JP4078711B2 - 刺繍ミシン - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、縫い針の目孔に上糸を自動的に通す糸通し装置を備えた刺繍ミシンに関する。
【0002】
【従来の技術】
図16は上記ミシンの一例を示している。ここで、ミシン機枠内には針棒台1が配設されており、針棒台1には針棒2が上下動可能に装着されている。また、針棒台1には操作体3が上下動可能に装着されており、操作体3の上端部には筒状部3aが設けられ、筒状部3aには傾斜状のカム溝3bが設けられている。
【0003】
筒状部3a内には糸通し軸4が挿入されている。この糸通し軸4の下端部にはフック5が取付けられ、上端部にはカムピン6が取付けられており、カムピン6はカム溝3b内に係合されている。また、糸通し軸4の外周部には、カムピン6と筒状部3aの上壁との間に位置して押えばね7が嵌合されており、押えばね7は、カムピン6を下方へ付勢し、カム溝3b内の下端部に保持している。
【0004】
針棒2の下端部には縫い針8が装着されており、縫い針8の目孔8a内に上糸9(いずれも図18参照)を通すにあたっては、上糸9を糸調子機構および天秤等にセットした後、操作体3に左手を掛け、操作体3を押下げる。すると、カムピン6がカム溝3b内の下端部に保持されたまま糸通し軸4が下降し、糸通し軸4が位置決め部材10に当接することに伴い下降停止する。この状態では、図18の(a)に示すように、フック5が縫い針8の後方に位置し、目孔8aと同一高さに位置決めされている。
【0005】
操作体3をさらに押下げると、カムピン6がカム溝3bの内面により押圧され、糸通し軸4が回動する。すると、フック5が糸通し軸4と一体的に回動し、縫い針8の目孔8a内に侵入する。この後、図17に示すように、上糸9を右手で張りながら、図18の(b)に示すように、フック5の鉤部5aに引掛け、操作体3を上昇操作する。すると、糸通し軸4と一体的にフック5が反対方向へ回動し、図18の(c)に示すように、上糸9が縫い針8の目孔8a内から引出される。
【0006】
上記装置は、上糸9を右手で張りながら操作体3を左手で操作する両手操作型の糸通し装置である。これに対して図19の糸通し装置は特公平7−71596号公報に記載された片手操作型の糸通し装置を示している。この装置は、糸張り機構11がオペレータの右手に換わって上糸9を張りながらフック5の鉤部5aに案内するように構成されており、オペレータが左手で操作体3を押下げるだけで縫い針8の目孔8aに上糸を通すことができる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
特開平3−126484号公報には、図19の糸通し装置をモータで自動的に駆動することが記載されている。この装置の場合、フック5や糸張り機構11が若干大きくなる上、大きな刺繍枠を用いて大きな刺繍模様を形成しようとすると、刺繍枠の移動範囲が大きくなる。このため、刺繍枠が縫い針8に接近することがあるので、糸通し時にフック5や糸張り機構11が刺繍枠に干渉し、糸通し動作に支障を来す虞れがあった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、糸通し動作を刺繍枠に邪魔されずに自動で円滑に行うことができる刺繍ミシンを提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の刺繍ミシンは、加工布を保持する刺繍枠と、前記刺繍枠を縫い針に対して相対的に移動させることに基づいて前記加工布に刺繍模様を形成する制御装置と、前記縫い針の目孔に上糸を通す糸通し装置と、前記縫い針が装着される針棒と、前記針棒を上下駆動するミシンモータとを備えるものにおいて、前記糸通し装置の動作領域である糸通し領域のデータを記憶する記憶手段を有し、前記糸通し装置は糸通し信号が出力されることに基づいて糸通し動作を自動的に実行し、前記制御装置は前記糸通し信号を検出すると、前記針棒が針上位置にない場合には前記ミシンモータを駆動して前記針棒を針上位置に移動させた後、前記刺繍枠が前記記憶手段に記憶されている前記糸通し領域内にあるかを判別し、前記刺繍枠が前記糸通し領域内にある場合には前記刺繍枠を前記糸通し領域外へ移動させるところに特徴を有している。
上記手段によれば、糸通し装置が作動する際に刺繍枠が糸通し領域外へ移動する。このため、糸通し装置が刺繍枠に干渉することが防止されるので、糸通し動作が刺繍枠に邪魔されずに自動で円滑に行われる。しかも、刺繍枠が糸通し装置の糸通し領域内にある場合にのみ糸通し領域外へ移動する。このため、刺繍枠の不用意な移動が防止されるので、作業能率が高まる。
【0010】
【0011】
【0012】
請求項2記載の刺繍ミシンは、前記縫い針の着脱や布押えの着脱のメンテナンス作業を行う際に操作されるメンテナンスキーと、前記メンテナンスを行うためのメンテナンス領域のデータを記憶する記憶手段とを備え、前記制御装置は前記メンテナンスキーの操作を検出すると前記刺繍枠を前記記憶手段に記憶されている前記メンテナンス領域外へ移動させるところに特徴を有している。
上記手段によれば、刺繍枠がメンテナンス領域外へ移動するので、縫い針の交換や布押えの交換等のメンテナンス作業を刺繍枠に邪魔されずに円滑に行うことができる。
【0013】
請求項3記載の刺繍ミシンは、前記制御装置は前記メンテナンスキーの操作を検出すると、前記刺繍枠が前記メンテナンス領域内にあるかを判別し、前記刺繍枠が前記メンテナンス領域内にある場合には前記刺繍枠を前記メンテナンス領域外へ移動させるところに特徴を有している。
上記手段によれば、刺繍枠がメンテナンス領域内にある場合にのみメンテナンス領域外へ相対的に移動する。このため、刺繍枠の不用意な移動が防止されるので、作業能率が高まる。
【0014】
請求項4記載の刺繍ミシンは、前記制御装置は前記刺繍枠の移動距離が最短になる移動位置を設定するところに特徴を有している。
上記手段によれば、刺繍枠が最短距離だけ移動するので、刺繍枠の移動に要する時間が短縮され、作業能率が高まる。
【0015】
請求項5記載の刺繍ミシンは、前記制御装置は前記糸通し装置の糸通し動作の終了を検出すると、前記刺繍枠を移動前位置に復帰させるところに特徴を有している。
上記手段によれば、糸換えや糸切れ等が発生した針落点に自動的に戻って刺繍動作が再開されるので、刺繍模様の仕上り状態が向上する。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の第1実施例を図1ないし図15に基づいて説明する。まず、図11において、ミシン機枠21は、ベッド部21aと、ベッド部21aから上方へ延びる脚柱部21bと、脚柱部21bの上端部から水平方向へ延びるアーム部21cと、アーム部21cの左端部に位置するヘッド部21dと、ベッド部21aから左方へ突出するフリーアーム部21eとを有するものであり、フリーアーム部21eには針板22が装着され、ヘッド部21dには起動/停止スイッチ23が装着されている。
