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JP3838796B2 - 摺動部材用硬質膜 - Google Patents

摺動部材用硬質膜 Download PDF

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JP3838796B2 JP30226098A JP30226098A JP3838796B2 JP 3838796 B2 JP3838796 B2 JP 3838796B2 JP 30226098 A JP30226098 A JP 30226098A JP 30226098 A JP30226098 A JP 30226098A JP 3838796 B2 JP3838796 B2 JP 3838796B2
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、特にポンプ、圧縮機等の回転機械の軸受またはシール部の摺動部材や、切削工具を代表とする各種耐摩耗部品のような耐摩耗性、低い摩擦係数が要求される部材に用いられて好適な摺動部材用硬質膜及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
金属材料から構成される軸受またはシール部材の耐摩耗性または耐食性を高めるために、その表面にセラミックスコーティングを施すことが広く行われている。そのセラミックスコーティングに使用されている材質としては、窒化チタン(TiN)、炭化チタン(TiC)、窒化クロム(CrN)、窒化ボロン(BN)およびダイヤモンド状カーボン(DLC)などが挙げられる。これらの中でも、TiN、CrNはすでに広く工業化され、硬質膜として金型、切削工具等に応用されている。
【0003】
このような硬質膜を形成する方法としては、従来から、PVD法またはCVD法に代表されるイオンプレーティング法、スパッター蒸着法、プラズマCVD法およびイオン注入法などの表面改質技術が検討されている。特に、真空蒸着法にイオン注入技術を併用したダイナミックミキシング(DM)法は、基材との密着性に優れると同時に、低温での物質合成が可能な膜形成技術として注目されている。
【0004】
セラミックスコーティングの材料のうちで、広く実用化されているものの一つであるTiNは、侵入型化合物を形成する代表的物質であり、面心立方晶の結晶構造であることが知られている。TiNは、Tiの格子に窒素が侵入固溶体として入り、NaCl型結晶構造となる。TiN膜は、耐摩耗性および耐食性に優れていることから、一部の軸受またはシール部材などにも使用されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、ポンプなどの回転機械において、回転機械の高速化、高圧化に伴い、高荷重、高周速度などの苛酷な摺動条件に耐える摺動部材用硬質膜の開発が望まれている。窒化チタン膜をこのような用途に適用することが考えられているが、窒化チタン膜自体の硬さ、耐摩耗性が充分でなく、耐久性に問題があることがこれまでの実験から分かってきた。従って、現在の窒化チタン膜ではこのような苛酷な条件で使用する用途において充分な摺動特性を発揮することができない。
【0006】
本発明は上述の課題を解決するためになされたもので、窒化チタン膜の優れた耐摩耗性および低摩擦係数を更に向上させて、回転機械の高速化、高圧化に伴う高い摺動特性に対する要請に対応することができるような摺動部材用硬質膜を提供することを目的としたものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載の発明は、窒化チタンを主成分とし、Bを含有する窒化物であって、前記窒化物の結晶が面心立方構造であり、その結晶子の大きさが9nm以下であることを特徴とする摺動部材用硬質膜である。
【0008】
発明者らは、窒化チタン膜の硬さおよび耐摩耗性を向上させることを目的に、Ti及びN以外の各種元素を含有した窒化物薄膜を得ること、およびそのような窒化物薄膜の形成技術の開発を進めてきた。すなわち、窒化チタン薄膜の硬さおよび耐摩耗性を向上させることを念頭に、窒化チタンを主成分に、TiおよびN以外の各種元素を添加した窒化物薄膜の形成技術に関する研究を行った。その結果、窒化チタンを主成分とし、B及びSiから選ばれる少なくとも一つの元素を含有する窒化物の結晶構造が面心立方構造であることを解明し、さらに、これまでの研究から、前記窒化物が下記の化学組成であるとき、前記窒化物の結晶構造が面心立方構造であって、面心立方構造である前記窒化物の結晶子の大きさが9nm以下であるときに、ビッカース硬さが3000以上であり、前記の目的が達成されることを明らかにした。
化学組成:Ti(100−x)Mex窒化物
但し、Me:B及びSiの中から少なくとも一つ選ばれる元素
x:2%≦x≦30%、原子濃度(%)
【0009】
