JP4051778B2 - 表面性状が良好な3ピース缶に適した缶用鋼板 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、表面性状が良好で、かつ、錆び難い3ピース缶に用いてとくに好適な缶用鋼板(めっき等の表面被覆を施したものを含む)に関する。
【0002】
【従来の技術】
3ピース缶用鋼板は、製缶時には軟質で容易に製缶できることが要求され、一方、製缶後の缶体としてはさまざまな外力負荷に対して十分な缶体強度が要求される。また、3ピース缶は溶接部のフランジ成形性が良好であることが重要であり、成分、製造方法が不適切であると、フランジ成形の不具合から巻締め不良を起こすことがある。このような溶接部の伸びフランジ加工性を向上させることが、3ピース缶用に用いられる鋼板の特性として重要である。
【0003】
溶接部を含む鋼板の成形性向上に関して、特開昭63−192849号公報に示されるような介在物の組成制御により介在物の低融点化を図る方法、特開平2−220735号公報に開示されるような鋼中の溶存酸素を調整してTiN 、MnS の析出を制御する方法などが提案されている。しかしながら、圧延工程で長く延びるMnS や鋼中の酸化物の存在により、局部変形能が劣化してしまうので、未だ十分な変形能を得ることは困難であった。
また、特開平5−9549号公報に開示される方法では、介在物は、CaO −Al2O3 系となって、錆の起点となり、耐食性が劣化するという問題点があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
この発明は、従来技術が抱える上述した問題を解決するために実験、調査、検討を加えた結果、開発したものであり、錆が少なく、介在物や析出物による変形能の劣化がほとんどなく、かつ、クラスター状介在物による表面欠陥のない、表面性状が良好な溶接部の成形性に優れる3ピースに適した缶用鋼板を提案することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、鋼中に残留する酸化物及び硫化物の組成を制御することが、これらの問題を解決するための重要な因子であることに思い至った。すなわち、これら介在物の組成を適正な範囲に制御すること、かつ、より好適には、これらの鋼板の製造工程を最適化することで、最終製品として錆び難く、表面性状が良好でかつ、溶接部の成形性が良好な3ピース缶に適した缶用鋼板が得られることを見出した。
【0006】
すなわち、鋼中の酸化物系介在物を制御し、巨大クラスター状介在物の生成を抑制して50μm 以下の大きさの介在物に微細分散化を図り、かつ、鋼中のMnS の量を低減して、鋼中の全ての酸化物、硫化物を微細化、非延性化することにより、3ピース缶として要求される製缶特性、また溶接缶としての溶接部の加工性に優れる極薄(板厚0.3 mm以下)の鋼板が得られることを見出した。
この発明は、上記の知見に立脚するものである。
【0007】
すなわち、この発明は、
C:0.005wt%を超え0.10wt%以下、
Si:0.2wt%以下、
Mn:0.05〜1.0wt%、
P:0.04wt%以下、
Ti:0.015〜0.10wt%、
Al:0.001〜0.01wt%、
N:0.02wt%以下及び
Ca,REMの1種又は2種を合計で0.0005〜0.01wt%
を含み、更に、
S及びCa,REMの1種又は2種の含有量が次式
S−5×((32/40)Ca+(32/140)REM)≦0.0014wt%
の関係を満たして残部はFe及び不可避的不純物の組成になり、粒径1〜50μmの酸化物系介在物が、Ti酸化物:20wt%以上90wt %以下、CaO,REM酸化物の1種又は2種:10wt%以上40wt %以下、Al2O3:40wt%以下、 SiO 2 : 30wt %以下およびその他の酸化物:3 wt %以下(ただし、 Ti 酸化物、 CaO , REM 酸化物の 1 種又は2種、 Al 2 O 3 、 SiO 2 およびその他の合計は 100wt %)を含有し、引張強度が540MPa未満でかつ、圧延方向および圧延直角方向(板面上で圧延方向と90°をなす方向)の少なくとも一方のr値が1.0以下であることを特徴とする、表面性状が良好な3ピース缶に適した缶用鋼板である。
また、この発明は、
C:0.005wt%を超え0.10wt%以下、
Si:0.2wt%以下、
Mn:0.05〜1.0wt%、
P:0.04wt%以下、
Ti:0.015〜0.10wt%、
Al:0.001〜0.01wt%、
N:0.02wt%以下及び
Ca、REMの1種又は2種を合計で0.0005〜0.01wt%
を含み、かつ、
Ni:0.005〜1.0wt%、
Cr:0.005〜1.0wt%、
Nb:0.002〜0.04wt%、
B:0.0002〜0.005wt%
の1種又は2種以上を含有し、更に、
S及びCa,REMの1種又は2種の含有量が次式
S−5×((32/40)Ca+(32/140)REM)≦0.0014wt%
の関係を満たして残部はFe及び不可避的不純物の組成になり、粒径1〜50μmの酸化物系介在物が、Ti酸化物:20wt%以上90wt %以下、CaO,REM酸化物の1種又は2種:10wt%以上40wt %以下、Al2O3:40wt%以下、 SiO 2 : 30wt %以下およびその他の酸化物:3 wt %以下(ただし、 Ti 酸化物、 CaO , REM 酸化物の 1 種又は2種、 Al 2 O 3 、 SiO 2 およびその他の酸化物の合計は 100wt %)を含有し、引張強度が540MPa未満でかつ、圧延方向および圧延直角方向の少なくとも一方のr値が1.0以下であることを特徴とする、表面性状が良好な3ピース缶に適した缶用鋼板である。
