JP3923257B2 - 絶縁劣化診断方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、遮断器、回転電機コイル等固体で形成された絶縁物の絶縁劣化診断方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
遮断器や回転電機コイル等の固体絶縁物では、使用時のストレス要因等により劣化が進行する。このような劣化の状態を診断して事故を未然に防ぐことが重要となる。
【0003】
従来の絶縁劣化診断方法として、例えば、電気学会技術報告(II部)第402号「電力設備の運転中絶縁診断技術」に記載のような方法ある。一般には、絶縁抵抗,誘電正接や、部分放電特性等の電気的な特性による方法が多用されているが、このような方法は、劣化した絶縁物の電気的な特性の変化を測定することになり、間接的でノイズの影響が大きいため、感度が十分でなく、精度が低いという問題点があった。
【0004】
一方、絶縁物の化学的な変化を測定する方法として、色差(ΔE)や明度による診断も行われているが(上記技術報告p65)、従来は、上記の資料に記載のように、熱ストレスに対する劣化のみを対象としていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、遮断器等のトラブル事例からみると、熱ストレスにより劣化が進行するのではなく、電気的、化学的、環境的なストレス要因により劣化が進行することがわかった。
【0006】
すなわち、絶縁物表面に汚損物が付着し、そこに降雨などにより水分がかかったときや、塩水が付着したときなどには、絶縁物の表面漏れ電流が増加する。この漏れ電流による局部加熱により絶縁物表面の一部が乾燥し、漏れ電流が遮断される。その部分の電圧が増加し、局所的な放電が発生する。この放電により発生した硝酸が絶縁物表面に付着し、表面吸着水に溶解しイオン化することによりさらに漏れ電流が増加する。
【0007】
絶縁物が有機物であれば、放電が発生した部分で炭化が進行し、炭化導電路が形成される(トラッキング劣化)。また、絶縁物が無機物であれば、上記放電が繰り返されるなかで表面抵抗が低下し、汚損沿面フラッシュオーバーが発生するという問題点があった。
【0008】
さらに、遮断器などではその遮断の動作ごとにアークやスパークが発生し、絶縁物がそれらに晒され徐々に劣化して炭化導電路を形成するという問題点があった。
【0009】
よって、上記のような電気的、化学的、環境的なストレス要因により絶縁物の劣化が進行する状態を検出することが重要になる。さらに、従来のように熱ストレスのみを対象としているのではなく、電気的、化学的、環境的なストレス要因が複合的に劣化に影響するため、複数の劣化特性を測定し総合的に判断する必要がある。
【0010】
この発明は、前述した問題点を解決するためになされたもので、電気的、化学的、環境的なストレス要因が複合的に影響する絶縁劣化に即した診断ができ、また、複数の劣化特性を測定して総合的に検出することができる絶縁劣化診断方法を得ることを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
この発明の請求項1に係る絶縁劣化診断方法は、イオン試験紙を純水に浸すステップと、余分な純水を除去するステップと、前記純水を含んだイオン試験紙を絶縁物表面に接触させるステップと、前記イオン試験紙の変化した色に基き、前記絶縁物表面に付着したイオン性物質のイオン濃度を測定するステップと、予め求めたイオン濃度と絶縁劣化度の相関関係に基き、前記測定したイオン性物質のイオン濃度から前記絶縁物の絶縁劣化を検出するステップとを含むものである。
【0012】
この発明の請求項2に係る絶縁劣化診断方法は、前記イオン性物質を、硝酸イオン、硫酸イオン、又は塩素イオンとしたものである。
【0013】
この発明の請求項3に係る絶縁劣化診断方法は、前記イオン性物質を、硝酸イオン、硫酸イオン、及び塩素イオンとしたものである。
【0014】
この発明の請求項4に係る絶縁劣化診断方法は、イオン試験紙を純水に浸すステップと、余分な純水を除去するステップと、前記純水を含んだイオン試験紙を絶縁物表面に接触させるステップと、前記イオン試験紙の変化した色に基き、前記絶縁物表面に付着した複数のイオン性物質のイオン濃度を測定するステップと、前記複数のイオン性物質のイオン濃度の測定結果により絶縁物を評価し、評価のバラツキや相関を考慮に入れて1つの指標で表し、前記指標に基いて絶縁劣化を診断するステップとを含むものである。
【0015】
この発明の請求項5に係る絶縁劣化診断方法は、記診断ステップが、前記複数のイオン性物質のイオン濃度の測定結果と、絶縁物表面の光沢、赤外分光光度計による成分、ナトリウムイオン濃度のいずれかの測定結果とにより絶縁物を評価し、評価のバラツキや相関を考慮に入れて1つの指標で表し、前記指標に基いて絶縁劣化を診断するものである。
【0016】
この発明の請求項6に係る絶縁劣化診断方法は、前記指標を、マハラノビスの距離としたものである。
【0017】
【発明の実施の形態】
実施の形態1.
