JP4073121B2 - 薬物の苦味等を軽減した組成物 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、不快な味を有する塩基性薬物の不快な味を軽減する組成物又はその方法に関する。本発明はさらに塩基性薬物を含有する組成物の有する欠点を改善した組成物又はその方法に関する。
【0002】
【発明の背景及び従来技術】
苦味、痺れ等の不快な味を有する薬物を経口的に服用することは、患者等に負担を与え、コンプライアンスの低下を来すため味の改善に種々の工夫がなされている。剤形が錠剤、顆粒剤等の固形剤の場合は、コーティングを施したり、マトリックス中に薬物を取り入れたりして比較的容易に苦味等の隠蔽を図ることができる。経口液剤の場合は蔗糖等の甘味物質により薬物の味を隠蔽することが一般に行われているが、これはいわば味覚をごまかしているのであり、苦味等を本質的に隠蔽する技術はほとんど知られていない。一方、ポリビニルピロリドンは錠剤等を製造する際の結合剤として知られているが、特開平3ー287535号公報、特開平4ー18015号公報には、水に難溶性の薬物にポリビニルピロリドンを添加することにより澄明で安定な水溶液が得られることが開示されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は経口的に服用する薬物の不快な味の軽減を目的とし、更に沈殿、分解物の生成を抑制することを目的とするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、不快な味を有する塩基性薬物と、ポリビニルピロリドン及び/又はコポリビドンを含有する組成物である。本発明はまた、ポリビニルピロリドン及び/又はコポリビドンを添加することによる不快な味を有する塩基性薬物の不快な味を軽減する方法である。
本発明はまた、(1)塩基性薬物、(2)ポリビニルピロリドン及び/又はコポリビドン、及び(3)プロピレングリコール及び/又はD−ソルビトールからなる組成物である。
【0005】
本発明は更に、(1)塩基性薬物、(2)ポリビニルピロリドン及び/又はコポリビドン、及び(3)抗酸化剤からなる組成物である。
本発明はまた、(1)塩基性薬物、(2)ポリビニルピロリドン及び/又はコポリビドン、及び(3)硫酸基若しくは亜硫酸基を有する色素又は香料からなる組成物である。
本発明によると、不快な味を有する塩基性薬物の不快な味を軽減することができるが、これが本発明の第一の目的である。
また、ポリビニルピロリドン及び/又はコポリビドンを添加すると塩基性薬物の類縁物質が経時的に増大するが、この類縁物質の増加を抑制することが本発明の第二の目的である。
更に、硫酸基若しくは亜硫酸基を有する色素又は香料を添加することにより塩基性薬物の不溶性沈殿物を生じることがあるがこの沈殿を抑制することもまた本発明の目的である。
【0006】
本発明における不快な味を有する塩基性薬物とは、酸性条件下でプロトンが陽電荷として存在している薬物のうち不快な味を有するものを意味し、例えば、塩酸チクロピジン、塩酸アゼラスチン、塩酸エチレフリン、塩酸ジルチアゼム、塩酸プロプラノロール、塩酸インデロキサジン、塩酸アミノグアニジン、塩酸ドネペジル等を挙げることができる。中でも塩酸ドネペジルを用いた場合に特に顕著な効果がある。塩酸ドネペジルは化学名、(1-ベンジル-4-(5,6-ジメトキシインダノン-2-イル)メチルピペリジン塩酸塩であり、軽度から中等度のアルツハイマー治療剤であるが、その水溶液は激しい苦味、しびれ感を有している。本発明においてはポリビニルピロリドン等により不快な味が軽減される。即ち、溶液中においてプロトンが結合することによりプラスにチャージした不快な味を有する塩基性薬物が、2つのピロリドン基によりトラップされ、塩基性薬物が味蕾と接触することが立体的に妨げられるためと考えられる。
【0007】
本発明における、ポリビニルピロリドンとは、1-ビニル-2-ピロリドンの直鎖重合物であり、平均分子量は数千から数百万のものまで使用可能であるが、好ましくは約10000から2000000である。
【0008】
日本薬局方には平均分子量25000のものはポリビニルピロリドンK25、平均分子量40000のものはポリビニルピロリドンK30、平均分子量1200000のものはポリビニルピロリドンK90として記載されており、商品名コリドンとして容易に入手することができる。またポリビニルピロリドンは、日局及び米国、英国の公定書にはポビドン(povidone)と記されており、欧州等の公定書にはpolyvidone(ポリビドン)と記されているが、いずれも本発明に含まれる。
