JP3970152B2 - 複合基板およびそれを用いたelパネルとその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は発光表示装置や面光源に利用される複合基板とその製造方法に関し、特に交流駆動型EL素子の高誘電率セラミック層を絶縁層に用いたELパネルに関する。
【0002】
【従来の技術】
EL素子には、粉末発光体を有機物やホウロウに分散させ、上下に電極層を設けた構造を持つ分散型EL素子と、電気絶縁性の基板上に2つの電極層と2つの薄膜絶縁体の間に挟む形で形成した薄膜発光体を用いた薄膜型EL素子がある。また、それぞれについて、駆動方式により直流電圧駆動型、交流電圧駆動型がある。分散型EL素子は古くから知られており、製造が容易であるという利点があるが、輝度が低く寿命も短いのでその利用は限られていた。一方、薄膜型EL素子は、高輝度、長寿命という特性を持つことから近年広く利用されている。
【0003】
図4に従来の薄膜型EL素子として代表的な2重絶縁型薄膜EL素子の構造を示す。この薄膜EL素子は、液晶ディスプレイやPDP等に用いられている青板ガラスなどの透明基板21上に、膜厚0.2μm〜1μm程度のITOなどからなり所定のストライプ状のパターンに形成された透明電極層22、薄膜透明第1絶縁体層23、膜厚0.2μm〜1μm程度の発光層24、薄膜第2絶縁体層25とが積層され、さらに前記透明電極層22と直交するようにストライプ状にパターニングされたAl薄膜等の金属電極層26が形成されている。そして、透明電極層22と金属電極層26とのマトリックスで選択された特定の発光体に電圧を電源30より選択的に印加することにより、特定画素の発光体を発光させ、その発光を基板21側から取り出す。このような薄膜絶縁体層23,25は、発光層24内を流れる電流を制限する機能を有し、薄膜EL素子の絶縁破壊を抑えることが可能であり、安定な発光特性が得られるように作用する。このため、この構造の薄膜EL素子は商業的にも広く実用化されている。
【0004】
しかしながら、このような薄膜EL素子には、未だ解決すべき構造上の問題が残存していた。すなわち、絶縁体層は薄膜で形成されているため、大面積のディスプレーとしたとき、透明電極のパターンエッジの段差部や、製造工程で発生するゴミ等による薄膜絶縁体の欠陥を皆無にすることが難しく、局所的な絶縁耐圧の低下により発光層の破壊が生じるといった問題があった。このような欠陥は、ディスプレーデバイスとして致命的な問題となるため、薄膜EL素子は、液晶ディスプレーやプラズマディスプレーと比較して、大面積のディスプレーとして広く実用化するためには大きな障害となっていた。
【0005】
このような薄膜絶縁体の欠陥が生じるという問題を解決するため、特公平7−44072号公報には、基板として電気絶縁性のセラミック基板を用い、発光体下部の薄膜絶縁体のかわりに厚膜誘電体を用いたEL素子が開示されている。この文献に開示されているEL素子は、従来の薄膜EL素子の構造とは異なり、発光体の発光を基板とは反対の上部側から取り出すため、透明電極層は上部に構成されている。
【0006】
また、このEL素子では厚膜誘電体層は数10〜数100μmと薄膜絶縁体層の数100〜数1000倍の厚さに形成される。そのため、電極の段差や製造工程のゴミ等によって形成されるピンホールに起因する初期動作時の絶縁破壊が非常に少なくなる。ところで、このような厚膜誘電体層を用いることにより、発光層に印加される実効電圧が降下する問題を生じるが、例えば前記特公平7−44072号公報では複合ペロブスカイト高誘電率材料を誘電体層に用いることによりこの問題を改善している。
【0007】
しかしながら、厚膜誘電体層上に形成される発光層は数100nmと厚膜誘電体層の1/100程度の厚さしかない。このため、厚膜誘電体層は発光層の厚み以下のレベルでその表面が平滑でなければならないが、通常の厚膜工程で作製された誘電体表面を十分平滑にすることは困難であった。
【0008】
