JP3944099B2 - 液浸系顕微鏡対物レンズ - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、液浸系顕微鏡対物レンズに関し、特に、開口数(NA)が1.4を越えるアポクロマート級液浸系顕微鏡対物レンズに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
顕微鏡対物レンズにおいて、高開口数(NA)化による解像力の向上は必要不可欠な仕様であり、従来から多くの提案がなされてきている。例えば、特許文献1や特願平4−311703号は、NA1.4であり、かつ色収差が良く補正されており、像面平坦性も良い。しかし、油浸液の屈折率が1.52程度であるため、さらに高NAにしようとすると、軸上物点からの光束が拡がりすぎてレンズ設計自体が困難を極めてしまうため、NA1.4を越える従来技術はなかった。
【0003】
NA1.4を越える対物レンズは、事実上、未知の技術であるが、顕微鏡の使い方にも近年は変化が見られ、先端の研究分野では、微分干渉を行えるように構成して、ビデオカメラで拡大観察する手法も用いられるようになっている。後記する本発明の対物レンズは、そうした未知の分野を開拓するものである。
【0004】
なお、本発明の顕微鏡対物レンズの仕様とは異なるが、構成が似ている従来技術を以下に列挙する。まず、特許文献2は、NA0.8で倍率65倍と液浸系の対物レンズではないが、本発明の特徴の1つである第3レンズ群の形状が似ている。ただし、第1レンズ群に、接合面が物体側に凹形状の接合レンズを含まない点、第2レンズ群に3枚接合レンズを含まない点で本発明とは異なる。
【0005】
次に、特許文献3と特許文献4は、NA1.3で、倍率が100倍の液浸系対物レンズである。本発明の対物レンズとは、第1、第5、第6レンズ群が同じで、第3、第4レンズ群も形状は似ている。しかし、第2レンズ群に3枚接合レンズを含まない点、第3レンズ群が正屈折力である点で本発明とは異なる。ちなみに、本発明の第3レンズ群は負屈折力であることが特徴である。
【0006】
【特許文献1】
特開昭61−275813号公報
【0007】
【特許文献2】
実公昭41−12378号公報
【0008】
【特許文献3】
米国特許第3,700,311号明細書
【0009】
【特許文献4】
米国特許第4,373,785号明細書
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来の開口数(NA)1.4の対物レンズよりも高NAで、特に軸上の光学性能が極めて良好な液浸系顕微鏡対物レンズを提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成する本発明の液浸系顕微鏡対物レンズは、複数のレンズ群を有し、最も物体側のレンズ面の物体側に油浸液を付して観察する液浸系顕微鏡対物レンズにおいて、
最も物体側のレンズの屈折率が1.6以上であり、油浸液の屈折率も1.6以上であることを特徴とするものである。
【0012】
この場合、物体側から順に、全体として正の屈折力の第1レンズ群と、全体として正の屈折力の第2レンズ群と、全体として負の屈折力の第3レンズ群と、全体として正の屈折力の第4レンズ群と、像側に凹面を向けた第5レンズ群と、物体側に凹面を向けた第6レンズ群とからなることが望ましい。
【0013】
【作用】
以下、上記の構成を採用した理由と作用について説明する。
【0014】
まず、顕微鏡対物レンズを高NA化するために、屈折率が1.6以上の油浸液を用い、球面収差の発生を少なくするため、最も物体側のレンズの屈折率を1.6以上にする。
【0015】
そして、本発明においては、第1レンズ群の先玉レンズを接合レンズとし、物体側のレンズの屈折率は上記のようにできるだけ大きいものを用い、接合面は物体側に凹形状にする。これらは何れも、球面収差の発生量をできるだけ小さくするためのものである。
【0016】
