JP4042342B2 - 水素供給システム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、水素と酸素との電気化学反応により発電する燃料電池スタックに対して水素を供給する水素供給システムに関する。
【0002】
【従来の技術】
水素と酸素との電気化学反応により発電する燃料電池スタックを動力源として搭載する燃料電池自動車は、低公害化を実現する自動車として大きな注目を集めており、現在、実用化に向けての研究開発が盛んに進められている。
【0003】
燃料電池自動車に積載する積載燃料としては、長期的には純水素が最も望ましいと考えられるが、水素インフラストラクチャの整備はもとより、水素吸蔵合金や液化水素タンク等の水素貯蔵技術についても、信頼性やコスト面を含めて未解決の課題が山積しており、未だ実用化段階には至っていないのが実情である。
【0004】
純水素を積載燃料とする方法としては、現時点では、高圧の水素ガスを高圧ガスボンベに充填して燃料電池自動車に搭載することが最も現実的な選択肢として考えられるが、高圧ガスボンベは丸形なために燃料電池自動車に安定的に搭載することが困難で、車載レイアウトの面でも難点があり、一度に貯えられる水素量が少なくタンクマイレッジが短いという問題がある。
【0005】
以上の点に鑑み、ガソリンやメタノールといった液体燃料を原燃料(燃料インフラストラクチャから供給される燃料)として燃料電池自動車に積載し、これらの原燃料を改質することにより水素を得る方法も検討されている。このような方法は、既存の燃料インフラストラクチャを有効利用できるといった利点があり、実用化に向けての開発が積極的に行われている。この場合、改質器自体のサイズや重量、コストの低減の他、改質器の起動性や応答性などを実用レベルにすることが重要な課題となっている。
【0006】
このような背景のもと、燃料電池自動車のための新しい水素源についても各種の検討がなされるようになってきており、その一例として、水素化ホウ素ナトリウムを水素源として用いることが提案されている(“A Novel Safe Method for Storing/Generating Hydrogen Gas uses Aqueous NaBH4 Solution and Supported Ru Catalysts”, p.265-267, 2000 Fuel Cell Seminar, October 30-Nov. 2, 2000, Portland, Oregon 参照)。
【0007】
水素源として水素化ホウ素ナトリウムを使用した水素供給システムの一例を図4に示す。この図4に示す水素供給システム100は、燃料インフラストラクチャから供給される原燃料である水素化ホウ素ナトリウム水溶液を貯留する原燃料タンク101と、廃燃料であるホウ酸ナトリウム水溶液を貯留する廃燃料タンク102とを備えている。
【0008】
原燃料タンク101に貯留された水素化ホウ素ナトリウム水溶液は、ポンプ103により吸引されて触媒104へと供給され、この触媒104の作用により、高温の水蒸気を含む水素ガスとホウ酸ナトリウム水溶液とに分解される。反応式は、下記式1で与えられる。
【0009】
NaBH4+2H2O→4H2+NaBO2+300kJ/mol …(式1)
触媒104の作用により分解された高温の水蒸気を含む水素ガスとホウ酸ナトリウム水溶液は凝縮器105へと供給され、この凝縮器105にて冷却液により冷却されて、燃料電池スタックに供給可能な温度の水蒸気を含む水素ガスとホウ酸ナトリウム水溶液とに分離される。そして、水蒸気を含む水素ガスは、圧力調整弁106を介して燃料電池スタックへと供給され、燃料電池スタックでの発電に使用される。一方、ホウ酸ナトリウム水溶液は、廃燃料としてバルブ107を介して廃燃料タンク102に供給され、この廃燃料タンク102に貯留される。
【0010】
廃燃料であるホウ酸ナトリウム水溶液は、原燃料である水素化ホウ素ナトリウム水溶液を原燃料タンク101に補給する際に、廃燃料タンク102から回収されて燃料再生工場へと送られ、再び水素化ホウ素ナトリウム水溶液に再生されて、燃料インフラストラクチャに提供されることになる。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
