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JP4071182B2 - 合成樹脂粉末および水硬性物質用混和材または打継ぎ材 - Google Patents

合成樹脂粉末および水硬性物質用混和材または打継ぎ材 Download PDF

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Description

本発明は、合成樹脂粉末に関し、さらに詳しくは、ビニルアルコール系重合体を分散剤とし、エチレン性不飽和単量体及びジエン系単量体から選ばれる一種あるいは二種以上の不飽和単量体単位を有する重合体を分散質とするエマルジョン(A)に、1,2−グリコール結合を1.9モル%以上有するビニルアルコール系重合体(B)を配合した組成物を噴霧乾燥して得られる合成樹脂粉末に関する。
合成樹脂粉末は、合成樹脂エマルジョンを噴霧乾燥することにより製造され、合成樹脂エマルジョンに比べて粉末であることにより、取り扱いおよび輸送の点で優れている。また、使用に際しては、水を添加し、攪拌することにより容易に水中に再分散するため、セメントまたはセメントモルタルへの混和材、接着剤、塗料用バインダーなどの広範な用途に使用されている。なかでもモルタルへの混和材に関しては、粉末であることから、プレミックスが可能であり、多様な商品形態を可能にすることから、広く用いられている。しかしながら、従来の合成樹脂エマルジョンでは、それをそのまま噴霧乾燥した場合には、分散質が容易に融着し、水に再分散しないため、多量のポリビニルアルコールを後添加し、さらにはブロッキング防止剤として無水珪酸等の無機粉末を多量に併用する必要があるのが現状であった。後添加するポリビニルアルコール(PVA)としては、粉末化後、使用時に再乳化しうることが必要であることから、従来部分けん化PVAが広く用いられてきた(特許文献1)。しかしながら、得られた粉末の再分散性は、必ずしも充分優れているとは言えず、また部分けん化PVAを大量に配合して粉末化することから、得られた粉末を再分散させたエマルジョンの耐水性は粉末化前に比べ劣るという問題点があった。また、1,2−グリコール結合を1.7モル%以上有するビニルアルコール系重合体を分散剤とする水性エマルジョンを噴霧乾燥して得られる合成樹脂粉末も知られている(特許文献2)が、この方法で得た合成樹脂粉末は後述する比較例6からも明らかなように、再分散性は良好ではあるが、いまだ充分優れているとは言えないし、またセメントまたはセメントモルタルなどの水硬性物質用の混和材あるいは打ち継ぎ材として使用した場合、曲げ強度などの物性は良好ではあるが、いまだ充分優れているとは言えない。
特開平11−263849号公報(請求項1、[0011]、[0012]) 特開2001−342260公報(請求項1、[0010])
本発明の目的は、前述の問題点を解決し、再分散性に優れ、さらに耐水性にも優れ、さらにまた再分散した場合の造膜性、低温における放置安定性などにも優れた、しかもセメントまたはセメントモルタルなどの水硬性物質用混和材または打ち継ぎ材と使用した場合、優れた性能を発揮する合成樹脂粉末を提供することにある。
本発明者らは、上記の実情に鑑み、鋭意検討した結果、ビニルアルコール系重合体を分散剤とし、エチレン性不飽和単量体及びジエン系単量体から選ばれる一種あるいは二種以上の不飽和単量体単位を有する重合体を分散質とするエマルジョン(A)に、1,2−グリコール結合を1.9モル%以上有するビニルアルコール系重合体(B)を配合した組成物を噴霧乾燥して得られる合成樹脂粉末が、上記課題を解決するものであることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明により、再分散性に優れ、さらに耐水性にも優れ、さらにまた再分散した場合の造膜性、低温における放置安定性などにも優れた合成樹脂粉末が得られる。また、この合成樹脂粉末を使用することにより、セメントまたはセメントモルタルなどの水硬性物質への分散性に優れ、さらに得られる水硬性物質に優れた強度を付与することができる水硬性物質用混和材が得られる。また、本発明の合成樹脂粉末を使用することにより、接着性および耐久性に優れ、さらに機械的強度にも優れる水硬性物質用打継ぎ材が得られる。
以下、本発明の合成樹脂粉末について詳細に説明する。
本発明において、エマルジョン(A)の分散質は、エチレン性不飽和単量体及びジエン系単量体から選ばれる一種あるいは二種以上の不飽和単量体単位を有する重合体からなる。エチレン性不飽和単量体としては、エチレン、プロピレン、イソブテン等のオレフィン類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化オレフィン類、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ピバリン酸ビニル等のビニルエステル類、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル等のメタクリル酸エステル類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類、酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレンスルホン酸およびそのナトリウム、カリウム塩等のスチレン系単量体類、トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロライド、3−アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、3−メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、N−(3−アリルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)ジメチルアミンの4級アンモニウム塩、N−(4−アリルオキシ−3−ヒドロキシブチル)ジエチルアミンの4級アンモニウム塩、さらにはアクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド等の4級アンモニウム塩、メタクリル酸ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、アクリル酸ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、N−ビニルピロリドン等が挙げられ、またジエン系単量体としては、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等が挙げられる。これらの単量体は単独もしくは二種以上を組み合わせて使用される。