【0017】
ヘッド部21d内には、図9に示すように、押え棒24が上下動可能に装着されている。この押え棒24の下部はヘッド部21dから下方へ突出しており、押え棒24の下端部には布押え25が着脱可能に装着されている。また、ヘッド部21d内には、図8に示すように、押えばね26が収納されている。この押えばね26の上端部はミシン機枠21に取付けられ、下端部は押え棒24に取付けられており、押えばね26は押え棒24を下方へ付勢し、図9に示すように、布押え25を針板22の上面に圧接した下降位置に保持している。
【0018】
ヘッド部21dには、押え上げレバー27が軸27aを中心に回動可能に装着されている。この押え上げレバー27には「く」字状のカム面27bが形成され、押え上げレバー27の下部はヘッド部21dから露出している。また、押え棒24には、ヘッド部21d内に位置して押え棒抱き28が固定されている。この押え棒抱き28は「く」字状のカム面28aを有するものであり、押え上げレバー27が下降位置から矢印A方向へ操作されると、押え上げレバー27が押え棒抱き28を押圧するので、押え棒24が押え棒抱き28と一体的に押えばね26のばね力に抗して上昇し、布押え25と針板22との間に隙間が形成される。
【0019】
押え上げレバー27の操作位置が上昇位置に達すると、図9に二点鎖線で示すように、押え上げレバー27のカム面27bが押え棒抱き28のカム面28aに面接触状態で係合する。この状態では、押え上げレバー27のカム面27bの左辺部が水平になり、押えばね26から押え棒抱き28を通して押え上げレバー27の回動軸線αに下向きの力が作用するので、押え上げレバー27の回動力が消滅する。このため、押え上げレバー27が上昇位置に保持されて押え棒抱き28を下方から支えるので、押え棒24および布押え25が上昇位置に保持される。
【0020】
押え上げレバー27が上昇位置から最上位置へ操作されると、押え上げレバー27が押え棒抱き28を押圧するので、押え棒24が押え棒抱き28と一体的に押えばね26のばね力に抗して最上位置に上昇し、布押え25と針板22との隙間が大きくなる。この状態では、押え上げレバー27が回動軸線αの右側で押え棒抱き28に接触し、押えばね26から押え棒抱き28を通して押え上げレバー27に反矢印A方向への回動力が付与されている。
【0021】
従って、押え上げレバー27から手を離すと、押え上げレバー27が反矢印A方向へ回動して上昇位置に復帰する。この状態で押え上げレバー27を反矢印A方向へ操作すると、押え棒抱き28を支える部材がなくなるので、押え棒抱き28と一体的に押え棒24が押えばね26のばね力で下降し、布押え25が針板22の上面に圧接した下降位置に復帰する。
【0022】
ヘッド部21d内には、図8に示すように、略L字状の糸緩め板29が軸29aを中心に回動可能に配設されている。そして、押え上げレバー27には略三角形状のカム面27cが形成されており、押え上げレバー27が矢印A方向の上昇位置に操作されると、糸緩め板29の押圧面29bが押え上げレバー27のカム面27cにより押圧され、糸緩め板29が矢印B方向へ回動する。
【0023】
ヘッド部21d内には糸調子機構30が配設されている。この糸調子機構30は、一対の皿(図示せず)と、一方の皿を他方の皿に押付ける糸調子ばね(図示せず)とを有するものであり、一対の皿間には上糸が挟持されている。この糸調子機構30の一方の皿にはロッド31の上端部が回動可能に連結され、ロッド31の下端部は糸緩め板29に回動可能に連結されており、押え上げレバー27の上昇位置への操作に伴い糸緩め板29が矢印B方向へ回動すると、ロッド31が下方へ引下げられる。すると、一方の皿が糸調子ばねのばね力に抗して他方の皿から離間し、一対の皿間に挟持された上糸が解放される。
【0024】
この状態で押え上げレバー27が下降位置に操作されると、糸緩め板29が反矢印B方向へ回動復帰する。すると、ロッド31が上方へ引上げられ、一方の皿が糸調子ばねのばね力により他方の皿側へ移動するので、一対の皿間で上糸が再度挟持される。
【0025】
押え棒抱き28には、安全板32が軸32aを中心に回動可能に装着されており、押え上げレバー27が下降位置から矢印A方向へ操作されると、安全板32の押圧面32bが押え上げレバー27のカム面27cにより押圧され、安全板32が押え上げレバー27の操作量に応じた分だけ矢印C方向へ回動する。
【0026】
ヘッド部21d内には、レバー33が軸33aを中心に回動可能に装着されている。このレバー33は、安全板32の左端部に回動可能に連結されたものであり(両者を分離状態で図示する)、安全板32が押え上げレバー27の操作量に応じた分だけ回動すると、安全板32の回動量がレバー33に伝達され、レバー33が安全板32の回動量に応じた分だけ回動する。
【0027】
ヘッド部21d内には安全装置34が配設されている。この安全装置34はポテンショメータ(図示せず)を有するものであり、レバー33が回動すると、レバー33の回動量に応じたレベルの電気信号がポテンショメータから出力される。また、安全装置34はリミットスイッチを有しており、押え上げレバー27が上昇位置に操作されると、レバー33の回動量が所定値に達し、リミットスイッチがオンされる。
【0028】
ベッド部21aには膝レバー(図示せず)が回動可能に装着され、ヘッド部21dにはリフター(図示せず)が回動可能に装着されている。このリフターはリンク機構を介して膝レバーに連結されたものであり、膝レバーを右膝で操作すると、リフターが回動して押え棒抱き28を押上げる。すると、布押え25が押え棒24と一体的に上昇位置および最上位置へ上昇する。
【0029】
ミシン機枠21内には、図14に示すように、マイクロコンピュータを主体に構成された制御装置35が配設されている。この制御装置35はCPU35a,ROM35b,RAM35c,入力インターフェース35d,出力インターフェース35e等をバスライン35fを介して相互接続してなるものであり、ROM35bには、各種の制御プログラムに加えて表示データ等が格納され、RAM35cには、CPU35aで演算した演算結果を一時的に格納するポインタ,カウンタ,バッファ等が設けられている。尚、制御装置35は、ポテンショメータからの出力信号を制御プログラムに基づいて処理することに伴い、布押え25の高さ位置を検出する。
【0030】
アーム部21cの前面には、図11に示すように、液晶ディスプレイ(LCD)36が装着されており、制御装置35は、ROM35bの制御プログラムに基づいてLCD36に複数の実用縫いパターン,複数の刺繍パターン,各種のメッセージ等を表示する。
【0031】
