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JP3901068B2 - 内燃機関の筒内吸入空気量推定装置 - Google Patents

内燃機関の筒内吸入空気量推定装置 Download PDF

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JP3901068B2
JP3901068B2 JP2002283491A JP2002283491A JP3901068B2 JP 3901068 B2 JP3901068 B2 JP 3901068B2 JP 2002283491 A JP2002283491 A JP 2002283491A JP 2002283491 A JP2002283491 A JP 2002283491A JP 3901068 B2 JP3901068 B2 JP 3901068B2
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関のシリンダ内に吸入される筒内吸入空気量を吸気系のモデル(シミュレーションモデル、物理モデル)に基づいて推定する内燃機関の筒内吸入空気量推定装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
内燃機関により燃焼される混合気の空燃比を所定の値とするためには、同内燃機関のシリンダ内(筒内、燃焼室内)に吸入される空気の量(以下、「筒内吸入空気量Mc」と称呼する。)を精度良く求める必要がある。通常、内燃機関の吸気通路には空気流量センサが備えられ、この空気流量センサの出力値により筒内吸入空気量Mcが推定される。ところが、スロットルバルブ開度が時間的に大きく変化する場合等、内燃機関が過渡運転状態にある場合、前記空気流量センサの出力値から筒内吸入空気量Mcを精度良く求めることは困難である。そこで、近年においては、流体力学等に基づく式により表される吸気系のモデルを用いることにより、筒内吸入空気量Mcに応じた値を精度良く推定する種々の試みがなされている(例えば、下記特許文献1を参照)。図22は、このような筒内吸入空気量推定装置のうち、本願の出願人が検討しているものを概念的に示していて、この筒内吸入空気量推定装置は、電子制御スロットルモデルM10、スロットルモデルM20、吸気弁モデルM30、及び吸気管モデルM40を備えている。
【0003】
ところで、筒内吸入空気量Mcは、吸気弁が閉弁するとき(吸気弁閉時)に確定し、その時点でのシリンダ内の圧力と比例する関係がある。また、吸気弁閉弁時のシリンダ内の圧力は吸気弁の上流であってスロットルバルブの下流の圧力、即ち吸気管内の空気圧力(吸気管圧力)Pmと等しいとみなすことができる。以上のことから、図22に示した筒内吸入空気量推定装置は、モデルM10〜M40により吸気弁閉時の吸気管内空気圧力Pmを推定し、同推定した吸気管内空気圧力Pmから筒内吸入空気量Mcを推定するようになっている。
【0004】
より具体的に述べると、電子制御スロットルモデルM10は、吸気弁閉時のスロットルバルブ開度θtを推定するようになっている。スロットルモデルM20は、スロットルバルブを通過する空気流量(推定スロットル通過空気流量)mtを、エネルギー保存則、運動量保存則、質量保存則、及び状態方程式に基づいて得られたモデルにより推定するようになっている。
【0005】
吸気弁モデルM30は、吸気管内空気圧力Pm、吸気管内空気温度Tm、及び吸気温度Ta等から筒内吸入空気流量(推定吸気弁通過空気流量)mcを推定するようになっている。即ち、上述したように、筒内吸入空気流量mcは吸気管内空気圧力Pmに比例すると考えられるから、吸気弁モデルM30は経験則に基づく下記数1にしたがって筒内吸入空気流量mcを求める。
【0006】
【数1】
mc =(Ta/Tm)・(c・Pm−d)
【0007】
上記数1において、値cは比例係数、値dは筒内に残存していた既燃ガスを表す値(この値は、排気弁閉弁時の筒内ガス量と考えられる。以下、簡単に「既燃ガス量d」と云う。)である。吸気弁モデルM30は、エンジン回転速度Ne、吸気弁の開閉タイミングVT、及び吸気弁最大リフト量Lmax等と、比例係数c、及び既燃ガス量dとの関係をそれぞれ規定するテーブル(ルックアップテーブル、マップ)を記憶していて、実際のエンジン回転速度Ne、実際の吸気弁開閉タイミングVT、及び吸気弁最大リフト量Lmaxと、前記記憶しているテーブルとから比例係数c、及び既燃ガス量dを求める。また、吸気弁モデルM30は、演算時点において、後述する吸気管モデルM40により既に推定されている直前(最新)の吸気弁閉時の吸気管内空気圧力Pmと吸気管内空気温度Tmとを上記数1に適用し、筒内吸入空気流量mcを推定する。
【0008】
吸気管モデルM40は、質量保存則とエネルギー保存則とにそれぞれ基づいた式にしたがって、スロットルモデルM20により推定されたスロットル通過空気流量mtと、吸気弁モデルM30により推定された筒内吸入空気流量mcとを用いて、吸気弁閉時の吸気管内空気圧力Pmを推定するようになっている。そして、この筒内吸入空気量推定装置は、前記吸気管モデルM40により推定された吸気弁閉時の吸気管内空気圧力Pmに基づいて筒内吸入空気量Mcを推定するようになっている。
【0009】
【特許文献1】
特開平6−74076号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
この種の筒内吸入空気量推定装置に対して、本願の出願人は、実際の筒内吸入空気量と前述のように推定された筒内吸入空気量Mcとの定常的な誤差を小さくし、同推定された筒内吸入空気量Mcの推定精度を向上させるため、以下のようなオブザーバを追加することを検討している(特願2001−316350を参照)。
【0011】
即ち、このオブザーバは、内燃機関の吸気通路に配設されるとともに同吸気通路に吸入される実際の吸入空気流量(実吸入空気流量)mtAFMを計測するエアフローメータ(空気流量センサ)と、同エアフローメータについてのモデルであるエアフローメータモデルを使用して、前記実吸入空気流量が前記スロットルモデルM20により推定された推定スロットル通過空気流量mtであると仮定した場合に同エアフローメータが出力するであろう出力値を推定するとともに同推定した出力値に基いて前記吸気通路に吸入される吸入空気流量を推定吸入空気流量mtesとして推定する吸入空気流量推定手段とを備え、推定吸入空気流量mtesと実吸入空気流量mtAFMとの偏差に応じて同スロットルモデルM20により推定された推定スロットル通過空気流量mtを補正するようになっている。
【0012】
このようなオブザーバを追加したことにより、例えば、推定吸入空気流量mtesが実吸入空気流量mtAFMよりも小さい場合、推定スロットル通過空気流量mtが推定吸入空気流量mtesと実吸入空気流量mtAFMとの偏差に応じた量だけ大きく設定されて、この結果、スロットルバルブ下流の前記吸気管内空気圧力Pmが増大することにより筒内吸入空気量Mcが増大する。同様に、推定吸入空気流量mtesが実吸入空気流量mtAFMよりも大きい場合、筒内吸入空気量Mcが減少する。このようにして、実際の筒内吸入空気量と推定された筒内吸入空気量Mcとの定常的な誤差が小さくなる。
【0013】
しかしながら、内燃機関がスロットルバルブ開度が最大の開度で一定となるスロットル全開定常運転状態にある場合、スロットルバルブ下流の吸気管内空気圧力Pmはスロットルバルブ上流の圧力(即ち、大気圧Pa)よりも僅かに小さい値にまで大きくなっている。従って、内燃機関が前記スロットル全開定常運転状態にあって、且つ推定吸入空気流量mtesが実吸入空気流量mtAFMよりも小さい場合、上記オブザーバによる推定スロットル通過空気流量mtの増大により前記吸気管内空気圧力Pmが増大せしめられると、同吸気管内空気圧力Pmが直ちに大気圧Paよりも大きくなってスロットルモデルM20により推定される推定スロットル通過空気流量mtが直ちに負の値(逆流を示す値)となる。よって、スロットルバルブ下流の吸気管内空気圧力Pmは増大できないことから筒内吸入空気量Mcも増大せず、この結果、実際の筒内吸入空気量と推定された筒内吸入空気量Mcとの定常的な誤差が残存してしまう場合があるという問題があった。
【0014】
従って、本発明の目的は、内燃機関のシリンダ内に吸入される筒内吸入空気量を吸気系のモデルに基づいて推定する内燃機関の筒内吸入空気量推定装置であって、実際の筒内吸入空気量と推定した筒内吸入空気量との定常的な誤差を効果的に低減することができるものを提供することにある。
【0015】
【本発明の概要】
