JP3927778B2 - エピタキシャルウエハとその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、GaAsまたはInPなどのIII−V族化合物半導体基板とその上にエピタキシャル成長させられたIII−V族化合物半導体層とを含むエピタキシャルウエハに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
現在実用化されている主なエピタキシャルウエハの製造方法としては、VPE(気相成長法)、OMVPE(有機金属気相成長法)、およびMBE(分子線成長法)などが存在する。通常は、要求されるデバイス特性や生産性などの観点から、これらのエピウエハ成長方法の使い分けが行なわれている。たとえば、VPE法では、高純度の薄膜結晶を高速で成長させ得る利点がある(10μm/hr以上の成長速度が可能)。また、MBE法は、ローノイズ用途の電界効果トランジスタ(FET)構造の積層成長に適している。さらに、OMVPE法は、ハイパワー用途のFET構造やヘテロバイポーラトランジスタ(HBT)構造の積層成長に適し、InGaPなどのようにリンを含む結晶膜の成長に適している。
【0003】
このような技術動向については、沢田真一、上田登志雄、田中聡、および中井龍資による「電子材料」工業調査会2000年11月号pp18−26において詳しく述べられている。
【0004】
ところで、III−V族化合物半導体層を含むエピタキシャルウエハは、種々の光学素子や電子デバイス素子などの製造に利用され得る。それらの光学素子には、半導体レーザ、発光ダイオード、受光ダイオード、および太陽電池などが含まれる。また、電子デバイスとしては、FETやHBTのような種々のトランジスタの他にホール素子なども含まれる。
【0005】
近年では、データ通信の高速化と大容量化の要望や携帯電話を始めとする無線通信技術の普及に伴って、III−V族化合物を含むエピタキシャルウエハの需要が急増している。また、表示用などに利用される発光ダイオードやクリーンなエネルギ源として利用される太陽電池などの需要も増加する傾向にある。
【0006】
そして、これらの電子デバイス素子や光学素子などの低価格化と量産化の要望に応えるために、ウエハサイズの大口径化が進んでいる。例えば、GaAs基板では4インチ径から5インチ径さらには6インチ径ヘ移行し、InP基板では2インチ径から3インチ径さらには4インチ径への移行が進んでいる(GaAs基板に比べて、InP基板の大口径化は困難である)。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、GaAsまたはInPのIII−V族半導体ウエハでは、IV族半導体であるシリコンウエハにくらべてスリップラインまたはクロスハッチが入りやすく、正常な素子を作り込んで取り出せる面積の低下、またはウエハの割れの発生による素子歩留まりの低下を生じ易い。これらのスリップラインやクロスハッチは、通常はウエハの周辺部に現れて中心部に向かうほど少なくなる。
【0008】
特開平6−132229においては、口径50mmのInP基板上でクロスハッチの発生を抑制するために、エピタキシャル層を成長させる条件の改善について述べられている。特開平6−132229が公開された時点では、利用可能なInP基板の径は最大で50mmであったが、現在では75mm(3インチ)径または100mm(4インチ)の径のウエハが入手可能となっている。
【0009】
ここで特に留意すべきことは、ウエハサイズが大きくなるにしたがって、スリップラインやクロスハッチの生じ易さが加速度的に増大することである。したがって、従来に比べてウエハサイズが大きくなった場合に、そのように大きなウエハ上でスリップラインやクロスハッチの発生を従来技術では抑制ができないという問題が生じ得る。たとえば、特開平6−132229に開示された技術は、口径50mmのInP基板上のエピタキシャル層においてはクロスハッチの発生を抑制するために有効であるが、口径が大型化した場合にはスリップラインやクロスハッチを十分に抑制することはできない。
【0010】
このような従来技術における状況に鑑み、本発明は、GaAsまたはInPの基板上にIII−V族化合物半導体エピタキシャル層を成長させる場合に、エピタキシャルウエハ上でスリップラインやクロスハッチの発生を抑制することを目的としている。特に、InP基板に関しては、50mmより大口径のウエハにおいてスリップラインやクロスハッチの発生を抑制することを目的としている。
