JP3996386B2 - ねじり疲労特性に優れた浸炭用鋼 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車用部品、建築機械用部品、産業機械用部品などに使用される軸状部材を製造するのに有用なねじり疲労特性に優れた浸炭用鋼に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車、建築機械、産業機械などにおいて、動力の高出力化が行われてきており、例えば、自動車においてはエンジン出力が増大してきている。これら出力の増大につれて、前記自動車等において動力の伝達に使用されている軸状部材(シャフトなど)のねじり疲労強度の向上が求められている。
【0003】
前記軸状部材としては、多くの場合、高周波焼入れによって表面の強度が高められた部材が使用されている。高周波焼入れは比較的簡易な設備で焼入れ処理ができ、生産性も高いため汎用的に用いられている。そのため、高周波焼入れに関する発明も多く行われており、高周波焼入鋼においてねじり疲労強度を高めた発明も多く行われている。例えば特許第2774118号公報には、Cr及びNiは高周波焼入によってねじり疲労強度を向上させるのに有用な元素であり、Crを1.0wt%以上含有させ、Niを0.10wt%以上含有させ、かつNi+0.70Crを0.250wt%以上とすることにより高いねじり疲労強度が得られることが記載されている。
【0004】
しかし、高周波焼入用鋼は、一般に、C量が多いため被削性の点に課題を残している。また高周波焼入は、高周波によって部材の表面だけを加熱する方法であるため、形状が複雑な部材を焼入するのは困難である。従って、例えば、穴部や溝部などを有する部材を製造する場合、高周波焼入を利用するのは困難である。
【0005】
穴部や溝部などを有するなど形状が複雑な部材の表面を硬化する場合、近年、浸炭焼入が行われるケースが増大してきている。浸炭焼入では、形状が複雑な部材でも容易に表面を硬化させることができる。ところが、高周波焼入に対してはねじり疲労強度を向上させる発明が種々なされているのに対して、浸炭に対してはねじり疲労強度を向上させる発明は殆ど見あたらない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、浸炭用鋼において、ねじり疲労特性を向上させる点にある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を解決するため、浸炭焼入れを行った軸状部材のねじり疲労破壊に対する詳細な研究を行った結果、従来の浸炭部材において曲げ疲労特性を向上させる点では重要視されていなかった浸炭層内の炭化物量が、ねじり疲労特性の点では極めて大きな影響を及ぼしていることを発見した。以下、この点について図1を参照しながら詳細に説明する。
【0008】
すなわち図1に示すように、浸炭用鋼では、Cr添加量が多いほど浸炭層の焼入性が向上し、表面硬さが向上する結果、耐ピッチング性や耐摩耗性が向上する(図1の実線参照)。Crは鋼中のセメンタイトに固溶して鋼を硬化させる特性を有しているためである。従って、耐ピッチング性や耐摩耗性の観点からすればCr添加量は多いほど好ましいといえる。
【0009】
しかし本発明者らの検討によれば、高周波焼入部材とは異なり、浸炭部材ではCr添加量が増大するにつれてねじり疲労特性が低下することを発見した(図1の細破線参照)。そしてさらに検討を重ねたところ、Crの添加量そのものではなく、浸炭層中のCr炭化物量が増大するにつれてねじり疲労特性が低下することを突き止めた。すなわちCrは単独でも炭化物を形成しやすい元素であり、通常は、添加量を増量すると炭素濃度の高い浸炭部最表層ではCrと炭素とが結合してCr炭化物も大量に生じる(図1の細一点鎖線参照)。そしてねじり疲労においては、この増大したCr炭化物が疲労き裂の進展を助長し、疲労強度を低下させているのではないかと考えられた。そこでCrの添加量を増大しても、炭化物の生成量を抑制するようにすると(図1の太一点鎖線参照)、ねじり疲労強度は従来に比べて向上することを見出した(図1の太破線参照)。要約すると、本発明者らは、Crの添加量を増大させるのが望ましい浸炭用鋼においては、ねじり疲労特性を改善するためにはCr炭化物の生成を抑制することが重要であることを突き止めたのである。