この発明の実施の形態1に係る絶縁劣化診断方法について図面を参照しながら説明する。図1、図2、図3及び図4は、この発明の実施の形態1に係る絶縁劣化診断方法の各手順を示す図である。なお、各図中、同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0018】
図1〜図3において、1はイオン試験紙、2はビーカー、3は純水、4は純水を含んだイオン試験紙、5は純水を含んだイオン試験紙の検出部分、6は絶縁物、7は変色したイオン試験紙の検出部分、8は比色表である。
【0019】
このイオン試験紙1は、別の使用目的のために市販されているもので、下半分が反応する部分である。また、イオン試験紙1は、硝酸イオン用、硫酸イオン用、及び塩素イオン用の3種類が用意されている。
【0020】
また、純水3は、イオンを含まない、イオン交換水を意味する。
【0021】
図4は、絶縁物の表面抵抗と硝酸イオンのイオン濃度の関係を示す図である。なお、表面抵抗と、硫酸イオンや、塩素イオンのイオン濃度の関係も同様の傾向を示す。硝酸イオン、硫酸イオン、及び塩素イオンの3種類の合計イオン濃度の関係も同様の傾向を示す。
【0022】
つぎに、この実施の形態1に係る絶縁劣化診断方法の手順について図面を参照しながら説明する。なお、硝酸イオン用のイオン試験紙1を使用する場合について説明するが、硫酸イオン用や、塩素イオン用のイオン試験紙1を使用する場合も同様である。さらに、上記3種類のイオン試験紙1を同時に使用する場合も同様である。
【0023】
図1〜図4は、絶縁物表面に付着したイオン性物質の濃度により絶縁劣化診断を行う手順1〜4をそれぞれ示す。
【0024】
まず、手順1として、図1に示すように、硝酸イオン用のイオン試験紙1を、ビーカー2中の純水3に浸し、ビーカー2の縁で余分な純水を除去する。
【0025】
次に、手順2として、図2に示すように、純水3を含んだイオン試験紙4の検出部分5を絶縁物6の表面に、約30秒間押し当てる。イオン試験紙4の検出部分5を絶縁物6の表面に、約30秒間載せておいてもよい。
【0026】
次に、手順3として、図3に示すように、絶縁物6に付着しているイオン濃度に応じて変色したイオン試験紙1の検出部分7を、比色表8と比較してイオン濃度を求める。この比色表8は、市販されているイオン試験紙1に付属しているもので、例えば、検出部分7の色が白の場合はイオン濃度が0、検出部分7の色がピンクがかった紫の場合はイオン濃度が500である。
【0027】
そして、手順4として、図4に示すように、初期状態の絶縁物(新品)と、市場で実際に使用した遮断器の絶縁物(炭化導電路あり、なし)より求めた、硝酸イオンのイオン濃度と絶縁劣化との相関を求める。
【0028】
図4において、横軸は絶縁劣化度(表面抵抗(Ω))、縦軸は硝酸イオンのイオン濃度で、よい相関を示した。なお、表面抵抗は、図上、右方向が大きく、左方向が小さくなる。イオン濃度は、図上、上方向が濃く、下方向が淡くなる。また、右端のプロットの塊(複数の◇)は、新品の絶縁物で、それらの左側にあるプロットは、実際に使用した遮断器の絶縁物である。
【0029】
上記手順1から3までにより求めた未知の絶縁物6の硝酸イオンのイオン濃度と、図4に示すような予め求めておいた硝酸イオンのイオン濃度と絶縁劣化の関係から、絶縁劣化の程度を診断する。図4では、例えば左端の2個のプロットは、非常に表面抵抗が小さく、絶縁が劣化していると診断する。
【0030】
すなわち、この実施の形態1に係る絶縁劣化診断方法は、絶縁物表面に付着したイオン性物質の濃度を測定し、予め求めておいたイオン濃度と絶縁劣化との相関から絶縁劣化を診断するものである。絶縁物表面に付着した硝酸イオンのイオン濃度を測定し、予め求めておいたイオン濃度と絶縁劣化との相関から絶縁劣化を診断するものである。純水を含んだ硝酸イオンのイオン試験紙を絶縁物表面に押し当て、試験紙の変色により濃度を測定し、予め求めておいたイオン濃度と絶縁劣化との相関から絶縁劣化診断したものである。
【0031】
上述したように、硝酸イオンのイオン濃度で絶縁劣化を診断する場合について説明したが、硫酸イオンや、塩素イオンのイオン濃度で絶縁劣化を同様に診断することができる。さらに、硝酸イオン、硫酸イオン、及び塩素イオンの合計イオン濃度で絶縁劣化を同様に診断することができる。
【0032】
以上のように、本実施の形態1により、電気的、化学的、環境的なストレス要因が複合的に影響する絶縁劣化に即した診断が可能になる。
【0033】
実施の形態2.