すなわち、厚膜誘電体層は本質的に粉体原料を用いたセラミックスで構成されている。このため、緻密に焼結させると通常30〜40%程度の体積収縮を生じる。ところが、通常のセラミックスが焼結時に3次元的に体積収縮して緻密化するのに対し、基板上に形成された厚膜セラミックスは、基板に拘束されているため、基板の面内方向には収縮できず、厚さ方向に1次元的にしか体積収縮出来ない。このため、厚膜誘電体層の焼結は不十分なまま本質的に多孔質体となってしまう。さらに厚膜の表面粗さは、多結晶焼結体の結晶粒サイズ以下にはならないため、その表面はサブミクロンサイズ以上の凹凸形状になる。
【0009】
このような誘電体層の表面には、蒸着法やスパッタリング法等の気相堆積法で形成される発光層を均一に形成することができない。そして、この不均一な発光層部には効果的に電界を印加できず、有効発光面積が減少したり、膜厚の局所的な不均一性から発光層が部分的に絶縁破壊を生じ、発光輝度の低下を生じるといった問題があった。さらに、膜厚が局所的に大きく変動するため、発光層に印加される電界強度が局所的に大きくばらつき、明確な発光電圧しきい値が得られない問題があった。
【0010】
このような問題を解決するために、例えば特開平7−50197号公報では、ニオブ酸鉛からなる厚膜誘電体表面に、ゾルゲル法によって形成されるチタン酸ジルコン酸鉛等の高誘電率層を積層し、表面の平坦性を改善する手法が開示されている。すなわち、図5に示すように、基板11上に電極12を形成し、厚膜誘電体層13を形成した後、ゾルゲル法によって形成されるチタン酸ジルコン酸鉛等の平坦化層14を形成し、表面の平坦性を改善している。
【0011】
しかしながら数10〜数100μmの厚みがあり多孔質体である厚膜誘電体層表面に、平坦化層を形成した場合平坦化層に微小なクラックが発生する。クラックが発生した部分は、絶縁性が低下するため長期間に渡る安定動作が困難となる。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、厚膜誘電体層の絶縁性を確保し、そのうえに成膜される発光層等の機能性薄膜の安定した動作、特に安定した発光が可能な複合基板およびELパネルとその製造方法を提供することである。
【0013】
【課題を解決する為の手段】
すなわち上記目的は、以下の本発明構成により達成される。
(1) 少なくとも基板と、この基板上に形成された電極と、この電極上に厚膜法により形成された厚膜誘電体層とを有し、前記厚膜誘電体層上と、厚膜誘電体層の下部および/または厚膜誘電体層の間に溶液塗布焼成法により形成された誘電体層が形成されており、前記溶液塗布焼成法により形成された誘電体層が厚膜誘電体層を介して複数層形成されており、この溶液塗布焼成法により形成された誘電体層の総計が2〜5層である、ELパネル用複合基板。
(2) 上記(1)ELパネル用複合基板の、厚膜誘電体層上の溶液塗布焼成法により形成された誘電体層上に少なくとも発光層と、他の電極層を有するELパネル。
(3) 少なくとも基板と、この基板上に形成された電極と、この電極上に厚膜法により形成された厚膜誘電体層とを有する複合基板の製造方法であって、前記厚膜誘電体層上と、厚膜誘電体層の下部および/または厚膜誘電体層の間に溶液塗布焼成法により誘電体層を形成し、前記溶液塗布焼成法により形成された誘電体層が厚膜誘電体層を介して複数層形成されており、この溶液塗布焼成法により形成された誘電体層の総計が2〜5層である、ELパネル用複合基板の製造方法。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の複合基板は、少なくとも基板と、この基板上に形成された電極と、この電極上に形成された厚膜誘電体層と、この厚膜誘電体層上に溶液塗布焼成法により形成された誘電体層とを有し、前記厚膜誘電体層と溶液塗布焼成法により形成された誘電体層とが、それぞれ交互に複数層形成されているものである。
【0015】
このように、厚膜誘電体層の下地や、厚膜誘電体層と厚膜誘電体層の間に、溶液塗布焼成法により形成された緻密な誘電体層を有することにより、厚膜誘電体層の絶縁性を確保でき、その上に発光層等の機能性薄膜を形成した場合には、長期に渡って安定した動作、発光が得られる。すなわち、内部電極と発光層などの薄膜間にかかる電圧を安定化でき、その結果素子が安定となり信頼性が向上する。