この発明においては、粒径15μm以下の均一かつ微細な結晶粒からなることが、より望ましい。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、この発明をより具体的に説明する。
この発明では、Alが0.001 wt%以上0.01wt%以下、Tiが0.015 wt%以上であって、Ca及び/又はREM が0.0005wt%以上0.01wt%以下の条件を満たすことで、錆の少ない鋼板とする。このとき、介在物はTi2O3−CaO (及び/又はREM 酸化物系) −Al2O3 −SiO2の酸化物となっており、かつ、介在物中のCa濃度が40wt%以下であると、錆の起点となることがない。Alの量が0.01wt%を超えると介在物はAl2O3−CaO 系(及び/又はREM 酸化物系)となるので、介在物中のCa濃度が50%程度となり、錆の起点となって耐食性を劣化させる。
溶接部を含め鋼板の塑性変形能の向上のためには、
1)鋼中の酸化物を粗大化させないこと、
2)鋼中の硫化物を粗大化させないこと、
3)結晶組織を微細化すること
が重要である。
【0009】
上記の1)の酸化物の粗大化防止については、Al量が0.001 wt%以上0.01wt%以下、Ti量が0.015 wt%以上であって、Ca及び/又はREM 量が0.0005wt%以上0.01wt%以下という条件を満たすことで達成できる。
また、上記2)の硫化物の粗大化防止については、凝固時に析出するMnS の抑制が重要である。これは、MnS があると熱間圧延時に延びて、最終製品の製缶加工時の割れを助長するからである。この解決には、鋼中のSを、より安定な硫化物をつくるCa及び/又はREM によって固定(無害化)することが必要である。具体的には、S及びCa,REM の1 種又は2 種の含有量について、次式
S− 5×((32/40) Ca+(32/140) REM) ≦0.0014wt%
(式中、SはS量(wt%)を、CaはCa量(wt%)を、REM はREM 量(wt%)をそれぞれ示す。)
の関係を満たすことが必要との考えに至った。すなわち、CaS やREM 硫化物の生成によってSを固定するためにはCaやREM の添加量は多いほどよいが、その下限値は上記の不等式で示されるとおり、固定されないS量として0.0014wt%以下であることが必要であるとの実験結果を得たのである。
【0010】
上記3)の結晶組織の微細化については、15μm 以下の微細な結晶粒とすることで、溶接部、非溶接部のいずれにおいても顕著な伸びフランジ性の改善効果が確認された。
なお、溶接部の結晶粒径を粗大化させないことも重要であり、そのためには介在物が微細であること、すなわち、上記1),2)のとおり、介在物の粗大化を防止することが重要である。
発明者らは、以上の実験結果を基に種々検討した結果、この発明を得るに至ったのである。
【0011】
次に、この発明の缶用鋼板において、成分組成範囲を限定した理由を説明する。
C:0.005 wt%を超え0.10wt%以下;
Cは、この発明において重要な添加成分のひとつである。C量を増加させることで鋼板の焼鈍ままの強度を決定することができる。C量が0.005 wt%以下であると、結晶粒が粗大になり過ぎる結果、缶用として適用した場合に肌荒れ現象を生ずる危険性が増大する。しかしながら、C量を増加させてその添加量が0.10wt%を上回ると、フェライト・パーライト組織のパーライト量が増大して熱間圧延性と冷間圧延性とのいずれもが劣化することに加え、耐食性の低下も著しいものとなり缶用鋼板の用途としては好ましくない。したがって、C量は0.005 wt%を超え0.10wt%以下とする。C量は溶接部の硬度上昇に直接影響を及ぼすものであり、これが高くなるほど溶接部の硬度が上昇し、結果として溶接部の成形性を低下させることから、より優れた溶接部成形性を確保するには、0.07wt%以下とすることが更に好適である。また、下限についても、製品材質の安定性確保の観点からは0.010 wt%以上であることが望ましい。
【0012】
Si:0.2 wt%以下(0 を含まない);
Siは、溶製時の脱酸に必要な成分であるが、添加量が増加すると鋼が固溶強化され、熱間変形抵抗、冷間変形抵抗及び焼鈍後の二次冷延における変形抵抗がいずれも増加し好ましくない。また、詳細な機構は不明であるが、缶用鋼板として使用した場合に耐食性の低下が顕著となる。以上のことから、Siの添加量の上限を0.2 wt%とした。なお、好ましい下限値は特に規制されないが、脱Siに要する費用増加に鑑みて0.002wt %である。
【0013】
Mn:0.05〜1.0 wt%;
Mnは、Siと同様、溶製時の脱酸に有効である。また、鋼の熱間脆性を抑制する効果もある。これらの望ましい効果を発揮させるためには、おおむね0.05wt%以上の添加が望ましい。一方、この発明は、3ピース缶用として円筒成形、フランジ成形などを行う鋼板に関するものであり、特に伸びフランジ加工性の向上が望まれる。ここに、Mn量が1.0 wt%以下であれば、その含有による伸びフランジ加工性の低下量は小さい。したがって、Mnは1.0 wt%を上限とした。0.7 wt%以下であればより望ましい。
【0014】
P:0.04wt%以下;
