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JP3971853B2 - 耐食性に優れた鋼材 - Google Patents

耐食性に優れた鋼材 Download PDF

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JP3971853B2 JP25543198A JP25543198A JP3971853B2 JP 3971853 B2 JP3971853 B2 JP 3971853B2 JP 25543198 A JP25543198 A JP 25543198A JP 25543198 A JP25543198 A JP 25543198A JP 3971853 B2 JP3971853 B2 JP 3971853B2
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、特に橋梁など維持管理の遂行が困難な構造物で、塗装されて乃至無塗装で使用される構造材に適した耐食性に優れた鋼材の技術分野に属するものである。
【0002】
【従来の技術】
例えば山間部や海岸地帯など、塩水や融雪塩が飛来するなどの塩分腐食環境下にある道路橋等の橋梁構造物に使用する鋼材は、耐食性向上のため、従来から塗装されて用いられている。しかし、この塗装塗膜は必ず経時劣化するため、耐食性維持のために、一定周期で塗装しなおす維持管理の必要性がある。
【0003】
一方、近年では、これらの橋梁には、従来の多数桁橋梁に代わり、2主桁橋梁に代表されるような主桁の数が少ない少数主桁橋梁が多く用いられるようになっている。この少数主桁橋梁は、多数桁橋梁に比して、使用鋼材量(鋼重)や橋材片数が削減可能で、施工性も良く、環境保護や工期の短縮の点で利点を有する。そして、このような少数主桁橋梁には、橋梁設置後の維持管理の負荷やコストの最小化と、橋梁自体の高寿命化が強く求められている。
【0004】
したがって、このような少数主桁橋などを含め、鉄塔や建築物などの構造材に用いられる鋼材には、前記塩分腐食環境下において、無塗装で使用(裸使用)されても、また、塗装されて使用され、使用中に塗装皮膜が劣化乃至破壊されても、いずれにしても橋梁設置後の維持管理が不要であるような高い耐食性を維持する鋼材が強く求められている。
【0005】
従来、この種鋼材の耐食性の向上のために、母材である鋼材側からの改善技術が種々提案されている。例えば、この代表例として、P :0.15% 以下やCu:0.2 〜0.6 % 、Cr:0.3 〜1.25% 、Ni:0.65% 以下を含む耐候性鋼がある。この耐候性鋼は、JIS G 3114 (溶接構造用耐候性熱間圧延鋼材) あるいはJIS G 3125 (高耐候性圧延鋼材) の2 種が規格化されている。この耐候性鋼は、前記微量元素の作用によって、鋼材の使用中に、鋼表面に生成する錆が、裸耐候性に代表される高い耐食性を有する緻密な安定錆層 (耐候性錆) となる自己防食機能を有している。そして、このような性質により、耐候性鋼は、前記橋梁など、これまで様々な構造物のメンテナンスフリーの構造材として、基本的に無塗装で使用されてきた。
【0006】
しかし、前記塩分腐食環境下では、塩分の影響により、耐候性鋼の特徴である前記安定錆層が形成されにくくなる。そして、この安定錆層が形成されなくなると、前記耐候性鋼の耐食性は著しく低下してしまう。これは、前記塩分の多い腐食環境下では、鋼の腐食に伴って、錆皮膜中のpHが特に低下することに起因している。即ち、通常、鋼の腐食がわずかでも始まると、まず、Fe→Fe2++2e- と、これに続くFe2++2H2O→Fe(OH)2 +2H+ なる反応により、鋼表面のpHは低下し、錆皮膜中乃至錆皮膜と鋼との界面のpHも低下する。そして、これらのpHが一旦低下すると、電気的中性を保つために錆皮膜中の塩素イオンの輸率が増大し、塩素イオンの濃縮が錆皮膜と鋼との界面で生じる。この結果、この界面部分に塩酸雰囲気が形成され、鋼の腐食を促進するものである。また、これと同時に、錆皮膜中のpHの低下によって、鉄イオンの溶解度が大きくなり、耐候性鋼など耐食低合金鋼の防食機構の要である前記安定錆層の形成を阻害する現象も生じ、腐食加速状況が形成される。
【0007】
このため、前記錆皮膜中のpHの低下を防止するため、耐候性鋼の表面をアルカリ化し、前記腐食加速状況の形成を阻止する技術が提案されている。より具体的には、耐候性鋼の表面をアルカリ化するBe、Mg、Ca、Sr、Ba等の酸化物 (化学種) を、予め鋼中に分散しておき、前記鋼の腐食反応と同時に、これら化学種を作用させ、鋼表面のpHの低下を抑制する方法が、例えば、特開昭58−25458 号や特許第2572447 号公報などで提案されている。
【0008】
