JP3845243B2 - ハンドヘルド型四サイクルエンジン - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は,主としてトリマその他の携帯型作業機の動力源となるハンドヘルド型四サイクルエンジンに関し,特に,クランク室を有するクランクケース,シリンダボアを有するシリンダブロック,並びに吸気ポート及び排気ポートを有するシリンダヘッドからなるエンジン本体と,クランクケースに支承されてクランク室に収容されるクランク軸と,シリンダボアに嵌装されると共にクランク軸に連接されるピストンと,シリンダヘッドに取付けられて吸気ポート及び排気ポートを開閉する吸気弁及び排気弁と,クランク軸の回転に連動して吸気弁及び排気弁を開閉駆動する動弁機構と,クランク軸の,エンジン本体の一端部に設けられる動力取出し機構とを含む四サイクルエンジンの改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
かゝるハンドヘルド型四サイクルエンジンは,例えば特開平10−28801号公報に開示されるように,既に知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ハンドヘルド型四サイクルエンジンは,その排ガスが比較的クリーンであることから,環境の汚染防止は勿論のこと,エンジンを携える使用者の健康確保の上に有効である。しかしながら,その構造が二サイクルエンジンよりは複雑であるため,軽量化が難しいという難点がある。軽量化は,特にハンドヘルド型四サイクルエンジンにとって作業性を良好にする上で重要な課題の一つである。
【0004】
ところが,上記公報に開示されているハンドヘルド型四サイクルエンジンでは,シリンダヘッド頭部に設けられる吸,排気弁を開閉駆動する動弁機構をプッシュロッド及びロアアームを使用するタイプに構成し,そのプッシュロッド及びそれを駆動するカム軸等を収容する動弁カム室をエンジン本体の側壁に形成しているため,エンジン本体が必然的に大型化してしまい,エンジンの軽量化を困難にしている。
【0005】
本発明は,かゝる点に鑑みてなされたもので,エンジン本体のコンパクト化を可能にして,軽量で作業性の良好な前記ハンドヘルド型四サイクルエンジンを提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために,本発明は,クランク室を有するクランクケース,シリンダボアを有するシリンダブロック,並びに吸気ポート及び排気ポートを有するシリンダヘッドからなるエンジン本体と,クランクケースに支承されてクランク室に収容されるクランク軸と,シリンダボアに嵌装されると共にクランク軸に連接されるピストンと,シリンダヘッドに取付けられて吸気ポート及び排気ポートを開閉する吸気弁及び排気弁と,クランク軸の回転に連動して吸気弁及び排気弁を開閉駆動する動弁機構と,クランク軸の一端部に設けられる動力取出し機構とを含む,ハンドヘルド型四サイクルエンジンにおいて,動弁機構を,吸気弁及び排気弁を開閉駆動すべくシリンダヘッドに回転自在に支承されるカム軸と,エンジン本体の外側に配置されてクランク軸及びカム軸間を連動させる乾式のタイミング伝動装置とで構成し,また潤滑装置を,潤滑用オイルを貯留するオイルタンクと,このオイルタンク内で貯留オイルからオイルミストを生成するオイルミスト生成手段と,前記貯留オイルの上方でオイルタンク及びクランク室間を連通する通孔と,クランク室及び,カム軸を収容すべくシリンダヘッドに形成された動弁カム室間を連通するオイル送り導管と,クランク室に生ずる圧力脈動の正圧をオイル送り導管から動弁カム室に導く弁手段と,動弁カム室及びオイルタンク間を連通するオイル戻し導管とで構成すると共に,オイル送り導管及びオイル戻し導管の少なくとも何れか一方をエンジン本体外に配設したことを第1の特徴とする。尚,前記オイルミスト生成手段は後述する実施例中のオイルスリンガ56に対応し,前記弁手段は一方向弁61に対応する。
