのタイミングや位置合わせが適当であるか否かは、実際に製品を加工してみてその品質評価を行うことにより判断している。
【0004】
しかしながら、実際に製品を加工しないと同期や位置合わせが適当であるか否かを判断できないのでは、肉盛溶接の仕様が変更されるたびに、タイミングや位置合わせを確認および調整してできた製品の品質を評価しなくてはならないので、良品を加工できる条件を設定するまでに多大な時間を要し、生産性が著しく低くなるという問題がある。
【0005】
具体的には、たとえば、製造ロットが変わるたびに、金属粉末の成分等が微妙に変わりその性状も変わるので、前回の製造ロットに比べて金属粉末の流動度等が変動し、これにより、金属粉末の落下位置や落下タイミングも変わってしまう。
【0006】
このたびに、落下位置が肉盛部位に合うように金属粉末を供給するノズルの位置を調整したり、また、レーザ光および金属粉末の供給タイミング合わせおよび位置合わせをすることも必要となる。加えて、これらの調整が適当であるか否かを実際の加工に基づいて確認および調整するといった多大な工数が必要になるという問題がある。
【0007】
さらに、従来では実際に加工を行い品質評価する必要があるため、品質不良の場合には、加工して作成した製品が無駄になってしまい、生産コストを増大させる要因になるという問題もある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、良品加工のための条件を設定する際に実際に製品を加工することを必要とせず、良品加工のための条件を設定するまでの時間を大幅に短縮でき、特に、レーザ光の照射に対する金属粉末の供給開始タイミングを迅速に決定することができる金属粉末供給タイミング決定装置およびその方法の提供を目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の上記目的は、下記の手段によって達成される。
【0010】
(1)本発明の金属粉末供給タイミング決定装置は、肉盛溶接を施す肉盛部位に金属粉末を供給する粉末供給手段と、前記肉盛溶接を実施する際に照射するレーザ光が未照射の状態において、前記粉末供給手段から供給される前記金属粉末が前記肉盛部位に到達する到達タイミングを測定する到達タイミング測定手段と、測定した到達タイミングに基づいて、溶接時の前記レーザ光の照射に対する前記金属粉末の供給開始のタイミングを決定する供給タイミング決定手段とを有することを特徴とする。
【0011】
(2)前記粉末供給手段は、前記溶接部位の鉛直上方から前記金属粉末を供給する。
【0012】
(3)前記供給タイミング決定手段は、適当な基準金属粉末を前記粉末供給手段から供給したときの肉盛部位への到達タイミングを基準到達タイミングとして記憶する記憶手段と、前記基準到達タイミングを前記到達タイミング測定手段により測定した到達タイミングと比較する比較手段と、前記比較手段による比較結果に基づいて、前記金属粉末の供給開始のタイミングを決定する決定手段とを有する
【0013】
【発明の効果】
請求項1に記載の発明は、粉末供給手段から供給される粉末が肉盛部位に到達するタイミングを、レーザ光未照射の状態で測定しておくので、実際にレーザ光を照射して肉盛溶接することなく、レーザ光の照射に対して適した金属粉末の供給開始のタイミングを決定することができる。したがって、レーザ光を照射してできた製品を品質評価して溶接の適否を判断しなくてもよいので、その分の工数を削減でき、また、品質の悪い製品を作って無駄にしてしまうことがなくなって、生産時間およびコストを大幅に低減することができる。
【0014】
また、加工に際し粉末が変更等されても、金属粉末の供給開始タイミングを容易に決定できるので、粉末変更ごとに加工精度がばらつくことがなく、加工精度を安定して向上させることができる。
【0015】
さらに、粉末の供給開始タイミングを決定する際に、実際にレーザ光を照射する必要がないので、粉末を回収および再利用することができ、生産コストを低減することができる。