【0010】
そしてCr炭化物の生成量を抑制するために、さらに鋭意検討を重ねた結果、Crの添加量が増大するにつれて、Co、Ni、又はCuの添加量も増大すると、炭化物(特に、粒界にフィルム状に析出する炭化物)の形成を抑制することができ、ねじり疲労強度を改善できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち上記目的を達成し得た本発明のねじり疲労特性に優れた浸炭用鋼とは、炭素含有量が0.1〜0.3質量%であり、Crを含有する浸炭用鋼において、Co、Ni、及びCuから選択された少なくとも一種を下記式(1)を満足する範囲で含有している点に要旨を有するものである。
【0012】
[Co]+2.1×[Ni]+2.8×[Cu]−2.4×[Cr]>0 …(1)
[式中、[Co]、[Ni]、[Cu]、又は[Cr]は、それぞれ、鋼中のCo含有量(質量%)、Ni含有量(質量%)、Cu含有量(質量%)、又はCr含有量(質量%)を示す]
前記Co、Ni、Cu及びCrの好ましい含有量は、Co:7質量%以下(0%を含む)、Ni:4.5質量%以下(0%を含む)、Cu:4質量%以下(0%を含む)、Cr:0.5〜2質量%である(ただし、Co、Ni、Cuが同時に0%になることはない)
前記浸炭用鋼は、さらにMo:0.45質量%以下(0%を含まない)、B:0.003質量%以下(0%を含まない)、Ti:0.1質量%以下(0%を含まない)、Nb:0.1質量%以下(0%を含まない)、Al:0.1質量%以下(0%を含まない)などを含有していてもよい。
【0013】
前記浸炭用鋼は、通常、さらにSi:0.5質量%以下(0%を含まない)、Mn:2質量%以下(0%を含まない)、N:0.05質量%以下(0%を含まない)、P:0.03質量%以下(0%を含まない)、S:0.03質量%以下(0%を含まない)を含有している。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の浸炭用鋼は、炭素含有量が0.1〜0.3質量%であり、Crを含有している。炭素含有量を0.1質量%以上としているのは、炭素含有量が少ないと得られる部材の強度が不足するためである。炭素含有量は、0.10質量%以上であるのが好ましく、0.15質量%以上であるのがさらに好ましい。また炭素含有量の上限を0.3質量%に設定しているのは、部材の製造工程で浸炭するために表面の炭素濃度を高めることができるため、鋼材の段階では被削性を維持するために炭素濃度を抑制しておくのが望ましいためである。炭素含有量の上限は、0.25質量%であるのが望ましい。
【0015】
Crの含有量は特に限定されないが、浸炭用鋼であることを考慮すると、含有量が多い程、得られる部材の耐摩耗性や耐ピッチング性が向上するため望ましい。Crの含有量は、例えば、0.5質量%以上、好ましくは0.6質量%以上、さらに好ましくは0.7質量%以上である。なおCr含有量が多すぎると、後述のCr炭化物抑制策を施しても炭化物を充分に抑制できず、部材のねじり疲労強度が低下してくる場合がある。そこでCr含有量は、例えば、3質量%以下、好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1.5質量%以下、特に1.2質量%以下に抑制するのが望ましい。
【0016】
そして本発明では、上記のようなCrを含有する浸炭用鋼において、Co、Ni、Cuなどの元素も添加している。Cr含有量が多いほど、浸炭時にCr炭化物が多量に生成し易くなり、ねじり疲労強度が低下し易くなるにも拘わらず、本発明ではCrの添加量に応じて、Co、Ni、Cuなどの元素の添加量も増大させているため、Cr炭化物の生成を抑制でき、ねじり疲労強度が低下するのを防止できる。Co、Ni、Cuなどは、炭化物生成を抑制する元素であり、これら元素を添加するとCr炭化物の生成をも抑制できるのである。Co、Ni、Cuの添加量は、これらの元素の炭化物抑制能とCr添加量とに応じて適宜決定できるが、例えば、下記式(1)、好ましくは下記式(2)、さらに好ましくは下記式(3)を満足する範囲で添加する。