【0009】
また、本発明におけるコポリビドンとは、鎖型構造のビニルピロリドンと酢酸ビニル(6:4)の共重合体であり、例えば欧州の公定書にはcopolyvidoneとして記載されている。本発明においては、ポリビニルピロリドン又はコポリビドンを単独で用いることもできるし両者を同時に用いることもできる。
【0010】
本発明において、不快な味を有する塩基性薬物とポリビニルピロリドン及び/又はコポリビドンとの比率は、分子量等によって異なり一概に言えないが、ポリビニルピロリドンの平均分子量が40000の場合、一般に、塩酸ドネペジルなどの塩基性薬物1重量部に対して5〜200重量部であり、好ましくは20〜200重量部、更に好ましくは100〜200重量部、より好ましくは140〜200重量部である。なお、不溶物の可溶化を目的とする場合は5〜100重量部、苦味のマスキングを目的とする場合は50〜200重量部である。ポリビニルピロリドンの分子量がより大きい場合は必要量は減少し、より小さい場合は必要量は増大する。
【0011】
本発明における製剤組成物とは、具体的には水溶性液剤、シロップ剤、エリキシル剤、ゼリー剤、ドライシロップ剤、発泡剤、リモナーデ剤、エアロゾル剤、点眼剤、点鼻剤、坐剤、パップ剤、リニメント剤、ローション剤、細粒剤を挙げることができるが、特に、シロップ剤、ゼリー剤が好ましい。シロップ剤を得るには、白糖、グルコース、マンニトール、キシリトール、アスパルテーム、サッカリン、ソルビトール等の甘味剤、さらに必要に応じて矯味矯臭剤を添加し得ることができる。ゼリー剤を得るには、通常本発明にかかる組成物にガム類を加え、さらに白糖、グルコース、マンニトール、キシリトール、アスパルテーム、サッカリン、ソルビトール等の甘味料、必要に応じて矯味矯臭剤を添加して得ることができる。pHは通常、3〜7である。
【0012】
本発明における組成物は、例えば水溶液の場合、必要量の薬物、ポリビニルピロリドン又はコポリビドンを秤り取り、必要に応じて甘味剤、香料等を加え水に溶解して製造することができる。薬物が塩酸ドネペジルの場合、一回あたりの服用量は通常1〜20mgである。
【0013】
本発明は塩基性薬物を含む組成物を提供する。塩基性薬物は上記の不快な味を有する塩基性薬物を含み、その他の塩基性薬物も含む。その他の塩基性薬物とは例えば塩酸アセブトロール、塩酸アプリンジン、塩酸アルプレノノール、塩酸アンブロキサール、塩酸イソプレナリン、塩酸イミプラミン、塩酸ジフェニドール、塩酸ジルチアゼム、塩酸チアミン、塩酸トラゾドン、塩酸ブナゾシン、塩酸ブニトロロール、塩酸ラニチジン、塩酸ミドドリンとうを挙げることができる。
【0014】
本発明はまた、(1)塩基性薬物、(2)ポリビニルピロリドン及び/又はコポリビドン、及び(3)プロピレングリコール及び/又はD−ソルビトールからなる組成物、又は(1)塩基性薬物、(2)ポリビニルピロリドン及び/又はコポリビドン、及び(3)抗酸化剤からなる組成物である。塩基性薬物とポリビニルピロリドン及び/又はコポリビドンを混合することにより、保存時の塩基性薬物の類縁物質が増加することがあるが、プロピレングリコール及び/又はD−ソルビトール、若しくは抗酸化剤を添加することにより、類縁物質の増加を著しく抑制することができる。従って本発明はまた、これらの物質を添加することによる類縁物質の生成を抑制する方法である。本発明において抗酸化剤とは、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、システイン、クエン酸、エデト酸ナトリウム、アスコルビン酸及びエリソルビン酸等であり1種又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0015】
