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JP4094294B2 - p38MAPKの活性化を介してストレス応答に関与する新規タンパク質およびその遺伝子 - Google Patents

p38MAPKの活性化を介してストレス応答に関与する新規タンパク質およびその遺伝子 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、p38 MAPKの活性化を介してストレス応答に関与する新規タンパク質およびその遺伝子に関するものである。尚、本明細書では、便宜上、各遺伝子名および学名を通常用いられるイタリック体ではなく普通の書体で表記する。
【0002】
【従来の技術】
Mitogen-activated protein kinase (以下、「MAPK」という)シグナル伝達経路は、真核生物において進化的に保存されており、細胞外の様々な刺激を伝達する働きをしている。それぞれの経路は3種のプロテインキナーゼ、即ち、MAPK、MAPKK(MAPKキナーゼのこと。以下同じ)、MAPKKK(MAPKキナーゼキナーゼのこと。以下同じ)、から成り立っている。MAPKはMAPKKによりチロシン、スレオニンがリン酸化されることで活性化し、MAPKKはMAPKKKを介したリン酸化により活性化する。
【0003】
今までに3つの主要なMAPKsのグループが同定されている。これらは、extracellular signal-regulated protein kinases (ERK)、c-Jun N-terminal kinases (JNK)、そしてp38 mitogen-activated protein kinases (p38 MAPKs:以下、単に「p38」という)に大別される。ERKは、Rasの下流で主に機能し、様々な成長因子による細胞の増殖に中心的に関与している。それに対して、JNK、p38 は、ストレスや炎症性サイトカインにより活性化する。
【0004】
さらに、MEK1、MEK2、MKK3、MKK4、MKK6、そしてMKK7といったMAPKKスーパーファミリーサブグループが同定された。MEK1、MEK2は、ERKを活性化する。MKK4は、JNK、p38の双方を活性化し、MKK7はJNKのみを特異的に活性化する一方、MKK3、MKK6はp38のみを活性化する。これらのMAPKKスーパーファミリーは、Raf、TAK1、Tpl2、ASK1、MEKK、そしてMLKといったMAPKKKによってリン酸化され、活性化する。
【0005】
JNK、p38シグナル伝達経路は、アポトーシスやストレス応答といった様々な事象に関与していることが哺乳類細胞を用いた研究から知られているが、通常の発生におけるこれらの経路の生理的役割、生体における機能についてはよく知られていなかった。最近の研究で、JNKシグナル伝達経路の生理的な役割の一部が明らかとなった。キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster:以下、単に「ショウジョウバエ」という)において、JNK経路は胚発生において関与していることが明らかとなった。ショウジョウバエJNK(D-JNK)経路のMKK7ホモログであるhemipterous (hep)、JNKホモログであるbasket (bsk)の変異体がそれぞれ同定され、それらの機能が失われた状態ではlateral epidermis cellの伸長、いわゆるdorsal closureに欠陥が生じ、胚の背側クチクラが融合せずdorsal openの表現型が生じる。それゆえ、D-JNK経路は発生におけるdorsal closureの過程に重要な役割を果たしていることが知られている。
【0006】
上記D-JNKは、発生におけるアポトーシスにも関与していることが知られている。また、Caenorhabditis elegans においては、遺伝学的研究から、JNK経路がGABA(γ-aminobutyric acid) 性のD型運動神経を介したcoordinated movementを制御していることが示された。しかし胚発生時の形態形成に関与しているという証拠は得られなかった。
【0007】
ショウジョウバエ由来の二つのp38(D-p38aおよびD-p38b)は、環境ストレスとともに免疫系において機能していることが知られている (J. Biol. Chem., 273, 369-374, 1998、及びMol. Cell. Biol., 18, 3527-3539, 1998参照)。哺乳類p38のように、D-p38 MAPKは、UV、高浸透圧、熱ショック、serum starvation、過酸化水素、lipopolysaccharide (LPS)といったストレスや炎症性サイトカインによって活性化する。しかし、D-p38変異体は現在のところ単離されていない。D-p38aおよびD-p38bは、MAPKKであるD-MKK3およびD-MKK4によってリン酸化され、活性化する。最近の研究によりD-MKK3は、licorne (Lic)であることが明らかとなった (Genes Dev., 13, 1464-1474, 1999参照)。Licは、細胞運命決定因子の局在を調節することにより、oogenesisにおける前後軸、背腹軸のパターニングに重要な役割をしていることが知られている。ショウジョウバエp38シグナルはoocyteの極性の調節に必要ではあるが、ショウジョウバエp38カスケードが生理的にどのような役割を果たしているかを明らかにするにはやはりD-p38a、D-p38bの変異体の単離が必要である。
【0008】
JNKおよびp38シグナル伝達経路のストレスへの応答における役割は、脊椎動物細胞を用いた系で確立されたが、個体レベルでの解析は行われてはいなかった。MEKKグループを含めたいくつかのMAPKKKが、ストレスによるp38やJNK経路の活性化に関与していることが報告されている (EMBO J., 16, 4973-4982, 1997など参照)が、個体レベルでの解析はなされておらず、その役割の詳細は不明である。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
上記p38シグナル伝達経路は、上述のように、外気温や浸透圧等の様々な環境ストレスに対するストレス応答に関与しており、p38は様々な環境ストレスによって活性化される。また、p38シグナル伝達経路は、炎症反応や免疫系、アポトーシス等にも関与していると考えられている。したがって、もしp38の活性化に関与する新規タンパク質の存在が明らかにされれば、当該タンパク質は、上記p38の活性化ならびにその調節機構を研究解析するための研究材料として有用であるばかりでなく、環境ストレス応答等に関わる種々の病気の病態解析やその治療薬の開発、治療改善に有効利用できる可能性がある。
【0010】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、p38の活性化に関与する新規タンパク質およびその遺伝子を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本願発明者は、上記の課題に鑑み、ショウジョウバエを用いて上記p38 の活性化に関与する新規分子の存在について検討した結果、p38 上流のMAPKKKと予想される新規タンパク質D-MEKK1およびその遺伝子を同定し、その配列を決定した。さらに、変異体等を用いた機能解析の結果、この新規タンパク質D-MEKK1が、p38の活性化を介した環境ストレス応答において極めて重要な役割を果たす分子であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
第一に、本発明に係る遺伝子は、以下の(a)又は(b)のタンパク質をコードする遺伝子である。
(a)配列番号2または4に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(b)配列番号2または4に示されるアミノ酸配列において、1またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、p38 MAPキナーゼを活性化する性質を持つタンパク質。
【0013】
上記(a)のタンパク質は、後述のように、本願発明者が同定し、その全長アミノ酸配列を明らかにしたショウジョウバエ由来の新規タンパク質D-MEKK1である。このD-MEKK1は、MAPKKKであり、本願発明者は、選択的スプライシングによりアミノ末端側の配列が互いに異なる2種類のタンパク質D-MEKK1aおよびD-MEKK1bが存在することを見出した。配列番号2にはこのうちD-MEKK1aのアミノ酸配列を、配列番号4にはD-MEKK1bのアミノ酸配列をそれぞれ示す。
【0014】