【0017】
[Co]+2.1×[Ni]+2.8×[Cu]−2.4×[Cr]>0 …(1)
[Co]+2.1×[Ni]+2.8×[Cu]−2.4×[Cr]>1 …(2)
[Co]+2.1×[Ni]+2.8×[Cu]−2.4×[Cr]>2 …(3)
[式中、[Co]、[Ni]、[Cu]、又は[Cr]は、それぞれ、鋼中のCo含有量(質量%)、Ni含有量(質量%)、Cu含有量(質量%)、又はCr含有量(質量%)を示す]
上記式(1)〜(3)の左辺の値が大きい程、浸炭後の浸炭層中のCr炭化物量を抑制でき、浸炭部材のねじり疲労強度を高めることができる。なお前記Co、Ni、Cuは単独で添加してもよく、2種以上組み合わせて添加してもよい。
【0018】
なお前記式(1)〜(3)を満たす限りCoの添加量は特に限定されないが、例えば、7質量%以下(0%を含む)、好ましくは6質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、特に3質量%以下(例えば、1.5質量%以下)に抑制するのが望ましい。Coを添加しすぎても添加量に比べて効果が飽和し、さらには高価な元素であるため製造コストが向上する。
【0019】
またNiの添加量も前記式(1)〜(3)を満たす限り特に限定されないが、例えば、4.5質量%以下(0%を含む)、好ましくは3.5質量%以下、さらに好ましくは2.5質量%以下、特に1.7質量%以下に抑制するのが望ましい。Niを添加しすぎても添加量に比べて効果が飽和する。
【0020】
Cuの添加量も前記式(1)〜(3)を満たす限り特に限定されないが、例えば、4質量%以下、好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下、特に1.5質量%以下に抑制するのが望ましい。Cuを添加しすぎても添加量に比べて効果が飽和し、さらには製品のリサクル性が低下する。
【0021】
前記浸炭用鋼は、通常、Si:0.5質量%以下(0%を含まない)、Mn:2質量%以下(0%を含まない)、及びN:0.05質量%以下(0%を含まない)を含有しており、P:0.03質量%以下(0%を含まない)、S:0.03質量%以下(0%を含まない)に抑制されていることが多く、残部はFe及び不可避的不純物であってもよく、必要に応じて種々の添加成分を含有していてもよい。以下、上記成分の限定理由について説明する。
【0022】
Si:0.5質量%以下(0%を含まない)
Siは粒界酸化層の生成を招き、疲労強度を低下させることもあるので必要以上に含有させないのが望ましい。Siの含有量は、例えば、0.5質量%以下、好ましくは0.35質量%以下、さらに好ましくは0.15質量%以下である。なおSiは、脱酸元素として有用であるため、積極的に添加する場合もある。積極的に添加する場合、Siの含有量は、例えば、0.05質量%以上、好ましくは0.10質量%以上程度である。
【0023】
Mn:2質量%以下(0%を含まない)
Mnの含有量が多すぎると、製鋼条件によっては疵や中心偏析を誘発し、鋼材の品質を劣化させることもあるため、必要以上に含有させないのが望ましい。従ってMnの含有量は、例えば、2質量%以下、好ましくは1.5質量%以下、さらに好ましくは1.2質量%以下である。なおMnは鋼材の脱酸に有用であり、また焼入れ性向上元素であるために浸炭硬化層深さを大きくするのに有効であり、積極的に添加する場合もある。積極添加する場合、Mnの含有量は、例えば、0.5質量%以上、好ましくは0.6質量%以上、さらに好ましくは0.8質量%以上である。
【0024】
N:0.05質量%以下(0%を含まない)
Nが過剰になると、非金属介在物が形成され靭性が低下する。従って、Nの含有量は、例えば、0.05質量%以下、好ましくは0.03質量%以下、さらに好ましくは0.02質量%以下にする。なお鋼がAlやTiを含有する場合、Nが存在していれば、AlNやTiNを生成することによって結晶粒の粗大化を防止し、耐ピッチング性を高める作用がある。この場合、Nの含有量は、例えば、0.005質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、さらに好ましくは0.015質量%以上とする。
