図1は、本発明の一実施形態に従うマイクロストリップアンテナの平面図である。図2は、図1のA-A断面図である。
図1に示すように、電気絶縁材料(例えば絶縁性合成樹脂)製の平らな基板100の前面上に、いずれも矩形の導電体薄膜である3つのアンテナ素子が104、102、106が一直線上に並んで配置される。中央のアンテナ素子102は、マイクロ波信号源から直接的に(つまり、電線を通じて)マイクロ波電力の給電を受ける給電素子である。給電素子102の両側の2つのアンテナ素子104、106は、直接的な給電は受けない無給電素子である。給電素子102の励振方向は図中の上下方向であり、3つのアンテナ素子104、102、106の配列方向は励振方向と直交する方向である。この実施形態では、一例として、左右の無給電素子104と106は、中央の給電素子102について線対象の位置、すなわち、給電素子102から等距離の位置に配置されており、寸法も同じである。無給電素子104、106の寸法は、給電素子102のそれとほぼ同じとすることができるが、違えることもできる(励振方向の長さは、使用するマイクロ波の波長に応じて最適な値があるので、アレンジできる範囲には狭いが、励振方向に直交する方向の幅は、より広い範囲でアレンジできる)。
給電素子102の背面の所定箇所(以下、給電点という)に給電線108の一端が接続されている。図2に示すように、給電線108は、基板100を貫通する導電線(以下、このような導電線を「スルーホール」という)であり、給電線108の他端は、基板100の背面上に配置されたワンチップICであるマイクロ波信号源114のマイクロ波出力端子に接続されている。給電素子102は、マイクロ波信号源114から出力される特定周波数(例えば、10.525GHz、24.15GHz、または76GHzなど)のマイクロ波電力を上記給電点にて受けて励振される。
図2に示すように、基板100は多層基板であって、その内部には一つの層として、薄膜状のアース電極116が、基板100の全平面範囲にわたって形成されている。アース電極116は、高周波信号源114のグランド端子に、スルーホールである接地線115を通じて接続されている。
図1及び図2に示すように、無給電素子104、106のそれぞれの背面の所定箇所(以下、接地点という)にも、スルーホールである制御線110、112の一端がそれぞれ接続されている。制御線110、112の他端は、基板100の背面上に配置されたワンチップICであるスイッチ120、124の一側端子にそれぞれ接続されている。スイッチ120、124の他側端子は、スルーホールである接地線118、122をそれぞれ介して、アース電極116に接続されている。スイッチ120、124は個別にオン・オフ操作され得る。左側のスイッチ120のオン/オフ操作により、左側の無給電素子104がアース電極116に接続されるか、フロート状態になるかが切り替えられる。右側のスイッチ124のオン/オフ操作により、右側の無給電素子106がアース電極116に接続されるか、フロート状態になるかが切り替えられる。
スイッチ120、124には、好ましくは高周波スイッチが使用されるが、使用マイクロ波周波数に対するインピーダンスが所定の適正値に厳密に調整されている必要は特になく、高周波信号を遮断するスイッチのOFF性能(アイソレーション)が良好であれば良い。
図1に示すように、給電素子102の給電点の位置は、一例として、給電素子102の励振方向(上下方向)において、使用マイクロ波の基板100上での波長λgに応じた最適アンテナ長(ほぼλg/2)だけ給電素子102の下側エッジ(又は上側エッジ)から上側(又は下側)に離れた位置であって、励振方向(図中上下方向)と直交する方向(図中左右方向)において、給電素子102の中央位置に選ばれている。一方、無給電素子104、106の各々の接地点の位置は、一例として、上記励振方向(図中上下方向)において、各無給電素子104、106の中央を中心とした幅L/2の範囲より外側の位置であって、上記直交方向(図中左右方向)において、各無給電素子104、106の中央の位置に選ばれている。ここで、Lは、各無給電素子104、106の励振方向の長さである。
以上のように構成されたマイクロストリップアンテナにおいて、スイッチ120、124を操作して無給電素子104、106のどれをアース電極116に接続(接地)するかを切り替えることにより、このマイクロストリップアンテナから出力される電波ビームの放射方向が複数方向に切り替わる。給電素子102と無給電素子104、106との位置関係で放射方向が決定されるため、波長よりも極端に短い給電線108を介し給電素子102とマイクロ波信号源114を接続することが可能であり、よって、伝送損失が少なく効率が良い。また、制御線に接続されるスイッチが1つで電波ビームの放射方向を変化させることができるため、このマイクロストリップアンテナは基板サイズの小型化や製造の低コスト化に適している。
図3は、スイッチ120、124の操作による電波ビームの放射方向が変化する様子を示す。
図3において、楕円は放射される電波ビームを模式的に示し、横軸に示す角度は基板100に垂直な方向に対する電波ビームの放射方向の角度(放射角度)を指し、プラスの角度は放射方向が図1の右側へ傾いていることを、マイナスの角度は左側に傾いていることを意味する。
図3に示すように、両方のスイッチ120、124がオンである(つまり、両方の無給電素子104、106が接地されている)場合、電波ビームは点線で示すように、基板100に垂直な方向に放射される。両方のスイッチ120、124がオフである(つまり、両方の無給電素子104、106が接地されていない)場合にも、電波ビームは、一点鎖線で示すように、基板100に垂直な方向に放射される。
左側スイッチ120がオンで右側スイッチ124がオフである(つまり、左側の無給電素子104だけが接地されている)場合、電波ビームは破線で示すように、左側(条件によっては右側)に傾いた方向へ放射される。他方、左側スイッチ120がオフで右側スイッチ124がオンである(つまり、右側の無給電素子104だけが接地されている)場合、電波ビームは別の破線で示すように、上記とは逆側つまり右側(条件によっては左側)に傾いた方向に放射される。
このように、接地される無給電素子104、106を選択することにより、電波ビームの放射方向が変わる。
図4は、電波ビームの放射方向が変わる原理を説明するための、給電素子と無給電素子に流れるマイクロ波電流の波形を示す図である。この原理は、図1に示した実施形態だけでなく、本発明の他の実施形態にも共通に適用されるものである。
図4において、実線の曲線は、給電素子に流れるマイクロ波電流の波形を示している。破線の曲線は、無給電素子がフロート状である場合に無給電素子に流れるマイクロ波電流の波形を示している。両電流波形間には、或る位相差Δθが存在する。この位相差のために、給電素子と無給電素子のマイクロ波電流の作用で形成される電波ビームの放射方向が、基板に垂直な方向から、位相の遅れている素子の方に傾くことになる。その傾き角度(放射角度)は、位相差Δθによって変わる。
図4に示した例では、無給電素子のマイクロ波電流(破線)は、給電素子のマイクロ波電流(実線)よりも、位相差Δθだけ遅れている。ただし、この遅れ位相差Δθは180度より大きいので、むしろ実質的には、360度からΔθを差し引いた位相差分だけ進んでいることになる。換言すれば、360度からΔθを差し引いた位相差分だけ、給電素子の方が位相が遅れている。よって、トータルの電波ビームの放射方向は、基板に垂直な方向から、位相の遅れている給電素子の方へ傾くことになる。また、条件によっては、上記の遅れ位相差Δθが更に大きくなり360度を超えることがある。この場合には、実質的にΔθから360度を差し引いた位相差分だけ、無給電素子の方が位相が遅れることになるから、電波ビームの放射方向は、無給電素子の方へ傾くことになる。
図4において、点線の曲線は、無給電素子が接地されている場合に無給電素子に流れるマイクロ波電流の波形を示している。図示のように、接地された無給電素子に流れるマイクロ波電流の値は非常に小さい。すなわち、無給電素子が接地されることで、無給電素子は、大雑把にいって、実質的に無きに等しい状態にされる(以下、「無効」にされるという)。その結果、電波ビームは、無給電素子の影響を僅かにしか受けないことになり、上述した位相差Δθに起因する傾きがほとんど無くなる。よって、無給電素子をフロート状態にするか接地するかを切り替えることより、上述した位相差Δθに起因する放射方向の傾きが生じるかほとんど無くなるかが切り替えられる。
以上の原理により、図3に説明したような電波ビームの放射方向の変化が生じるのである。
上述した給電素子と無給電素子の間のマイクロ波電流の位相差Δθは、種々の要因によって決まるが、その一つの要因として、図1に示すような給電素子と無給電素子の間のスペースの長さ(素子間スペース)Sがある。
図5は、発明者らが行ったコンピュータシミュレーションの結果に基づく、素子間スペースSと位相差Δθとの関係の一例を示す。図5に示した例は、図1に示した実施形態にかかる一つの具体的な設計例における素子間スペースSと位相差Δθ(無給電素子の給電素子に対する遅れ位相差)との関係を例示するものである。
図5に示すように、素子間スペースSを0から拡大していった場合、素子間スペースSが2λg(λgは、マイクロ波の基板上で波長)に達するまで、素子間スペースSにほぼ比例して、位相差Δθ(無給電素子の給電素子に対する遅れ位相差)が180度から360度まで増えていく。これは、実質的には、無給電素子の方が給電素子よりも、360度からΔθを差し引いた値だけ位相が進んでいることを意味する。その進み位相差(360−Δθ)は、素子間スペースSの拡大に伴って180度から0度まで減っていく。
他方、素子間スペースSが2λgを超えると、無給電素子の給電素子に対する遅れ位相差Δθは360度を超える。ただし、図5では、Δθから360を差し引いた位相差(Δθ−360)が示されている。図5に示された位相差(Δθ−360)だけ、無給電素子の方が給電素子よりも位相が遅れている。
図6は、図5の場合と同じ具体的な設計例における、発明者らが行ったコンピュータシミュレーションの結果に基づく、位相差Δθ(無給電素子の給電素子に対する遅れ位相差)と、無給電素子がフロート状態(有効)であるときの電波ビームの放射角度(基板に垂直な方向からの傾き角度)との関係を例示する。図6において、放射角度のマイナスは、給電素子を中心にして無給電素子は逆の側へ電波ビームが傾いていることを意味する。
図6に示すように、位相差Δθ(無給電素子の給電素子に対する遅れ位相差)が180度から360度まで増えていく(実質的には、無給電素子の給電素子に対する進み位相差が180度から0度まで減っていく)と、これにほぼ比例して、放射角度はマイナス(無給電素子とは逆側へ電波ビームが傾く)の範囲で約30度から0度まで変化することが分かる。また、位相差Δθが360度を超えた場合(図6中では、180度未満の範囲に示されている)では、放射角度はプラスになる、つまり、電波ビームは無給電素子の側へ傾く。
図5と図6より、素子間スペースSによって、電波ビームが無給電素子の側へ傾くか逆側に傾くか、および、その放射角度の大きさが変化することがわかる。例えば、素子間スペースSが0から2λgの範囲内では、電波ビームは無給電素子とは逆側へ傾き、素子間スペースSが2λgを超えると無給電素子の方へ傾く。
以上の説明から分かるように、給電素子と無給電素子との間の素子間スペースSを選ぶことで、無給電素子を接地するかフロートにするか(つまり、無給電素子を実質的に無効にするか有効にするか)の切り替えによる電波ビームの放射角度の変化量を選定することができる。
無給電素子の有効/無効の切り替えによる放射角度の変化量(つまり、無給電素子が有効であるときの放射角度)は、また、無給電素子における接地点(スルーホールの位置)によっても異なる。
図7は、図5、6の場合と同じ具体的な設計例における、無給電素子上の接地点の位置と、無給電素子が有効であるときの放射角度(基板に垂直な方向からの傾き角度)との関係を例示する。図7に示す接地点の位置とは、励振方向(図1に示す長さLの方向)における位置を意味する'図1に示した無給電素子の励振方向の長さLの倍数で表してある)。図7に示すどの位置も、励振方向に直交する方向では無給電素子の中心にある。また、Lは、図1に示した無給電素子の励振方向の長さLの倍数で示してある。
図7に示すように、接地点の位置が、無給電素子の中心から0.25Lより小さい(図1に示したL/2の範囲内にある)ときは、放射角度は最大値になる場合がある。しかし、接地点の位置が僅かに変化するだけで、放射角度は大きく変化し、安定的でない。他方、接地点の位置が中心から0.25Lより大きい(図1に示したL/2の範囲外にある)ときは、放射角度は一定値に安定する。従って、この安定範囲に接地点の位置を置くことがアンテナの設計を容易にする。因みに、前述した図5、6に示した例は、接地点を上記安定範囲に配置した場合のものである。
