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JP4041206B2 - ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形してなる電子写真方式の画像形成装置における摺動部材 - Google Patents

ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形してなる電子写真方式の画像形成装置における摺動部材 Download PDF

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JP4041206B2 JP09833698A JP9833698A JP4041206B2 JP 4041206 B2 JP4041206 B2 JP 4041206B2 JP 09833698 A JP09833698 A JP 09833698A JP 9833698 A JP9833698 A JP 9833698A JP 4041206 B2 JP4041206 B2 JP 4041206B2
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形してなる電子写真方式の画像形成装置における摺動部材に関し、さらに詳しくは、耐熱性、摺動特性(摩擦・摩耗特性)、機械的物性、溶融流動性に優れ、かつ、体積抵抗率が所望の範囲内に制御されたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形してなる電子写真方式の画像形成装置における摺動部材に関する。本発明の摺動部材は、アルミニウム合金などの軟質金属部品等を相手材とする摺動部材などの用途に好適である。
【0002】
【従来の技術】
ポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略記)に代表されるポリアリーレンスルフィド(以下、PASと略記)は、耐熱性、難燃性、耐薬品性、寸法安定性、機械的物性などに優れたエンジニアリングプラスチックであり、電気・電子部品、精密機器部品、自動車部品などとして、広範な用途に使用されている。近年、PASは、軸受やギアなどの摺動部材の材料としての用途においても、その需要が増大している。
一般に、合成樹脂製の摺動部材には、耐熱性、摺動特性(低動摩擦係数、耐摩耗性)、機械的物性などに優れると共に、射出成形により精密成形が可能で、しかも摺動する相手材を傷つけないことなどが要求される。さらに、合成樹脂製の摺動部材には、適用分野によっては、帯電防止機能を要求されることが多い。
【0003】
従来より、PASを摺動部材の用途に適用するに際し、摩擦・摩耗特性、機械的強度などを改良するために、フッ素樹脂などの潤滑材、及びアラミド繊維、チタン酸カリウム繊維、炭素繊維などの補強材を配合することが提案されている。例えば、特開平3−292366号公報には、PPS、フッ素樹脂、及びアラミド繊維などの充填材を含有する耐摩耗性樹脂組成物が提案されている。特開平4−63866号公報には、PPS、アラミド繊維等の有機物系補強材及び/またはチタン酸カリウム繊維等の無機物系補強材、及び潤滑材を含有する現像装置のマグネットロールギャップ保持コロ用樹脂組成物が提案されている。特開平2−218753号公報には、PASやポリアリーレンチオエーテルケトンに、ポリテトラフルオロエチレン樹脂粉末、ピッチ系炭素繊維、及びカーボンビーズを配合した摺動部材用樹脂組成物が提案されている。特開平10−36679号公報には、PPSなどの熱可塑性樹脂に、チタン酸カリウムウイスカー、炭素繊維、及びポリテトラフルオロエチレンを配合した摺動部材用樹脂組成物が提案されている。
【0004】
しかしながら、アラミド繊維やチタン酸カリウム繊維(またはウイスカー)、炭素繊維などの補強材は、いずれも硬い材料であるため、これらの補強材を含有するPAS樹脂組成物から形成した摺動部材は、アルミニウム合金などの軟質金属または軟質合金からなる部品が相手材である場合、相手材を傷つけてしまうという問題があった。
一方、電子写真方式の複写機やレーザービームプリンター、静電記録装置などの画像形成装置において使用される摺動部材には、耐熱性、摩擦・摩耗特性、機械的特性などに優れ、アルミニウム合金などの軟質金属部品を傷つけないことに加えて、帯電防止の機能が要求される。例えば、画像形成装置の現像部における現像ロールのギャップ保持コロ軸受(例えば、マグネットロールギャップ保持コロ)や、定着部における加熱ロールまたは加圧ロールの滑り軸受などの摺動部材は、一定の電圧が印加された部材と接触したり、摩擦を受けて帯電する可能性があるため、帯電防止の機能を有することが要求される。摺動部材が帯電性であると、例えば、摺動部材が感光体ドラムと接触するものである場合、感光体ドラムの帯電特性に影響を及ぼし、画質低下の原因となる。また、摺動部材が帯電すると、トナーが付着して汚れたり、摺動性が低下したり、場合によってはスパークしたりする。しかしながら、電気抵抗率(体積抵抗率)が厳密に管理された帯電防止機能と、軟質金属部品が相手材である場合にも、相手材を傷つけることがない優れた摺動性とを同時に兼ね備えた樹脂材料は、未だ提供されていない。