これら酸化物を添加して、腐食加速状況の形成を阻止する技術は、確かに、外界からの塩分等の影響を抑制する点では効果がある。しかしながら、やはり前記安定錆層自体を形成するのは、前記耐候性鋼と同様に困難乃至限界があり、十分な耐食性が得られていないのが実情である。また、鋼中に添加する酸化物自体が、溶接性や強度などの特性に悪影響を及ぼす懸念もある。
【0009】
このため、鋼材の耐食性向上の課題に対し、前記鋼材の成分組成の側からの改善ではなく、鋼材の表面処理により、この安定錆層自体を形成する技術が種々提案されている。例えば、特許登録第2699733 号公報や特開平06−93467 号公報には、基本的に、鋼材表面あるいは鋼材の錆層に硫酸クロムなどのCrイオンを含む水溶液を塗布し、これによって、大気環境中で形成される錆層および既に形成されている錆層の耐食性を高めるものである。より具体的には、前記塗布によって、塗布後に形成される錆層中に、0.3mass%以上のCrを始めとする、Cu、P 、Ni、Feなどが含有されることにより、形成される錆がα−FeOOH などの緻密な錆となって錆層の耐食性が高められるものである。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
この技術は、ウェザーアクト処理と称され、安定錆層の成分や組成自体に着目した点で注目すべき技術である。即ち、前記耐候性鋼や酸化物分散鋼などでは、添加元素を多く含み、鋼材施工時の溶接性や、溶製、圧延などの鋼材製造時の効率が、通常の鋼に比して、必然的に低下する。また、製造効率の低下や添加元素を多く含むことによる鋼材製造コストも高くつくとともに、溶接性が低下する分、鋼材施工コストも高くつく。したがって、これらの耐候性鋼を用いることなく、通常の炭素鋼や低合金鋼を用いて、安定錆層の成分や組成によって、鋼材の高い耐食性が実現可能であるならば、前記製造効率やコスト、あるいは施工効率やコストの面で多くの利点がある。
【0011】
しかしながら、前記硫酸クロムの塗布を主体とするウェザーアクト処理を施した場合、前記塩分腐食環境下において、無塗装で使用(裸使用)された場合、あるいは塗装して使用された際に塗装皮膜が劣化乃至破壊された場合に、必ずしも再現性良く高耐食性が発揮されないことを、本発明者は知見した。
【0012】
そして、この一因として、ウェザーアクト処理される鋼材の種類の問題があること、即ち、ウェザーアクト処理がその優れた耐食性の効果を、前記塩分腐食環境下において、再現性良く発揮するためには、鋼材の成分組成を調製する必要があることも知見した。
【0013】
したがって本発明は、これら従来の問題に鑑み、塩分腐食環境下において、硫酸クロム溶液の塗布に係るウェザーアクト処理の優れた耐食性の効果を、再現性良く発揮できる鋼材を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
このための本発明の要旨は、鋼材表面あるいは鋼材の錆層に硫酸クロム溶液が塗布された鋼材であって、この鋼材が質量% にて、C :0.15% 以下、Si:0.10〜1.0 % 、Mn:1.5 % 以下、S :0.02% 以下、P :0.05% 以下、Cr:0.05% 以下、Ti:0.01〜 1.0% 、Ca:0.0001〜0.01% およびCu:0.05〜3.0 % とNi:0.05〜6.0 % の1 種または2 種を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなることである。
【0015】
このような要旨とすることにより、構造物としての使用中に鋼材表面に生成する錆を、緻密な安定錆層にすることができ、塩分腐食環境下でも、再現性良く高い耐食性を有することが可能となる。
【0016】
本発明者らは、硫酸クロムの塗布を主体とするウェザーアクト処理を施した場合に、再現性良く鋼の高耐食性が発揮されない原因が、鋼材の成分組成の内の、S やCrなどの含有量にあることを知見した。そして、一方でTiを含有することにより、ウェザーアクト処理の効果が高められることを知見した。
【0017】
これらの元素の耐食性への影響について以下に説明する。鋼材表面に生成した錆においては、緻密な安定錆層か否かの目安として、錆の非晶質度 (非晶質度合い) が重要となる。即ち、鋼材表面に生成する鉄錆の主要な成分は、α−FeOOH 、β−FeOOH 、γ−FeOOH およびFe3O4 の結晶性の錆と、非晶質の錆との5 種類からなる。この内、非晶質の錆は、結晶性の錆よりも極めて微細で緻密な安定錆層を形成する。しかも、例え、鋼材の使用中に結晶性の錆により錆皮膜としての欠陥部分が形成されたとしても、非晶質の錆部分がこの穴埋めを行い、欠陥部分を減少させる欠陥補修機能も有する。この結果、鋼材の長期の裸耐候性を保障する。したがって、鉄錆中の非晶質の錆の割合 (非晶質度) が高いほど、また、結晶性の錆成分の内でも微細で緻密なα−FeOOH の割合が高いほど高い耐食性を有する。
【0018】
