JP4054869B2 - 抵抗型酸素センサの酸素分圧検出部分の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、抵抗型酸素センサの酸素分圧検出部分に使用される多孔体厚膜の製造方法に関するものであり、更に詳しくは、排ガスの浄化率向上や燃費向上のために、自動車等の排ガスの空燃比を制御するための空燃比フィードバック制御システムに使われる酸素分圧を測定する酸素センサの酸素分圧検出部分である酸化セリウム系多孔体厚膜及びその製造方法に関するものである。ここで、空燃比とは、空気と燃料の比であり、酸素分圧と空燃比とは1対1の関係が成り立つ。
【0002】
【従来の技術】
これまで、自動車用の酸素ガスセンサとしては、主として、固体電解質のものが用いられてきた(例えば、特許文献1参照)。このタイプのセンサは、基準極と測定極の酸素分圧の違いを起電力として測定するものであり、必ず基準極が必要であるため、構造が複雑であり、小型化が困難であるという問題点があった。このような問題点を克服するために、基準極を必要としない抵抗型酸素ガスセンサが開発されている(例えば、特許文献2参照)。この抵抗型酸素ガスセンサの測定原理を簡単に説明すると、まず、雰囲気の酸素分圧が変化したときに、酸化物半導体の酸素空孔濃度が変化する。酸化物半導体の抵抗率あるいは電気伝導度は、酸素空孔濃度と1対1の対応関係があり、酸素空孔濃度の変化に伴い、酸化物半導体の抵抗率が変化する。その抵抗率を測定することにより、雰囲気の酸素分圧を知ることができる。
【0003】
しかし、この抵抗型酸素ガスセンサには、酸素分圧が変化したときの出力の応答性が劣るという問題点があった(例えば、特許文献3参照)。また、抵抗型酸素ガスセンサの酸化物半導体として、酸化チタニウムが使われてきたが、この材料には、耐久性や安定性に劣るという問題点があった。これらの問題点を克服するために、本発明者らは、酸化物半導体として、酸化セリウムを用いた抵抗型酸素ガスセンサの研究及び開発を行ってきたが、その理由は、酸化セリウムは、腐食ガス中において耐久性があるためである(非特許文献1参照)。本発明者らは、その研究開発の過程で、酸化セリウムを用いた抵抗型酸素センサにおいて、酸化セリウムの平均粒径を200nmまで小さくすることにより、また、酸化セリウムに酸化ジルコニウムを添加することにより、応答速度が改善されることを見出し、先に、特許出願をした。
【0004】
これらの発明において、酸素分圧検出部分の形状としては、厚膜が好適であり、応答速度を良くするには、該厚膜の粒径を小さくする必要がある。その厚膜の製造方法は、次のとおりである。まず、酸化物の微粒子からなる粉末原料として、その原料を含むペーストを作製し、それをスクリーン印刷により塗布し、焼成することにより、抵抗型酸素センサの酸素分圧検出部分である多孔体厚膜を作製する。ここで、酸素センサは、作動温度が最高で1000℃まで達する。従って、1000℃以下の温度で、粒成長などが生じないように、スクリーン印刷されたものを、予め1000℃を超える温度で焼成する必要がある。
【0005】
これらの発明では、原料粉末を噴霧熱分解法で作製したが、この方法では、微粒子の特性として、凝集が生じにくく、また、その原料粉末の微粒子は、粒径が比較的大きい(約40nm以上)ことから、これを用いてペーストを作製し、スクリーン印刷するだけで、クラックのきわめて少ない多孔体厚膜が得られた。しかし、噴霧熱分解法では、単位時間当たりの粉末の製造量が少ないという問題があった。一方、他の方法でも、酸化セリウムあるいは酸化セリウムを主成分とする酸化物の微粒子を得ることができる(特許文献4参照)。この方法は、主たる目的が非常に細かい微粒子を得るための手法であって、大量生産が可能な手法であり、工業的観点からは、噴霧熱分解法よりも優れていると言える。しかしながら、この方法により得られる粉末は、非常に細かく、また、微粒子が凝集しているため、粉末とビヒクル(有機バインダー)を単に混合したペーストから多孔体厚膜を作製した場合、クラックが多数あり、厚膜の抵抗が大きくなるという問題があった。抵抗が大きくなると、抵抗を測るための測定回路が複雑となり好ましくない。また、クラックがひどい場合は、導電性がなく、酸素センサとして使えないという問題があり、また、クラックがあるため、厚膜が基板から剥離しやすいという問題もあった。
