JP4078726B2 - 多層強化繊維シートおよび構造物の補修・補強方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、強化繊維シートおよび構造物の補修・補強方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
橋の床版や橋脚、トンネル、煙突や建物などのコンクリート構造物は、長年の使用によりコンクリートの中性化や錆の発生による劣化、通行する車両重量制限の緩和による負荷の増大、地震による損傷やより大きな地震を想定した耐震基準の見直しなどによって、補修・補強が必要となってきている。
【0003】
最近、これら構造物の補修・補強は、施工が容易なことから、強化繊維からなるシートを構造物に貼り、常温硬化型の樹脂を含浸させる方法、いわゆるハンドレイアップ法が注目されている。この方法は常温で樹脂が1週間程度で完全に硬化し、現場で強化プラスチック板が成形され、また強化プラスチック(以下、FRPと呼称)板と構造物の接着も同時に行われるから補修・補強の工事が簡便となる。
【0004】
ところが、構造物の補修・補強部分は、床版下面のような天井面や橋脚、建築構造物の柱など鉛直面などもあり、これらの天井面や鉛直面に樹脂を塗布すると樹脂が垂れ落ち、所定の樹脂量が塗布出来なくなることから、これらを防ぐため通常使われている樹脂の粘度は2,000〜25,000mPa・s(ミリパスカル×秒)と非常に高い。通常、ハンドレイアップ成形法は、ボートやタンクなどの成形法として多用されているが、ここで用いられている常温硬化型の不飽和ポリエステル樹脂やビニルエステル樹脂の粘度は、シートを構成する強化繊維への樹脂含浸の観点から200〜500mPa・s、高くてもせいぜい1,000mPa・s程度である。これと比べて構造物の補修・補強に用いられている樹脂の粘度は極めて高く、強化繊維への樹脂含浸性はあまりよくない。
【0005】
このようなことから、構造物の補修・補強に多用されている強化繊維シートは薄く、強化繊維が炭素繊維のもので炭素繊維目付が200〜300g/m2 、すなわち1平方メートル当たりの炭素繊維の体積が110〜170cm3 程度の、炭素繊維が一方向に配列した薄い強化繊維シートである。
【0006】
したがって、構造物の補修・補強に必要な強化繊維量に対処するには使用する強化繊維シートの枚数が多くなり、各シートごとに樹脂含浸作業が必要となるから、樹脂含浸作業回数が多くなり厄介である。
【0007】
一方、単にシート1枚当たりの強化繊維量を増やしたのでは、シートを構成する強化繊維糸条が密に配列し、集束度合いが大きくなり、繊維間隔が詰まり樹脂含浸が困難となる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような現状に着目し、1枚当たりの強化繊維量が大きくてかつ樹脂含浸性に優れた多層強化繊維シートを提供し、また施工性に優れる構造物の補修・補強方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明は、基本的には下記の構成を有する。即ち、「強化繊維糸条が並行にシートの長さ方向に配列したシート基材が、強化繊維の方向が同じになるように多層重なって、隣接する層が互い一体化されており、該強化繊維の嵩密度(シートの体積/強化繊維の体積)が220〜300%であることを特徴とする多層強化繊維シート。」である。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の多層強化繊維シート1の概念を示す部分破断斜視図を図1に示した。強化繊維糸条2がシートの長さ方向イに多数本並行に配列した第1層目の基材31 と第2層目の基材32 の2層が強化繊維の方向が同じになるように重なっており、基材31 と基材32 を織組織や接着などの一体化手段(図1には図示せず)によって互い一体化させたものである。
