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JP3869624B2 - 単焦点眼鏡レンズの設計方法、製造方法、及び製造システム - Google Patents

単焦点眼鏡レンズの設計方法、製造方法、及び製造システム Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、視力補正用非球面単焦点眼鏡レンズの設計方法、製造方法、及び製造システムに関する。
【0002】
【従来の技術】
眼鏡レンズとしては、外側、内側の一方に非球面を用いたレンズが多く用いられている。非球面を利用すると、両面が球面である場合と比較して、一定の屈折力を得るためのレンズのカーブを浅くし、最大厚を薄くすることが可能である。
【0003】
回転対称な単焦点眼鏡レンズを設計する際には、少なくともレンズ材料の種別と頂点屈折力とが仕様として与えられ、この仕様及び付加的な仕様を満たしつつ、収差ができるだけ少ない屈折面形状の組み合わせを計算により求める。屈折面形状は、眼鏡レンズを定義する複数のパラメータの中から可変値となるものを選択し、屈折面上で光軸からの距離が異なる複数の評価点における光学収差を評価関数として減衰最小自乗法などの最適化アルゴリズムを用いて計算される。
【0004】
パラメータとしては、素材の屈折率、レンズ外径、外面の曲率半径、内面の曲率半径、中心厚、非球面円錐係数、高次非球面係数等がある。パラメータのうちのいくつかを変数(可変値)とする。通常、パラメータのうち屈折率とレンズ外径は定数(固定値)とする。中心厚はマイナスレンズの場合には固定値とし、プラスレンズの場合には適当な縁厚を得る為に可変値とする。外面、内面の曲率半径は両方とも可変値とすることも可能であるが、通常はどちらか一方を固定値として他方を可変値とする。円錐係数と高次非球面係数とは相互の従属性が高いため、円錐係数を固定値とし、高次非球面係数を可変値とする。
【0005】
一方、評価関数としては、レンズ中心においては、頂点屈折力、レンズの各評価点においては、屈折力誤差、非点収差、歪曲収差などの光学性能と、レンズの肉厚、非球面量等の形状性能を利用することができる。屈折力誤差は、メリジオナル屈折力誤差、サジタル屈折力誤差、及びこれらを平均した平均屈折力誤差の少なくともいずれかを用いることができる。
【0006】
各評価点毎に評価関数の値と目標値との差の重み付き自乗を求め、その総和であるメリット関数が最小になる可変値の組み合わせを見つけだす。減衰最小自乗法では、系の非線形性や変数間の従属性を考慮し、変数が大きく変化しないような抑制を働かせながらメリット関数を最小にするような変数の組み合わせを見つけだす。いくつかの評価関数については等式制約条件を設けることもできる。
【0007】
なお、様々な物体距離で使われることを想定した単焦点眼鏡レンズは、物体距離無限遠から近方30cm ぐらいまでの性能のバランスをとる必要がある。そこで、従来の単焦点眼鏡レンズ設計においては、評価関数として、物体距離無限遠における収差と有限距離における収差とを併用し、これらを共に含むメリット関数が最小となるよう最適化していた。
【0008】
このような減衰最小自乗法を利用した従来の設計方法による設計例を2例説明する。図27〜図30は、従来例1のデータ及び性能を示す。従来例1の眼鏡レンズは、球面屈折力SPH-8.00、外面が球面で内面が非球面である。回転対称な非球面の形状は、光軸からの高さがhとなる非球面上の座標点の非球面の光軸上での接平面からの距離(サグ量)をX(h)、非球面の光軸上での曲率(1/r)をC、円錐係数をK、i次(偶数次)の非球面係数をAiとして、以下の式で表すものとする。
X(h)=Ch2/(1+√(1-(1+K)C2h2))+A4h4+A6h6+A8h8+A10h10+…
【0009】
図27に示すように、パラメータとしては屈折率N、レンズ外径DIA、外面の曲率半径R1、内面の曲率半径R2、中心厚CT、非球面円錐係数K、高次非球面係数A4、A6、A8、A10がある。このうち、最右の「可変/固定」欄に「V」が付された内面の曲率半径R2、高次非球面係数A4、A6、A8、A10が可変値(変数)、他は固定値(定数)である。なお、「値」欄は、可変値については最適化後の最終値を示している。
【0010】