Pは、鋼を強化する作用があり、高強度の鋼板を得ようとする場合は添加が望ましい成分であるが、偏析する傾向が強く、表面の耐食性が低下する傾向になるのと、溶接部の接合界面の強度を低下させるなどの特有な問題点がある。Pの添加量が0.04wt%以下であればそのような問題は生じない。下限は特に規定されないが、0.005 wt%程度が顕著な製造コストの上昇を伴わずに低減できるレベルと考えられる。
【0015】
Ti:0.015 〜0.10wt%;
Tiはこの発明において重要な成分であり、Ti脱酸により、50μm 以下のサイズの微細酸化物系介在物を形成させ、冷延−焼鈍時の粒成長性を制御して、結晶粒の微細化を達成するとともに強度−伸びバランスを向上させる。更に、Tiの微細酸化物は溶接部(特に熱影響部)の組織の粗大化を抑制することで、溶接部の成形性を向上させることができる。Tiの添加量が0.015 wt%未満では、添加効果、すなわち微細酸化物の量が少な過ぎるため、所望の効果が得られない。しかし、Tiの添加量が0.10wt%を超えると熱間圧延性、冷間圧延性及び焼鈍後の二次冷間圧延性が顕著に低下し、製品表面の性状も顕著に低下する。したがって、Tiは0.015 〜0.10wt%の範囲とした。更に優れた表面性状を確保するには、0.05wt%以下とすることがより好適である。またTi添加は後述する鋼板のr値の制御においても重要な元素である。
【0016】
Al:0.001 〜0.01wt%;
Alはこの発明において重要な成分であり、0.01wt%を超える量では、脱酸がAl脱酸となって巨大Al2O3 クラスターが大量に生成し、表面性状を劣化させるとともに、冷延−焼鈍時の粒成長性を制御できる50μm 以下の微細酸化物が少なくなるため、製缶時の肌荒れなどの不具合が問題となる危険性が増大する。しかも、表面性状の改善効果が発揮されない。したがって、0.01wt%以下と限定した。更に重要なことは、Al量が多いと介在物組成がAl2O3 −CaO 及び/又はAl2O3 −REM 酸化物系となるため、かかる介在物が錆の起点となり、耐食性を劣化させることであり、缶用鋼板では重要となる耐食性が低下する傾向にある。この点からもAlの上限は0.01wt%とした。一方、Alの下限は、脱ガス及び連続鋳造の操業安定化の観点から、0.001 wt%とする。
【0017】
N:0.02wt%以下(0 を含まない);
Nは、固溶強化成分として寄与するため、この発明のごとく極めて厳しい塑性加工に適用する場合は延性の低下につながるため、極力低減することが望ましい。N含有量の増大に伴う延性の劣化量を考慮し、0.02wt%を上限とした。なお、好ましい下限値は特に限定するものではないが、侵窒を防止するための製造コストアップと機械的特性の変化を勘案すれば0.001 wt%である。また、好ましい上限値は0.005 wt%であり、0.003 wt%以下であればより好ましい。
【0018】
Ca,REM の1 種又は2 種を合計で0.0005〜0.01wt%;
Ca及び金属REM (La、Ceなどの希土類元素をいう)は、この発明において重要な成分であり、Ca及びREM のいずれか1種又は2種を0.0005wt%以上添加する必要がある。すなわち、Ti脱酸した後、さらに0.0005wt%以上になるようにCa及びREM のいずれか1種又は2種を添加して、溶鋼中の酸化物組成を、Ti酸化物:20wt%以上90wt%以下、好ましくは85wt%以下、CaO 及び/又はREM 酸化物:10wt%以上40wt%以下、Al2O3が40wt%以下である低融点の酸化物系介在物とする。そうすると、連続鋳造時に、地金を含んだTi酸化物のノズルへの付着を有効に防止でき、ノズルの閉塞を防止できる。さらに、CaO 及び/又はREM 酸化物は、冷延−焼鈍後の粒成長抑制、溶接部(特に熱影響部)の粗大化防止に寄与できる。これらのことから、Ca,REM の1 種又は2 種を合計で0.0005wt%以上含有させる。一方、Ca、REM の合計量が0.01wt%を超えると逆に表面欠陥が発生する危険が増大することと、缶用鋼板としては重要である耐食性が低下するという欠点が顕在化することから、上限は0.01 wt %に限定した。
【0019】
(S− 5×((32/40) Ca+(32/140) REM) ≦0.0014wt%)
Sは鋼の加工性に対して有害な成分であることから、極力低減することが望ましい。しかし、過度の脱硫処理はコストアップの要因となるため、脱硫処理に要する費用と脱硫による機械的特性の改善効果とを勘案して、上限は0.01wt%とする。更に好ましい上限値は0.005 wt%である。
また、Sは、鋼中で種々の硫化物として存在し得るが、MnS 系の介在物として存在する場合は熱間圧延時に圧延方向に顕著に展伸して、最終製品の製缶加工時の割れを助長する。
この点、Ca、REM を添加することにより硫化物の形態及び非延性が改善され、この発明が主眼とする溶接部を含めた加工部の成形性の改善が顕著となる。発明者らの調査によれば、Ca、REM の添加により、理由は不明であるが原子比でこれらの元素の約5 倍のSまでが無害の硫化物となると考えられる。したがって、有害なS量、すなわちS− 5×((32/40) Ca+(32/140) REM) の値が十分小さければ、硫化物による加工性の低下は生じない。調査により、有害なS量は0.0014wt%以下であれば、問題ないことがわかった。
【0020】
(O:0.010 wt%以下)