一方、これ以外の錆、特にβ−FeOOH などの結晶性の錆は、錆中の前記非晶質やα−FeOOH の割合が高くても、この錆が起点となって腐食を進行させるため、極力抑制する必要がある。したがって、鉄錆中の非晶質の錆の割合 (非晶質度) や、微細で緻密なα−FeOOH の錆の割合が高いほど、安定錆層と言える。また、結晶性の錆成分の内でも特に腐食を促進しやすいβ−FeOOH の割合が少ないほど、緻密な安定錆層と言える。
【0019】
これに対し、まず、S が0.02% を越えて含有量されると、ウェザーアクト処理による前記安定錆層の形成を阻害して、耐食性劣化を招く。したがって、S 含有量を0.02% 以下とすることも本発明の特徴の一つである。。
【0020】
また、Crは、従来の耐候性鋼材では、P やCu、Niとともに、前記安定錆層を形成させるために必須の添加元素と認識され、前記した通り、JIS 規格などでも0.30〜1.25% 含有されている。また、前記特開昭58−25458 号や特許第2572447 号公報などでは、Crの添加は明示されていないものの、鉄原料や製鋼過程などからの不純物として、必然的に0.05% 以上含有されている。
【0021】
しかし、Crを0.05% 以上含有する場合、鋼のミクロな表面欠陥部において腐食がわずかでも始まると、化学平衡的に鉄原子に伴い微量溶解するCrイオンが、Clイオンの作用も加わり、前記鋼のミクロな表面欠陥部内におけるpHの低下の原因となり、欠陥内での凝縮水分の酸化性を促進し、腐食を誘発する作用がある。したがって、Crは前記緻密な安定錆層が生成したとしても、安定錆層の下部において、鋼の腐食を促進する作用があり、錆層と鋼との密着性を阻害して、錆層の剥離を助長したり、結果として、緻密な安定錆層の生成乃至維持を阻害する。それゆえ本発明では、Crの含有量を可能な限り少なくすることが必要で、Cr含有量低減の経済性も考慮して、その上限を0.05% 未満とする。
【0022】
そして、Crに代わる前記安定錆層の形成促進元素として、本発明では、Tiを選択した。Tiは、Crのような前記pHの低下の原因とならずに、前記安定錆層の形成促進効果があり、硫酸クロムの塗布を主体とするウェザーアクト処理の効果を相乗的に高めるという特異な性質を有する。具体的には、鉄錆中の非晶質の割合やα−FeOOH の錆の割合を高めるとともに、結晶性の錆成分の内でも特に腐食を促進しやすいβ−FeOOH の生成を抑制して、 微細で緻密な安定錆層の形成を促進する。この結果、錆層への塩化物イオンなどの腐食因子の進入を阻止し、緻密な安定錆層を維持して、耐食性を向上させる。
【0023】
因みに、Tiは、通常、溶鋼の脱酸や鋼材の強度維持のために添加されることが公知であり、前記特許第2572447 号公報などでも、この公知の目的のために0.03% 以下程度添加している。しかし、本発明におけるTiの目的は、前記した通り緻密な安定錆層の形成であり、この点が前記S やCrの低減とともに本発明の特徴の一つである。
【0024】
【発明の実施の形態】
次に本発明における鋼材の化学成分の限定理由について、以下に説明する。
C :0.15% 以下。C は、鋼の構造材用途としての 390〜630N/mm2級、乃至それ以上の要求強度を確保するための必須の元素であるが、0.15% を越えて含有量されると、鋼の溶接性や裸耐候性を劣化させる。したがって、C 含有量は0.15% 以下の、前記要求強度を確保できる量とする。
【0025】
Si:0.10〜1.0 % 。Siは溶鋼の脱酸や固溶強化のために必須の元素であり、また、緻密な安定錆層の形成を促進し、裸耐候性などの耐食性を向上させる効果も有する。しかし、0.10% 未満ではこれらの効果が不十分であり、逆に1.0 % を超えると、溶接性が低下する。したがって、Si含有量は0.10〜1.0 % の範囲とする。
【0026】
Mn:1.5 % 以下。Mnは、C に替わり 390〜630N/mm2級、乃至それ以上の強度確保のための必須の元素であるが、1.5 % を越えて含有量されると、MnS が鋼中に多量に生成して、裸耐候性などの耐食性劣化を招くおそれがある。したがって、Mn含有量は1.5 % 以下の範囲とする。
【0027】
S :0.02% 以下。S は、前記した通り、0.02% を越えて含有量されると、腐食の起点となるFeS 、MnS が鋼中に多量に生成して、ウェザーアクト処理による前記安定錆層の形成を阻害して、耐食性劣化を招く可能性がある。また、Niなどを過剰に含有した場合に、S との反応により、溶接金属の粒界に低融点のNiS 化合物を析出させ、凝固金属の粒界の延性を劣化させやすくなる。この点、S 含有量を0.02% 以下とすれば、前記低融点のNiS 化合物を析出させずに、Niをより多量に含有することが可能になるという利点もある。例えば、S が0.02% を越えた場合には、Niの上限値は3.0 % とすべきであるが、S 含有量を0.02% 以下とすることにより、前記した通り、Niを6.0 % まで含有することが可能となる。したがって、S 含有量は0.02% 以下、好ましくは0.01% 以下、更に好ましくは0.005 % 以下の範囲とする。