図8は、接地点の位置が中心から0.25Lより大きい場合において、無給電素子の中心に対して励振方向とは垂直方向に接地点を移動させた場合の放射角度の関係を例示する。図8に示すように、無給電素子の励振方向とは垂直方向の長さをWとすれば、±0.1Wの範囲で接地点を設けることで、上端(図中実線グラフ)または下端(破線グラフ)のいずれかに接地点を配置しても同様の放射状態を得ることができる。なお、図8に示した例は、無給電素子の励振方向の長さLと、励振方向に垂直な方向の長さWとが等しい(L=W)場合の例である。
図9は、本発明の第2の実施形態にかかるマイクロストリップアンテナの平面図である。図9及び後続の図において、上述した実施形態と実質的に同機能の要素には、同じ参照番号が付されており、以下では重複した説明は省略する。
図9に示すように、給電素子102の図中上側と下側にそれぞれ無給電素子130、132が配置されている。すなわち、これら3つのアンテナ素子130、102、132は、給電素子102の励振方向(図中上下方向)に一直線上に配列されている。無給電素子130、132の接地点は、無給電素子130、132の励振方向における中央から0.25Lより外側の位置にあり、そこにスルーホールである制御線134、136が接続されている。図示してないが、基板100の背面には、給電素子102に給電するマイクロ波信号源と、無給電素子130、132をそれぞれ接地するかフロートにするかを切り替えるスイッチとが設けられている。
給電素子102の給電点(給電線108)は、給電素子102の下側エッジの方に偏った位置にある。2つの無給電素子130、132のうち、給電点から遠い方にある(つまり、上側の)無給電素子130の寸法(特に、励振方向と直交する方向の幅Wc)は、給電点に近い方にある(つまり、下側の)無給電素子136の寸法(特に、励振方向と直交する方向の幅Wd)よりも大きい。また、前者の給電素子102に対する素子間スペースScは、後者のそれSdよりも短い。素子幅WcとWdは、無給電素子130、132の電流振幅が同じになるように調整されている。素子間スペースScとSdは、無給電素子130、132の電流位相が同じになるように調整されている。このような調整により、無給電素子130、132の電波ビームに及ぼす作用がバランスされる。なお、素子間スペースScとSdが素子の長さの1.5倍程度以上に大きく設定されている場合には、無給電素子130、132のサイズが同じで素子間スペースSc、Sdも同じであっても、無給電素子130、132間のバランスがとれる(但し、電波ビームの放射方向の変化幅は例えば10度程度以下というように小さくなる)。
上下の無給電素子130、132のどれをフロート状態(有効)にするか、接地(無効に)するかをスイッチ操作で選択することにより、図1に示した実施形態の場合と同様な原理により、このマイクロストリップアンテナからの電波ビームの放射方向を、基板100に垂直方向、上側に所定角度傾いた方向、及び下側に所定角度傾いた方向に切り替えることができる。
図10は、本発明の第3の実施形態にかかるマイクロストリップアンテナの平面図である。
図10に示すマイクロストリップアンテナでは、図1に示したと同じ構成に加えて、その更に外側の左右端に無給電素子140、142が追加されている。これら外側の無給電素子140、142にも、それぞれ、スルーホールである制御線144,146が接続されている。そして、図示しない基板背面のスイッチの操作により、外側の無給電素子140、142をそれぞれフロート状態にするか接地するかが切り替えられるようになっている。図中、各無給電素子の近傍に示す符号SW1、SW2、SW3、SW4は、各無給電素子の有効/無効を切り替えるためのスイッチの名称(次の図11参照)である。
図11は、図10に示したマイクロストリップアンテナにおいて、スイッチ操作により電波ビームの放射角度が変化する様子を示す。
図11に示すように、内側(つまり、給電素子102に近い方)の無給電素子104、106の各々の有効/無効を切り替えることで、電波ビームの放射角度を大きい変化幅で右方/左方へ切り替えることができる。また、外側(つまり、給電素子102から遠い方)の無給電素子140、142の各々の有効/無効を切り替えることで、電波ビームの放射角度を小さい変化幅で右方/左方へ切り替えることができる。
このように、図10に示したマイクロストリップアンテナでは、給電素子の右側と左側にそれぞれ、複数の無給電素子が直線状に配列されているため、電波ビームの放射方向を、基板垂直方向の右側と左側それぞれの側で、複数段階に細かく変化させることができる。
図12は、上述した第3実施形態の変形例を示す平面図である。
図12に示すマイクロストリップアンテナでは、図10に示した構成に加え、更にその外側に無給電素子140、142が追加されている。すなわち、給電素子102の右側と左側の各側に、3つの無給電素子が直線上に配列されている。それら6つの無給電素子104,106、140、142、150、152の各々有効/無効の切り替えを行うためのスイッチについては、既に説明した実施形態の各無給電素子のそれと同様である。スルーホール108、110、112、144、146、154、156の位置は、基板背面でのマイクロ波信号源とスイッチの配置を容易にするために、千鳥配置になっている。
右側の無給電素子106、142、153と給電素子102との間の素子間スペースSe、Sf、Sgは、それぞれの無給電素子106、142、153の有効/無効の切り替えにより変化する電波ビームの放射方向の変化幅が、それぞれ異なる所望値(例えば、30度、20度、10度)になるように調整されている。左側の無給電素子104、140、150についても同様である。この変形例によれば、電波ビームの放射方向の分解能が、図10のものより更に細かくなる。
図13は、本発明の第4の実施形態にかかるマイクロストリップアンテナの平面図である。
図13のマイクロストリップアンテナでは、図1に示した構成と同様に給電素子102の左右(つまり、給電素子102の励振方向に直交する方向での給電素子102の両側)に無給電素子104、106が配置されるとともに、図9に示した構成と同様に給電素子102の上下(つまり、給電素子102の励振方向に沿った方向での給電素子102の両側)にも無給電素子130、132が配置される。無給電素子104、106、130、132の有効/無効を切り替えるためのスイッチ構成については、前述した実施形態と同様である。図中、各無給電素子の近傍に示す符号SW1、SW2、SW3、SW4は、各無給電素子の有効/無効を切り替えるためのスイッチの名称(次の図14参照)である。
図14は、図13に示すマイクロストリップアンテナにおいて、スイッチ操作により電波ビームの放射方向が変化する様子を示す。図14において、縦軸は上下方向の傾きを意味し、横軸は左右方向の傾きを意味する。
図14に示すように、上下左右の無給電素子104、106、130、132から一つのみを選択的に有効にすることで、電波ビームの放射方向を上下左右に傾かせることができる。また、無給電素子104、106、130、132は給電素子102により励起され同一方向に励振されるため、左右の無給電素子104、106のうちの一つと上下の無給電素子130、132一つを選んで有効にすることにより、電波ビームの放射方向を平面視で45度程度の方向に傾かせることができる。このように有効にされる無給電素子104、106、130、132を選択することにより、45度程度の間隔にて電波ビームの放射方向を変えることができる。また、無給電素子104、106と無給電素子130、132の形状や位置を調整することにより、電波ビームの放射方向を平面視で1度〜89度の方向に傾かせることもできる。
図15は、図13に示した第4実施形態の変形例を示す。
図15に示すマイクロストリップアンテナでは、左右の無給電素子104、106と給電素子102との間の素子間スペースShと、上下の無給電素子130、132と給電素子102との間の素子間スペースSiが異なる。このように、左右の素子間スペースShと上下の素子間スペースSiを調整することで、左右の無給電素子104、106の給電素子102に対する位相差と、上下の無給電素子130、132のそれとを調整することができ、それにより、平面視で任意の斜め方向に電波ビームの放射方向を傾斜させることができる。なお、図13のマイクロストリップアンテナでは、下側の無給電素子132の接地点136が、その無給電素子132の上側(給電素子102に近い側)の終端縁の近傍に配置されているところ、図15のマイクロストリップアンテナでは、下側の無給電素子132の接地点136が、その無給電素子132の下側(給電素子102から遠い側)の終端縁の近傍に配置されている。これは、給電素子102の給電点108の裏側に配置される高周波発振回路 (電源回路)と、下側の無給電素子132の接地点136の裏側に配置されるスイッチとの間に十分距離をとって、発振回路とスイッチが干渉し合わずに配置できるようにするためである。しかし、発振回路とスイッチの配置に問題がなければ、図15のマイクロストリップアンテナでも、図13のマイクロストリップアンテナと同様、下側の無給電素子132の接地点136を、上側の終端縁の近傍に配置してもよい。
発明者らは、図15に示すマイクロストリップアンテナの特性を実験により調べた。その結果、共振周波数において電波ビームの放射方向を傾かせるためには、素子間スペースSi及びShは、ともにλ/2以下であるべきことがわかった。ここで、λは、共振周波数の電波の空気中で波長である。図5を参照して既に説明したコンピュータシミュレーションの結果によると、素子間スペースSi及びShがλ/2より大きくても、電波ビームの放射方向が傾くことが予想される。しかし、この実験によると、素子間スペースSi及びShがλ/2より大きいと、共振周波数では電波ビームは殆ど傾かず、共振周波数より高い周波数で傾くことが分かった。
さらに、この実験によると、共振周波数での電波ビームの放射方向の傾き角度を大きく得るためには、上下(励振方向に沿った方向)の素子間スペースSiは、約λ/4〜約λ/30の範囲内であることが望ましく、そのうち特に約λ/9〜約λ/30の範囲内が一層望ましく、また、左右(励振方向に垂直な方向)の素子間スペースShは、約λ/4〜約λ/9の範囲内であることが望ましく、そのうち特に約λ/5〜約λ/9の範囲内がより望ましいことがわかった。例えば、給電素子102及び無給電素子104、106、130、132のそれぞれの寸法が7.5mm×7.5mmであって、共振周波数が10.52GHzである図15に示す構造のマイクロストリップアンテナの場合、上下の素子間スペースSiは7.1mm(=λ/4)〜0.95mm(=λ/30)が好ましく、3.17mm(=λ/9)〜0.95mm(=λ/30)が更に好ましく、また、左右の素子間スペースShは、7.1mm(=λ/4)〜3.17mm(=λ/9)が好ましく、5.71mm(=λ/5)〜3.17mm(=λ/9)が更に好ましい。これらの好ましい範囲は、基板100の誘電率にはあまり左右されないようである。
図16は、図13に示した第4実施形態の別の変形例を示す。
図16に示すマイクロストリップアンテナでは、図13の構成に加えて、更に、給電素子102の斜め45度の方向にも無給電素子160、162、164、166が配置されている。これにより、平面視での電波ビームの放射方向の分解能が、図13に示した第4実施形態よりも更に細かくなる。また、ゲインも向上させることができる。
図17は、本発明の第5の実施形態にかかるマイクロストリップアンテナの平面図である。
図17に示すマイクロストリップアンテナでは、給電素子102の片側(例えば図中右側)に複数の無給電素子104、140、150、170が直線状に配列されている。無給電素子104、140、150、170の有効/無効を切り替えるための構成は他の実施形態と同様である。図中、各無給電素子の近傍に示す符号SW1、SW2、SW3、SW4は、各無給電素子の有効/無効を切り替えるためのスイッチの名称(次の図18参照)である。これらの無給電素子104、140、150、170のうちの少なとも一つ、例えば最端部に配置された無給電素子170は、給電素子102に対する遅れ位相差Δθ(図5、6参照)が360度以上(実質的には、0から180度の範囲内)になるように配置されている(すなわち、図5、6に基づけば、素子間スペースが2λg以上の位置に配置されている)。他の内側の無給電素子104、140、150は、給電素子102に対する遅れ位相差Δθ(図5、6参照)が180度〜360度の範囲内(実質的には、進み位相差が0から180度の範囲内)になるように配置されている(すなわち、図5、6に基づけば、素子間スペースが2λg未満の位置に配置されている)。
図18は、図17に示すマイクロストリップアンテナにおいて、各無給電素子の有効/無効を切り替えることによる電波ビームの放射角度の変化の様子を示す。
図18に示すように、無給電素子104、140、150、170のうち最端部の無給電素子170のみを有効にすると、電波ビームは無給電素子170の方へ傾く。他方、最端部の無給電素子170は無効とし、他の無給電素子104、140、150のいずれかを有効にすると、電波ビームは逆側の方へ傾く。この場合、無給電素子104、140、150のどれを有効にするかを選択することで、放射角度の大きさを変えられる。
