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JP3889100B2 - 磁気特性の優れた無方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents

磁気特性の優れた無方向性電磁鋼板の製造方法 Download PDF

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JP3889100B2
JP3889100B2 JP34120796A JP34120796A JP3889100B2 JP 3889100 B2 JP3889100 B2 JP 3889100B2 JP 34120796 A JP34120796 A JP 34120796A JP 34120796 A JP34120796 A JP 34120796A JP 3889100 B2 JP3889100 B2 JP 3889100B2
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、磁気特性の優れた無方向性電磁鋼板の製造方法に関し、特に鋼板中における硫化物系介在物の析出形態を制御することにより、鉄損特性の有利な改善を図ろうとするものである。
【0002】
【従来の技術】
無方向性電磁鋼板の鉄損特性は、製品板の結晶粒径に大きく依存し、低鉄損の製品を得るためには、基本的に結晶粒径を粗大化させる必要があることが知られている。粒成長性は、鋼中に分散する第2相、すなわち析出物や介在物の影響が大きく、その成分やサイズ分布、分散状態に大きく左右される。これらの析出物は、結晶粒界の移動をピン止めする効果があるため、粒成長性向上のためには、かような析出物を極力低減させる必要があることはいうまでもない。
【0003】
しかしながら、現在の工業的技術レベルにおいて、鋼材中の析出物、介在物を粒成長性に影響しない程度まで低減させた高清浄鋼を溶製することは極めて難しく、また汎用の実用材料の製造に際してはコストの問題も無視できないため、かような高清浄鋼の溶製は実質的に不可能であった。
【0004】
そのため、鋼中にはある程度の析出物、介在物の残留が避けられず、それに起因して磁気特性の劣化を余儀なくされていた。
特にMnS、AlN等の比較的固溶温度の低い析出物が形成された場合には、スラブ加熱や熱延板焼鈍、冷延後の再結晶焼鈍等の過程で一旦固溶した後、冷却の段階で微細に再析出し、かかる微細析出物は粒成長抑制効果が非常に大きいため、磁気特性を著しく劣化させていた。
【0005】
この固溶・再析出を避ける手段としては、スラブ加熱温度や熱延板焼鈍温度、冷延後の再結晶焼鈍温度を低温化する方法がある。
しかしながら、スラブ加熱温度の低温化は、析出物の固溶を防止する効果はあるものの、それに伴って熱延温度も低下するため、圧延が困難になるだけでなく、熱延板に未再結晶部が残ったり、再結晶しても粒径が小さいので、その後の冷延、再結晶による製品板の集合組織が劣化し、無方向性電磁鋼板の製品特性にとって好ましくない。
同様に、熱延板焼鈍温度を低くする方法においても、再結晶や粒成長が不十分となり、製品板の集合組織の劣化が避けられない。
さらに、再結晶焼鈍温度を低くした場合には、低温のためにかえって粒成長速度が遅くなり、限られた焼鈍時間では十分な粒径が得られない。
このように、析出物を固溶・再析出させることなしに磁気特性の良好な製品を得るには限界があり、実質的に特段の効果は期待できない。
【0006】
