JP4006346B2 - エポキシ樹脂組成物、これを用いた物品の表面の選択的処理方法及びインクジェット記録ヘッド - Google Patents
エポキシ樹脂組成物、これを用いた物品の表面の選択的処理方法及びインクジェット記録ヘッド Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、物品表面に撥水・撥インク性を付与するための表面処理に用いることができる硬化性のエポキシ樹脂組成物、とりわけ紫外線照射によってパターン状に皮膜を形成することが可能であり、又、エキシマーレーザー等によって選択的な硬化皮膜の除去を行うことが可能なエポキシ樹脂組成物に関し、更には、該組成物を用いることで優れた効果が得られる、基材表面の表面処理方法、該組成物を用いて撥インク処理されたインクジェット記録ヘッド、及びそれを用いたインクジェット記録装置を提供することに関する。
【0002】
【従来の技術】
各種の分野において、耐水性や撥インク性が要求される部材に、撥水性塗料を適用してこれらの性質を付与する方法が一般的に知られており、それに用いる樹脂素材や塗料が開発されている。例えば、フルオロオレフィンや、パーフルオロ基を有するフッ素系塗料からなる皮膜は、熱的にも化学的にも極めて安定であり、耐候性、耐水性、耐薬品性、耐溶剤性等に優れ、更に、離型性、耐摩擦性、撥水性にも優れ、各種の用途に広く利用されている。
【0003】
一方、インクを吐出口から小滴として吐出して、紙等に付着させて記録や画像の形成を行うインクジェット記録ヘッドでは、記録特性をより高度なものとするために、より小さな液滴、より高い駆動周波数、ノズル数へと性能アップが続けられている。従って、ノズル表面を常に同じ表面状態に維持するための処理がますます重要になっている。
【0004】
しかしながら、既存の材料を使用して、オリフィス面にインクが付着しないように選択的に或いはパターン状に精密に表面処理を行うことは困難である。その理由は、上記材料にフォトレジストのような特性を持たせるためには、感光性の官能基を持った物質を主体としなければならないが、そうした化合物が同時に撥水・撥インク性を持つように分子を設計することに、まず大きな困難があるからである。
【0005】
又、仮に既存のフッ素系の材料で表面処理ができたとしても、その表面の性質を長く維持できるように皮膜構造を設計することが必要である。上記した性能を全て有するパターン状の表面処理材料は、以下に説明するようにインクジェット記録ヘッドの表面処理にとって非常に価値がある。
【0006】
即ち、インクを小液滴にして飛翔させ、記録を行うインクジェット記録方式において、吐出口(孔)は、以下のような性能を有するように設計されていることが好ましい。
(1)吐出圧によって引き出されたインク柱の、液滴化しない残部のインクが、速やかにノズル内に再収納されること。
(2)ヘッド表面に付着したインク滴は、クリーニング操作で容易に掃き出されること。
(3)クリーニング操作や用紙搬送に対して耐擦傷性に優れること。
(4)繰り返される液滴形成とインクリフィルにおいて、ノズル表面位置にメニスカス(図1中の23参照)が形成されること。
(5)メニスカスの法線方向が吐出方向になっていること。
(6)低い表面張力のインクであっても、或いは低い負圧の状態であってもメニスカスを形成しうるだけの十分な界面張力、即ち接触角を持つこと。
【0007】
吐出口に、これらの諸要求性能が求められる理由は、液体噴射記録ヘッドでは、吐出口の周辺に、インク等の記録用の液体が付着していると、吐出口から吐出される液滴の吐出(飛翔)方向にズレが生じ、高精度での印字ができなくなるという印字性能に直接関係するからである。係る吐出方向のズレの原因となる吐出口付近への液体の付着を防止するために、吐出口が形成されている面に撥水剤処理を行う方法が知られている。
【0008】
これらに関係する先行技術としては、例えば、フルオロアセチル基とシラザン基を有するポリマーで撥インク処理を行うことが知られている(例えば、特許文献1)。一方、液体噴射記録方式を応用したプリンタによる画像記録への高度な要求に伴って、記録用液体(インク)に対して要求される特性も高度なものとなりつつある。このような記録用液体は、内容物の溶解安定性や分散安定性のより一層の向上のためにpHを7〜11の塩基性に調節されることが多く、そのためプリンタ部材には、耐アルカリ性及び加水分解性に優れた構造材を採用することが好ましい。
【0009】
【特許文献1】
特開平2−39944号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、極性有機溶媒を含む記録用液体や、上記のような高いpHの記録用液体を用いた場合には、記録用液体に用いた溶媒成分、特に極性有機溶剤成分と接触することによって、上述したような目的で吐出口面の表面処理に適用した撥水剤を有する撥水性皮膜が、その成膜性や適用部材との密着性が損なわれることで剥離し、その結果、吐出口面の撥水性が失われる場合があった。
【0011】
従って本発明の目的は、極性溶媒のように、撥水剤の成膜性や密着性を損なう成分を含む溶液や物質との接触機会のある場所に適用する、撥水剤又は撥水性塗料として好適に用いることができ、又、比較的低い温度でも物品表面に密着性に優れた撥水膜を与えることのできるエポキシ樹脂組成物を提供することにある。
又、本発明の他の目的は、係るエポキシ樹脂組成物を用いて、物品の表面に位置選択的に撥水性を付与する表面処理方法を提供することにある。