このように、給電素子の片側に複数の無給電素子を配列した場合であっても、或る無給電素子は給電素子に対して位相差が遅れ、別の無給電素子は給電素子に対して位相差が進むように無給電素子の配置を選ぶことで、電波ビームを基板に垂直な方向の両側へ傾けさせることができる。
図19Aは、本発明の第6の実施形態にかかるマイクロストリップアンテナの平面図であり、図19Bは同マイクロストリップアンテの断面図である。
図19A、Bに示すマイクロストリップアンテナでは、基板100上に、給電素子102および複数の無給電素子180、180、…が配列されており、それら給電素子102および無給電素子180、180、…の表面を含む基板100のほぼ全表面領域が、誘電体の層190により被覆されている。無給電素子180、180、…の有効/無効を切り替えるための構成やマイクロ波スイッチなどの構成については、上述した他の実施形態と同様である。
このマイクロストリップアンテナの前面を覆う誘電体層190の作用により、基板100上でのマイクロ波の波長λgが、誘電体層190がない(アンテナ前面が空気に触れている)場合より短くなる。その結果、アンテナ素子の小型化および素子間スペースの縮小が図れ、アンテナの小型化が図れる。このことは、特に、電波ビームの放射方向変化の分解能を向上させるために無給電素子の個数を増やしたい時に有利である。
上述の利点を奏する上で、誘電体層190の誘電率は、できるだけ高いことが好ましく、例えば100〜200程度が、現実に利用できる誘電材料の種類からみて好ましい。また、誘電体層190の厚さは、上述の利点を奏すると共に電波ビームのパワーを過度に低下させないようにするために、例えば0.1〜0.2mm程度が好ましい。
図20は、本発明の第7の実施形態にかかるマイクロストリップアンテナの平面図である。
図20に示すマイクロストリップアンテナでは、複数の給電素子102、202が同一基板100上に配置されている。そして、それぞれの給電素子102、202から所定の素子間スペースSだけ離れた位置に無給電素子104、202が配置されている。給電素子102と202は、互いに干渉しない距離Dだけ離れている。非干渉距離Dは、例えば、各給電素子の寸法の3倍以上である。
第1の給電素子102と無給電素子104とのセットから放射される電波ビームと、第2の給電素子202と無給電素子204とのセットから放射される電波ビームとが統合されることにより、給電素子と無給電素子のセットが1セットだけある場合よりも、トータルの電波ビームがより鋭く絞られる。すなわち、電波ビームのディレクティビティ(アンテナから出力される総パワー(W)に対する特定方向の最大放射強度(W/Sr))及びゲインが向上する。図20の例では、給電素子と無給電素子のセット数は2セットであるが、更に多くすることで、ディレクティビティとゲインを一層向上させることができる。
図21Aは、図20に示した第7実施形態の変形例の平面図を示す。図21Bは、同変形例の断面図を示す。
図21A、Bに示すマイクロストリップアンテナでは、隣接する給電素子102と202の互いに対向する端面102Aと202Aが、誘電体マスク206により被覆されている。こ誘電体マスク206の作用により、端面102A、202Aから放射される電波の波長λgが短縮されるため、給電素子102、202が干渉し合わないようにするための非干渉距離Dが図20の場合より短縮され得る。その結果、アンテナ全体の小型化が図れ、それに伴い、トータルの電波ビームをより絞ることができるので、ディレクティビティ及びゲインの向上が図れる。
図22A、Bは、図20に示した第7実施形態の別の変形例の平面図と断面図をそれぞれ示す。
20A、Bに示すマイクロストリップアンテナでは、隣接する給電素子102と202の互いに対向する端面102Aと202Aが、連続的な一つの誘電体マスク208により被覆されている。図21に示したマイクロストリップアンテナと同等の作用効果が得られる。
図23A、Bは、図20に示した第7実施形態のまた別の変形例の平面図と断面図をそれぞれ示す。
図23A、Bに示すマイクロストリップアンテナでは、給電素子102とこれに隣接する両側の給電素子104、106の互いに対向する端面が、誘電体マスク210、212により被覆されている。さらに、内側の無給電素子104、106とその外側の無給電素子130、132の互いに対向する端面も、誘電体マスク214、216により被覆されている。このように、隣接し合う全てのアンテナ素子の互いに対向する端面が誘電体マスクsで被覆される。これにより、それらの端面から放射される電波の波長λgが短縮されるため、所望の位相差を得るための素子間スペースを短縮することができる。その結果、アンテナ全体の小型化が図れる。
また、誘電体マスク210、212、214、216の厚さは、場所に応じて違えても良い。誘電体マスク210、212、214、216の厚さを調整することで、所望の位相差を得るための素子間スペースの大きさを調整すること、或いは、所定の素子間スペースから得られる位相差を調整することができる。
図24Aは、本発明の第8の実施形態にかかるマイクロストリップアンテナの平面図である。図24Bは、同マイクロストリップアンテナの図24Aで点線の円で囲んだ部分の断面図である。
図24A、Bに示すマイクロストリップアンテナでは、同一基板100に、図13に示したものと同様の構造をそれぞれもつ複数(例えば4つ)のサブアンテナ220、222、224、226が構成されている。これらサブアンテナ220、222、224、226の相互間の境界に相当する基板100の部分に、スリット(つまり、空気層)230、232、234、236が設けられている。従って、サブアンテナ220、222、224、226は、実質的に、空気層を介して隔てられていることになる。
複数のサブアンテナ220、222、224、226からの電波ビームが統合されて、強く絞られたつまり高いディレクティビティをもった電波ビームが得られる。これら複数のサブアンテナ220、222、224、226中の相対的位置が同位置である無給電素子の有効/無効に一斉に同時に切り替えることにより、その強く絞られた電波ビームの放射方向を上下左右に切り替えることができる。
サブアンテナ220、222、224、226相互間の距離は、異なるサブアンテナの無給電素子同士(例えば、図24Bに示す無給電素子240、242同士)の相互干渉による影響を問題にならない程度に小さくするような距離に選ばれている。そのような距離とは、典型的には、使用マイクロ波の空気中における1波長以上の距離である。
ところで、上述したサブアンテナ220、222、224、226間の相互干渉には、アンテナ素子間にて基板100を通じてマイクロ波が伝播して生じるものと、空中をマイクロ波が伝播して生じるものとがある。基板100中のスリット(空気層)230、232、234、236により、基板100の表面および内部を介してマイクロ波が伝達することが困難になるため、サブアンテナ220、222、224、226間の相互干渉が抑制される。その結果、サブアンテナ220、222、224、226をより高密度に配置することが可能になり、マイクロストリップアンテナ全体の小型化が図れる。
図25Aは、本発明の第9の実施形態にかかるマイクロストリップアンテナの平面図である。図25Bは、同マイクロストリップアンテナの図25Aで点線の円で囲んだ部分の断面図である。
図24A、Bに示すマイクロストリップアンテナでは、図24に示したものと基本的に同様な構成において、サブアンテナ220、222、224、226間の境界に相当する基板100の部分に、スリットではなく、アース電極116に接続された(つまり、常に一定電位(アース電位)に維持された)シールド体260が設けられている。サブアンテナ220、222、224、226の境界近くに位置する無給電素子のシールド体260に向いた端面と、シールド体260との間で、電磁界結合度が強くなるため、無給電素子から空気中に放射される放射強度が境界側で小さくなる。そのため、空気を介して、隣接するサブアンテナの無給電素子にマイクロ波が伝達しにくくなり、サブアンテナ間の相互干渉が抑制される。その結果、複数のサブアンテナを高密度に配置することができ、基板の小型化が図れる。
図26は、本発明の第10の実施形態にかかるマイクロストリップアンテナの平面図である。
図26に示すマイクロストリップアンテナでは、図1に示した構成に加えて、それぞれの無給電素子104、106に追加の制御線260、262が接続されており、これらの制御線260、262は、図示してないが、他の制御線110、112の同様、基板100の背面上のスイッチにより個別にアース電極に接続/切離しできるようになっている。すなわち、無給電素子104、106の各々は、複数(例えば2つ)の接地点を有している。いずれの接地点も、図1で説明したとおり、各無給電素子104、106の中央を中心とした励振方向の幅L/2の範囲の外側に配置される。なお、それぞれの接地点の参照番号の近傍に付した符号SW1、SW2、SW3、SW4は、それぞれの接地点を接地するためのスイッチの名称である(図28参照)。
図27は、図26に示した第10実施形態における給電素子と無給電素子に流れるマイクロ波電流の波形を示す。
図27において、一点鎖線で示す波形が、無給電素子の1つの接地点のみを接地した場合に対応し、点線で示す波形が、無給電素子の2つの接地点の双方を接地した場合に対応する。1つの接地点のみを接地した場合より2つの接地点の双方を接地した場合の方が、無給電素子に流れるマイクロ波電流の振幅がより小さくなり、無給電素子がより効果的に無効にされる。
図28は、図26に示すマイクロストリップアンテナにおいて電波ビームの放射方向が変化する様子を示す。
図28に示すように、無給電素子を接地するかフロートにするかという2段階の切り替えだけでなく、1つの接地点のみを接地するか、2つの接地点の双方を接地するかというように、接地の程度(無効の程度)を複数段階に切り替えることで、電波ビームの放射方向をより一層細かく制御することができる。
図29A〜Cは、本発明に従うマイクリストリップアンテナに適用可能な給電素子と無給電素子のサイズの関係の変形例示す。
上述したいずれの実施形態でも、給電素子と無給電素子はほぼ同サイズであった。しかし、図29Aに示すように給電素子102より無給電素子104、106の方を大きくするともできるし、或いは、図29Bに示すように給電素子102より無給電素子104、106の方を小さくすることもできる。また、図29Cに示すように、給電素子102とは異なる形状に無給電素子104、106の形状をする(例えば、より細くする)こともできる。
図30は、無給電素子の配置に関する変形例を示している。図30に示すように、給電素子102に対して異なる方向(例えば上側と右側のように90度異なる方向)に非対称に複数の無給電素子106、130を配置することもできる。
図31は、給電素子に関する変形例を示している。図31に示すように、給電素子102に励振方向に平行な細いスリット270、272を入れて、給電素子102を、励振方向に平行な複数のストライプ電極280A、280B、280Cに分離しても、電波の放射状態を同様に変化させることができる。また、給電素子に入れるスリットの幅を変えることで共振周波数の調整が可能であり、基板に形成された給電素子にレーザ等でスリットを入れてやれば、基板の比誘電率や厚み、給電素子形状の製造バラツキに関係なく、共振周波数を所定の範囲内に容易に製造することができる。
図32A,Bは本発明の第11実施形態の断面図と平面図を、図33A,Bは第12実施形態の断面図と平面図を、図33A,Bは第13実施形態の断面図と平面図を示している。
図32A,B〜図34A,Bに示されるいずれの実施形態においても、給電素子102が形成された基板100の表面が、誘電体層300により被覆される。誘電体層300の表面上に、無給電素子104,106が形成される。誘電体層300のための誘電体材料としては、例えばアルミナやイットリアなどのセラミック材料が採用でき、或いは、比較的誘電率が高いTi(チタン)を含有した金属酸化物や比較的誘電率が低いSiO2(シリカ)を含有した金属酸化物でも良い。誘電体層300のεr(比誘電率)の値は、例えば10程度である。誘電体層300の膜厚は、誘電体材料に応じて適切な値を設定することができるが、例えばεr(比誘電率)が10程度の材料を用いた場合の厚さは例えば10μm前後である。
図32A,Bに示される第11実施形態では、給電素子102の表面が誘電体層300で完全に覆われている。これに対し、図33A,Bに示される第12実施形態では、誘電体層300のうち給電素子102の表面上の領域の部分には、複数本のスリット302が形成されている。図33A,Bに示された例では、スリット302は誘電体層300の厚みを完全を貫きその下の給電素子102を露出させているが、必ずしもそうである必要はなく、誘電体層300の厚みの途中まで窪んだ溝であってもよい。要するに、第12実施形態では、誘電体層300のうちの給電素子102の表面上の領域部分に、凹部302と凸部304、が形成されている。換言すれば、給電素子102上の誘電体層300に厚さの変化が付けられている。図示の例では、凹部302と凸部304が、励振方向306と平行に縞状に形成されている。また、図34A,Bに示された第13実施形態では、給電素子102の全表面は、誘電体層300に覆われておらず露出している。