LCD36の前面には操作パネル37が装着されている。この操作パネル37は透明な電極板(タッチパネル)からなるものであり、実用縫いパターンの表示状態で操作パネル37がタッチされると、制御装置35は、いずれのパターンがタッチされたかを操作パネル37からの出力信号に基づいて検出し、検出パターンに応じた実用縫いデータを設定する。
【0032】
ヘッド部21d内には、図3に示すように、支軸38が配設されており、支軸38には針棒台39が回動可能に装着されている。この針棒台39の上下部には支持部39aおよび39bが設けられており、支持部39aおよび39bには針棒40が上下動可能に支持されている。この針棒40の下端部は、図4の(a)に示すように、ヘッド部21d外へ突出しており、針棒40の下端部には縫い針41が着脱可能に装着され、針棒40の上下方向中間部には針棒抱き42が固定されている。尚、符号41bは、縫い針41を着脱するための操作ねじを示している。
【0033】
ミシン機枠21内には、図3に示すように、ロッド43が収納されており、ロッド43の先端部には針棒クランク44が固定されている。この針棒クランク44には針棒クランクロッド45が軸45aを中心に回転可能に連結されており、針棒クランクロッド45は針棒抱き42に回転可能に連結されている。
【0034】
ミシン機枠21には図14のミシンモータ46が配設されている。このミシンモータ46の回転軸には主軸としてのロッド43が連結されており、制御装置35は、起動/停止スイッチ23の操作を検出すると、ミシンモータ46を作動させる。すると、ロッド43が回転し、針棒クランク44の回転力が針棒クランクロッド45から針棒抱き42に伝達され、針棒40と一体的に縫い針41が一定ストロークで上下動する。尚、制御装置35は、安全装置34のリミットスイッチのオンを検出すると、布押え25が上昇位置にあると判断し、起動/停止スイッチ23のオンを検出してもミシンモータ46の駆動を禁止する。
【0035】
フリーアーム部21eには送り歯(図示せず)が前後動可能に設けられており、ミシンモータ46が作動すると、縫い針41の上下動に同期して送り歯が所定の布送り運動を行い、布押え25により押えられた加工布(縫製対象物に相当する)が前方および後方のいずれかに送られる。図14の送り歯駆動用ステッピングモータ47は、送り歯の移動ストロークを変えるためのものであり、制御装置35は、送り歯駆動用ステッピングモータ47を駆動制御することに基づいて加工布の送り量を調節する。
【0036】
フリーアーム部21e内には、針板22の下方に位置してボビンおよび水平釜(いずれも図示せず)が配設されており、前者のボビンには下糸が巻装されている。後者の水平釜は、ミシンモータ46に連動して水平方向へ回転するものであり、水平釜が回転すると、水平釜の剣先が上糸輪(加工布を貫通して針板22の下方へ突出する上糸)内に侵入する。この後、上糸輪がボビンの下糸に交差すると、水平釜から外れる。この状態で、天秤(図示せず)が上昇すると、上糸輪が引締められ、加工布に縫い目が形成される。
【0037】
尚、針棒台39には、図3に示すように、糸案内110が取付けられており、ミシン機枠21の上糸駒(図示せず)から引出された上糸48(図6参照)は、糸調子機構30,糸取りばね(図示せず),天秤(図示せず),糸案内110を経由して、縫い針41の目孔41a(図7参照)内に挿入されている。
【0038】
ミシン機枠21内には針棒揺動機構(図示せず)が配設されている。この針棒揺動機構は図14の針棒揺動用ステッピングモータ49を駆動源とするものであり、制御装置35は、「じぐざぐ縫い」等が選択されている場合、針棒揺動用ステッピングモータ49を駆動制御し、針棒台39を縫い針41の上下動に同期して左右方向へ揺動させ、縫い針41を左右方向へ振りながら「じぐざぐ」に折曲がった縫い目を形成する。
【0039】
脚柱部21b内には、図11に示すように、カード用コネクタ50が配設されており、ROMカード51を脚柱部21bのカード用スロット(図示せず)内に挿入すると、ROMカード51がカード用コネクタ50に接続される。このROMカード51には、複数の刺繍データが格納されており、制御装置35は、LCD36に複数の刺繍パターンを表示した状態で操作パネル37がタッチされると、いずれの刺繍パターンがタッチされたかを操作パネル37からの出力信号に基づいて検出し、タッチパターンに応じた刺繍データをROMカード51から読出す。
【0040】
フリーアーム部21eには刺繍装置52が着脱可能に装着されている。以下、刺繍装置52について説明する。フリーアーム部21eには本体フレーム53が着脱可能に装着されており、本体フレーム53には刺繍ヘッド54が矢印X方向(加工布の送り方向に対して直交する方向)へ移動可能に装着され、刺繍ヘッド54には、図1に示すように、合成樹脂製の刺繍枠55が矢印Y方向(加工布の送り方向に対して平行な方向)へ移動可能に装着されている。この刺繍枠55は加工布を保持するためのものであり、刺繍ヘッド54に対して着脱可能にされている。
【0041】
本体フレーム53内には、図14のX方向ステッピングモータ56およびY方向ステッピングモータ57が配設されており、刺繍ヘッド54はX方向ステッピングモータ56に連動して図1の矢印X方向へ移動し、刺繍枠55はY方向ステッピングモータ57に連動して図1の矢印Y方向へ移動する。
【0042】
本体フレーム53には、図15に示すように、コネクタ58が取付けられている。このコネクタ58は、図12に示すように、本体フレーム53をフリーアーム部21eに装着することに伴いミシン機枠21側のコネクタ59(図14参照)に嵌合されるものであり、制御装置35は、ミシン機枠21側のコネクタ59から刺繍装置52側のコネクタ58を通してX方向ステッピングモータ56およびY方向ステッピングモータ57にパルス信号を与えることに伴い、刺繍枠55を矢印X方向および矢印Y方向へ移動制御し、加工布に刺繍模様を形成する。
【0043】
尚、ROMカード51の刺繍データは刺繍模様を画定する座標データからなるものであり、制御装置35は、ROMカード51からの刺繍データに基づいて針落点座標(X,Y)を演算する。そして、刺繍枠55の1針毎の移動量を針落点座標(X,Y)に基づいて演算し、演算結果に応じてパルス信号を設定する。
【0044】
フリーアーム部21e内には、メスを主体に構成された糸切り機構 (図示せず)が配設されている。そして、操作パネル37には、図13に示すように、糸切りキー37aが印刷されており、制御装置35は、操作パネル37からの出力信号に基づいて糸切りキー37aが操作されたことを検出すると、図14の電磁ソレノイド60に糸切り信号(作動信号)を出力し、電磁ソレノイド60を励磁させる。この電磁ソレノイド60は糸切り機構の駆動源に相当するものであり、電磁ソレノイド60が励磁されると、糸切り機構が作動し、加工布の直下で上糸および下糸が同時に切断され、加工布から分離される。
【0045】