本発明の特徴は、内燃機関の吸気通路に配設されたスロットルバルブを通過する空気についてのモデルを使用して同スロットルバルブを通過する空気流量を推定スロットル通過空気流量として推定するスロットル通過空気流量推定手段と、前記吸気通路とシリンダとを連通・遮断する吸気弁を通過する空気についてのモデルを使用して同吸気弁を通過する空気流量を推定吸気弁通過空気流量として推定する吸気弁通過空気流量推定手段と、少なくとも前記推定スロットル通過空気流量と前記推定吸気弁通過空気流量とに基いて前記シリンダに吸入される筒内吸入空気量を推定する筒内吸入空気量推定手段と、を備えた内燃機関の筒内吸入空気量推定装置が、前記吸気通路に吸入される実際の吸入空気流量に応じた出力値を発生するとともに同実際の吸入空気流量を実吸入空気流量として計測する空気流量センサと、前記空気流量センサについてのモデルを使用して、前記実吸入空気流量が前記推定スロットル通過空気流量であると仮定した場合に同空気流量センサが出力するであろう出力値を推定するとともに同推定した出力値に基いて前記吸気通路に吸入される吸入空気流量を推定吸入空気流量として推定する吸入空気流量推定手段と、前記推定吸入空気流量と前記実吸入空気流量との偏差に基いて前記推定吸気弁通過空気流量を補正するように前記吸気弁通過空気流量推定手段を補正する補正手段とを備えたことにある。
【0016】
ここにおいて、前記補正手段は、前記吸気弁通過空気流量推定手段により推定された前記推定吸気弁通過空気流量を直接補正するように同吸気弁通過空気流量推定手段を補正するよう構成されていても、同吸気弁通過空気流量推定手段が同推定吸気弁通過空気流量を推定する際に所定のパラメータ(係数)を使用する場合には、同所定のパラメータを補正し、その結果として同推定吸気弁通過空気流量を補正するように同吸気弁通過空気流量推定手段を補正するよう構成されてもよい。
【0017】
また、この場合、前記補正手段は、前記推定吸入空気流量と前記実吸入空気流量との偏差に基いて前記推定スロットル通過空気流量を補正するように前記スロットル通過空気流量推定手段をも補正するよう構成されることが好適である。この場合も、前記補正手段は、前記スロットル通過空気流量推定手段により推定された前記推定スロットル通過空気流量を直接補正するように同スロットル通過空気流量推定手段を補正するように構成されていても、同スロットル通過空気流量推定手段が同推定スロットル通過空気流量を推定する際に所定のパラメータ(係数)を使用する場合には、同所定のパラメータを補正し、その結果として同推定スロットル通過空気流量を補正するように同スロットル通過空気流量推定手段を補正するよう構成されてもよい。
【0018】
これらによれば、補正手段により、推定吸入空気流量と実吸入空気流量との偏差に基いて推定吸気弁通過空気流量を補正するように吸気弁通過空気流量推定手段が補正される。従って、推定吸入空気流量が実吸入空気流量よりも小さい場合、上記発明が解決しようとする課題の欄にて述べたように上記スロットルバルブ下流の吸気管内空気圧力Pmを増大せしめることなく、直接的に推定吸気弁通過空気流量(筒内吸入空気流量mc)を増大せしめることができ、その結果、筒内吸入空気量推定手段により推定されるシリンダに吸入される筒内吸入空気量(Mc)を増大せしめることが可能となる。
【0019】
従って、内燃機関がスロットルバルブ開度が最大の開度で一定となる上述したスロットル全開定常運転状態にある場合であっても、前記推定吸入空気流量と前記実吸入空気流量との大小関係に拘わらず実際の筒内吸入空気量と推定された筒内吸入空気量(Mc)との定常的な誤差を確実に低減することができ、その結果、内燃機関により燃焼される混合気の空燃比を精度良く所定の値とすることができる。
【0020】
また、上記したいずれかの内燃機関の筒内吸入空気量推定装置は、エネルギー保存則に基づいて求められた前記シリンダについてのモデルを使用して同シリンダ内の圧力を計算により推定する筒内圧力推定手段を備え、前記吸気弁通過空気流量推定手段は、前記推定されたシリンダ内の圧力を使用した前記吸気弁を通過する空気についてのモデルにより前記推定吸気弁通過空気流量を推定するように構成されることが好適である。
【0021】
これによれば、シリンダ内の圧力(筒内圧力)が計算により求められる。また、筒内圧力が求められれば、吸気弁通過空気流量推定手段は、同筒内圧力を使用した「吸気弁を通過する空気についてのモデル」により推定吸気弁通過空気流量(筒内吸入空気流量mc)を計算により求めることが可能となる。従って、多くのパラメータの組み合わせに対するテーブル値(上記比例係数c、及び既燃ガス量d等)の適合を行うことなく、筒内吸入空気量(Mc)を精度良く求めることが可能となる。
【0022】
この場合、前記吸気弁通過空気流量推定手段が使用する前記吸気弁を通過する空気についてのモデルは、エネルギー保存則、運動量保存則、及び質量保存則に基いて得られたモデルであることが好適である。これによれば、経験則ではなく、物理法則にしたがって表されたモデル(式)により推定吸気弁通過空気流量(筒内吸入空気流量mc)を計算することができるので、筒内吸入空気量(Mc)の推定精度を向上することができる。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明による内燃機関の筒内吸入空気量推定装置を含む燃料噴射量制御装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、この燃料噴射量制御装置を火花点火式多気筒(例えば、4気筒)内燃機関10に適用したシステムの概略構成を示している。
【0024】
内燃機関10は、シリンダブロック、シリンダブロックロワーケース、及びオイルパン等を含むシリンダブロック部20と、シリンダブロック部20の上に固定されるシリンダヘッド部30と、シリンダブロック部20にガソリン混合気を供給するための吸気系統40と、シリンダブロック部20からの排ガスを外部に放出するための排気系統50とを含んでいる。
【0025】
シリンダブロック部20は、シリンダ21、ピストン22、コンロッド23、及びクランク軸24を含んでいる。ピストン22はシリンダ21内を往復動し、ピストン22の往復動がコンロッド23を介してクランク軸24に伝達され、これにより同クランク軸24が回転するようになっている。シリンダ21とピストン22のヘッドは、シリンダヘッド部30とともに燃焼室25を形成している。
【0026】
シリンダヘッド部30は、燃焼室25に連通した吸気ポート31、吸気ポート31を開閉する吸気弁32、吸気弁32を駆動するインテークカムシャフトを含むとともに同インテークカムシャフトの位相角及び同吸気弁32のバルブリフト量(最大バルブリフト量)を連続的に変更し得る吸気弁制御装置33、吸気弁制御装置33のアクチュエータ33a、燃焼室25に連通した排気ポート34、排気ポート34を開閉する排気弁35、排気弁35を駆動するエキゾーストカムシャフト36、点火プラグ37、点火プラグ37に与える高電圧を発生するイグニッションコイルを含むイグナイタ38、及び燃料を吸気ポート31内に噴射するインジェクタ(燃料噴射手段)39を備えている。
【0027】
吸気系統40は、吸気ポート31に連通し同吸気ポート31とともに吸気通路を形成するインテークマニホールドを含む吸気管41、吸気管41の端部に設けられたエアフィルタ42、吸気管41内にあって吸気通路の開口断面積を可変とするスロットルバルブ43、及びスワールコントロールバルブ(以下、「SCV」と称呼する。)44を備えている。スロットルバルブ43は、DCモータからなるスロットルバルブアクチュエータ43aにより吸気管41内で回転駆動されるようになっている。SCV44は、前記スロットルバルブ43よりも下流で前記インジェクタ39よりも上流の位置にて前記吸気管41に対し回動可能に支持されるとともに、DCモータからなるSCVアクチュエータ44aにより回転駆動されるようになっている。
【0028】
図2は、一つの気筒(特定の気筒)の燃焼室25、及び同燃焼室25の近傍部分の概略平面図である。図2に示したように、前記吸気ポート31は、実際には各気筒に一対ずつ設けられた吸気ポート31a,31bからなっている。吸気ポート31aは、燃焼室25内にスワール(旋回流)を発生させるようにヘリカル状に形成され所謂スワールポートを構成し、吸気ポート31bは所謂ストレートポートを構成している。吸気管41のサージタンク(図1において符号SGにより示す。)から各燃焼室25に至る部分(即ち、インテークマニホールドの一部)には、吸気管41の長手方向に沿って伸びる隔壁41aが形成されていて、これにより吸気管41は吸気ポート31aに連通する第1インテークマニホールド45と、吸気ポート31bに連通する第2インテークマニホールド46とに区画されている。隔壁41aの適宜個所には第1,第2インテークマニホールド45,46を連通する連通路41bが形成されていて、前記インジェクタ39は同連通路41bの近傍位置に固定され、吸気ポート31a,31bに向けて燃料を噴射するようになっている。
【0029】
前記SCV44は、第2インテークマニホールド46に備えられている。従って、SCV44が第2インテークマニホールド46を閉塞すると、空気(混合気)が主として吸気ポート31aを通過して燃焼室25内に吸入され、同燃焼室25内にスワールが発生し、これにより超希薄空燃比での燃焼が可能となる。一方、SCV44が第2インテークマニホールド46を開放すると、空気が両吸気ポート31a,31bを通過して燃焼室25内に吸入され、これにより、燃焼室25に吸入される空気量が増加し、機関の出力を増大させることが可能となる。
【0030】
再び図1を参照すると、排気系統50は、排気ポート34に連通したエキゾーストマニホールド51、エキゾーストマニホールド51に接続されたエキゾーストパイプ52、及びエキゾーストパイプ52に介装された触媒コンバータ(三元触媒装置)53を備えている。