【0011】
なお、本発明は、エピタキシャルウエハの製造方法に関しては特にOMVPE法(有機金属気相成長法)を用いた場合にスリップラインやクロスハッチの発生を抑制することを目的としているが、その抑制効果はVPE法(気相成長法)やMBE法(分子線成長法)においても得られるものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明によるエピタキシャルウエハの製造方法においては、100mmより大きく150mm以下の範囲内の径を有するGaAs半導体基板上にIII−V族化合物半導体層をエピタキシャル成長させるに際して、クロスハッチまたはスリップラインの発生を防止するために、そのエピタキシャル層成長開始前の基板昇温途中の350℃以上で600℃以下の温度範囲内において所定時間だけ昇温レートを少なくとも1回以上低減させ、その低減された昇温レートは0℃/分より大きくて10℃/分以下であり、その昇温レートが低減される所定期間は10秒以上で5分以下であることを特徴としている。
なお、GaAs半導体基板の代わりにInP基板が用いられる場合には、本発明の効果を確認し得る基板径は75mmより大きくて100mm以下の範囲内に限定され、また昇温レートを少なくとも1回以上低減させる加熱工程が基板昇温途中の450℃以上で650℃以下に変更された温度範囲内で行わなければならない。
【0014】
昇温レートの低減された加熱工程は、2回行われることがさらに好ましい。そして、エピタキシャル層はOMVPE法によって成長させられることが好ましい。
【0015】
75mmより大きく100mm以下の直径を有するInP基板上に本発明の製造方法によってエピタキシャル成長させられたIII−V族化合物半導体を含むエピタキシャルウエハにおいては、その周縁から5mm以上内側の領域にクロスハッチとスリップラインを含むことが防止され得る。
【0016】
【発明の実施の形態】
基板ウエハ上にエピタキシャル層を成長させる場合、通常は、室温から150℃の範囲内の温度にあるOMVPE炉内に基板をセットし、その温度から400−700℃の範囲内のエピタキシャル成長温度まで基板が加熱される。加熱方法としては、抵抗加熱、ランプ加熱、高周波加熱、または輻射加熱などの種々の方法のいずれが用いられてもよい。なお、基板温度は、エピタキシャル成長温度以上である700−850℃の範囲内に一旦上昇させられた後に、エピタキシャル成長温度まで降下させられてもよい。
【0017】
本発明者らは、このような基板ウエハの昇温過程においてスリップラインやクロスハッチが発生することを数多くの実験から見出した。特に、スリップラインやクロスハッチの発生は基板ウエハの昇温レートに大きく依存することが見出された。
【0018】
この場合に、スリップラインやクロスハッチを抑制するためには、遅い昇温レートで十分に時間をかけて基板ウエハを昇温することも可能である。しかし、そのように遅い昇温レートでは、エピタキシャル層を成長させるための全体時間が長くなるので、必要な原料費や動力費が上昇し、得られるエピタキシャルウエハの価格上昇の原因となる。
【0019】
この問題を解決するために本発明者らは数多くの実験を行い、基板ウエハの昇温過程においてその昇温レートを少なくとも1回以上低減させることによって、スリップラインやクロスハッチの発生を抑制し得ることを確認した。
【0020】
図1は、本発明に関連する基板ウエハの種々の昇温過程を示すグラフである。すなわち、図1のグラフにおいて横軸は時間を表し、縦軸は基板温度を表している。図1(a)は従来技術による基板ウエハ昇温過程を表し、基板温度はその初期温度からエピタキシャル成長温度までほぼ一定の昇温レートで加熱される。図1(b)と(c)は本発明による基板ウエハ昇温過程を表し、その昇温過程において昇温レートが少なくとも1回以上低減させられている。
【0021】
本発明者らが図1に示されているような種々の基板ウエハ昇温過程についてさらに詳細に検討したところ、以下の4点についても確認された。すなわち、(1)昇温レートの低減開始時の基板温度は、350℃以上であることが好ましい。(2)昇温レートを低減させる期間は、10秒以上であることが好ましい。(3)低減された昇温レートは、10℃/分以下であることが好ましく、極限の0℃/分まで低減されてもよい。(4)昇温レートを低減させる回数は、2回以上にすることも好ましい(図1(c)参照)。これらの確認された特徴をさらに導入することによって、得られるエピタキシャルウエハ上のスリップラインやクロスハッチの発生抑制効果をさらに高めることができる。