Oは微細な酸化物を生成させる観点からは必要な成分であるが、0.010 wt%を超えて添加すると粗大なAl2O3 を多量に生成させて、加工時の延性、深絞り成形性が低下するので、0.010 wt%を上限とした。また、好ましい上限値は0.007 wt%であり、0.005 wt%以下であればより望ましい。
【0021】
Ni:0.005 〜1.0 wt%:Cr:0.005 〜1.0 wt%;
Ni及びCrは、鋼板を固溶強化することなく組織を微細化すること、あるいは低温・高歪み速度環境での変形を容易化することで、この発明が目標とする製缶工程時の伸びフランジ特性の向上が可能である。また、いずれの成分も鋼の変態点を低減する効果を有するため熱間仕上温度の規制条件を緩和する点でも有効である。したがって、この発明では必要に応じてNi及びCrの1種又は2種を添加することができる。Ni及びCrのいずれも0.005 wt%以上の添加で顕著な効果を発揮し、複合して添加した場合でもこの効果は相殺されることはない。しかし、1.0 wt%を超えて添加してもその効果は飽和する傾向にあるため、いずれも上限を1.0wt%とした。材質の安定化という観点では0.01〜0.5 wt%の範囲が更に好適である。
【0022】
Nb:0.002 〜0.04wt%;
Nbは鋼板の結晶粒の微細化に極めて有効である。したがって、この発明では必要に応じてNbを添加することができる。結晶粒を微細化することにより特にこの発明が対象とする3ピース缶用鋼板においては成形後の表面荒れの防止及びこれに関連して延性向上に対して顕著な効果を発揮する。Nbはおおむね0.002 wt%以上の添加で顕著な効果を発揮する。しかし、0.04wt%を超えてNbを添加してもその効果は飽和する傾向にあり、逆に鋼の熱間及び冷間の変形抵抗を顕著に増加させるという不具合を生ずるおそれがあるため、0.002 〜0.04wt%の範囲とした。材質の安定化という観点では0.01〜0.025wt %が更に好適である。
【0023】
B:0.0002〜0.005 wt%;
Bを添加することにより、Nbと同様に、鋼板の組織の微細化に有効に寄与する。この望ましい効果が発揮されるにはおおむね0.0002wt%以上の添加が必要である。しかし、0.005 wt%を超えて添加してもその効果が飽和することに加えて鋼の熱間変形抵抗が顕著に増加する。以上のことから0.0002〜0.005 wt%の範囲とした。
【0024】
以上の成分組成範囲を満足する鋼において、粒径1 〜50μm の酸化物系介在物がTi酸化物及びCaO ,REM 酸化物の1 種又は2 種を含有する介在物であることが、この発明では特に重要である。かかる脱酸生成物としての介在物が、Ti酸化物及びCaO ,REM 酸化物の1 種又は2 種を含有するもの、より詳しくは、Ti酸化物−CaO 及び/又はREM 酸化物−Al2O3 −SiO2系の酸化物系の介在物になることにより、錆の少なく、介在物、析出物による変形能の劣化がほとんどなく、かつ、クラスター状介在物による表面欠陥がなく、しかも地金を含んだTi酸化物のノズルへの付着がない、この発明で所期した缶用鋼板となる。
【0025】
なお、この発明で規定する酸化物系介在物を粒径1 〜50μm のものに限定しているのは、かかる範囲の介在物が脱酸により生成した介在物と見なすことができるからであり、粒径が50μm を超える介在物は一般に、スラグかモールドパウダーなどの外来性の介在物が主因である。なお、Al2O3 系クラスターには、これより巨大なものもあるが、粒径50μm 以下の介在物の酸化物組成が上記要件を満たしていれば、巨大なAl2O3 系クラスターも十分減少しているとみなすことができる。
また、このような介在物は80wt%以上にする。その理由は、80wt%未満だと、介在物の制御が不十分であり、コイルの表面欠陥やノズルつまりの原因となるためである。
【0026】
上述の粒径1〜50μmの酸化物系介在物の組成は、Ti酸化物:20wt%以上90wt%以下、CaO,REM酸化物の1種又は2種の合計:10wt%以上40wt%以下、Al2O3:40wt%以下、 SiO 2 : 30wt %以下およびその他の酸化物:3 wt %以下(ただし、 Ti 酸化物、 CaO , REM 酸化物の 1 種又は2種、 Al 2 O 3 、 SiO 2 およびその他の酸化物の合計は 100wt %)とする必要がある。
【0027】
上記介在物のTi酸化物が20wt%に満たない場合はTi脱酸鋼ではなく、Al脱酸鋼となり、Al2O3濃度が高まるためにノズル詰まりが発生する。また、CaO,REM酸化物濃度が高くなると発錆性が著しくなるため、Ti酸化物濃度は20wt %以上とする。一方、Ti酸化物濃度が90wt%を超えると、CaO,REM酸化物の割合が少なくなって、かえってノズル詰まりが発生することから、Ti酸化物濃度は20wt%以上90wt%以下とする。より好ましくは30wt%以上80wt%以下とする。
【0028】
また、上記介在物中のCaO ,REM 酸化物の1 種又は2 種の合計が10wt%に満たないと、介在物が低融点とならず、前述のようにノズルの閉塞を引き起こす。一方、40wt%を超えると介在物がその後にSを吸収して水溶性に変化し、錆の起点となるため耐食性が低下する。なお、より好ましい範囲は20〜40wt%である。
【0029】
また、上記介在物中のAl2O3 については、40wt%を超えると高融点組成となるためにノズル閉塞が起きるだけでなく、介在物の形状がクラスター状になり、製品板での非金属介在物性の欠陥が増加する。なお、鋼中にAlがほとんど含有していない場合には、介在物中のAl2O3 もほとんど無視し得るだけの濃度になる。