上記D-MEKK1は、後述のように、上記p38の活性化に重要であり、とりわけ上記p38の活性化を介して外気温や浸透圧等の様々な環境ストレスに対するストレス応答等において極めて重要な役割を果たす分子と考えられる。それゆえ、本発明に係る遺伝子およびタンパク質は、上記p38の活性化ならびにその調節機構を研究解析するための研究材料として有用であるばかりでなく、こうした研究を通じて、環境ストレス応答等に関わる種々の病気の病態解析やその治療薬の開発、治療改善に有効利用できる可能性がある。
【0015】
なお、上記「遺伝子」とは、少なくともゲノムDNA、cDNA、mRNAを含む意味であり、本発明に係る遺伝子としては、▲1▼配列番号1に示される塩基配列のうち、277〜4992番目の塩基配列をオープンリーディングフレームとして有するcDNA、▲2▼配列番号3に示される塩基配列のうち、787〜5280番目の塩基配列をオープンリーディングフレームとして有するcDNA、▲3▼これらcDNAの塩基配列に対応する塩基配列を有するmRNA、▲4▼配列番号5に示される塩基配列のうち、5147〜15105番目の塩基配列を有するゲノムDNA(上記D-MEKK1a cDNAの開始コドンから終止コドンまでに対応。但しイントロンを含む)、▲5▼配列番号5に示される塩基配列のうち、9073〜15105番目の塩基配列を有するゲノムDNA(上記D-MEKK1b cDNAの開始コドンから終止コドンまでに対応。但しイントロンを含む)、が例として挙げられる。
【0016】
また、上記「遺伝子」とは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖といった各1本鎖DNAやRNAを包含する。さらに、上記「遺伝子」は、上記(a)又は(b)のタンパク質をコードする配列以外に、非翻訳領域(UTR)の配列やベクター配列(発現ベクター配列を含む)などの配列を含むものであってもよい。例えば、上記(a)又は(b)のタンパク質をコードする配列をベクター配列につないで本発明の遺伝子を構成し、これを適当な宿主で増幅させることにより、本発明の遺伝子を所望に増幅させることができる。また、本発明の遺伝子の一部配列(特異的配列)をプローブに用いてもよい。このようにプローブに用いる場合としては、例えば、本発明の遺伝子の一部配列をチップ上に固定してDNAチップを構成し、当該DNAチップを遺伝子発現検出用に用いるような場合が挙げられる。
【0017】
第二に、本発明に係るタンパク質は、上記(a)又は(b)のタンパク質、即ち、(a)配列番号2または4に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、又は、(b)配列番号2または4に示されるアミノ酸配列において、1またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、p38 MAPキナーゼを活性化する性質を持つタンパク質、である。
【0018】
ここで、上記「タンパク質」は、細胞、組織などから単離精製された状態であってもよいし、タンパク質をコードする遺伝子を宿主細胞に導入して、そのタンパク質を細胞内発現させた状態であってもよい。また、本発明に係るタンパク質は、付加的なポリペプチドを含むものであってもよい。このようなポリペプチドが付加される場合としては、例えば、HAやFlag等によって本発明のタンパク質がエピトープ標識されるような場合が挙げられる。
【0019】
また、上記「1またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異タンパク質作製法により置換、欠失、挿入、及び/又は付加できる程度の数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されることを意義する。このように、上記(b)のタンパク質は、換言すれば、上記(a)のタンパク質の変異タンパク質(ただし、p38 MAPキナーゼを活性化する性質は維持されたもの)であり、ここにいう「変異」は、主として公知の変異タンパク質作製法により人為的に導入された変異を意味するが、天然に存在する同様の変異タンパク質を単離精製したものであってもよい。
【0020】
本発明に係るタンパク質は、さらに、下記A)またはB)の性質・特徴によって特定されるものであってもよい。
A)試験管反応系において、MKK6(MAP Kinase Kinase 6)をリン酸化する活性を持つ(下記実施例2、図4参照)。
B)浸透圧ストレスまたは熱ストレスを受けた細胞において、p38 MAPキナーゼをより活性化する性質を持つ(下記実施例6、図7参照)。
【0021】
また、本発明に係るタンパク質は、上記(a)又は(b)のタンパク質の変異体であって、p38 MAPキナーゼを活性化する性質に異常を持つ変異タンパク質であってもよい。このような変異タンパク質としては、例えば、配列番号2または4に示されるアミノ酸配列において、カルボキシル末端側のキナーゼドメインのアミノ酸が複数個欠失されたアミノ酸配列からなる変異タンパク質を挙げることができる。このような変異タンパク質は、例えば、野生型タンパク質と構造を比較することにより、その構造の中で活性に必須な領域が明らかになるという、タンパク質の機能解析において有用である。
【0022】
また、本発明に係る遺伝子には、上記変異タンパク質をコードする遺伝子も含まれ、このような遺伝子は、例えば、新たな形質転換体の作出に有用である。さらに、本発明には、このような遺伝子が導入され、形質転換されたショウジョウバエも含まれる。ここで、「遺伝子が導入された」とは、公知の遺伝子工学的手法(遺伝子操作技術)により、対象細胞(宿主細胞)内に発現可能に導入されることを意味する。このように形質転換されたショウジョウバエも、タンパク質の機能解析において非常に有用である。
【0023】
【発明の実施の形態】
(1)本発明に係るタンパク質D-MEKK1、及びその遺伝子の配列、構造等
本願発明者は、後述の実施例において詳述するように、yeast two-hybrid スクリーニングシステム、cDNAライブラリスクリーニング、5’−RACE法等の各手法を用いて、上記p38 の活性化に関与する新規タンパク質D-MEKK1をコードする遺伝子を単離するとともに、その全長cDNA配列、および当該タンパク質D-MEKK1のアミノ酸配列を決定することに成功した。
【0024】
より詳細には、上記クローニング方法によって2種類のcDNAが単離され、解析の結果、上記タンパク質D-MEKK1として、選択的スプライシングによりアミノ末端側の配列が互いに異なる2種類のタンパク質D-MEKK1aおよびD-MEKK1bが存在することを見出した(図2(a)参照)。配列番号1および2には、このうちD-MEKK1aの全長cDNA配列およびそのアミノ酸配列が示され、配列番号3および4には、D-MEKK1bの全長cDNA配列およびそのアミノ酸配列が示される。
【0025】
配列番号1の塩基配列中、277〜4992番目の塩基配列が、上記D-MEKK1aをコードするオープンリーディングフレーム(ORF)領域に相当する。また、配列番号3の塩基配列中、787〜5280番目の塩基配列が、上記D-MEKK1bをコードするオープンリーディングフレーム(ORF)領域に相当する。配列番号1および3に示される各cDNA配列は、このORF領域のほか5’側及び3’側にそれぞれ非翻訳領域(UTR)を含むものであった。
【0026】
図2(a)は、D-MEKK1遺伝子のゲノム上の構成を模式的に示す図である。図中、エキソンは枠で示され、灰色(および黒色)の部分、白抜きの部分は、それぞれ翻訳領域、非翻訳領域を示している。黒色の部分はキナーゼドメインである。このローカスは、ATGエキソン(最初のエキソン)のみが異なるD-MEKK1a、D-MEKK1b二つの転写産物を産生する。図中、D-MEKK1aのATGエキソンは、「1a」と表記され、D-MEKK1bのATGエキソンは、「1b」と表記される。
【0027】
配列番号5には、D-MEKK1遺伝子のゲノムDNA配列が示される。同配列において、各エキソンの位置は以下のとおりである。
イ)D-MEKK1aのATGエキソン:4870番目〜5382番目の塩基(翻訳領域は、5147番目の塩基から)
ロ)D-MEKK1bのATGエキソン:8187番目〜9086番目の塩基(翻訳領域は、9073番目の塩基から)
ハ)D-MEKK1a、D-MEKK1b共通の第2エキソン:9785番目〜9985番目の塩基
ニ)D-MEKK1a、D-MEKK1b共通の第3エキソン:10495番目〜11276番目の塩基
ホ)D-MEKK1a、D-MEKK1b共通の第4エキソン:11340番目〜11853番目の塩基
ヘ)D-MEKK1a、D-MEKK1b共通の第5エキソン:11914番目〜14627番目の塩基
ト)D-MEKK1a、D-MEKK1b共通の第6エキソン:14773番目〜14952番目の塩基