【0031】
一方、このシステムは、空気流量センサとしての熱線式エアフローメータ61、吸気温センサ62、大気圧センサ(スロットルバルブ上流圧力センサ)63、スロットルポジションセンサ64、SCV開度センサ65、カムポジションセンサ66、吸気弁リフト量センサ67、クランクポジションセンサ68、水温センサ69、O2センサ70、及びアクセル開度センサ71を備えている。
【0032】
エアフローメータ61は、概略斜視図である図3に示したように、吸気管41内を流れる吸入空気の一部をバイパスさせるバイパス通路と、このバイパス通路にバイパスされた吸入空気の質量流量を計測する熱線計量部61aと、計測された質量流量に応じた電圧Vg(出力値)を出力する信号処理部61bとからなっている。熱線計量部61aは、その拡大斜視図である図4に示したように、白金熱線からなる吸気温計測用抵抗(ボビン部)61a1と、同吸気温計測用抵抗61a1を前記信号処理部61bに連結して保持するサポート部61a2と、加熱用抵抗(ヒータ)61a3と、同加熱用抵抗61a3を前記信号処理部61bに連結して保持するサポート部61a4とを備えている。信号処理部61bは、吸気温計測用抵抗61a1と加熱用抵抗61a3とで構成されるブリッジ回路を有し、このブリッジ回路により吸気温計測用抵抗61a1と加熱用抵抗61a3との温度差を常に一定に維持するように同加熱用抵抗61a3に供給する電力を調整するとともに、この供給する電力を前記電圧Vgに変換して出力するようになっている。エアフローメータ61の出力Vgと実吸入空気流量としての吸入空気流量mtAFMの関係は図5に示したとおりである。
【0033】
吸気温センサ62は、エアフローメータ61内に備えられていて、吸入空気の温度を検出し、吸気温度Taを表す信号を出力するようになっている。大気圧センサ63は、スロットルバルブ43の上流の圧力(即ち、大気圧)を検出し、スロットルバルブ上流圧力Paを表す信号を出力するようになっている。スロットルポジションセンサ64は、スロットルバルブ43の開度(スロットルバルブ開度)を検出し、スロットルバルブ開度TAを表す信号を出力するようになっている。SCV開度センサ65は、SCV44の開度を検出し、SCV開度θivを表す信号を出力するようになっている。
【0034】
カムポジションセンサ66は、インテークカムシャフトが90°回転する毎に(即ち、クランク軸24が180°回転する毎に)一つのパルスを有する信号(G2信号)を発生するようになっている。吸気弁リフト量センサ67は、吸気弁31のリフト量を検出し、吸気弁が全閉のとき「0」の値をとる吸気弁リフト量Lを表す信号を出力するようになっている。クランクポジションセンサ68は、クランク軸24が10°回転する毎に幅狭のパルスを有するとともに同クランク軸24が360°回転する毎に幅広のパルスを有する信号を出力するようになっている。この信号は、エンジン回転速度Neを表す。水温センサ69は、内燃機関10の冷却水の温度を検出し、冷却水温THWを表す信号を出力するようになっている。O2センサ70は、触媒コンバータ53に流入する排ガス中の酸素濃度に応じた信号を出力するようになっている。アクセル開度センサ71は、運転者によって操作されるアクセルペダル82の操作量Accpを表す信号を出力するようになっている。
【0035】
電気制御装置80は、互いにバスで接続されたCPU81、CPU81が実行するプログラム、テーブル(マップ)、定数等を予め記憶したROM82、CPU81が必要に応じてデータを一時的に格納するRAM83、電源が投入された状態でデータを格納するとともに同格納したデータを電源が遮断されている間も保持するバックアップRAM84、及びADコンバータを含むインターフェース85等からなるマイクロコンピュータである。インターフェース85は、前記センサ61〜71と接続され、CPU81にセンサ61〜71からの信号を供給するとともに、同CPU81の指示に応じて吸気弁制御装置33のアクチュエータ33a、イグナイタ38、インジェクタ39、スロットルバルブアクチュエータ43a、及びSCVアクチュエータ44aに駆動信号を送出するようになっている。
【0036】
次に、上記のように構成された燃料噴射量制御装置によるシミュレーションモデルを用いた燃料噴射量の決定方法(筒内吸入空気量Mcの推定方法)について説明する。以下に述べる処理は、CPU81がプログラムを実行することによりなされる。
【0037】
(燃料噴射量fcの決定方法・筒内吸入空気量Mcの推定方法)
燃料噴射量制御装置は、吸気行程にある気筒の吸気弁32が閉じる前に同気筒に対して燃料を噴射しなければならない。また、燃焼室25内に直接的に燃料を噴射する形式の内燃機関であっても、吸気行程が終了する前に燃料を噴射する必要がある。このため、燃料噴射量制御装置は、吸気弁32が閉じた時点で(即ち、吸気弁閉時に)同気筒内に吸入されているであろう筒内吸入空気量Mcを吸気弁が閉弁する前に予測し、下記数2に基づいて燃料噴射量(基本噴射量)fcを決定する。数2において、Kは運転状態に応じて変化する設定空燃比に基づく係数である。
【0038】
【数2】
fc =K・Mc
【0039】
より具体的に述べると、燃料噴射量制御装置(筒内吸入空気量推定装置)は、図6に示したように、電子制御スロットルモデルM1、スロットルモデルM2、吸気管モデルM3、吸気弁モデルM4、及びシリンダモデルM5のシミュレーションモデルを用いて筒内吸入空気量Mcを推定する。なお、スロットルモデルM2はスロットル通過空気流量推定手段として機能し、吸気弁モデルM4は吸気弁通過空気流量推定手段として機能し、シリンダモデルM5は筒内圧力推定手段として機能するとともに、前記モデルM1〜M5はシリンダ21内に吸入される筒内吸入空気量Mcを推定する筒内吸入空気量推定手段を構成する。
【0040】
(電子制御スロットルモデルM1)
電子制御スロットルモデルM1は、現時点までのアクセルペダル操作量Accpに基づいて現時点から所定時間T0先の時刻tにおけるスロットルバルブ開度θtを推定するモデルである。本実施形態においては、スロットルバルブ電子制御ロジックA1にて、アクセル開度センサ71により検出されたアクセルペダル操作量Accpと、図7に示したアクセルペダル操作量Accpと目標スロットルバルブ開度θrとの関係を規定するテーブルとに基づいて暫定的な目標スロットルバルブ開度θr1が求められ、この暫定的な目標スロットルバルブ開度θr1を所定時間T(例えば、64msec)だけ遅延させた値が最終的な目標スロットルバルブ開度θrとして決定される。そして、スロットルバルブ電子制御ロジックA1(電気制御装置80)は、実際のスロットルバルブ開度TAが目標スロットルバルブ開度θrとなるようにスロットルバルブアクチュエータ43aに対して駆動信号を送出する。
【0041】
このように、目標スロットルバルブ開度θrは、現時点から所定時間Tだけ前の時点におけるアクセルペダル操作量Accpに応じて決定された暫定的な目標スロットルバルブ開度θr1と等しいから、現時点から所定時間T0だけ先の時刻tにおける目標スロットルバルブ開度θrは現時点から時間(T−T0)前における暫定的な目標スロットルバルブ開度θr1と等しい。また、現時点から時間(T−T0)前における暫定的な目標スロットルバルブ開度θr1は、スロットルバルブアクチュエータ43aの作動遅れ時間を無視すれば、スロットルバルブ開度θtと等しい。このような考えに基づき、電子制御スロットルモデルM1は、現時点から所定時間T0だけ先の時刻tにおけるスロットルバルブ開度θtを推定する。即ち、現時点から時間(T−T0)前における暫定的な目標スロットルバルブ開度θr1を現時点から所定時間T0だけ先の時刻tにおけるスロットルバルブ開度θtとして推定する。なお、スロットルバルブアクチュエータ43aの作動遅れ時間を考慮に加えて、スロットルバルブ開度θtを推定してもよい。
【0042】
(スロットルモデルM2)
スロットルモデルM2は、スロットルバルブ43を通過する空気流量(推定スロットル通過空気流量)mtを、エネルギー保存則、運動量保存則、質量保存則、及び状態方程式等の物理法則に基づいて得られた下記数3及び下記数4に基づいて推定するモデルである。下記数3及び下記数4において、Ct(θt)はスロットルバルブ開度θtに応じて変化する流量係数、At(θt)はスロットルバルブ開度θtに応じて変化するスロットル開口面積(吸気管41の開口面積)、Paはスロットルバルブ上流圧力(即ち、大気圧)、Pmは吸気管内空気圧力(吸気管圧力)、Taは吸気温度(大気温度)、Tmは吸気管内空気温度、Rは気体定数、及びκは比熱比(以下、κを一定値として扱う。)である。スロットルモデルM2は、スロットルバルブ上流圧力Paが吸気管内空気圧力Pmより大きい順流の場合に数3を使用し、スロットルバルブ上流圧力Paが吸気管内空気圧力Pmより小さい逆流の場合に数4を使用する。この結果、スロットル通過空気流量mtは、前記順流の場合に正の値を、前記逆流の場合に負の値をそれぞれ採るように計算される。
【0043】
【数3】
Figure 0003901068
【0044】
【数4】
Figure 0003901068
【0045】