上記の単量体単位からなる重合体のうち、酢酸ビニル系重合体で代表されるビニルエステル系重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体で代表されるオレフィン−ビニルエステル共重合体などは、本発明の好ましい態様の一つである。
本発明において、エマルジョン(A)の分散剤にはビニルアルコール系重合体が用いられる。ビニルアルコール系重合体は、例えば、ビニルエステルを重合して得られるビニルエステル系重合体をけん化することにより製造される。該ビニルアルコール系重合体のけん化度は、特に制限されないが、70〜99モル%が好適であり、より好ましくは、80〜98モル%、さらに好ましくは83〜95モル%である。けん化度が70モル%未満の場合には、ビニルアルコール系重合体本来の性質である水溶性が低下する懸念が生じる。またけん化度が99モル%を越える場合、乳化重合が不安定になる懸念がある。該ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度(以下重合度と略す)も特に制限されないが、100〜8000の範囲が好適であり、300〜3000、さらには300〜2500がより好ましい。
該ビニルアルコール系重合体は、本発明の効果を損なわない範囲で共重合可能なエチレン性不飽和単量体を共重合したものでも良い。このようなエチレン性不飽和単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、(無水)マレイン酸、イタコン酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロリド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびそのナトリウム塩、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、塩化ビニル、臭化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ビニルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウム、N−ビニルピロリドン、 N−ビニルホルムアミド、 N−ビニルアセトアミド等のN−ビニルアミド類が挙げられる。また、チオール酢酸、メルカプトプロピオン酸などのチオール化合物の存在下で、酢酸ビニルなどのビニルエステル系単量体を重合するか、またはビニルエステルと上記エチレン性不飽和単量体とを共重合し、得られた(共)重合体をけん化することによって得られる末端変性物を用いることもできる。
また、1,2−グリコール結合を1.9モル%以上有するビニルアルコール系重合体を用いることは本発明の好ましい態様のひとつである。該ビニルアルコール系重合体を用いることにより得られる粉末の再分散性が向上する。1,2−グリコール結合を1.9モル%以上有するビニルアルコール系重合体の製造方法については後述する。
本発明に用いる合成樹脂エマルジョン(A)は、上記のビニルアルコール系重合体の存在下で、エチレン性不飽和単量体及びジエン系単量体から選ばれる1種あるいは2種以上の単量体を乳化重合することによって得られる。該合成樹脂エマルジョンの製造において、乳化重合の開始剤としては、通常乳化重合に用いられる重合開始剤、すなわち過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキサイド等の水溶性開始剤やアゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド等の油溶性開始剤が単独または各種還元剤との組み合わせによるレドックス系で用いられる。これらの使用方法は特に制限はないが、重合の初期に一括して添加する方法や、連続的に重合系に添加する方法等が採用できる。
本発明に用いる合成樹脂エマルジョン(A)において、ビニルアルコール系重合体の使用量は特に制限されないが、通常単量体100重量部に対して2〜30重量部、好ましくは3〜15重量部、さらに好ましくは3〜10重量部である。ビニルアルコール系重合体が2重量部未満の場合、合成樹脂エマルジョンの重合安定性が低下すると共にビニルアルコール系重合体を分散剤とする合成樹脂エマルジョンの特徴である機械的安定性や化学的安定性の低下、皮膜強度の低下等が起こる懸念がある。また、ビニルアルコール系重合体が30重量部を越える場合、重合系の粘度上昇による反応熱除去の問題や皮膜耐水性の低下等の懸念がある。
ビニルアルコール系重合体の添加方法は特に制限はなく、重合の初期に一括して添加する方法、初期にビニルアルコール系重合体の一部を添加し、重合中に連続的に重合系へ添加する方法等がある。
また、従来公知のノニオン性、アニオン性、カチオン性、両性の界面活性剤やヒドロキシエチルセルロース等の水溶性高分子をビニルアルコール系重合体と併用してもかまわない。
本発明に用いる合成樹脂エマルジョン(A)を製造する際の単量体の添加方法として、初期に一括して重合系に添加する方法、初期に単量体の一部を添加し、残りを重合中に連続的に添加する方法、単量体と水と分散剤を予め乳化したものを重合系に連続的に添加する方法等、各種の方法が可能である。
また、本発明に用いる合成樹脂エマルジョン(A)を製造する際に、連鎖移動剤を添加することもできる。連鎖移動剤としては、連鎖移動が起こるものであれば特に制限はないが、連鎖移動の効率の点でメルカプト基を有する化合物が好ましい。メルカプト基を有する化合物としては、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン、2−メルカプトエタノール、3−メルカプトプロピオン酸等が挙げられる。
連鎖移動剤の添加量は、単量体100重量部に対して5重量部以下が好ましい。連鎖移動剤の添加量が5重量部を越える場合には、合成樹脂エマルジョンの重合安定性が低下する上、分散質を形成する重合体の分子量が著しく低下し、エマルジョン物性の低下が起こる懸念がある。
上記エマルジョン(A)に配合される、ビニルアルコール系重合体の1,2−グリコール結合の含有量は、1.9モル%以上であることが重要であり、より好ましくは1.95モル%以上、さらには2.0モル%以上、最適には2.1モル%以上である。1,2−グリコール結合の含有量が1.9モル%未満の場合、得られる粉末の再分散性が低下する懸念が生じるし、またセメントまたはセメントモルタルなどの水硬性物質用混和材または打ち継ぎ材として使用する場合、曲げ強度などの点で優れた物性が得られない。また、1,2−グリコール結合の含有量は4モル%以下であることが好ましく、さらに好ましくは3.5モル%以下、最適には3.2モル%以下である。ここで、1,2−グリコール結合の含有量はNMRスペクトルの解析から求められる。