図1,2に示した第1実施形態(基板100上に直接、無給電素子104,106が配置される構成)と比較した場合、図32A,B〜図34A,Bに示された第11〜13実施形態によると、無給電素子104,106が誘電体層300の表面上に配置されることにより、給電素子102と無給電素子104,106の間の位相差が180°(つまり、λg/2)により一層近づく。そのため、無給電素子104,106のうちの一方のみを無効にスイッチしたとき、電波の放射方向は、より広角に傾くことになる。
図35は、図1,2に示された第1実施形態と、図32A,B〜図34A,Bに示された第11〜13実施形態において、無給電素子104,106のうちの一方のみを無効にしたときの電波の強度の分布のシミュレーション計算結果を示している。図35において、横軸は、基板100の表面に直角な方向を0°として、無給電素子104,106の側への傾き角度を示し、縦軸は、電波の各角度方向の成分の強度を示す。そして、太い実線のグラフは図1,2に示された第1実施形態の電波分布を、細い実線のグラフは図32A,Bに示された第11実施形態のそれを、太い点線のグラフは図33A,Bに示された第12実施形態のそれを、細い点線のグラフは図34A,Bに示された第13実施形態のそれを示す。
図35において、各グラフが示す電波の方向成分の強度が最大である傾き角度が、各実施形態での電波の放射方向の傾き角度に相当する。図35から分かるように、第1実施形態(太い実線のグラフ)よりも、第11〜13実施形態の方が、電波の放射方向の傾き角度が大きい。そして、第11〜13実施形態の中でも、特に、給電素子102の表面上を除く基板100の領域上に誘電体層300が積層された第13実施形態(細い点線のグラフ)において、電波が最大に傾く。また、給電素子102上の誘電体層300の厚さに変化が付けられた第12実施形態では、その厚さの変化のさせ方を調整することで、電波の傾き角度を調整することができる。
図36A,Bは、給電素子と無給電素子の幅の関係についての2つの変形例を示している。
図36Aに示す変形例では、給電素子102に対し励振方向310の方向に存在する無給電素子130,132の幅(励振方向310と直交する方向での寸法)Wc,Wdが、給電素子102の幅Waと同一である。これに対し、図36Bに示す変形例では、無給電素子130,132の幅Wc,Wdが、給電素子102の幅Waよりも若干狭い。
一般に、給電素子の周囲に無給電素子を配置した場合、給電素子と無給電素子とのスペースが狭くなりすぎると、電波の放射方向がスプリットする(つまり、電波の分布形状がハート型に割れた状態になる)とともに、その放射強度が低下する。これを防止するには、給電素子と無給電素子との間にある程度の距離のスペース(例えば、使用周波数の波長の0.3倍程度以上の距離)が必要である。特に、図36A,Bに示すように、給電素子102の励振方向に無給電素子130,132を配置した場合、図36Aに示すように給電素子102の幅Waと無給電素子130,132の幅Wc,Wdが同程度であると、無給電素子130,132に励起される電流密度が低くなる。その結果、無給電素子130,132の一方を無効にスイッチしても、電波の放射方向は顕著には傾かない。これに対し、図36Bに示すように、無給電素子130,132の幅Wc,Wdを狭めると、無給電素子130,132に励起される電流密度が増加する。その結果、無給電素子130,132の一方を無効にスイッチしたとき、電波の放射方向は顕著に傾くことになる。
図37は、図36A,Bに示した2つの変形例において、無給電素子130,132のうちの一方のみを無効にしたときの電波の強度の分布のシミュレーション計算結果を示している。図37において、横軸は、基板100の表面に直角な方向を0°として、無給電素子130,132の側への傾き角度を示し、縦軸は、電波の各角度方向の成分の強度を示す。そして、太い実線と点線のグラフは図36Bに示された変形例の電波分布を、細い実線と点線のグラフは図36Aに示された変形例のそれを示す(実線グラフと点線グラフは、無効にされた無給電素子が異なる場合をそれぞれ示す)。シミュレーション計算で用いた設計条件は、基板100の比誘電率が3.26、基板100の厚みが0.4mm、励振周波数が11GHz、給電素子102のサイズが7.3mm×7.3mm(図36Aでは、無給電素子のサイズも同じ)、給電素子102と無給電素子130,132との間のスペースの距離が7.3mm、及び図36Bでの無給電素子130,132のサイズが7.3mm(励振方向長さ)×5.0mm(幅)である。
図38は、図36Bに示した変形例において、無給電素子130,132の幅Wc,Wd(横軸)を変化させたときに電波の放射方向の傾き角(実線グラフ)と電波の放射強度(点線グラフ)とがどのように変化するかをシミュレーションした計算結果を示している。シミュレーション計算で用いた条件は、上記と同様であるが、無給電素子130,132の幅Wc,Wdは7.3mmから4.0mmの間で種々に変えている。
図37から、上述したように、図36Aの変形例では電波の放射方向の傾きは非常に小さいのに対し、図36Bの変形例では、大きい傾きが得られることが分かる。ところで、図38から分かるように、無給電素子130,132の幅Wc,Wdを狭くするほど、一方の無給電素子を無効にした時の放射角度はより広角になるが、半面、放射強度が低下する傾向がある。そのため、放射強度の低下が問題ない程度に小さい範囲内で、無給電素子130,132の幅Wc,Wdを狭めることが好ましい。この観点から、上記シミュレーション計算で用いた設計条件の下では、無給電素子130,132の幅Wc,Wdは5mm前後が好ましい。しかし、これは一つの例示にすぎず、使用周波数、基板の誘電率や厚み、無給電素子や給電素子の配置などの諸条件により放射角度や放射強度の関係が変化するため、具体的な条件に応じて最適値が異なる。
図39Aは、本発明の第14の実施形態にかかるマイクロストリップアンテナの平面構成を示し、図39Bは、図39AのA-A線に沿った断面構成を示す。
図39A,Bは、本発明の第14の実施形態にかかるマイクロストリップアンテナの平面図及び断面図である。
図39A,Bに示す第14実施形態は、図13に示した第4実施形態と同様の構成に加え、次の追加的構成を有する。すなわち、給電素子102には、給電線108の他に、別のスルーホール320が接続されており、このスルーホール320は、基板110の背面にて、スイッチ322と接続される。スイッチ322は、給電素子102からのスルーホール320と、基板100内のアース電極116に接続された接地線324との間を接続したり、切り離したりする。つまり、スイッチ322は、オンであるときに、給電素子102を接地する。給電素子102の接地点(スルーホール320が設けられれた点)の場所は、例えば図示のように、給電素子102の励振方向326で給電線108から最も遠い側の辺縁の近傍である。
図40Aは、上記の第14実施形態において、スイッチ322がオフであるとき、図40Bは、スイッチ322がオンであるときにおける、給電素子102(実線グラフ)と有効状態にある無給電素子104,106,130,132(点線グラフ)にそれぞれ流れる電流の波形を示している。
図40A,Bから分かるように、スイッチ322がオンで給電素子102がアース電極116に接続されている場合、無給電素子の104,106,130,132が有効であっても、アンテナから放射される電力量が極端に小さくなる。マイクロ波信号源から給電素子102に高周波信号を加えて続けている状態で、スイッチ322をオンとオフに切替えることにより、アンテナからの放射電力量を変化させることができる。放射電力量を変化させる目的では、マイクロ波信号源をオンとオフに切替る方法も採用できるが、その方法によると、切替直後にマイクロ波信号源の出力が安定しないという欠点がある。これに対し、給電素子102に接続されたスイッチ322を切替える方法によると、マイクロ波信号源の出力は安定状態に維持されているので、電波出力の安定性に優れる。従って、スイッチ322を切替える方法は、例えば、送信アンテナから出力されたパルス電波と、被測定物に衝突し反射して受信アンテナで受信したパルス電波との間の時間差により距離を測定するような用途に適する。
図41は、本発明の第15の実施形態にかかるマイクロストリップアンテナの平面図である。
図41に示すように、給電素子102の励振方向326と直交する方向における一方の側に、1又は2以上の無給電素子330が配置され、他方の側にも、1又は2以上の無給電素子340が配置される。これら励振方向326と直交する方向に並ぶ無給電素子330,340は、その各々を無効にするためのスルーホール332,342を有し、よって、有効か無効かの切替により、電波の放射方向を変化させるために寄与する。また、給電素子102の励振方向326における一方の側に、1又は2以上の無給電素子350が配置され、他方の側にも、1又は2以上の無給電素子360が配置される。これら励振方向326に並ぶ無給電素子330,340は、スルーホールを持たず、常にフロート状態であり、従って、電波の放射方向を変化させるためには殆ど寄与しない。
図42Aは、上記第15実施形態において、電波放射方向の変化には寄与しない片側の励無給電素子330と他側の無給電素子340の個数を各側1個とした場合におけるこのアンテナから放射される電波ビームの平面形状を示し、図42Bは、片側の励無給電素子330と他側の無給電素子340の個数を各側3枚とした場合における放射電波の平面形状を示す。
図42Aに示す電波形状370に比較し、図42Bに示す電波形状372は、励振方向326(すなわち、無給電素子330,340の配列方向)において、より細く絞られることが分かる。すなわち、無給電素子330,340は、電波放射方向の変化には殆ど寄与しないが、電波の広がり又は拡散を防止して、より細く絞られた指向性の良い電波ビームを形成することに寄与する。
図43Aと図43Bは、上述した種々の構造のマイクロストリップアンテナにおいてスルーホールをオンオフするために採用可能なスイッチの構造例を示す。
図43Aと図43Bに示されたスイッチ406は、アンテナ素子(例えば無給電素子)402とアース電極404との間の接続ラインを開閉するためのMEMS(Micro Electro Mechanical System)技術によるスイッチ(以下、MEMSスイッチという)である。図43Aは、MEMSスイッチ406のOFF状態を示しており、図43Bは、ON状態を示している。MEMSスイッチ406は、可動電気接点408と固定電気接点410とを有し、その一方、例えば固定電気接点410はスルーホール412を介してアンテナ素子402に接続され、他方、例えば可動電気接点408、はスルーホール414を介してアース電極404に接続される。注目すべき点は、図43Aに示されるOFF状態では勿論であるが、図43Bに示されるON状態においてさえ、MEMSスイッチ406内の固定電気接点410と可動電気接点408の間が機械的に開いており接触していない点である。すなわち、図43Bに示されるON状態では、2つの電気接点408と410間には小さいギャップがあり、図43Aに示されるOFF状態では、そのギャップが更に大きくなる。このような構造のMEMSスイッチ406の採用により、1G〜数百GHzという高周波帯において良好なON状態とOFF状態を作り出すことができる。
この原理を図44〜図46を参照して説明する。
図44Aと図44Bはそれぞれ、従来型のMEMSスイッチの電気接点420、432の名目上のOFF状態とON状態を示す。また、図45Aと図45Bはそれぞれ、図43A、Bに示したMEMSスイッチ406の電気接点408、410の名目上のOFF状態とON状態を示す。
図44Aと図44Bに示すように、従来型のMEMSスイッチでは、電気接点420、422は、名目上のOFF状態では離れて両者間に僅かなギャップG1が開き、名目上のON状態で機械的に接触する。しかし、図44Aに示す僅かなギャップG1は、低周波帯では実質的にOFF状態であるが、高周波帯では実質的にON状態である。これに対し、図45Aと図45Bに示されたMEMSスイッチ406では、電気接点408、410は、名目上のOFF状態では、十分に大きなギャップG2をもって離れており、名目上のON状態では、僅かなギャップG3を間にもって離れている。図45Aに示すように電気接点408、410間にある十分に大きなギャップG2が、高周波帯においても実質的なOFF状態を形成する。また、図45Bに示すように電気接点408、410間に僅かなギャップG3があっても、これは高周波帯においては実質的なON状態である。