【0022】
なお、基板温度は、パイロメータまたは基板近傍に配置した熱電対などの汎用の温度計を用いて検知することができる。また、加熱装置はその温度計の指示値をモニターし、その加熱装置へ導入される電力を制御することによって、昇降温レートを変化させることができる。本発明では、この昇温レートを変化させることにより、GaAsやInPの基板ウエハに発生するクロスハッチやスリップの発生を低減させ得るという特別顕著な効果を奏することができるのである。
【0023】
特開平6−132229に開示された技術は、50mm(2インチ)径のInP基板に関するものであり、その公開時点では、50mm(2インチ)径より大きなInP基板は実用化されていなかった。前述のように、基板ウエハの口径の増大に伴って、スリップラインやクロスハッチの発生しやすさの度合いが急激に増大する。しかし、本発明による技術を用いることにより、直径50mmより大きなInP基板においても、スリップラインやクロスハッチの少ないエピタキシャルウエハを作製することが可能となる。なお、本発明による上述の基板昇温方法を用いることに加えて、基板降温時に降温レートを十分遅くすることを併用することも好ましい。
【0024】
本発明の方法により、スリップラインやクロスハッチの少ないエピタキシャルウエハが製造可能であり、そのようなウエハを用いることによって、電子デバイスや光学素子などの作製の歩留まり向上や低価格化が可能となる。特に、50mm(2インチ)径より大きなInP基板においても、スリップラインやクロスハッチの低減が可能である。
【0025】
(実施形態1)
実施形態1としては、GaAs基板上に成長させられたGaAsとAlGaAsの多層構造を含むエピタキシャルウエハの製造例が、図2の模式的な断面図を参照しつつ説明される。GaAs基板の大きさは直径100mmまたは150mmであり、その導電タイプは半絶縁性であった。GaAsエピタキシャル層成長の原料としては、トリメチルガリウムとアルシンが用いられた。AlGaAsエピタキシャル層の成長原料としては、トリメチルガリウム、トリメチルアルミニウム、およびアルシンが用いられた。
【0026】
基板加熱は、基板裏面に配置されたカーボンヒータによって行われた。温度測定に関しては、赤外線量および波長を測定するパイロメータと基板近傍に配置された熱電対との双方を用いることによって、温度測定の精度向上が図られた。キャリアガスとしては、水素が用いられた。エピタキシャル成長炉内の圧力は、3333Pa(25Torr)であった。
【0027】
まず、50℃以下の温度状態でGaAs基板がOMVPE炉内にセットされた。その後、通常の昇温レート30℃/分で基板温度が上昇させられた。基板温度が450℃に達したときに、昇温レートが10℃/分に低減された。この低減された昇温レートを5分間継続して、基板が500℃まで加熱された。その後、500℃から560℃まで、再び通常の昇温レート30℃/分で基板が加熱された。この後に2回目の昇温レート低減処置として、560℃から600℃までは10℃/分の昇温レートで基板が加熱され、その600℃に達するまでの間にアルシンが供給された。
【0028】
基板温度が600℃に達して5分間経過以後に、その温度において厚さ0.6μmのGaAs層、厚さ0.2μmのAlGaAs層、および厚さ0.4μmのn−GaAs層がこの順に成長させられた(図2参照)。最上層のn−GaAs層には、シランを用いてシリコンが2.3E17cm-3だけドープされた。なお、それぞれの層を堆積する際に基板上に導入されるIII族元素用原料ガスに対するV族元素用原料ガスのモル比(以下、V/III比と称す)は、30〜100の範囲内で制御された。また、それぞれの層の成長レートは、約1〜2μm/時の範囲内にあった。前述のように、GaAs層を成長させるにはトリメチルガリウムとアルシンを同時に供給し、AlGaAs層を成長するにはトリメチルガリウム、トリメチルアルミニウム、およびアルシンが同時に供給された。
【0029】
エピタキシャル層の成長終了後には、20℃/分の降温レートでエピタキシャルウエハを冷却し、ウエハ温度が200℃以下になってからエピタキシャル成長炉からそのウエハが取り出された。
【0030】