【0007】
この第1の特徴によれば,エンジンをOHC型に構成すると共に,タイミング伝動装置をエンジン本体外側に配設して乾式とすることにより,エンジン本体の側壁にタイミング伝動装置を収容する伝動室を特別に設ける必要がなくなり,したがってエンジン本体の薄肉化及びコンパクト化を図り,エンジン全体の大幅な軽量化を達成することができる。また一方向弁がクランク室の圧力脈動の正圧成分を動弁カム室側へ送ることにより,エンジン本体外側のオイルタンク内で生成されたオイルミストをオイル送り導管及びオイル戻し導管を通してクランク室,動弁カム室,オイルタンクへと循環させて,エンジンの如何なる運転姿勢でもその内部を潤滑することができる。しかも,そのオイルの循環のためにオイルポンプを特別に設ける必要もなく,構成の簡素化,延いてはコストの低減に寄与し得る。
【0008】
また本発明は,第1の特徴に加えて,シリンダヘッドに,動弁カム室の上部に隣接してオイル戻し導管が接続される吸い上げ室を設け,この吸い上げ室を,高低位置を異にする複数のオリフィスを介して動弁カム室に連通したことを第2の特徴とする。
【0009】
この第2の特徴によれば,動弁カム室でオイルミストが液化して溜まっても,その液化オイルは,エンジンの正立,倒立の状態に拘らず,何れかのオリフィスを通して吸い上げ室に吸い上げられてオイルタンクに戻されるので,動弁カム室にオイルが滞留することを防ぐことができる。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を,添付図面に示す本発明の実施例に基づいて説明する。
【0011】
図1は本発明のハンドヘルド型四サイクルエンジンの一使用例を示す斜視図,図2は上記四サイクルエンジンの縦断側面図,図3は図2の要部拡大図,図4は図3のカム軸周りの拡大縦断面図,図5は図3の5−5線断面図,図6は上記エンジンの潤滑装置系統図,図7は図3の7−7線断面図,図8は図7の8−8線断面図,図9はヘッドカバーの底面図,図10はエンジンの種々の運転姿勢におけるシリンダヘッドでの溜まりオイルの吸い上げ作用説明図,図11はオイル送り導管及びオイル戻し導管の変形例を示す,図7に対応した断面図である。
【0012】
図1に示すように,ハンドヘルド型四サイクルエンジンEは,例えば動力トリマTの動力源として,その駆動部に取付けられる。動力トリマTは,その作業状態によりカッタCを種々の方向に向けて使用されるので,その都度エンジンEも大きく傾けられ,あるいは逆さにされ,その運転姿勢は一定しない。
【0013】
先ず,このハンドヘルド型四サイクルエンジンEの全体的構成について,図2〜図5により説明する。
【0014】
図2,図3及び図5に示すように,上記ハンドヘルド型四サイクルエンジンEのエンジン本体1には,その前後に気化器2及び排気マフラ3がそれぞれ取付けられ,気化器2の吸気道入口にはエアクリーナ4が装着される。またエンジン本体1の下面には合成樹脂製の燃料タンク5が取付けられる。
【0015】
エンジン本体1は,クランク室6aを有するクランクケース6,一つのシリンダボア7aを有するシリンダブロック7,並びに燃焼室8a及び該室に開口する吸,排気ポート9,10を有するシリンダヘッド8からなっており,シリンダブロック7とシリンダヘッド8とは一体に鋳造され,そのシリンダブロック7の下端に,それと別個に鋳造されたクランクケース6がボルトにより接合される。このクランクケース6は,その中央で左右に分割された第1及び第2ケース半体6L,6Rで構成され,両ケース半体6L,6Rはボルト12で相互に接合される。シリンダブロック7及びシリンダヘッド8の外周には多数の冷却フィン38が形成される。
【0016】