ROMカード51の刺繍データには、上糸の交換を指令する糸換えデータ,刺繍動作の終了を指令する終了データ,糸切りデータ等が組込まれている。この糸切りデータは、糸換えデータおよび終了データの次段に位置するものであり、制御装置35は、糸切りデータを検出すると、糸切り信号を出力し、糸切り機構を自動的に作動させる。
【0046】
ミシン機枠21内には図14の糸切れセンサ61が配設されている。この糸切れセンサ61は、上糸駒から縫い針41に対する上糸48の供給状態を検出するものであり、制御装置35は、糸切れセンサ61からの出力信号に基づいて上糸切れを検出すると、運転時にはミシンモータ46をオフする。また、運転停止時には、起動/停止スイッチ23が操作されてもミシンモータ46の駆動を禁止する。
【0047】
ミシン機枠21内には図14の下糸量センサ62が配設されている。この下糸量センサ62は、ボビンに巻装された下糸量に応じた電気信号を出力するものであり、制御装置35は、下糸量センサ62からの出力信号に基づいて下糸切れを検出すると、運転時にはミシンモータ46をオフする。
【0048】
ミシン機枠21内には図14のタイミングセンサ63が配設されている。このタイミングセンサ63は、針棒40が針上位置(縫い針41に糸通し可能な針棒40の上昇位置)に達する主軸の回転角度,針下位置(縫い針41が加工布に刺さった状態の針棒40の下降位置)に達する主軸の回転角度で電気信号を出力するものであり、制御装置35は、刺繍データの中の終了データおよび起動/停止スイッチ23の操作等に基づいて縫製動作を停止させる場合、タイミングセンサ63からの出力信号に基づいてミシンモータ46をオフし、針棒40を針上位置に位置決めする。
【0049】
ミシン機枠21内には図14の押え上げセンサ64が配設されている。この押え上げセンサ64は、押え上げレバー27の回動位置に応じて状態が切換わるマイクロスイッチからなるものであり、制御装置35は、押え上げセンサ64からの出力信号に基づいて押え上げレバー27が上昇位置に操作されたこと,押え上げレバー27が下降位置に操作されたことを検出する。
【0050】
ヘッド部21dの左側面には、図10の(a)に示すように、切断器65が取付けられており、切断器65とヘッド部21dとの間にはガイド溝65aが形成されている。この切断器65は、図10の(b)に示すように、カッター65bを有するものであり、上糸48を針棒台39の糸案内110からガイド溝65a内に挿入し、切断器65に巻付けるようにして手前側へ引張ると、上糸48がカッター65bに押付けられ、切断される。
【0051】
ヘッド部21d内には、図4の(a)に示すように、糸通し装置66が配設されている。以下、糸通し装置66について詳述する。ヘッド部21d内には支持軸67が垂直に配設されており、支持軸67には移動台68が移動可能に装着されている。この移動台68とヘッド部21dとの間には引ばね69が装着されており、引ばね69は移動台68を上方へ付勢している。
【0052】
ヘッド部21d内には糸通しモータ70が配設されている。この糸通しモータ70はステッピングモータからなるものであり、糸通しモータ70の回転軸にはピニオンギア70aが固定されている。また、移動台68には垂直なラック部68cが設けられている。このラック部68cはピニオンギア70aに噛合されており、糸通しモータ70の作動に伴いピニオンギア70aが回転すると、移動台68が支持軸67に沿って移動する。
【0053】
移動台68には突状の回り止め部68aが設けられ、ヘッド部21dにはガイド溝21fが設けられている。このガイド溝21f内には回り止め部68aが挿入されており、移動台68は支持軸67に沿って回り止め状態で移動する。
【0054】
移動台68の上端部には連結部68bが設けられており、連結部68bには操作体71の連結部71aが連結されている。また、操作体71には筒状部71bが設けられている。この筒状部71bは内面が四角形状に形成されたものであり、筒状部71b内には断面矩形状の案内部材72が挿入されている。この案内部材72はプレス加工または引抜き加工されたものであり、案内部材72の上下端部は針棒台39にねじ止めされている。従って、糸通しモータ70が作動すると、筒状部71bの内面が案内部材72により係止され、操作体71が移動台68と一体的に回り止め状態で下降する。
【0055】
尚、移動台68の連結部68bと操作体71の連結部71aとの間には隙間が形成されており、この隙間は、針棒台40と一体的に操作体71が左右方向へ揺動したときに、操作体71の揺動運動が移動台68に伝達されないように両者を遮断している。
【0056】
操作体71にはばね掛け部71cが設けられており、ばね掛け部71cには引ばね73の下端部が引掛けられている。また、針棒台40にはばね掛け部材74が取付けられている。このばね掛け部材74には引ばね73の上端部が引掛けられており、引ばね73は操作体71を上方へ付勢している。
【0057】
操作体71には筒状部71dが設けられている。この筒状部71dは内面が円形状をなすものであり、筒状部71d内には、円柱状をなす糸通し軸75の上端部が上下動可能および回動可能に挿入されている。また、針棒台39の下部には、図4の(b)に示すように、半円環状の軸挿入部39dが設けられており、糸通し軸75の下端部は軸挿入部39d内に上下動可能および回動可能に挿入されている。
【0058】
糸通し軸75の下端部には、図6の(b)に示すように、保持部材76が固定されている。この保持部材76には皿支持片77が固定されており、皿支持片77には、水平方向へ突出する糸ガイド部77aおよび斜め上方へ突出する糸ガイド部77bが形成されている。また、皿支持片77には、図6の(c)に示すように、ピン78が垂直に固定されており、ピン78の外周部には押え皿79が上下動可能に挿入されている。この押え皿79には、図6の(b)に示すように、平坦部79aが設けられており、押え皿79は、平坦部79aが保持部材76に係止されることに伴い回り止めされる。
【0059】
ピン78の下端部には、図6の(c)に示すように、ワッシャ80が固定されており、ピン78の外周部には、ワッシャ80と押え皿79との間に位置して押えばね81が嵌合されている。この押えばね81は、押え皿79を上方へ付勢して皿支持片77に圧接させるものであり、上糸48を切断器65に巻付けて切断すると、上糸48が皿支持片77の糸ガイド部77aおよび77bにより案内され、皿支持片77と押え皿79との間に挿入・挟持される。また、押え皿79の上面には、図6の(c)に示すように、突部79bが設けられており、突部79bは押え皿79を皿支持片77に対して傾斜させ、押え皿79と皿支持片77との間にくさび状の糸抜き溝82を形成している。
【0060】
糸通し軸75の上端部には、図4の(a)に示すように、カムピン83が固定されており、カムピン83の両端部は、図5に示すように、糸通し軸75の外周面から突出している。また、操作体71の右側の筒状部71dには、図4の(a)に示すように、傾斜状のカム溝71eが形成されており、カムピン83の前端部はカム溝71e内に挿入されている。