エピタキシャル成長後のウエハは光学顕微鏡で観察され、その表面の凹凸状態が評価された。特に、ウエハの周縁から内側10mmの範囲については、全周観察された。これは、前述のように、ウエハの外周部に近いほどスリップやクロスハッチが生じ易いからである。本実施形態1の成長方法により製造されたウエハについては、スリップラインとクロスハッチはウエハ周縁から5mm以上内側の範囲で観察されなかった。他方、従来技術におけるように基板を通常の昇温レート30℃/分で600℃まで加熱した場合には、得られたエピタキシャルウエハ周縁から5mm以上内側においてもスリップラインが1本以上観察された。なお、本実施態様1で製造されたエピ構造は、電子デバイスに用いられるMES(metal semiconductor)FET構造に利用されるものである。
【0031】
(実施形態2)
図2のエピタキシャルウエハ構造を成長させるに際し、どのような基板温度の時点で昇温レートを低減させればスリップラインやクロスハッチの低減効果が大きいかを明確にするために、種々の異なる基板温度で昇温レートを低減させた後にエピウエハを成長させ、それらのウエハ表面の変化について観察した。しかし、いずれの場合においても、通常の昇温レートは30℃/分であって、低減後の昇温レートは10℃/分であり、その低減昇温レートでは5分間の昇温が行なわれた。
【0032】
表1に示されているように、昇温レート低減開始時の基板温度が250℃から300℃の範囲にある場合には、その昇温レート低減の効果は確認できず、ウエハ周縁から5mm以上内側の範囲内でスリップラインまたはクロスハッチの発生が観察された。しかし、昇温レート低減開始時の基板温度が350℃以上である場合には、明らかにスリップラインやクロスハッチの発生が抑制されていた。昇温レート低減開始時の基板温度を上げて行っても、その抑制効果が維持されていた。しかし、基板温度600℃までに昇温レートを低減させなければ、上述のような従来技術と同様の条件になって、スリップラインまたはクロスハッチがウエハ周縁から5mm以上内側の領域において観察された。
【0033】
【表1】
【0034】
(実施形態3)
図2のエピタキシャルウエハ構造を成長させるに際し、どのような昇温レート低減期間がスリップラインやクロスハッチの低減に効果が大きいかを明確にするために、種々の異なる期間だけ昇温レートを低減させたあとにエピウエハを成長させ、それらのウエハ表面の変化について観察した。しかし、いずれの場合においても、通常の昇温レートは30℃/分であって、昇温レートの低減は基板温度450℃から開始させ、その低減後の昇温レートは10℃/分であった。
【0035】
表2に示されているように、昇温レート低減期間が4秒から8秒の範囲内である場合には、ウエハ周縁から5mm以上内側の範囲でスリップラインまたはクロスハッチの発生が確認され、昇温レート低減の効果が確認されなかった。しかし、昇温レート低減期間が10秒以上である場合には、スリップラインやクロスハッチの発生が明らかに抑制され、その低減期間を相当時間まで伸ばしてもその抑制効果が維持されることが確認された。
【0036】
【表2】
【0037】
このほかに、350℃から600℃までの範囲内の基板温度から種々の昇温レート低減期間を開始する多くの実験をも行ったところ、昇温レート低減期間の効果はどの基板温度から開始しても同様であった。
【0038】
(実施形態4)
図2のエピタキシャルウエハ構造を成長させるに際し、どのような低減昇温レートがスリップラインやクロスハッチの低減に効果が大きいかを明確にするために、種々の異なる低減昇温レートを経たあとにエピウエハを成長させ、それらのウエハ表面の変化について観察した。しかし、いずれの場合においても、通常の昇温レートは30℃/分であって、昇温レートの低減は基板温度450℃から開始させ、低減昇温レートの維持期間は5分間であった。
【0039】
表3に示されているように、低減昇温レートが15℃/分から30℃/分までの範囲内である場合には、ウエハ周縁から5mm以上内側の範囲でスリップラインまたはクロスハッチの発生が確認され、昇温レート低減の効果が確認されなかった。
【0040】
【表3】
【0041】
(実施形態5)
図2のエピタキシャルウエハに関して、本発明による効果をより詳細に確認するために、通常の光学顕微鏡に加えてノマルスキ光学顕微鏡によってもエピタキシャルウエハの表面を拡大観察し、ウエハ面上におけるスリップ分布を確認するスリップマッピングを行なった。なお、本実施形態では、ウエハ径が100mmであった。
