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JP3918397B2 - 耐密着性無酸素銅荒引線、その製造方法及び製造装置 - Google Patents

耐密着性無酸素銅荒引線、その製造方法及び製造装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、線同士の密着が防止される耐密着性無酸素銅荒引線、その製造方法及び製造装置に関し、特に、電子ワイヤ、リードワイヤ、巻線、線状電気部品などに用いて好適なものである。
【0002】
【従来の技術】
例えば、低酸素銅線の製造方法には、銅の種線を溶融金属槽に通過させ、種線の外周に溶融金属を付着させて棒状銅材を得、これを圧延して線にする所謂ディップフォーミング法がある。ディップフォーミング法は、溶銅から無酸素銅荒引線を一連の生産ラインで連続製造できる。また、低酸素銅荒引線の製造方法には、ビレットの押出し加工による製造方法もある。
なお、荒引線とは、通常5mm以上30mm以下の線経を持ち、更に線経を落として真円度を確保するための伸線加工工程へと供給される前の素線を指すものである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、ディップフォーミング法の無酸素銅荒引線設備により製造された無酸素銅荒引線は、伸線、ボビン巻きして真空ポット焼鈍すると、線同士が密着する現象が見られる。このことは、ディップフォーミング法では、工程全体が非酸化雰囲気で製造されるため、線表面の酸化被膜が50Å以下と薄く、且つCu2Oの酸化被膜が存在しないことに起因することが分かっている。即ち、無酸素銅荒引線を製造するディップフォーミング法では、線表面の酸化被膜が薄く、且つCu2Oの酸化被膜が存在せず、伸線後もこの影響が残り、線同士に密着が生じるのに対し、無酸素銅荒引線でない銅線を製造するSCR法では、酸化被膜が厚く、Cu2Oの酸化被膜が存在し、線同士に密着が生じない。図5はディップフォーミング法で製造した荒引銅線の酸化被膜測定結果を示すグラフ図である。同図からも分かるように、ディップフォーミング法で製造した荒引銅線の酸化被膜はCuOのみとなり、Cu2Oの酸化被膜が存在しない。なお、同図の酸化被膜の測定は一般的な電位差法により行った。
【0004】
また、水素含有量が1ppm以上と高い場合においても、加工工程の非酸化雰囲気中でバッチ焼鈍などの熱処理を実施すると、線同士の密着が発生し、表面傷が発生する。
【0005】
また、ディップフォーミング法において、酸化被膜を厚くしようとすると、以下のような不具合が生じ、密着しない無酸素銅荒引線を製造する上での障害となっていた。
即ち、鋳造系のシール性を低くすると、溶銅も酸化してしまい、無酸素銅荒引線とならない。
鋳造系から圧延機までの間のフードのシール性を低くすると、鋳造系に酸素が入り込む虞れがあり、また、鋳造系からフードまでの間のシールを完全に行うのは構造的に困難である。
圧延機内のシール性を低くするのは不可能ではないが、フードの場合と同様、他の部位の雰囲気を変化させずにシールを実現するのは非常に困難である。
仮に、フード、圧延機内でのシール性を低くすることで、Cu2Oの酸化被膜を得ても、Cu2Oの酸化被膜と、CuOの酸化被膜とを最適に制御することは、非常に困難となった。
【0006】
また、ビレットの押出し加工により無酸素銅荒引線を製造する方法は、鋳造と押出しの二つの工程が必要であるため、コストが高くなり、また、コイル単重も小さくなる欠点があった。
【0007】