【0016】
厚膜誘電体層上に、誘電体材料溶液を塗布すると、毛細管現象等により誘電体材料溶液は下地である厚膜誘電体層上部のある程度の深さまで染み込み、染み込んだ領域の厚膜誘電体層の結晶粒間に充填される。その後の焼成により、誘電体材料溶液の有機物成分は燃焼気化するため体積が収縮するものの、厚膜誘電体層の結晶粒内の一部を溶液塗布焼成法で形成された誘電体が埋めることにより、密度の高い領域が厚膜誘電体層上部のある程度の深さまで形成される。従って、本発明によれば、厚膜誘電体層上に溶液塗布焼成法による緻密な誘電体層を形成する際、上記現象により下地厚膜誘電体層の上部領域を高密度化する効果を併せ持つことはいうまでもない。
【0017】
すなわち、溶液塗布焼成法による誘電体を厚膜誘電体層上に形成する場合、誘電体材料溶液の粘度または塗布量を調整することにより、厚膜誘電体層の結晶粒間を埋める程度に形成することができる。この場合、明確な層構造には成っていないが、厚膜誘電体層上に溶液塗布焼成法による誘電体を形成し、厚膜誘電体層を高密度化することにより本発明の効果が得られる。従って、本発明で定義する溶液塗布焼成法により得られた誘電体層には、このように厚膜誘電体層と一体と成ったものも含まれる。
【0018】
厚膜誘電体層と溶液塗布焼成法により形成された誘電体層との複合積層体は、前記複合積層体の層数が多いほど絶縁性、安定性が確保でき好ましい。しかしながら、溶液塗布焼成法により形成された誘電体層の層数が多くなると工程的に煩雑となり、製品のコストアップにもつながる。このため、好ましい層数としては2〜5層、特に2〜3層である。
【0019】
本発明の複合基板は、例えば図1に示すような構造とすればよい。すなわち、電気絶縁性を有する基板1上に、所定のパターンに形成された下部電極層2と、その上に厚膜誘電体層3a,3bと溶液塗布焼成法により形成された誘電体層4a,4bとの積層体である。なお、図示例では表示していないが、溶液塗布焼成法により形成された誘電体層は、厚膜誘電体層3aの下に形成してもよい。
【0020】
基板は電気絶縁性を有しその上に形成される下部電極層、誘電体層を汚染することなく、所定の耐熱強度を維持できるもので有れば特に限定されるものではない。
【0021】
具体的な材料としては、アルミナ(Al2O3)、石英ガラス(SiO2)、マグネシア(MgO)、フォルステライト(2MgO・SiO2)、ステアタイト(MgO・SiO2)、ムライト(3Al2O3・2SiO2)、ベリリア(BeO)、ジルコニア(ZrO2)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化シリコン(SiN)、炭化シリコン(SiC)等のセラミック基板や結晶化ガラスや、高耐熱ガラス等を用いてもよく、またホウロウ処理を行った金属基板等も使用可能である。
【0022】
下部電極層は、表示装置を単純マトリクスタイプとする場合、複数のストライプ状のパターンを有するように形成される。また、その線幅が1画素の幅となり、ライン間のスペースは非発光領域となるため、極力ライン間のスペースを小さくしておくことが好ましい。具体的には、目的とするディスプレーの解像度にもよるが、例えば線幅200〜500μm、スペース20〜50μm程度が必要である。
【0023】
下部電極層の材料としては、高い導電性が得られ、かつ誘電体層形成時にダメージを受けず、さらに誘電体層や発光層と反応性が低い材料が好ましい。このような下部電極層材料としては、Au、Pt、Pd、Ir、Ag等の貴金属や、Au−Pd、Au−Pt、Ag−Pd,Ag−Pt等の貴金属合金や、Ag−Pd−Cu等の貴金属を主成分とし卑金属元素を添加した電極材料が誘電体層焼成時の酸化雰囲気に対する耐酸化性が容易に得られるため好ましい。また、ITOやSnO2(ネサ膜)、ZnO−Al等の酸化物導電性材料を用いてもよく、さらに、Ni,Cu等の卑金属を用い、誘電体層を焼成するときの酸素分圧をこれらの卑金属が酸化されない範囲に設定して用いることもできる。