1,2−グリコール結合を1.9モル%以上有するビニルアルコール系重合体の製造方法は、特に制限はなく、公知の方法が使用可能である。一例としてビニレンカーボネートを上記の1,2−グリコール結合量になるようにビニルエステルと共重合する方法、ビニルエステルの重合温度を通常の条件より高い温度、例えば75〜200℃で、加圧下に重合する方法などが挙げられる。後者の方法においては、重合温度は95〜190℃であることが好ましく、100〜180℃であることが特に好ましい。また加圧条件としては、重合系が沸点以下になるように選択することが重要であり、好適には0.2MPa以上、さらに好適には0.3MPa以上である。また上限は5MPa以下が好適であり、さらに3MPa以下がより好適である。重合はラジカル重合開始剤の存在下、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などいずれの方法でも行うことができるが、溶液重合、とくにメタノールを溶媒とする溶液重合法が好適である。このようにして得られたビニルエステル重合体を通常の方法によりけん化することによりビニルアルコール系重合体が得られる。
該ビニルアルコール系重合体(B)の重合度は、各種の状況に応じて選定すればよく、特に制限はないが、粉末化時の作業性の観点から通常100〜3000が好適であり、さらに好ましくは150〜2000、より好ましくは200〜1600、最適には200〜1000である。一方、ビニルアルコール系重合体(B)のけん化度も特に制限されないが、70〜99モル%であることが好ましく、75〜98モル%がより好ましく、80〜96モル%がさらに好ましい。
該ビニルアルコール系重合体(B)は本発明の効果を損なわない範囲で共重合可能なエチレン性不飽和単量体を共重合したものでも良い。このようなエチレン性不飽和単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、(無水)マレイン酸、イタコン酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロリド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびそのナトリウム塩、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、塩化ビニル、臭化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ビニルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウム、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド等のN−ビニルアミド類が挙げられ、量は特に制限されないが、通常5モル%以下のものが用いられる。また、チオール酢酸、メルカプトプロピオン酸などのチオール化合物の存在下で、酢酸ビニルなどのビニルエステル系単量体を重合するか、またはビニルエステルと上記エチレン性不飽和単量体とを共重合し、得られる(共)重合体をけん化することによって得られる末端変性物を用いることもできる。
合成樹脂エマルジョン(A)に配合するビニルアルコール系重合体(B)の配合比は、合成樹脂エマルジョン(A)の固形分(分散質)100重量部に対してビニルアルコール系重合体(B)1〜50重量部であることが好適であり、さらに好ましくは3〜30重量部、より好ましくは5〜20重量部、さらには7〜20重量部である。ビニルアルコール系重合体(B)を添加することにより、乾燥後得られるエマルジョン粉末の再分散性が向上し、水硬性物質への分散性も向上し、さらにエマルジョン粉末を使用した水硬性物質の強度も優れたものとなる。
ビニルアルコール系重合体(B)の添加方法としては、ビニルアルコール系重合体(B)の水溶液を、エマルジョン(A)に添加する方法が好適な方法であるが、ビニルアルコール系重合体(B)の粉末、フレークまたはペレットをエマルジョン(A)に添加する方法も挙げられる。また、乳化重合してエマルジョン(A)を製造する際、乳化重合の後半にビニルアルコール系重合体(B)を添加(一括または連続添加)する方法も挙げられる。
本発明の合成樹脂粉末は、上記の合成樹脂エマルジョン(A)にビニルアルコール系重合体(B)を配合した後、乾燥、好適には噴霧乾燥して得られる。噴霧乾燥には、流体を噴霧して乾燥する通常の噴霧乾燥が使用できる。噴霧の形式により、ディスク式、ノズル式、衝撃波式などがあるが、いずれの方法でも良い。また、熱源として、熱風や加熱水蒸気等が用いられる。乾燥条件は、噴霧乾燥機の大きさや種類、合成樹脂エマルジョンの濃度、粘度、流量等によって適宜選択すればよい。乾燥温度は、100℃〜150℃が適当であり、この乾燥温度の範囲内で、十分に乾燥した粉末が得られるように、他の乾燥条件を設定することが望ましい。
また、本発明の合成樹脂粉末の貯蔵安定性、水への再分散性を向上させる目的で、無機粉末(ブロッキング防止剤)を使用することが望ましい。無機粉末は、噴霧乾燥後の粉末に添加して均一に混合しても良いが、噴霧乾燥する際に合成樹脂エマルジョンを無機粉末の存在下に噴霧すると(同時噴霧)、均一な混合を行うことができ好適である。無機粉末は平均粒径0.1〜100μmの微粒子であることが好適である。無機粉末としては、微粒子の無機粉末が好ましく、炭酸カルシウム、クレー、無水珪酸、珪酸アルミニウム、ホワイトカーボン、タルク、アルミナホワイト等が使用される。これらの無機粉末のうち、無水珪酸が好適である。無機粉末の使用量は、性能上、エマルジョン粉末に対して20重量%以下さらには10重量%以下が好ましい。下限値については0.1重量%以上、さらには0.2重量%以上が好ましい。また、有機系のフィラーも使用できる。
本発明の合成樹脂粉末は、水中に再分散させた後、200メッシュの金網でろ過した際の残渣が固形分で、合成樹脂粉末の全重量に対し0.5重量%以下であるものが、セメントまたはセメントモルタルなどの水硬性物質に混和した際、得られる水硬性物質の強度をより向上させることができることから好ましい。より好ましい残渣量は0.3重量%以下である。