電波ビームの傾きを制御するという目的のためには、スイッチがどれだけ真のON状態に近い状態を作り出せるかよりも、むしろ、スイッチがどれだけ真のOFF状態に近い状態を作り出せるかということの方が重要である。その理由は、スルーホールを通る高周波の伝達量の変化に対する電波ビームの傾き角度の変化の感度は、スルーホールを通る高周波の伝達量が小さいほど大きいからである。従って、高周波に対して実質的なOFF状態を作り出せる上述のスイッチ406は、電波ビームの傾きを制御する用途に適している。
図46Aと図46Bは、電波ビームの傾きを制御する用途に適したスイッチの電気接点の変形例を示す。図46AはOFF状態を示し、図46BはON状態を示す。
図46Aと図46Bに示すように、電気接点408、410間に、シリコン酸化膜のような誘電材料又は絶縁材量の薄膜424が設けられる。図46Aに示すように、この絶縁薄膜424により、電気接点408、410間に小さいギャップG4があるだけでも、高周波に対して実質的なOFF状態が作り出される。図46Bに示す状態では、電気接点408、410間のギャップG4がなくなることで、絶縁薄膜424があっても、高周波に対して実質的なON状態が作り出される。
図47は、本発明の第16の実施形態にかかるマイクロストリップアンテナの平面図である。
図47に示すマイクロストリップアンテナでは、図13に示したものと比較して、無給電素子104,106,130,132の配置が異なる。すなわち、図13に示したものでは、無給電素子104,106,130,132が、給電素子102に対して、その励振方向(図の上下方向)に平行と直角方向に配置されるのに対し、図47に示したものでは、無給電素子104,106,130,132が、給電素子102に対して、その励振方向に斜めに、例えば45度、傾いた方向に配置されている。図47に示した電極配置によると、電波ビームがその放射方向へ進むに伴いより狭く絞られていく。因みに、図13に示す電極配置によると、電波ビームはその放射方向へ進むに伴い広がっていく。従って、図47に示す電極配置は、狭い範囲に対して正確に人体や物体を検知する用途に比較的によく適し、これに対し、図13に示す電極配置は、広範囲において人体や物体を検知する用途に比較的によく適する。
図48は、本発明の第17の実施形態にかかるマイクロストリップアンテナの平面図であり、図49は、図48のA-A断面図である。図49の実施形態との対比のために、図50に、本発明の第18の実施形態にかかるマイクロストリップアンテナの平面図を示す。
図48に示すマイクロストリップアンテナでは、図13に示す電極配置をもつ2つのサブアンテナ429,439と、図47に示す電極配置をもつ2つのサブアンテナ449,459とが、2×2マトリックス状に配置される。すなわち、第1のサブアンテナ429では、無給電素子422,424,426,428が給電素子420に対して、図13に示されたような位置関係で配置される。同様に、第2のサブアンテナ439でも、無給電素子432,434,436,438が給電素子430に対して、図13に示されたような位置関係で配置される。他方、第3のサブアンテナ449では、無給電素子442,444,446,448が給電素子440に対して、図47に示されたような位置関係で配置される。同様に、第4のサブアンテナ459でも、無給電素子452,454,456,458が給電素子450に対して、図47に示されたような位置関係で配置される。そして、図13に示す電極配置をもつ2つのサブアンテナ429,439と、図47に示す電極配置をもつ2つのサブアンテナ449,459とが、2×2マトリックスの相補的な位置に配置される。すなわち、図13に示す電極配置をもつ2つのサブアンテナ429,439は、図48中の左上と右下の位置に、図47に示す電極配置をもつ2つのサブアンテナ449,459は、右上と左下の位置に配置される。これらのサブアンテナ429,439,449,459の全ての給電素子と無給電素子は、基板100の前面に配置されている。これに対し、給電電極420,430,440,450に高周波電力を供給するための給電ライン460は、図49に示すように基板100の背面に配置され、スルーホール460、460,…を通じて給電電極420,430,440,450に接続される。図49中の参照番号470は、グランド電位にあるアース電極を示し、それには、上述した無給電素子の各々がスルーホールとスイッチ(図示せず)を介して接続される。
このように、同一の基板上に、それぞれが給電素子をもつ複数のサブアンテナを配置するというシンプルな構造により、電波の主ビームを効果的に狭く絞ることができる。電波の主ビームの形状は、給電素子間の距離に影響される。給電素子間の間隔が広くなりすぎると、主ビームは狭く絞られるが、不要なサイドローブが発生する。サイドローブを抑制するためには、給電素子間の間隔がλ/2〜2λ/3程度であることが好ましい。ここで、λは、空気中での電波の波長を示す。この程度の給電素子間の間隔をもって、複数のサブアンテナを同一基板上に配置する場合、図50に例示したマイクロストリップアンテナのように全てのサブアンテナ480,482,484,486が同じ電極配置をもつ場合には、隣り合うサブアンテナの無給電素子間の間隔が小さくなりすぎて、それら無給電素子間で干渉が生じるおそれがある。例えば、図50に示したマイクロストリップアンテナでは、無給電素子424と452間、無給電素子444と432間、無給電素子428と446間、及び無給電素子458と436間で、干渉が発生するおそれがある。他方、図48に示したマイクロストリップアンテナでは、異なる電極配置をもつサブアンテナ429,439,449,459が相補的に配置されるため、給電素子間の間隔が上述した程度に小さくても、隣り合うサブアンテナの無給電素子間の間隔は或る程度大きく、よって、無給電素子間の干渉が小さい。
図51は、本発明の第19の実施形態にかかるマイクロストリップアンテナの平面図である。図52は、図51のA-A断面図である。
図51及び図52に示したマイクロストリップアンテナは、図15に示したマイクロストリップアンテナと同様の構成を有するとともに、更に、無給電素子104,106,130,132の各々に1以上(図示の例では2つ)の常時接地点502,504,506,508が追加されている。常時接地点502,504,506,508は、それぞれ、図52に示すように、グランドレベルを提供するアース電極514に、スルーホール510,512を通じて常時接続される(図52では、接地点502,504のスルーホール510,512しか図示してないが、他の接地点506,508についても同様である。)。常時接地点502,504,506,508は、各無給電素子104,106,130,132がフロート状態である(つまり、アース電極514に接続されてない)ときの各無給電素子104,106,130,132の励振方向500(これは、通常、給電素子102の励振方向500と同じであり、例えば図51における縦方向である)に直交する各無給電素子104,106,130,132の外縁(例えば図51における左側の外縁又は/及び右側の外縁)の中央部近傍の位置に配置される。なお、図52において、参照番号520は、給電素子102の給電点108に高周波電力を供給する発振回路を指し、参照番号522,524は、無給電素子104,106の電波放射方向制御用の接地点110,112とアース電極514との間を接続及び切り離すためのスイッチを指す。
上記のような常時接地点502,504,506,508を追加することにより、次のような利点が得られる。すなわち、給電素子102と各無給電素子104,106,130,132の間隔がかなり狭い場合、給電素子と無給電素子の電磁的な結合力(すなわち、給電素子が各給電素子を励振させる力)がかなり大きく、そのために、各無給電素子104,106,130,132の電波放射方向制御用の接地点110,112,134,136をグランドレベルに接続しても、各無給電素子104,106,130,132の励振方向が元の励振方向500に直交する方向へ変化するだけで、各無給電素子104,106,130,132は依然として励振された状態にあるという場合がある。この場合、各無給電素子104,106,130,132の高周波電流(電圧)の振幅は低下しないので、電波の放射方向は傾かないという問題が生じる。これに対し、各無給電素子104,106,130,132の上記位置に配置された常時接地点502,504,506,508は、上述した元の励振方向500に直交する方向での励振を抑制するという作用をなす。これは、ちょうど、電波放射方向制御用の接地点110,112,134,136が、グランドレベルに接続されたときに、元の励振方向500での励振を抑制するという作用をなすことと、同じ原理に基づくものである。従って、図51及び図52に示したマイクロストリップアンテナでは、給電素子102と各無給電素子104,106,130,132の間隔がかなり狭い場合であっても、電波放射方向制御用の接地点110,112,134,136がグランドレベルに接続されると、各無給電素子104,106,130,132の電流(電圧)の振幅が低下し、電波の放射方向が傾くことになる。
図53は、本発明に従うマイクロストリップアンテナで採用可能な給電素子の変形例を示す。
図53に示すように、給電素子530(基板(図中の背景)上に形成された正方形又は長方形の金属薄膜)の直交する2つの外縁、例えば図中下側と右側の外縁、のそれぞれの中央部の近傍に2つの給電点532A,532Bを有し、給電点532A,532Bにはそれぞれ給電線534A,534Bが接続される。ここで、給電線534A,534Bは、図示の例では、基板の給電素子530と同じ側の面に形成されたマイクロストリップラインであるが、これに代えて、基板の反対側の面に形成され、スルーホールを通じて給電点532A,532Bに接続されるマイクロストリップラインでもよい。給電線534A,534Bは、互いに同一の又は異なる周波数をもつ高周波電力を給電点532A,532Bに印加する。給電素子530の横方向の長さは、右側の給電点532Aに印加される高周波の周波数で励振されるのに適した長さ、すなわち、その周波数の電波の基板上での波長λgAの約1/2に選ばれている。同様に、給電素子530の縦方向の長さは、下側の給電点532Bに印加される高周波の周波数で励振されるのに適した長さ、すなわち、その周波数の電波の基板上での波長λgBの約1/2に選ばれている。よって、右側の給電点532Aへの給電は、この給電素子530を図中横方向538Aに励振し、これに対し、下側の給電点532Bへの給電は、この給電素子530を図中縦方向538Bに励振する。
また、給電素子530の給電点532A,532Bの近傍の外縁とは励振方向で反対側に位置する外縁(終端縁)、例えば図中上側と左側の終端縁、のそれぞれの中央部の近傍に、2つの接地点536A,536Bが設けられ、接地点536A,536Bにはぞれぞれ基板を貫通する図示しないスルーホールが接続される。上述した各種の実施形態と同様、接地点536A,536Bは、それぞれのスルーホールに接続された図示しないスイッチのオンオフ操作により、グラント電位のアース電極(図示せず)(例えば、基板の反対側に設けられる)に任意の時に接続され得る。このスイッチ操作により2つの接地点536A,536Bの一方だけがアース電極に接続されると、その一方の接地点と反対側にある給電点による励振が実質的に無効になり、他方の励振だけが有効になる。例えば、図中上側の接地点536Bがアース電極に接続されると、下側の給電点532Bによる縦方向538Bの励振が実質的に無効にされ、右側の給電点532Aによる横方向538Aの励振だけが有効になる。そのため、励振方向538Aと同じ横方向に電磁界強度の振動波形を有する電波22Aがアンテナから発射されることになる。他方、図中左側の接地点536Aがアース電極に接続されると、右側の給電点532Aによる横方向538Aの励振が実質的に無効にされ、下側の給電点532Bによる縦方向538Bの励振だけが有効になる。そのため、励振方向538Bと同じ縦方向に電磁界強度の振動波形を有する電波22Bがアンテナから発射されることになる。また、給電点532A,532Bに供給される高周波の周波数が異なる場合、スイッチ操作で接地点536A,536Bを選択的にアース電極に接続することで、放射される電波の周波数を切り替えることができる。
このように、給電素子530に、これを異なる方向に励振する複数の給電点532A,532Bと、それを無効にする接地点536A,536Bとを設けて、接地点536A,536Bの操作でいずれかの給電点532A,532Bを選択的に有効にすることで、振動波形の方向が違う電波を選択的に発射することができる。この手法は、垂直偏波型のアンテナにおいて有効である。
図54は、図53示した給電素子を有する本発明に従うマイクロストリップアンテナに好適な用途の一つを示す。