【0024】
下部電極層の形成方法としては、スパッタ法、蒸着法、めっき法等の公知の技術を用いればよい。
【0025】
厚膜誘電体層は、高誘電率でかつ高耐圧であることが必要であり、さらに基板の耐熱性を考慮して低温焼成可能な物質であることが要求される。
【0026】
ここで、厚膜誘電体層とは、いわゆる厚膜法により、粉末状の絶縁体材料を焼成して形成されるセラミック層である。この厚膜誘電体層は、例えば下部電極層が形成された基板上に、粉末状の絶縁体材料に、バインダーと溶媒を混合して作製された絶縁体ペーストを印刷して焼成して形成することができる。また、絶縁体ペーストをキャスティング成膜することによりグリーンシートを形成し、積層して形成してもよい。
【0027】
焼成前に行なう脱バインダ処理の条件は、通常のものであってよい。
【0028】
焼成時の雰囲気は、下部電極材料の種類に応じて適宜決定すればよいが、酸化性雰囲気中で焼成を行う場合、通常の大気中焼成を行えばよい。
【0029】
焼成温度は、厚膜誘電体層の材料に応じて適宜決定すればよいが、通常、700〜1200℃程度、好ましくは1000℃以下である。また、焼成時間は、0.05〜5時間、特に0.1〜3時間が好ましい。
【0030】
また、必要に応じてアニール処理を施してもよい。
【0031】
厚膜誘電体層の膜厚は、電極の段差や製造工程のゴミ等によって形成されるピンホールを排除するため厚いことが必要とされ、積層体全体の厚膜誘電体層の総計で、少なくとも10μm以上、好ましくは15〜20μm程度である。
【0032】
厚膜誘電体層の材料としては、基板材料の耐熱性の制約を考えると低温形成可能な高誘電率セラミックス組成であることが望ましい。
【0033】
例えばBaTiO3 、(BaxCa1-x)TiO3 、(BaxSr1-x)TiO3 、PbTiO3 、Pb(ZrxTi1-x)O3 等のペロブスカイト構造を有する誘電体、強誘電体材料や、Pb(Mg1/3Ni2/3)O3 等に代表される複合ペロブスカイトリラクサー型強誘電体材料や、Bi4Ti3O12 、SrBi2Ta2O9 に代表されるビスマス層状化合物、(SrxBa1-x)Nb2O6 、PbNb2O6 等に代表されるタングステンブロンズ型強誘電体材料等が、誘電率が高く、焼成が容易なことから好ましい。
【0034】
また、その組成に鉛を含んだ誘電体材料は、酸化鉛の融点が888℃と低く、かつ酸化鉛と他の酸化物系材料、例えばSiO2 やCuO、Bi2O3 、Fe2O3 等との間で700℃から800℃程度の低温で液相が形成されるため低温で焼成が容易であり、かつ高誘電率を得やすいため好ましい。例えばPb(ZrxTi1-x)O3等のペロブスカイト構造誘電体材料や、Pb(Mg1/3Ni2/3)O3等に代表される複合ペロブスカイトリラクサー型強誘電体材料や、PbNb2O6等に代表されるタングステンブロンズ型強誘電体材料等が挙げられる。これらは、アルミナセラミックス等の通常のセラミックス基板の上限耐熱温度である800〜900℃の焼成温度で容易に比誘電率1000〜10000の誘電体を形成することができる。
【0035】
溶液塗布焼成法により形成された誘電体層を形成する際の、溶液塗布焼成法に用いる前駆体溶液は、誘電体層を構成する金属元素の金属有機化合物、もしくは金属アルコキシドおよびこれら金属源元素と溶液中の有機物の複合体と、さらに揮発性溶剤から構成される。
【0036】
溶液塗布焼成法とは、ゾルゲル法やMOD法等の誘電体材料の前駆体溶液を基板に塗布し、焼成によって誘電体層を形成する方法を指す。
【0037】
ゾルゲル法とは、一般には溶媒に溶かした金属アルコキシドに所定量の水を加え、加水分解、重縮合反応させてできるM−O−M結合を持つゾルの前駆体溶液を基板に塗布し焼成させることによって膜形成をする方法である。また、MOD( Metallo-Organic Decomposition )法とは、M−O結合を持つカルボン酸の金属塩などを有機溶媒に溶かして前駆体溶液を形成し、基板に塗布し焼成させることによって膜形成をする方法である。ここで前駆体溶液とはゾルゲル法、MOD法などの膜形成法において原料化合物が溶媒に溶解されて生成する中間化合物を含む溶液を指す。