また、本発明の多層強化繊維シートの嵩密度は220〜300%の範囲である。嵩密度が220%以下であると繊維シートを形成する強化繊維の配列密度が大きくなり、すなわち単繊維間の間隙が小さくなるので樹脂含浸性が悪くなり、また高粘度樹脂をハンドレイアップ法で含浸させる際の空気の抱き込みを防ぐことが困難となる。また、嵩密度が300%以上であると、樹脂の含浸性や空気の抱き込みという問題はないが、シートの繊維が嵩高となっているので、シートの繊維間を充填するに必要な樹脂量が多くなってしまう。また、樹脂を塗布し含浸ローラがけすることによって、嵩高なシートを押さえ、樹脂量は少なくすることは可能であるが、押さえられたシートはもとの嵩高な状態に回復する、すなわちスプリングバック現象が起きるから、回復したシートに対する樹脂量が不足し、樹脂が硬化したFRPではボイドが多く入った状態となってしまう。
本発明における嵩密度Vとは、下記の算出式で計算される値をいう。
V=A×t÷(w/ρ)×100(%)
ここで、t:多層強化繊維シートの厚さ(cm)
A:織物の面積(cm 2 )
w:織物の面積Aにおける強化繊維シート重量(g)
ρ:強化繊維の密度(g/cm 3 )
ここで、シートの厚さの測定方法は、JIS R 7602 5.6項の、厚さ測定器がダイアルゲージ法に準じた。ただし、荷重は50kPaとし、シートに荷重をかけてから20秒経過後の値を読取り、シートの枚数で割り、1枚当たりの厚さとした。なお、シートが織物である場合、よこ糸の補助糸がシートの厚さに及ぼす影響を極力少なくするように、重ね合わせる補助糸の位置が互いにずれるようにシートを数枚重ね合わせて厚さを測定し、シートの重ね合わせ枚数で割って、1枚当たりの厚さを求めた。
なお、必ずしも層数は2層である必要はなく、3層や4層であってよく、限定するものではない。
【0011】
本発明の多層強化繊維シートは、基材の形態および多層構造とするための一体化手段によって分類することができる。
【0012】
まず、一体化手段が接着による場合を説明するに、図2〜図4に本発明の多層強化繊維シートを構成する基材の形態を示した。
【0013】
図2は強化繊維糸条2が基材の長さ方向ロ、つまり織物のたて方向に配列し、よこ方向に強化繊維糸条より細い補助糸4が配列し、たて糸2とよこ糸4が交錯し、織組織した一方向織物である。図3は基材の長さ方向ロ、つまり織物のたて方向に強化繊維糸条2と補助糸5が配向し、よこ方向に補助糸4が配向し、よこ糸の補助糸4がたて糸の補助糸5と交錯し、強化繊維糸条2がよこ糸4と交錯すること無く、真直ぐに配向した、いわゆる一方向ノンクリンプ織物である。また、図4は強化繊維糸条が真直ぐに一方向に並行配列した強化繊維糸条2のシートとメッシュ状の支持体6とを接着剤またはメッシュの線材7、8の表面に存在する熱可塑性ポリマーなどで融着して一体化したトウ・シートである。メッシュ状の支持体6は互いに直交する線材は必ずしも2方向に限定するものではなく、よこ方向のみの1方向や、長さ方向と強化繊維糸条に対して±α゜に配向した3方向であってもよい。また、基材は一方向に配列した強化繊維糸条を細い補助糸で編組織させた一方向編物であってもよい。
【0014】
これらの形態を有する基材は、構造物の補修・補強する際にこれまで使われており、とくに新しいものではない。
【0015】
本発明の多層強化繊維シートは、これらの基材を多数枚重ね合わせ、一体化したものである。図5は本発明の多層強化繊維シートの1実施例で、部分破断した斜視図である。接着手段によって、基材としての一方向織物を2枚重ね合わせた多層強化繊維シートであり、第1層目の基材31 と第2層目の基材32 の層間が点状の接着剤9で接着している。
【0016】
点状に接着させるには、熱溶融性の熱可塑性樹脂粉末を基材31 の片面に均一に疎らにふりかけ、この接着剤が付着した面に基材32 を重ねて熱可塑性樹脂を加熱溶融して基材31 と基材32 を接着することができる。
【0017】