以上のような水素化ホウ素ナトリウム水溶液を原燃料とした水素供給システム100では、燃料電池スタックへ供給する水素ガスを比較的容易に得ることができると共に、原燃料が液体であることから原燃料タンクの形状に自由度をもたせることが可能で、燃料電池自動車への搭載性、車載レイアウト性の点で有利であり、更に、高圧水素タンクを用いた場合に比べるとタンクマイレッジが向上するといった様々な利点が得られる。
【0012】
しかしながら、上述した水素供給システム100は、原燃料を貯留する原燃料タンク101に加えて、廃燃料を貯留する廃燃料タンク102も必要な構成であるために、原燃料タンク101の容量が制限され、タンクマイレッジの大幅な向上が困難であるといった問題がある。
【0013】
このような問題は、上述した水素供給システム100に限らず、原燃料の他に廃燃料や原燃料を改質する液体、原燃料を精製した精製燃料、水といった他の液体をタンクに貯留することが要求されるシステムにおいて、潜在的に抱える問題である。
【0014】
本発明は、以上のような実情に鑑みて創案されたものであって、燃料インフラストラクチャから供給される原燃料の貯留量を効率的に確保して、タンクマイレッジの大幅な向上を実現する水素供給システムを提供することを目的としている。
【0015】
【課題を解決するための手段】
例えば廃燃料や原燃料を改質する液体、原燃料を精製した精製燃料、水等といった原燃料の他にタンクに貯留される液体の分量の変化や、これらの液体に要求される貯留量を考察すると、原燃料の分量変化や要求される貯留量に対して相補的な関係にある場合が多い。すなわち、これらの液体は、原燃料の消費量に応じてその分量が増加したり、外気温等に応じて原燃料に多くの貯留量が要求される場合に逆に貯留量を少なくできるものが多い。
【0016】
このような関係を利用して、原燃料を貯留するタンクと他の燃料を貯留するタンクとを一体化して、互いのタンク容量を相補的に変化させるようにすれば、原燃料の貯留量を効率的に確保することが可能となる。
【0017】
本発明は、以上のような知見に基づいてなされたものであり、請求項1に記載の発明は、燃料電池スタックに水素を供給する水素供給システムにおいて、2つの可動隔壁によって内部が3つの液室に分離され、可動隔壁が移動することによって3つの液室の容量が相補的に変化する液体貯留タンクを備え、この液体貯留タンクの3つの液室のうちの1つに燃料インフラストラクチャから供給される原燃料が貯留され、他の1つに原燃料の廃燃料から分離された水が貯留され、残りの1つに濃縮された廃燃料が貯留されることを特徴とするものである。
【0018】
この請求項1に係る水素供給システムでは、原燃料の消費に伴って水及び濃縮された廃燃料の分量が増加すると、液体貯留タンクの可動隔壁の移動によって、原燃料が貯留される液室の容量が減少して、水が貯留される液室及び濃縮された廃燃料が貯留される液室の容量が増加することになる。また、燃料インフラストラクチャにおいて原燃料を補給する際に濃縮された廃燃料を回収し、また、水を例えば加湿水として利用したり排水したりすれば、可動隔壁の移動によって、水が貯留される液室及び濃縮された廃燃料が貯留される液室の容量を減少させて、原燃料が貯留される液室の容量を増加させることができる。したがって、この水素供給システムでは、液体貯留タンク全体の容量が有効利用され、原燃料の貯留量が効率的に確保されることになる。
【0019】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の水素供給システムにおいて、原燃料が貯留される液室と、濃縮された廃燃料が貯留される液室とが、水が貯留される液室を介して離間した位置に設けられていることを特徴とするものである。
【0020】
この請求項2に係る水素供給システムでは、比較的高温となる濃縮された廃燃料が、原燃料が貯留される液室とは離間した位置の液室に貯留されることになる。したがって、濃縮された廃燃料の熱によって原燃料が温められて水素の発生効率が低下するといった不都合が未然に回避されることになる。