【0030】
さらに、上記酸化物系介在物中には、上掲したもの以外の酸化物が混入する場合もあり、その場合に上掲したもの以外の酸化物の量としては、 SiO2については、30wt%以下(ただし、0 wt %を含む)、その他の酸化物(MnO等)については、3wt%以下(ただし、0 wt %を含む)に制御する。この理由は、これらがそれぞれの量を上回ると、この発明で対象とするチタンキルド鋼とはいえないし、こうした組成のもとでは、Ca添加を行わなくてもノズル詰まりはなく、発錆の問題も無くなるためである。しかも、介在物中にSiO2,MnOを含有させるためには、酸化物の形成傾向を考慮すると溶鋼のSi,Mn濃度をMn/Ti>100、Si/Ti>50にすることが好ましいのであるが、この場合、鋼の硬質化、表面性状の劣化などを招く。
【0031】
この発明の鋼板は、引張強度が540 MPa 未満のものである。引張強度(TS)が540 MPa 以上では、母材と溶接部(熱影響部)との強度差が拡大し、溶接部に加工変形が集中して加工時の不良につながり、また、成形時の形状凍結性も強度上昇に伴う降伏強度の上昇により劣化するからである。缶体強度の点からは400 MPa 以上とすることが望ましい。なおTSは、主として強化元素(Mn, Si, Pなど)の含有量と焼鈍後に行うスキンパス圧延あるいは2次冷延の圧下率の制御により目標値に制御する。
【0032】
また、鋼板の集合組織の制御も3ピース缶用素材としては重要である。製缶した場合に、缶胴の円周方向に相当する素材(再結晶焼鈍後、2次圧延を施さない状態)のr値が1.0 以下である集合組織を有することが製缶後のネックイン成形時にしわ等の不具合発生を防止するために重要である。
従って、通常のいわゆるノーマルグレイン缶(缶胴円周方向が鋼板のL方向に相当する缶)では鋼板のL方向(圧延方向)が、またリバースグレイン缶(缶胴円周方向が鋼板のC方向に相当する缶)においては鋼板のC方向(圧延直角方向)のr値が重要となる。これは種々の製缶実験を行った結果、缶胴の円周方向に相当する方向の素材のr値が1.0 を越えると、ネックイン成形時にしわ不良、形状不良を生じ易いことがあきらかとなったことに基づく。
このような、LあるいはC方向のr値を低下させた鋼板を製造するためには本発明のTi−Ca添加鋼が適していることもあきらかになった。
r値の測定はいわゆる引張法により行なうが、製品の製造段階で焼鈍後に2次冷延を行なったものでは、延性が低下しているため容易にネッキングを生じ易く、通常行なわれている15〜20%の歪を均一伸びの範囲で付与することができない。種々の調査を行なった結果、焼鈍ままの状態、あるいは数%の軽スキンパス付与の状態で測定したr値が1.0 を越えなければ、その2次冷延材でも同様にネックイン成形時に問題が生じないことがわかった。すなわち再結晶集合組織が十分保たれた状態(焼鈍まま、または軽スキンパスの状態)でのr値が1.0 を越えないことがネックイン成形時の不具合発生防止のために重要である。
なお、素材でr値1.0 %以下に相当する集合組織を得るには、Ti−Ca添加の他、1次の冷間圧延において高圧下を行う、焼鈍を低温で行うなどしてL,C方向ともr値を低下させる(Δrは多少負の側に大きくなるが)ことが好ましい。
この発明の鋼板の板厚は、薄肉化のメリットが得られる0.3 mm以下とするのが望ましい。
【0033】
この発明の鋼板は、結晶粒径が15μm 以下の均一かつ微細な結晶粒からなる組織である場合に、極薄鋼板においても成形後の表面荒れによる外観不良、これに起因する伸びの低下などの問題を回避することが可能となる。したがって、結晶粒径が15μm 以下の均一かつ微細な結晶粒からなる組織とすることは好ましく、粒径が12μm 以下とすることはさらに好適である。なお、均一とは、粗大粒を含むいわゆる混粒組織ではないことを意味し、かかる均一かつ微細な組織は、鋼組成と熱延条件(後述するスラブ加熱温度、仕上温度など)を調整することにより、得ることができる。
【0034】
次に、この発明の鋼の製造方法について説明する。
この発明において、調整成分としてのTiを、Ti:0.015 wt%以上とする理由は、Tiが0.015 wt%未満では脱酸素能力が弱く、溶鋼中の全酸素濃度が高くなり、伸び、絞りなどの材料特性が悪化するためである。この場合、Si, Mnの濃度を高めて脱酸力を増加することも考えられるが、Tiが0.015 wt%未満ではSiO2又はMnO 含有介在物が大量に生成し、鋼材質の硬化やめっき性の劣化を招く。これを防ぐには (wt%Mn)/ (wt%Ti) <100 とするようにTiを含有させることが必要となる。その場合、介在物中のTi酸化物濃度は20%以上となる。
【0035】
この発明に係るチタンキルド鋼板の製造にあたっては、まず、溶鋼をFeTiなどのTi含有合金により脱酸し、鋼中にTi酸化物を主体とする酸化物系介在物を生成させる。その介在物は、Alで脱酸した時のような巨大クラスター状ではなく、1〜50μm 程度の大きさの粒状、破断状のものが多くを占める。ただし、このときAl濃度が0.010 wt%を超えていると、巨大なAl2O3 クラスターが生成する。このようなAl2O3 クラスターは、Ti合金を添加してTi濃度を増加しても還元できず、鋼中にクラスター状介在物として残存する。したがって、この発明に係る鋼板については、製造の段階で、まず溶鋼中にTi酸化物を生成させることが好ましい。
【0036】