クランク室6aに収容されるクランク軸13は,第1及び第2ケース半体6L,6Rにボールベアリング14,14′を介して回転自在に支承されると共に,シリンダボア7aに嵌装されたピストン15にコンロッド16を介して連接される。また第1及び第2ケース半体6L,6Rには,上記ベアリング14,14′外側に隣接してクランク軸13の外周面に密接するオイルシール17,17′が装着される。
【0017】
シリンダヘッド8には,吸気ポート9及び排気ポート10をそれぞれ開閉する吸気弁18及び排気弁19がシリンダボア7aの軸線と平行に設けられ,また点火栓20が,その電極を燃焼室8aの中心部に近接させて螺着される。
【0018】
吸気弁18及び排気弁19は,シリンダヘッド8に形成された動弁カム室21において弁ばね22,23により閉弁方向に付勢される。また動弁カム室21において,吸気弁18及び排気弁19の頭部には,シリンダヘッド8に上下揺動自在に軸支されたカムフォロワ24,25が重ねられ,これらカムフォロワ24,25を介して吸気弁18及び排気弁19を開閉するカム軸26が,クランク軸13と平行にして,動弁カム室21の左右両側壁ボールベアリング27,27′を介して回動自在に支承される。一方のベアリング27が装着される動弁カム室21の一側壁は,シリンダヘッド8と一体に成形されており,この一側壁には,カム軸26の外周面に密接するオイルシール28が装着される。動弁カム室21の他側壁には,該室21へのカム軸26の挿入を可能にする挿入口29が設けられており,カム軸26の挿入後,この挿入口29を閉鎖する側壁キャップ30に他方のベアリング27′が装着される。この側壁キャップ30は,シール部材31を介して挿入口29に嵌合された上,シリンダヘッド8にボルトで結合される。
【0019】
図3及び図4に明示するように,カム軸26は,前記オイルシール28が在る側でシリンダヘッド8の外側方へ一端部を突出させている。これと同じ側でクランク軸13も一端部をクランクケース6の外側方に突出させており,その一端部に歯付きの駆動プーリ32が固着され,これより歯数が2倍の歯付きの被動プーリ33が前記カム軸26の一端部に固着される。そして,両プーリ32,33に歯付きのタイミングベルト34が巻掛けられ,クランク軸13がカム軸26を2分の1の減速比をもって駆動し得るようになっている。上記カム軸26及びタイミング伝動装置35によって動弁機構53が構成される。
【0020】
こうして,エンジンEはOHC型に構成され,またタイミング伝動装置35は,エンジン本体1外側に配置される乾式とされる。
【0021】
エンジン本体1とタイミング伝動装置35との間には,エンジン本体1にボルト37で固定される合成樹脂製のベルトカバー36が配置され,エンジン本体1の放射熱のタイミング伝動装置35への影響を避けるようになっている。
【0022】
またエンジン本体1には,タイミング伝動装置35の一部の外側面を覆うように配置される合成樹脂製のオイルタンク40がボルト41により固着され,さらにこのオイルタンク40の外側面にリコイル式スタータ42(図2参照)が取付けられる。
【0023】
再び図2において,クランク軸13の,タイミング伝動装置35と反対側の他端部もクランクケース6の外側方に突出しており,その一端部にはフライホイール43がナット44で固着される。このフライホイール43は,冷却羽根を兼ねるべく内側面に多数の冷却羽根45,45…を一体に備えている。またフライホイール43の外側面には,複数の取付けボス46(図2には,そのうちの1個を示す)が形成されており,この各取付けボス46に遠心シュー47が揺動自在に軸支される。この遠心シュー47は,後述する駆動軸50に固着されるクラッチドラム48と共に遠心クラッチ49を構成するもので,クランク軸13の回転数が所定値を超えると,遠心シュー47が,それ自体の遠心力によりクラッチドラム48の内周壁に圧接して,クランク軸13の出力トルクを駆動軸50に伝達するようになる。この遠心クラッチ48よりも,フライホイール43は大径になっている。