【0021】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の水素供給システムにおいて、液体貯留タンクの液室に貯留された濃縮された廃燃料の濃度を外気温に応じて調整する濃度調整手段が設けられていることを特徴とするものである。
【0022】
この請求項3に係る水素供給システムでは、濃縮された廃燃料の濃度が濃度調整手段によって調整されるので、例えば、寒冷地等において廃燃料が析出するといった不都合が未然に回避されることになる。
【0023】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3の何れかに記載の水素供給システムにおいて、液体貯留タンクの3つの液室のうちの1つに原燃料として水素化ホウ素ナトリウム水溶液が貯留され、他の1つに廃燃料としてのホウ酸ナトリウム水溶液から分離された水が貯留され、残りの1つに濃縮されたホウ酸ナトリウム水溶液が貯留されることを特徴とするものである。
【0024】
この請求項4に係る水素供給システムでは、原燃料である水素化ホウ素ナトリウム水溶液の消費に伴って水及び濃縮されたホウ酸ナトリウム水溶液の分量が増加すると、液体貯留タンクの可動隔壁の移動によって、水素化ホウ素ナトリウム水溶液が貯留される液室の容量が減少して、水が貯留される液室及び濃縮されたホウ酸ナトリウム水溶液が貯留される液室の容量が増加することになる。また、燃料インフラストラクチャにおいて水素化ホウ素ナトリウム水溶液を補給する際に濃縮されたホウ酸ナトリウム水溶液を回収し、また、水を例えば加湿水として利用したり排水したりすれば、可動隔壁の移動によって、水が貯留される液室及び濃縮されたホウ酸ナトリウム水溶液が貯留される液室の容量を減少させて、水素化ホウ素ナトリウム水溶液が貯留される液室の容量を増加させることができる。したがって、この水素供給システムでは、液体貯留タンク全体の容量が有効利用され、原燃料である水素化ホウ素ナトリウム水溶液の貯留量が効率的に確保されることになる。
【0025】
また、請求項5に記載の発明は、燃料電池スタックに水素を供給する水素供給システムにおいて、1つの可動隔壁によって内部が2つの液室に分離され、可動隔壁が移動することによって2つの液室の容量が相補的に変化する液体貯留タンクを備え、この液体貯留タンクの2つの液室の一方に燃料インフラストラクチャから供給される原燃料が貯留され、他方に水が貯留されるとともに、外気温に応じて可動隔壁を移動させる隔壁移動手段が設けられていることを特徴とするものである。
【0026】
この請求項5に係る水素供給システムでは、外気温に応じた可動隔壁の移動によって容量が相補的に変化する液体貯留タンクの2つの液室に、外気温に応じて要求される貯留量が相補的に変化する原燃料と水とが各々貯留されるので、液体貯留タンク全体の容量が有効利用され、原燃料及び水の貯留量が効率的に確保されることになる。
【0027】
【発明の効果】
本発明に係る水素供給システムでは、可動隔壁の移動によって容量が相補的に変化する複数の液室を有する液体貯留タンクを設け、この液体貯留タンクの複数の液室の1つに燃料インフラストラクチャから供給される原燃料を貯留するようにし、他の液室に、例えば廃燃料から分離した水と濃縮された廃燃料、原燃料を改質する際に利用される水等のように、分量変化や要求される貯留量が原燃料の分量変化や要求される貯留量に対して相補的な関係にある液体を貯留するようにしているので、液体貯留タンクの容量を有効利用して、原燃料の貯留量を効率的に確保できる。したがって、この本発明に係る水素供給システムを燃料電池自動車に利用すれば、燃料電池自動車への搭載性や車載レイアウト性に優れるといった液体貯留タンクの利点を活かせることは勿論のこと、タンクマイレッジの大幅な向上を実現することができる。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0029】
(第1の実施形態)
先ず、本発明の第1の実施形態の水素供給システムについて、図1を参照して説明する。この図1に示す水素供給システム20は、燃料電池自動車に燃料電池スタックと共に搭載されて、この燃料電池スタックに対して水素を供給するためのものでり、水素化ホウ素ナトリウム水溶液が原燃料として燃料インフラストラクチャから供給されることを想定して構成され、廃燃料であるホウ酸ナトリウム水溶液から水分を分離して、濃縮されたホウ酸ナトリウム水溶液と水とを貯留するようにした点を特徴とするものである。