評価関数は、図28に示されるとおり、光学収差としては、物体距離∞における各評価点での平均屈折力誤差DAP及び非点収差 AS と、有限距離 -300mm(物体距離はレンズに対して物体側に負)における平均屈折力誤差 DAP 及び非点収差ASとを含み、レンズ中心での頂点屈折力AP を等式制約条件として付加している。評価点は光軸からの距離2mmピッチで40mmまで20点あり、評価関数の数は、各評価点についての4つずつの光学収差と、頂点屈折力APとで計81個となる。これらの各評価関数について、光学収差については目標値を0、頂点屈折力APについては目標値を仕様で定められた-8.00とし、図28の「重み」欄に示すように、中心側の重みが大きく周辺に向かって重みが軽くなるような重み付けをして減衰最小自乗法による最適化を実行する。
【0011】
図29は、最適化された従来例1の眼鏡レンズの収差を視角β[degree] を縦軸に示すグラフである。図29の(A)はメリジオナル屈折力誤差DM、(B)はサジタル屈折力誤差DS、(C)は平均屈折力誤差DAP、(D)は非点収差ASを示し、各グラフの実線は物体視度0Dptr(物体距離∞)、破線は物体視度-2Dptr(物体距離-500mm)、点線は物体視度-4Dptr(物体距離-250mm)における性能を表している。
【0012】
また、図30は、最適化された従来例1の眼鏡レンズの収差を物体視度D0[Dptr]を縦軸に示すグラフである。(A)〜(D)の表す収差は図29と同様であり、各グラフの実線は視角20°、破線は視角30°、点線は視角40° における性能を表している。図29からは、諸性能が視角βの変化に対して単調には変化せずにうねること、図30からは、収差が最小となる物体距離が視角によって異なり、遠近バランスが視角βに応じて変化することがわかる。
【0013】
図31〜図35は、従来例2のデータ及び性能を示す。従来例2の眼鏡レンズは、球面屈折力SPH+6.00、外面が非球面で内面が球面である。図31に示すように、パラメータの種類は従来例1と同様である。このうち、「可変/固定」欄に「V」が付された内面の曲率半径R2、中心厚CT、高次非球面係数A4、A6、A8、A10が可変値(変数)、他は固定値(定数)である。
【0014】
評価関数は、図32に示されるとおり、光学収差としては従来例1と同様の物体距離∞、-300mmにおける各評価点での平均屈折力誤差DAP及び非点収差ASを含み、レンズ中心での頂点屈折力APと縁厚T(35)とを等式制約条件として付け加えており、評価関数の数は計82個である。これらの評価関数に従来例1と同様の重み付けをして減衰最小自乗法による最適化を実行する。
【0015】
図33は、最適化された従来例2の眼鏡レンズの収差を視角β[degree]を縦軸に示すグラフ、図34は、これを物体視度D0[Dptr]を縦軸に示すグラフである。これらの収差図から、従来例2の眼鏡レンズにおいても、従来例1と同様、諸性能が視角βに対してうねり、遠近バランスが視角βに応じて変化することがわかる。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
このように、従来の設計方法では、非常に多くの評価関数を使用しているため計算コストがかかり、しかも、遠近のバランスを図ろうとしているにも拘わらず遠近バランスが視角βに応じて変化するという問題がある。
【0017】
また、評価関数となる光学収差をすべて同時に目標値として設定された「0」にすることは理論的に不可能であるため、しかも、重み付けを一定とすると視角βに対する収差のうねりが一層激しくなるため、最適化の過程においてオペレータ(設計者)が介在し、重み付けを変えながら意図する方向に収差を導く必要がある。このため、人的なコストがかかり、しかも、同一の仕様に対する最適化結果がオペレーターによって異なる可能性がある。
【0018】
さらに、従来の設計方法では、評価関数の数が多く、パラメータの操作によりメリット関数が極めて複雑に変化するため、最小自乗法や減衰最小自乗法ではしばしば問題となるローカルミニマムへのトラップが生じる可能性が高い。すなわち、真の最小値では無い極小値を最小値と判断して最適化が終了する可能性が高くなる。このようなトラップを避けるためにも、最適化の状況を監視するオペレータの介在が必要である。
【0019】
このようなオペレータの介在は、既製品として単焦点眼鏡レンズ製品の製作範囲を一通り設計しておくだけならば、それほど問題とならないが、個々の注文毎にカーブ指定・外径指定・薄型指定・バランス指定など様々な特注仕様に合わせて最適な光学性能のレンズを提供しようとする場合には、コスト面、同一仕様に対する同一結果の保証という面で大きな障害となる。
【0020】
この発明は、上述した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、オペレータ(設計者)の介在を必要とせず、短時間で安定して最適解へ到達でき、かつ、視角に応じた遠近バランスの変化を防ぐことができる単焦点眼鏡レンズの設計方法、及び、この設計方法を利用した眼鏡レンズの製造方法、製造システムを提供することを目的とする。