チ)D-MEKK1a、D-MEKK1b共通の第7エキソン:15017番目〜15276番目の塩基(翻訳領域は、15105番目の塩基まで)
図2(b)は、D-MEKK1a cDNA配列に対応するアミノ酸配列を示す図である。図中、D-MEKK1aのN末端側79アミノ酸残基は枠で囲われた部分であり、D-MEKK 1bのN末端は、D-MEKK1aの前記79アミノ酸残基にかわり、MRRKKの5アミノ酸残基からなる。
【0028】
図3は、上記D-MEKK1とマウスMEKK4とを比較した結果を示す図である。後述の実施例において詳述するように、上記D-MEKK1(D-MEKK1aおよびD-MEKK1b)は、C末端側のキナーゼドメインにおいてMEKK4との高い相同性が認められ、また、D-MEKK1、MEKK4ともにN末端側にpleckstrin homology (PH)ドメインを有していた。さらに、D-MEKK1aのN末とMEKK4のN末とはそれぞれprolineに富んだ領域を有していた。
【0029】
本願発明者は、変異体等を用いた機能解析の結果、上記D-MEKK1が、p38の活性化を介した環境ストレス応答において極めて重要な役割を果たす分子であることを明らかにした。より具体的には、内在性D-MEKK1は、高浸透圧刺激により活性化した。D-MEKK1を欠いたショウジョウバエの変異体は、温度上昇、浸透圧などの環境ストレスに対し感受性を示した。これらのD-MEKK1変異体では、ストレスに伴うp38 MAPKの活性化が、野生型と比較して弱いことが明らかとなった。これらの結果から、環境ストレス応答においてD-MEKK1によるp38 MAPKの活性調節が重要であると考えられた。
なお、本願発明者が行った上記機能解析の結果については、後述の実施例において詳細に説明する。
【0030】
(2)本発明に係るタンパク質、遺伝子等の取得方法
以上、本発明に係るタンパク質であるD-MEKK1およびその遺伝子の配列、構造、機能などの諸特徴について説明したが、以下では、本発明に係るタンパク質および遺伝子の取得方法について説明する。
【0031】
上記タンパク質D-MEKK1をコードする遺伝子を取得する方法は、特に限定されるものではなく、前述の開示された配列情報等に基づいて種々の方法により、上記遺伝子配列を含むDNA断片を単離し、クローニングすることができる。例えば、上記D-MEKK1をコードするcDNAの一部配列と特異的にハイブリダイズするプローブを調製し、ショウジョウバエのゲノムDNAライブラリやcDNAライブラリをスクリーニングすればよい。このようなプローブとしては、上記D-MEKK1をコードするcDNAの塩基配列又はその相補配列の少なくとも一部に特異的にハイブリダイズするプローブであれば、いずれの配列・長さのものを用いてもよい。また、上記スクリーニングにおける各ステップについては、通常用いられる条件の下で行えばよい。
【0032】
上記スクリーニングによって得られたクローンは、制限酵素地図の作製及びその塩基配列決定(シークエンシング)によって、さらに詳しく解析することができる。これらの解析によって、本発明に係る遺伝子配列を含むDNA断片を取得したか容易に確認することができる。
【0033】
また、上記プローブの配列を、上記D-MEKK1の機能上重要と考えられる領域(例えば、上記キナーゼドメインやPHドメイン)の中から選択し、ショウジョウバエやその他の生物のゲノムDNA(又はcDNA)ライブラリをスクリーニングすれば、上記D-MEKK1と同様の機能を有する相同分子や類縁分子をコードする遺伝子を単離しクローニングできる可能性が高い。
【0034】
本発明に係る遺伝子(ポリヌクレオチド)を取得する方法は、上記スクリーニング法以外にも、PCR等の増幅手段を用いる方法がある。例えば、上記D-MEKK1のcDNA配列のうち、5’側及び3’側の非翻訳領域の配列(又はその相補配列)の中からそれぞれプライマーを調製し、これらプライマーを用いてショウジョウバエのゲノムDNA(又はcDNA)等を鋳型にしてPCR等を行い、両プライマー間に挟まれるDNA領域を増幅することで、本発明のポリヌクレオチドを含むDNA断片を大量に取得できる。
【0035】
本発明に係るタンパク質を取得する方法についても、特に限定されるものではなく、例えば、上述のようにして取得された遺伝子(上記D-MEKK1又はその相同分子等をコードするcDNA等)を、周知の方法により大腸菌や酵母等の微生物又はショウジョウバエ由来の動物細胞などに組み入れ、そのcDNAがコードするタンパク質を発現させ精製することで、上記タンパク質D-MEKK1等の本発明に係るタンパク質を容易に取得することができる。尚、このように宿主に外来遺伝子を導入する場合、外来遺伝子の組換え領域に宿主内で機能するプロモーターを組み入れた発現ベクター及び宿主には様々なものがあるので、目的に応じたものを選択すればよい。産生されたタンパク質を取り出す方法は、用いた宿主、タンパク質の性質によって異なるが、タグの利用等により比較的容易に目的のタンパク質を精製することが可能である。
【0036】
上記D-MEKK1の変異タンパク質を作製する方法についても、特に限定されるものではなく、例えば、部位特異的突然変異誘発法(Hashimoto-Gotoh,Gene 152,271-275(1995)他)、PCR法等を利用して塩基配列に点変異を導入し変異タンパク質を作製する方法、あるいはトランスポゾンの挿入による突然変異株作製法などの周知の変異タンパク質作製法を用いて、上述のようにして取得された遺伝子の塩基配列において、1またはそれ以上の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されるように改変を加えることによって作製することができる。また、変異タンパク質の作製には、市販のキット(例えば、QuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit ストラタジーン社製)を利用してもよい。
【0037】
上記のように作製された変異タンパク質が、野生型と同様の活性・機能を有する例は既に多数知られており、一方、その活性・機能に異常を来すように変異を導入し変異タンパク質を作製することも既に多く行われている。例えば、上記タンパク質D-MEKK1の変異タンパク質を作製する場合、後述のように、キナーゼドメインの一部を欠失させることにより、そのリン酸化活性に異常を持つ変異タンパク質を作製することが可能である。このように、D-MEKK1の機能上重要と考えられる領域(例えば、上記キナーゼドメインやPHドメイン)に変異を生じさせることにより、そのリン酸化活性ひいてはp38 MAPキナーゼを活性化する性質に異常を持つ変異タンパク質を作製できる可能性が高い。
【0038】
形質転換ショウジョウバエの作製方法についても、後述の実施例記載の方法に限定されず、公知の種々の変異体作製方法を用いることができる。
【0039】
【実施例】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例の記載に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変更が可能である。
【0040】
まず、後述の各実施例において使用した方法および材料について説明する。
【0041】
▲1▼ Yeast two-hybrid screening
酵母はEGY48株 (ura3 his3 trp1 LEU2::plexAop6-LEU2)を用いた。Lic-SATAは、LexA DNA結合ドメインに融合させ、Gal4活性化ドメインを融合させたショウジョウバエcDNAライブラリ(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93, 3011-3015, 1996参照)とともに導入した。
【0042】
▲2▼ D-MEKK1のクローニング
Two-hybridスクリーニングによって得られたD-MEKK1断片をプローブとして、成虫原基cDNAライブラリをスクリーニングし、より長いクローン、S7-9を得た(J. Mol. Biol., 203, 425-437, 1988参照)。
【0043】
下記プライマーGT51をS7-9より作製し、5'RACEに供した。幾つかのクローンを得、そのひとつをプローブ(#51-2)として胚cDNAライブラリを用いてスクリーニングを行った結果、開始コドンから終止コドンまでを含むクローンを得た(Dev. Biol., 186, 165-176, 1997参照)。これらの配列がD-MEKK1aおよびD-MEKK1bの完全長cDNA配列となった。
GT51: 5'-CCCTGGGAGGCCCAACGGGGACGCATTCC-3'(配列番号6)
▲3▼ In situ hybridization