上述した低酸素銅線あるいは無酸素銅荒引線の製造方法以外にも、例えば特公昭59−6736、特開昭55−126353号公報に開示されるベルトキャスター方式の連続鋳造機を用いたものがある。ベルトキャスター方式の連続鋳造機は、その主要部が、周回移動する無端ベルトと、この無端ベルトに円周の一部を接触させて回転する鋳造輪とにより構成される。この連続鋳造機は、シャフト炉などの大型の溶解炉と連続され、さらに圧延機と連結されることによって、溶解炉からの溶銅を連続鋳造圧延して銅線を一連の生産ラインで高速に製造することができる。従って、高い生産性を得ることができ、大量生産が可能になることから、銅線の製造コストを低減させることが可能になる。従来、この種のベルトキャスター方式の連続鋳造機では、溶銅の移送過程で還元ガス及び/又は不活性ガスによって還元処理を行うことで、低酸素の溶銅を得、それを鋳造・圧延して低酸素銅線の製造が可能となる。
【0008】
しかしながら、上記したベルトキャスター方式の連続鋳造機は、溶銅の移送過程を気密に保持し、還元ガス及び/又は不活性ガスでシールして脱酸した溶銅を実際に鋳造すると、鋳造銅材にホールが生成し、鋳造銅材の圧延時に、線表面に傷が発生して表面品質を低下させる問題があった。そのため、ベルトキャスター方式で製造された低酸素銅線は未だ市場に出ておらず、低酸素銅線は主に上記のディップフォーミング法などで製造されているのが現状である。
【0009】
鋳造銅線のホールは、溶銅の凝固時に、溶銅中の水素と酸素との溶解度が減少するために、結合して生成されるH2Oホールに起因する。このH2Oホールが冷却時にトラップされるため、圧延時に傷となる。熱力学的には、溶銅中の水素と酸素の濃度は、次式で表される関係にある。
〔H〕2〔O〕=pH2O・K ………式(A)
ここで、
〔H〕 : 溶銅中の水素濃度
〔O〕 : 溶銅中の酸素濃度
H2O : 雰囲気中の水蒸気分圧
K : 平衡定数
である。
【0010】
平衡定数Kは、温度の関数であり、一定温度下では定数となるため、溶銅中の酸素濃度と水素濃度は反比例の関係となる。そのため、還元によって脱酸するほど水素濃度が高くなり、凝固時にホールが形成され易く、傷の多い、表面品質の悪い低酸素銅線しか製造できなくなる。即ち、脱酸のみでなく、脱水素も行わなければ、凝固時にホールが大量に生成されて、表面品質の良好な低酸素銅線を製造することができない。
【0011】
一方、一般的な脱ガス方法である酸化還元法により、完全燃焼に近い状態で溶解させて水素濃度の低い溶銅を得ることは可能であるが、ベルトキャスター方式では、次いで脱酸を行うために長い移送距離を確保しなければならず、現実的でない。
【0012】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、線同士が密着せず、安価に、且つ大量生産することのできる、耐密着性無酸素銅荒引線及びその製造方法を提供することを目的とする。
また、長い移送距離を確保せずに、脱水素処理が行え、凝固時に大量のホールを生成させず表面品質を良好とした耐密着性無酸素銅荒引線が得られる製造装置を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するための本発明に係る請求項1記載の耐密着性無酸素銅荒引線は、酸素が3〜10ppm、水素が1ppm以下の濃度で含有されるとともに、50〜500Åの厚さの総酸化被膜を有し、且つ該総酸化被膜の一部にCu2Oの酸化被膜が存在することを特徴とする。
【0014】
この耐密着性無酸素銅荒引線では、酸素が3〜10ppm、水素が1ppm以下の濃度で含有され、鋳造時のガスの放出が少なくなり、棒状銅材に生成されるホールが抑制されて、線表面の傷が低減される。
また、50〜500Åの総酸化被膜を有し、且つ総酸化被膜の一部に一定量のCu2Oの酸化被膜が存在することで、線同士の密着が防止される。線同士の密着が防止される理由としては、一定量のCu2Oの酸化被膜の存在が要件となる。CuOのみの酸化被膜では、密着が生じ易いことが分かっている。酸化被膜は、一般的にCu芯材の表面側からCu2Oの酸化被膜、CuOの酸化被膜の順で形成される。この場合、Cu2Oの酸化被膜とCuOの酸化被膜とは、明確な境界面とならない。むしろ、Cu2Oの酸化被膜の一部分が、CuOの酸化被膜内に侵出している構造が密着の防止に関与していると考えられる。