また、析出物等の悪弊を回避する手段として、析出物の形態を制御する方法があるが、かような析出物の形態制御方法としては、鋼中Sを REMサルファイドやSbサルファイド等の固溶温度の高い析出物として固定する方法(特開昭51-62115号公報)や、REM と同様にZrを添加する方法(特公平1-52448号公報、特開昭51-60624号公報)等があるが、これらの方法で十分な効果を得るためには、高価な副原料を多量に添加する必要があり、製品のコストアップが大きな問題となる。そればかりか、 REMサルファイドは(REM, Mn, Al, Si)(O, S)のように非常に複雑な析出形態をとる上に、溶融中で浮上しにくく、鋼中に多量に残留する欠点もある。従って、 REMサルファイド (主にCeサルファイド)単体での固溶温度は高くても、実際は複合析出物であるため、部分的に固溶・再析出し、粒成長性を劣化させていた。
【0007】
同様に、鋼中Sを固定する方法としては、Caを利用する方法がある(特公昭58-17248号公報、特開昭59-74213号公報および特公昭58-17249号公報等)。
しかしながら、特公昭58-17248号公報および特開昭59-74213号公報のような脱硫フラックス(通常 CaO, CaF2を含む)を用いた場合には、硫化物系介在物成分はAl(O, N)+(Ca, Mn)(S, O)のような非常に複雑なものとなり、熱延前のスラブ加熱や熱延板焼鈍等の加熱工程で介在物を構成しているMnSが固溶・再析出により微細化するために、やはり粒成長性が阻害される。
【0008】
このため、硫化物を十分に無害化したとは言い難く、特に1回冷延法で一層の低鉄損化を指向した場合には問題を残していた。
というのは、冷延2回法の場合には、仕上げ焼鈍前の冷延圧下率が低いため、再結晶の駆動力が弱く、再結晶核の発生数も少ないので、比較的粗粒になり易く低鉄損化は容易であるが、1回冷延法の場合は、冷延圧下率が高いため、再結晶駆動力が高く、また核生成数も多いので、細粒となり易いことから、2回冷延法に比べると、低鉄損化のためには粒成長性の向上がより重要だからである。
【0009】
また、特公昭58-17249号公報に見られるように、金属Caを使用した場合には、Caが非常に活性な金属であるため、保管および取扱いが困難なだけでなく、溶鋼温度での蒸気圧が高いため、添加直後に気化して有効な脱硫効果が得難く、大量の添加を必要とし、しかも添加時の発煙が激しく、操業上の作業環境を著しく悪化させるという問題もあった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
上述したとおり、無方向性電磁鋼板において良好な磁気特性を得るためには、十分な粒成長性を確保する必要があり、それに影響する析出物を制御することがとりわけ重要なのであるが、現在までのところ、工業的レベルで有効かつ安価な制御方法は開発されていない。
この発明は、上記の問題を有利に解決するもので、工程およびコストの面で優れる1回冷延法を利用する場合において、従来に比べより効果的に硫化物系介在物を制御することによって、粒成長性を向上ならしめ、もって鉄損特性の一層の向上を達成した無方向性電磁鋼板の有利な製造方法提案することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
さて、発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、鋼中SをCaSiによって低減することが、所期した目的の達成に関し、極めて有効であることの知見を得た。
この発明は、上記の知見に立脚するものである。
【0014】
すなわち、この発明は、
C:0.01wt%以下、
Si:3.5 wt%以下、
Mn:1.5 wt%以下、
Al:2.5 wt%以下、
S:0.01wt%以下、
P:0.1 wt%以下
を含有し、残部は実質的にFeの組成になる無方向性電磁鋼板を、1回冷延法によって製造するに当たり、
転炉、真空脱ガス処理にて成分調整し、鋼中酸素量を0.01wt%以下とした溶鋼に対し、鋳造完了までの間にCaSi合金を添加して、鋼中S濃度:0.01wt%以下まで脱硫することにより、形成される硫化物系介在物中に含まれる Mn の重量比率を 10 %以下とし、かつ該硫化物系介在物のうち直径: 0.5 μ m 以上のものの個数比率を 50 %以上とすることを特徴とする磁気特性の優れた無方向性電磁鋼板の製造方法である。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、この発明を完成するに至った経緯を実験結果に基づいて説明する。