又、本発明の更に他の目的は、上記した特性を有するエポキシ樹脂組成物で基材の表面処理を行うことで、吐出口面を常に同じ表面状態に維持でき、記録用媒体に長期に接触してもプリントヘッドのインク吐出口面におけるインクの付着がなく、結果として、ドットの着弾精度がよく、画像の印字品位を良好に長く維持できるインクジェット記録ヘッド及びインクジェット記録装置を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記目的は以下の本発明によって達成される。即ち、本発明の一実施態様は、[1]1分子中に撥水性を有する基を1個以上及び環状脂肪族エポキシ基を2個以上有する、下記一般式(1)で表わされるエポキシ樹脂と、トリアジン系カチオン重合触媒と、非極性の溶剤とを少なくとも含有することを特徴とするエポキシ樹脂組成物である。
(但し、上記式(1)において、R 1 、R 4 及びR 5 は、各々独立に水素原子又は炭素数1乃至3のアルキル基を示し、R 2 及びR 3 は、各々独立にメチル基又はフェニル基を示し、xは2乃至100の整数であり、n 1 は1乃至3の整数であり、n 2 は1乃至5の整数であり、Rfはフルオロアルキル基を示す。更に、aは1乃至50の整数であり、bは2乃至100の整数であり、cは1乃至50の整数であり、dは1乃至50の整数であって、その数平均分子量が8,000乃至22,000である。)
【0013】
上記した本発明に係るエポキシ樹脂組成物の好ましい形態としては、下記の[2]〜[5]を挙げることができる。
【0015】
[2]前記非極性の溶剤が、芳香族炭化水素及び脂肪族炭化水素のうちの少なくとも一方を含む上記[1]に記載のエポキシ樹脂組成物。
【0016】
[3]前記トリアジン系カチオン重合触媒が、下記(i)〜(v)から選ばれる少なくとも1つである上記[1]に記載のエポキシ樹脂組成物:
(i)2,4−トリクロロメチル−6−(4’−メトキシフェニル)−s−トリアジン、
(ii)2,4−トリクロロメチル−6−(4’−メトキシナフチル)−s−トリアジン、
(iii)2,4−トリクロロメチル−6−ピペロニル−s−トリアジン、
(iv)2,4−トリクロロメチル−6−(4’−メトキシスチリル)−s−トリアジン、
(v)2,4−トリクロロメチル−6−(3’−ブロモ−4’−メトキシフェニル)−s−トリアジン。
【0017】
[4]前記トリアジン系カチオン重合触媒が、2,4−トリクロロメチル−6−ピペロニル−s−トリアジンである上記[1]に記載のエポキシ樹脂組成物。
【0018】
[5]前記エポキシ樹脂組成物が、更に下記一般式(2)及び(3)で表わされる化合物の少なくとも一方を含有する上記[1]に記載のエポキシ樹脂組成物。
【0019】
本発明の別の実施態様は、[6]物品の表面の選択的処理方法であって、
(i)上記[1]に記載のエポキシ樹脂組成物の皮膜を形成する工程;
(ii)該皮膜にマスクを介して活性エネルギー線をパターン状に照射する工程;及び
(iii)上記皮膜の非照射部分を溶解しうる液体にて上記非照射部分を溶解除去する工程、
を有することを特徴とする物品の表面の選択的処理方法である。
【0020】
本発明の別の実施態様は、[7]物品の表面の選択的処理方法であって、
(i)上記[1]に記載のエポキシ樹脂組成物の皮膜を形成する工程;
(ii)該皮膜の重合硬化を行う工程;及び
(iii)上記皮膜を選択的に除去する工程、
を有することを特徴とする物品の表面の選択的処理方法である。
【0021】
本発明の別の実施態様は、[8]液体を吐出する吐出口を有するインクジェット記録ヘッドにおいて、少なくとも該吐出口の開口部周辺が、上記[1]に記載のエポキシ樹脂組成物の硬化膜で被覆されていることを特徴とするインクジェット記録ヘッドである。
【0022】
本発明の別の実施態様は、[9]上記[8]に記載のインクジェット記録ヘッドを有することを特徴とするインクジェット記録装置である。
【0023】
【発明の実施の形態】
次に好ましい実施の形態を挙げて本発明を更に詳しく説明する。本発明に係る樹脂組成物は、エポキシ樹脂系であるので、該エポキシ樹脂組成物からなる皮膜は、各種部材に対する密着性に優れ、比較的低温でも硬化可能であり、構造物としての物性にも優れた硬化皮膜を提供できる。更に、例えば、アルキルシロキサン基或いはフルオロアルキル基等の撥水性を有する基を有するエポキシ化合物が含有されているため、上記皮膜は、水溶性有機溶剤、特に極性有機溶剤に対する耐性が大幅に向上したものとなる。そして、更に相溶化剤を含む構成とした場合は、相溶化剤の作用によってエポキシ樹脂組成物の成分間に相溶性を与え、本発明に係るエポキシ樹脂組成物の材料構成の範囲を広くすることができる。
【0024】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物を塗布及び乾燥して形成される皮膜は、活性エネルギー線によって賦活化されるトリアジン系光酸発生剤を触媒として含有しているため、パターン状に選択的に硬化させることが可能であり、又、非極性の溶剤に可溶であるので塗布溶剤として非極性溶剤が使用できる。このため上記エポキシ樹脂を含む塗布液を基材に塗布しても基材を侵食することがない。
【0025】
パターン状に表面を処理する具体的な方法としては、上記した構成を有する本発明に係るエポキシ樹脂組成物を基材に塗布及び乾燥して皮膜を形成し、該皮膜に所望のパターンを有するマスクを介して活性エネルギー線の照射を行い、次いで現像液を用いた現像処理を行なって皮膜の未硬化部分を除去することによって行なうことができる。このパターン処理は、基本的な工程はフォトリソグラフィー法と同じであるが、現像液としては、本発明に係るエポキシ樹脂組成物からなる皮膜に適した溶剤或いは溶剤組成物を選択する。現像液としては、芳香族炭化水素類、ケトン類、エステル類、グリコールエーテル類等及びそれらの混合物を使用する。