【0030】
この水素供給システム20は、内部が3つの液室に分離された液体貯留タンク21を備えている。この液体貯留タンク21は、燃料電池自動車内部における設置スペースに対応した外形形状とされ、その内部に2つの可動隔壁(第1の可動隔壁21a及び第2の可動隔壁21b)が設けられて、これらの可動隔壁21a,21bによって、内部が3つの液室(第1の液室22,第2の液室23,第2の液室24)に分離されている。そして、この液体貯留タンク21の第1の液室22内に水素化ホウ素ナトリウム水溶液が貯留され、第2の液室23内に濃縮されたホウ酸ナトリウム水溶液が貯留され、第3の液室24内に水が貯留されるようになっている。
【0031】
液体貯留タンク21の第1の液室22の容量と、第2の液室23及び第3の液室24の総容量とは、それぞれ可動隔壁21aの移動に伴って相補的に変化するようになっている。更に、第2の液室23の容量と第3の液室24の容量とは、第2の可動隔壁21bの移動に伴って相補的に変化するようになっている。
【0032】
この水素供給システム20において、燃料インフラストラクチャから供給されて液体貯留タンク21の第1の液室22内に貯留された原燃料である水素化ホウ素ナトリウム水溶液は、ポンプ25により吸引されて触媒26へと供給される。そして触媒26に供給された水素化ホウ素ナトリウム水溶液は、この触媒26の作用によって、高温の水蒸気を含む水素ガスと、廃燃料であるホウ酸ナトリウム水溶液とに分解される。
【0033】
高温の水蒸気を含む水素ガスとホウ酸ナトリウム水溶液は、高温のまま気液分離器27へと供給されて気液分離される。これにより、気液分離器27の液相部27aに、高濃度のホウ酸ナトリウム水溶液が取り出されることになる。そして、気液分離器27の液相部27aに取り出された高濃度のホウ酸ナトリウム水溶液は、熱交換器28へと供給され、この熱交換器28にて冷却液により冷却されて、バルブ29を介して液体貯留タンク21の第2の液室23に供給され、濃縮された廃燃料として、この液体貯留タンク21の第2の液室23内に貯留される。
【0034】
一方、気液分離器27の気相部27bには、高温の水蒸気を含む水素ガスが取り出される。そして、この高温の水蒸気を含む水素ガスは、凝縮器30へと供給され、この凝縮器30にて冷却液により冷却されて、燃料電池スタックに供給可能な温度の水蒸気を含む水素ガスと水とに分離される。そして、水蒸気を含む水素ガスは、圧力調整弁31を介して燃料電池スタックへと供給され、燃料電池スタックでの発電に使用される。一方、水は、バルブ32を介して液体貯留タンク21の第3の液室24に供給され、この液体貯留タンク21の第3の液室24内に貯留される。液体貯留タンク21の第3の液室24内に貯留された水は、例えば、燃料電池スタックの高分子膜の乾燥を防止するための加湿用水として利用される。
【0035】
なお、燃料電池スタックが自己加湿型のものである場合や加湿を必要としない場合等においては、この液体貯留タンク21の第3の液室24内に貯留された水を、ドレインバルブを介して外部に排水するようにしてもよい。また、凝縮器30にて分離された水を、ドレインバルブを介して直接排水することも可能である。この場合は、液体貯留タンク21に第3の液室24を設ける必要がなく、液体貯留タンク21は、第1及び第2の液室22,23の2つの液室から構成されることになる。
【0036】
この水素供給システム20では、原燃料である水素化ホウ素ナトリウム水溶液が消費されてその分量が減少していくに従って、濃縮されたホウ酸ナトリウム水溶液の分量と水の分量とが増加していくことになる。このとき、液体貯留タンク21の第1の可動隔壁21aは第1の液室22側に移動し、第1の液室22の容量が減少する一方で、第2の液室23及び第3の液室24の総容量が増加することになる。そして、原燃料である水素化ホウ酸ナトリウム水溶液が全て消費されたときは、液体貯留タンク11全体を第2の液室23と第3の液室24とに利用できるので、濃縮されたホウ酸ナトリウム水溶液と水等を最大で液体貯留タンク11全体の容量分貯留することができる。