【0038】
ゾルゲル法とMOD法は、完全に別個の方法ではなく、相互に組み合わせて用いることが一般的である。例えばPZTの膜を形成する際、Pb源として酢酸鉛を用い、Ti,Zr源としてアルコキシドを用いて溶液を調整することが一般的である。また、ゾルゲル法とMOD法の二つの方法を総称してゾルゲル法と呼ぶ場合もあるが、いずれの場合も前駆体溶液を基板に塗布し、焼成する事によって膜を形成することから本明細書では溶液塗布焼成法とする。また、サブミクロンサイズの誘電体粒子と誘電体の前駆体溶液を混合した溶液であっても本発明の誘電体の前駆体溶液に含まれ、その溶液を基板に塗布焼成する場合であっても本発明の溶液塗布焼成法に含まれる。
【0039】
溶液塗布焼成法は、ゾルゲル法、MOD法いずれの場合も、誘電体を構成する元素が均一に混合されるため、厚膜法による誘電体形成のような本質的にセラミックス粉体焼結を用いた手法と比較して、極めて低温で緻密な誘電体を合成することが可能である点が特徴である。
【0040】
溶液塗布焼成法を用いる最大の目的は、この方法で形成された誘電体層の特徴として、前駆体溶液を塗布し焼成する工程を経て形成されるため、基板の凹み部には厚く、凸部には薄く層が形成される。また、厚膜誘電体層の微細な孔に進入し、厚膜誘電体層内部にまで浸透して、厚膜誘電体層全体が緻密になる点にある。
【0041】
溶液塗布焼成法によって形成する誘電体層の膜厚は厚膜表面の凹凸を十分に平坦化するためには0.5μm以上、好ましくは1μm以上が望まれる。また、厚膜誘電体層の下地や、内部に形成される場合には特に0.01〜1μm 程度が好ましい。なお、膜厚の下限は、上記のように塗布液が基板の凹み部には厚く、凸部には薄く層が形成され、しかも厚膜誘電体層の微細な孔に進入し、厚膜誘電体層内部にまで浸透してしまうことから、極端な場合には表面凹凸の凹部を埋める程度の痕跡が確認できればよい。従って、上記下限値は一つの目安であって、溶液塗布焼成法によって形成する誘電体層を形成したことが認められる程度の厚み、あるいはその一部が確認できる程度の領域があればよい。
【0042】
溶液塗布焼成法の成膜方法は、基板にこの前駆体溶液をスピンコーティングやデイツプコーティング、スプレーコーティング等の手法で塗布することにより、前駆体層を基板上に形成し、次いで、この前駆体層を焼成することで前駆体中の有機成分を除去し、金属元素と酸素の結合により超微細酸化物層を形成し、さらにこの酸化物が焼成されることで誘電体層が形成される。
【0043】
溶液塗布焼成法によって形成する誘電体層は、高誘電率であることが必要である。高誘電率材料としては、例えばBaTiO3 、(BaxCa1-x)TiO3 、(BaxSr1-x)TiO3 、PbTiO3 、Pb(ZrxTi1-x)O3 等のペロブスカイト構造を有する誘電体、強誘電体材料や、Pb(Mg1/3Ni2/3)O3 等に代表される複合ペロブスカイトリラクサー型強誘電体材料や、Bi4Ti3O12 、SrBi2Ta2O9 に代表されるビスマスビスマス層状化合物(SrxBa1-x)Nb2O6 、PbNb2O6 等に代表されるタングステンブロンズ型強誘電体材料等が挙げられる。これらのなかでも、BaTiO3 やPZT等のペロブスカイト構造を有する強誘電体材料が、誘電率が高く、比較的低温での形成が容易であるため好ましい。
【0044】
本発明の複合基板を用いてELパネルを得るには、例えば図2に示すような構造とすればよい。このELパネルは、電気絶縁性を有する基板1上に、所定のパターンに形成された下部電極層2と、その上に厚膜誘電体層3a,3bと溶液塗布焼成法により形成された誘電体層4a,4bとの積層体と、さらにその上に、発光層5、薄膜絶縁体層6、透明電極層7が積層されている。なお、薄膜絶縁体層6を溶液塗布焼成法により形成された誘電体層と、発光層の間に形成してもよいし省略してもよい。下部電極層2と上部透明電極層7は、それぞれ互いに直交する方向にストライプ状に形成されている。そして、任意の下部電極層2と上部透明電極層7をそれぞれ選択し、両電極の直交部の発光層に、交流電源・パルス電源10から選択的に電圧を印加することにより特定画素の発光を得ることができる。