第2レンズ群には、正レンズ、負レンズ、正レンズの3枚接合レンズを配置する。これは、軸上色収差の補正に効果的である。第3レンズ群では、最も物体側の凸面によって光束を絞り、最も像側の面の像側に強い凹面によって負の屈折力を働かせる。この負屈折力によって光束は拡がってしまうが、第4レンズ群の最も物体側の強い凸面によって再度光束を絞り込む。この種の高倍率、高NAの対物レンズでは、対物レンズ全系で強い正屈折力を持つため、負の球面収差が大きく発生する。球面収差補正をするためにいかに負屈折力を確保するかが、対物レンズ設計のポイントであるが、本発明においては、第3レンズ群の最も像側の面と第4レンズ群の最も物体側の面の間に空気間隙をはさみ、負屈折力のいわゆる空気レンズのような効果を持たせている。
【0017】
さらに、正屈折力の第4レンズ群で光束を絞り込み、第5レンズ群と第6レンズ群のいわゆるガウスタイプのレンズ群に入射させて、像面平坦性を確保するようにしている。
【0018】
さらに、収差補正を良好に行うためには、第3レンズ群の最も像側の面の曲率半径と第4レンズ群の最も物体側の面の曲率半径をそれぞれR3 、R4 とした時、
(1) 0.7<R3 /R4 <1.3
の条件を満足することが必要である。
【0019】
球面収差補正のために負屈折力が必要なことと、あまり負屈折力が強すぎても全体の収差バランスがくずれてしまうことのために、R3 とR4 の比が条件式(1)の範囲に入っている必要がある。条件式(1)の上限の1.3を越えると、第4レンズ群の最も物体側の面の正屈折力が強くなりすぎ、全体の収差バランスがくずれてしまう。条件式(1)の下限の0.7を越えると、第3レンズ群の最も像側の面の負屈折力が強くなりすぎ、同様に全体の収差バランスがくずれてしまう。
【0020】
さらには、第3レンズ群の焦点距離をf3 、対物レンズ全系の焦点距離をfとした時、
(2) f/f3 <−0.01
の条件を満たすと、球面収差補正に必要な負屈折力が確保できて効果的である。ちなみに、従来技術の実公昭41−12378号では、条件式(2)の対応する値は−0.0031と弱い負屈折力である。その他の従来技術は全て正屈折力となっており、本発明の条件式(2)とは異なっている。
【0021】
【実施例】
以下、本発明の液浸系顕微鏡対物レンズの実施例1〜2について説明する。
【0022】
各実施例のレンズデータは後記するが、図1は実施例1のレンズ構成を示す断面図であり、実施例2の構成もほぼ同じであるので図示は省く。
【0023】
各群の構成については、両実施例共、第1群G1 は、平凸レンズと物体側に凹面を向けたメニスカスレンズの接合レンズと、物体側に凹面を向けた正メニスカスレンズの3枚からなり、第2群G2 は、両凸レンズ、両凹レンズ、両凸レンズの3枚接合レンズからなり、第3群G3 は、両凸レンズと両凹レンズの2枚接合レンズからなり、第4群G4 は、両凸レンズと物体側に凹面を向けた負メニスカスレンズの2枚接合レンズからなり、第5群G5 は、両凸レンズと両凹レンズの2枚接合レンズからなり、第6群G6 は、両凹レンズと両凸レンズの2枚接合レンズからなる。
【0024】
以下に各実施例の数値データを示すが、記号は、上記の他、r1 、r2 …は物体側から順に示した各レンズ面の曲率半径、d1 、d2 …は物体側から順に示した各レンズ面間の間隔、nd1、nd2…は物体側から順に示した各レンズのd線の屈折率、νd1、νd2…は物体側から順に示した各レンズのアッベ数である。
【0025】
なお、実施例1、2共に、焦点距離f=1.8、倍率=100×、開口数NA=1.65、作動距離は0.1289である。また、何れも油浸系であり、使用する油浸液(オイル)の屈折率は、nd =1.78035、nC =1.76883、nF =1.80975、ng =1.83503(添字d、C、F、gは、それぞれd線、C線、F線、g線での値を表す。)である。さらに、カバーガラスのd線の屈折率、アッベ数、厚みは、それぞれnd =1.7865、νd =50.0、d=0.17mmとして設計してある。
【0026】
【0027】
【0028】