合成樹脂粉末の水への再分散性をより向上させるために、各種の水溶性添加剤を加えることもできる。添加剤は、噴霧乾燥前に合成樹脂エマルジョンに添加して噴霧乾燥すると均一に混合されるため好ましい。水溶性添加剤の使用量は特に制限はなく、エマルジョンの耐水性等の物性に悪影響を与えない程度に適宜コントロールされる。このような添加剤としては、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、でんぷん誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド等の他、水溶性アルキッド樹脂、水溶性フェノール樹脂、水溶性尿素樹脂、水溶性メラミン樹脂、水溶性ナフタレンスルホン酸樹脂、水溶性アミノ樹脂、水溶性ポリアミド樹脂、水溶性アクリル樹脂、水溶性ポリカルボン酸樹脂、水溶性ポリエステル樹脂、水溶性ポリウレタン樹脂、水溶性ポリオール樹脂、水溶性エポキシ樹脂等が挙げられる。
本発明の合成樹脂粉末(平均粒径1〜1000μm、好適には2〜500μm)は、そのまま各種用途に用いることができるが、必要に応じ、本発明の効果を損なわない範囲で、従来公知の各種エマルジョン、合成樹脂粉末を添加して用いることもできる。
本発明の合成樹脂エマルジョン粉末は、とくにセメントまたはセメントモルタルなどの水硬性物質用混和材または水硬性物質用打継ぎ材として有用である。このことは後述する実施例からも明らかである。ここで、水硬性物質としては、例えばポルトランドセメント、アルミナセメント、スラグセメント、フライアッシュセメントなどの水硬セメント、あるいは石膏、プラスターなどのセメント以外の水硬性材料が挙げられる。
上記の水硬性物質用混和材を、例えば、セメント、骨材および水からなるセメントモルタルに配合して使用する場合、水硬性物質用混和材の配合量は、セメントに対し5〜20重量%が好適である。ここで、骨材としては、川砂、砕砂、色砂、けい砂などの細骨材、川砂利、砕石などの粗骨材が挙げられる。
また、本発明の合成樹脂エマルジョン粉末を、水硬性物質用打継ぎ材として使用する場合は、上記合成樹脂エマルジョン粉末を水で適宜再乳化し、打継ぎ材(プライマー処理材)としてコンクリートなどの水硬性物質基板に塗り付け、その後で、セメントモルタルなどの水硬性物質を塗り付けることにより施工が行われる。このような打継ぎ材を使用することにより、優れた接着性および耐久性、さらには優れた機械的強度などを付与することができる。
水硬性物質用混和材および打継ぎ材の分散性をより向上させるために、上記した水溶性添加剤などの各種の添加剤を加えることもできる。添加剤は、噴霧乾燥前に合成樹脂エマルジョンに添加して噴霧乾燥すると均一に混合されるため好ましい。 本発明の水硬性物質用混和材および打継ぎ材には、AE剤、減水剤、流動化剤、保水剤、増粘剤、防水剤、消泡剤等が適宜使用される。
本発明の合成樹脂粉末は、接着剤、塗料、紙加工剤などの用途にも使用できる。これらの用途には、粘性改良剤、保水剤、粘着付与剤、増粘剤、顔料分散剤、安定剤等が適宜使用される。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何等限定されるものではない。なお、実施例中、「部」および「%」はいずれも重量基準を意味する。
PVA製造例1
攪拌機、窒素導入口、開始剤導入口を備えた5L加圧反応槽に酢酸ビニル2940g、メタノール60gおよび酒石酸0.088gを仕込み、室温下に窒素ガスによるバブリングをしながら反応槽圧力を2.0MPaまで昇圧して10分間放置した後、放圧するという操作を3回繰り返して系中を窒素置換した。開始剤として2,2'−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)(V−40)をメタノールに溶解した濃度0.2g/L溶液を調製し、窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。次いで上記の重合槽内温を120℃に昇温した。このときの反応槽圧力は0.5MPaであった。次いで、上記の開始剤溶液2.5mlを注入し重合を開始した。重合中は重合温度を120℃に維持し、上記の開始剤溶液を用いて10.0ml/hrでV−40を連続添加して重合を実施した。重合中の反応槽圧力は0.5MPaであった。3時間後に冷却して重合を停止した。このときの固形分濃度は24%であった。次いで、30℃減圧下にメタノールを時々添加しながら未反応酢酸ビニルモノマーの除去を行い、ポリ酢酸ビニルのメタノール溶液(濃度33%)を得た。得られた該ポリ酢酸ビニル溶液にメタノールを加えて濃度が25%となるように調整したポリ酢酸ビニルのメタノール溶液400g(溶液中のポリ酢酸ビニル100g)に、40℃で7g{ポリ酢酸ビニル中の酢酸ビニル単位に対してモル比(MR)0.015}のアルカリ溶液(NaOHの10%メタノール溶液)を添加してけん化を行った。アルカリ添加後約2分で系がゲル化したものを粉砕器にて粉砕し、1時間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチル1000gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和の終了を確認後、濾別して得られた白色固体のPVAにメタノール1000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られたPVAを乾燥機中70℃で2日間放置して乾燥PVA(PVA−1)を得た。得られたPVA(PVA−1)のけん化度は88モル%であった。また、重合後未反応酢酸ビニルモノマーを除去して得られたポリ酢酸ビニルのメタノール溶液をアルカリモル比0.5でけん化して、粉砕したものを60℃で5時間放置してけん化を進行させた後、メタノールによるソックスレー洗浄を3日間実施し、次いで80℃で3日間減圧乾燥を行って精製PVAを得た。該PVAの平均重合度を常法のJIS K6726に準じて測定したところ1700であった。PVAの1,2−グリコール結合含有量はNMRのピークから求めることができる。けん化度99.9モル%以上にけん化後、十分にメタノール洗浄を行い、次いで90℃において2日間減圧乾燥をしたPVAをDMSO−D6に溶解し、トリフルオロ酢酸を数滴加えた試料を500MHzのプロトンNMR(JEOL GX−500)を用いて80℃で測定する。
ビニルアルコール単位のメチン由来のピークは3.2〜4.0ppm(積分値A)、1,2−グリコール結合の1つのメチン由来のピークは3.25ppm(積分値B)に帰属され、次式で1,2−グリコール結合含有量を算出できる。
1,2−グリコール結合含有量(モル%)=B/A×100
該精製PVAの1,2−グリコール結合量を500MHzプロトンNMR(JEOL GX−500)装置による測定から前述のとおり求めたところ、2.2モル%であった。
PVA製造例2