上記数3及び数4において、θtは電子制御スロットルモデルM1により推定された現時点から所定時間T0だけ先の時刻tにおける推定スロットルバルブ開度である。スロットルモデルM2は、スロットルバルブ開度θtと流量係数Ct(θt)との関係を規定した図8に示すテーブルと前記推定したスロットルバルブ開度θtとを用いて流量係数Ct(θt)を求めるとともに、スロットルバルブ開度θtと開口面積At(θt)との関係を規定した図9に示すテーブルと前記推定したスロットルバルブ開度θtとを用いて開口面積At(θt)を求める。なお、スロットルモデルM2は、スロットルバルブ開度θtと、流量係数Ct(θt)と開口面積At(θt)の積値Ct(θt)・At(θt)との関係を規定した図10に示すテーブル、及び前記推定したスロットルバルブ開度θtを用いて積値Ct(θt)・At(θt)を一時に求めるように構成してもよい。
【0046】
また、スロットルモデルM2は、スロットルバルブ上流圧力Pa、及び吸気温度Taを大気圧センサ63、及び吸気温センサ62からそれぞれ取得するとともに、吸気管内空気圧力Pmと吸気管内空気温度Tmとを後述する吸気管モデルM3から取得し、これらの値を用いて上記数3又は数4を計算し、時刻tにおけるスロットル通過空気流量mtを推定する。
【0047】
ここで、上記スロットルモデルM2を記述した数3及び数4の導出過程について説明する。いま、スロットルバルブ43の上流の開口断面積をAu、空気密度をρu、空気の流速をvuとし、スロットルバルブ43による吸気管41の開口断面積をAd、そこでの空気密度をρd、スロットルバルブ43を通過する空気の流速をvdとすると、スロットル通過空気流量mtは、下記数5で表される。数5は質量保存則を記述した式と言える。
【0048】
【数5】
mt=Ad・ρd・vd=Au・ρu・vu
【0049】
一方、運動エネルギーは、空気の質量をmとすると、スロットルバルブ43の上流でm・vu2/2であり、スロットルバルブ43を通過する場所でm・vd2/2である。他方、熱エネルギーは、スロットルバルブ43の上流でm・Cp・Tuであり、スロットルバルブ43を通過する場所でm・Cp・Tdである。従って、エネルギー保存則により、下記数6が得られる。なお、Tuはスロットルバルブ上流の空気温度、Tdはスロットルバルブ下流の空気温度、Cpは定圧比熱である。
【0050】
【数6】
m・vu2/2+m・Cp・Tu=m・vd2/2+m・Cp・Td
【0051】
ところで、状態方程式は下記数7、比熱比κは下記数8、マイヤーの関係は下記数9で示されるから、数7〜数9よりCp・Tは下記数10のように表される。なお、Pは気体の圧力、ρは気体の密度、Tは気体の温度、Rは気体定数、Cvは定容比熱である。
【0052】
【数7】
P=ρ・R・T
【0053】
【数8】
κ=Cp/Cv
【0054】
【数9】
Cp=Cv+R
【0055】
【数10】
Cp・T={κ/(κ-1)}・(P/ρ)
【0056】
上記数10の関係を用いて上記エネルギー保存則に基づく数6を書換えると、下記数11が得られる。
【0057】
【数11】
vu2/2+{κ/(κ-1)}・(Pu/ρu)=vd2/2+{κ/(κ-1)}・(Pd/ρd)
【0058】
そして、スロットルバルブ43の無限上流を考えると、Au=∞、vu=0であるから、エネルギー保存則に基づく上記数11は下記数12に書き換えられる。
【0059】
【数12】
{κ/(κ-1)}・(Pu/ρu)=vd2/2+{κ/(κ-1)}・(Pd/ρd)
【0060】
次に、運動量について記述する。断面積Auの部分に加わる圧力をPu、断面積Adの部分に加わる圧力をPd、断面積Auの部分と断面積Auの部分との間をつなぐ固定された空間の平均圧力をPmeanとすると、下記数13が得られる。
【0061】
【数13】
ρd・vd2・Ad−ρu・vu2・Au=Pu・Au−Pd・Ad+Pmean・(Ad−Au)
【0062】
上記数13で、Au=∞、vu=0を考慮すると、下記数14が得られるので、同数14と上記数13とから下記数15の運動量に関する関係(運動量保存則に基づく関係)が得られる。
【0063】
【数14】
Pmean=Pu
【0064】
【数15】
ρd・vd2=Pu−Pd
【0065】
従って、上記数5、上記数12、及び上記数15から、下記数16が得られる。
【0066】
【数16】
Figure 0003901068
【0067】
上記数16において、Puはスロットルバルブ上流圧力Paであり、Pdは吸気管内空気圧力Pmであるから、流量係数をCt(θt)を導入し、開口断面積Adを開口面積At(θt)とおきなおして整理すると、上記数3が得られる。上記数4の導出過程は、上記数3の導出過程と同様であるので省略する。
【0068】
(吸気管モデルM3)
吸気管モデルM3は、質量保存則とエネルギー保存則とにそれぞれ基づいた下記数17及び下記数18、(推定)スロットル通過空気流量mt、スロットル通過空気温度(即ち、吸入空気温度)Ta、及び吸気管から流出する空気流量mc(即ち、推定吸気弁通過空気流量、筒内吸入空気流量)から、吸気管内空気圧力Pm、及び吸気管内空気温度Tmを求めるモデルである。なお、下記数17、及び下記数18において、Vmはスロットルバルブ43から吸気弁32までの吸気管41(以下、単に「吸気管部」と称呼する。)の容積である。
【0069】
【数17】
d(Pm/Tm)/dt=(R/Vm)・(mt−mc)
【0070】
【数18】
dPm/dt=κ・(R/Vm)・(mt・Ta−mc・Tm)
【0071】
吸気管モデルM3は、上記数17、及び上記数18におけるスロットル通過空気流量mtをスロットルモデルM2から取得し、筒内吸入空気流量mcを後述する吸気弁モデルM4から取得する。そして、数17及び数18に基づく計算を行って時刻tの吸気管内空気圧力Pm、及び時刻tの吸気管内空気温度Tmを求める。
【0072】
ここで、上記吸気管モデルM3を記述した数17及び数18の導出過程について説明する。いま、吸気管部の総空気量をMとすると、総空気量Mの時間的変化は、吸気管部に流入する空気量に相当するスロットル通過空気流量mtと同吸気管部から流出する空気量に相当する筒内吸入空気流量mcの差であるから、質量保存則に基づく下記数19が得られる。
【0073】
【数19】
dM/dt=mt−mc
【0074】
また、状態方程式は下記数20となるから、上記数19と下記数20とから総空気量Mを消去することにより、質量保存則に基づく上記数17が得られる。
【0075】
【数20】
Pm・Vm=M・R・Tm
【0076】
次に、吸気管部に関するエネルギー保存則について検討すると、この場合、吸気管部の容積Vmは変化せず、また、エネルギーの殆どが温度上昇に寄与する(運動エネルギーは無視し得る)と考えられる。従って、吸気管部の空気のエネルギーM・Cv・Tmの時間的変化量は、同吸気管部に流入する空気のエネルギーCp・mt・Taと同吸気管部から流出する空気のエネルギーCp・mc・Tmとの差に等しいので、下記数21が得られる。
【0077】
【数21】
d(M・Cv・Tm)/dt=Cp・mt・Ta−Cp・mc・Tm
【0078】
この数21を、上記数8(κ=Cp/Cv)と、上記数20(Pm・Vm=M・R・Tm)とを用いて変形することにより、上記数18が得られる。
【0079】
(吸気弁モデルM4)
吸気弁モデルM4は、吸気弁32の周囲を通過する空気流量(即ち、推定吸気弁通過空気流量、筒内吸入空気流量)mcを、エネルギー保存則、運動量保存則、質量保存則、及び状態方程式等に基づいて得られた下記数22及び下記数23にしたがって推定するモデルである。数22,23の導出過程は、上記スロットルモデルM2の場合と同様である。数22及び数23において、Cv(L)は吸気弁32のリフト量Lに応じて変化する流量係数、Av(L)は同リフト量Lに応じて変化する吸気弁32の周囲に形成される開口の面積、及びPcは筒内圧力(シリンダ21内の圧力Pc)である。吸気弁モデルM4は、吸気管内空気圧力Pmが筒内圧力Pcより大きい順流の場合に数22を使用し、吸気管内空気圧力Pmが筒内圧力Pcより小さい逆流の場合に数23を使用する。この結果、筒内吸入空気流量(推定吸気弁通過空気流量)mtは、前記順流の場合に正の値を、前記逆流の場合に負の値をそれぞれ採るように計算される。
【0080】
【数22】
Figure 0003901068
【0081】
【数23】
Figure 0003901068
【0082】
吸気弁モデルM4は、現時点から所定時間T0だけ先の時刻tにおけるバルブリフト量L(t)を吸気弁リフト量センサ67が検出している現時点のバルブリフト量Lと、エンジン回転速度Neとに基づいて推定する。そして、バルブリフト量Lと積値Cv(L)・Av(L)との関係を規定した図11に示したテーブルと、前記推定したバルブリフト量L(t)とに基づいて、上記数22及び上記数23にて使用する積値Cv(L)・Av(L)を求める。
【0083】
また、吸気弁モデルM4は、吸気管内空気圧力Pmと吸気管内空気温度Tmとを吸気管モデルM3から取得するとともに、筒内圧力Pcと筒内空気温度Tcを後述するシリンダモデルM5から取得し、これらの変数を用いて上記数22又は上記数23を計算することで、時刻tにおける筒内吸入空気流量mcを推定する。
【0084】
(シリンダモデルM5)