【0005】
従来、例えば、電子写真装置の加熱定着部用の耐熱性滑り軸受として、特開平5−117678号公報には、PPS樹脂に、四フッ化エチレン樹脂と、溶融フッ素樹脂と、芳香族ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、芳香族ポリアミド樹脂及びフェノール樹脂からなる群から選ばれる一種以上の耐熱性合成樹脂とを必須成分として添加した樹脂組成物からなる耐熱性滑り軸受が提案されている。しかし、この滑り軸受は、帯電防止機能を持っていない。また、この樹脂組成物は、各樹脂成分の相溶性が悪く、機械的物性が不充分であり、クリープ特性も不充分である等の問題があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、耐熱性、摺動特性、機械的物性、溶融流動性などに優れる共に、体積抵抗率が所望の範囲内に制御されたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形してなる電子写真方式の画像形成装置における摺動部材を提供することにある。また、本発明の目的は、前記諸特性に優れ、かつ、軟質金属部品などの相手材を傷つけることがない摺動部材を提供することにある。
【0007】
本発明者らは、前記従来技術の問題点を克服するために鋭意研究した結果、PASに、フッ素樹脂と導電性カーボンブラックを配合し、さらに、アミノアルコキシシラン化合物を添加することにより、PASが本来有する耐熱性、難燃性、耐薬品性などの諸特性を保持しつつ、摩擦・摩耗特性が顕著に改善され、しかも体積抵抗率を所望の低い範囲内に制御することができる樹脂組成物の得られることを見いだした。本発明の樹脂組成物は、用途によってはアラミド繊維などの補強材を添加してもよいが、このような補強材は必須ではないため、摺動特性や帯電防止性に優れることに加えて、軟質金属部品などの相手材を傷つけることがない摺動部材を与えることができる。本発明の樹脂組成物は、電子写真方式の画像形成装置に配置されている軸受などの各種摺動部材用の樹脂材料として特に好適である。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、(A)ポリアリーレンスルフィド70〜89重量%、(B)フッ素樹脂8〜20重量%、及び(C)導電性カーボンブラック3〜10重量%を含有する樹脂成分100重量部に対して、(D)アミノアルコキシシラン化合物0.1〜5重量部を含有せしめてなる、体積抵抗率が1×10 〜1×10 15 Ω・cmであるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形してなる電子写真方式の画像形成装置における摺動部材が提供される。さらに、本発明によれば、(1)鈴木式摩擦摩耗試験に従って、荷重5×10 Pa、速度0.2m/s、相手材アルミニウム、走行時間15時間の条件で測定した、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の比摩耗量が、2.1×10 −6 mm /Nm以下である前記の摺動部材、(2)(C)導電性カーボンブラックが、DBP吸油量360ml/100g以上のものである前記の摺動部材、(3)摺動部材が、電子写真方式の画像形成装置における現像ロールのギャップ保持コロ軸受、加熱ロールの滑り軸受、または加圧ロールの滑り軸受である前記の摺動部材が提供される。
【0009】
【発明の実施の形態】
ポリアリーレンスルフィド(PAS)
本発明で使用するPASとは、式[−Ar−S−](ただし、−Ar−は、アリーレン基である。)で表されるアリーレンスルフィドの繰り返し単位を主たる構成要素とする芳香族ポリマーである。[−Ar−S−]を1モル(基本モル)と定義すると、本発明で使用するPASは、この繰り返し単位を通常50モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上含有するポリマーである。
アリーレン基としては、例えば、p−フェニレン基、m−フェニレン基、置換フェニレン基(置換基は、好ましくは炭素数1〜6のアルキル基、またはフェニル基である。)、p,p′−ジフェニレンスルホン基、p,p′−ビフェニレン基、p,p′−ジフェニレンカルボニル基、ナフチレン基などを挙げることができる。PASとしては、主として同一のアリーレン基を有するポリマーを好ましく用いることができるが、加工性や耐熱性の観点から、2種以上のアリーレン基を含んだコポリマーを用いることもできる。