攪拌機、窒素導入口、開始剤導入口を備えた5L加圧反応槽に酢酸ビニル2400g、メタノール600gおよび酒石酸0.088gを仕込み、室温下に窒素ガスによるバブリングをしながら反応槽圧力を2.0MPaまで昇圧して10分間放置した後、放圧するという操作を3回繰り返して系中を窒素置換した。開始剤として2,2'−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)(V−40)をメタノールに溶解した濃度0.2g/L溶液を調製し、窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。次いで上記の重合槽内温を120℃に昇温した。このときの反応槽圧力は0.5MPaであった。次いで、上記の開始剤溶液2.5mlを注入し重合を開始した。重合中は重合温度を120℃に維持し、上記の開始剤溶液を用いて10.0ml/hrでV−40を連続添加して重合を実施した。重合中の反応槽圧力は0.5MPaであった。3時間後に冷却して重合を停止した。このときの固形分濃度は24%であった。次いで、30℃減圧下にメタノールを時々添加しながら未反応酢酸ビニルモノマーの除去を行い、ポリ酢酸ビニルのメタノール溶液(濃度33%)を得た。得られた該ポリ酢酸ビニル溶液にメタノールを加えて濃度が25%となるように調整したポリ酢酸ビニルのメタノール溶液400g(溶液中のポリ酢酸ビニル100g)に、40℃で7g{ポリ酢酸ビニル中の酢酸ビニル単位に対してモル比(MR)0.015}のアルカリ溶液(NaOHの10%メタノール溶液)を添加してけん化を行った。アルカリ添加後約2分で系がゲル化したものを粉砕器にて粉砕し、1時間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチル1000gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和の終了を確認後、濾別して得られた白色固体のPVAにメタノール1000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られたPVAを乾燥機中70℃で2日間放置して乾燥PVA(PVA−2)を得た。得られたPVA(PVA−2)のけん化度は98モル%であった。また、重合後未反応酢酸ビニルモノマーを除去して得られたポリ酢酸ビニルのメタノール溶液をアルカリモル比0.5でけん化して、粉砕したものを60℃で5時間放置してけん化を進行させた後、メタノールによるソックスレー洗浄を3日間実施し、次いで80℃で3日間減圧乾燥を行って精製PVAを得た。該PVAの平均重合度を常法のJIS K6726に準じて測定したところ500であった。該精製PVAの1,2−グリコール結合量を500MHzプロトンNMR(JEOL GX−500)装置による測定から前述のとおり求めたところ、2.2モル%であった。
PVA製造例3
攪拌機、窒素導入口、開始剤導入口を備えた5L加圧反応槽に酢酸ビニル2850g、メタノール150gおよび酒石酸0.086gを仕込み、室温下に窒素ガスによるバブリングをしながら反応槽圧力を2.0MPaまで昇圧して10分間放置した後、放圧するという操作を3回繰り返して系中を窒素置換した。開始剤として2,2'−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)をメタノールに溶解した濃度0.1g/L溶液を調製し、窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。次いで上記の重合槽内温を150℃に昇温した。このときの反応槽圧力は1.0MPaであった。次いで、上記の開始剤溶液15.0mlを注入し重合を開始した。重合中は重合温度を150℃に維持し、上記の開始剤溶液を用いて15.8ml/hrで2,2'−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)を連続添加して重合を実施した。重合中の反応槽圧力は1.0MPaであった。4時間後に冷却して重合を停止した。このときの固形分濃度は35%であった。次いで、30℃減圧下にメタノールを時々添加しながら未反応酢酸ビニルモノマーの除去を行い、ポリ酢酸ビニルのメタノール溶液(濃度33%)を得た。得られた該ポリ酢酸ビニル溶液にメタノールを加えて濃度が25%となるように調整したポリ酢酸ビニルのメタノール溶液400g(溶液中のポリ酢酸ビニル100g)に、40℃で11.6g{ポリ酢酸ビニル中の酢酸ビニル単位に対してモル比(MR)0.025}のアルカリ溶液(NaOHの10%メタノール溶液)を添加してけん化を行った。アルカリ添加後約3分でゲル化したものを粉砕器にて粉砕し、1時間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチル1000gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和の終了を確認後、濾別して得られた白色固体のPVAにメタノール1000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られたPVAを乾燥機中70℃で2日間放置して乾燥PVA(PVA−3)を得た。得られたPVA(PVA−3)のけん化度は98モル%であった。また、重合後未反応酢酸ビニルモノマーを除去して得られたポリ酢酸ビニルのメタノール溶液をアルカリモル比0.5でけん化した後、粉砕したものを60℃で5時間放置してけん化を進行させた後、メタノールによるソックスレー洗浄を3日間実施し、次いで80℃で3日間減圧乾燥を行って精製PVAを得た。該PVAの平均重合度を常法のJIS K6726に準じて測定したところ1000であった。該精製PVAの1,2−グリコール結合量を500MHzプロトンNMR(JEOL GX−500)装置による測定から前述のとおり求めたところ、2.5モル%であった。
PVA製造例4