【0021】
【課題を解決するための手段】
この発明にかかる単焦点眼鏡レンズの設計方法は、上記の目的を達成させるため、レンズ系の複数のパラメータから可変値となるものを選択するステップと、レンズ系の性能を評価関数として可変値とされたパラメータを最適化するステップとを含み、最適化するステップでは、評価対象となる光学収差を、視角を介して相互に従属関係があるメリジオナル屈折力誤差またはメリジオナル屈折力誤差とサジタル屈折力誤差の重み付き和で定義される収差のいずれか一種類に限定し、レンズ上の各評価点をそれぞれ単一種類の評価関数で評価し、全ての評価関数の最終値を目標値である0に設定することによりパラメータを最適化することを特徴とする。
【0022】
上記の方法によれば、評価関数の数を少なくして計算コストを抑え、かつ、全ての評価関数の最終値を目標値である「0」にすることができる。したがって、重み付けの調整やローカルミニマムへのトラップを監視するためにオペレータを介在させる必要がなく、人的コストを抑え、結果の同一性を保証することができる。また、評価対象となる光学収差を一種類に限定することにより、かえって、視角に応じた遠近バランスの変化を防ぐことができる。
【0023】
従来例で示した図30、図34からわかるように、メリジオナル屈折力誤差DM、サジタル屈折力誤差DS、平均屈折力誤差DAP、非点収差ASは物体視度(物体距離の逆数)に対して直線的に変化する。また、特定の視角に着目すると、以下のような関係が成立する。A,B,Cは係数である。
DM≒A・D0+B
DS≒C(一定)
DAP=(DM+DS)/2≒A/2・D0+(B+C)/2
AS=DM−DS≒A・D0+(B−C)
【0024】
メリジオナル屈折力誤差DMを示す直線の勾配Aは、レンズのベースカーブに主に依存し、非球面の程度を多少変えても変化しない。またサジタル屈折力誤差DSは、物体距離よってはほとんど変わらず、ほぼ一定である。したがって、上式に示すような相互の従属関係がある光学収差DM,DS,DAP,ASを評価関数として混在させても効率的な最適化は望めない。むしろ、メリジオナル屈折力誤差DM、0.5×DM+0.5×DSにより求められる平均屈折力誤差DAP、あるいは、DM+(-1)×DSにより求められる非点収差AS のいずれか一種類に評価関数を絞る方が、コスト、性能の両面で良い結果が得られる。
【0025】
また、メリジオナル屈折力誤差、平均屈折力誤差、非点収差のいずれかを評価関数に選んで最適化する場合、物体距離を適当に(実在しないレンズの眼側の距離も含めて)選べば、評価関数の値が全て「0」となる解が存在する。そこで、適当な最適化物体距離を設定し、評価関数の目標値を「0」にすれば、安定して最適解に到達でき、また最適化の収束判定も容易となる。評価関数は、特定の単一の物体距離における収差の値を与えてもよいし、特定の複数の物体距離における収差の演算結果を与えてもよい。後者の場合、評価関数は、特定の2つの物体距離における非点収差の平均値を与えることができる。二つの物体距離としては無限遠と最近距離(例えば -300mm)を選べば良い。
【0026】
最適化のステップでは、最適化アルゴリズムとして最小自乗法または減衰最小自乗法を用いることができ、これに等式制約条件を含ませることもできる。等式制約条件には、最小肉厚条件、及びレンズ中心における頂点屈折力の少なくとも一方を含ませることができる。なお、レンズ中心における頂点屈折力の仕様を満たすためには、等式制約条件の付加に代え、ベンディングの手法を用いてもよい。
【0027】
一方、この発明にかかる単焦点眼鏡レンズの製造方法は、レンズ系の複数のパラメータから可変値となるものを選択するステップと、発注データに基づき、レンズ系の性能を評価関数として可変値とされたパラメータを最適化するステップと、最適化されたレンズ系のパラメータから加工データを作成するステップと、加工データに基づいて屈折面を加工するステップとを含み、最適化のステップでは、上記の方法でパラメータを最適化することを特徴とする。
【0028】
さらに、この発明にかかる単焦点眼鏡レンズの製造システムは、眼鏡レンズの仕様を決める発注データを入力する入力手段と、入力された発注データに基づいて最適レンズ形状を計算する計算手段と、計算された最適レンズ形状に基づいてレンズを加工する加工手段とを含み、計算手段は、上記の方法でパラメータを最適化することを特徴とする。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下、この発明にかかる単焦点眼鏡レンズの設計方法、製造方法、製造システムの実施形態を説明する。まず、図1及び図2に基づいて概要を説明した後、この設計方法による具体的な設計例を示す。