【0061】
糸通し軸75の外周部には、上端部に位置して押えばね84が嵌合されており、押えばね84の上端部は右側の筒状部71dの上壁にあてがわれている。また、押えばね84の下端部はカムピン83にあてがわれており、押えばね84はカムピン83をカム溝71e内の最下位置に保持している。従って、操作体71が下降すると、操作体71の下降力が押えばね84からカムピン83に伝達され、カムピン83がカム溝71e内の下端部に保持されたまま、糸通し軸75が下降する。
【0062】
糸通し軸75の下端部には、図4の(a)の下部に示すように、略コ字状のリンクレバー85が回動可能に装着されており、リンクレバー85には略コ字状の糸係止部材86が固定されている。この糸係止部材86はアーム部86aを有するものであり、糸通し軸75と一体的に糸係止部材86が下降すると、アーム部86aが上糸48に接触し、上糸48が糸係止部材86内に侵入する。尚、図4の(a)の下部は、糸通し装置66の下降状態を示している。
【0063】
針棒40には、針棒抱き42の上方に位置して位置決め部材87がねじ止めされている。また、糸通し軸75の上端部には別の位置決め部材88がねじ止めされている。針棒40の位置決め部材87にはストッパ部87aが設けられており、糸通し軸75の下降時に位置決め部材88がストッパ部87aに当接すると、糸通し軸75が下降停止する。この後、糸通し軸75のカムピン83が操作体71のカム溝71eの内面に押圧され、糸通し軸75が図6の矢印D方向へ回動する。尚、糸通し軸75の回動範囲は、図5に示すように、65°に設定されている。
【0064】
針棒台39の下部には、図4の(a)に二点鎖線で示すように、切欠部39cが形成されており、針棒40が針上位置にない状態で糸通し軸75が下降開始した際にはカムピン83が切欠部39c内に侵入し、切欠部39cの内面に係止されることに伴い、糸通し軸75の回動が拘束される。従って、針棒40が針上位置にある状態でのみ糸通し動作が許容される。
【0065】
リンクレバー85には、図6の(a)に示すように、第1のピン89が垂直に固定されている。このピン89には第1のリンク板90の一端部が回動可能に連結されており、リンク板90の他端部にはリンクピン91が装着され、リンクピン91には第2のリンク板92の一端部が回動可能に連結されている。また、保持部材76には、図6の(b)に示すように、円筒状のボス部76aが設けられている。このボス部76a内には回転軸93が挿入されており、第2のリンク板92の他端部は回転軸93に回動可能に連結されている。
【0066】
糸通し軸75の下端部には、図4の(b)に示すように、略コ字状をなすリンクガイド94の下辺部94cが回動可能に挿入されており、糸通し軸75には、リンクガイド94の下辺部94cの上下面に位置して止め輪95が装着されている。これら両止め輪95は、リンクガイド94を軸方向に対して位置決めするものであり、糸通し軸75の下降時には、リンクガイド94が糸通し軸75と一体的に下降する。
【0067】
案内部材72の中間部はリンクガイド94の上辺部94bに挿入されており、糸通し軸75の回動時には、リンクガイド94が案内部材72により回り止めされ、糸通し軸75が単独で矢印D方向へ回動する。尚、上側の止め輪95は、針棒台39の軸挿入部39dに係止されることに伴い、糸通し軸75を上方の初期位置に保持するものである。
【0068】
リンクガイド94の下辺部94cの下面には、図6の(a)に示すように、直線状のカム溝94aが形成されている。このカム溝94a内にはリンクピン91が挿入されており、糸通し軸75と一体的に皿支持片77が矢印D方向へ回動すると、リンクピン91がカム溝94aに沿って矢印E方向へスライドする。すると、第1のピン89が矢印F方向へ移動し、糸係止部材86が矢印G方向へ回動する。
【0069】
糸係止部材86には、図6の(a)に示すように、糸掛け溝86bが形成されており、糸係止部材86が矢印G方向へ回動すると、図6の (b)に示すように、糸係止部材86内に侵入している上糸48が糸掛け溝86b内に係合し、糸係止部材86の回動に伴い縫い針41に接近する。この状態では、保持部材76のボス部76aが糸係止部材86と押え皿79との間で上糸48に接触し、上糸48を緊張状態に保持する。
【0070】
保持部材76には、皿支持片77の反対側に位置してフック機構95が固定されている。このフック機構95は、図7に示すように、フック板96と、フック板96の両側に位置する2枚のガード板97と、フック板96および2枚のガード板97を水平方向に貫通するワイヤ98とを有するものであり、糸通し軸75の下降時には、図6の(a)に示すように、上方から見てフック機構95が針棒40の左後方に位置し、糸通し軸75と一体的に下降する。また、糸通し軸75の下降停止時には、フック板96が縫い針41の目孔41aと同一高さに位置決めされる。
【0071】
フック板96の先端部には、図7の(a)に示すように、鉤部96aが形成されており、糸通し軸75が回動すると、鉤部96aが縫い針41の目孔41a内に侵入し、両ガード板97が縫い針41の前方へ突出する。尚、位置決め部材87および88は、製造時にねじを緩めて高さ調節されおり、フック板96は、位置決め部材87および88の高さ調節に伴い縫い針41の目孔41aと同一高さに位置決めされる。
【0072】
操作体71には、図4の(a)に示すように、ばね掛け部71cの下方に位置して糸通しスイッチ100が固定されている。この糸通しスイッチ100はマイクロスイッチからなるものであり、操作体71が下死点まで下降してフック板96が縫い針41の目孔41a内に侵入すると、糸通しスイッチ100のプランジャが操作体71の突状のばね掛け部71cにより押圧され、糸通しスイッチ100の状態が切換わる。
【0073】
針棒台39にはコードリール101が装着されており、糸通しスイッチ100の配線コード100aはコードリール101に巻取られ、一定の張りを保っている。このため、操作体71の移動に伴い配線コード100aがだぶつき、周囲の作動部材に作動不良が生じることが防止される。糸通し装置66は以上のように構成されている。
【0074】
操作パネル37には、図13に示すように、メンテナンスキー37bおよび糸通しキー37cが印刷されており、制御装置35は、操作パネル37からの出力信号に基づいて糸通しキー37cが操作されたことを検出すると、糸通しモータ70にパルス信号を与え、糸通し装置66を作動させる。
【0075】
制御装置35のROM35bには、図1の糸通し領域S1 の輪郭線が座標データ(X,Y)として記憶されている。この糸通し領域S1 は、押え皿79,糸係止部材86,フック機構95等の回動領域をX−Y座標上に投影した動作領域に相当するものであり、刺繍枠55および刺繍ヘッド54に邪魔されることなく、糸通し装置66が縫い針41の目孔41aに上糸48を通すのに必要なスペースを示している。