【0016】
請求項2に記載の発明は、溶接部位の鉛直上方から金属粉末を供給するので、金属粉末が粉末供給手段内において摩擦により滞留することを防止でき、また、金属粉末が落下時に拡散することを防止して溶接部位に集中して供給することができる。溶接部位に集中して金属粉末を供給できるので、粉末供給手段からの供給量を少なくすることができ、生産コストを低減できる。
【0017】
請求項3に記載の発明は、基準到達タイミングを記憶しておき、この基準到達タイミングを到達タイミング測定手段によって測定したタイミングと比較して、金属粉末の供給開始のタイミングを決定するので、常に、レーザ光の照射に対して一定のタイミングで金属粉末が到達するように金属粉末の供給開始のタイミングを決定でき、加工精度を高精度に安定させることができる。
【0019】
また、加工に際し粉末が変更等されても、金属粉末の供給開始タイミングを容易に決定できるので、粉末変更ごとに加工精度がばらつくことがなく、加工精度を安定して向上させることができる。
【0020】
さらに、粉末の供給開始タイミングを決定する際に、実際にレーザ光を照射する必要がないので、粉末を回収および再利用することができ、生産コストを低減することができる。
事前に基準とする金属粉末を供給して、基準値としての基準タイミングを測定しているので、金属粉末の流動度が異なっても、基準タイミングと比較することによって、適切な供給タイミングを決定できる。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【0022】
図1は、本発明の金属粉末供給タイミング決定装置が適用される肉盛溶接装置1の概略構成を示す図である。また、図2は肉盛溶接装置1の光学センサを示す図、図3は肉盛溶接装置1のコンピュータの表示を示す図である。
【0023】
肉盛溶接装置1は、肉盛部位に金属粉末を供給しながら、レーザ光を該肉盛部位に照射し、母材および金属粉末を溶融して肉盛溶接(グラッド)する装置である。
【0024】
この肉盛溶接装置1は、図1に示すように、肉盛溶接を施す肉盛部位に金属粉末を供給する粉末供給部(粉末供給手段)10と、加工の際に肉盛部位にレーザ光を照射するレーザ光照射部20と、レーザ光照射部20によるレーザ光が未照射の状態において、粉末供給部10から供給される金属粉末が肉盛部位に到達する到達タイミングを測定する光学センサ(到達タイミング測定手段)30と、測定した到達タイミングに基づいて、溶接時にレーザ光の照射に対して金属粉末をどのタイミングで供給し始めたらよいかを決定するコンピュータ(供給タイミング決定手段)40とを有してなる。
【0025】
粉末供給部10、レーザ光照射部20、および光学センサ30は、それぞれ、コード50、51、および52を介してコンピュータ40に接続され、制御されている。
【0026】
以下、各構成を具体的に説明する。
【0027】
<粉末供給部10>
粉末供給部10は、粉末保管部11、超音波モータ12、ロードセル13、および粉末供給ノズル14を有してなる。
【0028】
粉末保管部11は、金属粉末を保管している。粉末保管部11および粉末供給ノズル14間には、誘導パイプ15が配置されており、この誘導パイプ15を介して粉末保管部11の金属粉末が粉末供給ノズル14に誘導される。なお、アルミニウム母材に対しての肉盛溶接では、耐磨耗性や機械的強度を高めるために、一般的に合金粉末が用いられることに基づき、本実施の形態では、金属粉末には銅合金粉末を用いるものとする。銅合金粉末は、たとえば、重量比が76%のCu、14%のNi、3%のSi、1.5%のFe、2%のV、2%のCr、1%のAl、0.5%のPを含むものが望ましい。
【0029】
超音波モータ12は、コンピュータ40に接続されており、該コンピュータ40から、銅合金粉末の供給を開始する旨の信号(以下、粉末供給開始信号という)が入力されると、該超音波モータ12は、該コンピュータ40からの制御信号に基づいて振動し、該振動を誘導パイプ15に伝達する。該誘導パイプ15が振動されることにより、誘導パイプ15内に滞留している銅合金粉末が、その自重により粉末供給ノズル14に向けて誘導される。