実験1
C:0.003 wt%,Si:2.0 wt%,Mn:0.3 wt%, P:0.03wt%,Al:0.2 wt%を含有し、残部は実質的にFeの組成になる鋼を、転炉および真空脱ガスにより成分調整した。この時の鋼中O量は 0.004wt%であった。その後、
A:CaSi合金添加、
B:CaO,CaF2の混合物を主成分とする通常の脱硫フラックス添加
により、それぞれS:0.007 wt%まで脱硫した。引き続き連続鋳造により厚み:215 mm、幅:1100mmのスラブとした。
これらのスラブを、通常のガス加熱炉により1150℃に加熱した後、熱間圧延により厚み:2.6 mmの熱延板とした。その後、熱延板焼鈍を実施または省略して、1回の冷間圧延で厚み:0.5 mmの冷延板とした後、再結晶焼鈍を施して製品板とした。この時の熱延板焼鈍および再結晶焼鈍は、表1に示す条件下で行った。
かくして得られた製品板の磁気特性について調べた結果を表1に併記する。
【0016】
【表1】
Figure 0003889100
【0017】
同表に示したとおり、いずれの条件下においても、AのCaSi添加の方が鉄損特性に優れている。
【0018】
実験2
C:0.003 wt%,Si:3.2 wt%,Mn:0.3 wt%,P:0.01wt%,Al:0.6 wt%を含有し、残部は実質的にFeの組成になる鋼を、転炉および真空脱ガスにより成分調整した。この時の鋼中O量は 0.007wt%であった。その後、
A:CaSi合金添加、
B:CaO,CaF2の混合物を主成分とする通常の脱硫フラックス添加、
C:CaSi合金と通常の脱硫フラックスの併用
により、それぞれS:0.0040wt%まで脱硫した。引き続き連続鋳造により厚み:215 mm、幅:1100mmのスラブとした。
ついで、通常のガス加熱炉により、表2に示す種々の温度に加熱した後、熱間圧延により厚み:2.8 mmの熱延板とした。その後、1000℃, 60秒の熱延板焼鈍後、1回の冷間圧延で厚み:0.5 mmの冷延板とした後、 850℃, 30秒の再結晶焼鈍を施して製品板とした。
かくして得られた製品板の磁気特性について調べた結果を表2に併記する。
【0019】
【表2】
Figure 0003889100
【0020】
同表によれば、いずれのスラブ加熱条件下においても、CaSi添加したAが最も特性が良く、ついでCaSiと通常の脱硫フラックスを併せて添加したC、通常の脱硫フラックスのみ添加したBの順に鉄損特性が悪くなっている。
また、スラブ加熱温度が高い場合の方が鉄損特性の差が大きくなっている。
【0021】
実験2で用いたスラブから採取したサンプルについて析出物分析を行った。
その結果、A,B,Cいずれの場合も析出物はAl(O,N)と複合形態をとっているものが頻繁に観察されたが、析出物中に含まれるAlの割合はAで多く、Bでは少ない傾向にあった。
また、サルファイドについては、Aはほとんどがカルシウム−サルファイドまたはカルシウム−オキシサルファイドで、析出物中にMnは含まれていなかったのに対し、Bでは(Mn, Fe)Sのような複合した析出物が主で、Caはほとんど含まれなかった。またCは、(Ca, Mn, Fe)Sであり、AとBの中間的な析出物を形成していた。なお、この析出物中のMn比率は13%であった。
【0022】
このことから、CaSi脱硫により形成されたカルシウム−(オキシ)サルファイドは、MnSの形成を抑制するだけでなく、溶鋼中のAl2O3 等の介在物を有効に凝集、粗大化させ、さらに低温ではAlNの優先析出サイトとして作用したものと考えられる。そして、このような析出物の粗大化、すなわち数密度の低減により粒成長性が改善されたものと考えられる。
