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JP4042814B2 - 歯科用根管治療器具 - Google Patents

歯科用根管治療器具 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、歯科用根管治療器具に関し、特に、リーマ,ファイルと呼ばれる根管を成形するための治療器具に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
歯の根管は極めて細く且つ微妙に屈曲した形状を有しており、且つこの屈曲形状は個人差が大きい。このような根管を切削して成形する治療器具として、リーマやファイルが用いられている。リーマ,ファイルは螺旋状の切刃を有する切削用器具であり、切刃の頂点を結ぶ線はテーパ状に形成されており、リーマは主として回転操作、ファイルは主として押し引き操作して根管を切削する。またファイルの中には比較的捻れ角度が弱く回転切削も可能なKファイルと、捻れ角度が最も強く押し引き切削専用のHファイル等がある。
【0003】
例えばファイルを利用して根管治療を行う場合、医師はファイルを指に持って押し引き操作或いは若干の回転操作をすることで根管を切削して成形する。従って、医師はファイルの根管に対する切削部位を視認することなく治療することとなる。このため、治療に熟練が要求されると共にファイルの性能にも種々の高度な要求がなされる。
【0004】
例えば、ファイルに要求される性能としては、個人差の大きい根管の屈曲形状に対し柔軟に追従し得ること、良好な切削性を有すること、切削した屑を押し引き又は回転操作に伴って容易に排除し得ること、根管形状,器具サイズに適切に応じた曲げに対する抵抗や、捻りに対し高い破断角度特性を有すること、等がある。そしてこのような要求を満足させるために幾つかのファイルが提供されている。
【0005】
図5は市場に提供されているファイルの断面形状を説明する図であり、同図に示す円はファイルの任意位置に於ける切刃が内接する円である。図に於いて、51は断面正方形のファイルであり、市場に提供されているファイルの中では高い断面二次モーメントを有する。このため、曲げや捻りに対し高い抵抗を発揮するが、切刃51aのすくい角(切刃51aと円とのなす角度)が小さく、切削性や切削屑の排除特性が悪く、根管追従性も低い。
【0006】
また52は断面三角形のファイルであり、上記ファイル51に比較して断面二次モーメントが小さく、良好な根管追従性を有する。また切刃52aのすくい角が大きく且つ円との間に大きい空間を形成することが出来るため、切削性及び切削屑の排除性共に良好である。しかし、曲げや捻りに対する抵抗が小さすぎて特に小さいサイズに於いては、医師の力が切刃に伝わり難く切削性に支障をきたしたり、切刃の耐久性が若干低いという問題がある。また53は断面菱形のファイルであり、上記断面正方形のファイル51よりも切刃53aのすくい角が大きく且つ円との間に大きな空間を形成することが出来るため、切削性及び切削屑の排除性が良好であり、曲げや捻りに対する抵抗も適度な値を有している。従って、根管の切削には好ましく使用することが出来る。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記断面菱形のファイルであっても全く問題がないわけではなく、切削作業に於ける切刃としての耐久性や、適度な柔軟性と、これに相反する適度な剛性及び高い切削性等のバランスに未だ不満が残っており、且つ断面を正確な菱形に整形するのにコストがかかり、製品が高価になるという問題がある。
【0008】
本発明の目的は、切削性能及び切削屑の排除性が良好で且つ曲げや捻りに強く、且つ根管に対し柔軟に追従し、更に、コストを低減させることが出来る歯科用根管治療器具を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本発明に係る歯科用根管治療器具は、シャフト部と、シャフト部に連なり螺旋状の切刃からなる作業部とを有する歯科用根管治療器具であって、作業部の横断面が、短辺対長辺の辺比が1:2乃至1:4の長方形に形成されたものである。