【0030】
図1は、実施形態の単焦点眼鏡レンズの製造方法を示すフローチャート、図2は、この製造方法が適用される製造システムのブロック図である。最初に製造システムについて説明する。
【0031】
実施形態の製造システムは、図2に示すように、眼鏡店10に配置された発注端末11と、広域ネットワーク20、そしてレンズメーカー30内に配置されたホストコンピュータ31、データサーバー33、加工計算用コンピュータ34、加工装置35,36,…等により構成されている。
【0032】
発注端末11は、広域ネットワーク20に接続され、レンズメーカー30のホストコンピュータ31に接続可能である。なお、この例では眼鏡店10を1店舗のみ示しているが、実際にはレンズメーカー30のホストコンピュータ31に対しては多数の眼鏡店の発注端末が接続可能である。
【0033】
ホストコンピュータ31は、メーカー内のLAN32に接続されており、このLAN32には工場内に配置されたデータサーバー33、加工計算用コンピュータ34がそれぞれ接続されている。また、加工計算用コンピュータ34には、超精密CNC切削機や倣い研磨機等の加工装置35,36,…が接続され、これらの加工装置35,36,…は加工計算用コンピュータ34が作成したNCデータに基づいて眼鏡レンズを加工する。
【0034】
次に、上記の製造システムを用いた製造方法について図1を参照して説明する。
ステップS.1では、眼鏡店10に設置された発注端末11に、装用者である顧客に応じた発注データが入力される。入力するデータとしては、レンズ種別、左右レンズの頂点屈折力(SPH,CYL,AXIS)、瞳孔間距離、眼鏡フレーム形状、特注仕様、外径指定、ベースカーブ指定、プリズム加工、玉型加工、薄型加工、バランス加工等のデータ、そして、性能に関する希望として光学性能を重視するか薄型軽量を重視するかの選択、遠/中/近のいずれの物体距離での性能を重視するか全域のバランスを重視するかの選択等がある。これら全てのデータを入力する必要は無いが、レンズ種別と頂点屈折力は不可欠である。レンズ種別により材料の屈折率が決まる。
【0035】
ステップS.2では、発注端末11から入力したデータを広域ネットワーク20を経由してレンズメーカー30へ送り出す。ステップS.3の受注処理では、レンズメーカー30側に設置されたホストコンピュータ31において、受注した眼鏡レンズの納期・料金等を計算し、LAN32を経由して、加工工場に設置されたデータサーバー33に発注データとホストコンピュータ31で付加された情報とを送る。
【0036】
ステップS.4では、LAN32でデータサーバー33と接続された加工計算用コンピュータ34にて受注内容に応じて適当な半完成レンズを選択する。この例では、工場に外面が予め加工された半完成レンズがストックされており、この中から選択し、内面を発注データに応じて加工する。ステップS.5では、選択された半完成品の、完成された外面側の形状データを設定する。
【0037】
ステップS.6では、パラメータの固定/可変を設定する。素材屈折率N および外径DIAは固定値である。ここでは、例えば、内面を非球面とし、外面の曲率半径R1、非球面円錐係数Kは固定値であり、内面の曲率半径R2、及び非球面係数A4,A6,A8,A10,A12を可変値とする。中心厚CTはマイナスレンズの場合は固定、プラスレンズの場合は可変とする。
【0038】
ステップS.7では、最適化の際の評価対象となる光学収差を一種類選択する。選択可能な収差には、メリジオナル屈折力誤差DM、平均屈折力誤差DAP、非点収差ASがある。ここでは、例えば、平均屈折力誤差DAPを選択する。ステップS.8では、受注内容に応じて、最適化物体距離を設定する。例えば、遠用性能を重視する場合には、物体距離を1000mm に設定する。
【0039】
ステップS.9では、最適化の際の等式制約条件として頂点屈折力APを設定する。プラスレンズの場合には、縁厚条件も等式制約条件として付加する。ステップS.10では、レンズ上の各評価点をそれぞれ平均屈折力誤差DAPで評価し、評価関数の目標値を0に設定して最適化プログラムを実行し、最適な可変パラメータの組み合わせを求める。ステップS.4からS.10までの処理が、眼鏡レンズの設計方法に該当する。
【0040】
ステップS.11では、最適化プログラムにより求められた内面の形状データに基づいて数値制御用のNCデータを作成する。NCデータを作成するコンピュータは、最適形状計算に用いられる加工計算用コンピュータ34でも良いし、加工計算用コンピュータ34から一旦データサーバ33に最適形状データを戻し、NCデータ作成専用コンピュータに再び引き出してNCデータを作成しても良い。