【0045】
発光層の材料としては特に限定されないが、前述したMnをドープしたZnS等の公知の材料が使用できる。これらの中でも、SrS:Ceは優れた特性を得られることから特に好ましい。発光層の膜厚は、特に制限されるものではないが、厚すぎると駆動電圧が上昇し、薄すぎると発光効率が低下する。具体的には、発光体材料にもよるが、好ましくは100〜2000nm程度である。
【0046】
発光層の形成方法は、気相堆積法を用いることが可能である。気相堆積法としては、スパッタ法や蒸着法等の物理的気相堆積法やCVD法等の化学的気相堆積法が好ましい。また、特にSrS:Ceの発光層を形成する場合には、H2S雰囲気下、エレクトロンビーム蒸着法により成膜中の基板温度を500℃〜600℃に保持して形成すると、高純度の発光層を得ることが可能である。
【0047】
発光層の形成後、好ましくは加熱処理を行う。加熱処理は、基板側から電極層、誘電体層、発光層と積層した後に行っても良いし、基板側から電極層、誘電体層、発光層、絶縁体層、あるいはこれに電極層を形成した後に加熱処理を行っても良い。熱処理の温度は形成する発光層によるが、好ましくは300℃以上、より好ましくは400℃以上であり、誘電体層の焼成温度以下である。処理時間は10〜600分であることが好ましい。加熱処理時の雰囲気としては、発光層の組成、形成条件により空気、N2 ,HeおよびAr等から選択すればよい。
【0048】
絶縁体層は、その機能として発光層と誘電体層との間の界面の電子状態を調節し発光層への電子注入を安定化、効率化する事と、この電子状態が発光層の両面で対称的に構成することにより交流駆動時の発光特性の正負対称性を改善することが主要な目的であり、誘電体層の役割である絶縁耐圧を保持する機能を考慮する必要はないため膜厚は小さくてよい。
【0049】
絶縁体層は、抵抗率として、108Ω・cm以上、特に1010〜1018Ω・cm程度が好ましい。また、比較的高い比誘電率を有する物質であることが好ましく、その比誘電率は、好ましくは3以上である。この絶縁体層の構成材料としては、例えば酸化シリコン(SiO2)、窒化シリコン(SiN)、酸化タンタル(Ta2O5)、酸化イットリウム(Y2O3)、ジルコニア(ZrO2)、シリコンオキシナイトライド(SiON)、アルミナ(Al2O3)、等を用いることができる。また、絶縁体層を形成する方法としては、スパッタ法や蒸着法、CVD法を用いることができる。また、絶縁体層の膜厚としては、好ましくは10〜1000nm、特に好ましくは20〜200nm程度である。
【0050】
透明電極層は、膜厚0.2μm 〜1μm のITOやSnO2(ネサ膜)、ZnO−Al等の酸化物導電性材料等が用いられる。透明電極層の形成方法としては、スパッタ法のほか蒸着法等の公知の技術を用いればよい。
【0051】
なお、上記したEL素子は単一発光層のみを有するが、本発明のEL素子は、このような構成に限定されるものではなく、膜厚方向に種類の異なる発光層を複数積層してもよいし、同一面上に種類の異なる発光層(画素)を平面的に配置するような構成としてもよい。
【0052】
【実施例】
〔実施例1〕
96%純度のアルミナ基板上に、スパッタリング法により微量添加物を添加したAu薄膜を1μm の厚さに形成し、850℃で熱処理を行って安定化した。このAu下部電極層をフォトエッチング法を用いて幅300μm、スペース30μmの多数のストライプ状にパターニングした。
【0053】
前記下部電極が形成された基板上に、さらにスクリーン印刷法により誘電体セラミックス厚膜を形成した。厚膜ペーストとしては、ESL社製4210C厚膜誘電体ペーストを用い、焼成後の膜厚が5μmになるようにスクリーン印刷、乾燥を繰り返した。
【0054】