胚および成虫原基の染色は、Drosophila, a laboratory manual. Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (1989)の記載をもとに行った。RNAプローブはDIGラベリングキット(Roche Molecular Biochemicals, IN)でラベルした。
【0044】
▲4▼ キナーゼアッセイ
キナーゼアッセイは、Nature, 398, 252-256, (1999)の記載をもとに行った。バクテリアで発現させたGST-ATF2、MKK6、およびp38キナーゼネガティブ型は精製し、それぞれHA-p38、D-MEKK1、そしてLicの基質として用いた。
【0045】
▲5▼ ゲノムDNA PCR
成虫からのゲノムDNA調製は、Drosophila, a laboratory manual. Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (1989)をもとに行った。D-MEKK1欠失変異体をスクリーニングするため、P-lacWを含む配列を増幅するための下記プライマーGT41、GT75を作製した。
GT41: 5'-GTCGTGACCCTCCTGGGATAG-3' (配列番号7)
GT75: 5'-GACAGCGGTGCTCACACAGTAGAT-3' (配列番号8)
▲6▼ 免疫沈降
ショウジョウバエの幼虫はガラス製のホモジェナイザーを用い、extraction buffer (20mM HEPES pH7.4, 150mM NaCl, 12.5mM β-glycerophosphate, 1.5mM MgCl2, 2mM EGTA, 10mM NaF, 2mM dithithreitol, 1mM Na3VO4, 1mM phenylmethylsulfonil fluoride, 20μM aprotinin, 0.5% Triton X-100)中でホモジェナイズした。293細胞は同様のlysis bufferで溶出した。幼虫抽出液と293細胞抽出液は15000g、3分間遠心し、上清を適切な抗体とプロテインG-セファロース(Amersham Pharmacia Biotech)を加えて4℃、2時間インキュベートした。免疫沈降後、沈降物をphosphate-bufferd saline (PBS)で3回washしたのち、30μl PBSに再懸濁した。
【0046】
▲7▼ ブロッティング
ショウジョウバエ幼虫はサンプルバッファ(65mM Tris-HCl pH6.8, 10% glycerol, 5% β-メルカプトエタノール)中でホモジェナイズした。免疫沈降物はサンプルバッファを加えて変性させた。抗phospho p38および抗phospho MKK3抗体はCell Signaling Technology, Inc. (Bevery, MA)より購入した。抗D-MEKK1抗体(anti-D-MEKK1-Nおよび-C)は、それぞれN末端、C末端の20残基からなるペプチドに対応する。抗Lic抗体はLic N末端の20残基に対応する。下記実施例では、抗phospho p38抗体を 1: 500、抗phospho MKK3抗体を 1: 250、抗D-p38b抗体(Mol. Cell. Biol., 19, 2322-2329, 1999参照)を 1: 3000、抗D-MEKK1およびLic抗体を 1: 1000の濃度で使用した。
【0047】
▲8▼ ストレス
免疫沈降と、キナーゼアッセイのため、後期3齢幼虫をウォーターバス中で37℃1時間熱ショックを与えた。あるいはCO2麻酔した後期3齢幼虫の後極付近に微小ガラス針を用いて〜150nlの溶液(1.05% NaCl, 5mM NaHPO4 pH7.4, 5mg/ml xylene cyanol, ストレス刺激時はさらに1M NaCl)を注射した。高温ストレス実験において、変異体とバランサーのヘテロ接合体を交配し、毎日培地入りバイアルで産卵させた。親の個体を除去した後、バイアルを指定の温度に設定したインキュベーターに移し、インキュベートした。高浸透圧実験では、指定の塩濃度に設定した培地に産卵させ、25℃でインキュベートした。ホモ接合体の生存率は(ホモ接合体の個体数X2/変異体とバランサーのヘテロ接合体の個体数)で求めた。レスキュー実験では、w/Y ; D-MEKK1Ur36 P[ hs-D-MEKK1a, w[+]]/TM3をw ; D-MEKK1Ur36/TM3と交配し、得られた胚を24時間おいたのち、D-MEKK1aトランスジーンの発現を誘導するため幼虫の期間、毎日1時間、37℃の熱ショックを与えた。
【0048】
▲9▼ トランスジェニックショウジョウバエ
D-MEKK1aをコードするDNAをGAL4-responsive ベクター、pPUAST (Development, 118, 401-415, 1993参照)および、熱ショック誘導ベクター、pPCaSpeR-hs (Drosophila Information Newsletter, pp. 17-18, 1991参照)にそれぞれ導入し、pPUAST-D-MEKK1aとpCaSpeR-hs-D-MEKK1aとを作製した。
【0049】
トランスジェニックショウジョウバエは、Drosophila Information Service, pp. 205-206, 1994の記載をもとに作製した。
【0050】
実施例1:Lic MAPKKと結合するタンパク質としてのD-MEKK1の単離
ショウジョウバエMAPKKKを同定するため、Lic MAPKK (Genes Dev., 13, 1464-1474, 1999参照)と直接結合するタンパク質をコードする遺伝子を単離するためのyeast two-hybrid スクリーニングシステムを用いた。MAPKKKは通常、保存されたキナーゼサブドメインのVIIおよびVIIIの間のactivation loopでのリン酸化によりMAPKKの活性化を引き起こす (Curr. Opin. Cell Biol., 10, 205-219, 1998参照)。Licタンパク質におけるこのリン酸化および活性化モチーフは、S200IAKT204である。通常、MAPKKKによるMAPKKリン酸化サイトの変異は、MAPKKKの機能を阻害するドミナントネガティブ変異となり、MAPKKKとの結合後の解離が起きにくくなる (Cell, 77, 841-852, 1994参照)。そのため、上流因子との結合をより強めるために、ドミナントネガティブ型LicであるLic-SATA(Ser200、Thr204をそれぞれAlaに置換したもの)を作製した。Yeast two-hybridにおいてbaitとしてLic-SATAを用い、成虫原基由来のショウジョウバエcDNAライブラリをもとにスクリーニングを行った。1×106の形質転換体のうち、一つのクローンが新規MAPKKKをコードしており、それをD-MEKK1と名づけた。Yeast two-hybridにおいてLic-SATAと結合するD-MEKK1クローンがコードする産物は、野生型Lic(Lic-WT)、および、キナーゼネガティブ型Lic(Lic-KN)とは結合しなかった(図1参照)。
【0051】
完全長D-MEKK1 cDNAを得るため、先に単離したD-MEKK1クローンをプローブとしてショウジョウバエcDNAライブラリをスクリーニングし、より長いcDNAクローンを得た。さらに、pre-pupaより調製したpoly(A)+ RNAを用いた5`-RACEを行った。ライブラリスクリーニングおよび5`-RACEによって、開始サイトがそれぞれ異なるD-MEKK1aおよびD-MEKK1b二つのcDNAが単離された(図2(a)参照)。D-MEKK1aおよびD-MEKK1bは、それぞれ1571と1497アミノ酸残基からなる (図2(b)、配列番号2・4参照)。
【0052】
DDBJ/EMBL/GenBankデータベースでのD-MEKK1アミノ酸配列の比較の結果、MAPKKKファミリーとの相同性が明らかとなった(図3参照)。なかでも、マウスMEKK4 (J. Biol. Chem., 272, 8288-8295,1997参照)、ヒトMTK1 (EMBO J., 16, 4973-4982, 1997参照)と最も類似性が高い。D-MEKK1とMEKK4とは、そのキナーゼドメインにおいて59%の同一性を持ち、さらにキナーゼドメインのみならずN末端側の制御領域も類似性が高い。D-MEKK1aのN末とMEKK4のN末とは、それぞれprolineに富んだ領域とpleckstrin homology (PH)ドメインとを持つ(Cell, 85, 621-624, 1996など参照)。しかしながら、MEKK4はキナーゼドメイン直上のCdc42/Rac interactive binding (CRIB)-like ドメインを持つ一方、D-MEKK1には当該ドメインは認められなかった(図3(a)参照)。
【0053】
実施例2:D-MEKK1はMAPKKKである