【0028】
P :0.05% 以下。P は、耐候性鋼にとって、鋼表面に生成する錆への塩化物イオンの進入を阻止し、緻密な安定錆層を形成して、耐食性を向上させる効果を有する。そして、前記従来の耐候性鋼では、この効果を発揮させるために、0.05% 程度以上、0.15% 以下程度の含有を必須としている。しかし、本発明においては、P の0.05% 程度以上の過度の含有は、溶接性を著しく阻害し、前記少数桁橋梁の施工上重要な、予熱なし(予熱フリー)で、高効率の大入熱溶接ができる溶接性の要求特性を満たすことができない。また、本発明では、Tiなどの含有により、緻密な安定錆層の形成が達成できるゆえ、P の過度の含有は必要ない。したがって、本発明では、P 含有量を極力低減することとし、P 含有量低減の経済性も考慮して、その上限を0.03% 未満とする。このP 量の低減は、溶接性の向上にも寄与する。
【0029】
Cr:0.05% 以下。Crは、前記した通り、鋼のミクロな表面欠陥部内におけるpHの低下の原因となり、欠陥内での凝縮水分の酸化性を促進し、腐食を誘発する作用があり、鋼材の裸耐候性を低下させる。したがって、本発明ではCrを0.05% 未満に可能な限り含有量を少なくする。このCr量の低減は、溶接性の向上にも大きく寄与するものである。
【0030】
Ti:0.01〜 1.0% 。Tiは、前記した通り、本発明では、Crに代わる前記安定錆層の形成促進元素として重要な元素であり、Crの如き前記pHの低下の原因となるような耐食性への悪影響はない。また、Tiは鋼材組織の結晶粒微細化による生成錆の微細化、あるいは靱性向上や溶接性の向上効果も有する。即ち、Tiの含有によって、溶接部の冷却過程において強力なフェライト変態核となるTiC やTiN 等を鋼中に分散析出させ、溶接熱影響部の組織のフェライト微細化に大きく寄与する。Ti含有量が0.01% 未満ではこの効果がなく、また1.0 % を越えてもその効果は飽和し経済的ではない。この点、Tiの効果をより発揮させるためには、0.03% を越えて含有することが好ましく、より好ましくは0.05% 以上含有する。またTiが0.5 % を越えると鋼の脆化が問題となる場合もあり、前記した通り経済的でもない。したがって、好ましくはTi含有量は0.03% を越え0.5 % 以下、より好ましくは0.05〜0.5 % の範囲とする。
【0031】
Cu:0.05〜3.0 % とNi:0.05〜6.0 % の1 種または2 種。CuとNiは、共に耐食性向上効果や溶接性の向上効果を有する元素であり、これらの1 種または2 種を含有することにより、これらの効果が発揮される。この内、Cuは電気化学的に鉄より貴な元素であり、鋼表面に生成する錆を緻密化して、ウェザーアクト処理による安定錆層の形成を促進し、耐候性などの耐食性を向上させる効果を有する。また、溶接性の向上にも寄与する。Cu含有量が0.05% 未満ではこの効果がなく、3.0 % を越えてもそれ以上の効果は得られず、逆に鋼材の製造のための熱間圧延などの加工の際に、素材の脆化を引き起こす可能性がある。この観点からは、Cu含有量の上限を1.5 % 以下とするのが好ましい。したがって、Cu含有量は0.05〜3.0 % の範囲、好ましくは0.05〜1.5 % の範囲とする。
【0032】
Niは、Cuと同様に、鋼表面に生成する錆を緻密化して、ウェザーアクト処理による安定錆層の形成を促進し、耐候性などの耐食性を向上させる効果を有する。また、溶接性の向上にも寄与する。更にNiは、Cuの前記熱間加工脆性を抑制する効果もある。したがって、Cuと併せて含有すると、耐食性向上効果、熱間加工脆性の抑制効果の相乗効果が期待できる。Niが0.05% 未満の含有量ではこのような優れた効果を得ることができない。しかし、一方、Niの過剰な含有は、完全オーステナイト組織における固液凝固温度範囲を広げて、低融点不純物元素のデンドライト粒界への偏析を助長するとともに、S と反応して溶接金属の粒界に、低融点のNiS 化合物を析出させ、凝固金属の粒界の延性を劣化させる。したがって、Niの過剰な含有は、耐溶接高温割れ性に悪影響を与えるので、その上限の含有量は6.0 % とすべきであり、結果としてNi含有量は0.05〜6.0 % の範囲とする。
【0033】