また、接着剤の付着状態が線状であってもよい。線状に接着させるには、織物を製織する際、熱溶融性の熱可塑性樹脂からなるポリマー糸とよこ糸と引き揃えて織物に織り込み、このポリマー糸を溶融することによってたて糸とよこ糸を接着させた、いわゆる目どめ織物を作製する。この織物を重ね、再びポリマー糸の溶融以上に加熱してポリマーを溶融させ、必要に応じて加圧することによって基材31 と基材32 を接着することができる。また、基材31 と基材32 の間にポリマー糸を基材に多数本介在させ、ポリマー糸の溶融以上に加熱してポリマーを溶融さることによっても得られる。また、常温で粘着性のある接着剤が付着したメッシュ状物を基材31 と基材32 の間に介在させて接着することも出来る。
【0018】
このように、接着剤が点状あるいは線状に基材に付着していると、接着剤が樹脂含浸を阻害するようなことはないので好ましく、またハンドレイアップ成形の際、樹脂含浸ローラがけによって強化繊維糸条やよこ糸の目ずれを防ぐことが出来るので好ましい。また、基材同士の接着は、基材の層間にBスージ状態の熱硬化性樹脂からなる薄い5〜15g/m2 程度のフイルム介在させるようにしてもよい。または、希釈剤で溶解した熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂溶液を基材31 に噴霧状に吹き付け、希釈剤を乾燥することによって基材32 と接着することもできる。
【0019】
樹脂の含浸性は、JIS L 1096法によるシート通気量と密接な関係があり、前記通気量で40〜300CC/cm2/secであることが好ましいことがわかった。
【0020】
通気量がの40CC/cm2/sec未満であると、補強繊維糸条を形成する炭素繊維の嵩密度が小さくなり、すなわち、炭素繊維同志が形成する空間が小さく、また補強繊維糸条間の隙間が小さくて、樹脂の含浸性が悪く、ボイドを発生させる。
【0021】
また、300CC/cm2/secでは、補強繊維糸間の隙間が大きい織物であるため、補強繊維部の厚みが増大して表面が凸凹し、また、補強繊維糸が強固に集束されるために補強繊維糸条内への樹脂の含浸性が低下する問題がある。
【0022】
通気量の測定は、JIS L 1096法6.27項の通気性A法に従った。
【0023】
すなわち、円筒の一端が38.3cm2 通気孔に20cm×20cmのシート試験片を所定の方法で取り付け、加減抵抗器によって傾斜形気圧計が水柱1.27cmの圧力を示すように吸い込みファンを調整し、その時の垂直形気圧計の示す圧力と、使用した空気孔の種類とから、試験機付随の換算表によってシート試験片を通過する空気量(CC/cm2/sec)を求め5回の測定結果の平均値を通気量とした。
【0024】
なお、温度が20℃、湿度が65%の室内に試料を24時間放置した後、その雰囲気下で測定した。なお、後述する実施例では、通気量測定器として、(株)大栄科学精器製作所のフラジール形試験機AP−360を使用した。
【0025】
本発明の基材同士の接着に用いる熱可塑性樹脂としてはナイロン、共重合ナイロン、ポリエステル、共重合ポリエステル、塩化ビニリデン、塩化ビニル、ポリエレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、アクリルなどであるが、なかでも融点が70〜160℃程度の低融点で溶融する共重合ナイロンであると一体化のための加熱、圧着操作が簡単であり、また接着性もよいので好ましい。
【0026】
また、本発明の基材同士の接着に用いる熱硬化性樹脂としてはエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂やフェノール樹脂などであるが、好ましくは本発明の多層強化繊維シートを用いた補強・補強方法に使う含浸用樹脂と同じもの、すなわち含浸用樹脂がエポキシ樹脂の場合、接着に用いる熱硬化性樹脂もエポキシ樹脂であるとよい。常温で粘着性のある接着剤としてはスチレン・ブタジエンゴム、ポリイソブチレン、エチレン・酢ビ共重合体、アクリル系、酢ビ共重合体などがある。
【0027】