【0010】
これらのPASの中でも、p−フェニレンスルフィドの繰り返し単位を主構成要素とするPPSが、加工性に優れ、しかも工業的に入手が容易であることから特に好ましい。この他に、ポリアリーレンケトンスルフィド、ポリアリーレンケトンケトンスルフィドなどを使用することができる。コポリマーの具体例としては、p−フェニレンスルフィドの繰り返し単位とm−フェニレンスルフィドの繰り返し単位を有するランダムまたはブロックコポリマー、フェニレンスルフィドの繰り返し単位とアリーレンケトンスルフィドの繰り返し単位を有するランダムまたはブロックコポリマー、フェニレンスルフィドの繰り返し単位とアリーレンケトンケトンスルフィドの繰り返し単位を有するランダムまたはブロックコポリマー、フェニレンスルフィドの繰り返し単位とアリーレンスルホンスルフィドの繰り返し単位を有するランダムまたはブロックコポリマーなどを挙げることができる。これらのPASは、結晶性ポリマーであることが好ましい。また、PASは、靭性や強度などの観点から、直鎖状ポリマーであることが好ましい。
このようなPASは、極性溶媒中で、アルカリ金属硫化物とジハロゲン置換芳香族化合物とを重合反応させる公知の方法(例えば、特公昭63−33775号公報)により得ることができる。
【0011】
アルカリ金属硫化物としては、例えば、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムなどを挙げることができる。反応系中で、NaSHとNaOHを反応させることにより生成させた硫化ナトリウムなども使用することができる。
ジハロゲン置換芳香族化合物としては、例えば、p−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、2,5−ジクロロトルエン、p−ジブロモベンゼン、2,6−ジクロロナフタリン、1−メトキシ2,5−ジクロロベンゼン、4,4′−ジクロロビフェニル、3,5−ジクロロ安息香酸、p,p′−ジクロロジフェニルエーテル、4,4′−ジクロロジフェニルスルホン、4,4′−ジクロロジフェニルスルホキシド、4,4′−ジクロロジフェニルケトンなどを挙げることができる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0012】
PASに多少の分岐構造または架橋構造を導入するために、1分子当たり3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロゲン置換芳香族化合物を少量併用することができる。ポリハロゲン置換芳香族化合物の好ましい例としては、1,2,3−トリクロロベンゼン、1,2,3−トリブロモベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリブロモベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼン、1,3,5−トリブロモベンゼン、1,3−ジクロロ−5−ブロモベンゼンなどのトリハロゲン置換芳香族化合物、及びこれらのアルキル置換体を挙げることができる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、経済性、反応性、物性などの観点から、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼン、及び1,2,3−トリクロロベンゼンがより好ましい。
【0013】
極性溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドンなどのN−アルキルピロリドン、1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノン、テトラアルキル尿素、ヘキサアルキル燐酸トリアミドなどに代表されるアプロチック有機アミド溶媒が、反応系の安定性が高く、高分子量のポリマーが得られやすいので好ましい。
本発明で使用するPASは、温度310℃、剪断速度1200/秒で測定した溶融粘度が、通常、10〜600Pa・s、好ましくは50〜550Pa・s、より好ましくは70〜550Pa・である。溶融粘度が異なる2種以上のPASをブレンドして使用する場合には、ブレンド物の溶融粘度が前記範囲内にあることが好ましい。また、PASの溶融粘度が100Pa・s以上であることが、機械的強度や靭性などの観点から、特に望ましい。PASの溶融粘度が小さすぎると、機械的強度や靭性などの機械的物性が不充分となるおそれがある。PASの溶融粘度が大きすぎると、溶融流動性が不充分となり、射出成形性や押出成形性が不充分となるおそれがある。
【0014】