【0041】
ステップS.12では、NCデータに基づいてコンピュータ制御された超精密CNC切削機により半完成レンズの内面側を切削加工する。ステップS.13では、切削された内面を倣い研磨により鏡面に研磨する。続いて、ステップS.14では、受注内容に応じて、染色や反射防止コートなどの表面処理を行う。最後に、ステップS.15で頂点屈折力、外観等を検査し、合格した完成レンズをステップS.16で発注元に送り出す。
次に、上記の方法により設計された非球面単焦点眼鏡レンズの具体的な実施例を6例説明する。
【0042】
【実施例1】
図3〜図6は、実施例1のデータ及び性能を示す。実施例1の眼鏡レンズは、球面屈折力SPH-8.00、外面が球面で内面が非球面である。図3に示すように、パラメータとしては屈折率N、レンズ外径DIA、外面の曲率半径R1、内面の曲率半径R2、中心厚CT、非球面円錐係数K、高次非球面係数A4、A6、A8、A10がある。このうち、最右の「可変/固定」欄に「V」が付された内面の曲率半径R2、高次非球面係数A4、A6、A8、A10が可変値(変数)、他は固定値(定数)である。なお、「値」欄は、可変値については最適化後の最終値を示している。
【0043】
評価関数は、図4に示されるとおり、光学収差としては、物体距離∞における各評価点での平均屈折力誤差DAPのみを含み、レンズ中心での頂点屈折力AP を等式制約条件として付加している。評価点は光軸からの距離2mmピッチで40mmまで20点あり、評価関数の数は、各評価点についての平均屈折力誤差DAPと、頂点屈折力APとで計21個となる。平均屈折力誤差DAPの評価関数は目標値を0、頂点屈折力APについては目標値を仕様で定められた-8.00とし、図4の「重み」欄に示すように、中心側の重みが大きく周辺に向かって重みが軽くなるような重み付けをして減衰最小自乗法による最適化を実行する。同等の仕様を持つ従来例1と比較して評価関数の数が1/4程度となり、計算コストを極めて低く抑えることができる。
【0044】
図5は、最適化された実施例1の眼鏡レンズの収差を視角β[degree] を縦軸に示すグラフである。図5の(A)はメリジオナル屈折力誤差DM、(B)はサジタル屈折力誤差DS、(C)は平均屈折力誤差DAP、(D)は非点収差ASを示し、各グラフの実線は物体視度0Dptr(物体距離∞)、破線は物体視度-2Dptr(物体距離-500mm)、点線は物体視度-4Dptr(物体距離-250mm)における性能を表している。
【0045】
また、図6は、最適化された実施例1の眼鏡レンズの収差を物体視度D0[Dptr]を縦軸に示すグラフである。(A)〜(D)の表す収差は図5と同様であり、各グラフの実線は視角20°、破線は視角30°、点線は視角40° における性能を表している。図5からは、物体距離無限遠に対する平均屈折力誤差DAP が視角βに依らず完全に補正されていること、諸性能が視角βの変化に対してうねらずに単調に変化することがわかる。また、図6からは、視角βに依らず物体視度に対して非点収差ASの遠近バランスがとれていることが分かる。
【0046】
【実施例2】
図7〜図10は、実施例2のデータ及び性能を示す。実施例2の眼鏡レンズは、球面屈折力SPH+6.00、外面が非球面で内面が球面である。図7に示すように、内面の曲率半径R2、中心厚CT、高次非球面係数A4、A6、A8、A10が可変値(変数)、他は固定値(定数)である。
【0047】
評価関数は、図8に示されるとおり、光学収差としては、物体距離∞における各評価点での平均屈折力誤差DAPのみを含み、レンズ中心での頂点屈折力APと光軸からの高さ35mmでの縁厚Tとを等式制約条件として付加している。評価関数の数は、各評価点についての平均屈折力誤差DAPと、頂点屈折力AP、縁厚Tとで計22個となる。平均屈折力誤差DAPの評価関数は目標値を0、頂点屈折力APについては目標値を6.00、縁厚Tについては目標値を1.00とし、図8の「重み」欄に示すように、中心側の重みが大きく周辺に向かって重みが軽くなるような重み付けをして減衰最小自乗法による最適化を実行する。同等の仕様を持つ従来例2と比較して評価関数の数が1/4程度となり、計算コストを極めて低く抑えることができる。
【0048】
図9は、最適化された実施例2の眼鏡レンズの収差を視角β[degree] を縦軸に示すグラフ、図10は、これを物体視度D0[Dptr]を縦軸に示すグラフである。これらのグラフから、物体距離無限遠に対する平均屈折力誤差DAP が視角βに依らず完全に補正されていること、諸性能が視角βの変化に対してうねらずに単調に変化すること、視角βに依らず物体視度に対して非点収差ASの遠近バランスがとれていることが分かる。