また、このような構造的作用以外に、水素濃度も密着の防止に大きく寄与しているものと考えられる。即ち、銅線中の水素の拡散係数が大きい為、焼鈍などの熱処理によって活性化されると、銅中の水素イオンが激しく移動し、この際線同士が接触していると水素イオンが銅線間を行き来し、これが密着の原因となる。従って、水素濃度が1ppm以下に抑えられることも、密着の防止に寄与しているものと考えられる。
【0015】
請求項2記載の耐密着性無酸素銅荒引線は、前記総酸化被膜のうちCu2Oの酸化被膜の厚さが0.2〜90%の厚さであることを特徴とする。
【0016】
この耐密着性無酸素銅荒引線では、総酸化被膜のうちCu2Oの酸化被膜の厚さが0.2〜90%の厚さであることで、密着の防止効果、及び伸線時の物理的作用が最適に確保される。即ち、総酸化被膜のうちCu2 Oの酸化被膜の厚さが0.2%未満であると、上述の構造的作用などの理由から密着が生じ易くなる。また、総酸化被膜のうちCu2Oの酸化被膜の厚さが90%以上であると、伸線加工時に銅粉が多く発生し、断線の原因となったり、ダイス磨耗が激しくなる。
【0017】
請求項3記載の耐密着性無酸素銅荒引線は、ベルトキャスター方式の連続鋳造機で製造されることを特徴とする。
【0018】
この耐密着性無酸素銅荒引線では、ベルトキャスター方式の連続鋳造機で製造されることで、低コストで長尺の耐密着性無酸素銅荒引線が連続的に製造可能になる。
【0019】
請求項4記載の耐密着性無酸素銅荒引線の製造方法は、溶銅を連続鋳造機に供給し、該連続鋳造機から導出された棒状銅材から無酸素銅荒引線を連続的に製造する耐密着性無酸素銅荒引線の製造方法であって、溶解炉の還元性雰囲気で燃焼を行い溶銅をつくる工程と、該溶解炉から送られた溶銅を、非酸化雰囲気でシール可能な鋳造樋を用いてタンディッシュまで移送する工程と、該鋳造樋を通過する溶銅に対して脱水素処理する工程と、前記タンディッシュから供給された溶銅を連続鋳造機によって鋳造して棒状銅材に成形する工程と、前記連続鋳造機から導出された棒状銅材に施すアルコール洗浄の程度を調整することにより酸化被膜の厚さを制御する工程とを含むことを特徴とする。
【0020】
この耐密着性無酸素銅荒引線の製造方法では、溶解炉において還元性の雰囲気で燃焼が行われ、溶解炉からタンディッシュまで移送される溶銅が鋳造樋において非酸化雰囲気でシールされ、さらに、この鋳造樋を通過する溶銅が脱ガス手段によって脱水素処理される。これにより、還元によって脱酸するほど高くなる水素濃度が低くなり、凝固時のホールの生成が抑制される。また、連続鋳造機から導出された棒状銅材に施すアルコール洗浄の程度が調整されることにより、Cu2Oの酸化被膜が、密着の抑制される最適な厚さに容易に制御可能となる。
【0021】
請求項5記載の耐密着性無酸素銅荒引線の製造装置は、溶銅を連続鋳造機に供給し、該連続鋳造機から導出された棒状銅材から無酸素銅荒引線を連続的に製造する耐密着性無酸素銅荒引線の製造装置であって、還元性の雰囲気で燃焼を行い溶銅をつくる溶解炉と、該溶解炉から送られた溶銅を所定の温度に保持する保持炉と、該保持炉から送られた溶銅を非酸化雰囲気でシールしてタンディッシュまで移送する鋳造樋と、該鋳造樋に設けられ通過する溶銅を脱水素処理する脱ガス手段と、前記タンディッシュから供給された溶銅を鋳造して棒状銅材に成形する連続鋳造機と、該連続鋳造機から導出された棒状銅材に施すアルコール洗浄の程度を調整することにより酸化被膜の厚さを制御するアルコール洗浄装置と、を具備したことを特徴とする。
【0022】