シリンダモデルM5は、シリンダ21についてのエネルギー保存則に基づいた下記数24にしたがって、筒内圧力Pcと筒内空気温度Tcを求めるモデルである。図12に示したように、下記数24におけるVcはシリンダ21の容積、Tmはシリンダ21に吸入される空気の温度Tiと等しい吸気管内空気温度、mcはシリンダ21内(筒内)に吸入される空気流量miと等しい前記吸気管部から流出する空気流量、Qはシリンダ21と同シリンダ21外部(シリンダ壁面、吸気ポート等)との間で伝達される熱量(熱量の時間的変化量、熱の流れ)である。
【0085】
【数24】
Figure 0003901068
【0086】
上記数24における時刻tの筒内吸入空気流量mcは吸気弁モデルM4(上記数22又は上記数23)により与えられ、同時刻tの吸気管内空気温度Tmは吸気管モデルM3により与えられる。また、時刻tのシリンダ容積Vcはクランク角度に基づいて知ることができるので、上記数24の右辺第3項(熱量の項)を無視すれば、理論上、上記数24を用いて時刻tにおける筒内圧力Pcを得ることができる。
【0087】
ここで、上記数24の導出過程について説明する。先ず、Eを筒内のエネルギー、hをエンタルピー、Wをピストンに対する仕事とすると、シリンダ21についてエネルギー保存則により下記数25を得ることができる。
【0088】
【数25】
dE/dt=mc・h−dW/dt+Q
【0089】
いま、内部エネルギーをuとすれば下記数26が成立し、状態方程式は下記数27の通りである。また、比熱比κの式である上記数8(κ=Cp/Cv)と、マイヤーの関係式である上記数9(Cp=Cv+R)とから、下記数28及び下記数29が成立する。なお、Mcyをシリンダ21内の空気量とする。
【0090】
【数26】
u=Cv・Tc
【0091】
【数27】
Mcy・Tc=Pc・Vc/R
【0092】
【数28】
Cv=R/(κ−1)
【0093】
【数29】
Cp=κ・R/(κ−1)
【0094】
従って、数26〜数28から数25の左辺dE/dtについて、下記数30が成立する。
【0095】
【数30】
dE/dt=d(Mcy・u)/dt=d(Mcy・Cv・Tc)/dt=d{Pc・Vc/(κ−1)}/dt
【0096】
一方、数25の右辺第1項mc・hについて、下記数31のエンタルピーの定義と上記数29から、下記32が成立する。
【0097】
【数31】
h=Cp・Tm
【0098】
【数32】
mc・h=mc・{κ・R/(κ−1)}・Tm
【0099】
更に、仕事Wは下記数33で表されるから、上記数25の右辺第2項dW/dtについて下記数34が成立する。
【0100】
【数33】
dW=Pc・dVc
【0101】
【数34】
dW/dt=Pc・dVc/dt
【0102】
数30、数32、及び数34で数25を書き直して整理すると上記数24が得られる。
【0103】
また、シリンダモデルM5は、筒内空気温度Tcを状態方程式である下記数35にしたがって求める。数35のMc1は、数22又は数23の筒内吸入空気流量mcを吸気弁32が開弁してから筒内空気温度Tcを求める時点まで時間積分して求める。
【0104】
【数35】
Tc=(Pc・Vc)/(Mc1・R)
【0105】
上記原理によれば、シリンダモデルM5の上記数24、及び上記数35により筒内圧力Pc、及び筒内空気温度Tcがそれぞれ求められ、これらに基づいて数22又は数23により筒内吸入空気流量mcが得られる。従って、本燃料噴射量制御装置は、筒内吸入空気流量mcを吸気弁23が開弁した時刻toから同吸気弁32が閉弁する時刻tfまで時間積分することにより一吸気行程にてシリンダ21内に吸入される筒内吸入空気量Mc(吸入空気総量Smc)を推定し、この値Mcと上記数2とに基づいて燃料噴射量fcを決定する。
【0106】
(電気制御装置80に実装する上での改良)
上記数24の右辺第3項の熱伝達Qは、値が小さく無視することができるので、通常は上記数24を下記数36のように離散化して電気制御装置80に実装する。ここで、Δtは筒内圧力Pcの計算時間間隔である。
【0107】
【数36】
Figure 0003901068
【0108】
しかしながら、この手法により実際に筒内圧力Pcを求めてみると、図13の一点鎖線で示したように、同筒内圧力Pcは離散化の影響を受けて大きく変動し、真値と大きく異なってしまうことが判明した。そこで、本実施形態においては、数24の右辺第3項の値Qを無視するとともに、便宜上、(1)シリンダの容積を一定と仮定した場合(dVc=0)、及び(2)筒内吸入空気流量が0である(mc=0)と仮定した場合に分け、それぞれの仮定下で数24を解析的に解くことで筒内圧力Pcを求めることとした。以下、詳述する。
【0109】
(1)シリンダの容積を一定と仮定した場合(dVc=0)
この仮定下では、上記数24は下記数37の微分方程式となり、同数37を解くと下記数38が得られる。
【0110】
【数37】
Figure 0003901068
【0111】
【数38】
Figure 0003901068
【0112】
上記数38において、θ0=cos-1(1)である。この数38から、筒内圧力Pcは正弦波状に変化することが解る。一方。上記数37のEuler近似は、下記数39となる。
【0113】
【数39】
Figure 0003901068
【0114】
また、筒内圧力Pcが吸気管内空気圧力Pmより大きくなることはないから、下記数40が成立する。従って、数39と数40とから下記数41が成立する。
【0115】
【数40】
Figure 0003901068
【0116】
【数41】
Figure 0003901068
【0117】
更に、θが1に比べて極めて小さい(θ<<1)とき、下記数42が成立するから、上記数41と下記数42を上記数39に適用して下記数43を得ることができる。なお、下記数43における筒内吸入空気流量mcは上記数22、及び上記数23により求める。
【0118】
【数42】
Figure 0003901068
【0119】
【数43】
Figure 0003901068
【0120】
(2)筒内吸入空気量がない(mc=0)と仮定した場合
この仮定下では、上記数24は下記数44の微分方程式となる。また、この場合、断熱膨張として扱えるから下記数45が成立する。
【0121】
【数44】
Figure 0003901068
【0122】
【数45】
Figure 0003901068
【0123】
以上から、下記数46が導かれる。
【0124】
【数46】
Figure 0003901068
【0125】
上記数43、及び上記数46により求められる筒内圧力Pcを、図13においてそれぞれ実線、及び二点鎖線により示す。筒内圧力Pcは、吸気管内空気圧力Pmに近似した値となると予想されることから、本実施形態においては、吸気管内空気圧力Pmにより近い上記数43により得られる筒内圧力P’c(t)を最終的に求める筒内圧力Pcとして採用する。
【0126】
また、一吸気行程での筒内吸入空気量Mcは、数22又は数23で与えられる筒内吸入空気流量mcを吸気弁23が開弁した時刻toから同吸気弁32が閉弁する時刻tfまで時間積分することにより求められると述べたが、シミュレーションの結果、エネルギー保存則に基づく上記数24を時刻toから時刻tfまで時間積分して整理した下記数47により求めた方が精度が高くなることが判明した。なお、Pc(to)、及びVc(to)は、それぞれ吸気弁開弁時の筒内圧力Pc(t)、及びシリンダ容積Vc(t)であり、Pc(tf)、及びVc(tf)は、それぞれ吸気弁閉弁時の筒内圧力Pc(t)、及びシリンダ容積Vc(t)である。
【0127】
【数47】
Figure 0003901068
【0128】
したがって、本実施形態は、数47を離散化した下記数48に基づいて筒内吸入空気量Mcを求める。
【0129】
【数48】
Figure 0003901068
【0130】
(オブザーバの追加)
本実施形態は、さらに、補正手段としてのオブザーバOBSを追加し、筒内吸入空気量Mcの推定精度を向上させている。上述した図6において、破線にて囲まれた部分が追加されたオブザーバOBSである。
【0131】
このオブザーバOBSは、上記エアフローメータ61と、吸入空気流量推定手段として機能するエアフローメータモデルM6とを含んで構成されている。エアフローメータモデルM6は、スロットル通過空気流量(実吸入空気流量)が所定の量αである場合に、エアフローメータ61が出力するであろう値を推定し、この推定値に基づいてスロットル通過空気流量(推定吸入空気流量)mtesを推定するモデルである。この場合、上記所定の量αは、スロットルモデルM2が推定した現時点から所定時間T0だけ先の時刻tにおける(推定)スロットル通過空気流量mtを、むだ時間要素により前記所定時間T0だけ遅延させたスロットル通過空気流量である現時点における(推定)スロットル通過空気流量mt(t-T0)である。
【0132】
ここで、エアフローメータモデルM6について具体的に述べる。エアフローメータモデルM6は、先ず、現時点におけるスロットル通過空気流量mt(t-T0)に対する完全放熱量W1,W2を、同完全放熱量W1,W2とスロットル通過空気流量mtとの関係をそれぞれ規定した図14に示したテーブルと、前記求められた現時点でのスロットル通過空気流量mt(t-T0)とに基づいて求める。完全放熱量W1、及び完全放熱量W2は、図4に示した熱線計量部61aのボビン部61a1、及び同熱線計量部61aのサポート部61a2にそれぞれ対応した放熱遅れを含まない放熱量である。