【0076】
制御装置35のROM35bには、図1のメンテナンス領域S2 の輪郭線が座標データ(X,Y)として記憶されている。このメンテナンス領域S2 は、刺繍枠55および刺繍ヘッド54に邪魔されることなく、両手で縫い針41を交換したり、両手で糸からみを直したり、両手で布押え25を交換できる領域をX−Y座標上に投影したものであり、糸通し領域S1 を包含する大きさに設定されている。
【0077】
次に縫い針41の目孔41aに上糸48を通す糸通し動作について詳述する。押え上げレバー27を上昇位置へ操作し、糸調子機構30を解放状態に切換える。そして、上糸48を上糸駒から引出し、糸調子機構30,糸取りばね,天秤を経由して糸案内110に引掛けられた後、切断器65に巻付けて切断する。すると、上糸48が皿支持片77と押え皿79との間で挟持され、糸係止部材86の下方に張渡される。
【0078】
糸駒から糸調子機構30に至る経路上にはばね部材(図示せず)が設けられている。このばね部材は、上糸48の捻りが糸調子機構30に侵入して縫製不良を起こさないように、上糸48に数グラムのより戻しプリテンションを付与するものであり、上糸48は、押え上げ状態であっても、押え皿79による保持圧とばね部材によるプリテンション圧とによって、切断後も緊張状態に保持される。
【0079】
上糸48をセットしたら、操作パネル37の糸通しキー37cを操作する。すると、制御装置35は、糸通しキー37cからの糸通し信号を検出し、タイミングセンサ63からの出力信号に基づいて針棒40の状態を検出する。ここで、針棒40が針上位置にあると判断すると、刺繍枠55が糸通し領域S1 外に退避しているかを検出する。また、針棒40が針上位置にないと判断すると、ミシンモータ46を駆動して針棒40を針上位置に移動させた後、刺繍枠55が糸通し領域S1 外に退避しているかを検出する。
【0080】
例えば図1に実線で示すように、刺繍枠55の内周面が糸通し領域S1 外に退避している場合、制御装置35は、糸通しモータ70にパルス信号を与え、糸通しモータ70の回転軸を正転させる。また、図1に二点鎖線で示すように、刺繍枠55の内周面が一部でも糸通し領域S1 内に侵入している場合、LCD36に警告メッセージを表示する。そして、X方向ステッピングモータ56およびY方向ステッピングモータ57を駆動し、刺繍枠55を退避位置(X,Y)に移動させ、刺繍枠55の内周面を糸通し領域S1 外へ退避させると同時に、糸通しモータ70の回転軸を正転させる。この退避位置(X,Y)は制御装置35が演算するものであり、制御装置35は、刺繍枠55および刺繍ヘッド54が縫い針41から遠ざかり、しかも、刺繍枠55の移動量が最短となる退避位置(X,Y)を演算する。
【0081】
糸通しモータ70の回転軸が正転すると、移動体68,操作体71,糸通し軸75が一体的に下降し、糸通し軸75の糸係止部材86が下降時に上糸48を捕捉する。この後、糸通し軸75側の位置決め部材88が針棒40側の位置決め部材87のストッパ部87aに当接すると、糸通し軸75が下降停止して図6の矢印D方向へ回動する。
【0082】
糸通し軸75が矢印D方向へ回動すると、図7の(a)に示すように、フック板96の鉤部96aが縫い針41の目孔41a内に侵入する。これと共に、図6の(b)に示すように、糸係止部材86が矢印G方向へ回動し、鉤部96aに上糸48を受け渡す。尚、2枚のガード板97間には、図7の(c)に示すように、糸導入溝99が形成されている。この糸導入溝99は、矢印H方向から見てV字状をなすものであり、上糸48は糸導入溝99を通して鉤部96aに受け渡される。
【0083】
制御装置35は、糸通しスイッチ100からの出力信号が切換わったことを検出すると、糸通しモータ70の回転軸を逆転させる。すると、操作体71の上昇に伴いカムピン83がカム溝71eの内面により押圧され、糸通し軸75が図6の反矢印D方向へ反転した後、糸通し軸75,操作体71,移動台68が初期位置に上昇する。このとき、フック板96が反転し、図7の(b)に示すように、フック板96の鉤部96aが縫い針41の目孔41aから退避するので、上糸48が縫い針41の目孔41a内に通され、ワイヤ98と鉤部96aとの間で保持される。
【0084】
尚、上糸48には、糸係止部材86の上流部に位置して糸より防止用のプリテンションが付与され、下流部に位置して押え皿79による保持圧が付与されている。このため、上糸48が弛むことなく目孔41a内に侵入し、鉤部96aにより安定的に保持される。
【0085】
糸通し軸75が反転すると、リンクピン91がリンクガイド94のカム溝94aに沿って図6の(b)の反矢印E方向へスライドし、糸係止部材86が縫い針41から遠ざかるように回動する。このとき、上糸48の切断側が押え皿79の外形方向へ引抜かれることなく糸抜き溝82を通して糸道方向へ引抜かれ、糸通し操作が終了する。
【0086】
制御装置35は、糸通し動作を終えると、X方向ステッピングモータ56およびY方向ステッピングモータ57を駆動する。そして、刺繍枠55を退避前位置に復帰させた後、LCD36にメッセージを表示し、押え上げレバー27の下降位置への操作を促す。尚、刺繍動作の実行中に糸通しキー37cが操作された場合、制御装置35は、ミシンモータ46をオフして刺繍動作を中断し、LCD36に警告メッセージを表示する。
【0087】
オペレータがメンテナスキー37bを操作すると、制御装置35は、押え上げセンサ64の状態を検出する。ここで、押え上げセンサ64からの出力信号に基づいて押え上げレバー27が上昇位置にあることを検出すると、刺繍枠55がメンテナンス領域S2 外に退避しているかを判別する。また、押え上げレバー27が上昇位置にないことを検出すると、LCD36にメッセージを表示し、押え上げレバー27の上昇位置への操作を促す。この後、押え上げレバー27が上昇位置に操作されたことを検出すると、刺繍枠55がメンテナンス領域S2 外に退避しているかを判別する。
【0088】
制御装置35は、図1に実線で示すように、刺繍枠55の内周面がメンテナンス領域S2 外に退避していることを検出すると、LCD36にメッセージを表示し、縫い針41の交換や布押え25の交換等のメンテナンス作業を促す。また、刺繍枠55の内周面が一部でもメンテナンス領域S2 内に侵入していることを検出すると、LCD36に警告メッセージを表示する。そして、X方向ステッピングモータ56およびY方向ステッピングモータ57を駆動し、刺繍枠55を退避位置(X,Y)に移動させ、刺繍枠55の内周面をメンテナンス領域S2 外へ退避させる。
【0089】
この退避位置(X,Y)は、刺繍枠55および刺繍ヘッド54が縫い針41から遠ざかり且つ刺繍枠55の移動量が最短となるように制御装置35が演算するものであり、制御装置35は、刺繍枠55を退避位置(X,Y)へ移動させると、LCD36にメッセージを表示し、メンテナンス作業を促す。