この耐密着性無酸素銅荒引線の製造装置では、溶解炉において還元性の雰囲気で燃焼が行われ、溶銅が脱酸される。脱酸された溶銅は、鋳造樋において非酸化雰囲気でシールされてタンディッシュまで移送される。溶解炉において脱酸された溶銅は、酸素濃度と水素濃度とが反比例の関係となることから、水素濃度が高くなる。この水素濃度が高くなった溶銅は、鋳造樋を通過する際に、脱ガス手段によって脱水素処理される。これにより、鋳造時のガスの放出が少なくなり、鋳造された銅材に生成されるホールが抑制され、線表面の傷が低減される。
【0023】
請求項6記載の耐密着性無酸素銅荒引線の製造装置は、請求項5記載の耐密着性無酸素銅荒引線の製造装置であって、前記脱ガス手段は、前記溶銅を攪拌する攪拌手段であることを特徴とする。
【0024】
この耐密着性無酸素銅荒引線の製造装置では、溶銅を攪拌することで溶銅中の水素を強制的に追い出して、脱水素処理が行える。すなわち、鋳造樋に、溶銅の当たる攪拌手段が設けられているので、タンディッシュへ移送される前の溶銅が攪拌手段に当たって攪拌され、非酸化雰囲気を形成するために吹き込まれた不活性ガスと、溶銅との接触性が良好となる。このとき、溶銅の水素分圧に対し不活性ガス中の水素分圧は極めて小さいため、溶銅中の水素は不活性ガス中に取り込まれ、溶銅の脱水素処理が行えるものである。
【0025】
請求項7記載の耐密着性無酸素銅荒引線の製造装置は、請求項6記載の耐密着性無酸素銅荒引線の製造装置であって、前記攪拌手段は、前記通過する溶銅の流路を蛇行させる堰により構成されていることを特徴とする。
【0026】
この耐密着性無酸素銅荒引線の製造装置では、鋳造樋を通過する溶銅は堰によって蛇行するように流され、激しい流れとなることで攪拌される。すなわち、溶銅自身の流れによって、自動的に攪拌されるようにできる。このように、溶銅は堰によって上下あるいは左右に激しく流れるため、鋳造樋を流れる溶銅は万遍なく不活性ガスと接触する機会があり、脱水素処理の効率が更に高められる。
この場合、例えば溶銅の流路に設けられる棒状、板状の堰が好適となる。また、この堰は、溶銅の流れ方向に複数、或いは溶銅の流れに直交する方向に複数設けられても良い。更に、この堰を、例えばカーボンによって作成すれば、溶銅とカーボンとの接触によって、脱酸処理も効率よく行うことができる。
【0027】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る耐密着性無酸素銅荒引線、その製造方法及び製造装置の好適な実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明に係る耐密着性無酸素銅荒引線の断面図、図2は本発明に係る製造方法で製造した荒引銅線の酸化被膜測定結果を示すグラフ図である。
【0028】
本実施の形態による耐密着性無酸素銅荒引線1は、図1に示す芯線部3に酸素が3〜10ppm、水素が1ppm以下の濃度で含有されるとともに、50〜500Åの厚さの総酸化被膜5を有している。総酸化被膜5は、芯線部3の外周を覆って形成される。この総酸化被膜5の一部にはCu2Oの酸化被膜7が存在している。Cu2Oの酸化被膜7を除く大部分は、CuOの酸化被膜9となっている。Cu2Oの酸化被膜7は、CuOの酸化被膜9より下層に形成される。但し、Cu2Oの酸化被膜7とCuOの酸化被膜9とは、明確な境界面とならない。むしろ、Cu2Oの酸化被膜7の一部分が、CuOの酸化被膜9内に侵出していることが予想される。
【0029】
また、総酸化被膜5のうちCu2Oの酸化被膜7の厚さが0.2〜90%の厚さであることが、線同士に密着の生じない範囲であることが、実際の耐密着性無酸素銅荒引線1を取り扱った上での経験から明らかとなっている。
【0030】
酸素の濃度、水素の濃度、及びCu2Oの酸化被膜7の厚さがこのような範囲に限定されることで、耐密着性無酸素銅荒引線1は、耐密着性、表面品質において顕著な効果を奏することが分かった。