【0037】
また、燃料インフラストラクチャにおいて水素化ホウ素ナトリウム水溶液を補給する際に、液体貯留タンク21の第2の液室23内に貯留された濃縮されたホウ酸ナトリウム水溶液を全て回収し、また、第3の液室24内に貯留された水を全て排水するようにすれば、液体貯留タンク21全体を第1の液室22として利用することができる。したがって、最大で液体貯留タンク21全体の容量の水素化ホウ素ナトリウム水溶液を貯留することができる。
【0038】
以上のように、この水素供給システム20では、液体貯留タンク21全体の容量が有効利用されるので、第1の実施形態の水素供給システム10と同様に、原燃料である水素化ホウ素ナトリウム水溶液の貯留量を効率的に確保することができる。したがって、この水素供給システム20を燃料電池自動車に利用すれば、タンクマイレッジの大幅な向上を実現することができる。
【0039】
また、この水素供給システム20では、廃燃料であるホウ酸ナトリウム水溶液から取り出した水を燃料電池スタックの高分子膜の乾燥を防止するための加湿用水として利用することができるので、加湿用の水を燃料電池自動車に別途搭載する場合に比べて、燃料電池自動車に搭載する液体の総量を減少させて、燃料電池自動車の重量を低減させ、燃費の向上を図ることができる。
【0040】
更に、この水素供給システム20では、ホウ酸ナトリウム水溶液を濃縮された状態で液体貯留タンク21の第2の液室23内に貯留し、廃燃料として回収するようにしているので、回収する廃燃料の分量が少なくてすみ、再生工場への輸送コストの低減が可能となる。
【0041】
ところで、この水素供給システム20では、高温の水蒸気を含む水素ガスとホウ酸ナトリウム水溶液とを気液分離器27に供給して気液分離することで、濃縮されたホウ酸ナトリウム水溶液を取り出すようにしているので、濃縮されたホウ酸ナトリウム水溶液は、比較的高温の状態で液体貯留タンク21の第2の液室23内に貯留されることになる。そして、この第2の液室23内に貯留された濃縮されたホウ酸ナトリウム水溶液の熱が、第1の液室22内に貯留された水素化ホウ素ナトリウム水溶液に伝わると、この水素化ホウ素ナトリウム水溶液が熱によって変質して、水素の発生効率が低下する場合がある。
【0042】
このような場合には、液体貯留タンク21において、水素化ホウ素ナトリウム水溶液が貯留される第1の液室22と、濃縮されたホウ酸ナトリウム水溶液が貯留される第2の液室23とを、水が貯留される第3の液室24を間に挟んで互いに離間した位置に設けるようにすることが望ましい。第3の液室24内に貯留される水は、第2の液室23内に貯留される濃縮されたホウ酸ナトリウム水溶液に比べて低温であるので、この水が貯留される第3の液室24を第1の液室22と第2の液室23との間に配設することで、第2の液室23内に貯留された濃縮されたホウ酸ナトリウム水溶液の熱を第3の液室24内に貯留された水により吸収して、第1の液室22内に貯留された水素化ホウ素ナトリウム水溶液が熱により変質し水素の発生効率が低下するといった問題を未然に回避することができる。
【0043】
また、水素化ホウ素ナトリウムから水素が取り出されて生成されるホウ酸ナトリウムは溶解度が非常に高いものの、寒冷地等のように外気温が極めて低い環境下にあっては、液体貯留槽21の第2の液室23内においてこのホウ酸ナトリウムが析出してしまう場合がある。
【0044】
このような場合には、液体貯留槽21の第2の液室23内に貯留された濃縮されたホウ酸ナトリウム水溶液の濃度を外気温に応じて調整する濃度調整手段を設けることが望ましい。具体的には、例えば、外気センサにより外気温を検出すると共に、温度センサや圧力センサを用いて気液分離器27の気相部27bからの水蒸気を含む水素ガスの温度及び圧力をモニタリングし、これらが外気温に応じた所定の値となるように、気液分離器27の動作状態を制御するようにする。これにより、気液分離器27の液相部27aに取り出された濃縮されたホウ酸ナトリウム水溶液の濃度が外気温に応じて調整されることになり、第2の液室23内におけるホウ酸ナトリウムの析出を有効に防止することができる。
【0045】