本発明は更に、(1)塩基性薬物、(2)ポリビニルピロリドン及び/又はコポリビドン、及び(3)硫酸基若しくは亜硫酸基を有する色素又は香料からなる組成物である。塩基性薬物は、硫酸基若しくは亜硫酸基を有する色素又は香料を添加することにより、不溶性沈殿物を生成することがあるが、ポリビニルピロリドン及び/又はコポリビドンを添加することにより不溶性沈殿物の生成を顕著に抑制することができる。従って本発明はまた、硫酸基又は亜硫酸基を有する色素又は香料を添加することによる不快な味を有する塩基性薬物の不溶性沈殿物の生成を、ポリビニルピロリドン及び/又はコポリビドンを添加して抑制する方法である。硫酸基若しくは亜硫酸基を有する色素又は香料とは、食用赤色102号(2―ヒドロキシアゾナフタレン―4',6,8―トリスルホン酸三ナトリウム)、食用赤色40号、食用赤色3号(2',4',5',7'―テトラヨードフルオレセイン二ナトリウム)、食用赤色2号(2―ヒドロキシアゾナフタレン―3,4',6―トリスルホン酸三ナトリウム)、食用青色1号(3-[N-エチル-N-[4-[[4-[N-エチル-N-(3-スルホナートベンジル)アミノ]フェニル](2-スルフォナートフェニル)メチレン]-2,5-シクロヘキサジエニリデン]アンモニオメチル]ベンゼンスルホン酸二ナトリウム)、食用青色2号(2-(1,3-ジヒドロ-3-オキソ-5-スルフォ-2H-インドール-2-イリデン)-2,3-ジヒドロ-3-オキソ-1H-インドール-5-スルホニックアシド二ナトリウム)、食用緑色3号(N-エチル-N-[4-[[4-[エチル[(3-スルフォフェニル)メチル]アミノ]フェニル](4-ヒドロキシ-2-スルフォフェニル)メチレン]-2,5-シクロヘキサジエン-1-イリデン]-3-スルフォベンゼンメタンアミニウムヒドロキシド二ナトリウム)、食用黄色4号(3-カルボナート-5-ヒドロキシ-1-(4-スルホナートフェニル)-1H-ピラゾール-4-アゾ-4'-(ベンゼンスルホン酸)三ナトリウム)及び食用黄色5号( 2-ヒドロキシ-6-スルホナートナフタレン-1-アゾ-(4'-ベンゼンスルホン酸)二ナトリウム)等を意味し、これらの1種又は2種以上の混合物であってもよい。
【0016】
【発明の効果】
本発明にかかる組成物は、薬物の有する不快な味を軽減するという顕著な効果を有し、特に経口的に服用する液剤、ゼリー剤に有用である。また、ポリビニルピロリドン及び/又はコポリビドンを添加することによる塩基性薬物の類縁物質の保存中における増大を顕著に抑制することができる。更に、着色剤又は香料に存在する硫酸基若しくは亜硫酸基による塩基性薬物の不溶性沈殿物の生成を抑制することができる。
【0017】
その効果を以下の試験例により詳細に示す。
試験例1
溶液5gあたり塩酸ドネペジル5mg及びポリビニルピロリドン(平均分子量約40000)700mgを溶解した試験液1及び溶液5gあたり塩酸ドネペジル5mgを溶解した対照液1を被験者A及びBが口に含み苦味及び口中の痺れ感を試験した。結果を表1に示す。表1より本発明にかかる組成物が薬物の不快な味を顕著に改善することが明らかである。
【0018】
【表1】
【0019】
試験例2
溶液5gあたり塩酸ドネペジル5mg及びポリビニルピロリドン(平均分子量40000)をそれぞれ700mg、500mg、100mg溶解した試験液(それぞれ試験液2、3及び4)、溶液5gあたり塩酸ドネペジル5mg及びソルビトール3gを溶解した対照液2を7人の健康人がそれぞれ5gずつ口に含み、5秒後に吐き出し、その後、口を水道水で漱ぎ、苦味及び痺れ感について試験した。評価時は服用時(試験液または対照液が口中にある時)、吐き出し直後(水道水で漱ぐ前)及び吐き出し後5分(水道水で漱いだ後)とした。評価基準及び結果を表2に示した。表2より苦味及び痺れ感いずれもポリビニルピロリドンの添加量が増大するとともに評価点数が上がる、即ち不快な味の隠蔽効果が増大することが明らかである。また、その効果は特に痺れ感についてはソルビトールを配合した対照試料より顕著であり、本願発明にかかる効果が単に甘味による味覚上の錯覚によるものではないことを示唆している。
【0020】
【表2】
【0021】
試験例3
塩酸ドネペジルを0.1重量%含有する水溶液にD−ソルビトールを20重量%となるように配合した試料又はプロピレングリコールを6%重量となるように配合した試料、前記各試料にポリビニルピロリドンを5重量%となるように配合した試料を、60℃で2週間又は1ヶ月保存して塩酸ドネペジルの類縁物質量を測定した結果を表3に示す。
表3よりD−ソルビトール及び/又はプロピレングリコールを配合することにより類縁物質の生成が顕著に抑制されることが明らかである。
【0022】
【表3】
【0023】
試験例4