図54に示された用途は、人などの物体548の動きを電波のドップラ効果を利用して検知するための物体センサ544である。この物体センサ544は、例えば部屋の天井面又は壁面542などに取り付けられ、本発明に従うマイクロストリップアンテナ(図示せず)と、そのマイクロストリップアンテナに接続されたドップラ信号処理回路(図示せず)とを内蔵する。マイクロストリップアンテナは、電波を発するための送信アンテナとして使われる。送信アンテナであるマイクロストリップアンテナが受信アンテナとしても用いられてもよいし、或いは、受信アンテナが送信アンテナとは別に設けられてもよい。そのマイクロストリップアンテナは、上述したいずれかの実施形態のような構成を有し、異なる方向34A,34B,34Cに電波を発射することができる。さらに、そのマイクロストリップアンテナの給電素子は、図53に示したような構成を有し、その励振方向を変えることで、そのマイクロストリップアンテナから発射される電波の振動波形の方向が変わるようになっている。
図55と図56は、この物体センサ544のマイクロストリップアンテナの励振方向を変えることで生じる検知特性の違いを示している。
図55に示すように、物体センサ544のマイクロストリップアンテナの励振方向が図中の横方向であるときには、電波550の発射方向がどの方向であっても、電波550の振動波形の方向は横方向である。この場合、物体センサ544の検出感度は、電波550の振動波形方向と同じ横方向への物体548の移動に対して最も良好である。他方、図56に示すように、マイクロストリップアンテナの励振方向が縦方向であるときには、電波550の電磁界の振動波形の方向は、その発射方向に関わらず、縦方向である。この場合、物体センサ544の検出感度は、縦方向への物体548の移動に対して最も良好である。このように、励振方向を切り替えることで、検出感度が良好である物体の移動の方向成分を変えることができる。そのため、この異なる励振方向を例えば高速に交互に切り替えるというように組み合わせて使用することにより、異なる励振方向で検出されたドップラ信号のレベルを比較して物体548の移動方向を推定したり、或いは、異なる励振方向で物体が検出されたか否かという判断結果を論理的に組み合わせて物体548がどの方向に移動してもそれを感度良く検出できるようにしたりすることができる。
図57は、本発明の第20の実施形態にかかるマイクロストリップアンテナの平面図である。図58と図59はそれぞれ、図57に示した第20実施形態の変形例を示す。
図57に示すマイクロストリップアンテナでは、基板100上に複数の給電素子(例えば2つ)560,570が隣接して(つまり、それら間に無給電素子をおくことなく)配置され、それらの給電素子560,570を二次元的に(例えば、図中縦と横の2方向から)囲むように、複数の無給電素子562,564,566,572,574,576が配置される。このマイクロストリップアンテナは、図13に示した1つの給電素子とこれを2次元的に包囲する複数の無給電素子からなるアンテナを複数並べたアンテナアレイに似た構造を有し、図13に示したアンテナよりも電波ビームをより狭く絞り電波ビームの到達距離をより長く伸ばすことができる(電波ビームを用いた物体センサに応用した場合には、物体検知範囲をより狭く絞り検知距離をより長く伸ばすことができる)。電波ビームの方向を変化させるために、無給電素子562,564,566,572,574,576中の偏った位置に配置された1又は複数の素子の状態を接地かフロートかに制御することができる。特に、対称に配置された無給電素子のグループ、例えば右側の無給電素子562,564,566のグループと、左側の無給電素子572,574,576のグループの状態を、それぞれ制御することで、電波ビームの方向を例えば左右に効果的に変化させることが出来る。
図58に示す変形例は、まさに図13に示した構造の2つのアンテナを単純に並べたアンテナアレイである。この変形例では、給電素子560,570間に無給電素子568,578が存在し、それゆえ、給電素子560,570間の距離は長くならざるを得ない。給電素子560,570間の距離が長いことが原因して不要なサイドローブが発生する場合がある。これに対し、図57に示したアンテナでは、給電素子560,570が隣り合って配置されているので、両者の距離を適度に短くしてサイドローブの発生を防止することが容易である。
図59に示す変形例は、無給電素子564,574が、給電素子560,570を、二次元的ではなく、一次元的に(例えば、横方向で)両側から挟んでいる。この変形例では、無給電素子564,574から発射される電波のパワーが、給電素子560,570からの電波パワーに比べてかなり小さいため、無給電素子564,574の状態を制御することで得られる電波ビームの方向変化量が小さすぎる場合がある。これに対し、図57に示すアンテナでは、図59に示す変形例よりも大きい電波ビームの方向変化幅を得ることが容易である。
図60は、図57に示したマイクロストリップアンテナのまた別の変形例を示す。
図60に示すアンテナでは、図57に示した構成に加えて、給電素子560,570の所定箇所(例えば各素子の中央)に接地点580,582が設けられる。各給電素子560,570の接地点580,582は、各無給電素子562,564,566,572,574,576の接地点と同様に、スルーホールとスイッチ(図示省略)を介してアース電極に接続されたり、アース電極から切り離されたりするようになっている。給電素子560,570の一方をその接地点にて接地すると、給電素子560,570間に高周波電流の位相差が生じ、また、その影響で無給電素子562,564,566,572,574,576間にも高周波電流の位相差が生じ、その結果、電波ビームの方向が変化する。多くの場合、接地された給電電極の側と反対の方向に電波ビームが傾く。例えば、右側の給電電極580を接地すると、電波ビームは左側に傾く。このような給電素子560,570の接地状態の制御に加えて、既に説明したような無給電素子562,564,566,572,574,576の接地状態の制御を行なうと、電波ビームの方向をより大きく又は細かく変化させることができる。例えば、電波ビームを左側に大きい角度で傾けたい場合、右側の給電電極580を接地するとともに、左側の無給電素子572,574,576を接地することができる。或は、電波ビームを左側に前例よりは少し小さい角度で傾けたい場合、右側の給電電極580を接地するとともに、右側の無給電素子562,564,566を接地することができる。
図61は、図57に示したマイクロストリップアンテナのさらにまた別の変形例を示す。
図61に示すアンテナでは、図60に示したアンテナよりも多くの無給電素子562,564,566,572,574,576,590,592,594,596が給電素子560,570を包囲している。それにより、電波ビームをより細く絞って電波ビームの到達距離を延ばす効果や、電波ビームの方向をより細かく制御することができる効果が期待できる。
ところで、上述した本発明に従う全てのマイクロストリップアンテナを製造する場合、給電点の位置を調整するなどしてアンテナの給電部のインピーダンス整合をとる際には、接地点をもつ無給電素子の全てを接地した状態で、この作業を行なうことが好ましい。そうすると、無給電素子の全てをフローと状態にしたままでこの作業を行なった場合に比較して、無給電素子の状態を接地/フロートに切替えたときに生じる整合のずれを、より小さくすることができる。
図62は、本発明の第21の実施形態にかかるマイクロストリップアンテナの断面図を示す。
図62に示したアンテナでは、例えば図13に示したような構造をもつアンテナ本体600の正面(つまり、給電素子および無給電素子のセットから電波ビームが発射される方向)に、例えば凸レンズ型の誘電体レンズ602が配置される。この実施形態では、誘電体レンズ602は誘電体製のケーシング604と一体に形成されている。ケーシング604内に、アンテナ本体600と、発振回路や検波回路などを含むアナログ回路ユニット606と、スイッチ制御回路や検知回路(すなわち、物体検知装置に応用された場合に、検波結果を受けて物体の有無を判断する回路)などを含むデジタル回路ユニット608などが収容される。誘電体レンズ602の材料は、比誘電率が比較的小さい材料、例えばポリエチレンやナイロン、ポリプロピレンまたはフッ素系樹脂材料などで形成することが好ましい。難燃性や耐薬品性が望まれる場合、例えばナイロンまたはポリプロピレンなどが好ましく、さらに、耐熱性や耐水性も望まれる場合、例えばPPS(Polyphenylene Sulfide)樹脂が好ましい。また、誘電体レンズ602を小型、薄型化したい場合は、比較的誘電率が高いアルミナやジルコニアなどのセラミック材料をレンズ本体に使用し、そして、レンズ内での反射を抑制するために、レンズの表面を上記した比誘電率の比較的小さい材料で被覆するようにしてもよい。
このアンテナでは、誘電体レンズ602の作用により電波ビームが細く絞られゲインが増加する。物体検知装置に応用された場合、検知したい距離範囲に応じて誘電体レンズ602の焦点距離を選ぶことができる。例えば、その物体検知装置を室内の天井に設置して室内の物体や人を検知したい場合、検知距離範囲は2.5m〜3m以内程度であろうから、誘電体レンズ602の焦点距離は検知距離範囲の最大長2.5m〜3m近くに設定することができる。
ところで、ゲインを増加させる目的では、上述した誘電体レンズを用いる方法に代えてまたはそれと併用して、複数のアンテナをアレイ化する方法も採用することができる。この方法によれば、電波の放射角度を多段階に切替え得るという別の利点も得られる。基板面積に制約がある場合は、誘電体レンズを併用すればよい。
図63は、本発明の第22の実施形態にかかるマイクロストリップアンテナの断面図を示す。
図63に示すアンテナは、例えば図13に示したような平面構造を有し、各無給電素子610を接地するためのスイッチ616には、半導体スイッチまたはMEMSスイッチが用いられている。各無給電素子610上の高周波をアース電極614へ逃がすための線路は、スルーホール612とスイッチ616内部の電流路とを含むが、この線路は細く、スイッチ616をオンしたとき、その線路の長さTに応じて高周波に対する線路のインピーダンスが異なる。そのため、スイッチ614がオン状態であっても、線路の長さTに応じた大きさの高周波電流が無給電素子610に流れる。
図64は、上記線路の長さTとスイッチ614がオン状態のときの無給電素子610に流れる電流量Iとの関係を示している。
スイッチ616のオンオフで電波ビームの方向を効果的に変化させるためには、スイッチ614がオン状態のとき無給電素子610に流れる電流量はゼロであることが理想である。図64から分かるように、無給電素子610に流れる電流量をゼロにするためには、参照番号620で示すように、線路長Tを高周波の基板上での波長λgの二分の一の整数倍にすればよい。すなわち、線路長Tがλg/2のm倍(mは1以上の整数)ならば、インピーダンスの整合がとれ、無給電素子610へ高周波の反射が最小化されるのである。他方、参照番号618で示すように、線路長Tがλg/2のn倍とは異なる長さであると、高周波が反射して無給電素子610に流れるのである。よって、スイッチ616として半導体スイッチまたはMEMSスイッチを用いる場合には、各無給電素子610からアース電極614までの線路の長さTをλg/2×n(nは1以上の整数)にすることが望ましい。因みに、スイッチとして機械的なスイッチを用いて、かなり広い導体面積をもって各無給電素子610とアース電極614とを接続する場合には、半導体スイッチまたはMEMSスイッチの場合に比較して、上記位相ズレの問題は小さい。
図65は、図63に示した第22の実施形態の変形例の裏面(無給電素子610が存在する面とは反対側、つまり、電極スイッチ616が配置されている側の面)の平面図(1つの無給電素子610に対応する部分のみ抜粋)を示す。
図65に示すアンテナでは、各無給電素子610をアース電極614に接続するか否かを切替えるためのスイッチ616として、SPDT式(Single Pole Double Throw:双投式)のMEMSスイッチ又は半導体スイッチが採用される。各無給電素子610からのスルーホール612の裏面側の端部には、細長い中継線路628の一端が接続され、その中継線路628における無給電素子610からの線路長の異なる2つの箇所に、スイッチ616の2つの選択端子622,624がそれぞれ接続され、そして、スイッチ616の一つの共通端子626がアース電極614に接続される。一方の選択端子624がオンの時には、無給電素子610からアース電極614までのスルーホール612やスイッチ616を通る線路長Tがλg/2の所定整数倍(例えば2倍、つまりλg)であり、選択端子622がオンの時には上記線路長Tはλg/2の所定整数倍ではないように(例えばλgより短く、3λg/4よりは長い)、2つの選択端子622,624の中継線路628上での位置が選ばれている。
図66は、図65に示したアンテナにおける、線路長Tの変化と無給電素子に流れる電流の変化を示す。図67は、図65に示したアンテナにおける、スイッチ616の操作によって得られる電波ビームの放射方向に変化を示す。