【0024】
エンジン本体1及び付属機器を覆うエンジンカバー51は,タイミング伝動装置35の部分で,フライホイール43側の第1カバー半体51aと,スタータ42側の第2カバー半体51bとに分割され,それぞれエンジン本体1に固着される。第1カバー半体51aには,クランク軸6と同軸に並ぶ円錐台状の軸受ホルダ58が固着され,この軸受ホルダ58は,前記カッタCを,ベアリング59を介して支持するものであり,この軸受ホルダ58に空気取り入れ口52が設けられ,冷却羽根45,45…の回転に伴い外気をエンジンカバー51内に取り入れるようになっている。またエンジンカバー51及び軸受ホルダ58には,燃料タンク5の下面を覆う台座54が固着される。
【0025】
而して,クランク軸13及びカム軸26間を連動させるタイミング伝動装置35が乾式に構成されて,エンジン本体1の外側に配設されるので,エンジン本体1の側壁には,該装置35を収容する室を特別に設ける必要がなくなり,したがってエンジン本体1の薄肉化及びコンパクト化を図り,エンジンE全体の大幅な軽量化を達成することができる。
【0026】
しかも,シリンダブロック7を間に置いて,クランク軸13の両端部にタイミング伝動装置35と遠心クラッチ48の遠心シュー47とが連結されるので,クランク軸13の両端部での重量バランスが良好で,エンジンEの重心をクランク軸13の中央部に極力近づけることができ,軽量化と相俟って,エンジンEの作業性を向上させることができる。のみならず,エンジンEの作動中,タイミング伝動装置35及び駆動軸50による負荷は,クランク軸13の両端部に分散して作用することになるため,クランク軸13及びそれを支持するベアリング14,14′への荷重の集中を回避して,それらの耐久性をも向上させることができる。
【0027】
またエンジン本体1と遠心シュー47との間において,遠心シュー47より大径で冷却羽根45を有するフライホイール43がクランク軸13に固着されるので,フライホイール43によるエンジンEの大型化を極力回避しながら,冷却羽根45の回転により,遠心クラッチ48に邪魔されることなく,空気取り入れ口52から外気を吸入してシリンダブロック7及びシリンダヘッド8周りに的確に供給でき,それらの冷却性を高めることができる。
【0028】
さらにエンジン本体1にはオイルタンク40がタイミング伝動装置35の外側に隣接して取付けられるので,オイルタンク40がタイミング伝動装置35の少なくとも一部を覆うことになり,該伝動装置35の他の部分を覆う第2カバー半体51bと協働して,該伝動装置35を保護することができる。しかもこのオイルタンク40とフライホイール43との,エンジン本体1を間に置いた対向配置により,エンジンEの重心をクランク軸13の中心部により近づけることができる。
【0029】
次に,図3〜図10により上記エンジンEの潤滑系について説明する。
【0030】
図3に示すように,クランク軸13の一端部は,オイルタンク40の内外両側壁に装着されたオイルシール39,39′に密接しながらオイルタンク40を貫通するように配置されており,オイルタンク40の内部とクランク室6aとの間を連通する通孔55がクランク軸13に設けられる。オイルタンク40には潤滑用オイルOが貯留されており,その貯留量は,上記通孔55のオイルタンク40内への開口端をエンジンEの如何なる運転姿勢でも常にオイルOの液面上に露出させるように設定される。
【0031】
オイルタンク40内において,クランク軸13にオイルスリンガ56がナット57で固着される。オイルスリンガ56は,クランク軸13に嵌着される中心部から互いに半径方向反対側へ延出すると共に軸方向反対側に屈曲した2枚のブレード56a,56bを備えており,クランク軸13によりオイルスリンガ56が回転されると,エンジンEの如何なる運転姿勢でも,2枚のブレード56a,56bの少なくとも何れか一方が,オイルタンク40内にオイルOを飛散させ,オイルミストを生成するようになっている。