本発明で使用するPASは、重合終了後の洗浄したものを使用することができるが、さらに、塩酸、酢酸などの酸を含む水溶液、あるいは水−有機溶剤混合溶液により処理したものや、塩化アンモニウムなどの塩溶液で処理を行ったものなどを使用することが好ましい。特に、アセトン:水=1:2(容積比)に調整した混合溶媒中でのpHが8以下を示すようになるまで洗浄処理したPASを用いると、樹脂組成物の溶融流動性及び機械的物性をより一層向上させることができる。
【0015】
本発明で使用するPASは、100μm以上の平均粒子径を有する粒状物であることが望ましい。PASの平均粒子径が小さすぎると、押出機による溶融押出の際、フィード量が制限されるため、樹脂組成物の押出機内での滞留時間が長くなり、樹脂組成物の劣化等の問題が生じるおそれがある。また、製造効率上も望ましくない。
樹脂成分中のPASの配合割合は、70〜89重量%である。PASの配合割合が過大であると、良好な摺動特性が得られず、帯電防止性も不充分となる。PASの配合割合が過小であると、クリープ特性が不充分となる場合があり、また、フッ素樹脂としてポリテトラフルオロエチレンを用いた場合には、成形性が不充分となる。
【0016】
フッ素樹脂
本発明で使用するフッ素樹脂は、特に制限はなく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニル、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、プロピレン/テトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルパーフルオロビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン/クロロトリフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン/エチレン/イソブチレン共重合体、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/エチルビニルエーテル共重合体等を挙げることができる。これらの中でも、耐熱性、摺動性などの点で、PTFE、FEP、PFAなどが好ましい。
樹脂成分中のフッ素樹脂の配合割合は、8〜20重量%である。フッ素樹脂の配合割合が過大であると、クリープ特性が不充分となり、過小であると、摺動特性が不充分になる場合がある。
【0017】
導電性カーボンブラック
本発明で使用する導電性カーボンブラックは、特に制限はなく、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック、サーマルブラック、チャンネルブラックなどの各種導電性カーボンブラックを用いることができる。導電性カーボンブラックの添加による機械物性及び成形性の低下を最小限度に抑えるには、少量の添加量で導電性ないしは半導電性領域の体積抵抗率を発現させることが好ましく、その観点から、DBP吸油量が360ml/100g以上の導電性カーボンブラックを好適に用いることができる。
【0018】
導電性カーボンブラックのDBP吸油量は、ASTMD2414で規定された方法で測定する。すなわち、測定装置(Absorpotometer)のチャンバー中にカーボンブラックを入れ、そのチャンバー中に、一定の速度でDBP(n−ジブチルフタレート)を加える。DBPを吸収するに従い、導電性カーボンブラックの粘度は上昇し、ある程度に達した時までに吸収したDBPの量からDBP吸油量を算出する。粘度の検出は、トルクセンサーで行う。導電性カーボンブラックのDBP吸油量が小さすぎると、樹脂組成物の体積抵抗率を所望の程度にまで低下させるのに多量の導電性カーボンブラックを配合することが必要となり、成形性や機械的物性が低下するおそれを生じる。DBP吸油量の上限は、通常、750ml/100g程度である。DBP吸油量は、好ましくは400〜600ml/g程度である。
【0019】
導電性カーボンブラックの配合割合は、導電性カーボンブラックの導電性、構造、DBP吸油量、PASの溶融粘度、樹脂組成物の目標体積抵抗率に依存し、一概には規定できないが、本発明の目的を達成するには、樹脂成分中の導電性カーボンブラックの配合割合は、3〜10重量%である。導電性カーボンブラックの配合割合が過大であると成形性や機械的物性が低下し、過小であると所望の体積抵抗率を達成することが困難となる。所望の体積抵抗率は、1×10〜1×1015Ω・cmである。
【0020】
アミノアルコキシシラン化合物
本発明で用いるアミノアルコキシシラン化合物は、特に限定されないが、アルキル基の炭素数が1〜4個で、アルコキシ基の炭素数が1〜4個のアミノ(C1〜C4)アルキル(C1〜C4)アルコキシシラン化合物が好ましく、その中でも、添加効果に優れ、かつ、入手が容易である点で、γ−アミノプロピルトリアルコキシシラン化合物が特に好ましい。