図66において、参照番号630は、スイッチ616の一方の選択端子624がオンの時の線路長Tを示し、これはλg/2の整数倍(例えばλg)であり、このとき無給電素子610に流れる電流はゼロである。参照番号632は、他方の選択端子622がオンの時の線路長Tを示し、これはλg/2の整数倍ではなく(例えばλgより短く、3λg/4よりは長い)、このとき無給電素子610に流れる電流はゼロではないが、スイッチ616がオフである時よりは小さい。従って、図67に示すように、スイッチ616をオフにするか、いずれか一方の選択端子622または624をオンにするかを選択する2つの選択することで、無給電素子に流れる電流の量を3段階に変化させることができので、アンテナから放射される電波ビームの角度を3段階634,636,638に変化させることができる。この原理を利用して、より多くの異なる長さに線路長Tを切り替えられるようにして、より細かく電波ビームの角度を変化させるようにすることもできる。
図68は、本発明の第23の実施形態にかかるマイクロストリップアンテナの平面図を示す。図69は、図68のA-A線に沿った断面図を示す。
図68及び図69に示すアンテナは、図13に示したアンテナと同様の構造を有し、それに加えて、給電素子640の給電点646とは異なる所定の2点(または1点でもよい)648,648が、それぞれスルーホール649,649を通じてアース電極652に常時接続されている。これらの接地点648,648の位置は、アンテナから放射される基本周波数の電波(基本波)のパワーを低減させることなく、かつその基本波の放射角度を保った状態で、アンテナから放射される不要なスプリアス(特に、二次や三次の高調波)を低減させることができるような特別の位置に選ばれている。
図70は、上記のようなスプリアス低減のための接地点648が配置されるべき好ましい領域の例を示す。この例は、給電素子640が、正方形であり、その辺の寸法が基本波の波長λg1の約半分である場合の例である。給電素子640の形状や寸法が異なると、基本波や高調波の分布の仕方が異なるので、好ましい領域も図70の例とは異なってくる。
図70において、ハッチングで示された領域660,660が、各領域内に接地点648を配置することで、基本波の放射パワーを大きいまま維持しつつ二次と三次の双方の高調波の放射パワーを低減させることができる領域である。ここで、基本的な原理は、基本波およびn次高調波のいずれについても、給電素子上の接地点での当該波の電流振幅値がより小さいほど、給電素子上での当該波の放射パワーがより効果的に低減されるということである。なお、給電素子上での波の電流と電圧の分布は約90度位相が異なっているので、上記基本原理は、接地点での当該波の電圧振幅値がより大きいほど、給電素子上での当該波の放射パワーがより効果的に低減されると言換えることもできる。よって、給電素子上のn次高調波(nは2以上の整数)の電流振幅値が最小である位置(つまり、電圧振幅値が最大である位置)またはその近傍に接地点を設ければ、n次高調波の放射パワーが効果的に低減される。同時に、その接地点が基本波の電流振幅値が最大である位置(つまり、電圧振幅値が最小である位置)またはその近傍に存在すれば、基本波の放射パワーを損なうおそれが最小化される。
図70に示した例では、基本波の励振方向はy方向(図中縦方向)であり、電流分布は図中の左側のグラフのようである。二次高調波の励振方向はx方向(図中横方向)であり、電流分布は図中の上側のグラフのようである。三次高調波の励振方向はy方向(図中縦方向)であり、電流分布は図中の右側のグラフのようである。参照符号λg1,λg2,λg3 はそれぞれ基本波、二次高調波、三次高調波の基板上での波長を示す。
ハッチングで示した領域660,660は、基本波の励振方向における終端縁(上側又は下側の終端縁)からλg1/6以上、λg1/2−λg1/6以下の距離範囲にあり、そこでは基本波の電流振幅i1は最大またはその近傍であるから、そこに接地点を設けても、基本波の放射パワーを大きいまま維持することができる。一方、領域660,660は、二次高調波の励振方向における終端縁(左又は右側の終端縁)からλg2/2以上、λg2/2+λg2/6以下の距離範囲であり、三次高調波の励振方向における終端縁(上側又は下側の終端縁)からλg3/2−λg3/6以上、λg3/2+λg3/6以下の距離範囲であり、そこでは二次および三次高調波の電流振幅i2とi3は最小またはその近傍であるから、二次および三次高調波の放射パワーを低減させることができる。
また、図70において、更に細かいハッチングで示した領域662,662は一層好ましい領域である。すなわち、この領域662,662は、二次高調波の励振方向の終端縁(左又は右側の終端縁)からλg2/2以上、λg2/2+λg2/12以下の距離範囲であり、三次高調波の励振方向における終端縁(上側又は下側の終端縁)からλg3/2−λg3/12以上、λg3/2+λg3/12以下の距離範囲である。この領域662,66252A,52Bでは、基本波の電流振幅値i1は殆ど最大であり、かつ、二次と三次の高調波の電流振幅値i2とi3がは殆ど最小である。そのため、二次と三次の双方の高調波の放射パワーが一層効果的に低減される。
図71は、本発明の第24の実施形態にかかるマイクロストリップアンテナの断面図(1つの無給電素子610に対応する部分のみ抜粋)を示す。
図71に示されるアンテナは、図63に示された第22の実施形態にかかるアンテナと、その基本的な構造においては共通する。しかし、図63に示されたアンテナでは、スイッチ616がオン状態であるときの無給電素子610からアース電極614までの線路の長さTがλg/2×n(nは1以上の整数)である。これに対し、図71に示されるアンテナでは、スイッチ616がオフ状態であるときの無給電素子610に接続された上記伝送線路の部分、すなわち、無給電素子610の接地点から基板100の裏面のスイッチ内の線路の終端に至るまでの伝送線路長U(より具体的には、スルーホール612、基板100裏の面上のスルーホール612からスイッチ616までの中継線路670、及びスイッチ616内部の伝送線路673の合計の線路長)が、λg/2×n(nは1以上の整数)になっている(例えば、U=λg/2)。また、無給電素子610の長さVもλg/2×n(nは1以上の整数)になっている(例えば、V=λg/2)。スイッチ616として、半導体スイッチや機械スイッチ(例えばMEMS)のように、その内部に伝送線路を持ち、オン時の接点の損失が無視できる程度に小さいスイッチが採用される場合、アンテナから放射される電波の方向制御に大きく影響する要因は、スイッチ616がオン状態であるときより、むしろオフ状態であるときにおける無給電素子610に関わる高周波特性、例えばインピーダンスまたは位相など、である。スイッチ616がオフ状態のときの伝送線路路長Uが高周波信号の二分の一波長λg/2の整数倍であるならば、無給電素子610の接地点610AでのインピーダンスZは無限大に近くなる。即ち、無給電素子610の位相が伝送線路の接続により大きく変化することを抑制できる。
図72Aと図72Aは、それぞれ、図71と図63に示すアンテナにおける、スイッチ616のオン/オフ切り替えによる無給電素子610の接地点610AでのインピーダンスZの変化とアンテナから放射される電波の方向とを示す。
図72Aと図72Bの左側には、スイッチ616がオフの時の状態が示されている。図72Aに示されるように、図71のアンテナにおいて、伝送線路長Uが高周波信号の二分の一波長λg/2の整数倍である場合、接地点610Aのインピーダンスはほぼ無限大であり、電波の方向は基板に垂直である。これに対し、図72Bに示されるように、図71のアンテナにおいて、伝送線路長Uが高周波信号の二分の一波長λg/2の整数倍でない場合、接地点610Aのインピーダンスはより低く、電波の方向は或る角度θ1だけ傾く。図72Aと図72Bの右側には、スイッチ616がオンの時の状態が示されている。スイッチ616がオンの時には、いずれのアンテナでも電波は、より大きい角度θ2で傾くが、この傾き角度θ2は双方のアンテナ間であまり違わない。従って、図71のアンテナにおいて伝送線路長Uが高周波信号の二分の一波長λg/2の整数倍である方が、スイッチ616のオン/オフ切り替えにより得られる電波方向の変化幅が大きい。
伝送線路長Uを最適化するには、無給電素子610にスルーホール612を介し接続される中継線670の長さを変えれば良い。給電素子と無給電素子の相互干渉によりアンテナの共振周波数が決定されるため、無給電素子610にスルーホール612や中継線670、スイッチ616を接続したアンテナと、無給電素子610にスルーホール612や中継線670、スイッチ616を接続しないアンテナの2種類のアンテナを用意し、前者のアンテナの共振周波数が後者のアンテナの共振周波数と同じになるように、前者のアンテナの中継線670の長さを調整することで、伝送線路長Uの最適化を図れる。
図73は、本発明に従うマイクロストリップアンテナに適用することができる、無給電素子610に関わるインピーダンスを調整するための方法を示す、アンテナの裏面の平面図(1つの無給電素子610に対応する部分のみ抜粋)を示す。
図73に示すように、スルーホール612とスイッチ616との間の中継線路674にスタブ676が設けられる。無給電素子610に関わるインピーダンスが適正でない場合、スタブ677に切り込みを入れることで、インピーダンスを最適値に調整することができる。逆に、スタブ677に切り込みを入れ無給電素子610に関わるインピーダンスを最適値から変化させることで、電波ビームの放射角度を容易に変更できる。或は、別法として、中継線路674上に誘電体の膜または層を形成し、その誘電体膜の誘電率、膜厚又は面積を調節することで、インピーダンスを最適値に調整することができる。或は、中継線路674それ自体に切り込みを入れて、その長さ又は太さを変えることによっても、インピーダンスを最適値に調整することができる。
図74は、本発明の第24の実施形態にかかるマイクロストリップアンテナの断面図を示す。図75は、マイクロストリップアンテナの分解図を示す。
図74及び75に示すマイクロストリップアンテナは、図62に示したマイクロストリップアンテナと同様に、アンテナ本体600の正面に配置された誘電体レンズ602と、アンテナ本体600の背面側に配置されたアナログ回路ユニット606及びデジタル回路ユニット608を有する。しかし、このマイクロストリップアンテナは、次のようなユニークな構造をもつ。すなわち、図74及び75に示すように、誘電体レンズ602、アンテナ本体600、スペーサ680、デジタル回路ユニット608、スペーサ682、及びアナログ回路ユニット606が、この順序(アナログ回路ユニット606とデジタル回路ユニット608の順序は図62のそれと逆である)で積層され、それらが数本の螺子684により一体に固定されている。アンテナ本体600背面のほぼ全域を覆うアース電極700と、アナログ回路ユニット606の前面のほぼ全域を覆うアース電極704は、対向している。アンテナ本体600、スペーサ680、アナログ回路ユニット606、スペーサ682及びデジタル回路ユニット608は、それぞれほぼ平板形の形状を有し、よって、このアンテナは全体としてほぼ直方体の形状をもつ。このアンテナの最前部には誘電体レンズ602が配置され、最後部にはアナログ回路ユニット606が配置されることになる。螺子684のアンテナ本体600より前方へ出る部分は、誘電体レンズ602の基部の内部に埋め込まれて誘電体に包囲され、アンテナ本体600の前面上には露出しない。誘電体レンズ602に代えて、アンテナ保護用にほぼ平板状で薄肉の誘電体カバー706が用いられても良い。誘電体レンズ602と誘電体カバー706は、このアンテナの用途(例えば検知距離が遠近)に応じて選択することができる。
アナログ回路ユニット606の背面の中央部付近に高周波発振回路685が設けられ、この高周波発振回路685から、アンテナ本体600の表面の中央部付近に配置された給電素子687まで、給電ライン686が直線的に延びる。給電ライン686は、アナログ回路ユニット606、スペーサ682、デジタル回路ユニット608、及びスペーサ680、及びアンテナ本体600の内部を貫通して、アンテナ本体600上の給電素子に接続する。給電ライン686には、伝送損失を減らす観点から、同軸ケーブルを使用してもよい。この場合、同軸ケーブルの芯線が給電ライン686として用いられ、同軸ケーブルの芯線を包囲する同軸金属チューブが、アンテナ本体600背面のほぼ全域を覆うアース電極700とアナログ回路ユニット606の前面のほぼ全域を覆うアース電極704に各々接続される。箱形のシールドカバー690が、アナログ回路ユニット606の背面上に数本の螺子692により取り付けられる。シールドカバー690は、アナログ回路ユニット606の背面上の高周波発振回路685の外周を覆う。シールドカバー690には周波数調整螺子694が設けられている。周波数調整螺子694を回転させることにより、高周波発振回路685の回路定数が変わり(例えば、高周波発振回路685とシールドカバー690間の空隙距離が変わって、共振回路のキャパシタンスが変化する)、それにより高周波発振回路685の発振周波数が調整される。