【0010】
上記歯科用根管治療器具(以下、単に「治療器具」という)では、作業部の横断面が長方形であるため、長辺に沿った方向の断面二次モーメントと短辺に沿った方向の断面二次モーメントでは値が大幅に異なる。このため、作業部に於ける軸方向の任意の部位では曲げ易さに方向性が生じる。しかし、作業部が長方形断面を螺旋状に捻って形成されるため、作業部全体としては曲げ易さの方向性が生じることがなく、根管を治療するのに必要な高度な柔軟性と剛性を発揮することが出来る。また断面が長方形であるため、根管の内部に大きな空間を形成することが可能となり、該空間を通して切削屑を良好に排除することが出来る。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、上記治療器具の好ましい実施形態について図を用いて説明する。図1は本実施例に係る治療器具の全体構成を説明する図であり夫々正面図と側面図、図2は作業部の先端部分を拡大して示す図、図3は作業部の断面形状を説明する図、図4は本実施例に係る治療器具と従来のKファイルの切削性能を比較した結果を示す図である。
【0012】
治療器具Aは歯の根管を切削して成形するための器具であり、サイズが06番(先端部位の太さが0.06mm)〜140番(先端部位の太さが1.40mm)の範囲で複数の太さを持った種類のものが提供されている。この治療器具は、医師が指先に挟んで微妙な感触をたよりに操作して根管を切削して成形し、これに伴って根管の径が大きくなるに対応してより太い治療器具Aと交換しつつ、更に、操作して目的の径と形状を持った根管になるように成形するものである。
【0013】
治療器具Aはシャフト部1と、シャフト部1に連なる作業部2とによって構成されている。本実施例では、シャフト部1には医師が把持する柄3が一体的に成形されている。また作業部2の先端部4は、サイズや作業部2の断面形状の如何に関わらず、図2に示すように所定角度(例えば60度〜90度)の尖端部として構成されている。
【0014】
シャフト部1はストレート状或いはテーパ状に形成され、一連の製造工程中で柄3にインサート成形されて一体化される。しかし、治療器具としては、必ずしもシャフト部に把手を一体成形したものである必要はなく、例えば、シャフト部に図示しないエア工具等のチャックに把持し得るような所定の柄を構成しても良いし、柄を必要としない工具に装着し得るよう柄のない形態としても良い。何れにしても、治療器具としては、本実施例のように医師の手操作によるものに限定するものではない。
【0015】
シャフト部1は柄3側から作業部2に接近するに従って、断面が円形から作業部2の断面である長方形に形成される。シャフト部1をこのように構成することによって、急激に断面形状及び断面積を変化させることなく、応力の集中を排除して治療中に作用する曲げ力に対し良好に対抗することが可能である。また長方形の長辺方向は剛性が高く、短辺方向は柔軟性に優れることから、根管の湾曲方向等に応じて回転させて長辺或いは短辺を選択した後に押し引き操作をすることで、特に指の入り難い奥歯の治療時に医師の微妙な力の入力,感触の手助けとなる。
【0016】
作業部2は、図3に示すように、横断面が長方形状に形成されており、且つ予め設定されたリードを持って螺旋状に捻られている。そして螺旋状に形成されることで、所定のピッチを持った各切刃2aを結んだ線がテーパ状に形成されている。しかし、作業部2は必ずしもシャフト部1側から先端部4にかけて単純なテーパ状に形成されることはなく、作業部2の途中が太く、この部分からシャフト部1側及び先端部4側にかけてテーパ状に形成したり、或いは途中の太い部分からシャフト部1側にかけてストレート状に形成しても良い。
【0017】
即ち、作業部2は、短辺2bと長辺2cとの比率が予め設定された値を有し且つシャフト側から先端部4にかけて断面積が減少する長方形断面を持った中間材を螺旋状に捻ることで形成されている。このため、根管の治療に際し、作業部2を押し引きして軸方向に移動させたとき、見掛け上、切刃2aがリードに従って図4の円5の円周に沿って回転し、この回転動作によって根管の切削を行うことが可能となる。特に、切刃2aと円5とのなす角によって形成されるすくい角αが大きくとれるため良好な切削性能を得ることが可能である。