【0006】
【特許文献1】
特開昭55−137334号公報
【特許文献2】
特開昭62−174644号公報
【特許文献3】
特開平07−63719号公報
【特許文献4】
特開2002−255515号公報
【非特許文献1】
E. B. Varhegyi et al., Sensors and Actuator B, 18-19 (1994) 569
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記先行技術に鑑みて、それらにおける諸問題抜本的に解決するためになされたものであって、クラックの数が極めて少なく、酸素センサの酸素分圧検出部分として十分使用可能な、酸化セリウムあるいは酸化セリウムが主成分である酸化物の多孔体厚膜及びその製造方法を提供することを目的とするものである。また、本発明は、好適には、平均粒径が200nm以下である多孔体厚膜を製造する方法を提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するための、本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)酸化セリウムを含む酸化物の微粒子の粉末を原料として、その酸化物を含むペーストを作製し、それをスクリーン印刷により基板上に印刷し、仮焼及び焼成することにより、抵抗型酸素センサの酸素分圧検出部分である多孔体厚膜を製造する方法であって、前記粉末の平均粒径を最終的に得られる厚膜の平均粒径未満の粒径に粒成長させるための熱処理工程と、粒成長させた粉末を溶媒と混合する工程と、凝集粒子を溶媒中で分散させる工程と、沈殿物を除去する工程と、溶媒を揮発させる工程と、有機バインダーを酸化物に混合してペーストとする工程とを含むことを特徴とする抵抗型酸素センサの酸素分圧検出部分である多孔体厚膜の製造方法。
(2)多孔体厚膜の平均粒径が大きくても200nmである前記(1)記載の多孔体厚膜の製造方法。
(3)熱処理工程により粒成長させた粉末の平均粒径が小さくても45nmである前記(1)記載の多孔体厚膜の製造方法。
(4)熱処理工程前の粉末の平均粒径が10から45nm未満である前記(1)記載の多孔体厚膜の製造方法。
(5)熱処理工程において、粉末を880℃から920℃で熱処理する前記(1)記載の多孔体厚膜の製造方法。
(6)ペーストに占める酸化物の重量比を10から30重量%に調整する前記(1)記載の多孔体厚膜の製造方法。
(7)酸化セリウムを含む酸化物の微粒子が、酸化セリウムと酸化ジルコニウムとを含む酸化物の微粒子である前記(1)記載の多孔体厚膜の製造方法。
(8)前記(1)から(7)のいずれかに記載の方法により製造された、クラックの少ない、平均粒径が200nm以下で、800℃における電気伝導度が10-3S/m以上である抵抗型酸素センサの酸素分圧検出部分である酸化セリウム系多孔体厚膜。
【0009】