【0049】
【実施例3】
図11〜図14は、実施例3のデータ及び性能を示す。実施例3の眼鏡レンズは、球面屈折力SPH-4.00、外面が球面で内面が非球面である。図11に示すように、内面の曲率半径R2、高次非球面係数A4、A6、A8、A10が可変値(変数)、他は固定値(定数)である。
【0050】
評価関数は、図12に示されるとおり、光学収差としては、物体距離1000mmにおける各評価点での平均屈折力誤差DAPのみを含み、レンズ中心での頂点屈折力APを等式制約条件として付加している。評価関数の数は、各評価点についての平均屈折力誤差DAPと、頂点屈折力APとで計21個となる。平均屈折力誤差DAPの評価関数は目標値を0、頂点屈折力APについては目標値を-4.00とし、図12の「重み」欄に示すように、中心側の重みが大きく周辺に向かって重みが軽くなるような重み付けをして減衰最小自乗法による最適化を実行する。
【0051】
図13は、最適化された実施例3の眼鏡レンズの収差を視角β[degree] を縦軸に示すグラフ、図14は、これを物体視度D0[Dptr]を縦軸に示すグラフである。これらのグラフから、諸性能が視角βの変化に対してうねらずに単調に変化すること、視角βに依らず物体視度に対して非点収差ASの遠近バランスがとれていることが分かる。非点収差のバランス点が物体視度-1.5Dptr 付近に移動し、全体として遠用性能重視の設計になっている。実施例1,2で無限遠に設定されていた最適化物体距離を適当な有限距離に設定するのみで、評価関数の目標値や重みを変えることなく、遠用重視設計や近用重視設計に変更することができる。
【0052】
【実施例4】
図15〜図18は、実施例4のデータ及び性能を示す。実施例4の眼鏡レンズは、球面屈折力SPH+4.00、外面が非球面で内面が球面である。図15に示すように、内面の曲率半径R2、中心厚CT、高次非球面係数A4、A6、A8、A10が可変値(変数)、他は固定値(定数)である。
【0053】
評価関数は、図16に示されるとおり、光学収差としては、物体距離-600mmにおける各評価点での非点収差ASのみを含み、レンズ中心での頂点屈折力APと光軸からの高さ35mmでの縁厚Tとを等式制約条件として付加している。評価関数の数は、各評価点についての非点収差ASと、頂点屈折力AP、縁厚Tとで計22個となる。非点収差ASの評価関数は目標値を0、頂点屈折力APについては目標値を4.00、縁厚Tについては目標値を1.00とし、図16の「重み」欄に示すように、中心側の重みが大きく周辺に向かって重みが軽くなるような重み付けをして減衰最小自乗法による最適化を実行する。
【0054】
図17は、最適化された実施例の眼鏡レンズの収差を視角β[degree]を縦軸に示すグラフ、図18は、これを物体視度D0[Dptr]を縦軸に示すグラフである。これらのグラフから、諸性能が視角βの変化に対してうねらずに単調に変化すること、視角βに依らず物体視度に対して非点収差ASの遠近バランスがとれていることが分かる。非点収差のバランス点は、物体視度-1.67Dptr付近となっている。
【0055】
【実施例5】
図19〜図22は、実施例5のデータ及び性能を示す。実施例5の眼鏡レンズは、球面屈折力SPH-5.00、外面が非球面で内面が球面である。図19に示すように、内面の曲率半径R2、高次非球面係数A4、A6、A8、A10が可変値(変数)、他は固定値(定数)である。
【0056】
評価関数は、図20に示されるとおり、光学収差としては、物体距離-1000mmにおける各評価点でのメリジオナル屈折力誤差DMのみを含み、レンズ中心での頂点屈折力APを等式制約条件として付加している。評価関数の数は、各評価点についてのメリジオナル屈折力誤差DMと、頂点屈折力APとで計21個となる。メリジオナル屈折力誤差DMの評価関数は目標値を0、頂点屈折力APについては目標値を-5.00とし、図20の「重み」欄に示すように、中心側の重みが大きく周辺に向かって重みが軽くなるような重み付けをして減衰最小自乗法による最適化を実行する。
【0057】
図21は、最適化された実施例5の眼鏡レンズの収差を視角β[degree]を縦軸に示すグラフ、図22は、これを物体視度D0[Dptr]を縦軸に示すグラフである。これらのグラフから、諸性能が視角βの変化に対してうねらずに単調に変化すること、視角βに依らず物体視度に対して非点収差ASの遠近バランスがとれていることが分かる。非点収差のバランス点は、物体視度 2.0Dptr付近となっている。各収差の相互従属性から、実施例1で平均屈折力誤差DAPを評価関数として、物体距離無限遠で最適化したのと同様のバランスが得られる。
