JP4095112B2 - 植物の生育状態を測定する方法、及びそのためのキット - Google Patents
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さらに、本発明は、リノレン酸(18:3)又はその前駆体からなる植物の成長調整剤に関する。
植物の成長を調整する手段として、温室などの人工的な気候環境により開花時期を調整したり、エチレンなどの化学薬品を用いて成長を促進させるなどの努力が行われてきたが、これらの多くも植物の成長を経験と勘により調整するものであり、植物の成長の過程を科学的の判断できる材料に基づくものではない。また、これらの手段は、比較的小規模の場所で行えるものであり、森林のような広大な場所で実施することは非現実的である。
植物の成長の過程を科学的に把握し、開花時期を科学的に予測し、調整することは、鑑賞用の草花や食糧用の植物だけでなく、森林の維持・再生においても極めて重要なことであり、森林の木の生り年を科学的に性格に判断することができるようになれば、経験と勘に頼ることなく森林の維持・再生を科学的に制御することができるようになる。
また、本発明者らは、発芽から花成に至る植物の形態形成が植物中の活性酸素やグルタチオン(GSH)などの酸化還元(レドックス)物質によって調節されていることを最近明らかにした。さらに、本発明者らは、シロイヌナズナの様々なエコタイプの花成の時期、活性酸素消去系酵素・アスコルビン酸ペルオキシダーゼ(APX)の活性、クロロフィル(Ch1)量、自然生態系における緯度に沿った地理分布の間には大きな相関があることを見出してきた。
また、活性酸素と生物の寿命についての研究もされてきている(非特許文献1参照)。
植物については、植物から脂肪酸を製造する方法については多数の特許出願があり、例えば、特許文献1には、植物に不飽和化酵素をコードする遺伝子を導入し、それを植物内で発現させて、不飽和脂肪酸、特にステアリドン酸を産生させる方法についての発明が開示されている。また、特許文献2には、苔類から脂肪酸を得る方法についての発明が開示されている。不飽和脂肪酸の含有量を改変した植物の製造も報告されている(非特許文献3参照)。
植物体における脂肪酸の役割については、例えば、植物の脂肪酸代謝、特に不飽和化酵素の性質と細胞内での局在化についての報告もなされている(非特許文献4参照)。
また、植物ではリノレン酸(18:3)は、リノール酸(18:2)から細胞質(Cytoplasmic)においてはFAD3と呼ばれる酵素により生合成され、葉緑体(Chloroplastic)においてはFAD7やFAD8と呼ばれる酵素により生合成されることも知られている(図1参照)。
本発明者らは、これらの結果から、植物の発育を制御する因子が活性酸素(ROS)以外に存在し、ROSにより当該因子の量が制御され、その結果として植物の発育が制御されていると考え、当該因子を探索した結果、当該因子がリノレン酸(18:3)であることが判明し、本発明に至った。
また、本発明は、植物のリノレン酸の量を制御することからなる、植物の生育を制御する方法に関する。より詳細には、本発明は、植物のリノレン酸の量の制御が、リノレン酸(18:3)又はその前駆体を使用する方法や、リノレン酸の生合成酵素をコードする遺伝子の操作である方法に関する。また、本発明における植物の生育の制御が、植物の開花時期の制御や、植物の寿命の制御である植物の生育の制御方法に関する。
さらに、本発明は、リノレン酸(18:3)又はその前駆体からなる植物の成長調整剤に関する。
また、本発明は、リノレン酸(18:3)又はその分解物の量を検出、同定、又は定量するための試薬及び装置からなる植物の生育状態を測定するための測定キットに関する。
また、図3にこれらのシロイヌナズナの生育の状況を写した写真を示す。図3は図面に代わるカラー写真である。図3の左側はパラコート処理を行ったシロイヌナズナであり、右側は水処理だけのイロイヌナズナである。パラコート処理した方には花芽が見えているが、水処理のものにはまだ見えていない。開花時のロゼット葉数と開花時期とには相関があり、シロイヌナズナの場合には茎頂分裂組織は発芽より葉器官を作り、開花時には葉器官を作るのを止めて花器官を作るようになるので、開花時のロゼット葉数は開花時、即ち花芽が誘導された指標となることが知られている。
これらの結果、活性酸素(ROS)が過剰になると植物は早咲きになる、即ち開花が促進され、その結果として開花時のロゼット葉数が減少することが示された。
その結果、FAD7及びFAD8遺伝子の変異体との2重変異体はさらに活性酸素量が高い値を示した。さらに、細胞質型FAD3の変異が導入された3重変異体では検出される活性酸素量がさらに高い値を示した。
これらの変異体及び野生型について活性酸素(ROS)量を小川らの方法(Ogawaら 2001 Plant Cell Physiology 42: 286-291)によるMCLA発光により定性的に測定した結果を次の表1に示す。