スペーサ680、682はいずれも、金属のような導電体製であるか、又はその外面を導電体膜で覆われている。図75に示すように、一方のスペーサ680は、アンテナ本体600の背面のほぼ全域を覆うアース電極702と、デジタル回路ユニット608の前面のほぼ全域を覆うアース電極702とに接触して、グランドレベルに保持される。他方のスペーサ682は、デジタル回路ユニット608の背面の外周部に形成されたアース電極703と、アナログ回路ユニット606の前面のほぼ全域を覆うアース電極702とに接触して、グランドレベルに保持される。スペーサ680、682はいずれも、図76に示すような輪状の形状を有し、給電ライン686を包囲する。或は、スペーサ680、682はいずれも、図77に示すように、その中央部に、グランドレベルに保持されるシールドチューブ683を有し、そして、このシールドチューブ683内の給電ライン686が挿通され、シールドチューブ683と給電ライン686は同軸に配置される。
デジタル回路ユニット608には、アンテナ本体600の制御やセンサ回路の制御などを行なうマイクロコンピュータなどが搭載される。また、デジタル回路ユニット608の背面上には、幾つかの外部ポート710が配置される。それらの外部ポート710としては、センサ信号や電源電圧やモニタ信号などの各種信号の外部入出力のための信号入出力ポート、上述したマイクロコンピュータに内蔵されたフラッシュROMへのプログラムやデータの書き込みを行なうためのデータ書き込みポート、上記マイクロコンピュータに対して制御動作に関する各種の設定(例えば、無給電素子のスイッチをオン/オフする順序や周期など)を行なうための設定ポートなどがある。これらの外部ポート710は、デジタル回路ユニット608の背面から後方へ突出し、スペーサ682及びアナログ回路ユニット606の内部を貫通する。従って、図78に例示するように、外部ポート710の上端の開口部が、アナログ回路ユニット606の背面上に露出して、デジタル回路ユニット608へのアクセスを可能にする。外部ポート710のうち、特に、データ書き込みポートは、製造段階でデータが書き込まれた後、ユーザによる勝手なデータ書き換えを不可能にするために合成樹脂などで閉塞されてもよい。
図74及び75に示されたアンテナは、全ての部品が積層され一体的に結合されているとともに、デジタル回路ユニット608上の突出した外部ポートがスペーサ682及びアナログ回路ユニット606内に収容されるので、コンパクトである。そして、給電線686が、このコンパクトな積層構造のアンテナの厚みに相当する短い線路でよいため、給電線686での電力損失を小さくすることができる。また、周波数調整螺子694を用いて、発振周波数を変化させることができる。さらに、アンテナ本体600、デジタル回路ユニット608及びアナログ回路ユニット606の間に、アース電極700、702、703、704に密着する導電体製のスペーサ680、682が存在することにより、アンテナ本体600とアナログ回路ユニット606のグランドレベルを同一にし、良好なアンテナ性能を確保することができる。また、図77に示すような構造のスペーサ680、682を採用した場合、アンテナ本体600と高周波発振回路685間の給電ライン686の周囲をグランドレベルに維持することができるので、電力損失が小さくなる。また、アンテナ本体600、デジタル回路ユニット608及びアナログ回路ユニット606を積層し一体的に結合することによって、アンテナ本体600の背面(グランド面)から放射される電波や、高周波発振回路685から放射される不要な高調波が、外部へ放射されることが抑制され、よって、アンテナ本体600の前面から電波を効率良く所望の方向へ放射させることができる。さらに、螺子684が、誘電体レンズ602の内部に埋め込まれ、誘電体で覆われてアンテナ本体600の前面上に露出しないので、螺子684が金属製又は金メッキのような導電性を有していても、アンテナ本体600の前面から放射される電波が螺子684と干渉することが抑制され、電波を効率よく誘電体レンズ602を通じて前方へ放射させることができる。
図79は、図74及び図75に示されたマイクロストリップアンテナの変形例の断面図を示す。
図79に示されたアンテナにおける、図74及び図75に示されたアンテナとの相違は、デジタル回路ユニット608とアース電極704とアナログ回路ユニット606とが積層され一体に結合された三層構造体が用いられておる点である。デジタル回路ユニット608とアナログ回路ユニット606とは、両者間に挟まれた同じアース電極704を共有している。図74及び図75に示されたスペーサ682は存在しない。図79に示されたアンテナは、さらにコンパクトである。
本実施例では、螺子684がアナログ回路ユニット606側から挿入され固定されている。しかし、誘電体レンズ602や誘電体カバー706を使用しない構造(例えば、アンテナ素子の表面上に直接的に保護用の樹脂皮膜を形成した構造)を採用する場合、アンテナ本体600側から螺子684を挿入して全部品を固定することもできる。また、スペーサ680、682の四隅に設けられた螺子を通すための貫通穴に、螺子の代わり金属棒を挿入し、この金属棒とアンテナ本体600、デジタル回路ユニット608及びアナログ回路ユニット606のアース電極とを半田付け等で接続することで、全部品を固定することもできる。
図80A〜図80Cは、図74及び75、並びに図79に示されたアンテナやその他の本発明に従うマイクロストリップアンテナに適用可能な誘電体レンズのバリエーションを示す。
誘電体レンズは必ずしも球面レンズである必要はなく、アンテナ表面の法線方向へ突出した種々の形状のもの、例えば図80Aに示す三角錐形や図80Bに示す台形錐形のレンズであってもよい。或は、図80Cに示すような平らな誘電体板又は膜をレンズとして使った場合でも、アンテナゲインを向上させることができる。また、誘電体レンズの外表面に光触媒材料膜をコーティングすることにより、湿気や雨風による汚れなどがレンズに付着することを防ぐことができ、長期間にわたり効率良く電波を放射させることが可能である。
図81Aと図81Bは、本発明の第25の実施形態にかかるマイクロストリップアンテナの平面図と断面図をそれぞれ示す。
図81Aと図81Bに示すように、基板700内部にグランドレベルを提供するアース電極705が形成される、基板700前面上の略中央に給電素子701が配置される。そして、矩形のループ状素子702が、給電素子701から僅かな距離だけ離れて給電素子701の周囲を囲むように配置される。後述するように、ループ状素子702は、給電素子701よりサイズの大きい第2の給電素子に類似した機能をもつ。ループ状素子702(または給電素子701)の各角部から対角線外方向へ所定の素子間スペースだけ離れた位置に、第1無給電素子711、712、713、714が配置される。さらに、ループ状素子702(または給電素子701)の各辺縁からその法線外方向へ所定の素子間スペースだけ離れた位置に、第2無給電素子721、722、723、724が配置されている。第1無給電素子711、712、713、714には、それぞれ、それを接地するかフロート状態にするかを切り替えるためのスイッチ(4つのスイッチのいずれもが図示省略)が、制御線(スルーホール)731、732、733、734をそれぞれ介して接続され、それらのスイッチは基板700の裏面に配置される。第2無給電素子721、722、723、724には、それぞれ、それを接地するかフロート状態にするかを切り替えるスイッチ762、764(他の2つのスイッチは図示省略)が、制御線(スルーホール)741、742、743、744をそれぞれ介して接続されて、これらのスイッチ762、764も基板700の裏面に配置される。
このマイクロストリップアンテナは、第1共振周波数帯域と第2共振周波数帯域とをもつ2周波共用アンテナである。第1共振周波数帯域は、給電素子701の1辺の長さにより決定される。給電線703から第1共振周波数帯域の高周波信号が給電素子701に印加されると、給電素子701を図中縦方向に励振する。第2共振周波数帯域は、給電素子701を囲むループ状素子702の輪郭サイズ(特に、外辺の長さとライン幅)により決定される。給電線703から第2共振周波数帯域の高周波信号が給電素子701に印加されると、ループ状素子702に電流が励起されて、ループ状素子702を図中縦方向に励振する。このように励振方向はともに同じであるが、半波長(λg/2)の長さが異なる2種類の周波数にて共振を得ることができる。
第1無給電素子711、712、713、714は、それぞれ、1辺の長さが第1共振周波数帯域の半波長λg/2程度である矩形状の電極であり、第1共振周波数帯域にて共振することができる。第2無給電素子721、722、723、724、それぞれ、1辺の長さが第2共振周波数帯域の半波長λg/2程度である矩形状の電極であり、第2共振周波数帯域にて共振することができる。
給電線703から第1共振周波数帯域の高周波信号が給電素子701に印加されている時には、第2無給電素子721、722、723、724に接続されたスイッチ762、764の全てはON(通過)にされて、第2無給電素子721、722、723、724の全ては接地される。この時、このマイクロストリップアンテナからは、第1共振周波数帯域の電波ビームが放射される。第1無給電素子711、712、713、714の各々に接続されたスイッチをON(通過)とOFF(遮断)の間で切り替えることにより、第1共振周波数帯域の電波ビームの放射方向を変化させることができる。
同様にして、給電線703から第2共振周波数帯域の高周波信号が給電素子701に印加されている時には、第1無給電素子711、712、713、714に接続されたスイッチの全てはON(通過)されて、第1無給電素子711、712、713、714の全ては接地される。この時、このマイクロストリップアンテナからは、第2共振周波数帯域の電波ビームが放射される。第2無給電素子721、722、723、724に接続されたスイッチ762、764の各々をON(通過)とOFF(遮断)の間で切り替えることにより、第2共振周波数帯域の電波ビームの放射方向を変化させることができる。
このマイクロストリップアンテナは、コンパクトかつ薄型に構成されることが容易であり、かつ、2種類の周波数の高周波電波ビームを送受信することができる。日本では現在、移動体検知センサのための周波数帯として、屋内用に10GHz帯が、屋外用に24GHz帯の使用が認められている。そこで、このマイクロストリップアンテナにおいて、第1共振周波数帯域が24GHzに、第2共振周波数帯域が10GHzとなるよう素子の形状とサイズを決定すれば、この同じマイクロストリップアンテナを屋内と屋外を問わず如何なる場所でも使用することができる。
図82は、図81Aに示したマイクロストリップアンテナの変形例の平面図を示す。
図82に示すように、ループ状素子702(または給電素子701)から所定の素子間スペースだけ離れた位置に、給電素子701と同形状と同サイズの第1無給電素子711、712、713、714が配置される。第1無給電素子711、712、713、714の各々の周囲を包囲するように、給電素子701を囲むループ状素子702と同形状と同サイズの矩形ループ状の第2無給電素子721、722、723、724が配置される。第2無給電素子721、722、723、724には、それぞれ、制御線(スルーホール) 741、742、743、744を介してスイッチ(図示省略)が接続され、それらのスイッチは基板700の裏面に配置される。各スイッチの切り替えにより、ループ状の第2無給電素子721、722、723、724の各々をフロート状態にするか接地するかを切り替えることができる。
給電線703から第1共振周波数帯域の高周波信号が給電素子701に印加されている時には、第2無給電素子721、722、723、724に接続されたスイッチの全てはONにされて、第2無給電素子721、722、723、724の全ては接地される。この時、このマイクロストリップアンテナからは、第1共振周波数帯域の電波ビームが放射される。第1無給電素子711、712、713、714の各々に接続されたスイッチをONとOFFの間で切り替えることにより、第1共振周波数帯域の電波ビームの放射方向を変化させることができる。
同様にして、給電線703から第2共振周波数帯域の高周波信号が給電素子701に印加されている時には、第1無給電素子711、712、713、714に接続されたスイッチの全てはONにされて、第1無給電素子711、712、713、714の全ては接地される。この時、このマイクロストリップアンテナからは、第2共振周波数帯域の電波ビームが放射される。第2無給電素子721、722、723、724に接続されたスイッチ762、764の各々をONとOFFの間で切り替えることにより、第2共振周波数帯域の電波ビームの放射方向を変化させることができる。
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は本発明の説明のための例示にすぎず、本発明の範囲をこの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱することなく、その他の様々な態様でも実施することができる。