【0030】
ロードセル13は、コンピュータ40に接続されており、粉末保管部11内の粉末重量の時間的変動の電気信号をコンピュータ40に出力する。コンピュータ40では、該出力信号から銅合金粉末の実際の供給量を算出し、予め設定された所要供給量との差異を比較し、常に実際の供給量を所要供給量に近づけるように超音波モータ12のデューティー比(振動および無振動の時間比)を調節する。
【0031】
粉末供給ノズル14は、肉盛部位に対して鉛直上方に配置されており、誘導パイプ15からの銅合金粉末を肉盛部位に供給する。
【0032】
<レーザ光照射部20>
レーザ光照射部20は、肉盛部位にその斜め上方からレーザ光を照射できる位置に配置されており、コンピュータ40からのレーザ光の照射開始の信号(以下、レーザ光照射開始信号という)に基づいてレーザ光の照射を開始する。
【0033】
<光学センサ30>
光学センサ30は、投光部31および受光部32を有してなる。投光部31は、受光部32に向けて光を発し、受光部32は、投光部31からの光のうちどれだけの光が遮られたか(遮光量)を検出する。
【0034】
投光部31および受光部32は、図2に示すように、投光部31および受光部32間を粉末供給ノズル14からの銅合金粉末が通過するように、すなわち、投光部31からの光を銅合金粉末が遮るように、銅合金粉末の通り道を挟む位置に配置される。
【0035】
また、光学センサ30は、肉盛部位に銅合金粉末が到達するのを検出するために、この発明の実施の形態では、肉盛部位周辺の母材上に配置されている。しかし、必ずしも母材上に配置される必要はなく、たとえば、母材から間隔を空けてその上方に配置される場合でも、銅合金粉末による遮光の検出に基づいて、肉盛部位に銅合金粉末が到達するタイミングを測定することもできる。
【0036】
また、この時点では測定を行うだけで実際にレーザ光による加工を行うものではないため、必ずしも母材を設置する必要はなく、要は肉盛加工される位置に銅合金粉末が到達するタイミングが測定できればよい。
【0037】
受光部32で検出された遮光量は、コンピュータ40において実測波形として図3に示すように得られる。
【0038】
<コンピュータ40>
コンピュータ40は、粉末供給部10、レーザ光照射部20、および光学センサ30を統括的に制御する。実際の加工のおいて、コンピュータ40は、粉末供給開始信号を粉末供給部10に送信し、レーザ光照射開始信号をレーザ光照射部20に送信して制御を行う。
【0039】
ここで、粉末供給開始信号を送信するタイミングは、レーザ光照射部20のレーザ光が安定した直後に、銅合金粉末を肉盛部位に供給できるように考慮したタイミングであり、予め、適当な銅合金粉末(以下、基準銅合金粉末という)を用いて実験により求められている。
【0040】
この実験は、肉盛溶接装置1を用いて、予めレーザ光未照射の状態で、基準銅合金粉末を粉末供給ノズル14から供給し、このときの光学センサ30による遮光量の検出を調べるものである。遮光量は、基準銅合金粉末の検出開始から徐々に増え、粉末供給ノズル14からの供給量が安定したときに一定となり、たとえば、図3に示すように基準波形として得られる。
【0041】
この基準波形に基づいて、実際の加工時には、レーザ光の照射に対してどのタイミングで銅合金粉末の供給を開始すれば、レーザ光照射が安定したところに銅合金粉末を供給できるかについての基準となる基準タイミングを求めることができる。基準タイミングは、コンピュータ40内の記憶手段に記憶される。
【0042】
なお、用いる銅合金粉末の成分が異なる場合、該銅合金粉末の流動度等も異なるので、光学センサ30によって検出される実測波形は上記基準波形と一致するとは限らない。つまり、銅合金粉末の流動度等の影響により、基準波形の場合とは異なるタイミングで、銅合金粉末が光学センサ30に検出される場合もある。
【0043】