Ca:0.0001〜0.01% 。Caは、耐食性をより向上させる元素であり、また溶接性の向上効果も有する。Caの耐食性向上の作用の1 つは、耐食性に有害なS を固定して、鋼マトリックスを清浄化することである。また、更に他の作用として、鋼中に微量固溶したCaが鋼表面やミクロ的な欠陥部での腐食進行過程において、鉄の腐食反応に伴い微量溶解してアルカリ性を呈する。したがって、腐食 (アノード) 先端部の溶液pH緩衝効果を有し、腐食先端部での腐食を抑制する効果を有する元素である。これらは、前記Crのような溶解時にpHを下げる元素の作用とは全く逆の作用を持っている。したがって、CaをTiと併用すると、本発明のCrの低減効果やTiなどの安定錆層の形成促進効果と合わせ、裸耐候性などの耐食性向上の相乗効果が生じる。この相乗効果は、Caの含有量が0.0001% 未満ではこの効果が発揮されないが、過度に含有しても、その効果は飽和し、経済的ではない。特にCaは、過度に含有されると、鋼の清浄度を悪くし、耐候性鋼材の製造時、特に製鋼中の炉壁を損傷する可能性も有している。したがって、Caの含有量は0.0001〜0.01% の範囲とする。
【0034】
次に本発明鋼材の選択添加元素について説明する。
Mo:0.05〜3.0 % とW :0.05〜3.0 % の1 種または2 種。Mo:0.05〜3.0 % とW は、TiやNiと共存することにより、耐食性を向上させる効果を有する元素であり、選択的に含有させる。これらの1 種または2 種を含有することにより、鋼表面に生成する錆を緻密化して、ウェザーアクト処理による安定錆層の形成を促進し、耐候性などの耐食性を向上させる効果を有する。更に具体的には、ウェザーアクト処理により生成する錆を緻密化するとともに、錆の性質を塩化物イオンなどの腐食性アニオンと結びつきにくいカチオン選択性として、腐食性アニオンの錆層の浸透を抑制させる。この効果が、TiやNiの緻密な安定錆生成効果( 非晶質の錆や、α−FeOOH の錆の生成促進と、腐食を促進するβ−FeOOH の抑制) と相まって、鋼材の耐食性を向上させる。MoやW の含有量が、各々0.05 %未満ではこの効果がなく、また、含有量が各々3.0 % を越えると、この効果は飽和する。したがって、MoとW の含有量は、0.05〜3.0 % とする。
【0035】
Al:0.05〜0.50% 、La:0.0001〜0.05 %、Ce:0.0001〜0.05 %、Mg:0.0001〜0.05% の1 種又は2 種以上。 Al 、La、Ce、Mgは、共に耐食性向上効果を有する元素であり、選択的に含有させる。これらの1 種または2 種以上を含有することにより、鋼表面に生成する錆を緻密化して、ウェザーアクト処理による安定錆層の形成を促進し、耐候性などの耐食性を向上させる効果を有する。
【0036】
この内、AlはTiと複合添加することによりウェザーアクト処理による安定錆層の形成を一層促進する効果も有する。またAlは溶接性の向上効果も有する。したがって、本発明鋼材の耐食性をより一層向上させる場合には、Alを0.05〜0.50% の範囲で含有させる。更に、Alは、溶鋼の脱酸元素として、固溶酸素を捕捉するとともに、ブローホールの発生を防止して、鋼の靱性の向上のためにも有効な元素である。Al含有量が0.05% 未満では、これらの十分な効果が得られず、一方、Al含有量が0.50% を超えると、前記耐食性向上効果は飽和し、逆に、溶接性を劣化させたり、アルミナ系介在物の増加により鋼の靱性を劣化させる。
【0037】
また、La、Ce、Mgは鋼表面やミクロ的な欠陥部での腐食進行過程において、鉄の腐食反応に伴い微量溶解してアルカリ性を呈する。したがって、腐食 (アノード) 先端部の溶液pH緩衝効果を有し、腐食先端部での腐食を抑制する効果を有する元素である。これらは、前記Crのような溶解時にpHを下げる元素の作用とは全く逆の作用を持っている。したがって、本発明の、Crの低減効果やTiなどの安定錆層の形成促進効果と併用すると、より一層の耐食性向上の相乗効果が期待できる。この効果は、各々の含有量が0.0001%未満では発揮されないが、過度に含有しても、その効果は飽和し経済的ではないし、鋼の機械的性質も悪くする。したがって、各々の含有量は、La:0.0001〜 0.05 %、Ce:0.0001〜 0.05 %、Mg:0.0001〜0.05%の範囲とする。
【0038】
Zr、Ta、Nb、V 、Hfの内から1 種又は2 種以上を合計で0.50% 以下。Zr、Ta、Nb、V 、Hfは、Tiと同様の効果を発揮し、生成する錆の非晶質化やα−FeOOH の割合を高くして、微細で緻密な錆を形成するとともに、β−FeOOH を抑制した安定錆層を形成する。しかし、その効果はTiに比べると劣っている。したがって、これらの元素は、Tiの効果を補完するものとして、選択的に含有する。
【0039】
これらのZr、Ta、Nb、V 、Hfの効果は、これらの元素の1 種または2 種以上を、合計 (総量) で、Tiの必要含有量以上、好ましくは、0.1%以上含有することにより発揮される。但し、0.50% を越えて含有しても、効果は同じであり、上限量は、合計 (総量) で0.50% 程度とする。
【0040】