攪拌機、窒素導入口、開始剤導入口を備えた5L加圧反応槽に酢酸ビニル2700g、メタノール300gおよび酒石酸0.081gを仕込み、室温下に窒素ガスによるバブリングをしながら反応槽圧力を2.0MPaまで昇圧して10分間放置した後、放圧するという操作を3回繰り返して系中を窒素置換した。開始剤として2,2'−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)をメタノールに溶解した濃度0.05g/L溶液を調製し、窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。次いで上記の重合槽内温を180℃に昇温した。このときの反応槽圧力は1.6MPaであった。次いで、上記の開始剤溶液0.4mlを注入し重合を開始した。重合中は重合温度を180℃に維持し、上記の開始剤溶液を用いて10.6ml/hrで2,2'−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)を連続添加して重合を実施した。重合中の反応槽圧力は1.6MPaであった。4時間後に冷却して重合を停止した。このときの固形分濃度は27%であった。次いで、30℃減圧下にメタノールを時々添加しながら未反応酢酸ビニルモノマーの除去を行い、ポリ酢酸ビニルのメタノール溶液(濃度33%)を得た。得られた該ポリ酢酸ビニル溶液にメタノールを加えて濃度が30%となるように調整したポリ酢酸ビニルのメタノール溶液333g(溶液中のポリ酢酸ビニル100g)に、40℃で11.6g{ポリ酢酸ビニル中の酢酸ビニル単位に対してモル比(MR)0.025}のアルカリ溶液(NaOHの10%メタノール溶液)を添加してけん化を行った。アルカリ添加後約3分でゲル化したものを粉砕器にて粉砕し、1時間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチル1000gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和の終了を確認後、濾別して得られた白色固体のPVAにメタノール1000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られたPVAを乾燥機中70℃で2日間放置して乾燥PVA(PVA−4)を得た。得られたPVA(PVA−4)のけん化度は98モル%であった。また、重合後未反応酢酸ビニルモノマーを除去して得られたポリ酢酸ビニルのメタノール溶液をアルカリモル比0.5でけん化した後、粉砕したものを60℃で5時間放置してけん化を進行させた後、メタノールによるソックスレー洗浄を3日間実施し、次いで80℃で3日間減圧乾燥を行って精製PVAを得た。該PVAの平均重合度を常法のJIS K6726に準じて測定したところ500であった。該精製PVAの1,2−グリコール結合量を500MHzプロトンNMR(JEOL GX−500)装置による測定から前述のとおり求めたところ、2.9モル%であった。
PVA製造例5
攪拌機、窒素導入口、開始剤導入口を備えた5L加圧反応槽に酢酸ビニル2850g、メタノール150gおよび酒石酸0.086gを仕込み、室温下に窒素ガスによるバブリングをしながら反応槽圧力を2.0MPaまで昇圧して10分間放置した後、放圧するという操作を3回繰り返して系中を窒素置換した。開始剤として2,2'−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)をメタノールに溶解した濃度0.1g/L溶液を調製し、窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。次いで上記の重合槽内温を150℃に昇温した。このときの反応槽圧力は1.0MPaであった。次いで、上記の開始剤溶液15.0mlを注入し重合を開始した。重合中は重合温度を150℃に維持し、上記の開始剤溶液を用いて15.8ml/hrで2,2'−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)を連続添加して重合を実施した。重合中の反応槽圧力は1.0MPaであった。4時間後に冷却して重合を停止した。このときの固形分濃度は35%であった。次いで、30℃減圧下にメタノールを時々添加しながら未反応酢酸ビニルモノマーの除去を行い、ポリ酢酸ビニルのメタノール溶液(濃度33%)を得た。得られた該ポリ酢酸ビニル溶液にメタノールを加えて濃度が25%となるように調整したポリ酢酸ビニルのメタノール溶液400g(溶液中のポリ酢酸ビニル100g)に、40℃で7g{ポリ酢酸ビニル中の酢酸ビニル単位に対してモル比(MR)0.015}のアルカリ溶液(NaOHの10%メタノール溶液)を添加してけん化を行った。アルカリ添加後約3分でゲル化したものを粉砕器にて粉砕し、1時間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチル1000gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和の終了を確認後、濾別して得られた白色固体のPVAにメタノール1000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られたPVAを乾燥機中70℃で2日間放置して乾燥PVA(PVA−5)を得た。得られたPVA(PVA−5)のけん化度は88モル%であった。また、重合後未反応酢酸ビニルモノマーを除去して得られたポリ酢酸ビニルのメタノール溶液をアルカリモル比0.5でけん化した後、粉砕したものを60℃で5時間放置してけん化を進行させた後、メタノールによるソックスレー洗浄を3日間実施し、次いで80℃で3日間減圧乾燥を行って精製PVAを得た。該PVAの平均重合度を常法のJIS K6726に準じて測定したところ1000であった。該精製PVAの1,2−グリコール結合量を500MHzプロトンNMR(JEOL GX−500)装置による測定から前述のとおり求めたところ、2.5モル%であった。
エマルジョン製造例1
窒素吹き込み口、温度計、撹拌機を備えた耐圧オートクレーブにPVA−217((株)クラレ製、重合度1700、けん化度88モル%)の9.5%水溶液80部を仕込み、60℃に昇温してから、窒素置換を行った。酢酸ビニル80部を仕込んだ後、エチレンを4.9MPaまで加圧し、0.5%過酸化水素水溶液2gおよび2%ロンガリット水溶液0.3gを圧入し、重合を開始した。残存酢酸ビニル濃度が10%となったところで、エチレンを放出し、エチレン圧力2.0MPaとし、3%過酸化水素水溶液0.3gを圧入し重合を完結させた。重合中に凝集などがなく、重合安定性に優れており、固形分濃度55%、エチレン含量18重量%のエチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョン(Em−1)が得られた。
エマルジョン製造例2
還流冷却器、滴下ロート、温度計、窒素吹込口、撹拌機を備えたガラス製容器に、末端にメルカプト基を有するPVA(重合度550、鹸化度88.3モル%、メルカプト基含量3.3×10−5当量/g)5部とイオン交換水90部を仕込み、95℃で完全溶解させた。次いで、希硫酸によりpH=4とした後、150rpmで撹拌しながらメチルメタクリレート10部、n−ブチルアクリレート10部、n−ドデシルメルカプタン0.1部を添加し、窒素置換後70℃まで昇温した。1%過硫酸カリウム5部を添加し重合を開始し、さらに2時間かけてメチルメタクリレート40部、n−ブチルアクリレート40部、n−ドデシルメルカプタン0.4部を混合したものを連続的に添加した。重合開始3時間後、転化率99.5%となり重合を終了した。固形分濃度52%の安定なメチルメタクリレート/n−ブチルアクリレート共重合体エマルジョン(Em−2)を得た。