印刷乾燥後、厚膜はベルト炉を用い、十分な空気を供給した雰囲気で850℃、20minの焼成を行った。
【0055】
次いで、この基板上に、溶液塗布焼成法を用いて誘電体層を形成した。溶液塗布焼成法による誘電体層の形成方法として、以下の方法で作製したPZTのゾルゲル液を用意し、溶液塗布焼成法前駆体溶液として用いた。先ず、基板に、前駆体溶液をスピンコーティング法にて塗布し、700℃で15分間焼成する作業を所定回繰り返した。
【0056】
基本的なゾルゲル液の作製方法は、8.49gの酢酸鉛三水和物と、4.17gの1.3プロパンジオールを約2時間、加熱撹拌し、透明な溶液を得た。これとは別に、3.70gのジルコニウム・ノルマルプロポキシド70質量%、1−プロパノール溶液と、1.58gのアセチルアセトンを乾燥窒素雰囲気中で30分間加熱撹拌し、これに3.14gのチタニウム・ジイソプロポキシド・ビスアセチルアセトネート75質量%、2−プロパノール溶液と、2.32gの1.3プロパンジオールを加え、更に2時間加熱撹拌した。これら2つの溶液を80℃で混合し、乾燥窒素雰囲気中で2時間加熱撹拌し、褐色透明な溶液を作製した。この溶液を130℃で数分間保持することにより副生成物を取り除き、更に3時間加熱撹拌することによりPZT前駆体溶液を作製した。
【0057】
PZT前駆体溶液の粘度調製は、n−プロパノールを用いて希釈することにより行った。単層当たりの誘電体層の膜厚は、スピンコーティング条件、およびゾルゲル液の粘度を調製し、スピンコーティングによる塗布と焼成を繰り返すことで、膜厚が約1μm厚のPZT誘電体層を形成した。
【0058】
同様の操作を繰り返し、厚膜誘電体層10μm と溶液塗布焼成法により形成された誘電体層1μm をそれぞれ積層し、厚膜誘電体層5μm /溶液塗布焼成法により形成された誘電体層1μm /厚膜誘電体層10μm /溶液塗布焼成法により形成された誘電体層1μm の積層体とした。この積層体の比誘電率は約2500であった。
【0059】
発光層は、200℃に加熱した状態でMnをドープしたZnS蒸着源を用い、ZnS発光体薄膜を膜厚0.8μm となるよう真空蒸着法により形成した後、真空中600℃で10分間熱処理した。
【0060】
次に、絶縁体層としてSi3N4 薄膜を0.1μm 、上部電極層としてITO薄膜を0.5μm をそれぞれスパッタリング法により順次形成することによりEL素子とした。その際、上部電極層のITO薄膜はメタルマスクを成膜時に用いることにより、ライン幅1mm、スペース0.5mmの多数のストライプ状にパターン形成した。
【0061】
また比較サンプルとして、厚膜誘電体層を30μm 、溶液塗布焼成法により形成された誘電体層を約3μm としてそれぞれ1層ずつ形成したサンプルを作製した。
【0062】
得られた素子構造の下部電極、上部透明電極から電極を引き出し、1kHzのパルス幅50μs、電圧180Vにて、25℃で動作させ、連続駆動時の相対輝度特性L/L0 を測定した。ここでL0 は、電圧印加開始時の輝度である。なお、本発明サンプルおよび比較サンプル3は、大気圧以下のN2 雰囲気中で封止を行ったものである。つまり、ELパネル中の封止ガラスで封止された空間を大気圧以下のN2 雰囲気にしたELパネルである。同様の方法で、大気圧のN2 雰囲気下で封止を行ったものを比較例1に、また、封止空間より大きなシュリンク管(ガラス管)に乾燥剤と封止を施さないELパネルを入れ、N2 ガス置換を行った後、大気圧以下まで減圧したものを比較例2とした。結果を図3に示す。
【0063】
図3において、横軸(X軸)として駆動周波数75Hzに換算したときの動作時間、縦軸(Y軸)には発光輝度の相対特性値を付した。また、横軸に示される値1は、電圧印加開始時を表している。図から明らかなように、本発明サンプルは、比較サンプルのなかで最も特性がよい比較1より優れており、殆ど輝度劣化が見られない。
【0064】
〔実施例2〕
本発明の複合基板の耐電圧試験を行う為、下記構成のサンプルを作成した。
アルミナ基板/下部Au電極/複合厚膜誘電体(本発明構造)/上部ITO電極。
【0065】