【0042】
図3は、比較のために、従来技術によって処理されたエピタキシャルウエハの表面観察を示している。すなわち、図3においては、基板ウエハが30℃/分の通常昇温レートで600℃まで加熱された。図3の上段はウエハ上におけるスリップマップの概略図を表し、下段はノマルスキ光学顕微鏡写真を表している。
【0043】
他方、図4は、本発明によって処理されたエピタキシャルウエハの表面観察を示している。すなわち、図4においては、30℃/分の通常昇温レートで450℃まで基板を加熱し、基板温度450℃から500℃までは低減昇温レート10℃/分で5分間加熱し、その後に通常昇温レート30℃/分に戻して550℃まで加熱し、550℃から600℃までは再度10℃/分の低減昇温レートで5分間加熱された。すなわち、昇温レートの低減が2回行われている。図3の場合と同様に、図4の上段はウエハ上におけるスリップマップの概略図を表し、下段はノマルスキ光学顕微鏡写真を表している。
【0044】
図3のスリップマッピングによれば、従来技術によって得られたエピタキシャルウエハでは、その周縁から最大で10mm以上内側の範囲でもクロスハッチが観察された。しかし、図4のスリップマッピングによれば、本発明によって2回の昇温レート低減を経て得られたエピタキシャルウエハでは、その周縁から1mm以内の狭い範囲内までクロスハッチの発生を抑制できていた。
【0045】
(実施形態6)
実施形態6としては、InP基板上に成長させられたInPとInGaAsの多層構造を含むエピタキシャルウエハの製造例が、図5の模式的な断面図を参照しつつ説明される。InP基板の大きさは直径76mmであり、その導電タイプはn型であった。InPエピタキシャル層成長の原料としては、トリメチルインジウムとフォスフィンが用いられた。InGaAsエピタキシャル層成長の原料としては、トリメチルインジウム、トリメチルガリウム、およびアルシンが用いられた。
【0046】
実施形態1の場合と同様に、基板加熱は、基板裏面に配置されたカーボンヒータによって行われた。温度測定に関しては、赤外線量および波長を測定するパイロメータと基板近傍に配置された熱電対との双方を用いることによって、温度測定の精度向上が図られた。キャリアガスとしては、水素が用いられた。エピタキシャル成長炉内の圧力は、3333Pa(25Torr)であった。
【0047】
まず、50℃以下の温度状態でInP基板がOMVPE炉内にセットされた。その後、通常の昇温レート30℃/分で基板温度が上昇させられた。基板温度が450℃に達したときに、昇温レートが10℃/分に低減された。この低減された昇温レートを5分間継続して、基板が500℃まで加熱された。その後、500℃から620℃まで、再び通常の昇温レート30℃/分で基板が加熱された。この後に2回目の昇温レート低減処置として、620℃から650℃までは再度10℃/分の低減昇温レートで基板が加熱され、その650℃に達するまでの間にフォスフィンが供給された。
【0048】
基板温度が650℃に達して5分間経過以後に、その温度において厚さ0.7μmのn−InP層、厚さ2.5μmのn−InGaAs層、および厚さ1μmのn−InP層がこの順に成長させられた(図5参照)。各層には、シランを用いてシリコンがそれぞれ3.0E17cm-3、3.0E15cm-3、および3.0E16cm-3だけドープされた。なお、InP層とInGaAs層の堆積に用いられる原料ガスにおけるV/III比は、それぞれ200と20であった。また、それぞれの層の成長レートは、約2μm/時であった。前述の様に、InGaAs層を成長させるには、トリメチルインジウム、トリメチルガリウム、およびアルシンを同時に供給し、InP層を成長させるには、トリメチルインジウムとフォスフィンが同時に供給された。
【0049】
エピタキシャル層の成長終了後には、2℃/分の降温レートでエピタキシャルウエハを冷却し、ウエハ温度が200℃以下になってからエピタキシャル成長炉からそのウエハが取り出された。
【0050】
エピタキシャル成長後のウエハは光学顕微鏡で観察され、その表面の凹凸状態が評価された。特に、ウエハの周縁から内側10mmの範囲については、全周観察された。本実施形態6の成長方法により製造されたウエハでは、スリップラインとクロスハッチはウエハ周縁から5mm以上内側の範囲で観察されなかった。他方、従来技術におけるように基板を通常の昇温レート30℃/分で650℃まで加熱した場合には、得られたエピタキシャルウエハの周縁から5mm以上内側においてもクロスハッチが多数観察された。そのクロスハッチの最大面積領域は7mm×10mmであった。なお、本実施態様6で製造されたエピ構造は、光学素子として用いられる赤外用フォトダイオードに利用されるものである。