本発明の基材同士の接着に用いる接着剤は本質的に強化繊維樹脂の含浸用樹脂となる必要はない。また基材同士の接着度合いは、強固である必要はなく、取扱い時に基材同士の接着が剥がれない程度であればよいのであるから、基材同士の接着に用いる接着剤の量は極力少ないほうがよく、2〜15g/m2 程度である。15g/m2 以上となると多重強化繊維シートへの樹脂含浸が阻害されたり、含浸用樹脂と接着剤との接着が悪くなり好ましくない。
【0028】
図5に示した本発明の多層強化繊維シートの実施例は基材として一方向織物の例を示したが、図3に示した一方向ノンクリンプ織物や図4に示したトウ・シートであってもよいし、これらの組み合わせであってもよい。
【0029】
また、本発明の多層強化繊維シートは、隣り合う層の基材間に適度の隙間を有することが好ましい。上記の接着による一体化の際、基材と基材との間にメッシュ状物を介在させてもよい。メッシュ状物が基材31 と基材32 の間に存在すると、樹脂含浸のローラ掛けで基材31 (または32 )を透過した未硬化の樹脂が、厚みのあるメッシュ状物の空隙に入る、すなわち層間に未硬化の樹脂層を存在することになるから、この樹脂が基材32 (または31 )へ含浸し、繊維シートが厚くあっても樹脂含浸が容易となる。なお、メッシュ状物は2方向または3方向に線材が配向し、好ましい厚さは0.1〜0.4mmである。あまり厚すぎると、基材間に樹脂が多く存在する、すなわち樹脂の使用量が多くなるのでコストアップとなり不経済である。
【0030】
また、本発明の多層強化繊維シートは、強化繊維糸条が多層に重なって、強化繊維糸条に直交する補助糸の交錯によって織り組織で一体化した、いわゆる一方向多重織物であってもよい。図6は一方向多重織物の1実施例として2重織物を示す断面図である。図面において、強化繊維糸条21 と補助糸41 とからなる平織物31 と、強化繊維糸条22 と補助糸42 とからなる平織物32 の多層構造を有する。そして平織物31 の一部の補助糸41 と平織物32 の強化繊維糸条22 と互いに交錯することによって平織物31 と平織物32 とが一体に保持されている。
【0031】
このように織り組織で一体化すると、一体化させるために接着剤など使わなくてよいから、樹脂の含浸が阻害されるようなことはない。また、平織物31 と平織物32 との間に空隙A部を形成するので、含浸ローラがけにより平織物31 の下面から高粘度樹脂は平織物31 への樹脂含浸が行われる。また、通常、樹脂がシートの全面に全体に行き渡るように、必要量以上樹脂量が塗布されているので、余った樹脂やコンクリートと織物31 間に存在した空気は織物31 内部の樹脂と置換された空気は空隙A部へと移動する。織物31 がコンクリートとの間で空気を抱き込むようなことはなく、また織物31 への樹脂含浸が行われる。次に、空隙A部に貯溜された樹脂は平織物32 の下面から織物32 の内部に含浸し、また平織物32 の上面に塗布される樹脂によっても織物32 の内部に含浸するから、強化繊維を高目付することによって含浸性が阻害されるようなことはない。
【0032】
また、多重織物を製織する際に、よこ方向に補助糸と低融点ポリマー糸を引き揃えて挿入し、低融点ポリマー糸を溶融してたて糸の強化繊維糸条とよこ糸の補助糸の交点を低融点ポリマー10で接着すると、裁断によって織糸がほつれることがなく、また成形の際、織糸が目ずれすることはない。
【0033】
本発明の多層強化繊維シートを構成する基材一層の1平方メートル当たりの強化繊維の体積は、樹脂の含浸性および施工性から100cm3 から350cm3 の範囲が好ましい。100cm3 以下であると一層当たりの強化繊維量が少なくなるので、所望の多層強化繊維シートを作製するには重ねる基材の枚数が多くなる。つまり、1m当たりの多層シートを作製するために必要となる基材の長さが長くなるので、多層シートに占める基材の加工費が大きくなりコストアップするし、枚数が多くなるので重ね合わせの費用も大きくなり、好ましくない。また、350cm3 以上になると一層当たりの繊維量が大きくなるので、樹脂の厚さ方向の流通抵抗が大きくなり、多層シートへの樹脂含浸性が悪くなり好ましくない。