【0133】
次に、エアフローメータモデルM6は、ボビン部61a1、及びサポート部61a2にそれぞれ対応する放熱量であり、完全放熱量W1,W2に対してそれぞれ一次遅れの特性を有する(応答遅れを含む)放熱量(応答放熱量)w1,w2を下記数49及び下記数50にしたがって求める。数49,数50における添え字(k)は今回の演算値、添え字(k-1)は前回の演算値を表し、Δtは前回の演算値を求めてから今回の演算値を求めるまでの時間である。
【0134】
【数49】
w1(k)=Δt・(W1(k)−w1(k-1))/τ1+w1(k-1)
【0135】
【数50】
w2(k)=Δt・(W2(k)−w2(k-1))/τ2+w2(k-1)
【0136】
上記数49,数50において、τ1、及びτ2は、ボビン部61a1、及びサポート部61a2にそれぞれ対応する上記一次遅れ特性の時定数であり、下記数51及び下記数52により求められる。数51,数52中の値k10,k20、及び値m1,m2には、実験的に求められた値である。また、数51,数52中の値uはエアフローメータ61の熱線計量部61aにバイパスされた単位断面積当たりの通過空気量であり、図5に示したエアフローメータ61の出力電圧Vgと実測された吸入空気流量mtAFMとの関係を規定するVg−mtAFM変換テーブルと、エアフローメータ61の実際の出力電圧Vgとに基づいて求められた吸入空気流量mtAFMを、前記熱線計量部61aのバイパス流路断面積Sで除した値(mtAFM/S)である。
【0137】
【数51】
τ1=k10・um1
【0138】
【数52】
τ2=k20・um2
【0139】
そして、エアフローメータモデルM6は、応答放熱量w1,w2の和(w1+w2)とエアフローメータ61が出力するであろう値に基づくスロットル通過空気流量mtesとの関係を規定した図15に示したテーブルと、上記数49〜数52により求められた応答放熱量w1,w2の和(w1+w2)とに基づいて、現時点でエアフローメータ61が出力するであろう値に基づくスロットル通過空気流量mtesを求める。なお、内燃機関がスロットルバルブ開度TAが一定となる定常運転状態にある場合、このスロットル通過空気流量mtesは、スロットルモデルM2が推定した現時点から所定時間T0だけ先の時刻tにおける(推定)スロットル通過空気流量mt(及び、現時点におけるスロットル通過空気流量mt(t-T0))と同一となる。
【0140】
再び、図6を参照すると、オブザーバOBSはこのスロットル通過空気流量mtesを表す信号を比較要素COMの一端に入力する。一方、オブザーバOBSはエアフローメータ61の出力Vgを図5に示したテーブルにより現時点での吸入空気流量(実吸入空気流量)mtAFMに変換し、同吸入空気流量mtAFMを表す信号を比較要素COMの他端に入力する。
【0141】
そして、オブザーバOBSは比較要素COMにおいてスロットル通過空気流量mtesと吸入空気流量mtAFMとの偏差SAを求め、この偏差SAを積分要素により時間積分して偏差積分値SumSAを求めるとともに、偏差積分値SumSAに所定のゲインG1(負の一定値)を乗算した値、及び同偏差積分値SumSAに所定のゲインG2(負の一定値)を乗算した値を、それぞれ、スロットルモデルM2が推定するスロットル通過空気流量mt、及び吸気弁モデルM4が推定する筒内吸入空気流量mcに加算する(フィードバックする)。即ち、本実施形態における筒内吸入空気量推定装置は、スロットル通過空気流量mtを、上記数3又は上記数4の代わりに下記数53又は下記数54に基いて推定する。
【0142】
【数53】
Figure 0003901068
【0143】
【数54】
Figure 0003901068
【0144】
また、本筒内吸入空気量推定装置は、筒内吸入空気流量mcを、上記数22又は上記数23の代わりに下記数55又は下記数56に基いて推定する。
【0145】
【数55】
Figure 0003901068
【0146】
【数56】
Figure 0003901068
【0147】
このようにして、上記偏差SA(上記偏差積分値SumSA)が「0」になる(小さくなる)ように、同偏差SAに基いてスロットルモデルM2により推定されたスロットル通過空気流量mt、及び吸気弁モデルM4により推定された筒内吸入空気流量mcがそれぞれ直接補正され、この結果、実際の筒内吸入空気量と上記モデルM1〜M5により得られる筒内吸入空気量Mcの定常的な誤差が低減される。
【0148】
(実際の作動)
次に、電気制御装置80が筒内吸入空気量Mcを推定するとともに、燃料噴射量fcを決定する際の実際の作動について説明する。
【0149】
(スロットルバルブ制御)
電気制御装置80のCPU81は、図16にフローチャートにより示したスロットルバルブ開度を制御するためのルーチンを所定時間(1msec)の経過毎に実行するようになっている。従って、所定のタイミングとなると、CPU81はステップ1600から処理を開始し、ステップ1605に進んでアクセルペダル操作量Accp読み込む。次いで、CPU81はステップ1610に進み、同ステップ1610にて図7と同じテーブルを用いることにより上記読み込んだアクセルペダル操作量Accpに基づく暫定的な目標スロットルバルブ開度θr1を求める。
【0150】
次に、CPU81はステップ1615に進んで変数Iを「64」に設定し、続くステップ1620にて記憶値θr(I)にθr(I−1)の値を格納する。現時点では、変数Iは「64」であるから、記憶値θr(64)に記憶値θr(63)の値が格納される。次いで、CPU81はステップ1625に進み、変数Iが「1」と等しくなったか否かを判定する。この場合、変数Iの値は「64」であるから、CPU81はステップ1625にて「No」と判定してステップ1630に進み、同ステップ1630にて変数Iの値を「1」だけ減少し、その後上記ステップ1620に戻る。この結果、ステップ1620が実行されると、記憶値θr(63)に記憶値θr(62)の値が格納される。このような処理は、変数Iの値が「1」となるまで繰り返し実行される。
【0151】
その後、ステップ1630の処理が繰り返されて変数Iの値が「1」となると、CPU81はステップ1625にて「Yes」と判定してステップ1635に進み、同ステップ1635にて前記ステップ1610にて求めた現時点における暫定的な目標スロットルバルブ開度θr1を記憶値θr(0)に格納する。以上により、現時点からImsec前(0msec≦Imsec≦64msec,Iは整数)の暫定的な目標スロットルバルブ開度θr(I)(I=64,63,62,・・・,2,1,0)がRAM83内に記憶されることになる。
【0152】
次に、CPU81はステップ1640に進み、同ステップ1640にて記憶値θr(64)を最終的な目標スロットルバルブ開度θrとして設定し、続くステップ1645にて実際のスロットルバルブ開度が目標スロットルバルブ開度θrと等しくなるように、スロットルバルブアクチュエータ43aに対し駆動信号を出力し、その後ステップ1695にて本ルーチンを一旦終了する。
【0153】
以降においても、上記ルーチンの処理は1msecの経過毎に実行される。この結果、実際のスロットルバルブ開度が、所定時間T(=64msec)前のアクセルペダル操作量Accpに基づく目標スロットルバルブ開度θrと等しくなるように制御される。これにより、上記電子制御スロットルモデルM1は、現時点から時間(T−T0)前の目標スロットルバルブ開度θ(T-T0)を、現時点から所定時間T0だけ先の時刻tにおけるスロットルバルブ開度θtとして推定する。
【0154】
(スロットル通過空気流量mt、吸気管内空気圧力Pm、吸気管内空気温度Tm推定)CPU81は、図17及びこれに続く図18にフローチャートにより示したルーチンを所定時間(8msec)の経過毎に実行するようになっている。従って、所定のタイミングになると、CPU81はステップ1700から処理を開始し、ステップ1705に進んで、図5に示したテーブルと同じテーブルと、エアフローメータ61の出力Vgとを用いて吸入空気流量(実吸入空気流量)mtAFMを求める。
【0155】
次に、CPU81はステップ1710に進み、図14に示したテーブルと同じテーブルと、前回以前の本ルーチン実行時において後述するステップ1810にて既に求められているスロットル通過空気流量mt(k)を前記所定時間T0だけ遅延させることにより得られる現時点におけるスロットル通過空気流量mt(k-T0)とを用いて完全放熱量W1(k),W2(k)をそれぞれを求める。なお、本ルーチンにおいて、添え字(k)が付された値は今回本ルーチンを実行した際に求める値を表し、添え字(k-1)が付された値は前回本ルーチンを実行した際に求めた値を表す。
【0156】
次いで、CPU81はステップ1715に進んで、上記数51及び上記数52に従って時定数τ1、τ2をそれぞれ求めるとともに、続くステップ1720にて上記数49及び上記数50に従って応答放熱量w1(k),w2(k)をそれぞれ求める。なお、Δtは本ルーチンの計算周期(即ち、8msec)である。次に、CPU81はステップ1725に進み、図15に示したテーブルと同じテーブルと、前記応答放熱量w1(k),w2(k)の和(w1(k)+w2(k))とを用いて現時点でエアフローメータ61が出力するであろう値に基づくスロットル通過空気流量(推定吸入空気流量)mtesを求める。