【0032】
図3,図6及び図7において,クランク室6aはオイル送り導管60を介して動弁カム室21に接続され,そのオイル送り導管60には,クランク室6aから動弁カム室21側への一方向のみの流れを許容する一方向弁61が介裝される。オイル送り導管60は前記ベルトカバー36に,その一側縁に沿って一体に形成され,このオイル送り導管60の下端部は弁室62に形成される。ベルトカバー36には,弁室62からベルトカバー36の裏側に突出する入口管63が一体に形成され,この入口管63は,クランク室6aに連通するように,クランクケース6下部の接続孔64にシール部材65を介して嵌合される。弁室62には,入口管63から弁室62への一方向への流れを許容させるべく,前記一方向弁61が配設される。この一方向弁61は,図示例の場合,リード弁からなっている。
【0033】
またベルトカバー36には,オイル送り導管60の上端からベルトカバー36の裏側に突出する出口管66が一体に形成され,この出口管66は,動弁カム室21に連通するように,シリンダヘッド8側部の接続孔67に嵌合される。
【0034】
こうしてオイル送り導管60と連通した動弁カム室21は,図4に示すように,カム軸26に設けられた,横孔68aと縦孔68bからなる気液分離通路68を介して側壁キャップ30内のブリーザ室69に連通され,このブリーザ室69は,ブリーザパイプ70を介して前記エアクリーナ4内に連通される。
【0035】
図4,図5及び図9に明示するように,シリンダヘッド8には,動弁カム室21の開放上面を閉鎖するヘッドカバー71がシール部材72を介して接合される。このヘッドカバー71により,シリンダヘッド8に,複数のオリフィス73,73…を介して動弁カム室21に連通する吸い上げ室74が形成される。この吸い上げ室74は,動弁カム室21の上面に沿った偏平な形状を成しており,その底壁の四隅に4つのオリフィス73,73…が穿設される。またその底壁には,その中央部でカム軸26の軸線と直交する方向に間隔を置いて並んで動弁カム室21内に突出する長短2本の吸い上げ管75,76が一体に形成されており,これらにもオリフィス73,73が設けられる。
【0036】
図6〜図8に示すように,吸い上げ室74は,他方において,オイル戻し導管78を介してオイルタンク40内と連通される。オイル戻し導管78はベルトカバー36に,オイル送り導管60とは反対側の他側縁に沿って一体に形成される。ベルトカバー36には,オイル戻し導管78の上端からベルトカバー36の裏側に突出する入口管79が一体に形成されており,この入口管79は,吸い上げ室74と連通するように,ヘッドカバー71に形成された出口管80にコネクタ81を介して接続される。
【0037】
またベルトカバー36には,オイル戻し導管78の下端からベルトカバー36の表側に突出する出口管82が一体に形成されており,この出口管82は,オイルタンク40内に連通するように,オイルタンク40に設けられた戻し孔83に嵌合される。戻し孔83の開口端は,エンジンEの如何なる運転姿勢でもオイルタンク40内のオイルの液面上に露出するように,オイルタンク40内の中心部近傍に配置される。
【0038】
尚,オイルタンク40の外方に突出したクランク軸13の先端には,前記リコイルスタータ42によって駆動される被動部材84が固着される。
【0039】
而して,エンジンEの運転中,クランク軸13の回転によりオイルタンク40においてオイルスリンガ56が潤滑用オイルOを飛散させてオイルミストを生成すると,ピストン15の上昇運動によりクランク室6aが減圧したとき,そのオイルミストは通孔55を通してクランク室6aに吸入され,クランク軸13やピストン15周りを潤滑する。次いでピストン15の下降運動によりクランク室6aが昇圧すると,一方向弁61の開弁により上記オイルミストはクランク室6aで発生したブローバイガスと共にオイル送り導管60を昇って動弁カム室21に供給され,カム軸26やカムフォロワ24,25等を潤滑する。