この場合、基準波形の場合とは異なるタイミングで銅合金粉末が肉盛部位に到達することになるので、基準波形に基づいて求めた基準タイミングをそのまま用いたのでは適当な加工を実施することができない。そこで、異なる銅合金粉末ごとに、上述の基準波形を求めるときと同様の方法により図3に示すような実測波形を求め、これを基準波形と比較して、銅合金粉末の最適な供給開始タイミングを求めることができる。
【0044】
たとえば、図3に示すように実測波形が基準波形よりも早く現れる場合は、基準タイミングで銅合金粉末の供給を開始すれば、基準波形を求めた際の銅合金粉末よりも早くに光学センサにより検出され、したがって、早くに肉盛部位に到達してしまうことがわかる。したがって、コンピュータ40は、実測波形が現れはじめる時点から基準波形が現れはじめる時点までの誤差時間だけ遅いタイミングで銅合金粉末の供給を開始すれば、基準タイミングの場合とほぼ同等のタイミングで銅合金粉末が肉盛部位に到達することになるので、基準タイミングより誤差時間だけ遅いタイミングを粉末供給開始タイミングに決定する。
【0045】
次に、銅合金粉末の供給開始タイミングを決定する流れを、図4に示すフローチャートを参照して説明する。
【0046】
図4は、銅合金粉末の供給開始タイミングを決定する流れを示すフローチャートである。
【0047】
まず、肉盛溶接装置1は、コンピュータ40により粉末供給部10に粉末供給開始信号を送り、レーザ光未照射の状態で、銅合金粉末の肉盛部位への供給を開始し(ステップS1)、光学センサ30により銅合金粉末の実測波形を測定する(ステップS2)。
【0048】
続いて、肉盛溶接装置1は、測定した実測波形をコンピュータ40により基準波形と比較して(ステップS3)、波形の出現開始時間にずれがあるかどうかを判断する(ステップS4)。
【0049】
実測波形と基準波形との出現開始時間に差がない場合(ステップS4:NO)は、測定した実測波形についての供給開始タイミングによる銅合金粉末の肉盛部位への到達タイミングが基準タイミングによる基準銅合金粉末の肉盛部位への到達タイミングと同様なので、実測波形を測定したときの銅合金粉末の供給開始タイミングを実際の加工の際に用いる銅合金粉末の供給開始タイミングと確定して、銅合金粉末の供給開始タイミングの決定を終了する。
【0050】
実測波形と基準波形との出現開始時間に誤差がある場合(ステップS4:YES)は、この誤差の時間に基づいて、上述のように、実測波形の方が出現が早い場合には誤差の時間だけ遅く、実測波形の方が出現が遅い場合には誤差の時間だけ早く、銅合金粉末の供給開始タイミングを補正して、新たな銅合金粉末の供給開始タイミングに決定し(ステップS5)、ステップS1の動作に戻る。
【0051】
なお、ステップS1において、始めて銅合金粉末の供給を開始する場合には、基準タイミングと同じタイミングにより銅合金粉末の供給を開始する。一方、一度ステップS5までの処理を行い再びステップS1の処理を行う場合には、ステップS5で決定した銅合金粉末の供給開始タイミングにより銅合金粉末の供給を開始する。
【0052】
以上のように、本発明では、レーザ光照射部20によるレーザ光を未照射の状態で、レーザ光の照射に対して適した銅合金粉末の供給開始のタイミングを決定することができる。
【0053】
したがって、実際にレーザ光を母材および銅合金粉末に照射して肉盛溶接を実施し、できた製品を品質評価して溶接の適否を判断するといった工程が必要ないので、その分の工数を削減でき、生産時間を短縮することができる。また、銅合金粉末の供給開始タイミングの適否の判断のために、品質の悪い製品を作って無駄にしてしまうことがなくなり、その分生産コストを低減することができる。
【0054】
また、加工に際し銅合金粉末が変更されても、変更後の銅合金粉末について実波形を測定し、これを基準波形と比較して、粉末の供給開始タイミングを決定するので、銅合金粉末の変更にも機動的に対応でき、銅合金粉末の変更、たとえば、生産ロットの変更ごとに加工精度がばらつくことがなく、加工精度を安定して向上させることができる。
