JP3850242B2 - 燃料電池セパレーター用樹脂組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、燃料電池セパレーター用の樹脂組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、燃料電池セパレーターは熱硬化性樹脂と炭素質粉末の混合物を成形した後、成形体を焼成し導電性を高める黒鉛化工程や、切削や研磨などにより必要形状を付与する機械加工工程を含む方法(例えば、特開2000−169230号公報)、或いは金属板に溝などの形状加工をした上で樹脂コートを行うなどの金属樹脂コンポジットを素材とする方法(例えば、特開平11−345618号公報、新エネルギー産業技術総合開発機構 平成12年度固体高分子型燃料電池研究開発成果報告会要旨集P70)などにより、作成が試みられて来た。ところが黒鉛化工程や機械加工工程を必要とする手法では、大量生産への展開が困難な為にコストが下げられず、一方、溝加工した金属板樹脂コンポジットを素材とする手法では、使用される環境において金属と樹脂との界面層で層剥離及び金属板の腐食問題が解決せず、品質と価格で適切なセパレーターを供給する目処が立っていない。このため、さらに種々の試みがなされており、黒鉛やカーボンブラック等の炭素基材を、バインダー成分としての一般的なフェノール樹脂やエポキシ樹脂、ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂、或いはポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂等とともに高配合した成形材料での試みがなされている。
【0003】
この手法では、セパレーターとして高導電性を得る為に、成形材料中の黒鉛配合率を高くする事と、成形性を向上させる為に樹脂配合率を高くする事が相反する要因である為、樹脂の選択と設計が重要なポイントである。なかでも、フェノール樹脂やエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂は耐熱性、機械的強度、電気的安定性等種々の点において優れているとともに、ベース樹脂を低分子量から選択することができる為種々の検討がなされてきた(特開平11−204120号公報)。
【0004】
フェノール樹脂を用いる場合、ヘキサメチレンテトラミン硬化のノボラック型フェノール樹脂では、硬化に伴う残留アンモニアが燃料電池の触媒である白金系プロトン交換触媒の触媒毒となるので使用が困難であり、自ずからレゾール型フェノール樹脂を使用することになるが、一般にレゾール型のフェノール樹脂では、メチロール基を残して低分子量のまま保持することから、活性化エネルギーが低く樹脂としての反応性が高いため成形性の幅が小さい。このため一般的なレゾール樹脂では、燃料電池セパレータのような複雑な形状を精密に成形できるような材料の開発、調整が困難である。又、エポキシ樹脂を用いる場合では、必須成分である硬化剤の未反応物や硬化促進剤の残留による触媒毒や電気的劣化の問題がある為に、このような事態を起こさないような硬化剤、硬化促進剤系の検討が行われているが、未だ有効な方法の提案が成されていない。
【0005】
【問題を解決するための手段】
(1)組成物全体100重量部に対して、フェノール核結合官能基がメチレン基、メチロール基、及びジメチレンエーテル基より構成され、各官能基の比率がそれぞれ、20〜50モル%、10〜20モル%、及び40〜60モル%であり、且つ、遊離フェノール除外数平均分子量が800〜1200であるレゾール型フェノール樹脂(A)4〜24重量部と、導電性を有する炭素系基材(B)96〜76重量部を必須成分として含有することを特徴とする燃料電池セパレーター用樹脂組成物。
(2)レゾール型フェノール樹脂(A)が、遊離フェノール量が7重量%以下である請求項1記載の燃料電池セパレーター用樹脂組成物。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、
(1)組成物全体100重量部に対して、フェノール核結合官能基がメチレン基、メチロール基、及びジメチレンエーテル基より構成され、各官能基の比率がそれぞれ、20〜50モル%、10〜20モル%、及び40〜60モル%であるレゾール型フェノール樹脂(A)4〜24重量部と、導電性を有する炭素系基材(B)96〜76重量部を必須成分として含有することを特徴とする燃料電池セパレーター用樹脂組成物、