上記各実施例の対物レンズは、例えば以下に示すレンズデータを有し、図2にレンズ断面を示す結像レンズと組み合わせて用いられる。ただし、データ中、r1'、r2'…は物体側から順に示した各レンズ面の曲率半径、d1'、d2'…は物体側から順に示した各レンズ面間の間隔、nd1' 、nd2' …は物体側から順に示した各レンズのd線の屈折率、νd1' 、νd2' …は物体側から順に示した各レンズのアッベ数である。
【0029】
【0030】
この場合、実施例1、2の対物レンズと図2の結像レンズの間の間隔は50mm〜170mmの間の何れの位置でもよいが、この間隔を105mmとした場合についての実施例1、2の球面収差、非点収差、歪曲収差を表す収差図をそれぞれ図3、図4に示す。なお、上記間隔が50mm〜170mmの間で105mm以外の位置においてもほぼ同様の収差状況を示す。
【0031】
なお、本発明の液浸系顕微鏡対物レンズを用いる顕微鏡の概略の構成と作用について簡単に説明しておく。図5(a)に液浸系顕微鏡の概略の構成図を、同(b)に対物レンズ先端部分の拡大図を示すが、顕微鏡本体Msは、対物レンズOb、接眼レンズEp、試料台St等からなり、スライドSgとカバーガラスCgの間に挟持された試料Sを試料台St上に載置し、カバーガラスCg上に油浸液Oiを滴下して対物レンズObをカバーガラスCgに近付けると、対物レンズObとカバーガラスCgの間が油浸液Oiで埋められる。このように油浸液Oiで対物レンズObと試料Sの間を埋めると、空気層を介する乾燥系に比べて、試料SからのNAの大きな光束も対物レンズObに入射して結像に寄与できるため、より高倍率での観察が可能になると共に、収差上もより良好に結像できるものとなる。
【0032】
以上に説明した本発明の液浸系顕微鏡対物レンズをまとめると、次のようになる。
【0033】
〔1〕物体側から順に、全体として正の屈折力を有し、接合面が物体側に凹形状の接合レンズを含む第1レンズ群と、正レンズと負レンズと正レンズとの3枚接合レンズを有し、全体として正の屈折力の第2レンズ群と、最も物体側に凸面を有すると共に、最も像側の面が像側に強い凹形状を有し、全体として負の屈折力の第3レンズ群と、最も物体側が強い凸面で、全体として正の屈折力を有する第4レンズ群と、最も物体側に凸面を有すると共に、最も像側の面が像側に凹形状を有する第5レンズ群と、最も物体側に凹面を有すると共に、最も像側の面が像側に凸形状を有する第6レンズ群と、を備えた液浸系顕微鏡対物レンズ。
【0034】
〔2〕物体側から順に、全体として正の屈折力を有し、接合面が物体側に凹形状の接合レンズを含む第1レンズ群と、正レンズと負レンズと正レンズとの3枚接合レンズを有し、全体として正の屈折力の第2レンズ群と、最も物体側に凸面を有すると共に、最も像側の面が像側に強い凹形状を有し、全体として負の屈折力の第3レンズ群と、最も物体側が強い凸面で、全体として正の屈折力を有する第4レンズ群と、最も物体側に凸面を有すると共に、最も像側の面が像側に凹形状を有する第5レンズ群と、最も物体側に凹面を有すると共に、最も像側の面が像側に凸形状を有する第6レンズ群と、を備え、以下の条件を満足する液浸系顕微鏡対物レンズ。
【0035】
(1) 0.7<R3 /R4 <1.3
ただし、R3 、R4 はそれぞれ第3レンズ群の最も像側の面の曲率半径と第4レンズ群の最も物体側の面の曲率半径である。
【0036】
〔3〕複数のレンズ群を有し、最も物体側のレンズ面の物体側に油浸液を付して観察する液浸系顕微鏡対物レンズにおいて、最も物体側のレンズの屈折率が1.6以上であることを特徴とする液浸系顕微鏡対物レンズ。
【0037】
〔4〕物体側から順に、全体として正の屈折力の第1レンズ群と、全体として正の屈折力の第2レンズ群と、全体として負の屈折力の第3レンズ群と、全体として正の屈折力の第4レンズ群と、像側に凹面を向けた第5レンズ群と、物体側に凹面を向けた第6レンズ群とからなる上記〔3〕の液浸系顕微鏡対物レンズ。
【0038】
〔5〕前記第2レンズ群が、3枚接合レンズを有する上記〔4〕の液浸系顕微鏡対物レンズ。
【0039】
〔6〕前記第1レンズ群が、全体として正の屈折力を有し、接合面が物体側に凹形状の接合レンズを含む上記〔3〕、〔4〕又は〔5〕の液浸系顕微鏡対物レンズ。