【0026】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物を用いてパターン状に表面を処理する方法を実施する場合には、該エポキシ樹脂組成物からなる皮膜の硬化の完結を期すために、現像後に皮膜を、加熱、或いは活性エネルギー線の照射を更に行う、所謂ポストキュアを施すことが望ましい。
【0027】
以上のように使用することで、本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、極性有機溶剤のように撥水剤の密着性を損なう成分を含む溶液や物質との接触機会のある場所に適用する撥水剤又は撥水性塗料として、更には、インクジェット記録ヘッドの吐出口面の撥水・撥インク処理に好適に用いることができる。
【0028】
即ち、インクジェット記録装置に対して本発明に係るエポキシ樹脂組成物を適用することによって得られる、光重合性を利用した選択的な表面改質、処理の高い精度、硬化膜としての固体強度、摩擦強度によるデバイスとしての高い耐久性、撥水・撥インク性の効果は、水系インクのメニスカス保持力、クリーニング性、液滴吐出方向の正確さ、連続吐出における持続性、休止後の印字開始の適性等の、インクジェット記録ヘッドの諸特性の向上に繋がるのである。ここでメニスカス保持力とは、インクがノズル先端でそのインク表面を表面張力で維持し、且つ繰り返される液滴吐出に際してメニスカスを所定の位置に回復し保持する性質を指している。この保持力が低いと、インクがノズル先端から滲み出す、或いはメニスカスが後退して吐出するインクの液滴の体積が減少する、或いは極端な場合には、インクの吐出欠損が起こる等の不具合に繋がるのである。
【0029】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、1分子中に撥水性を有する基を1個以上及び環状脂肪族エポキシ基を2個以上有するエポキシ樹脂と、トリアジン系カチオン重合触媒と、非極性の溶剤とを少なくとも含有することを特徴としている。以下、これらの具体的成分について説明する。
【0030】
上記エポキシ樹脂組成物の主剤であるエポキシ樹脂としては、上記の条件を満たす樹脂であれば特に限定されないが、前記撥水性を有する基が、アルキルシロキサン基及び/又はフロオロアルキル基であることが好ましい。一般的には、下記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂が挙げられる。
【0031】
上記式(1)において、R1、R4、R5は、各々独立に、水素原子、メチル基、エチル基、直鎖状若しくは分岐鎖状のプロピル基であり、R2及びR3は、各々独立にメチル基又はフェニル基を示す。又、xは2〜100の整数であり、n1は1〜3の整数、n2は1〜5の整数を示す。更にRfはフルオロアルキル基、例えば、炭素数1〜3のフルオロアルキル基を表し、aは1〜50の整数、bは2〜100の整数、cは1〜50の整数、dは1〜50の整数である。
【0032】
上記の如き一般式(1)で表わされるエポキシ樹脂は、アルキルシロキサン基を側鎖に有する(メタ)アクリレートモノマー、パーフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレートモノマー、3,4−オキシシクロヘキシルメチルメタクリレートモノマー、及びスチレンを、常法に従って適当なモノマー比で共重合させることによって得られるとともに、市場から入手して使用することもできる。本発明で用いる、上記式(1)で示されるエポキシ樹脂は、その数平均分子量が8,000〜22,000、特には8,500〜20,000であるものが撥水膜の耐久性の点で好ましい。
【0033】
更に具体的な一例としては、下記式で表わされるエポキシ樹脂(数平均分子量=1万)(A−1)が挙げられる。
【0034】
本発明に係るエポキシ樹脂は単独で使用してもよく、又、上記樹脂よりも低分子量のオリゴマー及び溶剤から選ばれる少なくとも一方を配合してもよい。これにより、エポキシ樹脂組成物の被処理物品に対する塗布適性を高め、溶剤蒸発後の皮膜の乾燥性を高めて処理の作業性を向上させることができる。即ち、オリゴマーをバインダーとして用いることが、本発明に係るエポキシ樹脂組成物の皮膜を形成する際、及び該樹脂組成物の皮膜にパターン状の露光作業を施す上で好ましい。尚、前記「オリゴマー」とは、前記エポキシ樹脂よりも低分子量の樹脂が好ましいが、その他の低分子量のオリゴマーであってもよい。
【0035】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、前記したような構造を有するエポキシ樹脂と、後述するトリアジン系カチオン重合触媒とを主体とするが、必要に応じて更に相溶化剤を含むことが好ましい。このような相溶化剤としては、下記一般式(2)及び/又は下記一般式(3)で表わされる化合物が好適である。
【0036】
上記化合物の好ましい具体例としては、p=0である化合物、即ち、2,2−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンを挙げることができる。
【0037】
上記化合物の好ましい具体例としてはq=0である化合物、即ち、m−ビス−[1−(2,3−エポキシプロポキシ)−2,2,2−トリフルオロ−1−(トリフルオロメチル)エチル]ベンゼンが挙げられる。
【0038】
上記一般式(2)及び(3)で表わされる化合物は、フッ化アルキル基を有するものの、その鎖長が短いために形成される皮膜の表面エネルギー低下作用は小さく、撥水・撥インク性は大きくない。上記一般式(2)及び(3)で表わされる化合物は、何れも一般式(2)及び(3)で表わされる化合物の両端のエポキシ基を含む基を除いた化合物に該当する2価アルコールとエピクロルヒドリンとの反応によって常法によって合成される。