【0051】
(実施形態7)
図5のエピタキシャルウエハ構造を成長させる際し、種々に径の異なる基板ウエハに対して、昇温レート低減の効果がどのように異なるかについて明確にするために、種々に異なる径のInPウエハを用いてエピウエハを成長させ、そのウエハ表面の変化いについて観察された。なお、本実施形態7では、実施形態6の場合と同様な基板昇温過程が採用された。
【0052】
表4に示されているように、30℃/分の通常昇温レートのみが用いられた場合であっても、径50mmのウエハではスリップラインやクロスハッチが観察されないが、75mmまたは100mmの径のウエハではウエハ周縁から5mm以上内側の範囲でスリップラインまたはクロスハッチの発生が確認された。
【0053】
【表4】
【0054】
他方、本実施形態7におけるように2回の低減昇温レートを含む基板加熱方法を用いれば、径が50mm、75mm、および100mmのいずれのウエハにおいても、スリップラインやクロスハッチの発生をウエハ周縁から5mm以内の範囲に抑制できることが確認された(表4参照)。
【0055】
【発明の効果】
以上の用に、本方法によれば、スリップラインやクロスハッチの少ないエピタキシャルウエハが製造可能となり、そのウエハを用いた電子デバイスや光学素子の作製歩留まり向上と低価格化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に関連する基板ウエハの昇温過程を示すグラフである。
【図2】 本発明の実施形態の一例において成長させられたエピタキシャルウエハの積層構造を示す模式的な断面図である。
【図3】 従来技術によって成長させられたエピタキシャルウエハ面におけるスリップとクロスハッチの分布を示す図である。
【図4】 本発明によって成長させられたエピタキシャルウエハ面におけるクロスハッチの分布を示す図である。
【図5】 本発明の実施形態の他の例において成長させられたエピタキシャルウエハの積層構造を示す模式的な断面図である。
Claims (6)
- 100mmより大きく150mm以下の範囲内の径を有するGaAs半導体基板上にIII−V族化合物半導体層をエピタキシャル成長させるに際して、クロスハッチまたはスリップラインの発生を防止するために、そのエピタキシャル層成長開始前の基板昇温途中の350℃以上で600℃以下の温度範囲内において所定時間だけ昇温レートを少なくとも1回以上低減させ、
前記低減される昇温レートは0℃/分より大きくて10℃/分以下であり、
前記昇温レートが低減される前記所定期間は10秒以上で5分以下である
ことを特徴とするエピタキシャルウエハの製造方法。 - 75mmより大きく100mm以下の範囲内の径を有するInP半導体基板上にIII−V族化合物半導体層をエピタキシャル成長させるに際して、クロスハッチまたはスリップラインの発生を防止するために、そのエピタキシャル層成長開始前の基板昇温途中の450℃以上で650℃以下の温度範囲内において所定時間だけ昇温レートを少なくとも1回以上低減させ、
前記低減される昇温レートは0℃/分より大きくて10℃/分以下であり、
前記昇温レートが低減される前記所定期間は10秒以上で5分以下である
ことを特徴とするエピタキシャルウエハの製造方法。 - 前記昇温レートの低減された加熱工程が2回行われることを特徴とする請求項1または2に記載のエピタキシャルウエハの製造方法。
- 前記エピタキシャル層はOMVPE法によって成長させられることを特徴とする請求項1から3のいずれかの項に記載のエピタキシャルウエハの製造方法。
- 請求項1から4のいずれかの項に記載の製造方法によって製造されたことを特徴とするエピタキシャルウエハ。
- 前記InP半導体基板とその上にエピタキシャル成長させられた前記III−V族化合物半導体層とを含むエピタキシャルウエハであって、その周縁から5mm以上内側の領域にクロスハッチまたはスリップラインを有しないことを特徴とする請求項5に記載のエピタキシャルウエハ。
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