【0058】
【実施例6】
図23〜図26は、実施例6のデータ及び性能を示す。実施例6の眼鏡レンズは、球面屈折力SPH+3.00、外面が球面で内面が非球面である。図23に示すように、内面の曲率半径R2、中心厚CT、高次非球面係数A4、A6、A8、A10が可変値(変数)、他は固定値(定数)である。
【0059】
評価関数は、図24に示されるとおり、光学収差としては、各評価点での物体距離無限遠における非点収差と物体距離-300mmにおける非点収差との平均値ASavgのみを含み、レンズ中心での頂点屈折力APと光軸からの高さ35mmでの縁厚Tとを等式制約条件として付加している。評価関数の数は、各評価点についての平均非点収差ASavgと、頂点屈折力AP、縁厚Tとで計22個となる。平均非点収差ASavgの評価関数は目標値を0、頂点屈折力APについては目標値を+3.00、縁厚Tについては目標値を1.00とし、図24の「重み」欄に示すように、中心側の重みが大きく周辺に向かって重みが軽くなるような重み付けをして減衰最小自乗法による最適化を実行する。
【0060】
図25は、最適化された実施例6の眼鏡レンズの収差を視角β[degree] を縦軸に示すグラフ、図26は、これを物体視度D0[Dptr]を縦軸に示すグラフである。これらのグラフから、諸性能が視角βの変化に対してうねらずに単調に変化すること、視角βに依らず物体視度に対して非点収差ASの遠近バランスがとれていることが分かる。非点収差のバランス点は、無限遠(Odptr)と-300mm(-3.33Dptr)との中間位置-1.67Dptr付近となっている。
【0061】
実施例6では、平均非点収差ASavgを計算するために2つの非点収差ASを計算する必要があるため、他の実施例よりは計算時間を要し効率的ではない。しかし、実施例6の最適化結果をみれば、収差をコントロールする上で平均屈折力誤差DAP、非点収差AS、メリジオナル屈折力誤差DM、サジタル屈折力誤差DS の組み合わせからできる新たな収差を用いても、同様の最適化結果が得られることが示唆される。
【0062】
【発明の効果】
以上説明してきたように、この発明の単焦点非球面眼鏡レンズの設計方法によれば、評価関数の数を少なくして計算コストを抑え、かつ、全ての評価関数の最終値を目標値である「0」にすることができる。したがって、重み付けの調整やローカルミニマムへのトラップを監視するためにオペレータを介在させる必要がなく、人的コストを抑え、結果の同一性を保証することができる。また、評価対象となる光学収差を一種類に限定することにより、視角に応じた遠近バランスの変化を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施形態の単焦点眼鏡レンズの製造方法を示すフローチャート。
【図2】 図1の製造方法が適用される製造システムのブロック図。
【図3】 実施例1のレンズデータ。
【図4】 実施例1の評価関数。
【図5】 実施例1の視角に対する収差図。
【図6】 実施例1の物体視度に対する収差図。
【図7】 実施例2のレンズデータ。
【図8】 実施例2の評価関数。
【図9】 実施例2の視角に対する収差図。
【図10】 実施例2の物体視度に対する収差図。
【図11】 実施例3のレンズデータ。
【図12】 実施例3の評価関数。
【図13】 実施例3の視角に対する収差図。
【図14】 実施例3の物体視度に対する収差図。
【図15】 実施例4のレンズデータ。
【図16】 実施例4の評価関数。
【図17】 実施例4の視角に対する収差図。
【図18】 実施例4の物体視度に対する収差図。
【図19】 実施例5のレンズデータ。
【図20】 実施例5の評価関数。
【図21】 実施例5の視角に対する収差図。
【図22】 実施例5の物体視度に対する収差図。
【図23】 実施例6のレンズデータ。
【図24】 実施例6の評価関数。
【図25】 実施例6の視角に対する収差図。
【図26】 実施例6の物体視度に対する収差図。
【図27】 従来例1のレンズデータ。
【図28】 従来例1の評価関数。
【図29】 従来例1の視角に対する収差図。
【図30】 従来例1の物体視度に対する収差図。
【図31】 従来例2のレンズデータ。
【図32】 従来例2の評価関数。
【図33】 従来例2の視角に対する収差図。
【図34】 従来例2の物体視度に対する収差図。
【符号の説明】
10 眼鏡店
11 発注端末
20 広域ネットワーク
30 レンズメーカー
31 ホストコンピュータ
32 LAN
33 データサーバー
34 加工計算用コンピュータ
35,36 加工装置

Claims (11)