【発明の実施の形態】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明の製造方法のフローを図1に示す。本発明では、原料として、酸化セリウム、又は酸化セリウムを主成分とする酸化物が用いられる。酸化セリウムを主成分とする酸化物とは、具体的には、例えば、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化ゲルマニウム、又は酸化ハフニウムなどを含む、酸化セリウムが主成分である酸化物であり、より好ましくは、酸化ジルコニウムを含む酸化セリウムを主成分とする酸化物である。酸化セリウムより副成分が多い場合、粉末の特性が酸化セリウムと大きく異なることとなるため、酸化セリウム濃度は40mol%以下が好ましい。また、微粒子の粒径は、平均粒径が10から20nmのものが好ましく、その粒径にばらつきがあるものでも良い。本発明の方法は、粒径が小さい(40nm未満)、凝集が生じやすい微粒子からなる上記酸化物の粉末に好適に適用される。これら酸化物の微粒子の製造方法としては、例えば、沈殿法、共沈法、及び水熱合成法などが例示される。沈殿法や、共沈法では、水酸化物や水を含んだ沈殿物を空気中で加熱して、酸化物粉末を得ることができる。酸化セリウムの場合、600℃の温度で加熱すれば、酸化物が得られる。従って、水酸化物や水を含んだ沈殿物を酸化物にするための熱処理工程と、本発明の粒成長のための熱処理工程を連続させることも可能である。
【0010】
本発明では、まず初めに、最終的に得ようとする厚膜の平均粒径未満の粒径に粒成長させるために、前記粉末を熱処理工程で熱処理するが、これは、粒成長させないと、後に示す焼成工程後に、厚膜にクラックが入るためである(実施例1の比較例2を参照)。また、粒成長させる粒径を最終的に得ようとする厚膜の平均粒径未満にする理由は、最終の焼成工程において、粒径を小さくすることは不可能なためである。焼成温度は800℃以上が好適であるが、これは、これより低いと、粒成長が生じないためである。更に、例えば、最終的に得られる厚膜の平均粒径を100nmにする場合には、焼成温度は880℃以上から920℃が好適である。それというのも、約950℃以上での焼成では、100nmを超える粒径にまで粒成長してしまうため(実施例2を参照)、最終的に得られる厚膜の平均粒径を100nm以下にすることが不可能となるからである。
【0011】
通常、粉末の熱処理温度は、スクリーン印刷後の焼成における焼成温度よりも低く設定する。従って、例えば、最終的に得られる厚膜の平均粒径を100nmにする場合、粒成長させる粒径が45nm以上であれば十分である。後記する実施例1で示すように、粒成長させた粉末の平均粒径が48nmの場合、クラックが極めて少ない多孔体厚膜が得られている。従って、これより大きい粒径の場合でも、クラックのない多孔体厚膜が得られるのは自明であり、粒成長させる粒径が45nm以上であればクラックが極めて少ない多孔体厚膜が得られる。次に、溶媒を原料の酸化物に加えるが、溶媒は、例えば、エタノール、トルエンなどの粘性の小さい揮発しやすい有機溶媒が好適である。それは、後の溶媒を減らす工程で容易に揮発するものの方が良いためである。次に、酸化物を溶媒中で超音波ホモジナイザーなどで処理して、凝集した粒子を分散させる。沈殿法や共沈法で得られる粉末は、微粒子が凝集しているという特徴を有する。凝集したままペーストにすると、最終的に得られる厚膜は、非常に凹凸のあるものとなり、電極などが付けにくくなる。また、凝集した粒子は、クラック発生の原因となる。従って、凝集した粒子を分散する必要がある。また、たとえ、熱処理前の粒子は凝集していなくても、上述の熱処理工程における熱処理により、粒子は凝集するため、必ずこの工程は必要である。
【0012】
次に、酸化物を含んだ溶媒を、そのままの状態で放置し、例えば、30から40分ほど放置した後、沈殿物を除去する。沈殿物は凝集したままの粒子であり、これは、自重により沈殿してしまうので、分散した粒子と分離することができる。その後、上述の溶媒により処理を繰り返す場合もある。次に、加熱しながら、かつ、撹拌しながら、溶媒を揮発させる。その後、有機バインダーを加えるが、有機バインダーとしては、例えば、エチルセルロースとテルピネオールを混合したビヒクルなどが好適なものとして例示される。しかし、これらに限定されるものではない。有機バインダーは、所定の粘度を有する液体であり、これを入れることにより、スクリーン印刷可能な粘度のペーストとなる。この工程において、酸化物の重量%を所定の値に調整することにより、酸化物を含んだペーストが得られる。酸化物の重量%は、例えば、10から30重量%が好適である。これは、ペーストに占める酸化物の割合が大きい場合、混合が不均一になるためと考えられる。また、その割合が小さいと、バインダーの使用量が多くなるため、無駄が生じる。