【0023】
実験3
C:0.005 wt%,Si:2.85wt%,Mn:0.2 wt%,P:0.01wt%,Al:0.3 wt%を含有し、残部は実質的にFeの組成になる鋼を、転炉および真空脱ガスにより成分調整した。この時の鋼中O量を表3に示す。
ついで、CaSi合金添加により、それぞれS:0.0060wt%まで脱硫した。引き続き連続鋳造により厚み:215 mm、幅:1100mmのスラブとした。
これらのスラブを、通常のガス加熱炉で1100℃に加熱した後、熱間圧延により厚み:2.2 mmの熱延板とした。
その後、1000℃, 60秒の熱延板焼鈍後、1回の冷間圧延により厚み:0.5 mmの冷延板とした後、 820℃, 30秒の再結晶焼鈍を施して製品板とした。
かくして得られた製品板の磁気特性およびCa系硫化物中におけるMnの重量比率について調べた結果を、表3に併記する。
【0024】
【表3】
Figure 0003889100
【0025】
同表に示された結果から、真空脱ガス処理後の鋼中O量が0.01%以下で、Ca系硫化物中におけるMnの重量比率が10%以下の場合に、良好な磁気特性が得られている。
【0026】
以上の結果より、鋼中に分散する硫化物系介在物が、単独もしくはAl酸化物、Al窒化物と複合したCa硫化物あるいはCa酸硫化物であり、それらの硫化物系介在物に含まれるMnが重量比率で10%以下である場合に低鉄損の無方向性電磁鋼板が得られることが判る。
また、無方向性電磁鋼板を製造するに際しては、転炉、真空脱ガス処理にて成分調整し、鋼中酸素量をO≦0.01wt%とした溶鋼に、連続鋳造までの過程でCaSi合金を添加してS≦0.01wt%まで脱硫することにより、上記のような低鉄損の無方向性電磁鋼板の製造が可能であることが判る。
【0027】
実験4
C:0.003 wt%,Si:1.0 wt%,Mn:0.2 wt%,P:0.02wt%,Al:0.3 wt%を含有し、残部は実質的にFeの組成になる鋼を、転炉および真空脱ガスにより成分調整した。この時の鋼中O量は表4に示すとおりであった。その後、
A:CaSi合金添加、
B:CaO,CaF2の混合物を主成分とする通常の脱硫フラックス添加
により、それぞれS:0.0080wt%まで脱硫した。引き続き連続鋳造により厚み:215 mm、幅:1100mmのスラブとした。
ついで、通常のガス加熱炉により1150℃に加熱した後、熱間圧延により厚み:2.8 mmの熱延板とした。その後、1000℃, 60秒の熱延板焼鈍後、1回の冷間圧延で厚み:0.5 mmの冷延板とした後、 850℃, 60秒の再結晶焼鈍を施して製品板とした。
かくして得られた製品板の磁気特性について調べた結果を表4に併記する。
【0028】
【表4】
Figure 0003889100
【0029】
同表の結果によれば、同程度のS量レベルで比較すると、CaSi合金添加したAの特性の方が良く、通常の脱硫フラックス添加したBの方が鉄損特性が悪くなっている。
【0030】
実験2の製品版から採取したサンプルについて析出物調査を行った。
その結果、いずれの場合も析出物はAl(O,N)と複合形態をとっているものが頻繁に観察された。サルファイドについては、Aはほとんどがカルシウム−サルファイドまたはカルシウム−オキシサルファイドであった。これに対してBでは(Mn, Fe)Sのような複合した析出物が主で、Caはほとんど含まれていなかった。
また、SEM写真の画像解析処理によって析出物の粒径を調査した結果を、同じく表4に示したが、それによれば、CaSi合金を添加して脱硫する場合には真空脱ガス処理後の鋼中O量が少ないほど粗大な析出物が多く、特に磁気特性の良好な製品では 0.5μm 以上の析出物の個数比率が50%以上であることが判る。
この点、通常の脱硫フラックスを添加した場合には、真空脱ガス処理後の鋼中O量の如何にかかわらず、比較的微細な析出物の比率が高いことが判明した。