【0040】
〔7〕前記第2レンズ群が、正レンズと負レンズと正レンズの3枚接合レンズを有し、全体として正の屈折力を有する上記〔3〕、〔4〕、〔5〕又は〔6〕の液浸系顕微鏡対物レンズ。
【0041】
〔8〕前記第3レンズ群が、最も物体側に凸面を有すると共に、最も像側の面が像側に強い凹形状を有する全体として負の屈折力の上記〔3〕、〔4〕、〔5〕、〔6〕又は〔7〕の液浸系顕微鏡対物レンズ。
【0042】
〔9〕前記第4レンズ群が、最も物体側が強い凸面で、全体として正の屈折力を有する上記〔3〕、〔4〕、〔5〕、〔6〕、〔7〕又は〔8〕の液浸系顕微鏡対物レンズ。
【0043】
〔10〕前記第5レンズ群が、最も物体側に凸面を有すると共に、最も像側の面が像側に凹形状を有する上記〔3〕、〔4〕、〔5〕、〔6〕、〔7〕、〔8〕又は〔9〕の液浸系顕微鏡対物レンズ。
【0044】
〔11〕前記第6レンズ群が、最も物体側に凹面を有すると共に、最も像側の面が像側に凸形状を有する上記〔3〕、〔4〕、〔5〕、〔6〕、〔7〕、〔8〕、〔9〕又は〔10〕の液浸系顕微鏡対物レンズ。
【0045】
〔12〕以下の条件を満足する上記〔3〕、〔4〕、〔5〕、〔6〕、〔7〕、〔8〕、〔9〕、〔10〕又は〔11〕の液浸系顕微鏡対物レンズ。
【0046】
(1) 0.7<R3 /R4 <1.3
ただし、R3 、R4 はそれぞれ第3レンズ群の最も像側の面の曲率半径と第4レンズ群の最も物体側の面の曲率半径である。
【0047】
〔13〕以下の条件を満足する上記〔3〕、〔4〕、〔5〕、〔6〕、〔7〕、〔8〕、〔9〕、〔10〕、〔11〕又は〔12〕の液浸系顕微鏡対物レンズ。 (2) f/f3 <−0.01
ただし、f3 は第3レンズ群の焦点距離、fは対物レンズ全系の焦点距離である。
【0048】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によると、倍率が100倍程度、NAが1.65という高NAで、特に軸上の光学性能が極めて良好な液浸系顕微鏡対物レンズを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の液浸系顕微鏡対物レンズの実施例1の断面図である。
【図2】各実施例の対物レンズと組み合わせて用いる結像レンズの断面図である。
【図3】実施例1の球面収差、非点収差、歪曲収差を表す収差図である。
【図4】実施例2の球面収差、非点収差、歪曲収差を表す収差図である。
【図5】本発明の対物レンズを用いる顕微鏡の概略の構成図と対物レンズ先端部分の拡大図である。
【符号の説明】
G1 …第1レンズ群
G2 …第2レンズ群
G3 …第3レンズ群
G4 …第4レンズ群
G5 …第5レンズ群
G6 …第6レンズ群
Ms…顕微鏡本体
Ob…対物レンズ
Ep…接眼レンズ
St…試料台
Sg…スライド
Cg…カバーガラス
S …試料
Oi…油浸液
Claims (4)
- 複数のレンズ群を有し、最も物体側のレンズ面の物体側に油浸液を付して観察する液浸系顕微鏡対物レンズにおいて、
最も物体側のレンズの屈折率が1.6以上であり、油浸液の屈折率も1.6以上であることを特徴とする液浸系顕微鏡対物レンズ。 - 物体側から順に、全体として正の屈折力の第1レンズ群と、全体として正の屈折力の第2レンズ群と、全体として負の屈折力の第3レンズ群と、全体として正の屈折力の第4レンズ群と、像側に凹面を向けた第5レンズ群と、物体側に凹面を向けた第6レンズ群とからなる請求項1記載の液浸系顕微鏡対物レンズ。
- 以下の条件を満足する請求項2記載の液浸系顕微鏡対物レンズ。
(1) 0.7<R3 /R4 <1.3
ただし、R3 、R4 はそれぞれ第3レンズ群の最も像側の面の曲率半径と第4レンズ群の最も物体側の面の曲率半径である。 - 以下の条件を満足する請求項2又は3記載の液浸系顕微鏡対物レンズ。
(2) f/f3 <−0.01
ただし、f3 は第3レンズ群の焦点距離、fは対物レンズ全系の焦点距離である。
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