(2)レゾール型フェノール樹脂(A)が、遊離フェノール量が7重量%以下である第(1)項記載の燃料電池セパレーター用樹脂組成物、
(3)レゾール型フェノール樹脂(A)が、遊離フェノール除外数平均分子量が800〜1200である第(1)項または第(2)項に記載の燃料電池セパレーター用樹脂組成物、
である。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明に用いられるレゾール型フェノール樹脂(A)(以下、「レゾール型フェノール樹脂」を「レゾール樹脂」と記載)は、フェノール核結合官能基がメチレン基、メチロール基、及びジメチレンエーテル基より構成され、各官能基の比率がそれぞれ、20〜50モル%、10〜20モル%、及び40〜60モル%であり、且つ、遊離フェノール除外数平均分子量(以下、Mnと略す)が800〜1200であることを特徴とする。更に遊離フェノール量が7重量%以下である事が好ましい。かかるレゾール樹脂は、常温で固形であって加熱により縮合で硬化することができる。メチロール基が主たる官能基である一般的なレゾール樹脂による硬化物は架橋密度が高く、一般には脆くなりがちであるが、本発明に使用するレゾール樹脂による硬化物は架橋点間にジメチレンエーテル結合が多く存在することにより、柔軟であり、複雑で狭隘な燃料電池セパレーターの流路構造を精度良く成形することができる。なお、レゾール樹脂におけるフェノール
核結合官能基の分析はNMRやICPMSにより行う事ができる。
【0008】
レゾール樹脂中に含有される遊離フェノールは、レゾール樹脂が硬化する際に、一旦該フェノールにメチロール基が付加して縮合化する際の架橋剤として作用し、成形品の強度を改善する効果があるが、含有量が7重量%を上回ると硬化時にガス化して揮発経路を構成するようになり、燃料電池セパレーターのガス透過性を上昇させる要因となることがある。
また、Mnが800を下回ると成形時に硬化収縮によりヒケを生じやすくなることがあり、Mnが1200を超えると流動性が低下する傾向がみられ、いずれの場合も成形性や溝の加工精度に影響することがある。
【0009】
このようなレゾール樹脂としては、該樹脂をメチルエチルケトンや酢酸エチル等の有機溶剤に溶解した所謂液状レジンと呼ばれるワニス状態のものもあるが、本発明において用いる場合は工程で溶剤を除去する必要がないように、固形の樹脂を用いることが好ましい。
一般的にはこのようなジメチレンエーテル結合を多く持つレゾール樹脂は、フェノールに対するホルムアルデヒドの比率(反応モル比)を1以上にし、弱酸触媒により付加反応が行われ、脱水工程を低温化することで反応性官能基であるメチロール基を温存しつつ固形化することにより得られる。
【0010】
本発明で用いる導電性を有する炭素系基材(B)とは、黒鉛、炭素繊維、カーボンブラックなどの炭素材をいう。炭素材のうち導電性の優れているものはグラファイト構造が成長したものであり、天然や人造の黒鉛がこれに該当する。天然に算出する鉱物としての黒鉛には天然黒鉛と称される鱗片状の黒鉛と土壌黒鉛があるが、このうち天然黒鉛が導電性に優れている。人造黒鉛については、石炭系コークスを熱処理したものと石油系コークスを熱処理したものがあり、形状的には鱗状、針状、塊状、球状、凝集体などがあるが、いずれのものも、X線解析による格子定数精密法で求めるc軸(002)層面間距離(d002)が0.335〜0.460nmの範囲にあって、真比重が2.04〜2.34の範囲にあればよい。
【0011】
その他の導電性を有する炭素系基材である炭素繊維やカーボンブラックについては、非晶質カーボンを含んでいてもよい。炭素繊維やカーボンブラックは、樹脂相内に分散して導電助剤として働くと共に、炭素繊維の場合はその形状による効果として、曲げや強靭性などの機械的特性を改善する効果があり、必要に応じて配合される。
【0012】