即ち、酸素が3ppm未満の場合には、水素濃度が高くなり、脱水素が困難となる。水素濃度が高いと棒状銅材にブローホールが多く形成され、線表面に傷が生じて、線表面品質が低下する。
酸素が10ppm以上の場合には、水素脆化を生じる。
【0031】
水素が1ppm以上の場合には、線同士に密着が生じ易くなる。これは、上述したように、銅線中の水素の拡散係数が大きい為、焼鈍などの熱処理によって活性化されると、銅中の水素イオンが激しく移動し、この際線同士が接触していると水素イオンが銅線間を行き来し、これが密着の原因となるためである。
【0032】
総酸化被膜5が50Å未満の場合には、Cu2Oの酸化被膜7ができにくく、密着が生じ易くなる。
総酸化被膜5が500Åより厚い場合には、伸線加工時に銅粉が多く発生し、断線の原因となったり、ダイス磨耗が激しくなる。
【0033】
Cu2 Oの酸化被膜7が1Å未満の場合には、密着が生じ易くなる。Cu2 Oの酸化被膜の一部分が、CuOの酸化被膜内に侵出している構造が密着の防止に関与していると考えられる。
【0034】
図2に示すように、本発明で得られる荒引線の典型的な総酸化被膜5では、Cu2 Oの酸化被膜と、CuOの酸化被膜とが共に形成されていることが測定される。なお、同図の酸化被膜の測定は一般的な電位差法により行ったものである。
【0035】
従って、耐密着性無酸素銅荒引線1は、酸素が3〜10ppm、水素が1ppm以下の濃度で含有されることで、鋳造時のガスの放出が少なくなり、棒状銅材に生成されるホールが抑制されて、線表面の傷が低減される。
また、50〜500Åの総酸化被膜5を有し、且つ総酸化被膜の一部にCu2 Oの酸化被膜7が存在することで、線同士の密着が防止される。
また、水素濃度が1ppm以下に抑えられることも、密着の防止に寄与することになる。
【0036】
この耐密着性無酸素銅荒引線1によれば、ホールの生成を抑制して、線表面の傷を低減することができる。また、非酸化雰囲気中でのバッチ焼鈍などの熱処理を実施した場合の線同士の密着を防止することができる。さらに、後述するベルトキャスター方式の連続鋳造機Dで製造されることにより、低コストで長尺コイルを得ることができる。
【0037】
次に、上述した耐密着性無酸素銅荒引線1の製造装置について説明する。
図3は本発明に係る耐密着性無酸素銅荒引線の製造装置を概略的に示した構成図、図4は図3の鋳造樋を平面視(a)、側面視(b)で示した説明図である。
【0038】
本実施の形態による耐密着性無酸素銅荒引線の製造装置11は、その主要部が、溶解炉Aと、保持炉Bと、鋳造樋Cと、連続鋳造機Dと、圧延機Eと、コイラーFとから大別構成されている。
【0039】
図3に示すように、溶解炉Aとしては、円筒形の炉本体を有する、例えばシャフト炉が好適に用いられている。溶解炉Aの下部には、円周方向に複数のバーナー(図示略)が、上下方向に多段状に設けられている。この溶解炉Aでは、還元性の雰囲気で燃焼が行われて、溶銅(湯)がつくられる。還元性の雰囲気は、例えば、天然ガスと空気との混合ガスにおいて、燃料比を高めることで得られる。
【0040】
保持炉Bは、溶解炉Aから送られた湯を、所定の温度に保持したまま鋳造樋Cに送るためのものである。
鋳造樋Cは、保持炉Bから送られた湯を非酸化雰囲気でシールしてタンディッシュ15まで移送する。シールは、図2に示すように、鋳造樋Cの溶銅流路(溶銅の流路)31の上面を、カバー18により覆うことでなされる。この非酸化雰囲気は、例えば、窒素と一酸化炭素の混合ガスやアルゴン等の希ガスを不活性ガスとして、鋳造樋C内に吹き込むことで形成される。この鋳造樋Cには、通過する湯を脱水素処理する後述の攪拌手段(脱ガス手段)33が設けられている。
【0041】
タンディッシュ15には、湯の流れ方向終端に注湯ノズル19が設けられており、タンディッシュ15からの湯が連続鋳造機Dへ供給されるようになっている。