【0090】
オペレータは、メンテナンス作業を終えると、押え上げレバー27を下降位置に操作する。すると、制御装置35は、押え上げセンサ64からの出力信号に基づいて押え上げレバー27の操作を検出し、刺繍枠55を退避前位置に復帰させる。尚、刺繍動作の実行中にメンテナンスキー37bが操作された場合、制御装置35は、ミシンモータ46をオフして刺繍動作を中断した後、上記一連の動作を実行する。
【0091】
上記実施例によれば、糸通し装置66の作動時に刺繍枠55を糸通し装置66の糸通し領域S1 外へ自動的に退避させた。このため、糸通し装置66が刺繍枠55に干渉することが防止されるので、糸通し動作が刺繍枠55に邪魔されずに自動で円滑に行われる。しかも、刺繍枠55が糸通し領域S1 内にあるかを判別し、糸通し領域S1 内にある場合にのみ糸通し領域S1 外へ移動させた。このため、刺繍枠55の不用意な移動が防止されるので、作業能率が高まる。
【0092】
また、縫い針41の交換,糸がらみの始末,布押え25の交換等のメンテナンス作業を針棒40付近で両手で行うには、刺繍枠55が邪魔になるので、刺繍枠55を着脱したり、移動させる必要がある。これらメンテナンス作業は、オペレータにとって負担であり、刺繍模様の仕上り状態に影響を及ぼす。これに対して上記実施例によれば、メンテナンスキー37bの操作時に刺繍枠55をメンテナンス領域S2 外へ自動的に移動させた。このため、メンテナンス作業を刺繍枠55に邪魔されることなく両手で行うことができるので、メンテナンス作業性が向上する。しかも、刺繍枠55がメンテナンス領域S2 内にあるかを判別し、メンテナンス領域S2 内にある場合にのみメンテナンス領域S2 外へ移動させた。このため、刺繍枠55の不用意な移動が防止されるので、作業能率が高まる。
【0093】
また、図2に示すように、カムピン83,カム溝71e,押えばね84等からなるカム機構の上方に位置決め部材88を配置し、「Hb」寸法を小さくしたので、「Ha」寸法が大きくなる。しかも、位置決め部材87のストッパー部87aを針棒抱き42の上端より下方に配置したので、Ha寸法が一層大きくなる。このため、糸通し装置66を上昇状態でヘッド部21d内に収納できるので、針もとのスペースが広がり、縫い針41の交換や布押え25の交換等のメンテナンス作業を行うにあたって刺繍枠55の移動量を小さくできる。
【0094】
また、刺繍枠55を退避させる場合には、刺繍枠55を針棒40から極力遠い位置に移動させ、作業を行い易くすることが好ましい。しかしながら、刺繍枠55の退避距離を長くすると、退避に時間がかかるので、作業時間のロスになる。これに対して上記実施例によれば、退避位置を刺繍枠55の移動距離が最短になるように設定した。このため、刺繍枠55の退避に要する時間が短縮されるので、作業能率が高まる。
【0095】
また、上糸切れによるメンテナンスを想定すると、加工布に下糸が繋がっているため、加工布と共に下糸がボビンから引出される。これに対して上記実施例によれば、退避位置を刺繍枠55の移動距離が最短になるように設定したので、下糸の引出し量が最少で済む。このため、刺繍動作の再開時に下糸が余って縫い上り状態が損われることがなくなるので、糸切りキー37aを操作して下糸を切断する面倒な操作を行う必要がなくなる。
【0096】
また、オペレータがマニュアル操作で刺繍枠55を退避前位置へ戻す場合には、刺繍動作の再開始位置が再現され難く、退避前の針落位置と再開始位置との間に隙間ができ易くなる。これに対して上記実施例によれば、刺繍枠55の退避後に縫製動作を行うに際して、刺繍枠55を退避前位置に自動的に復帰させた。このため、糸換えや糸切れが発生した針落位置に戻って刺繍動作が再開始されるので、刺繍模様の仕上り状態が向上する。
【0097】
尚、上記第1実施例においては、制御装置35のROM35bに複数種の糸通し領域S1 およびメンテナンス領域S2 を記憶させておき、複数種の糸通し領域S1 およびメンテナンス領域S2 を刺繍枠55の形状,大きさ,太さ等に応じて選択しても良い。この場合、ヘッド部21dに選択キーを装着したり、操作パネル37に選択キーを印刷しておき、刺繍枠55の種類を選択キーの操作に基づいて入力すると、制御装置35が選択キーの操作内容に応じて糸通し領域S1 およびメンテナンス領域S2 を自動的に選択する構成にすると良い。
また、上記第1実施例においては、刺繍枠55を糸通し領域S1 外およびメンテナンス領域S2 外へ退避させる際に糸切り機構を作動させ、上糸および下糸を自動的に切断しても良い。
【0098】
また、上記第1実施例においては、刺繍動作の実行中に糸通しキー37cが操作された場合にミシンモータ46をオフして刺繍動作を中断した後、LCD36に警告メッセージを表示する構成としたが、これに限定されるものではなく、例えば刺繍動作の停止時に糸通しキー37cが操作された場合と同様、刺繍枠55が糸通し領域S1 内にあるか否かを判別し、糸通し領域S1 内にある場合に糸通し領域S1 外へ退避させても良い。
【0099】
次に本発明の第2実施例について説明する。尚、上記第1実施例と同一部分については説明を省略し、以下、異なる部分についてのみ説明を行う。制御装置35のROM35bには刺繍枠55の複数の退避位置が座標データ(X,Y)として記憶されており、制御装置35は、糸通しキー37cからの糸通し信号を検出すると、タイミングセンサ63からの出力信号に基づいて針棒40の状態を検出する。
【0100】
制御装置35は、針棒40が針上位置にあると判断すると、刺繍枠55を所定の退避位置へ選択的に移動させ、刺繍枠55を縫い針41から遠ざける。これと同時に糸通し装置66を作動させ、縫い針41の目孔41aに上糸を通した後、刺繍枠55を退避前位置に復帰させる。
【0101】
上記実施例によれば、糸通し装置66の作動時に刺繍枠55を所定の退避位置へ自動的に退避させた。このため、糸通し装置66が刺繍枠55に干渉することが防止されるので、糸通し動作が刺繍枠55に邪魔されずに自動で円滑に行われる。
【0102】
尚、上記第2実施例においては、刺繍枠55を所定の退避位置へ選択的に移動させたが、これに限定されるものではなく、例えば縫い針41から遠ざかる所定の退避方向へ選択的に移動させ、縫い針41付近のスペースを拡大しても良い。
また、上記第2実施例においては、刺繍枠55が糸通し領域S1 内にあるか否かを判別し、刺繍枠55が糸通し領域S1 内にある場合にのみ刺繍枠55を退避させる構成としても良い。この場合、糸通し領域S1 は押え皿79等の回動領域と等しい必要はなく、例えば押え皿79等の回動領域より若干大きく設定しても良い。
【0103】
また、上記第2実施例においては、刺繍枠55を糸通し領域S1 外へ退避させる際に糸切り機構を作動させ、上糸および下糸を自動的に切断しても良い。