また、気液分離器27の動作状態を制御することに代えて、液体貯留タンク21の第3の液室24内に貯留された水をポンプ等を用いて吸引し、第2の液室23に供給するようにしてもよい。この場合も、第2の液室23内に貯留された濃縮されたホウ酸ナトリウム水溶液の濃度が外気温に応じて調整されることになり、ホウ酸ナトリウムの析出を有効に防止することができる。また、以上のような濃縮されたホウ酸ナトリウム水溶液の濃度は、外気センサにより検出された外気温に応じて調整するのではなく、燃料電池自動車の仕様(寒冷地仕様等)に応じて最適な値に設定するようにしてもよい。
【0046】
なお、以上は、本発明を適用した水素供給システムの一例を説明したものであり、本発明が以上の例に限定されるものでないことは勿論である。例えば、以上の例では、燃料インフラストラクチャから供給される原燃料が水素化ホウ素ナトリウム水溶液であり、この原燃料から水素を取り出した廃燃料がホウ酸ナトリウム水溶液である場合を例示して説明したが、本発明の水素供給システムは、原燃料及び廃燃料がどのようなものであっても有効に適用可能である。
【0047】
また、液体貯留タンク21の可動隔壁21a,21bの構造も特に限定されるものではなく、ダイヤフラム構造や蛇腹構造等、どのような構造であってもよい。容量が可変とされた液体タンクは、例えば、特開平11−247723号公報や、特開平10−230746号公報、実公昭61−31858号公報等に開示されているが、これらを応用して液体貯留タンク21を構成するようにしてもよい。
【0048】
また、以上の例では、液体貯留タンク21の可動隔壁21a,21bを可撓性を有する膜により構成し、可動隔壁21a,21bの位置が、第1の液室22と第2の液室23と第3の液室24の間で作用する作用力の力学的平衡により決定されるようにしているが、可動隔壁21a,21bを比較的剛性の高い部材で構成し、可動隔壁21a,21bの位置を、アクチュエータを用いて強制的に移動させるようにしてもよい。この場合、可動隔壁21aを第1の液室22側に強制的に移動させれば、第1の液室22内に貯留された水素化ホウ素ナトリウム水溶液が液体貯留タンク21の外部に送り出されることになり、液体貯留タンク21自体をポンプとしての機能を持たせることも可能となる。
【0049】
また、以上の例では、廃燃料であるホウ酸ナトリウム水溶液をバルブ29を用いて液体貯留タンク21の第2の液室23に圧送するようにしているが、例えばポンプを用いて第2の液室23に輸送するようにしてもよい。
【0050】
また、以上は、燃料電池自動車用の水素供給システム20に本発明を適用した例について説明したが、本発明は、据置型の燃料電池の水素供給システムに対しても有効に適用可能である。
【0051】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について、図2を参照して説明する。この図2に示す水素供給システム70は、精製ガソリンが原燃料として燃料インフラストラクチャから供給されることを想定して構成されたものであり、いわゆるガソリン改質型の燃料電池自動車に搭載されるものである。
【0052】
この水素供給システム70は、原燃料である精製ガソリンと、この精製ガソリンを改質する際に利用される水とが貯留される液体貯留タンク71を備えている。液体貯留タンク71は、燃料電池自動車内部における設置スペースに対応した外形形状とされ、その内部は、可動隔壁71aによって第1の液室72と第2の液室73とに分離されている。そして、第1の液室72内に原燃料である精製ガソリンが貯留され、第2の液室73内に水が貯留されるようになっている。
【0053】
液体貯留タンク71の第1の液室72の容量と第2の液室73の容量とは、それぞれ可動隔壁71aの移動に伴って相補的に変化するようになっている。すなわち、可動隔壁71aが第1の液室72側に位置するときは、第1の液室72の容量に比べて第2の液室73の容量が大きく、可動隔壁71aが第2の液室73側に位置するときは、第2の液室73の容量に比べて第1の液室72の容量が大きくなる。
【0054】