【0055】
また、銅合金粉末は、供給開始タイミングを決定する際に実際にレーザ光が照射されるわけではないので、回収して再利用することができ、これにより、生産コストを低減することができる。
【0056】
次に、上述のように、銅合金粉末の供給開始タイミングを決定することにより得られる効果を、具体的な実施例を参照して説明する。
【0057】
<実施例1>
上記実施の形態において説明した肉盛溶接装置1について、具体的に加工条件を設定して、対比例1および2と対比した。加工条件は、レーザ光の出力を4.0〜4.8kW、銅合金粉末の供給量を0.8g/sec、加工速度を1.6m/min、粉末供給ノズルの銅合金粉末用の径をφ3mmとした。対比例1および2も、肉盛溶接装置1とほぼ同様の構成とし、実施例1と同様の加工条件とした。
【0058】
実施例1では、実施の形態と同様に、肉盛溶接装置1の粉末供給ノズル14を肉盛部位に対して鉛直上方に配置して、その位置に固定し、鉛直上方から銅合金粉末を投入した。また、銅合金粉末の供給開始タイミングは予め供給開始タイミングの決定方法に基づいて決定し銅合金粉末ごとに調整した。レーザ光は、肉盛部位に対して斜め上方向から照射した。
【0059】
対比例1では、実施例1と同様に粉末供給ノズルを鉛直上方に配置して、その位置に固定し、鉛直上方から銅合金粉末を投入した。また、実施例1とは異なり、銅合金粉末の供給開始タイミングは一定とし銅合金粉末ごとには調節しなかった。レーザ光は、肉盛部位に対して斜め上方向から照射した。
【0060】
対比例2では、粉末供給ノズルを図2に一点鎖線で示すように肉盛部位に対して斜め上方に配置して、斜め方向から銅合金粉末を投入した。ここで、粉末供給ノズルの位置は、銅合金粉末ごとに該銅合金粉末が肉盛部位の位置に投入されるように個別に調整した。また、銅合金粉末の供給開始タイミングは、実際に加工してできた製品の品質を確認しこれに基づいて最適なタイミングに調整した。レーザ光は、肉盛部位に対して鉛直上方向から照射した。
【0061】
図5は、実施例1と対比例1および2との対比結果を示す図である。
【0062】
以上のように、実施例1と対比例1および2とを行って、それぞれについて、レーザ光の出力と銅合金粉末の性状との重相関係数を求めた。ここで、銅合金粉末の性状とは、銅合金粉末の含有成分や流動度等から示される銅合金粉末の性質である。また、レーザ光は、適正な肉盛溶接を行うために予め調整された4.0〜4.8kWの出力とされており、この適正なレーザ光に対する銅合金粉末の性状の重相関係数を求めた。
【0063】
それぞれの重相関係数を見ると、実施例1では0.92、対比例1では0.87、対比例2では0.94という結果が得られた。また、図5に示すように、実施例1および対比例2では全て良品(◎)が加工により得られたが、対比例1では一部不良品(△)も見られた。
【0064】
この結果からわかるように、対比例2で得られた重相関係数が最も高い。重相関係数が高いということは、適正なレーザ光の出力と銅合金粉末の性状との相関関係が強いことを示す。したがって、適正なレーザ光に対する銅合金粉末の性状の相関関係が強いことになり、適正なレーザ光に対して、適正な性状の銅合金粉末を投入できていることがわかる。また、結果としてできた製品も良品であった。
【0065】
しかし、対比例2では、まず粉末供給ノズルの位置を個別に調整し、さらに、銅合金粉末の供給開始タイミングについては、実際に加工してできた製品の品質を確認しこれに基づいて最適なタイミングに調整しているので、これらの調整に多大な工数が必要であり、生産効率が非常に悪いという問題が残る。また、最適なタイミングを発見するために実際の製品を試作する必要があるので、無駄な製品が発生する可能性も高く、生産コストの増大という問題も残る。
【0066】