【0042】
保持炉Bには、鋳造樋Cを介して、ベルトキャスター方式の連続鋳造機Dが連結されている。この連続鋳造機Dは、周回移動する無端ベルト11と、この無端ベルト11に円周の一部を接触させて回転する鋳造輪13とにより構成される。連続鋳造機Dは、さらに圧延機Eと連結されている。
【0043】
圧延機Eは、連続鋳造機Dから出た棒状銅材35を圧延するものである。この圧延機Eは、ピックリング(図示略)を介して、コイラーFに連結されている。
【0044】
圧延機EとコイラーFとの間の適宜な位置には、アルコール洗浄装置29が設けられている。このアルコール洗浄装置29は、連続鋳造機Dから導出され圧延機Eで圧延された棒状銅材35をアルコール洗浄により還元するもので、アルコール洗浄の程度(例えば、洗浄時間、洗浄温度、アルコール濃度など)を調整することによりCu2Oの酸化被膜7を厚さ制御可能にしている。
【0045】
このように、溶解炉Aから保持炉Bへ移送された溶銅は、昇温された後、鋳造樋C、タンディッシュ15を経て連続鋳造機Dに供給され、連続鋳造機Dにおいて連続鋳造され、連続鋳造機Dを出たところで棒状銅材35に成形される。この棒状銅材35は、圧延機Eによって圧延されアルコール洗浄装置29によってアルコール洗浄されて、耐密着性無酸素銅荒引線に加工可能な荒引銅線37となり、コイラーFに巻回される。
【0046】
ここで、上述したように、表面品質の良い低酸素銅荒引線を製造するためには、脱酸及び脱水素が重要となる。本実施形態では、図5に示すように、脱水素処理を含む脱ガスの手段として、鋳造樋C中の溶銅流路31に攪拌手段(脱ガス手段)33を設けている。この攪拌手段33は、堰33a、33b、33c、33dから構成されており、湯が激しく攪拌されながら流れるようにしている。
【0047】
堰33aは、溶銅流路31の上側、すなわちカバー8に設けられている。また、堰33bは溶銅流路31の下側に、堰33cは溶銅流路31の左側に、堰33dは溶銅流路31の右側に、各々設けられている。これら堰33a、33b、33c、33dによって、湯は上下左右に蛇行しながら図2中矢印方向に流れることで激しい流れとなって攪拌され、脱ガス処理が行えるものである。なお、図2(b)においては、湯面を符号32として示している。
堰33c、33dは、溶銅流路31の実際の長さに対して湯の流路を長くし、仮に鋳造樋Cが短尺であっても、脱ガス処理の効率を高めるとことができるものである。また、堰33a、33bは、脱ガス処理前後の溶銅と雰囲気ガスとの混合を防止する役目を果たすものである。
なお、この攪拌手段33は、主として脱水素処理の行うためのものであるが、湯が攪拌されることで、湯中に残存している酸素も追い出すことができる。すなわち、脱ガス処理として、脱水素処理と2度目の脱酸処理との両方が行われる。これら堰33a、33b、33c、33dを、例えばカーボンによって作成するようにすれば、溶銅とカーボンとの接触によって、脱酸処理も効率よく行うことができる。
【0048】
ベルトキャスター方式の連続鋳造機Dでは、溶銅の貯蔵と昇温のために上記の保持炉Bを設ける必要があるが、本実施の形態での脱ガス処理は、この保持炉B以降の移送過程において行う必要がある。その理由は、低酸素銅線を得るために保持炉Bでは還元雰囲気の燃焼、若しくは還元剤による脱酸を行うため、上記の平衡式(A)の関係から必然的に水素濃度が上昇するためである。
【0049】
さらに、脱ガス処理を行う位置としては、鋳造直前にあるタンディッシュ15での脱ガス処理も好ましくない。その理由は、タンディッシュ15で湯が激しく攪拌されるような動作、例えばバブリングを行うと、湯面が激しく振動し、注湯ノズル19から出る湯のヘッド圧が変動し、安定した溶銅が連続鋳造機Dへ供給されないためである。一方、湯面が激しく振動しない程度では、脱ガスの効果は期待できない。このことからも、保持炉Bからタンディッシュ15までの移送過程において脱ガス処理を行うのが好ましい。