【0039】
更に、本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、それを硬化させるための触媒として、下記に述べるような重合開始剤が含有されている。本発明では、特に低温硬化が可能となるところの活性エネルギー線によって賦活化されるトリアジン系光酸発生剤に対して反応性が高くなるようにエポキシ樹脂組成物が設計されている。このため、該エポキシ樹脂組成物を用いてフォトリソグラフィー法によって基材の表面を選択的に処理することができ、又、高温に保持することが困難な基材に対して表面改質を行うのに好適である。そのような触媒としては、例えば、(i)2,4−トリクロロメチル−6−(4’−メトキシフェニル)−s−トリアジン、(ii)2,4−トリクロロメチル−6−(4’−メトキシナフチル)−s−トリアジン、(iii)2,4−トリクロロメチル−6−ピペロニル−s−トリアジン、(iv)2,4−トリクロロメチル−6−(4’−メトキシスチリル)−s−トリアジン、(v)2,4−トリクロロメチル−6−(3’−ブロモ−4’−メトキシフェニル)−s−トリアジン等が挙げられる。これらの中でも、特に(iii)の2,4−トリクロロメチル−6−ピペロニル−s−トリアジンが好ましい。
【0040】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、前記エポキシ樹脂以外のバインダーポリマーを添加してもよい。このとき、バインダーポリマーとしては、側鎖にエポキシ基を持ったアクリルモノマーを共重合したアクリル樹脂、側鎖に環状脂肪族エポキシ基を有するビニルモノマーを重合したビニルポリマー、側鎖に環状脂肪族エポキシ基を有するポリエーテルポリマー(例えば、EHPE3150;ダイセル化学工業の製品)等、それ自体も架橋反応に関与しうるエポキシポリマーを用いることが好ましい。又、バインダーポリマーとして、そうしたエポキシ基を持たないポリマーを使用する場合には、それが適用される用途に応じた物性調製を意図して選択する。そうした物質としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂の重合体である、商品名「PKHC」、「PKHJ」(ユニオンカーバイド社の製品)、ポリ(エチレン/酢酸ビニル)、フェノール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、可溶性ポリイミド樹脂等の汎用の塗料用高分子化合物が使用可能である。
【0041】
以上のように本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、基本的には
A:1分子中に撥水性を有する基を1個以上及び環状脂肪族エポキシ基を2個以上有するエポキシ樹脂
B:トリアジン系カチオン重合触媒、及び必要に応じて
C:相溶化剤
を非極性の溶剤中に含有する。これらA、B及びCの各成分の本発明に係るエポキシ樹脂組成物中における好ましい配合割合は以下の通りである。
【0042】
前記成分Aをオリゴマーとともに用いる場合には、それぞれの軟化点、ガラス転移温度に依存するので一般的な範囲はない。しかし、概ねオリゴマー:成分A=10:90〜90:10(質量比率)である。触媒Bは、エポキシ樹脂成分の合計量100質量部に対して0.5質量部〜6質量部の範囲である。これらのオリゴマーとポリマーとは互いに相溶性が低い場合があり、相溶化剤Cを使用することが有利な場合が多い。
【0043】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、加熱或いは活性エネルギー線の照射によって基材の表面処理を行うために用いる。具体的には、本発明に係るエポキシ樹脂組成物を、芳香族系、脂肪族炭化水素系、エステル系、エーテル系、フッ素系溶剤等に溶解し、ロールコーター、スピンコーター、スプレイコーター、スクリーン印刷、グラビア印刷等の各種塗布/印刷法を用いて基材表面に塗布することができる。基材表面に塗布した後、加熱或いは活性エネルギー線の照射を行うことによって形成された皮膜を硬化させる。硬化に使用する活性エネルギー線源としては、波長200〜480nmの範囲の輝線スペクトルを多量に含む水銀灯、レーザー光、電子線等が適している。
【0044】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、乾燥した固体状の皮膜を与えるように調製し、フォトレジストを用いた場合と同様なパターニングを行うことで、選択的な物品の表面処理を容易に行うことができる。この場合には、本発明に係るエポキシ樹脂組成物を含む塗布液を物品に塗布し、溶剤を除去して乾燥皮膜とした後、適当なパターンを有するマスクを重ねて活性エネルギー線を照射するか、或いは上記皮膜にパターン状に活性エネルギー線を照射し、しかる後、未硬化の皮膜を溶解しうる溶剤系で現像処理を行う。パターン状のエネルギー線の照射が硬化に十分でない場合には、現像処理後にポストキュアのための硬化処理を行うことが望ましい。そのためのエネルギー源としては、熱、マイクロ波等の加熱処理、電子線、紫外線等の活性エネルギー線照射が用いられる。
【0045】
以上の如き、本発明に係るエポキシ樹脂組成物を用いた、物品の表面改質方法によれば、皮膜の基材への密着性、皮膜の表面の硬度に優れた撥水・撥油処理が行えるので、耐久性において優れた基材の改質が可能であるという大きな利点がある。
【0046】
インクジェット記録ヘッドに対する本発明に係るエポキシ樹脂組成物の応用例としては、記録ヘッドのノズル表面を本発明に係るエポキシ樹脂組成物で処理することによって、ノズル表面に対してインクの強固な付着が起きず、ノズル表面に付着したインクをクリーニング処理によって容易に拭き取れる離型性のよい表面を形成する例が挙げられる。