【0157】
次に、CPU81はステップ1730に進んで、前記スロットル通過空気流量mtesから前記吸入空気流量mtAFMを減じた値を偏差SA(k)として格納するとともに、続くステップ1735にて、その時点での(前回の)偏差積分値SumSA(k-1)に前記偏差SA(k)を加えた値を新たな(今回の)偏差積分値SumSA(k)として設定する。
【0158】
次いで、CPU81は図18のステップ1805に進んで図10に示したテーブルと同じテーブルと、現時点から所定時間T0だけ先の時刻tにおける推定スロットルバルブ開度θtとを用いて流量係数Ct(θt)と開口面積At(θt)の積値Ct(θt)・At(θt)を求める。
【0159】
次いで、CPU81はステップ1810に進み、同ステップ1810にて上記数53、又は上記数54にしたがってスロットル通過空気流量mtを計算する。この計算で使用されるスロットルバルブ上流圧力Pa、及び吸気温度Taは、それぞれ大気圧センサ63、及び吸気温センサ62から取得される。また、吸気管内空気圧力Pm(k-1)、及び吸気管内空気温度Tm(k-1)は、前回の本ルーチン実行時において後述するステップ1815にて求められた値Pm(k)、及びTm(k)であり、偏差積分値SumSA(k)は前記ステップ1735で求められた値である。
【0160】
次にCPU81はステップ1815に進み、上記数17及び上記数18を積分して離散化した下記数57及び下記数58に基づいて吸気管内空気圧力Pm(k)、及び吸気管内空気温度Tm(k)を求めた後、ステップ1895に進んで本ルーチンを一旦終了する。なお、下記数57及び数58において、Δtは本ルーチンの計算周期(即ち、8msec)である。
【0161】
【数57】
Figure 0003901068
【0162】
【数58】
Figure 0003901068
【0163】
実際には、CPU81は、上記数57にてPm/Tmを求め、これと上記数58により求めたPmとからTmを求める。なお、数57及び数58におけるmcAVE(k-1)は、後述する1msecルーチンで求められる筒内吸入空気流量mcの平均値である。
【0164】
(筒内圧力Pc、筒内吸入空気流量mc、筒内吸入空気量Mc等の推定)
CPU81は、図19及びこれに続く図20にフローチャートにより示したルーチンを所定時間(1msec)の経過毎に実行するようになっている。従って、所定のタイミングになると、CPU81はステップ1900から処理を開始し、ステップ1905に進んで前記時刻tにおけるバルブリフト量Lと、図11に示したテーブルと同じテーブルとに基づいて、上記数55及び上記数56にて使用する積値Cv(L)・Av(L)を求め、続くステップ1910にて同数55又は同数56にしたがって筒内吸入空気流量mc(t)を計算する。
【0165】
ここで、Pm(k)、及びTm(k)は、前述のステップ1815にてそれぞれ求められた吸気管内空気圧、及び吸気管内空気温度であり、Tc(t)は、前回の本ルーチン実行時において後述するステップ2045で設定された値である。また、SumSA(k)は上述した図17のステップ1735で求められた偏差積分値であり、Pc(t)は前回の本ルーチン実行時において後述するステップ1925で設定された値である。
【0166】
次に、CPU81はステップ1915に進み、同ステップ1915にて上記数43にしたがって筒内圧力P’c(t+Δt)を求める。Δtは本ルーチンの計算周期(即ち、1msec)である。また、mc(t)は前記ステップ1910で求められた値である。
【0167】
次いで、CPU81はステップ1920に進み、上記数46にしたがって筒内圧力Pc(t+Δt)を求め、続くステップ1925にて今回求めた筒内圧力P’c(t+Δt)、及び筒内圧力Pc(t+Δt)を、次回の本ルーチンの演算のためにそれぞれ筒内圧力P’c(t)、及び筒内圧力Pc(t)に格納する。
【0168】
次いで、CPU81は図20に示したステップ2005に進み、時刻tが吸気弁23が閉状態から開状態へと変化した直後の時点であるか否かを判定し、閉状態から開状態へと変化した直後であれば、ステップ2010にて変数Zの値を「0」として初期化し、ステップ2015にてその時点で求められている筒内圧力Pc’(t)を吸気弁23が開弁した時(吸気弁開時)の筒内圧力Pc(to)として格納する。そして、CPU81はステップ2020にて時刻tのシリンダ容積Vc(t)を吸気弁開時のシリンダ容積Vc(to)として格納し、続くステップ2025にて吸気弁開時からの筒内吸入空気量Mc1の値を値Mc0(初期値、例えば「0」)に設定してステップ2030に進む。一方、時刻tが吸気弁23が閉状態から開状態へと変化した直後の時点でなければ、CPU81はステップ2005にて「No」と判定して直接2030に進む。
【0169】
次に、CPU81はステップ2030にて時刻tにおいて吸気弁23が開状態にあるか否かを判定する。いま、時刻tが吸気弁23が閉状態から開状態になった直後に相当していれば、CPU81はステップ2030にて「Yes」と判定してステップ2035に進み、同ステップ2035にて変数Zに値Pc’(t)・dVc(t)/dt・Δtの値を加えて同変数Zを更新する。これにより、変数Zは値P’(t)・dVc(t)/dtの積分値相当量となる。続いて、CPU81はステップ2040にて吸気弁開時からの筒内吸入空気量Mc1にmc(t)・Δtを加えた値を新たな筒内吸入空気量Mc1として格納し、ステップ2045に進んで下記数59に基づき筒内空気温度Tc(t)を求め、ステップ2095にて本ルーチンを一旦終了する。
【0170】
【数59】
Tc(t)=Pc(t)・Vc(t)/(Mc1・R)
【0171】
上記ステップ2030〜2045の処理は、吸気弁23が開弁している間、継続されるので、値P’(t)・dVc(t)/dt・Δtの総和を示す変数Z、吸気弁開時からの筒内吸入空気量Mc1、及び筒内空気温度Tc(t)が更新されて行く。
【0172】
その後、所定の時間が経過して時刻tが吸気弁23が開状態から閉状態に変化した直後の時刻になると、CPU81はステップ2005及びステップ2030に進んだとき、何れも「No」と判定してステップ2050に進み、同ステップ2050にて吸気弁23が開状態から閉状態に変化した直後であるか否かを判定する。そして、この場合、CPU81はステップ2050にて「Yes」と判定し、ステップ2055に進んで一吸気行程における筒内吸入空気量Mcを上記数48にしたがって推定する。
【0173】
その後、CPU81はステップ2060に進み、上記求めた筒内吸入空気量Mcをクランク角180°CAに相当する時間T180CAで除して、筒内吸入空気量Mcの平均値mcAVE(k-1)を求め、続くステップ2065にて筒内吸入空気量Mcの平均値mcAVE(k-1)に設定空燃比により変化する係数Kを乗じて燃料噴射量fcを求める。なお、筒内吸入空気量Mcの平均値mcAVE(k-1)は、筒内吸入空気量Mcに比例しているから、燃料噴射量fcは数2にしたがって計算されることになる。そして、CPU81はステップ2095に進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0174】
また、時刻tが、吸気弁32が閉状態から開状態に変化した直後の時刻でなく、且つ開状態から閉状態への変化した直後の時刻でなく、且つ同吸気弁32が閉状態にある時刻である場合、CPU81は図19のステップ1900〜1925の処理を実行後、図20のステップ2005、2030、2050にて全て「No」と判定してステップ2095に進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0175】
以上により、筒内吸入空気量Mcが各モデルを用いて推定され、これに応じた燃料噴射量fcが決定される。そして、CPU81は、図示しない燃料噴射ルーチンを所定のタイミングにて実行し、前記決定された燃料噴射量fcだけ燃料を噴射する。
【0176】
以上説明したように、本発明による筒内吸入空気量推定装置を含む燃料噴射量制御装置の実施形態によれば、シリンダモデルM5により筒内圧力Pcと筒内空気温度Tcとが求められ、これらの値が吸気弁モデルM4に提供される。従って、吸気弁モデルM4は、従来のように多くの変数によるテーブル検索に基づくのではなく、上記数22,23(実際には、上記数55,56)にしたがった数値計算により筒内吸入空気流量mc(従って、筒内吸入空気量Mc)を求めることができる。この結果、テーブル値の適合に要する労力を低減することができるとともに、精度良く燃料噴射量fcを求めることができた。
【0177】