【0018】
また作業部2の断面と円5との間に大きな空間6を構成することが可能である。このため、作業部2の押し引きに伴って切刃2aによって切削された屑は空間6に入り込み、該空間6を通って外部に排出される。このとき、空間6の面積が充分に大きいため、切削屑の排除を容易に且つ確実に行うことが可能となる。
【0019】
長方形断面を構成する短辺2bと長辺2cとの比率(辺比)は特に限定するものではない。即ち、両者の比率を変化させることで、良好な切削性能を実現することが可能である。しかし、辺比が大きくなると、切削性能が向上するものの、曲げに対する抵抗が小さくなり、且つ捻りに対する抵抗も小さくなる。
【0020】
上記の如き作業部2の長方形断面を如何なる方法で実現するかを限定するものではない。即ち、長方形断面の形状は、予めテーパ状に形成した素材を研削加工することで、或いはプレス加工と研削加工を併用することで形成することが可能である。このような加工は断面正方形のKファイルの加工手順と同一であり、単純な加工工程によって作業部2を形成することで、製造コストを削減して安価な治療器具Aを提供することが可能となる。
【0021】
本件発明者等は、短辺2bと長辺2cの辺比が1:2〜1:4のテストピースを製作し、切削性能,耐曲げ,耐捻りに対する実験を実施すると共に2辺の比率が1:1である断面正方形のKファイルとの比較を実施した。
【0022】
切削性能に関する実験結果を図4に示して説明する。先ず、テストピースは各辺比毎に、サイズを15番(先端部4の基部の太さが0.15mm)〜40番(先端部4の基部の太さが0.40mm)とし、更に、各サイズのサンプル数を5として切削性能試験機(一定の荷重下,ストロークで、毎分60回,計300 回の往復動作により切削されたアクリル板の距離を測定)を用いて実験した。この結果、各サイズを通して辺比1:3のものが最も切削性能が良く、辺比1:2,1:4のものは略同様の切削性能を示した。しかし、辺比の如何に関わらず、断面正方形のKファイルよりも充分に高い切削性能を実現している。
【0023】
耐曲げ実験は、テストピースのサイズ及びサンプル数は切削性能実験と同一の条件とし、専用の曲げ試験機(テストピースの先端3mmを固定し、曲げ治具を45度回転させた際の最大トルクを測定)を用いて実施した。この実験では、断面積が最も大きい断面正方形のKファイルが最も強く、辺比が大きくなるのに従って弱くなる結果を得た。このことは、各サイズの太さが先端部4の基部で規定されるため、長辺の寸法は一定であるが辺比が大きくなるのに伴って短辺の寸法が小さくなり、従って、辺比が大きくなるのに伴って断面積が小さくなることから、極めて当然の結果といえる。
【0024】
耐捻り実験は、テストピースのサイズ及びサンプル数は切削性能実験と同一の条件とし、専用の捻り試験機(テストピースの先端3mmと先端から17mmの部位を治具に固定し、元端の治具を回転させることによりテストピースを捻り、破断するまでの最大トルクと、破断時の回転角度を測定)を用いて最大破断角度と捻りトルクを得ることで行った。この実験では、断面正方形のKファイルがサイズの変化に関わらず略一定の耐捻り性能を発揮し、辺比が1:4のテストピースは多少のバラツキが生じているものの傾向としてはサイズの変化に関わらず略一定の耐捻り性能を有し、且つ破断角度は断面正方形のKファイルよりも大きい。また辺比が1:3のテストピースは断面正方形のKファイルと略同等の耐捻り性能を発揮した。
【0025】
更に、上記各実験結果から、良好な切削性能を得ることが可能で、且つ実用上差し支えのない強さを発揮し得る長方形の辺比は、下限が1:1.5 程度で上限が1:5程度の範囲であると推定することが可能である。
【0026】
また、上記耐曲げ実験の結果から辺比が大きくなるに従って曲げに対する強度が小さくなることが判明した。このことは、辺比を大きくすることによって、強度的に弱くなるものの、柔軟性が向上することを示している。
【0027】