【0040】
動弁カム室21内のオイルミスト及びブローバイガスが回転中のカム軸26の気液分離通路68に入ると,該通路68内で気液が遠心分離され,液化したオイルは気液分離通路68の横孔68aを通して動弁カム室21に戻されるが,ブローバイガスは,エンジンEの吸気行程時,ブリーザ室69,ブリーザパイプ70及びエアクリーナ4を順次経由してエンジンEに吸入される。
【0041】
ところで,動弁カム室21は,上記のように気液分離通路68,ブリーザ室69及びブリーザパイプ70を介してエアクリーナ4内に連通しているので,動弁カム室21の圧力は,大気圧もしくはそれより若干低圧に保たれる。
【0042】
一方,クランク室6aは,その圧力脈動の正圧成分のみを一方向弁61から吐出することから平均的に負圧状態となり,その負圧は,通孔55を介してオイルタンク40に伝達し,更にオイル戻し導管78を介して吸い上げ室74に伝達するので,吸い上げ室74は,動弁カム室21よりも低圧,オイルタンク40内は吸い上げ室74よりも低圧となる。その結果,圧力の移動が動弁カム室21から吸い上げ管75,76及びオリフィス73,73…を通して吸い上げ室74へ,更にオイル戻し導管78を通してオイルタンク40へと生ずるので,それに伴い動弁カム室21内のオイルミストや,動弁カム室21内で液化して溜まったオイルは吸い上げ管75,76及びオリフィス73,73…を通して吸い上げ室74に吸い上げられ,そしてオイル戻し導管78を下ってオイルタンク40に還流する。
【0043】
その際,前述のように,吸い上げ室74の底壁の四隅に4つのオリフィス73,73…が穿設され,またその底壁の中央部から動弁カム室21に突出して,カム軸26の軸線と直交する方向に間隔を置いて並ぶ長短2本の吸い上げ管75,76にもオリフィス73,73が設けられているので,図10に示すように,エンジンEの正立状態(A)は勿論,左方傾け状態(B),右方傾け状態(C),左方横転状態(D),右方横転状態(E),倒立状態(F)など,如何なる運転姿勢でも,動弁カム室21に溜まったオイルには,6つのオリフィス73,73…の何れかが浸かることになり,そのオイルを吸い上げ室74に吸い上げることができる。
【0044】
かくして,オイルタンク40内でミスト化されたオイルを,クランク室6aの圧力脈動と,一方向弁61の機能を利用して,OHC型四サイクルエンジンEのクランク室6a及び動弁カム室21に供給し,それをオイルタンク40に還流させるので,エンジンEの如何なる運転姿勢においても,そのエンジン内部をオイルミストにより確実に潤滑することができ,しかもそのオイルミストの循環のための専用のオイルポンプは不要であり,構造の簡素化を図ることができる。
【0045】
また合成樹脂製のオイルタンク40のみならず,クランク室6a及び動弁カム室21間を結ぶオイル送り導管60,並びに吸い上げ室74及びオイルタンク40間を結ぶオイル戻し導管78は,エンジン本体1外に配設されるので,エンジン本体1の薄肉化及びコンパクト化を何ら妨げず,エンジンEの軽量化に大いに寄与することができる。特に,外部配置のオイル送り導管60及びオイル戻し導管78は,エンジン本体1からの熱の影響を受け難くなるので,潤滑用オイルOの過熱を回避することができる。またオイル送り導管60及びオイル戻し導管78とベルトカバー36との一体化により,部品点数の削減と組立性の向上に寄与し得る。
【0046】
図11は,オイル送り導管60及びオイル戻し導管78の変形例を示すもので,この場合,オイル送り導管60及びオイル戻し導管78は,ベルトカバー36とは分離したゴム等の可撓性材料からなるチューブで構成される。その他の構成は,前実施例と同様であるので,図中,前実施例との対応部分には,それと同一の参照符号を付して,その説明を省略する。