D-MEKK1がMAPKKKとしての活性を持つかを検討するため、哺乳類発現ベクターにD-MEKK1aを組み込み、Flag タグを付加したD-MEKK1a (Flag-D-MEKK1a)を作製した。
【0054】
次に、ヒト胚性293細胞にトランジエントにFlag-D-MEKK1をトランスフェクションさせた。D-MEKK1に対する抗体が、293細胞中の他のプロテインキナーゼを認識する可能性を排除するため、抗Flag抗体を用いた。細胞抽出液を、抗Flag抗体を用いて免疫沈降し、免疫沈降物をキナーゼアッセイに供した。キナーゼアッセイには、MKK6組換えタンパク質を基質として用いた。図4(a)に示すように、D-MEKK1は、in vitroにおいてMKK6をリン酸化した。D-MEKK1と共沈する他のキナーゼがMKK6をリン酸化するという可能性を排除するため、ATP結合ドメインのLysをArgに置換したキナーゼ機能欠失変異D-MEKK1であるD-MEKK1(K1311R)を用いてFlag-D-MEKK1(K1311R)を作製した。上記と同様の免疫沈降、キナーゼアッセイの結果、D-MEKK1(K1311R)免疫沈降物はMKK6をリン酸化しなかった。これらの結果から、D-MEKK1は、MAPKKKとして機能することが示された。
【0055】
このように、D-MEKK1はin vitroでMKK6をリン酸化することが認められたが、次に、in vivoにおいてD-MEKK1がp38を活性化しうるかを検討した。その結果を図4(b)に示す。293細胞に、D-MEKK1aと、ヘマグルチニン(HA)エピト−プタグを付加したp-38 (HA-p38)とを共導入した。細胞抽出液を、HAを用いて免疫沈降し、そのキナーゼ活性をグルタチオン S-トランスフェラーゼ(GST)-ATF2 タンパク質を基質としてin vitroで測定した。同図に示すように、D-MEKK1とHA-p38とを共導入した細胞ではp38の強い活性化が検出されたが、HA-p38のみ、およびベクターのみの導入ではp38の活性化は殆ど見られなかった。これらの結果により、D-MEKK1はMAPKKKとしてMKK6-p38 MAPK 経路を活性化しうることが示された。
【0056】
実施例3:ショウジョウバエにおけるD-MEKK1の発現
ショウジョウバエの胚発生時のD-MEKK1の発現パターンを検討するため、D-MEKK1 cDNAより作製したアンチセンスRNAプローブを用いたホールマウントハイブリダイゼーションを行った。その結果、図5(a)に示すように、D-MEKK1遺伝子は胚発生を通して発現していた。この結果、D-MKK3/LicおよびD-p38 (Mol. Cell. Biol., 18, 3527-3539, 1998参照)で見られるようなmaternalの高レベルな持ち込みも見られる。発生後期ステージでは殆どの組織でzygoticな発現が見られる。in situハイブリダイゼーションにより3齢後期幼虫におけるimaginal discや、中枢神経系 (データ示さず)でも同様にD-MEKK1 mRNAが発現していることが明らかとなった(図5(b)参照)。コントロールのセンスRNAではシグナルはまったく検出されなかった。
【0057】
実施例4:D-MEKK1変異体の単離
D-MEKK1のin vivoでの機能を明らかにするために、D-MEKK1機能喪失型変異体を作製した。最初に、染色体上におけるD-MEKK1遺伝子のcytological locationをin situハイブリダイゼーションにより特定した。D-MEKK1は3番染色体右腕91Cの領域に存在する。この局在は91A-91Fのデフィシェンシー、Df (3R)Cha7を用いたヘテロ接合体を用いたハイブリダイゼーションにより確認した。次に、SzegedストックセンターよりP因子挿入変異体の候補を入手した。これらの候補のゲノムDNAを用いてのPCR解析により、D-MEKK1遺伝子P因子挿入変異体であるl(3)s028102を得た。l(3)s028102は、PCR産物の塩基配列解析の結果、D-MEKK1キナーゼドメインの280bp上流にP因子が挿入していることが明らかとなった(図6(a)参照)。この10kbにおよぶ挿入により、細胞内でのD-MEKK1タンパク質発現量が減少したが、ウエスタンブロッティングにより検出されるD-MEKK1タンパク質もあった(データ示さず)。
【0058】
D-MEKK1転写産物の一部が欠けたdeletionを作製するため、P因子を用いたさらなる変異導入を行った。P因子を除去させると、通常は元の構造に回復するが、まれに挿入領域周辺のゲノムの欠失を伴うdeletionが起きる(imprecise excision)。
【0059】
PCRを用いたこのスクリーニングの結果、P因子、P-lacWのホワイトマーカーが失われることを指標として得た89の独立したP因子除去系統から、D-MEKK1のdeletion系統を得た。いくつかのdeletion系統の塩基配列解析の結果、D-MEKK1Ur36が、D-MEKK1ローカスの868ヌクレオチドを欠失していることが明らかとなった(図6(a)参照)。この変異体はD-MEKK1aの1194-1483アミノ酸を欠失していることになる。これはD-MEKK1キナーゼサブドメインのI-IX (図3(c)参照)を欠損している。したがってD-MEKK1Ur36は、プロテインキナーゼ活性を失っていると考えられる。D-MEKK1aのN末端 (1-20アミノ酸) およびC端 (1552-1571アミノ酸)ポリクローナル抗体を作製した(各アミノ酸配列については図2(b)参照)。抗D-MEKK1-C抗血清による野生型3齢幼虫の細胞抽出液を用いた免疫沈降-ウエスタンブロッティング実験の結果、D-MEKK1a、D-MEKK1bの双方が検出されたが、D-MEKK1Ur36変異体(Ur36)ではD-MEKK1タンパク質が検出されなかった(図6(b)参照)。この結果、D-MEKK1Ur36変異体(Ur36)では、D-MEKK1は破壊されていることが認められた。
【0060】
実施例5:D-MEKK1変異体は環境ストレスに感受性を示す
D-MEKK1Ur36変異ホモおよびヘミ接合体はviableであり、野生型と比較して明らかな形態上の異常は見られなかった。ショウジョウバエ培養細胞、Schneider細胞株において、D-p38は浸透圧ストレスにより活性化する (J. Biol. Chem., 273, 369-374, 1998参照)ため、D-MEKK1も同様にストレス応答に関与することが予想される。D-MEKK1がストレス応答に関与することを検討するため、高温下でのD-MEKK1Ur36変異体生存率の変化を調べた。その結果を下記表1に示す。通常の飼育温度、25℃では通常の生存率を示すが、より高い温度下(30℃)での飼育の結果、D-MEKK1Ur36ホモ接合体の、ヘテロ接合体に対する生存率は20%程度と大幅に低下した。さらに、高浸透圧下でのD-MEKK1Ur36ホモ接合体の生存率の変化を調べた。表1に示すように、D-MEKK1Ur36ホモ接合体の殆どは0.2M NaClを含む培地で羽化前に死亡した。したがってD-MEKK1変異体はこれらの環境ストレスに対し感受性が高いことが明らかとなった。
【0061】
【表1】
Figure 0004094294
【0062】
D-MEKK1変異体でみられる上記の表現型がD-MEKK1変異に依存するかを検証するため、レスキュー実験を行った。レスキュー実験では、D-MEKK1Ur36に、熱ショックプロモーターで発現可能な野生型D-MEKK1a cDNA トランスジーン (hs-D-MEKK1a)を導入した。熱ショック非誘導下でのD-MEKK1トランスジーンbasal発現では、D-MEKK1Ur36 NaCl感受性の表現型の生存率はほとんど回復できなかったが、図8(a)の実験と同様に熱ショック処理でD-MEKK1の発現を誘導させた結果、表1に示すように、高塩濃度感受性による生存率の低下を効果的に回復できた。この結果、D-MEKK1Ur36個体のNaCl感受性の表現型はD-MEKK1機能喪失に依存していることが明らかとなった。
【0063】
なお、表1において、浸透圧ストレス(Stress)については、最終濃度0.2M となるよう25℃のculture mediumにNaClを加えた。熱ショック(HS)については、幼虫期に1日当たり37℃、1時間の熱ショック処理が行われた。試験数(N)については、交雑の結果得られる各ホモ接合体の理論的期待値として、バランサーを持つsiblings(ホモ接合体と同時に得られるバランサーと変異体のヘテロ接合体)の個体数より決定された。
【0064】
実施例6:環境ストレスはD-MEKK1-D-p38経路の活性化を引き起こす