【0047】
インクジェット記録ヘッドに搭載されているクリーニング機構の多くは、インクをゴムのブレードで拭き取る、インクをポンプで吸引する、記録紙外の位置でインクの空吐出を行う等である。しかし、これらの何れの方法であれ、吐出圧によって引き出されたインク柱が液滴化する時に、すべてのインクが液滴にはならないので、余分のインクの微少液滴がノズルの周辺に付着することを皆無にすることはできない。従って、これらが自発的に落下、或いはノズル内部に再吸引される、或いは容易に排除されるならば、インク吐出への影響はなくなるのである。
【0048】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物によれば、比較的低温でも硬化して、撥水・撥油性、基材に対する密着性、耐薬品性、耐摩擦性に優れた硬化皮膜を提供することが可能となる。
【0049】
図1及び2に、本発明に係るエポキシ樹脂組成物を適用し得るインクジェット記録ヘッドの構成の一例の主要部を示す。図1は、インクの流路に沿った断面図であり、図2は、図1のインクジェット記録ヘッドの斜視図である。
【0050】
この記録ヘッド13は、吐出エネルギー発生装置等が配置された基板15上に、熱硬化性樹脂組成物及び/又は活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物等を所定のパターンに成形して、少なくとも流路を形成するようにした部材を積層接合した構成を有する。
【0051】
基板15は、アルミナ等の放熱性のよい材料からなる基体20の表面に、蓄熱層19、金属で形成される発熱抵抗体層18、アルミニウム等からなる電極17−1、17−2、及び保護層16をこの順に積層した構成を有し、電極17−1、17−2に通電することによって、発熱抵抗体層18の電極が積層されていない部分(nで示す領域内にある部分)に形成された吐出エネルギー発生素子が発熱し、その上方に位置するインクに熱エネルギーが作用するようになっている。
【0052】
記録に際して、インク21は、溝14の端部微細開口である吐出口(オリフィス)22まで充填され、その状態で、記録信号に対応して電極17−1、17−2に通電されると、nで示される領域が急激に発熱し、ここに接しているインク21に膜沸騰による気泡が発生し、その圧力でインク21が吐出口22より小液滴24となって吐出され、記録媒体25に向かって飛翔する。
【0053】
本発明に係るインクジェット記録ヘッドでは、吐出口面29(図2)の少なくとも吐出口22の開口部周辺に、本発明に係るエポキシ樹脂組成物からなる硬化皮膜30が、撥水・撥インク剤として適用されているため、この面に液滴が付着して液滴の吐出方向にずれが生じるのが防止される。しかも、本発明に係るエポキシ樹脂組成物からなる硬化皮膜は、吐出口面29に対する密着性に優れるだけでなく、インクに有機溶剤、特に極性有機溶剤が含有されていても、それによって撥水性や密着性が損なわれることがない。
【0054】
図3は、図2に示したようなマルチヘッドを組み込んだインクジェット記録装置の一例を示す図である。図3において、61はワイピング部材としてのブレードであり、その一端はブレード保持部材によって保持されて固定端となり、カンチレバーの形態をなす。ブレード61は、記録ヘッドより記録領域に隣接した位置に配設され、又、本例の場合、記録ヘッドの移動経路中に突出した形態で保持される。62はキャップであり、ブレード61に隣接するホームポジションに配設され、記録ヘッドの移動方向と垂直な方向に移動して吐出口と当接し、キャッピングを行う構成を備える。
【0055】
更に、63はブレード61に隣接して設けられたインク吸収体であり、ブレード61と同様、記録ヘッドの移動経路中に突出した形態で保持される。上記ブレード61、キャップ62、インク吸収体63によって吐出回復部64が構成され、ブレード61及びインク吸収体63によってインク吐出口面からの水分、塵埃等の除去が行われる。
【0056】
65は、インクジェット方式により記録を行う記録ヘッドで、例えば、図1、2で示したような熱エネルギーによってインク等の液体を吐出する構成を有する。66は記録ヘッド65を搭載して記録ヘッド65の移動を行うためのキャリッジである。キャリッジ66はガイド軸67と摺動可能に係合し、キャリッジ66の一部はモーター68によって駆動されるベルト69と接続(不図示)している。これによりキャリッジ66はガイド軸67に沿った移動、即ち、記録ヘッド65による記録領域及びその隣接した領域へ移動が可能となる。
【0057】
51は、記録媒体を挿入するための給紙部、52は不図示のモーターにより駆動される紙送りローラーである。これらの構成によって記録ヘッドの吐出口面と対向する位置へ記録媒体が給紙され、記録が進行するにつれて排紙ローラー53を介して排紙される。
【0058】
上記構成において、記録ヘッド65が記録終了時でホームポジションに戻る際、吐出回復部64のキャップ62は記録ヘッドの移動経路から退避しているが、ブレード61は移動経路中の突出している。この結果、記録ヘッド65の吐出口面がワイピングされる。又、キャップ62が記録ヘッド65の吐出口面に当接してキャッピングを行う際には、キャップ62は記録ヘッドの移動経路中に突出するように移動する。
【0059】
記録ヘッド65がホームポジションから記録開始位置へ移動する場合、キャップ62及びブレード61は上述したワイピング時の位置と同一の位置にある。この結果、この移動においても記録ヘッド65の吐出口面はワイピングされる。上述の記録ヘッドのホームポジションへの移動は、記録終了時や吐出回復時ばかりでなく、記録ヘッドが記録のための記録領域を移動する間に所定の間隔で記録領域に隣接したホームポジションへ移動し、この移動に伴って上記ワイピングが行われる。