【0034】
なお、本発明における1平方メートル当たりの強化繊維の体積とは、[シートの体積重量/強化繊維密度]をいう。
【0038】
本発明の多層強化繊維シートを構成する同じ層内の強化繊維糸条の糸条間に隙間を設けておくと、樹脂が高粘度であっても、含浸ローラがけで、構造物に塗布した樹脂が糸条間の隙間から繊維シートの厚さ方向に移動させることが出来、樹脂の繊維シートへの透過性がよくなる。したがって、また樹脂の分散が良くなるし、また構造物と繊維シートとの間に余分な樹脂が存在することによって、樹脂が硬化した後に硬化板の表面が凸凹するのを防ぐことができる。このようなことから、糸条と糸条の隙間が0.1〜2.0mmあると好ましい。
【0039】
なお、樹脂の含浸は、シート基材を構成する強化繊維糸条の周囲から、糸条の中心部へと進行するが、あまり太いと糸条の中心部までの距離が長くなり好ましくない。また、糸条が細いと、所定の繊維量を有するシート基材を得るためには、糸条間隔を詰めた状態となり、樹脂の透過性が悪くなる。したがって、強化繊維糸条の繊維断面積の総和が0.2mm2 〜2.0mm2 の範囲が好ましい。より好ましくは0.3mm2 〜1.2mm2 の範囲である。
【0040】
本発明に使用する強化繊維は、炭素繊維、ガラス繊維、ポリアラミド繊維などの高強度であり高弾性率の繊維である。なかでも、炭素繊維は耐アルカリ性に優れるので好ましい。炭素繊維の引張強度は2,500〜6,000MPa、引張弾性率は230〜600GPaの範囲でありとくに限定しないが、橋脚や柱などの剪断補強には4,000〜6,000MPaの高強度の炭素繊維、床版などの曲げ剛性補強には400〜700GPaの高弾性率の炭素繊維を使用すると繊維量が少なくて所定の補強効果が得られる。
【0041】
また、強化繊維糸条のサイジング剤は多層強化繊維シートを製造する際のプロセス性を向上させる点では多く付着させたほうが好ましいが、あまり多いと樹脂の含浸性が阻害される。とくに、炭素繊維の場合は単繊維径が5〜10ミクロンと細く、樹脂含浸性が他の強化繊維より劣るので、0.15〜0.6%の範囲の少量の付着量が好ましい。
【0042】
本発明の多層強化繊維シートの好ましい実施態様としては、強化繊維糸条は10,000〜30,000フイラメントの炭素繊維糸条であり、前記シート基材の1平方メートル当たりの重量が200〜350gで、シート基材が2層で、繊維シートの炭素繊維重量が1平方メートル当たり400〜700g、シートの重量が420〜800gである。強化繊維は耐アルカリ性に優れる炭素繊維であり、また10,000〜30,000フイラメントの糸条、つまり糸条の炭素繊維断面積の総和が0.3〜1.2mm2 であるから糸条内部への樹脂の含浸も良く、またシート基材の1平方メートル当たりの重量が200〜350gであるから、糸条間に適度な隙間を設けることができる。また、炭素繊維の重量が1平方メートル当たり420〜800gと多いから、積層枚数が従来の1/2となる、また、シートの重量が420〜800gであるから、樹脂の粘度やチクソ性にもよるが、樹脂含浸した後、硬化するまでにシートが滑るようなこともない。
【0043】
本発明の多層強化繊維シートが多重織物の場合、および基材が織物の場合の補助糸は実質的には強化繊維としての役割を担わなく、織物組織形成に使用するものであるから強化繊維糸条の太さの1/3以下程度の太さであり、ガラス繊維、ポリアラミド繊維や炭素繊維などの熱収縮率が小さなものが好ましい。
【0044】
また、基材における補助糸の糸密度は、0.5〜6本/cm程度と粗くしておくと、補助糸による強化繊維糸条の拘束が甘く、樹脂の含浸性がよい。
【0045】
本発明の多層強化繊維シートを用いて、次のように構造物の補修・補強を行うことが出来る。
【0046】