この結果、野生型では平均約18枚程度であるが、活性酸素の定常濃度が低く、リノレン酸の過剰発現型である35S::FAD3ではロゼット葉数が極度に増加し、平均約28枚程度になるが、リノレン酸の生合成酵素の変異株ではロゼット葉数が減少し、とりわけ葉緑体におけるリノレン酸の生合成酵素FAD7及びFAD8の変異株では葉数が大きく減少することがわかった。
また、図5にこれらのシロイヌナズナの生育の状況を写した写真を示す。図5は図面に代わるカラー写真である。図5の左側は野生型(Columbia)であり、右側はリノレン酸の発現量を過剰にした形質転換体(35S::FAD3)である。ロゼット葉の茂りかたに大きな相違が見られる。
35S::FAD3は、通常の酸素量でも低酸素量においてもリノレン酸を過剰に発現していることがわかる。そして、この過剰発現型では開花時のロゼット葉数も多い。一方、3重変異体ではリノレン酸はほとんど産生されておらず、開花時のロゼット葉数も少ないし、酸素量による影響をほとんど受けていない。これに対して過剰発現型や野生型は、酸素量による影響を受けることがわかる。
野生型植物の花成はROSの発生剤であるパラコートで促進され、ROSの濃度を低下させる低酸素分圧条件で抑制されたが、変異体ではその効果が認められなかった。
即ち、植物の開花や発育は、植物中におけるリノレン酸の量、より詳細には全脂肪酸に対するリノレン酸の含有量(%)をパラメーターとして観察することができることがわかった。そして、植物はリノレン酸の量、より詳細には全脂肪酸に対するリノレン酸の含有量(%)により活性酸素(ROS)の定常濃度が調整され、それに応じて成長段階が調整されていることが判明した。
本発明の方法によれば、植物のリノレン酸(18:3)又はその分解物の量を検出、同定、又は定量することにより、植物の発育の段階を知ることができ、またその変化をみることにより植物の開花時期を予測できる、例えば、森林の木における生り年を科学的に予測でき、木の伐採可能な時期を植物の成長に適して決定できることから、森林の維持・再生に極めて有効な方法となる。
また、スギ花粉の飛散が花粉症の原因として問題となっているが、スギの開花時期の予測にも本発明の方法を適用することができ、スギ花粉の飛散を予測することが可能となる。
さらに、鑑賞用の植物や食糧用の植物においても、結実の時期を科学的に予測可能となるだけでなく、植物の生育状況を的確に把握することも可能となることから、集荷時期を適切の予測できるだけでなく、植物を最もよい状態で出荷できることになる。
また、本発明における測定キットとしても、リノレン酸の量を測定することができる各種の測定用のキットを使用することができる。特に森林などにおけるリノレン酸の測定では、携帯に便利な簡便なものが好ましい。
また、リノレン酸の量を分子遺伝的に調節するも可能である。リノレン酸の生合成酵素の遺伝子の欠損や導入により、植物のリノレン酸の発現量を調整することも可能である。さらに、リノレン酸の生合成酵素の遺伝子をコードしている上流のプロモーターを操作することにより、当該酵素の発現時期を制御することも可能となる。そして、このようなリノレン酸の生合成に関与する酵素の遺伝子の操作により、植物の寿命を制御、即ち、遺伝子の制御によるリノレン酸量の制御により寿命(花芽形成)の制御も可能となる。これを利用すると樹木や草花等の植物の花をつけるまでに要する時間(何年も)を調整することが可能となり、植物の寿命を任意に制御することが可能となる。
また、植物のリノレン酸の量の制御手段として、リノレン酸の生合成酵素をコードする遺伝子を操作することできる。リノレン酸の生合成酵素をコードする遺伝子としては、前記してきたfad3、fad7及び/又はfad8などが挙げられる。これらのシロイヌナズナの遺伝子の塩基配列及びアミノ酸配列を配列表の配列番号1〜6に示しておく。配列番号1はfad7の塩基配列であり、配列番号2はfad7のアミノ酸配列である。配列番号3はfad3の塩基配列であり、配列番号4はfad3のアミノ酸配列である。配列番号5はfad8の塩基配列であり、配列番号6はfad8のアミノ酸配列である。これらの遺伝子を欠損させたり、導入させることによりリノレン酸の発現量を調整できる。また、これらの遺伝子の上流のプロモーター領域を操作することもできる。
また、本発明の植物の生育の制御としては、植物の開花時期の制御、発芽時期の制御、植物の寿命の制御などが挙げられる。
Nottingum Arabidopsis Stock Centre (http://nasc.nott.ac.uk/)より、既知変異体、およびT−DNA挿入ラインの種子を入手した。さらに、メタンスルホン酸エチル処理により変異体を作製した(モデル植物の実験プロトコール,秀潤社参照)。これらの変異体をそれぞれ、摂氏22度で、16時間明期/8時間暗期で種子を、1/2ムラシゲスクーグ培地で吸水(Ogawa ら 2001 Plant Cell Physiology 42: 524-530参照)させた後、7日目に活性酸素量を小川らの方法(Ogawaら 2001 Plant Cell Physiology 42: 286-291)により定性的に検出し、野生型よりも高い値を示したものを選抜した。