この析出物形態の違いのため磁気特性に差が生じたものと考えられる。
【0031】
実験5
C:0.005 wt%,Si:0.25wt%,Mn:0.25wt%,P:0.07wt%,Al:0.25wt%を含有し、残部は実質的にFeの組成になる鋼を、転炉および真空脱ガスにより成分調整した。この時の鋼中O量は 0.015wt%以下であった。
ついで、CaSi合金添加により、それぞれS:0.015 wt%以下まで脱硫した。引き続き連続鋳造により厚み:215 mm、幅:1100mmのスラブとした。
これらのスラブを、通常のガス加熱炉で1100℃に加熱した後、熱間圧延により厚み:2.4 mmの熱延板とした。
その後、熱延板焼鈍を施すことなく、1回の冷間圧延により厚み:0.5 mmの冷延板とした後、 820℃, 30秒の再結晶焼鈍を施して製品板とした。
これらの製品板での析出物調査結果と、得られた製品板にさらに 750℃, 2時間の歪取焼鈍を施した後の磁気特性についての調査結果を、図1に併せて示す。
【0032】
同図から明らかなように、真空脱ガス処理後の鋼中O量が0.01wt%以下で、かつCaSi合金の添加によりS≦0.01wt%まで脱硫した場合に、とりわけ良好な鉄損特性が得られる判る。
なお、一部の実験材については、Sが0.01wt%以上またはOが0.01wt%以上であっても良好な特性のものが得られたが、良好な特性の得られた製品では粗大な析出物が多く 0.5μm 以上の析出物の個数比率が50%以上である点で共通していた。
【0033】
以上の結果より、鋼中に分散する硫化物系介在物が、単独もしくはAl酸化物、Al窒化物と複合したCa硫化物あるいはCa酸硫化物であり、しかもかかる硫化物系介在物のうち直径が 0.5μm 以上のものの個数比率が50%以上である場合に、低鉄損の無方向性電磁鋼板が得られることが判る。
また、無方向性電磁鋼板を製造するに際しては、転炉、真空脱ガス処理にて成分調整し、鋼中酸素量をO≦0.01wt%とした溶鋼に、連続鋳造までの過程でCaSi合金を添加してS≦0.01wt%まで脱硫することにより、上記のような低鉄損の無方向性電磁鋼板の製造が可能であることが判る。
【0034】
実験6
C:0.003 wt%,Si:0.18wt%,Mn:0.30wt%,P:0.07wt%,Al:0.35wt%を含有し、残部は実質的にFeの組成になる鋼を、転炉および真空脱ガスにより成分調整した。この時の鋼中O量は 0.008wt%であった。その後、
A:CaSi合金添加、
C:CaSi合金と通常の脱硫フラックスの複合添加
により、それぞれS:0.004 wt%まで脱硫した。引き続き連続鋳造により厚み:225 mm、幅:1120mmのスラブとした。
ついで、通常のガス加熱炉により1100℃に加熱した後、熱間圧延により厚み:2.6 mmの熱延板とした。その後、1000℃, 30秒の熱延板焼鈍後、表5に示すように No.45, 46については1回冷延法で、また No.47, 48については2回冷延法でそれぞれ、厚み:0.35mmの冷延板としたのち、同じく表5に示す条件下で仕上げ焼鈍を施して製品板とした。
かくして得られた製品板の磁気特性について調べた結果を表5に併記する。
【0035】
【表5】
Figure 0003889100
【0036】
同表から明らかなように、CaSi脱硫を行い1回冷延法により製造した場合に最も優れた磁気特性が得られ、特に歪取り焼鈍後の特性が良好であった。
【0037】
このような析出物制御によって良好な磁気特性が得られる理由については必ずしも明確に解明されたわけではないが、実験1、実験2の結果よりCaSi添加材の方が鉄損特性が良好であり、特にスラブ加熱温度および熱延板焼鈍温度が高い場合の鉄損特性の劣化を防止するのに有効であることから、以下のように考えられる。