上記各実験結果から、本実施例に係る治療器具Aと従来の断面菱形の治療器具との性能を比較した。この結果、治療器具Aでは、切刃2aの角度が90度と大きいため耐久性に優れている。また断面菱形の治療器具が根管の切削面に対する接触が切刃の2点であるのに対し、治療器具Aでは4点(2点が切刃となり、他の2点が支え)であり、これらが有効に活用されることで、菱形の治療器具の切削性能よりも高い切削性能を発揮し得る。
【0028】
治療器具Aを構成する作業部2が長手方向(軸方向)に辺比が一定の長方形断面によって形成されている場合、該作業部2は全長にわたって径の増大に比例した略同様の柔軟性を発揮することが可能である。しかし、治療すべき根管の形状が複雑である場合やサイズによって、作業部2が長手方向に異なる柔軟性を有する方が好ましいことがある。
【0029】
従って、上記実験結果から、作業部2の辺比を長さ方向(軸方向)にわたって変化させ、所望の区間を異なる辺比を持った長方形断面で形成することで異なる柔軟性を発揮させることが可能である。
【0030】
即ち、番手の小さい治療器具Aでは、作業部2の先端部の太さが極めて細くなるため、柔軟性が勝って良好な切削性能を得ることが困難になる場合がある。このような場合、例えば、作業部2に於けるシャフト部1側の長方形断面の辺比を大きくし、先端部4側の長方形断面の辺比を小さくすることによって、作業部2の先端部4側の切削性能を向上させると共に耐曲げ性能を向上させて多少曲げ難くし、且つシャフト部1側をより柔軟性を発揮させるように構成することが可能である。このような治療器具Aは、根管の形状が複雑であればあるほど有利である。
【0031】
上記の如き作業部2に於ける辺比の変化は、目的に応じて作業部2の1区間或いは複数区間に適用することが可能であり、全長にわたって徐々に変化させても、或いは1区間のみを急激に変化させても良い。またシャフト部1側と先端部4側を同じ辺比とし、中間部を変化させることも可能である。
【0032】
治療器具Aを構成する素材として特に限定するものではない。一般的にはステンレス鋼を用いる。そしてステンレス鋼を用いる場合には、錆の発生のないオーステナイトステンレス鋼を用いると共に線引き加工によりファイバー状の組織としたものが好ましい。このように素材が全長にわたってファイバー状の組織を有することにより、耐曲げ性能や耐捻り性能を向上させることが可能である。
【0033】
また治療器具Aの素材として形状記憶合金を用いることも可能である。この場合、予め形状記憶合金に対し所定の熱処理を行って超弾性の範囲で用いることが好ましい。
【0034】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように本発明に係る治療器具では、作業部の横断面の形状を長方形とすることで、切刃のすくい角を大きくすると共に切刃の前部に形成される空間の面積を大きくすることが出来る。このため、切削性能を向上させることが出来、且つ切削屑の排除を容易に且つ確実に行うことが出来る。
【0035】
また作業部の断面形状が長方形であるため、該断面の加工は従来の正方形断面からなるKファイルと異なることがない。このため、製造コストが増加することがなく、安価な治療器具を実現することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施例に係る治療器具の全体構成を説明する図であり夫々正面図と側面図である。
【図2】作業部の先端部分を拡大して示す図である。
【図3】作業部の断面形状を説明する図である。
【図4】本実施例に係る治療器具と従来のKファイルの切削性能を比較した結果を示す図である。
【図5】従来の歯科用根管治療器具の断面形状を説明する図である。
【符号の説明】
A 治療器具
1 シャフト部
2 作業部
2a 切刃
2b 短辺
2c 長辺
3 柄
4 先端部
5 円
6 空間

Claims (1)

  1. シャフト部と、シャフト部に連なり螺旋状の切刃からなる作業部とを有する歯科用根管治療器具であって、作業部の横断面が、短辺対長辺の辺比が1:2乃至1:4の長方形であることを特徴とする歯科用根管治療器具。
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