なお、この発明のもとでは、Alで脱酸する従来方法に比べると、Ti合金の歩留りが悪く、しかも、Ca, REM を含有するため介在物組成調整用合金は高価である。このことから、かかる合金の溶鋼中への添加は、介在物の組成制御が可能な範囲内でできるかぎり少量で済むように行うのが経済的で好ましい。この意味において、Ti含有合金などの脱酸剤の添加の前には、溶鋼中の溶存酸素、スラブ中のFeO, MnOを低下させるために予備脱酸することが望ましい。この予備脱酸は、脱酸後の溶鋼中のAlが0.010 wt%以下となるような少量のAlによる脱酸、、SiやFeSi, MnやFeMnの添加によって行うのが好ましい。
【0037】
上述したように、Ti脱酸により生成したTi2O3 が70%以上のTi酸化物系介在物を生成した鋼板というのは、かかる介在物が2〜20μm 程度の大きさにて鋼中に分散するため、クラスター状の介在物による表面欠陥はなくなる。しかしながら、Ti酸化物は溶鋼中では固相状態であり、また、極低炭素鋼は凝固の温度が高いために、地金を取り込んだ形でタンディッシュノズルの内面に成長し、ノズルの閉塞を誘発するおそれがある。
【0038】
そこで、この発明に係る鋼板では、Ti合金により脱酸した後、さらに0.0005wt%以上になるようにCa及びREM のいずれか1種又は2種を添加して、溶鋼中の粒径1 〜50μm の酸化物系介在物を、Ti酸化物:20wt%以上90wt%以下、好ましくは85wt%以下、CaO 及び/又はREM 酸化物:5wt%以上40wt%以下、Al2O3 が40wt%以下である低融点の酸化物系介在物とする。そうすると、地金を含んだTi酸化物のノズルへの付着を有効に防止することが可能になる。より好ましい介在物の組成は、Ti酸化物:30wt%以上80wt%以下、CaO ,REM 酸化物(La2O3 、Ce2O3 など):10wt%以上40wt%以下、Al2O3 :20wt%以下、その他(SiO2、MnO 等) :10wt%以下である。
かかる酸化物系介在物の組成の測定は、EPMAを用いて、あるいはEDX 機能のある走査型電子顕微鏡を用いて、各介在物ことに定量分析を行うことで行われる。このようにして分析された鋼中の介在物の全てが上記の組成を満たすことは最も望ましいところではあるが、実用上は1 〜50μm の大きさの介在物のうち個数で50%以上のものが上記組成範囲となっていれば、この発明の目的とする熱延鋼板の諸特性が達成される。なお、粒径は、各粒における最大径を用いるものとする。
【0039】
この発明において、生成する介在物の組成を上記のように制御した場合、連続鋳造時にタンディッシュノズル及びモールドの浸漬ノズル内面に酸化物などが付着するのを完全に防止することができる。したがって、タンディッシュや浸漬ノズル内に、酸化物などの付着防止のためのArやN2などのガスを吹き込む必要がなくなる。その結果、連続鋳造時のパウダー巻き込みによる鋳片のパウダー性欠陥や、吹き込んだガスによる気泡性の欠陥が鋳片に発生するのを防止できるという効果が得られる。
【0040】
連続鋳造後の熱間圧延工程に関して、スラブ加熱温度は900 〜1300℃であることが好ましい。900 ℃未満のスラブ加熱温度では、圧延時の荷重負荷が高くなり過ぎ、操業上の問題が生じる。一方、1300℃を超える高い温度では、圧延前の結晶粒径が大きくなり過ぎるため、熱延母板が微細化しない。したがって、スラブ加熱温度は900 〜1300℃が好ましい。なかでも、1200℃以下のスラブ加熱温度は、深絞り性の観点からは好ましい。また、連続鋳造−直送圧延(CC-DR )や連続鋳造されたスラブを温片で加熱炉に挿入するDHCR(ダイレクトホットチャージローリング)は省エネルギーの観点から好ましい。
【0041】
熱間圧延終了温度は、650 〜960 ℃であることが好ましい。650 ℃より低い温度では鋼板の圧延時の負荷が顕著に増加することに加え、組織が板厚方向、幅方向及び長手方向のいずれに関しても不均一となり、これによりこれらの各位置での材質のバラツキも顕著となる。960 ℃より高い温度では鋼板表面にスケール疵を発生する危険性が極めて大きくなり、また結晶粒径が増大する。また熱間圧延終了温度は鋼板の集合組織を制御するうえでも重要であり、上記温度範囲内とすることが好ましい。
また、熱間圧延後のコイル巻取り温度は、高温であるほど析出物の粗大化に有利であるが、高過ぎるとスケールが厚くなり過ぎる、結晶粒径が増大するなどの問題が生じるため、400 〜750 ℃が好ましい。
【0042】
熱間圧延後は酸洗し、冷間圧延を施してから焼鈍を行う。
酸洗は通常の塩酸、硫酸により表面のスケール層を除去する。特に薄いスケール相の鋼板の場合には、酸洗工程を省略することも可能である。
冷間圧延では、この発明の鋼板が対象とする極薄鋼板において(一次)冷間圧延の圧下率を80%以上とすることが、均一な素材を得るために好ましい。なおr値1.0 以下に相当する集合組織を得るために好ましい冷延圧下率は90%以上である。
【0043】
焼鈍は、連続焼鈍、バッチ焼鈍のいずれでも適用可能であるが、焼鈍作業の効率、材質の均一性の観点からは連続焼鈍が推奨される。焼鈍は再結晶温度以上で行う必要がある。再結晶温度より低い温度では、部分再結晶となって、焼鈍後の二次冷延後に、規格を満足し得る鋼板の形状を得ることが極めて困難である。
なお所望の細粒及び再結晶集合組織を得るためには、焼鈍温度は680 〜780 ℃の範囲とするのがとくに好ましい。
【0044】