【0013】
次に、このペーストをスクリーン印刷により基板に印刷する。この場合、基板としては、絶縁体の材料のものが使われる。好適には、例えば、アルミナ、マグネシア、及び石英などが例示されるが、これに限定されるものではない。次に、これを300から600℃において、仮焼し、有機バインダーを除去する。仮焼の雰囲気としては、空気、及び酸素などの酸化雰囲気が好ましい。この工程は、次の焼成工程の昇温速度をゆっくりと設定した場合、省くことが可能である。次いで、最後に、これを1000℃から1200℃において、焼成し、抵抗型酸素センサの酸素分圧検出部分が得られる。焼成の雰囲気は、空気、酸素などの酸化雰囲気、あるいは、水素、一酸化炭素などの還元雰囲気のいずれでも良い。この焼成により、微粒子同士にネックが生じて、多孔体となり、導電性を有するものとなる。好適には、平均粒径は、50〜200nmであり、より好ましくは、50〜100である。以上の製造方法により得られた多孔体厚膜は、クラックの数が極めて少なく、酸素センサの酸素分圧検出部分として十分使用可能な多孔体厚膜であり、具体的には、800℃における電気伝導度が10-3S/m以上であり、優れた酸素分圧依存性を示し、応答速度にも優れている。
【0014】
【作用】
前述の熱処理工程において、熱処理により、粉末の粒径を粒成長させるが、後述するように、粒成長させない場合、後の焼成段階において、粒成長が生じ、これに伴い体積収縮が生じる。このとき、応力を緩和する必要があり、これにより、厚膜にクラックが生じると考えられる。あるいは、粒径が小さいため、有機バインダーとの混合が不均一となり、微粒子が密なところと疎なところが生じるためと考えられる。いずれにしても、これらを防ぐために、予め粒成長させる必要がある。次に、上述の凝集粒子を分散させる工程で、溶媒中で凝集した粒子を分散させるが、微粒子の粒径が小さい場合、原料段階で、凝集のない粒子でも、熱処理工程で粒成長させるときに凝集が生じるため、この工程が必要となる。
【0015】
この工程において、凝集されたままの粒子は、上述の沈殿物を除去する工程で沈殿物として除去できる。尚、粉砕などの機械的な手法で、凝集をほぐすことも考えられるが、酸化セリウムは研磨剤としても使用されるものであるので、機械的な粉砕の際に、不純物の混入が予想されるため、粉砕などの機械的な手法は使えない。上述のペーストを作製する工程において、酸化物の重量%が大きい場合、全体に占める酸化物の割合が大きいと、有機バインダーと酸化物の混合が不均一になり、クラックなどが生じやすくなる。また、重量%が小さいと、ペーストに占める酸化物の割合が小さく、多量のペーストが必要となり、無駄が生じる。そのため、酸化物の重量%は10から30重量%が好適である。
【0016】
【実施例】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
実施例1
本実施例では、沈殿法により得られた酸化セリウム微粒子からなる粉末を原料として用いた。この沈殿法での粉末の作製方法を簡単に説明すると、まず、硝酸セリウム水溶液を作製する。次に、アンモニア水を加えると、沈殿物が生成する。その沈殿物とカーボンとを混合し、空気中において600℃で4時間加熱して、粉末を得た。この粉末(熱処理工程前の原料)の走査電子顕微鏡(SEM)写真を図2及び図3に示す。原料の粒径は10から20nmであり、凝集していた。次に、上記粉末を、予備処理工程として、空気中、900℃で4時間の条件で熱処理した。この工程後の原料のSEM写真を図4に示す。粒成長が生じ、平均粒径は48nmであった。