このような成分組成からなる本発明の鋼材は、溶接性が優れるという利点も有する。即ち、前記少数主桁橋梁などの構造材は、施工性や工期の短縮の点から、炭酸ガスアーク溶接やエレクトロガスアーク溶接により、入熱量5KJ/mm以上、場合によっては入熱量100 乃至300KJ/mm以上の大入熱溶接が施される。したがって、構造材に使用される鋼材としては、構造材としての強度等の機械的な性質は勿論、予熱の必要が無く、これら大入熱溶接等の高効率溶接が可能な、優れた溶接性を耐食性とともに併せ持つ鋼材が好ましく、本発明鋼材は、この点をも満足する。
【0041】
次に、本発明の安定錆層を形成するための、硫酸クロム溶液 (ウェザーアクト処理) について説明する。硫酸クロム溶液が、鋼材表面あるいは鋼材の錆層に塗布されることにより、鋼材表面に、クロムイオンが存在することとなる。この結果、塗布後に、大気環境中で形成される錆層中に、Crが含有されることにより、Crの効果によって、形成される錆がα−FeOOH などの緻密な錆となって錆層の耐食性が高められる。
【0042】
この際、鋼材中の前記Tiなどの安定錆層の形成促進元素が相乗作用して、鉄錆中の非晶質の割合やα−FeOOH の錆の割合を高めるとともに、結晶性の錆成分の内でも特に腐食を促進しやすいβ−FeOOH の生成を抑制して、微細で緻密な安定錆層の形成を促進する。この結果、錆層への塩化物イオンなどの腐食因子の進入を阻止し、緻密な安定錆層を維持して、耐食性を向上させる。
【0043】
このCrの効果を発揮するためには、0.3mass%以上のCrが錆層へ含有されることが好ましく、鋼材に塗布する硫酸クロム溶液のCr濃度もこれに見合った量とするのが好ましい。
【0044】
更に、Cr以外の含有元素について、これら元素の効果乃至本発明の意図する錆の生成を阻害しない範囲での、他の元素乃至不純物の含有は許容される。例えば、その他の元素として、Tiや、前記特開平06−93467 号公報に開示された、Cu、P 、Niの一種または二種以上を錆中に0.3mass%以上含有しても良い。Tiは、前記鋼材中のTiのように安定錆層の形成促進効果があり、鉄錆中の非晶質の割合やα−FeOOH の錆の割合を高めるとともに、結晶性の錆成分の内でも特に腐食を促進しやすいβ−FeOOH の生成を抑制して、微細で緻密な安定錆層の形成を促進する効果が期待できる。また、Cu、P 、Niは、これらの元素だけはCrと同等の効果は期待できないものの、Crと組み合わせて用いられることにより、錆の非晶質化やα−FeOOH 化に寄与する複合効果を有することが期待できる。
【0045】
次に、本発明における、これら緻密な安定錆層を形成する方法について説明する。まず、構造材としての使用前あるいは使用中の鋼材表面に、洗浄、清浄化や表面研磨などの適当な処理を行う。これらの処理は、鋼材表面を鏡面化する等のものから、鋼材表面の錆の除去、あるいは、鋼材表面や鋼材錆層の単なる清浄化のものまで、鋼材に要求される表面状況により、適宜選択的に行えば良い。また、勿論、鋼材錆層を除去せずに本発明形成方法を行う場合は、鋼材錆層の単なる清浄化あるいは、これらの処理をしなくても良い。
【0046】
次いで、本発明においては、鋼材表面乃至鋼材表面の錆層に対し、硫酸クロムを含有する水溶液や有機溶媒などの溶液を塗布する。この際、他の元素に比した前記Tiの緻密な錆の形成効果の優位性から、硫酸クロムの効果を補強するために、溶液が硫酸Tiを含有することが好ましい。硫酸クロム溶液中の好ましいTiの含有量は、 1.0〜50mass% である。その理由はTi添加の効果が現れるのには1.0mass%以上の濃度が必要であり、50mass% を超えても効果は飽和し経済的にも不利となるからである。また、Cu、Ni、P から選ばれる1種または2種以上を 0.1〜25.0mass% 含有したものが好ましい。25.0mass% を超える添加では効果が飽和し、経済的にも不利になるためである。そして、これらを硫酸塩溶液とするのは、溶液の安定性や鋼材への付き回り性の点からであり、塩化物などの他の化合物とした溶液とした場合には、溶液の安定性や鋼材への付き回り性が悪くなり、安定錆層の生成が困難となりやすいからである。
【0047】
このような硫酸クロム溶液 (ウェザーアクト処理) を鋼材表面に塗布した鋼材は、特に積極的に処理せずとも、また、塩水や融雪塩が飛来するなどの塩分腐食環境下であっても、橋梁などの構造材として使用中に、緻密な安定錆層が比較的短時間で生成する点が大きな利点である。しかし、確実な裸耐候性などの耐食性を保障する品質保証の観点から、鋼材を製造後、必要により酸洗等の前処理を施した後、酸化ポテンシャルを制御したガスなどの雰囲気中で熱処理する、あるいは、燐酸塩やクロメートや酸化剤などの薬剤により化学的に表面処理し、鋼材の製造過程中で生成している錆を非晶質化するなどの処理を行って、積極的に緻密な安定錆層を形成しても良い。
【0048】
また、本発明は、新規な構造物用の鋼材だけではなく、既存の構造物として使用中の塗装乃至非塗装鋼材の耐食性を向上させるためにも使用できる。即ち、既存の構造物として使用中の鋼材の表面の塗膜乃至錆を、全部乃至部分的に( 例えば腐食部分のみ) 剥離乃至剥離せずに清浄化し、本発明の溶液を、鋼材表面乃至鋼材の錆層に塗布しても、その後の時間的な経過によって緻密な錆を生成させることが可能である。したがって、本発明は、既存の構造物の補修乃至保守管理としても使用可能である。