すなわち、無方向性電磁鋼板にとって最も重要な特性である鉄損は、製品の結晶粒径に大きく依存し、その粒径は析出物の分散状態に影響される。通常の脱硫フラックス添加したBで形成された固溶温度の低い(Mn, Fe)Sは、スラブ加熱、熱延板焼鈍、再結晶焼鈍で固溶・再析出により微細分散するため粒成長を阻害するのに対して、CaSi脱硫をしたAで形成されたCaSは、鋼中で安定で溶解度が極めて低いため、固溶、再析出せず、従って微細化しないため、粒成長性が良好だったものと考えられる。一方Cでは、複合析出物の中でも(Mn, Fe)Sの部分が固溶・再析出したため、Aに比べて鉄損特性が劣化したものと考えられる。
また、CaSi合金を用いて脱硫しても、鋼中O量が高い場合および残存S量が多い場合には、微細な析出物の比率が高くなり、粒成長抑制力が強くなるばかりでなく、硫化物系介在物中のO比率が高まり、S量に対して相対的にCaが不足するため、Mn硫化物が増加し、その結果磁気特性が改善されなかったものと考えられる。
【0038】
さらに、2回冷延法では中間焼鈍の分だけ焼鈍回数が多くなるため、複合介在物中のAlN等の固溶温度の低い成分の分離が進行していると考えられる。介在物の複合化による粒成長性向上効果は、このような低固溶温度成分の分解・再析出により相殺されてしまう。従って、複合析出物中のAl含有率の高いCaSi脱硫材の方がこの影響を受け易いため、2回冷延法では、CaSi合金と通常の脱硫フラックスを併用したCの場合よりも特性が悪くなったものと考えられる。
この点、1回冷延法では、少なくとも中間焼鈍がないため、AlN等の分解は少なく、従って1回冷延法では、CaSi合金と通常の脱硫フラックスを併用したCよりも優れた磁気特性が得られたものと考えられる。
従って、CaSiによる介在物制御は1回冷延法に適したものであると言える。
【0039】
次に、この発明において成分組成を前記の範囲に限定した理由について説明する。
C:0.01wt%以下
Cは、γ域を拡大し、α−γ変態点を低下させる。焼鈍中にγ相がα粒界にフィルム状に生成しα粒の成長を抑制するため、Cは基本的に少なくする必要がある。また、SiやAl等のα相安定化元素を多量に含有し、全温度域でγ相が生成しない場合でも鉄損特性の時効劣化を引き起こすので、C含有量は0.01wt%以下とする必要がある。なお、下限は特に限定されないが、コスト等の面から0.0005wt%以上とすることが望ましい。
【0040】
Si:3.5 wt%以下
Siは、鋼の比抵抗を高め鉄損を低下させる有用元素であり、目標とする磁気特性に応じて含有量を変化させる。しかしながら、同時に硬度も上昇させ、冷間圧延性を悪化させるので、上限を 3.5wt%とした。なお、下限は特に定めるものではないが、比抵抗を高める観点から0.05wt%以上含有させることが望ましい。
【0041】
Al:2.5 wt%以下
Alは、Siと同様に、鋼の比抵抗を高め鉄損を低下させる元素であり、目標とする磁気特性に応じて含有量を変化させる。しかしながら、その含有量が多い場合には連続鋳造時にモールドとの潤滑性が低下し、鋳造が困難となるので、上限を2.5 wt%に定めた。
【0042】
Mn:1.5 wt%
Mnも、SiやAlほどではないが鋼の比抵抗を高め、鉄損を低下させる効果があり、また熱間圧延性を改善する効果もある。しかしながら、多量に含有すると冷間圧延性が劣化するので、上限を 1.5wt%に定めた。
【0043】
S:0.01wt%以下
Sは、析出物、介在物を形成し粒成長性を阻害するので、極力低減すべき元素である。この発明は、CaSiを脱硫に用い、Sの析出形態を制御するによってSを無害化するものであるが、鋼中における残存量が多い場合には、介在物の粒子数が増え、またSを固定するためのCaが相対的に不足すると介在物中のMnSの割合が増え、やはり粒成長性に悪影響を及ぼすので、Sは0.01wt%以下まで低減するものとした。
【0044】
P:0.1 wt%以下