【0017】
次に、この原料1gに対して、溶媒となるエタノールを50mlの割合で加えた。次いで、超音波ホモジナイザーにより、10分間分散させた。分散後、原料を含んだエタノールを40分放置させ、放置後、凝集したままの沈殿物を除去した。原料を含んだエタノールの体積が50mlになるように、もう一度、エタノールを加え、更に、10分間超音波ホモジナイザーにより分散させた。分散後、30分放置させ、放置後、沈殿物を除去した。この段階で、除去された、凝集したままの沈殿物の重量は、初期に使用した原料1gに対し、0.3から0.5gの割合であった。
【0018】
次に、酸化物を含んだエタノールを、スターラーで撹拌しながら、約60℃に加熱し、エタノールを揮発させた。その後、有機バインダーである約3000mPasのビヒクルを加えた。ビヒクルとしてエチルセルロースとテルピネオールの混合物を使用した。ここでペーストに含まれる酸化物の重量%が、所定の酸化物重量%、すなわち10、20、30、及び50重量%になるように調整した。こうして酸化物と有機バインダーとの混合物からなるペーストが得られた。次に、このペーストをスクリーン印刷によりアルミナ基板上に印刷した。印刷後、150℃で乾燥させた。その後、先に印刷したところに、再度、スクリーン印刷を行い、乾燥させた。これを更に2回繰り返し、合計4回印刷した。
【0019】
その後、印刷したものを空気中500℃で5時間仮焼し、続いて、空気中1050℃で2時間焼成を行い、酸素分圧検出部分となる厚膜を得た。このようにして得られた厚膜のSEM写真を図5から図8に示す。図5、図6、図7、及び図8は、それぞれ、ペーストの酸化物重量%が50、30、20、及び10重量%であるペーストを用いて得られた厚膜のSEM写真である。図9に、図6の拡大図を示す。また、比較例1として、実施例1で用いた原料粉末を分散させずに、有機バインダーであるビヒクルに入れ、混合したペーストを印刷し、空気中500℃で5時間仮焼し、続いて、空気中1100、1000℃で2時間焼成を行った。図10に、1100℃焼成したものを示す。
【0020】
更に、比較例2として、実施例1で用いた原料粉末の熱処理工程を行わずに、エタノールを混合する工程以降を実施例1と同条件で行い厚膜を作製した。ただし、酸化物の重量%は10、30、及び50重量%のペーストを使用した。図11に、ペーストの酸化物重量%が30重量%である厚膜のSEM写真を示す。比較例1の厚膜には、1100、1000℃いずれの温度で焼成しても図10のように多数のクラックがあった。また、表面は粗く、凝集したままの粒子の塊のようなものが観察された。よって、比較例1のように、単に混合するだけで作製したペーストでは1000℃から1100℃で焼成した場合、多数クラックが生じることがわかった。また、比較例2の厚膜にも酸化物重量%いずれのものであっても、図11に示したように、多数のクラックが生じた。また、多孔体厚膜が基板から剥がれやすかった。これは、センサとして使用する場合、耐久性がないことを意味する。
【0021】
一方、実施例1の厚膜は、比較例1、及び比較例2と比べると、クラックが少なく、特に、酸化物重量%が10から30重量%はクラックの数が極めて少なかった。更に、20重量%はクラックがない多孔体厚膜が得られた。また、図9に示したように、非常に多孔質な厚膜であった。また、平均粒径は90nmであった。図6と図9に示した多孔体厚膜を酸素分圧検出部分として抵抗型酸素センサを作製した。多孔体厚膜の上に、スパッタ法により櫛形の形状をした白金電極を設け、それに白金線を付け、2端子法により多孔体厚膜の抵抗をセンサの出力として測定した。酸素センサは、酸素分圧を変えることのできる、電気炉内の試料室に設置し、多孔体厚膜の抵抗や、酸素分圧依存性を調べた。