エマルジョン製造例3
エマルジョン製造例1においてPVA−217の代わりに、PVA製造例1により得られたPVA−1を使用した以外は、エマルジョン製造例1と同様にしてエマルジョン(Em−3)を得た。
エマルジョン製造例1で得たエチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョン(A)(Em−1)固形分100部とPVA製造例2で得たPVA−2の5%水溶液200部を混合したものと、エマルジョンの固形分に対して2%の無水珪酸微粉末(平均粒径2μm)とを別々に120℃の熱風中に同時噴霧して乾燥し、平均粒径20μmのエマルジョン粉末を得た。
(エマルジョン粉末の性能評価)
エマルジョン粉末100部に20℃のイオン交換水100部を添加して、攪拌機により十分攪拌し、以下の物性を評価した。結果を表1に示す。
・再分散性;再分散したエマルジョンを200メッシュのステンレス製金網でろ過し、ろ過残渣を105℃で5時間乾燥し、ろ過残渣の割合を測定した。
ろ過残渣(%)=(乾燥後のろ過残渣量/再分散に用いたエマルジョン粉末重量)×100
ろ過残渣は少なければすくないほど、エマルジョン粉末を、水硬性物質用混和材または打ち継ぎ材として用いた場合に、優れた強度を有する水硬物が」得られる。本発明によれば、ろ過残渣5%以下(表1)のエマルジョン粉末を得ることができる。
・再分散後の状態;再分散したエマルジョンの状態を目視及び光学顕微鏡で観察し、以下の基準により判断した。
◎ 再分散液が均一で平均粒子径50μm以下
○ 再分散液が均一で未分散物(ブツ)がない。
△ 再分散はしているが、未分散物が認められる。
× 再分散しない
・造膜性:50℃でガラス板上に再分散物を流延、乾燥させ、造膜性を以下の基準により判断した。
○ 均一な皮膜となり、強靱な皮膜が得られる。
△ 皮膜にはなるがもろい。
× 均一な皮膜が得られない。
・耐水性(皮膜の水中溶出率):再分散したエマルジョンを20℃下で製膜し、皮膜を得た(膜厚100μm)。該皮膜を20℃水中に24時間浸漬し、以下の式により溶出率を算出した。
溶出率(%)={1−(浸漬後の皮膜絶乾重量)/(浸漬前の皮膜絶乾重量)}×100
浸漬前の皮膜絶乾重量;浸漬前の皮膜重量(含水)−(浸漬前の皮膜重量(含
水)× 皮膜含水率(%)/100)
浸漬後の皮膜絶乾重量;浸漬後の皮膜を105℃で絶乾した重量。
溶出率は少なければ少ないほどより優れた耐水性と再分散性を有し、本発明によれば溶出率7%以下(表1)のエマルジョン粉末を得ることができる。
放置安定性:再分散したエマルジョンを20℃、及び0℃に放置し、1週間後
に状態を観察、以下の基準により判断した。
○ 変化なし、
△ 増粘が認められる、
× ゲル化
ゲル分:
20℃の水中再分散して得られたエマルジョン(20℃のイオン交換水100部に対しエマルジョン粉末100部の割合で再分散)を20℃65%RH下で、PETフイルム上に流延し、7日間乾燥させて厚さ500μmの乾燥皮膜を得た。この皮膜を直径2.5cmに打ち抜いたものを試料として、アセトンにて24時間ソックスレー抽出し、さらに煮沸水中で24時間抽出を行い、抽出後の皮膜の不溶分(ゲル分)を求めた。
ゲル分(%)=抽出後の皮膜絶乾重量/抽出前の皮膜絶乾重量×100
抽出前の皮膜絶乾重量=抽出前の皮膜重量(含水)−{抽出前の皮膜重量(含水)×皮膜含水率(%)/100}
*皮膜含水率:皮膜(アセトンおよび煮沸水で抽出する試料とは別の試料)を、105℃、4時間で絶乾し、皮膜の含水率をあらかじめ求める。
*抽出後の皮膜絶乾重量:抽出後の皮膜を105℃、4時間で絶乾燥した重量。
ゲル分は大きければ大きいほど、ビニルアルコール系重合体(B)が分散質(重合体)へより多くグラフトしていることを示し、エマルジョン粉末の再分散性がより向上する。本発明によれば、ゲル分20%以上(表1)エマルジョン粉末を得ることができる。
(水硬性物質用混和材の性能評価)
セメントモルタル用混和材としての性能
セメントモルタルの物性試験
1)モルタル組成:
水硬性物質用混和材/セメント重量比=0.10
砂/セメント重量比=3.0、水/セメント重量比=0.6
2)スランプ値 :JIS A−1173に準じて測定
(セメントモルタルへの分散性を示す指標)
3)曲げ強度 :JIS A−6203に準じて測定
4)圧縮強度 :JIS A−6203に準じて測定
結果を表2に示す。
(水硬性物質用打継ぎ材の性能評価)
セメントモルタル用打継ぎ材としての性能
上記で得た水硬性物質用混和材をそのまま打継ぎ材として用い以下の試験を行った。
接着強度試験
1)試験用基板
試験に用いるコンクリート基板としては、建築における標準的な調合である、ポルトランドセメント300部、けい砂800部、粗骨材(バラス)1000部、水180部を練り混ぜた後、合板型枠で300mm×300mm×厚さ50mmの大きさに打設して、試験室{温度20℃、相対湿度(RH)65%}中で28日間養生したものを用いた。
2)塗り付けモルタル
試験に用いる塗り付けモルタルの調合は、重量比でセメント1、骨材(標準砂)2とし、フロー値が170±5となるように水−セメント比を調整して、JIS R5201の9.4の規定に準拠して練り混ぜた。
なお、セメントとしては、JIS R5210(ポルトランドセメント)に規定される普通ポルトランドセメントを、骨材としては、JIS R5210の9.2に規定される豊浦標準砂を用いた。
3)試験体の作製方法
上記打継ぎ材を、上記1)の試験用基板の表面に刷毛で均一に塗り付け、24時間、温度20℃、65%RHの雰囲気下に放置した。なお、打継ぎ材の塗布量は、固形分として50g/mとした。次に、上記2)のモルタルを厚さ6mmになるように金ゴテで塗り付けて、48時間、20℃、80%RH以上の雰囲気下で養生後、さらに試験室中で26日間養生して試験体とした。
4)標準状態の接着強度試験
上記3)で作成した試験体のモルタル面を、寸法40mm×90mmに基板に達するまで切り込んだ後、JIS A6916の5.6に規定する試験方法に準じて接着強度試験を行い、5箇所の測定値の平均値を求めた。結果を、打ち継ぎ物性として表2に示す。
比較例1
実施例1において、PVA−2の代わりに、通常のPVA(PVA−6:重合度500、けん化度98.5モル%、1,2−グリコール結合量1.6モル%、(株)クラレ製PVA−105)を用いる以外は、実施例1と同様にしてエマルジョン粉末を得た。得られたエマルジョン粉末の物性を実施例1と同様にして評価した。結果を併せて表1および表2に示す。