Pも、SiやAlほどではないが鋼の比抵抗を高め、鉄損を低下させる効果があるだけでなく、粒界偏析により冷延再結晶後の集合組織を改善して磁束密度を向上させる効果がある。しかしながら、過度に添加すると粒界偏析量が多くなってかえって粒成長性を阻害し鉄損を劣化させるので、0.1 wt%以下で含有させるものとした。
【0045】
以上、必須成分について説明したが、その他にも各種の公知元素を添加することが可能であり、例えば磁気特性改善成分としてB,Ni, Cu, Sb, Sn, BiおよびGe等を添加することができる。
【0046】
次に、製造方法について説明する。
この発明では、前述したとおり、鋼の溶製段階において、鋼中O量を0.01wt%以下とした上で、CaSi合金の添加により、鋼中S濃度を0.01wt%以下まで脱硫することが重要である。
というのは、鋼中O量および鋼中S量が0.01wt%を超えると、Ca硫化物系中のMnの比率が10%超となったり、硫化物系介在物のうち直径:0.5 μm 以上のものの個数比率が50%未満となって、満足いくほどの改善効果が得られないからである。
なお、鋼中O量やS量が0.01wt%を超えていても、直径:0.5 μm 以上の介在物の個数比率が50%以上であれば、良好な磁気特性を得ることができる。
【0047】
溶製後のスラブ製造条件や、熱間圧延条件、冷間圧延条件および仕上げ焼鈍条件については、特に限定されることはなく、常法に従って行えば良い。
【0048】
【実施例】
供試鋼としては、表6に示す成分組成になる鋼種を用いた。各鋼種は、転炉および真空脱ガスにより成分調整し、鋼中O量を0.007 wt%以下とした上で、表7に示す方法でS≦0.01wt%まで脱硫して得たものである。
上記の各溶鋼を、連続鋳造により、厚み:225 mm、幅:1100〜1250mmのスラブとした。ついで、表7に示す条件下で、スラブ加熱を行った後、熱間圧延し、その後、熱延板焼鈍を施したのち、または施さずに、1回の冷間圧延で厚み:0.5 mmの冷延板としたのち、再結晶焼鈍を施して製品板とした。
かくして得られた製品板の磁気特性について調べた結果を表7に併記する。
【0049】
【表6】
Figure 0003889100
【0050】
【表7】
Figure 0003889100
【0051】
表7から明らかなように、この発明に従いCaSi脱硫したものは、通常の脱硫フラックスを用いて脱硫した比較例に比べて、磁気特性とくに鉄損特性が改善されている。
【0052】
【発明の効果】
かくして、この発明に従い、脱硫剤としてCaSi合金を有効に活用することによって、従来に比べより効果的に硫化物系介在物の形態制御を行うことができ、ひいては粒成長性を向上ならしめ、もって鉄損特性の一層の向上を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】真空脱ガス処理後の鋼中O量、脱硫処理後の鋼中S量および粗大析出物の個数比率が鉄損特性に及ぼす影響を示したグラフである。

Claims (1)

  1. C:0.01wt%以下、
    Si:3.5 wt%以下、
    Mn:1.5 wt%以下、
    Al:2.5 wt%以下、
    S:0.01wt%以下、
    P:0.1 wt%以下
    を含有し、残部は実質的にFeの組成になる無方向性電磁鋼板を、1回冷延法によって製造するに当たり、
    転炉、真空脱ガス処理にて成分調整し、鋼中酸素量を0.01wt%以下とした溶鋼に対し、鋳造完了までの間にCaSi合金を添加して、鋼中S濃度:0.01wt%以下まで脱硫することにより、形成される硫化物系介在物中に含まれる Mn の重量比率を 10 %以下とし、かつ該硫化物系介在物のうち直径: 0.5 μ m 以上のものの個数比率を 50 %以上とすることを特徴とする磁気特性の優れた無方向性電磁鋼板の製造方法。
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