【0025】
P:0.03質量%以下(0%を含まない)
Pは粒界に偏析し鋼材の疲労強度を劣化させるため、なるべく抑制することが望ましい。例えば、P含有量は、0.03質量%以下、好ましくは0.02質量%以下、さらに好ましくは0.015質量%以下に抑制するのが望ましい。
【0026】
S:0.03質量%以下(0%を含まない)
Sは鋼中でMnと結合してMnS介在物となり、部品形状によっては疲労強度を低下させる要因ともなるので、なるべく抑制することが望ましい。例えば、S含有量は、0.03質量%以下、好ましくは0.025質量%以下、さらに好ましくは0.02質量%以下に抑制するのが望ましい。
【0027】
前記浸炭用鋼は、さらに、Mo:0.45質量%以下(0%を含まない)、及びB:0.003質量%以下(0%を含まない)から選択された少なくとも一種を含有しているのが望ましい。
【0028】
Moは浸炭層の焼入性を向上させるのに有用であり、また浸炭異常層を軽減して疲労強度を改善することができる。Moの含有量は、例えば、0.1質量%以上、好ましくは0.2質量%以上、さらに好ましくは0.25質量%以上である。一方、Moを過剰に添加すると、コスト上昇を招き、さらには圧延材の硬さが上昇して被削性や加工性が低下する。従って、Moの含有量は、例えば、0.45質量%以下、好ましくは0.4質量%以下、さらに好ましくは0.3質量%以下とする。
【0029】
Bも浸炭層の焼入性を向上させるのに有用である。Bの含有量は、例えば、0.0005質量%以上、好ましくは0.001質量%以上である。一方、Bを多量に添加しても焼入性向上効果は飽和し、コスト上昇を招くだけである。従って、Bの含有量は、例えば、0.003質量%以下、好ましくは0.002質量%以下、さらに好ましくは0.0015質量%以下とする。
【0030】
本発明の浸炭用鋼は、さらに、Ti:0.1質量%以下(0%を含まない)、Nb:0.1質量%以下(0%を含まない)、及びAl:0.1質量%以下(0%を含まない)から選択された少なくとも一種を含有するのが望ましい。Tiは鋼中のNを固定し、γ粒を微細化するのに有用である。Nbは微細炭化物を形成し、γ粒を微細化するのに有用である。AlはTiと同様にNを固定し、γ粒を微細化するのに有用である。なおこれらの成分の好ましい添加量は、下記の通りである。
【0031】
Ti:好ましくは0.01質量%以上(さらに好ましくは0.02質量%以上)、0.1質量%以下(さらに好ましくは0.05質量%以下)
Nb:好ましくは0.01質量%以上(さらに好ましくは0.02質量%以上)、0.1質量%以下(さらに好ましくは0.05質量%以下)
Al:好ましくは0.01質量%以上(さらに好ましくは0.02質量%以上)、0.1質量%以下(さらに好ましくは0.05質量%以下)
前記浸炭用鋼の形状は特に限定されないが、軸状部材に加工することを考慮すると、線状又は棒状であるのが望ましい。
【0032】
前記浸炭用鋼は、必要に応じて圧延、伸線、鍛造、熱処理、切削などの慣用の種々の処理を施した後、浸炭することによって浸炭部材(軸状部材など)に加工することができる。
【0033】
浸炭条件は特に限定されず、汎用の条件で浸炭してもよい。浸炭温度は、例えば、750〜1100℃程度、好ましくは800〜1000℃程度、さらに好ましくは850〜950℃程度の範囲から適宜選択できる。また浸炭時の炭素ポテンシャル(雰囲気中の平衡炭素濃度)は、0.5〜1.6質量%程度、好ましくは0.6〜1.4質量%程度、さらに好ましくは0.7〜1.0質量%程度の範囲から適宜選択できる。本発明では、このような汎用の条件で浸炭しても、鋼がCrの添加量に応じた所定量のCo、Ni、及び/又はCuを含有しているため、Cr炭化物の生成量が抑制され、浸炭部材の耐ねじれ疲労強度が高められている。
【0034】
なお前記浸炭条件は、部材表面の硬さを浸炭によって所定以上の硬さに維持できる限り、すなわち浸炭部の炭素濃度を所定以上の濃度にできる限り、炭化物の生成を抑制可能な条件で行ってもよい。例えば、浸炭雰囲気の炭素ポテンシャルを0.5〜0.8質量%程度、好ましくは0.5〜0.7質量%程度に抑制してもよい。