【0060】
インクジェット記録装置では、カラー記録の場合は、1ヘッド中に、シアン用、マゼンタ用、イエロー用及びブラック用の吐出口を並列した記録ヘッドを用いて行うことができる。又、各色の記録ヘッドを独立して並列して配設して用いてもよい。これらの場合、各色の吐出は、1つの吐出口から行ってもよいし、各色について同時に複数の吐出口から吐出を行って、2以上の同一色の液滴が記録媒体に同時に付着するようにしてもよい。
【0061】
本発明の記録ヘッドは、これまで説明した本発明に係るエポキシ樹脂組成物からなる撥インク処理材料によって表面処理され、後述の実施例に示すような化学的な性質を有するので、インクの付着が少ない、或いは付着したインクが極めて容易にクリーニング用ワイパーブレードにて除去される。よって、印字の実質の持続性が飛躍的に高くなる。
【0062】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物を用いて表面処理する際の具体的な方法に関して、以下に例示する。本発明に係るエポキシ樹脂組成物からなる塗布皮膜を活性エネルギー線で硬化させる例について説明するが、この場合には、触媒として、光によってラジカルを放出するトリアジン系カチオン触媒を添加して用いる。
【0063】
<皮膜形成方法>
この方法で用いる本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、非極性有機溶剤中に溶解した状態の塗布液として用いられる。形成する皮膜の膜厚が数μmと薄い場合には、ロールコーター、スピンコーター、スプレイコーター等の通常の精密塗布装置を用いて塗布液を塗布するとよい。
【0064】
パターン状に基板表面を処理する第1の方法は、前記のようにして形成した塗布皮膜上に所望のパターンを有するマスクを用いて活性エネルギー線の選択的な照射を行い、次いで現像液を用いた現像処理を行なって、未硬化の皮膜を除去することによって達成される。これらの基本的な工程はフォトリソグラフィー法と同じであるが、現像液としては、本発明に係るエポキシ樹脂組成物からなる皮膜に適した溶剤或いは溶剤組成物を選択することが必要である。現像液としては、芳香族炭化水素類、ケトン類、エステル類、グリコールエーテル類等、及びそれらの混合物を使用することができる。上記皮膜の硬化反応の完結を期すためには、現像後に更に、加熱、或いは活性エネルギー線の照射を更に行うことが望ましい。
【0065】
パターン状に基板の表面を処理する第2の方法は、前記の方法と同様にして、塗布液を基材に塗布及び乾燥して塗布皮膜を形成する第1の工程(i)、重合を促す活性エネルギー線による全面照射により皮膜の硬化を行う第2の工程(ii)、硬化皮膜の所望の部位を選択的に除去するように、崩壊性の活性エネルギー線を照射する第3の工程(iii)を、この順序に施すことによって行う。重合を促す活性エネルギー線としては、波長が250〜480nmの光を豊富に含む紫外線が用いられる。崩壊性の活性エネルギー線としては、波長が210nm以下の光、エキシマーレーザー等を用いる。上記第2の方法においても皮膜の硬化を完結させるためには、何れかの段階で皮膜の熱処理や重合性の活性エネルギー線の照射を行うことが望ましい。
【0066】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、以上のような皮膜形成方法に適用することで、極性有機溶剤のように撥水剤の密着性を損なう成分を含む液体や物質との接触機会のある場所に適用する撥水剤又は撥水性塗料として、更には、インクジェット記録ヘッドの吐出口面の撥水・撥インク処理に好適に用いることができる。
【0067】
【実施例】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。尚、文中「%」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。先ず、本発明に係るエポキシ樹脂組成物の構成例1〜4を以下に例示する。以下の比率は固形分の質量比率を示す。尚、下記において使用した樹脂A−1は、先に例示した構造を有する樹脂である。
【0068】
(組成物例1:実施例1で使用)
A−1:2,4−トリクロロメチル−6−(4’−メトキシナフチル)−s−トリアジン=96:4
【0069】
(組成物例2:実施例2で使用)
A−1:2,4−トリクロロメチル−6−ピペロニル−s−トリアジン=94:6
【0070】
(組成物例3:実施例3で使用)
A−1:2,4−トリクロロメチル−6−ピペロニル−s−トリアジン:1,4−ビス(2−ヒドロキシヘキサフルオロイソプロピル)ベンゼン=95:5:25
【0071】
(組成物例4:実施例4で使用)
A−1:2,4−トリクロロメチル−6−ピペロニル−s−トリアジン:1,4−ビス(2−ヒドロキシヘキサフルオロイソプロピル)ベンゼン:2,2−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン=80:5:25:25
【0072】
実施例1〜4
先の成分からなる組成物例1〜4の組成物を、ソルベッソ100(芳香族炭化水素)/アイソパーG(脂肪族炭化水素)混合溶剤(質量比1:1)へ加えて溶解し、濃度30〜40%の溶液を作成した。これらの溶液をそれぞれ5μmの厚さの熱酸化膜を有するシリコーンウエファー上に、ウエットで1〜3μmの厚さにスピンナーを用いて塗布した。次いで、この基材を110℃のホットプレート上で5分間乾燥して溶剤を除去して皮膜を形成した。この4枚の基板に、高圧水銀灯を用いた紫外線照射装置にて2ジュール/cm2の積算量の紫外線を照射して、皮膜を硬化させた。次に、150℃の炉で15分間加熱して硬化反応を完結させた。作成した4枚の基板を用いて以下の測定を実施し、シリコーンウエファー基板の表面状態を評価した。