【0047】
この変形例によれば,オイル送り導管60及びオイル戻し導管78を接続する部位が何処にあっても,これら導管60,78を適当に撓ませることにより自由に配管することができ,レイアウトの自由度を広げることができる。
【0048】
本発明は,上記実施例に限定されるものではなく,その要旨の範囲を逸脱することなく種々の設計変更が可能である。例えば,一方向弁61に代えて,クランク軸13に連動して,オイル送り導管60をピストン15の下降時に導通し,その上昇時に遮断するように作動するロータリバルブを設けることもできる。
【0049】
【発明の効果】
以上のように本発明の第1の特徴によれば,クランク室を有するクランクケース,シリンダボアを有するシリンダブロック,並びに吸気ポート及び排気ポートを有するシリンダヘッドからなるエンジン本体と,クランクケースに支承されてクランク室に収容されるクランク軸と,シリンダボアに嵌装されると共にクランク軸に連接されるピストンと,シリンダヘッドに取付けられて吸気ポート及び排気ポートを開閉する吸気弁及び排気弁と,クランク軸の回転に連動して吸気弁及び排気弁を開閉駆動する動弁機構と,クランク軸の一端部に設けられる動力取出し機構とを含む,ハンドヘルド型四サイクルエンジンにおいて,動弁機構を,吸気弁及び排気弁を開閉駆動すべくシリンダヘッドに回転自在に支承されるカム軸と,エンジン本体の外側に配置されてクランク軸及びカム軸間を連動させる乾式のタイミング伝動装置とで構成し,また潤滑装置を,潤滑用オイルを貯留するオイルタンクと,このオイルタンク内で貯留オイルからオイルミストを生成するオイルミスト生成手段と,前記貯留オイルの上方でオイルタンク及びクランク室間を連通する通孔と,クランク室及び,カム軸を収容すべくシリンダヘッドに形成された動弁カム室間を連通するオイル送り導管と,クランク室に生ずる圧力脈動の正圧をオイル送り導管から動弁カム室に導く弁手段と,動弁カム室及びオイルタンク間を連通するオイル戻し導管とで構成すると共に,オイル送り導管及びオイル戻し導管の少なくとも何れか一方をエンジン本体外に配設したので,エンジン本体の側壁にタイミング伝動装置を収容する伝動室を特別に設ける必要がなくなり,エンジン本体の薄肉化及びコンパクト化を図り,エンジン全体の大幅な軽量化を達成することができる。またエンジン本体外側のオイルタンク内で生成されたオイルミストをオイル送り導管及びオイル戻し導管を通してクランク室,動弁カム室,オイルタンクへと循環させて,エンジンの如何なる運転姿勢でもその内部を潤滑することができる。しかも,そのオイルの循環のためにオイルポンプを特別に設ける必要もなく,構成の簡素化,延いてはコストの低減に寄与し得る。特に,クランク室及び動弁カム室間を結ぶオイル送り導管,並びに動弁カム室及びオイルタンク間を結ぶオイル戻し導管の少なくとも何れか一方がエンジン本体外に配設されることにより,エンジン本体の薄肉化及びコンパクト化を妨げる要因が少なくなるので,エンジンの軽量化に大いに寄与することができる。そして,外部配置のオイル送り導管及びオイル戻し導管は,エンジン本体からの熱の影響を受け難くなるので,潤滑用オイルの過熱を回避することができる。
【0050】
また本発明の第2の特徴によれば,シリンダヘッドに,動弁カム室の上部に隣接してオイル戻し導管が接続される吸い上げ室を設け,この吸い上げ室を,高低位置を異にする複数のオリフィスを介して動弁カム室に連通したので,動弁カム室でオイルミストが液化して溜まっても,この液化オイルを,エンジンの正立,倒立の状態に拘らず,何れかのオリフィスを通して吸い上げ室に吸い上げてオイルタンクに戻し,動弁カム室にオイルが滞留することを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のハンドヘルド型四サイクルエンジンの一使用例を示す斜視図。