高温、高浸透圧によるD-MEKK1変異体の感受性の増加は、野生型の個体においてD-MEKK1タンパク質がストレスにより活性化することを示唆している。NaClで処理(NaCl溶液注射によるストレス刺激)した野生型3齢幼虫を用い、その抽出液より、内在性のD-MEKK1タンパク質を抗D-MEKK1抗体で免疫沈降した。MKK6を基質としてin vitroプロテインキナーゼアッセイを行った結果、D-MEKK1の活性は実際に浸透圧ストレスによって調節されていた(図7(a)参照)。D-p38は浸透圧および熱ショックなどのストレス刺激によって活性化する (Mol. Cell. Biol., 19, 2322-2329, 1999など参照)。浸透圧ストレスによるD-p38の活性化を検討するため、リン酸化、活性化したD-p38を特異的に認識する抗phospho p38抗体を用いたウエスタンブロッティングを行った (Mol. Cell. Biol., 19, 2322-2329, 1999参照)。まず、NaCl処理した野生型3齢幼虫のD-p38リン酸化を検討した(図7(a)参照)。次に、この活性化がD-MEKK1を介して行われるのかを検討した。野生型およびD-MEKK1Ur36変異体をNaClで処理し、D-p38活性化を調べた。その結果、D-MEKK1変異体ではNaClによるD-p38の活性化が明らかに野生型と比較して低下していた(図7(b)参照)。変異体におけるD-p38の発現量そのものは野生型とほぼ同じであった。熱ショックにおいても同様に、D-MEKK1Ur36変異体ではD-p38の活性化は野生型と比較して低かった(図7(c)参照)。これらの結果より、D-MEKK1はストレス刺激においてD-p38活性化に必要であることが示された。
D-p38がD-MEKK1を介した経路に関与することを確認するため、D-MEKK1aの異所的発現がD-p38の活性化を引き起こすかどうかを検討した。3齢幼虫においてD-MEKK1aトランスジーンをGAL4-upstream activation sequence (UAS)システムによって発現させた。我々は野生型D-MEKK1a cDNA(UAS-D-MEKK1a)および熱ショックプロモーターによって発現可能なGal4(hs-Gal4)を持つトランスジェニックフライを作製した。熱ショックによる異所的なD-MEKK1aの発現はD-MEKK1タンパク質の発現を誘導し、コントロール個体と比較してのキナーゼ活性の増加がみられた(図8(a)参照)。UAS-D-MEKK1aを持つ個体でのD-MEKK1の発現誘導の結果、抗phospho p38抗体でのウエスタンブロッティングによりD-p38の強い活性化がみられた(図8(b)参照)。一方、コントロール個体ではその活性化は見られなかった。したがって、D-MEKK1の過剰発現はD-p38の活性化を誘導することが明らかとなった。
【0065】
D-MEKK1は、Licタンパク質と結合するタンパク質として同定されたので、LicとD-MEKK1とが同じシグナル伝達経路で機能するという可能性が考えられる。この可能性を検証するため、Licタンパク質がD-MEKK1やD-p38と同様にストレス刺激により活性化するかを検討した。野生型3齢幼虫をNaClで処理し、細胞抽出液中の内在性のLicを、抗Lic抗体により免疫沈降を行った。キナーゼネガティブ型p38を基質として用い、in vitroキナーゼアッセイを行った。浸透圧ストレスの有無いずれにおいてもこれらのアッセイでLicの活性化は検出されなかった(図9(a)参照)。それに対して同じステージにおいて浸透圧ストレスによるD-p38の活性化は検出されている(図9(a)参照)。MAPKKのリン酸化はその特異的なcatalytic domainのリン酸化に依存している。ショウジョウバエが浸透圧ストレスに対して活性化するMAPKKを持つかどうかを検討するため、リン酸化されたMAPKKを特異的に認識する抗phospho MKK3抗体を用いたウエスタンブロッティングを行った。NaCl処理した野生型3齢幼虫において、抗phospho MKK3抗体で認識されるタンパク質が検出された(図9(b)参照)。しかしながらこのタンパク質は分子量の大きさの違いからLicではないと考えられる。熱ショックでも同様にLicのリン酸化は検出されなかった。これらの結果より、LicはD-MEKK1を介した環境ストレスにおけるD-p38の活性化には関与していないと考えられる。
【0066】
考察
p38 MAPK経路はストレスシグナルを伝達すると考えられる。炎症性サイトカイン、浸透圧ショック、バクテリアLPSなどがp38 MAPKの活性を誘導し、サイトカイン産生につながるとされる。また、p38 MAPKは他の事象、例えばアポトーシスや細胞分化に関わるものとみられる。ショウジョウバエは哺乳類MAPKカスケードのホモログを持つことから、個体レベルでMAPK経路の機能を調べるのに適したモデル動物である。これにより本願発明者はショウジョウバエp38 MAPK経路で機能する新規MAPKKK、D-MEKK1を単離、同定した。アミノ酸配列解析の結果から、この遺伝子は哺乳類のカウンターパート、特にMEKK4/MTK1と高い相同性を持つ。D-MEKK1は、ヒトMAPKKであるMKK6をリン酸化することが明らかとなった。また、D-MEKK1機能喪失型変異体は、高温下、および高浸透圧下での飼育で高い感受性を示した。これらの環境ストレスは個体内でのD-MEKK1およびD-p38を活性化する。また、D-MEKK1変異体におけるストレスによるD-p38の活性化は、野生型と比較して弱い。これらの結果からD-MEKK1は、環境ストレスに応答するショウジョウバエp38シグナル伝達経路の主要な構成因子であるといえる。今回の結果は、個体レベルでのストレス応答におけるD-MEKK1-D-p38シグナル伝達経路の重要性を最初に示したこととなるであろう。
【0067】
D-MEKK1とMEKK4/MTK1との相同性の観察から、興味深い点が挙げられる。それは、キナーゼドメインだけでなく、N末端側の調節領域においてもそれらの相同性が高いことである。この類似性はMEKKが共通した調節メカニズムを保持しているということを示唆している。哺乳類MEKKの上流因子として、Ste-20 likeキナーゼ、Cdc42やRacを含む低分子量GTP結合タンパク質、そして三量体Gタンパク質などが知られている。D-MEKK1、MEKK4およびMTK1のN末端側領域はSH3ドメイン、またはタンパク質同士の相互作用に関わるproline-rich領域を持つ。したがってD-MEKK1は、そのN末端側の調節領域を介してそれらの上流因子と相互作用し、調節を受けているかもしれない。ショウジョウバエにおけるD-MEKK1経路に関わる他の因子を同定することは、環境ストレス応答の調節を行うシグナル伝達経路の解明に明らかに価値のある洞察をもたらすだろう。
【0068】
今までの研究より、D-p38はバクテリア感染に対する昆虫の免疫系や、decapentapregic(dpp)を介した翅形成に関与していることが知られている。しかし、D-MEKK1変異体は昆虫の免疫系およびDppシグナル伝達経路に関しては異常が見られなかった (データ示さず)。D-p38の活性化により免疫応答やDppシグナル伝達経路を調節するため他のMAPKKKがredundantに関与している可能性がある。実際、ショウジョウバエにおいてMAPKKKとして機能すると考えられるキナーゼが同定されている。In vivoでの環境ストレス応答において、D-MEKK1が、D-p38a、D-p38bの両方でなく、どちらか一方だけを活性化する可能性がある。この可能性を支持する結果として、D-MEKK1変異体においても環境ストレス刺激下でD-p38の部分的な活性化が起きることがみられる。MAPKのredundancyの類似した例として、酵母が挙げられる。例えば、Kss1とFus3は、通常異なる経路で機能しているが、mating経路においてredundantに機能していることが示されている。このケースでは、機能を失ったFus3をKss1が補う。D-p38aとD-p38bそれぞれの変異体の単離がストレス応答にかかわるD-MEKK1とD-p38間の複雑な繋がりを完全に明らかにするために必要であるだろう。
【0069】
D-MEKK1は、哺乳類p38の活性化因子であるMKK3、MKK6に最も類似したMKKであるLicと特異的に相互作用するタンパク質として同定された。lic遺伝子の変異体は二つの卵母細胞に局在する、それぞれ後極側、背側のspecificationに必要なOskarとGurkenの変化に関連する胚の極性異常を引き起こす。したがって、Lic-D-p38経路はショウジョウバエ卵のパターン形成に重要な役割を果たしていると考えられる。一方、lic変異体とは対照的にD-MEKK1機能喪失型変異ホモ接合体のメスは形態的に正常な卵を生む。これらの卵は受精しており、正常に成虫まで発生する(データ示さず)。したがって、D-MEKK1変異体はlic欠失が示す表現型を示さなかった。酵母 two-hybrid系でD-MEKK1とLicが特異的に相互作用することが示されたにもかかわらず、D-MEKK1は、Escherichia coliより精製したLic組換えタンパク質をin vitroでリン酸化しなかった(データ示さず)。これらの結果より、D-MEKK1はLicとは異なる他のMAPKKを介してD-p38を活性化しているということが考えられる。この可能性は、3齢幼虫後期に環境ストレスを与えた個体でD-MEKK1およびD-p38の活性化が起きているが、Licは活性化しないことからも一致する。