この水素供給システム70において、燃料インフラストラクチャから供給されて液体貯留タンク71の第1の液室72内に貯留された原燃料である精製ガソリンは、ポンプ74により吸引されて燃料改質システム75へと供給される。また、液体貯留タンク71の第2の液室73内に貯留された水は、ポンプ76により吸引されて燃料改質システム75へと供給される。
【0055】
燃料改質システム75では、液体貯留タンク71の第2の液室73から供給される水と、空気供給システム77から送気される空気とを用いて、液体貯留タンク71の第1の液室72から供給される精製ガソリンを改質して、水素を含む改質ガスを発生させる。そして、燃料改質システム75により発生した水素を含む改質ガスが燃料電池スタック78へと供給され、この燃料電池スタック78での発電に使用される。
【0056】
燃料電池スタック78のアノードからの排気は凝縮器79に供給され、この凝縮器79にて冷却液により冷却されて、水分が取り出される。また、燃料電池スタック78のカソードからの排気は凝縮器80に供給され、この凝縮器80にて冷却液により冷却されて、水分が取り出される。これら燃料電池スタック78のアノード排気及びカソード排気から取り出された水分は、液体貯留タンク71の第2の液室73に回収されることになる。
【0057】
一方、凝縮器79により水分が除去されたアノード排気と、凝縮器80により水分が除去されたカソード排気は、それぞれ燃料改質システム75に供給されて、この燃料改質システム75内にて燃焼させられ、精製ガソリンや水の蒸発等の熱源として利用される。
【0058】
この水素供給システム70において、液体貯留タンク71の可動隔壁71aは、平均外気温に応じて駆動するアクチュエータ81により移動操作されて、図3に示すように、液体貯留タンク71の第1の液室72の容量と第2の液室73の容量とを決定するようになっている。具体的には、例えば、外気センサにより外気温が検出されてこの検出結果に基づいてコントローラにより平均外気温が求められ、平均外気温が低い場合は可動隔壁71aが第2の液室73側に位置し、平均外気温が高い場合は可動隔壁71aが第1の液室72側に位置するように、コントローラの制御のもとでアクチュエータ81が駆動されるようになっている。
【0059】
詳述すると、冬季のように平均外気温が低い環境下では、凝縮器79,80の冷却能力が高く、多量の水を容易に回収することが可能なために、多量の水をマージンとして貯留しておく必要性は薄いが、夏季のように平均外気温が高い環境下では、凝縮器79,80の冷却能力が低く、走行状況によっては水収支の成立が困難な場合があるため、水収支の成立しない条件下でも運転が継続されるように、マージンとして多量の水を貯留しておく必要がある。
【0060】
一方、冬季のような平均外気温の低い環境下では、夏季のような平均外気温の高い環境下に比較して、燃料改質システム75を起動するために必要なエネルギーが増大し、特に水の凍結する氷点下からの起動に際しては、凍結している水を解凍する必要があるために、水素供給システム70全体の起動に必要な燃料量が増大し、従って多量の精製ガソリンを貯留させておくことが望まれる。
【0061】
そこで、水素供給システム70においては、冬季のような平均外気温の低い環境下では、液体貯留タンク71の可動隔壁71aを第2の液室73側に位置させて、水が貯留される第2の液室73の容量よりも精製ガソリンが貯留される第1の液室72の容量を大きくして、多量の精製ガソリンを貯留できるようにし、夏季のような平均外気温の高い環境下では、液体貯留タンク71の可動隔壁71aを第1の液室72側に位置させて、精製ガソリンが貯留される第1の液室72の容量よりも水が貯留される第2の液室73の容量を大きくして、多量の水を貯留できるようにしている。
【0062】
以上のように、この水素供給システム70では、液体貯留タンク71全体の容量が有効利用され、原燃料である精製ガソリンの貯留量や水の貯留量が、平均外気温に応じて適切な状態で確保されるので、この水素供給システム70を燃料電池自動車に利用すれば、タンクマイレッジの大幅な向上を実現することができると共に、精製ガソリンを貯留するためのタンクと水を貯留するためのタンクとを別途設けた場合に比べて、車載レイアウト性を大幅に向上させ、また、燃料電池自動車の重量を低減させて燃費の向上を図ることができる。