焼鈍後の二次冷延は、目標とする硬度を得るために圧下率が調整される。おおむね40%以下が材質の安定性の観点から推奨される。40%を超えて二次冷延を加えた場合は、溶接部の特に熱影響部が顕著に軟化するため、溶接部をフランジ成形する場合に割れを生じる危険性が顕著に増大するため、好ましくない。好ましい二次冷延圧下率は1%〜15%程度である。
【0045】
【実施例】
(実施例1)
転炉出鋼後、300 ton の溶鋼をRH脱ガス装置にて脱炭処理し、C=0.014 wt%、Si=0.01wt%、Mn=0.25wt%、P=0.010 wt%、S=0.005 〜0.009 wt%に調整するとともに、溶鋼温度を1585〜1615℃に調整した。この溶鋼中に、Alを0.2 〜0.8kg/ton 添加して、3〜4分の予備脱酸を行い溶鋼中の溶存酸素濃度を55〜260ppmまで低下させた。このときの溶鋼中のAl濃度は0.001 〜0.005 wt%であった。そしてこの溶鋼に、70wt%Ti−Fe合金を0.8 〜1.8kg/ton 添加して8〜9分かけてTi脱酸した。その後、成分調整を行った後に、溶鋼中には30wt%Ca−60wt%Si合金や、それに金属Ca, Fe, 5 〜15wt%のREM を混合した添加剤、又は、90wt%Ca−5 wt%Ni合金などのCa合金、REM 合金のFe被覆ワイヤーを0.05〜0.5kg/ton 添加し処理を行った。この処理の後のTi濃度は0.026 〜0.058 wt%、Al濃度は0.001 〜0.005 wt%、Ca濃度は0.0000〜0.0036wt%、REM 濃度は0.0000〜0.0021wt%、CaとREM との濃度の和は0.0005〜0.0043wt%であった。
【0046】
次に、この鋼を2ストランドスラブ連続鋳造装置にて鋳造し連鋳スラブを製造した。鋳造時にはタンディッシュならびに浸漬ノズル内にArガスを吹き込まなかった。連続鋳造後に観察したところでは、タンディッシュならびに浸漬ノズル内には付着物はほとんどなかった。
【0047】
次に、上記連鋳スラブを板厚1.8 mmに熱間圧延した。熱延条件はスラブ加熱温度:1130℃、仕上圧延温度:890 ℃、熱延巻取り温度:620 ℃であった。熱延鋼板を酸洗し、冷延して板厚0.18mmの冷延板とした。その後、740 ℃で20 s均熱の連続焼鈍型の短時間焼鈍を行い、フランジ割れ評価試験及び錆発生の調査を行った。鋼組成及びフランジ割れ性についての調査結果を表1に示す。なお、このときの酸化物系介在物のサイズは大部分が幅が50μm 以下のものであった。また、酸化物の内訳は、Ti2O3 :60〜70%、CaO +REM 酸化物:20〜30%、Al2O3 :15%以下であった。この冷延板にはヘゲ、スリーバー、スケールなどの非金属介在物性の欠陥は0.00〜0.02個/1000m−コイル以下しか認められなかった。
【0048】
【表1】
【0049】
一方、比較のために、転炉出鋼後、300 ton の溶鋼をRH真空脱ガス装置にて脱炭処理し、C=0.014 wt%、Si=0.01wt%、Mn=0.25wt%、P=0.010 wt%、S=0.002wt %に調整するとともに、溶鋼温度を1590℃に調整した。この溶鋼中に、Alを1.2 〜1.6kg/ton 添加し脱酸処理を行った。脱酸処理後の溶鋼中のAl濃度は0.041 wt%であった(Alキルド鋼)。その後、FeTiを添加するとともに、成分調整を行った。この処理の後のTi濃度は0.040 wt%であった。
【0050】
次に、この溶鋼を2ストランドスラブ連続鋳造装置にて鋳造し連鋳スラブを製造した。なお、このときの、タンディッシュ内溶鋼の介在物の平均的な組成は、95〜98wt%Al2O3, 5%以下のTi2O3 のクラスター状の介在物が主体であった。
【0051】
鋳造時にタンディッシュならびに浸漬ノズル内にArガスを吹き込まなかった場合には、著しくノズルにAl2O3 が付着し、3チャージ目にスライディングノズルの開度が著しく増加し、ノズル詰まりにより鋳込みを中止した。また、Arガスを吹いた場合にも、ノズル内にはAl2O3 が大量に付着しており、8チャージ目にはモールド内の湯面の変動が大きくなり鋳込みを中止した。
【0052】
次に、上記連鋳スラブはスラブ加熱温度:1150℃、仕上圧延温度:890 ℃、巻取り温度:680 ℃で1.8 mmまで熱間圧延したのち、酸洗・冷延して板厚0.18mmの冷延板とした。その後、750 ℃で20 s均熱の連続焼鈍型の短時間焼鈍を行い、介在物の調査、成形性調査試験(伸びフランジ割れ発生試験)及び錆発生の調査を行った。この冷延鋼板にはヘゲ、スリーバー、スケールなどの非金属介在物性の欠陥は0.45個/1000m−コイル認められた。
【0053】
得られた冷延板のフランジ割れ試験の結果を、S− 5×((32/40) Ca+(32/140) REM) との関係で表1に示す。ここで、比較例1〜6は、S、Ca、REM の関係以外はこの発明に従う方法で製造した鋼であり、比較例7は比較用に溶製したAlキルド鋼である。
【0054】
表1より、この発明の方法で溶製し、S− 5×((32/40) Ca+(32/140) REM) が0.0014wt%以下の鋼板は、優れた伸びフランジ特性を示した。なお、鋼板の錆発生率(0℃、湿度95%中に10時間放置後)については、発明鋼、比較鋼とも問題のない値であった。
【0055】
(実施例2)