【0049】
次に、本発明鋼材の製造方法を説明する。本発明鋼材は、通常の厚みが50mm以上の厚鋼板の製造方法により製造可能である。即ち、鋼の連続鋳造や造塊法による溶製後、分塊圧延乃至熱間鍛造や、厚板圧延などの熱間加工を行い、所定の製品板厚に製造される。なお、これら熱間加工条件や熱間加工後の冷却や熱処理の条件は、鋼材の、例えば橋梁の構造材としての、 390〜630N/mm2級乃至それ以上の強度などの機械的性質の要求や仕様に応じて、適宜決定される。したがって、通常の熱間加工の他に、溶接性を保障する低合金化乃至低炭素当量化を確保した上で、前記強度等の機械的性質を確保するために、熱間加工後の加速冷却などの強制冷却や制御圧延が施されても良い。また、熱間加工後の熱処理も、必要により、圧延オンラインでの直接焼入れ(DQ)やオフラインでの焼入れ焼戻し(QT)などが適宜施される。
【0050】
【実施例】
次に、以上説明した本発明鋼材の意義について、実施例を挙げて説明する。表1に示す種々の化学成分を有する鋼塊を各々溶製し、これら鋼塊を熱間圧延後加速冷却により強制冷却して板厚が50mmの厚鋼板を製造した。表1のNo.1は低炭素鋼、No.2はTi入り低合金鋼、No.3〜10は本発明耐候性鋼である。そして、これらの厚鋼板から試験片を切り出し、試験片表面をエメリー紙研磨およびバフ研磨により鏡面とし、この試験片表面に、 1〜45mass% の硫酸クロム水溶液や硫酸ジルコニウム水溶液など、およびこれらに加えてCr、Ni、Cuの硫酸塩を含む水溶液を鋼材表面に塗布する処理を行った。
【0051】
これらの処理を行った試験片を、無塗装使用を模擬した裸の試験片のまま(表2の発明例No.6〜24)、および、塗装使用を模擬して橋梁などの塗装に通常使用されるフタル酸樹脂を50μm 塗布した塗装試験片(表3の発明例 No.30〜43) として、耐食性試験を行った。この耐食性試験は大気暴露試験にて行い、実際の塩分腐食環境下を模擬して、週 1回の5.0%塩水散布を行い、試験片は南向きに、かつ水平に対し30°の傾斜で設置して、1 年間の大気暴露試験を行い、長期耐久性を評価した。なお、塩水噴霧試験等の比較的短期間の腐食促進試験があるなかで、あえて1 年間の大気暴露試験を行ったのは、本発明鋼材の用途が、特に塩分腐食環境下の橋梁等の構造材であるため、この実際の使用条件下の腐食に適合した試験でないと、正確な評価ができないためである。。
【0052】
大気暴露後の裸試験片は、平均板厚の減少量 (腐食減量) の測定により評価した。平均板厚減少量は、大気暴露試験の前後での供試材の平均板厚をマイクロメーターで測定し、密度を考慮して平均板厚減少量(mm)を算出した。そして、これらの結果から耐食性の総合評価(×〜◎◎◎◎◎)を行った。これらの結果を表2に示す。
【0053】
また、塗装試験片については、塗膜に予め傷をつけて人工塗膜欠陥を設けるとともに、前記裸の試験片と同じ条件で大気暴露試験を行い、試験後の人工塗膜欠陥部のふくれ幅の測定により耐食性を評価した。そして、これらの結果から耐食性の総合評価(×〜◎◎◎)を行った。これらの結果を表3に示す。なお、表2、3において、平均板厚の減少量 (腐食減量) はmm単位で示し、人工塗膜欠陥部のふくれ幅は、0.80mm以上をA 、 0.5〜0.8mm をB 、0.5mm 以下をC として記載している。
【0054】
また、大気暴露試験後の試験片表面に生成した錆中の元素と元素量の分析・測定を、X 線回折法(XRD) および電子線プルーブX 線マイクロアナリシス(EPMA)により行うとともに、錆の組成を前記X 線回折法により分析した。より具体的には、前記「腐食防食 95 C −306( 341〜344 頁) 」に開示された粉末X 線回折法により行い、内部標準として一定重量比のZnO を鋼材から採取した錆試料に混合し粉末化したものをX線回折法により同定し、前記α−FeOOH 、β−FeOOH 、γ−FeOOH およびFe3O4 の4種類の結晶性錆の各々の固有の回折ピークの積分強度比と、予め求めた各々の錆成分の検量線から、各々の結晶性の錆成分の定量化を行った。そして、非晶質成分の割合(%) は錆の合計量からこれら各々の結晶性の錆成分量を差し引いて算出した。これらの結果も表2に示す。
【0055】
表2において、大気暴露試験の後の試験片表面の生成錆の組成は、非晶質+α-FeOOHの錆成分の分率を A:0〜30mass% 、B:31〜40mass% 、C:41〜50mass% 、D:51mass% 以上、β-FeOOHの錆成分の分率を A:31mass%以上、B:21〜30mass% 、C:11〜20mass% 、D:10mass% 以下として示している。
【0056】