【0073】
T1:接触角の測定
純水、オレイン酸の10%水溶液、グリセリン20%水溶液、及び界面活性剤1%水溶液(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル;HLB=10)の4種類の各液体を用いて、上記各基板の表面に形成された硬化皮膜の静的接触角の測定を行なった。その際、接触角計(商品名:CAX−150;協和界面科学(株)社製)を用い、常温にて測定を行った。
【0074】
T2:染料水溶液への浸漬後の接触角(前進接触角、後退接触角)の測定
ダイレクトブラック168(水溶性染料)の3%水溶液(pH=10.3)を調製し、この中に、前記で得た表面に硬化皮膜を有する実施例1〜4の各基板を、60℃で7日間浸漬した。その後、各基板を純水にて洗浄及び乾燥し、上記で調製した染料水溶液に対する前進接触角及び後退接触角を、先に使用したと同様の接触角計を用いて測定した。尚、これらの接触角の測定には拡張収縮法を用いた。
【0075】
T3:長期印字耐久性
図4に示したようにして、予め吐出エネルギー発生素子402等が設けられた被処理基板401上に(図4−a及び4−b参照)、ポジ型フォトレジスト(商品名ODUR−1010、東京応化工業製)を膜厚13μmになるようにスピンコートし、レジスト層403を形成した(図4−c参照)。次に、レジスト層403上に、図5の、5−aに示したように、流路形成用材料501として、下記表1の組成を有するエポキシ樹脂組成物を25μmの層厚で積層した。そして、流路形成用材料層501を積層後、ホットプレート上で80℃3分間乾燥を行った。
【0076】
【0077】
次に、こうして得られた積層体上に、図5−bに示すように、組成物例1〜4を含む前記実施例1〜4の溶液を個々にスピンコートにて塗布して皮膜502を形成した。このようにして形成した第1(501)及び第2(502)の感光性樹脂層に対して、吐出口部のパターンが形成されたマスク(不図示)を介して、キヤノン製マスクアライナーMPA600を用いて1.0ジュール/cm2の紫外線露光、及び90℃4分間の加熱処理した後に、MIBK/キシレン=2/3の現像液に浸漬して吐出口部503を形成した(図5−c参照)。次いで図5−dに示すように、Si製の基板401を裏面より異方性エッチングによりインク供給口504を形成し、最後に図5−eに示したように、ポジ型フォトレジスト403を除去し、更に第1(501)及び第2(502)の感光性樹脂層を完全に硬化する目的で200℃/1時間加熱処理を行って、ノズルを完成させた(図5−e参照)。
【0078】
更に、こうして得られたノズルを組み込んだインクジェット記録ヘッドに所定の電気配線を行って、プリンタに組み込み、純水/グリセリン/フードブラック2(水溶性黒色染料)/N−メチルピロリドン=70/15/3/12(質量部)からなるインクジェット用インクを用いて、下記のようにして長期印字耐久試験を行った。その結果を表2に整理した。
【0079】
長期印字耐久試験は、文書とインクの着弾精度を評価するパターンを100枚印字して、最終の印字サンプルからドットの乱れを下記の基準で評価した。この結果をT3−1とした。
評価A:ドット位置の乱れがなく、文字は鮮明である。
評価B:ドット位置の乱れが少々あるが、文字の品位への影響は軽微である。
評価C:ドット位置の乱れがかなりあり、文字も鮮明さが低下している。
評価D:ドットの欠け、文字品位の大幅な低下が発生している。
【0080】
又、使用したプリントヘッドの表面を観察し、インクの付着量を下記の基準で評価した。この結果をT3−2とした。
評価A:ノズル表面にインク滴が殆どない。
評価B:ノズル表面に小さいインク滴が見られる。
評価C:ノズルの吐出口近傍に大きなインク滴がある。
【0081】
比較例1
本発明に係るエポキシ樹脂組成物における触媒をルイス酸のオニウム塩のUVI−6974(UCC製)に代え、溶剤を極性溶剤のジエチレングリコールジメチルエーテル/酢酸ブチル=8/2(質量比)に代える以外は実施例1〜4と同様にして、シリコーンウエファー基板の表面処理を行った。そして、得られた基板について、前記した実施例1〜4の場合と同様に、T1〜T3の評価を実施した。その結果を表2に示した。
【0082】
【0083】
表2に示したように、本発明に係るエポキシ樹脂組成物からなる実施例の皮膜は、接触角が高く、且つその持続性において良好であった。又、インクに長期に接触してもプリントヘッド表面におけるインクの付着がなく、結果として、ドットの着弾精度がよく、印字品位を長く維持できるようになることがわかる。
【0084】
実施例5
実施例1及び3で用いた組成物例1及び3を、ポリエーテルサルフォンの成形板にスピンナーにて、溶剤蒸発後の膜厚で約2μmになるようにそれぞれ塗布及び乾燥した。これらの基板に高圧水銀灯から合計10ジュール/cm2の光を照射し、皮膜の重合硬化を行った。次いでこの基板にビーム径5μmに収斂した波長195nmのエキシマーレーザー光を皮膜の上方から照射して、ノズル穴開け加工を行った。穴開けは良好に行われ、エッジ部にも分解残渣は少なく、良好な加工状態であった。この結果、本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、紫外線レーザーによる加工にも優れた適性を有することがわかった。
【0085】
比較例2