下部Au電極と上部ITO電極は実施例1と同様の形状とし、それぞれのライン数を80本、70本とした。
【0066】
複合厚膜誘電体は次のように形成した。ここで厚膜誘電体層をA、溶液塗布誘電体層をBとして表し、積層順に左から記載する。
V−1サンプル:A−5μm /B−1μm /A−10μm /B−1μm
V−2サンプル:B−0.3μm /A−5μm /B−0.1μm /A−10μm /B−1μm
V−3サンプル:A−5μm /B−0.1μm /A−5μm /B−0.1μm /A−5μm /B−1μm
【0067】
さらに、上記サンプルの比較例として従来構造である
V−4サンプル(従来構造):A−20μm /B−1μm
を作製した。
【0068】
耐電圧試験は、菊水電子工業(株)製の耐電圧試験器−TOS5052を用いて行った。条件は、下部Au電極のライン80本全体と、上部ITO電極のライン1本毎に、サイン波、60Hzの条件で10V刻みに各電圧で3秒間保持し、ステップ状に電圧を上げ、1.0mAの電流が流れた電圧を破壊電圧とし測定を行った。各サンプル70点の平均破壊電圧と最低破壊電圧等を表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
表1から明らかなように、最低破壊電圧は、V−4サンプルの従来構造品に対して、V−1サンプルで100V上昇している。更に250Vまでの破壊総数では、V−4サンプルの従来溝造品の3個に対して、本発明構造では、どのサンプルも0個である。この結果は、本発明構造の優位性をはっきりと現している。
【0071】
A+Bのトータル層数で比較すると、A+Bのトータル膜厚に関係なく、層数が増す毎に、平均破壊電圧が高くなり、最低破壊電圧も高くなっている。このことにより、層数を増やす毎にELパネルの信頼性が向上すると言える。
【0072】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、厚膜絶縁体層の絶縁性を確保し、そのうえに製膜される発光層等の機能性薄膜の安定した動作、特に安定した発光が可能な複合基板およびELパネルとその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の複合基板の実施態様を示した概略断面図である。
【図2】本発明のELパネルの実施態様を示した概略断面図である。
【図3】実施例の結果を示す駆動時間とL/L0の関係を示したグラフである。
【図4】従来のELパネルの溶液塗布焼成法により形成された誘電体層を示した概略断面図である。
【図5】従来のEL素子の基本構成を示した概略断面図である。
【符号の説明】
1 基板
2 下部電極
3 厚膜誘電体層
4 溶液塗布焼成法により形成された誘電体層
5 発光層
6 薄膜絶縁層
7 透明電極
Claims (3)
- 少なくとも基板と、この基板上に形成された電極と、この電極上に厚膜法により形成された厚膜誘電体層とを有し、
前記厚膜誘電体層上と、厚膜誘電体層の下部および/または厚膜誘電体層の間に溶液塗布焼成法により形成された誘電体層が形成されており、
前記溶液塗布焼成法により形成された誘電体層が厚膜誘電体層を介して複数層形成されており、この溶液塗布焼成法により形成された誘電体層の総計が2〜5層である、ELパネル用複合基板。 - 請求項1のELパネル用複合基板の、厚膜誘電体層上の溶液塗布焼成法により形成された誘電体層上に少なくとも発光層と、他の電極層を有するELパネル。
- 少なくとも基板と、この基板上に形成された電極と、この電極上に厚膜法により形成された厚膜誘電体層とを有する複合基板の製造方法であって、
前記厚膜誘電体層上と、厚膜誘電体層の下部および/または厚膜誘電体層の間に溶液塗布焼成法により誘電体層を形成し、
前記溶液塗布焼成法により形成された誘電体層が厚膜誘電体層を介して複数層形成されており、この溶液塗布焼成法により形成された誘電体層の総計が2〜5層である、ELパネル用複合基板の製造方法。
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