また、応答時間を調べるために、全圧を高速に変化させることにより酸素分圧を高速に変化させることのできる、高速応答評価装置を用いた。センサ特性評価結果として、表1に、酸素分圧が1.0atmにおける、多孔体厚膜の抵抗Rと電気伝導度σを示す。このように、数十kΩから数十MΩの値を示し、導電性があることが示された。比較例2のようなクラックがある場合、導電性がなく、センサとして使用できなかった。また、導電性がわずかにあっても、電気抵抗が大きいので、抵抗を測定するための回路や装置が複雑となり、好ましくない。従って、できるだけクラックの少ない方が、酸素分圧検出部分としての多孔体厚膜として好ましい。
【0022】
【表1】
【0023】
次に、酸素分圧が0.010atmから1.0atmにおける酸素分圧依存性を表2に示す。この表のnは式R∝P1/n 中のものであり、この値が小さいと酸素分圧依存性が大きいことを示す。ここで、Pは酸素分圧である。600℃では、nが9.1であり、少し酸素分圧依存性が小さいが、その他の温度では、nは5.5から6.5であった。また、800℃における応答時間(90%応答)は20ms以下であり、応答速度は速く、酸素センサとして十分使用できるものであった。
【0024】
【表2】
【0025】
実施例2
沈殿法により得られた酸化セリウム微粒子からなる粉末を原料として用いて、予備処理の熱処理温度を950℃とした場合の、粉末のSEM写真を図12に示す。粒成長しており、100nmを超えていた。従って、最終的に得られる厚膜の平均粒径が100nmであるものを製造する場合、予備処理工程での焼成温度を950℃とすると、高すぎることがわかった。
【0026】
実施例3
本実施例では、次の手順で粉末を作製した。まず、硝酸セリウム水溶液を作製した。次に、アンモニア水を加え、沈殿物を生成させた。その沈殿物とカーボンとを混合し、空気中において900℃で4時間加熱して、粉末を得た。この熱処理工程では、水酸化物や水を含んだ沈殿物を酸化物にするための熱処理工程と、粒成長のための熱処理工程を連続させて行った。これをエタノールと混合して、これ以降は、実施例1と同様の方法で厚膜を作製した。ただし、ペーストに含まれる酸化物の重量%は20重量%とした。このようにして作製した多孔体厚膜には、クラックがほとんど含まれず、水酸化物や水を含んだ沈殿物を酸化物にするための熱処理工程と、粒成長のための熱処理工程を連続させても、同じ結果が得られることがわかった。
【0027】
実施例4
硝酸セリウム水溶液とオキシ硝酸ジルコニウム水溶液をCe:Zr=8:2の比で混合し、混合水溶液を得た。この混合水溶液にアンモニア水を加えて、共沈させた。次に、その沈澱物にカーボンを混合し、空気中において900℃で4時間加熱することにより、水酸化物や水を含んだ沈澱物を酸化物にするための熱処理と、粒成長のための熱処理工程を連続させて行った。このようにして、酸化ジルコニウムが20mol%含まれる酸化セリウムの粉末を得た。これをエタノールと混合して、これ以降は、実施例1と同様の方法で厚膜を作製した。ただし、ペーストに含まれる酸化物の重量%は10、20重量%とした。このようにして作製した酸化ジルコニウムを10mol%含む酸化セリウム多孔体厚膜には、SEM写真で確認したところ、クラックがほとんど含まれず、20mol%でもクラックが少ないことが確認でき、本発明は、酸化ジルコニウムを含む酸化セリウムにも適用できることが確認できた。