アミノアルコキシシラン化合物の具体例としては、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルメトキシシラン、γ−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0021】
アミノアルコキシシラン化合物の配合割合は、PAS、フッ素樹脂、及び導電性カーボンブラックを含有する樹脂成分100重量部に対して、0.1〜5重量部である。アミノアルコキシシラン化合物の配合割合が過小であると、添加による機械的特性の改良効果が小さく、過大であると、成形加工過程でガスを発生しやすく、成形品にボイドが生じやすくなる。
【0022】
充填材
本発明の樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲内において、各種充填材を配合することができる。充填材としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アスベスト繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリ繊維などの無機繊維状物;ステンレス、アルミニウム、チタン、鋼、真ちゅう等の金属繊維状物;ポリアミド、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂などの高融点有機質繊維状物質;等の繊維状充填剤が挙げられる。また、充填材としては、例えば、マイカ、シリカ、タルク、アルミナ、カオリン、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、酸化チタン、フェライト、クレー、ガラス粉、酸化亜鉛、炭酸ニッケル、酸化鉄、石英粉末、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム等の粒状または粉末状の充填材を挙げることができる。
【0023】
これらの充填材は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。また、充填材は、必要に応じて、集束剤または表面処理剤により処理されていてもよい。集束剤または表面処理剤としては、例えば、エポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物の官能性化合物が挙げられる。これらの化合物は、フイラに対して予め表面処理または集束処理を施して用いるか、あるいは組成物の調製の際に同時に添加してもよい。
なお、本発明の樹脂組成物からなる摺動部材を、軟質金属部品などと接触して使用する用途に適用する場合には、硬度の高い繊維状充填材は、配合しないか、あるいは配合割合を少なくすることが好ましい。
【0024】
その他の添加剤
本発明の樹脂組成物には、前記以外のその他の添加剤として、例えば、エポキシ基含有α−オレフィン系共重合体のような衝撃改質材、エチレングリシジルメタクリレートのような樹脂改良剤、ペンタエリスリトールテトラステアレートのような滑剤、熱硬化性樹脂、酸化防止剤、紫外線吸収剤、ポロンナイトライドのような核剤、難燃剤、染料や顔料等の着色剤等を適宜添加することができる。
これらの中でも、エポキシ基含有α−オレフィン系共重合体は、樹脂組成物の靭性(引張伸び)を高める上で好ましい。エポキシ基含有α−オレフィン系共重合体としては、例えば、α−オレフィンと不飽和グリシジル基含有単量体との共重合体、α−オレフィンと不飽和グリシジル基含有単量体との共重合体の存在下にビニル単量体を重合して得られるグラフト化前駆体(特開平1−131220号公報、特開平1−138214号公報)などが挙げられる。エポキシ基含有α−オレフィン系共重合体は、樹脂成分中、通常、0〜30重量%の割合で使用される。
【0025】
樹脂組成物
本発明の樹脂組成物は、一般に合成樹脂組成物の調製に用いられる設備と方法により調製することができる。例えば、各原料成分をヘンシェルミキサー、タンブラー等により予備混合し、必要があればガラス繊維等の充填材を加えてさらに混合した後、1軸または2軸の押出機を使用して混練し、押し出して成型用ペレットとすることができる。必要成分の一部をマスターバッチとしてから残りの成分と混合する方法、また、各成分の分散性を高めるために、使用する原料の一部を粉砕し、粒径を揃えて混合し、溶融押出することも可能である。
本発明の樹脂組成物は、溶融流動性に優れているため、射出成形や押出成形などの一般的な溶融成形加工法により、例えば、シート、フィルム、チューブ、パイプ、その他の成形品に精密に成形加工することができる。成形品は、帯電防止性、高温剛性、難燃性、耐熱性、耐薬品性、寸法安定性、耐クリープ特性、摩擦・摩耗特性などに優れており、これらの諸特性が要求される広範な分野で利用することができる。
【0026】