この発明の実施の形態2に係る絶縁劣化診断方法について図面を参照しながら説明する。図5は、この発明の実施の形態2に係る絶縁劣化診断方法の表面抵抗とマハラノビスの距離の関係を示す図である。
【0034】
つまり、図5は、硝酸イオン、硫酸イオン、塩素イオンの3種類の各イオン濃度測定結果をマハラノビス・タグチシステム法により解析し、バラツキや相関を考慮にいれた1つの指標(マハラノビスの距離)で表し、絶縁劣化(表面抵抗)との相関を示したものである。
【0035】
初期状態の絶縁物(新品)と、市場で実際に使用した遮断器の絶縁物(炭化導電路あり、なし)を評価することにより、上記各イオン濃度を求め、マハラノビスの距離を算出した。
【0036】
図5において、横軸は絶縁劣化度(表面抵抗(Ω))、縦軸はマハラノビスの距離で、よい相関を示した。なお、表面抵抗は、図上、右方向が大きく、左方向が小さくなる。マハラノビスの距離は、図上、上方向が大きく、下方向が小さくなる。また、右端のプロットの塊(複数の○)は、新品の絶縁物で、それらの左側にあるプロットは、実際に使用した遮断器の絶縁物である。
【0037】
図1〜図3で示した上記実施の形態1の方法により求めた、劣化度が未知の絶縁物の硝酸イオン、硫酸イオン、及び塩素イオンの3種類のイオン濃度測定結果から算出したマハラノビスの距離と、予め求めた図5の関係から絶縁劣化を診断する。
【0038】
上記のイオン濃度以外に、電気的、化学的、環境的なストレス要因が複合的に影響する絶縁劣化と相関がある評価方法として、絶縁物表面の光沢測定、赤外分光光度計による成分分析(炭化水素吸収ピーク)、ナトリウムイオン濃度測定がある。上記の硝酸イオン、硫酸イオン、及び塩素イオンの3種類のイオン濃度と、上記の光沢測定、成分分析、ナトリウムイオン濃度測定の評価結果から算出したマハラノビスの距離と、予め求めた図5の関係と同様の相関関係から絶縁劣化診断を行うことも可能である。
【0039】
すなわち、この実施の形態2に係る絶縁劣化診断方法は、複数の化学的方法により絶縁物の初期状態と所定時間後の状態を評価し、評価のバラツキや相関を考慮にいれた1つの指標で表し、予め求めておいたその指標と絶縁劣化との相関から絶縁劣化診断したものである。つまり、複数の化学的方法により絶縁物の初期状態と所定時間後の状態を評価し、評価結果をマハラノビス・タグチシステム法によりバラツキや相関を考慮にいれた1つの指標であるマハラノビスの距離で表し、予め求めておいたその指標と絶縁劣化との相関から絶縁劣化診断したものである。
【0040】
以上のように、本実施の形態2により、電気的、化学的、環境的なストレス要因が複合的に影響する絶縁劣化に即した診断が可能になる。さらに、バラツキや相関を考慮し複数の劣化特性を測定し総合的に判断するため、精度の高い絶縁劣化診断が可能となる。
【0041】
【発明の効果】
この発明の請求項1に係る絶縁劣化診断方法は、以上説明したとおり、イオン試験紙を純水に浸すステップと、余分な純水を除去するステップと、前記純水を含んだイオン試験紙を絶縁物表面に接触させるステップと、前記イオン試験紙の変化した色に基き、前記絶縁物表面に付着したイオン性物質のイオン濃度を測定するステップと、予め求めたイオン濃度と絶縁劣化度の相関関係に基き、前記測定したイオン性物質のイオン濃度から前記絶縁物の絶縁劣化を検出するステップとを含むので、電気的、化学的、環境的なストレス要因が複合的に影響する絶縁劣化に即した診断が可能になるという効果を奏する。
【0042】
この発明の請求項2に係る絶縁劣化診断方法は、以上説明したとおり、前記イオン性物質を、硝酸イオン、硫酸イオン、又は塩素イオンとしたので、電気的、化学的、環境的なストレス要因が複合的に影響する絶縁劣化に即した診断が可能になるという効果を奏する。
【0043】
この発明の請求項3に係る絶縁劣化診断方法は、以上説明したとおり、前記イオン性物質を、硝酸イオン、硫酸イオン、及び塩素イオンとしたので、電気的、化学的、環境的なストレス要因が複合的に影響する絶縁劣化に即した診断が可能になるという効果を奏する。
【0044】