次に、この変異体を調べたところ、長日・低照度下で野生型より早咲きであった。
選抜された変異体は、既知のFAD7に変異を持つ変異体であった。この酵素は葉緑体に局在し、常に発現していることが知られている。
また、誘導性FAD8遺伝子の変異体との2重変異体を作製した。このものは、さらに活性酸素量が高い値を示した。さらに、細胞質型FAD3の変異が導入された3重変異体を作製した。このものでは検出される活性酸素量がさらに高い値を示した。
(1)FAD3遺伝子の単離
キアジーン(QIAGEN)社製のアールナアジー植物ミニキット(RNeasy Plant Mini Kit)を用いることによりRNAを単離しストラタジーン(STRATAGENE)社製のプロスター(ProSTAR)を用いてcDNAを作成し、そのcDNAを鋳型にPCR(94℃,30秒,55℃,30秒,72℃,60秒,30サイクル)によりFAD3遺伝子を増幅した。増幅した遺伝子はpGEM−Tイージーベクター(pGEM-T Easy vector (Promega))にサブクローニングし、DNA解析装置により解析を行いFAD3遺伝子の配列であることを確認した。
(2)FAD3遺伝子の植物体での過剰発現
適用した形質転換技術は、ヒンチィー(Hinchee)らにより概説されたアグロバクテリウム遺伝子搬送システム(“Plant Cell and Tissue Culture"pp.231-270eds.I.K.Vasil T.A Thorpe,KluwerAcademic Publisher 1994 参照)を基にして、ペルレグリネシー(Pellegrineschi)らにより記載されたベクターのシステム(1995,BiochemicalSociety Transitions23:247-250)を使用した。
前記(1)1で得た遺伝子配列をSacI/SacIIによりベクターより切り出し、pブルースクリプト(pBlueScript(STRATAGENE))にサブクローニングした。これより、XbaI/SacIで目的の遺伝子を切り出し、pBI121(Clontech)の35Sの下流、XbaI/SacIサイトに入れた。このようにして作成した形質転換用ベクターを、アグロバクテリウムLBA4404へ移動させた。これをクロウフ(Clough)らにより記載された浸潤法(1998, The Plant Journal 16:735-743)により、野生型シロイヌナズナエコタイプCol−0に導入した。カナマイシン含有培地で形質転換体を選抜し、自家受粉によるT3世代の植物を使用した。この酵素遺伝子の過剰発現体はリノレン酸(18:3)が蓄積し遅咲きでありROSの定常濃度が低下していた。
同様にして、FAD3以外にFAD7、又はFAD8についても、本明細書に記載の配列表に基づいて過剰発現型を製造し得る。これらの変異体でも同様に花成遅延の効果を期待できる。
野生型のシロイヌナズナエコタイプCol−0の種子を、摂氏22度で、16時間明期/8時間暗期で種子を、1/2ムラシゲスクーグ培地で吸水(Ogawa ら 2001 Plant Cell Physiology 42: 524-530参照)させた後、2週間目に2.0Mのパラコートで処理した。
同様に、吸水後、4週間目に2.0Mのパラコートで処理した。
比較として、吸水後、2週間目に水処理した。
これらのそれぞれについて、ロゼット葉数をカウントした。
結果を図2、及び図3に示す。
実施例2で得られた35S::FAD3のリノレン酸過剰発現変異体、野生型、fad2変異体、実施例1で選抜してきたfad7変異体、fad7及びfad8の2重変異体、並びにfad3、fad7及びfad8の3重変異体のそれぞれを生育させ、それぞれの開花時のロゼット葉数を測定した。
結果を図4に示す。
また、野生型及び35S::FAD3型の生育状況を図5にカラー写真で示す。
実施例2で得られた35S::FAD3のリノレン酸過剰発現変異体、野生型、並びにfad3、fad7及びfad8の3重変異体のそれぞれを、通常の20%酸素の条件下、及び6.5%酸素の低酸素条件下で、24時間明期で、光強度60μE・m−2・s−1で生育させ、それぞれの開花時のロゼット葉数、及びリノレン酸の含有量を測定した。
結果を図6に示す。
野生型、及び種々の変異体について、開花時の全葉数と全脂肪酸に対するリノレン酸(18:3)の含有量(%)の相関を調べた。
結果を図7に示す。両者の二乗相関係数R2は0.9376と非常に高い値であった。
Claims (4)
- 植物のリノレン酸(18:3)又はその分解物の量を検出、同定、又は定量することからなる植物の生育状態を測定する方法。
- リノレン酸(18:3)又はその分解物の量が、全脂肪酸に対するリノレン酸の含有量(%)である請求項1に記載の方法。
- リノレン酸(18:3)又はその分解物の量を検出、同定、又は定量するための試薬及び装置からなる植物の生育状態を測定するための測定キット。
- 植物の生育状態が、植物の開花時期である請求項3に記載の測定キット。
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