また、比較のために、▲1▼表1に示す比較鋼や本発明に係る鋼を、本発明に係る処理をせずに( 無処理で) 、発明例と同様に裸試験片で耐食性試験を行った比較例No.1、3 、5 、▲2▼表1に示す比較鋼を本発明に係る処理を行い、発明例と同様に裸試験片で耐食性試験を行った比較例No.2、4 の結果を表2に示す。
【0057】
更に、▲3▼表1に示す比較鋼や本発明に係る鋼を、本発明に係る処理をせずに、発明例と同様に塗装試験片で耐食性試験を行った比較例No.25 、27、29 、▲4▼表1に示す比較鋼を本発明に係る処理を行い、発明例と同様に本発明例と同様に塗装試験片で耐食性試験を行った比較例No.26 、28の結果を表3に示す。
【0058】
表2、3の結果から明らかな通り、本発明に係る鋼を、本発明に係る処理をした発明例No.6〜24(表2)、発明例 No.30〜43(表3)は、無塗装および塗装の両者の場合において耐食性に優れている。
【0059】
これに対し、本発明に係る処理をしない比較例No.1、3 、5 (表2)、No.25 、27、29(表3)は、本発明に係る鋼を用いるか否かに拘らず、無塗装および塗装の両者の場合において耐食性に劣っている。また、比較鋼を本発明に係る処理を行った比較例No.2、4 (表2)、比較例No.26 、28(表3)は、無塗装および塗装の両者の場合において耐食性に劣っている。これらの比較例では、錆の組成が、α−FeOOH や非晶質の錆成分が主たる組織でありながら、Ti、Nb、Ta、Zr、V 、Hfの錆中の含有が無いか含有量が少ないために、β−FeOOH の結晶性の錆の割合 (分率) が多くなり、このβ−FeOOH が起点となって腐食が進行するため、耐食性が劣っているものと推考される。
【0060】
これら、試験片表面の錆層と地鉄の界面の塩化物イオンの濃縮度合いをEPMAにより測定した結果、発明例は、いずれも錆層と地鉄の界面の塩化物イオンの濃縮が少なかったのに対し、比較例は、錆層と地鉄の界面の塩化物イオンの濃縮が多く、前記耐食性試験の結果が裏付けられた。
【0061】
したがって、この結果から、本発明のより好ましい条件である鋼表面の錆の非晶質化と、β−FeOOH の結晶性の錆の抑制のためには、鋼材の成分の影響が大きいこと、即ち、ウェザーアクト処理がその優れた耐食性の効果を、前記塩分腐食環境下において、再現性良く発揮するためには、鋼材の成分組成を調製する必要があることが裏付けられる。
【0062】
【表1】
Figure 0003971853
【0063】
【表2】
Figure 0003971853
【0064】
【表3】
Figure 0003971853
【0065】
【発明の効果】
本発明によれば、特に塩分腐食環境下での耐食性が優れた鋼材を提供することができる。したがって、特に、この種耐食性が優れた鋼の用途を新規に、しかも大幅に拡大するものであり、工業的な価値は大きい。

Claims (8)

  1. 鋼材表面あるいは鋼材の錆層に硫酸クロム溶液が塗布された鋼材であって、この鋼材が質量% にて、 C:0.15% 以下、Si:0.10〜1.0%、Mn:1.5%以下、S :0.02% 以下、P :0.05% 以下、Cr:0.05% 以下、Ti:0.01〜1.0%、Ca:0.0001〜0.01% およびCu:0.05〜3.0%とNi:0.05〜6.0%の1種または2種を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなることを特徴とする耐食性に優れた鋼材。
  2. 前記鋼材が、更にMo:0.05〜3.0%とW :0.05〜3.0%の1種または2種を含有する請求項1に記載の耐食性に優れた鋼材。
  3. 前記鋼材が、更にAl:0.05〜0.50% 、La:0.0001〜0.05% 、Ce:0.0001〜0.05% 、Mg:0.0001〜0.05% の1種又は2種以上を含有する請求項1または2に記載の耐食性に優れた鋼材。
  4. 前記鋼材が、更にZr、Ta、Nb、V 、Hfの内から1種又は2種以上を合計で0.50% 以下含有する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の耐食性に優れた鋼材。
  5. 前記硫酸クロム溶液が、更にNi、Cu、P 、Feのイオンまたは酸イオンの1種または2種以上を含有する請求項1乃至4のいずれか1項に記載の耐食性に優れた鋼材。
  6. 前記硫酸クロム溶液が、更にTiを含むNi、Cu、P 、Feのイオンまたは酸イオンの1種または2種以上を含有する請求項1乃至4のいずれか1項に記載の耐食性に優れた鋼材。
  7. 前記鋼材が厚みが50mm以上の厚板である請求項1乃至6のいずれか1項に記載の耐食性に優れた鋼材。
  8. 前記鋼材が塩分腐食環境下で使用される請求項1乃至7のいずれか1項に記載の耐食性に優れた鋼材。
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