この発明の請求項4に係る絶縁劣化診断方法は、以上説明したとおり、イオン試験紙を純水に浸すステップと、余分な純水を除去するステップと、前記純水を含んだイオン試験紙を絶縁物表面に接触させるステップと、前記イオン試験紙の変化した色に基き、前記絶縁物表面に付着した複数のイオン性物質のイオン濃度を測定するステップと、前記複数のイオン性物質のイオン濃度の測定結果により絶縁物を評価し、評価のバラツキや相関を考慮に入れて1つの指標で表し、前記指標に基いて絶縁劣化を診断するステップとを含むので、評価のバラツキや相関を考慮し複数の劣化特性を測定し総合的に判断でき、精度の高い絶縁劣化診断が可能となるという効果を奏する。
【0045】
この発明の請求項5に係る絶縁劣化診断方法は、以上説明したとおり、記診断ステップが、前記複数のイオン性物質のイオン濃度の測定結果と、絶縁物表面の光沢、赤外分光光度計による成分、ナトリウムイオン濃度のいずれかの測定結果とにより絶縁物を評価し、評価のバラツキや相関を考慮に入れて1つの指標で表し、前記指標に基いて絶縁劣化を診断するので、評価のバラツキや相関を考慮し複数の劣化特性を測定し総合的に判断でき、精度の高い絶縁劣化診断が可能となるという効果を奏する。
【0046】
この発明の請求項6に係る絶縁劣化診断方法は、以上説明したとおり、前記指標を、マハラノビスの距離としたので、評価のバラツキや相関を考慮し複数の劣化特性を測定し総合的に判断でき、精度の高い絶縁劣化診断が可能となるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明の実施の形態1に係る絶縁劣化診断方法の最初の手順を示す図である。
【図2】 この発明の実施の形態1に係る絶縁劣化診断方法の2番目の手順を示す図である。
【図3】 この発明の実施の形態1に係る絶縁劣化診断方法の3番目の手順を示す図である。
【図4】 この発明の実施の形態1に係る絶縁劣化診断方法の表面抵抗とイオン濃度の関係を示す図である。
【図5】 この発明の実施の形態1に係る絶縁劣化診断方法の表面抵抗とマハラノビスの距離の関係を示す図である。
【符号の説明】
1 イオン試験紙、2 ビーカー、3 純水、5 イオン試験紙の検出部分、6 絶縁物、8 比色表。
Claims (6)
- イオン試験紙を純水に浸すステップと、
余分な純水を除去するステップと、
前記純水を含んだイオン試験紙を絶縁物表面に接触させるステップと、
前記イオン試験紙の変化した色に基き、前記絶縁物表面に付着したイオン性物質のイオン濃度を測定するステップと、
予め求めたイオン濃度と絶縁劣化度の相関関係に基き、前記測定したイオン性物質のイオン濃度から前記絶縁物の絶縁劣化を検出するステップと
を含むことを特徴とする絶縁劣化診断方法。 - 前記イオン性物質は、硝酸イオン、硫酸イオン、又は塩素イオンである
ことを特徴とする請求項1記載の絶縁劣化診断方法。 - 前記イオン性物質は、硝酸イオン、硫酸イオン、及び塩素イオンである
ことを特徴とする請求項1記載の絶縁劣化診断方法。 - イオン試験紙を純水に浸すステップと、
余分な純水を除去するステップと、
前記純水を含んだイオン試験紙を絶縁物表面に接触させるステップと、
前記イオン試験紙の変化した色に基き、前記絶縁物表面に付着した複数のイオン性物質のイオン濃度を測定するステップと、
前記複数のイオン性物質のイオン濃度の測定結果により絶縁物を評価し、評価のバラツキや相関を考慮に入れて1つの指標で表し、前記指標に基いて絶縁劣化を診断するステップと
を含むことを特徴とする絶縁劣化診断方法。 - 前記診断ステップは、
前記複数のイオン性物質のイオン濃度の測定結果と、絶縁物表面の光沢、赤外分光光度計による成分、ナトリウムイオン濃度のいずれかの測定結果とにより絶縁物を評価し、評価のバラツキや相関を考慮に入れて1つの指標で表し、前記指標に基いて絶縁劣化を診断する
ことを特徴とする請求項4記載の絶縁劣化診断方法。 - 前記指標は、マハラノビスの距離である
ことを特徴とする請求項4又は5記載の絶縁劣化診断方法。
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