このような摺動部材用硬質膜は、ダイナミックミキシング(DM)法を用い、金属元素であるTi及び添加元素を真空蒸着させながら窒素をイオン注入することにより形成するのが良い。この方法によれば、基材との密着性の高い成膜ができるとともに、低温での物質合成が可能である。基材としては、熱膨張係数が11×10−6以下であるSUS420J2鋼またはSUS630鋼などのステンレス鋼またはIncoloy909鋼などのNi基合金を用いることが密着性を維持する上で好ましいが、これに限定されるものではなく、上記以外の鉄鋼材料も好適に用いられる。また、耐摩耗部材あるいは切削工具などの用途では、鉄鋼材料以外の、SiC、Si及びAlなどの各種セラミックス及びWCなどの超硬合金なども基材として好適である。
【0010】
イオンビームの加速電圧は40kV以下であることが好ましい。40kV以上であると、イオンビームの加速装置の大掛かりになり、処理コストが高くなったり放射線の対策が必要になる。また、イオンビームの投与エネルギーが1kV以下では、基材との密着力が不足し、摺動部材に適した硬質膜が得られない。形成する硬質膜の膜厚は、処理コストおよび膜残留応力などの種々の要因を考慮して、数十μm以下が好適であるが、その用途によって種々の厚さとすることができる。
【0011】
添加元素の比率は、DM法において、Ti及び添加元素の蒸発速度をそれぞれ制御することによって行なうことができる。TiNは、Tiの格子に窒素が侵入固溶体として入り、面心立方晶の結晶構造となる。TiNにB及びSiから選ばれる少なくとも一つの元素を添加した場合、その原子濃度の増加と共に、TiNの面心立方の結晶構造が失われて他の結晶構造となる。したがって、優れた耐摩耗性、低摩擦係数を発揮させるため、添加元素の原子濃度が30at%以下であることが望ましい。また、これまでの研究から、TiNに添加元素を添加するほど、硬さ及び耐摩耗性が向上するものと考えられるが、摺動条件の苛酷さで、添加元素の添加量の下限値を決めるのが望ましい。
【0012】
DM法において、窒素イオンビームの照射条件、例えば、イオンの加速電圧、電流密度、投与エネルギー(W/cm)および照射角度などの条件を制御することによって結晶子の結晶方位を(111)面に配向させることが可能である。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の摺動部材用硬質膜の製造方法において、BおよびTiとを同時に真空蒸着すると共に、窒素を主体とするイオンビームを照射することにより、前記窒化物を形成することを特徴とする摺動部材用硬質膜の製造方法である。
【0014】
【実施例】
以下、実施例によって、本発明を具体的に説明する。
まず、図1により、ダイナミックミキシング(DM)装置を説明する。これは、気密な成膜室11内に、基材Wを下面に保持する銅製のホルダ12と、これの下方に配置されたヒータ13a,14aを有する蒸発源13,14と、基材Wに対して斜め下方からイオンを入射可能なイオン源15を備えている。基材Wを面内均一に成膜するために回転軸16により回転させるようにしており、銅製ホルダ12は、イオンビーム照射による基材Wの温度上昇を防ぐため回転軸16を介して水冷されている。
【0015】
このような装置により、基材として、SUS420J2鋼およびIncoloy909鋼を用いて、以下のような工程で実施例と比較例の成膜を行った。基材Wの前処理として、この基材処理面を平均表面粗さが0.05μm以下の鏡面となるまで研磨し、アルコールで超音波洗浄を行った後、図1のDM装置のホルダ12に取り付けた。
【0016】
まず、成膜室11の内部を到達圧力が1×10−5Torr以下になるまで真空排気し、加速電圧10kV、イオン電流密度0.2mA/cm、照射角度45°で、窒素イオンビームを照射して、基材の表面のスパッタークリーニングを行った。次に、窒素イオンビーム源15において電流密度を制御しながら窒素ビームを照射しつつ、Ti及び添加元素の蒸気源13,14をヒータ13a,14aで加熱し、それぞれの蒸発速度を制御しつつ膜厚が4μmになるまで成膜を行った。成膜条件を表1に示す。
【0017】
【表1】
Figure 0003838796
【0018】
得られた窒化物薄膜の組成は、表2に示すように、それぞれTiに対してB及びSiの中から少なくとも一つ選ばれる元素が2〜30at%含まれていた。ここでは、Ti及び添加元素の供給比は、Me元素の蒸着速度/チタンの蒸着速度の比として示されている。なお、膜厚は、水晶振動子式膜厚計でモニターした。一方、比較例として、添加元素を加えないもの、面心立方晶構造でないもの、結晶子の大きさが10nm以上のもの、添加元素が2〜30at%を超えて含まれているもの等を同様の方法で作製した。
【0019】
【表2】
Figure 0003838796
【0020】
得られた各種窒化物薄膜のビッカース硬さと結晶子の大きさとの関係を図2に示す。図中の各種窒化物薄膜をX線回折パターンで測定した結果から、これらの薄膜が面心立方晶構造であって、(111)面に優先配向していることが分かった。また、図中の結晶子の大きさを次の式から求めた。
D=0.9λ/(βcosθ)
但し、D:結晶子の大きさ、λ:測定に用いたX線の波長、β:半値幅の広がり、θ:(111)のブラッグ角である。
【0021】