【0063】
なお、以上の例では、液体貯留タンク71の可動隔壁71aの位置を平均外気温により決定するようにしているが、第1の液室72内に貯留された精製ガソリンが消費されることに伴って、可動隔壁71aを徐々に第1の液室72側に移動させて、第2の液室73の容量を増大させていくようにしてもよい。この場合には、水収支の成立しない条件下での運転継続を図るためのマージンとしての水の貯留量を精製ガソリンの消費に伴い、徐々に増大させることができる。
【0064】
また、以上の例では、外気センサにより外気温を検出してコントローラにより平均外気温を求め、この平均外気温に応じてアクチュエータ81を駆動して液体貯留タンク71の可動隔壁71aの位置を決定するようにしているが、タイマを用いた時間計測により間接的に外気温を予測し、これに基づいてアクチュエータ81を駆動して液体貯留タンク71の可動隔壁71aの位置を決定するようにしてもよい。
【0065】
また、以上は、第2の実施形態の水素供給システム70の具体的な一例について説明したが、この水素供給システム70は、以上説明した例に限定されるものではなく、上述した第1の実施形態の水素供給システム20と同様に種々の変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1の実施形態の水素供給システムを示すシステム構成図である。
【図2】 本発明の第2の実施形態の水素供給システムを示すシステム構成図である。
【図3】 前記第2の実施形態の水素供給システムにおける液体貯留タンクの可動隔壁の位置と第1及び第2の液室の容量との関係を説明する図である。
【図4】 従来の水素供給システムを示す図であり、水素化ホウ素ナトリウム水溶液を原燃料として使用した水素供給システムを示すシステム構成図である。
【符号の説明】
20 水素供給システム
21 液体貯留タンク
21a 第1の可動隔壁
21b 第2の可動隔壁
22 第1の液室
23 第2の液室
24 第3の液室
70 水素供給システム
71 液体貯留タンク
71a 可動隔壁
72 第1の液室
73 第2の液室
Claims (5)
- 燃料電池スタックに水素を供給する水素供給システムにおいて、
2つの可動隔壁によって内部が3つの液室に分離され、前記可動隔壁が移動することによって前記3つの液室の容量が相補的に変化する液体貯留タンクを備え、
前記液体貯留タンクの3つの液室のうちの1つに燃料インフラストラクチャから供給される原燃料が貯留され、他の1つに前記原燃料の廃燃料から分離された水が貯留され、残りの1つに濃縮された前記廃燃料が貯留されることを特徴とする水素供給システム。 - 前記原燃料が貯留される液室と、前記濃縮された廃燃料が貯留される液室とが、前記水が貯留される液室を介して離間した位置に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の水素供給システム。
- 前記液体貯留タンクの液室に貯留された濃縮された廃燃料の濃度を外気温に応じて調整する濃度調整手段が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の水素供給システム。
- 前記液体貯留タンクの3つの液室のうちの1つに前記原燃料として水素化ホウ素ナトリウム水溶液が貯留され、他の1つに前記廃燃料としてのホウ酸ナトリウム水溶液から分離された水が貯留され、残りの1つに濃縮されたホウ酸ナトリウム水溶液が貯留されることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の水素供給システム。
- 燃料電池スタックに水素を供給する水素供給システムにおいて、
1つの可動隔壁によって内部が2つの液室に分離され、前記可動隔壁が移動することによって前記2つの液室の容量が相補的に変化する液体貯留タンクを備え、
前記液体貯留タンクの2つの液室の一方に燃料インフラストラクチャから供給される原燃料が貯留され、他方に水が貯留されるとともに、外気温に応じて前記可動隔壁を移動させる隔壁移動手段が設けられていることを特徴とする水素供給システム。
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