本発明の樹脂組成物は、特に摺動部材として好ましく使用することができる。摺動部材としては、高度の耐熱性、摩擦・摩耗特性、機械的物性などが要求される分野に使用することができるが、体積抵抗率を所定の範囲に低く制御することができるため、特に電子写真方式の複写機(電子写真複写機)やレーザービームプリンター、静電記録装置などの画像形成装置における各種摺動部材として好適に使用することができる。画像形成装置における各種摺動部材としては、現像部における現像ロールのギャップ保持コロ軸受(例えば、マグネットロールギャップ保持コロ)、定着部における加熱ロール(定着ロール)の滑り軸受や加圧ロールの滑り軸受などを例示することができる。
【0027】
【実施例】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
なお、物性の測定方法は、以下に示すとおりである。
(1)引張り物性(引張強さ、引張伸び)
樹脂組成物の引張強さ及び引張伸び(引張破断伸び)は、ASTM D638に準拠して、測定温度23℃、標点間距離50mm、クロスヘッド速度5mm/分で測定した。
(2)曲げ物性(曲げ弾性率、曲げ強さ)
樹脂組成物の曲げ弾性率及び曲げ強さは、ASTM D790に準拠して、測定温度23℃、支持間距離80mm、クロスヘッド速度3.5mm/分で測定した。
(3)体積抵抗率
樹脂組成物の体積抵抗率は、JIS K6911に準拠して測定した。
(4)動摩擦係数及び摩耗量
樹脂組成物の動摩擦係数及び摩耗量は、鈴木式摩擦摩耗試験に従って、荷重5×105Pa、速度0.2m/s、相手材アルミニウム、走行時間15時間の条件で測定した。
(5)溶融粘度
PASの溶融粘度は、キャピログラフ(東洋精機社製)を用いて、温度310℃、剪断速度1200/秒の条件で測定した。
(6)PASのpH
アセトン:水=1:2(容積比)の混合溶媒中で、PASのpHを測定した。
より具体的には、ポリマー20gに対して、アセトン50mlを添加してよく混合し、さらにイオン交換水100mlを加え、振盪機にて30分間振盪した後、上澄み液60mlを分取し、そのpHを測定した。
【0028】
[合成例1]PAS(A)の合成
重合缶に、N−メチルピロリドン(NMP)720kgと、46.21重量%の硫化ナトリウム(Na2S)を含む硫化ナトリウム・5水塩420kgとを仕込み、窒素ガスで置換後、攪拌しながら徐々に200℃まで昇温して、水160kgを留出させた。このとき、同時に62モルのH2Sが揮散した。
上記脱水工程後、重合缶にp−ジクロロベンゼン(pDCB)364kgと、NMP250kgを加え、攪拌しながら220℃で4.5時間反応させた。その後、攪拌を続けながら水59kgを圧入し、255℃に昇温して5時間反応させた。反応終了後、室温付近まで冷却してから、内容物を100メッシュのスクリーンに通して粒状ポリマーを篩分し、アセトン洗2回と水洗3回を順次行い洗浄ポリマーを得た。さらに、この洗浄ポリマーを3%塩化アンモニウム水溶液で洗浄した後、水洗を行った。脱水後、回収した粒状ポリマーは、105℃で3時間乾燥した。このようにして得られたポリマー(A)の収率は89%で、溶融粘度は140Pa・s、pHは6.5、平均粒径は約900μmであった。
【0029】
[合成例2]PAS(B)の合成
重合缶にNMPを800kgと46.10重量%のNa2Sを373kg仕込み、合成例1と同様に脱水処理を行ったところ、水142kgと54モルのH2Sが留出した。次に、重合缶にpDCB320kg、1,2,4−トリクロロベンゼン0.79kg、NMP274kg、及び水0.9kgを加え、攪拌しながら220℃で1時間反応後、230℃で3時間反応させた。次いで、攪拌を続けながら水77kgを圧入し、255℃に昇温して1時間反応させ後、245℃で3時間反応を継続した。反応終了後、室温付近まで冷却してから、内容物を100メッシュのスクリーンに通して粒状ポリマーを篩分し、アセトン洗2回、さらに水洗4回を行い、洗浄ポリマーを得た。脱水後、回収した粒状ポリマーは、105℃で3時間乾燥した。このようにして得られたポリマー(B)の収率は90%で、溶融粘度は517Pa・s、pHは7.5、平均粒径は約800μmであった。
【0030】
[合成例3]PAS(C)の合成
重合缶にN−メチルピロリドン(NMP)720kgと、46.21重量%の硫化ナトリウム(Na2S)を含む硫化ナトリウム・5水塩420kgとを仕込み、窒素ガスで置換後、攪拌しながら徐々に200℃まで昇温して、水158kgを留出させた。このとき、62モルのH2Sが揮散した。
上記脱水工程後、重合缶にp−ジクロロベンゼン(pDCB)371kgと、NMP189kgを加え、攪拌しながら220℃で4.5時間反応させた。その後、攪拌を続けながら水49kgを圧入し、255℃に昇温して5時間反応させた。反応終了後、室温付近まで冷却してから、内容物を100メッシュのスクリーンに通して粒状ポリマーを篩分し、アセトン洗2回さらに水洗3回を行い、洗浄ポリマーを得た。さらに、この洗浄ポリマーを0.6%塩化アンモニウム水溶液で洗浄した後、水洗を行った。脱水後、回収した粒状ポリマーは、105℃で3時間乾燥した。このようにして得られたポリマー(C)の収率は92%で、溶融粘度は55Pa・s、pHは6.2、平均粒径は約500μmであった。