次に、本発明を遠心圧縮機用メイティングリングヘ適用した具体的事例を説明する。図3は遠心圧縮機の非接触端面シールの構成例を示す図である。同図において、シールハウジング21に収容された回転軸22には軸スリーブ23が設けられている。そして、軸スリーブ23はキー24,24を介して回転環25,25(メイティングリング)を保持している。各回転環25に対向して固定環26を設けている。回転環25の基材にはステンレス鋼(SUS42OJ2)を用い、その摺動面に本発明の摺動部材用硬質膜をダイナミックミキシング法で形成する。また、図示は省略するが、回転環25の摺動面には高圧側Hから低圧側Lに向けて溝が形成されている。
【0022】
各固定環26はピン27を介してシールリングリテーナ28に接続されており、該シールリングリテーナ28とシールハウジング21との間にはスプリング29を介装している。そしてスプリング29及びシールリングリテーナ28を介して各固定環26は回転環25に押し付けられている。なお、30はロックプレート、31はシエアリングキーである。
【0023】
上記構成の非接触端面シールにおいて、回転軸22が回転することにより、回転環25と固定環26とが相対運動し、これにより、回転環25に形成した溝が高圧側Hの流体を巻き込んで、密封面に流体膜を形成する。この流体膜により密封面は非接触状態となり、回転環25と固定環26との間の密封面間にわずかな隙間が形成される。
【0024】
図4は本発明をマグネットポンプのスラスト軸受に適用した構成を示す図である。図において、40は隔壁板であり、該隔壁板40にはスラスト軸受を構成する静止部材41を固定し、該静止部材41に対向して羽根車44に固定されたスラスト軸受を構成する可動部材42を設けている。また、隔壁板40を介在させてマグネットカップリング43に固定された永久磁石46と羽根車44に固定された永久磁石45が対向している。マグネットカップリング43を回転させることにより、該回転力は永久磁石46と永久磁石45の問に作用する磁気吸引力又は磁気反発力で羽根車44に伝達され、羽根車44はスラスト方向をスラスト軸受に支持されて回転する。
【0025】
上記スラスト軸受を構成する可動部材42の摺動面に本発明の摺動部材用硬質膜をダイナミックミキシング法で形成する。そして静止部材41をカーボンを主体とする材料で構成する。スラスト軸受をこのように構成することにより、摩擦係数及びカーボンの比摩耗量が小さい優れた摩擦特性のスラスト軸受が構成できる。また、図示は省略するが、ラジアル軸受の可動部材の摺動面に本発明の硬質膜を形成し、静止部材をカーボンを主体とする材料で構成することにより、同様な特徴を有するラジアル軸受が構成できる。
【0026】
なお、上記実施例では、基材に金属材料を用いたが、本発明はそれに限定されるものではなく、超硬合金、セラミックスを用いた場合でも全く同様な効果を奏することを確認している。
【0027】
また、上記例では軸受の可動部材を金属材料又は超硬合金又はセラミックで構成し、その摺動面に本発明の硬質膜を形成する例を示したが、反対に静止部材を金属材料又は超硬合金又はセラミックで構成し、その摺動面に本発明の硬質膜を形成し、可動部材をカーボンを主体する材料で構成してもよい。
【0028】
また、上記例では本発明の硬質膜を形成した摺動部材と組み合わせる相手側の部材の材料として、樹脂含浸硬質カーボンまたは硬質カーボンを用いたが、相手側の材料としてはこれに限定されるものではなく、カーボンを主体とする材料またはカーボンを含浸させた材料をも含んで、広くカーボンを含む材料を使用することができる。カーボンを含む材料としては、例えば、カーボン系複合材料(カーボン繊維強化型複合材料、カーボン複合材料等)、炭素鋼、鋳鉄、炭化物(SiC、Cr、TiC等)、カーボン系コーティング材料(DLC〔ダイヤモンドライクカーボン〕膜、TiC膜)などを含む。
【0029】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、TiN膜の硬さおよび優れた耐摩耗性を更に向上させて、回転機械の高速化、高圧化に伴う高い摺動特性に対する要請に対応することができるような摺動部材用硬質膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明で使用した硬質膜形成装置の概念図を示す。
【図2】結晶子の大きさとビッカース硬さの関係を示すグラフである。
【図3】圧縮機の非接触端面シールの構成例を示す図である。
【図4】本発明をマグネットポンプのスラスト軸受に適用した構成を示す図である。
【符号の説明】
12 基板ホルダ
13,14 蒸発源
15 イオン源
16 回転軸
W 基板

Claims (2)

  1. 窒化チタンを主成分とし、Bを含有する窒化物であって、前記窒化物の結晶が面心立方構造であり、その結晶子の大きさが9nm以下であることを特徴とする摺動部材用硬質膜。
  2. 請求項1に記載の摺動部材用硬質膜の製造方法において、
    BおよびTiとを同時に真空蒸着すると共に、窒素を主体とするイオンビームを照射することにより、前記窒化物を形成することを特徴とする摺動部材用硬質膜の製造方法。
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