対比例1では、粉末供給ノズル14の位置を肉盛部位の鉛直上方にしたので、肉盛位置に銅合金粉末が落下するように粉末供給ノズル14の位置を調整する必要がなくなり、その分の工数を削減できた。また、銅合金粉末の供給開始タイミングは、試作品を制作してこの品質評価により調整するといったことをしなかったので、その分の工数を削減できた。
【0067】
しかし、銅合金粉末の供給開始タイミングを調整しないので、対比例1で得られた重相関係数の値は0.87と低かった。したがって、対比例2よりも適正な性状の銅合金粉末が投入できておらず、加工精度が不安定となることがわかる。加工精度が不安定なので、対比例1によりできた製品では一部に不良品も見られた。
【0068】
実施例1では、粉末供給ノズル14を肉盛部位の鉛直上方に配置することにより粉末供給ノズル14の位置を調整する必要がなくなり、その分対比例2に比べて工数を削減できる。また、銅合金粉末の供給開始タイミングは、実施の形態で説明した供給開始タイミングの決定方法により調整および決定するので、対比例1よりは供給開始タイミングの決定の分時間を要するが、対比例2に比べて実際の製品の加工を必要としないため格段に生産効率を向上させることができる。また、試作品を加工しないので、対比例2に比べ生産コストも大幅に削減できる。
【0069】
さらに、実施例1で得られた重相関係数は0.92となり、対比例2よりも若干小さいがほとんど差はないので、実施例1と対比例2とでは加工精度がほぼ同等であり、安定していることがわかる。加工精度が安定しているので、実施例1によりできた製品は全て良品であった。
【0070】
したがって、実施例1では、対比例2とほぼ同等の加工精度を得られるにもかかわらず、上記理由により生産効率および生産コストについて格段に優れているので、全体としてみれば対比例1および対比例2よりも格段に優れているといえる。
【0071】
以上のように、実施例1では、肉盛溶接装置1による銅合金粉末の供給開始タイミングの決定方法を用いて予め銅合金粉末の供給開始タイミングを求めておき、このタイミングを用いて肉盛溶接を行うので、対比例2のような方法よりも生産効率および生産コストについて格段に向上させることができ、対比例2と同等の加工精度を得ることができる。したがって、本発明の銅合金粉末の供給開始タイミング決定手法を適用した実施例1が、対比例1および対比例2に比べて総合的に優れていることがわかる。
【0072】
<実施例2>
上記実施の形態では、粉末供給ノズル14が肉盛部位の斜め上方に配置されず、鉛直上方に配置されるので、粉末供給ノズル14の出口から母材に到達するまでの銅合金粉末の拡散が少なくなる。さらに、本発明では、粉末供給ノズル14が傾いていないので、主に垂直抗力により生じるノズル14内面および銅合金粉末間の摩擦が、粉末供給ノズルが傾いている場合に比べて小さくなり、ノズル14内で銅合金粉末が滞留しにくい。
【0073】
これらの結果、本発明では、粉末供給ノズルを傾けていた場合に比べて、ノズル14の径を小さくしても、肉盛部位に所望量の銅合金粉末を供給でき、また、ノズル14内で滞留が発生することもない。
【0074】
実施例2では、粉末供給ノズル14の径をφ3mmの場合とφ2mmの場合とについて、適当な肉盛溶接を行うために必要な銅合金粉末の供給量を調べた。
【0075】
図6は、粉末供給ノズル14の径と、該粉末供給ノズル14を用いて適当な肉盛溶接を行うために必要な銅合金粉末の供給量とを示す図である。
【0076】
図6に示すように、粉末供給ノズル14の径(φ)が3mmの場合、肉盛部位に所望量の銅合金粉末を供給するためには、0.8g/secという供給量が必要であった。一方、粉末供給ノズル14の径が2mmの場合、肉盛部位に所望量の銅合金粉末を供給するためには、0.72g/secという供給量で十分であった。
【0077】
この結果を比較すると、粉末供給ノズル14の径を2mmとした方が3mmとした場合よりも銅合金粉末の供給量が少なくて済むことがわかる。これは、径が小さい方が、銅合金粉末の供給の際に拡散が小さく、肉盛部位に集中して銅合金粉末を供給できるので、その分供給量を減らすことができるからである。