【0050】
このように構成される耐密着性無酸素銅荒引線の製造装置11を用いての、耐密着性無酸素銅荒引線1の製造方法について説明する。
耐密着性無酸素銅荒引線1を製造するには、先ず、溶解炉Aにおいて還元性の雰囲気で燃焼が行われ、溶銅が脱酸される。脱酸された溶銅は、鋳造樋Cにおいて非酸化雰囲気でシールされてタンディッシュ15まで移送される。溶解炉Aにおいて脱酸された溶銅は、酸素濃度と水素濃度とが反比例の関係となることから、水素濃度が高くなる。この水素濃度が高くなった溶銅は、鋳造樋Cを通過する際に、攪拌手段33によって脱水素処理される。
【0051】
これにより、溶銅が、酸素20ppm以下、水素1ppm以下に調整される。このようにして、酸素濃度及び水素濃度を調整した後の溶銅を鋳造・圧延することで鋳造時のガスの放出が少なくなり、棒状銅材35に生成されるホールが抑制され、線表面の傷が低減される。これにより、表面品質の良好な荒引銅線37が得られる。
【0052】
また、平衡式(A)の関係から、水蒸気分圧を下げることで溶銅のガス濃度が低下するため、脱水素処理を施す前の溶銅と脱水素処理後の溶銅を完全に分離することができ、さらなる脱ガス効果を得ることが可能になる。これは、例えば移送過程において、上記のように攪拌手段33を設けることで実現できる。即ち、この攪拌手段33は、脱水素処理前後の雰囲気ガスの混合と、溶銅の混合とを防止する役目も果たすことになる。
【0053】
この耐密着性無酸素銅荒引線1の製造方法によれば、溶銅が非酸化雰囲気でシールされ、さらに、脱ガス手段によって脱水素処理されるので、水素濃度を低くすることができ、凝固時のホールの生成を抑制することができる。また、棒状銅材35に施すアルコール洗浄の程度を調整することにより、Cu2Oの酸化被膜7を、密着が抑制される最適な厚さに容易に制御することができる。さらに、ベルトキャスター方式などの連続鋳造機Dを用いることができるので、耐密着性無酸素銅荒引線1を、安価に、且つ大量生産することができる。
【0054】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように、本発明に係る耐密着性無酸素銅荒引線にあっては、酸素が3〜10ppm、水素が1ppm以下の濃度で含有されるので、ホールの生成を抑制して、線表面の傷を低減することができる。また、50〜500Åの総酸化被膜を有し、且つ該総酸化被膜の一部にCu2Oの酸化被膜が存在するので、非酸化雰囲気中でのバッチ焼鈍などの熱処理を実施した場合の線同士の密着を防止することができる。さらに、ベルトキャスター方式の連続鋳造機で製造されることにより、低コストで長尺コイルを得ることができる。
【0055】
また、本発明に係る耐密着性無酸素銅荒引線の製造方法及び製造装置にあっては、溶解炉において還元性の雰囲気で燃焼が行われ、溶解炉からタンディッシュまで移送される溶銅が鋳造樋において非酸化雰囲気でシールされ、さらに、この鋳造樋を通過する溶銅が脱ガス手段によって脱水素処理されるので、還元によって脱酸するほど高くなる水素濃度を低くすることができ、凝固時のホールの生成を抑制することができる。また、連続鋳造機から導出された棒状銅材に施すアルコール洗浄の程度を調整することにより、Cu2Oの酸化被膜を、密着が抑制される最適な厚さに容易に制御することができる。さらに、ベルトキャスター方式などの連続鋳造機を用いることができるので、表面品質の良好な耐密着性無酸素銅荒引線を、安価に、且つ大量生産することができる。
【0056】