【0035】
本発明によって得られる浸炭部材の浸炭部表面の炭素濃度は、例えば、0.6〜1.2質量%程度、好ましくは0.7〜1.0質量%程度、さらに好ましくは0.8〜0.9質量%程度である。
【0036】
前記浸炭部材は、ねじり疲労強度に優れているため、例えば、軸状部材、好ましくは自動車用部品、建築機械用部品、産業機械用部品などにおいて動力を伝達するために使用される軸状部材として極めて有用である。
【0037】
浸炭部材のねじり疲労強度は、例えば、図2に示すダンベル形状の試験片を切り出し、負荷トルク70〜120kgf・mの範囲で、繰り返し速度5Hzの片降り試験を行いうことによって、10万回の疲労試験に耐える応力(10万回疲労強度)を求めることにより評価できる。本発明で得られる浸炭部材のねじり疲労強度(10万回疲労強度)は、例えば、680MPa以上(好ましくは700MPa以上、さらに好ましくは720MPa以上、特に740MPa以上)であり、通常、1000MPa以下である。
【0038】
また本発明によれば、高いねじり疲労強度を維持したままでCr含有量を高めることができる。従って高Crの鋼材を使用する場合には、軸状部材の耐ピッチング性も高めることができる。この耐ピッチング性は、具体的には、下記1)〜4)に示す二ローラ式試験法によって測定できる。
【0039】
1)軸状部材の製造方法と同様の方法で円筒試験片(ただし半径12mmの半円柱状の突出部が円筒試験片の側壁部を周方向に1周するように設けられている。前記突出部を含めた試験片の直径=70cm)を製造し、相手方の円筒部材(ただし高さ12mm、幅10mmの直方体状の突出部が円筒試験片の側壁部を周方向に1周するように設けられている。前記突出部を含めた試験片の直径=70cm。JIS SUJ2鋼製)と、互いに突出部で接するように並列に並べる。
【0040】
2)前記円筒試験片と相手方円筒部材とを面圧5000MPaで押圧し、摺動部(接触部)にオートマチックトランスミッション用ギアオイルを流量2L/minで供給しながら、円筒試験片を回転数1910rpmで回転させ、相手方の円筒部材を回転数1364rpmで回転させる(すべり速度;2.0m/s)。
【0041】
3)摺動面にピッチングが生じ、振動異常が発生するまでの円筒試験片の回転回数を測定する。
【0042】
4)複数の円筒試験片を用いて、前記1)〜3)に示す試験を行い、10%の試験片において振動異常が発生する回転数を求める(L10寿命)。
【0043】
本発明によれば、前記試験によって求められるL10寿命を、例えば、5×107回以上、好ましくは7×107回以上、さらに好ましくは9×107回以上にすることができる。
【0044】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0045】
実験例1〜23
真空誘導溶解炉(VIF炉)において、表1に示す化学組成を有する鋼(残部はFe及び不可避的不純物)を150kg溶製し、熱間鍛造により直径50mmの丸棒鋼にした後、溶体化処理(1300℃×1時間)及び熱ならし(900℃×2時間)処理を行った。この丸棒鋼を切削し、図2に示す試験片形状(ダンベル状)に切り出した。
【0046】
前記ダンベル状の鋼材を、第1ステップ(温度900℃、150分、炭素ポテンシャル:0.95質量%)、第2ステップ(温度840℃、30分、炭素ポテンシャル:0.85質量%)、及び第3ステップ(水冷)からなる浸炭焼入を施した後、温度180℃×2時間の条件で焼戻しし、最表面から0.1mm(±0.025mm)の深さまで表面研磨を行った。
【0047】
得られたダンベル状の浸炭部材をねじり疲労試験機にセットし、負荷トルク70〜120kgf・mの範囲で、繰り返し速度5Hzの片降り試験を行い、10万回の疲労試験に耐える応力(10万回疲労強度)を求めた。
【0048】
また前記ダンベル状浸炭部材と同様にして、円筒状浸炭部材(ただし半径12mmの半円柱状の突出部が円筒試験片の側壁部を周方向に1周するように設けられている。前記突出部を含めた試験片の直径=70cm)を製造した。この円筒状浸炭部材を用いて、上述の耐ピッチング試験(二ローラ式試験)を行い、耐ピッチング性(L10寿命)を測定した。