次に、レゾール樹脂(A)と炭素系基材(B)の配合量について説明する。本発明においては、組成物全体100重量部に対して、レゾール樹脂(A)を4〜24重量部配合し、導電性を有する炭素系基材(B)を96〜76重量部配合することを特徴とする。かかる配合量とすることによって、成形性と成形品の導電性や機械的強度を確保することができる。レゾール樹脂(A)の配合量が4重量部を下回るか、炭素系基材(B)の配合量が96重量部を超えると、成形時に十分な流動性が確保できず、精密な形状を成形するのが困難となる。これは樹脂が黒鉛粒子間を十分に充填するのに必要な体積を持っていないからと考えられ、この結果成形体の強度の確保も難しくなる。一方、レゾール樹脂(A)の配合量が24重量部を越えるか、炭素系基材(B)の配合量が76重量部を下回ると、導電性が低下し、実用に即したセパレーターを得る事が難しくなる。これは樹脂体積が増える事で黒鉛粒子同士の凝集が起こるようになり、結果として不導体相部分を生じて導電性を低下させるものと考えられる。このような樹脂相が多い系においては、前記の炭素繊維やカーボンブラックの併用もその効果が小さくなる。
【0013】
本発明では、前記のようなレゾール樹脂(A)と炭素系基材(B)以外に、成形材料として一般に用いられる可塑剤や離型剤を用いることができる。この場合可塑剤としてはフェノール性水酸基との反応性官能基を持った分子量500〜2000までの直鎖状化合物や、揮発性溶剤としてメタノールやアセトンなどの低沸点の有機溶剤を用いる。又離型剤としては、一般に用いられる多価の有機酸や金属塩あるいはアマイド系化合物などが用いられる。
【0014】
以上のような原材料の配合物は、混合や混練の手法で成形材料化し、コンプレッション成形や射出成形により燃料電池セパレーターに成形される。コンプレッションの場合は成形物に合わせた形で予備成形を行い、成形性を補助する事もできる。
【0015】
本発明に用いるフェノール樹脂はレゾール樹脂(A)を必須成分として使用するが、本発明の目的及び効果を損なわない範囲において、ノボラック型フェノール樹脂やその他のレゾール型フェノール樹脂を併用してもよく、これらの場合も本発明に含まれる。
【0016】
【実施例】
以下、実施例により本発明を説明する。
【0017】
[フェノール樹脂の合成]
1.フェノール樹脂(1)
2リットルフラスコにホルムアルデヒド(F)とフェノール(P)をF/P=1.7で投入し、ナフテン酸亜鉛と蓚酸を用いてPHを5.5に調節し、120rpmで攪拌しながら4時間反応させた。次に常圧のまま120℃まで脱水昇温したあと、減圧下で脱水しながら160℃まで昇温した後、フラスコから取り出してフェノール樹脂(1)を得た。
2.フェノール樹脂(2)
反応時にPHを6.5に調整した。他はフェノール樹脂(1)と同様にして、フェノール樹脂(2)を得た。
3.フェノール樹脂(3)
反応時にPHを8.5に調整した。他はフェノール樹脂(1)と同様にして、フェノール樹脂(3)を得た。
4.フェノール樹脂(4)
反応時にPHを7.5に調整し、反応時間を2時間とした。他はフェノール樹脂(1)と同様にして、フェノール樹脂(4)を得た。
5.フェノール樹脂(5)
住友ベークライト株式会社製・PR−51470(ノボラック型フェノール樹脂)を使用した。
【0018】
前記合成したフェノール樹脂(1)〜(4)について、NMRによってフェノール核結合官能基の比率を求め、ガスクロマトグラフィーにより遊離フェノール量,GPCにより数平均分子量を求めた。得られたフェノール樹脂の特性を表1に示す。なお、フェノール樹脂(5)は、通常のノボラック型フェノール樹脂である。
【0019】
【表1】
【0020】
[成形材料の作成]
(1)実施例1、2
表2に示したように、フェノール樹脂としてフェノール樹脂(1)、(2)、離型剤としてカルナバワックスを用い、これに人造黒鉛及びカーボンブラックを加えヘンシェルミキサーで混合して原料混合物を得た。これらの原料混合物を80℃の加熱ニーダーで10分間溶融混練した後取り出し、顆粒状に粉砕して成形材料を得た。
(2)比較例1〜3
実施例と同様に、フェノール樹脂(3)、(4)、及び(4)と(5)、離型剤としてカルナバワックスを用い、これに人造黒鉛及びカーボンブラックを加えヘンシェルミキサーで混合して原料混合物を得た。これらの原料混合物を80℃の加熱ニーダーで10分間溶融混練した後取り出し、顆粒状に粉砕して成形材料を得た。
【0021】
[導電性の評価]