また、脱ガス手段を、溶銅を攪拌する攪拌手段とすれば、短時間で強制的に脱水素処理が行えるので、簡易な構成で効率よく脱水素処理を行うことができる。更に、攪拌手段を、通過する溶銅の流路を蛇行させる堰により構成すれば、溶銅自身の流れによって自動的に攪拌されるので、特別にアジテーター等を用いなくてよく、より簡易な構成で効率よく脱水素処理を行うことができるとともに、耐密着性無酸素銅荒引線の製造装置の運転管理も容易にできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る耐密着性無酸素銅荒引線の断面図である。
【図2】 本発明に係る製造方法で製造した荒引銅線の酸化被膜測定結果を示すグラフ図である。
【図3】 本発明に係る耐密着性無酸素銅荒引線の製造装置を概略的に示した構成図である。
【図4】 図3の鋳造樋を平面視(a)、側面視(b)で示した断面図である。
【図5】 ディップフォーミング法で製造した荒引銅線の酸化被膜測定結果を示すグラフ図である。
【符号の説明】
1 耐密着性無酸素銅荒引線
5 総酸化被膜
7 Cu2Oの酸化被膜
9 CuOの酸化被膜
11 耐密着性無酸素銅荒引線の製造装置
15 タンディッシュ
29 アルコール洗浄装置
31 溶銅流路
33 攪拌手段(脱ガス手段)
33a、33b、33c、33d 堰
35 棒状銅材
A 溶解炉
B 保持炉
C 鋳造樋
D 連続鋳造機

Claims (7)

  1. 酸素が3〜10ppm、水素が1ppm以下の濃度で含有されるとともに、50〜500Åの厚さの総酸化被膜を有し、且つ該総酸化被膜の一部にCu2Oの酸化被膜が存在することを特徴とする耐密着性無酸素銅荒引線。
  2. 前記総酸化被膜のうちCu2Oの酸化被膜の厚さが0.2〜90%の厚さであることを特徴とする請求項1記載の耐密着性無酸素銅荒引線。
  3. ベルトキャスター方式の連続鋳造機で製造されることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の耐密着性無酸素銅荒引線。
  4. 溶銅を連続鋳造機に供給し、該連続鋳造機から導出された棒状銅材から無酸素銅荒引線を連続的に製造する耐密着性無酸素銅荒引線の製造方法であって、
    溶解炉の還元性雰囲気で燃焼を行い溶銅をつくる工程と、
    該溶解炉から送られた溶銅を、非酸化雰囲気でシール可能な鋳造樋を用いてタンディッシュまで移送する工程と、
    該鋳造樋を通過する溶銅に対して脱水素処理する工程と、
    前記タンディッシュから供給された溶銅を連続鋳造機によって鋳造して棒状銅材に成形する工程と、
    前記連続鋳造機から導出された棒状銅材に施すアルコール洗浄の程度を調整することにより酸化被膜の厚さを制御する工程と
    を含むことを特徴とする耐密着性無酸素銅荒引線の製造方法。
  5. 溶銅を連続鋳造機に供給し、該連続鋳造機から導出された棒状銅材から無酸素銅荒引線を連続的に製造する耐密着性無酸素銅荒引線の製造装置であって、
    還元性の雰囲気で燃焼を行い溶銅をつくる溶解炉と、
    該溶解炉から送られた溶銅を所定の温度に保持する保持炉と、
    該保持炉から送られた溶銅を非酸化雰囲気でシールしてタンディッシュまで移送する鋳造樋と、
    該鋳造樋に設けられ通過する溶銅を脱水素処理する脱ガス手段と、
    前記タンディッシュから供給された溶銅を鋳造して棒状銅材に成形する連続鋳造機と、
    連続鋳造機から導出された棒状銅材に施すアルコール洗浄の程度を調整することにより酸化被膜の厚さを制御するアルコール洗浄装置と、
    を具備したことを特徴とする耐密着性無酸素銅荒引線の製造装置。
  6. 前記脱ガス手段は、前記溶銅を攪拌する攪拌手段であることを特徴とする請求項5記載の耐密着性無酸素銅荒引線の製造装置。
  7. 前記攪拌手段は、前記通過する溶銅の流路を蛇行させる堰により構成されていることを特徴とする請求項6記載の耐密着性無酸素銅荒引線の製造装置。
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