ショウジョウバエDNAデータベース上のLic以外のMAPKK-likeなキナーゼは、哺乳類MKK4と相同性の高いD-MKK4だけである。D-MKK4はin vitroにおいて、D-JNK、D-p38b双方を活性化することができるとされている。このことから、環境ストレス応答においてD-MKK4がD-MEKK1とD-p38の間のMAPKKとして機能することが予想される。実際に、抗phospho MKK3抗体で浸透圧ストレス刺激により誘導されるリン酸化タンパク質の分子量、〜46kDa、は、D-MKK4のそれと類似している。D-MEKK1と、このシグナル伝達経路の保存された構成因子との機能的、および遺伝学的相互作用の解析や、D-p38基質の同定は、ショウジョウバエにおける環境ストレス応答を調節するD-MEKK1-D-p38経路の完全な理解をもたらすものと期待される。
【0070】
哺乳類細胞は4つのMEKKファミリーを持つ。最近の研究結果より、特異的なMEKKは特異的なMAPK経路を調節することが示されている。MEKK1-/- embryonic stem (ES) 細胞では、コールドショック、酸化ストレスおよび高浸透圧によるJNK活性化が減少した。それに対して、これらの刺激ではMEKK1機能喪失にもかかわらずp38活性化は影響を受けない。
【0071】
したがって、MEKK1発現のdisruptionは、異なる種類のストレスに対するJNK活性化の選択的な減少を引き起こしているといえる。この研究から、我々はショウジョウバエD-MEKK1がD-p38経路を調節することを示した。D-MEKK1はJNK経路も同時に調節するのだろうか。JNKシグナル伝達経路が関わる2つのショウジョウバエの発生時の事象が見られる。ひとつはleading edgeの伸長にともなう胚発生時のdorsal closure、もう一つは成虫組織におけるplanar polarityである。しかしながら、D-MEKK1機能喪失変異体はこれらのいずれにも影響を及ぼさなかった。さらに、bsk-/+ ; D-MEKK1-/D-MEKK1-二重変異体胚においてもdorsal closureに影響はみられなかった(データ示さず)。最近、ショウジョウバエTAK1ホモログであるD-TAK1が、JNKシグナル伝達経路に関与していると報告されている。したがってD-MEKK1とD-TAK1はそれぞれ特異的にD-p38とD-JNKを制御していると予想される。哺乳類とショウジョウバエの研究結果より、MAPKKK機能喪失型変異は、たとえ下流のMAPKが他の刺激に応答しても特異的な細胞機能の喪失を引き起こす。したがって、複数のMAPKKKがJNKやp38のような下流の特定の標的分子を刺激しうる一方、特定の刺激に対するシグナル伝達経路の活性化には特定のMAPKKKを必要とするのだろう。これは、異なる様々な刺激に応答するためのより多くの選択性と特異性をもたらすことになると期待される。
【0072】
【発明の効果】
本発明に係るタンパク質、及びその遺伝子等は、以上のように、上記p38の活性化ならびにその調節機構を研究解析するための研究材料として有用であるばかりでなく、こうした研究を通じて、環境ストレス応答等に関わる種々の病気の病態解析やその治療薬の開発、治療改善に有効利用でき、例えば、以下のような目的に利用できる可能性がある。
【0073】
D-MEKK1遺伝子のショウジョウバエでの強制発現系では、下流MAPK、D-p38の活性誘導が強く起きる。p38の活性化は、哺乳類細胞を用いた研究から、炎症反応等で機能していることが知られている。そのため、D-MEKK1トランスジェニックショウジョウバエを用い、D-MEKK1を発現させた状況下で、下流p38の活性化が阻害される因子のスクリーニングを行うことが可能である。これにより、炎症反応を抑制する、抗炎症剤のような薬剤のスクリーニングができると期待される。
【0074】
また、ショウジョウバエD-MEKK1変異体は、高浸透圧、高温などの環境ストレスに対し感受性が高い。このため、これら環境ストレスのみならず、種々の環境汚染物質に対する感受性についても高いことが期待されるため、環境影響評価や、毒性試験などのバイオモニタとして有用である可能性がある。
【0075】
【配列表】
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【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の一形態に係るタンパク質D-MEKK1とLicとの相互作用をyeast two-hybridシステムで調べた結果を示す図である。酵母EGY48株にLexA-DNA binding domain (DBD) 融合タンパクをコードする発現ベクターと、Gal4 transcription activation domain (AD)融合タンパクをコードする発現ベクターとを導入した。融合タンパク質どうしの相互作用はロイシン欠損培地 (-Leu)での酵母の生育を指標に検出した。
【図2】 D-MEKK1遺伝子およびアミノ酸配列の一次構造を示す図であり、(a)は、D-MEKK1遺伝子のゲノム上の構成を模式的に示す図である。図中、エキソンは枠で示され、灰色(および黒色)の部分、白抜きの部分は、それぞれ翻訳領域、非翻訳領域を示している。黒色の部分はキナーゼドメインである。このローカスはD-MEKK1a、D-MEKK1b二つの転写産物を産生する。(b)は、D-MEKK1 cDNAヌクレオチド配列に対応するアミノ酸配列を示す図である。図中、D-MEKK1aのN末端側79アミノ酸残基は枠で囲われた部分であり、D-MEKK1bのN末端は、D-MEKK1aの前記79アミノ酸残基にかわり、MRRKKの5アミノ酸残基からなる。
【図3】 D-MEKK1とマウスMEKK4とを比較した結果を示す図であり、(a)は、D-MEKK1a、D-MEKK1b、MEKK4の構造を比較した図である。図中、パーセント表示は各ドメインのアミノ酸配列の同一性を示している。(b)は、D-MEKK1とMEKK4それぞれのN末端側PH ドメインのアミノ酸相同性を比較した図である。図中、黒地が同一アミノ酸、網掛けが相同アミノ酸を示している。(c)は、D-MEKK1およびMEKK4のキナーゼドメインの同一性を示す図である。それぞれのローマ数字はキナーゼサブドメインを示している。同一アミノ酸は黒地で示される。
【図4】 D-MEKK1のMAPKKKとしての活性を調べた結果を示す図であり、(a)は、D-MEKK1によるMKK6のリン酸化を示す図である。293細胞にコントロールベクター (-)、Flag-D-MEKK1a WT (野生型)、Flag-D-MEKK1a KN(キナーゼネガティブ型)をそれぞれのレーンに示すようにトランスフェクションした。抗Flag抗体による免疫沈降物(IP)を、MKK6を基質としたin vitroキナーゼアッセイに供した。細胞抽出液は抗Flag抗体を用いたウエスタンブロッティング(IB)に供した。(b)は、D-MEKK1によるp38の活性化を示す図である。293細胞にコントロールベクター (-)、Flag-D-MEKK1a、HA-p38を図に示すように導入した。抗HA抗体による免疫沈降物を、GST-ATF2を基質としたin vitroキナーゼアッセイに供した(上段)。免疫沈降したHA-p38の量は抗HA抗体によるウエスタンブロッティング(中段)で、細胞抽出液中のD-MEKK1の発現は抗D-MEKK1-N抗体を用いたウエスタンブロッティング(下段)でそれぞれ検出した。
【図5】(a)は、様々なステージの野生型胚において、D-MEKK1 mRNAの発現を、D-MEKK1プローブを用いて検出した結果を示す図であり、センスストランドのプローブ(sense-RNA)はコントロールとして用いられている。(b)は、3齢後期幼虫成虫原基における眼-触覚成虫原基(eye-antennal disc)および翅成虫原基(wing disc)において、D-MEKK1 mRNAの発現を、D-MEKK1プローブを用いて検出した結果を示す図であり、同様にセンスストランドのプローブ(sense-RNA)がコントロールとして用いられている。