前記成形材料を金型温度170℃、成形圧力200kg/cm2、成形時間3分で圧縮成形して80×80×15mmの試料3、及び80×80×5mmの試料4を得た。これらの試料を用いて、図1に示す方法で貫通方向の抵抗を測定し、導電性の評価を行った。
即ち、厚さの異なる2枚の試料3,4を組み合わせて、カーボンペーパー2を介して電極1にセットし、成形体の厚みが異なった状態での抵抗値より、貫通方向の固有抵抗を求めた。比較データとしてJIS K 7194により体積固有抵抗率も測定した。
【0022】
[セパレーター用素材としての諸特性評価]
前記成形材料を金型温度170℃、成形圧力200kg/cm2、成形時間3分で圧縮成形して300×300×2mmの大きさの成形品を得た。これよりテストピースを切り出して作成し評価を行った。
(1)曲げ強さ、曲げ弾性率は、JIS K 7203により測定した。
(2)ガス透過性は、窒素ガスを用いてJIS K7126A法により測定した。
【0023】
[成形性の評価]
(1)モノホール流動性は、JIS K 6911により測定した。
(2)溝深さ精度の測定
実施例と比較例の成形材料について、燃料電池セパレーター相当に幅1.0mm、深さ0.5mm、長さ160mmの溝を2.0mmピッチで49本流路加工した成形品を用いた。成形品は、成形機として上滝社製800トンプレスを用い、金型温度175℃、成形圧力800kgf/cm2、成形時間2分で圧縮成形により成形した。成形品の測定対象溝は、4本目〜(この間7本ピッチ)〜46本目(計7本)とし、各々について、長さ方向の中央部と両端部から10mm内側の部分の計3ヶ所を測定ポイントとして、7×3=21箇所を測定した。測定方法は、溝の幅方向中央部と隣接する平坦部の同中央部との差を溝の深さとし、溝深さ精度は下記の式により求めた。測定機器は、OLYMPUS STM6−LM 測長顕微鏡を用いた。
溝深さ精度=(Σi=1 i=21 (di−dav)2 )0.5
dav:21箇所の溝深さの平均値
di:i番めでの溝深さ
【0024】
【表2】
【0025】
表1、2から、実施例1、2ではいずれも、ジメチレンエーテル結合を多く含むレゾール樹脂と黒鉛を適当な割合で配合した成形材料を用いているので、成形品の電気的特性、機械的特性、ガス透過性、溝深さ精度などいずれも良好なものとなった。一方、比較例1ではジメチレンエーテル結合が存在しない樹脂を用いたところ、溝深さ精度が低下した。また、比較例2ではジメチレンエーテル結合基の割合が低く、分子量が若干小さく遊離フェノール量が多いものを使用したため、溝深さ精度が低下し、ガス透過率もやや増加した。そして、比較例3では比較
例2で用いた樹脂(4)の一部をノボラック型フェノール樹脂5)で置き換えたが、比較例2と同様の傾向となった。なお、比較例1〜3ではいずれも、電気的特性や曲げ強さが若干低下した。
【0026】
【発明の効果】
本発明は、ジメチレンエーテル結合を多く有するレゾール樹脂4〜24重量部と導電性を有する炭素系基材96〜76重量部とを必須成分とする事を特徴とする燃料電池セパレーター用樹脂組成物であり、本発明の組成物の成形品は、導電性と成形性に優れるので、燃料電池セパレーター用として好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施例の貫通方向抵抗率の測定法を示す概略図
【符号の説明】
1 電極
2 カーボンペーパー
3 本発明の樹脂組成物の成形物(厚さ15mm)
4 本発明の樹脂組成物の成形物(厚さ5mm)
5 定電流装置
6 電圧計
Claims (2)
- 組成物全体100重量部に対して、フェノール核結合官能基がメチレン基、メチロール基、及びジメチレンエーテル基より構成され、各官能基の比率がそれぞれ、20〜50モル%、10〜20モル%、及び40〜60モル%であり、且つ、遊離フェノール除外数平均分子量が800〜1200であるレゾール型フェノール樹脂(A)4〜24重量部と、導電性を有する炭素系基材(B)96〜76重量部を必須成分として含有することを特徴とする燃料電池セパレーター用樹脂組成物。
- レゾール型フェノール樹脂(A)が、遊離フェノール量が7重量%以下である請求項1記載の燃料電池セパレーター用樹脂組成物。
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