  1. 外側、内側の一対の屈折面を有し、少なくとも一方の屈折面が非球面である回転対称な単焦点眼鏡レンズの設計方法において、
    レンズ系の複数のパラメータから可変値となるものを選択するステップと、
    レンズ系の性能を評価関数として可変値とされたパラメータを最適化するステップとを含み、
    最適化するステップでは、評価対象となる光学収差を、視角を介して相互に従属関係があるメリジオナル屈折力誤差またはメリジオナル屈折力誤差とサジタル屈折力誤差の重み付き和で定義される収差のいずれか一種類に限定し、レンズ上の各評価点をそれぞれ単一種類の評価関数で評価し、全ての該評価関数の最終値を目標値である0に設定することにより、前記パラメータを最適化することを特徴とする単焦点眼鏡レンズの設計方法。
  2. 前記重み付け和で定義される収差は、メリジオナル屈折力誤差をDM、サジタル屈折力誤差をDSとすると、0.5×DM+0.5×DSにより求められる平均屈折力誤差であることを特徴とする請求項1に記載の単焦点眼鏡レンズの設計方法。
  3. 前記重み付け和で定義される収差は、メリジオナル屈折力誤差をDM、サジタル屈折力誤差をDSとすると、DM+(-1)×DSにより求められる非点収差であることを特徴とする請求項1に記載の単焦点眼鏡レンズの設計方法。
  4. 前記評価関数は、特定の単一の物体距離における収差の値を与えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の単焦点眼鏡レンズの設計方法。
  5. 前記評価関数は、特定の複数の物体距離における収差の演算結果を与えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の単焦点眼鏡レンズの設計方法。
  6. 前記評価関数は、特定の2つの物体距離における非点収差の平均値を与えることを特徴とする請求項5に記載の単焦点眼鏡レンズの設計方法。
  7. 前記最適化のステップにおいて、最適化アルゴリズムとして最小自乗法または減衰最小自乗法を用いることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の単焦点非球面レンズの設計方法。
  8. 前記最適化のステップにおいて、最適化アルゴリズムとして等式制約条件を含む最小自乗法または減衰最小自乗法を用いることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の単焦点非球面レンズの設計方法。
  9. 前記等式制約条件は、最小肉厚条件、及びレンズ中心における頂点屈折力の少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項8に記載の単焦点眼鏡レンズの設計方法。
  10. 外側、内側の一対の屈折面を有し、一方の屈折面が非球面である回転対称な単焦点眼鏡レンズの製造方法において、
    レンズ系の複数のパラメータから可変値となるものを選択するステップと、
    発注データに基づき、レンズ系の性能を評価関数として可変値とされたパラメータを最適化するステップと、
    最適化されたレンズ系のパラメータから加工データを作成するステップと、
    前記加工データに基づいて屈折面を加工するステップとを含み、
    前記最適化のステップでは、評価対象となる光学収差を、視角を介して相互に従属関係があるメリジオナル屈折力誤差、平均屈折力誤差、非点収差のいずれか一種類に限定し、レンズ上の各評価点をそれぞれ単一種類の評価関数で評価し、全ての評価関数の最終値を目標値である0に設定することにより、前記パラメータを最適化することを特徴とする単焦点眼鏡レンズの製造方法。
  11. 外側、内側の一対の屈折面を有し、一方の屈折面が非球面である回転対称な単焦点眼鏡レンズの製造システムにおいて、
    眼鏡レンズの仕様を決める発注データを入力する入力手段と、
    入力された発注データに基づいて最適レンズ形状を計算する計算手段と、
    計算された最適レンズ形状に基づいてレンズを加工する加工手段とを含み、
    前記計算手段は、レンズ系の複数のパラメータから可変値となるものを選択し、評価対象となる光学収差を、視角を介して相互に従属関係があるメリジオナル屈折力誤差、平均屈折力誤差、非点収差のいずれか一種類に限定し、レンズ上の各評価点をそれぞれ単一種類の評価関数で評価し、全ての評価関数の最終値を目標値である0に設定することにより、前記パラメータを最適化することを特徴とする単焦点眼鏡レンズの製造システム。
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