【0031】
[実施例1]
表1に示す各ポリマー成分をヘンシェルミキサーで均一にドライブレンドし、46mmφ二軸混練押出機(池貝鉄工社製PCM−46)へ供給し、シリンダー温度260〜340℃にて混練を行いペレット状物を得た。得られたペレット状物を150℃で6時間乾燥した後、射出成型機(東芝機械社製IS−75)により、金型温度145℃、シリンダー温度300〜340℃で、引張試験片、曲げ試験片、及び体積抵抗率測定のための平板を作製した。結果を表1に示す。
【0032】
[実施例2〜6、及び比較例1〜4]
各成分の種類と配合割合を表1に示すように替えたこと以外は、実施例1と同様にして、各試験片を作成した。結果を表1に示す。
【0033】
【表1】
Figure 0004041206
【0034】
(脚注)
(1)PTFE:ポリテトラフルオロエチレン粉末(喜多村社製、商品名KTL−610)
(2)FEP:テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(三井・デュポンフロロケミカル社製、商品名テフロン100−J)
(3)エポキシ基含有α−オレフィン共重合体:モデイパーA4400(日本油脂社製)
(4)導電性カーボンブラック(DBP吸油量500ml/100g):ケッチェンブラックEC600JD(ライオン社製)
(5)アミノアルコキシシラン:γ−アミノプロピルトリエトキシシラン
(6)測定値中、Eの表記は、常法に従って、例えば、3E+12の場合、3×1012を表し、また、2.1E−06は、2.1×10-6を表すものとする。
【0035】
考察
表1に示された実験結果から明らかなように、PAS、フッ素樹脂、導電性カーボンブラックにアミノアルコキシシラン化合物を添加した樹脂組成物(実施例1〜6)は、それぞれに対応する、フッ素樹脂、カーボンブラック、アミノアルコキシシラン化合物未充填樹脂組成物(比較例1)、カーボンブラック、アミノアルコキシシラン化合物未充填樹脂組成物(比較例2)、フッ素樹脂、アミノアルコキシシラン化合物未充填樹脂組成物(比較例3)に比べて、動摩擦係数及び比摩耗量は低く、摺動特性に優れる。また、アミノアルコキシシラン化合物未添加の樹脂組成物(比較例4)は、引張強さ、引張伸び、曲げ強さが、対応するアミノアルコキシシラン化合物添加の樹脂組成物と比較して低い。さらに、本発明においては、必須成分ではないが、エポキシ基含有α−オレフィン共重合体を充填することで、引張伸びが改善される(実施例6)。
【0036】
【発明の効果】
本発明によれば、耐熱性、摺動特性(摩擦・摩耗特性)、機械的物性、溶融流動性に優れ、かつ、体積抵抗率が所望の範囲内に制御されたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形してなる電子写真方式の画像形成装置における摺動部材が提供される。本発明の摺動部材は、帯電防止の機能を有し、かつ、軟質金属部品などの相手材を傷つけることがないので、電子写真方式の画像形成装置における摺動部材、例えば、現像ロールのギャップ保持コロ軸受、加熱ロールの滑り軸受、加圧ロールの滑り軸受などとして特に好適である。

Claims (4)

  1. (A)ポリアリーレンスルフィド70〜89重量%、(B)フッ素樹脂8〜20重量%、及び(C)導電性カーボンブラック3〜10重量%を含有する樹脂成分100重量部に対して、(D)アミノアルコキシシラン化合物0.1〜5重量部を含有せしめてなる、体積抵抗率が1×10 〜1×10 15 Ω・cmであるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形してなる電子写真方式の画像形成装置における摺動部材
  2. 鈴木式摩擦摩耗試験に従って、荷重5×10 Pa、速度0.2m/s、相手材アルミニウム、走行時間15時間の条件で測定した、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の比摩耗量が、2.1×10 −6 mm /Nm以下である請求項1記載の摺動部材。
  3. (C)導電性カーボンブラックが、DBP吸油量360ml/100g以上のものである請求項1または2記載の摺動部材
  4. 摺動部材が、電子写真方式の画像形成装置における現像ロールのギャップ保持コロ軸受、加熱ロールの滑り軸受、または加圧ロールの滑り軸受である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の摺動部材。
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