【0078】
また、従来では径を2mmとすると粉末供給ノズル14内で滞留が生じていたが、本発明では、粉末供給ノズル14を水平面に対して垂直な向きに配置したので、この効果により、φ2mmとしても粉末供給ノズル14内に滞留が生じない。これは、粉末供給ノズルを傾けていたのでは得られない効果である。
【0079】
以上説明してきたように、本発明では、実際にレーザ光を照射して肉盛溶接を実施する前に、銅合金粉末のみを供給してレーザ光に対する銅合金粉末の供給開始タイミングを決定することができる。これにより、実際に製品を加工および品質評価して供給開始タイミングを決定する従来の方法よりも、格段に生産効率を向上し、生産コストを低減することができる。
【0080】
また、粉末供給ノズル14を肉盛部位の鉛直上方に配置したので、銅合金粉末の流動度等による銅合金粉末の供給位置に変動がなくなり、このための粉末供給ノズル14の位置合わせ等が必要なくなり、生産効率を向上させることができる。
【0081】
さらに、本発明では、粉末供給ノズル14を垂直に配置するので、該ノズルを傾けて配置する場合に比べて、銅合金粉末の供給の際に拡散が少なくなり、肉盛部位に集中して銅合金粉末を供給でき、結果として、銅合金粉末の供給量を削減でき、生産コストを低減することができる。また、粉末供給ノズル14を垂直に配置することにより、該ノズル内での銅合金粉末の滞留を防止できるので、従来よりもノズルの径を小さくすることができ、これにより、肉盛部位により集中して銅合金粉末を供給できるので、銅合金粉末の供給量を削減でき、生産コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の金属粉末供給タイミング決定装置が適用される肉盛溶接装置の概略構成を示す図である。
【図2】 肉盛溶接装置の光学センサを示す図である。
【図3】 肉盛溶接装置1のコンピュータの表示を示す図である。
【図4】 銅合金粉末の供給開始タイミングを決定する流れを示すフローチャートである。
【図5】 実施例1と対比例1および2との対比結果を示す図である。
【図6】 粉末供給ノズルの径と、該粉末供給ノズルを用いて適当な肉盛溶接を行うために必要な銅合金粉末の供給量とを示す図である。
【符号の説明】
1…肉盛溶接装置、
10…粉末供給部、
11…粉末保管部、
12…超音波モータ、
13…ロードセル、
14…粉末供給ノズル、
15…誘導パイプ、
20…レーザ光照射部、
30…光学センサ、
31…投光部、
32…受光部、
40…コンピュータ。

Claims (3)

  1. 肉盛溶接を施す肉盛部位に金属粉末を供給する粉末供給手段と、
    前記肉盛溶接を実施する際に照射するレーザ光が未照射の状態において、前記粉末供給手段から供給される前記金属粉末が前記肉盛部位に到達する到達タイミングを測定する到達タイミング測定手段と、
    測定した到達タイミングに基づいて、溶接時の前記レーザ光の照射に対する前記金属粉末の供給開始のタイミングを決定する供給タイミング決定手段と、
    を有することを特徴とする金属粉末供給タイミング決定装置。
  2. 前記粉末供給手段は、前記溶接部位の鉛直上方から前記金属粉末を供給することを特徴とする請求項1に記載の金属粉末供給タイミング決定装置。
  3. 前記供給タイミング決定手段は、
    適当な基準金属粉末を前記粉末供給手段から供給したときの肉盛部位への到達タイミングを基準到達タイミングとして記憶する記憶手段と、
    前記基準到達タイミングを前記到達タイミング測定手段により測定した到達タイミングと比較する比較手段と、
    前記比較手段による比較結果に基づいて、前記金属粉末の供給開始のタイミングを決定する決定手段と、
    を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の金属粉末供給タイミング定装置。
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