構造物として、コンクリート構造物を補修・補強する場合について説明するに、まずコンクリート面の汚れを石鹸水やアセトンなどで除去し、パテを塗布して不陸調整して表面を平滑にする。ついでFRPとの接着を良くするために、エポキシ樹脂系のプライマーを塗布して一昼夜放置した後、その上に常温硬化型の樹脂粘度が2,000〜25,000mPa・s程度の樹脂を下塗りとして、繊維シート重量の1.5〜2.5倍程度の樹脂を均一に塗布した後、多層繊維強化シートを貼り、溝付きの樹脂含浸ローラで樹脂含浸と同時に脱泡を行う。ついで、シートの上に上塗りとして繊維シート重量の0.5〜1.5倍程度の樹脂を均一に塗布した後、さらに樹脂含浸ローラがけする。2層目以降の積層は1層目と同じように、樹脂の下塗り、強化シートの貼り付け、樹脂含浸ローラがけおよび上塗り樹脂の塗布を行って、所定の枚数を繰り返せばよい。
【0047】
なお、上記において多層繊維強化シートを貼って、その上に直ちに上塗り樹脂を塗布し、その後に含浸ローラがけを行ってもよい。
【0048】
また、1層目の樹脂を硬化させた後、次の層の成形を行ってよいし、1層目の常温硬化型樹脂が硬化するまでに2層、3層目も連続的に成形することが出来る。
【0049】
本発明の補修・補強に使用する樹脂はエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの常温硬化型の樹脂やメチルメタクリレイト樹脂であってもよい。
【0050】
【実施例】
(実施例1)
強化繊維糸条とし24,000フイラメントのPAN系炭素繊維(糸条の繊度:14400デニール、比重:1.80)をたて糸として用い、よこ方向によこ糸としてのガラス繊維糸(ECG 75 1/0、繊度:608デニール、比重:2.54)と目どめ糸としての融点が120℃の低融点ナイロン50デニール糸を引き揃えて、第1層目と第2層目の織物基材が各々たて糸密度;1.88本/cm、よこ糸糸密度;3本/cmで各織物基材の組織が平組織で、第1層目と第2層目を第1層目のよこ糸の一部で織物組織で一体化させ、織機上に取り付けたヒータで150℃に加熱して低融点ナイロンを溶融し、たて糸とよこ糸を接着させた本発明の多層繊維強化シートを作製した。なお、第1層目と第2層目を第1層目のよこ糸による織物組織で一体化は、まずよこ糸を連続的に7本を挿入して第1層目に3本、第2層目に4本挿入して第1層目および第2層目を通常の平組織させ、次のよこ糸1本は第1層目の、連続したたて糸4本を1単位として、4本のうちの3本とは通常の平組織させ、次は第1層目のたて糸とは交錯させず、第2層目のたて糸1本と交錯させることに行うことができる。これらはたて糸の開口・閉口運動を制御するドビーの操作によって自動的に行うことが出来る。
【0051】
多層繊維強化シートの、第1層目および第2層目の織物基材の炭素繊維目付は300g/m2 、基材の1平方メートル当たりの炭素繊維体積は167cm3 、シートの炭素繊維の嵩密度は234%で、第1層目および第2層目の織物基材の炭素繊維糸条の隙間は0.3mmであった。
【0052】
次に、平滑なコンクリート面にFRPとの接着を良くするために、エポキシ樹脂系のプライマーを塗布して一昼夜放置した後、常温硬化型の、樹脂粘度が10,000mPa・sの樹脂を下塗りとして800g/m2 均一に塗布した後、1層目として上記の多層繊維強化シートを貼り、溝付きの樹脂含浸ローラで樹脂含浸と同時に脱泡を行った。シートの下面から余分な樹脂が絞り出されてきた。ついで、シートの上に上塗りとして600g/m2 の樹脂を均一に塗布した後、さらに樹脂含浸ローラがけし、そのまま放置して樹脂を硬化させた。ついで、1層目と同様に2層目の下塗り樹脂を800g/m2 均一に塗布した後、多層繊維強化シートを貼り、樹脂含浸ローラがけを行い、上塗りとして600g/m2 の樹脂を均一に塗布した後、さらに樹脂含浸ローラがけを樹脂を硬化させた。下塗り樹脂を塗布した後の2層目の樹脂含浸ローラがけの際、1層目と同様に余分な樹脂は絞り出されてきた。樹脂が硬化した後のFRPの表面は平滑性であり、また、FRPを断面観察したところ大きなボイドが無く、また樹脂も十分に含浸されていた。