実施例1において、PVA−2の代わりに、PVA製造例3で得られたPVA−3を用いる以外は、実施例1と同様にしてエマルジョン粉末を得た。得られたエマルジョン粉末の物性を実施例1と同様にして評価した。結果を併せて表1および表2に示す。
実施例1において、PVA−2の代わりに、PVA製造例4で得られたPVA−4を用いる以外は、実施例1と同様にしてエマルジョン粉末を得た。得られたエマルジョン粉末の物性を実施例1と同様にして評価した。結果を併せて表1および表2に示す。
実施例1において、PVA−2の代わりに、PVA製造例5で得られたPVA−5を用いる以外は、実施例1と同様にしてエマルジョン粉末を得た。得られたエマルジョン粉末の物性を実施例1と同様にして評価した。結果を併せて表1および表2に示す。
比較例2
実施例1において、PVA−2の代わりに、通常のPVA(PVA−7:重合度1000、けん化度88モル%、1,2−グリコール結合量1.6モル%、(株)クラレ製PVA−210)を用いる以外は、実施例1と同様にしてエマルジョン粉末を得た。得られたエマルジョン粉末の物性を実施例1と同様にして評価した。結果を併せて表1および表2に示す。
比較例3
実施例1において、PVA−2を用いなかった以外は、実施例1と同様にしてエマルジョン粉末を得た。得られたエマルジョン粉末の物性を実施例1と同様にして評価したが、再分散性が極めて悪く、造膜性も悪く、さらに溶出率、安定性の測定が不可能であった。結果を併せて表1および表2に示す。
実施例1において、PVA−2の5%水溶液200部を100部とした以外は、実施例1と同様にしてエマルジョン粉末を得た。得られたエマルジョン粉末の物性を実施例1と同様にして評価した。結果を併せて表1および表2に示す。
比較例4
比較例1において、PVA−6の5%水溶液200部を100部とした以外は、比較例1と同様にしてエマルジョン粉末を得た。得られたエマルジョン粉末の物性を実施例1と同様にして評価したが、再分散性が極めて悪く、造膜性も悪く、さらに溶出率、安定性の測定が不可能であった。結果を併せて表1および表2に示す。
実施例1において、PVA−2の5%水溶液200部を300部とした以外は、実施例1と同様にしてエマルジョン粉末を得た。得られたエマルジョン粉末の物性を実施例1と同様にして評価した。結果を併せて表1および表2に示す。
実施例1において、PVA−2の5%水溶液200部を40部とした以外は、実施例1と同様にしてエマルジョン粉末を得た。得られたエマルジョン粉末の物性を実施例1と同様にして評価した。結果を併せて表1および表2に示す。
実施例1において、PVA−2の5%水溶液200部を500部とした以外は、実施例1と同様にしてエマルジョン粉末を得た。得られたエマルジョン粉末の物性を実施例1と同様にして評価した。結果を併せて表1および表2に示す。
実施例1において、Em−1の代わりにエマルジョン製造例2で調製したメチルメタクリレート/n−ブチルアクリレート共重合体エマルジョン(A)(Em−2)を用いた以外は、実施例1と同様にしてエマルジョン粉末を得た。得られたエマルジョン粉末の物性を実施例1と同様にして評価した。結果を併せて表1および表2に示す。
比較例5
実施例9において、PVA−2の代わりに、通常のPVA(PVA−6)を用いた以外は、実施例9と同様にしてエマルジョン粉末を得た。得られたエマルジョン粉末の物性を実施例1と同様にして評価した。結果を併せて表1および表2に示す。
実施例1において、Em−1の代わりにEm−3を使用した以外は、実施例1と同様にしてエマルジョン粉末を得た。得られたエマルジョン粉末の物性を実施例1と同様にして評価した。結果を併せて表1及び表2に示す。
比較例6
実施例1において、Em−1の代わりにEm−3を使用し、さらにPVA(B)(PVA−2)を使用しない以外は、実施例1と同様にしてエマルジョン粉末を得た。得られたエマルジョン粉末の物性を実施例1と同様にして評価した。結果を併せて表1及び表2に示す。
比較例7
実施例10において、PVA(B)(PVA−2)の代わりに、PVA(B){PVA−6:重合度500、けん化度98.5モル%、1,2−グリコール結合量1.6モル%、(株)クラレ製「PVA105」}を用いる以外は、実施例10と同様にしてエマルジョン粉末を得た。結果を併せて表1及び表2に示す。
Figure 0004071182
Figure 0004071182
本発明により、再分散性に優れ、さらに耐水性にも優れ、さらにまた再分散した場合の造膜性、低温における放置安定性などにも優れた合成樹脂粉末が得られる。また、この合成樹脂粉末を使用することにより、セメントまたはセメントモルタルなどの水硬性物質への分散性に優れ、さらに得られる水硬性物質に優れた強度を付与することができる水硬性物質用混和材が得られる。また、本発明の合成樹脂粉末を使用することにより、接着性および耐久性に優れ、さらに機械的強度にも優れる水硬性物質用打継ぎ材が得られる。

Claims (8)

  1. ビニルアルコール系重合体を分散剤とし、エチレン性不飽和単量体及びジエン系単量体から選ばれる一種あるいは二種以上の不飽和単量体単位を有する重合体を分散質とするエマルジョン(A)に、1,2−グリコール結合を1.9モル%以上有するビニルアルコール系重合体(B)を配合した組成物を乾燥して得られる合成樹脂粉末。
  2. エマルジョン(A)の固形分100重量部に対し、1,2−グリコール結合を1.9モル%以上有するビニルアルコール系重合体(B)を1〜50重量部配合する請求項1記載の合成樹脂粉末。
  3. エチレン性不飽和単量体及びジエン系単量体から選ばれる一種あるいは二種以上の不飽和単量体単位を有する重合体が、ビニルエステル系重合体、またはオレフィン−ビニルエステル共重合体である請求項1または2記載の合成樹脂粉末。
  4. エマルジョン(A)において用いるビニルアルコール系重合体が、1,2−グリコール結合を1.9モル%以上有するビニルアルコール系重合体である請求項1〜3のいずれかに記載の合成樹脂粉末。
  5. 合成樹脂粉末が、該粉末を水中に再分散させた後、200メッシュの金網でろ過した際の残渣が固形分で0.5重量%以下を示す請求項1〜4のいずれかに記載の合成樹脂粉末。
  6. 乾燥が噴霧乾燥である請求項1〜5のいずれかに記載の合成樹脂粉末。
  7. 合成樹脂粉末が、無機粉末を含有する請求項1〜6のいずれかに記載の合成樹脂粉末。
  8. 請求項1〜7のいずれかに記載の合成樹脂粉末からなる水硬性物質用混和材または打継ぎ材。
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