また、オブザーバOBSにより、スロットル通過空気流量(推定吸入空気流量)mtesと吸入空気流量(実吸入空気流量)mtAFMとの偏差SA(上記偏差積分値SumSA)が「0」になるように、同偏差SAに基いてスロットルモデルM2により推定されたスロットル通過空気流量mt、及び吸気弁モデルM4により推定された筒内吸入空気流量mcがそれぞれ直接補正される。従って、スロットル通過空気流量mtesが吸入空気流量mtAFMよりも小さい場合、上記吸気管モデルM3により推定される吸気管内空気圧力Pmを増大せしめることなく、直接的に筒内吸入空気流量(推定吸気弁通過空気流量)mcを増大せしめることができ、その結果、筒内吸入空気量Mcを増大せしめることが可能となる。
【0178】
従って、内燃機関がスロットルバルブ開度が最大の開度で一定となるスロットル全開定常運転状態にある場合であっても、スロットル通過空気流量mtesと吸入空気流量mtAFMとの大小関係に拘わらず実際の筒内吸入空気量と推定された筒内吸入空気量Mcとの定常的な誤差を確実に低減することができ、その結果、適正な燃料噴射量fcを得ることで内燃機関により燃焼される混合気の空燃比を精度良く狙いの値とすることができた。
【0179】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、補正手段としてのオブザーバOBSは、スロットルモデルM2により推定されたスロットル通過空気流量mt、及び吸気弁モデルM4により推定された筒内吸入空気流量mcをそれぞれ直接補正しているが、スロットル通過空気流量(推定吸入空気流量)mtesと吸入空気流量(実吸入空気流量)mtAFMとの偏差SA(上記偏差積分値SumSA)が「0」になるように、同偏差SAに基いて、上記数3及び数4にて使用する流量係数Ct(θt)と開口面積At(θt)の積値Ct(θt)・At(θt)、及び上記数22及び数23にて使用する流量係数Cv(L)と開口面積Av(L)の積値Cv(L)・Av(L)を補正し、その結果として、上記スロットル通過空気流量mt、及び上記筒内吸入空気流量mcをそれぞれ補正してもよい。
【0180】
また、上記実施形態の各モデルの他、排気弁を介してシリンダ21内に流入する空気流量meを推定するための排気弁モデルを追加採用することもできる。この場合、図21に示したように、排気弁モデルM7はシリンダモデルM5に対して接続され、吸気弁モデルM4と同様な導出過程を経て得られた下記数60、及び下記数61により表される。なお、数60、及び数61において、Peは排気管内空気圧力、Teは排気管内空気温度であり、数60は排気系からシリンダ21内に空気が流入する場合(Pc<Pe)、下記数61はシリンダ21から排気系に空気が流出する場合(Pc>Pe)に用いられる。この結果、上記空気流量meは、排気系からシリンダ21内に空気が流入する場合に正の値を、シリンダ21から排気系に空気が流出する場合に負の値をそれぞれ採るように計算される。なお、この場合、排気管内空気圧力を検出するセンサ、及び排気管内空気温度を検出するセンサを設けることが望ましい。
【0181】
【数60】
Figure 0003901068
【0182】
【数61】
Figure 0003901068
【0183】
また、上記実施形態においては、インジェクタ39は吸気ポート31a,31bに向けて燃料を噴射するようになっていたが、燃焼室25内に直接噴射するように構成されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明による筒内吸入空気量推定装置を含む燃料噴射量制御装置を火花点火式多気筒内燃機関に適用したシステムの概略構成図である。
【図2】 図1に示した特定の気筒の燃焼室、及び同燃焼室の近傍部分を示す概略平面図である。
【図3】 図1に示したエアフローメータの概略斜視図である。
【図4】 図3に示したエアフローメータの熱線計量部の拡大斜視図である。
【図5】 図1に示したCPUが参照するエアフローメータの出力と吸入空気流量との関係を規定したテーブルを示したグラフである。
【図6】 図1に示した電気制御装置が筒内吸入空気量を推定するために採用した各種モデルの接続関係を示した機能ブロック図である。
【図7】 図1に示したCPUが参照するアクセルペダル操作量と目標スロットルバルブ開度との関係を規定したテーブルを示したグラフである。
【図8】 スロットルバルブ開度と流量係数との関係を規定したテーブルを示したグラフである。
【図9】 スロットルバルブ開度と開口面積との関係を規定したテーブルを示したグラフである。
【図10】 スロットルバルブ開度と、流量係数と開口面積の積値との関係を規定したテーブルを示したグラフである。
【図11】 バルブリフト量と、流量係数と開口面積の積値との関係を規定したテーブルを示したグラフである。
【図12】 シリンダモデルを表すために使用する変数を説明するためシリンダ及びその近傍を概念的に示した図である。
【図13】 シリンダモデルによるシリンダ内圧力の計算結果について説明するためのタイムチャートである。
【図14】 図1に示したCPUが参照するスロットル通過空気流量と完全放熱量との関係を規定したテーブルを示したグラフである。
【図15】 図1に示したCPUが参照する応答放熱量の和とエアフローメータが出力するであろう値に基づくスロットル通過空気流量との関係を規定したテーブルを示したグラフである。
【図16】 図1に示したCPUが実行するスロットルバルブを制御するためのルーチンを示したフローチャートである。
【図17】 図1に示したCPUが8msec毎に実行するルーチンの前半部を示したフローチャートである。
【図18】 図1に示したCPUが8msec毎に実行するルーチンの後半部を示したフローチャートである。
【図19】 図1に示したCPUが1msec毎に実行するルーチンの前半部を示したフローチャートである。
【図20】 図1に示したCPUが1msec毎に実行するルーチンの後半部を示したフローチャートである。
【図21】 本発明による燃料噴射量制御装置(筒内吸入空気量推定装置)の実施形態の他の変形例を示した機能ブロック図である。
【図22】 本出願人が検討している燃料噴射量制御装置(筒内吸入空気量推定装置)の機能ブロック図である。
【符号の説明】
10…火花点火式多気筒内燃機関、20…シリンダブロック部(エンジン本体部)、25…燃焼室、31…吸気ポート、32…吸気弁、33…可変吸気タイミング装置、39…インジェクタ、41…吸気管、43…スロットルバルブ、44…スワールコントロールバルブ、44a…SCVアクチュエータ、61…エアフローメータ、80…電気制御装置、81…CPU、M1…電子制御スロットルモデル、M2…スロットルモデル、M3…吸気管モデル、M4…吸気弁モデル、M5…シリンダモデル、M6…エアフローメータモデル。

Claims (4)

  1. 内燃機関の吸気通路に配設されたスロットルバルブを通過する空気についてのモデルを使用して同スロットルバルブを通過する空気流量を推定スロットル通過空気流量として推定するスロットル通過空気流量推定手段と、
    前記吸気通路とシリンダとを連通・遮断する吸気弁を通過する空気についてのモデルを使用して同吸気弁を通過する空気流量を推定吸気弁通過空気流量として推定する吸気弁通過空気流量推定手段と、
    少なくとも前記推定スロットル通過空気流量と前記推定吸気弁通過空気流量とに基いて前記シリンダに吸入される筒内吸入空気量を推定する筒内吸入空気量推定手段と、を備えた内燃機関の筒内吸入空気量推定装置であって、
    前記吸気通路に吸入される実際の吸入空気流量に応じた出力値を発生するとともに同実際の吸入空気流量を実吸入空気流量として計測する空気流量センサと、前記空気流量センサについてのモデルを使用して、前記実吸入空気流量が前記推定スロットル通過空気流量であると仮定した場合に同空気流量センサが出力するであろう出力値を推定するとともに同推定した出力値に基いて前記吸気通路に吸入される吸入空気流量を推定吸入空気流量として推定する吸入空気流量推定手段と、
    前記推定吸入空気流量と前記実吸入空気流量との偏差に基いて前記推定吸気弁通過空気流量を補正するように前記吸気弁通過空気流量推定手段を補正する補正手段と、
    を備えた内燃機関の筒内吸入空気量推定装置。
  2. 請求項1に記載の内燃機関の筒内吸入空気量推定装置において、
    前記補正手段は、前記推定吸入空気流量と前記実吸入空気流量との偏差に基いて前記推定スロットル通過空気流量を補正するように前記スロットル通過空気流量推定手段を補正するよう構成された内燃機関の筒内吸入空気量推定装置。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の内燃機関の筒内吸入空気量推定装置であって、
    エネルギー保存則に基づいて求められた前記シリンダについてのモデルを使用して同シリンダ内の圧力を計算により推定する筒内圧力推定手段を備え、
    前記吸気弁通過空気流量推定手段は、前記推定されたシリンダ内の圧力を使用した前記吸気弁を通過する空気についてのモデルにより前記推定吸気弁通過空気流量を推定するように構成された内燃機関の筒内吸入空気量推定装置。
  4. 請求項3に記載の内燃機関の筒内吸入空気量推定装置であって、
    前記吸気弁通過空気流量推定手段が使用する前記吸気弁を通過する空気についてのモデルは、エネルギー保存則、運動量保存則、及び質量保存則に基いて得られたモデルである内燃機関の筒内吸入空気量推定装置。
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