【図6】(a)は、D-MEKK1変異遺伝子(l(3)s028102およびD-MEKK1Ur36)の構造を模式的に示す図であり、図中、エキソンは枠で示され、灰色(および黒色)の部分、白抜きの部分は、それぞれ翻訳領域、非翻訳領域を示している。黒色の部分はキナーゼドメインである。l(3)s028102は、P因子、P-lacWがD-MEKK1に挿入されている。D-MEKK1Ur36は、P因子imprecise excision(不正確なP因子の除去によるゲノムの一部欠損)によるl(3)s028102由来のD-MEKK1部分欠損変異体である。点線は欠損した868ヌクレオチドを示している。(b)は、D-MEKK1タンパク質のウエスタンブロッティングの結果を示す図である。3齢後期幼虫の野生型(WT)およびD-MEKK1 Ur36変異体(Ur36)から得た抽出液を、抗D-MEKK1-N抗体(左パネル)、抗D-MEKK1-C抗体(右パネル)でそれぞれ免疫沈降した。免疫沈降物は、抗D-MEKK1-C抗体でウエスタンブロッティングを行った。
【図7】 D-MEKK1がショウジョウバエにおいて環境ストレスによるD-p38活性に関与するかを調べた結果を示す図であり、(a)は、浸透圧ストレスによるD-MEKK1活性化を調べた結果を示す図である。野生型3齢幼虫に1.2M NaCl (+)あるいは等張液(幼虫の体液濃度に対する等張液) (-)を注射した。それぞれの抽出液を用いて、抗D-MEKK1-N抗体で免疫沈降を行った。免疫沈降物を用いて、MKK6を基質としてin vitro キナーゼアッセイを行った(上段パネル)。免疫沈降物は、抗D-MEKK1-N抗体を用いてウエスタンブロッティングを行った(2番目のパネル)。細胞抽出液をそれぞれ抗phospho p38抗体(3番目のパネル)、抗D-p38b抗体(下段パネル)でウエスタンブロッティングを行った。(b)は、浸透圧ストレスによるD-p38の活性化を調べた結果を示す図である。3齢幼虫の野生型(WT)およびD-MEKK1Ur36変異体(Ur36)に1.2M NaCl (+)あるいは等張液 (-)を注射した。それぞれの抽出液は抗phospho p38抗体(上段パネル)または抗D-p38抗体(下段パネル)でウエスタンブロッティングを行った。(c)は、熱ショックによるD-p38の活性化を調べた結果を示す図である。3齢幼虫の野生型(WT)およびD-MEKK1Ur36変異体(Ur36)に37℃1時間の熱ショック処理を行い(HS+)、または熱ショック処理を行わなかった(HS-)。それぞれの抽出液は抗phospho p38抗体(上段パネル)または抗D-p38抗体(下段パネル)でウエスタンブロッティングを行った。
【図8】(a)は、D-MEKK1過剰発現時のD-MEKK1キナーゼ活性を調べた結果を示す図である。hs-Gal4、UAS-D-MEKK1を共に持つ3齢幼虫と、hs-Gal4のみを持つ3齢幼虫(hs-Gal4/+)とにそれぞれ37℃30分熱ショックを与え、その後25℃で2時間インキュベートした。これら幼虫の抽出液を、抗D-MEKK1-N抗体を用いて免疫沈降を行った。免疫沈降物は、MKK6を基質とするin vitro キナーゼアッセイに供した(上段パネル)。細胞抽出液をそれぞれ抗D-MEKK1-N抗体(2番目のパネル)、抗D-p38b抗体(下段パネル)でウエスタンブロッティングを行った。(b)は、D-p38活性化に対するD-MEKK1過剰発現の効果を調べた結果を示す図である。hs-Gal4、UAS-D-MEKK1を共に持つ3齢幼虫(上段パネル)と、hs-Gal4のみを持つ3齢幼虫(下段パネル)とにそれぞれ37℃30分熱ショックを与えた。熱ショック後、幼虫を25℃で図に示す時間(min)インキュベートした。これらの幼虫からの抽出液を抗phospho p38抗体でウエスタンブロッティングを行った。
【図9】ショウジョウバエにおける浸透圧ストレスによるMAPKKの活性化を調べた結果であり、(a)は、Lic活性が浸透圧ストレスによって変化するか調べた結果を示す図である。3齢幼虫の野生型(WT)に1.2M NaCl (+)あるいは等張液 (-)を注射した。抽出液を、抗Lic抗体を用いて免疫沈降を行った。免疫沈降物を、キナーゼネガティブ型(KN)p38を基質としたin vitro キナーゼアッセイに供した(上段パネル)。免疫沈降物は、抗Lic抗体を用いたウエスタンブロッティングを行った(2番目のパネル)。細胞抽出液は、抗phospho p38抗体(3番目のパネル)、抗D-p38b抗体(下段パネル)でウエスタンブロッティングを行った。また、図中、右パネルに係る実験では、293細胞にHA-MKK6をトランスフェクションした。細胞抽出液を抗HA抗体で免疫沈降し、沈降物をキナーゼネガティブ型(KN)p38を基質としたin vitroキナーゼアッセイに供した(右上パネル)。HA-MKK6の細胞中の発現を、抗HA抗体を用いたウエスタンブロッティングにより検出した(右下パネル)。(b)は、浸透圧ストレスによるMAPKKの活性化を調べた結果を示す図である。3齢幼虫の野生型(WT)に1.2M NaCl (+)あるいは等張液 (-)を注射した。抽出液を、抗phospho MKK3抗体(左パネル2レーン)、抗Lic抗体(右パネル2レーン)でウエスタンブロッティングを行った。

Claims (12)

  1. 以下の(a)又は(b)のタンパク質をコードする遺伝子からなる p38 MAP キナーゼ活性化剤。
    (a)配列番号2または4に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
    (b)配列番号2または4に示されるアミノ酸配列において、1またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、p38 MAPキナーゼを活性化する性質を持つタンパク質。
  2. 上記遺伝子がショウジョウバエ由来である請求項1記載のp38 MAP キナーゼ活性化剤。
  3. 上記遺伝子が、cDNAであって、配列番号1に示される塩基配列のうち、277〜4992番目の塩基配列をオープンリーディングフレームとして有する請求項1記載のp38 MAP キナーゼ活性化剤。
  4. 上記遺伝子が、cDNAであって、配列番号3に示される塩基配列のうち、787〜5280番目の塩基配列をオープンリーディングフレームとして有する請求項1記載のp38 MAP キナーゼ活性化剤。
  5. 上記遺伝子が、ゲノムDNAであって、配列番号5に示される塩基配列のうち、5147〜15105番目の塩基配列を有する請求項1記載のp38 MAP キナーゼ活性化剤。
  6. 上記遺伝子が、ゲノムDNAであって、配列番号5に示される塩基配列のうち、9073〜15105番目の塩基配列を有する請求項1記載のp38 MAP キナーゼ活性化剤。
  7. 配列番号2または4に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質からなる p38 MAP キナーゼ活性化剤。
  8. 配列番号2または4に示されるアミノ酸配列において、1またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、p38 MAPキナーゼを活性化する性質を持つタンパク質からなる p38 MAP キナーゼ活性化剤。
  9. 試験管反応系において、MKK6(MAP Kinase Kinase 6)をリン酸化する活性を持つ請求項7または8記載のp38 MAP キナーゼ活性化剤。
  10. 浸透圧ストレスまたは熱ストレスを受けた細胞において、p38 MAPキナーゼをより活性化する性質を持つ請求項7〜9のいずれか1項に記載のp38 MAP キナーゼ活性化剤。
  11. 以下の(a)もしくは(b)のタンパク質、または当該タンパク質をコードする遺伝子を用いることによって、試験管反応系において、MKK6( MAP Kinase Kinase 6 )をリン酸化する方法。
    (a)配列番号2または4に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
    (b)配列番号2または4に示されるアミノ酸配列において、1またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、 p38 MAP キナーゼを活性化する性質を持つタンパク質。
  12. 以下の(a)もしくは(b)のタンパク質、または当該タンパク質をコードする遺伝子を用いることによって、浸透圧ストレスまたは熱ストレスを受けた細胞において、 p38 MAP キナーゼを活性化する方法。
    (a)配列番号2または4に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
    (b)配列番号2または4に示されるアミノ酸配列において、1またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、 p38 MAP キナーゼを活性化する性質を持つタンパク質。
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