表2に示す成分組成を含み、残部は実質的に鉄からなる鋼を転炉で溶製し、この鋼スラブを表3に示す条件で熱間圧延、冷間圧延、連続焼鈍、そして二次冷延を行い、最終仕上板厚を0.16mmとした。そして、ハロゲンタイプの電気めっきラインにて25番相当の錫メッキを連続的に施してぶりきに仕上げた。比較として、同じ板厚に仕上げた従来鋼に対して同様の錫めっきを施し、以降の各種評価に供した。
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
このようにして得られた錫めっき鋼板の硬さHR30T 、耐食性試験そして製缶後の評価としてネックしわ発生率、フランジ割れ発生率の調査を行い、それを表4に示した。なお、耐食性試験は5%NaCl水溶液を用い、塩水噴霧試験機で溶接補修塗装部に塩水を連続噴霧し、20日後の錆発生面積を計測し、比較として従来鋼の数値に対して±20%以内を○、20%を超えるものを×、−20%より少ないものを◎と評価し、表4に示した。また、ネックしわ発生率の調査は、製缶機によりノーマルグレーン法(圧延方向が缶の円周方向となるように円筒成形する板取り方法)及びリバースグレーン法(圧延方向と直角の方向が缶の円周方向となるように円筒成形する板取り方法)により、市販の190 g 缶と同径の缶胴部を成形した後に、実験室の(口絞り加工機)により1段ネックを行った際のネックしわ発生の目視検査により評価し、また、フランジ割れ発生率の調査は、開口端部をトリム後、円錐台状のパンチを開口端に挿入しながら実缶のフランジ加工と同程度の加工率に至るまで開口端の径を広げる試験を行い、その際の割れの発生率で評価した。
【0059】
表4から分かるように、発明鋼は従来鋼に比して、ノーマルグレーン法、リバースグレーン法のいずれを問わずフランジ割れは全く発生していなかった。また、ネックしわも全く発生しなかった。耐食性も従来鋼に比べて優れていた。
なお、表4中の酸化物系介在物組成は粒径1〜50μm の介在物を調査し、平均値(介在物サイズによる重み付けはせず)をとった。本発明の成分組成範囲になる試料は、介在物の個数の50%以上がTi酸化物:20wt%以上90wt%以下、CaO ,REM 酸化物の1種又は2種の合計:10wt%以上40wt%以下、Al2O3 :40%以下の範囲内になることを確認している。
【0060】
【表4】
【0061】
【発明の効果】
この発明の鋼板は、その製造にあたり、連続鋳造時に浸漬ノズルの閉塞を引き起こすことがなく、極めて安定した連続鋳造が可能であり、また、錆が少なく、介在物や析出物による変形能の劣化がほとんどなく、かつ、クラスター状介在物による表面欠陥のない、表明性状が良好な溶接部の成形性に優れており、3ピース缶用鋼板として極めて優れている。
Claims (3)
- C:0.005wt%を超え0.10wt%以下、
Si:0.2wt%以下、
Mn:0.05〜1.0wt%、
P:0.04wt%以下、
Ti:0.015〜0.10wt%、
Al:0.001〜0.01wt%、
N:0.02wt%以下及び
Ca,REMの1種又は2種を合計で0.0005〜0.01wt%
を含み、更に、
S及びCa,REMの1種又は2種の含有量が次式
S−5×((32/40)Ca+(32/140)REM)≦0.0014wt%
の関係を満たして残部はFe及び不可避的不純物の組成になり、粒径1〜50μmの酸化物系介在物が、Ti酸化物:20wt%以上90wt %以下、CaO,REM酸化物の1種又は2種:10wt%以上40wt %以下、Al2O3:40wt%以下、 SiO 2 : 30wt %以下およびその他の酸化物:3 wt %以下(ただし、 Ti 酸化物、 CaO , REM 酸化物の 1 種又は2種、 Al 2 O 3 、 SiO 2 およびその他の酸化物の合計は 100wt %)を含有し、引張強度が540MPa未満でかつ、圧延方向および圧延直角方向の少なくともいずれか一方のr値が1.0以下であることを特徴とする、表面性状が良好な3ピース缶に適した缶用鋼板。 - C:0.005wt%を超え0.10wt%以下、
Si:0.2wt%以下、
Mn:0.05〜1.0wt%、
P:0.04wt%以下、
Ti:0.015〜0.10wt%、
Al:0.001〜0.01wt%、
N:0.02wt%以下及び
Ca、REMの1種又は2種を合計で0.0005〜0.01wt%
を含み、かつ、
Ni:0.005〜1.0wt%、
Cr:0.005〜1.0wt%、
Nb:0.002〜0.04wt%、
B:0.0002〜0.005wt%
の1種又は2種以上を含有し、更に、
S及びCa,REMの1種又は2種の含有量が次式
S−5×((32/40)Ca+(32/140)REM)≦0.0014wt%
の関係を満たして残部はFe及び不可避的不純物の組成になり、粒径1〜50μmの酸化物系介在物が、Ti酸化物:20wt%以上90wt %以下、CaO,REM酸化物の1種又は2種:10wt%以上40wt %以下、Al2O3:40wt%以下、 SiO 2 : 30wt %以下およびその他の酸化物:3 wt %以下(ただし、 Ti 酸化物、 CaO , REM 酸化物の 1 種又は2種、 Al 2 O 3 、 SiO 2 およびその他の酸化物の合計は 100wt %)を含有し、引張強度が540MPa未満でかつ、圧延方向および圧延直角方向の少なくともいずれか一方のr値が1.0以下であることを特徴とする、表面性状が良好な3ピース缶に適した缶用鋼板。 - 粒径15μm以下の結晶粒からなる請求項1又は2に記載の表面性状が良好な3ピース缶に適した缶用鋼板。
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