【0049】
結果を表2及び図3、図4に示す。なお図3中、○印は[Co]+2.1×[Ni]+2.8×[Cu]−2.4[Cr]>0の実験結果に対応しており、×印は[Co]+2.1×[Ni]+2.8×[Cu]−2.4[Cr]≦0の実験結果に対応している。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
表2及び図3より明らかなように、[Co]+2.1×[Ni]+2.8×[Cu]−2.4[Cr]≦0の場合(Crの添加量に対するCo、Ni、又はCuの添加量が不足する場合;図3中の×印)、ねじり疲労強度はCrの添加量が増大するにつれて急速に低下する。これに対して[Co]+2.1×[Ni]+2.8×[Cu]−2.4[Cr]>0の場合(図3中の○印)、Cr添加量が増大してもねじり疲労強度の低下が抑制されている。
【0053】
また図4より明らかなように、Cr含有量が増大するにつれて、耐ピッチング性も向上する。そこで、Cr含有量を0.5質量%以上程度で区切り、耐ピッチング性に優れた試験片において、式[Co]+2.1×[Ni]+2.8×[Cu]−2.4[Cr]とねじり疲労強度との関係を整理した。結果を図5に示す。図5より明らかなように、Cr含有量を0.5質量%以上とし、[Co]+2.1×[Ni]+2.8×[Cu]−2.4[Cr]>0とすれば、耐ピッチング性とねじり疲労強度とを両立できる。
【0054】
なお実験例14は、10万回疲労強度に優れているものの、C含有量が少ないため、強度(静的強度)の点で他のC含有量が多い実験例の方が優れている。実験例15は、10万回疲労強度に優れているものの、C含有量が多いため、被削性の点で他のC含有量が少ない実験例の方が優れている。
【0055】
【発明の効果】
本発明の鋼によれば、Crの添加量が増大するにつれて、Co、Ni、Cuなども増量添加しているため、浸炭処理した際に浸炭層中のCr炭化物の生成量を抑制することができ、浸炭部材のねじり疲労強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1はCr含有量と鋼材特性との関係を概念的に示すグラフである。
【図2】図2はねじり疲労試験で使用する試験片の概略図である。
【図3】図3は実施例で試験した鋼材について、Cr含有量とねじり疲労強度(MPa)との関係を示すグラフである。
【図4】図4は実施例で試験した鋼材について、Cr含有量とローラーピッチング寿命との関係を示すグラフである。
【図5】図5は計算式[Co]+2.1×[Ni]+2.8[Cu]−2.4[Cr]の値とねじり疲労強度との関係を示すグラフである。
Claims (3)
- 炭素含有量が0.1〜0.3質量%であり、Crの含有量が0.5〜2質量%であり、Coの含有量が7質量%以下(0%を含む)、Niの含有量が1.7質量%以下(0%を含む)、及びCuの含有量が4質量%以下(0%を含む)であり(ただしCo、Ni、Cuが同時に0%になることはない)、さらにSi:0.5質量%以下(0%を含まない)、Mn:2質量%以下(0%を含まない)、Al:0.1質量%以下(0%を含まない)及びN:0.05質量%以下(0%を含まない)を含有し、P:0.03質量%以下(0%を含まない)、S:0.03質量%以下(0%を含まない)に抑制し、残部はFe及び不可避的不純物であり、下記式(1)を満足することを特徴とするねじり疲労特性に優れた浸炭用鋼。
[Co]+2.1×[Ni]+2.8×[Cu]−2.4×[Cr]>0 …(1)
[式中、[Co]、[Ni]、[Cu]、又は[Cr]は、それぞれ、鋼中のCo含有量(質量%)、Ni含有量(質量%)、Cu含有量(質量%)、又はCr含有量(質量%)を示す] - さらに、Mo:0.45質量%以下(0%を含まない)、及びB:0.003質量%以下(0%を含まない)から選択された少なくとも一種を含有する請求項1に記載の浸炭用鋼。
- さらにTi:0.1質量%以下(0%を含まない)、及びNb:0.1質量%以下(0%を含まない)から選択された少なくとも一種を含有する請求項1または2に記載の浸炭用鋼。
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