【図2】 上記四サイクルエンジンの縦断側面図。
【図3】 図2の要部拡大図。
【図4】 図3のカム軸周りの拡大縦断面図。
【図5】 図3の5−5線断面図。
【図6】 上記エンジンの潤滑装置系統図。
【図7】 図3の7−7線断面図。
【図8】 図7の8−8線断面図。
【図9】 ヘッドカバーの底面図。
【図10】 エンジンの種々の運転姿勢におけるシリンダヘッドでの溜まりオイルの吸い上げ作用説明図。
【図11】 オイル送り導管及びオイル戻し導管の変形例を示す,図7に対応した断面図。
【符号の説明】
E・・・・・エンジン
O・・・・・潤滑用オイル
1・・・・・エンジン本体
6・・・・・クランクケース
6a・・・・クランク室
7・・・・・シリンダブロック
7a・・・・シリンダボア
8・・・・・シリンダヘッド
9・・・・・吸気ポート
10・・・・排気ポート
13・・・・クランク軸
15・・・・ピストン
18・・・・吸気弁
19・・・・排気弁
26・・・・カム軸
35・・・・タイミング伝動装置
40・・・・オイルタンク
49・・・・動力取出し機構(遠心クラッチ)
53・・・・動弁機構
55・・・・通孔
56・・・・オイルミスト生成手段(オイルスリンガ)
60・・・・オイル送り導管
61・・・・弁手段(一方向弁)
73・・・・オリフィス
74・・・・吸い上げ室
78・・・・オイル戻し導管
Claims (2)
- クランク室(6a)を有するクランクケース(6),シリンダボア(7a)を有するシリンダブロック(7),並びに吸気ポート(9)及び排気ポート(10)を有するシリンダヘッド(8)からなるエンジン本体(1)と,クランクケース(6)に支承されてクランク室(6a)に収容されるクランク軸(13)と,シリンダボア(7a)に嵌装されると共にクランク軸(13)に連接されるピストン(15)と,シリンダヘッド(8)に取付けられて吸気ポート(9)及び排気ポート(10)を開閉する吸気弁(18)及び排気弁(19)と,クランク軸(13)の回転に連動して吸気弁(18)及び排気弁(19)を開閉駆動する動弁機構(53)と,クランク軸(13)の一端部に設けられる動力取出し機構(49)とを含む,ハンドヘルド型四サイクルエンジンにおいて,
動弁機構(53)を,吸気弁(18)及び排気弁(19)を開閉駆動すべくシリンダヘッド(8)に回転自在に支承されるカム軸(26)と,エンジン本体(1)の外側に配置されてクランク軸(13)及びカム軸(26)間を連動させる乾式のタイミング伝動装置(35)とで構成し,また潤滑装置を,潤滑用オイル(O)を貯留するオイルタンク(40)と,このオイルタンク(40)内で貯留オイル(O)からオイルミストを生成するオイルミスト生成手段(56)と,前記貯留オイル(O)の上方でオイルタンク(40)及びクランク室(6a)間を連通する通孔(55)と,クランク室(6a)及び,カム軸(26)を収容すべくシリンダヘッド(8)に形成された動弁カム室(21)間を連通するオイル送り導管(60)と,クランク室(6a)に生ずる圧力脈動の正圧をオイル送り導管(60)から動弁カム室(21)に導く弁手段(61)と,動弁カム室(21)及びオイルタンク(40)間を連通するオイル戻し導管(78)とで構成すると共に,オイル送り導管(60)及びオイル戻し導管(78)の少なくとも何れか一方をエンジン本体(1)外に配設したことを特徴とする,ハンドヘルド型四サイクルエンジンの潤滑装置。 - 請求項1記載のハンドヘルド型四サイクルエンジンの潤滑装置において,
シリンダヘッド(8)に,動弁カム室(21)の上部に隣接してオイル戻し導管(78)が接続される吸い上げ室(74)を設け,この吸い上げ室(74)を,高低位置を異にする複数のオリフィス(73)を介して動弁カム室(21)に連通したことを特徴とする,ハンドヘルド型四サイクルエンジンの潤滑装置。
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