表4に示す処方により、60℃2週間又は45℃1ヶ月の保存試験を行ったところ、亜硫酸水素ナトリウムを添加した試料は塩酸ドネペジルの類縁物質が検出されなかった。
【0024】
【表4】
【0025】
試験例5
表5に示す処方において、ポビドンを添加しない場合には、室温又は冷所(4℃)の保存条件で沈殿物が生成した。
【0026】
【表5】
【0027】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明がこれに限定されるわけではない。
【0028】
実施例1
塩酸ドネペジル50mg及びポリビニルピロリドン7.00gを水42.95gに溶解し本発明にかかる組成物を得た。
【0029】
実施例2
塩酸ドネペジル500mg、ポリビニルピロリドン(平均分子量約40000)70g、ソルビトール100g、サッカリンナトリウム1g、クエン酸ナトリウム1g、安息香酸ナトリウム1.5gを精製水400mlに溶解し、クエン酸を加えてpHを5.0に調整した後、全量500mlにメスアップして5gずつバイアル瓶に分注した。
【0030】
実施例3
ポビドン(商品名:コリドン30)2.5gを精製水に徐々に加えて溶解し、70%D−ソルビトール液17.9g、クエン酸100mg、安息香酸50mgを添加し溶解した。この溶液に塩酸ドネペジル50mgを添加溶解し、クエン酸ナトリウムを添加しpHを3.9に調整した。更に食用赤色40号0.5mg、ストロベリーフレーバー150mgを添加し、精製水を添加して全量を50mlとした。この溶液を5mlずつバイアル瓶に分注した。
【0031】
実施例4
ポビドン(商品名:コリドン30)2.5gを精製水に徐々に加えて溶解し、70%D−ソルビトール液17.9g、クエン酸100mg、安息香酸50mgを添加し溶解した。この溶液に塩酸ドネペジル50mgを添加溶解し、クエン酸ナトリウムを添加しpHを3.9に調整した。更にサンセットイエロー0.2mg、オレンジフレーバー150mgを添加し、精製水を添加して全量を50mlとした。この溶液を5mlずつバイアル瓶に分注した。
【0032】
実施例5
塩酸ドネペジル50mg、ポリビニルピロリドン2.5g及びD−ソルビトール10gに精製水を加え溶解し全量を50mlとした。
【0033】
実施例6
塩酸ドネペジル50mg、ポリビニルピロリドン2.5g及びプロピレングリコール3gに精製水を加え溶解し全量を50mlとした。
【0034】
実施例7
ポビドン(商品名:コリドン30)2.5gを精製水に徐々に加えて溶解し、70%D−ソルビトール液17.9g、クエン酸100mg、安息香酸ナトリウム50mg及び亜硫酸水素ナトリウム10mgを添加し溶解した。この溶液に塩酸ドネペジル50mgを添加溶解し、クエン酸ナトリウムを添加しpHを3.9に調整した。更に食用赤色40号0.5mg、ストロベリーフレーバー150mgを添加し、精製水を添加して全量を50mlとした。この溶液を5mlずつバイアル瓶に分注した。
【0035】
実施例8
ポビドン(商品名:コリドン30)2000gを精製水15Lに徐々に加えて溶解し、70%D−ソルビトール液13280gを加え30分間撹拌した。コポリドンが溶解したことを確認し20%クエン酸溶液400g、10%安息香酸ナトリウム溶液400gを添加し溶解した。この溶液に塩酸ドネペジル40gを70%D−ソルビトール液1000gに溶解した液を添加し撹拌した。さらにメチルパラベン40gをプロピレングリコール2400gに溶解した駅を添加し撹拌した。10%クエン酸ナトリウム溶液を添加しpHを3.9に調整し、更に0.2%食用赤色40号溶液200g、ストロベリーフレーバー120gを添加し、精製水を加えて全量を40Lと撹拌した。この溶液を0.22μmのフィルターでろ過し、5mlずつアルミスティック包装に分注した。
Claims (2)
- (1)塩基性薬物である塩酸ドネペジル1重量部、(2)ポリビニルピロリドン5〜200重量部、及び(3)プロピレングリコール及び/又はD−ソルビトールからなる組成物であり、
前記組成物が、液剤、シロップ剤、リモナーデ剤、エリキシル剤又はリニメント剤である、組成物。 - ポリビニルピロリドン5〜200重量部を添加することによる塩基性薬物である塩酸ドネペジル1重量部の類縁物質の生成を、プロピレングリコール及び/又はD−ソルビトールを添加して抑制する方法。
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