比較例1で使用したと同じ撥水処理剤をポリエーテルサルフォンの成形板にスピンナーにて、溶剤蒸発後の膜厚で約2μmに塗布した。この基板に高圧水銀灯から合計10ジュール/cm2の光を照射し、重合を行った。次いで、この基板にビーム径5μmに収斂した波長195nmのエキシマーレーザー光を皮膜の上方から照射して、ノズル穴開け加工を行った。穴開けは良好に行えず、表面状態も不均一であった。解析の結果、撥水処理剤中の極性溶媒によってポリエーテルサルフォンが溶解していることが原因であると推定した。
【0086】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、撥水剤の成膜性や密着性を損なう成分を含む溶液や物質との接触機会のある場所に適用する、撥水剤又は撥水性塗料として好適なエポキシ樹脂組成物が提供される。又、本発明によれば、常に同じ表面状態を持続できる表面改質処理が可能なエポキシ樹脂組成物が提供される。
【0087】
更に、本発明によれば、上記したエポキシ樹脂組成物で基材の表面処理を行うことで、ノズル表面を常に同じ表面状態に維持でき、インクに長期に接触しても、プリントヘッド表面におけるインクの付着がなく、結果として、ドットの着弾精度がよく、印字品位を長く維持できるインクジェット記録ヘッド、及びインクジェット記録装置の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】インクジェット記録ヘッドの構成の一例の主要部を示す図である。
【図2】図1の斜視図である。
【図3】マルチヘッドを組み込んだインクジェット記録装置の一例を示す図である。
【図4】本発明に係るエポキシ樹脂組成物を用いて記録ヘッドを形成する方法の一例を説明する模式図である。
【図5】本発明に係るエポキシ樹脂組成物を用いて記録ヘッドを形成する方法の一例を説明する模式図である。
【符号の説明】
13:記録ヘッド
14:インク溝
15:基板
16:保護層
17−1、17−2:電極
18:発熱抵抗体層
19:蓄熱層
20:基体
21:インク
22:オリフィス(吐出口)
23:メニスカス
24:小液滴
25:記録媒体
29:吐出口面
30:硬化皮膜
51:給紙部
52:紙送りローラー
53:排紙ローラー
61:ワイピング部材
62:キャップ
63:インク吸収体
64:吐出回復部
65:記録ヘッド
66:キャリッジ
67:ガイド軸
68:モーター
69:ベルト
401:被処理基板
402:吐出エネルギー発生素子
403:レジスト層
501:流路形成用材料
502:皮膜
503:吐出口部
504:インク供給口
Claims (8)
- 1分子中に撥水性を有する基を1個以上及び環状脂肪族エポキシ基を2個以上有する、下記一般式(1)で表わされるエポキシ樹脂と、トリアジン系カチオン重合触媒と、非極性の溶剤とを少なくとも含有することを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
(但し、上記式(1)において、R 1 、R 4 及びR 5 は、各々独立に水素原子又は炭素数1乃至3のアルキル基を示し、R 2 及びR 3 は、各々独立にメチル基又はフェニル基を示し、xは2乃至100の整数であり、n 1 は1乃至3の整数であり、n 2 は1乃至5の整数であり、Rfはフルオロアルキル基を示す。更に、aは1乃至50の整数であり、bは2乃至100の整数であり、cは1乃至50の整数であり、dは1乃至50の整数であって、その数平均分子量が8,000乃至22,000である。) - 前記非極性の溶剤が、芳香族炭化水素及び脂肪族炭化水素のうちの少なくとも一方を含む請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
- 前記トリアジン系カチオン重合触媒が、下記(i)乃至(v)から選ばれる少なくとも1つである請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂組成物:
(i)2,4−トリクロロメチル−6−(4’−メトキシフェニル)−s−トリアジン、
(ii)2,4−トリクロロメチル−6−(4’−メトキシナフチル)−s−トリアジン、
(iii)2,4−トリクロロメチル−6−ピペロニル−s−トリアジン、
(iv)2,4−トリクロロメチル−6−(4’−メトキシスチリル)−s−トリアジン、
(v)2,4−トリクロロメチル−6−(3’−ブロモ−4’−メトキシフェニル)−s−トリアジン。 - 前記トリアジン系カチオン重合触媒が、2,4−トリクロロメチル−6−ピペロニル−s−トリアジンである請求項3に記載のエポキシ樹脂組成物。
- 物品の表面の選択的処理方法であって、
(i)請求項1乃至5の何れか1項に記載のエポキシ樹脂組成物の皮膜を形成する工程;
(ii)該皮膜にマスクを介して活性エネルギー線をパターン状に照射する工程;及び
(iii)上記皮膜の非照射部分を溶解しうる液体にて上記非照射部分を溶解除去する工程、
を有することを特徴とする物品の表面の選択的処理方法。 - 物品の表面の選択的処理方法であって、
(i)請求項1乃至5の何れか1項に記載のエポキシ樹脂組成物の皮膜を形成する工程;
(ii)該皮膜の重合硬化を行う工程;及び
(iii)上記皮膜を選択的に除去する工程、
を有することを特徴とする物品の表面の選択的処理方法。 - 液体を吐出する吐出口を有するインクジェット記録ヘッドにおいて、少なくとも該吐出口の開口部周辺が、請求項1乃至5の何れか1項に記載のエポキシ樹脂組成物の硬化膜で被覆されていることを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
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