【0028】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明は、抵抗型酸素センサの酸素分圧検出部分の多孔体厚膜の製造方法に係るものであり、本発明により、1)大量生産可能な沈殿法により製造された酸化セリウムあるいは酸化セリウムを主成分とする酸化物の微粒子からなる粉末を原料として、クラックの極めて少ない、酸素センサの酸素分圧検出部分として十分使用可能な、平均粒径が200nm以下である、酸化セリウムあるいは酸化セリウムが主成分である酸化物の多孔体厚膜を製造することが可能である、2)従来法では、粒径が小さい(40nm未満)、凝集が生じやすい微粒子からなる粉末を原料として使用した場合、クラックの少ない多孔体厚膜を作製することはできなかったが、本発明の方法により、これらの原料を使用してもクラックの少ない多孔体厚膜を作製することが可能となった、3)この製造方法により得られる多孔体厚膜の平均粒径は200nm以下であるので、応答速度の優れた抵抗酸素センサが得られる、という格別の効果が奏される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の方法のフローを示す。
【図2】実施例1における予備処理である熱処理工程前の沈殿法により得られた酸化セリウム微粒子からなる原料粉末の走査電子顕微鏡(SEM)写真を示す。
【図3】実施例1における予備処理である熱処理工程前の沈殿法により得られた酸化セリウム微粒子からなる原料粉末の低倍率のSEM写真を示す。
【図4】実施例1における予備処理である熱処理工程後の原料粉末のSEM写真を示す。
【図5】実施例1において、酸化物重量%が50重量%であるペーストを用いて製造した厚膜のSEM写真を示す。
【図6】実施例1において、酸化物重量%が30重量%であるペーストを用いて製造した厚膜のSEM写真を示す。
【図7】実施例1において、酸化物重量%が20重量%であるペーストを用いて製造した厚膜のSEM写真を示す。
【図8】実施例1において、酸化物重量%が10重量%であるペーストを用いて製造した厚膜のSEM写真を示す。
【図9】実施例1において、酸化物重量%が30重量%であるペーストを用いて製造した厚膜の高倍率のSEM写真を示す。
【図10】比較例1において、1100℃の焼成により得られた厚膜のSEM写真を示す。
【図11】比較例2において、酸化物重量%が30重量%であるペーストを用いて製造した厚膜の高倍率のSEM写真を示す。
【図12】実施例2において、沈殿法により得られた酸化セリウム微粒子からなる粉末を原料とし、予備処理温度を950℃とした場合の、粉末のSEM写真を示す。
Claims (8)
- 酸化セリウムを含む酸化物の微粒子の粉末を原料として、その酸化物を含むペーストを作製し、それをスクリーン印刷により基板上に印刷し、仮焼及び焼成することにより、抵抗型酸素センサの酸素分圧検出部分である多孔体厚膜を製造する方法であって、前記粉末の平均粒径を最終的に得られる厚膜の平均粒径未満の粒径に粒成長させるための熱処理工程と、粒成長させた粉末を溶媒と混合する工程と、凝集粒子を溶媒中で分散させる工程と、沈殿物を除去する工程と、溶媒を揮発させる工程と、有機バインダーを酸化物に混合してペーストとする工程とを含むことを特徴とする抵抗型酸素センサの酸素分圧検出部分である多孔体厚膜の製造方法。
- 多孔体厚膜の平均粒径が大きくても200nmである請求項1記載の多孔体厚膜の製造方法。
- 熱処理工程により粒成長させた粉末の平均粒径が小さくても45nmである請求項1記載の多孔体厚膜の製造方法。
- 熱処理工程前の粉末の平均粒径が10から45nm未満である請求項1記載の多孔体厚膜の製造方法。
- 熱処理工程において、粉末を880℃から920℃で熱処理する請求項1記載の多孔体厚膜の製造方法。
- ペーストに占める酸化物の重量比を10から30重量%に調整する請求項1記載の多孔体厚膜の製造方法。
- 酸化セリウムを含む酸化物の微粒子が、酸化セリウムと酸化ジルコニウムとを含む酸化物の微粒子である請求項1記載の多孔体厚膜の製造方法。
- 請求項1から7のいずれかに記載の方法により製造された、クラックの少ない、平均粒径が200nm以下で、800℃における電気伝導度が10-3S/m以上である抵抗型酸素センサの酸素分圧検出部分である酸化セリウム系多孔体厚膜。
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