また、上記第1および第2実施例においては、糸通し装置66の動作終了をトリガとして刺繍枠55を退避前位置に戻したが、これに限定されるものではなく、例えば押え上げレバー27の下降位置への操作をトリガとしたり、起動/停止スイッチ23の操作をトリガとして刺繍枠55を退避前位置へ戻しても良い。あるいは、刺繍枠55を退避前位置へ戻す専用キーを操作パネル37に印刷したり、ヘッド部21dに装着しても良い。
【0104】
また、上記第1および第2実施例においては、操作パネル37に糸通しキー37cを印刷したが、これに限定されるものではなく、例えばヘッド部21dに糸通しキーを装着しても良い。
また、上記第1および第2実施例においては、刺繍枠55および刺繍ヘッド54を矢印Xおよび矢印Y方向へ移動させる構成としたが、これに限定されるものではなく、例えば縫い針41を矢印X方向および矢印Y方向へ移動させる構成としても良い。
【0105】
また、上記第1および第2実施例においては、刺繍枠55の種類に関わらず刺繍枠55を退避させる構成としたが、これに限定されるものではなく、例えば、面積が大きな特定の刺繍枠55が装着された場合にのみ刺繍枠55を退避させる構成としても良い。この場合、操作パネル37に専用キーを印刷したり、ヘッド部21dに専用キーを装着し、特定の刺繍枠55の使用を専用キーの操作に基づいて制御装置35に知らせると良い。
【0106】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明の刺繍ミシンは次の効果を奏する。
請求項1記載の手段によれば、糸通し装置の作動時に刺繍枠を糸通し領域外へ自動的に退避させたので、糸通し装置による糸通し動作が刺繍枠に邪魔されずに自動で円滑に行われる。しかも、刺繍枠が糸通し装置の糸通し領域内にあるか否かを判別し、糸通し領域内にある場合にのみ糸通し領域外へ移動させたので、刺繍枠の不用意な移動が防止され、作業能率が高まる。
【0107】
請求項2記載の手段によれば、刺繍枠をメンテナンス領域外へ自動的に移動させたので、メンテナンス作業性が向上する。
請求項3記載の手段によれば、刺繍枠がメンテナンス領域内にあるか否かを判別し、メンテナンス領域内にある場合にのみメンテナンス領域外へ移動させたので、刺繍枠の不用意な移動が防止され、作業能率が高まる。
【0108】
請求項4記載の手段によれば、刺繍枠を最短距離で移動させた。このため、刺繍枠の退避に要する時間が短縮されるので、作業能率が高まる。これと共に、下糸の引出し量が最少で済むので、糸切りキー等を操作して下糸を切断する余分な操作を行う必要がなくなる。
請求項5記載の手段によれば、刺繍枠を移動前位置に自動的に復帰させた。このため、糸換えや糸切れ等が発生した針落点に自動的に戻って刺繍動作が再開されるので、刺繍模様の仕上り状態が向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施例を示す図(刺繍枠が糸通し領域外へ退避する様子を示す斜視図)
【図2】(a)は糸通し装置,針棒駆動装置等を示す正面図、(b)は側面図
【図3】糸通し装置,針棒駆動装置等を示す斜視図
【図4】(a)は糸通し装置,針棒駆動装置等を示す正面図、(b)リンクガイド,案内部材,糸通し軸を示す図
【図5】図4のX1 −X1 線に沿って位置決め部材,カムピン等を示す図
【図6】(a)は糸通し装置の要部を糸通し軸の非回動状態で示す上面図、(b)は糸通し装置の要部を糸通し軸の回動状態で示す上面図、(c)はX1 −X1 線に沿う断面図,(d)はX2 視図
【図7】(a)はフック板が縫い針の目孔内に侵入した状態を示す斜視図、(b)はフック板が縫い針の目孔内から退避した状態を示す斜視図、(c)はフック板が縫い針の目孔内から退避して上昇した状態を示す図
【図8】ヘッド部の内部構成を示す正面図
【図9】布押え装置を示す正面図
【図10】(a)は切断器を示す斜視図、(b)は上糸が切断される様子を示す斜視図
【図11】全体構成を示す正面図
【図12】刺繍装置を示す上面図
【図13】操作パネルを示す正面図
【図14】電気的構成の概略を示すブロック図
【図15】刺繍装置を示す側面図
【図16】従来例を示す図
【図17】フックに上糸が掛けられる様子を示す斜視図
【図18】(a)はフックが縫い針の目孔内に侵入する直前の状態を示す斜視図、(b)はフックが縫い針の目孔内に侵入した状態を示す斜視図、(c)はフックが縫い針の目孔内から退避した状態を示す斜視図
【図19】(a)は別の従来例を示す側面図、(b)は正面図
【符号の説明】
S1 は糸通し領域(動作領域)、S2 はメンテナンス領域、25は布押え、35は制御装置、37bはメンテナンスキー、41は縫い針、41aは目孔、48は上糸、55は刺繍枠、66は糸通し装置を示す。
Claims (5)
- 加工布を保持する刺繍枠と、前記刺繍枠を縫い針に対して相対的に移動させることに基づいて前記加工布に刺繍模様を形成する制御装置と、前記縫い針の目孔に上糸を通す糸通し装置と、前記縫い針が装着される針棒と、前記針棒を上下駆動するミシンモータとを備える刺繍ミシンにおいて、
前記糸通し装置の動作領域である糸通し領域のデータを記憶する記憶手段を有し、
前記糸通し装置は、糸通し信号が出力されることに基づいて糸通し動作を自動的に実行し、
前記制御装置は、前記糸通し信号を検出すると、前記針棒が針上位置にない場合には前記ミシンモータを駆動して前記針棒を針上位置に移動させた後、前記刺繍枠が前記記憶手段に記憶されている前記糸通し領域内にあるかを判別し、前記刺繍枠が前記糸通し領域内にある場合には前記刺繍枠を前記糸通し領域外へ移動させることを特徴とする刺繍ミシン。 - 前記縫い針の着脱や布押えの着脱のメンテナンス作業を行う際に操作されるメンテナンスキーと、前記メンテナンスを行うためのメンテナンス領域のデータを記憶する記憶手段とを備え、
前記制御装置は、前記メンテナンスキーの操作を検出すると、前記刺繍枠を前記記憶手段に記憶されている前記メンテナンス領域外へ移動させることを特徴とする請求項1に記載の刺繍ミシン。 - 前記制御装置は、前記メンテナンスキーの操作を検出すると、前記刺繍枠が前記メンテナンス領域内にあるかを判別し、前記刺繍枠が前記メンテナンス領域内にある場合には前記刺繍枠を前記メンテナンス領域外へ移動させることを特徴とする請求項2に記載の刺繍ミシン。
- 前記制御装置は、前記刺繍枠の移動距離が最短になる移動位置を設定することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の刺繍ミシン。
- 前記制御装置は、前記糸通し装置の糸通し動作の終了を検出すると、前記刺繍枠を移動前位置に復帰させることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の刺繍ミシン。
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