【0053】
(比較例1)
実施例と同じ強化繊維糸条およびよこ糸、目どめ糸を用い、強化繊維糸条をたて糸とし、よこ方向によこ糸ガラス繊維糸と目どめ糸を引き揃えて、たて糸密度;3.75本/cm、よこ糸糸密度;3本/cmの平組織の織物を製織し、織機上に取り付けたヒータで低融点ナイロンを溶融し、たて糸とよこ糸を接着させた一方向炭素繊維織物を作製した。
【0054】
一方向炭素繊維織物の炭素繊維目付は600g/m2 、基材の1平方メートル当たりの炭素繊維体積は333cm3 、シートの炭素繊維の嵩密度は204%で、炭素繊維糸条の隙間はほとんど無かった。
【0055】
次に、実施例と同じ方法、同じ樹脂で同じ樹脂量をコンクリート面に下塗りした後、上記の炭素繊維織物を貼り、溝付きの樹脂含浸ローラで樹脂含浸と同時に脱泡を行ったが、1層目、2層目ともシートの下面から余分な樹脂が絞り出されなかった。樹脂が硬化した後のFRPの表面は、コンクリート面に余分な樹脂が溜まって凸凹し、見栄えが悪い状態であった。また、FRPを断面観察したところ大きなボイドがあり、また樹脂も十分に含浸してない箇所があった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る多層強化繊維シートの概念を示す部分破断斜視図である。
【図2】本発明に係る多層強化繊維シートを構成する基材としての一方向織物の斜視図である。
【図3】本発明に係る多層強化繊維シートを構成する基材としての一方向ノンクリンプ織物の斜視図である。
【図4】本発明に係る多層強化繊維シートを構成する基材としてのトウ・シートの斜視図である。
【図5】本発明に係る多層強化繊維シートを示す部分破断斜視図である。
【図6】本発明に係る多層強化繊維シートとしての、一方向2重織物の破断図である。
【符号の説明】
1 :多層強化繊維シート
2 :強化繊維糸条
21 :第1層目の強化繊維糸条
22 :第2層目の強化繊維糸条
3 :基材
31 :第1層目の基材
32 :第2層目の基材
4 :よこ糸(補助糸)
41 :第1層目のよこ糸
42 :第2層目のよこ糸
5:たて補助糸
6:支持体
7:メッシュの線材
8:メッシュの線材
9:接着剤
10:低融点ポリマー
イ:多層強化繊維シート長さ方向
ロ:基材の長さ方向
A:空隙
Claims (10)
- 強化繊維糸条がシートの長さ方向に並行に配列した基材が、強化繊維の方向が同じになるように多層重なり、隣接する層が互いに一体化されており、該強化繊維の嵩密度(シートの体積/強化繊維の体積)が220〜300%であることを特徴とする多層強化繊維シート。
- 前記基材の1平方メートル当たりの強化繊維の体積が100〜350cm3 であることを特徴とする請求項1に記載の多層強化繊維シート。
- 前記基材は一方向織物であって、前記一体化手段が織組織であることを特徴とする請求項1または2に記載の多層強化繊維シート。
- 前記一体化手段が接着によることを特徴とする請求項1または2に記載の多層強化繊維シート。
- 前記基材の層間にメッシュ状物が介在してなる請求項4に記載の多層強化繊維シート。
- 前記基材が織物である請求項4または5に記載の多層強化繊維シート。
- 前記強化繊維糸条は10,000〜30,000フイラメントの炭素繊維糸条であり、前記基材の1平方メートル当たりの重量が200〜350gで、基材が2層であることを特徴とする請求項1乃至は6のいずれかに記載の多層強化繊維シート。
- 前記強化繊維糸条間に隙間を設けてなる請求項1乃至は7に記載の多層強化繊維シート。
- 構造物の補修または補強したい部位に樹脂を塗布し、請求項1乃至は8のいずれかに記載の多層強化繊維シートを貼り付けて補修・補強することを特徴とする構造物の補修または補強方法。
- 前記構造物がコンクリート構造物であることを特徴とする請求項9に記載の構造物の補修または補強方法。
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